- 191 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:40:11 ID:jWOoh8760
シャーロック・ドクオの発見のようです
- 192 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:40:36 ID:jWOoh8760
じっとりと暑い暑い夏の日。
雲一つない晴天が、その暑さに拍車をかける。
毒田探偵事務所は二階に位置しているため、暑さが上へとこもるようになっている。
その灼熱の中に、体中から滝の如き汗を拭きだしながら、うだる二人の人間が。
(;><)「知らなかったんです……」
(;'A`)「あん?」
外から聞こえてくる、鳴り止まない蝉の声に耐えながら、
パソコンの前で黙々と作業を続けていたワカンナイデスが、突然口を開いた。
暑さにドクオもイライラしていた模様で、ぶっきらぼうに返答する。
- 193 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:41:04 ID:jWOoh8760
(;><)「すまない……すまない……」
(;'A`)「え、なに謝ってんの、君?」
(;><)「僕は人生で後悔していることが二つあるんです……
一つは東京に来るときに、おいてきた彼女の泣き顔。忘れられないんです。
そして、今もう一つできたんです」
(;'A`)「え、なによそれ」
突拍子もなく、自分の過去を語りだすワカンナイデス。
沈黙の後、そのシリアスな顔を静かにうつむけた。
(;><)「……」
(;'A`)「なんか俺いけないこと聞いた?いや、ごめん」
- 194 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:41:57 ID:jWOoh8760
(;><)「昨日……」
(;'A`)「ゴクッ……」
(;><)「食べた鶏肉」
(;'A`)「……」
(;><)「から揚げにして……」
(;'A`)「は?何、腹でも壊したの?」
(;><)「油の中で暑かっただろうに……なんです。暑さってこんなに辛いものだって
分かって、今とてつもない罪悪感に苛まれているんです……」
- 195 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:43:13 ID:jWOoh8760
過去の傷跡に、触れてしまったかと思ったドクオは、
そんな下らないストーリーを告白するワカンナイデスに、苛立ちを感じた。
(;'A`)「おいおい、今の流れでそんなこと!?なんでそんな変なとこで優しいの!?
今の心配返せよ。ってか、土下座して祈ってないで仕事しろよ」
(;><)「動物は大切にしなきゃダメなんです!」
土下座をし、床に頭をごんごんとぶつけながら、ワカンナイデスは叫んだ。
(;'A`)「おk、わかった。冷静になろう。こっちまで暑くなる」
- 196 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:43:44 ID:jWOoh8760
(;><)「天におられる鳥の神よ、我が愚弄なる過去の過ちを許したまえええええええええ!!
コケコッコー、チュンチュン、クルックーーーーーーーーーッピーーーー!!!!!」
手で嘴と尾羽らしきものを作り、鳥のマネで、左右行ったり来たりと動くワカンナイデス。
完全に馬鹿にしているとしか思えない祈りの言葉(?)を繰り返す。声がでかい。
(;'A`)「……」
(;><)「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス……。
は!?そんな畏れ多い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
おのれ、織田信長め!とりさまと呼べえええええええええええええ!
とりさまあああああああああああああああああああああああああああ」
(#'A`)「うっさい黙れ!」
(;><)「はい、なんです……」
- 197 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:44:10 ID:jWOoh8760
バタッ。
そんな世にも馬鹿馬鹿しいやりとりを続けている背後で、大きな音をたててドアが急に開いた。
( ´∀`)「いるかモナー?」
(;'A`)「うわ、びっくりした!」
(;><)「うわ、びっくりした!」
( ´∀`)「元毒田刑事、頼みがあって来たモナ」
驚いて、間抜けな声を上げる二人の背中に、
暑さをものともしていない涼しげな顔で、モナー警部が言った。
- 198 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:44:32 ID:jWOoh8760
(;><)「こ、この前の人なんです!ドクオさんの知り合いなんです!」
(;'A`)「お久しぶりです、モナー警部。開けるならノックぐらいしてくださいよ」
( ´∀`)「したモナー」
(;'A`)「お前のせいか!騒がしくて聞こえなかったぞ!」
(;><)「すいませんなんです!」
(;'A`)「それで、依頼って?」
( ´∀`)「とりあえず来てほしいモナー。話はそこでだモナー」
- 199 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:45:30 ID:jWOoh8760
*
暑さに乗り気では無かった二人だが、モナー氏の言う場所へと、
ギラギラ輝く太陽の下、連れられるまま歩いていった。
道中、ワカンナイデスはモナー氏とドクオがどういう関係なのか、
過去にドクオは何をしていたのか、前々から気になっていた疑問を聞いてみた。
この二人は元々、警視庁で働いていて、ドクオは刑事で、モナー氏は警部。
ドクオはある事件をきっかけに、警視庁をやめ、私立探偵となった話をしてくれた。
ワカンナイデスは、他にも聞きたいことを沢山胸に抱えていたが、
この二人が過去についてのことをあまり話したがらないのを察知し、
柄にもなく空気を読んで、その気持ちを押し殺すことにした。
- 200 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:46:03 ID:jWOoh8760
そして今回の依頼についてだ。
何でもある精神錯乱者の家で、不可解な出来事が続いているようで、
なんだか事件の匂いがするので、ドクオに頼みたいというのがモナー氏の旨であった。
警察へ相談したのは、その家の人物の世話役を任されている介護人の女性。
どうやら一連する不審な出来事に悩まされていたようで、異様に疲れ果てた様子で、
警視庁に電話を入れてきたらしい。
( ´∀`)「ついたモナー。ここだモナー」
連れて来られた場所は、都心部から離れた郊外。
住宅街を進むと、空き地のごとく広い雑草の茂った土地に、家がぽつりと。
二階建てのトタン屋根の家で、この住宅街でその一件だけ浮いている。
(><)「精神錯乱者って、どんな人なんです?」
( ´∀`)「まあ、会ってみればわかるモナー」
- 201 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:46:34 ID:jWOoh8760
('A`)「……」
着くまでほとんど無口だったドクオは、静かに家の周りを散策し始めた。
モナー警部もワカンナイデスも、ドクオが静かになった時は、
何かに注意を払っている時だと知っていたので、それをじっくり見守っていた。
(><)「どうしたんです?何かあったんです?」
('A`)「いや、不思議な家だなって」
( ´∀`)「気になることがあったら言ってくれモナー」
('A`)「モナーさん……」
( ´∀`)「どうしたモナー?」
- 202 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:46:59 ID:jWOoh8760
