塔と民話のサーガのようです


331 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:33:57 ID:0B7VPRSo0
兄者へ。
前回の報告から時間が経ってしまったけど、俺は相変わらず元気です。
兄者も変わらず元気でいるか?
ヒートさんとはうまくやっていると俺は信じているけど。
お勤めをしていると時間の感覚がわからなくなるから、二人が今いくつなのか、子どもはもう生まれたのか、そういうことが一切わからない。
少なくとも多少年は取ってるとは思うんだけど。
前書きが長くなってすまん。
実は驚くべきことに、今さっき渋澤おじさんに会ったんだ。
もうとっくの昔に死んだあの人が、俺の目の前に現れたんだ。
まず国の説明をしなくてはいけないな。
十一階層「戦争の国」を後にした俺たちは、薄暗がりの世界にたどり着いた。
住人も家もなにもない。
方向が正しいかどうかもわからずにひたすら歩いていたら、いつの間にかはぐれてしまっていた。
そして気付いたら渋澤おじさんがいたんだ。
「弟は元気か?」と言われた。
だから、国を出るときには元気だったと伝えた。
どうしておじさんがいるのか聞いてみたけど、本人にもわからないようだった。
どこで死んだのかもはっきりしないのだと。

332 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:34:48 ID:0B7VPRSo0
そしてまた気付くと彼は消えていた。
代わりに呆けた表情をしたキュートとデルタ、それからじぃが俺を見つめていた。
たくさんの国を見てきたが、こんな国は初めてだ。
今までの資料にもなかったよな?
つまりこれは、俺が見つけた国だ!
かっこいい名前をつけるぞ。
「常闇の国」なんて、どうだろう?


――第十二階層「常闇の国」にて、弟者から送られてきたバタフライエフェクトより

333 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:36:06 ID:0B7VPRSo0
唐突だけど、幼い頃の記憶の話をしたい。
私の家には大きな書斎、もとい資料室があった。
そこには歴代のご先祖さまが命を散らして集めた民話がたくさんまとめられていて、私はよくそこで本を読んでいた。

( ´_ゝ`)「デレは、本当に本を読むのが好きだな」

ツンとは正反対なんだな、と笑いながら父は私の頭を撫でていた。
本当に、私はよく本を読んでいたと思う。
好き嫌いは特になかった。
書架の端から端まで全部読んでしまうくらいに。

けれど。
一度だけ、父から手渡された本があった。
それは、父の片割れの弟者さんのバタフライエフェクトを集めたもので。

( ´_ゝ`)「これを、読んでほしいんだ」

と、勝手に開かれたページには、弟者さんが一番最後に送ったバタフライエフェクトが載っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「パパ、これなんてよむの?」

( ´_ゝ`)「とこやみ、だよ。夜みたいにずっと真っ暗なことさ」

それは、なんだかとてもおそろしいもののように思えた。
だけど、弟者さんはそんなことを全然思っていなかったようだった。
だから私も暗闇のことを怖くないように我慢をしていた。

そして、それは今もあまり変わらなかったりする。

334 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:36:54 ID:0B7VPRSo0
ζ(゚ー゚*ζ「!」

('A`)「な、なんだこれ」

ドクオが戸惑ったように声をあげた。

川;゚ 々゚)「まっくらー」

【+  】ゞ゚)「いや、それでも慣れてくるとうっすら物が見えるから、完全に暗闇ってわけでもないようだぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

薄暗がり。
十二階層。
私は、なにやら話し合っている三人をしり目に、弟者さんの話を思い出していた。
もし、これが「常闇の国」であるのなら。
私は、誰かと会うのだろうか。
それとも、ドクオやくるう、オサムさんが……。

