( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:32:07.62 ID:nqDfz3xo0
その世界には二つの大陸があった。

VIP大陸とラウンジ大陸。
まるで地球を分かつように存在していたそのニ大陸は、ずっと戦争を続けていた。

片方の大陸でしか生えない植物。
片方の大陸でしか生息しない動物。
片方の大陸でしか取れない鉱物
片方の大陸にしか伝わらない技術

相手の大陸の利点を得ようと、必死になっていた。

その戦いは

火の玉が飛び
氷の礫が襲い
白刃が血の雨を降らし
鉛玉が肉体を抉る

そんな凄惨な光景ばかりを生んでいた。

だが、ある時


VIP大陸に一陣の風が吹いた。


その風はVIP大陸の者には全く手を出さず

真っ直ぐとラウンジ大陸へと向かった。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:33:23.36 ID:nqDfz3xo0
風は

焼け死んだ者
首をはねられた者
竜巻に巻き込まれ死んだ者
大岩に押しつぶされた者  というように
大量に死骸を残して進んでいた。

風はラウンジ大陸の核であるラウンジ王国まで止まることなく進み
遂にたどり着いたラウンジ城の王へ、言った。

「武器を捨てろ。さもなくば殺す。」

その冷たい声を聞いた王は、失禁しながら首を縦に振る。

長年に渡る戦争は、そこで終結したのだった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:34:52.36 ID:nqDfz3xo0







( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。







5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:36:20.10 ID:nqDfz3xo0
見渡す限りの草原
生い茂る木々
真っ青な空

VIP大陸にある、そんな人里から離れた山の中に彼は住んでいた。


( ・∀・)「よいしょっと。」

彼は土を耕していた。
蒼い開襟シャツの一番上のボタンだけを外し、動きやすそうな布のズボンを履いている。
首には一枚のタオルがかけられており、どこからどうみても農家の人間だった。

だが年はそう重ねてないように見える。20代半ばぐらいだろうか。
皺もなく、むしろツヤツヤとした綺麗な肌。
少し細身だが、筋肉はそれなりにあるみたいだ。
身長も至って普通。

山内の草原から、更に一つ丘を越えた先にある畑で彼は農作業をしていた。
緑の中にある土色の大地は、彼一人を養うとわりには大きすぎるほど広かった。

畑には土色以外のものも多々見ることができる。
赤い色の果実。広葉をつけた細い蔓。
どうやら野菜園のようだ。

(; ・∀・)「ふー…今日は日差しが強いねぇ。」

誰に言うのではなく、ただの独り言を彼は呟いた。
返事は期待していない。
一人なのは、彼自身が望んだことだからだ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:38:58.51 ID:nqDfz3xo0
呟きを終えてから、彼は一つの果実をもぎ取ってみた。
赤色の楕円系に近い果実。トマトフルーツだ。
ある地域では、悪魔の実とも呼ばれていたがそれはこの色のせいだろう。

かじってみると、爽やかな酸味と共に舌を喜ばせる甘味が口の中に広がった。

( ・∀・)「うん。おいしい。」

にっこり笑って、ヘタのみを残して彼はトマトを完食した。
自慢のトマト畑は遥か彼方までびっしりと伸びている。

( ・∀・)「そろそろ収穫かな。」

まだ若干、緑色のものもあるがほとんどが完熟している。
山の地形は温冷差が激しい。
昨日までは春のような気温だったと思ったら、次の日は葉が縮こまるほど風の冷たい日もある。
だが、戦争の爪跡の残る下界での栽培では彼の作ったような野菜はできないのだ。

それはこの世界に魔法が浸透しきっているのが理由だった。

虫がつかないように、葉に防虫の魔法をかけたり
雨の日でも、室内で太陽の輝きと同じ効果の魔法で光合成させたり

何も植物だけの問題ではない。
家畜についても同じだった。
狭い小屋にギュウギュウ詰めされ、ストレスを緩和させる魔法をかけられて育っていく。

人の口に入るものが、そんなムチャクチャな製法をされていたら気分がいいものではない。
魔法は所詮魔法。自然の力には及ばないのだ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:42:37.41 ID:nqDfz3xo0
そんなことは誰もがわかっている。
だが、自然栽培のみでは生産が追いつかないほど人口は増え始めていた。

