塔と民話のサーガのようです

217 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:35:07 ID:OF3HtC06O
特別なものがなんにもなくて、これといって楽しいことも悲しいこともない国がありました。

そこに住むヒト達は、なんにも感じずに生きていました。
争いはなかったのですが、ヒト同士の繋がりがあまりにもなさすぎたものですから、神様はその国を見ても、なんにも面白いとは思えませんでした。



――第十階層「にぎやかなの国」前編

218 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:36:21 ID:OF3HtC06O
次にたどり着いたところは、とても不思議なところでした。

ζ(゚ー゚*ζ「わぁ……」

(*'A`)「すげー」

なぜか空は薄桃色に染まっていて、とても綺麗だった。
それから、花火のあがる音が辺りに響いた。

【+  】ゞ゚)「祭かなにかか?」

オサムさんの呟きに、くるうが目を輝かせる。

川*゚ 々゚)「いいね、いいね。お祭だったら屋台見たいなぁ」

ζ(゚ー゚;ζ「お金はどうするのよ」

今までのらりくらりと旅をしてきたけど、一度たりともお金を使ったことはなかった。
というか、使えるんだろうか?

('A`)「とりあえず行ってみよう」

ドクオの言葉にうなずいて、私達は国に向かった。

219 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:38:29 ID:OF3HtC06O
しばらく歩いていくと、楽しげでにぎやかな音楽が聞こえてきた。

川*゚ 々゚)「やっぱりお祭っぽいよー」

【+  】ゞ゚)「そうだな」

ζ(゚ー゚*ζ「お祭かー……」

思わず故郷にいた頃のことを思い出す。
小さい頃は、よく父とツン、それからネーヨさんとくるうとドクオの五人と一緒によくめぐっていた。

ζ(゚ー゚*ζ(…………)

【+  】ゞ゚)「門が見えてきたな」

オサムさんの言葉で、我に返る。

川*゚ 々゚)「すごく派手な門だねー」

ζ(゚ー゚*ζ「うわ、」

くるうの言うとおり、その門は風船なら花やらで飾られていた。

('A`)「くぐるのに勇気がいるな」

ζ(゚ー゚;ζ「だね」

そんなことを言いながら、入国して、

( ><)「わぁ、お客さんです!外からのお客さん!!」

すぐに背の小さい女の子に話しかけられた。

( ><)「はじめまして、ようこそにぎやかな国へ!どこから来たのですか!?」

ζ(゚ー゚;ζ「えっと……あっちから」

なんとなく、来た方向を指差す。
すごく元気がいいから、つい押されてしまう……。

220 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:40:21 ID:OF3HtC06O
( ><)「そうなんですかー!あ、ボクはビロードです、よろしく!」

ζ(゚ー゚*ζ「私はデレ」

('A`)「ドクオ」

川*゚ 々゚)「くるうとオサムだよー!」

(*><)「よろしくなのです!」

( ><)「みなさん、運がよかったですね!明日からお祭が始まるのですよー」

【+  】ゞ゚)「……明日から?」

ζ(゚ー゚*ζ「この騒ぎは?」

素朴な質問に、ビロードちゃんは、

( ><)「これは前夜祭なのですよ」

とあっさり返してきた。

ζ(゚ー゚;ζ「ぜ、前夜祭!?」

見たところ、屋台がずらりと並んで、飲んだくれている親父がたくさん沸いているというのに。
と、あたりを見渡していたら、こちらに近付いてくる男の人に気付いた。
……のだけれども、同時に異臭がした。
甘ったるくて、鼻に突き刺す臭い。

ζ( ー ;ζ(く……くさっ……!?)

そう思ったのは、私だけではなかったようだった。
ビロードちゃん以外みんな顔をしかめたり息を止めたりしていた。

221 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:42:25 ID:OF3HtC06O
臭いはどんどん近付いてくる。

ζ( ー ;ζ(ひえぇ……)

( ><)「どうしたのですか?」

キョトンとしているビロードちゃんは、このキツい臭いがわからないのだろうか?
そして、その臭いの主は、ビロードちゃんに話し掛けてきた。

( <●><●>)「ビロードや この人達は 誰ですか?」

( ><)「旅の方なのです!さっき自己紹介した方で……」

ζ( ー ;ζ(が、我慢我慢……)

