('A`)首吊りパラノイアのようです

50 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:05:44 ID:UAAxJWmg0



生命は、燃え尽きるその瞬間に一番強く、輝く。
性愛の天使の翼が、死の天使のそれに変わるとき、一生でただ一度だけ、遥かなる高みまで上り詰める。
肉体が生を諦め、脳細胞が固体の死を受け入れた時、すべての苦痛は快楽に変わるのだ。


だから人間が求めて止まない至上のエクスタシーは、
それはきっと、生と死の境界線上に在るのだと、私は想う。



.

51 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:06:20 ID:UAAxJWmg0
一.

駅の改札を通り抜けて辺りを見渡すと、柱の影に佇むミセリと目が合ったので、軽く片手を挙げて手を振った。
こちらに気づき、人ごみを割るようにして一直線に向かってきた彼女を、すれ違った数人の男たちが物欲しそうな目つきで振り返り見る。

('、`*川「待った?」

ミセ*゚ー゚)リ「今来たトコ」

歩み寄りながら小鼻にしわを寄せるようにして微笑みを浮かべたミセリが一度、
私の足元から頭のてっぺんまで素早く目を走らせて、言った。

ミセ*゚ー゚)リ「少し、痩せた?」

('、`*川「最近、フィットネスクラブに通ってるの」

いつもながらの目端の良さに、内心舌を巻く。
小学校以来の気の置けない仲だからこそかもしれないが、彼女のこういった部分は昔からずっと変わらない。
星の数ほど居る男友達の誰よりも、同性である彼女の目の方が、見目や美容に関して、よほど厳しい。

ミセ*゚ー゚)リ「どうしよっか。まだ、お酒って時間でもないし」

('、`*川「どっかで、お茶でも飲む?」

ミセ*゚ー゚)リ「そうしよっか」

そのまま二人肩を並べて、駅前の繁華街の方へ向かって歩き出す。
私達の後を追って、ナンパ目的だろうか、一人の汚らしい長髪の男がしつこく声をかけてきたが、
一瞥も与えないで二人して無視を決め込んでいるうちにどうやら諦めたらしく、また駅の方へ向かって去っていった。

52 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:06:33 ID:UAAxJWmg0
歩き始めて少しして、苦笑いと一緒にミセリが言った。

ミセ*゚ー゚)リ「あれについてく人なんて、居ないよね」

('、`*川「分っかんないよー。汚いのが好きな女って、居るじゃない」

ミセ*゚ー゚)リ「えー、ないない。絶対ムリ」

('、`*川「まあ、私もだけどさ」

ミセ*゚ー゚)リ「でしょー? 最低限じゃん、それって」

変な病気とか持ってそうだった、とクスクス笑い声を立てながらミセリが、一軒の和風の喫茶店のガラス扉を押し開けて、私もその後に続いた。
店内に足を踏み入れると、炎天の街中とは打って変わってひんやりとした冷気が肌にさわって、汗が引いていく。

やたらと愛想の良い店員の接客で、それぞれオーダーのドリンクを受け取って、店内の一番奥まったテーブルに席を取る。
座に着くなり、愛用のディオールのモノグラムポーチからピアニッシニモを取り出して火をつけた私に、しかめっ面を見せながらミセリが言った。

ミセ*゚ー゚)リ「いい加減、煙草止めたら?」

('、`*川「えー、ムリ」

ミセ*゚ー゚)リ「肌、荒れるでしょ」

('、`*川「まあねぇ……ところで、何あんた、結婚でもするの?」

間溜めも何もない唐突な私の言葉にミセリが一瞬、鼻先を掠められたようにキョトンとした顔をして、
それから目を細めて、ペニはこれだから、と言って笑った。

53 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:06:48 ID:UAAxJWmg0
ミセ*゚ー゚)リ「悩んでるんだけどねぇ……イヤだなー、どうして分かったの?」