特に戦争終結後はまともな大地など数えるほどしか残っていない。

今までは人口が減っていく一方だったが、今では増えていく一方。
魔法栽培は仕方が無いといえば仕方の無いことではあった。



( ・∀・)「よし、っと。」

次の日。

彼は荷車に取れたての野菜を乗せた。
荷車の動力は馬。
近くに生息していた野生の馬を彼が飼いならしているのだ。

( ・∀・)「それじゃ、重いだろうけどお願いね。」

荷車の前面に乗ってポンポンと馬の背を叩いた。
それだけで馬はゆっくりと動き出し、人の手によって整備されていない獣道を降りていった。

人との関わりを嫌う彼でも、やりたいことだけはある。

この魔法のかかっていない野菜を、できるだけ多くのお店に並べることだ。
本物の大地の恵みを、これからを生きていく子供達に知ってほしい。
そして、自然こそが一番だと気づき少しでも魔法栽培の緩和になれば良いなと思っているのだ。
些細なことだろうけど、それが解決に繋がる。そう信じて。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:44:20.14 ID:nqDfz3xo0
( ・∀・)「あ、止まって。」

馬に揺られて3時間。
徐々に慣らされた歩道が見えてきた。
森の中から現れた彼だが、まるで何かから隠れるようにして荷車の中に入る。

( -∀-)「…ん〜。」

( ´∀`) =3 ポンッ!

急に念じ始めた彼は、指先から煙を発した。
その煙は彼の顔にふりかかる。
すると、皺一つ無い顔に初老の男性並みの線が刻まれた。
目もパッチリとしたものではなく、細く垂れた感じになってしまった。

( ´∀`)「待たせたね、行こうか。」

しわがれた声を発しながら背中を叩くと、また馬は動き出しその蹄で慣らされた道を蹴っていった。

再び歩くこと1時間。
彼は、大きな街に到着した。
人々が溢れ、富豪が住んでいるであろう大きな家は外からでも覗くことが出来る。

入り口は小さなアーチがかかった格子付きの正門のみ。
他は街を守るように金属製の高くて丈夫な塀で覆われているのだ。

( ^Д^) 「あ、どうも!」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:45:41.60 ID:nqDfz3xo0
正門に立っていた二人の衛兵のうちの一人が、初老の男性になった彼に話しかけた。
とても気さくな感じで、初対面というわけではないらしい。
格好は鉛色の兜に鎧。ショートスピアと短剣を身に付けるという標準的な姿だった。

( ´∀`)「こんにちは。」

( ^Д^) 「こんにちは。今日もたくさん仕入れてきましたね。」

若い衛兵は彼の背中の荷車を見ながら言った。

( ´∀`)「そうだろう。じゃあ、通してくれるかな。」

( ^Д^) 「はい。少々お待ちを。」

衛兵は後ろを向くと、正門の傍にある鍵穴に腰に下げていた鍵を差し込んだ。
そして、一度回してから

( ^Д^) 「No.2398 プギャー=タッカーラ。正門解放を命ず。」

と鍵穴に呟いた。
すると、格子が様々な方向へ引っ込んでいき空間を作った。
これで街中に入れるようだ。

( ^Д^) 「どうぞ。」

プギャーと言う名の衛兵は手のひらで先に進むように催促した。

( ´∀`)「どうも。」

彼は素気なく返事をし、馬車ごと街中へと入っていった。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:47:23.77 ID:nqDfz3xo0
煉瓦で敷き詰められた歩道を馬車が歩く。
右を見れば民家があるし、左を見ても民家がある。
木製作りの普通の民家。
その前に跋扈するように声を上げているのは様々な露店。

