('A`)首吊りパラノイアのようです

124 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:39:15 ID:41h4kkC20




近所のホームセンターでポリエステルロープを買った。
レシートに印字された千二百六十円という額を見て、それが結局俺という人間の値段なのだと考えると、何か愉快な気持ちになった。
それくらいが、ちょうど良い。

人間は、負け続ける。きっと永遠に負け続ける。
欲望に負けて、憤怒に負けて、愚かしさに負け続ける。

何の苦しみもなく迷いもなく、皆が皆、手に手を取って安穏と暮らせる世界。
そんな理想をもう何千年と謳い続けながら、未だに血みどろの殺し合いをしたりしている。

どれだけ時が経ったところで多分、人間は何ひとつ変わらない。
だからきっと、永遠に負け続ける。
戦うために生まれてきて、負けることしか出来ないなんて、どうしようもなく矛盾している。
まるで、賽の河原の石積みのようだ。でも、それが人間で、それが俺だ。

どうせ、負けるのだ。
だから俺は終わり方くらい、自分で選びたいと、思うのだ。




.

125 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:39:30 ID:41h4kkC20
一.

購買でパンと野菜ジュースを買って食堂へ入っていくと、窓際のテーブル席に、ずんぐりと特徴的な見慣れた背中を見つけた。
その後姿に声をかけて、隣にひとつ空いていたスツールに俺も腰を下ろす。

('A`)「それ、美味い?」

( ^ω^)「安い」

('A`)「そうだね」

( ^ω^)「うん」

学食の水っぽいカレーを流し込むように平らげていくその友人を横目に自分も、
買ったばかりのコッペパンを少しずつ齧りとるようにして、胃に収めていった。
大して旨くもなかったが、何も食べないよりはましな気がした。
近頃食欲が落ちて来ているのは自覚していた。昼食も、こんなパンひとつで事足りてしまう。

( ^ω^)「なんで野菜ジュースなんか飲んでんの?」

('A`)「健康第一」

( ^ω^)「馬鹿」

俺の私生活が健康なんぞとは微塵も縁がないことを知っていて、内藤は笑った。
毒にも薬にもならない、ただ言葉を交わすことだけが目的の、意味のない会話。
そんなふうな馬鹿話が、だけど、俺たちのいつものお決まりだったのだ。

126 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:39:42 ID:41h4kkC20
('A`)「あのさ、」

( ^ω^)「うん」

('A`)「亀が死んだんだ」

( ^ω^)「うん?」

('A`)「そう。亀が死んだんだ」

( ^ω^)「何それ」

('A`)「ペットの亀」

( ^ω^)「へえ……」

127 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:40:00 ID:41h4kkC20
('A`)「掃除しようと思ってさ、水槽」

( ^ω^)「うん」

('A`)「たらいに水張って、ベランダに出しといたまま、忘れちまってた」

( ^ω^)「ひどいな」

('A`)「うん。暑かったろう、昨日。熱にやられたらしくてさ」

( ^ω^)「ひどい」

('A`)「死んじゃった」

( ^ω^)「ひどい」

('A`)「そうだね」

そんなふうに喋りながら俺はまた、頭の中がぼんやりと霞んでいくのを意識していた。
最近、こういうことが増えた。
誰かと何か会話しているときや、本や新聞で活字を追っているときなど、
何の前触れもなく突然に思考回路が混線してしまって、考えが上手くまとまらなくなるのだ。
集中力が、極端に落ちてきているのだと思う。

だから、つい口が滑ってしまった。

128 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:40:16 ID:41h4kkC20
('A`)「つまりさ」

( ^ω^)「あん?」

('A`)「似たようなもんだよな」

( ^ω^)「何が?」

('A`)「……別に」

ほとんど無意識にそう話してしまってから、気がついて後悔した。告白は好きではなかった。
自己消化すべき事柄を、周囲にぶちまけるような無様な真似はしたくなかったのだ。特に、親しい間柄の相手には。
誰かに自分の傷を曝け出したところで何の足しにもならないことは、よく理解しているつもりだったのだけれど。

内藤は一瞬戸惑ったように俺の横顔を伺って、それから少し黙った。
周囲の喧騒が俺たちのテーブルをじわじわと侵食していく。沈黙に、腹の中に石を飲み込んだような気分がした。
ややあって、内藤が口を開く。

( ^ω^)「荒巻の講義、出る?」

('A`)「出るよ」

( ^ω^)「代返しといてくんね?」

('A`)「分かった」

( ^ω^)「ありがとう」

照れくささを笑ってごまかして、ほっと胸を撫で下ろす。
礼を言うべきは多分、俺のほうだよ、内藤。

129 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:40:29 ID:41h4kkC20
二.

