- 469 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:49:04 ID:pFdVep2A0
シャーロック・ドクオの警戒のようです
- 470 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:49:31 ID:pFdVep2A0
ワカンナイデスは、ドクオを時々『変態』と呼ぶ。
彼がその言葉を使うとき、侮蔑など含んでいないし、深い意味は無いのだろうが、
『変態』という形容詞は、本当にドクオにぴったりと当てはまる言葉だった。
毒田ドクオという人間は、言わば『オタク』と呼んでも差し支えないほど、
著しい興味の偏りがあり、その対象への陶酔を糧として生きていた。
- 471 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:49:50 ID:pFdVep2A0
例えば、彼の生活は相当奇天烈なものだった。
午前、ワカンナイデスが事務所を訪れれば、彼は大体、
吸い込まれるように、新聞記事を読みふけっている。
その行為自体、さほどの奇抜さはない。
しかし、何故そんなに新聞が好きなのかと気になったワカンナイデスが、
ある日彼に、それを尋ねてみたことがあった。
その返答が『変態』なのである。
- 472 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:50:11 ID:pFdVep2A0
(><)「ドクオさんは、どうしていつも新聞なんか読んでるんです?」
('A`)「面白いからだよ」
(><)「新聞の何処が面白いんです!目がチカチカする文字の塊なんです!」
('A`)「そうかいそうかい」
と言って、彼はさっきまで夢中になっていた新聞へと視線を戻す。
- 473 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:50:50 ID:pFdVep2A0
彼はそうして再び、文字の羅列の世界に精神を浸し始めたかに見えた。
だが突然、ワカンナイデスの方を向きもせずに、こんな質問をした。
('A`)「お前音楽好きだろ?」
(><)「勿論なんです!僕の人生はRock'n Rollなんです!
ピートルズに、スコーンズ、鱚にエロスミス。
古今東西、ロックならなんでも来いなんです!!」
- 474 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:51:19 ID:pFdVep2A0
('A`)「じゃ、好きなバンドの新しく出たCDとか買うか?」
(><)「言うまでもなくwinnyでダウンロードするんです!」
(;'A`)「お前、アホか!捕まれ!有害なウィルスに感染しろ!
まぁいいや、兎に角どうにか手にしたいだろ?」
空気を読まないワカンナイデス。
半ば強引に、ドクオは話を続ける。
- 475 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:51:40 ID:pFdVep2A0
(><)「うm」
('∀`)「それと同じことなんだよ、ワカンナイデス。
犯罪学や犯罪史を学ぶと、日夜世に生まれ来る、新たな事件から目が離せなくなる」
(><)「ふむふむ。なんだか分かるようで、分かんないです!!」
('∀`)「そして新しい曲を聞いた時、
『そういえば、この曲ってあの曲と似てるな』って思ったことはないか?」
(><)「あるんです!怒りの余り、僕は何度、眠れぬ夜を過ごしたことか……」
- 476 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:52:01 ID:pFdVep2A0
('∀`)「新聞の中にだって全く同じことが起きている。この日の下に新しいものなし。
すべての犯罪は、過去のものの模倣か、組み合わせと組み換えで出来ている。
それを生み出す人間たちが変わらない以上はな。
そうやって事件を見ていると、全てのものに共通するパターンが見えてくる。
そして、これらは普遍の人間の性質を示すものだと言ってもいい。
推理やプロファイリングなんて、これらの人間の行動をまとめて貫く、
普遍への深い理解と細かい分析さえあれば、いとも簡単な作業だ」
(><)「……理解不明なんです」
(;'A`)「……『理解不能』だろ」
('A`)「ま、犯罪の記事を読むのは刑事の時からの癖かな」
(><)「……意味不能なんです」
('A`)「……分かった。お前わざとやってんだろ」
お調子者、ワカンナイデスの馬鹿げたボケは無視して、
たかが新聞記事に、これほどの様々な情報や価値を見出している、
オタッキーな人間は、他にいるだろうか。
- 477 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:52:47 ID:pFdVep2A0
そして彼の生活で、特筆すべきことと言えばもう一つ。
彼は時たま、おかしな時間に爆睡しだすのである。
何せ彼は、
('A`)『昨日は深夜、調べものをして起きてから眠いんだ』
('A`)『探偵に必要なのは頭脳。だからそれを休ませることも仕事の内だ』
などと都合の良い屁理屈を掲げて、ワカンナイデスのダルそうに仕事をする傍ら、
ソファに寝転がって布団をかけ、ウトウトと眠りへ落ちていくのだ。
- 478 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:53:11 ID:pFdVep2A0
彼は確かに、しばしば定時を過ぎても、書類やパソコンと睨めっこしている。
彼の興味を刺激し、心を占有している仕事や事件に、夢中になっているのだ。
仕事が好きというのは、何とも素晴らしいことなのだが、
