- 2 名前:◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:24:38.25 ID:fAXEZFuU0
- ('A`)「…?」
ドクオは笑みが止まらなかった。
自分では確実に小屋を破壊しうるはずの一撃を放ったつもりだった。
それが完全にかき消されてしまった。
自分の目に間違いは無かった。やはり、こいつは俺を楽しませてくれる呪術師だったんだ!
そう思い、楽しさを表情に出して剣を構えたと同時に
目の前に立っていた最強の魔術師モララー=レンデセイバーはくるりと背を向け歩き出した。
第六話「世界を動かした力」
- 3 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:28:11.88 ID:fAXEZFuU0
- ('A`)「おい、何処に行く? まさかとは思うが…逃げるつもりじゃねえだろうな?」
ここまで来てそんなことはするはずがないだろ。
挑発的な口調でドクオは背中に呼びかける。
モララーはそれに対し、ピタリと歩みを止め振り返らずに口を開く。
( ∀ )「安心しろ。逃げるわけじゃない。万全の状態で戦ってやるから、その準備をするだけだ」
( ∀ )「だから、お前は大人しくそこで待っていろよ。
もし攻撃の一つでもしてみろ。殺す以上の苦しみを味あわせてやる」
初めて見せる攻撃的で原始的な感情の揺らぎ。
表情は伺えないがその言葉には今までになかった殺気が篭っていた。
ドクオが遂に引きずり出したモララーの本性は、どこにでも居るただ一人の青年と同じだ。
苛立つことをされれば、当然怒りを覚える。
辛く、苦しい経験をしてきたモララーの精神年齢は実年齢をゆうに越えてしまっている。
だが、それは言うなれば衣服と同じ。着ている自分自身の本質は変わってなどいないのだ。
('∀`)「おー、怖い怖い。わかったよ、俺の準備は万端だがお前はそうじゃないもんな。
それじゃフェアじゃあねーよな」
ドクオはフッと笑い、刀を鞘に納める。
そして鎧と鞘を繋げている金具を外し、下緒(刀についている紐のこと)を解いて鍔と柄にまきつけた。
('A`)「こうすりゃお前も安心だろ。俺の気持ちが冷めない内に早く支度してこい」
- 4 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:31:25.42 ID:fAXEZFuU0
- 刀を肩にかけるようにして胡坐をかくドクオ。
その姿を横目で確認してからモララーは返事をせずに小屋へと戻っていった。
小屋の扉を開ける。
聞こえてくるのは、小さな女性の寝息のみだ。
モララーはふと、自分の格好に気づき衣服を脱いだ。
血のついた格好のまま枕元に立たれたら驚くだろう、と思ったからだ。
破けた服はもう使えまい。
洗濯はトソンが基本的に行っているので、そのまま洗濯籠に入れると説明が厄介だろう。
そもそも、洗っても落ちないだろうな。
バレないようにそっと衣服に圧縮の魔法をかけてモララーはゴミ箱へと投げ捨てた。
そして…
モララーは机の下の板張りを外し、そこに隠されていた箱を取り出す。
開けると、そこには丁寧に畳まれた衣服があった。
それは大戦中に使っていた戦闘用の袖の無いシャツだった。
幾何学模様の縫われたそれは魔法力を少しだが増大させる働きを持っている。
白い生地に、金色の装飾がされている。効果の元はこの模様と繊維によるものだ。
そして階上へ。
ベッドの中ですーすーと小さな寝息を立てて寝ているトソンの顔をのぞく。
(-、-*トソン「……ん」
何かを感じたのか、トソンはゆっくりと目を開けた。
そして数秒ほど天井を眺めた後に、キョロリと目を動かして側に立つモララーを見つけた。
- 5 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:35:36.05 ID:fAXEZFuU0
- 目が合うと同時にモララーは優しげに笑う。
(゚、゚*トソン「あれ…おめかしなんかしちゃって…お出かけですか?」
パッと見ではまるで貴族の服装のようにも思える。
端正な顔立ちのモララーが着れば、誰でも勘違いしそうなくらい。
( ・∀・)「うん、そんなところだよ。調子はどう?」
(゚、゚*トソン「えぇ、大分マシになってきてます。もう少し眠ればもう大丈夫かと…」
( ・∀・)「それは良かった。じゃあ、もう一眠りしてなさい