プラスチック製の水槽を洗い終えて、一息つこうと煙草に火をつけた。
水切りの済んだ水槽と、たらいの仮住まいを与えられた亀がベランダに並べられて、燦然と照る日の光を受けている。

ベッドに腰掛けて、床に投げ出してあった読みかけの文庫本を手にとって適当に頁を開いた。
話の前後もお構いなしにただ目に飛び込んできた場面から読み進んでいく。
そのまま視線だけは機械的に字面を追っていくが、内容はろくに頭に落ちてこない。
集中しようと思って、しかし、思考は裏腹に明後日の方向へと霧散していった。

ドブ川を流れていくごみのように、言葉の断片だけが、切れぎれの思考の間に浮かび、沈んでいった。
頭痛、蛆、監獄、硝子戸、轢死、鼠、恐怖、Inferno、精神病、妄想、不眠症、Doppelgaenger───

夏のうだるような熱気に、身体から染み出した汗がじわじわとシャツを湿らせていく。
途切れ途切れの蝉の声を聞くともなしに耳にしながら、ただ本の頁を繰り続けた。

そうして、時間だけが無為に、過ぎていった。

130 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:40:45 ID:41h4kkC20
一本だった吸殻が二本に増え、四本になり、そして七本を数えたときに、ふと目線をあげた窓の外ではもう、日が落ち始めていた。
あわてて腰を上げてベランダに出て、たらいを覗き込む。
亀は、少なくなった水の中で、甲羅の中に手足を縮めこんで動かなくなっていた。
深緑色の甲羅が、乾いて、白みがかっている。
照りつける日差しにやられたのだと理解するまで、そう時間はかからなかった。

その場に跪き、生温いに水に手を浸して、そっと亀を持ち上げる。
命が抜け落ちて空ろになってしまったその身体は、重くもなく、軽くもなく、
ただ金剛石の輝きを持って静かに、俺の心の中へと沈みこんでいった。

可哀想なことをしたと思いかけて、気がついて、止めた。

多分、俺は知っていたからだ。
真夏の燃えるような日の光の下に、どうすることも出来ぬまま、亀が焼かれて死んでいくことを。
知っていて、読む気もなかった小説に気をとられたふりをして、ただ忘れていたことにした。

神様の真似事が、してみたかったのだ。
不条理な運命を、気まぐれに、誰かに与えてみたかったのだ。
だから、忘れていたふりをした。
それを認めたところで、何がどうなるわけでも、ないのだか。

つまり、まあ、似たようなものなのだ。俺も、亀も、神様も。

日向に置き去りにされて、なすすべもなく焼き殺されながら亀は、何を、想ったのか。
教えてくれないか。

131 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:41:01 ID:41h4kkC20
三.

学期末の定期考査のペーパーテストを終えて、さっさと教室を退場すると、
同じ試験を受けていた内藤が問題の束をばさつかせながら、後ろから追いついてきた。

( ^ω^)「アルゴ、落としたかも分からんね」

('A`)「あれ、そんな難しかった?」

( ^ω^)「割と出来なかったと思う」

('A`)「確かに、過去問と随分違ってたね」

( ^ω^)「うん。まあ、いいや、終わったし。帰り?」

('A`)「いや、研究室寄ってくよ。煙草吸ってから」

( ^ω^)「そっか、んじゃ俺も」

そのまま二人、各試験の出来についてああだ、こうだと言いながら、校舎裏の喫煙所を目指して歩く。
長期休みを控えて浮かれた気の早い学生たちが、そこかしこに集まって、盛んに話し交わしていた。

132 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:41:16 ID:41h4kkC20
建物の谷間の吹きさらしの、茶錆が浮いた円筒形の鉄製の灰皿がひとつあるだけというその名ばかりの喫煙所で
二人、並んで煙草を取り出した。
ガス切れなのかうまく火をつけられずに100円ライターを何度かカチカチいわせてるうちに、
内藤が愛用のジッポに火を入れて、口元に運んでくれた。ありがとう、と言うと、頷いて彼が聞いた。

( ^ω^)「夏休み、予定あんの?」

('A`)「特には。内藤は?」

( ^ω^)「俺も、特にないな。バイトくらいか」

('A`)「そう」

吐き出して、そのまま流れていく灰色の煙と、風と、雲、光。
予定と言われてしかし、自分の直近の未来が少しも想像できなかった。

いや、違う。塗りつぶしたのだ。

また、頭が霞んでいく。
日差しを避けた影の中で、身体中の毛穴から染み出していく不快な、汗、熱気。
そこかしこから聞こえる姿の見えない蝉の声が空間に充満して、頭の中でぐわんぐわんとハウリングする。
揺れる、思考と、消えていく、輪郭。

階段を踏む、足音。

133 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:41:33 ID:41h4kkC20
( ^ω^)「……ドクオ? おーい」

('A`)「うん?」

( ^ω^)「どした?」

('A`)「あ、ああ、ごめん。ちょっとぼっとしてた」

現実に引き戻されて、頭の中を瞬間に整理する。
また何か、余計なことを口走っただろうか。
自分の心の闇を擦り付けるような真似を、またしてしまったろうか。

内藤は、気づいただろうか?

