- 2 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:38:24 ID:w.OycBSI0
- / ,' 3「…来たかい、ロマネスク君」
( ФωФ)「ハッ!」
王都『NEET』
VIP大陸の中枢にして、最堅の城塞都市だ。
都市の周りは高い城壁で囲まれており、空中にも結界が張り巡らされている。
唯一出入りの出来る門は、選りすぐりの小隊が守っておりセキュリティ面でも万全。
街並みは古きよき文化の伝統を受け継いだままだが、所々で魔法による影響により発達した文明が頭角を現している。
手紙のやり取りは伝書鳩ではなく、文面そのものを相手の家へ送信する『電報魔法』の普及によりスピーディとなり
火炎魔法と物質変換魔法の応用によって、都市の内部の移動は『鉄道』で出来るようになった。
魔法が使える者も、そうでないものも皆平等にその利便さを満喫できるよう、文化革命が起こっている。
その中心にあるのが、この王都NEETなのだ。
さて、
そんな都市のど真ん中に、高くそびえる城がある。
ステンドグラスやコリントの装飾が施されている柱。
ピラミッドを作るように土台から最上階まで面積が狭くなるつくりの古代式の城
そこがこの大陸の最高権力者、スカルチノフ王が住むNEET城である。
- 3 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:39:52 ID:w.OycBSI0
- 急な電報魔法を受けたロマネスクは、遠く離れた王都へ馬車を走らせ一日かけてたどり着いた。
そして今、謁見の間にて膝をつき頭を垂れて王と対峙しているのだ。
/ ,' 3「急ですまないね。
聖騎士でもあり、養成学校の教官でもある君を呼び出すのは忍びないことだったのじゃが…」
( ФωФ)「いえ、王の命より大事なことはございません。
して、私に一体何の用でございましょうか…?」
/ ,' 3「うむ。一年ほど前からかの。彼を感じるのじゃよ」
( ФωФ)「彼…?」
/ ,' 3「あれほどの魔力、そして独特の波動を持つ人間は二人とおるまい」
ロマネスク王は蓄えられた髭を撫でながら、小さな悪戯でもするかのように勿体ぶってから言った。
/ ,' 3「モララー=レンデセイバーの魔法の発動を感じるのじゃ」
(; ФωФ)「モララー殿のっ!?」
思わず立ち上がって驚いてしまうロマネスク。
慌ててその愚行に気づき、再び跪くが、スカルチノフは立ち上がることを許す。
今日は近衛騎士や魔術師も傍に置いていない。
戦前からよく目をつけられ、年齢差はあれども『友』として認められていたからこその対応だ。
故にスカルチノフは、ロマネスクを何度も近衛騎士へと昇格させようとしたが、ロマネスク自身がそれを拒否した。
常に戦線の最先端へ、そして街にも目を張り巡らせるためには近衛騎士ではなく聖騎士で十分なのだ。
破格の給与、栄誉が与えられるというのに、それを蹴り大陸のことを思った心身ともに立派な騎士の考えを無下には出来ない。
そう考え、スカルチノフも彼の意思を重んじ聖騎士のまま、それでありこれからも友人であることを約束させ戦後の措置を行ったのだった。
- 4 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:41:07 ID:w.OycBSI0
- / ,' 3「近衛魔術師ぐらいしか使えぬ空間転移魔法の発動。
一度きりじゃったが、物質認識転移魔法も感じた。あれは彼オリジナルの魔法じゃ、間違えるはずもない」
/ ,' 3「そして、つい先日のことじゃ。大魔法の発動を感じたよ」
( ФωФ)「大魔法の…?」
/ ,' 3「あぁ。ワシでもまだ上手く扱えない大魔法を軽々と使っておったみたいじゃよ…。それも連発での」
( ФωФ)「……して、王様。私を呼び出した理由とは?」
/ ,' 3「うむ。話が長くなってすまんの」