薬草屋であったり、武器屋であったり
日用品を売る店だったり、妖しげな薬を売る店だったり
売るものは違えど目的は一緒。金を儲けたいのだ。

大陸の名を冠するこのVIPという街の露店街は毎日がこのようにして回っている。

( ´∀`)「やぁ、こんにちは。」

(*゚∀゚)「オー、タレ目のおっちゃん!」

そんな露店街の一画にある野菜屋さんの前で彼は止まった。
荷車から降りながら、店番の少女へ挨拶する。

(*゚∀゚)「今日も持って来てくれたんだな。ありがとよ!」

ピョンピョンはねながら少女は元気一杯に言う。
半ズボンのサロペットとシャツを着込んだ可愛らしい少女。

彼と彼女の関係は単純。
物資を売る者と買う者だ。それ以上でも以下でもない。

彼が作った野菜を、この野菜屋へ売る。
そして、前回売った野菜の売り上げの一部を彼がもらうという形式をとっていた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:49:10.44 ID:nqDfz3xo0
(*゚∀゚)「いやーおっちゃんの野菜ってホントウマイよなー!
     うちで作るものなんていっつも売れ残るのに、おっちゃんのだけは常に完売なんだぜ!」

女の子らしくないちょっと乱暴な言い方にも随分慣れた。
彼はそんな自分を認識しながら、荷車から野菜をおろす。

( ´∀`)「これが今回の分だよ。」

(*゚∀゚)「サンキュー。後で広げとくからそこらへんにほっぽいて良いよー。
     お金はテーブルの下に入ってるから取っていってちょーだいな。」

彼は言われた通りに、木材で包装した野菜たちを店の中に運び込む。
ここは家の前にカウンターを置き、そこで野菜たちを広げて売るというスタイルなのだ。
一般的な八百屋と同じと言っても構わない。

( ´∀`)「それじゃ、私はここらで。」

テーブルの下にあるお金を少しだけもらい、彼はすぐに軽くなった荷車に乗って去ろうとした。

(*゚∀゚)「あ! ちょっと待って!」

( ´∀`)「?」

馬車の上から彼は疑問に思う。
お金は受け取ったし、野菜も渡した。他にすることはないはずだ。
呼び止めた少女を見ながら彼は次の句を待った。

(*゚∀゚)「たまには飯でも食っていかねぇ?
     オレ、結構料理には自信があるんだぜ!」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:51:05.39 ID:nqDfz3xo0
彼女は店番の他に、家事もすべて行っている。
母は既に他界し、父も戦争に参加した時の傷がまだ痛むようで寝込んでいるのだ。
実質、彼女は一人暮らしとほぼ変わらない生活をしていることになる。
養う人が居る分、一人暮らしよりももっと辛いものだが…

それでも彼女は明るく振舞う。今年で13歳になるみたいなのだが…立派なものだ。

( ´∀`)「ありがとう。でも今日はやることがあるから遠慮しとくよ。」

(*゚∀゚)「えー!? なんでー? ついでにおっちゃんの話とか聞いてみたかったのにー…。
     学校で話したら、おっちゃんのこと聞いてこい! って友達に言われちゃったんだぜ?」



少女の言う学校とは。
この街に在する兵士養成学校のことだ。

13歳から15歳までの子供は強制的に通うことになっている。
素質のある兵士を見つけるための国の政策だった。
いつ、また戦争がぶり返すかわからない。
だからいつだって万全の状態を保っておく。VIP国の王はそう考えていた。

ちなみに学校では、13歳…つまり一年生の時は白兵戦、魔法戦の二つを学ぶ。
そして二年生にあがる時に自分の素質にあったどちらかのクラスへ進む。
三年生は鍛錬を重ねるだけだが、その年の最後に一度だけ傭兵テストを受けさせられる。

落ちればそこまでだし、受ければ傭兵となり職が見つかるわけだ。
親が自営業を行っていない者は、そこで何とか受かろうと必死になっている。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:52:57.27 ID:nqDfz3xo0
シュンとなる彼女の年相応の姿を見て、彼は優しく笑った。

