- 4 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:03:33.98 ID:fbeacQhE0
- 【前日 鬱田ドクオ 17:37:24 狐塚地区 県立荒郷小学校】
──その写真をじっと見つめながら、俺は何度目になるかわからないうなり声を洩らした。
('A`)「何なんだ…これは」
板呼山(いたこやま)の頂から村を見下ろすアングル。写真いっぱいに広がるのは、紅葉に色付く広葉樹林。
うなり声の原因は、赤と黄のパノラマの隅、見切れるようにして写っていた。
遠く、それは荒郷村の上空。大自然の極彩色の中、“それ”だけが真っ黒い色をしている。
空を飛ぶ黒いシルエット。
翼を広げたようにも見えるから、カラスか何かだろうかとも思ったが。
('A`)「……しかしこれは…」
距離的な問題から見ても、カラスと呼ぶに“それ”はあまりにも大きすぎる。
何よりそれは、明らかに“人間”のようなシルエットをしていた。
('A`)「まさか…そんなわけは無いだろう」
自らの思考を打ち消すよう、頭を振る。スカイダイビングをしているような格好のそれには“頭”と呼べるものが存在しない。
人間でいう腕の部分には“翼”まで備わっている。
鳥人間、というチープな単語が一瞬頭をよぎった。
- 6 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:06:34.95 ID:fbeacQhE0
- 「鬱田先生、何を御覧になってらっしゃるんです?」
脇からかけられた声に振り返る。
村唯一の小学校。その職員室。生徒の数が両手の指で足りるのならば、教員の数などたかがしれている。
俺にここで声をかけてくる人物など、校長の他には一人しかいない。
('A`)「ああ、伊藤先生ですか。…これですよ」
彼女に声をかけられたことに内心で舌を打ちながらも、俺は手元の写真を差し出した。
('、`*川「ああ、次の個展に出す写真ですか。撮影に行くんだったら、私にも声をかけてくださればよかったのに」
学級日誌を胸に抱えた彼女は、相変わらず野暮ったいタートルネックのセーターを着ている。
予想していた通りの鬱陶しい反応が、更に俺を苛立たせた。
('、`*川「相変わらず鬱田先生が撮る写真は凄いです。こう、なんて言うか、そこに有るものを、よりドラマチックに魅せるっていうか……」
お前なんかに何が解るのか、と毎回思う。
俺のフャンか何か知らないが上辺だけをなぞるこいつの言葉にはいい加減うんざりだ。
現に今も、景色にばかり目が行っていて例の黒い影など見えていないようだ。
- 7 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:08:20.90 ID:fbeacQhE0
- ('A`)「はぁ、それはどうも」
おざなりな返事をしながら鞄を取ると、俺は立ち上がる。
就業時間外まで、こいつの中身の無い無駄口に付き合うのはまっぴらごめんだ。
('、`*川「そう言えば、もう少しで翁林祭ですけど、今年は鬱田先生も出られるんですか?」
('A`)「おうりんまつり?…ああ、いえ、すいません私は出られないんですよ。丁度その日は、東京の方で出版社と打ち合わせがありまして」
無論嘘だ。伝統行事だか何だか知らないが、事ある毎に“付き合い”を強制されるこの村の風土は気に入らない。
人付き合いを嫌って左遷された結果がこれとは、最高の皮肉というものだ。
('、`*川「そうですか……。残念です。でも、小学校でやる方には出られるんですよね?」
('A`)「ええ、そっちの方は大丈夫ですよ」
('、`*川「良かった。私じゃビデオの使い方もわからないですし、それに、ビロード君のこともありますし」
('A`)「……」
('、`*川「今日もあの子、算数の授業の途中で勝手に帰っちゃったんです。算数の時だけじゃありません。鬱田先生の授業以外は、殆ど出席しないんですよ」
- 8 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:11:11.92 ID:fbeacQhE0
- “鬱田先生がきてくれなきゃ、きっとあの子も来てくれないですよ”
“そうでしょうね。あの子には僕からも言っておきますよ”
そんな風に会話を締めくくり、俺は職場を後にした。
夕日が、村を取り囲む山の稜線を染め上げる中、畦道という名の家路を辿る。
野良仕事を終えた農夫達が、すれ違いざまに「うつたせんせ」、「うつたせんせ」と頭を下げていく。
