塔と民話のサーガのようです

2 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:35:54 ID:pDGpqt6cO
これは、むかしのおはなし。
神様に愛された娘がいて、娘もまた神様を愛していた。
だけど、娘はヒトだから、神様の住う蒼空には行けなかった。
そこで娘は、神様に誓いを立てた。

「わたしはあなたのためにこの身をささげます。ヒトと交わることなく、千代の刻を過ごしたのなら、わたしはあなたにふさわしい、白くけがれのない女になるでしょう」


そうして娘は、誰もいない森で暮らし始めたという。

けれども、その娘が神様のもとへ行ったかどうかは、さだかではない。

――第一階層「出入口の国」に伝わる民話

3 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:37:40 ID:pDGpqt6cO
食料。
水。
メモ。
鉛筆。
少しの着替え。
お守り。
それから、折り畳み式のフレイル。

ζ(゚ー゚*ζ「…よしっ」

鞄の中身を確認した私は、蓋をしめた。

ζ(゚、゚*ζ「……明日からお務めかぁ」

お務め。
それは、私の一族が代々続けて行う仕事。
なにをするのかといえば、私が住んでいる「塔」の階層を登って、他に誰が住んでいるのかを探り、伝承を調べるのだ。
「塔」、というのは……あくまでも通称だ。
てっぺんは、天に届いてしまいそうなくらい高くて、外壁は赤黒い色でとても不気味だ。
伝承によれば、人が生まれた時から存在して、みんなその中にいたという。
私の住む階層は、第一階層で「出入口の国」と呼ばれている。
何故そんな名前なのかというと、他の階層に出る扉の他にも、「外」に繋がる扉があるのだ。
「外」には一度、双子の姉であるツンと一緒に出たことがある。
……とても恐ろしいところだった。
「塔」の中と違って、地面は赤茶けた土がむき出しになっていて、地割れがあちこちにあった。
そして、人の骨らしきものが散らばっていた。

4 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:39:03 ID:pDGpqt6cO
そんな不気味なところだったから、みんな「外」には出たがらなかった。
……まぁ、たまに「外」に調査をしに行く人はいたけど、帰ってきた人なんていなかった。
それは、他の階層に行った人も同じなのだけれども……。

コンコン、とノックの音。
ツンかな?

ζ(゚ー゚*ζ「はぁーい」

ガチャリ、とノブを回す音。
入ってきたのは、私の父だった。

( ´_ゝ`)「夜遅くにすまない」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、今荷物の確認してたの」

( ´_ゝ`)「そうか」

父は物静かな人だ。
彼もまた、私と同じように双子の弟がいたそうだ。
だけど私が生まれる前に、彼はお勤めをしに旅に出ていった。
それ以来、帰ってこなかった。

( ´_ゝ`)「…怖くないのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「全然。ツンは心配して泣いてたけどね」

不思議なことに、私の気持ちは穏やかだった。
これから死ににいくようなものなのにね。

( ´_ゝ`)「そうか」

父が、私の頭を撫でる。
くすぐったいな。
十七才にもなって、こんなことをされるのは。

( ´_ゝ`)「…デレ」

5 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:41:37 ID:pDGpqt6cO
ζ(゚ー゚*ζ「なぁに?」

( ´_ゝ`)「…頼みがあるんだ」

そう言って父は、手紙を渡してきた。

( ´_ゝ`)「もし弟に…弟者に、会ったら渡してくれないか」

ζ(゚ー゚*ζ「弟者さんに…」

( ´_ゝ`)「生きてる可能性が少ないのはわかっている。だけど…どうしても伝えなきゃいけないことがあるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……わかった」

手紙を受け取って、鞄の中にしまう。

( ´_ゝ`)「中身は見るなよ。これは俺とあいつだけの秘密だから」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなことしないわ」

ζ(゚ー゚*ζ(少し気にはなるけどね)

( ´_ゝ`)「……さぁ、もう寝なさい。明日の出発は早いのだから」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、おやすみなさい」

灯を消す。
扉が閉まる音。

ζ(-、-*ζ「…………」

少しだけ、心配なことがある。
お勤めには私の親友のくるうと、自警団のお兄さんがついてくる。
だけど、一人足りない。
いつもお勤めには仲間が三人ついてくるのに。

ζ(-、-*ζ(きっと、あれなんだよね)

みんな諦めかけているのだ。
「塔」の存在や、神様の説話、他の階層のことが明らかになることを。

ζ(-、-*ζ(それでも私は気になる)

だから、私はお勤めに行く。
そして姉に、ツンに伝えなくては。

7 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:45:12 ID:pDGpqt6cO
女の子が、私に背を向けて立っていた。
真っ白な髪。
床に引きずってしまうくらいの長さ。

ζ(゚ー゚*ζ(きれい、)

触れてみたいと思った。
ゆっくりと歩く。
気付かれてはいけないと思っていた。
本当は、近付いてはいけない存在なのだ、とも。

けれども触れることはできなかった。
彼女は、鳥籠の中にいた。
透明だったから、近付くまでわからなかった。

ζ(゚ー゚*ζ(……やめよう)