みんながお見舞いの品を持ってきてくれたんだ。落ち着いたら後で食べよう」
スッとモララーは汗ばむトソンの額に手を当てた。
(-、-*トソン「えぇ…そう…させて……も……」
言葉を言い終える前にトソンは眠りに落ちてしまった。
疲れたわけではないし、薬の効果でもない。
モララーが手の平から睡眠の魔法をかけたからだった。
( ・∀・)(これで数時間は絶対に目を覚まさないだろう)
寝返りで乱れたであろう布団をしっかりとかけなおしてやり、モララーはベッドの下に手を忍び込ませる。
そこにかけてある彼の二つ名の象徴でもある黒衣を取り出したのだ。
そしてもう一度、安心しきった顔で眠るトソンの顔を見てニコリと微笑んでから
表情を一瞬にして『大魔術師』へ変えたモララーは黒衣を羽織った。
- 6 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:39:47.32 ID:fAXEZFuU0
('A`)「……お、出てきたか。準備は出来たようだな」
( ・∀・)「待たせたね。だが、もうちょっとだけ待ってほしい」
('A`)「あん? なんだよ、早くしろよ」
退屈そうにドクオは立ち上がりながら、舌打ちをして文句を垂れる。
そんな彼を無視し、モララーは両手を小屋の方へと向けた。
すると小屋全体が白い魔方陣に包まれた。
その光が小屋全てを包み込むと、数秒後にはその場所から影も形も無くしてしまっていた…。
('A`)「へぇ。別次元に送ったのか」
( ・∀・)「…で、次は」
バッとしゃがみこみ両手を地面に当てた。
そして何かを呟く。
言い終えると同時にモララーはその手に力をこめた。
今度は白ではなく、青色の魔法陣が発生する。
しかも、かなり大きい。
一帯全てを包み込むような大きさだった。
- 7 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:44:10.38 ID:fAXEZFuU0
- 勿論のことだが、ドクオの足元ではその魔方陣もかき消されている。
('A`)「なんだいこりゃ?」
ドクオが問いかけると、青の光は止み
残ったのはまるでドーム状に包むような薄い膜のようなものだった。
( ・∀・)「スペルキャンセラーを一帯に張っただけだよ。
ここでドンパチやって大切な畑が荒らされたらたまったものじゃないしね」
('A`)「なーるほどな」
ドクオはニヤリと笑った。
('A`)「小屋の方はオッケーだな?」
( ・∀・)「あぁ」
('A`)「このドーム内なら、派手にやっても被害は出ないんだな?」
( ・∀・)「あぁ」
('A`)「心構えはできてるか?」
( ・∀・)「あぁ」
('A`)「なら、遠慮なく!!」
先ほどと同じように一足飛びでドクオは間合いをつめた。
魔法でも使ったかのように高速でモララーの目の前まで距離を取る。
- 9 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:48:49.56 ID:fAXEZFuU0
- (#'A`)「おらぁ!!」
( -∀・) =3「…」
モララーは驚くことにため息をついていた。
しかも片目を瞑り、やれやれとでも言わんばかりに、だ。
先ほどの焦っている姿とはまるで正反対。
冷静に、だが確実に怒りの炎に燃えているこの姿
赤き炎を越える温度を持つ蒼き炎を身の内に滾らせるこの姿こそが
大魔術師モララー=レンデセイバーの本気の戦闘スタイルなのだ。
(;'A`)「!?」
思いっきり振りぬいたつもりだった。
だが、刀は止まっている。
確実に肩口から腰に抜けるように袈裟斬りを放ったはずだったのだ。
止まっている原因は
モララーが面倒臭そうに突き出した右手の二本指の隙間だった。
- 10 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:53:28.55 ID:fAXEZFuU0
- (;'A`)「なんだと…?」
( ・∀・)「…」
('A`)「!」
刀に力が入った。
常人ならばたった二本では刀はおろか、大人の身体を浮かび上がらせるなんてできっこない。
が、相手は呪術師。それくらいは造作もないだろう。
そう思ったドクオは、危険を察知し瞬時に一歩で距離を取った。
( ・∀・)「なんだ、バカではないみたいだね」
(;'A`)「へっ。そりゃこっちの台詞だ」
こりゃ近づくのは危ないか…?