機械的な会釈でもってそれに応えながら、耳をそばだてた。
“相変わらず愛想のねぇ人だ”
“どごの大学院出だのが知らねども、お高くとまり過ぎでねが”
“もう三十さなったたって嫁っこももらわねみでだど”
“へっ、荒郷でなば誰も嫁いでいぎで娘なばいねんだ”
('A`)「……」
いつも通りの雑音が、俺の通った後から聞こえてくる。
二年前、この僻地に飛ばされてきてから今にいたるまで、その内容は変わらない。
閉鎖的な田舎特有の、他人のゴシップ。陸の孤島に取り残された未開人類達の、唯一の娯楽だ。
どうでもいい、と心底思う。
“他人”に興味の無い俺からしてみれば、彼らのような他者へ干渉したがる人種は、ある意味で尊敬にすら値する。
- 11 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:14:39.28 ID:fbeacQhE0
- 雑音を後ろに残しながら歩いていくと、錆び付いた塗炭壁の家並が見えてきた。
荒郷というこの寒村の中で、最も住宅が密集したここは、地域住民からは「蛇ノ目坂」と呼ばれている。
村を貫く国道398号線。その両脇に、あばら屋が身を寄せ合うようにして立ち並ぶ光景は、一見一昔前の宿場町を彷彿とさせる。
名ばかりではあるが商店街も存在し、俺のような外からの流入者が住める“アパートのようなもの”もあることから、ここがこの村で一番都会的と言えるだろう。
「かえして下さい!かえして下さい!」
取り留めもない思考を中断したのは、聞き慣れたあの声だった。
( ^Д^)「うっせーぞばーか!ひきこもりのクセしてしゃべってんじゃねー!」
ヽ(・∀ ・)ノ「そうだそうだー」
首を巡らせた先には「蛇ノ目坂公園」の手狭な敷地。
砂場の中で揉めている三人の子ども達が目に入った。
小学生にしては背の高い二人の少年が、残った背の低い少年を取り囲んでいる。
( ;><)「かえして下さい!大切なものなんです!」
予想通り、いじめられているのはあの子だった。
- 12 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:16:18.07 ID:fbeacQhE0
- ( ^Д^)「子どものクセにこんなもん持つなんてなまいきなんだよ!」
ヽ(・∀ ・)ノ「なんだよー!」
( ;><)「かえして!うつたせんせーから貰ったものなんです!」
たしか、名前はプギャーとか言ったか。
いじめっ子の一人が、高く掲げた手の中に有るのは、以前俺がビロードに譲ったニコンだ。
恐らくビロードは、学校をサボって山に行った帰りにあのガキ大将共に見つかってしまったのだろう。
他の同級生には見つかるなとあれほど言っておいたのだが、あの子の性格を考えるといずれはこうなる運命だったのかもしれない。
( ^Д^)「そんなにかえしてほしかったら、さわちかやしきにいってきな!」
( ;><)「え……」
( ^Д^)「よなかにさわちかやしきにはいって、なんかしょーこになるもんもってきたら、それとこーかんしてやるよ」
( ;><)「そ、そんな……」
( ^Д^)「ま、おまえじゃむりだろうけどなー!」
ヽ(・∀ ・)ノ「けどなー!」
何やら、話は今時には珍しくも度胸試しの方向に向かっているようだ。
教師としてはここで割り込んで止めるべきなのだろうが、それでは根本的な解決にならないのは経験から知っている。
逆にこれはいいチャンスだと思った。
- 14 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:19:40.08 ID:fbeacQhE0
- 流石に夜中の沢近屋敷にあの子一人で向かわせるのは危険だ。
そこで俺がこっそりと後をつけるというわけだ。
上手くあの子が屋敷から皿でもなんでも持ち出せたら、御の字だ。
全てが丸く収まるかどうかわからないが、彼が同級生達の中に溶け込むきっかけぐらいにはなってくれるに違いない。
今回ばかりは、この村の前時代的な風土に感謝すべきか。
( ^Д^)「あばよ、負け犬!」
ヽ(・∀ ・)ノ「あばよ!のらいぬ!」
( ;><)「う…うぅ……」
涙目のビロードを残して、ガキ大将共が去っていく。
残った問題は、“あのビロード”に沢近屋敷へ向かうだけの勇気をどうやって出させるかだ。
('A`)「……ん」
少し考えると俺は足を踏み出し、砂場の中で立ち尽くすビロードの下へと向かった。
