#‘_L’)俺達は平穏に過ごせないようです([]ー[]*

7 名前:以下、雑談にかわりまして本編をお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:29:11.91 ID:eoZghA8M0

     *     *     *

―― 6月12日 午後11時52分 ――

神速市の中央、神速駅から徒歩で20分の所にある、Uプロ美術館。
本来なら静まり返っているはずの展示場の中では、多くの警官が忙しそうに動き回っている。
その一角で、まだ新しい制服を着た青年二人組が、上司と思われる人物に話しかけていた。

「警視! 全職員の配置、無事に終了しました!」

(‘_L’)「……了解しました。指示通り屋上にも配置しましたか?」

「はい! 十名ほど向かわせています!」

(‘_L’)「ふっふっふっ、今日こそは逃がしませんよ……」

30歳過ぎほどに見えるその人物は、自信に満ちた声を上げる。
そんな彼の態度に対して、数名の部下が疑問を投げかけてきた。

「あの、警視。本当に奴は来るのでしょうか?」

「百人以上の警察官を動員しての作戦ですから、この人数を前にして諦めたのかも――」

(‘_L’)「いいえ、奴は必ずここに来ます。たとえ二百人……いや、千人いたとしてもです。
     ……それよりまもなく予告の12時です。宝石から片時も目を離さないように」

「はい、抜かりはないです!」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:32:08.75 ID:eoZghA8M0

警視と部下達は、近くにある一つのショーケースに目をやる。
特別展示用の小さなケースの中には、緑色の大きな宝石を埋め込んだネックレスが飾られていた。

(‘_L’)「……ところであの宝石は本物なのでしょうか?」

「あっ、それなら問題ありません。つい先ほど鑑識が確認しているのを見ました」

(‘_L’)「……ちょっと待ってください。それはいつのことです?」

「そうですねー、5分から10分ほど前ですが……」

(;‘_L’)「その鑑識、人数は何人でしたか!?」

「一人だけでしたが、ちゃんと証明カードを胸に――」

(#‘_L’)「あなたは馬鹿ですかっ! 『必ずチームで行動が原則、もし単独の人物を……』」

警視が声を張り上げた時、それを遮るように鐘の音が鳴り響く。
中央ホールにある大時計が、日付が変わる事を告げる12の響き。
……そしてそれは、犯行予告の時間を知らせる音でもあった。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:35:08.23 ID:eoZghA8M0
(‘_L’)「……時間ですか。とりあえず鑑識を呼んで、それから――」

「けっ、警視っ!!」

12回目の鐘の音が終わると同時、宝石が飾られたショーケースから白煙が上がる。
密度の濃い煙はあっという間に辺りを覆い包み、そこにいる人たちの視界を奪い去っていく。

(;‘_L’)「うろたえないでください! まず持ち場を離れないように――」

『ごきげんよう、皆さん……』

(;‘_L’)「この声は……」

白煙の中心部、ショーケースの辺りから声が響く。

『今宵も警備、ご苦労様。でも残念ですが……クテリロの涙、確かにこの手に頂きました』

警官達が目を凝らすと、ほんのうっすらとだが、ショーケースの上に立つ人影が見て取れた。

(;‘_L’)「怪盗エニグマ……」

「このっ!」

(;‘_L’)「あっ、待ちなs――」

部下の一人が、人影に向かって銃をかまえる。
上司の制止の声が彼の耳に入る前に、彼はトリガーを引き絞った。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:38:10.33 ID:eoZghA8M0

火薬の音が響き、人影に銃弾が刺さったその時だ。
人影が一瞬で燃え上がり、周りの人々の目を眩ませる。

(;‘_L’)「こ、これは!?」

僅かな時間で炎が消え去った後には、人影も同じく姿をくらましていた。
警視は部下数名と共に、慌ててショーケースまで駆け寄る。
だがそこに残されていたのは、飾り台だけが残されたショーケースと、一枚のカードのみであった。

(‘_L’)「またやられてしまいましたか。ですが……」

「警視、屋上から無線です! 怪盗エニグマを発見、気球で東へ逃げたと……」

(‘_L’)「……分かりました」

警視はカードの内容を一瞥したあと、警官隊に向かって声を張り上げる。

(‘_L’)「皆さん、プランCで行きます! ……今夜こそ奴に臭い飯をご馳走してさしあげましょう」

「「「はっ!!」」」

各自の持ち場へと全力で向かう隊員たち。それを見ながら、警視は考える。

(‘_L’) (……しかし奴にしては浅はかですね。まさか――)

やがて警視は無線を取り出し、ある場所へと連絡をかけ始めた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:41:02.62 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

この夜、警官計108名を導入した作戦は、結局警察側の完敗に終わる。

世間を騒がしている『怪盗エニグマ』の、7度目の犯行。
予告状、覆面、奇術的な犯行……まさに怪盗という名に相応しい活躍。
その犯行は鮮やかで、そして芸術的でもあった。


しかしその半年後、エニグマの12回目の犯行。
『金色の流石像』を巡る警官隊との攻防で、ある一人の警官の活躍により、犯行は失敗へと終わる。
それを期としてかは知らずか、以来エニグマの犯行がバッタリと止まった。


月日が過ぎ去って行くにつれ、やがて怪盗エニグマの名は語られなくなっていく。
激変する時代の流れにより、その存在は人々の記憶の片隅へと追いやられていった。


そして最後の犯行から15年後、梅雨独特のシトシトとした雨が降りしきる日。
Uプロ美術館に一通の茶色い封筒が届いた。



        俺達は平穏に過ごせないようです


     ( ´ー`)<『その5:天使の雨』だーヨ

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:44:04.64 ID:eoZghA8M0

     □     □     □

雨がジトジト降るこの季節、私はあんまり好きじゃない。
寝苦しいし、濡れるとめんどくさいし、食べ物がすぐ駄目になるし……
中でも一番の理由は、毎朝セットする二つの巻き髪が湿気を含んで垂れるからだろう。

リノ ‐凵])ζ「ん、朝なの……?」

携帯のアラームが鳴り、私の意識が覚醒していく。
外の小さな雨音を聞きながら、今朝やるべき事をまず考える。
時間割は既に確認済みだし、クーに返す本もカバンに入れたし……うん、他に特別な事は無いわね。

いつもの朝と同じく、身支度を整えた後、髪をセットする。
パッと見はボサボサの癖毛で大変そうだけど、これをああして、こうする事で……

ξ ゚ー゚)ξ「うん、完璧!」

ものの5分もかからずに、いつものくるくるヘアーが完成。
友達にこの事を話すと、大抵は驚かれた後、コツを教えて欲しいと言ってくる。
そこでコツを教えるのだが、今だに成功したという話は聞かない。

ξ ゚听)ξ (……もしかして、私の髪って変なのかな?)

そんなことを考えながら、朝食を取るため台所に向かう。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:47:34.35 ID:eoZghA8M0
私の父さんは単身赴任、母さんの仕事は朝が早いので、朝食はいつも一人。
冷蔵庫の中からハムとチーズ、トマトにレタスを取り出し、マーガリンを塗ったパンに挟み込む。
後は母さんが昔に衝動買いしたホットサンドマシンを使うだけで、どことなく豪勢な朝食が完成した。

./・ω・ ヽ「美味しそうな香りだぽ」

ティーパックの紅茶を淹れてる時、私へと話しかけてくる声があった。
声の主は、食卓の上に置いてある私の携帯、その横にいる30cmほどの毛玉。

ξ ゚听)ξ「あらありがと。一口食べる?」

./・ω・ ヽ「別にいらないぽ」

ξ ゚听)ξ「ふーん……それよりテレビのリモコンに乗らないでよ」

この毛玉、名前は『ぽ』っていう。なんでも古代の超科学で作られた愛玩生物らしい。
普段は携帯のストラップに偽装してるけど、私と二人きりの時は時々このサイズに戻っている。

./・ω・ ヽ「また占いを見るのかぽ?」

ξ ゚听)ξ「……まあ毎朝の習慣だしね」

テレビをつけると、ちょうど天気予報のコーナーだった。
雨は朝のうちにやんで、日中は久々に晴れるみたい。
週間の天気が終わり、実は毎朝楽しみにしている占いコーナーが始まる。

『本日の占いコーナーですぅ! 今日一番の運勢はふたご座の人。今まで努力してきた成果が――』

……残念、トップは逃したみたい。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:50:12.20 ID:eoZghA8M0
『……そして8位はさそり座のあなた。油断から来る思わぬ失敗に注意して――』

ランキングの上位から読み上げられていくが、まだ私の星座であるおとめ座が無い。もしかして……

『そして残念ですぅ。今日一番アンラッキーなのは、おとめ座のあなた。
 思わぬトラブルに巻き込まれ、心身ともに疲れる事になりそうですぅ。
 そんな貴方へのラッキーアイテムは、ハートマークの小物! それでは、今日もお元気でー!』

ξ;゚ー゚)ξ「ま、まあ所詮は占いだしね……」

./・ω・;ヽ「……ツン、ホットサンドを握りつぶしているぽ」


テレビは7時の訪れを告げ、今朝のニュースが流れ始める。
政治家の汚職にバラバラ殺人事件……ろくなニュースが無いわね。
ちょっと形が変わったサンドを口に運びながら、ぼんやりと番組を眺めていたときだった。

『それでは次のニュースです。15年ほど前に世間を騒がせた、『怪盗エニグマ』。
 彼が実に15年ぶりの犯行予告を出したと、昨夜遅くに警察から発表が――』

ξ ゚听)ξ「へー、エニグマねぇ……」

テレビには昔のニュース映像だろうか、ビルの上で笑う覆面の人物が映されている。
私も名前を小耳に挟んだことはあるけど、正直私が生まれる前の存在なのであまり知らないってのが本音。
昔父さんに聞いたときは、怪盗の名に相応しい人物って言ってたわね。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:53:01.42 ID:eoZghA8M0
『予告状が送られたのは、根谷県美府市にあるUプロ美術館で……』

Uプロ美術館って……また割と近所な話ね。まあ別に私には――

./ ゚ω゚ ;ヽ「ああああああぁぁぁぁぁっっぽ!!」

ξ;゚听)ξ「なっ、急にどうしたの!?」

./・ω・;ヽ「テレビ! テレビ見るぽ!!」

ぽに言われた通り、画面に目を移す。

『予告状には、同美術館に展示されている『緋色の三日月』を、今夜22時ちょうどに――』

画面には、宝石とも石ともつかない赤い物体が映っていた。
半円状を更に欠けさせたような形は、確かに三日月を連想させるものがある。

ξ ゚听)ξ「……で、これがどうしたの?」

./・ω・;ヽ「どうしたもこうしたも……まだこんなチャンスがあったぽ!」

ξ ゚听)ξ「チャンスって……」

./・ω・ ヽ「だからっ! あいつらの計画を止めるチャンスだぽ!」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:56:31.79 ID:eoZghA8M0

     △     △     △

6月も三週目に入った月曜のお昼時間。教室内の空気は暗くどんよりしていた。
今は絶賛梅雨日和だとか、げつようびの魔力とかもあるのだろうが――

( ´ω`)「はあっ、赤点が三つもあったお……」

今日の授業は、先週行われた中間テストの返却だったというのが一番の原因だろう。

('A`)「まあそう気を落とすなよ。補習と追試を受ければいいだけだろ?」

そういう俺は一応赤点はゼロ。 ……いくつか危ない教科はあったがな。

( ´ω`)「そういう問題じゃないんだお……っていうか正直それが面倒なんだお」

川 ゚ -゚)「まったく、私のノートまで貸してやったというのに……」

(´・ω・`)「直前まで遊んでいたようだから自信があるのかと思いきや……」

割と成績が良かった二人がブーンを窘める……ってあれ?

ξ ‐凵])ξ「………………」

こんな時には普通、いち早く何らかのアクションを示すツン。
だか彼女は、何かを考え込んでるかの様にぼんやりとしている。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 19:59:00.07 ID:eoZghA8M0
('A`)「おーい、ツン。大丈夫か?」

ξ;゚听)ξ「…………えっ!? 何か私の話でもしてた?」

('A`;)「いや、別にしてない。ブーンの赤点の話をしてただけだが……」

ξ#゚听)ξ「ハァッ!? あのバカ赤点取ったの!?」

いきなりマジギレするツン……ってか本当に話聞いてなかったんだな。

ξ#゚听)ξ「答えなさいブーン! どの教科でやらかしたのよ!?」

(; ^ω^)「おっおっ、古典と英語と数学ですお……」

ξ; )ξ「さ、三教科も…………しかも英語は試験前夜に私が勉強に付き合ったのに……」

怒りや呆れを通りこして、もはや呆然としているツン。
そのまま彼女は力無く崩れ落ちる……ご愁傷様。

川 ゚ -゚)「ところでブーン、これを」

クーが鞄から一枚の紙を取り出し、ブーンへと手渡した。

( ^ω^)「おっ、何だお……?」

紙を見ているブーンの顔が段々と険しくなっていく。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:00:10.27 ID:eoZghA8M0

(; ^ω^)「あのー、この168万円って何のことだお……?」

川 ゚ -゚)「無論、私のノート貸し出し代だ。言っただろ、一文字200円と」

(; ^ω^)「あの話は本気だったのかお!?」

川 ゚ -゚)「大丈夫だ。ちゃんと君のノートと照らし合わせて、不足だった場所のみ請求している」

(; ^ω^)「いやいや、そういう問題じゃ……っていつの間にボクのノートを!?」

川 ゚ -゚)「気にするな。私は気にしない」

(; ^ω^)「いやいや、普通気にするお!」


その後も二人の口論は続いたのだが……

川 ゚ -゚)「はっはっはっ。また会おう、明智君!」

(; ^ω^)「くそっ、ルパンめーっだお……」

まあブーンがクーに口先で敵うはずがない。ってかブーン、それ相手が違うぞ。

(´・ω・`)「そういえば……ねえ皆、今朝のニュース見た?」

今朝は確か……寝坊して遅刻寸前で慌てて家を飛び出したな。当然ニュースなんて見てない。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:03:11.76 ID:eoZghA8M0
( ^ω^)「おっ、何かあったのかお?」

川 ゚ -゚)「チリが内紛で東西に分裂したんだよな、たしか」

(;´・ω・)「そんなニュース無かったよね? ……えっ、本当なの!?」

川 ゚ -゚)「安心しろ、冗談だ。怪盗エニグマの事だろ?」

(;´‐ω‐)「全く、不謹慎なネタを……そうそう、そのニュースだよ」

('A`)「エニグマって……昔出てた怪盗だよな。逮捕でもされたのか?」

川 ゚ -゚)「いや、15年ぶりに犯行声明を出したそうだ。しかも場所はUプロ美術館らしいぞ」

('A`;)「悪い、場所が全然解らないんだが……」

( ^ω^)「隣の新速市にある美術館だお」

川 ゚ -゚)「ついでに言うと、過去にエニグマの犯行が行われた事があるらしい。
     ……急な話だが、放課後行ってみないか? 私が案内するぞ」

('A`;)「野次馬とか多くないか? そもそも中に入れるとは思えないが……」

川 ゚ -゚)「そうだろうな、私も入れるとは考えてない。せいぜい外見ぐらいしか見れないだろうな。
     近くに美味しい洋菓子店を知っているので、そこでお茶を飲むついでと言う事でどうだ?
     他では味わえないほどの、がっつりとした濃厚なシュークリームが味わえるぞ」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:06:07.64 ID:eoZghA8M0
(* ^ω^)「行くお!」

まあ食べ物の名前が出た時点で、ブーンが即答するのは当然だな。

(´・ω・`)「それは興味深いね……僕も行く事にするよ」

ショボンも料理関係の話には結構乗ってくる。意外と食いしん坊なのか?