いくら臭いがひどくても、面と向かって言えるわけがなかった。
が、それに堪える術もなく……。

( <●><●>)「ところでね なんでみなさん 白目むく?」

臭いからだよ、と思わず言いそうになった時だった。

( ><)「あっ!お兄ちゃん、能力使ってるんでしょ!!」

( <●><●>)「ああ失敬 うっかりして いましたよ」

( ><)「まったくもう……。大丈夫ですか?」

ζ(゚ー゚;ζ「ええ、多分……」

大丈夫じゃない。
臭いがキツすぎて鼻が麻痺している、とても気持ちが悪い。

(;'A`)「うぇぇ……」

川;゚ 々゚)「く、くさかった……じゃなくて助かった……」

【+  】ゞ-)「まったくだ」

223 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:44:26 ID:OF3HtC06O
ζ(゚ー゚*ζ「ところで、そちらの方は……」

( <●><●>)「わたくしは ワカッテマスと いうものだ」

( ><)「ボクのお兄ちゃんで俳人さんなのです。みんなからはワカって呼ばれているのです」

川 ゚ 々゚)「廃人?」

ζ(゚ー゚;ζ「俳句を詠む人のことだと思うよ、くるう……」

( <●><●>)「そのとおり お嬢さんは 頭がよい」

ζ(゚ー゚*ζ「それは、どうも……」

それにしても、俳人だからってずっと五七五で話し続けるつもりなんだろうか?

( ><)「ところでお兄ちゃん、スランプは治りましたか?」

( <●><●>)「全然だめですね、片っ端から俳句っぽくしてみましたが失敗でした」

Σζ(゚ー゚;ζ(普通に話せるんかい!)

なんだかペースが乱されてしまう。

ζ(゚ー゚*ζ(悪い人ではないだろうけど……)

( <●><●>)「ところで、みなさんは急ぎの用はありますか?」

ワカさんの質問に、私達は旅をしている理由を説明した。
それから、特に急いでいる旅でないことも。

( <●><●>)「それならわたしたちの家に泊まって、本祭を楽しんでから旅立ってはいかがでしょう?」

川*゚ 々゚)「お祭行きたい!」

224 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:46:39 ID:OF3HtC06O
くるうの言葉に、私達はうなずく。

('A`)「今まで大変だったから、たまにはいいんじゃないか?」

【+  】ゞ゚)「ドクオの言うとおりだな」

ζ(゚ー゚*ζ(オサムさん、お祭って好きなんだ)

少し意外だった。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、そうしようかな」

私の言葉に、

( ><)「やったー!」

と、ビロードちゃんは飛び跳ねながら喜んだ。

( <●><●>)「では、私の家まで案内しましょう」

笑みを浮かべながら、ワカさんはそう言った。

ワカさんの家に向かう道すがら、私はこの国がにぎやかになった所以とされる民話を聞いたり、本祭にはどんなイベントがあるのかを聞いた。

( ><)「能力バトル大会は、ぜひ見に来てほしいのです!」

('A`)「能力バトル?」

( ><)「この国にいる人達は、みんな不思議な力を持っているのです」

( <●><●>)「その中でだれが一番強いのかを二人一組で競いあうのです。わたしも、今年は優勝を目指しています」

ζ(゚ー゚*ζ「へぇ……」

【+  】ゞ゚)「なんで二人一組なんだ?」

オサムさんの言葉に、ワカさんはこう言った。

( <●><●>)「一人なら守るものが何もありませんから、存分に暴れる事ができるでしょう。しかしそれは、まことに強いといえますでしょうか?」

【+  】ゞ゚)「…………」

226 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:48:29 ID:OF3HtC06O
( <●><●>)「助け合う事が出来なければ、本当に強いとはいうことができませんよ」

( ><)「それに、神様からもらった能力のほとんどは、二人一組にならないと使えないものが多いのです」

( <●><●>)「……実は、さっきの臭いはわたしの能力の一部でして」

川;゚ 々゚)「えーっ、あのくさいやつー!?」

【+  】ゞ゚)「こら、くるう」

川 ゚ 々゚)「ごめんなさい」

そんな二人に笑いかけながら、ワカさんは言う。

(*<●><●>)「いえいえ、そう思われたのなら逆に本望です」

( ><)「お兄ちゃんは、つけている香水の香りを何倍にも強める能力の持ち主なんです」

(;'A`)そ「ずいぶん限定的だな!」

ζ(゚ー゚*ζ(たしかに)