今度は、真摯に真面目にロマネスクは共へ頼みごとをした。
/ ,' 3「簡単な理由じゃよ。ワシと一緒に、とある場所へ来て欲しいのじゃ」
( ФωФ)「とある場所…?」
―――
―――――
―――――――
- 5 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:41:55 ID:w.OycBSI0
- (; ∀ )「……」
秋風の吹く山間の開拓地。
一年間かけて、ただの荒野を畑へと変貌させたその土地で彼は今日も畑仕事に精を出す。
流れる汗も、身体にまとわりつくシャツも、振り上げられる鍬もいつも通り。
ただ一つ、違う所がある。
いつだって絶やさなかったその笑顔が……そこにはないのだ。
すぐ側にはトソンが同じように手伝っている。
誰かが居るとき、彼は決して自分の心の内を顔には出さなかった。
怒っている時だって、嘆いている時だって
彼は薄ら笑みを浮かべで、そのすべてを達観するようにして立っていた。
先日撃退した、ラウンジ大陸最強の武士、毒田ドクオとの激戦以降
モララーの中から『余裕』という言葉が消えてしまったのだった……。
第7話『少年の悩み』
- 6 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:43:24 ID:w.OycBSI0
- (゚、゚;トソン「ふぅ…そろそろ休憩にしませんか?」
軍手をつけたまま、首にかけたタオルで顔を拭きながらトソンが問う。
涼しくなってきたとはいえ、農業のような重労働をすれば汗は自ずと垂れてくる。
この一年で季節ごとの太陽の動きを覚えていたトソンはお昼時だと判断し、お腹の虫との決議も経てその提案をモララーにしたのだった。
(; ∀ )「…あぁ、そうだね。僕はもうちょっとやれそうだから、先に休んでくれてていいよ」
(゚、゚;トソン「……そうですか」
言葉通りにトソンは行動を開始する。
農具は一度その場に置き、軍手を外して小屋の方へと歩いていく。
(゚、゚トソン(最近、どうも一人になりたがってるみたいなんですよね…)
現在では、一番近しい者だからこそ気づく違和感。
食事も極力一緒に取りたがらず、行動は同じでも言葉で交わろうとしてくれない。
( 、 トソン(何か嫌われるようなことをしてしまったのでしょうか…)
別段、おかしなことをした記憶は無い。
大事な物や記憶に触れたり、無神経な台詞を投げかけたこともない。
明確にわかっていることは、自分が熱を出した期間からこうなってしまったことだ。
もしかすると…寝言で素性をバラしてしまったのか?
疑問は更なる疑問を生む。
結局は、答案を見なければ悩み続けるだけだというのだが…その勇気はまだ持てない。
理由は単純。
今の関係が壊れてしまうのが怖いから。
- 7 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:44:21 ID:w.OycBSI0
- 自分は彼の傍に居たいし、離れるつもりもない。
記憶喪失したまま、ただのラウンジ大陸民という設定でこれからも付き合っていきたいと心から願っている。
たとえ心の広いモララーといえども、自分を目標にした暗殺者が傍にいてのうのうと暮らしている、と知ったら拒絶することは必至だろう。
それが嫌だから、トソンはいつまでも記憶が戻っていないフリを続けていた。
(゚、゚トソン「……」
でも、こうなってからは薄々思ってしまう。
彼は優しい人だ。
発熱時、自分が素性を話してしまったとしてもすぐには言ってこないだろう。
何よりもっと単純に。彼は至高の魔法使いだ。
気になって魔法を使えば、武士である自分には全く気付かれず全てを知ることなんて簡単なことだろう。
一人になりたがるのは、そのことに対して悩んでいるからだろうか…。
ふと、視界に入っている森の奥が青白く光る。
そういえば今日は休日だっけ。
朝早くではなく、お昼頃にわざわざ来るのは彼らなりの気遣いなのだろうか。