('A`)「気になることって言ったら、この家は気になることばかりですよ。
この家は『不自然』の塊です」
(><)「え、不自然なことなんて見当たらないんです」
( ´∀`)「気になることってなんだモナー?」
('A`)「後で伝えます。今は確証を持ってそうだと言えないから。
確率的には五分五分ってとこですかね」
(><)「また、勿体ぶっちゃってー、なんです」
( ´∀`)「ペニサスさーん、入りますモナー」
- 203 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:47:36 ID:jWOoh8760
玄関をくぐり、家の中に入ると、女性が出てきてドクオ達を迎えた。
三十歳を過ぎたあたりの年齢だろうか。
介護士らしく、地味で清楚な格好の女性だった。
その表情には、事件とやらに悩まされているのだろうか、疲れの色が浮かんでいた。
('、`*川「すいませんね、警察の方々。来ていただいて」
( ´∀`)「それが私たちの仕事ですからモナー。それに彼らは探偵の方々だモナー」
('、`*川「探偵の方!?わたし、探偵さんにお会いしたのは初めてです。
どうぞよろしくお願いいたします」
丁寧なペニサスの挨拶の後、ドクオ達は応接間に案内された。
- 204 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:48:09 ID:jWOoh8760
('、`*川「こちらがバルケン先生です」
( ,'3 )「……」
バルケンと呼ばれた男は、ソファに座って挨拶もせずに黙って天井を見つめていた。
初老ほどの年か。
皺の刻まれた穏やかな顔で、その頭髪には白髪がまじっていた。
('、`*川「お気を悪くしないでくださいね。先生は数年前から、気をおかしくされてしまって。
原因は全く分からないまま、精神錯乱と医者に判断されて。
今はここに引っ越してきて、生活保護で暮らしていますの。
以前は立派な動物学者だったそうなんですけど。それ以来すっかり無口になってしまいまして」
( ,'3 )「……」
彼は不気味にも、口をあんぐりと開けて、虚空を見つめ続ける。
ドクオはその顔をじっくりと見つめ、部屋を見回し終えたのち、ペニサスに話しかけた。
- 205 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:48:38 ID:jWOoh8760
('A`)「それでその不審な出来事というのは……」
('、`*川「はい。それがですね」
声のトーンを落として、ペニサスは続けた。
('、`*川「この家、憑りつかれているんじゃないかと思うようなことが何度も続きまして。
私は、霊だとかそういう得体のしれないものは、あまり信じる方ではないのですが」
('A`)「どういうことですか?」
('、`*川「私、普段は夜の八時頃まで、先生の身の回りの世話をして、家に帰りますの。
少し前に傘を忘れて、取りに帰ったんです。八時半です、きっかり。
すると、不気味な笛のような音が、静まり返って真っ暗な家の中に響いてくるのです」
(><)「……ぶるぶる」
体を震わせだす、ワカンナイデス。
- 206 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:49:06 ID:jWOoh8760
('、`*川「先生が声を上げていらっしゃるのかとも思いましたが、
もう就寝された後だったので気のせいだと思い、ふと外を見ると」
(><)「……」
('、`*川「不気味な人影が見えるのです、おぞましく大きく、化物のような。
そして外に出て確認しようとしてもその姿はないのです」
('、`*川「その不気味な笛のような音を聞くことはもうなく、安心していたのですが。
少し前に事情でまた、八時半まで残っていたのです。
すると、またきっかり八時半にその不気味な音が鳴り、同時に例の巨大な人影が現れました」
('A`)「……八時半」
('、`*川「どういうわけか、この家は毎日、八時半になると不気味な笛の音が鳴り、
同時に謎の人影が。私は怖くなってしまいまして」
( ´∀`)「それで我々の力を借りたのですかモナー」
('、`*川「というわけなのです」
- 207 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:49:39 ID:jWOoh8760
先程から虚空を見つめていたバルケンが、きょろきょろと周りを見渡し始めた。
( ,'3 )「……」
('、`*川「先生、お水ですか?」
バルケンは大きく首を振った。
('、`*川「お休みになりますか?」
再びバルケンは大きく首を振った。
- 208 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:50:05 ID:jWOoh8760
(><)「……」
モナー氏は、先程から黙ったままのワカンナイデスを見て、聞いた。
( ´∀`)「どうしたんだモナー?」
(><)バブブブブブブブブブブブブブブブブブブゥ
ワカンナイデスは、恐怖のあまり泡を吹いて気絶していた。
そんな彼を無視したまま、ドクオとモナー氏はしばらく彼女から話を聞いていた。
その人影はどういった形だったのか。
音はどのようなものだったか。
普段ペニサスとバルケンの生活の様子はどのようなものか、など。
バルケンは依然、部屋の大きなソファーに座ったまま、きょろきょろを繰り返していた。
- 209 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:50:40 ID:jWOoh8760
そして二時間が経過し、時刻は正午を回った。
その時だった。
ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。
突然不気味な音が鳴りだした。
('、`*川「こっ、この音です!!!!!!!」
ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。
笛の音は、静かに繰り返される。
('A`)「……」
( ´∀`)「……」
音は数回繰り返され、やんだ。
- 210 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:51:37 ID:jWOoh8760
音が鳴り始めた瞬間から、いつの間にか窓の方に移動していたドクオを見つけ、
ペニサスは自分も窓の方に急いで足を運び、外を注意深く見つめた。
('、`*川「人影はないようですね」
('A`)「……」
('、`*川「おかしいですね、こんな時間に鳴り出すなんて。
この時間は私が昼ごはんを買いにいく時間です。
今まで知らずに鳴っていたのかも……」
('A`)「……なるほど」
('、`*川「!?何か分かったことがあるのですか?」
ドクオは声を出さず苦笑いしながら、言った。
('A`)「いえいえ、いくつかある選択肢の一つが、確信への距離を少し縮めただけです」
ペニサスは意味を掴めない様子で、きょとんとしてドクオを見つめていた。
- 211 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:52:05 ID:jWOoh8760
('、`*川「協力できることがあれば、言ってください」
('A`)「それじゃ、居間を貸していただけますか?」
('、`*川「先生、居間を少し彼らに貸してもいいですか?」
( ,'3 )「……」
ペニサスの顔にさえ目もくれず、バルケンは天井を見続ける。
- 212 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:52:30 ID:jWOoh8760
音のことで騒がしくなっていた一同に、気絶していたワカンナイデスが目を覚ました。
(><)「Oh!んもう朝ではないか!グッモーニン、自分!