そんなので、戦うことなんかできるのだろうか?
私達の疑問に、ワカさんは笑いながらこう言った。

( <●><●>)「ええ、たしかに弱いです、それはワカッテマス。しかし妹と一緒なら無敵なのです」

( ><)「ボクは、臭いのレベルが高いほど強力な武器を作る能力を持っているのです!」

('A`)「臭いのレベル……?」

( <●><●>)「そう言われても、なかなか理解できないでしょう」

からからと笑うワカさんの言葉に、私達はうなずいた。

227 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:52:00 ID:OF3HtC06O
( <●><●>)「ええ、ワカッテマス。もうすぐ家に着きますから、見せてさしあげます」
そうして、ワカさんの家に着いた私達は、まず庭先に案内された。

( <●><●>)「あそこに、的があるでしょう?」

指差すその先には、木々の間につるされた木の板があった。

( ><)「あれをバラバラに壊してあげます!」

いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、ビロードちゃんは的を見つめる。

数瞬の静寂。
ビロードちゃんの表情は真剣で、先ほどの笑みの面影は残っていなかった。

( ><)「……お兄ちゃん、」

そう呟いた刹那、

( <●><●>)「はい」

ζ(゚ー゚*ζ「!」

甘ったるい臭いが、鼻を刺激した。
ビロードちゃんが、的に向かって右手を伸ばす。
その手には、いつの間にか小さな黒いものが握られていて。
その引き金が引かれた瞬間、ターンッ!と聞き慣れない音が耳をつんざいた。

ζ(>ー<*ζ「っ……?」

思わず目をつぶる。
が、的がどうなったのか気になって、すぐにそっちを見た。

228 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:54:49 ID:OF3HtC06O
ζ(゚ー゚*ζ「!!」

川 ゚ 々゚)「すごい……」

(;'A`)「な、なんだ今の……」

【+  】ゞ゚)「…………」

的は、木端微塵になっていた。

(*><)「これが、ボクの能力です」

誇らしげに、ビロードちゃんは言った。

( <●><●>)「さすがですね、ビロード」

(*><)「えへへ」

( <●><●>)「少し、片付けをしてきますので、先に家の中に入っていてください」

ワカさんはそう言って、木々のある方へ向かっていった。
が、先程の出来事があまりにもショックで、何も言えなかった。
けれども、彼だけは違った。

【+  】ゞ゚*)「素晴らしい、」

惚けた表情で、オサムさんは言った。
いつもは濁りきっている瞳が、爛々と輝いていた。

【+  】ゞ゚*)「あんな武器、初めて見た。あれは、君が考えたものなのか?」

( ><)「いいえ、あれは昔パパが持っていた銃の真似をしたんです」

【+  】ゞ゚*)「銃、というのはなんだ?俺のいた国にはそんなものなかったんだ、仕組みはどうなっている?使い捨てなのかそれとも繰り返し使えるのか、重さは、射程距離は?」

ζ(゚ー゚*ζ(こんな饒舌で楽しそうなオサムさん、見た事ないな)

229 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:57:50 ID:OF3HtC06O
そんなことを考えていたら、

(;'A`)「おい、」

ドクオが私の脇腹を肘でつついてきた。

ζ(゚ー゚*ζ「ん?」

あれを見ろ、と言うようにドクオは視線を投げ掛ける。

川 ゚ 々゚)「…………………………………………」

そこには、無言でビロードちゃんをにらむくるうの姿があった。

ζ(゚ー゚*ζ(や、やばい……)

そう思ったものの、時すでに遅し。

(;><)「ええっと、お家の中に銃がありますから、説明してあげましょうか」

【+  】ゞ゚)+「是非頼む」

ζ(゚ー゚;ζ(あわわわわ……)

さらにくるうの眼光はきつくなる。
それに気付かずに、ビロードちゃんはオサムさんと一緒に家の中へ。

ζ(゚ー゚;ζ(どうしよう、)

そう思った時だった。

230 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 00:59:40 ID:OF3HtC06O
川  々 )「オサム、」
【+  】ゞ゚)「なんだ?」

