塔と民話のサーガのようです

138 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:07:42 ID:n3lmFAa6O
知ってる?
名前って、神様がつけてくれたもので、その中にはその人の大切なものが詰まっている。
名は体を表すっていうよね。

じゃあ、それがなくなったらどうなっちゃうのかな。

――第八階層「名無しの国」前編

139 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:10:15 ID:n3lmFAa6O
ζ(´ー`*ζ「むにゃむにゃ…」

ξ゚听)ξ「こらー!起きなさい!」

ζ(゚ー゚;ζ「ひゃいっ!?」

シーツを引っ張られて、私はベッドから転がり落ちた。

ζ(>ー<*ζ「いたい〜…」

ξ゚听)ξ「だってもう、10時なのよ?」

お姉ちゃんはそう言って、私をズルズルと引きずる。

ζ(゚ー゚*ζ「ごーめーんーなーさーいー」

ξ゚听)ξ「まったく…。早く着替えてきなさい」

ζ(^ー^*ζ「はーい」

寝ぼけまなこをこすりながら、タンスに行って、お気に入りのワンピースを引っ張り出す。
生地には青い小花が散っていて、袖がパフスリーブになっている、かわいいものだ。

もそもそと着替えて、リビングへ。

ζ(゚ー゚*ζ「おはよー」

( ´_ゝ`)「おはようじゃなくてこんにちはだろう?」

お父さんが、呆れながらそう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ」

( ´_ゝ`)「まったく…お姉ちゃんを見習って早寝早起きしなさい」

ζ(´ー`*ζ「はーい」

ξ゚听)ξ「できたわよー」

お姉ちゃんが、朝ご飯?を運んできた。
パンに目玉焼き、それからサラダ。
代わり映えのしない、いつものメニュー。

ζ(゚ー゚*ζ「いただきまーす」

140 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:12:57 ID:n3lmFAa6O
食べながら考える。
今日は何をしよう?
そうだ、この間買った本がまだ部屋にあるからそれを読もう。

ξ゚听)ξ「なぁに、また今日も本読むの?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

ξ゚听)ξ「あんたって昔から本の虫よねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「あはは…」

本はいい。
読んでいるだけで、その世界に飛び込むことができるから。

食事を終えて、部屋に戻る。
そうだ、本を読む前に部屋を片付けよう。
この間、ベッドと壁の隙間に本を落としてしまったし、ちょうどいいだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「よいしょー!」

ずりずりとベッドをひいて、壁から離す。

ζ(゚ー゚*ζ「たしか、ここらへんに…」

隙間に手をつっこみ、中を探す。

ζ(゚ー゚*ζ(あ、あった!)

ガシッと掴んで、引きあげる。
綿ぼこりがたくさんついた、文庫本が出てきた。

ζ(゚ー゚*ζ「あー…すごい汚れ」

本をはたこうと、窓の方に向かおうとした時だった。

ζ(゚ー゚;ζ「……?」

どこからともなく、視線を感じた……気がした。

ζ(゚ー゚;ζ(気のせいだよね)

まさかお化けがいるわけないし。
窓を開けて、ほこりを一生懸命はらい落とす。

ζ(゚、゚*ζ「そういえば、これって何の本だっけ?」

なんとなく気になる。
私はベッドに腰掛けて、それを読み始めた。
もう、掃除のことはどうでもいいやと思っていた。

141 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:14:42 ID:n3lmFAa6O
鶏小屋に入り、俺は一羽の鶏を取り出した。
逃げないようにしっかりと体を押さえて、家に戻る。

('A`)「じいさーん、ちょっとー」

( ´ー`)「呼んだ?」

('A`)「ああ、鶏しめようかと思って」

俺はじいさんに、鶏を見せた。
おとなしいそいつは、自分がこれから何をされるのかわかっていないようだった。

( ´ー`)「卵を産まなくなったやつか」

('A`)「そうだ」

( ´ー`)「じゃあ包丁を持ってこよう」

そう言ってじいさんは家の中へ戻った。

('A`)「…………」

こんなざっくばらんな口を利いてしまっているが、俺はじいさんを尊敬している。
俺は生まれてすぐ、身寄りをなくしてしまった。
それを父方のじいさんが引き取ってくれて……たくさんのことを教えてくれた。
木の手入れの仕方、料理、斧の使い方、そして。