川 ゚ -゚)「ドクオは来ないのか?」

('A`)「いや、行かせてもらうぜ」

シュークリームもだが、美術館も気になる。
もしかしたら伝説の怪盗にバッタリ会ったりとか……いや、ねーな。

川 ゚ -゚)「さて、残るは……」

俺達の目線は一つの机に向かう。
そこの主は先ほどから放心しているので、多分俺達の話を聞いてないんだろうな……

川 ゚ -゚)「おーい、ツン。話を聞いてたか?」

ξ;゚听)ξ「………………えっ? 何なの?」

しかし今日のツンは何かボンヤリしてるな……

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:09:15.99 ID:eoZghA8M0
川 ゚ -゚)「いや、今日の放課後に皆でUプロ美術館に――」

ξ;゚听)ξ「Uプロ美術館? なんd……もしかしてエニグマ?」

川 ゚ -゚)「まあそうだが……どうしたんだ、ツン。何か悩みでもあるのか?」

ξ ゚听)ξ「いえ、別に…………よし、私も行くわ」

( ^ω^)「おっ、これで全員参加だお!」

ξ ゚听)ξ「…………ちょっと待ちなさいブーン。アンタにそんな暇があるの?」

( ^ω^)「えっ、でも補習と追試はあさってからだお?」

ξ ゚听)ξ「……まあ今日はいいわ。でも明日からの放課後、しばらく予定は空けておきなさいね」

(; ^ω^)「まっ、まさか……」

ξ#゚ー゚)ξ「こないだの二倍……いや、三倍は叩っ込んであげるわ! 覚悟しときなさいよ!」

( ´ω`)「ドクオ。もしボクが死んだら、PCを完膚なきまでに破壊してほしいお……」

('A`)「安心しろ、ちゃんと兄者に頼んでHDを徹底分析してもらうから」

( ´ω`)「…………おちにくだお」

最早鬼畜とすら読めないぞ、それ……

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:12:10.33 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

新速市は美府市の西隣にある、主に電子工業が盛んな街だ。
国内有数の家電メーカーであるJPGや、そのライバル会社であるGIFの本拠地もここにある。
そんな街の北側、今北戸湖の湖岸に近い所にUプロ美術館があるのだが……

('A`;)「どうみても人大杉です。本当に(ry」

ξ ゚听)ξ「近づく事すら無理そうね……」

ニュースを聞きつけてきたであろう野次馬と、美術館の手前に包囲網を作りそれを追い返す警官隊。
……近代的なガラス張りの建物を、遠巻きに眺めることしか出来ないってのが現状だ。

川 ゚ -゚)「まあ予想はできてた事だ。さっさと喫茶店に行くぞ」

確かにここに居ても、人波に揉まれて無駄な体力を使うだけだな。
しかしクーが『喫茶店』と言うたびに、彼女の目が輝いている様な……そんなに行きたいのか?

( ^ω^)「そうだお! 早く行こうお!」

ξ;゚听)ξ「待って、もう少しだけ……キャッ!」

(;‘_L’)「うおっ!!」

人混みから押し出された中年過ぎ辺りの男性。彼がツンにぶつかり、彼女と共に倒れこむ。
幸いその人物が素早く身を返して下敷きになった事で、ツンが地面にぶつかる事は無かったが――

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:15:17.39 ID:eoZghA8M0
(;‐_L‐)「あ痛てててっ……お嬢さん、大丈夫ですか?」

ξ;゚听)ξ「だ、大丈夫ですが……あなたこそ大丈夫ですか?」

ぶつかってきた人物は右腰辺りを強く打ったみたいで、痛そうに左腕で擦っている。
……よく見ると、男のコートの右腕の部分は、肘の辺りから力なくぶら下がっていた。
ツンもそれに気付いたみたいで、かなりバツが悪そうな表情を浮かべている。

(‘_L’)「いえいえ、そちらに怪我が無くて何よりです。気にしないでください。
     それよりこちらの不注意で迷惑をかけてしまい、すいませんでした……おや?」

男の視線が、ツンの後ろにいるブーンへと向かった。

(‘_L’)「…………もしかして、内藤ホライゾン君ですか? 父親が酒屋をやっている……」

( ^ω^)「おっおっ、そうだお! おじさんは……?」

(‘_L’)「……覚えてないのも無理はないですね。君の父親、サンライズさんの古くからの友人ですよ。
     名前は鴨葱フィレンクトといいます。君がまだ小さい頃に一度会った事があるのですが……
     大分サンライズさんの面影が出てきましたね、目元の辺りがそっくりですよ」

(; ^ω^)「おっおっ、何か照れるお……」

(´・ω・`)「……職業は何をやってらっしゃるんですか?」

確かに気になる。腕が片方無いし……

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:18:06.55 ID:eoZghA8M0
(‘_L’)「はははっ、しがない警察官をやってます……ほら、これが証拠ですよ」

懐から桜田門の紋章が付いた手帳を出してくる男。実物を見たことはないが、おそらく本物だろう。

川 ゚ -゚)「失礼ですが、その右腕は……」

(‘_L’)「……昔少しミスをしてしまいましてね……名誉の負傷ってものです。
     …………そうだ。君達、時間はありますか?」

('A`)「まあ、あるといえばありますが……」

(‘_L’)「誰かに昔話をしたくなりましてね……少しばかりお茶に付き合ってもらえませんか?
     先ほどぶつかったお詫びも兼ねて、皆さんの料金はこちらで持ちますよ」

結構面白そうな話だが……まあ決定権はツンにあるだろうな。

ξ ゚听)ξ「……わかりました。それではご馳走になります」

(‘_L’)「よし、では早速そこの喫茶店でも――」

近くにあった喫茶店を指差すフィレンクトさん。しかし、そんな彼を止める声があった。

川 ゚ -゚)「すいません。もし差し支えがなければ、私の知っている店がいいのですが……」

(‘_L’)「ああ、別に構いませんよ。ただあまり遠くの店は勘弁してほしいですね」

よっぽどシュークリームが食べたいんだな、こいつは……

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:21:06.77 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

(* ^ω^)「おおっ! これは確かに濃厚だお!」

ξ;゚听)ξ「確かに濃厚だわ。一つだけでお腹一杯になりそうなくらい……」

美術館から少し歩いた所にある喫茶店、その中の一角にある六人掛けのテーブルに俺達はいた。
各自の目の前にあるのは、クーの話通り濃厚なシュークリームと、穏やかな香りを漂わせている紅茶だ。

川 ゚ -゚)「そうだろそうだろ。遠慮せず食べろよ」

(;‘_L’)「それは私のセリフだと思うのですが……まあその通り、遠慮は不要ですよ」

しかしクー、いつもの調子に戻るのが早いだろ……もうちょっとは敬意を払えよな。

(‘_L’)「……さて、本題に入りますか。皆さんは今日、なぜUプロ美術館まで来られたのですか?」

('A`)「怪盗エニグマが今夜来るとかで、その美術館を見に行こうという話に……」

(‘_L’)「……まあそうですよね。皆さんはエニグマの事をどの位知ってますか?」

(´・ω・`)「とにかく凄い怪盗だったとしか……何しろ生まれる前の話ですので」

(‘_L’)「そうですか……こんな世代にまで興味を持たせるとは、彼女は流石ですね」


……ん? 彼女って誰だ?

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:24:08.43 ID:eoZghA8M0

ξ ゚听)ξ「彼女って……?」

(‘_L’)「……おや、もしかしてご存知無いのですか? 怪盗エニグマは女性なんですよ」

(´・ω・`)「……あれ? でも朝のニュースでは笑う男の映像が……」

俺が昔にテレビで見た映像も、たしか男だった気がするんだが――

(‘_L’)「それは彼女の3回目の犯行、ようつべテレビが捕らえた有名な映像ですね。
     あの頃の彼女は捜査かく乱の為か、男性の様に振舞っていたんですよ。
     その映像が有名になり過ぎたのもあって、大抵の人は男性だと思っているんですけどね……」

('A`)「へえーっ、詳しいですね」

(‘_L’)「それは当然ですよ。当時彼女に関する事件の指揮を取っていたのは、この私でしたからね」

……ちょっと待て、それって凄い事じゃないのか?

(; ^ω^)「それって……最高指揮官だったって事かお!?」

(‘_L’)「君は父親から聞いていると思ったのですが……まあそうなりますかね。
     彼女の事は警察内では最も詳しいと思いますよ」

紅茶を口に運んで、満足そうな表情を浮かべるフィレンクトさん。
その表情は、絶対に紅茶の味だけから来たものではないだろう。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:27:13.76 ID:eoZghA8M0

('A`)「ぜ、ぜひお話を聞かせてください!」

(‘_L’)「まあまあ、そう慌てないでください。これを全部飲んでから……」

まだ熱いだろうに、一気にカップの中身を口に含むフィレンクトさん。やや猫舌の俺には絶対無理だ。

(‘_L’)「……ふぅっ、中々のお味ですね。ウェイターさん、もう一杯お願いします」

近くを通りかかった店員に追加の注文を出し終えた彼は、懐から手帳を取り出した。
年季が入ったそれを器用に片手で捲りながら、俺達の方を向いてくる。

(‘_L’)「さて。では15年前、このUプロ美術館で起きた事件でも話しましょうか。
     あれはちょうど今の時期、今日の様に久々の晴れ間が覗いたときでした……」

手帳を捲りながら、彼の言葉は続いていく。

15年前の今の季節に、Uプロ美術館に一通の予告状が届いた事。
敗北続きな警察側は、これまでにない規模の警官を導入した事。
しかし結局は、予告時間ちょうどに宝石が奪われてしまった事。

そして――

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:30:45.35 ID:eoZghA8M0

     *     *     *

―― 15年前の6月13日 午後0時7分 ――

Uプロ美術館近くの上空、屋上から離れて行く黒い影があった。
空中へと浮かぶ黒い大玉、そこから垂れた紐へとぶら下がる人影。
その真下では警官達が右往左往し、上空を指差す姿が見える。

(::::::::::::)「フフッ、単純なものだワ……」

その光景を、屋上から眺めている者が一人いた。
屋上に元々いた数名の警官は、全て床の上に伏している。

階下の騒動と同時に煙幕を炊き、屋上を制圧するのは造作も無い事だった。
後は自分の行った偽の無線により、美術館から遠ざかるアドバルーンを警官達が追う。
それにより人手が少なくなった館内を悠々と抜けていけば――

屋上の人物がそう考えた時、屋上と美術館を繋ぐドアが勢いよく開け放たれ、十数名の人間がなだれ込んだ。
彼らは両手で拳銃を構え、手すりを背にしたその人物を半円状に取り囲む。
その中の一人、その人物の正面に立った警官が声を張り上げた。

(‘_L’)「動かないでください! 逃げ場なんてありませんよ!」

黒のマントとタキシード、顔にも黒い覆面をした人物を注視しながら、フィレンクトは拳銃を握り直す。
その人物は両手をゆっくり上げた後、くぐもった声で話し始めた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:33:14.68 ID:eoZghA8M0

(::::::::::::)「……中々やるものだな。どうして屋上だと?」

(‘_L’)「前回と同じ手口、気球を使っての脱出をあなたがするとは思えなかったのが一つ。
     それと屋上からの無線にはある決まった合言葉がありましてね……」

(::::::::::::)「……ははっ、合言葉か。それは盲点だった」

(‘_L’)「さあ、観念してください。言っておきますが、下の包囲も完了していますからね」

(::::::::::::)「なるほど、逃げ場は無しか…………いいだろう」

その人物はゆっくりと口元へと手を伸ばす。その動きに反応し、警官達は銃を構えなおした。

(::::::::::::)「まあ慌てるな。せめてこの暑苦しい覆面ぐらい取らせてくれ……」

その人物が覆面を外す様を、警官達はただ凝視している。
やがて口元を覆う布が取り外され、『彼女』の素顔が月明かりの下に映し出された。


川*[]ー[])「初めまして、ですワ。皆さん……」


(;‘_L’)「お、女……」

ふわりと広がる肩の下まで伸びた黒髪、少し色が入った眼鏡に透き通った声……
二十歳過ぎほどに見える長身の女性がそこにいた。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:36:00.36 ID:eoZghA8M0
川*[]ー[])「あら、やっぱりあなた達には意外に思われたようですワ。
       ……まあ『十死のコバルト』を頂いた時、そう思うように差し向けたから仕方ないですワ」

(;‘_L’)「と、ともかく! ゆっくりと両手を上げ、こちらへと――」

川*[]ー[])「……本当に残念ですワネ」

彼女が手に握っていた覆面が手から離れ、地面へと落下する。
ついそちらへと目を向けてしまう警官達、その視線を強烈な光が襲った。

(;>_L<)「ぐおっ! これは……」

「……ご機嫌ようですワ。あなたとはまた会いたいものですワ」


ブラックアウトしていた視界が回復したのは数秒後、しかし屋上には既に彼女の姿は無い。

(;‘_L’)「ば、馬鹿な。あれだけの時間で…………」

慌てて地上にいる警官に連絡を取る彼、しかし返ってきた返答は彼の期待を裏切るものだった。


  『閃光の際、屋上から抜け出した形跡は無し。地上にも変わった事は無かった』


……こうして彼女は宝石を持ったまま、警官達の目の前から忽然と姿を消してみせた。
彼女が彼の前に再び姿を現すのは、半月後の別の美術館での出来事だ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:39:10.50 ID:eoZghA8M0

     △     △     △

(‘_L’)「……『彼女に会った』という意味では、あの日が初めてでしたね」

新たに運ばれてきたカップを空にしながら、フィレンクトさんの体験談は続く。
……やっぱ生で経験した人の話は臨場感が違うな。

ξ ゚听)ξ「……ちなみに、エニグマはどうやって姿を消したのですか?」

(‘_L’)「後日調べてみた所、屋上に配置した人員の一人が、当日欠席した事が解りました。
     しかし現場では人数が揃っていたので……おそらく最初からその人物に化けていたのでしょうね」

(´・ω・`)「しかし、婦警が混じっているとすぐに怪しまれるのでは……」

(‘_L’)「彼女の特技の一つ、それは変装術です。若い男の警官に化ける事など造作も無い事でしょう。
     それに……あ、いや、すいません。今のは忘れてください」

慌てて声を上げ、別の話を切り出すフィレンクトさん。

(‘_L’)「次に彼女に再会したのは二週間後、独身県にあ 『 PiPiPiPiPi 』 ……ちょっと失礼」

得意そうに語りだした出だしが着信によって遮られ、苦々しそうな表情を浮かべるフィレンクトさん。
しかし通話を始めても、相手に不快感を全く出してないのは流石だな……

(‘_L’)「……はい、そうです……はい……はい……えっ、もう到着しました?」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:42:10.87 ID:eoZghA8M0
途中からフィレンクトさんの顔が更に曇る。何か良く無さそうな流れかも……

(;‘_L’)「……はい……わかりました、では予定通り私が……はい……では…………」 ピッ

ξ ゚听)ξ「……どうしたんですか?」

(‘_L’)「いえ、待ち人が予定より早く来る事になりましてね。
     ……すいません。とても残念ですが、話はここまでです」

彼は携帯を収め、名刺と五千円札をツンへと渡してくる。

(‘_L’)「もし話の続きが聞きたいなら、適当な時間に連絡をください。
     場合によってはすぐに出れないかもしれませんが……」

ξ ゚听)ξ「わかりました、では次の機会には是非最後まで聞かせてください」

(‘_L’)「勿論ですよ。あとホライゾン君、お父上に『またいつもの場所で飲まないか』とお伝えください」

( ^ω^)「わかったお!」

(‘_L’)「それではお元気で……またの機会に会いましょう」

丁寧に一礼して、フィレンクトさんは立ち去って行った。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:45:13.28 ID:eoZghA8M0

