( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。

2 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:28:16.33 ID:tO1nCvxa0
(* ^ω^)「戦争を終わらせた英雄…モララー=レンデセイバーさんですかお!?」


彼は少し戸惑った。
いいえ、と言う方法もあるが様々な魔法はもう見せてしまった。
得意魔法の物体浮遊。クレスト草の薬茶。特に後者はほぼ自分しか知りえない技術でもある。
きっと、ブーンが父のロマネスクに話せば遅かれ早かれバレてしまうだろう。
好奇心旺盛なこの年頃の子に秘密にしておいて、と言ってもきっと無理だ。

ならば良心のためにここでは本当のことを言おう。

(; -∀-)「……そうだよ。」

手のひらを向けながらモララーは諦めたように言った。

(* ^ω^)「ひょおおおおお!!! ホントですかお!? ホントですかお!?
      まさかこんな所で英雄に会えるなんて思ってもみなかったお!!」

机に体重をかけ、足をピョンピョンさせてブーンは喜ぶ。
そんな無垢な少年にモララーはあえて冷たく言った。

( -∀-)「よしてくれよ。英雄なんて。僕はそんなんじゃない。」

( ^ω^)「………? なんでですかお?」

ピタリと大きな声も行動も制止するブーン。
首をかしげながらモララーへ問う。純粋に意味がわからないから。

3 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:30:25.44 ID:tO1nCvxa0
( ・∀・)「僕はたくさんの人を殺したんだ。
      『一人殺せば殺人者で百人殺せば英雄』なんて言葉があるけど…そんなのは戯言さ。」

( ・∀・)「大勢だろうと一人だろうと…僕がその人の人生を終わらせたことには違いはない。
      人、一人の命の重さはみんな一緒なんだからさ。」

( ・∀・)「……だから…僕は英雄じゃない。」

( -∀-)「ただの……殺人狂だよ。」

( ^ω^)「違いますお!」

机に手を叩きつけながらブーンが叫んだ。
純粋な瞳がモララーを射抜く。
…父親と違って大きくは無いけれど…その目力は一緒みたいだ。
逃げられない。まるで停止の魔法をかけられたように。
モララーはブーンが何を言ってくるのか、待つしかなかった。

( ^ω^)「確かに…モララーさんはたくさんの人を殺しましたお。」

( ^ω^)「けど! 戦争を終わらせたことは事実ですおね?」

( ・∀・)「……。」

( ^ω^)「実力伯仲だった両軍勢。
      きっと、モララーさんが居なかったら…もっともっとたくさんの人が死んでいたんですお!」

( ^ω^)「もしかしたら、父ちゃんも死んでしまって…ぼくはここに存在していなかったかもしれないお。」

( ^ω^)「だから! そんな両兵士たちの未来を救ったあなたは…英雄としか言えませんお!!」

4 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:32:36.16 ID:tO1nCvxa0
( -∀-)「……。」

そんな考えはしたことがなかった。
…兵士たちの未来を救った……か。

( ・∀・)「君は年齢不相応なほどしっかりした考えを持ってるね。」

(* ^ω^)「…いや、実はコレ…いっつも父ちゃんが言ってることなんですお。」

(; ・∀・)「あ、そうなの。」

ロマネスクらしい考えだな。
聖騎士…つまり、騎士隊の隊長ほどの実力を持った彼は愚直なほど芯の通った人だった。
裏表がなく、ただひたすらに純粋。強さの秘訣はそこにあったのかもしれない。

( ・∀・)「ところでさ、ブーン君はどうしてこんな山の中に?」

(; ^ω^)「え? い、いや…まぁ…その……。」

急にブーンは口ごもった。
この僻地まで来た理由は空腹によって畑を目指したからだ。

だが、山の中に来たまでの理由までは不明。
口ぶりからするに…狩りに来たとかそんな理由ではない。武装もしていないみたいだし。
これくらいは魔法で自白させるまでもなく、持ち前の洞察力で見抜けた。

( ・∀・)「大丈夫だよ。どうせ僕は街にすらほとんど降りることもない。
      話したところで、噂が広まるなんてことは絶対にありえないよ。」

( ・∀・)「けど君は僕に、その抱えた問題を話したことで楽になれるかもしれない。」

5 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:35:18.38 ID:tO1nCvxa0
戦友の息子が悩んでいる。
ただ手当てをして家に帰す、彼は冷血な人間ではないのだ。
自分と出会ってしまった以上は、少しでも彼の助けになりたい。モララーはそう思っていた。

(; ^ω^)「ん〜………。」

少年は唸る。
少しおつむが弱いのか、モララーの言葉を頭の中で何とか理解しようと必死になっている。
そして、わかったのかわかってないのかは不明だが

(; ^ω^)「わかりましたお。」

と、経緯の説明を受諾した。

( ^ω^)「………ちょっと学校で嫌なことがあって…」

( ・∀・)「嫌なこと?」

(;  ω )「はい。…その……まぁ…イジメって奴ですかお。」
   
( ^ω^)「モララーさんなら、ノーファルって名前知ってますおね?」

( ・∀・)「ノーファル………あぁ、聖魔術師シャキン=ノーファルの?」

聖魔術師とは、聖騎士の魔術師版。
魔術師隊を率いる隊長が得られる称号だ。

( ^ω^)「そうですお。
      実は…そのノーファル家のショボン君に…………」

7 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:37:49.63 ID:tO1nCvxa0
それ以上はブーンは言わなかった。
ギュッとズボンの裾を握り締めて歯を食いしばっている。
モララーも言及はしなかった。言いたいことはそれでわかったから。

( ・∀・)「キミは黙ってやられるだけだったの?」

( ^ω^)「やり返そうとすると…ショボン君は、『ボクの父ちゃんに言いつけるぞ!』って言うんですお。」

ブーンの親は聖騎士ロマネスク=ホライゾネル。

対し、ショボンの親は聖魔導士シャキン=ノーファル

階級はほぼ一緒だが…一緒だからこそ問題が大きい。
もしも両者が喧嘩を始めたら、国を巻き込むほどの戦争に発展する可能性もある。
また多くの血が流れることになる。

ブーンはそれをわかって耐えていたのだ。

( ・∀・)「それで、遂に耐えられなくなったのか…。」

( ^ω^)「それもありますお…。
      でも何より……家に帰りたくなかったんですお。」

( ・∀・)「家に?」

( ^ω^)「…父ちゃんに…会わす顔がなくて……。」

彼は小さいなれど、立派な男の子。
いじめられて帰ってきたなんて…親にはいえない。

9 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:39:58.11 ID:tO1nCvxa0
何よりも『聖騎士』である彼の息子がイジメに遭っている。
やり返せないし、彼の父は物事を見抜く能力に長けている。
一度会ってしまえば、もう隠すことはできそうにない。

そんな事実がブーンに更にプレッシャーをかけたのだった。

( ・∀・)「そっか…」

(  ω )「……ぼく…どうすれば……良いんですかおね…。」

震えながらブーンは聞いた。
どうしようもない、どうしていいかわからない。
モララーが何とかしてくれるとも思ってはいない。曲がりなりにも武家の人間なんだ。
自分の問題は自分で片付ける。それを幼い頃からすりこまれていたから。

だからブーンは聞いた。
頼って任せるのではなく、聞いたのだ。
何か解決策になる知恵をもらえると信じて。

( ・∀・)「……僕は魔術師だ。
      騎士である君に修行をつけたり、戦闘における必勝法なんてものも伝授できない。
      スタイルが全く異なるからね。」