朝の穏やかな日差しはいいものだ。この心までマイルドに……ん?」
( ´∀`)「もう昼だモナー」
(;><)「ぎゃあ誰だ貴様!!??朝を共に迎えるマイスウィートハートじゃない!?
まさかあいつは男だったのか!?ってモナーさんなんです」
( ´∀`)「おはようだモナー」
(;><)「野郎に起こされるのは気分が晴れないぜベイビー」
( ´∀`)「さっき例の笛の音が聞こえたモナー」
(;><)「えーーーーー、なんです!僕だけおいてけぼりなんです!!!!!」
- 213 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:53:04 ID:jWOoh8760
それから暫くドクオは、居間を借りてパソコンを立ち上げ、
ヘッドフォンを耳につけ何かをひたすら聞いていた。
ワカンナイデスは、捜査中なのにも関わらず、電話で誰かと話していた。女のようだ。
モナー氏は、ペニサスから聞き取り調査を続け、家の周りを散策していた。
時たま窓の外から、彼が煙草をふかしている姿が映った。
途中ペニサスとバルケン氏が、定期検診の話をしているところを、
どういうわけかドクオが気にかけていた。
なんでも三日後に、精神病院の定期検診があるらしいが、
ペニサスがバルケンを連れて行くと言っても、彼は断固として拒否するのだ。
彼特有の返事、大きく首を振る方法で。
その様子をドクオは見つめていた。
- 214 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:53:35 ID:jWOoh8760
時刻は夕方になった。
( ´∀`)「そろそろ私たちは失礼するモナー。今のところ何も言えることがないので、
また進展があり次第、教えて欲しいモナー。何もできなくて申し訳ないモナー」
('、`*川「いえいえ、力を貸してくださるだけで心強いですよ」
('A`)「最後に少しバルケンさんと、お話してもよろしいですかね」
再びぽかんとしてドクオを見たペニサスは答えた。
('、`*川「はい、ですが先生は私以外の人間には返答をしたくないようで……。
話しかけても答えてはくださらないと思うのですが」
ペニサスの言葉を聞かずにドクオが話しかけた。
- 215 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:53:59 ID:jWOoh8760
('A`)「何故、バルケン先生は三日後の定期検診に行きたくないのですか?」
( ,'3 )「……」
向かいのソファに座ったドクオを見つめるが、沈黙で返答するバルケン。
気にせずにドクオは続ける。
('A`)「この家に引っ越してきたのはいつごろですか?」
( ,'3 )「……」
再びドクオを見つめたまま沈黙する。
彼の二つの瞳は、ドクオに焦点が合っておらず、傍からは妙に不気味に映った。
( ´∀`)「毒田刑事、無駄みたいだモナー」
- 216 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:54:27 ID:jWOoh8760
しかし、次のドクオの言葉に、バルケンは奇妙な反応を示した。
('A`)「カニス・ループス」
( ,'3 )「……!!」
バルケンは目を見開いた。
と同時に、そのやつれた顔には仄かな怒りの色が浮かびあがり、突然立ち上がった。
いきなりの彼の不思議な行動に、注目する一同。
( ,'3 )「……」
そして、立ち上がったバルケンは、再び静かに腰を下ろした。
('A`)「もう大丈夫です、ペニサスさん」
('、`*川「……さっき何をおっしゃったのですか?」
('A`)「ちょっとしたことです。大丈夫です。
三日後にこの事件は大きく進展すると思いますよ。もちろん良い方向にね」
- 217 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:55:20 ID:jWOoh8760
モナー氏、ドクオ、ワカンナイデス一行は、その言葉を最後に家を後にした。
夕暮れの帰り道、ワカンナイデスとモナー氏は、先程のドクオの言葉とバルケンの反応が気にかかっていた。
( ´∀`)「さっきのはどういうことだモナー」
(><)「そうなんです!ドクオさんは魔法使いか何かなんです!?」
('A`)「朝言ったでしょう。あの家は『不自然』の塊だ」
( ´∀`)「どういうことだモナー?」
('A`)「あの家の『不自然』の全ては『作為』によって出来ている。
そしてそれは、内側からだけでなく、外側からも……」
(><)「意味わかんないです」
( ´∀`)「説明になってないモナー」
- 218 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/25(月) 20:55:49 ID:jWOoh8760
('A`)「三日後すべてが分かりますよ。それから俺は、もう一度バルケンさんに会うつもりです。
今度は俺一人の方がいい、彼は警戒心がすごく強いですからね」
ドクオは頭の中では筋道を立て、いくつかの仮説を導き出しているのに、
完全なる確証を持つまで、その仮説を話さない男だった。
そんな彼の探偵としての癖を理解し、同時にそれに信頼を置いていた二人は、
敢えて彼にすべてをゆだね、それ以上の質問はしなかった。
- 224 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:37:17 ID:V30J.am20
それから二日が過ぎた。
ワカンナイデスとモナー氏は、ドクオの事務所に来るよう頼まれ、足を運んだ。
( ´∀`)「おはようだモナー」
('A`)「おはようございます」
(><)「おはようございますなんです!」
ドクオによると、明日あの家の謎がすべて解決するとのことだった。
そして彼は、これからするべきことを話した。