( ´ー`)「しっかり持つんだよ」

('A`)「あいよ」

ダン!と包丁が鶏の首を叩き切った。
作業台に、血がダラダラと流れる。

( ´ー`)「お湯は今沸かしているからネ」

('A`)「了解」

鶏のしめ方なども、彼に教わった。
最初の頃は怖くて仕方がなかった。
だって毎日毎日名前つけて遊んでいたのに、ある日突然それが食卓に出て来るんだぜ?

142 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:15:55 ID:n3lmFAa6O
('A`)(今となっては鹿もさばけるようになったけど)

( ´ー`)「お待たせー」

よいしょ、とじいさんが寸胴鍋を地面に置いた。
なみなみと張られたお湯が、少しこぼれる。
鶏の足を掴んで、その中にざぶりとつける。
こうすると、羽がむしりやすくなるんだ。

( ´ー`)「今日は、何にしようかネ」

('A`)「やっぱ丸焼きじゃねぇの?」

( ´ー`)「丸焼きネー」

('A`)「だって今日、じいさんの誕生日だし」

( ´ー`)「……そうだっけ?」

('A`)「忘れてたのかよ、まったく」

そう言うと、じいさんはポリポリと頬をかいた。

(;´ー`)「ははは」

('A`)「誕生日おめでとう、」

……あれ?

('A`)(じいさんの、名前って、なんだっけ?)

('A`)「……じいさん」

( ´ー`)「ありがとう」

('A`)(……まぁいっか)

143 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:19:27 ID:n3lmFAa6O
その日、わたしは家で泣いていた。
家にはわたししかいなくて、心細かった。

川 ;々;)「うっく…ひぐっ、」

両親は、わたしを置いていってしまった。
塔の「外」に出ていった友達を助けに行くのだと、言った。
いかないで、って言えなかった。
だってわたしの家には「汝のために己を殺せ」って言葉があるから。

(´・_ゝ・`)「どうしても救わなきゃいけない人がいるんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫、パパもママもすぐ戻ってくるから」

うそだ。
だって、「外」に行った人はみんな帰ってこなかったもの。

川 ;々;)「ううぅー……」

その時、コンコン、ってノックの音がした。
扉まで近付いて、開けようとする。
ああ、だけど誰がきたのかわからないや。

川 ;々;)「……だぁれ?」

「自警団の人だよ。泣き声がしたから、心配になって」

それは、大人の声だった。

川 ;々;)「…………」

黙って扉を開ける。
そこには、小さいお兄さんと大きいお兄さん?がいた。

从 ゚∀从「こんにちは」

川 ;々;)「……こんにちは」

从 ゚∀从「おうちの人は、どうしたのかな?」

144 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:21:45 ID:n3lmFAa6O
川 ;々;)「……「外」に、行っちゃった」

从;゚∀从「「外」…!?」

川 ;々;)「友達を、助けるって」

从 ゚∀从「……わかった」

大きいお兄さんは、小さいお兄さんにこしょこしょ話をした。

从 ゚∀从「あなたのパパとママを探してあげるからね」

川 ;々;)「……「外」に行くの?」

从 ゚∀从「あんまり遠くまでは探しにいけないけどね」

川 ;々;)「…………」

大きいお兄さんは、小さいお兄さんを置いて出ていった。
小さいお兄さんは、すごく静かでつまらなかった。

145 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:23:45 ID:n3lmFAa6O
川 ゚ 々゚)「ねぇ」