彼が立ち去ってから少し後、クーが真面目な顔をして話を切り出してくる。

川 ゚ -゚)「……あの人物、何かを隠してるな」

(´・ω・`)「えっ、根拠は……?」

川 ゚ -゚)「いや、あまり無い」

自信満々に言ってきた癖に無いのかよ……

川 ゚ -゚)「……だが彼が『エニグマ』と語るとき、彼の目線が少しだけ左右にぶれた。
     私の勘だと、さっき聞いた話以上の因縁があるんじゃないかと思う……あくまで勘だが」

('A`;)「なんだよ、その根拠は……?」

川 ゚ -゚)「むっ、私の勘を信用してないみたいだな。言っておくが私の勘は中々だぞ。
     以前立ち食いうどんを食べた時、食べる前から底の方に蕎麦が一本だけ入っているのが――」

('A`;)「はいはい……」

(´・ω・`)「お取り込み中のところ悪いけど、そろそろ僕は帰ってもいいかな?」

窓の外を見ると夕日もかなり沈んできている。確かに潮時かもな……

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:48:12.72 ID:eoZghA8M0
( ^ω^)「おっおっ、多分大丈夫だと思うお! ボクらも帰る事にするかお?」

ξ ゚听)ξ「あっ、その事なんだけど……クー、ちょっといいかしら?」

川 ゚ -゚)「――そこで店長と、たぬき蕎麦の定義について語り合っていると……
     ん? どうしたんだ、ツン?」

ξ ゚听)ξ「この間貸した小説をすぐに返して欲しくてね、クーの家まで取りに行っていい?」

川 ゚ -゚)「うーむ…………まあ別に構わないが……」

ξ ゚ー゚)ξ「ありがと! あとごめん、二人きりで相談に乗って欲しい事もあるんだけど……」

川 ゚ -゚)「了解、別にいいぞ」

ξ ゚听)ξ「よし、じゃあさっさと行きましょ!」

伝票を掴み、レジへと移動するツン。俺達は荷物を持ちながら、店外へと足を進める。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:51:12.86 ID:eoZghA8M0

('A`;)「……しかし今日のツンの様子、何かおかしいよな?」

(´・ω・`)「そうだよね。何か思い詰めてなければいいんだけど……」

( ^ω^)「クー、ツンの話をしっかり聞いてやって欲しいお」

川 ゚ -゚)「勿論だ。サントアンヌ号に乗ったつもりで任せてくれ」

確かアニメ版だと沈んだ気がするが……まあ突っ込まない事にしておこう。

ξ ゚听)ξ「お待たせー。千円ちょいのお釣りが出たけどどうする?」

(´・ω・`)「……僕は別にいいよ。四人で分けたら?」

('A`)「あー、俺も別にいいや」

今月は臨時収入があったからな、別にそこまで財布の中身に困ってないし……
むしろタダ飯にありつけただけでも上等すぎる。

( ^ω^)「今度みんなで集まる時のおやつ代に回すのはどうかお?」

川 ゚ -゚)「……ブーンにしてはまともな案だな」

(; ^ω^)「クー、何気に酷いお……」

ξ ゚听)ξ「わかったわ。じゃあ私が預かっておくわね」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:54:42.79 ID:eoZghA8M0

川 ゚ -゚)「……さてと。駅と私の家は逆方向にあるから、三人とはここでお別れだな」

( ^ω^)「ツン、気をつけて帰るんだお! もし何かあったら迎えに――」

ξ ゚听)ξ「はいはい、大丈夫だから。ブーンこそ、ちゃんと勉強やっときなさいよ」

( ^ω^)「うっ……わかったお。じゃあまた明日だお!」

('A`)「じゃあなー」


ツンとクーの後姿を少しの間見送った後、俺達三人は駅へと向かって歩く。

( ^ω^)「おっおっ。しかしあの店のシュークリーム、最高だったお」

('A`;)「ってかお前よく5個も食べれたな……」

正直一つだけでもかなり腹が膨れたんだが……こいつのお腹は絶対異次元辺りに繋がっている。

(´・ω・`)「あれだけ濃厚って事は卵黄の量が違うのかな? いや、でも甘みに対してのさっぱり感と――」

ショボンはショボンで分析(?)に夢中。確かに不思議な濃厚さではあったが……

( ^ω^)「まあ何にせよ、美味しいのは最高だお!」

(´・ω・`)「ははっ、それは真理かもね」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 20:57:24.01 ID:eoZghA8M0

俺達はくだらない話をしながら家路を歩く。

(´・ω・`)「じゃあまた明日にね」

( ^ω^)「おっおっ、気をつけるお!」

電車では反対方向となるショボンと駅で別れ、新美府駅へとついた二人。

( ^ω^)「それでだお、その時ボクは――あっ、雨が降り始めたお」

('A`)「こんな時 持ってて良かった 折り畳み傘 (字余り)」

( ^ω^)「おおっ、流石ドクオだお! 少し入れてくれお!」

('A`)「普通に断る。何が悲しくて男と相合傘を……」

(; ^ω^)「そんなっ、家まで濡れて帰れって事かお……」

……こうして俺にとって、今日という日はいつもと変わらず平穏に過ぎ去っていく。



降り出した雨は、止む気配を見せていない。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:01:21.92 ID:eoZghA8M0

     *     *     *

―― 15年前の12月17日 午後22時14分 ――

裏社県にある安倉美術館の地下、老朽化して今は使われなくなった下水道路。
そこには管内を動き回る懐中電灯の光があった。

エニグマの12回目の犯行、それは安倉美術館にある『金色の流石像』を目的とした物。
予告時間の20時ちょうどに像を奪取したエニグマは、そのまま逃走経路である下水道へと逃げ込む。

……しかし今回の警察側にも、再び彼の姿が会った。
対エニグマ戦で合計四回もの接触を果たし、彼女をギリギリまで追い詰めた人物、フィレンクト。
今までの経験と推測により、下水道の主要な出口に予め警官隊を配備した彼の作戦は見事に的中した。


複雑に絡み合った下水道の内部で、ただ逃げ惑う事を余儀なくされるエニグマ。そして――


(;‘_L’)「ハァッ、ハァッ……そろそろ観念してください……」

川*[]ー[])「……中々執念深い殿方ですワネ」


袋小路の一角に、追い詰められた怪盗と追い詰めた刑事がいた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:03:51.30 ID:eoZghA8M0

川*[]ー[])「もう誰がどうみてもフラフラだワ。少し休憩したほうがいいと思うワ」

(;‘_L’)「だっ、黙りなさい! 絶対に逃がしませんからね!」

川*[]ー[])「部下ともはぐれちゃったみたいだし、本当にかわいそうだワネ」

フィレンクトを挑発するエニグマ、しかし実は彼女にはここから逃げる手段が無かった。
隙を見ては刑事の横を突破しようと考えているが、彼はそれを許してくれそうにはない。

川*[]ー[])「いつもいつも私をつけ回してくれて……まるでストーカーだワ」

(‘_L’)「あなたが盗みを働いてなければ、こちらも追いかけはしませんよ」

川*[]ー[])「……じゃあこの像を返すワ。だから見逃してくれるとありがたいワ」

(;‘_L’)「いやいや、今までどれだけの物を盗んだと思ってるんですか!?」

川*[]ー[])「聞きたいですワ? 昨日までの時点で99812個だワ……」

(;‘_L’)「なっ……盗み過ぎですよ!」

川*[]ー[])「……ってのは嘘ですワ」

(‘_L’)「なんだ、嘘ですか……って、漫才やってる暇は無いですよ!」

決定的な隙が出来る時間を待つ彼女……その彼女の願いは突如適う事になる。


……だがそれは二人にとって全くの想定外で、かつ最悪の物だった。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:06:12.91 ID:eoZghA8M0

(;‘_L’)「……なっ!! これは!?」

川;[]−[])「……っ!」


突如地面が大きく揺れ、二人の姿勢が少し崩れる。
これもエニグマの策略かと考え、つい脇の方へと視線を逸らしてしまうフィレンクト。
全神経を張り詰めて隙を窺っていたエニグマは、その事を見逃すはずが無かった。

脱兎の如く駆け出し、虚を突かれたフィレンクトのそばを駆け抜けようとする。
……しかし彼も、そんな彼女をみすみす逃すことはしない。
こちらの脇をすり抜けようとする彼女に猛然と喰らい付くように抱きつき、両者は地面へと倒れこんだ。

川#[]ー[])「ちょっ! 幾らなんでも直接的過ぎますワ!」

(#‘_L’)「黙りなさい! こうなったら梃子でも動きませんよ!」

激しく抵抗する彼女を渾身の力で押さえつけるフィレンクト。
だが二人の動きは急に止まる……いや、止めさせられる事となった。

再び揺れだす地面。先ほどより激しく、そして途切れる気配を見せない。
最初は揺れに乗じて逃げ出そうともがいていたエニグマも、あまりの強さに体が竦んでしまう。


やがて轟音と振動、そして崩れてくる瓦礫が二人を飲み込んだ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:09:09.04 ID:eoZghA8M0


この日深夜、裏社県を突発的な大地震が襲った。
死者8名、重軽傷者多数を出したこの地震は、後に「裏社大地震」と呼ばれる事になる。
……しかし地面の下にいる二人は、当然今はこの事実を知る余地など無い。


     ○     ○     ○

……あれからどの位の時が経っただろうか。
気絶していたフィレンクトは、右腕から走る灼熱の痛みによって目を覚ます事となった。

(;‐_L‐)「ぐっ、うおおぉぉっ!!」

(:::::ー:::)「あら、目を覚まさしましたワ」

(;‐_L’)「え、エニグマ……」

頭の横に人が立つのを見たフィレンクトは、慌てて体を起こそうとする。
しかし右腕に再び走る激痛。彼は再び地面に頭を埋めることになった。

(:::::ー:::)「動いちゃ駄目だワ。少し落ち着いて欲しいワネ」

彼が目線をゆっくりとずらすと、そこには彼が使っていたライトを持つ女性の姿。


(*‘ー‘)「全く……今日は厄日ですワネ、本当に……」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:12:21.46 ID:eoZghA8M0

(;‘_L’)「エ、エニグマ……なのですか?」

長かったはずの黒髪は無くなり、眼鏡に隠されていたつぶらな瞳が見て取れる。

(*‘ー‘)「もう変装する気も失せましたワ……なにしろこんな事になってるんですから」

エニグマはそう言いながら、フィレンクトの右側、元は袋小路の入り口だった所を照らす。
そこは崩壊した天井の瓦礫や土砂がうず高く積もり、人の通行を拒んでいた。

(;‘_L’)「こ、これは……」

(*‘ー‘)「……かなりの大地震でしたから、仕方は無いとは思いますワ。
     まあ幸い、空気は流れてくるようですけど……」

瓦礫の上部は完全には塞がれておらず、わずかだが隙間が見える。
もっとも、人が通れそうな大きさでは到底無かったが……

(‘_L’)「上の瓦礫を取り除k――ぐおおぉぉっ!!」

フィレンクトは起き上がろうとし、三度目の激痛を味わう事となる。

(*‘ー‘)「……あなたってバカですワネ。あくまでゆっくりと、自分の右腕を見てほしいワ」

フィレンクトは恐る恐る自分の右腕へと目を向ける。
……そこにあったのは肘の先から奇妙に捻じ曲がる、どす黒く変色した腕であったもの。
古びた鉄パイプで添え木はしてあるものの、最早使い物にはならない事を彼は薄々察する。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:15:08.39 ID:eoZghA8M0

(; _L )「こ、これは……」

(*‘ー‘)「……運良く生き埋めにならなかっただけでもマシだワ、きっと」

エニグマの話によると、二人が倒れこんだ所は崩落現場のほぼ真横だったらしい。
体が土砂に埋まる事は無かったが、生憎フィレンクトの右腕は大きな岩石に押し潰される形となったのだ。

先に意識を覚醒させたエニグマは彼の下から這い出し、この状況を目にした。
とりあえずは鉄パイプで彼の上にある岩を退かし、手当てをしていた時に彼が目を覚ました……との事だ。

(*‘ー‘)「……流石に死なれたら目覚めが悪いワ」

(‘_L’)「そうですか……一応お礼は言いますが……」

まず優先すべきは、ここから生きて脱出すること。
幸いな事に、どこかで配管が破裂したのか、壁の一角から新鮮な水が溢れ出している。
食料以外の必要な物はあるので、堅実に瓦礫を退かしていけば問題は無いはずだ。

(*‘ー‘)「まあ、あなたはじっくり休んででいいワ。私は上の瓦礫を少しでも退かしておくワネ」

(‘_L’)「いや、私も手伝いm――ぐおおっっ……」

(*‘ー‘)「……その右腕では何も出来ませんワ」

(;‘_L’)「む、無念です……」

こうして生存の為への二人の行動が始まった。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:18:47.76 ID:eoZghA8M0

     □     □     □

クーの実家は、歩いて五分ほどにある高層マンションだった。
高級そうで落ち着いたデザインのそれは、なんとなくクーの雰囲気に合っていると思う。
やや年季が入ったエレベーターに乗り込み、14階を目指す私達。

ξ ゚听)ξ「……ごめんね、急に行くことになって」

川 ゚ -゚)「まあ問題は無いさ」

エレベーターから降り、街の灯りを左手に眺めながら廊下を突き進む二人。
やがて廊下の角にある部屋、砂緒の表札が付いた扉の前でクーは立ち止まった。

ξ ゚听)ξ「手土産ぐらいは持って行くべきだったかもね……
        そうだ、クーの両親の好きな食べ物を教えてくれない? 今度来る時に――」

私がそう言った時、鍵を開けていたクーの手が止まった。

ξ ゚听)ξ「ん? どうしたのよクー」

川 ゚ -゚)「……鍵が開いている」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:21:15.07 ID:eoZghA8M0

ξ;゚听)ξ「……両親って事は?」

川 ゚ -゚)「それは絶対無い。 …………ツン、ちょっと待っててくれ」

ξ;゚听)ξ「えっ……あっ、ちょっと!」

勢いをつけてドアを開き、部屋の奥へと駆け込んで行くクー。
やがて部屋の奥から話し声が聞こえてくる。


「あっ、クーにゃんお帰りー、早かったねー」

「あれ、なんでクーにゃん広辞苑を持ち上げてるの? ……ちょっ、振り上げるのは――」 ガスッ

     ガスッ      ゴスッ             ガコガコッ
「やめっ……! 角はっ、地味にっ、痛いからっ……! ちょっ、椅子は洒落に……!」
         ゴスッ         ガスッ                        ガタン!



ξ;゚听)ξ「………………」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:24:05.70 ID:eoZghA8M0
中の音が止んでしばらく後、なぜか満足そうな表情を浮かべたクーが中から出てきた。

川 ゚ -゚) + 「待たせたな。さあ、上がってくれ」

ξ;゚听)ξ「ねえ、さっきまでの音って――」

川 ゚ -゚)「……粗大ゴミを片付けていた」

ξ;゚听)ξ「そ、そうなの……」

クーに誘われるがままにリビングまでついていく私。
途中に中から人の呻き声が聞こえる部屋があったけど、聞かなかったことにしとこう……


川 ゚ -゚)「そこのクッキーでも食べていてくれ。飲み物はコーヒーでいいか?」

ξ ゚听)ξ「あっ、別に構わないわよ。ありがとね」

川 ゚ -゚)「了解した。ゆっくりしていってくれ」

奇妙な愛想笑いを浮かべてキッチンへと向かうクー。
微妙な表情で見送った私は部屋の中を見渡す。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:27:11.47 ID:eoZghA8M0

最近買ったものであろう、やや大型のテレビにHDDプレイヤー。
テレビが乗っている棚の下にはPS2が鎮座していて、横には数本のソフトが並んでいる。
『エルヴァンディア ストーリー』『大奥記』『四十八(仮)』……どれも聞いた事のないゲームね。


二つ置かれた本棚には様々なジャンルの本が並んでいる。
有名どころの推理小説やエッセイ本、何語か解らない洋書などなど……
科学系、特に物理学の本が多いのが気になる所かな?