そのツケが昼間に来るのは、褒められたものではないし、
次の日、一緒に仕事をするものに対して、非常に失礼なことである。
彼を慕い信頼する助手のワカンナイデスでさえ、この癖には怒りを感じていた。
最初こそ、そうやって憤っていたワカンナイデスであった。
しかし悪巧みに関しては、かの大悪党モララーもびっくりの彼のことだ。
この自分の上司の寝ている時間を、休憩時間と考えだし、
ドクオにばれぬよう静かに、けれど全力で仕事をサボり始めるようになった。
- 479 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:53:42 ID:pFdVep2A0
('A`)「今日も寝るわ。マジ眠いわ」
(><)「さささ、どうぞどうぞ、名探偵シャーロック・ドクオ様。
玉座におかけくださいませ。そして安らかな眠りを御堪能くださいませ」
味をしめた小悪党は、このようにして彼に睡眠を催促するまでになっていた。
('A`)「お前、なんか最近優しいな」
ドクオは初め、彼が自分を思いやってくれるようになったのだと、小さな感動を覚えていた。
ドクオはこうも親切にされると、自分が仕事をする彼の横で爆睡するのは、
失礼に値する行為なのかもしれない、と自問もしかけた。
- 480 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:54:03 ID:pFdVep2A0
(><)「いえいえ。ワタクシめは『人に優しく、己に厳しく』をモットーに生きておりますので。
普段と何の変わりもない愛すべき探偵助手、ワカンナイデスで御座います」
何だか、妙に怪しい。
ドクオはその日、寝たフリをした。
ソファから薄目を開けて、彼を観察した。
ワカンナイデスは、ドクオが眠りに落ちたか否かを、チラチラと確認し続けた。
結局、彼のダミーのイビキに引っかかり、推測通り見事なまでにサボりだした。
ドクオが愛用している高そうな椅子に座り、乱暴に机に脚をのっける。
そして欠伸をしながら、鞄から取り出した漫画を読み始めたのだ。
- 481 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:54:30 ID:pFdVep2A0
この有様に、さすがに頭に血が上ったドクオは、
漫画に没頭する彼の背後に、そっと忍び寄り、こう言った。
('A`)「その椅子から今すぐ降りて、机の上の汚ねぇ足をどけろ」
(;><)「ぎゃあああなんです!いつからそこにいたんです!
もしかして、さっきまで、僕の様子を見てたっていうんです!?」
('A`)「ああ、全部な。ワカンナイデス。お前、減給ね」
(;><)「ぎゃああああああああなんです!
低いことこの下なしの僕の給料をまた下げる気なんです!
この鬼!畜生!冷血!コールドブラッディド・ビースト!」
(#'A`)「自業自得だ!この野郎!」
ドクオは、目の前の憎き探偵助手を、力の限り椅子から蹴落とす。
ワカンナイデスは、悲鳴を上げながら、床に転げ落ち蹲る。
- 482 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:55:11 ID:pFdVep2A0
そして彼の怒りは静まったかに思えた。
しかしその後、ドクオが彼のパソコンをこっそり調べた所に拠ると、
睡眠薬の入手方法、そしてその投与方法の検索履歴があった始末である。
半ば冗談のつもりで減給と言っていたドクオは、この時初めて本当に減給をした。
小悪党の悪事の数々は、こうして日の下に晒されることとなった。
- 483 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:55:39 ID:pFdVep2A0
そして、毒田ドクオが『変態』というべき、最大の理由。
それは、彼の仕事への情熱であった。
ドクオにとっての探偵職というのは、彫刻家が石を彫り、
小説家が物語を創造し、画家が筆を動かすようなもの。
世のため人のため、というのも勿論ある。
しかし彼にとっては、それ自体に見出される大きな意味があった。
考察のための考察、探究のための探究、推理のための推理。
そういう意味で、彼は芸術家か、教授といった人種と似ていた。
- 484 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:56:00 ID:pFdVep2A0
生計を立てることなど二の次。
そこが、普通の探偵とは違うところだった。
彼にとって、推理は自らの才能を生かす知的作業。
そして何より、至上の喜び。
昼でも夜でも、その才能を研磨する作業を忘れない。
『好きこそものの上手なれ』という言葉が示すように、
人間の発揮し得る、最大限の力というのは、
技能への最大限の心酔と、最大限の集中力のもとで生まれる。
これこそ、彼が『名探偵』と言われる所以であるのだ。
- 485 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:56:30 ID:pFdVep2A0
そして同時に、この彼の特徴は短所でもあった。
探偵業は本来、今の彼が行っているように、刑事事件は扱わない。
顧客の依頼する、浮気調査だとか、尾行、世論調査が主な活動だ。
患者の面倒を見るのが、医者であるように、
事件の面倒を見るのは、探偵ではなく刑事である。
- 486 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:56:50 ID:pFdVep2A0
しかし、彼は元刑事ということもある。
そのコネクションで繋がっているモナー警部が、
助言を求め、刑事事件を持ち込んでくるようになる。
ドクオは、警視庁で腕を奮っていた昔の日々の、懐かしさが蘇ったのだろうか。
