- 170 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 11:41:22 ID:pQO/g1JEO
- 残滓が一つしかないって、いつ誰が言った?
神様には一瞬でも、ヒトには長く感じる人生だ。
生きている時間が多ければ、体に残る記憶も増える。
――第八階層「名無しの国」後編
- 171 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 11:44:55 ID:pQO/g1JEO
- その日、俺は師匠とともに盗人を追いかけていた。
盗人は二人組で、怪我人も何人か出していた。
从 ゚∀从「気をつけろよ、飛び道具を持っているからな」
(;゚_ゞ゚)「はい」
森の中に逃げ込まれてしまった今、状況は俺たちの方が不利ではあった。
だけど、隣に師匠がいたから、怖くはなかった。
怖くは、ない。
从 ゚∀从「……場合によっちゃ、殺しても構わないからな」
(;゚_ゞ゚)「……はい」
初めて人を殺すかもしれないという、不安ならあったけど。
木々に紛れながら俺と師匠は進む。
奴等はどこにいるのだろう。
いつ攻撃してくるのだろう。
( _ゞ )「ふー……ふー……」
呼吸が荒くなる。
クロスボウを構える手が震える。
だけど、探さなければ。
探して、捕まえて……。
从 ゚∀从「!!」
ヒュゥ、と音がした。
矢が、俺と師匠の間をすり抜けていったんだ。
(; _ゞ )「う、」
从;゚∀从「お、おい!」
矢が飛んで来た方向へ、クロスボウを構える。
射る。
装填。
射る。
装填。
- 172 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 11:47:46 ID:pQO/g1JEO
- 从;゚∀从「あそこだ!」
師匠が指差した先に、男がいた。
(’e’;)「ぎゃっ……!」
崩れ落ちる体。
師匠がさらに矢を撃ち込む。
( e ;)「っ……!」
( _ゞ )「…………」
俺と師匠は近付く。
( e #)「ク、ソがぁ……!」
从; ∀从「!!」
クロスボウが、俺に向けられる。
(; _ゞ )「ひっ……!」
とっさに俺はそいつの頭を撃ち抜いた。
( e )「がはっ……」
(; _ゞ )「はー……はー……」
从;゚∀从「 。 」
言葉が、聞こえない。
ただ視界に入ったのは、
从; ∀从「 !!」
彼女の、手の、中の、凶器。
( _ゞ )「あああああ!!!!!」
引き金に、手を掛けた。
- 173 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 11:50:45 ID:pQO/g1JEO
- 気絶したデレを抱えて、俺とくるうはオサムさんから逃げていた。
(;'A`)「ちくしょう……デレ……!」
彼女に守られるなんて、最悪だ。
(; A )(頼むから死ぬなよ……!)
川;゚ 々゚)「とりあえず、撒いたかしら……」
肩で息をしながら、くるうが言った。
川 ゚ 々゚)「シート敷くから待ってて。そしたら、左向きに寝かせてあげて」
地面に真っ白なシートが敷かれる。
そこに、ゆっくりとデレを寝かせる。
川 ゚ 々゚)「矢が抜けてないから出血は少ないけど……ばい菌が怖いわね」
てきぱきと白衣に着替え、瓶や包帯を出しながらくるうが言う。
( A )「俺のせいだ……」
川 ゚ 々゚)「んーん、オサムのせいだよ」
( A )「でも、」
川 ゚ 々゚)「ドクオはデレを助けようとしただけだよ」
( A )「…………」
川 ゚ 々゚)「でも、オサムのことは責めないで。あれは、その……色々あったから」
('A`)「……わかった」
その時、誰かが近付いてくる気配がした。
(;'A`)「来ちまったか」
川;゚ 々゚)「…………」
だけど、覚悟を決めるしかなかった。
- 174 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 11:53:23 ID:pQO/g1JEO
- ('A`)「なんとかしてオサムさんを元通りにさせる」
川 ゚ 々゚)「……どうやって?」
(;'A`)「……どうにかして」
くるうは呆れたような顔をした。
('A`)「とりあえずくるうはデレの治療してくれ」
川 ゚ 々゚)「……わかった」
俺はうなずいた。
それから鞄をあさって手斧を出した。
川 ゚ 々゚)「待って」
くるうが、デレの鞄を指差した。
川 ゚ 々゚)「フレイルも、持っていったほうがいいと思う」
