塔と民話のサーガのようです

24 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:07:18 ID:SFfzYyVoO
神様は全知全能の存在だと言われている。
ならば、学徒は神様と同等の存在ではないのだろうか?

人よ、あくなき探求心を抱け。
醜悪と言われようとも、知識を食らい尽くすのだ。


――第二階層「学園都市の国」に伝わる言葉

25 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:10:21 ID:SFfzYyVoO
扉を抜けたその先には、よく手入れがなされた樹々に囲まれた道があった。
けれども、その道には赤い煉瓦が敷いてあったから、人の手が加わっていることは明らかだった。

ζ(゚ー゚*ζ「ここは……」

('A`)「…なんか、すごいところに来たな」

【+  】ゞ゚)「こっちの国よりは発達していそうだな」

川 ゚ 々゚)「早く行こうよー」

ζ(゚ー゚*ζ「くるう、落ち着いて」

はしゃぐ気持ちはわかるけど、どんな人があるのかはまだ分からない。
親切な人だったらいいけど、よそ者を嫌う人だったら困る。
もっと困るのは、人がいないことだけど。

とりあえず、前進。
…といっても、くるうとオサムさんは先に歩いているけど。

('A`)「デレ?」

ζ(゚ー゚*ζ「…なんでもない」

協調性がないパーティである。
これからのことを憂いながら、私は三人の後を追う。

ちらりと振り返ったそこには、ずっと同じような樹々と道しかなくて。
扉なんてなかったよ、と言っているようだった。

26 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:12:14 ID:SFfzYyVoO
ほどなくして私達は、

ハソ ゚−゚リ「そこで何をしているの?」

初めて人に出会うことができた。
ブレザーを身に着け、前髪をピンで止めているその女の子は、潔癖そうな印象があった。

ζ(゚ー゚*ζ「私達、旅をしているんです」

ハソ ゚−゚リ「あら、旅人さんでしたか。ごめんなさい、国から逃げた生徒かと思って」

恥ずかしそうにはにかむ彼女は、さらに続けた。

ハソ ゚−゚リ「私は、学園都市高等部委員生生徒会長のなちと申します」

ζ(゚ー゚*ζ「私はデレ。この人達は仲間のくるうとドクオ、それからオサムさん」

ハソ ゚−゚リ「よろしくお願いします」

彼女は、深く礼をした。
なんだかやりずらいな、堅苦しい。

川 ゚ 々゚)「ねぇねぇ、学園都市ってなぁに?」

ハソ ゚−゚リ「学園都市は、学徒のために作られた国です」

ζ(゚ー゚*ζ「国なの?」

思わずこぼしてしまった言葉に、なちさんは苦笑いする

ハソ ゚−゚リ「はい。驚くでしょうが、国には学徒と奉仕者と呼ばれる人しかいません」

ハソ ゚−゚リ「学徒は、私のように制服を身に着けて勉学に励む者を指します。奉仕者は、学徒が心地よく勉学に励めるように環境を整える方達を指します」

27 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:14:21 ID:SFfzYyVoO
さかさかと歩きながら、彼女は説明する。
それにしても足が早い……。
オサムさんくらいしかちゃんとついてこれてないよ、なちさん。

ハソ ゚−゚リ「そして学徒にも種類があります。一つは一般生、もう一つは委員生。一般生の中でも抜きんでた能力を持つ学徒が委員生になります」

ζ(゚ー゚*ζ「委員生…?」

駆け寄りながら、問い掛ける。

ハソ ゚−゚リ「委員生は国全体の動向を、自由に操作できるのです」

('A`)「なにそれこわい」

すると、なちさんはきょとんとしてこう言った。

ハソ ゚−゚リ「怖い、ですか?」

('A`)「だって、なちさんは学生なんだろ?まだ子供なのに、国を操れるって…」

ハソ ^−^リ「……ああ、なるほど」

なちさんは、からからと笑いながら説明をする。

ハソ ゚−゚リ「昔から、この国にこんな言葉があるんです」

ハソ ゚−゚リ「神様は全知全能の存在だと言われている。ならば、学徒は神様と同等の存在ではないのだろうか?
人よ、あくなき探求心を抱け。醜悪と言われようとも、知識を食らい尽くすのだ」

28 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:19:10 ID:SFfzYyVoO
なちさんの言葉を必死に覚えながら、私は聞く。

ζ(゚、゚*ζ「神様?」

ハソ ゚−゚リ「そう。私達委員生は、まだまだ神様の足元には及ばない…。だけど、このまま勉学をし続ければ、いつかは神様になれるはず」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

ハソ ゚−゚リ「その言葉を信じて、生まれた時から知識を食らい、吸収して、身につけてきたんです」

('A`)「…すごいですね」

ハソ ゚−゚リ「これくらい、全然よ」

ζ(゚、゚*ζ(……神様、かぁ)