川 ^々^)「ちょっと、屋台見に行ってくるー」

にっこりと笑みを浮かべて、くるうは言った。

川*^々^)「だからオサムはぁ、ビロードと一緒にいればいいよ」

そうして、くるうはオサムさんの返事も聞かずに走っていってしまった。

ζ(゚ー゚;ζ「…………」

( ><)「くるうさん、どうかしたんでしょうか?」

キョトンとした表情で、私達を見るビロードちゃんに、素直に答えを言うのははばかられた。

代わりに、小声でドクオに話し掛けた。

ζ(゚ー゚;ζ「……私、ちょっと探しにいくから、ここに残ってもらえる?」

('A`)「わかった」

ζ(゚ー゚;ζ「お願いね!」

そうして、私はくるうの後を追うこととなった。

231 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:01:06 ID:OF3HtC06O
走るデレの背中を見送った後、俺はオサムさんと向き合った。

【+  】ゞ゚)「……二人とも、急にどうしたんだ?」

('A`)「なんでもないです」

どうして想いを寄せられる相手は、そろいもそろってこうも鈍いんだろうか。

('A`)(察しろよ……)

なんてゴチながら、家の中へ入る。

( ><)「こっちなのですよー」

と、案内された部屋の壁には、銃がたくさん飾られていた。

【+  】ゞ゚*)「おお……」

オサムさんが、思わず声をもらす。

( ><)「これが携帯用のピストル、あっちはライフルで……」

【+  】ゞ゚*)「ほうほう。違いは?」

('A`)(……よくわからん)

仕組みやらなにやらを聞き流しながら、部屋を眺める。
それにしても、オサムさんがあんな風に興奮するところ、初めて見たなぁ。
クロスボウも銃も飛び道具だから、興味を持つのも仕方がないのかもしれない。

232 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:02:55 ID:OF3HtC06O
('A`)(……でもあいつはショックだっただろうなぁ)

思い返せば、くるうとオサムさんはしょっちゅう一緒に行動しているが、オサムさんの対応はいつだって平坦だった。
くるうは、そんなのお構いなしにべったりくっついていたけど。

('A`)(……そもそも、ああまでされて好きって気付かないものか?)

俺だったらすぐに気付くんだけど……。

【+  】ゞ゚)「ドクオくん」

(;'A`)「な、なんですか?」

オサムさんは、言いにくそうにこう言った。

【+  】ゞ゚)「少し、席を外してくれないか?」

('A`)「…………」

なんで?
そう聞きたかったが、雰囲気的に無理であった。
俺は、黙って部屋を出た。

【+  】ゞ゚)「……すまないな」

何に対して、謝っているのだろう。

('A`)(なんにもわかんねーや)

パタン、と扉が背後で閉まった。

233 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:04:23 ID:OF3HtC06O
屋台が立ち並ぶ大広場に到着したものの、くるうの姿はとっくになかった。

ζ(゚ー゚;ζ(足が早いのは相変わらずだなぁ……)

人込みをかき分けながら、そう思う。

ζ(゚、゚;ζ(暴走してなきゃいいけど……)

あの子は怒ると見境がつかなくなって、何もかもを壊す癖があった。
思い返せば、一度だけ大暴走をして、周りの家をたちまち壊してしまったこともあった。
あの時はたしか……。

ζ(゚―゚*ζ(両親の捜索を打ち切った時だった)

塔の「外」は、あまりにも遠くに行くと二度と帰ることができない。
だから、自警団の人達も仕方なく周りを探してすぐに帰ってきてしまった。
それで、くるうが怒って、オサムさんがどうにか止めて……。

ζ(゚ー゚*ζ(……それから、オサムさんに依存し始めたんだよね)

235 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:07:33 ID:OF3HtC06O
今までは、私とくるう、それからたまにドクオを含めて三人で遊んでいた。
それが、気がついたらオサムさんも入り交じるようになっていた。
といっても、彼はくるうに引っ張られて無理矢理連れてこられたみたいだから、喋ることは全然なかった。

……気がついたら、オサムさんは遊びに来なくなった。
くるうも、いなくなった。
きっとオサムさんを追いかけていたのだろう。
ただ、変わらなかったのは、ドクオだけだった。

ζ(゚ー゚*ζ(…………)

どうして、彼はいつもそばにいてくれるのだろう。
わざわざこんな旅に着いていく理由だって、ないはずなのに。

その訳を考えていた時だった。

ζ(゚ー゚;ζ「……あ!」

一瞬、赤髪が見えたのだ。
しかしそれはまた人込みの中に消えていった。

ζ(゚ー゚;ζ(くるう……!)