( ´∀`)「ごめんね。けど、私の話なんて…聞いても気持ちのいいことではないからね。
      またいつか、暇な時に頼むよ。」

(*゚∀゚)「ちぇー。わかったよ。じゃね!」

少女は手を振って彼を見送った。
小額だがお金を手に入れた彼は、必要最低限の生活用品を積荷にし、再び山の中へと帰っていった。





夕闇に暮れる森の中を彼は歩く。

( ・∀・)=3「もういいかな。」

顔にかけていた変化呪文を解き、再び素顔へ戻る。
街に降りるときは自分の正体がばれないように変装しているのだ。
理由は…まだ語るには至らない。

( ・∀・)「……。」

ふと、昼間の少女のことを思い出す。

僕のことを聞きたいと言っていた。
対人関係を極力避けると決めた以上は、そんなことに付き合うことは出来ない。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:54:56.85 ID:nqDfz3xo0
…それに…もしも喋ったとしても…

彼女はきっと、二度と僕から野菜を買うことはしなくなるだろう。
今がどうでも、過去は過去。
過去の自分は今の自分でもある。その繋がりは…絶対に断ち切ることなんて出来ない。


( ・∀・)「よし、ありがとね。」

馬から下りて、手綱を外した。
柵も何も作っていないが、馬は自ら彼の家の離れにある馬小屋へと入っていった。

( ・∀・)「ただいまー。」

返事はないのに彼は言った。
大樹の根元に立てた小さな木造の小屋へ入って、言った。
靴と木の奏でる音を聞きながら、部屋の壁に作った暖炉に火をつける。
マッチで種火を作り、そこへ腐りかけた木の薪を投げ入れていく。

しばらくすると、明るさと共に暖かさが部屋を満たした。

部屋の端には簡素なキッチン。水道はないが、かまどはある。
中央にあるのは正方形の小さなテーブル。
一人で十分なのだが、収まりが悪いからという理由で椅子は四つ備えていた。

その一つに腰をかけ、彼は昼に買ってきた新聞を広げて読み始めた。


新聞に書かれた日付は戦争終了後から10年後となっている。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:56:47.61 ID:nqDfz3xo0
それなのに……


(  ∀ )「……。」


未だに『あのこと』が書かれているのを彼は落胆せざるを得なかった。

『特集! 彼はいずこ!?』

『世界最強の魔導師の使っていたレプリカステッキ! 今なら二本セットで』


……等々。


勝手な評論家が英雄と崇めたり
勝手な小説家が小説を書いたり
勝手な批評家が悪魔と吐き捨てたり

なんで…?
もう戦争は終わったのに……。

彼は新聞を暖炉へ投げ捨てた。
穴を広げていくようにして炭となる新聞紙を見届けた後
彼は腹を立てたまま、狭い階段を使って二階へとあがった。
あがった先は狭い屋根裏。
ベッドと身の回りのものしか置いていない。
小さな柵が設けられているだけで、一階とほぼ変わらない。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:58:13.27 ID:nqDfz3xo0
乱暴にベッドへ身をなげて、天窓から見える空を仰ぐ。

この呪縛から解き放たれることはないだろう。
過去の自分は今の自分なのだから。


だったらどうして自分は………


それ以上、考えるのはやめた。









( -∀・)「ん…。」

窓から差し込む木漏れ日を浴びてモララーは目覚めた。
一晩眠れば、もう昨日のことに一々腹を立てることもない。
少しだけ冷静になった自分を見つめなおし、今日もまた一日が始まる。

階下に降りて、赤くなっている炭をしっかり消火。
自分の手でつけたキッチンの前に立って、丘の先にある畑で育てた野菜を使って料理を始めた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 19:59:29.78 ID:nqDfz3xo0