- 225 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:37:58 ID:V30J.am20
要約すると、前日からのあの家への潜入だ。
昨日、ドクオはバルケンともう一度会いに、あの不気味な家へ赴き、
ペニサスとあれやこれや話したのち、潜入の許可を取ったようだ。
三人は、今日のうちから家に忍び込む。
次の日、事が起こるまで、絶対に家を出てはならない。
ペニサスとバルケンは明日、予定通り精神病院に向かう。
そしてその間、家内の階段の裏にある、広い収納に三人で身を隠し、じっと待つ。
ここまで何もわからないまま色々と指示されて、ドクオの秘密主義ぶりに耐えかねたワカンナイデスが、
ついにドクオに真相を迫った。
(;><)「結局ドクオさんは何を考えているか教えて欲しいんです!」
('A`)「……」
- 226 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:38:23 ID:V30J.am20
ドクオは、完全なる確信を持てない選択肢を披露するのを嫌ったが、
ワカンナイデスの血相に観念したか、意味の分からないまま動かされる二人に罪悪感を感じたか、
彼の頭にのぼっている仮説とやらを披露し始めた。
('A`)「明日、あの家にペニサスさんが見たっていう人影の正体が、必ず現れる」
(><)「え……」
('A`)「そして何を考えているのか、あのバルケンさんっていう動物学者は……
精神異常者でもなんでもない。あれはそう装っているだけだ」
( ´∀`)「まさかモナー……」
(><)「えええ!!なんです!でも何のために!?」
('A`)「それはまだ分からない。一体なんだってあの人は狂人の振りをしているのか。
それを確証しに行くんだよ。すべては明日、
残り二つの『不自然』が、明日すべて曝け出されるはずだ」
- 227 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:38:59 ID:V30J.am20
*
(><)「広いんですーウキウキなんですー」
('A`)「全く餓鬼かお前は」
ペニサスに挨拶し、家内にお邪魔した三人は、階段裏の広い収納に入り、寝袋を敷いた。
親切なことにこの収納は、非常に広く、電気まで用意されていた。
無邪気に寝転がるワカンナイデス。
(><)「小学生の時、家に秘密基地を作った時以来の感動が今、この胸に蘇ったんですー」
大量の発砲スチロールを持ち込んできて、部屋の隅に置くドクオ。
- 228 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:39:27 ID:V30J.am20
(><)「それはなんなんです!?」
('A`)「保冷剤とドライアイスだ。真夏にこの狭い空間に長時間居たら、本気で死ぬからな」
( ´∀`)「頭いいモナー。よっ、紫色の脳細胞だモナー」
('A`)「あれ。なんかモナー警部、ワカンナイデスに似てきてるような……」
(><)「僕の唯一無二、天下無双の高潔なる人格を真似しないで欲しいんですー」
( ´∀`)「まぁまぁ、人間は一緒にいると似てくるんだモナー」
('A`)「モナーさん、そんな癒し系キャラでしたっけ」
- 229 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:39:45 ID:V30J.am20
そんなこんなで夜が訪れた。
ドクオは再び持ってきたパソコンと睨めっこを始め、
モナー氏はこの狭い空間で煙草を吸いだした。
ワカンナイデスはそれを見て、火災報知機を探したが、幸いこの家は新しい設備は整っていないようだ。
(;><)「ちょっとトイレ行ってくるんです」
('A`)「いいけど、早めに戻ってきた方がいいぞ。あと静かにな」
そんな言葉も聞かず、薄暗い収納の外へと駈け出して行った。
- 230 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:40:06 ID:V30J.am20
時刻は八時二五分。
('A`)「モナーさん。ちょっと来てくれませんか?」
( ´∀`)「分かったモナ」
二人で真夏の月夜が見える、居間の窓へ向かう。
外を見つめるドクオ。その視線を追ってモナー氏も同じように外を見つめる。
('A`)「身を隠しながら見ててください」
次の瞬間。
ヴォォォォォぉォォォォォぉォォォォォォ。
再度、笛のような音が迫りくる。
- 231 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:40:36 ID:V30J.am20
ドクオとモナー氏は、窓の外に不気味な大きい人影が現れたのを確認した。
まるで熊のように大きい体。暫くじっとこちらを見つめて消えた。
確かに月光に照らされた大きなあれは、まるで妖怪か化物だった。
( ´∀`)「あれかモナ」
('A`)「あれですよ、あいつです」
窓辺を後にし、収納に戻る二人。
扉を開けると、今にもオオカミに食べられようとしている子羊のような、
怯えた眼で見つめながら、ワカンナイデスが腰を抜かしていた。
(;><)「南無阿弥陀仏。何妙法蓮華経。我を救いたまえ、神様仏様!!!!!!!」
(;'A`)「ちょ。マジうるさい、俺だから」
ドクオを確認し、目から大粒の涙を流し泣きつくワカンナイデス。
(;;><)「しぬかと思ったんです……うぅぅぅぅう」
- 232 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:41:09 ID:V30J.am20
( ´∀`)「何かあったかモナ?」
(;;><)「うぅぅぅぅぅ、うんこが長引いて、出てきたら、あの音が鳴って。キッチンの方に人影がぁぁう」
( ´∀`)「キッチン!?」
('A`)「そんで?」
(;><)「うぅう怖くて声も出せなくなって、収納に急いで帰ったら……」
( ´∀`)「僕たちがいなかったってことかモナ」