( ゚_ゞ゚)「なに?」

川 ゚ 々゚)「さっきお兄さんとなに話してたの?」

( ゚_ゞ゚)「……、その子の話し相手になって安心させてやれ、って」

川 ゚ 々゚)「…………」

( ゚_ゞ゚)「俺にできることなら、なんでもする」

川 ゚ 々゚)「じゃあ、好きって十回言って」

( ゚_ゞ゚)「……なんで?」

川 ゚ 々゚)「誰かに好きって言われると安心するってママが言ってたから」

( ゚_ゞ゚)「やだ」

川 ゚ 々゚)「なんで?」

( ゚_ゞ゚)「恥ずかしい。それに、そういうのは本当に好きな人にしか言っちゃいけないんだよ」

川 ゚ 々゚)「……嫌い?」

( ゚_ゞ゚)「さぁ?」

心底どうでもよさそうに、彼は言った。
それがなんだかムカついて。

川 ゚ 々゚)「じゃあ、絶対好きって言わせる」

( ゚_ゞ゚)「どうやって?」

川 ^々^)「好きにさせるの!」

わたしは、笑ってそう言った。

146 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:27:41 ID:n3lmFAa6O
( ゚_ゞ゚)「…………」

深呼吸。トリガーに指をかける。弾く。
風切り音。矢が的に当たる、小気味いい音。

从 ゚∀从「やるねぇ〜」

口笛を鳴らしながら、師匠が言った。
いつからいたんだろう、この人。

( ゚_ゞ゚)「だけど、中心から少しずれています」

从 ゚∀从「それとゆっくり撃ちすぎ」

そう言って師匠は、俺の手からクロスボウを奪った。

从 ゚∀从「こうやって……」

カンッ!と響く音。
そして、的の中心に刺さっている矢。

从 ゚∀从「こうやる」

( ゚_ゞ゚)「……さすがですね」

从*゚∀从「もっとほめてもいいのよ〜?」

ものすごい自慢げな顔。
少しむかつく。

( ゚_ゞ゚)「これで女性らしさがあればいいと思いますが」

从 ゚∀从「頭ぶち抜くぞ童貞」

( ^_ゞ^)「ははは」

笑ってごまかす。

147 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:29:31 ID:n3lmFAa6O
从 -∀从「小さい頃は、かわいかったのにねー。いつからこんな憎たらしくなったかね」

( ゚_ゞ゚)「…………」

从 ゚∀从「懐かしいよ。ついこないだ拾ってきたと思ったらこんなにでかくなってさ」

( ゚_ゞ゚)「師匠、」

从*゚∀从「で、いつになったら初孫抱かせてくれんの?」

心底意地の悪い笑みを浮かべて、師匠はそう言った。

( ゚_ゞ゚)「…………」

回りくどい仕返しだ。
まったく……。

( ゚_ゞ゚)「これはひどい」

思わずそう呟いてしまった。
その呟きに、彼女はからからと笑った。

148 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:31:51 ID:n3lmFAa6O
ζ(´ー`*ζ「むにゃむにゃ…」

ξ゚听)ξ「こらー!起きなさい!」

ζ(゚ー゚;ζ「ひゃいっ!?」

シーツを引っ張られて、私はベッドから転がり落ちた。

ζ(>ー<*ζ「いたい〜…」

ξ゚听)ξ「だってもう、10時なのよ?」

お姉ちゃんが、パジャマの裾を掴んで引っ張る。

ζ(゚ー゚*ζ「ごーめーんーなーさーいー」

ξ゚听)ξ「まったく…。早く着替えてきなさい」

ζ(゚ー゚*ζ「はーい」

寝ぼけまなこをこすりながら、タンスに行き、青い小花柄の、パフスリーブのワンピースを探す。
私の持っている服の中では一番のお気に入りだ。
女の子らしくて、すごくかわいいのだ。

もそもそと着替えて、リビングへ。

ζ(゚ー゚*ζ「おはよー」

( ´_ゝ`)「おはようじゃなくてこんにちはだろう?」

お父さんが、呆れながらそう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ」

( ´_ゝ`)「まったく…お姉ちゃんを見習って早寝早起きしなさい」

ζ(゚、゚*ζ「はーい」

ξ゚听)ξ「できたわよー」

お姉ちゃんが、ご飯を運んできた。
パンに目玉焼き、それからサラダ。
代わり映えのしない、いつものメニュー。

ζ(^ー^*ζ「いただきまーす」

食べながら考える。
今日は何をしよう?
そうだ、この間買った本がまだ部屋にあるからそれを読もうかな。

149 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:33:22 ID:n3lmFAa6O
ξ゚听)ξ「なぁに、また今日も本読むの?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

ξ゚听)ξ「あんたって昔から本の虫よねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「あはは…」

本はいい。
読んでいるだけで、その世界に飛び込むことができるから。

食事を終えて、部屋に戻る。
そうだ、本を読む前に部屋を片付けよう。
この間、ベッドと壁の隙間に本を落としてしまったし、ちょうどいいだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「よいしょー!」

ずりずりとベッドをひいて、壁から離す。

ζ(゚ー゚*ζ「たしか、ここらへんに…」

隙間に手をつっこむ。

ζ(゚ー゚*ζ(あ、あった!)