なぜだか、ぼんやりと胸を打つものがあった。

ζ(゚、゚*ζ「…………」

【+  】ゞ゚)「デレさん?」

ζ(゚ー゚;ζ「あっ…なんでもない、です」

【+  】ゞ゚)「そうですか。もうすぐ着くそうですよ」

オサムさんの指差した先には、ずらりと並ぶ塀と、巨大な門扉があった。
なちさんは、ブレザーのポケットから鍵を取り出して門扉の鍵穴にそれを差し込んだ。

川;゚ 々゚)「これだけおっきーと、開けるの大変そー」

ハソ ゚−゚リ「いえ、一部しか開きませんから」

ガチャリと開いた扉は、家で使っているものと大きさが変わらなかった。

川;゚ 々゚)「門扉の意味…」

【+  】ゞ゚)「こんな大きな扉を開けられても困るが」

もっともだけど、一瞬わくわくしたのに。


ハソ ゚−゚リ「ようこそ、学園都市の国へ」

29 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:21:19 ID:SFfzYyVoO
国内に入った私達は、学徒と奉仕者達から熱烈な歓迎を受けた。
それはもう、すさまじかった。
ぜひ我が家に泊まりに来てくれ!という人が多すぎたのだ。
結局は、なちさんの家に三日間泊まることとなったのだが。

ハソ ゚−゚リ「狭いけど、ゆっくりしていって」

ζ(゚ー゚;ζ「…充分です」

ζ(゚ー゚;ζ(一人暮らしなのに、なんで客室が六つもあるんだろう)

ものすごく豪華だった。

ζ(゚ー゚*ζ(私のいた国でもこんな家なかったんだけど)

とりあえずそれぞれの客室に荷物を置いて、私達は、日が暮れるまでなちさんに国の中を案内してもらった。
寄ってくる学徒は、なちさんが必死に追い払っていた。

文化は、私達の国よりも発展しているようだった。

ハソ ゚−゚リ「ここでは、勉学の他にも研究をする方もいますからね」

('A`)「へぇ、これは?」

ハソ ゚−゚リ「これは懐中時計。超鋼で出来ていて傷つきにくいんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「すごい…」

ハソ ゚−゚リ「それほどでもありません」

こんな小さな時計、初めて見た。
少し欲しかったけど、やめておいた。

国の半分まで見終わった頃、日が沈み始めた。

川 ゚ 々゚)「おなかすいたー」

ハソ ゚−゚リ「じゃあご飯を食べに行きましょう」

30 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:22:45 ID:SFfzYyVoO
なちさんは、奉仕者が経営している食堂に連れていってくれた。
それぞれ好きなものを頼んで、待っていた時のことだった。

【+  】ゞ゚)「……ここの住人は好奇心旺盛ですね」

今まで無口だったオサムさんが、ぼそっと呟いた。

ハソ ゚−゚リ「ええ、外部から人がやってくるのはめったにないので」

まぁたしかに、国から出る人なんてめったにいないだろう。

ハソ ゚−゚リ「あなた達の生活や文化を知りたいのでしょうね」

【+  】ゞ゚)「なるほど」

それから、なちさんに根掘り葉掘り色々なことを聞かれた。
大体の質問は、私とドクオが答えた。
オサムさんはこういうの嫌いそうだし…というかまったく興味がなさそう。
くるうも口を利くのは面倒だというような子だから期待できなかった。

ハソ ゚−゚リ「へぇ、「外」にも出れるんだ」

('A`)「でも、誰も戻って来なかったんだ」

31 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:24:44 ID:SFfzYyVoO
ハソ ゚−゚リ「…みんなどこに行ってしまったんでしょうね」

川  々 )「さぁ? わたしにはわかりませーん」

ダン!とハンバーグにフォークを突き刺しながらくるうが言った。

ζ(゚ー゚;ζ(あ、)

ちょっとまずかったな。

というのも、くるうの両親は「外」の冒険についていったのだ。

ζ( ー *ζ(汝のために己を殺せ、か)

一体誰がこんな家訓を考えたのやら。
そう考えているうちに、私の手は止まっていた。

ハソ ゚−゚リ「…お口にあいませんでしたか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お腹がいっぱいなんです」

あいまいに微笑みながらそう答えた。

32 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:26:12 ID:SFfzYyVoO
次の日、私とドクオはなちさんとともに学徒用の図書館を訪れた。
くるうは、オサムさんと一緒に市場へ行った。

ζ(゚ー゚*ζ(くるうはこういうところは苦手そうだなぁ)

私語飲食一切禁止なものだから、とても静かであった。
昨日みたいに学徒が大量に押しかけてくることがないから快適といえば快適だけど。

一冊の本を借りて、閲覧室に移る。
ここなら多少の私語は可能だそうだ。

ハソ ゚−゚リ「これが、民話の本ですね」

なちさんから、うすべったい本を受け取る。
パラパラとめくると、昨日なちさんから聞いた、神様と勉学の話が載っていた。


('A`)「……これしかないのか?」

ハソ ゚−゚リ「ええ」

他にももっとあるはずじゃ、と言おうと思ったけどそれはやめた。
考えてみれば、私の国にも民話はもともと一つしか伝わっていなかった。
それが、バタフライエフェクトによって各国の様々な民話が蒐集されただけの話。