(;><)「幽霊に連れ去られたのかと思ったんです……」
ワカンナイデスは力なく崩れ落ちる。
('A`)「だから早く帰ってこいって言ったのに」
(;><)「出たんです……うぅぅぅ、サディスト……」
- 233 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:41:34 ID:V30J.am20
( ´∀`)「キッチンに人影って……どういうことだモナ」
('A`)「なるほど、キッチンか……」
訝しげな顔を浮かべるドクオ。
それを見つめる二人。
それから再びドクオは、ラップトップの画面を吸い込まれるように見入っていた。
気になって画面を除いたワカンナイデスは、音が波形化されたものが表示されていた。
何度も再生のボタンが押され、繰り返される。
- 234 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:41:55 ID:V30J.am20
(><)「あの音を録音してたんです?」
('A`)「そうだよ、見つけたんだ。あの音と明らかに類似点のある音を」
(><)「あれの正体はなんなんです?」
('A`)「ま、明日完全に明らかになるよ」
(><)「……」
ワカンナイデスは、その発言の真意、そして音の正体を知りたかったが、
急に襲われた疲れと眠気で、これ以上の深入りはせず、寝袋へと潜った。
三人は今夜初めて、ペニサスが悩ましげな顔で告白した恐怖を、身を持って体感した。
ワカンナイデスは明日目の当たりにするべき真相に、不安を抱えながら最初に眠りに落ちた。
それを見たモナー氏は、収納の電気を消し、同じように寝袋に潜った。
ドクオのだけが暗闇の中、見つめる目の前のパソコンの画面の薄暗い明かりに照らされていた。
- 235 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:42:23 ID:V30J.am20
*
夜は明け、朝は静かに顔を出した。
男は一人、高速道路のトンネルの陰から遠くの古びた家に、双眼鏡を向ける。
ついに待ちわびたこの日が来たのだ。
数年を経て、ついにその計画が実行される日が。
この計画の成功か、失敗かによって、今後の人生が大きく左右される。
天国か、地獄か。
それでも俺は、挑戦の道を選んだのだ。
そう胸に言い聞かせ、傍らにあった巨大で重厚なリュックサックを背におう。
- 236 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:42:44 ID:V30J.am20
胸躍る期待と同時に、その顔には不安の色が浮かんだ。
心臓の鼓動は高まり、体中の血が沸きあがるのを、男は感じた。
失敗は許されない。
(-@∀@)「……ふふふ」
例の家の中から、介護人と、あの憎き学者が出ていくのを見た。
あいつはずっと気に食わない奴だった。昔からだ。
この二年という長い月日は、時間の浪費以外、何物でもなかった。
奴の得体の知れない一連の行動によって、阻止され続けてきたんだ。
やっと手に入れた確証。舞い降りたチャンス。
そして隠し場所はまさかのあいつの家だとは、出し抜かれたものだ。
- 237 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:43:10 ID:V30J.am20
男は遠くの動物学者の歩いていく姿を見送りながら、様々な思考が頭の中で蠢いていた。
周辺の状況を確認する。
平日の午前中十時。人の影は見えない。
この周辺は閑静な住宅街。
近隣には、人が集まりそうな場所など存在しない。
男は広い空き地のような庭へと入り、玄関の前へと足を進めた。
もう一度道路を振り返る。人影はない。
逃走用の車はちゃんとトンネルの脇に停めておいた。
そしてその背の特大リュックサックを下す。
- 238 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:43:32 ID:V30J.am20
(-@∀@)「……ここか」
鍵穴らしき玄関の扉の一部分に、リュックから取り出した工具を突っ込む男。
ガチャガチャと金属の触れ合う音の後、『カチャリ』と鍵が開く響きが。
(-@∀@)「意外と簡単だな」
こじ開けられた鍵付き扉は、侵入者排除という本来の役割を果たせず、男の侵入を許した。
誰もいない薄暗い家の内部。
初めて入るにも関わらず、迷うことなく廊下を横切っていく。
隠し場所は分かっている。
- 239 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:44:13 ID:V30J.am20
素早くキッチンにたどり着いた男は、その床に目を凝らす。
目的を見つけ、ニヤリと微笑を浮かべる。
カーペットを捲るとその姿を覗かせたのは、床下収納の入り口である。
蓋を開けると、そこには埃臭い空間と、汚い階段があった。
そしてそのリュックを下し、取り出したのは麻酔銃。
男はその小型の銃をひしと構えて、階段を慎重に下りていく。
(-@∀@)「さぁ、何処かな」
ただの収納とは思えない広い空間だった。
むしろ地下室と呼ぶべきだろうか。
設置された蛍光灯を引くと、何も置かれていないこの寂しい部屋に、
クローゼットがぽつりと置いてあった。
隠すべき物があるならこれほど都合の良い場所はあるだろうか。
- 240 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:44:49 ID:V30J.am20
ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。
再びあの音が鳴る。
昨晩外から聞いたそれとは違う、リアリティを帯びた音は、激しく鼓膜を震わせる。
鼓動は最高潮に高まり、ずんずんと脈打ち、押し寄せる。
(-@∀@)「そこかな!!さあ出ておいで!!」
バンッ!