隔離されている。
やはり、触れてはいけなかったのだ。

諦めて、鳥籠から離れて、

ζ(゚ー゚;ζ「ひっ!!」

lw   _ ノv「…………」

彼女が、いた。
背中しか見えていなかったのに。

lw   _ ノv「…………」

顔は、髪によって隠されている。
だけど、唇だけは見えていた。

lw   _ ノv「     」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

8 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:47:35 ID:pDGpqt6cO
はたと気付けば見慣れた天井。

ζ(゚ー゚*ζ「……夢?」

変な夢であった。

ζ(゚ー゚*ζ(夢に整合性を求めるのもおかしいけど)

時計を見る。
朝の、七時。
出発は九時だからちょうどいい。
起き上がって、リビングへ向かう。

キッチンには、ツンがいた。

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう」

ξ゚听)ξ「……おはよう、デレ」

複雑そうな表情で、ツンが言う。

ζ(゚ー゚*ζ「今日の朝ご飯は?」

ξ゚听)ξ「ん…ハムエッグとフレンチトースト、あと野菜スープ」

ζ(゚ー゚*ζ「へぇ、豪華だね」

私の言葉に、ツンはうなずく。

ξ--)ξ「当たり前でしょ。…もうすぐかわいい妹が、いなくなるんだから」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

昨日から、ツンは泣いてばっかりだ。
双子のどちらかがお勤めに行くのは、昔からの決まりごとで、よく言い聞かされていたはずなのに。

ξ゚听)ξ「……そうだ。あとで練習をしましょ」

ζ(゚ー゚*ζ「えー、またあれやるの?」

ツンは縋るようなまなざしで、私を見た。

ξ゚听)ξ「あれが、使えなくなっていたらお勤めできなくなるもの」

ζ(゚ー゚*ζ「……わかったよ」

9 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:50:21 ID:pDGpqt6cO
あれ、というのは……。
そう、一種の魔法のようなものだ。
先祖代々から、双子にしか使えない不思議な力。
それは、遠く離れた双子の片割れに、文章を送ることができるのだ。
言ってしまえばそれはテレパシーなのだけれども、少し方法が特殊なのだ。


ξ゚听)ξ「お待たせ」

テーブルに、料理が並べられる。

ζ(゚ー゚*ζ「おいしそう…」

ξ゚听)ξ「私が作ったんだから当然よ」

ζ(^ー^*ζ「いっただきまーす!」

ナイフとフォークで、フレンチトーストを切り分ける。
口の中に入れたそれは甘くてハチミツの香りが、ふわって鼻に抜けていった。
もふもふのふかふかでしっとりやわらか。
たまらない!

ζ(>ー<*ζ「おいし〜!」

思わず足をバタバタする。

ξ゚听)ξ「こらこら、はしたないわよ」

ζ(>ー<*ζ「だっておいしいんだもん」

もぎゅもぎゅと咀嚼。
うん、至福。

ζ(´ー`*ζ「こんなおいしいご飯を作れる嫁さんをもらえて、ブーンさんは幸せ者だねぇ」

ξ゚听)ξ「ちょ、ちょっとそれは関係ないでしょっ」

ζ(゚ー゚*ζ「ありますー。だって結婚するんだからさ!」

10 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:52:54 ID:pDGpqt6cO
ξ゚ー゚)ξ「…………」

ツンは、ただ静かに笑うだけだった。
なにこれ。気まずいじゃない。
からかいついでに、お祝いしただけなのに。

ζ(゚ー゚*ζ「……ツン、」

ξ゚听)ξ「ねぇ、やってよ」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

言われなくても、分かった。
私は、棚の引き出しからペンと紙を出した。
それにサラッと一言を書いて、小さく畳んだ。
静かに息を吸う。
そして、手のひらに置いた紙に向かって、ゆくりと息を吐き出した。

紙が、ふわりと舞う。
同時に、それは小さな蝶に変化した。
ゆらゆらと揺れながら、蝶は飛ぶ。
私の半身である、ツンのもとへ。

ξ゚听)ξ「…………」

ツンは、黙って蝶に手を伸ばす。
手に触れた途端、蝶は紙に戻った。

ξ゚听)ξ「……ちゃんと、出来たね」

バタフライエフェクト。
周りの人達は、そう呼んでいる。
今までお勤めに行った人達は、これを使って、ここに残された双子に情報を届けていた。
だから私の家には、膨大な記録があり、幼少の頃からそれらを頭に叩き込まれてきた。
……とはいえ、他の階層は行く度に違う国になっているそうだから、あまり意味がないように思えるんだけど。

ξ゚听)ξ「……ほんとに、行っちゃうの?」

ツンの言葉にうなずいて、わたしはハムエッグに手を伸ばした。
早く食べないと、集合時間に間に合わない。

11 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:54:54 ID:pDGpqt6cO
朝食を食べ終えたら、もう一度荷物の確認。
それから家を出て、集合場所である扉へ向かう。