が、生憎俺の愛刀は距離の有無は関係ない。
近くならば技を、遠くならば…呪術を!
(#'A`)「はぁあああ!!!」
両手でしっかりと握り、真っ向に振り下ろす。
さきほど小屋を破壊するつもりで放った真空波以上の力を込めている。
- 11 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 19:58:36.21 ID:fAXEZFuU0
- そう簡単には…
( -∀・)「いくんだよね♪」
パチンとウインクした。
それだけだった。
ドクオが放った風の刃と突風はそれだけで無力化されてしまったのだ。
(;'д`)「……」
(;'A`) て「…! ま、まだだ!!」
一瞬放心してしまった。
嘘だろう。
まさかここまで力の差があるわけがない。
それを認めたくなくて、ドクオは頭を振り次の攻撃を仕掛けた。
今度は威力は多少衰えるが、三連発だ。
風の刃を三つ、モララー目がけてはなった。
- 12 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:02:33.54 ID:fAXEZFuU0
- ( ・∀・)「せー…のっ!!」
突き出された両手は赤い魔方陣を描いている。
三つ。金属と金属が触れ合うような音が連続で聞こえてきた。
そして接したと同時にモララーは両手で魔方陣を押し返すような仕草をする。
すると、それは一つの大きな風の刃と化しドクオの居る方向へと進行方向を変えていた。
(;'A`)「うっ!?」
迎撃しようか考えた。
だが、この大きさは……
( ・∀・)「スペルカウンター、レベルマックス」
( ・∀・)「五倍返しだよ、耐えられる?」
(#'A`)「くそがぁあああ!!!」
ドクオは出来るだけたくさんの真空波をその大きな刃にぶつけた。
そして減速し始めたと同時に見に纏った鎧の呪術の強さに賭け、それをなんとか相殺することに成功した。
( ・∀・)「やるね…でも、まだ諦めてはないようだな」
(;'A`)(…んだよこれ…。こんな……こんなことが…!!??)
( ・∀・)「じゃ、今度はこっちから行くよ」
キィンと言う甲高い音が聞こえると同時に、モララーの足元には翡翠色の魔方陣が発生していた。
- 13 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:06:30.64 ID:fAXEZFuU0
――――
風が集束している。
先ほどまで晴天だった天候までもが、一点を目指すかの如く曇り始め渦巻いている。
近くの木々も大きく揺らめき、まるで台風の中に居るかのようだ。
ξ;゚听)ξ「う、嘘でしょ!?」
(;´・ω・`)「ほ、本物だよね!?」
( ^ω^)「なんだお、あの魔方陣?」
スペルキャンセラーのギリギリ範囲内
遠くの森の木陰に到着した三人組はモララーの戦闘を見ていた。
ショボンの遠方察知魔法と、ツンの投影魔法によりまるで側で見ているかのような大迫力で見物していたのだ。
そして今映っているのは、魔方陣の上でマントをはためかせているモララー。
両手は交差させるようにして、広げている。
ξ;゚听)ξ「あ、あれ『風の大魔法』よね!? お母さんでも使えないのに!!」
(;´・ω・`)「と、父さんでも無理だよ! 凄いや! 流石はモララーさんだ!!」
( ^ω^)「おー? 一体なんなんだおー?」
- 14 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:10:39.16 ID:fAXEZFuU0
- ξ;゚听)ξ「もー、ほんとバカねあんた。魔法に疎いんだから」
(; ^ω^)「魔術師コースじゃないんだから当然だお…」
(´・ω・`)「魔法には階級があるんだ。初級、中級、上級って感じでね。
で、その上級の更に上にある禁呪に近い魔法が『大魔法』なんだ。
専門の魔術書でもないと記載されてないくらいの魔法なんだけど…」
ξ゚听)ξ「未熟者が使えば、身体ごとその魔法の威力に負けて粉々になるって噂よ。
使ってる人見たことないから、文献の中での話だけどね」
( ^ω^)「へー…要するに、流石はモララーさんってことかお?」
彼らが解説をしているうちにモララーは詠唱を開始していた。
――――
( ・∀・)「汝に刻むは彼の道標」
交差させた手を円を描くようにして動かしていくモララー。
風の集束は止まらない。
その両の手の平に吸われるようにどんどんと集まっていく。
( ・∀・)「穢れを知らぬ双眸が捉えし時に」
片手を前に突き出し、もう片手は上空へと掲げられる。
集束が止まった。
- 15 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:16:35.99 ID:fAXEZFuU0
- ( ・∀・)「吹き荒ぶは龍王の怒哮……」
掲げられた手を思い切り、突き出した手へとたたきつける!