ガシッと掴んで、それを引きあげる。
綿ぼこりがたくさんついた、文庫本が出てきた。

ζ(゚ー゚;ζ「あー…すごい汚れ」

本の汚れをはたこうと、窓のほうを向いた時だった。

150 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:35:28 ID:n3lmFAa6O
(´レ_` )「いつまで同じことを繰り返すつもりだ?」

ζ(゚ー゚;ζ「だっ、誰!?」

知らない男の人。
……でも、父に似ていた。
それに、会ったことのあるような……?

(´レ_` )「豸`y龜者だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「……?」

ノイズがかった、声。
わからない、なんて名乗ったんだろう?

(´レ_` )「君の名前は?」

ζ(゚ー゚*ζ「わたし、は……」

名前、なんだっけ?
わたし、わたし……。

ζ(゚ー゚*ζ「名前なんて、ない」

(´レ_` )「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「出ていって」

(´レ_` )「いやだ」

ζ(゚ー゚#ζ「……出ていってよ!」

頭の中が、グチャグチャだ。
名前?ない、ない。
いらない。
お姉ちゃんさえいればいい。
父さえいれば、本さえあれば。

(´レ_` )「いい加減にしろ」

ζ( ー #ζ「っ……」

(´レ_` )「君は今まで旅してきたことを忘れてしまったのか?仲間のことも、出会った人のことも、旅の意味も」

ζ( ー *ζ「…………」

151 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:40:17 ID:n3lmFAa6O
(´レ_` )「懐中時計は、まだ持っているか?」

ζ( ー *ζ「かいちゅう、どけい……?」

(´レ_` )「小さい時計だよ」

ζ( ー *ζ「…………」

時計。
小さい、時計……。

ζ(゚ー゚*ζ「!」

タンスに駆け寄り、引き出しをあさる。
たしか、あったはずなんだ。

ζ(゚ー゚;ζ(こんな小さい時計、私は持っていなかったって)

そう思って、それで。


ζ(゚ー゚*ζ「…………」

シャツの下に隠れていたそれを、取り出す。

ζ( ー *ζ(ああ、)

どうして忘れてしまっていたのだろう。
なちさんからもらった、餞別の品なのに。

(´レ_` )「見つかったかね?」

ζ(゚ー゚*ζ「……ええ」

埋もれていた記憶が、徐々によみがえる。
私の名前はデレ。
民話蒐集の旅をしていた。
はくちのくにを出た私達は、次の国にたどり着いた。
それで……。

ζ(゚ー゚*ζ「あ……」

タンスが、溶けるように消えていく。
ベッドも、窓も、床に放り投げたほこりだらけの本も。
そんなの、最初からなかったんだ。
父も、お姉ちゃんも……いいえ、ツンも。

152 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:42:14 ID:n3lmFAa6O
ζ(;ー;*ζ「…………」

(´レ_` )「どうして泣いているんだ?」

心底不思議そうに、その人は言った。

ζ(;ー;*ζ「……なんでもない」

涙を拭う。
見慣れたはずの部屋は、いつの間にか真っ白な空間になっていた。
服も、いつもと同じものに変わっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「ここは……?」

(´レ_` )「ここは、名無しの国。君はここの住人に名前を奪われてしまったのさ」

ζ(゚ー゚*ζ「名前……」

(´レ_` )「名前というのは、神が与えたものでその人の本質を表している。名は体を表すという言葉があるだろう?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ…」

(´レ_` )「その本質を奪われてしまったら、君は何者でもなくなる。残された体はわずかな記憶の残滓を基に、いつも同じ終わりを迎える夢を見続けることとなる」

ぞくりと背筋が泡立つ。
名無しの国が怖いというのもある。
だけど……。

ζ( ー *ζ(なんでそんなことを知っているの?)