(  ω )「……そりゃ…そうですおね……。」

( ・∀・)「でも、心は教えることができる。」

( ^ω^)「…え?」

モララーは胸の辺りを叩き、ウインクしながら続ける。

10 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:42:29.06 ID:tO1nCvxa0
( -∀・)「恐れなければ良いんだ。」

( ^ω^)「恐れなければ…?」

( ・∀・)「そうさ。話していてわかったけど、君は優しい人間だ。
      殴った相手に怪我をさせる恐れ。殴った拳が痛くなる恐れ。
      その先に待つ、争いごとが起こる恐れ。
      きっとそれらを恐れて、手が出せないんだと思う。」

( ^ω^)「……。」

肯定はしなかったが否定もしなかった。
だからモララーは続ける。

( ・∀・)「イジメなんてもんは、親玉を一度でも鼻血面にしてしまえばそれで勝ちさ!
      『こいつは実は強い。だからイジメると自分もただではすまなくなる』って思わせるんだ。」

( ^ω^)「はなぢづら…。」

(; -∀・)「正直、喧嘩することを薦めたくないんだけどね。
      話し合いで解決できる人間じゃないのは、きっとシャキンさんと同じだろうから仕方ないさ。」

( ・∀・)「でも、忘れないでくれ。君は前に進むために喧嘩をするんだ。
      恐れることなんて、何も無いよ。」

( ^ω^)「……。」

( ・∀・)「子供の喧嘩如きで再び戦争を始めるとは思えない。
      だから大丈夫だよ。」

12 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:45:05.16 ID:tO1nCvxa0
ブーンはいつの間にかモララーの目を見ていた。
綺麗ではなく、少し哀しみを伴った瞳。
けど、とても力強かった。

( ^ω^)「わかりましたお!」

ブーンは立ち上がって息を荒げた。
この調子ならきっと大丈夫かな。
この単純さは父親譲りだ。

…問題はノーファル家か。

戦争中から、あまり気持ちの良い人だとは思わなかったな。
利用できるものは利用し、気に入らないものは全て破棄。
お高く纏った態度といい…正直嫌いだな。

子供の喧嘩如きで戦争を起こさないと言ったが
敵を殺す時のあの恍惚の笑み。そしてひたすらに残虐な性格。
短気ということも考えると…戦争を起こさない可能性はない。

(  ∀ )「……。」

ブーンのために、少しだけ力を貸してやろう。
彼が精一杯喧嘩できるように。
少しでも前へ進めるように。

( ^ω^)「ところでモララーさん。」

( ・∀・)「ん?」

13 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:47:58.37 ID:tO1nCvxa0
( ^ω^)「モララーさんていくつですかお?
      若いとは聞いていたけど、教科書は年齢不詳って書いてあるから聞いてみたくて。」

( ・∀・)「あぁ、僕は今年で25だよ。」

( ^ω^)「25歳ですかお。」


( ^ω^)


( ^ω^)…?

(; ^ω^)「え? じゃあ戦争時は15歳ですかお?」

( ・∀・)「そうだよ。」

(; ^ω^)「ボクの父ちゃん…モララーさんのこと話す時凄い丁寧な言い方になってますお…。」

( ・∀・)「いや、ロマネスクさんはそういう人だし。年齢差なんて気にしてないからさ。
      敬意の払う人には徹底的に畏まる。そんな人じゃないか。」

( ^ω^)「そうなんですかお?」

( ・∀・)「そうだよ。」

二人は一斉に笑った。
息子のくせにあまり親のことを把握していない感じがおかしくて。

14 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:50:08.46 ID:tO1nCvxa0
同時にモララーは思った。
笑ったのなんて10年ぶりだな、と。

ここで隠居暮らしをしてからは初めてだろう。
人と人との会話は………やっぱり楽しい。

でも、この暮らしは自分で決めたことなんだから耐えるしかない。

( ^ω^)「それじゃ、そろそろ帰りますお。
      薬茶ありがとうございましたお。」

( ・∀・)「うん。どういたしまして。
      よかったら送っていくけど、どうだい?」

( ^ω^)「ん〜……」

ブーンは考える。
ここまでの道のりなんて覚えていない。
どうやらかなり山奥みたいだし…帰れる保証はない。

(; ^ω^)「…お願いしてもいいですかお?」

( ・∀・)「わかった。じゃ、外に出てくれるかな?
      玄関の前で待ってて。」

( ^ω^)「はい。」

外にブーンは出た。
時間は昼。
学校はもうすぐ昼食だぜ、と生徒がそわそわし始めている頃だろう。

15 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:52:50.40 ID:tO1nCvxa0
( ・∀・)「じゃあ、送るね。ホライゾネル家は、戦争前から変わってない?」

( ^ω^)「? はい、確かそうですお。」

何で今から家のことを聞くんだろう?
人里付近まで送ってくれればそれでいいのに。
そう思いながらブーンは佇む。

( -∀-)「…時の間で空成る間へ。我が描きし時空へ飛ばせ…。」

ブツブツとモララーが呟く。
指は人差し指と中指の二本を立てて眉間へ。
もう一つの手はブーンの足先付近を指している。

(; ^ω^)「お?」

魔方陣がブーンの足元に出現した。
大気を吸い込むように描かれた青白い紋章は徐々にその発光を増していく。

( ・∀・)ノシ「オッケー。後は待つだけだから安心してね。
        それじゃ、ばいば〜い。お父さんによろしく!」

(; ^ω^)「え? ちょ、モララーさ…」

ブーンが手を伸ばした瞬間。
魔方陣がブーンの身体を包んだ。
そして一つの球体に変わると、そのまま浮遊して飛んでいってしまった。

( ・∀・)「…恐れるなよ、少年。」

17 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:55:01.38 ID:tO1nCvxa0
モララーはブーンが成った発光球を見届けると、家へ入っていった。
そして二階へあがっていく。今度はちゃんと階段を使って。

そして、ベッドの前へ。

( ・∀・)「……。」

ツイっと指を上に向けた。
するとどうだ。ベッドが急にひっくり返り、壁に立てかけられたではないか。

モララーはそのベッドの裏にかけられていた『ソレ』に触った。
なめらかで滑るような感触の『ソレ』は嫌な思い出くらいしか残っていない。
けど、自分の戒めを忘れないためには大切なものだった。

( ・∀・)「これも……僕の役目か。」

彼はそう呟くと、壁にかけられた過去の遺産
黒衣のマントを羽織る。
ラウンジ大陸を滅ぼした『黒風』の再誕であった。




( ^ω^)「お!?」

ブーンが次に目を開けると、果たしてそこはホライゾネル家の前だった。
VIP街の一画の居住区。
煉瓦の道路を挟んで家々が立っている。
その中の一つ。
立派な門と広い庭に、3階建て。上流階級といった感じの洋風な造りをした家が彼の自宅だ。

18 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 18:57:33.64 ID:tO1nCvxa0
( ^ω^)「……空間転移魔法…。さすがはモララーさんだお!」

彼は魔法教科書の最終ページに小さく乗っている空間転移の魔法を思い出した。
3年間、ずっと魔法の修行を続けても誰一人会得することができないほど超高度な魔法なのだ。
だからあえて教えることもしないし、こんな無茶な魔法もあるよといった程度に教科書には記載されているのだった。

( ^ω^)「…王様の耳はパパの耳。」

閉ざされた半円上の鉄門へ歩みだし、ブーンは合言葉を呟く。
すると、門が横へスライドしていき中への道を示した。
これがこの家のセキュリティだった。無理に門を開けようとすれば電撃が走る仕組みになっている。