すると、緑色の発光がその手に起こり
次に放たれたのは…巨大な風の龍だった。
( ・∀・)「アイオロスストーム!!!」
(;'A`)「うぉおお!?」
突然、目の前に自分の身体の何倍もある龍の口腔が現れたのだ。
ドクオは驚いて何もできない。
ただ、防御の姿勢をとってその陣風に耐えていた。
地を抉り、大樹をもぎ取り、空を穿つ。
吹きすさぶ風の音がまるで龍のいななきのような音を発している。
魔法の発生が終了すると、天候が急遽晴れに変わった。
残されたのは、肌を見せた大地とボサボサになってしまった草原のコントラスト。
そして、耐え抜いたドクオの姿だった。
( ・∀・)「なんだ、思ったよりも頑丈そうだね、その鎧」
(;'A`)「……」
- 17 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:23:33.25 ID:fAXEZFuU0
- 今ほど装備に感謝したことはない。
明らかに先ほどのカウンター魔法よりは強かったのだ。
でも、なんとか耐えてくれた…想像してる以上に頑丈なようだ。
それより……なんだ、今のは…?
眼前で、球を伝う雫のように風が弾けてくれたから良かったが…
通常装備だったら、間違いなく即死していただろう。
身体をずたずたに切り刻まれ、骨も残らないくらい塵にされそうだった。
(;'A`)(だ、ダメだ! ビビッてちゃ倒せるもんも倒せない!!
とにかく、隙があればどんどん攻めないと!!)
歯を食いしばり、ドクオは刀を握りなおす。
そして、未だ表情を変えようとしないモララーのもとへと再び突進していった。
( ・∀・)「……」
モララーは魔術師らしくないことをしてそれを迎える。
その行動とは、腰に下げていた短いナイフ。
名の有る職人によって鍛えられた物なので、実戦でも十分に使える。
だからといってそれを抜き、構えるのは彼らしくない。
その行為はつまり、世界最強の武士であるドクオに剣術で対抗しようということなのだから。
(#'A`)「何様のつもりだッ!!」
当然ドクオは怒る。
けれど、技の冴えは鈍らない。
- 19 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:27:54.10 ID:fAXEZFuU0
- 実戦の中でとはいえ、何度も何度も繰り返してきたラウンジ大陸に伝わる剣術の一つを正確に放った。
( ・∀・)(入刀角度、手の裡からして……『疾風返し』か)
まずは先ほどの激昂状態の斬りと同じく、振りかぶった袈裟斬りから入る。
初撃で仕留められた場合はそこで身体を旋回し、後方の相手に切り上げを加える。
そうでない場合は…
(#'A`)「はぁ!!」
( ・∀・)(右薙ぎ!)
そこからは基本、一対一の場合を想定した連撃に入る。
なぎ払いの後、刀を平にしたまま刺突。
直撃したならば、そこで技は終わり。
今モララーがやったように、回避されたのならば
( ・∀・)(更に右薙ぎだ)
最後の斬撃までも、モララーは受けきってみせた。
リーチは数倍も違うナイフと身体捌きによってだ。
(;'A`)(読まれていた…? まさか、そんなはずが…!?)
考えるな、そのまま続けるんだ!
ドクオは一歩引いてから、そのまま刀を鞘に納める。
- 20 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:32:07.27 ID:fAXEZFuU0
- 間合いはまだ彼の範囲内。連撃は可能だ。
( ・∀・)(柄頭が45度。この間合いで開いた手の裡から繰り出す技なら…)
テツ ゴマ
('A`)(鉄独楽!)