夜も眠らない勢いで、その推理に没頭し、
現場へ向かうため、たびたび事務所を空けるようになる。
その間は、本来探偵が応えるべき、一般人の持ち込む依頼など興味すら示さない。
彼は、助手のワカンナイデスに投げるか、ブツブツと文句を垂れながら引き受けるか、
最悪の場合、忙しいなどと嘘をついて、顧客を追い返すのだ。
- 487 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:57:14 ID:pFdVep2A0
ドクオがやる気のない間に、ワカンナイデスがちょっとだけ頑張っていた。
『名探偵ワカンナイデス』などと、救いようのない名前を掲げ、
名声を手に入れようと奮闘しだしたのだ。
そうして内に秘められた脅威の才能を、発掘しようと試みていた時期もあったが、
燃えたぎっていた野望は、ほどなく彼の飽き性によって潰えた。
結局、彼もドクオと一緒にグレ始めることになった。
- 488 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:57:33 ID:pFdVep2A0
ドクオの『名探偵』の評判に対して、毒田探偵事務所の客や収入が少ないのは、
こんなとんでもない二人がいるからに違いなかった。
所詮は探偵業など、需要の少ない業界でしかない。
彼らの収入は、本当に雀の涙ほどだった。
しかしその少なさに反比例して、彼らの顔は、どういう訳か毎日生き生きとしていた。
以上が、毒田探偵事務所の名探偵シャーロック・ドクオ、
ついでにその助手ワカンナイデスの、『変態』性を説明する物語である。
- 489 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:58:05 ID:pFdVep2A0
時は現在に戻り、毒田探偵事務所には、モナー氏が訪れていた。
今日彼が訪れているのは、事件を持ち込むためではなかった。
事件解決への助言と協力をしたドクオへ、警視庁からの報酬を手渡しにきたのだ。
( ´∀`)「助かったモナ。君は本当に、刑事の方が向いているモナ」
('∀`)「すいませんねぇ。いつもいつも」
(><)「ぶひひ、ぶひ、ぶひひひひ」
モナー氏は、警視庁で捜査が行き詰っていた難事件があって、
その解決へのヒントを貰おうと、数週間前にドクオのもとを訪れた。
- 490 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:58:25 ID:pFdVep2A0
その事件とは、九月の半ばに起こった、シベリア銀行の強盗事件。
覆面の男たちが銀行に押し入り、数千万円の現金を奪ってトラックで逃走。
犯人たちは、パトカーの追跡を逃れ、近隣の山の中に姿をくらませた。
そのまま数週間が過ぎて、完全に犯人の身元が確認できなくなった。
現場に証拠として残されていたのは、犯人の頭髪と、靴の裏についていた多量の泥の塊。
その限られた証拠では、導き出される犯人像もぼやけ過ぎていたため、
DNA捜査も、一致するものを見つけられていなかった。
- 491 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:58:49 ID:pFdVep2A0
しかしドクオはその犯人像を、これらの少ない証拠から浮かび上がらせたのだ。
彼の後輩にあたる新米刑事たちは、その早すぎる断定に呆気に取られていた。
だが彼のその推理は、とても理に適ったものだった。
犯人の頭髪に、シンナーが層を成して付着していたことから、
日常的にそれを扱う塗装業者や清掃員、もしくは画家か何かのものであると推測した。
そして現場に落ちていた泥は、通常よりも硫黄が多めに含まれる独特なものだった。
都内の地理と地質を、大まかに把握していたドクオは、この土の出所を探しに駆け回った。
最終的にその特徴的な泥を、シベリア区の、ある地域のものと酷似していると考えた。
そうしてその近辺の人物を洗いざらいした結果、
塗装業者の男二人組のDNAが、残された頭髪のものと一致した。
そうして彼は、一躍世間の注目の的となったのである。
- 492 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:59:09 ID:pFdVep2A0
( ´∀`)「それにしても、君が現役に復帰してくれれば、一番助かるんだモナ」
('∀`)「俺はこのまま探偵を続けますよ。犯罪捜査は、何より好きですけどね」
( ´∀`)「君のような新人が入ってきてくれることを願うモナ」
ふとドクオの脳内に、ある人物が浮かぶ。
('A`)「俺より能力と経験があって、見識も広い人がいるじゃないですか」
( ´∀`)「誰だモナ?」
- 493 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:59:34 ID:pFdVep2A0
(;'A`)「え、誰って。じぃちゃん……」
(;´∀`)「……それは最終手段だモナ。この前、あの方が警視庁に訪れた時は、
職員全員整列させられて、その後大変なことになったモナ……」
ワカンナイデスは、数年間ドクオと仕事をしていたが、
ドクオの親族ついての話は、これっぽっちも聞いたことがなかった。
そして唐突に、こんな質問をする。
(><)「え、じぃちゃん!ドクオさんのじぃちゃんってどんな人なんです!?」
- 494 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 03:59:54 ID:pFdVep2A0
(;'A`)「あー……」
(;´∀`)「……」
沈黙する二人。
一体どうしたというのだろう。
普段から涼しげな顔のモナー警部でさえ、額に汗を浮かべていた。