なんとかして、追いつかなければ。

236 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:09:54 ID:OF3HtC06O
( ><)「……どうしたんですか、オサムさん」

ビロードさんが、俺を見上げながら言う。

【+  】ゞ゚)「……個人的な話なんだが、君はやり直したいと思ったり、忘れる事のできないような過去を持っているかい?」


( ><)「……そういうのは、よくわかんないです」

【+  】ゞ゚)「そうか」

幼い少女には、そういったものがないのかもしれない。

【+  】ゞ゚)「……昔、俺はこの手で守ってくれた人を殺してしまったことがあるんだ」

ぽつりぽつりと、言葉がこぼれる。
今まで仲間に言えなかった過去。
それを話そうと思ったのは、名無しの国での出来事のせいだろうか?

【+  】ゞ゚)「……幸せに、なってはいけないと思っているんだ」

( ><)「その人を、殺してしまったからですか?」

その言葉に、俺はうなずいた。

【+  】ゞ゚)「あの娘から……くるうから、何度も好意を告げられたが、俺はそんなものを受け取る資格はないと思っている」

( ><)「…………」

【+  】ゞ゚)「盾すら壊してしまうような人間が、他人を守れるわけがないって思っているんだ」

実際、俺は守るべきものを壊しかけてしまった。
俺は周囲を傷付けることしかできないのだ。

237 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:13:16 ID:OF3HtC06O
やれやれ、といった感じでビロードさんが呟く。

( ><)「あなたは臆病者で馬鹿ですね」

【+  】ゞ゚)「…………」

( ><)「ボクには幸せにならないことで、その負い目から逃れようとしているようにしか見えません」

ビロードさんが、銃の飾り棚に手を伸ばす。

( ><)「結局自分が傷つくのが怖くていじけているだけなのです。何も背負えない人が、なにかを守ることなんてできません」

( ><)「でも、あなたには幸いにも慕ってくれる人がいる。その気持ちを踏みにじってしまったら、今度こそあなたは無力な人間になってしまいますよ」

幼い顔つきに似合わない笑みを浮かべながら、ビロードさんは俺に銃を差し出した。
それを受け取ろうとして……、師匠とくるう、ドクオくんやデレさんの顔が脳裏によぎった。

【+  】ゞ )「しかし、」

( ><)「なら、あなたはなぜ銃に惹かれたのですか?銃はクロスボウなんかより強力で危ない武器なのですよ?」

【+  】ゞ )「…………」

( ><)「自分の過ちを、くるうさんの気持ちを、受け入れたいと思っているからではないのですか?」

【+  】ゞ )「……俺は、」

俺は、幸せを、受け入れてもいいのだろうか?
これを受け取っても、よいのだろうか?

239 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:16:49 ID:OF3HtC06O
川 ゚ 々゚)「…………」

人込みでデレをまいた後、私は人気の少ない森の中にいた。

川 ゚ 々゚)「……オサム、」

あんな風にはしゃいでるの、初めて見た。
わたしにはいつもしかめっ面ばっかりなのに。

川 ゚ 々゚)「…………」

長い髪の毛を、いじる。
むかし、オサムがきれいだねって、長いほうが素敵だよって、褒めてくれた髪の毛。
……ほんとに、むかしの話。
オサムは忘れてしまっているかも。
もしかして、好みが変わったのかな。
だって彼女は、髪が短いから。

川 ゚ 々゚)「…………、」

ぐるぐると黒い感情が渦を巻く。

川 ゚ 々゚)「……ポッと出のくせに」

目をつむる。
自分の体の中を巡る魔力を感じ取る。
ひどく弱々しく、微かだ。でも。

川  々 )(人を傷付けるには充分だ)

今まで、たくさんの人を癒してきた。
その分、自身を殺して来た。

川  々 )(一度くらい、)

一度くらい、その力を自分のために使っても構わないよね。

川* 々 )「ふふふ、」

オサム。
大好きなオサム。
ずっとずっとあなたを追いかけていた。
大好き、大好き、大好き!!!!