大きく力強く一歩踏み出して、ドクオは理合いを無視した抜刀術を使う。
本来ならば鞘がダメになるのでやらないのだが、実戦ではそうも言ってられない。
いつもより、鞘引きを浅くし鯉口(鞘の口のこと)に引っかかるようにして切り上げを行った。
そうすることで、右手の力だけではなく鞘と刀身が反発する力も利用して更に抜刀速度を上げることができるのだ。
( ・∀・)「っと!」
だが、それすらも回避される。
完全に間合いを読みきっていた。
(#'A`)「はぁあ!!」
しかし鉄独楽と呼ばれるその技は少し特殊で、『回避されること』が前提として考えられているものだった。
そのまま手首と刀を旋回させて、再び切り上げを加えるというものなのだ。
それでもモララーは動じない。回避は不可能とわかっているのならば、防げばいい。
短いナイフで、刀の反りが自分に届かないような絶妙な角度でナイフを突き出して防御していた。
(#'A`)「んっのや…」
- 21 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:37:29.95 ID:fAXEZFuU0
- (;'A`)「うおっ!?」
急に身体が宙を舞った。
なんだ? 踏み込んだ足が払われたのか!?
咄嗟に身体を反転させて転倒を避ける。
すぐさま刀を正眼に構えて、何が起こったのかを確認した。
モララーは自分が居た場所のすぐ下に居た。
想像したとおり、彼は自分に足払いを放っていたようだ。
…が、それはそれでおかしい。
肉体的には完全に自分が勝っている。
重心が完全に片足に寄った瞬間といえど、呪術師程度の足払いで自分がこんな大げさに転ぶだろうか?
( ・∀・)「……なるほど」
ゆらりとモララーは立ち上がって一人合点をする。
ドクオはただひたすら、次の手を考えているのでその行動すらも頭の中では認識できていない。
(;'A`)(次は……あの技で)
と決心し、刀を構えたその時
モララーが手のひらを突き出した。
魔力は込められていない。
ただ『止まれ』と示しているだけの行為だ。
- 22 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:42:19.05 ID:fAXEZFuU0
- ( ・∀・)「まだ抗うかい」
(#'A`)「ったりめぇだ!!」
一足飛びでドクオは間合いをつめる。
そして、刀を真横に倒しそのまま抜刀術を放つ。
サンセンソウ
( ・∀・)(三 閃 爪か)
右に一振り、左に一振り、そして再び右に一振り。
それを一歩の踏み込みで、瞬く間に放つ技が三閃爪という技だ。
すべてわかっている。
モララーは冷静に分析し、軽く跳躍しその刃圏内の外へ出た。
(#'A`)(今だ!!)
最後の一振りをしたと同時に、ドクオは連続技に入る。
( ・∀・)「!?」
思いっきり切り上げをしてきたのだ。
刀を納めてからの切り上げから繋がる技ならばモララーは知っている。
だが抜刀時から、更にこの間合いから撃ってくる技は…知らない!
- 25 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:47:48.30 ID:fAXEZFuU0
- カラ ウガ
(#'A`)「空 穿 ち!!」
初撃の切り上げはフェイク。
そのまま、体の捻転を利用してから放つ高速の突き技。
ドクオが編み出した独自の技だった。
( A )「……」
突き出した刀は天を突くが如くそびえている。
刃こぼれを知らない美しき妖刀のその切っ先に
優雅にその持ち主を見下す大魔術師は足を乗せて立っていた。
(;'A`)「これすらも…見切るのかよ」
( ・∀・)「知らない技であろうと、体の動きからどの斬撃を放ってくるかくらいはわかるさ。
今の技は特に、わかりやすかったよ」
トンッと切っ先を蹴り飛ばし、モララーはマントをはためかせながら地面に降り立つ。
( ・∀・)「じゃあ、そろそろ茶番も終いだ。終わらせてあげよう」
モララーは指を二本突き立てた。
すると、黒い煙のようなものが壁のように地面から溢れ出てきた。
(;'A`)「……なんだ、こりゃ」
( ・∀・)「君の反射神経はバカにならないからね。妨害でもしないと効き目がないからさ」
- 26 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:51:34.34 ID:fAXEZFuU0