('、`*川「だってミセリ、そういう時しか連絡寄こさないじゃん。
     そっかー、タカラ君もついに、腹をくくったか」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん……」

曖昧に頷きながら、ミセリが手中のプラスチックカップを口元に運ぶ。
店のロゴが入った透明の容器越しに、薄緑色のアイスの抹茶ラテが揺れる。

('、`*川「別に、悩むことないんじゃないの、長いんだし。んー、七年だっけ?」

メンソールの灰紫色の煙を細く吐き出しながら、大学からの付き合いだったはずだからと指折り数えて、それくらいと見当をつける。
何度か顔をあわせたこともあるので、相手の男の顔もよく見知っていた。

ミセ*゚ー゚)リ「んー、そうだね、多分」

('、`*川「いいじゃん、お買い得なんじゃない? うまくいってるんでしょう」

確か、ミセリが学生時代に所属していたインカレのテニスサークルの同期で、今の勤務先もそれなりに名の通った企業だったように聞いている。
外見的にも結構な好男子で、お姫様のようなミセリとは確かに似合いのカップルだと、頭の中で独りごちた。

ミセ*゚ー゚)リ「逆に、長いからっていうのも、あるよね。やっぱり」

('、`*川「七年とか。有り得ないよねー」

54 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:07:02 ID:UAAxJWmg0
ミセ*゚ー゚)リ「ペニは、最近どうなの?」

問いかけられて、今度はこちらが苦笑する番だった。
ミセリと私は水と油ほどにタイプが違う。
特定の恋人をつくらないようにしている私には、
たった一人の異性とそれほど長い間関係を保ち続けるなんてことは思いもよらない。

('、`*川「私は、相変わらずって感じかなぁ」

ミセ*゚ー゚)リ「だよねー」

ミセリは、知っていて、でも気にかける素振りも見せない。
いつもあどけない微笑を浮かべながら、頭の中ではしっかりと、お互いが心地よい距離を保ってくれる。
彼女のそういう部分が、私はとても好きだ。
だからこそ付かず離れず、もう十数年もこうして友人関係を続けていられているのかも知れない。
黒い陶器製の灰皿に煙草の灰を落としながら、そう思った。

('、`*川「で、プロポーズ、なんて言われたのさ」

ミセ*゚ー゚)リ「えー、それは秘密だよー」

('、`*川「いいじゃん、相談なんて建前で、どうせ惚気聞かせに呼んだんでしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「えー、そんなんじゃないしー」

('、`*川「嘘付けよ」

確かに目の前の、洋菓子のようにふわふわしたミセリと、私では、違いすぎる。
そろそろ結婚して家庭を持とうとしている二十六歳の彼女に対して、
同い年の私は、後腐れのない一夜限りの、行きずりの男漁りに、溺れている。

55 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:07:16 ID:UAAxJWmg0
二.

両脚を斜めに揃えて金属製のスツールに浅く腰掛けて、手にした文庫サイズの本の或頁に視線を落としていた。
目の前の木目調のカウンターには、黒い灰皿の端でゆらゆらと煙を立ち上らせる吸いさしの煙草と、ミモザのグラス。
アルコールに弱いわけではないが、酔うためにここに来たわけではないし、なるべく意識をはっきりさせておきたかったので、
二、三度唇を湿らせて、残りはそのままにしていた。

繁華街の片隅にたつ雑居ビルの地下に、ひっそりと構えるこの店は、シングルスバーというわけではないが、実情はそれに近い。
薄暗い照明に彩られた店内は粘りつくような独特な雰囲気に満ちていて、
耳に心地よい絶妙な音量で、ゆったりとしたクラシック曲を流している。
今聞こえているのは、ショパンの夜想曲の二番、か。
そう思ったとき、横合いから控えめな口調で、失礼ですが、と声をかけられた。