目の前にいるその人の存在が、一番恐ろしかった。

ζ( ー *ζ「あなたは、」

震える声で、問い掛けようとした。
でも、

(´レ_` )「君と同じ、ただの旅人だよ」

それは、できなかった。

153 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:45:28 ID:n3lmFAa6O
私は、彼と一緒にドクオ達を探すことになった。

ζ(゚ー゚*ζ「このまま歩いていけば、見つかるかな」

(´レ_` )「見つかるだろうさ。俺が君を見つけたようにね」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

どうも、彼は信用ならない。
だけど私が頼ることのできる人は、彼以外にはいないのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「はぁ……」

(´レ_` )「あれだ」

そっと彼が指差した先には、ぼんやりと滲む緑。
水彩絵の具を真っ白な画用紙に垂らしたような、そんな景色。

ζ(゚ー゚*ζ「この中にいるの?」

(´レ_` )「いるよ。誰がいるかはわからないけど」

緊張しながら、その中に入ると……。

('A`)「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ!!」

私が駆け寄ろうとした時だった。

(´レ_` )「まぁまぁ、待ちたまえ」

ζ(゚ー゚*ζ「な、なんですか……」

(´レ_` )「ただ呼び掛けるだけじゃダメだ。思い出させないと」

ζ(゚ー゚;ζ「思い出させるって……」

どうすればいいの、と言おうとした時だった。

( %ヾ$w)「しっuo.Iktgm/aん啝Dxよ」

ζ( ー ;ζ「ひっ……!!」

154 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:47:11 ID:n3lmFAa6O
醜悪な姿。
そして、音。
それはもはや、人とは呼べなかった。

('A`)「あいよ」

どうして、普通に会話しているの。
ドクオにはそれが、何に見えているの……?

( %ヾ$w)「ltw鬪jtg~しmPiuるktwhネ」

('A`)「了解」

ζ(゚ー゚;ζ「ドクオっ!!」

私は、彼の制止を振り払ってドクオにすがった。

('A`)「……だれ?」

ζ(゚ー゚;ζ「ねぇ、ドクオ!私だよ、デレ!覚えているでしょう!?」

('A`)「……しらん」

ζ(゚ー゚;ζ「ずっと旅をしていたでしょう!?くるうと、オサムと一緒に!!」

('A`)「……」

ζ(゚ー゚;ζ「最初は学園都市の国に行ったよね?その次はくだらない国、それから笑いの国に……」
_,
('A`)「……」

ほんの少しだけ、彼が眉を寄せた。
ああ、そういえば……。

ζ(゚ー゚;ζ「そう!その、笑いの国でくるうとドクオがコントをしてたの!すっごく変なのを!」

_,
('A`)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「覚えてないなら実演してあげる!くるうの好物がね、タイノエっていう寄生虫だかなんだかよくわからないもので、みんなが反応に困ってね」

_,
('A`)「はぁ……」

155 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:49:35 ID:n3lmFAa6O
ζ(゚ー゚*ζ「そう!それでドクオが好物はバナナヨーグルトだって言ったの!そしたらくるうが卑猥だねって」

(i|'A`)「………」

ζ(゚ー゚*ζ(あれ、)

心なしか、顔が青ざめている気がする。

ζ(゚ー゚*ζ「それでね、くるうが大衆の前でおねだりしなさいなって……」

(i| A )「う、」

ζ(゚ー゚*ζ「う?」

(((;>'A`))>「うわぁぁ!!!」

叫びながら、両手で耳をふさいで地面をのたうち回るドクオに、私は何もできなかった。

ζ(゚ー゚;ζ「ド、ドクオ……?」

156 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:51:32 ID:n3lmFAa6O
(((;>'A`))>「忘れてたのに!せっかく傷が癒えてきたのにぃぃぃ!!!!」

ζ(゚ー゚*ζ「! 思い出したの!?」

(i| A )「ああ、」

ζ(゚ー゚*ζ「ならよかった……のかな?」

(i| A )「…………」

最善ではなかったかもしれない。
でも私にはどうすればいいのかなんて、わからなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「あの……元気、だして?」

(i| A )「…………おう、」

(´レ_` )「ふむ、空間も抜けたようだから早く行こうか」

そう言って彼は、さっさと歩いていってしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「あっ……。ドクオも、はやく!」

(*'A`)「う、うん……」

手を掴み、彼を追いかける。
そういえば、ドクオは何の夢を見ていたのだろう?