( ^ω^)「……大丈夫?」

('A`)「なんでもない、ごめん。なんだっけ」

( ^ω^)「……明日暇なら、球撞きでも行かないかなと思って」

('A`)「ああ、ごめん。明日はバイト、あるから」

( ^ω^)「そっか」

嘘をついた。働いていた学習塾は、先週限りでやめていた。内藤には、話していない。

134 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:41:49 ID:41h4kkC20
('A`)「夏期講習が始まるから、それで───」

その時、気づかぬうちに長くなった煙草の灰が、自身の重さに耐えかねて、ぽとりと、靴の上に落ちた。
慌てて足を振って払う。煙草の灰の細かい粉が、宙に舞って消えた。
会話が途切れて、内藤がいぶかしげに俺を見やる。

すこし間を空けて彼が、常に似合わない調子はずれの明るい声を出しながら、言った。

( ^ω^)「……ドクオ、最近どったの?」

('A`)「え?」

( ^ω^)「いや、なんか、最近、ボケすぎじゃね? 具合でも悪いんかなって」

くだけた口調の底に注意深く隠された、友人の思いやりに触れて、
一瞬我を忘れて何もかもぶちまけそうになってしまい、目線をそらして慌てて自制した。

もう、決めたことなのだ。遅かれ早かれのことだった。
友達だからこそ、下手に迷惑をかけたくない。

('A`)「……試験勉強で、疲れてるのかな。ごめんごめん」

( ^ω^)「いや、別にいいけどさ」

しっかり三食食べないからだろ、といって内藤は笑ったが、裏腹に気遣わしげな視線が、俺を見つめていた。
うまく言い訳も出来ぬままに、誤魔化しの笑みを浮かべながら、再び新しい煙草を口に咥える。
今度は一度で火がついた。苦味が、胸のうちに、広がっていった。

135 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:42:05 ID:41h4kkC20
いつも通りの馬鹿話をぽつり、ぽつりと繰り返して、いい加減話の種も尽きたころ、灰皿のふちで煙草をもみ消して内藤は言った。

( ^ω^)「んじゃ、そろそろ俺、帰るわ。また連絡する」

('A`)「うん、お疲れ」

( ^ω^)「おつ。ちゃんと飯食えよ」

そのまま数歩、去りかけて内藤がこちらを一度、振り向いた。

( ^ω^)「……あー、ドクオ、あのさ」

('A`)「うん?」

何か問いたげな様子で、でもきっと、何を言えばいいのか分からなかったのだろう。
結局、困ったように笑いながら、言った。

( ^ω^)「……あのさ、またな」

('A`)「……」

また、と応じかけて、声が出なかった。
出せなかった。

顔を上げると、内藤がこちらを見つめていた。
声が出なくて、仕方なしに、軽く手だけあげて胸のうちで応えた。

136 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:42:24 ID:41h4kkC20

    





      『さよなら』






ひとつ頷いて、内藤が踵を返して、歩いていく。
その後姿から、目線が、逸れていく。
逸らしていく。







さようなら。

今まで仲良くしてくれて、本当に、ありがとう。


.

137 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:42:39 ID:41h4kkC20
四.

暗闇の中を、自転車で、公園へ向かった。
いつだったか散歩の途中に偶然立ち寄ったことがあって、
そのうらぶれた情景が何かひどく心地よかった覚えがあった。
だから、死に場所はそこに決めた。
下見は既に済ませていた。

自転車のまま公園に乗り入れて、敷地の真ん中に立つ楠の横につける。
前かごに入れてあったナイロンロープを取り、その片方の端に小さな輪を作って、
楠の張り出した枝の一本に投げた。
暗闇の中をロープの先端が、音も立てずに飛ぶ。

三度失敗して、四度目に、ロープがうまく枝から垂れ下がる形になり、
高さを慎重に調節して、残りの一端を幹に硬く結び付けた。
そうしておいて今度は垂れ下がった先端の小さな輪に、編み物の要領で首を通すための輪を作る。
こうするとぶら下がったときに、自重で縄が締まるのだ。
これで、準備が出来た。