川*゚ 々゚)「、」

ゆっくりと、歩き出す。
そろそろあの家に戻ろう。

240 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:19:03 ID:OF3HtC06O
川 ゚ 々゚)「おかえりー」

ζ(゚ー゚*ζ「」

突如消え失せた友人を探し回った挙げ句見つからなくて意気消沈しながら家に戻ったら、本人が既に帰っている。
その時の気分って、なかなかやるせないものである。

ζ(゚ー゚#ζ「…………ただいま、」

そう言いながら、私はくるうにでこピンを一発くれてやった。

川 > 々<)「いったぁ〜い!!」

ζ(゚ー゚*ζ「まったく……心配したんだから」

川 ゚ 々゚)「……ごめんね」

締まりのない笑顔を浮かべながら、くるうは謝ってきた。

ζ(゚ー゚*ζ(よかった)

その様子を見て、少し安心した。
もしかしたら、私がいない間にオサムさんと仲直りしたのかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ(そうだったら話を蒸し返す必要はない)

私はそれ以上、あのことに関して話すのをやめた。

241 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:20:47 ID:OF3HtC06O
次の日、私はドクオと一緒に屋台を回ることになった。
くるうはいつも通りオサムさんと一緒だ。
ワカさんとビロードちゃんは、大会に備えるために一足先に会場にいると言っていた。

( <●><●>)「本選が始まるのは昼下がりなので、それまでは屋台を見ていたらどうでしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「予選とかはないんですか?」

( ><)「予選はみなさんが来る前に済んでしまったのです。楽しみにしてください!」

ζ(゚ー゚*ζ(お祭かー……)

そういえば前に、こうやってドクオと一緒に行ったことがあったな、と思い出した。

ζ(゚ー゚*ζ(あの時のドクオはなんだか面白かった)

名前を呼ぶ度にびっくりしたり、滑舌が妙に悪かったり、顔色が赤くなったり青くなったりしていた。

('A`)「デレ?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん?」

('A`)「どうしたんだ、ぼーっとして」

ζ(゚ー゚*ζ「ん、なんでもない」

242 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:22:01 ID:OF3HtC06O
('A`)「そうか?」

心配そうにいうドクオに、私は笑いかける。

ζ(^ー^*ζ「平気平気、お腹の傷もすっかり治ったから痛くないよ」

('A`)「……そっか」

複雑そうに、ドクオは言った。
……傷のこと、まだ気にしてるのかな。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫だよ」

('A`)「…………」

ドクオは、唇を噛み締めた。
安心させたくて、そう言ったのに。

ζ(゚―゚*ζ(どうしてうまく伝わらないんだろう)

('A`)「……デレ、」

ζ(゚ー゚*ζ「へ……?」

ドクオの手が、私の左手を取った。
そして、そのまま歩き出した。

ζ(゚ー゚;ζ「ド、ドクオ……?」

( A )「話があるんだ」

真剣な声。
話って、なんだろう。
人込みからわざわざ離れるくらいだから、きっと大事な話だ。

ζ(゚ー゚;ζ(でもなんで今……?)

その理由を考えようとする。
だけど人々の喧騒と、にぎやかすぎる音楽のせいで、集中することができなかった。

243 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:24:29 ID:OF3HtC06O
しばらく歩いて、雑踏から解放される
それでもまだドクオは歩き続ける。
やっと歩みを止めたのは、森の中に入った頃だった。

('A`)「デレ」

私と向かい合いながら、ドクオは私の名前を読んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「なに?」

手は、握り締められたまま。

('A`)「俺、ずっと嘘ついてた」

ζ(゚ー゚*ζ「?」

('A`)「ただお前を救いたいとか、勇者になりたかったとか、そういう理由で仲間になったわけじゃない」

その声は、震えていて。
よくよく見たら、彼は額に汗をかいていた。

( A )「ずっと、デレのことが好きだった」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

好き。
それは、きっと、友人以上の好意、という意味。
ツンが、ブーンさんに向けるようななにか。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

( A )「仲間がいようといまいと、お勤めにはついていくつもりだった。デレのそばにずっといたかった」

('A`)「なにかあったら、守ろうって決めてたんだ」

ζ(゚ー゚*ζ(……わたしは、)

('A`)「俺は、弱いし臆病だけどさ。好きな女の子くらいは守り抜きたいって……」

ζ( ― *ζ(わたし、)