- 241 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:45:10 ID:V30J.am20
乱暴に開けたクローゼットには、一人の男。
(;><)「……」
手に持つ麻酔銃に怯え、恐怖で額に汗を浮かべ、体をねじり肘で顔を隠す。
半開きの目をパチパチさせながら、こちらを見上げている。
(;><)「……」
(-@∀@)「……」
寒々しい沈黙が、二人の間を流れていく。
- 242 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:45:54 ID:V30J.am20
(-@∀@)「……お前は誰だ」
落ち着いているが、その内側に物凄い殺意の籠った声で、彼は呟いた。
(;><)「……ワカンナイデス」
(-@∀@)「……何故わからない……?そして何故ここにいる?」
(;><)「……分かんないです」
- 243 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:46:17 ID:V30J.am20
その時、この地下収納の階段の裏側から、モナー氏とドクオが現れた。
それに気付いた男の冷たい眼鏡の下に、湧き上がる憤怒が見えた。
(#-@∀@)「……!」
( ´∀`)「警察だモナー。家宅侵入犯、現行犯逮捕だモナー」
モナー氏の手には、本物の拳銃が握られていた。
その銃口は、真っ直ぐに男の額を捉えていた。
(#-@∀@)「罠かっ!!」
('A`)「そういうことだよ、残念だな。お前の計画は失敗だ。その麻酔銃を床に落とせ」
(#-@∀@)「……くっ」
- 244 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:46:47 ID:V30J.am20
銃を向けあう、二人の大男、モナー氏と侵入犯。
男の持つ麻酔銃を握る手は、モナー氏が近づく度に震えだし、悔しそうに銃を落とした。
そうしながらも、殺意の込められた激しい目は、依然モナー氏に向けられていた。
(;><)「死ぬかと思ったんです……」
( ´∀`)「麻酔銃くらいじゃ死なないモナー」
('A`)「その大きな体に、眼鏡。この家の周りを夜、
うろうろとうろついてた人影はあなただな?」
(#-@∀@)「……」
ドクオに投げかけられた言葉を無視する男。
- 245 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:47:14 ID:V30J.am20
('A`)「推測するに、あなたの名は……」
(;><)「知ってるんです!?」
その言葉を聞き、呆気にとられ急に顔を上げる男。
('A`)「数年前にイヌ科の遺伝子比較研究の論文で、学会に名を馳せた動物学者。アサピー教授」
(-@∀@)「……バルケンの仲間か?……お前は何者だ?」
('A`)「ただの探偵だよ。あなたはここ数日間、俺につけられていたことも。
盗聴されていたことも気づかなかった」
(-@∀@)「……そういうことか」
- 246 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:47:47 ID:V30J.am20
('A`)「あなたの正体はすぐに特定できたよ。三日前に、この周辺の道をうろうろと歩く不審者、
家まで後をつければ、住所は手に入る。ネットに流れる個人情報リストからは探せなかった。
家の前で張り込み、再び尾行したどり着いたのは動物センター」
ドクオは、落ち着いたアサピーと呼ばれる教授の顔を見て、続けた。
('A`)「俺は動物学会の人間の情報を漁った。幸いだったのは、あなたは有名人だった。
親切なことに顔までホームページに載っていた。あの不審者の影と完全に照合した」
( ´∀`)「この前はそんなことをしてたのかモナー……」
('A`)「あなたの狙っていたものはこの家の中。隙を見てはその隠し場所を外から探った。
想像するに、この家の主であるバルケン氏は生活保護受領者で、職のない身。
彼は家から出られない。いや、正確に言えば、出ようとしなかった」
(-@∀@)「……」
長々と話すドクオの顔面を睨み付けながら、アサピー教授は聞いていた。
- 247 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:48:16 ID:V30J.am20
('A`)「学会の仲間か誰かからか?気の狂った元同僚バルケン氏が、年一回の定期検診があることを
耳にしたあなたは、この日のために完全なる計画を立てた。
その隠された宝物を、彼から奪い取る計画を、ね」
(-@∀@)「……参ったよその通りだ。そしてその計画は崩れ、俺の人生は台無しだ。
お前はよくやってくれたよ、まったく。お前の勝ちだ」
先程までの怒りは、自嘲へと変わり、男が乾いた声でぼやいた。
('A`)「……俺じゃない。お前が負けたのは、バルケン氏だ」
- 248 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:48:49 ID:V30J.am20
(-@∀@)「あんなイカレ野郎が俺に勝てるか。アイツはいつも動物を『仲間』だと言っていた。
アイツは研究をほっぽりだし、動物学から獣医学に傾倒しだした。
動物なんて所詮、研究の『対象』でしかない。『仲間』だのなんだの、くだらないことを
言ってるから非情になれない。のし上がれない。だから奴は最後まで出世できなかったんだよ」
ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。
音が再度、響きだす。
近くで聞くと、笛というより何かの鳴き声だろうか?