ζ(゚ー゚*ζ「……とりあえず、歩きましょう」

【+  】ゞ゚)「まぁ、たしかに」

川 ゚ 々゚)「オサム!一緒に手つなご!」

('A`)「仲がよろしいことで」

川 ゚ 々゚)「つなげばいいじゃん」

('A`)「お前なぁ……」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

手をつなぐ、というのは子どもの頃ならよくやったけどね。
少し気恥ずかしい。
でも、

(;'A`)「えっ!?」

ζ(゚ー゚*ζ「なによ」

(;'A`)「い、いや」

たまには、童心にかえってもいいんじゃないのかな、って。

ζ(゚ー゚*ζ(でも恥ずかしいな)

なんともいえないむずがゆさを感じながらも、私たちは薄暗がりのなかを歩き出した。

335 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:38:39 ID:0B7VPRSo0
('A`)「昔さ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

('A`)「お前を書斎から引っ張り出して遊びに行くときに、よく手つないだよな」

ζ(゚ー゚*ζ「あー……」

川 ゚ 々゚)「そういえばそうだよねー」

【+  】ゞ゚)「デレさんは意外とインドア趣味なんですね」

ζ(゚ー゚*ζ「んー、そうかも」

川 ゚ 々゚)「かもじゃなくて絶対そうだって」

('A`)「でも意外だったな、てっきり手つなぐの嫌がるかと思ったのに」

嫌ではない。
手をつなぐのは友達でもできるから。

ζ(゚ー゚*ζ(そう、だよね)

あまり詳しいことはわからないけど。


ζ(゚ー゚*ζ「?」

ふと気付くと、私の左手にはなにもなかった。
ドクオ達の声も。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

空っぽの手を、ぎゅうっと握りしめた。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

歩きながら考える。
私は、誰と会うのだろうと。
もしかしたら会えないかもしれない。
仲間とはぐれたまま、ひとりぼっちで。

ζ(゚ー゚*ζ(弟者さん、よくこんな暗いなかで手紙書けたなぁ)

336 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:40:01 ID:0B7VPRSo0
もしかしたら次の国で書いたのかもしれない。
けれどもその次の国で、彼は。

ζ(゚ー゚*ζ(やめた)

こんな暗闇のなかで、そんなことを考えてしまったら。
私は先に進めなくなる。
歩みを止めてしまう。

ζ(゚ー゚*ζ(そんな情けないこと、できないわ)

歩く。
歩く。
ひたすら歩く。
どれくらい先に進んだのかもわからずに、歩き続けて。
そして。

ζ(゚ー゚*ζ「!!」

(´<_` )

ぼんやりと、棒立ちしている人が見えた。
父だ。
違う。
似てるけど、違う。

ζ(゚ー゚*ζ「弟者さん……?」

うすぼんやりとした影の、彼はこちらを見た。

(´<_` )「、」

337 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:41:08 ID:0B7VPRSo0
(´<_` )「きみは、お……」

ζ(゚ー゚*ζ「お?」

(´<_` )「……お勤めに、来た子か。俺と同じ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうです、デレです」

返事をしながら、私はまじまじと彼を見つめた。
なんてそっくりなのだろう。
父の生き写しのような人だった。

(´<_` )「……兄者とヒートは、元気か?」

ζ(゚ー゚*ζ「母は既に亡くなりましたが、父は元気でした」

今となっては、わからないけれど。
そんな不必要な言葉を飲み込んで、私は思い出す。

ζ(゚ー゚*ζ「手紙……っ!」

(´<_` )「手紙?」

ごそごそと鞄を漁る。
内ポケットのなかに、父から弟者さんへの手紙が入っているはずなのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あった!」

少ししわのついたそれを、彼に手渡す。

(´<_` )「…………」

ほんの少し、躊躇ってから弟者さんは手紙を受け取った。

(´<_` )「……デレちゃん」

手紙の封を切りながら、弟者さんが呟くように私を呼んだ。

338 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:42:27 ID:0B7VPRSo0
ζ(゚ー゚*ζ「はい」

(´<_` )「きみのお父さんは、なんて手紙を書いたかわかるかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「……いえ、」

もしかして中身を見たと思っているのだろうか?
でも、封はちゃんとされていたはずだし……。

(´<_` )「俺にはわかるよ。恐らくヒートにも」

ζ(゚ー゚*ζ(なにが言いたいの?)