数メートルほど歩いてやっと玄関。
そこまでは白い煉瓦の道と草むら、それと木製の椅子や机が置かれているだけだった。

ポケットから自宅の鍵を取り出して、差し込んで回す。
シリンダーの動く音が聞こえたのを確認し、ブーンは扉を開けた。

( ФωФ)「遅いのである。」

(; ^ω^)「ほあ!? と、父ちゃん!?」

彼の父親であるロマネスク=ホライゾネルが玄関で仁王立ちしていた。
年は30代後半。傭兵テストを見極めするほど、まだまだ腕には自信がある。
紺色の作務衣を纏い、腕組をする彼は尋常じゃない威圧感を放っていた。

( ФωФ)「どこへ行っていたのであるか?」

(; ^ω^)「えっと……」

20 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:00:14.69 ID:tO1nCvxa0
彼のことを言っていいものか悪いものか。
モララーは気にしてない様子だったので、言って悪いことではないだろう。

…けど、まだ言うべき時ではない
きっと早とちりな父のことだ。彼のことを話せばきっと騒ぎ立てる。

なら、全て終わってから話そう。
そう決心した彼は、唾を一度飲み込んでから返事をした。

(; ^ω^)「と、友達の家に…泊まってたんだお。」

( ФωФ)「誰であるか? ジェレイトさんであるか?」

(; ^ω^)「そ、そうだお。ツンの家に泊めてもらってたんだお!」

( ФωФ)「…」

(; ^ω^)「…」

しばらく見つめ合う親子。
一点もそらさずにロマネスクはブーンを見ていた。
そして、何かを確信したように一度頷くと

( ФωФ)「遅刻である。」

(; ^ω^)「へ?」

( ФωФ)「泊まってきたにせよ、ブーンは学校に遅刻である。
        今すぐ準備して午後からは授業に参加するのである!」

21 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:02:23.45 ID:tO1nCvxa0
(; ^ω^)「あ、わ、わかったお!」

風を巻き起こしながらブーンはロマネスクの横を駆けていった。
残された聖騎士は腕を組んだまま少しだけ表情に影を落として考えていた。

( ФωФ)(…嘘…であるか。)

ジェレイト家には既に連絡を取ってあった。
ロマネスクの友人であり戦友である、レイ=デ=ジェレイト。
その娘であり、ブーンの幼馴染であるツン=デ=ジェレイト。二人にちゃんと確認を取った。
そして二人とも、ブーンのことなんて知らないと答えていた。

ならば昨晩は一体どこへ泊まっていたのだろう?

( ФωФ)(帰ったらじっくり聞かせてもらうのである。)

ロマネスクは腕組を解き、急いで鞄を携えて走っていく息子に小さくいってらっしゃいを言って自室へ戻っていった。




(; ^ω^)「ハァ…ハァ…。」

駆けること20分。
微妙に遠い、傭兵学校…国立VIP闘技学校へ到着した。
上流階級の子供しか属していない由緒正しき学校だ。

アーチを描く正門をくぐり、校内へ。

22 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:04:33.38 ID:tO1nCvxa0
V校(世間一般ではこう呼ぶ)の構造は外見に関してはいたって普通の学校と一緒。

一本通った道が真っ直ぐ校舎へ伸びている。
途中、枝分かれするようにして体育館や第二棟への道が作られていた。

違うことがあるとすれば、所属している人間達。
上流階級ということもあり、入学当初から武術魔術に長けた生徒ばかりなのだった。
傭兵テストの合格率は年々上昇し、昨年は97%という数字をたたき出すほどだ。

ブーンは直進し、校舎へ入った。
広い昇降口にある一つの下駄箱。
そこへ靴を放り込んで、上履きに履き替える。
今日は画鋲の悪戯はないみたいだ。よかった。

安心してブーンは廊下を走る。
時間的には今は昼休み。廊下を歩く生徒をちょくちょく見かける。

ブーンは廊下の端っこで止まった。
彼の所属する1年D組に到着したからだ。

引き戸の取っ手に手をかける。
そして、戸の傍にある魔方陣にブーンはナイフを差し込んだ。
これが鍵なのだ。生徒はそれぞれ、自分で選んだ道具を教室へ入るための鍵としているのだ。

認識された魔方陣は小さな光となって消え、引き戸を開けることが可能となった。
ゆっくりと引き戸を開けてみる。

中では生徒達が昼食中であった。

24 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:06:42.06 ID:tO1nCvxa0
特殊な材質で作られた木製に近い机と椅子
教室正面には、黒板とチョーク。そして踏み台。
暗幕つきの窓。
一般的な教室だ。

(´・ω・`)「おや、今日は来ないと思ってたのに…。」

(; ^ω^)「! …お……お、おはようだお…。」

引き戸が開いた瞬間からもうショボン=ノーファルは動き始めていた。
ショボくれた顔のくせに言動はやたら挑発的。
後ろにやけに目つきの悪い仲間を連れて、ブーンの所へ歩いてくる。

(´・ω・`)「おはよう? もう昼なんだけどwww」

ショボンが笑ったのを皮切りに、仲間達も一斉に笑った。
下品染みた嫌な高笑い。
制服を着崩し、校則違反のアクセサリーを身に着けているのは武術を専攻にしようと考えている生徒達だ。
親が親だけに、子も子。騎士の家系は、こんな荒っぽく他人を卑下するような性格が少なくはない。
もちろん、ホライゾネル家のような正々堂々した騎士もたくさんいるのだが…
目立つのは、どうも問題を起こしがちな『不良』に枠組みされる彼らの方であった。

(,,゚Д゚)「マジどんだけwwww遂に頭が腐ったかwwww」

<ヽ`∀´>「ウェーハッハwwwwwウェーハッハwwwwww」

悪ガキ達がブーンを囲み、あざ笑う。
聖騎士の息子に対し、こんな扱いはない。
ロマネスクが凄いのは知っているが、ショボンの親も聖魔術師だからそこは互角。

26 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:09:28.89 ID:tO1nCvxa0
違いがあるとすれば、その性格だ。
騎士なのに弱々しいブーン。魔術師なのに猛々しいショボン。
階級によるアドバンテージがないのなら、悪ガキがついていくのはやはり強い方
つまりはショボンの方であった。

ξ#゚听)ξ「ちょっと、あんた達いい加減にしなさいよ!!」

輪になった彼らに、注意をする人物が居た。
金色の巻き髪を持つ、綺麗な白い肌をした女生徒。
紺色のニーソックスを纏った足で歩いてくるのは

ツン=デ=ジェレイトだった。

クリーム色のノースリーブセーターに白の半袖ブラウス。首元にはキッチリ絞めた緑色のリボンが巻かれていた。
胸元にはブーンの制服にもあるルーン文字のVIPマーク。
赤いチェックの少しだけ短めのスカートを履く彼女は、クラスの委員長。
注意するのは役柄だけではなく、彼女がブーンの幼馴染だからでもある。

(´・ω・`)「なに? 委員長、何か言った?」

ショボンはヘラヘラと笑いながら委員長を見る。
悪びれた様子もない。これが普通だと言わんばかりに濁った目だった。

ξ#゚听)ξ「だぁかぁらッ! ブーンをそうやって目の仇にするの止めなさいって言ってるの!
       ブーンがあんた達になんかしたの!?」

ツンは腰に手を当てながら貧相な胸を突き出しながら怒る。
だが、彼らは全く言いつけを聞こうとしない。

27 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:13:53.35 ID:tO1nCvxa0
(´・ω・`)「だってさぁ、見てみろよ。」