ワカンナイデスは、場の空気を読まずに続ける。
(><)「きっとドクオさんの家族だから、とんでもない変態に決まってるんです!」
そんな彼の何気ない一言が、二人を激しく動揺させた。
(;'A`)「モ、モナーさん!!外を頼みます!!!!!!!」
(;´∀`)「わわわわ、分かったモナ!!!!!!!」
- 495 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:00:15 ID:pFdVep2A0
指示されたモナー警部は、慌てて事務所の玄関のドアを開け、外の様子を確認し始める。
部屋にいたドクオは、事務所の中にあるタンス、クローゼット、机の下、
果ては隣の部屋のキッチンの収納や、カーペットの裏までも探りだした。
(;><)「何してるんです?」
(;´∀`)「外は大丈夫そうだモナ……」
(;'A`)「室内も大丈夫でした、はぁ」
(;><)「どういうことなんです?」
- 496 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:00:36 ID:pFdVep2A0
やっと落ち着いてきた二人は、顔を見合わせて沈黙する。
その後、モナー警部が息を殺した、小さな声で喋り出す。
(;´∀`)「あの方は噂話とか、秘密を語ってる時とかに、タンスから飛び出してきて、
『全部聞いてましたー。何のつもりじゃ!?』みたいな感じの人なんだモナ」
(;'A`)「お前、殺されたくなかったら口閉じとけ、口」
(;><)「……一体どんな人だっていうんです」
- 497 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:00:56 ID:pFdVep2A0
三人は、ゼェゼェ言いながら胸を撫で下ろしていると、
玄関の方に、一人の女性が立っていることに気付いた。
(;゚ー゚)「あ、お邪魔でしたかね……?」
白いワンピースを着た、ショートカットの若い女性。
ダークブラウンのしなやかな髪。二十代半ばくらいの年齢だろうか。
三人のバタバタした様子を見て、キョトンと立ち尽くしている。
('A`)「あ、お客さん。今ねー、うちの探偵事務所、休業中なんですよ。
依頼によっては受け付けてるんですけどね。どうしようもない場合とか」
(;´∀`)(また面白そうな事件じゃなかったら、追い返す気だモナ……)
(;゚ー゚)「そ、そんな!遠くの駅から遥々歩いて来たっていうのに!
お、お話だけでもお聞きください!」
- 498 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:01:20 ID:pFdVep2A0
(><)「Hey Hey 綺麗な御嬢さん。うちの探偵事務所はビューティフル・レイディの場合、
依頼料の特別割引を設けているんです!さぁ、そのソファに腰かけて欲しいんです」
(;'A`)「……おいおい。まぁ、取り敢えずお話くらいは聞きましょうか」
(;´∀`)「それじゃ、私は邪魔そうなんでこの辺で失礼するモナー。
(二人ともこんなんじゃ、事務所が繁盛しないのも無理ないモナ……)」
('A`)ノシ「お疲れです、モナーさん」
(><)ノシ「また来てほしいんです!」
(*゚ー゚)「あ、お疲れ様です」
モナー警部は、疲れた様子で事務所を出ていった。
- 499 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:01:41 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「……これはですね、事件なんですよ!
『名探偵』シャーロック・ドクオという名声を、小耳に挟んでいたものですから、
これを依頼するのはこの人しかいないと、ずっと考えていたんです!」
そう言って、彼女はワカンナイデスに指示された顧客用のソファにかける。
('A`)「そりゃどうも。それで事件というのは?」
ドクオは見るからにやる気がなさそうに、フラフラと歩く。
そして、彼女からテーブルを挟んだ向かいの椅子に、どさりと座り込む。
ワカンナイデスは厚かましくも、彼女のすぐ隣に座って、チラチラと顔を見ている。
- 500 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:02:02 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「自己紹介が遅れました。私は詩絵と申します。
クオリティ博物館の従業員の者です」
そう言って、後ろ髪をサラリとなびかせる。
彼女は、持っていたバッグから、名刺を取り出して置いた。
ドクオはそれを、しぶしぶと眺める。
('A`)「三十五年前に住民の反対を押し切って、
国が設立したクオリティ通りの近くの博物館ですか。
一度訪れたことがありますよ」
- 501 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:02:25 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「……よく御存じで。その通りです。私は大学を卒業し、
この春から史学者兼、博物館従業員として働き始めました」
('A`)「……なるほど」
(*゚ー゚)「?」
('A`)「専門はどちらで?」
(*゚ー゚)「エジプト史です」
- 502 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:03:25 ID:pFdVep2A0
('A`)「考古学ですか?」
(*゚ー゚)「はい」
('∀`)「そうですか!!いや、エジプトのの方!
私もエジプトの歴史は少々ながらかじっていまして。本当に興味深いですよ!