(´<_` )「きみは、お勤めに行くことを望んでここに来たのかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、まぁ……」

ツンは故郷を離れることを嫌がった。
私は故郷を離れてもよかった。
別に故郷がどうでもいいわけではない。
だけど、お勤めに行かなくてはいけないという意識があったから。

(´<_` )「その昔」

取り出した手紙を読まずに、彼は言った。

(´<_` )「俺たちの時代には、どちらがお勤めに行くのかを選ばせてもらえなかった」

ζ(゚ー゚*ζ「?」

(´<_` )「俺はあいつと違って、のほほんとした性格で、勉強も出来なかった。目新しいことが好きで、なんでもかんでも手を伸ばして物を壊してしまうような人だった」

彼は、手紙を開いた。
視線をそれに落としながら、彼は続ける。

(´<_` )「あいつは勉強も出来て、ダメな俺の尻拭いをよくしていた。物を壊してしまった時には一緒に謝りに行ってくれたこともよくあった」

ζ(゚ー゚*ζ「はぁ、」

(´<_` )「だけど、あいつは新しいものが苦手だった。新品とかそういう意味じゃない、未知のものが苦手だったんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

341 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:44:53 ID:0B7VPRSo0
(´<_` )「でもそれ以外に弱点なんかなかった。そんな完璧に近いあいつと、不完全な俺を見た周りの人間は、お勤めに行くのはどっちが向いていると判断すると思う?」

ζ(゚ー゚*ζ「……私は、」

どちらが正しい、なんて言えないと思う。
塔の中はめちゃくちゃで、常識なんか通じないのだから。
ああ、でも。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたのほうが向いていると思います」

(´<_` )「それはどうして?」

手紙から顔をあげて、そう聞かれた。

ζ(゚ー゚*ζ「……父は、目新しいものが苦手なのでしょう? お勤めをしてわかったけれど、この塔の中は不可解なことがたくさん起きるわ」

(´<_` )「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「そんな環境では、父は狂ってしまうような気がする」

(´<_` )「……そう思ってくれる人が、俺の時にいたらよかったんだけどね」

はは、と笑いながら彼は言う。

(´<_` )「だけど、お勤めに行くことになったのは、しっかり者だけど臆病な弟だった」

ζ(゚ー゚*ζ(弟は、あなたでしょうに)

(´<_` )「弟は泣いていた。外に出ることが怖かったんだ。それに、あいつには愛する人がいたから」

(´<_` )「だけど俺は怖くなかった。それに俺は弟とヒートを大切に思っていたから」

どうしてこんな、言い回しをするのだろう。
どうして、どうして。
これでは、まるで。

ζ(゚―゚*ζ(自分が弟ではないと言っているような、)

(´<_` )「俺たちは嘘をついた」

ζ(゚―゚*ζ「…………」

(´<_` )「真実を知っているのは俺と弟者とヒートだけ。」

ζ( ― *ζ「じゃあ。あなたは、父は、」

( ´_ゝ`)「騙していて悪かったね。だけどそろそろ種明かしをしなければ、弟者は悔やみ続けるだろう」

342 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:46:15 ID:0B7VPRSo0
輪郭が、揺れる。
ぼんやりとした影が、薄くなる。