と、ショボンがブーンの制服の襟を掴んでツン前へ突き出した。

(´・ω・`)「すっげぇムカツク面してると思わない?」

顎を下から掴み、ブーンの顔を歪ませる。

(;  ω )「…ツ、ツン…ぼくのことは…ほっといていいから…。」

ξ;゚听)ξ「あんたバッカじゃないの!? なんでそんなこと言うのよ!?」

彼がそんなこと言える状況じゃないのは一目でわかる。
でも、彼は女の子に守られるという事実を嫌うので精一杯強がっているのだ。

(´・ω・`)「ふひひひwwwwなんでお前はいつもそうなのかなぁ!!」

(; ^ω^)「ぐあっ!」

ショボンはブーンの髪の毛を鷲掴みにし、地面へたたきつけた。
ちょうど起き上がった彼の顔の前にショボンは座り込み人さし指を立てた。

(´・ω・`)「豚は豚らしく、料理になるか?」

ショボンの指先が発火。
指から一寸ほど離れた所に小さな炎が燃えていた。

(;  ω )「……」

(´・ω・`)「ほら、ブヒィって鳴いてみろよ! そしたら許してやるからさぁ!!」

30 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:16:30.36 ID:tO1nCvxa0
じりじりと炎が迫る。
鼻先に触れそうなほど近づいた炎は、耐えられる温度ではないことを感じさせた。

(;  ω )「……!!」

極限の恐怖の中

ブーンは思い出していた。

英雄の言葉を思い出していた。

『恐れるな』


…もう…こんなのイヤなんだ。
楽しくない学校
守られる自分

そんなのイヤだ!!

ここで屈したら、また嫌いな日常の繰り返し。

恐れて逃げるくらいなら…

(  ω )「…。」

(´・ω・`)「お!? な、なんだよ!?」

ブーンは身体を半分だけ起こし、膝を付いたままショボンの手首を握った。

32 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:18:43.87 ID:tO1nCvxa0
(;´・ω・`)「離せこの野郎!!」

握られた手を振り払おうと必死に動く。
だがブーンの手は離れない。

それもそのはずだ。
騎士は筋力を集中的に鍛錬する。魔術師は精神力を。
日ごろから鍛えているブーンは脂肪の下に相当な筋肉を秘めていたのだ。

(;´・ω・`)「いたたた!! お、おいお前らこいつを何とかしろ!」

(;゚Д゚)「お、おう!」

自力では無理と判断したショボンは、仲間達に命令した。
騎士志望である彼らはそれなりに力強い。
だが、蹴られても殴られても
ブーンは決してショボンの手を離さなかった。

そして

(;  ω )「恐れて逃げるくらいなら…」

(# ゚ω゚)「やって後悔するほうが! 絶対いいに決まってるお!!」

(´゚ω゚;(#)「ぐあっ!!」

握った手を引き寄せつつ、ブーンはもう片方の手で
ショボンの憎たらしい顔へ、拳を放った。
鈍い音が教室に響き、見ていた生徒が悲鳴を上げた。

34 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:21:12.47 ID:tO1nCvxa0
殴られたショボンは頬を腫らし、切れた口内から血を垂らしていた。

(´゚ω(##)「て、てめぇこのや…プギッ!?」

起き上がって反撃しようとした途端
ブーンが馬乗りになって、ショボンを拘束
再び拳を振り下ろした。

(##)゚ω(##)「お、お前ら! み! ぐあ! 見てないで!! ギャッ!! なんとアグッ! しrアベッ!!」

(# ゚ω゚)「ッ! ッ!!」

ブーンは我武者羅に殴っていた。
ショボンの顔が腫れようが
歯で拳を切ろうが
ショボンが血反吐を撒き散らそうが

彼はショボンの顔を殴り続けた。

(;゚Д゚)「……。」

<;ヽ`∀´>「……。」

仲間達は言葉を失っていた。
ただ、ショボンが殴られる様を棒立ちで見ていることしか行動を起こせなかった。

(#゚;;-゚) 『コラァッ!!! 何やってるお前達!!』

突然、頭に声が響いてきた。
若い青年男性の怒鳴り声が。

35 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:23:45.00 ID:tO1nCvxa0
思わずみんな耳を塞ぐが、声は頭の中に直接届いているのでそれは意味を成さなかった。

(#゚;;-゚) 『…ブーン…ホライゾネルか? それともう一人。
     そこにいるのは……ショボン=ノーファル? …だよな?』

青年はこのクラスの担任。 ディーノ=D=トラッシュ。生徒からは『でぃ先生』と慕われている傷だらけの顔をした青年だ。
戦争で瀕死の重傷を負ったのだが奇跡的に復活。
声帯機能は失ってしまったものの、魔法の力により意思の疎通は可能だった。
まだ若手だが、生徒のことをよく考えて理解している温和な先生。

そんな先生が怒鳴ることは初めてだったので、ほとんどの生徒は困惑していた。

困惑していない生徒は二人。

興奮状態のブーン=ホライゾネル
殴られ続けて気を失ってしまったショボン=ノーファル

その二名だけだった。




( ・∀・)(…ようやく、キレたね。)

窓の外から一部始終をモララーは見ていた。
彼の皮がむける瞬間を見届けたくてやってきていたのだ。

怒ることは大切なこと。
優しいだけじゃ誰も守れない。そのことを知って欲しかったのだ。
きっと喧嘩したことにより、彼は殴ることや戦うこと以上に大切なものを学んでくれるはずだ。

36 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:26:09.23 ID:tO1nCvxa0
( ・∀・)(これで、僕のやることも決まったかな。)

彼は、空へと羽ばたいた。
飛んだわけでも、浮いたわけでもなく文字通り羽ばたいたのだ。
人との関わりを避けると決めたからにはそれは徹底的に。
彼は自ら喋るのを禁ずるため、そして怪しまれず校内へ潜入するために小鳥へと変身していたのだった。

彼が向かう先は一つ。
自宅でもない。ホライゾネル家でもない。

ノーファル家だった。



(#゚;;-゚) 『……はい。ショボン君の方は治療室で安静にしてます。
     治療が済み次第、こちらからご自宅へお送りいたします。
     はい。はい。申し訳ありませんでした。
     …はい。では、失礼します。』

でぃ先生は電話を受話器に置くと、目の前で座っているブーンを見た。
彼は拳が裂けただけ。比較的軽傷だ。

その後ろではショボンが寝込んでいる。
顔面は包帯だらけ。クレスト草をしみこませたガーゼを貼っているが、まだしばらく時間がかかりそうだ。

(#゚;;-゚) 『さて、ブーン君。お父さんへの連絡の前に…』

でぃ先生は口を動かさず、ブーンの頭へ話しかけた。
ちなみにこの魔法は語りかけることは可能だが、相手の頭の中を読める効果はない。
つまり、ちゃんと会話をしなければ意思の疎通はできないのだ。

39 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:29:43.14 ID:tO1nCvxa0
(#゚;;-゚) 『どうしてこんなことになったか、先生に話してもらおうか。』

( ^ω^)「……はい。」

ブーンは俯いたまま低い声で答えた。

なんだか身体が疲れている。

殴っている間は、とても身体が熱かった。
熱くて熱くて、目の前で殴られるショボンが憎くて

けど……

いざ、振り返るとなんて自分は愚かなことをしたんだろうと思った。
ショボンは魔術師。肉体鍛錬は人並み程度しか行っていない。
人並み以上に鍛錬をしている自分が本気で殴りかかったら…こうなることなんてわかっていたのだ。