( ・∀・)「ごちそうさまでした。」

自分の血肉となった野菜たちへ感謝の意味を込めての食後の挨拶。
食器を片付けて、今日はまず何をしようと考える。

畑仕事はとりあえず最後にして…

視線を机の斜め下へずらす。
そこには木のバスケットに適当に丸め込まれた衣服が山と化していた。

( ・∀・)「まずは洗濯だね。」

彼は立ち上がり、バスケットを持って外へ出た。

山の澄んだ空気を肺一杯に溜める。
そして身体の中にある汚れを出すようにして、口から息を吐いた。

( ・∀・)「おっせんたくー♪ おっせんたくー♪」

作詞作曲『自分』の歌を口ずさみながら彼は家の裏へと向かった。
そこには街で買った無魔法洗剤と、桶と洗濯板が置いてあった。

家の傍に掘った井戸から水を汲んで、桶に注ぎ込む。

そして洗剤を少量付け、洗濯板へ汚れた衣服を擦り始めた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:01:26.02 ID:nqDfz3xo0
太陽が真上に昇りかけ、額の汗が頬を伝うようになった頃
溜まった洗濯物は汚れをなくし、バスケットへ放り込まれていた。

( ・∀・)「干すぜ〜。超干すぜ〜。」

大樹の陰にならない草原までモララーはバスケットを抱えて持っていく。
そして、あらかじめ立ててあった木々にかけられた物干し竿に洗濯物をぶら下げていった。

( ・∀・)「よし、終わり!」

額を拭って風と踊る衣服を見る。
日が暮れる頃には乾いているだろう。
バスケットを家の中へ、そして桶や洗濯板を片付けてからモララーは鍬を持った。

今日も今日とで畑仕事。
明日も明後日も明々後日も
ずっとずっと続いていくだろう。

変わらない風景で変わらない生活を送る。
それが彼の決めた余生だ。


( ・∀・)「……おや?」

丘を越えた所で、見慣れぬ物体を見た。
おかしいな、突風で案山子(かかし)が飛ばされたのかな?

そう思ってゆっくりと人間大のその物体に近づく。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:02:51.76 ID:nqDfz3xo0
(; ・∀・)「……!」

鍬を手放し、彼は走った。
案山子なんかじゃない。
正真正銘、人間じゃないか!

うつ伏せに倒れているその人間を仰向けに転がして顔を伺う。

(ヽ´ω`)

頬が少しこけてはいるが、息はまだある。
顔や体躯から見て子供だ。

彼は急いで少年を抱き上げて、なるべく丁寧に家へと運び込んだ。

(; ・∀・)「…仕方ない!」

家の前まで来た所で両手が塞がっていることに気づいた。
鍵は必要ないから作ってもいないが、ドアノブくらいは作ってある。

ここでモタモタしていたらこの少年が死んでしまうかもしれない。
そう思って、彼はドアノブに向かって眼力を込めた。

すると、ノブが勝手に回り独りでにドアが開いた。

家に入るや否や彼は少年を抱えたまま一度跳躍。
軽く飛んだはずなのに、天井すれすれまで上昇する。
階段で繋がっている屋根裏へ一足飛びで舞い上がったのだ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:05:09.64 ID:nqDfz3xo0
( ・∀・)「よし、次は…」

ベッドに優しく寝かせ、彼は急いで一階に降りる。

そしてキッチンの上にある棚からある薬草を取り出した。
次にすり鉢とすりこぎを机に置く。

だがそれも全て彼は机に立ったまま、指先を右往左往させながら行っていたのだ。
つまりは、それらは全て空中浮遊してから机に置かれたのだ。

( ・∀・)「ほっ!」

薬草をすり鉢に突っ込む。
すりこぎを浮遊させ、そのまま鉢に入っている薬草をすり潰し始めた。
人間の手による速さでは出せないほど高速ですりこぎが動く。
瞬きをニ、三回した頃には薬草はもう完全なペースト状になっていた。

次に彼はヤカンに水を入れた。
開けっ放しの扉から、また指先の誘導により飛んでいったヤカンが井戸から水を汲んできたのだ。
手元に戻ってきたヤカンに彼は一度、指を振るう。