さて、と。

気を持たせるようなるべくゆっくりそちらを振り向くと、髪を短く刈上げた壮年の男が一人、
下心など微塵も感じさせないような爽やかな笑みを浮かべて、琥珀色の液体で満ちたグラスを片手に立っていた。
気づかれないように、素早く男の全身に目をやる。
カーキ色のレースアップシューズにジーンズ、グレーのVネックシャツに七分丈の黒いテラードジャケットを合わせている。
胸元にはシンプルなクロスのシルバーペンダントが揺れていて、スマートで、何より手の爪がきれいに手入れされているのが良かった。
悪くない、と、思った。

待ち合わせですか、良かったらその人が来るまで、ご一緒させてもらってもかまいませんか。男が言った。
使い古されて面白みも何もない台詞だが、その最低限のテンプレートすら使いこなせないような輩には、そもそもはじめから資格がない。
だから、ここまでは合格だった。
声をかけてきた男のその誘い文句に私は、否定も肯定も返事を返さなかった。目顔で笑って見せればそれで済むのだ。
ここはそういう店で、だから私はそのために、ここに居る。

56 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:07:36 ID:UAAxJWmg0
私は黙って再び手中の本に視線を戻し、男は静かに隣の席に腰を下ろした。
カウンターにグラスを置くときも、音ひとつ立てなかった。そのことも、悪くないと、思った。

しばらく経って、それまで隣で黙って飲んでいた男が、はじめと同じく控えめな口調で私に、何を読んでいるんですか? と尋ねた。

さて、ここが正念場だ。
実を言えば傍目に本のタイトルが分からないように、わざとブックカバーをかけていた。

もう一度、期待に胸を膨らませながらゆっくり男の方を振り返って私は、一言、答えた。

『フロイトです』

男は静かに、手に持ったグラスを一度口元に運んだ。そのまま何も、言わない。
頭の中でカウントをとる。八秒、九秒、うーん……残念。
そう感じて本に目を戻そうと下を向きかけた次の瞬間、男が一度、ニコリと柔かく微笑んで、言った。

『あらゆる生あるものの目指すところは死である』

外しかけていた視線を再び絡ませる。合格だと、私は思った。
男の表情に釣られて自然に微笑み返してしまった。しまった、これはやりすぎた。

それから小一時間、心地よくもあって、またもどかしくもあるような、そんな会話がふっと途切れた頃を見計らって、男が、
待ち合わせの相手も今日は都合が悪いようだし、迷惑じゃなかったら、どこかで飲みなおしませんか、と言った。
私が小さくうなづくと、柔かな微笑をたたえたまま男は静かにスツールから立ち上がって、カウンターに沿って歩き出した。
少しして私も立ち上がり、その背中を追った。

57 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:08:00 ID:UAAxJWmg0
三.

ラウンジに置かれた三人がけの長椅子の端でその人は、いつも通り、一人静かに本のページをめくっていた。
ブラインド越しに差し込む薄日がリノリウムの床を綺麗なオレンジ色に染め上げている。

('、`*川「ねえ、何読んでるの」

(´・ω・`)「うん?」

私の呼びかけに、ヒョイっと顔をあげて、不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。

(´・ω・`)「ああ、伊藤さんか。どうしたの」

('、`*川「熱心に、何読んでるのかなって」

ああ、そっか、と呟いて、彼は言った。

(´・ω・`)「フロイトだよ、今は快原理の彼岸を読んでる。最近良い翻訳が出てね」

('、`*川「へえ、何でいまさら、そんなもの読んでるの」

(´・ω・`)「昔読んだときは英訳だったからね、良く分からなかったんだ。読み直してるんだよ」

('、`*川「ふぅん……今なら、分かる?」

どうだろうかね、納得できないところもあるけれど。そう言って、彼は柔く微笑んだ。

58 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:08:19 ID:UAAxJWmg0
一人分の間を空けて、私も長椅子に腰を下ろす。