ζ(゚ー゚*ζ(各国には一つしか民話がないって本当なんだ)

そう思いながら、ページをめくると、なちさんの口からは聞かなかった言葉が見つかった。

「ただし、肥大し過ぎた好奇心は己を殺すこととなるだろう」

33 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:28:11 ID:SFfzYyVoO
ζ( ー ;ζ(なに、これ)

私はそこ知れぬ恐怖を感じた。

ハソ ゚−゚リ「ああ、これですか?」

なちさんが、身を乗り出して説明する。
私の手が震えていることには、気付かずに。

ハソ ゚−゚リ「これは、学園都市にいれば叡智をきわめることができるが、国外に出てしまったらそれは出来ない、という意味なの」

ζ( ー ;ζ「…………」

本当に、そうなのだろうか?

ハソ ゚−゚リ「だから、ここから出ていく人はいないんです」

('A`)「……気にならないのか?もっと「外」を知りたいとは思わないのか?」

ハソ ゚−゚リ「いいえ、そんな不必要なことはしません」

('A`)「…………」

ハソ ゚−゚リ「だって、過度の好奇心は、身を滅ぼすと書いてあるのですから」

34 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:29:48 ID:SFfzYyVoO
気分が悪くなってしまった私は、ドクオの手によって外に連れ出された。

ζ(゚ー゚;ζ「ごめん、ドクオ…」

('A`)「いや、それより平気か?」

ζ(゚ー゚;ζ「うん…」

あの一文が、頭から離れない。
私達の旅を否定されているようだった。

ζ(゚ー゚;ζ「…ドクオ、私のしていることは正しいよね?」

('A`)「…それはわからない」

ζ(゚ー゚;ζ「…………」

('A`)「だけど悪いことだって思ってない。思ってたら着いてこないよ」

ζ(゚ー゚*ζ「……そっか」

少し沈黙。
それから深く息を吸う。
私は、目の前の噴水を眺めながらドクオに言った。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、さっきの話の率直な感想を言ってもいい?」

('A`)「ああ」

ζ(゚ー゚*ζ「…私のやってることが無駄だと言われているような気もしたんだけどさ。他にももう一つあってね」

('A`)「うん」

ζ(゚ー゚*ζ「ここの住人を外に出さないようにしている気がしたの」

('A`)「……」

35 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:31:27 ID:SFfzYyVoO
ζ(゚ー゚*ζ「なんでだろうね。あらゆる知識を吸収しろって言っておきながら、行動に制約をかけてるんだよ?」

('A`)「……その話を作った人にとって、都合が悪いからじゃないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね……。だけどそれは一体誰が広めたんだろうね」

喋っているうちに、段々元気を取り戻してきた。
私は饒舌になり始めていた。

ζ(゚ー゚*ζ「そもそも、国内だけでどうしてこんなに発展しているのかしら?住人が学徒と奉仕者しかいないから?」

口が乾燥している。
舌がまわらない。

ζ(゚ー゚*ζ「だとしてもおかしいわ。所詮は小さな国なのに、こんな発展を遂げているなんて、まるで…」

('A`)「神様に操られているようだ、って?」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」

('A`)「……まぁ、あれだよな」

青い空を見上げながら、ドクオはこう言った。

('A`)「勉強だけで神様になれたら苦労はないよな」

36 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/03(水) 10:33:21 ID:SFfzYyVoO
その後のことは、特筆することもない。
なちさんの家にもう一泊して、旅を再開するだけだった。

ハソ ゚−゚リ「本当に行ってしまうんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ」

ハソ ゚−゚リ「そうですか…」

残念そうになちさんは言った。
それから、彼女はブレザーのポケットから小箱を取り出した。

ハソ ゚−゚リ「餞別の印に、これをどうぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「開けてもいい?」

ハソ ゚−゚リ「どうぞ」

開けてみると、中には、あの小さな時計が入っていた。

ハソ*゚−゚リ「職人が持っている技術を全て使って作った時計です。決して、狂うことはありません」

誇らしげに、彼女はそう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう」

ハソ ゚−゚リ「いいえ、お気をつけて」

私達はなちさんに見送られながら、学園都市の国を後にした。

川 ゚ 々゚)「ねーえ、オサムー」

【+  】ゞ゚)「なんだ?」

川 ゚ 々゚)「絶対とか決してとかってあるのかなぁ」

【+  】ゞ゚)「さぁな。だけど……」

川 ゚ 々゚)「?」

【+  】ゞ゚)「国の中しか知らないような奴等が作るものなんて、たかが知れてると思うぞ」



第二階層「学園都市の国」 了


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