すると、小さく破裂音が鳴りヤカンが蒸気を上げた。
一瞬にして沸騰したのだ。

ペースト状の薬草をお湯に投げ込み、宙で指先をグルグル回す。
中でお湯と薬草が回転し均等に混ざっていく。
これで薬茶の完成である。
手を一度振り上げ、棚からコップを出してそのままヤカンと一緒に二階へあがった。
もちろん彼も一緒に飛んで、だ。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:06:25.63 ID:nqDfz3xo0
( ・∀・)「さぁ、飲むんだ!」

コップに薬茶を注ぎ、適度に風を起こして飲みやすい温度に冷ましてから少年の口へ。
口に含んでからは、首を持ち上げて流動を良くさせる。
生きようとする意志か、少年はゴクリとそれを飲んだ。

すると



(ヽ´ω`)


( ´ω`)

( ^ω`)

( ^ω^)

(  ^ω゚)

(  ゚ω゚)


( ・∀・)「よかった、目が覚め( * ゚ω゚)「ふふぉおおおおおおお!!!???」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:11:02.50 ID:nqDfz3xo0
目が覚めた少年はベッドから跳ね起きた。
そして目をギンギンにさせながらあたりを見回して

( * ゚ω゚)「なななななななんだぉおおおおお!!!??」

と叫びながら更に激しくベッドで跳ねた。
どうやら、薬が効きすぎたみたいだ。

(; ・∀・)「と、とりあえず落ち着いて。」

( * ゚ω゚)「はっはひぃいいい!!!」

未だに跳ね続ける少年。
少しぽっちゃりした体型なので、このまま跳ね続けられると…
床が抜けるかベッドが壊れるか、どっちかが起こってしまうかもしれない。

( -∀-)(…自分の責任だもんなぁ…仕方ない。
      興奮状態だから気づかないだろうしね。)

モララーは目を瞑って、少年に向かって指を振り下ろした。

( * ゚ω゚)「ふぉ!?」

急に身体が緊張した。しかも空中で。
そして、まるで人形のように関節がカクカクと動き始める。
動きが止まると、次はゆっくりと降下してベッドに座る形をとった。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:14:43.38 ID:nqDfz3xo0
( ・∀・)「大丈夫?」

( * ゚ω゚)「はひ!」

まだ落ち着いてないようだが、返事は出来るみたいだ。

( ・∀・)「とりあえず、落ち着こうか。
      ちょっと目を閉じてごらん。」

( * -ω-)「はひぃ!」

子供らしい素直な反応。
モララーは目を閉じた少年の眉間に人差し指を置いた。

そして少しだけ力を込める。
すると、指先から淡い色の波紋が広がり彼を包んでいった。

次に少年が目を開けると、彼の目は澄んだ細くて柔和な目に
彼元々が持っている目に戻っていた。

( ^ω^)「…お?」

( ・∀・)「ごめんね。どうやらクレストの量を多くしすぎたみたいだ。」

モララーはそう言って背中に持ってきた薬草を見せた。
乾燥した青色の細長い葉。これがクレストという薬草らしい。

( ^ω^)「クレスト? クレストってあの傷口に塗るクレストかお?」

( ・∀・)「そうだよ。」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:15:58.21 ID:nqDfz3xo0
(; ゚ω゚)「そ、そんなもん飲ませたのかお!? クレストは飲むもんじゃないお!!!
      まさかあんた殺す気かお!? 誰か助けて!!
      あれ!? 動けない!?」

少年は叫びながら今更自分の状態に気づいた。

(; ゚ω゚)「やめて! 殺さないで! ぼくを食っても豚の味しかしないお!!」

( ・∀・)(豚の味はするんだ…。)