それから、煙草に火をつけた。一本だけ吸うと、決めていた。
もう何も考えたくなかったから、ただ、暗闇を見つめながら煙草を吸った。

138 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:42:54 ID:41h4kkC20
フィルターのぎりぎりまで吸ったセブンスターを地面に落として足で踏み消し、
それから自転車のサドルを踏み台にして、垂れ下がった輪に頭を通した。
真夏の深夜に、何故か凍えるほどの寒さを感じている。
にもかかわらず全身からだらだらと汗が流れ出して、大して身体を動かしたわけでもないのに、心臓が爆発しそうな勢いで鳴っていた。
意識が唐突に明瞭になったかと思うと、すっと身体から魂が抜けていくような気になってまた、現実感がぼやけていく。
そんなことを何度も繰り返す。

生きたいって気持ちは、あるよ。
だけどもう、何も考えたくないんだ。
疲れてしまったんだ。
これ以上は、耐えられない。
人間であることに、耐えられない。
自分であることに、耐えられない。

だからもう、許してほしい。

自分に向かってそう言い聞かせた一瞬、身体の震えがその一瞬だけ、やんだ。
そうして俺は、大きく息を吸い込んで、自転車のサドルを、蹴った。

階段を蹴って、跳んだ。

139 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:43:09 ID:41h4kkC20
五.

ゲームの区切りの合間に、テーブル席に腰を落ち着けて、二人で酒を飲んでいた。
アルコールのせいにしてしまえば少しくらいのことは許される気がして、
酔いに任せて心のうちの毒を、少しずつ、少しずつ吐き出していくうちに、いつしか俺は歯止めが利かなくなっていた。
言わずもがなのことまで言ってしまった気がして、ふと、口をつぐむ。
それまでふんふん頷いていた内藤が、見計らったように、言った。

( ^ω^)「ドクオはさ、あれじゃね。ペシミスティックすぎんだよ」

('A`)「……確かにね。でも内藤だって、そう思うだろ?」

( ^ω^)「まあ、そうだけどさ。悪い面ばっかでもないじゃん?」

('A`)「例えば?」

( ^ω^)「え……何だろう。おっぱいとか?」

('A`)「全然関係ないよ、それ」

一度笑いあって、グラスを口に運んだ。
ところどころで冗談に紛らわせなければ、シリアスな話もろくに出来ない。
内藤も、俺も、そういうところは、似ていたのかもしれない。

140 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:43:23 ID:41h4kkC20
( ^ω^)「……まあ、俺も、世の中薔薇色なんて思ってないし、言うつもりもないけどさ。
      それにしたって、そこまでいったら、最早ビョーキじゃん」

('A`)「病気、か」

( ^ω^)「実際、パラノイアっぽいよね。偏執病っぽい」

('A`)「ああ、偏執病ね……」

そうかもしれないと、思った。
どれだけ俺がこの世の中に絶望していたとしても、何一つ変わらずこれから先も世界は回っていくし、人間は続いていく。
結局これは、俺自身が作り上げた鬱屈した世界観の問題なのだ。
グラスを口に運ぶ。味が、分からなかった。

('A`)「想像力がさ、欠けているんだ」

( ^ω^)「想像力」

('A`)「そう、欠けているんだ───」

ほとんど意識せずに溢れて流れ出していく言葉と裏腹に頭の中では、偏執病、その病名だけがぐるぐると回り続けていた。
偏執病───ああ、その通りかもしれない───それは、まるで───

141 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:43:39 ID:41h4kkC20
自己認識という名の理性の放つその強い光は、究極的には己自身を焼き滅ぼす煉獄の業火となる。
自我を発達させていくということは、死刑台への十三階段を上っていくことと何ら差異がないのだ。

人間をひとつ知るたびに、階段を一段、上がっていく。
自分をひとつ知るたびに、絶望がひとつ、深まっていく。
それでも俺はあげかけたその足を、止めることが出来なかった。
行き着く先は無明の闇だと知っていて、それでも俺は、人間を問い続けることを止められなかった。

自分自身の妄執に、自分自身が執り殺される。
それは、まるで、己が作り上げた死刑台に己自身を吊るすような。

ああ、確かにそうかもしれない───これは、まるで───





 



                       パラノイア
              ───首吊り偏 執 病、か……。





.

142 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:43:55 ID:41h4kkC20








泣いていたのだろうか。
笑って、いたのだろうか。




階段の最上段を、強く蹴って、跳ぶ。
足音が、世界に、響く。









.

143 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/12/08(木) 18:44:12 ID:41h4kkC20






















                             第七話 了


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