( ^ω^)「こんにちはーだお」
いつものように、声の大きいブーンが一番前に立ち大きく手を振って歩いてくる。
後ろにはツンとショボン。珍しくツーも今日は来ていた。
- 8 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:45:21 ID:w.OycBSI0
- (゚、゚トソン「いらっしゃい。モララーさんもすぐ来るから、入って待ってて」
ニコリと笑顔を浮かべてトソンは小屋へと子供たちを案内した。
ガチャリ。戸の開ける音を立てて、モララーは静かに小屋へ入ってきた。
( ^ω^)「あ、モララーさん! こんにちはだお!」
ξ゚听)ξ「こんにちは。お邪魔してます」
(*゚∀゚)「よーモララー兄ちゃん!」
(´・ω・`)「今日は随分と精が出ていたみたいですね」
(; ∀ )「……」
みんなの言葉をモララーは無言で受け止める。
そして、彼はそれに対して何か反応をすることなく、入ってきた時のように静かに屋根裏へと足を進めた。
余りの今までとの反応の違いに、子ども達はしばし放心する。
ブーンはツンと見つめあってから首をかしげ、
ツーは食べかけのお茶菓子をフォークに突き刺したまま停止、
ショボンはそんな彼らを見て、自分なりに何かわからないかと分析しようとしていた。
(゚、゚トソン「……あの、もしかして体調でも悪いんですか?」
心配になったトソンは、汗のついた服も変えずにベッドに身を投げ出していたモララーを気遣った。
( ∀ )「……いや、そんなことはないよ。心配をかけてごめんね」
- 9 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:46:19 ID:w.OycBSI0
- 腕で目を覆いながら、モララーは若干のラグを作ってから問いに答える。
そして、再び間を置いてから言葉を紡いだ。
( ∀ )「本当に申し訳ないんだけど……ちょっとだけ静かにしていて欲しいんだ」
(゚、゚トソン「……わかりました」
トソンは少し考えてから、階下に降りていく。
その言葉の意味を理解し、トソンは優しく子どもたちにお願いをした。
(゚、゚トソン「ごめんね、モララーさんちょっとだけ疲れてるみたいなの。
少し休めば回復するみたいだから、今日は外でピクニックでもしましょうか」
(*゚∀゚)「おー! いいな、それ!」
ξ゚听)ξ「疲れてるって……本当に大丈夫なんですか? モララーさん」
(゚、゚トソン「心配はいらないから、行こうか。今日はお天気もいいし!」
(´・ω・`)「まぁ、外はびっくりするくらいの曇天ですけどね」
(^、^;トソン「と、とにかく行こう!」
( ^ω^)(……大魔法を使ったから疲れたのかお?
いや、モララーさんがそれくらいで疲れるわけないおね)
ξ゚听)ξ(じゃあ、もっと別の……?)
(´・ω・`)(何にせよ、そっとしておくのが守られた側の礼儀だろうね)
トソンに背中を押されながら、先日の死闘を見ていた子ども達は各々理由を探しながら外へ出た。
何も知らないツーだけが、年相応らしく外へと駆け出して行ったのだった……。
(゚、゚トソン(……)
その時、子どもの背を押しているトソン自身は――――
- 10 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:47:20 ID:w.OycBSI0
- ( ∀ )(……僕は……)
扉の閉まる音が聞こえると、静寂が訪れた。
少しの間、子ども達の喧騒も聞こえていたが数分もすればそれも無くなる。
風の音すら聞こえない、完全な無音空間。
いつ以来だろう。一人になるのは……。
戦争を終えてから、数ヶ月。ここを見つけて、僕は居住を始めた。
それから約10年。ただひたすら孤独だった。
実際は、ツーちゃんの所に行ったりして交流自体はあったが……家に帰れば一人だった。
そもそも、何で僕は独りを望んだんだっけ?