川 ゚ 々゚)「……わかった」
デレの鞄から、折り畳み式のそれを取り出す。
('A`)「ちょっと借りるからな」
ζ( ― *ζ「…………」
足音が、近付く。
( ゚_ゞ゚)「…………」
虚ろな目が、くるうを射る。
('A`)「おい」
( ゚_ゞ゚)「…………」
('A`)「こっちだよ、ぼんくら」
挑発。
オサムさんの視線が、こちらに向く。
(#゚_ゞ゚)「…………」
('A`)(あとで怒られるかな)
それならそれで、上等だ。
- 175 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 11:55:43 ID:pQO/g1JEO
- 狙いを定められた瞬間、走り出す。
矢が外れる。
('A`)(いつもと違う)
あの人はもっと冷静に、そして素早く人を殺すはずだった。
それなのに今は、装填のスピードだけが早く、とにかく射ることしか頭になかったようだった。
距離が詰まる。
(#'A`)「うぉりゃー!!」
(;゚_ゞ゚)「っ!」
手斧を、ぶん投げる。
一瞬、オサムさんがひるむ。
が、それはかすりもしなかった。
( ゚、ゞ゚)「ばかが」
それは、いつか見たような背筋の凍るような笑みで。
だけど、それが嬉しくて。
(#'A`)「ばかはそっちだ!!」
袖に隠していたそれを取り出す。
ジャキンという音と共に、それが伸びる。
(;゚_ゞ゚)「!?」
(#'A`)「遅いっ!」
フレイルの打撃部分で、クロスボウの軌道をずらす。
(;゚_ゞ゚)「あっ……」
そのままフレイルを振り回す。
そして、
(#'A`)「たぁっ!!」
( _ゞ )「っ!?」
持ち手の部分で、顎の下を突いた。
(; _ゞ )「がっ……」
(;'A`)「…………」
- 176 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 11:59:55 ID:pQO/g1JEO
- 地面へ倒れゆく体。
それをなんとかひきずり、くるうのもとへ運んだ。
川 ゚ 々゚)「おみごと」
真紅の髪をいじりながら、くるうはそう言った。
('A`)「そりゃどうも」
川 ゚ 々゚)「意外と強いんだねー」
(;'A`)「いや、いつものオサムさんだったら瞬殺されてると思う……」
川 ゚ 々゚)「そう、」
呟くように言って、くるうはオサムさんの首元に手を当てた。
川*゚ 々゚)「ん、生きてるね」
('A`)「ならよかった。ところでデレは?」
川 ゚ 々゚)「だいじょーぶ。消毒したし、止血魔法かけといたから」
('A`)「そうか……」
思わず地面に座り込む。
( A )「……死んだら、どうしようかと」
川*^々^)「……だいじょーぶ」
やけに優しい笑みを浮かべながら、くるうは言った。
川 ゚ 々゚)「んー、あとなるべく綺麗にくっつくように縫合はしたけど……。やっぱり少し傷痕が残っちゃうかな」
('A`)「あー……」
- 177 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 12:03:22 ID:pQO/g1JEO
- 川*゚ 々゚)「ちゃんと責任取りなさいよね、嫁にもらうとかしてさ」
(*//A//)「は、はぁ!?」
川*> 々<)「んふふー。くるうちゃんは、ドクオがデレのこと好きなのはずーっと前から知ってるのよー?」
(*//A//)「す、好きじゃないし!」
川*゚ 々゚)「えー? じゃあなんでこの旅に着いてきたのー? この子のこと心配だったからじゃないの?」
(*//A//)「そ、それは……!」
( -_ゞ-)「んん……うるさい……」
(;'A`)「あ、」
気付けば、オサムさんがこっちを見ていた。
川*^々^)「オサムー!」
(;゚_ゞ゚)「ぐぇっ……」
くるうが勢いよく抱き付いたせいで、オサムさんの首が絞まったらしい。
('A`)「くるう、ちょっと離れてやれよ」
川*゚ 々゚)「えー? だって久々に会えたのにー」
(;゚_ゞ゚)「ひ、久々……?」
('A`)「あなたと俺たちはずっと旅をしていたんです。それが、この国の住人に名前を奪われて記憶がなくなって、ずっと夢を見ていたんです」
- 178 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 12:06:08 ID:pQO/g1JEO
- ( ゚_ゞ゚)「夢……」
そう呟いて、オサムさんはすがるように言う。
( ゚_ゞ゚)「じゃあ、俺が師匠と特訓していたことも、彼女を殺したことも夢なのか?」