広い窓の近くには大きな観葉植物が置かれ、青々とした葉を広げている。
よく見るとベランダにも幾つか鉢植えが置かれているみたい。誰の趣味なんだろう?


飾り棚にはこれまた小さな鉢植えと、幾つかの写真が飾られている。

小さな子供がどことなくクーに似た女性に抱えられている写真、多分昔のクーと母親なんだろう。
同じくどこかの海岸を背にしている若い夫婦と、満面の笑みを浮かべる小さなクーの写真。
どれも和やかな光景で、見ているだけでこちらの心が温まるハートフルな写真ばかりだ。

ξ;゚听)ξ (昔から無表情だった訳じゃないのね、流石に……)


写真をぼんやり眺めてた私は、とある事に気がついた。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:30:20.25 ID:eoZghA8M0

ξ ゚听)ξ (……あれ? 最近の写真が無い?)

写真の中のクーは、せいぜい小学校に入るか入らないかの年齢に見える。
大きくなったら写真に写るのが嫌になった……って事? でも一枚も無いのは……


川 ゚ -゚)「ツン、コーヒー淹れてきたぞ」

ξ;゚听)ξ「えっ……あっ、ありがと」

クーが来たので思考を中断し、二人でクッキーを摘みながらコーヒーを飲む。
薄味のコーヒーは優しく胃に滑り込み、体にじんわりと染み込んで来る。

ξ ゚听)ξ「落ち着くわね、このコーヒー……」

川 ゚ -゚)「私は薄いのをゆっくり飲むのが好きでな。中々いいだろ?」

ξ ゚听)ξ「ええ……」

しばらく二人とも無言で過ごす。
窓の外ではやや強めの雨が降り出し、ゆったりとした空気が室内に流れていた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:33:13.18 ID:eoZghA8M0

川 ゚ -゚)「……ところでツン、相談したい事とは何なんだ?」

ξ ゚听)ξ「あっ、その事なんだけどね……笑わずに聞いてくれない?」

川 ゚ -゚)「むしろ私が笑うような話が気になるが……気にせず話してくれ」

ξ ゚听)ξ「ありがとね。これはあくまでも例えばの話だけど……
       どうしても大切な物を守るため、罪を犯さなきゃいけないって事になったら、クーはどうする?」

川 ゚ -゚)「…………守る物と犯す罪によるな、それは。どのくらいなんだ?」

ξ ゚听)ξ「そうね…………これはあるゲームの話なんだけどね、
       勇者が世界を救うために、ある宝石が必要になるのよ」

川 ゚ -゚)「ほうほう、続けてくれ」

ξ ゚听)ξ「でもその宝石の持ち主はそれを凄く大事にしていて、渡したくないわけよ。
       こんな時クーだったらどうする?」

川 ゚ -゚)「   そう かんけいないね
        ゆずってくれ たのむ!!
       ニア 殺してでも うばいとる」

ξ;゚听)ξ「な なにをいうのよ クー!」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:36:36.44 ID:eoZghA8M0

川 ゚ -゚)「……まあ冗談はともかく、世界がかかってるんだろ?
     その位の意気込みは必要だと思うがな」

ξ ゚听)ξ「そっか、そうだよね……」

川 ゚ -゚)「……それより私としては、なぜツンが急にそんな質問をしたか、その理由が気になるがな」

ξ;゚听)ξ「あっ……いや、ちょっと気になってね……」

川 ゚ -゚)「……フッ、まあ気にしないでおこう。ただツン、これだけは言わせてくれ」

ξ ゚听)ξ「ん、何?」

川 ゚ -゚)「何があったのかは聞かないが、あまり一人で色々と思い詰めるなよ。
     私やショボン、ドクオ、それにブーン……いつでも相談に乗れるからな」

ξ ゚ー゚)ξ「……わかってるわよ。このゴタゴタが終わったら、クーにも本当の事を話すからね」

いつ終わるかはわからないけど、絶対に終わらせてみせるわ。
……できれば笑い話にしたいんだけどね。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:40:25.65 ID:eoZghA8M0

川 ゚ -゚)「『にも』、か……まあその時を楽しみにしておくよ」

ξ;゚听)ξ「あっ……ご、ごめんね」

川 ゚ -゚)「気にするな、二人のラブラブっぷりを確認出来ただけ十分だ」

どうやらクーは私が話をした相手を、ドクオじゃなくブーンだと思ってる様で……って――

ξ;゚听)ξ「ちょっ! だからアイツとはただの幼馴染の腐れ縁で――」

川∩゚ -゚)「アーアー、耳が痛くて聞こえない」

ξ;゚听)ξ「いや、だから――」



窓の外では、今だに雨が降り続いている。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 21:42:16.07 ID:eoZghA8M0

     *     *     *

―― 15年前の12月18日 午前05時34分 ――

ライト一つの光源を頼りに、エニグマは黙々と瓦礫を取り除く。
慣れない力仕事に体は悲鳴をあげ、悪質な空気と脱出出来ない焦りにより気力が削がれる。
時々起こる余震に怯え、彼女の苛立ちと絶望感はピークを迎えようとしていた。

(;*‘ー‘)「あー、もう駄目ですワ。少し休むワ」

何度目かの休憩を取るため、フィレンクトがもたれ掛かっている壁の横に崩れ落ちるエニグマ。
フィレンクトも手伝いたいと本心では思うのだが、右腕の痛みがそれを許してはくれない。
彼は肩で息をしているエニグマを横目で見ながら、先ほどから抱いていた疑問を口にした。

(‘_L’)「……なぜあなたは怪盗などになったのですか?」

(*‘ー‘)「そんなの簡単ですワ、お金の為ですワ」

(;‘_L’)「そ、そうですか……」

薄々予想していたとはいえ、あまりにも俗な答えに呆れるフィレンクト。
しかしその後の話を聞くうちに、段々とその考えは変わってくる。

(*‘ー‘)「私には小さな子供がいるワ。去年生まれたばかりで……とても可愛い子だワ」

(‘_L’)「……お金が必要なのはそのためですか? なら尚更真っ当な仕事に就けば――」

(*‘ー‘)「私には男を見る目がありませんでしたワ。夫は莫大な借金を作って、すぐに逃げ出して……」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[猿です] 投稿日:2009/11/12(木) 22:01:09.43 ID:eoZghA8M0

(‘_L’)「……だからと言って、犯罪に手を染めなくてもいいではないですか。
     正直あなたほどの腕があれば、どんな職業だって――」

(*‘−‘)「……はぁっ、貴方は何も解ってませんワ」

(‘_L’)「な、何がですか……?」


(*‘ー‘)「怪盗という名……それにはロマンがいっぱい詰まってますワ!
     盗むべき品物を吟味し、華麗に正々堂々と盗み出す……素晴らしいと思うワ」


(‘_L’)「……どんなに取り繕っても、所詮は窃盗ですけどね」

彼は心の中で前言を撤回した。

(*‘ー‘)「……まあともかく、この仕事も潮時ですワ」

(;‘_L’)「えっ、なっ、何でですか!?」

(*‘ー‘)「今回ので、自分に自信が無くなりましたワ。
      ……あなたとの勝負も今日で終わりですワネ」

(‘_L’)「そうですか……まあ今日であなたは逮捕されますからね」

(*‘ー‘)「……こちらもみすみす捕まる気はありませんワ。
     まあ最も、無事に脱出出来ればの話だワネ……」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:03:12.46 ID:eoZghA8M0

(‘_L’)「……いいえ、絶対生きてここから出ます。
    あなたには正当な罪を償わせなければいけませんからね」

(*‘ー‘)「はあっ……そこまで職務に忠実なのは素敵ですワ。
     ……そういえばまだお名前を聞いてませんでしたワネ」

(‘_L’)「……鴨葱フィレンクトと言います。ちなみにあなたは?」

(*‘ー‘)「…………『ネーワ』だワ。下の名前しか教えられナイワネ」

(‘_L’)「ネーワさんですか……やっぱり偽名ですか?」

(*‘ー‘)「……フィレンクトさんがどう考えるかは自由だワ」

(‘_L’)「まあ私も本名とは言ってませんがね……」

どちらかの口元から笑いがこぼれ、それに釣られる様にもう片方も笑い出す。
二人の間にはいつしか、刑事と怪盗という仲を越えた新しい空気が流れ始めていた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:06:13.45 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

(*‘ー‘)「ふぅ、向こう側が見えましたワネ……」

(‘_L’)「ほっ、本当ですか!?」

時折フィレンクトと会話を交えながら黙々と瓦礫を取り除いていたエニグマ。
数時間は続いたその作業の末、ようやく希望の光が見えてきた。

(*‘ー‘)「あら、私は詐欺師にはなった覚えはありませんワ」

(‘_L’)「そ、そうですか……ともかくもう一息ですね!」

(*‘ー‘)「ええ、全くですワネ……」

エニグマの表情に一瞬黒い影が走るが、背中を向けられているフィレンクトは当然気付かない。

……やがて瓦礫の壁の上部には、人一人がやっと通れるほどの隙間が出来上がった。

(‘_L’)「……さて、あなたはこれからどうする気ですか?」

(*‘ー‘)「ここから出るに決まってるワ。 ……心配しなくても貴方を見殺しにはしませんワ」

(‘_L’)「あなたがそんな事をする様には思えませんよ。
     それより出来れば罪を償って欲しかったのですが……
     ここから出た足で、そのまま行方を眩ます予定ですよね?」

(*‘ー‘)「あら、やっぱりわかっちゃった様だワ」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:09:07.30 ID:eoZghA8M0

(*‘ー‘)「……あなたとの決着、出来れば別の形で付けたかったワネ」

(‘_L’)「結局はまたあなたの勝ち逃げですか……」

(*‘ー‘)「いいえ、私の負けだワ。地震さえ無ければ、きっと今頃は暗い檻の中だワ」

(‘_L’)「……世の中には、IFの世界はありません。全ては結果です」

(*‘ー‘)「ふふっ、かっこつけちゃって……じゃあ、そろそろ私は行くワ」

(‘_L’)「……一人の警官としては、もう一度会いたいですがね」

(*‘ー‘)「それは個人的な意味でですワ?」

(‘_L’)「…………いや、次こそは逮捕するという意味です」

(*‘ー‘)「やれやれ、最後まで仕事熱心だワネ……」

エニグマは苦笑しながら、懐から何かを取り出す。

(*‘ー‘)「……穴を通る時傷つけると嫌ですから、あなたにこれを預けておくワ」

(;‘_L’)「こ、これは……『金色の流石像』ですか?」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:12:06.06 ID:eoZghA8M0

(*‘ー‘)「『ギリギリで逃げたけれど、肝心の宝は一人の刑事によって奪還された』
     ……その失敗を元に、エニグマはこの世から姿を消すワ」

(‘_L’)「………………」

(*‘ー‘)「あら? 何ですワ、その顔?」

(‘_L’)「……いえ、何でもありません」

(*‘ー‘)「ではフィレンクトさん、お元気でですワ」

唯一の光源であるライトを持ち、穴を潜り抜けていくエニグマ。
残されたフィレンクトは、暗闇の中で一人呟く。


( _L )「……試合に勝っても、勝負に負けたら意味が無いですよ」



  地震発生から11時間後、旧下水道から一人の刑事が救出された。
  その救出劇の陰には、匿名女性の一報があったという。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:15:28.20 ID:eoZghA8M0

     ◎     ◎     ◎

―― それから15年後 6月14日 20時13分 ――


「警視! 全職員の配置、無事に終了しました!」

( ゚д゚ )「……分かった。指示通り屋上にも配置したか?」

「はい! 十名ほど向かわせています!」

( ゚д゚ )「よし。建物が変わったとはいえ、前回の逃走ルートだからな!」


(‘_L’)「ご苦労様です、湖池警視。調子はどうですか?」

( ゚д゚ )「はっ、順調です! しかし鴨葱さんが直々に来られるとは……」

(‘_L’)「彼女とは色々因縁がありますからね……当然ですよ」

( ゚д゚ )「その話、是非じっくり聞かせてくださいよ。こないだのあの店ではどうです?」

(‘_L’)「私はあまり日本酒は好きでは無いのですが……まあ今は仕事に集中してください。
     いつどこから彼女が現れるか、誰にも解りません。常に警戒している様に」

( ゚д゚ )「了解、アリの子一匹通さない覚悟です!
     ところで鴨葱さん、少し聞きたいことがあるのですが……」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:18:16.19 ID:eoZghA8M0

(‘_L’)「……何ですか?」

( ゚д゚ )「鴨葱さんは、今回の人物をエニグマ本人だと思ってますか?」

(‘_L’)「…………そうですね、半々と言った所でしょうか。
    予告状の形式は、確かに過去の物とほとんど一致していましたが……」

( ゚д゚ )「しかし狙っている獲物が、この『緋色の三日月』ですからね……」

『緋色の三日月』は、赤色を帯びた水晶の塊である。
そこそこの大きさがあり、外見もそこそこには美しいのだが――

(‘_L’)「この美術館にはこれ以上に価値ある美術品も多くあります。
     何より近場にある他の美術館には、あの『金色の流石像』もあるというのに……」

過去のエニグマの犯行では、ある程度名の知られた価値あるものが狙われてきた。
わざわざこの様な物を狙う道理が思いつかない……それが二人が困惑している原因である。

( ゚д゚ )「まあともかく、他の高価な美術品にも警備の手は回してあります。
     どこから侵入しても、見事とっ捕まえてみせますよ!」

(‘_L’)「……期待していますよ」

若い刑事に励ましのエールを送ったフィレンクトは、窓の外を眺める。


窓の外は、相変わらずの雨。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:21:24.85 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

怪盗エニグマが出した予告の22時まで、あと数分ほどに迫っていた。
ピリピリとした空気がフロアの警察内に漂い、少しの声を上げる事さえ憚れる雰囲気である。
警官達は周りに目を配らせつつも、常に一時はある方向へと目を滑らせていた。

ちょうどフロアの中心、普段は最も注目すべき美術品が置かれているショーケース。
その台には今、拳ほどの大きさがある赤い水晶、『緋色の三日月』が設置されている。
本来は壁際の一端に展示されているのだが、今回の事により中央の目立つ位置へと移動されたのだ。

勿論宝石は厳重にチェックしてあり、本物である事は確認済み。
台座はおろか部屋全体を念入りに検査して、怪しい形跡なども見つかってない。
怪盗エニグマと警察との15年以来の舞台は、完全に警察が掌握していた。


そんなフロアを、別室から監視カメラで眺めている警視の姿がある。
彼の名前は湖池ミロヤ、今回の事件の担当警視であり、フィレンクトの腹心の部下でもある。
自分の恩師である人、その好敵手を相手に出来るとあり、彼の情熱は燃え上がっていた。


最も、そんな彼の目線をまともに受ける部下の心境はたまったものでは無いだろうが……

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:24:13.29 ID:eoZghA8M0


……最初にそれに気がついたのは、出入り口付近を警備していた警官だった。

「ん、あれは……?」


何気なく天井の方を見上げたその警官は、天井に設置された空調用の通気孔に目が止まる。
館内の空気を正常に保つためのそれ。そこに白い靄がかかっている様に見えた。
最初は錯覚かと思い、目を擦りながらそこを見直す。 ……しかしそれは間違いでは無かった。