名誉を受け、お城で豪華絢爛な生活もあり得た。
そうでなくとも、十分な賞与をもらってどこかに自分の街を造ることだって可能だったはずだ。
それでも、それすらも蹴って僕は何故独りを願ったんだ?
人付き合いが苦手だから? お金が嫌いだから? 富も名誉も必要ないから?
――――――違う。
- 11 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:48:39 ID:w.OycBSI0
- 怖いんだ。
怖かったんだ。
僕は、戦争の功績者だ。しかし、それを裏返せば、ラウンジ大陸にとって最高の仇敵でもある。
つまり、常に命を狙われる立場なんだ。それは決して敵対大陸だけの問題じゃない。
シャキンさんのような野心家だって、たくさん見て来た。
僕の立場を利用する人だってたくさん出てくるだろう。
齢15で戦線に立った僕は、政(まつりごと)にそこまで詳しいわけじゃない。
下手をすれば、知らずにとんでもない殺戮に手を貸すかもしれない。反乱だってありうる。
人の世は、結局は醜悪だったんだ。それは、あの戦争を一番前で見て来た僕が一番知っているじゃないか。
だからこそ、たかが一人の若造である僕が知った、わずかな世界の知識を元に出した結論が……
独りになることだったんだ。
何でそうなるかなんて、当たり前だ。
僕は、まだ若い。いや、正しくは青いんだ。
魔術に関する知識は長けていても、人間社会の知識は一般人未満だ。
力ばかり持っている自分が、何かを手元に置いてそれを守りきれるだろうか。
膨大な力に惹かれた人間を前にして、僕はちゃんと守りたいものを守れるのだろうか。
―――――――無理だ。無理なんだ。
そこまで僕は出来た人間じゃない。全然完成されていない。
ケツロン
だから、出した甘っちょろい幻想が孤独だったんだ。
どうして、それを僕は忘れてしまったのだろう。
なんで、一年以上も僕は考えなしに彼らを受け入れてしまったのだろう。
――――――今も、トソンさんと同じ屋根の下で共に暮らしている理由は何なんだろう……。
- 12 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:49:32 ID:w.OycBSI0
- わからない?
いや、わかってる。
知ってるんだ。
悪辣な世の中であっても、パンドラの箱のように一握りの希望がある。
僕はあの戦争で、醜さと一緒に人の温かさを知ったんだ。
ロマネスクさん、デレさん、ミルナさん、他にもたくさんたくさん……
あぁ、特に僕のことを、多分……誰よりも欲し、誰よりも好くしてくれたのは、他でもないスカルチノフ国王だった。
全てを持っているのに国王は、僕を一人の孫のように扱ってくれた。
だからこそ、独りになりたいという僕の言葉を、少し悲しそうに、けど喜んで聞いてくれた。
本当に嬉しかった。国をあげてでも引き止められる、くらいの覚悟はしていたのに……本当に、ありがたい。
そうなんだ。結局はそうなんだよ。
禁断の果実を口にした原初の人間のように、知ってしまったら抗えない。
僕は、人付き合いが怖くて嫌いな癖に……大好きなんだ。
( ∀ )「……はは」
乾いた笑いが思わず零れる。
なんだそれ。矛盾してる。怖くて嫌いな癖に好きなのかよ。
どうかしてるよ。
(゚、゚トソン「……あの」
(; ・∀・)「うわっ!?」
- 13 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:50:37 ID:w.OycBSI0
- 突然声をかけられたモララーは、普段ならあり得ないような声を出して飛びのいた。
いつの間にか、目の前にはトソンが立っていたのだ。
(; ・∀・)「ど、どうしたの? みんなは?」
(゚、゚トソン「忘れ物を取りに、と言って一旦戻ってきただけです。すぐに戻りますよ
あ、あと勝手に入ったわけではなく、ノックもしましたし何度か声はかけていたんですが……」
(; ・∀・)「そうなんだ……気づかなくてゴメン」
(゚、゚トソン「いえ……」
(; ・∀・)「……」
(゚、゚トソン「……」
沈黙が訪れる。