以前とは違う響きを持っていた。
(-@∀@)「これだって、流すべきルートさえ知れば、莫大な金の元だ。
こんな風に手なづけて。アイツの腐った脳みその中身は知れたもんじゃない」
- 249 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:49:15 ID:V30J.am20
('A`)「……モナーさん、彼を連行できます?」
( ´∀`)「もう迎えが来てるモナー」
モナー氏は、手錠を掛けられたアサピーを連れて外へ向かった。
去り際に、アサピーの顔に、何処へ向けられたのか、怒りが、そして無念が浮かび上がっていた。
仲間の警官が連行にきたらしく、しばらくしてモナーが戻ってきた。
( ´∀`)「こんな風にその隠しものとやらを、口止めせずに連行して良かったのかモナー?」
('A`)「大丈夫、あいつは何も言えないはずですから」
- 250 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:49:36 ID:V30J.am20
ひと騒動を終えた暗い地下室。
モナー氏とワカンナイデスは、先程から鳴りつづける音の正体が気になっていた。
(;><)「結局この音は何なんです?」
('A`)「それはきっと彼が説明してくれるさ。ね、バルケンさん?」
光の差し込む階段の向こうには、バルケンとペニサスが。
蛍光灯に照らされた薄暗い地下室に二人で降りてくる。
ペニサスは開いた口がふさがらないという様子で、状況を理解できないまま見守っていた。
( ,'3 )「済まなかったね、探偵さん」
('、`*川「せ、先生!?」
ごく普通に話し出すバルケンに、目を見開いて驚くペニサス。
- 251 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:49:59 ID:V30J.am20
( ,'3 )「君には本当に謝らなくてはならないね。本当に。
私は本当は精神錯乱など起こしていない、普通の人間だよ」
('、`*川「」
床に崩れ落ちるペニサス。
どうやらショックの余り、気絶をしてしまったようだ。
( ,'3 )「……驚かせてしまったようだ」
( ´∀`)「それはびっくりもするモナー。長い間介護してきた人が実は正常でしたなんて」
( ,'3 )「はははは。起きたら土下座でもして謝らなくてはな、二年間だよ」
- 252 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:50:25 ID:V30J.am20
そしてドクオの方を振り返ったバルケンは続ける。
( ,'3 )「君には本当に感謝しているよ」
('A`)「いえいえ、与えられたパズルを、楽しく解かせてもらっただけです」
( ,'3 )「凄い男だ、本当に。君は結局、何処まで分かっているんだ?
私の家に初めて訪れたあの日に、全て御見通しだったってことか?」
('A`)「いえ、僕は超能力者じゃないですから。
積み重ねた事実の山の上から見下ろせる景色だけが、僕の知る真実の全景です。
確認もしていないこの部屋の向こうに、隠されたものがなんであるかなんてわからない」
( ,'3 )「大方の予測はついているんだろう?全て告げよう。来てくれ」
- 253 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:51:25 ID:V30J.am20
バルケンがワカンナイデスが隠れていたクローゼットの中の奥側の壁を押すと、
それは押し扉になっていて、新たな空間が現れた。
一同はそれに続く。
暗い小さな部屋。蛍光灯が灯されるとそこにいたのは。
▼・ェ・▼ ヘッ・・・・・・ヘッヘッヘッヘ・・・・・・
犬だった。
- 254 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:51:54 ID:V30J.am20
うずくまっていたそれは、入ってきた皆の姿を、首を上げて見つめた。
(><)「可愛い犬なんです!」
( ´∀`)「あの笛みたいな音はこの犬の鳴き声だったのかモナー」
- 255 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:52:14 ID:V30J.am20
('A`)「……バルケンさん?これは?」
( ,'3 )「学名『カニス・ループス・ホドピラクス』」
( ,'3 )「恐らく君が察する通りだろう。千九百五年に最後の個体が確認されて以来、絶滅したはずの種」
( ,'3 )「ニホンオオカミ」
信じがたい事実を聞き、息を呑む全員。
(;'A`)「凄い……」
(;><)「信じられないんです……」
- 256 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:53:17 ID:V30J.am20
( ,'3 )「こんなものの存在が知れたら、世界を駆け巡る大ニュースになる」
▼・ェ・▼ ヘッ……
( ,'3 )「関東の山奥で人知れず生存し続けていた。二年前になる。極秘で我々に伝えられた
目撃情報があった。私を含め、その話を聞いた同僚たちは、一目その姿を見ようと
現地へ駈け出した」
( ,'3 )「中には、欲深いものもいた。さっき君たちの前に現れたアサピー教授のように。
発見者の権利を秘密裏に一部の金持ちに売るんだ。そうして金持ちは有名になる。
売ったものは大金を得る。そして残されたニホンオオカミは、
研究所か、動物園へ送られ、死ぬまで研究の対象にされるか、見世物になる」
場にいたものは皆、俄かには信じがたい話に、唖然とした様子で耳を傾けていた。
- 257 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:56:26 ID:V30J.am20
( ,'3 )「幸運の女神は私に微笑んだ。現れたのだ、山を登る私の目の前にこいつが。
雌のニホンオオカミ。最後の一匹だ」
▼・ェ・▼ ヘッ……ヘッ
ニホンオオカミの子孫は、近寄ったバルケンの元によろよろと歩き、バルケンの足元でうずくまる。
( ,'3 )「確かにこいつの見た目は古い資料の記述と一緒だった。私は嬉しかった。
最初に、ニホンオオカミが生きていた喜びをこの国に知らせようとした」
( ,'3 )「でもこいつは弱っていた。イヌの特有の病気だ。
恐らく本当に最後の個体。唯一残っていた家族も死に絶え、横にはその遺骨があった。
家に連れて、延命処置を施したが一時的なものに過ぎない。
日に日に犯されていく健康を見て、私はこの子を世に公表するのを躊躇った」
▼・ェ・▼ ……ヘッ
うずくまるオオカミは、確かに力なく彼の足元を舐めていた。
その体を、切なそうな瞳で見つめるバルケン。
- 258 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:56:56 ID:V30J.am20
( ,'3 )「こいつはもう長くないんだ。先祖を人間たちに狩られ続け、残った最後のニホンオオカミ。
その最後の死に際くらい、静かに死にたいだろう。なぁ……」
▼・ェ・▼ ……
オオカミは、ゆっくりと首をもたげ、主人の顔を見上げた。
( ,'3 )「私はこの子を見つけたとき、ニホンオオカミ再生の、最後の希望を委ねた」
オオカミの頭を撫でながら、彼はこちらを見もせずに話し続ける。
( ,'3 )「……それも叶わぬ夢のようだ。