- 黒い煙はドクオの不動にかけられた対抗呪文の範囲外に吹き出ている。
視覚効果のみの魔法ならば、ドクオにもしっかりと効果はあるのだ。
( ・∀・)「さっきわかったんだ。足を払ったとき、とあることをしたら君の身体はいとも簡単に空を舞った」
('A`)「あぁ…ありゃ、何だったんだ?」
( ・∀・)「ま、すぐにわかるよ」
モララーの声はしっかり聞こえている。
だからドクオはモララーがその煙のすぐ向こうにいると思っている。
でも違った。
モララーは、ドクオと煙を挟んだその向こうの更に奥の奥に居る。
そして、何故だか準備運動をしていた。
そして腕をぐるぐる回してから、前かがみに身体を沈めた。
陸上のクラウチングスタートのような体制だ。
( ・∀・)「じゃ、いきます…よっと!!」
バチッと稲光がしたと同時に
モララーの身体は光速の弾丸となり、ドクオへと突進していった。
通り過ぎた空間は時間差で突風を巻き起こし、黒い煙の壁なんぞは瞬時に大穴をあけ
(;゚A゚)「なっ!?」
次の瞬間には、ドクオの甲冑の胸部を破壊していた。
- 27 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:55:33.72 ID:fAXEZFuU0
- 砕いたのはモララーの拳。
魔術師の細腕によって、世界最強の武士はその腹部に耐え難い痛みと嘔吐感を覚えさせられてしまったのだ。
(;'A`)「ゴフッ…な、何が…」
( ・∀・)「さっきやったのと同じだ。魔法による攻撃自体は君の対抗呪文ですべて消えてしまう。
でも、魔法によって生み出された『速度』は別だったんだ」
(;'A`)「速…度…だと…?」
( ・∀・)「あぁ。その速度を生み出すこと自体は魔法によるものだが、次の瞬間には魔法の解していないただの『速度』に変わる。
それは魔法というカテゴリーの対象外になるんだ。威力や重さは相殺されず、そのまま君に伝わる」
(;'A`)「ちっ……何が…最強の鎧だよ……全然…遠いじゃねぇか…」
ドクオは吐血をしながら、気を失った。
( ・∀・)「……」
モララーは殺気が消えたのを確認すると、ふと視線を遠くにやった。
ξ;゚听)ξ(;´・ω・`)(; ^ω^)「「「!!!」」」
映像化されていたモララーと子供たちの目がバッチリ合う。
どうやらバレていたみたいだ。
- 28 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 20:59:22.31 ID:fAXEZFuU0
- ( ・∀・)「もう終わったよ。こっちにおいで」
そして拡声魔法をそのまま、彼らに向かってぶつける。
怒られるかと思ったが、どうやらそうでもないみたいだ。
声は穏やかで、表情も柔らかい。いつものモララーだ。
子供たちはそれならば、と少し悪びれた様子で駆け出す。
その途中、モララーはドーム状のスペルキャンセラーを解除した。
小屋も同じようにもとの、大樹の根元へと戻している。
( ^ω^)「モララーさん!」
( ・∀・)「全く、いくら君たちといえ危ないだろう。
せめてキャンセラーの範囲外から見ていて欲しかったよ」
ξ;゚听)ξ「ごめんなさい…」
(´・ω・`)「それで…殺したんですか? あの人」
(; ^ω^)「ちょっ…ショボンくん、いくらなんでも物騒だお」
( ・∀・)「いや、殺してはないよ。気を失ってるだけさ」
モララーはゆっくりドクオの元へ歩み寄る。
そして、刀を取り上げてスペルキャンセラーを放った。
レベルはマックスにしないと解けないほど強力なものだったが、これでこの刀はただの刀だ。
- 29 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 21:03:31.98 ID:fAXEZFuU0
- 鎧の呪力はもうない。
一部が破壊されたら、他の部分の効果も切れてしまう設計だったのだろうか。
解呪された刀を鞘に納め、ドクオの元へ返そうとした時
( ・∀・)「!」
伸ばした腕が、力強く掴まれた。
(;'A`)「何のつもり…だ…」
呼吸が浅く、息苦しそうにドクオは言い放つ。
モララーが突いたのは人体急所の鳩尾。
どれだけ肉体を鍛えようとも、克服できない弱点の一つだ。
それを光の速さで穿たれたというのに、ドクオは既に意識を取り戻しその目に殺気を宿らせていた。