忘れ物を取りに来たなら、さっさとそれを取って戻ればいいじゃないか。
……と無粋なことを考えてしまうが、モララーはその言い訳が本心でないことはとっくに気づいている。
そもそも、外へ出て行ったのですら大した理由もないピクニックなんだ。
何を忘れるものがあるのだ。
トソンは、モララーに何かを言いに戻ってきた。それぐらいは、鈍感であるモララーだってわかっていた。
しかし、中々口を開かないトソンに対してモララーは出方を窺う以外に対処法がなかったのだ。
ただ、ベッドに腰をかけたまま俯いて固まるだけ。
(゚、゚トソン「あの、隣、良いですか?」
( ・∀・)「……どうぞ」
腰を少しズラして、座るスペースをモララーは作る。
その行動に対し、トソンは軽くお礼を言ってから、失礼しますと小さく言いモララーの横へ移動した。
- 14 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:51:21 ID:w.OycBSI0
- (゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「……」
時計の音すら聞こえない。彼の家に時計はないから。
ただただ、重い静寂だけが屋内を満たしている。
こんな空間を作っているのは果たして誰なのか。
モララーが勝手にそうしているのか。トソンが知らずに作っているのか。
考えを張り巡らせようとしたその時、トソンがゆっくり口を開いた。
(゚、゚トソン「……私が寝込んでいた時のことですけど」
( ・∀・)「……うん」
(゚、゚トソン「実は、何が起こっていたのか、ブーン君たちに聞きました」
( ・∀・)「……そっか」
(゚、゚トソン「ただ寝ていただけで、何も出来ませんでしたけど……
何をしてもらったかは、わかってます」
トソンはそう言うと、膝の上で固く結ばれていたモララーの拳に手を乗せた。
そして、優しく包み込むように握る。
行動の唐突さに、少し動揺したモララーがトソンを見る。
それに対し、トソンは微笑みながら心を込めて、ずっと前から言いたかった言葉をモララーに伝えた。
(-、-トソン「私を助けてくれて、ありがとうございました」
- 15 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:52:22 ID:w.OycBSI0
- ( ∀ )「……!」
(゚、゚トソン「何をどうやって、どうしてそうなったか何てものは知りません。あえて言います、知りたくないです。
それでも、モララーさんが私を、子ども達を、その身を呈して命がけで守ってくれたこと、それだけは事実です」
(゚、゚トソン「今回だけではないです。
初めて会った時も、しっかりお礼を言っていなかったので……随分遅くなってしまいましたが
本当に本当に感謝しているんです。私に生きる道を与えてくれて……」
( ∀ )「……トソンさん」
(゚、゚トソン「はい」
( ∀ )「僕は、そんな立派な人間じゃないよ。生きる道を与えたなんて、そんなことはしてない。
それはキミ自身が持ってる強さだよ。僕は、何もしてなんかいない」
いつになく、いつもより……いや、本当はいつだって。
モララーは弱弱しく言った。
自分は立派な人間じゃない。
ただの殺戮人形だってことを、誰よりも一番コンプレックスにしているからこそ。
志も、祈りも、それは、そんな自分を遠ざけないでくれ、という彼の心の叫びだったんだ。
( ・∀・)「助かったのは、キミの力だよ、トソンさん」
(゚、゚トソン「…………いいえ」
( ・∀・)「え?」
(゚、゚トソン「違います。まぎれもなく、あなたは私を、私たちを救いました。
それは事実です。あなたがそれを否定しても、その倍、私は肯定します」
( ・∀・)「トソンさん……」
(゚、゚トソン「卑下しないでください。弱気にならないでください。後悔しないでください。
例え、間違ったことがあったとしても、結果的に私たちは救われているんです。」
(゚、゚トソン「だから、そんなに自分を拒絶しないでください。
モララーさんは、自分で思っているより、ずっと、ずっと」
(^、^トソン「ずーっと、素敵な人なんですよ」