('、`*川「ねぇ、あの話、本当?」

(´・ω・`)「うん?」

('、`*川「ショボン君、その、一人でアレやるときさ、首絞めながらするって」

(´・ω・`)「ああ、そのことか、本当だよ。凄く気持ち良いんだ、伊藤さんも一度試してみると良いよ」

何のてらいも見せずに、いつも通りの飄々とした口調でそう言われ、思わず苦笑いしてしまった。
私のその反応にちょっと困ったように眉を寄せて、不思議そうに、彼が聞く。

(´・ω・`)「この話をすると、どうして皆笑うのかな。僕としては結構、シリアスな話題のつもりなんだけど」

('、`*川「だって、それはさぁ……」

学内きっての左巻きと評される彼の、堂々としたまでのその異端の感性に、なんと返していいのか分からず口ごもる。
聞いた話では以前、講義の合間の空き教室で駄弁っていた教授と数人の学生を相手取って、
自慰についての自分の考察を長々とぶちまけたことがことがあるそうだ。ついたあだ名が、首絞めオナニスト。

どうしてそんな相手に積極的に関わっているのか、そのときはまだ、自分でもはっきりとは分からなかった。
ただ、以前から、彼の中にある私を強くひきつけて止まない何かを、私は確かに感じていた。

返答に窮してただ苦笑いするだけの私に、話を引き取って、彼が続けた。

(´・ω・`)「性欲は人間の根源の問題だからね。別に不真面目な話でもなんでもないし、
     僕たちみたいな生命力の盛りにある若い世代がそれに向き合うことはむしろ、当然のことだと思うんだけどな」

('、`*川「でも、ショボン君のは、ちょっと変わってるって言うか、その……」

59 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:08:35 ID:UAAxJWmg0
私がそう言うと、ノーマルというものは大体すべての事柄において二流以下と相場が決まってるよ、と言って彼が笑った。

(´・ω・`)「いろいろ試しているだけなんだよ、興味深いことだからね」

興が乗ってきたのか、読み途中だった本に栞を挟んで目の前のテーブルに置き、改めてこちらに向き直る。

(´・ω・`)「つまりフロイト風に言えば、エロースとタナトスのベクトルを異にする二つの欲動の究極の融和点が僕は、
     生が死に転ずる瞬間に存在するんだと思うんだよね。
     死は人間にとってあまりにも強大な存在だけれど、だからこそ、それに直面したときに生欲動はひときわ強く燃え上がるんだと思う」

喋りながら、無意識だろうか。片腕をあげて首筋を何度もなぞって、彼は続ける。

(´・ω・`)「その欲動に煽られて、性衝動ももうひとつ上に行くんだと思うんだよね。
     生物から無生物へ変化する、その瞬間に在るものに、僕はとても興味があるんだ。
     何か凄く噂になっちゃったけど、首を絞めながらの自慰っていうのも結局僕にとっては、その瞬間の模倣なんだよ」

('、`*川「……」

分からなくは、ない。ロジックとしては理解できた。
ただ私はそのときまだ処女で、言葉が、実感を伴うレベルまでにはまだ、なにより経験が少なすぎた。

('、`*川「……気持ち、良いの?」

(´・ω・`)「凄く」

深く、頷く。

60 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:08:57 ID:UAAxJWmg0
(´・ω・`)「伊藤さんも、美人だしスタイルだって良いんだし、女性的な若さの典型みたいなものなのだから、
     十二分に楽しむべきだと、僕は思うよ」

そう言って、もう話はそこで打ち切りとばかりに、彼はテーブルの上の本に手を伸ばす。

('、`*川「……あのさ、ショボン君」

(´・ω・`)「うん?」

咄嗟のことだった。言葉が自然に口をついて出た。

('、`*川「……ショボン君、私と、寝たい?」

いや、もしかしたら以前から、私はそのことを意識していたのかもしれない。彼ならば、と、思っていたのかもしれない。
どこかでそうして欲しいと、願っていたのかも、しれない。