157 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:53:57 ID:n3lmFAa6O
彼は振り返らずにどんどん歩く。
私はひたすら追いかける。

ζ(゚ー゚;ζ(早い……)

息が切れる。
辺りが白いから、どれくらい走ったのかさえわからない。

ζ(゚ー゚;ζ「はぁ…はぁ…」

(*'A`)「あの、デレ」

ζ(゚ー゚;ζ「な、なに?」

(*'A`)「手、いつまで握ってるんだ?」

顔を赤らめて、視線をすこしずらしながらドクオは言った。

ζ(゚ー゚*ζ「ご、ごめん!」

パッと手を離す。

ζ(゚、゚*ζ「平気?痛くない?」

(*'A`)「平気平気」

と、その時だった。

(´レ_` )「こっちにまた、誰かが夢を見ているぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「!!」

私は、彼の声がした方に向かって走り出した。


(;'A`)「デ、デレ……?」

ζ(゚ー゚*ζ「ごめん、説明している暇はないの。あとで説明するから!」

黒く滲んだ点が見えた。
その中に、彼は入っていくのも。

ζ(゚ー゚*ζ「とりあえず、あの中に入るの!」

('A`)「わかった」

そうして、勢いよく入った先には……。

158 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 09:56:36 ID:n3lmFAa6O
川 ;々;)「うっく…ひぐっ、」


暗い家の中で、膝を抱えて泣いている幼い少女の姿が。

ζ(゚ー゚*ζ「くるう!!」

川 ;々;)「……だれ?」

('A`)「おいおい、覚えてないのかよ……」

ζ(゚ー゚*ζ「さっきまでドクオもこうなってたんだよ?」

(;'A`)「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「くるう、私だよ、デレだよ」

川 ;々;)「……知らない、わからないよ」

('A`)「今まで、みんなと旅してたことも忘れたのか?」

川 ゚ 々゚)「旅……?」

暗い色をした瞳に、少しだけ光が戻る。

川 ゚ 々゚)「パパとママがどこに行ったのか知ってるの!?」

(;'A`)「え、いや、その……」

ζ(゚ー゚*ζ(なるほど)

くるうは、両親がいなくなった時の夢を見ているんだ。

川;゚ 々゚)「しらないの?ねぇ、はやくたすけてよ……」

ζ(゚ー゚*ζ「くるう、」

その時だった。
家の扉が、ノックされたのは。

159 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 10:12:12 ID:n3lmFAa6O
('A`)「…………」ζ(゚ー゚*ζ

私とドクオは思わず息を潜める。
しかしくるうは扉の方へ近付こうとしていた。

ζ(゚ー゚;ζ「だめっ!」

思わず私はくるうに抱き付く。
だって、扉の向こうには何かがいるのだ。
ドクオと話していたような、人ではないものが。

川#゚ 々゚)「離して!」

ζ(゚ー゚;ζ「やだ!」

(;'A`)「静かにしろよっ!」

ドクオが協力して、やっとくるうはおとなしくなった。

川#゚ 々゚)「うー、うー!」

ζ(゚ー゚*ζ「お願い、聞いて。私達はみんなで塔の中を旅してきたの」

川;゚ 々゚)「うー……」

ζ(゚ー゚*ζ「名無しの国にたどり着いた私達は、住人に名前を奪われて記憶をなくしてしまった。くるうは自分の名前、思い出せる?」

川;゚ 々゚)「……わかんない。くるうっていうのが名前なの?」

('A`)「そうだ、くるうって名前だったよ。魔法の使える医者で、みんなが怪我や病気をしたら助けるって言ってたじゃねぇか」

川 ゚ 々゚)「病気、」

その瞬間、私達のいる暗い部屋が、陽炎みたいに揺らぎ始めた。

川;゚ 々゚)「わたし……。わたし、」

('A`)「はくちのくにで、おわたくんにもらった缶詰は持ってるか?」

川;゚ 々゚)「あ、あ……。持ってる、ある、」

160 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 10:13:39 ID:n3lmFAa6O
空間は白くなり、そしてくるうのそばには、鞄が現われた。
小さくて華奢だった体が、いつの間にか元通りになっていた。