彼がいつも自分にしてきた『弱いものいじめ』
それを自らが実行してしまった。
そのことがブーンの頭の中をグルグルと回り続けていた。




(#`・ω・´) 「低脳めが!!」

40 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:32:24.43 ID:tO1nCvxa0
彼は受話器をたたきつけた。
大きな豪邸に備え付けられている一つの電話。
その前で、家主のシャキン=ノーファルは苛立ちを抑えきれずに独りごちっていた。

(#`・ω・´) 「なぜショボンは喧嘩をして、大怪我をしたのだ!?
        しかも喧嘩の相手はあのホライゾネル家のブーン!? 冗談も大概にしろ!!」

壁を蹴りながら彼は怒りをぶつけ続ける。

(#`・ω・´) 「どうして奴はいつも私の前で邪魔ばかりするんだ!!
        戦争中もいつだってあいつは私の作戦にケチばかりをつけていた!!
        敵のことを一々考えていては勝てる戦だって勝てぬではないか!! 脳みそまで筋肉で出来ているのかあいつは!!」

(#`・ω・´) 「私の作戦は完璧だったはずだ…それなのに…くそ! くそぉ!!
        作戦が採用されていれば…私は聖魔術師などではなく『近衛魔術師』になってはずだ!!」


(  ∀ )「それはないと思いますよ、シャキンさん。」

(;`・ω・´) 「!? 誰だ!?」

シャキンは咄嗟に振り向き、バスケットボール大の火炎弾を手の平から発した。
真っ直ぐ飛んでいったそれは、敵が居ると思わしき所へ衝突すると
まるで吸収されるがの如く消えてしまった。

(;`・ω・´) 「何…?」

シャキンは今度はしっかりと敵を見据えた。
ロマネスクと同じくらいの年齢の彼は、先ほどの反応を見る限りやはり現役らしい。
襟の立った開襟シャツをビッと伸ばし、彼は自分を落ち着かせた。

42 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:34:41.24 ID:tO1nCvxa0
(`・ω・´) 「……その黒衣…モララー=レイデセイバーか!」

殺意を込めた視線をシャキンはモララーへぶつけた。
モララーはそれをいなす様に……いや、何も受け付けないような漆黒の瞳をしていた。
服装も全てを吸い込むような真黒いマントを羽織ってる。

( ・∀・)「お久しぶりですね、シャキンさん。」

口調はいつも通り優しい感じだが、見た目はいつもと正反対だった。

(`・ω・´) 「勝手に人の家に土足で上がりこむとはな…礼儀知らずは相変わらずだな。」

( ・∀・)「礼儀知らず? 何をご冗談を。
      あなたが僕のすることなすことを全部、悪意の目で見るからそう見えるんですよ。
      少なくとも、僕はあなたに対してはいつも敬意を払った行動をしてきたつもりです。」

(`・ω・´) 「…貴様の行動は癪に障るものばかりだった。それは今も同じだろうが。」

( ・∀・)「あらら。手厳しいですね。
      では、あの大量に居る融通の利かない門兵たちに許可を取れば許されたんですか?」

モララーは親指で正門の方をさす。
そこにはショボンが雇った、たくさんの騎士達が武装をし配備されていた。
異様に頭が固く、シャキンの命令がなければ会話すらしようとしないほどだ。

(`・ω・´) 「……。」

( ・∀・)「あなたも相変わらず、自分の身が可愛いと見えます。
      利用できるモノは全て利用するくせに、最悪自分の身の回りだけはなんとかして助けようと考えている。
      まるで成長してませんね。」

43 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:37:27.13 ID:tO1nCvxa0
( ・∀・)「風の噂で聞きましたよ、ホライゾネル家との喧嘩はお子さん方の問題です。
      わざわざ大人がしゃしゃり出て来ることではないはずですが…?」

(`・ω・´) 「…それ以上の喋りは許さん。もしも喋ったら、串刺しにするぞ。」

いつの間にか、シャキンの背後に大量の鋭器が出現していた。
刀、ナイフ、槍、フレイル。玩具とは違う、本物の鈍い輝きを放っている。

( -∀-)=3「……。ホント、短気ですね。」

モララーは忠告を聞かず挑発した。
肩をすくめてため息をつく。

シャキンは今しがたの忠告を破ったとみなし、両手をモララーへと向けた。

(#`・ω・´) 「『大魔術師』だろうが、戦線を引いた貴様が私にかなうわけがない!!」

同時にシャキンの背後から大量の凶器が飛んでいった。
それは全て直線軌道を描きモララーの身体へ

( -∀-)「これが僕の役目。ちょっとだけ、『戒め』は解かせてもらいますよ、っと。」

( ・∀・) カッ!

モララーは目を見開いた。
独り言の後に、ただ迫ってくる武器を見据えただけ。

(;`・ω・´) 「……な…?」

それなのに……

45 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:40:11.48 ID:tO1nCvxa0
シャキンの浮遊魔法が全て解除されてしまった。
金属と床の奏でる激しい音を何度も何度も響かせて…凶器は無力化されてしまった。

( ・∀・)「ここじゃあなたも本領発揮できないでしょう。
      場所を移しましょうか。」

彼は指を二本立てて地面に向かって何かを念じた。
ブーンを送った時のような魔方陣が描かれる。
だが、色は真っ黒で殺気や瘴気を感じさせるようなどす黒い煙を放っていた。

(;`・ω・´) 「次元転移魔法だと…!?」

シャキンがその魔法を認識した途端に、風景が変わった。
今までの屋内の家具や壁が全てなくなり。
水に垂らした絵の具のような空間が無限に広がっているだけになった。

( ・∀・)「あなたに罪はあっても、あなたの家やお子さん、兵士さん達に罪はないですからね。
      無駄な損壊や殺人は僕の好むことではありません。」

被害を最小限に留めるために、モララーは次元ごとシャキンを運んでいた。
今居るのは多次元空間。様々な時や事象が混沌としている空間なのだ。

そしてこの魔法を使いこなせるのは…世界を探しても、きっとモララーだけ。

(;`・ω・´) (訓練せずとも才能でカバーか…。)

シャキンは自分の見解が違ったことを後悔した。
よく考えれば当然のことだ。

47 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:42:38.67 ID:tO1nCvxa0
モララーはたった15歳の時に、ラウンジ大陸をほぼ一人で滅ぼしたのだ。
全てはその類稀なる才能。生まれつき魔術力に長け、集中力が抜きん出ていた。

( ・∀・)「じゃ、始めましょうか。」

だが、彼の強さはそれだけではない。
殺すと決めた奴は徹底的に殺す。
シャキンでさえも敵わないと認めるほどのその冷徹さが秘訣だった。

(;`・ω・´) 「ちぃ!!」

シャキンは一度距離を置いた。
今までは本当に一足飛びの間合いの中。
魔術師は基本的に接近戦を嫌う。
それは彼も同じだった。

( ・∀・)「どこ見てるんです?」

(;`・ω・´) 「!?」

だがモララーはそれを熟知し、先手を打っていた。
あらゆる系統の魔術を会得し、誰よりも上手く使いこなしている。
たとえ近距離だろうが遠距離だろうが、関係ない。
敵の苦手な間合いに入り込んで、徹底的に攻撃する。それがモララーの得意なスタイルだった。

だから、彼は幻影呪文を次元転移した直後に発生させていた。
シャキンが見ていたのはモララーの魔力で作られたただの幻影。

実体はシャキンが飛んでくるであろう場所に最初から待っていたのだ。

50 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:44:49.10 ID:tO1nCvxa0
(;`・ω・´) 「この野郎!」