('A`)「……それは、」
川 ゚ 々゚)「ううん、それは本当のこと」
( ゚_ゞ゚)「…………」
川 ゚ 々゚)「オサムは師匠のハインさんに拾われて、ずっと育てられていた。 そしてオサムが17才の時に、森に逃げた盗人を師匠さんと一緒に追いかけて……」
言いにくそうに、くるうは言った。
川 ゚ 々゚)「人を殺したショックで、錯乱してハインさんを殺しちゃったんだよ」
( _ゞ )「……まぎれもない、事実なのか」
川 ゚ 々゚)「……うん」
( ゚_ゞ゚)「そうか、」
はぁ、とため息がこぼれる。
( _ゞ )「……ああ、」
その時、空間が揺らいだ。
森が消える。
苔むした地面も、木々のそよ風も。
( _ゞ )「……思い出したよ」
川 ゚ 々゚)「そう。じゃあ、」
バチン!という音。
なにが起きたのか、わからないような顔をしてオサムさんがくるうを見つめた。
(#);_ゞ゚)「…………」
川*^々^)「あとでデレに謝ってね」
見たこともないような笑顔で、くるうはそう言った。
- 179 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 12:17:46 ID:pQO/g1JEO
- オサムさんと交替しながら、デレを担いで移動をする。
川 ゚ 々゚)「早く出たいねー」
【+ 】ゞ゚)「そうだな」
('A`)「だけど、扉も住人も見当たらないな……」
歩けども歩けども、白い空間が広がるばかり。
どうしたものかと思っていた時だった。
「わっ、思い出してる!」
「なんで、なんで?」
「わからないよ」
こそこそと話す声が耳に入った。
【+ 】ゞ゚)「あそこだ」
オサムさんの視線の先には、小さな小さな人間がいた。
(;∵)「見つかった」
(;∴)「見つかった」
川 ゚ 々゚)「……あなた達がこの国の住人?」
( ∵)「ばれてしまっては仕方ない」
( ∴)「そうです、住人です」
('A`)「なんで名前を奪ったんだ?」
( ∵)「名前、ないのです」
( ∴)「僕らに名前、ない」
( ∵)「ないから芯すらない」
( ∴)「名前盗るといっぱい景色見えた」
( ∵)「だから盗りました」
( ∴)「ました」
- 180 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 12:21:25 ID:pQO/g1JEO
- 川 ゚ 々゚)「名無し、ねぇ……」
( ∵)「欲しいよ名前」
( ∴)「四人いるから二人くらい置いてって」
('A`)「だめだよ。みんな大切な仲間なんだ」
( ∵)「どうしても?」
( ∴)「絶対だめ?」
【+ 】ゞ゚)「……なら代わりに俺たちが名前をつけてやればいいんじゃないのか?」
川*゚ 々゚)「さっすがー!オサムの言うとおりだよ!」
( ∵)「やだ」
( ∴)「だめ」
('A`)「?」
( ∵)「二人しかいないのに、どうやって思い出を作るのさ」
( ∴)「見てのとおりここはなにもなくて寂しいの」
( ∵)「ちょうだい、そこの人の記憶」
( ∴)「長生きしてるから記憶もたくさん!!」
【+ 】ゞ゚)「断る」
(´∵)「だめなのか」(∴`)
【+ 】ゞ゚)「嫌ならこんな国を捨ててしまえ。余所にいけばいい」
(´∵)「…………」(∴`)
- 181 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/11(木) 12:22:36 ID:pQO/g1JEO
- それは、少しかわいそうだな、と思ってしまった。
オサムさんは、出入口の国が嫌いだったかもしれないけど……。
デレがお勤めで旅に出なければ、俺は国を出ていこうとは思わなかったんだ。
【+ 】ゞ゚)「行くぞ、二人とも」
川 ゚ 々゚)「あ、待ってー!」
('A`)「……」
小人達は、いつまでもそこに座っていた。
ずっとずっと、二人ぼっちで。
('A`)「…………」
【+ 】ゞ゚)「おい」
(;'A`)「え?」
気付けば、扉の前に立っていた。
くるうはもう出ていってしまったらしく、姿は見えなかった。
【+ 】ゞ゚)「いつまでそこにいるんだ?置いていくぞ」
不機嫌そうにオサムさんが言った。
(;'A`)「それは、勘弁してください」
デレの体を背負い直して、扉をくぐる。
そうして、俺達は名無しの国を後にした。
第八階層「名無しの国」後編 了
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