( ´_ゝ`)「なぁ、弟者に伝えてくれないか。俺は入れ替わってお勤めに出たことを後悔していないって」

ζ( ― *ζ「……はい」

( ´_ゝ`)「俺はいろんなものに触れられたし、弟を守れたことに誇りを持っているんだ。だから……」

ζ(゚―゚*ζ「…………」

( ´_ゝ`)「だから、俺が勝手に死んでしまったのを、自分が殺したかのように思うのはやめてくれ、って伝えてくれよ」

ζ(゚ー゚*ζ「…………はい、」

私の言葉に、兄者さんは優しく笑った。

( ´_ゝ`)「この先、気を付けろよ。覚えていないけど、なにか嫌なことがあったような、そんな気がするんだ」

透明な手のひらが、私の頭を撫でる。
けれども温度も感触もなくて。
やっぱりこの人は死んでいるのだと、私は思ったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

( ´_ゝ`)「できればきみの口で伝えてくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「……はい!」

343 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:47:18 ID:0B7VPRSo0
気付けば私は、また一人になっていた。

ζ(゚ー゚*ζ(常闇の国、)

いったいどうして、こんな国ができたのか。
不思議に思いつつも私はふたたび歩きだした。



しばらくして。
白い点が見えた。
点?
というより、光?
とりあえず、そこを目指そう。

足を更に早める。
ああ、それにしてもドクオたちはどこにいるのだろう。
もしかして置いていかれてしまったのかな。
そんな怖い考えが浮かんでは消え、浮かんでは消え……というのを繰り返していた時だった。

「デレ!」

不意に、手を掴まれた。
じっとりと汗で湿った熱い手。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ?」

('A`)「勝手に手を離してはぐれるなよ……」

離したつもりはなかった。
でも、あの不思議な出来事はきっと私にしかわからないから。

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね」

ただ一言、そう謝った。

ζ(゚ー゚*ζ「くるうとオサムさんは?」

川 ゚ 々゚)「ちゃんと近くにいるよー」

【+  】ゞ゚)「暗くて見えないだけかと」

ζ(゚ー゚*ζ「……そっか」

みんながちゃんと揃っている。
それだけで、私は安心した。

344 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:48:15 ID:0B7VPRSo0
('A`)「先に進もうよ」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん!」

白い点を目指して歩くこと、……何分かはわからないけど。
だいぶ時間が経ってから、そこにたどり着いた。

点の招待は真っ白な、両開きのドアだった。
ドアの上には、ランプがあって、それが光源だったらしい。

ζ(゚ー゚*ζ(ここで兄者さんは手紙を書いたのかな)

そう思いながら、私はいつも使っている一式を取り出した。

そして、今さっき起きたことを簡単に書き留めた。
兄者さんと、父のことは少し悩んだけど、書くのはやめることにした。
ただ一言、「必ず帰るから」と。
その言葉で、手紙を締めくくった。

口で伝えなければ。
だってこれは、兄者さんとの大事な約束だから。

蝶はひらひらと舞う。
その暗闇の中に姿を消したのを見届けて、私はドアを開けた。

ζ(゚ー゚*ζ「絶対に、帰ろうね」

('A`)「……そうだな」

川 ゚ 々゚)「帰ったらオサムとデートする!」

【+  】ゞ゚)「……まぁ、それもいいか」

思い思いの返事が返ってくる。
それが私の背中を後押しした。

345 名前:◆R6iwzrfs6k:2013/02/28(木) 17:50:20 ID:0B7VPRSo0
ひらひらと蝶は飛ぶ。
デレたちの歩んだ道とは逆の方向に。


(´レ_` )

常闇のなかに、一人の男が立っていました。
彼に構わず、蝶は目の前を横切ろうとしました。

しかし、男は蝶を掴んでしまいました。
蝶はもがきましたが、やがてそれは紙に戻ってしまいました。

(´レ_` )「…………」

彼は紙の余白を、指でなぞりました。
文字を書くように、なんども。

それから男は、すぅ、と息を吸って。
吐息が、触れた途端に紙はまた蝶に戻りました。
そして何事もなかったかのようにそれは飛んでいきました。

(´レ_` )「…………」

(´レ_` )「……今度こそ、君を助けよう」

( レ_  )「シュー」


第十二階層「常闇の国」 了


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