突然の来訪の時と同じようにしてシャキンは振り向きざまに火炎弾を放った。

( ・∀・)「カウンタースペル、レベル7。」

モララーは避けずに、二本立てた指をその火炎弾にぶつけた。
すると、赤色の魔方陣が発生し火炎弾を受け止める。

カウンタースペルの魔方陣だ。
レベルは10まであり、レベルに応じて返す時の威力が増加される魔法だった。

( ・∀・)「倍返し!」

(;`・ω・´) 「うあっ!!」

魔方陣が消えると、火炎弾がシャキンの元へ返っていった。
単純に返されたのではない。
モララー自身が詠唱したのと同じで、火炎弾の大きさと速度が倍になってシャキンに牙をむいたのだ。

(;`・ω・´) 「くっ…舐めるな!」

と手を上に掲げる。
モララーの周囲に氷山が発生した。
彼の必殺の魔法だ。
二段詠唱魔法で、氷山の顕現に一度目の詠唱。
次の詠唱で全て氷山が大量の氷柱となり対象を襲う、という魔法だった。

(;`・ω・´) 「酷なる凍てつきし刃よ、我が力を…!」

52 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:50:24.00 ID:tO1nCvxa0
と、次の詠唱を始めた時だった。
シャキンは信じられない光景を目の当たりにする。

出現した氷山が、一瞬にして砕け散ったのだ。

( ・∀・)「スペルキャンセラー、レベル8…と。」

モララーは瞬時に氷山魔法をキャンセルしていた。
カウンタースペルとの違いは、返すのではなくただ魔法を消滅させることだ。
完全に無力化させられるものの、その調整は難しい。

相手の魔力の質、属性を把握して更にそれと同じ量、正反対の質と属性の魔力をぶつけなければ成功しないのだ。
並みの魔術師では初見でそれをやるのは不可能。
だが、並みの魔術師ではないモララーは初見で成功させてしまった。

(;`・ω・´) 「な…に…!?」

( ・∀・)「…。」

モララーは無言で両手の指先をシャキンへ向けた。
突然空間を裂いて、薔薇の蔓が彼をを捉えた。
足元には黄色の魔方陣が発生している。

(;`・ω・´) (デュアルスペルだと…!?)

シャキンを拘束する魔法の薔薇蔓。空間転移呪文の応用だ。
黄色の魔方陣は、シャキンの魔法を封じる『スペルシーラー』という高度な魔法だった。

モララーはそれを一度に行っている。
魔法の二重詠唱。聖魔術師の上の階級、近衛魔術師ですら扱えるものは多くない。

54 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:53:55.37 ID:tO1nCvxa0
( ・∀・)「これであなたはもう無力です。」

モララーは無表情のままシャキンの元へ歩いていった。
ブーツの音が空間に鳴り響く。
シャキンは抵抗するも、身動きも魔法も唱えることはできなくなっていた。

(;`・ω・´) 「貴様…私を殺す気か!?」

( ・∀・)「何をご冗談を。」

シャキンの前まで来たモララーは笑った。
そして必死に抵抗しているシャキンの左肩を掴んだ。

( ・∀・)「あなたの罪は、あなたの性格を子に継がせたこと。
      そして、戦の後もその野心を捨てきれずにいたこと。
      その二つです。」

( ・∀・)「償うには死では軽すぎる…。」

(;`゚ω゚´) 「ぐぁああああ!!!」

モララーの手に力が篭る。
肉体強化の魔法を使っているのだろうか。
まるで巨人にでも掴まれたような握力が肩にかかっていた。

(  ∀ )「誓え。戦争は絶対に起こさないと。」

(  ∀ )「そして、あの哀れな息子を更正させる……とな。」

(;`゚ω゚´)「ぎゃあああああ!!! わ、わかったから離せぇえええ!!」

57 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:57:02.24 ID:tO1nCvxa0
ミシリ、と骨がひび割れる音が聞こえた所でモララーは手を離した。
拘束魔法も封印魔法も同時に消える。

再びモララーが地に指先を向けると、発生した魔法陣が彼らを元の次元へ戻した。

移動前と違うことは一つ。
威勢のよかったシャキンが、肩を押させて唸っていること。
モララーは来たときと同じで、冷たい目をしていた。

( ・∀・)「忘れるな。僕はこれからもあなたの動向を監視する。
      少しでも間違いを起こそうとするなら……その時は覚悟しろ。
      わかったな?」

低く威圧する口調でモララーが聞いた。

(;`-ω・´) 「く……。」

返事は無い。
だからブーツで思いっきり床を踏みつけながらモララーはもう一度聞いた。

( ・∀・)「わかったな?」

(;`-ω゚´)「……わ、わかった…。」

俯いて悔しそうにシャキンは答えた。
だが、自分ではこの悪魔に敵うわけもない。
合意する以外、道は残されていなかった。

( ・∀・)「では、お元気で。」

60 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 19:59:19.44 ID:tO1nCvxa0
急に声が優しくなる。
そして一礼してから、足元に魔方陣を発生させ光球となってどこかへ飛んでいってしまった。

(;`-ω・´)「……モララー=レンデセイバー……。」

あれが世界最強の魔術師……
獅子奮迅の如き活躍は目にしていたが、実際に手を合わせたのは初めて。
10年経ち、隠居暮らしを始めると言い残してからはすっかり衰えたと思っていたが…甘かった。
黒風は…黒風のまま生き続けているのだ。

ふと、玄関で音がするのを聞いた。
どうやら治療を終えた息子が帰って来たみたいだ。

(*´・ω・`(#)「あ、パパ!!」

玄関で顔が少し腫れている息子を見た。
普段なら、根掘り葉掘り状況を聞くことだろう。
だが、黒風に会った彼の心はそれどころではなかった。

(*´・ω・`(#)「見てよ! あのバカホライゾネルの奴がボクを殴ったんだ!
        なんとかしてよ、パパ! 聖魔術師なんでしょ!?」

(;`-ω-´) 「……うるさい!」

(*´・ω・`(#)「え? 何?」

(;`゚ω゚´)「うるさいと言っているんだ!!」

61 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:02:50.46 ID:tO1nCvxa0
(;´゚ω゚`(#)「フギャッ!?」

シャキンはショボンの頬をひっぱたいた。
無様に転がる愚息を見て、シャキンは言いつけをする。

(;`゚ω゚´)「いいか! もう二度とホライゾネルと喧嘩をするな! わかったな!」

(;´゚ω゚`(#)「な…なんで…パパ……?」

(;`゚ω゚´)「わかったのかわかってないのか、返事しろ!!」

(;´゚ω゚`(#)「ヒッ! わ、わかったよ!!」

手をあげ、尚且つ怒鳴り声をあげる父をショボンは見たことなかった。
大声を上げられたので反射的にショボンは涙声で返事をしてしまった。

シャキンは痛む肩を押さえて自室へ戻っていった。
ホライゾネル…あいつの差し向けでモララーは来たのか?
……いや、あいつ自身がそんなことをする性格ではないのは自分がよく知っている。

きっとこれはモララーの意志。
あいつの『意志』に自分が反していたから…その粛正に来たのだろう。

シャキンは震えた。
自慢の魔法が何も通じなかった相手なんて初めてだったのだ。

もう二度と…あんな奴とは関わりたくない。

ならば、関係のあると思われるホライゾネル家とはなるべく良い関係を築いておくべきだ。
下手なことをして、またあの黒風の逆鱗に触れたら……

64 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:05:31.93 ID:tO1nCvxa0
その日、シャキンは悪夢を繰り返し見た。
夢には何度も何度も、漆黒の目をもつ黒衣の悪魔が出てきたのだった。