('A`)「お、ビロードじゃないか。どうした。そんな泣きそうな顔して」
( ;><)「あ、うつたせんせー……な、なんでもないんです……」
俺の存在に気付くと、彼は慌てて目尻を拭い顔を逸らす。
特定の人物の前だけでは感情を前に出す。つくづく、この子と俺は似たもの同士だと実感した。
- 16 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:21:21.74 ID:fbeacQhE0
- ('A`)「そうだ。そう言えば、前にあげたカメラの調子はどうだ?いい写真は撮れたか?」
些か白々しいが、子供にはこれくらいで丁度いい。
人並みのモラルが有るなら、罪悪感が彼を動かすだろう。
幾ら似たもの同士とは言え、そこだけは似ていないと信じている。
( ;><)「あ…えと…えと…」
予想通りの反応。ここでもう一押ししておく。
('A`)「先生の宝物なんだからな。大切に使うんだぞ?」
( ;><)「は、はい……」
消え入りそうな声で呟くビロードの顔は青白い。
後は彼の行動力と俺への信頼度に期待と言ったところか。
('-`)「それじゃあ、先生はもう行くよ。お前も道草食ってないで、早く家に帰るんだぞ」
それらしい気さくな笑みを残して後ろを向く。
公園を後にしながら、つくづく自分のこの性格が嫌になった。
('A`)「やれやれ、だ」
溜め息を吐きながら民家の合間を縫って、小路の奥を進む。
未舗装の砂利道の先、傾いた三階建てのアパートが見えてきた。
- 17 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:23:20.41 ID:fbeacQhE0
- ひびの入ったコンクリート建築。
非常階段と見間違える程貧相な階段を登り、自室の前まで来たとき、隣の部屋のドアが開いて見知った顔が覗いた。
(´・ω・`)「あ、どうも。今お帰りですか?」
目を擦りながら挨拶してくる彼に向き直り、俺は笑みを浮かべる。
思えば、この村の中で彼とビロード以外の人間に自然な笑顔を見せた心当たりがない。
('A`)「ああ、そういうショボン君はこれからお勤めかな?」
俺の皮肉に、彼はバツが悪そうに苦笑すると首を振った。
(´・ω・`)「いえ、今日は非番で一日中寝てたんですよ」
('A`)「おいおい、貴重な青春をそんな風に浪費するのは勿体ないだろう」
(´・ω・`)「いやいや、これからその青春をエンジョイしに行くんですよ」
意味深な笑みを浮かべる彼に、俺は今時の若者には珍しい彼の趣味を思い出して首を傾げる。
('A`)「……ああ、と言っても、もう図書館は閉館時間だろう?」
(´・ω・`)「ちょうど、蔵書目録の作成を江古田さんに頼まれていたのを思い出しまして。そのついでに、これから閉館後の図書館で個人研究というわけです」
この通り鍵も預かってますしね、と、いたずら小僧のような笑顔で言う彼は本当に楽しそうだ。
- 18 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:25:33.44 ID:fbeacQhE0
- ('A`)「そいつは面白そうだ。打ち込めるものが有るってのは、良いことだね」
(´・ω・`)「良かったら、先生も一緒に来ませんか?」
その申し出に、暫く俺は逡巡する。
彼と俺の趣味では畑違いなところもあったが、閉館後の図書館に潜り込むというのは、少しばかり魅力的なイベントに思えた。
('A`)「うーむ……」
(´・ω・`)「江古田さんに見つかったら、目録作成の手伝いを頼んでたと言えばいいんです。それに……」
('A`)「それに?」
(´・ω・`)「江古田さんが休憩室の冷蔵庫に、何やら珍しい銘柄のワインを隠してるのを見つけたんです」
ですから、と続ける彼の笑みに、それでも俺は首を振る。
('A`)「ビロードのヤツと今夜肝試しをするんでね。流石にへべれけのまま行くのは教育に悪い」
(´・ω・`)「はは、確かに」
じゃあ、またの機会に、と言い去っていく彼の背中を、俺は少し残念な気持ちで見送った。
- 20 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:27:38.07 ID:fbeacQhE0
【アーカイブに「翁林祭りのお知らせ」が追加されました】
- 21 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:30:41.92 ID:fbeacQhE0