やがて遠目でもはっきり分かる程度に、通気孔から白い煙が湧き出してきた。
視界を覆うほどの密度は無いが、異常事態であることは間違い無い。
その頃には彼以外にも数人ほどの人物が、その事に気付いて声を上げている。


最初に気がついた男は、空調の設備がある部屋へと駆け出そうとした。
この美術館内の地図を思い出し、最短距離を頭の中で弾き出す。
そして出口へと素早く右足を踏み出し ――激しい頭痛が彼を襲った。


―― 脳をナイフで抉られる様な激痛

―― まるで泥にでも足をついたかの様に歪む足元

―― 右半身に伝わる鈍い衝撃と、90゚傾いた視界


薄れゆく意識の中で最後に彼は、入り口に立つ黒いマスクを付けた人物を目にした。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:27:36.36 ID:eoZghA8M0
(;゚д゚ )「こ、これは……!」

警備室でモニターを見ていた湖池警視は、次々と室内の人間が倒れていく光景に驚愕する。
催眠性のガス、あるいは毒ガスだと彼は瞬時に推測するが、肝心の対策が思いつかない。
対エニグマとして様々な事を想定した彼だが、この事態は想定外だったようだ。

本部に応援を頼むため、無線機へと手を伸ばす湖池警視。
だが一つのモニターに動きを見つけ、彼の腕は止まった。


     (:::0:回:0)


倒れている警官の間を掻い潜り、入り口から悠々と歩いてくる人物。
顔にはおそらくガスを吸わないためであろう、妙なマスクで全体を覆っている。
手にしているのは身の丈半分はある、バールのようなもの。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:45:05.89 ID:eoZghA8M0
その人物は難なく中央の台座まで近づき、ショーケースのガラスへと手にしたものを振り落とした。
展示用であるガラスはあっさりと砕け散り、美術館内に警報が鳴り響く。
湖池警視はその光景を、ただ監視カメラで見ることしか出来ない。

(#゚д゚ )「……エニグマめ!」

歯軋りをしながら画面を睨みつける湖池警視、そんな彼に吉報が舞い込んできた。

「警視! 防毒マスクが三つほど見つかりました!」

( ゚д゚ )「なっ、用意があったのか!?」

「はいっ、持ってきた装備品の奥に眠っていたそうです」

( ゚д゚ )「よし! お前とそこの奴、一緒に行くぞっ!」

「「はっ!!」」

部下が持ってきたマスクを引っ掴み、装着しながら駆け出す湖池警視。
その背後のモニター内では、エニグマがガラスケース内に何かの細工をする姿が映し出されていた。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:48:16.15 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

(■回■)「動くなっ! 両手をゆっくりと上げるんだ!」

ゆったりとした動きで展示室から出てきたエニグマ。
それを入り口で待っていたのは、突きつけられた三つの銃口だった。

(:::0:回:0)「…………」

エニグマは足を止め、自然な動きで両手を上げた。 ……右腕に何かを握ったまま。

(#■回■)「右手の物を床に置け! ゆっくりだ!」

銃を突きつけられても、どこか平然としている様に見えるエニグマ。
そしてエニグマは、手元にあったものを刑事達に見せ付けるように手を広げた。

携帯電話ほどの大きさを持つ、黒いプラスチックの箱。
右上の方には赤いボタンが自己主張していて、左上にはアンテナが伸びている。

……おそらくほとんどの人間は、それを『スイッチ』と表現するだろう。


(:::0:回:0)「…………」

マスクを付けているので見えないはずだが、何故か刑事達はエニグマの表情が理解できた。
覆面の下に浮かべたその顔は、余裕を持った微笑。

エニグマの右手親指がピンと伸び、ゆっくりボタンへと動いていく。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:51:22.57 ID:eoZghA8M0

(■回■)「くっ……!!」

その動きを見て、湖池警視は手にした銃の引き金を絞る。
狙いは胴体の中央。二人の間からして、まず外さない距離。

(:::0:回:0)「…………」

(;■回■)「なっ……!!」

しかし、それがエニグマに当たる事は無かった。
体の手前数センチで、弾丸はあさっての方向へと弾かれる。
まるで透明な壁でもあるかのような、不可思議な出来事。


……そして、刑事達がそれについて考えを巡らせる暇は無かった。

エニグマの持つスイッチが押された途端、天井から降り注いで来るものがある。
その正体は、どこに隠していたのか疑いたくなるほどの量のトランプの札。
白と青のカードの中に赤と黒の模様が入り乱れる洪水の中で、湖池警視は異音を聞いた。

何かが軽く爆ぜる様な響き、苦痛を上げる声、人が倒れる音……それが二度ほど続く。
異音の発信源を探そうとしている警視は、正面のトランプの雨から気配を感じ、とっさに左腕を突き出した。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 22:54:30.91 ID:eoZghA8M0

(;■回■)「っ!!」

手の甲に棒状の何かが当たり、反射的にそれを掴み取った湖池警視。
やがて降り注ぐカードが少なくなり、正面に立つ人物の顔がはっきりと見えた。

(:::0:回:0)「…………」

(■回■)「エニグマかっ!」

右腕に握った銃を相手の鼻先へと突きつけようとした湖池警視。
だが、彼は気がついてしまった。自分が今、左手に握っているものを。

彼が握っているそれは、警棒に形が似ている銀色の棒。
握っている主は、正面に立つエニグマ。
そして握り手の部分には、警棒には必要がないはずのスイッチが備わっている。

慌てて手を離そうとする警視、だが向こうの方が一寸ほど行動が早かった。


スイッチが押されると同時、棒の先から走った紫電が警視を襲う。
声にならない声をあげ、その場に崩れ落ちる警視。
改造されたスタンガンの威力は、大の大人一人を昏倒させるには充分な威力だった。


他の人間がいない事を確認したエニグマは、屋上に続く階段へと向かった。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:00:57.51 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

屋上へと続く非常階段、それを上がりながらエニグマは脱出経路を再確認する。
まずは屋上に着くと同時、予め仕掛けていたスモークを炊き、その間にスタンガンで制圧。
後は屋上手前の倉庫に隠したパラグライダーを使って、今北戸湖の方へと逃げれば――


そこまで考えた時、上階から足音が響いてきた。

その音の間隔に疑問を持ち、エニグマは足を止める。
屋上の警官達が降りてきたならば、少なくとも二人以上の足音が響いてくるはず。
しかしどう聞いても足音は一人、しかも間隔はゆっくりとだ。


エニグマは上方にある階段の踊り場を見据え、手に持ったスタンガンを握り締める。
……やがて、階上からの足音が踊り場を曲がり、一人の人物が顔を出した。


(‘_L’)「久しぶり……というべきなのでしょうか?」


右腕が無いその人物は、左手に持った銃をエニグマに向けながら言葉を続ける。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:03:13.70 ID:eoZghA8M0

(‘_L’)「しかし、あなたも大胆な手を使うようになりましたね。
     ……それともやはり、彼女の名を騙る模倣犯なのですか?」

(:::0:回:0)「…………」

(‘_L’)「……この15年間、あなたの事を探し続けましたよ。
     それはもう、あなたが言うようにストーカーじみているほどにですね」

(:::0:回:0)「…………」

(‘_L’)「……やれやれ、顔ぐらいは見せていただけませんか?」

(:::0:回:0)「…………フフッ。そうか、お前がフィレンクトなのかーヨ」


エニグマが初めての反応を見せ、フィレンクトは警戒心を強くする。
彼の記憶にある声とは明らかに違う声……なのに自分の名前を知っていた。
動揺するフィレンクトの前で、エニグマはゆっくりとマスクに手をかける。そして――


( ´ー`)「はじめまして、だーヨ」


マスクの下から出た顔は、まだ幼さを残す少年のものだった。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:06:12.95 ID:eoZghA8M0

(;‘_L’)「あ、あなたは一体……?」

( ´ー`)「……15年前にお前と戦い、そしてこの世から姿を消したエニグマ。
      その正当な後継者……といった所だーヨ」

(;‘_L’)「後継者……馬鹿な、彼女がそんな――」

そこまで言った時、フィレンクトはある事に気がついた。
彼女とどことなく似た雰囲気、そして顔立ちを持つ少年。
……そして15年前に聞いた彼女のある言葉を。


  (*‘ー‘)『私には小さな子供がいるワ。去年生まれたばかりで……とても可愛い子だワ』


(‘_L’)「まさか……彼女の息子、なのですか……?」

( ´ー`)「……ご名答だーヨ」

( _L )「そうですか、彼女は……」

フィレンクトに生まれた感情、それは失望だった。
自らの息子に犯罪術を叩き込み、それを実行に移させた事は、彼にとって到底許せるものではない。
暗い気持ちを押し隠し、フィレンクトはエニグマへと問いかける。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:09:11.88 ID:eoZghA8M0

(‘_L’)「なぜあなたはこんな事を……」

( ´ー`)「……あの女に見せ付けてやるためだーヨ」

(‘_L’)「……女?」

( ´ー`)「決まってるーヨ。俺の母親の事だーヨ」

(‘_L’)「…………母親、つまりはエニグマですか」

(#´ー`)「自分の過去の自慢ばっかして! 俺には何も教えてくれなくて!」

(‘_L’) (教えてくれない、という事は……)

(#´ー`)「些細な手品なんかより、俺はこんな事がしたかったんだーヨ!!」

目の前の少年の憤りを聞き、フィレンクトはある事を確信する。

(‘_L’)「今回の事は、もしやあなた一人で……」

(#´ー`)「当然だーヨ! 俺一人でもやれるって事、証明するんだーヨ!」

(‘_L’)「やれやれ、そうですか……」

フィレンクトは構えた銃を握りなおす。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:12:13.27 ID:eoZghA8M0

(‘_L’)「残念ですが……あなたの思い通りにはさせません。
     少々痛い目を見て、反省してもらいますよ!」

彼が向ける銃口の先、それはエニグマの左足。
利き腕でないとはいえ、この15年間訓練は重ねている。

(‘_L’)「これでっ……!」

彼はためらう事をせず、引き金を二回引く。
放たれた銃弾は少年の左足へと向かい――

(;‘_L’)「なっ……」

左足の寸前、何も無いはずの空間で、壁に弾かれたかの様に方向を変えた。
驚愕の表情を浮かべるフィレンクト。その隙を突き、エニグマは一気に階段を駆け上がる。

( ´ー`)「悪いけど、これでさよならだーヨ!」

フィレンクトの目前まで迫ったエニグマは、持っている改造スタンガンを胸に向けて突き出す。
衣服の一枚や二枚程度では防げない電圧を持つ警棒。後ろに下がってかわせる距離でもない。
エニグマは勝利を確信し、接触する寸前にスイッチを握りこむ。だが――

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:15:21.89 ID:eoZghA8M0

(; ´ー`)「っ……!」

響き渡る銃声と共に、エニグマの持つスタンガンが弾き飛ばされる。
警棒に触れる事は危険だと判断したフィレンクトの、ほぼゼロ距離での警棒への射撃。
想定外での防御方法に動揺するエニグマ、そして今度は逆に虚を突かれる事になる。


(‘_L’)「どんな手品かは知りませんが――」

エニグマの右肩へと銃口を押し付けるフィレンクト。
少しでも動きを見せた場合、彼は躊躇せずに引き金にかけた指を動かすだろう。

(‘_L’)「この距離なら避けられないですよね」

(; ´ー`)「…………チッ」

両者の動きが止まり、空白の時間が幾ばくか流れる。


(‘_L’)「…………」

( ´ー`)「…………」



……最初にその均衡を破ったのは、エニグマの嘲笑だった。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:18:13.12 ID:eoZghA8M0

( ´ー`)「フフッ、フハハハッ……」

(‘_L’)「……何が可笑しいのですか?」

( ´ー`)「いーやいや、ちょっと笑いたくなっただけだーヨ」

(‘_L’)「……馬鹿にするのもいい加減に――」

( ´ー`)「フィレンクト、何でお前が母親に負けたか解るかーヨ?」

(‘_L’)「あなたには解るとでも言いたいのですか……」

エニグマはフィレンクトの目を見据え、突き放す様に声を絞り出す。

( ´ー`)「負けた原因は……お前の心の甘さだーヨ!」

言葉とほぼ同時、体を沈めつつ右腕を思い切り跳ね上げるエニグマ。
フィレンクトの拳銃は否応無しに撃たれるが、そこには何も無い空間があるだけだ。

(;‘_L’)「くっ!」

慌てて第二射を撃とうとするフィレンクト。
……だが彼に残された時間は無かった。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:22:16.69 ID:eoZghA8M0

彼の腹部へと突き刺さる衝撃、そして身体中を駆け巡る電流。

( _L )「…………ッ!!」

( ´ー`)「……やれるうちにやるべき、なんだーヨ」

どこから取り出したか、新たなスタンガンを手にしているエニグマ。
彼は先ほど飛ばされた方のスタンガンを拾いながら、言葉を続けていく。

( ´ー`)「全く、こんなのが母さんのライバルだったとは思えネーヨ」

エニグマは倒れた彼の体を調べて、無線機を取り出す。
軽くスイッチを入れてまだ生きている事を確認した後、上階へと目を移した。


フィレンクトの倒れた姿を後にして、エニグマは階段を上る。
残されたのは、苦悶の表情を浮かべる男一人。



やがて、彼の元に一人の人物が立った。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:24:22.58 ID:eoZghA8M0

     ○     ○     ○

( ´ー`) (ようやくここまで来れたーヨ……)

階段を上りきり、屋上へと繋がる扉の前に立つエニグマ。
脱出用のパラグライダーは既に用意してあり、扉の横へと置かれている。

( ´ー`) (あとはあいつに会って、これを渡せば……)

懐に隠している宝石を取り出し、灯りの下でじっくりと見るエニグマ。
見た目といい質感といい、やや珍しい色をした水晶にしか見えない。

( ´ー`) (こんなもんに世界を変える力なんてあるとは思えネーヨ。まあともかく……)

雑念を捨て、目の前の扉を見直すエニグマ。
手元にある、スモークを作動させる為のスイッチを握り絞める。
彼はドアノブに手をかけ、一気に解き放つ。


そして彼の目に飛び込んできた光景は、慌てふためく警官達でも、待ち構えた銃口でも無かった。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/12(木) 23:27:22.24 ID:eoZghA8M0


屋上の真ん中に一人立つ人物、そして壁際に並んで倒れている警官達。
呆然としているエニグマの前で、その人物は口を開いた。


ξ ゚听)ξ「ようやく来たわね。待ちくたびれたわよ」


やたらヒラヒラした服を身につけた少女は、持っていたステッキを突きつける。
それと時を同じくして、彼女の周りで桜の花弁にも似た光が舞い踊った。



雨は止み、雲の隙間から月が顔を覗かせる。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[はいはいサルサル] 投稿日:2009/11/13(金) 00:00:32.12 ID:4RUlzR0H0

     □     □     □

怪盗エニグマの予告時間の少し前、私は屋上へと繋がる扉の影にいた。
予告時間が迫ってきたせいか、屋上では慌しく警官達が動いている。
その中に、冷静に指揮を取る一人の人物が見えた。

(‘_L’)「いいですか、かならず二人で行動するんですよ!」

ξ ゚听)ξ (……鴨葱さん、ごめんなさい)

とりあえず心の中で懺悔をしておく。
私が今からする事は、真っ向から警察に喧嘩を売る事。
いくらバレないとはいえ、心が痛むわね……

./・ω・ ヽ「ツン、下の階で動きがあったようだぽ」

私の肩に乗っているぽの言葉によって現実に連れ戻される私。

ξ ゚听)ξ「ん、わかってるわ」

美術館全体には、私の魔法である『霧桜』を張り巡らせてある。
とても薄い魔力を広域に拡散させて、レーダーのように使う技。
初めて使う呪文だけど、ばっちり展示室の人の動きが読めた。

ξ ‐凵])ξ(人がどんどん倒れていく……でも眠らされているだけみたいね)

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:04:53.82 ID:4RUlzR0H0

下の騒ぎに気がついたのか、警官内でも騒動が起きている。

(‘_L’)「うろたえないでください! それより奴は必ずここに来ます!」

確かに美術館の周りはぐるりと囲まれているし、今までの逃走経路は空からが多いらしい。
でも何であそこまで断言出来るのかしら……?