( ^ω^)「…。」

解放されたブーンは帰っていた。
玄関の鍵をゆっくり開けて家の中へ。
ただいまも言わないでこっそり部屋に戻ろうとした時

( ФωФ)「ただいま、がないのである。」

(; ゚ω゚)「ホワッ!?」

階段を登ろうとした所で見つかってしまった。
連絡が届いてることは事実だ。

きっと叱られるんだろう。
ブーンは観念して父親の雷を待った。

( ФωФ)「……ショボン君と喧嘩したのであるな。」

(  ω )「……うん。」

( ФωФ)「…どうだった?」

(; ^ω^)「え?」

67 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:07:40.33 ID:tO1nCvxa0
予想外の質問に戸惑うブーン。
喧嘩の理由など、大事なものを全てすっ飛ばして彼は感想を聞いてきたのだ。

何かの冗談だと思い、顔をあげる。
だがロマネスクは以前変わらぬ表情で返事を待っていた。
だからブーンも正直に答えた。

(; ^ω^)「うんと………熱かったお。」

( ФωФ)「……。」

( ^ω^)「こう、身体の奥から力が湧き出てくる感じで…
      他の人に殴られたり蹴られたりもしていたけど…気にならなかったお。」

( ФωФ)「…ほぅ。」

( ^ω^)「でも、やっぱりぼくは喧嘩なんてしたくないお!」

( ФωФ)「何故であるか?」

( ^ω^)「僕は、喧嘩のためにずっと鍛錬してきたわけじゃないお。
      父ちゃんみたいな立派な聖騎士になるために鍛錬してるんだお!」

(  ω )「だから…こんな怒りに任せて力を使うのは…絶対に間違ってると…思ったお。」

( ФωФ)「………そうであるか。」

拳を握り締めている息子の頭に、ロマネスクは優しく手を置いた。
そしてマメだらけの手で撫でながら言う。

71 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:12:31.04 ID:tO1nCvxa0
( ФωФ)「父ちゃんもな、昔はよく喧嘩してたのである。」

( ФωФ)「腕っ節には自信があったから、父ちゃんに逆らう者は日に日に減っていた。」

( ФωФ)「でもな、母ちゃんに出会って父ちゃんは気づいたのである。」

( ФωФ)「『自分の拳は誰かを傷つけるためにあるんじゃない。
        誰かを守るためにあるんだ』って」

( ФωФ)「これに気づいた途端、父ちゃんは急に身体の奥から力が沸いてきたのである。
        暴力は所詮暴力。強くなることには繋がらないことを実感したのである。」

( ^ω^)「……。」

( ФωФ)「手を洗っておいで。いっぱい動いたんだであろう?
        喧嘩の後はたっぷりご飯を食べて、ぐっすりと眠るに限るのである!」

( ^ω^)「わかったお、父ちゃん!」

ブーンはにっこり笑った。
そんな表情に、かつての自分を…そして戦友の面影を重ねる。

彼も自分と同じで、信念のために力を振るっていた。

きっと、自分自身の真理にたどり着いた者が…誰よりも強くなれるんだろう。
彼と、そして自分がその証明になっていると思っていた。

ブーンが洗面所へ行こうとした所でロマネスクはあることに気づいた。

73 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:15:33.74 ID:tO1nCvxa0
( ФωФ)「…そういえば、昨日はどこに泊まったのか聞き忘れたのである。」

( ^ω^)「あ、そうそう、それだお!」

ブーンは手のひらに拳を叩きつけながら思い出したように言った。

( ^ω^)「聞いて驚くがいいお! なんと、ぼくモララーさんの家に行ってたんだお!」

(;ФωФ)「も、モララー殿の家!?」

ロマネスクは驚いてブーンの肩を掴みながら問いただす。

(;ФωФ)「それはどこであるか!? 彼は元気だったであるか!?」

(; ^ω^)「う、うん。元気だったよ。父ちゃんによろしく伝えておいてとも言われたお。
       居場所は……」

転移魔法の最中は風景が見えなかった。
初めて行った時も無意識だったから住所はわからない。

( ^ω^)「ただ、山の中に居たのだけはわかるお。」

(;ФωФ)「……そうか。」

ロマネスクは手を離す。
そして天を仰ぐようにして、思った。

( ФωФ)(『自分の役目は終わった。』そう言って王国を去って早10年。
        ずっと心配していたのであるぞ、モララー殿。)

75 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:17:42.84 ID:tO1nCvxa0
( ^ω^)「出来ればもう一度会いたいお。父ちゃんは何か知らないのかお?」

父の腹をつつきながらブーンが尋ねる。

( ФωФ)「いや……なるべくなら会わないほうが良いのである。」

( ^ω^)「お? 何でだお?」

ロマネスクは10年前の事を思い出しながら言った。
国王も、近衛騎士も近衛魔術師も、もちろん自分も
去ろうとする彼をみんなが引き止めていた。

だが、彼は寂しそうにこう返すだけだった。

( ・∀・)「僕の役目は『平和』をもたらすこと。戦争が終わった以上は何もすることはないでしょう。」

それでも彼らは引き止めた。
そのたびに同じ事を毎度毎度言うモララーだったが、このままではわかってもらえないと思い
去り際に心の内を、近しいものだけに明かしていた。

( ・∀・)「僕はたくさんの人を殺めた。その償いは死では軽すぎます。
      戦争が終わっても、これから様々な問題が起こるのは確実でしょう。」

( ・∀・)「長い歴史の中で強大な力を持った者は悉く殺されている。
      僕はそんなのが真っ平御免なのです。」

( ・∀・)「もう私欲で魔法を振るうことも、人を殺すこともない。
      余生は隠居暮らしをしながら、この世界の行く末を見守っていくことでしょう。」

それだけ言うと彼はどこかへいってしまった。

77 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:19:53.63 ID:tO1nCvxa0
束縛されたくない人間なんだ。
無理強いしたところで、また彼を苦しめるだけ。
王はそう判断し、モララーを手放すことを決めた。

( ФωФ)「人と関わると、噂が広まる。
        きっと彼の居場所はまたバレてしまうであろう。
        だから彼は隠居暮らしを決めたのである。」

( ^ω^)「…うーんと…」

( ^ω^)「つまり、言わなければ会っても良いってことかお?」

(;ФωФ)「それはそうであるが……
       お前達は特に、彼を英雄と崇めているであろう?
       後先考えずにうっかり口を滑らせたら大変であるから…なるべくなら止めておくのである。」

( ^ω^)「ちぇー…わかったお。」

口を尖がらせてからブーンは自室へ戻った。
ロマネスクもブーンが部屋に戻ったのを確認すると、自室へ戻った。

( ФωФ)(出来るなら我輩も会いたいのであるが…それは貴公が望むことではないのであるな。)

彼の魅力は強さだけではない。
信念のためなら全てを投げ出すほど芯の通った性格。
平和への執着心や独特の感性など、少し特異な所がロマネスクと似通っていたのかもしれない。



( ・∀・)「ひと安心かな。」

79 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:22:02.08 ID:tO1nCvxa0
山中の自宅へ戻った彼はマントをまたベッドの裏へ片付けていた。
このマントは彼が戦争時に愛用していた彼の一張羅。
魔法を唱えるごとにはためく、黒いマントが『黒風』の名の由来だった。
通った後には屍しか残らない、という意味もあるのだが…彼はその由来だけは耳にしようとしなかった。