その途中で、私はくるうに出会った。

ζ(゚ー゚*ζ「くるう!」

川 ゚ 々゚)「あ、デレ」

笑ってるんだかぼんやりしてるんだか分からないような顔で、くるうは私を見た。

くるうは、お医者さんでもあり、魔法使いでもある。
その二つを合わせた、「魔療」というものが使えるんだそうだ。
……怪我したことないから、どんな風に治してくれるのか分からないけどね。

川 ゚ 々゚)「もうすぐだねー」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。でも本当にいいの?」

川 ゚ 々゚)「いいのー」

長い黒髪をいじりながら、くるうは言う。

川 ^ 々^)「汝のために己を殺せ、だもの」

ζ(゚ー゚;ζ「…………」

その言葉は、くるうの家に伝わる教えである。
なんとも物騒な言葉だけど、その自己犠牲の精神のおかげで、貴重な仲間が増えた。
感謝すべきなのだ、本当は。

12 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:56:15 ID:pDGpqt6cO
川 ゚ 々゚)「それよりこの服どうー?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、かわいいよ」

川*゚ 々゚)「ほんとー?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、ほんとほんと」

シンプルな赤いワンピース。
ふんわりと広がった裾には、黒いレースがついている。
とてもかわいいけど、返り血が目立たなさそう、と考えてしまう私はまったくおしゃれに興味がなかった。

今の格好だってそうだ。
ハーフパンツと、飾り気のないシャツブラウス。
それから、父からプレゼントされたトレンチコート。

ζ(゚ー゚*ζ(少しだけ、おしゃれしてみたらよかったかな)

なんて考えてももう遅い。
もう少し歩いたら扉に着くのだから。

13 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 18:58:10 ID:pDGpqt6cO
そうしてしばらく歩いていると、

【+  】ゞ゚)

扉の前に背の高い男の人がいるのを見つけた。
お勤めに着いてくる自警団のお兄さんだ。
彼はものすごく大きな鞄を持っていた。
横に長い、棺桶みたいな鞄。

ζ(゚ー゚*ζ(重くないのかな?)

川*゚ 々゚)「オサムー」

くるうがぱたぱたと走って、その人のもとへ行く。
彼女は、オサムさんのことを慕っているのだ。

川*゚ 々゚)「おはようオサム。その荷物はなぁに?なにが入っているの?」

まくし立てるようなくるうの口調に、オサムさんはゆっくりと返事をした。

【+  】ゞ゚)「おはよう、くるう。これには、旅に使うものと武器が入っているんだ」

川*゚ 々゚)「そうなんだぁー」

ζ(゚ー゚*ζ「……おはようございます」

【+  】ゞ゚)「ああ、おはようございます、デレさん」

……実は、オサムさんのことは苦手だったりする。
彼はいつも無表情だし、少し年が離れているし、あまり面識がないからどのような人柄なのかまったく知らないからだ。

【+  】ゞ゚)「これで、仲間は全部ですか?」

オサムさんの言葉にうなずこうとした時だった。

「デレー!!」

15 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 19:00:26 ID:pDGpqt6cO
突然聞き覚えのある声が聞こえた。

ζ(゚ー゚;ζ「ドクオ!?」

ドクオ、というのは木こりであるネーヨさんの息子で、私の幼馴染みである。
その彼が、リュックを背負ってこちらに来ていた。

ζ(゚ー゚;ζ「ど、どうしたの?」

('A`)「俺も行く!」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ」

('A`)「だって、三人しかいないんだろ?」

ζ(゚ー゚;ζ「まぁそうなんだけど…」

ちらりと私はくるうとオサムさんを見る。

川 ゚ 々゚)「まーいいんじゃなぁい?仲間不足なのは本当だし」

くるうは、どうでもよさそうに答えた。
彼女、意外とめんどくさがりなところがあるのよね。

【+  】ゞ゚)「……きみは何か取り柄を持っているのか?」

オサムさんが静かに聞く。
彼のまなざしは品定めをするようなものだった。

('A`)「木こりの息子なんで…斧の使い方には慣れています」

【+  】ゞ゚)「…くるうの手にも負えないような怪我をしたら置いていくが、それでもいいのか」

('A`)「……はい」

その言葉に、私は不安になる。

16 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/02(火) 19:02:08 ID:pDGpqt6cO
ζ(゚ー゚;ζ「いいの?ネーヨさんにはちゃんと許可もらったの?」

('A`)「三日間喧嘩したけど最終的には「シラネーヨ、好きにしな」って言われた」

ζ(゚ー゚;ζ「…………そう、」

穏やかそうな顔をしているのに、なかなか強烈なことを言う人なんだ。
ネーヨさんの印象を上書きしつつ、私は言った。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ…くれぐれも死なないように、ね?」

('A`)「おう」

川 ゚ 々゚)「お話しおわりー?」

【+  】ゞ゚)「やっと出発か?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、お待たせしました」

扉まで歩いて、ノブに手をかける。

ζ(゚ー゚*ζ(緊張するなぁ)

そう思いつつ、ノブを回して扉を押した。
扉の向こう側は、どうなっているのか分からない。

深呼吸をして、私達は中へ入っていった。



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