川 ;々;)「なんで、なんで忘れてたの。あんな大事なこと……」

また泣き出してしまったくるうを抱き締めて、私は頭を撫でてあげた。

('A`)「……あとは、オサムさんだけか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

そういえば、彼は……あの旅人さんはどこに行ってしまったのだろう?

161 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 10:16:13 ID:n3lmFAa6O
どうにか落ち着いたくるうを加えて、私達はオサムさんを探す。

川 ゚ 々゚)「不思議なこともあるんだねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「私もびっくりしたよ」

('A`)「でも、なにがおそろしいって、デレが来なかったら俺達はずっと夢を見続けていたんだよな……」

川 ゚ 々゚)「よく気付いたねー」

ζ(゚ー゚*ζ「あはは……」

あの人に助けてもらったと、口にするのはなんとなく憚られた。
いつの間にかいなくなってしまった人のことを話しても、信じてもらえないような気がして。


ζ(゚ー゚*ζ「そういえば何の夢を見たの?」

('A`)「俺はじいさんの誕生日祝いの夢」

川 ゚ 々゚)「わたしは両親がいなくなった時の夢。デレは?」

ζ(゚ー゚*ζ「ひたすら本を読んでる夢だったなぁ。父とツンがいて、会いたいなって思っちゃった……」

('A`)「……俺も、会いたいって思ったよ」

川 ゚ 々゚)「…………」

空気が、重くなる。
それは、みんな今まで口に出してはいけないと思っていた。

川 ゚ 々゚)「……帰りたいな」

ζ(゚ー゚*ζ「ねー……」

('A`)「……帰ろうよ。絶対に生き残ってさ」

川 ゚ 々゚)「……うん、」

ζ(゚ー゚*ζ「……そうだね、そうだよね」

このままではダメだ。
国に帰って、ツンに会うんだ。
でもその前に、弟者さんも探さして、手紙を渡さなきゃね!

162 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 10:18:50 ID:n3lmFAa6O
川 ゚ 々゚)「あ、あれ……」

ζ(゚ー゚*ζ「!」

白い空間に、まるで包帯に垂らした血のような赤い点が一つ。

川*゚ 々゚)「オサム、のかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「多分……」

ζ(゚ー゚*ζ(確証はないけど)

('A`)「行こう。早く助けなきゃ」

足並みを揃えて、中に入る。

そこには、


(  _ゞ)「…………」

無言で立ち尽くしているオサムさんの背中と、

从。&μ从

矢の刺さった、異形のなにか。

ζ(゚ー゚*ζ「オサムさん!」

私が呼び掛けると、彼はゆっくりと振り向いた。
その目は、ひどく濁っていて。

( ゚_ゞ゚)「まだ、いた」

「……オサムさ、っ?」

だから、気付かなかった。
彼が私に狙いを定めていたことを。

163 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/10(水) 10:21:32 ID:n3lmFAa6O
ζ( ー *ζ「ぁ……」

(;'A`)「デレ!」

膝からちからが抜ける。
お腹が、痛い。

( ゚_ゞ゚)「まだ、いる」

機械的な作業。
すばやく装填されたそれが、ドクオに向けられる。

ζ( ー ;ζ「だめっ!!」

駆け寄ってきたドクオをとっさにかばう。

ζ( ー ;ζ「ぐっ……」

背中が、熱い。
お腹も痛い。

(il A )「あ……」

青ざめたドクオの顔。
怖がらせた、かも?

ζ( ー ;ζ「ごめん、だいじょうぶ、だから」

だいじょうぶじゃ、ないけど。
でもね、やっぱり、言わなきゃ。

ζ( ― ζ「…………」

(;'A`)「デレ!デレ!!」


第八階層「名無しの国」前編 了


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