( ・∀・)「驚くべき回復力だね」
(;'A`)「うるせぇ…。それより、どういうことだ。
奪った武器をまた戻そうなんて…間抜けのすることだろうが…」
( ・∀・)「それは武士同士の考えだろう。
それに、君の元に刀が戻ったところで僕は恐怖を感じないよ」
(;'A`)「……んだと?」
( ・∀・)「君の技はすべてわかる。僕の魔法は全て通る。
そんな状況の君に、何故僕が脅えなければならない?」
- 32 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 21:07:23.40 ID:fAXEZFuU0
- (;'A`)「…!」
握られた手をモララーは軽くあしらう。
折れるかと思うほどこめていた力が、ふっと抜けた。
(;'A`)「…だが、もう一度…態勢を整えて来るかもしれないぜ…?」
( ・∀・)「来ればいい」
(;'A`)「今度は、武士道を捨てて…ただの非常な殺人鬼としてくるかもしれないぜ…?」
( ・∀・)「やれるものなら、やってみればいい。」
( ・∀・)「ま、何度来ようと、君が敗北を認めるまで戦ってあげるよ。
それまで君の体が持つかどうかの保証はできないけどね」
口調は優しく、言動は殺人的に。
その姿は、まるで神様のようだった。
(;'∀`)「……へっ。ふざけんな。てめぇみたいな化物…二度とやりあいたくねぇっつーの
命がいくつあっても足りないわ」
ドクオは遂に本音をぶちまけ、再戦を拒否した。
その言葉をモララーは承認し、ニコリと笑う。
そして魔法陣を彼の体へと発動させる。
- 34 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 21:11:29.65 ID:fAXEZFuU0
- ( ・∀・)「じゃあね。また、会えたらいいかもね」
(;'A`)「頼んでも会いにこねぇよバカ野郎」
悪態をついた姿を最後に、ドクオは蒼い光球となり空の彼方へと飛んでいってしまった。
( ・∀・)「さて…」
振り返ると、キョトンとした顔の子供たち
それと、魔法や斬撃によって荒廃化してしまった台地が視界に入ってきた。
( ^ω^)「なんて話してたんですかお?」
ブーン達には言語の違いによって、何を話していたかなんてわからない。
ただ、表情を見る限りでは険悪な感じは覚えなかった。
( ・∀・)「あぁ、二度と来るなって言っただけだよ」
ξ゚听)ξ「二度来た所で、負けるのがオチでしょうけどね」
( ・∀・)「ははは。そうかもね」
(´・ω・`)「…しかし、凄まじい威力ですね。
あんなに綺麗だった草原が、すっかり土色だ」
( ・∀・)「畑仕事の範囲が増えただけだよ。
時間が経てば、ちゃんと再生できるさ」
( ^ω^)「じゃあ、今日はそのお手伝いをしますお!」
- 35 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 21:15:38.29 ID:fAXEZFuU0
- ξ゚听)ξ「あ、私も!」
(´・ω・`)「僕もやりますよ」
( -∀-)「…ありがとう」
モララーは言及しなかったが
本当は、恐怖していた。
ドクオにではない。
子供たちが、自分の戦いを見て離れていってしまうのではないか、と。
思い違いで済んだことが嬉しい反面…
気づく。
人との関係を絶とうとしていたのに、いつの間に自分はその関係に溺れてしまっていたんだ?
元々、何でそんな決意をしたんだっけ?
……あぁ
そうじゃないか。
元々は…こんなことにならないように人を遠ざけはずだろう。
なのに…僕は何をしているんだ?
- 36 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2010/02/14(日) 21:19:22.50 ID:fAXEZFuU0
- 自分と関わったばかりに、未来の希望を危険な目にあわせてしまった。
グズグズしているせいで、大切な人を失いかけてしまった。
同じようなことが、二度と怒らない可能性はゼロではない。
その時、誰一人傷つけることなく事を終える自信はあるか?
( ∀ )(…………)
葛藤し悩み続けるモララーの前には、彼を呼ぶ子供たちの無垢な笑顔があった。
つづく
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