- 【第1日目 鬱田ドクオ 00:53:51 蛇ノ目坂地区 荒郷教会】
――壁に背中を預けて座り込む。
ひんやりとしたコンクリートの感触は、昂ぶっていた胸の動悸を幾らか沈静させた。
('A`)「……暫くは、ここに居た方がいいな」
雨に濡れた頭をがしがしとかき、ワイシャツを脱ぐ。
真っ赤に濡れたそれは、何も赤い雨のせいだけでは無い。
('A`)「……俺、人を殺したんだな」
赤く染まった自らの掌を見つめる。
あの瞬間の感触は、今でもはっきりと思い出せる。
傘を突き刺した時の、柔らかい手応え。
肉を突き破るぶちぶちという音。
どさり、と相手が後ろに倒れる様。
初めての殺人を終えての俺の感想は、「人って案外脆いんだな」という非常にドライなものだった。
正当防衛の感想にしては、我ながら最悪だと思う。
あれが、人だったらの話だが。
- 24 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:34:47.91 ID:fbeacQhE0
- もしかしたら、俺には「殺人の才能」があるんじゃないか。
昔から自分の人格に欠陥があるのは自覚していたが、そう考えると成程しっくりとくる。
俺は、元々、“人の間で生きる”ように創られていないのだ。
(;'A`)「…バカバカしい」
厨二病じゃないんだ。そんな事があってたまるか。
俺はただのネクラで、人づきあいの苦手な凡人でしかない。
背筋を冷たい感触が這う。
“俺は、根っからの人各異常者で、人を殺しても何とも思いません”
(;'A`)「違う!」
気付けば、俺は大声で叫んでいた。
静謐とした教会内に、俺の声が反響して木霊す。
直ぐに声は消え、再び教会内には静寂が戻ってきた。
('A`)「……」
思えば皮肉なものだ。
人を殺して一番最初に逃げ込んできたのが、あろうことか神の家だ。
自分でも、無意識のうちに許しを求めていたのだろうか。
- 25 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:37:31.33 ID:fbeacQhE0
- いや、そうじゃない。
あれは、人なんかじゃない。
そう、俺は人なんか殺していない。
俺が教会に転がり込んできたのは、救いを求めていたからだ。
そうに、違いない。
('A`)「……何を考えてるんだか」
右往左往する思考に溜息が洩れる。
これ以上言い訳を考えるのは億劫だ。
壁に預けていた背を放し立ち上がる。
ワイシャツをはおると、ズボンのポケットから煙草を取り出した。
('A`)y-~「ふう……」
ニコチンでぼんやりとしていく頭の中で、これからの事について考える。
先ずは武器になるようなものを探さないと、危なくて外に出られない。
まさかあんなに傘が早く壊れるとは予想もしていなかった。
何処か。この教会から近い場所で、武器になりそうな物がある場所。
('A`)y-~「……あそこか」
適当に目星を点けたところで、俺は立ち上がる。
同時、ホールの奥から物音がした。
- 26 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:40:04.23 ID:fbeacQhE0
- ('A`)「誰か居るのか…?」
声をかけるが返事は無い。
('A`)「…気のせいか?」
ホールの奥、宣教台の後ろの壁にはドアが一つある。
物音は、その向うから聞こえたような気がする。
('A`)「……これ…」
ふと足元を見ると、空になったワインボトルが床に転がっていた。
神のおひざ元で飲酒とは、中々罰あたりな奴も居たものだ、とどうでもいい事を考える。
先の物音は、やはり誰かがここに居る事を示しているのだろうか。
('A`)「……」
気にはなったが、確かめている時間は無い。
俺は踵を返すと、ベンチの間を歩き、教会を後にした。
- 28 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:42:16.34 ID:fbeacQhE0
【アーカイブに「空のワインボトル」が追加されました】
- 30 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:44:58.15 ID:fbeacQhE0
- 【第1日目 五柳ギコ 03:07:43 落人地区 敦杜岳中腹】
――額に纏わりつく前髪を左手の甲で拭う。
赤い雨を吸ってぐしょぐしょになった髪は、どこか粘ついたような感触がした。