- 16 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:53:15 ID:w.OycBSI0
- ( ∀ )「トソン……さん……」
優しい笑顔をモララーは凝視できなかった。
眩しすぎた。いや、そんな崇高な理由じゃない。
単純だ。
嬉しかったんだ。ありがかったんだ。
『知らない』とはいえ、彼女はラウンジ大陸の人。
そんな人に、こうやって心から感謝される日が来るなんて思ってなかったから。
何よりも。
他人が、他人が、と遠ざけていたのは……自分だったのだ。
怖いから、嫌いになって欲しくないから。その気持ちが、逆に働いていた。
なんて滑稽なことなのだろう。自分を殴りつけたくなる衝動をモララーは抑える。
……それに、いつまで虚勢を張ってるんだ。
モララーは、やっと本心に気づく。
ツーに、ブーンに、ツンに、ショボンに、ロマネスクに、デレに、ミルナに
誰に言われるのでもない。
都村トソン、という女性にそう言われたのが何より嬉しいんだ。
モララーは、拳をほどくと、農業によって少し日焼けをしているその小さな手を握る。
- 17 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:54:21 ID:w.OycBSI0
- ( ・∀・)「トソンさん」
(゚、゚トソン「はい」
( ・∀・)「ありがとう。未熟で、薄弱な僕だけど……」
( ・∀・)「これからも、そういって貰える人を、一人でも増やすため僕は、頑張るよ」
(゚、゚トソン「えぇ」
(: ∀ )「……だから、その」
(゚、゚トソン「はい」
( ・∀・)「こ――――」
その先の言葉をモララーは紡げなかった。
遮られたのだ。扉を叩く音によって。
(゚、゚トソン「……誰でしょう?」
余りに無粋なタイミングだったが、すぐに現実に戻ったトソンが至極当然の疑問を口にする。
子ども達だろうか? だったら、すぐさま声をかければいい。
だが、言葉は聞こえてこない。
代わりに、規則的な音が小屋内に響いている。
それだけで、何か物が当たったわけではないことがわかった。
間違いなく、そこに人が居る。知らない誰かが。
( ・∀・)「……トソンさん。そこを動かないようにね」
(゚、゚トソン「はい」
- 18 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:56:23 ID:w.OycBSI0
- モララーは立ち上がり、扉へ近づく。
ノックをする、ということはラウンジの人間ではないことはわかっている。
彼らには扉を叩く風習がない。
扉……彼らの場合は、戸の前に立ち、いきなり声をあげて自分の所在を知らせるのだ。
と、すればやはり以前のようにラウンジの人間が来たわけではないだろう。
子ども達でもない、ラウンジの人間でもない。
つまり、VIP大陸の何者かがここに来たのだ。
ブーンのように漂流人だろうか?
何にせよ警戒を怠ってはいけないだろう。
( ´∀`) =3 ポンッ!
モララーは最も得意な人へ、変化の呪文をかけた。
体格も人相も、全てが他人。
初老の男性、モナーへと変化した彼は、そっとドアノブに手をかけようとした。
その時だった。
「ほっほっほ。やはり、キミだったか」
- 19 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2012/07/12(木) 22:58:00 ID:w.OycBSI0
- (: ´∀`)「!」
こちらから出る前に、入り口にいる人間から声をかけてきた。
モナーのように、皺枯れた男性の声。
声だけ聴けば、何の変哲もない声だったろう。
しかし、それでもモナー、いやモララーには体中に電撃が走るほどの衝撃だった。
(: ・∀・) =3(まさか……!?)
慌てて変化の魔法を解きながら、モララーは勢いよく扉を開けた。
/ ,' 3「久しぶりじゃね、モララーくん」
(: ・∀・)「スカルチノフ……国王……!」
最終話へつづく……
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