エジプト史の研究家なら誰もが腰を抜かした、あの二年前の大発見には驚きましたね。
テーベからナイルを挟み、西岸で発見されたミイラ……あんな所から出土するとはね。
古王国時代のものと思われる王、ヴィッパー二世。
素人ながら、あの美しい形状には、時空を超えたロマンを感じましたよ」
(*゚ー゚)「そうですね、あれには私も驚きました。そして、私は上司の方々にも恵まれ、
職場の雰囲気にも慣れて、順調に新しい環境に慣れていきました。その矢先です」
('A`)「……?」
(*゚ー゚)「……こんなモノが届きました」
そう言って彼女は、透明なテーブルの上に、一枚の紙を取り出し、置いた。
- 503 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:03:51 ID:pFdVep2A0
_________________
2Fの展示室に保管される
翡翠の宝玉
ネフェルタリスジェイド
二日後、20時に貰いうける
_________________
- 504 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:04:33 ID:pFdVep2A0
('A`)「犯行予告……。これは非常に興味深い。
こんな時代遅れなことを、一体誰がやろうとしているのか。
こういうのは、警視庁の管轄ですよ?警察には相談されました?」
(*゚ー゚)「警察の方は、真剣に私たちの相手をしてくださらず、
警察官をたった一人だけ、今夜のために配備して頂いたのみです。
それでも心配な職員達に、私が以前から聞いていたあなたの噂を告げたところ、
この事件の全てをあなたに委ねるということで、私が代表してやって参りました。
犯行が予告通り起きようが、起きまいが、報酬は差し上げるつもりです」
('A`)「この紙の置いてあった場所、時刻を正確に覚えていますか?」
(*゚ー゚)「まさにこの文章が示す、ネフェルタリスジェイドの真上です。
ラムセソ五世というミイラが、その宝石を抱えた状態で展示されています。
そのガラス張りの展示ケースの上に、ぽつりと置いてありました。
最初に従業員が気づいたのは、一昨日の夕刻頃でしょうか。正確にはわかりかねます」
- 505 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:04:51 ID:pFdVep2A0
('A`)「勿論、監視カメラをチェックしましたのでしょう?」
(*゚ー゚)「はい。しかしその宝石は、期間限定で公開している目玉の展示物でして。
なにせ、周りに群がる人達が多いため、一体誰が置いたのか特定できませんでした」
('A`)「悪戯の可能性も十分に考えられる。指紋や筆跡の検証は?」
(*゚ー゚)「警察官の方に行ってもらいましたが、指紋は、手袋をつけていたのか全く検出されず、
筆跡も全ての従業員たちや、その場で協力をしていただいた
来訪者様たちのものとは一致せず、手掛かりは一向に掴めないのです。
そして恐らく犯人は、カメラの位置まで明確に把握している」
('A`)「なるほど。悪戯にしては手が込み過ぎていますね」
- 506 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:05:16 ID:pFdVep2A0
彼は、犯行予告の紙を、黙って念入りに調べ始めた。
その間、ワカンナイデスが何度か『何か分かったんです?』と質問した。
ドクオは修行僧の如く集中していて、その質問に気付いているか否かどうかは不明だったが、
完全に無視するので、ワカンナイデスはしょぼんとしてそっと様子を見守っていた。
数分が経っただろうか。
('A`)「この筆跡は、交互に複数の人物によって書かれたものだ。
シンプルだが、大きな効果のある手法だよ」
(;><)「どうして専門家でもないのに、ドクオさんが分かるんです?」
('A`)「筆跡鑑定は、犯罪捜査の基本能力の一つさ。
十才の時に、じぃちゃんに叩き込まれた」
(;><)「……」
- 507 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:05:38 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「……どうでしょう?何か分かったことは?」
('A`)「現場に行ってこの目で確かめるまで、なんとも言えませんね。
人間の欲望の生まれるところには、様々な『不自然』が生まれる。
欲望は、エントロピーに従って流れる自然法則に、不可解な逆流を起こす。
その痕跡を見つけることができれば、それは真実の全容へと辿り着く糸口になる。
きっと現場がたくさんのことを教えてくれるでしょう」
(*゚ー゚)「引き受けて頂けるんですか!?」
('∀`)「久々に面白そうな事件だ。それで報酬は?」
(*゚ー゚)ゴニョゴニョ('A`)(><)
('A`)(><)「引き受けた!」
(*゚ー゚)「ありがとうございます!!それじゃ、宜しくお願いします!」
- 508 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:06:05 ID:pFdVep2A0
('A`)「それじゃ契約書に、連絡先と署名をお願いします」
ドクオに渡された契約書の記入を終えた彼女は、嬉しそうに顔を上げる。
(*゚ー゚)「ムネさんという館長が、迎えて下さると思います。
今日は緊急体制で臨時閉館になっているので、裏口の者に声をおかけください。
私はこれから用があるので、失礼しますね」
('A`)「関係ないですが、今日はVIP駅から遥々徒歩で来られたんですよね?」
(*゚ー゚)「はい」
('A`)「いやはや、それは申し訳ないですね。こんな残暑の日に。
VIP駅なら事務所の通りから見える、今工事中になってる道を抜けると、近道ですよ」
(*゚ー゚)「なるほど。それでは」
- 509 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:06:33 ID:pFdVep2A0
すると、先程まで黙って静かに座っていたワカンナイデスが、
まるで何処かの王女に仕える臣下のごとく、彼女の目の前に跪き手を差し伸べた。
(><)「オーゥ、美しきマドモワゼーェル!メルスィー・フォー・ヨゥァ・ヴィジッィィィト!
貴方様の有能な臣下、このワカンナイデスがお送り致しましょォォうか?」
(;゚ー゚)「……」
('A`)「お前、その口調むかつくからやめろ」
(><)「オーゥ、醜きムッシュー!そのグリーンでピュアなハートにバーニングなのは、
フレイィム・オゥヴ・ジェラスィぃーかーーぁい??」
(#'A`)「死ね!氏ねじゃなくて、死ね!」
(;゚ー゚)「あはは、大丈夫です。このまま私は、調査でエジプトに飛ぶので」
- 510 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:07:20 ID:pFdVep2A0
彼らの不毛な争いを見て、苦笑いをしながら歩き出した彼女は、
前方で立ち尽くしていた変態、ワカンナイデスに、フラフラとぶつかる。
(;゚ー゚)「おっとっと……」
彼は、その倒れかけた小さな体を、なんともいやらしい手つきで支える。
(><)「おっとマドモワゼーェル!これは、ルォイヤルナィトとしては、
ウォぉうリング・ソゥ・ムあッチ!そのディプゥアチュァー!