244 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:26:34 ID:OF3HtC06O
('A`)「デレさえ生きていればいい。俺は死んじまっても、」

ζ( д *ζ「やめてよ!」

思わず、手を振り払う。
やっとのことで、出た言葉はそれだった。

( A )「…………」

ζ( ― *ζ「……わかんないよ、そんな理由でお勤めについてきて」

(;'A`)「そんな理由って……」

ζ( ― *ζ「なんでそんな軽々しく他人のために死ねちゃうの?好きってそういうものなの?」

(;'A`)「…………」

ζ( ― *ζ「……私、そういうの全然わからない。ドクオが私に好意を持つ理由も、くるうがオサムさんに執着するわけも」

言葉と一緒に、しずくがあふれる。
長らく、他人に話したことのない秘密が、どんどんこぼれていく。

ζ( ― *ζ「ツンが、ブーンさんのことを好きな理由もわからない。その逆も……」

(; A )「デレ、」

ζ( ― *ζ「友達以上の関係なんて、わかんないよ……」

(; A )「…………」

246 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:31:49 ID:OF3HtC06O
嫌われたに違いなかった。
今のドクオは、理解できないって顔をしていたから。

( A )「……ごめん」

ζ( ― *ζ「……ううん」

背を向けながら、私は言う。

ζ( ― *ζ「……ごめん、ちょっと一人にして」

( A )「…………」

ζ( ― *ζ「ワカさん達のところには、行くからさ」

( A )「…………」

ドクオは、何も言わなかった。
気配が離れていく。

ζ( ― *ζ「…………」

私は、声を押し殺して泣いた。
こんなの普通じゃないってことくらい、分かってる。
好きだから、父と母は私とツンを生んだ。
それは他の人にもいえることだ。
だけど、だけど……。

ζ( ― *ζ(愛しいとは、思ったことがない)

247 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:33:10 ID:OF3HtC06O
雑踏は苦手だ。
しかしなぜか、女性というものはこういったものを好む。

川*゚ 々゚)「オサムー」

【+  】ゞ゚)「なんだ」

しまった、少し不機嫌に返してしまったかな。
そう思ったのも束の間だ。
くるうは相も変わらず目を輝かせながら、俺に綿菓子の屋台を指差した。

川*゚ 々゚)「あれほしいなー」

【+  】ゞ゚)「そうか」

しかしあいにく、俺は砂糖の塊が嫌いだ。

【+  】ゞ゚)「…………」

とはいえ、昨日のあれの埋め合わせのために一緒にいるのだから、拒むのは気が引けた。

【+  】ゞ゚)「一つでいいな?」

ワカさんにもらった食券を取り出しながら、くるうを見る。

川*^々^)「うんっ!」

その言葉に安心する。
二つと言われたら、どうしようかと思った。

248 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:36:55 ID:OF3HtC06O
( ,,^Д^)「おっ!あんちゃん顔に似合わず甘いもん好きなんだねぇ!」

【+  】ゞ゚)「……いや、そこの子が食べるんだが」

( ,,^Д^)「なーんだ、アベックさんか!しょうがないなぁオマケしといてやんよ!」

【+  】ゞ゚))「え、いや、それは……」

( ,,^Д^)「ほらほらほらー!」

【+  】ゞ゚)「…………」

断る間もなく、俺は両手に綿菓子を持つこととなった。

川*^々^)「わーい!いただきまーす」

ニコニコしながら綿菓子に取り掛かるくるうを見ながら、俺は言う。

【+  】ゞ゚)「……くるう、もう一ついらないか?」

川*^々^)「ううんー、いっこでじゅーぶん」

【+  】ゞ゚)「……、」

……これはあれだろうか。
今までくるうとの仲をなあなあにしてきた罰なのだろうか。

川*゚ 々゚)「食べればいいのに、おいしいよ?」

砂糖でベタベタになった口で、最上級の笑みを浮かべながらくるうは言った。

【+  】ゞ゚)「そ、そうか……」

引きつりながらそう返して、綿菓子に口をつけた。

ああ甘い。

【+  】ゞ-)(まったく……)

胸糞悪くなるくらい、甘ったるい。

249 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:37:57 ID:OF3HtC06O
俺はあてもなく森を飛び出した。