(‘_L’)「しかし館内でガスを使うとは……」

何かを考え込むような様子を見せる鴨葱さん。
その後部下らしき人と何かを話した後、拳銃を片手に階段へと向かった。

ξ ゚听)ξ (いなくなったって事は……チャンスかもね)

下の階では宝石を持った人物が、警備室から動いた三人を倒したであろう所。
屋上に繋がる階段へとその人は移動しているようだし……

ξ ゚听)ξ「やってやる、やってやるわよ……!」

./・ω・;ヽ「意気込みすぎだぽ……」

屋上にいる人数は全部で11名。これなら……

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:07:02.30 ID:4RUlzR0H0

まずは身にまとった『桜隠れ』を解除する。そして――

「なっ、女の子……?」

「いつの間に……まさかエニグマの関係者かっ!?」

ξ ゚听)ξ「『桜霧雨』ッ!」

睡眠効果を乗せた霧桜を一気に展開。ガスを吸った警官達はあっさりと倒れていく。
こうして屋上の制圧はあっけなく終わった。

ξ ゚听)ξ「さてと、後は片隅に寄せて……」

倒れた警官達をズルズルと引き、屋上の片隅に並べていく。
その間にも霧桜のチェックは忘れない。

ξ ゚听)ξ (鴨葱さんが接触したみたいね……このままエニグマが捕まらなきゃいいけど)

まあエニグマが階段を上がってきているのは確定なので、後は彼女の活躍を祈るだけね。
……本当は鴨葱さんを応援したいんだけど、朝の話を聞いてしまったらね――

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:09:12.34 ID:4RUlzR0H0

     ○     ○     ○

話は今朝、テレビを見ていたら急にぽが騒ぎ出した所まで遡る。

ξ ゚听)ξ「計画って……古代神の事?」

./・ω・;ヽ「そうだぽ。全くの盲点だったぽ……」

ξ ゚听)ξ「……私に分かるように説明してくれない?」

./・ω・ ヽ「勿論だぽ。超科学の時代、古代神が暴れて文明崩壊の原因になった事は話したぽ?
      その時、古代神を封印するのに使われた物があるぽ」

ξ ゚听)ξ「……まさか、それがさっきテレビに映っていた宝石?」

./・ω・ ヽ「そうだぽ、正確にはその一部だぽ」

そしてその封印についてのぽの話が始まる。


古代神の力を恐れた人々が、封印するために全力を挙げた事。
膨大な魔力を溜めることが出来る水晶を二つ作り上げた事。
その水晶の力によって、古代神は無事に封印された事。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:12:13.57 ID:4RUlzR0H0
./・ω・ ヽ「でもその強すぎた水晶の力を求めて、新たな争いが起きてしまったんだぽ」

その戦争によって、古代文明はほとんど絶滅寸前まで疲弊してしまったらしい。
そしてこの争いを止めるため、水晶を作った人達が起こした事とは――

./・ω・ ヽ「それが、『水晶の分割』だぽ」

二つの水晶を三つずつに分割し、六人の人達がそれぞれを持ち亡命をした。
水晶は欠片の状態でも相当の力があり、その力によって無事に逃亡が出来たらしい。

./・ω・ ヽ「そして水晶の恩恵が無くなった超科学文明は、そのまま滅亡への道を歩むぽ」


ξ ゚听)ξ「……ちょっといいかしら? ぽの話だと、とても重要なアイテムに聞こえるんだけど」

./・ω・ ヽ「うん、多分封印を解くには絶対必要だぽ」

ξ#゚ー゚)ξ「じゃあ何で今までその話をしてくれなかったのかしら!?」

./・ω・;>「わ、忘れていたんだぽ、悪かったぽ! だから摘まないでぽ!」

ξ ゚听)ξ「…………まったく」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:15:15.90 ID:4RUlzR0H0

./‐ω‐;ヽ「……まあぽとしても、向こうが既に手に入れてるものだと思っていたぽ」

ξ ゚听)ξ「……って、そんな物を持った相手と戦わせようとしてたの?」

./・ω・;>「いや、ツンなら出来ると思ったぽ。だから摘まないでぽ!」

ξ ゚听)ξ「……ともかく、黙ってエニグマに渡したら良くないって事よね?」

./・ω・ ヽ「そうだぽ。出来ればこっちが手に入れるのがいいぽ」

ξ ゚听)ξ「…………怪盗の真似事か」


     ○     ○     ○

./・ω・ ヽ「ツン。もうすぐ来る様だぽ」

ξ;゚听)ξ「……わっ、わかってるわよ」

ぽの言葉により、慌てて感覚を階下へと集中させる。
鴨葱さんは倒されている様で、エニグマらしき人物は既に屋上手前まで来ていた。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:18:14.15 ID:4RUlzR0H0

倉庫の方へと入っていった後、何かの箱を抱えて戻ってくるその人物。
屋上への扉の横にその箱を置いた人物は、ドアノブに手をかける。
それと同時(当たり前だけど)、屋上のドアが開き、一人の人物が出てくる。

燕尾服を身にまとい、悠々と歩いてくるその人物。
逆光で顔は見えないけど、背丈はそこまで高い方じゃない。
手に持った棒みたいなのは、やはり武器なのかしら?

その人は少し歩いた後、屋上の光景に驚いて足を止める。
……まあ警官達が倒れていて私が中央に立ってるから、驚くのは当たり前かもね。
ついでに宣戦布告するために、私は杖を突きつけながら話しかけた。

ξ ゚听)ξ「ようやく来たわね。待ちくたびれたわよ」

……向こうは驚いて言葉も出ないようね。まあ私が向こうの立場だった場合、多分同じ反応になる。
まあとにかく、さっさと終わらせちゃいますかね。


ξ ゚听)ξ「苦労した所で悪いんだけど、あなたのその水晶――」

「……まさか、津出なのかーヨ!?」


ξ;゚听)ξ「ふえっ!?」

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:22:32.63 ID:4RUlzR0H0

エニグマが一歩踏み出し、外灯の下に顔が映し出される。

(; ´ー`)「何でこんな所にいるんだーヨ? その格好もどうかと思うーヨ……」

ξ;゚听)ξ「し、白根ネーヨ君……!?」

なんでよ? そもそもエニグマはいい年をした女性じゃなかったの!?

( ´ー`)「しかし水晶が目的って事は…………そうか、そうなのかーヨ……」

ξ;゚听)ξ「とっ、ともかく少しの間眠ってもらうわよ! 『桜霧雨』ッ!」

こうなったら有無を言わさず先制攻撃!

(; ´ー`)「な、何だーヨ、このピンクの霧みたいなのは……」

ξ;゚听)ξ「えっ、効いてない…!?」

./・ω・;ヽ「ツン、相手の首元を見るぽ!」

ネーヨの首にかけられている黒いペンダント。
そこから黒い光が出て、妨害されているみたい。、
……って事はもしかしなくても、この件には魔法が関っているみたいね。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:25:10.26 ID:4RUlzR0H0
( ´ー`)「……どうやら全力で相手をしなくちゃ駄目な様だーヨ」

手にした棒を握り締めながら、こっちへと向かってくるネーヨ。
相手の実力が解ってない以上……

ξ ゚听)ξ「望む所よ、怪我しても恨まないでね! 『桜玉』ッ!」

杖の先に宿った光球を相手にぶつける、私の基礎的な呪文。
こちらに向かってくるネーヨへと、全力で振り投げる。

(; ´ー`)「うおおっ、これはヤバいーヨ!」

彼の首元にかけられたペンダントが怪しく輝く。
するとネーヨの寸前で、光球はバラバラになって四散した。

ξ;゚听)ξ「(ヤバいって割には、簡単に防いでくれるじゃない……)
       じゃあこれならどう!? 『乱れ桜』、いきなさい!」

私の周りに生まれた桜色の結晶体が、次々とネーヨへと向かって行く。
しかし先ほどと同じく、寸前であらぬ方向へと飛ばされていく結晶達。
その間にも、彼はこちらに向けて近づいてくる。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 00:27:10.37 ID:4RUlzR0H0

     *     *     *

( ´ー`)「流石だーヨ、このペンダントの力……無理矢理押し付けられた甲斐はあったーヨ!」

ツンまでの距離をかなり縮めたネーヨは、手にしたスイッチを操作する。
すると床から白煙が噴き出し、屋上全体を覆い隠した。
先ほど展示室で使用したのとは違い、純粋な目くらましの為に用意されたそれは、見事に役目を果した。


ξ;゚听)ξ「ど、どこから……」

( ´ー`)「もらったーヨ!」

ツンの右側から声が響き、煙の中からネーヨが飛び出す。
目前まで迫っていた、突き出された棒を咄嗟に掴み取るツン。

ξ;゚听)ξ「……あ、危なかったー」

( ´ー`)「……悪いけど、もう終わってるんだーヨ」

その言葉に疑問を持つ間も無く、ツンの全身を痛みが襲う。
出力を最大まで高めたスタンガンの一撃、ネーヨは勝利を確信した。だが――


ξ; )ξ「ま、負けて……」

(; ´ー`)「なっ、まだ意識が!?」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:01:30.60 ID:4RUlzR0H0

ξ#゚听)ξ「たまるかああぁぁっっ!!」

ツンのステッキが一閃し、スタンガンを切り飛ばした。
真っ二つになったそれを呆然と見ていたネーヨ。
彼は切り返してきたステッキの一撃を、寸での所でかわす。

(; ´ー`)「ひ、非常識過ぎるーヨ!」

慌てて距離を取り、予備のスタンガンを取り出すネーヨ。
……だが彼女は待ってはくれなかった。

ξ ゚听)ξ「喰らえっ! 『狂い咲き』っ!」

ツンの言葉と同時、ネーヨの手元にあるスタンガンが突如爆発し、四散する。

(; ´ー`)「ちょっ、バリアを突破するなんてネーヨ!」

ξ ゚听)ξ「ちっ、体には当たらなかったか……」

(; ´ー`) (こ、怖いーヨ……)

二人の間に何があろうとも、それを無視して発動できる魔法、『狂い咲き』。
空間を裂いての攻撃により、ネーヨのバリアを突破したツン。

ξ ゚听)ξ (しかしさっきの呪文、かなり魔力を喰うわね。
        今度使う時は気をつけなきゃ……)

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:04:14.68 ID:4RUlzR0H0

     □     □     □

(; ´ー`)「はあっ、はあっ……」

ξ ゚听)ξ「早くそれを渡してもらえない? 苦しまずに寝かせてあげるから」

(; ´ー`)「普通に断るーヨ。ってか気絶限定かーヨ……」

ξ ゚听)ξ「あっそう。じゃあ苦しんで寝るといいわ!」

./・ω・;ヽ「ツン、さっきからセリフが悪役じみてるぽ……」

……ごめん、私もちょっと思ってた。ともかく――

ξ ゚听)ξ「『桜重ね』!」

念のために私の全方位にシールドを発生。
そして一気にネーヨに向けて突っ込む!

(; ´ー`)「くっ……!」

ξ ゚听)ξ「これで終わりよっ! 『桜裂き』っ!」

彼の元まで走りよって、一気に魔法を展開。
ステッキの先から伸びた魔力体、それがネーヨの体を貫いた。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:06:41.60 ID:4RUlzR0H0

ネーヨは苦悶の表情を浮かべ、その場へと崩れ落ちる。

ξ ゚ー゚)ξ「ふっ、ざっとこんなものね!」

正直ネーヨがなぜエニグマの真似事をやっていたとか、色々気になる所はあるけど……

./・ω・ ヽ「ツン、さっさと宝石を回収してこの場を立ち去るぽ」

ξ ゚听)ξ「ん、わかったわよ。目覚めが悪いし、こいつも連れていこうかしら……」

既に館内は蜂の巣を突いたような騒ぎになっている。
一応私の魔法で、屋上に人が寄り付かないようにはしてあるけどね。

ともかくネーヨの服を漁り、赤の水晶を探す。
上着にはそれらしきものは見当たらないわね……

ξ ゚听)ξ「(とりあえず物騒なペンダントは回収してと……)
       あとはズボンのほうかしらね?」

とりあえず右ポケットに手を差し込んでみる。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:09:12.79 ID:4RUlzR0H0

指先に、何か硬い物が当たる感触が伝わった。
次の瞬間、身体中が沸き立つような感覚が襲ってくる。

ξ;゚听)ξ「こ、これって……」

初めてぽに会った日に味わった感覚にも似た、膨大な何か。
でもその時とは違って、嫌な感じは全くしない。
とにかく、これをポケットから取り出さないと――



./・ω・;ヽ「……ッ!! ツン!!」



  ポケットへと伸ばした私の右腕に、黒い短剣が生えていた。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:12:27.38 ID:4RUlzR0H0

最初に感じたのは、何でこんな物が右腕にあるのかという疑問。
次に感じたのは、いつの間にか屋上の片隅にある、猛烈な違和感。
そして――

ξ  )ξ「……ッ! つあっ……!!」

短剣が刺さった所から、じわじわと上がってくる激痛。
反射的な行動で、柄に手をかけて抜き取る。

不思議な事に、抜き取った後には傷の一片、血の一滴もついていない。
しかし今だに残った痛みと左手にある短剣が、先ほどの事は事実だと語ってくれる。

私は短剣を放り投げて立ち上がり、屋上の片隅を睨みつけた。


     ( [E/▽)


そこにいたのは、奇妙な格好をした人物。多分体型から見て男だろう。
顔を妙な仮面ですっぽりと覆い隠し、肩から垂れたマントで全身を覆っている。
そしてその人物が妙な所は、格好だけではない。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:15:22.51 ID:4RUlzR0H0

全身を覆う、見たことが無いほどの量と威圧感を持った魔力。
はっきり言って、さっきまで気がつかなかったのが不思議でならない。


……間違いない、この人物は私の倒すべき敵だ。


( [E/▽)「初対面のプレゼントはどうだったかい? プラナス・チェリー君……」

変声機でも使っているのか、妙な声で話しかけてくる仮面の人物。

ξ;゚ー゚)ξ「センス無さ過ぎよ。物も、言葉遊びも……」

( [E/▽)「おやおや、つれないね……」

……表面では強がってみたけど、まだ右腕はじわじわと痛んでいる。
そして目の前の仮面だけど、身に纏う魔力の質が全くつかめない。
穏やかな空気を出したかと思えば、毒々しい雰囲気を醸し出したりもしている。