( ・∀・)「…さて。」

時はもう夕方。
朝方干した洗濯物はとっくに乾いているだろう。
回収に行くか、とバスケットを持って外へ出た。


魔法を禁じた彼が黒衣を捨てない理由は一つ。
また、平和を乱すものが現れた時は…またあの黒衣を纏って下界へ降りる。
そして諸悪の根源を元から断つ、ということを決めていたのだ。
黒衣はその決意の証。

人との関わりは避ける。
でも、街には定期的に降りて情報を収集する。
彼が野菜を売りに行くのは、そんな理由もあってのことだった。

( ・∀・)「平和の使者なんて、高貴なものではないけどね。」

戦争のときから心の内は余り変化がない。
殺すと決めた奴は殺す。虫を潰すのと同じ感覚で。

彼は正義の味方ではないのかもしれない。
けど、彼の中に秘めている平和の意志だけは
誰もが認める穏やかな世界の象徴という意味となんら変わりはないのである。

81 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:24:25.95 ID:tO1nCvxa0
方法は間違ってるかもしれない。
それでも彼は自らを律し、必要な時は力を振るう。

いつしか、その身が朽ち果てるまで……。






( ・∀・)「……ん?」

2日後。
下界では休日の正午。
椅子に座ってまったりしていたモララーの耳に聞きなれぬ音が響いた。

扉をノックする音だ。

( ・∀・)(なんだ…?)

モララーは考える。
居場所を捉えたシャキンが自分へ暗殺者でも仕向けたか?
いや、だとすればわざわざノックする必要など無い。
だが油断は禁物。
あえて正面から、油断させて襲ってくる可能性も考えられる。

( ・∀・)「……。」

悩んだあげく、彼は魔法を使用した。
扉を透かす魔法だ。

83 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:26:38.56 ID:tO1nCvxa0
誰よりも長けてるくせに、誰よりも魔法が嫌いなモララー。
現在は緊急時以外、魔法を使用しないと決めていたのだ。

(; ・∀・)「えっ!?」

ノックの主を確認した途端にモララーは急いで立ち上がり扉を開けた。

( ^ω^)「こんにちはですお!」

驚くべきことに、それはホライゾネル家の長男ブーンであった。
大きな袋を背負っていて、服装も制服ではないくマントと動きやすそうな布の服とズボンだった。
どうやら街からここまで歩いてきたらしい。背中の袋は食べ物がギッシリ詰まっていた。

(; ・∀・)「ど、どうしてここが?」

知らないうちに来たはずだ。
帰す時も、あえて転移魔法で送り居場所を教えぬようにしたはずだ。
なのに彼はどうして目の前に居る?

( ^ω^)「ふっふっふ。ぼくの鼻をなめちゃダメですお!」

(; ・∀・)「鼻…?」

( ^ω^)「あの丘を越えた所に畑がありますおね!?
      知ってますかお? 無魔法野菜って凄い良い匂いするんですお!」

(; ・∀・)「……つまり、君は野菜の匂いを辿って…ここまで……?」

( ^ω^)「はい!」

85 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:28:59.44 ID:tO1nCvxa0
(; -∀-)=3「……。」

父親譲りのずば抜けた行動力だな、とモララーは思う。
鼻が効くのは彼個人の長所だろうが…なんにせよ、無茶苦茶な子だ。

もう素性もバレているし、格好を見る限り長旅を決意して訪問したのだろう。
白い靴も土が跳ねて茶色く変色しボロボロになっている。決意は固かったらしい。
はい、さようならなんて言ったら彼は愚図りだすに決まってる。

( ・∀・)「いいよ、入って。けど、約束してね。」

モララーは了承し、扉で中へ入るように手で案内した。
だがブーンが一歩進んだ所でモララーは人差し指を眼前に持ってきて彼に約束事を言った。

( ^ω^)「はい、なんですかお!?」

( ・∀・)「君のお父さん、そしてお友達には絶対に秘密にすること!
      日が暮れる頃にはちゃんと家に帰ること! いいね?」

( ^ω^)ゞ「了解ですお!」

ビッと敬礼をするブーン。親に習ったのか背筋といい角度といい、とても綺麗だった。
とりあえず椅子に座らせて、お茶を出す。

少し蒼い色の紅茶はミルクを入れると、黄色に変色した。
同時に、余り柑橘系の香りが辺りを満たした。

( ・∀・)「シルムって名前の紅茶なんだ。この近くで取れるお茶っ葉なんだけど…お口にあうかな?」

( ^ω^)「ぼくは生まれてこの方、好き嫌いなんてしたことないですお! だから問題ナッシングですお!」

88 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:31:13.32 ID:tO1nCvxa0
と、水の沸点に近い温度の紅茶をブーンはグビグビ飲んだ。
豪快な食事は嫌いな人が居るかもしれない。
けど、こんなにおいしそうに飲まれるシルムは幸せものだなと思った。

( ・∀・)「ところで、何しにきたの?
      無魔法野菜ならたまにVIP街にも見かけるでしょ?」

( ^ω^)「それはですね!」

(; ・∀・)「ちょ、何を…?」

とブーンは突然立ち上がり、そして床に座り込んだ。
膝を曲げてその上に腰を下ろす。
正座だ。
そのまま手を床につけて頭を思いっきり垂らして叫ぶ!

( ^ω^)「師匠! ぼくに『心』を教えてくださいお!!」

( ・∀・)「え?」

ブーンが顔をあげる。
憧れていた英雄を初めて見た時のと同じ、尊敬の眼差しだった。

(* ^ω^)「モララーさんのおかげで、ショボン君にイジメられなくなりましたお!
       ツンも少しだけぼくを認めてくれましたお!
       父ちゃんも褒めてくれましたお!」

(* ^ω^)「それもこれも、全部モララーさんのおかげですお!!」

(; ・∀・)「……。」

89 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:33:23.19 ID:tO1nCvxa0
(* ^ω^)「だから、約束は守りますから…もっと『心』を教えてくださいお!!
      代わりに、できることがあれば何でもやりますお!」

モララーは思う。
教えたのは『気の持ち方』だけ。
それを理解し、実行に移したブーンが一番頑張った人なのだが…

……でも……なんだろう。
自分に魔法以外のことを教えてほしい、って言ってくれた人は
もしかすると、初めてかもしれない。
その事実に気づくと少しだけ嬉しさを感じた。

それに、この子なら…
あのロマネスクさんの息子なら…きっと、僕のことをちゃんと理解してくれるかもしれない。
強くなる素質はあるんだ。聖騎士の子だしね。

僕の身が朽ちても…彼が僕の意志を継いでくれるかも……。

( ・∀・)「わかったよ。じゃあ、畑仕事するから手伝ってくれるかな。」

( ^ω^)ゞ「了解しますた!」

荷物を置いて、教えても無い納屋から鍬を取り
ブーンは丘を越えて畑へ走っていった。

( ・∀・)「……こういう余生も…アリかもしれないね。」

モララーは呟いて、彼も鍬を持った。

92 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/02(月) 20:35:33.22 ID:tO1nCvxa0
平和は続かない。
誰かが乱すから。
だが戦乱も続かない。
誰かが止めるから。

戦乱を止める英雄は、僻地の山奥でひっそりと暮らす。
彼の傍には、小さな騎士。


思っていたよりも

未来というのはずっと明るいのかもしれない。










つづく?



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