(´・ω・`)「寝ないよ」

即答されて、心臓の辺りがキュッと熱を帯びるのが分かった。にべもなく拒絶されて、それなのに何故か、背骨がぞくぞくするほどの興奮が私を包み込む。
おそらく無自覚などではない。全部分かっていて、だからこそ彼は、笑顔のまま一言で私を切り捨てる。

('、`*川「……どうして?」

(´・ω・`)「だって伊藤さん、ぜんぜん僕のタイプじゃないもの」

変わらずに柔かく微笑みながら事も無げにそう言って、後はもう私の存在など道端の雑草ほどにも気にかけない様子で、再び彼は読書に取り掛かった。

そうして、私は、ようやく理解した。なぜ私はこんなにも、この男に惹きつけられるのか。硬く閉じた両の脚の間で、粘液が、じっとりと下着をぬらしていくのが分かった。

私はその日生まれて初めて、自分の中の死への憧憬を、嗜虐嗜好を認識させられた。

61 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:09:22 ID:UAAxJWmg0
四.

照明を落とした部屋のなかで、アロマのキャンドルの揺れる炎を、じっと見ていた。
夜の闇と、炎の放つ強い光とが音もなくせめぎあって、無限の広がりを持つ空間を作り出している。


もうその顔付さえはっきりと思い出せなくなってしまったあの人は、大学卒業間際の四回生の秋、首をくくって亡くなった。
自殺として処理されたそうだが、私は違うと思った。


あの人はきっと、一番高みまで上り詰めて、そして、地上に戻るのが嫌になってしまったに違いない。
きっと何もかも忘れるくらいに、よかったのだと思う。だから、もう一歩先まで、踏み込んだのだ。


揺らめく炎を見つめながら、思った。
私もいつか、そこまで高く飛べるだろうか。


キャンドルの炎が瞬間、ひときわ強く輝き、そして、消えた。
私は、暗闇に、満たされた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:09:36 ID:UAAxJWmg0
五.

('、`*川「……ん…」

目を覚ましたとき、男はすでに居なかった。だから、去り際まで良かったと思った。
どれほど素晴らしい夜を与えてくれたとしても、朝目覚めたときに誰かが隣に居るなんて、考えただけでも吐き気がする。
きっと、玄関の鍵は開いたままだろう。

片腕をついて、ゆっくり半身を起こす。黒いブランケットが肌を滑り落ちて、裸の胸があらわになった。
煙草を吸おうと思い、ベッド脇のテーブルに腕を伸ばして、そして置かれていた名刺に気がついた。
手にとって裏返すと、十一桁の数字が書き付けてある。破り捨てようと思って、止めた。
同じ男と何度も寝ることは稀だが、それなりの相手を探すのにも少々骨が折れる。

清潔で、知性があって、それからなるべくセックスがうまそうな男。単純な条件のようで、そういう相手は、中々いない。
ろくでもない男ばかり山ほど居て、だから、しっかりした相手を探すのもそれほど簡単なことではないのだ。

('、`*川「……」

あの男は、合格だった。昨夜の痺れを体の奥底に感じながら、首筋をなぞり、思う。
選りすぐって一緒に布団の中にもぐりこんだ男のうち、本当にこれ、という男にだけ、私は頼む。
最中に、首を絞めてほしいと頼むのだ。今まで拒絶されたことはない。強い力で頚動脈を圧迫されながら、子宮を震わせて、私は絶頂する。
あの人に教わったとおりに、生と死の間の性に酔いながら、私は真っ白になる。

('、`*川「……ふぅ」

きっと、と思う。きっと、私はあの日、夕日の差し込むあのラウンジで、あの人に縄をかけられたのだ。
そのときから今までずっと、お預けを食らった犬のようにはしたなく性器を濡らしながら私は、待ちわびている。
あの人にかけられた首の縄が強く締まる、その日を。

快楽は、至るまでの道のりが長いほど、強い。

63 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/15(月) 18:09:52 ID:UAAxJWmg0




首に巻きついた一本の白い縄を、その感触を、夢想する。
境界線まで、あと、どれくらい。





                            第四話 了


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