( [E/▽)「正直君程度の存在では、僕の計画には支障が無かったんだがね……
       流石にそれを奪われたら計画は狂ってしまうよ」

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:18:20.00 ID:4RUlzR0H0

ξ ゚听)ξ「……それはフラグと受け取ってもいいかしら?」

( [E/▽)「フラグ……何だい、それ?」

ξ ゚听)ξ「さてね。ともかく……」

よし、こっそり発動しておいた回復魔法の効果はバッチリね。
とりあえず腕の痛みは無くなったから――

ξ#゚听)ξ「アンタを倒してから、色々聞かせてもらうわよ! 『乱れ桜』ッ!」

( [E/▽)「君がそんな行動を取るなら……僕にも考えがあるよ」

名前の通りに乱れ飛ぶ、桜色の結晶体。
先ほどより多く魔力を練りこんだ分、速度もパワーも、勿論結晶の数も上がっている。

そんな結晶の嵐を目の前にして、仮面の人は腰につけた剣を抜いた。
細身で黒い両刃を持つそれを目の前に構え、横薙ぎに一閃する。


たったそれだけの動作で、全ての結晶に亀裂が入り、砕け散った。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:21:08.10 ID:4RUlzR0H0

ξ;゚听)ξ「嘘っ……! 『桜玉』!」

( [E/▽)「やれやれ、無駄だっていうのに……」

やはり先ほどと同じように、相手は軽く剣を降る。
向かっていた光球は二つに分かれ、左右の地面で爆発を起こした。

ξ;゚听)ξ (強いとかそういうレベルじゃないわね……)

仮面の人物が魔力を使っているのは解るけど、何をしてるか全く読めない。
このままちまちまと攻撃を続けてもジリ損だろうし、ここは……

ξ ゚听)ξ「一気に沈めるわよっ! 『桜旋風』!」

私の周りを囲むように形成される、魔力の渦による壁。
本来は接近戦を仕掛けた相手に対するカウンターなんだけど……

( [E/▽)「へえ、中々の魔力だね……」

相手の視界から私の姿を隠すのが真の目的。
かなり魔力を消費するけど、今からの一撃に賭けるしかないわね……

ξ ゚听)ξ「『桜小舞い』、それに――」

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:24:44.17 ID:4RUlzR0H0

     *     *     *

仮面の男の目の前にある、衰えを見せない桜色の竜巻。その中から飛び出す影がある。
その正体は、ステッキを前にして突撃をかける、全身を桜色で染めた少女。

ξ#゚听)ξ「はああああああぁっっ!!」

( [E/▽)「なるほど、そう来たか。だけど――」

男は手持ちの剣を横向きに構えて、何かを呟く。
その言葉に誘われるように、男の左右の宙へと生まれ出る物があった。

正体は、先ほどツンに刺さった物と同じ、黒色の短剣。
それが八つほど顕現し、放射状に広がる。
刃を向ける先は、こちらへと向かう桜色の少女。

( [E/▽)「その行動は、あまりに稚拙だよ」

男が剣を振り下ろした時、一斉に短剣がツンに向けて飛んでいく。
彼女が防御する間もなく、全身へと短剣が突き刺さり――

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 01:27:10.61 ID:4RUlzR0H0

( [E/▽)「なっ!?」

ツンの体が桜色の粒子となり、散っていく。
魔力によって作られた偽者、以前にツンがくるうと戦った時にも使った技だ。

粒子が薄れてきて内部が確認できる竜巻、その中はもぬけの殻。
慌てて左右を見渡す仮面の男だが、ツンの姿を見つける事は出来ない。
しかし確かに自分へと向けられた殺気が迫っていて……


ξ#゚听)ξ「たりゃぁぁぁあああっ!!」

( [E/▽)「……っ! 上か!」

瞬間的に手持ちの剣で防御を取る仮面の男。
ツンは即座に一歩引き、反撃を避ける。

ξ ゚听)ξ「くっ!!」

( [E/▽)「……ちっ、やってくれるね」

ツンの上方からの奇襲は、致命傷を与える事は出来なかったが――

( [E/▽)「アンティークとしては、結構気に入ってたんだけど……」

男の持つ武器、黒い剣を両断する事に成功した。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:01:56.93 ID:4RUlzR0H0

ξ ゚听)ξ (相手の魔力の質、少しは見えたわね……)

空間操作に具現化、ツンは魔力の性質をそう判断する。
つまりツンが取るべき行動は……

ξ ゚听)ξ (隙をついてのヒット&ラン、もしくは大技による一撃必殺。
         でも魔力の残りが……)

美術館への侵入、潜伏に加え、ネーヨとの戦いでもかなりの魔力を消費している。
そこに先ほどの連撃。今のツンの魔力は、全快時の半分ほどにまで落ち込んでいた。

ξ ゚听)ξ (多分相手の実力は私の少し上ぐらい。何か上手い手段を使えば――)

ツンは様々な考えを巡らせるが、決定的な方法が出てこない。


――そして事態は、ツンに取って最悪の方向へと向かう。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:04:17.28 ID:4RUlzR0H0

( [E/▽)「やれやれ、こんな興ざめな事は避けたかったんだけどね……」

男が服の内側に手をいれ、何か光る物を取り出す。
それを見た瞬間、狼狽した声を上げる者があった。

./・ω・;ヽ「なっ……『黄の水晶片』かぽ!?」

ξ;゚听)ξ「別の水晶? もう手に入れてたの!?」

( [E/▽)「……悪いけど、全力で潰させてもらうよ」

男が水晶を握った瞬間、膨大な魔力が溢れ出す。
ツンがその余波を浴びただけで、体のバランスを崩しそうになるほどの量。
闇に溶け込む黒い粒子が屋上全体を覆い包むように広がり、視界が遮られる。

ξ;‐凵])ξ (これは……本気でマズいわね……)

もしこの魔力が全て自分に向けられたら……そんな想像だけでも身震いするほどの力。
彼女の頭に浮かんだ二文字は『絶望』だった。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:06:25.70 ID:4RUlzR0H0

( [E/▽)「もし死んだら心苦しいけど……」

ツンを囲むように、空中に大量の剣が生み出される。
先ほどまでと質はあまり変わらないが、問題は数。
彼女の見える範囲内だけでも、二百は下っていない。

( [E/▽)「ここでお別れだね」

男が右手を前に突き出し、空中の剣が数本ツンへと向かう。

ξ ゚听)ξ「『桜囲い』!」

防壁を張って防ごうとするツン。
だがくるうの時とは決定的に違うものがあった。

ξ;゚听)ξ「嘘っ、押されてる……!?」

じわじわとバリアをこじ開ける様に進んでくる剣。
再び呪文を唱えて防壁を二重にするが、進行速度は変わらない。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:09:41.40 ID:4RUlzR0H0

( [E/▽)「やるね。でも……」

男の言葉の後、バリアへと突き刺さる剣の数が増える。
ツンは更に防壁を張るが、ほとんど何の妨げにもならない。
そして最初に刺さった剣がようやくバリアを抜けようとした時――

ξ ゚听)ξ「『桜映し』っ、『舞桜』ッ!!」

彼女の体が桜色の粒子に包まれ、姿が掻き消えた。


     □     □     □

私に残された最後の賭け、それは『舞桜』による強力な一撃。
最も魔力を消費している関係上――

ξ ゚听)ξ (魔力を脚力だけに集中しても一分が限度……それまでには!)

跳ぶように移動し、決して軌道を読まれるような行動はしない。
地面を蹴るたびに視界がぶれ、足がもつれそうになる。
だけど絶対立ち止まったり、転んだりする事は出来ない。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:12:08.07 ID:4RUlzR0H0

『桜映し』の効果で生まれた残像、そこに次々と突き刺さっていく剣。
……一歩でも足を止めた場合、ハリネズミ状態になるのは間違いないわね。

仮面の人物に向かいたい所だけど、そう易々とはいかない。
私が術を使った時から、男の周りをグルリと取り巻くように新たな剣が出現している。
迂闊に突っ込んだら手痛い反撃を喰らうし、でも私の時間も限られているし……

ξ;゚听)ξ (ああもうっ、どうすりゃいいのよ……)

男から距離を置き、ぐるぐる回る様な軌跡を取りながら考える私。
既に残り時間は半分を切っている、何かいい案は……


ξ ゚听)ξ「…………!!」

私の目に、ある光景が飛び込んでくる。
これだ、この隙を突くしか……

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:15:18.24 ID:4RUlzR0H0

     :÷:     :÷:     :÷:

今まで旋回しての回避に努めていたプラナス・チェリー。
だがいきなりこちらへと方向を変え、突き進んでくる。

……彼女の目には、自分の周りに浮かぶ剣達が見えてないのだろうか?

( [E/▽)「愚かだよ、君は……」

彼女を貫くように生成される剣は、彼女の後方に生まれる残像までしか捕らえていない。
だがそれは、彼女が後ろに下がる余地が無いという事でもある。
その状態で彼女は、前方に広がる剣の壁に挑もうとしているのだ。

( [E/▽) (……どう出るか見せてもらおうじゃないか)

近くまで迫った彼女に向け、一斉に自分の周りにある剣を半分ほど打ち出す。
右と左にはあえて逃げ道を残しておく……ように見せる。
実際に彼女がそちらへ回避運動を行った場合、一斉に剣が現れるという罠を仕掛けておいた。

だけど――

ξ ゚听)ξ「……っ!!」

( [E/▽)「なっ、また上か!」

彼女の取った行動は、足に魔力を溜めての跳躍。
誰もいなくなった空間で、虚しく刃がぶつかる音だけが響く。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:18:49.06 ID:4RUlzR0H0

     *     *     *

( [E/▽) (……だけど、それは対策済みだ!)

男は周りに残した刃の全てを、空中へと向けて撃ちだす。
空にいるツンには回避の手段が無い、そう見ての行動である。

ξ ゚听)ξ「……! 今よっ!」

ツンの目前まで刃が迫った時、彼女の両脚に魔力の光が灯った。
そして次に起こるのは、その魔力の放出、それに伴う彼女の軌道の変更。
再びの攻撃をかわしたツンは、一気に仮面の男の前に着地する。

対する男には、身を守るための剣を構築する時間は無い。
離れた地面に落ちている物を呼び寄せるため、男は魔力を――

./・ω・#ヽ「でりゃぁぁああああああっっぽ!!」

少し前までツンが陣取り、防壁を築き上げた場所。
そこにいるモケモケ生物、ぽがツンに向け、何かを飛ばしていた。
その正体は、先端に桜の花弁を模した飾りが付いた、白色の杖。

男が魔力を行使しようとした時には、既にツンの手にステッキが握られていた。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:21:26.75 ID:4RUlzR0H0

ξ ゚听)ξ「『桜囲い』ッ!」

ツンと男を囲うように新たな防壁が築かれ、呼び戻された剣の侵入を拒む。

( [E/▽)「っ……!!」

もはや、ツンと男を阻む物は何も無い。
周りの剣達はバリアで足止めされ、男に高度な呪文を作る間も無かった。

勝利を確信したツンは、残った魔力を振り絞り、最後の呪文を詠唱する。

ξ ゚听)ξ「これで終わりよっ! 『桜ふb――」



その時、ツンは確かに感じ取った。
男の仮面の下にある表情、その口元がつり上がったのを。


いつの間にか、彼女の胸元から突き出ているものがある。
それは、闇から切り出したような黒色をした、西洋風の両刃刀。


彼女の意識に関係なく言葉は途中で止まり、足が震える。
そのまま彼女は、屋上のタイルへと崩れ落ちた。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:24:38.98 ID:4RUlzR0H0
身体中を駆け巡る痛みによって消え去りそうな意識の中、ツンは考える。
外側の障壁が破られた形跡も無ければ、新たに剣が生み出された形跡も無い。
……しかし自分の体には、間違いなく先ほどまでと同じ刃が刺さっている。

ξ  )ξ「……ぅ……ぁあっ……」


( [E/▽)「……最後に教えてあげよう。君がなぜ負けたかを」

震えるツンの前に立ち、仮面の男は言葉を続ける。

( [E/▽)「見ての通り、僕が刃を生み出すまでには少しのラグがある。
       まあ一度作りさえすれば、後で動かす分には楽なんだけどね」

ξ  )ξ「………………」

( [E/▽)「正直空中でかわされた時、僕はかなり絶体絶命だと思ったよ。
       手持ちの剣はほとんど飛ばしちゃったし、新しく作り出す暇は無いし……」

ξ  )ξ「…………」

( [E/▽)「闇に溶け込むこの薄い剣、影と同じ場所に寝かせていたら視認できないだろ?
       いやいや、この予防線が無かったら、立場は逆転していただろうね……」


ξ  )ξ「…………」

( [E/▽)「とはいっても、もう聞こえてないようだね……」

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 02:28:05.03 ID:4RUlzR0H0

( [E/▽)「さてと、じゃあさっさと水晶を回収して……」

./・ω・;ヽ「ま、待つぽ!」

( [E/▽)「……そういえば君がいたね」

既に防壁が無くなった空間で、叫ぶように声を上げるぽ。
正直彼(彼女?)に出来る事は何も無いが、それでもくってかかっている。

./・ω・ ヽ「何でこんな事をするんだぽ!?
      お前達は古代神の恐ろしさを知らないのかぽ?」

( [E/▽)「……知ってるさ、当然」

./・ω・;ヽ「だ、だったらこんな事は止めに――」

( [E/▽)「いや、僕にはやらなきゃいけない事があってね。
       計画遂行の為には、立ち止まらないと決めてあるのさ。
       例え、身近な人を悲しませたとしても……」

./・ω・;ヽ「…………」

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:00:17.04 ID:4RUlzR0H0

( [E/▽)「じゃあそろそろ失礼するよ。僕にはまだやる事が――」

仮面の男は振り返り、ネーヨが倒れていた方を向く。だが――

( [E/▽)「ばっ、馬鹿なっ! いないだと!?」


戦闘の場所は離れていたので、攻撃の余波に巻き込まれたという事はない。
慌てて左右を見渡す仮面の男。そして――

( [E/▽)「いっ、いつの間に……」

屋上の片隅、手すりの上に立つ人影があった。
全身を覆うタキシード、少し色が入ったメガネ、そして長い黒髪……
右肩に気絶したままのネーヨを抱えた人物は、口を開く。


川*[]ー[])「お疲れ様、家のバカ息子が迷惑かけたようだワ」

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:03:08.39 ID:4RUlzR0H0

( [E/▽)「……まさか、本物のエニグマか?」

川*[]ー[])「ご名答、頭の回転はいいみたいワネ」

( [E/▽)「で、何の用だい? 僕に説教でも垂れに来たのかい?」

川*[]ー[])「いえいえ、ただバカ息子を迎えに来ただけだワ。
       悪いのは家の息子だから、後できつーくお仕置きしておきますワ」

( [E/▽)「へぇ……それが出来るよう、無事に帰れればいいんだけどね」

川*[]ー[])「……それは、あなたの方だと思うワネ。
       さっきも言った様に、私は『息子を迎えに来ただけ』だワ」

( [E/▽)「……!! なっ、まさか!!」

仮面の男はおぞましい気配を感じ、背後へと振り返る。


ξ − )ξ「…………」

ゆらりと立ち上がる一人の少女、その右手には赤い宝石が握られていた。


川*[]ー[])「……だから、宝石が誰の手に渡っても関係なんかナイワ」

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:06:33.51 ID:4RUlzR0H0

     □     □     □

……ここはどこだろう。

私の視界は、黒一色で塗り潰されていた。
手を伸ばすと、何か硬い物にぶつかる感触。

ξ ゚听)ξ「壁……ってことは、暗い部屋の中?」

辺りをぐるりと見渡すが、闇以外には何も見えない。
声の反響からいって、それほど広い部屋じゃないけど……

ξ ゚听)ξ「とりあえず、ドアを探さなきゃ……」

とりあえず壁を伝って暗闇を歩く私。
そして分かった事は三つ。

この部屋は丸く反った壁で出来ていて、ちょうど円筒形の内部にいるような形である事。
部屋の大きさはあまり広くはなく、せいぜい直径が3メートルほどの狭い部屋である事。
そして出口らしきものや電灯のスイッチなど、脱出の手当たりが全く見当たらない事。

ξ;゚听)ξ「つまり完全な密室……どうやって出ればいいのよ……」

私が途方に暮れかけた時、部屋の中に変化があった。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:09:41.50 ID:4RUlzR0H0

私の上の方、そこに針の先ほどの赤い光が灯る。
最初は幻覚か何かかと思ったけど、光は段々と大きくなっていく。

ξ ゚听)ξ (……違う、降りてきている?)