やっぱり、このワカンナイデスの餞がぅウォンティンっグ!!!!」
(;'A`)「もう全く分からん」
(;゚ー゚)「ははは……。一人で行けますから……。
それでは宜しくお願い致します……」
彼女は逃げるように、玄関のドアを開けると、静かに頭を下げ、去っていった。
- 511 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:08:19 ID:pFdVep2A0
静かになった部屋で、二人はしばし沈黙していたが、
考え事に耽っていた様子だったドクオが、天井を見つめながらワカンナイデスに話しかけた。
('A`)「なぁ、ワカンナイデス」
(><)「ん?なんです」
('A`)「何が目的であの女は、ああやって嘘ばっかりついてたんだと思う?」
(;><)「……ええええええええ。どうして嘘だって思うんです?」
('A`)「さっき話してる時に分かった。奴が嘘ばかりついてることに。
ダミーの質問を何度かしかけた。今言ってたことは、見事にデマカセだらけだ」
(;><)「ダミー?」
- 512 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:08:58 ID:pFdVep2A0
('A`)「後で言う。兎に角、尾けるぞ。支度してくれ」
(;><)「……えええ!?」
変装用の衣装や、盗聴器、小型カメラなどが入った仕事で携帯するリュックサック。
ドクオは乱暴にそれを背にかけると、部屋の電気を消し、飛び出す。
納得がいかないまま、ワカンナイデスも身支度をし、続く。
二人は通りに飛び出し、例の女の姿を探す。
彼女の姿が見えないことを確認し、
二人は事務所の前に停められたドクオの車に乗り込む。
- 513 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:09:20 ID:pFdVep2A0
('A`)「さ、アイツが何処へ行ったか探さなくちゃな。
博物館へ向かうフリをしながら。現場に向かうのはその後だ!」
(;><)「状況が全く飲み込めないんです……。さっきのは一体どういうことなんです?」
ドクオは、車庫から通りへと車を出しながら言う。
('A`)「まず、三十五年前に国が博物館を設立したなんて、まったくの嘘だ。
あの博物館は、世界旅行と古美術収集を愛する富豪、ハンズという男のコレクションを、
一般に公開する目的で、百年近く前に私費で設立され、
その運営利権を、国が遺族から買い取ったものだ。
あの女はそんなことも知らずに、本当に従業員なのか?」
(;><)「なんでドクオさんがそんなこと知ってるんです!?
っていうか、それだけだったら、ただ知らなかったってことも考えられるんです」
- 514 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:09:40 ID:pFdVep2A0
('A`)「それだけじゃない。あの女は自らを史学家だと言ったが、それすらも適当な作り話だ。
俺が二年前にナイルの西岸で、ヴィッパー二世というミイラが発見されたと言ったが、
それは俺がとっさに思いついた、まったくのデマカセ。
そんな存在しもしない架空のニュースに、あの女は『私も驚いた』などと食いついた」
(;><)「そんなことをしてたんです!?でもきっと彼女は、
知らなかったのが恥ずかしくて、そう言っちゃっただけなんです!」
('A`)「もう一つ。あの女は、最初に『徒歩で遥々きた』などと言ってたが、
この事務所の近辺までバイクで来ていたこと、
長年のバイク乗りであること、
重いヘルメットを被っていたこと、
車種が2009年、ROUNGE社から出た『ROUNGE U』である可能性が高いこと、
遠方から来たこと、
そしてその嘘をついたのは、何らかの作戦の通りにいかない時、
逃走するためであろうことがわかる」
- 515 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:09:59 ID:pFdVep2A0
(;><)「一体なんだってそんなことが?」
('A`)「擦り減らしたバイカーブーツで、あの清楚な白い服に、排気の匂いを漂わせて、
長時間押さえつけられていたんだろう、頭髪にはヘルメットの癖がついていた」
(;><)「なるほどなんです……。でもどうして車種まで分かるんです?」
('A`)「あの女が履いていた靴は、ROUNGE社が出したそのバイクに、
特典として抱き合わせで売り出されたブーツだ。
高い確率で、あの女はそのバイクを購入している。
二、三年前だから、恐らく車種は変わっていないだろう」
- 516 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:10:19 ID:pFdVep2A0
(;><)「……なんでそんなによく知ってるんです」
('∀`)「いいか、探偵ってのはな。あらゆる領域の知識が、ふと役に立つことがある。
だから日頃から、様々な方向にアンテナを張り巡らせておくことが重要なんだ」
(;><)「すぐ忘れちゃうから無理なんです」
('∀`)「ふっはっはっはっは。確かに、人間の記憶には限界がある。