(,, ゚Д゚)「はぁ…!はぁ…!」
一体、どれくらいの時間を走っただろうか。
目の前を行く白い背中との距離は一向に縮まらない。
明かり一つ無い夜の山道の中で、その背中だけはぼんやりとだが確かに見える。
自分の目が暗順応したと考えれば普通の事だろうが、少し違和感があった。
(,, ゚Д゚)「モララーさん!モララーさんなんだべ!?」
再三の呼びかけにも、相手が止まる事は無い。
最初はモララーさんだと思って追いかけてきたのだが、ここに来て自信が無くなってきた。
もし、相手がモララーさんを襲った犯人だとしたら……。
その時、俺はどうなるのだろう。
(,, ゚Д゚)「モララーさん!モララーさん!」
嫌な考えを振り払うように叫ぶ。
どうせ止まるわけ無い。
そんな俺の予想は、あっけなく外れた。
- 31 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:47:40.14 ID:fbeacQhE0
- ( )「……」
闇の中で止まる白い背中。
唐突な相手の行動に、俺の脚も本能的に止まる。
警戒心がふいに蘇った。
(,, ゚Д゚)「モララー…さん……?」
用心深く呼び掛ける。
相手の反応を窺う間も、俺は腰を落として直ぐに逃げ出せるように身構えていた。
( )「……」
白い背中は、赤黒い夜の中に立ち尽くしている。
山の木々が、風に吹かれて小さな軋みを上げる。
不意に、嫌な予感めいたものを感じた。
白い背中が、ゆっくりと振り返る。
白い横顔が、徐々にこちらを向いていく。
(=( ∵)「……」
白い仮面が、俺の眼前に現れた。
(,,;゚Д゚)「な……」
石膏製のたまご型に、ボーリングの玉に空いているような穴が三つ。
赤い闇に縁取られて浮かぶそれに、俺はどこか不吉な印象を覚えた。
- 35 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:50:30.88 ID:fbeacQhE0
- モララーさんじゃない。
脳がそう認識した直後に、本能が警鐘を上げる。
こいつは何だ。
もしかして、こいつがモララーさんを襲った犯人なのか。
(=( ∵)「お前は……」
白い仮面が、苦々しく呟く。
石膏の下ではどんな表情を浮かべているのかは窺い知れないが、その言葉には「憎しみ」にも似た響きが込められていた。
(,,;゚Д゚)「お、おめえ…だ、誰だ……!」
(=( ∵)「……」
仮面は答えない。
じっとこちらを見据えたまま――最も、どこを見ているのかなど、仮面の上からでは窺い知れないが――立ち尽くしている。
(,,;゚Д゚)「……っ」
どうするべきか、俺が迷い始めた時だ。
(∵ )=)「……」
奴は唐突に背中を向けると、濃い闇の中に向かって再び走り出した。
(,,;゚Д゚)「お、おい待て!」
咄嗟に追いかけようと伸ばした手が、空を掴む。
- 37 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:52:51.28 ID:fbeacQhE0
- (,,;゚Д゚)「え……?」
白い背中は、何処にも見当たらない。
気がつけば、俺の目の前には何も無い暗闇だけが広がっていた。
(,,;゚Д゚)「消え…た…?」
目を擦り、もう一度闇の向うに目を凝らす。
暗闇に慣れた目は、木々の細長いシルエットは映すものの、その間を往く白い人影を認める事は無かった。
(,,;゚Д゚)「俺は、幻でも見ていたのか…?」
不透明な膜の中に浮いているような、現実感の欠如した感覚。
冷たい雨に身を打たれながら、俺は暫くの間その場に立ち尽くしていた。
(,, ゚Д゚)「……」
遠くの方で鐘が鳴るような音がして、我に返る。
このままここに突っ立っていた所でどうしようもない。
(,, ゚Д゚)「戻るか……」
釈然としない気持ちを抱えたまま歩き出す。
落ち葉を踏みしだきながら木々の間を進んでいる時だ。
右手の方から、自分以外の足音が聞こえてきた。
- 38 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:55:11.34 ID:fbeacQhE0
- (,,;゚Д゚)「――っ!」
背筋に緊張が走る。
先の白い仮面だろうか。
敏感になった耳は、落ち葉を踏む湿った音が近づいてくるのを捉えた。
体中の筋肉は引きつり、拳が自然と胸の前で構えられる。
一歩。また一歩。
徐々に近づいてくる、その足音。