壁に照らされた光の輪から見て、何か光る物体なのは間違いない。
それはゆっくりと降りてきて、私の目の前で止まった。

ξ ゚听)ξ「これって……『緋色の三日月』?」

私が今夜エニグマの代わりに盗む予定だったそれが、今目の前にある。
恐る恐る手を伸ばし、それを掴もうとする私。

指先が触れた時、最初に感じたのは『温かみ』だった。
私が小さい頃に味わった、母からの抱擁にも似たその感覚。
そしてその温もりが身体中に伝わっていき、嫌な感覚を流し去っていく。

次に起きた異変は、部屋の壁だった。
壁の一角に赤色の亀裂が入って、それがどんどんと広がる。
まるで卵からの羽化を内部から見ているような、そんな光景。

そして一面に亀裂が入った時、壁が崩れて、外からまぶしい光が差し込む。
それと共に、私の意識はどんどん覚醒していく。

ξ ゚听)ξ「……そうだ、こんな所にいる場合じゃない!」

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:12:06.98 ID:4RUlzR0H0

     ○     ○     ○

最初に私の目に映ったのは、こちらを向いて狼狽している仮面の人物。
その向こう側には、メガネをつけた謎の女性が立っている。いや、それより――

ξ ゚听)ξ (この感覚……凄いわ)

宝石を握るだけで、とてつもない量の魔力が流れ込んでくる。
私の魔力全体より明らかに多い量が流れたはずなのに、まだ底が見えない。
そして全く嫌な気配を感じさせずに、私の魔力と溶け合っていくその力。

ξ ゚ー゚)ξ (これなら、いける!!)

( [E/▽)「くそっ! 力に目覚めたか、プラナス・チェリー!!」

先ほどの様に、空中に剣を生み出して攻撃を始めた仮面の人物。
だけど今の私には、全く負ける予感がしない。

ξ ゚听)ξ「『桜色の障壁』!」

頭の中に出てきた言葉をそのまま口にする。
その言葉によって、私の中の魔力が外側に流れ出し、変質をしていく。
言葉通りに壁を作った魔力、そこへ相手の剣が突き進む。

そして起こった結果は、私の予想をはるかに超えるものだった。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:15:52.94 ID:4RUlzR0H0

今までより厚みが増し、そして赤色が濃くなった防壁。
それに刃が衝突はするものの、刃先の少しさえ障壁に食い込むことは無かった。
二十を越える剣がぶつかったけど、壁に揺らぎは全く見えない。

( [E/▽)「なっ……これほどまでとは……」

ξ ゚听)ξ「今度はこっちからいくわよ! 『桜色の小玉』!」

小玉という名前だけど、実際の大きさはバレーボール大はあった。
一瞬で杖の先に灯ったそれは、高速で相手へと飛ぶ。

( [E/▽)「くっ!!」

男が身を守るためか、体をマントで包み込む。
それに小玉がぶつかり、激しい爆発が起きた。
その余波は、攻撃を仕掛けた私にまで及ぶ。

ξ;゚听)ξ (やばっ、威力が強すぎたわね……)

男の周りにあるタイルはほとんどにヒビが入って、ひどい物は剥がれて裏返ってる。
今度からこの呪文は考えて使わないと……

( [E/▽)「ハァッ、ハァッ……これは本当にマズイね。
       仕方ない、僕も全力でいくか……」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:18:16.95 ID:4RUlzR0H0

男は黄色の水晶を握り締め、私の前で初めてになる、口での詠唱を始める。

( [E/▽)「『我が力を糧に、帝国の魔女を滅せよ……ル・ラーダ・フォルオル!』」

男が詠唱を終えた時、周りの闇がざわめく。
そこに生まれたのは、数え切れないほどの剣。
その数たるや、剣が無い空間を探す方が難しいくらい。

( [E/▽)「さあ行け、我が力達よ!」

その圧倒的な数に加えて、個々の剣の魔力も高い。
先ほどの防壁でも防げるか怪しい。けれど……

ξ ゚听)ξ「悪いけど、貰うわよ! 『桜色の詩篇』!!」

私のステッキがドロリと魔力化し、左腕の水晶に絡まる。
そして赤みを増した桜色の物体は引き伸ばされ、新たな杖が形成された。

赤みが増し、先端にある花弁の飾りが一回り大きくなっている。
その飾りの真ん中には、赤く光る緋色の三日月が鎮座していた。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:21:10.22 ID:4RUlzR0H0

ξ ゚听)ξ「いっけええぇっ!」

私がステッキを頭の上まで掲げた時、ステッキの先に異変が生じる。
手の平ほどの大きさがある花弁を模した飾りが、次々と杖から剥がれた。
その花弁は、私の周りを回るように舞いながら速度を上げ、光の帯を作り出す。

そして私の杖の先、赤い宝石から、同じ色をした光の糸が五本ほど伸びる。
糸の先は先ほど舞い落ちたそれぞれの花弁へと繋がり、両者を繋ぎとめた。
高速で回転する花弁と糸、私のステッキの先には赤く光る輪が浮いているかの様に見える。

私の周りから迫り来る剣達に対抗するため、糸を伸ばして円の外周を長くした。
高速で回る円盤が刃にぶつかり、その魔力を削り取る。
接近してくる刃達がその円盤に掠るだけで、真っ二つに割れ、消えていく。

( [E/▽)「馬鹿なっ……圧倒的過ぎる……」

ξ;゚ー゚)ξ (しかし、本当に凄い魔力ね……!)

飛んでる花弁の一枚だけで、魔力は以前の全開位はありそう。
それが五枚も、しかも高速で回っているので、その威力は計り知れない。
正直敵が魔力を集中させても、多分難なく身を守る事が出来るはず。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:24:58.78 ID:4RUlzR0H0

これ以上の攻撃は無駄だと判断したのか、半分ほど撃たれた所で敵の攻撃が止まる。
……この隙は見逃す訳にはいかないわね。

グルグルと回る思念の糸を縮めて、円盤の外周を小さくする。
当然円は先ほどより速く回り、魔力の密度は高まっていく。

ξ ゚听)ξ「これで終わりよっ! 『桜色の車輪』!」

『桜玉』を投げる要領で、相手に向かい杖を振りぬく。
宝石部分から糸が切り離され、五枚の花弁で作られた円盤が高速で回転しながら相手に向かう。
縦になって地面を削りながら突き進む様は、正に車輪の様。

仮面の男は全ての剣を呼び戻して、私との間に壁を作ろうとしてるけど……

( [E/▽)「っ! くそっ、反則だろ!」

まるで紙を引きちぎるかの様に剣を蹴散らし、突き進む円盤。
地面に一直線の傷跡を付けながら、男へと進んでいく。
そして男の目の前で、円盤は更に濃度と大きさが増し――


( [E/▽)「…………!!」


接触する寸前、男はマントを前方に向け跳ね上げ、身を隠した。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 03:27:38.80 ID:4RUlzR0H0


男のいた場所を輪が通り過ぎた後、その場に舞い落ちる物がある。
それは男が身に着けていて、そして円盤によって真っ二つにされたマント。
でもさっきまであったはずの中身は、影も形も見えない。



ξ;゚听)ξ「……ど、どうなってるの?」

回転を止めた花弁を回収しながら、周囲に気を回す。
しかし屋上の片隅に並べられている気絶中の警官以外、人の気配は無い。
……そういえばあのメガネの女性の姿もいつの間にか消えてるわね。


屋上にあれだけ漂っていた敵の魔力や殺気だった気配が、綺麗に無くなっている。
荒れ狂っていた台風が急に凪ぎ、晴れ間が覗いた様な感覚。
数十秒ほど待ってみても、周りの光景は変わらない。


ξ ゚听)ξ「……まさか、逃げたの?」

./・ω・;ヽ「ツン、大変だぽ! 結界が解けてるぽ!」

屋上の戦いを隠すために張った結界だけど、確かに今は存在してない。

ξ;゚听)ξ「えっ……『霧桜』!」

魔力を展開し、周囲の状況を探る。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 04:00:16.92 ID:4RUlzR0H0

『間違いないんだな! 屋上で怪光があったというのは!』

『はっ、屋外からの部下の情報です。それに人影らしき物が屋上から飛び出たという情報も――』

『ええいっ、屋上の奴とは連絡が取れないのかっ! 突入部隊はっ!?』

『それが閉まった防火扉を開く作業に追われていて……あっ、たった今開いたそうです!』


威力の高まったそれは、ご丁寧にも音声付で今の状況を教えてくれた。
そして屋上への階段を駆け上がる集団が、間違いなく迫っている。
警察に抑える力が無かったのか、その中にはマスコミの人間もいるみたいで……

./・ω・;ヽ「アイツもいなくなったようだし、早くここから立ち去るぽ!」

ξ;゚听)ξ「ちょっ……修復はいいの?」

./・ω・;ヽ「それよりここから脱出だぽ! 流石に電波に乗るのはマズイぽ!」

ξ#゚听)ξ「ああっ、もう! 覚えてなさいよ、あの仮面野郎!!」

魔力を展開し、屋上の端から空へと跳び立つ私。


雲の切れ間から覗いた月は、静かに湖畔を照らしていた。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 04:03:10.00 ID:4RUlzR0H0

     :÷:     :÷:     :÷:

彼女の力、甘く見すぎていたか……

くそっ、彼から力を貰おうとした自分の魂胆がいけなかったのか?
それともあの時に感情を殺して彼女に止めを刺すべきだったか?


いや、過ぎた事を考えても仕方ないな。それよりも……


彼から奪ったペンダントに仕組んだ術は、彼女には気付かれていないはずだ。
彼女は次に、『紅』を探す為の準備を始めるだろうから……

……いや待て、先ほどの戦闘で彼女の実力は自分を凌駕していた。
このまま出て行っても返り討ちに遭うのが関の山だ。



やはりここは不本意だが、『彼女』にあたってみるしかないな……

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 04:05:19.69 ID:4RUlzR0H0

     △     △     △

('A`)「よう、おはよーさん」

( ^ω^)「おっおっ、グッモーニンだお!」

通学路の途中、いつものコンビニ前で待ち合わせる俺とブーン。
もう今ではすっかりお馴染みとなった光景だが――

('A`;)「……あれ、ツンはまだなのか?」

ブーンが遅れることは多々あれ、ツンが遅れたことは一度も無かった。
待ち合わせ時間はたった今過ぎた所だし、いつもなら間違いなく来ているはずなんだがな……

( ^ω^)「さっき電話があって、『先に行ってほしい』って言ってたお」

('A`;)「ツンは大丈夫なのか? ……まあ先を急ぐか」

( ^ω^)「だお!」

そして大通りを歩き始める俺達。いつもの雑談を始めるが、今日の話題は当然――

('A`)「で、ブーンはニュースを見たのか?」

( ^ω^)「当然だお! 昨日現地に行った甲斐があったお!」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 04:07:40.39 ID:4RUlzR0H0

内容は当然、『エニグマの復活! 警察の努力虚しく、緋色の三日月盗まれる』についてだ。

('A`)「でもニュース画像凄かったよな。飛んでく人影の映像、見たか?」

( ^ω^)「当然見たお。確か二回ほど飛んだんだおね?
      番組によっては、エニグマが宇宙人説まで出てたお」

昨日起きたエニグマの事件は、相当なオカルトぶりを発揮していた。
眠らされた展示室の警官達、いつの間にか気絶していた屋上の警官。
そして屋上から飛び立つパラグライダーと、それを追う屋外の警官達……ここまではまだいい。

しかしその後、屋上から赤く発光する人影が凄い勢いで跳び去った映像があったり……
エニグマの目撃情報も、「若い少女」「何かを抱えた中年の女性に見えた」「いや、男だった」などバラバラ。
屋上には謎の傷や爆発したような跡があったが、屋外の警察にはそれらしき物音は聞こえなかったとか……

('A`;)「宇宙人か……いくらなんでもそりゃねーだろ」

( ^ω^)「じゃあドクオはあの光を何だと思うんだお?」

('A`;)「うーん……」

一瞬金髪の魔法少女が頭をよぎったが、まさかこの件には関与してないだろうな……

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 04:09:16.12 ID:4RUlzR0H0

     *     *     *

鴨葱フィレンクトはその時自室に篭って、お気に入りの紅茶を嗜んでいた。
テーブルの上には、受け皿とお茶請けのクッキー、そして一枚の広げられた手紙。
彼は受け皿へと手持ちのカップを置き、そして手紙を手に取る。




     素敵な警視さんへ

  冷たい雨がシトシトと降るこの時期、体調をお崩しになられていませんか?
 もうあれから早いもので、十五年の月日が流れるのですね。

  さて、今回の事件ですが、全ては我が愚息の軽はずみな行動による物です。
 私の教育が至ってなかったのが原因ですので、以後このような事が無きよう指導します。

  ただ、引退したとはいえ、怪盗の流儀はしっかりと守らせていただきます。
 予告状を一度出したからには、例え偽者だとしても、仕事はきっちりとさせてもらいました。
 緋色の三日月は帰ってこないと思っていただくとありがたいものです。

  それでは、機会がありましたらまた会いましょう。

                                 怪盗エニグマの正体、ネーナより
                                                        』

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/13(金) 04:12:26.40 ID:4RUlzR0H0

昨晩彼が踊り場で目を覚ました時、いつの間にか置かれていた封筒。
その中にあった手紙を一瞥した彼は、警官としての倫理を曲げ、こうしてこっそりと持ち帰っている。
……彼の人生上、規則を曲げたのはこれで二回目だった。

何度目になるかの熟読を止め、彼はすっかり冷めた紅茶に口をつける。
香りがほとんど抜けたそれで喉を潤した彼は、重々しそうに呟く。


(;‐_L‐)「全く……自分の偽名を間違えてどうするんですか、ネーワさん……」



窓の外では、梅雨に相応しくない強い雨が降る。
もうしばらくで梅雨は明け、本格的な夏が訪れる事だろう。


     【次回へ続く】

151 名前:【次回予告】 投稿日:2009/11/13(金) 04:15:42.86 ID:4RUlzR0H0
  _
( ゚∀゚)「皆さんお待ちかねーっ! 次回のお話はー!?」

('A`;)「な、何かテンション高いな……」
  _
( ゚∀゚)「そりゃあもう! 次の物語内では梅雨明けですよ、梅雨明け!
     水着や薄着、開放感溢れた女の子の姿が……いや、待てよ?
     よく考えれば、雨で濡れて透けたブラすじが見れなくなるという事に――」

('A`)「はいはい、予告に進むぞ」


  遂に物語の核を掴むアイテム、赤色の水晶片を手に入れたツン!
  次なる水晶を求め、彼女は深夜のVIP高に侵入する事になりましたっ!
  だがそんな彼女の前に、過去に類を見ない最強の敵が立ち塞がったのです!

  俺達は平穏に過ごせないようです、【熱血最強少女現る! 『灼熱のサバンナ』】にぃっ、
  レディィィイイイイイイイイイイイイッ、ゴォッ!!!!


('A`;)「予告もテンション高いな……ってか、いつもと形式違いすぎだろ」
  _
(; ゚∀゚)「――いやまて、ゲリラ豪雨による突発的な豪雨もあるよな……」

('A`;)「いや、お前が待てよ……」


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