だから、必要な情報を必要なときに、瞬時に引き出せる環境と手段を整えておく。
それも、探偵に必要とされる能力の一つなのだよ!」
(;><)(なんかテンションが、キモイんです……)
- 517 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:11:03 ID:pFdVep2A0
('A`)「ま、今日俺が車種と博物館の歴史を知ってたのは、どっちも
いつか暇つぶしで読んでた雑誌に載ってただけで、ただの偶然だけどな」
(;><)「……ふーん、なんです」
('∀`)「しかし間抜けな女め!写真にはしっかり収めさせてもらったよ」
彼がハンドルを片手に取り出したのは、何処かで見たペン型カメラ。
(;><)「ドクオさんって、本当に変態なんです……」
(;'A`)「君にだけは言われたくないね、探偵助手君」
(><)「僕の心は、小川の流れのように清らかで、シルクのように純白なんです!」
(;'A`)「……」
- 518 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:11:43 ID:pFdVep2A0
('A`)「ま、パッと見たところ、どの文字も筆跡は一致しないようだな」
先程彼女に書かせた契約書を見つめながら、彼は言う。
そしてゆっくりとアクセルを踏み込み、車を進ませる。
('A`)「しかし、アイツは何のつもりなんだ……」
博物館に置かれた盗難予告状。
悪戯にしては不自然な程、巧妙な犯行。
阻止してほしいと現れたのは、嘘吐き女。
- 519 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:12:03 ID:pFdVep2A0
一体、あの女の目的は何なのか。
そして、誰が例の宝石を奪おうとしているのか。
あの女だろうか。
だとしたら何故、敵であるはずの俺のところにやってきたのか。
とにかく現場に向かおう。
今まで手に入った情報だけでは、犯人やその目的を断定することなどできない。
そう言い聞かせ、ドクオはアクセルを思いっきり踏み、物凄いスピードまで加速させる。
(;><)「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
(;'A`)「うるさい!」
- 520 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:12:22 ID:pFdVep2A0
(;><)「ドクオさん、スピード違反するから嫌なんです!!!!!
おまわりさあああああああああああああああん!!!!!
こいつ犯罪者なんですううううううううううう!!!!!
今すぐ刑務所にぶち込んでえええええええええ!!!!!」
('A`)「ま、いいじゃん。いいじゃん。つまんないこと言うなって。
ハリウッド映画とかでも、警察官が乗用車奪って、爆走させてたりするだろ」
更にアクセルは踏み込まれる。
前方の速度メーターは、あっと言う間に80km/hを通り過ぎ、100km/hへと近付く。
(;><)「死ぬうううううううううううううううううううう!!」
ここは都内の一般道。
歩道を歩いていた老夫婦は、目の前を通り過ぎる暴走車を、
『何処のせっかちな若者だ』とでも言いたげに、不安そうな顔で見つめていた。
- 521 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:12:55 ID:pFdVep2A0
*
(;'A`)「はぁ、はぁ。完全にまかれた……」
(;><)「……神よ。我が命を救いたもうたその慈悲に、深く感謝するんです」
(;'A`)「あの女、暴走しすぎだろ。常識的に考えて」
(;><)(コイツ、人のこと言えんのか、なんです……)
二人は小一時間、捕えた彼女の姿を追いかけていた。
- 522 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:13:13 ID:pFdVep2A0
予想通り、彼女は何処かに停めてあったのだろう大型バイクに跨って、
街の中をとんでもないスピードで、疾走していった。
彼らの追跡に気付いていたか否かは定かではないが、
彼女は途中から更にスピードを上げ、街の何処かへ姿をくらませた。
ドクオの交通法規を完全に無視する暴走運転で、最初は視界に収めていた。
しかし、彼女が環状線に侵入した後、
そこで渋滞が待ち構えていたのが、彼らの運の尽きだった。
彼女は、車と車の間を通り、華麗に渋滞を抜けていった。
渋滞で完全に足止めを食らったドクオ達は、
無念の表情で環状線をおりて、例の博物館へ向かうことにした。
- 523 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:13:32 ID:pFdVep2A0
( l v l)「現館長のムネです。探偵の方々、本当に今日は宜しくお願い致します」
('A`)「いえいえ。まずは現場を見せて頂きたい」
(><)「いえいえなんです。まずは現場を見たいんです!
そうじゃなきゃ話は始まらないんです!