( A )(そんな理由、か)

好きじゃなかった。
それどころか、迷惑だったらしい。
視界がにじむ。
堪えなければ。
森はどんどん遠のく。
にぎやかな音楽が近付いていく。
どんどん、もっと、うるさく。
喧騒を求めて走り、そして、


( <●><●>)「どうしましたか、そんな泣きそうな顔をして」

('A`)「…………」

(;A;)「フラれた」

ワカさんと遭遇した。

( <●><●>)「それはそれは……」

平坦な声。
それから、ワカさんが手招きをした。

( <●><●>)「まぁ、少しお話をしましょう」

(;A;)「…………」

( <●><●>)「ここで泣くにはにぎやかすぎますから」

250 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:40:59 ID:OF3HtC06O
そうして連れてこられたのは、一軒の店。
中には誰もいなかった。
きっと祭に行っているのだろう。

( <●><●>)「知り合いの店ですから、どうぞ好きになさってください」

('A`)「はぁ、」

人の家だから使ってもいい、っていうのもなんだか変な話だ。
しかしそんなことは関係ないというような態度で、ワカさんは店の奥の小さな椅子に座った。
俺も、テーブルを挟んで座った。
ちょうど彼と向かい合う形だ。

( <●><●>)「それで、どうしたんですか?」

( A )「…………」

話そうかどうしようか、俺は迷った。
しかし、ワカさんはわざわざ付き合ってくれたのだ。
この後に、大会があるというのに。

俺は、勇気を出して、デレとのことを話し始めた。

彼女と幼馴染みであったこと。
最初はずっと友達でいられると思っていたこと。
十五才の時に知ったお勤めのこと。
いつか故郷から出て行ってしまう彼女と、もう二度と会えないとわかった瞬間に、離れたくないと思ってしまったこと。
何の取り柄もないけど、守りたいと思ったこと。
それを全て、否定されてしまったこと。

251 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:42:13 ID:OF3HtC06O
( <●><●>)「…………」

('A`)「結局俺はただのおせっかい焼きで、あいつには邪魔だったのかなー、なんて」

はは、と渇いた笑いが出る。
あんな風に突き放されると、もはや開き直るしかなかった。

( <●><●>)「……ドクオくん」

('A`)「はい」

( <●><●>)「これから、少し質問をします」

('A`)「?」

( <●><●>)「あちこち旅をしてきたあなたからすれば、くだらない仮説かもしれません、だけど、私なりに考えたのです」

('A`)「…………」

( <●><●>)「お話を聞く限り、デレさんとそのお姉さんのツンさんは、とても対照的な関係に思えます」

('A`)「ああ……」

たしかにそうだ。
ツンはわりと交友関係が広かった。
しかし、デレは人と関わるよりも本を読むほうが好きだった。
古くからの友人といえるのは、俺とくるうくらいだ。

( <●><●>)「他にも、対照的な点はありますか?」

('A`)「うーん……」

俺は、ツンと話したことがあまりなかった。
ツンよりも、デレに興味があったからなんだが……。

('A`)「あ、デレは右利きで、ツンは左利きだ」

( <●><●>)「ほう、」

252 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/11/02(金) 01:44:52 ID:OF3HtC06O
真っ黒な瞳が、少し輝いた。

( <●><●>)「他には?」

('A`)「えーっと……」

それから、ワカさんにせかされるまま、俺はデレとツンの特徴をあげていった。
その度に、ワカさんの目はギラギラと輝いた。

('A`)「それくらいかなぁ……」

( <●><●>)「なるほど」

ワカさんは、一呼吸おいてそう言った。

( <●><●>)「やはり、私の考えは……」

('A`)「?」

( <●><●>)「……もう少し、時間をくださいますか?」

('A`)「は、はぁ……」

( <●><●>)「すみませんね、もう少ししたら会場に行かなくてはいけませんから」

その言葉を聞いて、俺は申し訳なくなった。

(;'A`)「すみません……」

( <●><●>)「いえ、吐き出して少しでも楽になれたのなら幸いです」

ワカさんが歩き出す。
俺もその後に続く。

('A`)(仮説……)

ワカさんには、デレのなにがわかったのだろう。

店の外へと向かう背中を見つめながら、俺はそう思った。


――第十階層「にぎやかな国」前編 了


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