首だけを動かしそちらを睨む。
闇の中に浮かぶ人型の輪郭が、ぼんやりとだが視認できた。
目測で約10メートル。
ゆっくりとした足取りで、相手はその距離を縮めてくる。
一歩。また一歩。
もう、目の前にまで、その輪郭は迫っている。
生唾を飲み込む。
下半身に力を入れる。
拳を強く握り込む。
来るなら来い。
臨戦態勢を整えた俺の緊張感が、今にも爆発するかしないかの瀬戸際。
- 40 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 21:57:52.27 ID:fbeacQhE0
- ζ( ー *ζ「てーるてーる…ぼーず…てるぼーず……」
人影は。
(,,;゚Д゚)「デ…レちゃん…なのか……?」
予想外の正体を露わにした。
- 42 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 22:01:36.27 ID:fbeacQhE0
【アーカイブに「サンカ 〜知られざる山の民〜」が追加されました】
- 43 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 22:04:19.53 ID:fbeacQhE0
- 【アーカイブNo.10 翁林祭りのお知らせ】
・取得者/不明
・取得条件/翁林祭りの事を聞く
・日時/前日 17:00
荒郷村内で出回っている回覧板。
〜翁林祭りのお知らせ〜
収穫機も終わり、落ち葉が舞う季節となりました。今年も翁林祭りの時期が訪れようとしています。
つきましては、村内の皆様に今年の翁林祭りについてご案内を申し上げます。
日時…10月22日 17:00
場所…板呼山自然公園中央広場
お集まりの際はてるてる坊主をお忘れなきよう、宜しくお願いします。
荒郷村役場
- 45 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 22:07:05.00 ID:fbeacQhE0
- 【アーカイブNo.11 空のワインボトル】
・取得者/鬱田ドクオ
・取得条件/空のワインボトルを見つける
・日時/第1日目 01:00
――空になったワインボトル。
ラベルは元々貼られておらず、銘柄は不明。
ボトルの底に赤い液体が残っている事から、赤ワインが入っていた事がわかる。
- 47 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 22:09:20.33 ID:fbeacQhE0
- 【アーカイブNo.12 サンカ 〜知られざる山の民〜】
・取得者/不明
・取得条件/デレと再会する
・日時/第1日目 03:00
秋田の民俗学者「荒巻文蔵」が著した山人(サンカ)の研究書。昭和49年初版発刊。
「荒巻文蔵」は特異な説を唱える事から、学界からは異端視されており、本書も発刊から2年で絶版となっている。
――かの柳田國男も言うように、「彼らは日本という国の先住民族である」、という説を私は否定しない。
私の唱える説は、彼のその説を基本とし、更にその深い所まで掘り下げた物だという事を先に述べておこう。
得てしてこの先住民族というものは迫害される傾向にある。
アメリカ開拓史におけるインディアンがそうであったように、彼らサンカも現在の日本人の先祖がこの土地にやってきた折にその殆んどが追いたてられ、山に住むようになったのだ、というのが柳田國男の唱えるところだ。
この事から、日本は自らが侵略民族であるという事を認めたくないが為に、サンカに纏わる資料のことごとくを闇の中に葬ってきた、と考える者も居る。
最も、そえは私の考える仮説とは異なる。
しかしてサンカに関する資料が残っていないのも事実だ。
では、何故残っていないのか。
- 48 名前: ◆fkFC0hkKyQ 投稿日:2010/03/07(日) 22:11:38.76 ID:fbeacQhE0
- 読者諸賢に問おう。
我々人類とは全く異なった社会構造を持つ知的生命体と人類が出会った場合、人類はどのような反応を取りうるか。
恐らくは、初めに混乱がある筈だ。
向うがこちらに敵対的なのか、はたまた友好的名のか。
コミュニケーションはとれるのか。共存は可能なのか。
ここまでで、賢明な読者にはもう察しがついているだろう。
つまりは、そう言うことなのだ。
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