せめて最後くらい、暗い研究所や、閉ざされた動物園の中で、
私と離れた悲しみに遠吠えをあげながら、などではなく、
私と二年を共に過ごしたこの部屋で、静かに死なせてやりたい」
そう呟くバルケンの二つの瞳には、形容しがたい悲しみが込められていた。
- 259 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:57:18 ID:V30J.am20
しばしの静寂の後、ドクオが口を開いた。
('A`)「この地下室で、その子との生活を始めたあなたは、彼女を狙う欲深い一部の同僚に気付いた。
そして、家を離れることの無いように、自らの名誉を売ってまで、
あなたは精神がおかしくなったフリをつき通し続けた。二年もの長い間だ。
そうして、弱りゆく彼女の世話をすることに専念した」
( ,'3 )「そうだ。定期的に鳴り響くあの音は、餌を求める声だ。
毎日きっかり昼十二時、夜八時半に餌を与えていた。
ペニサスはその時間帯には、家にいないからな」
- 260 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:58:24 ID:V30J.am20
自らの推理と、面前に現れた真実の照合を楽しんでいたドクオはそっと呟く。
('A`)「なるほど、謎は解けました……。
それじゃ行きますか、モナーさん、ワカンナイデス」
( ,'3 )「……待て」
('A`)「?」
( ,'3 )「……このことは世間に広めるつもりか?」
('A`)「どうするんですかモナーさん?」
( ´∀`)「そんなつもりはないモナ」
サラリと即答するモナー氏。
- 261 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:58:43 ID:V30J.am20
( ,'3 )「……そうか。君たちには本当に頭が上がらないよ」
そんなモナーの様子を見て、ドクオが言う。
('A`)「モナーさんも頭が柔らかくなりましたね。
以前までは規律主義で、こんなこと見過ごす人じゃなかったのに」
( ´∀`)「前にも言ったモナ」
( ´∀`)「一緒にいると似てくるんだモナー。いい意味でも悪い意味でも」
- 262 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:59:23 ID:V30J.am20
*
帰り道、ワカンナイデスが幾つか腑に落ちない点をドクオに聞いていた。
どうやってあの声の正体を予測したのか?
これについてはドクオは最後まで苦労したようだ。
最初の日に、例の音が始まった瞬間、忍ばせていたボイスレコーダーで録音した。
そしてある程度の推測のもと、類似する音波を持つものをネット上で探しつづけ、
結果的に犬か何かの鳴き声だと推測したらしい。
実物を見るまで、まさかそれが絶滅したオオカミの泣き声だとは考えもしなかったようだ。
ワカンナイデスが見たキッチンの人影は一体なんだったのか?
それは餌を与えに向かったバルケンだということだった。
- 263 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 06:59:55 ID:V30J.am20
そしてバルケンが正常だと何故分かったのか?
ドクオは『カニス・ループス』の言葉へのバルケンの反応から、
精神異常を装っているのではないかと確信を持っていたらしい。
ドクオは、最初バルケンに会った日の夜中に家を訪れた。
バルケンはドクオの真相を知っているようなひっかけの言葉に、
アサピーの仲間か誰かだと疑惑を向けていて、恐る恐る玄関に現れた。
実はその言葉は多くのイヌ科の生物の学名に当てはまるもので、
正体が『カニス・ループス・ホドピラクス』であったのは、幸運だったようだ。
そして全てを知ったような口調で彼に話しかけたところ、ついに観念したらしい。
その後、ドクオは自らの計画の経緯を説明し、バルケンに事前に協力を願った。
その内容は、ペニサスと定期検診に行く演技をして家を出る。
そしてもしアサピーに逃げられた際の、待ち伏せ役として玄関に戻って待機する。
この二つ。結果的に後者は必要のないものになったが。
- 264 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 07:00:19 ID:V30J.am20
事実は時として小説よりも奇なり。
響き渡る不気味な音。ざわめく怪物の影。
そして最後に待っていたのは、驚愕のニホンオオカミの生き残り。
この一見怪奇的、踏み込めば劇的な一連の事件は、幕を閉じた。
- 265 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 07:00:43 ID:V30J.am20
いつの間にやら時刻は正午を回った。
(><)ぐうぅぅぅぅぅぅぅ
並んで歩く帰り道の三人は、ワカンナイデスの腹の爆音と共に、
自分たちが朝から何も食べていないことに気が付いた。
(;><)「腹減ったんです」
('A`)「そうだな」
- 266 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 07:01:08 ID:V30J.am20
( ´∀`)「ここらで何か食べていくかモナー。何でも奢るモナー。
今回も本当に助かったモナー」
目を合わせて、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる二人。
('∀`)「じゃ、遠慮なく」
(><)スリスリ「さすが警視庁のお偉いさんは違うんですー。
日本の未来を左右するような人は大物なんですー」
( ´∀`)(この二人はやたらとたかるモナ……)
- 267 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 07:01:26 ID:V30J.am20
周辺を散策した三人は、最近雑誌などでよく取り上げられるようになったという、
ラーメン屋が近くにあるのを知った。
('A`)「VIP件。近頃名前がよく取り上げられてるよな」
(><)「そこがいいんです!」
('A`)「チャーシュー麺が絶品って言ってたよ」
- 268 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 07:01:45 ID:V30J.am20
それを聞いたワカンナイデスが、ピクっと動いて言った。
(><)「やっぱり行きたくないんです!」
('A`)「え?」
(><)「動物は大切にしなきゃダメなんです!」
('A`)「……」
( ´∀`)「……」
苦笑いで顔を見合わせるモナーとドクオ。
- 269 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 07:02:01 ID:V30J.am20
(><)「今日から僕はベジタリアンになるんです!キムチしか食べないんです!」
('A`)「おkおk。いつまで続くか」
( ´∀`)「楽しそうだモナ」
街路樹にとまっていた小鳥の群れが、
心なしか微笑ましそうに、彼らの様子を見守っていた。
- 270 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/26(火) 07:02:26 ID:V30J.am20
FIN.
戻る 次へ