暴れる少年に、モララーは指先を向けた。
何かが割れるような音がして少年は自由になった。

(; ^ω^)「……お!?」

少し間を置いてから指先や肘を動かして少年は身体の感触を確かめる。

( ・∀・)「大丈夫だよ。僕は君を殺すつもりなんて全くないから。」

両手を広げて安全性をアピール。
もっとも、彼にとって両手を広げることは安全性を教えるのに何の意味もないが…
それでもこの目の前の少年には効果があったみたいだ。

( ^ω^)「…ほんとかお?」

( ・∀・)「あぁ、ホントさ。」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:20:16.02 ID:nqDfz3xo0
( ^ω^)「…………あれ? というかぼく…山の中に逃げて…
      空腹が限界になったから、仕方なし帰ろうとしたのに道がわからなくなって…
      なんか良い匂いがする方向へ走ってる途中で意識を失ったんじゃなかったっけ?」

( ・∀・)「凄い勢いで説明口調だね。」

(; ^ω^)「あれ? もしかして…あなたはぼくを助けてくれたのかお?」

( ・∀・)「…まぁ、そういうことになるかな。」

(; ゚ω゚)!!!

間違いに気づいた途端、少年はベッドから飛び降りて土下座をした。

(; ^ω^)「すみませんでしたお!! 助けてもらったのに酷いこと言ってしまって!!
      もうホントにすみませんお! よかったら出汁にでもなんでもしてくださいお!! いい豚骨スープができますから!!」

(; ・∀・)「い、いや…それはいいよ。別に当然のことしただけだから…。」


( ^ω^)


( ;ω;)


煤i; ・∀・) !?

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:22:06.92 ID:nqDfz3xo0
( ;ω;)「助けてくれた上に、ぼくの失態も許してくれるなんて…
      なんていい人なんですかお…。」

おいおい泣き崩れる小太りの少年を見ながら、彼は頬を掻きながらちょっと困ったように言った。

(; ・∀・)「ま、まぁもういいからさ。君の話を聞こうか。
      帰り場所も教えてくれたら、送るからさ。」

( ^ω^)「……そうですおね。」

( ・∀・)「……?」

子供らしいオーバーなリアクションをすると思えば
帰る話をした途端、まるで人が変わったかのように表情を曇らせた。

( ・∀・)「とりあえず、君の名前は?」

下の階の机に座らせて、モララーは話を聞くことにした。
小太りの少年は少し俯きながら返答をしていく。

( ^ω^)「ブーン=ホライゾネル。見ての通り、VIP傭兵学校の生徒ですお。
      13歳ですお。今は騎士を目指してますお。」

今更ながら、服装の特異性に気づいた。
半そでの開襟シャツとチェックのズボン。普通の学生の格好かと思いきや…
腰には小型のナイフ。シャツの袖にはルーン文字でVIPと書かれたマークが縫ってあった。

そして…モララーは引っかかる言葉にも気づいた。

( ・∀・)「…ホライゾネル?」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:24:10.06 ID:nqDfz3xo0
( ^ω^)「はい、そうですお。」

( ・∀・)「もしかして、ロマネスク=ホライゾネルのお子さんかな?」

( ^ω^)「そうですお。あの有名な『聖騎士』ロマネスク=ホライゾネルの一人息子ですお。」

( ・∀・)「そっか…。」

( ^ω^)「ところで、あなたは…?」

( ・∀・)「ん? 僕かい?」

といいかけた所で

彼は失態に気づいた。
あいてが子供だから、警戒心を怠っていた。
…顔を変化させるのを忘れていたのだ。

そのことに気づいた途端。
俯いていたはずのブーンという名の少年がこっちを見ていることが急にわかってしまった。

( ^ω^)「…………も」

(* ^ω^)「もしかして…!」

(; -∀-)=3「……。」

モララーは観念した。
これ以上隠すこともできないだろう。
後は彼の言いかけた台詞を待つだけだ。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/01(日) 20:25:35.62 ID:nqDfz3xo0
溜めに溜めたブーンは、興奮しきった口調で言った。



(* ^ω^)「戦争を終わらせた英雄…モララー=レンデセイバーさんですかお!?」



予想違わず、少年は聞きたくない言葉を彼に向かって言ってしまった。











続く。

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