えんとろぴーの逆流が法則のなんとかだから、不自然を見つけるんです!」
(;l v l)「……はい?」
(;'A`)「こいつは無視してください」
(;l v l)「……(この人達大丈夫かな?)」
- 524 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:13:54 ID:pFdVep2A0
現場へと向かった彼らは、例の犯行予告の紙が示す、
ネフェルタリスジェイドという宝石のもとへと辿り着いた。
展示ケースの中には、ミイラが一体。
土気色に風化してもなお、姿かたちを取り留めるその神秘の姿には、
何千年もの時間の流れの重みと、それに抗おうとする人為の偉大さが感じられた。
骨ばった手に握られていたのは、ただの宝石と呼ぶには、
申し訳なさが残るような、巨大な翡翠の塊。
展示ケース内の照明を反射して、美しいエメラルドグリーンを、燦然と輝かせていた。
元は球体だったのだろうか。
半球が何かの衝撃で崩れていた。
それでも依然、その美しさが損なわれていることはなかった。
- 525 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:14:19 ID:pFdVep2A0
( l v l)「素晴らしいでしょう。これは、エジプトの管理団体からお借りしているもの。
この歴史的大遺産の価値は、きっと億単位では計れない。
絶対に盗まれることなどあってはならないのです。
有名な探偵の方々、どうにか私たちを助けてください。
あなた方は、警察のプロたちも一目置く、犯罪捜査の天才だと聞いております」
ワカンナイデスは、恐ろしげにミイラを凝視する。
それを傍らにドクオは、瞬きもせず周囲に目を見張った。
ガラスケースや、床、監視カメラや、従業員など、
視界に飛び込むあらゆるものを、じっくりと観察する。
- 526 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:14:40 ID:pFdVep2A0
暫くして、彼は口を開いた。
('A`)「従業員リスト、来訪者リスト、館内の全ての監視カメラの映像、
それから収集した筆跡の公開に、ご協力いただけますか?」
( l v l)「勿論。しかし、個人情報が含まれています。本来なら公権力以外への公開は、
法律で禁止されているので、内密にお願いできますか?」
('A`)「それは約束しましょう。
それからうちの事務所にやってきた『詩絵』という女のことで。
彼女の写真や履歴書はお持ちですよね?」
- 527 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:14:56 ID:pFdVep2A0
(;l v l)「はぁ、彼女は事件には無関係だと思いますがね。
紙が見つかった当初、他の職員と休憩室でお茶を飲んでいたそうですから」
('A`)「お願いできますか?」
(;l v l)「それは勿論」
('A`)「それからこの博物館のwifiを貸して貰えますか?」
- 528 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:15:41 ID:pFdVep2A0
そして数時間が経過した。
('A`)「……」
ドクオは、管理室で事件時の監視カメラの映像をチェックした後、
従業員、来訪客リストや筆跡などには目もくれず、
休憩室の電源にプラグを差し込んで、パソコンの画面に見入っていた。
- 529 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:16:01 ID:pFdVep2A0
(><)「うーm」
( l v l)「そう言えば、お名前をまだ存じ上げていなかった。
シャーロック・ドクオさんの噂は以前から聞いておりますが、
あなたのお名前は何というのでしょう?」
(><)「ワカンナイデス」
(;l v l)(名乗るほどのものじゃないぜ、的なことだろうか?
これはもしかして、謙虚……?
どういう意味で取ったらいいのだろう……)
ワカンナイデスは、ドクオが休憩室でパソコンを覗いている様子を見て、
これは自分が活躍するチャンスかもしれない、と思い込んだろうか。
現場周辺に突入し、例の宝石をまじまじと眺めていた。
- 530 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:16:45 ID:pFdVep2A0
(;><)「目に飛び込んでくる沢山の情報を、選択するんです……」
彼は、いつだかに聞いたドクオの教訓を思い出していた。
目の前に横たわるのは、遥か西方からやってきたミイラ。
まるで泥の塊を、磨き上げて作った人形のようだ。
その胸に抱かれているのは、少し前にマスメディアが騒いでいた、
噂の大宝玉、ネフェルタリスジェイド。
それらを包むのは、弾丸や鈍器などの衝撃を吸収するのだろう、
見るからに頑丈そうなガラスケース。
その周辺には、怪しいものなど何一つ落ちていない。
- 531 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:17:04 ID:pFdVep2A0
ワカンナイデスは、顔を上げ、上方に目を凝らす。
天井の隅から吊るされた、数台の監視カメラ。
それぞれは、このフロアを網羅するように、別々の方向を向いている。
ドクオは言っていた。
正しい情報の糸口を掴み、それを辿っていくんだと。
ワカンナイデスは、再びミイラへと視線を向ける。
(;><)「!!!!!!!!」
突如、彼の二つの眼は鋭く開かれた。
- 532 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:18:10 ID:pFdVep2A0
その突然の奇妙な行動に気付いた館長は、焦りながら彼に話しかける。
(;l v l)「……な、何か分かりましたか!?」
(;><)「……」
沈黙が流れる。
- 533 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:18:42 ID:pFdVep2A0
(;l v l)「……ど、どうでしょう?」
(;><)「……」
(;l v l)「……」
彼は微動だにしない。
- 534 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:19:16 ID:pFdVep2A0
(;><)「……」
数秒後、申し訳なさげに口を開いた。
(;><)「……分かんないです」
(;l v l)(……今の感じで、分かんねーのかい!!!)
- 535 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:19:37 ID:pFdVep2A0
するとワカンナイデスは、休憩室の方から、手を振っているドクオの姿に気付いた。
('A`)ノシ
なんと素晴らしいタイミングだろうか。
(;><)「解明されるべき真実が、今この私を呼んでいる!!」
(;l v l)「……」
心の中でツッコミを連発していた館長を置いて、
彼はドクオの元へと、逃げるように駈け出した。
- 536 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:20:49 ID:pFdVep2A0
(><)「どうしたんです?」
('A`)「これを見てくれ」
ドクオが指差した画面上には、黒背景に赤字で『WARNING』と書かれたホームページ。
日本語と英語のごちゃごちゃした文章、そして顔写真が大量に載せられている。
(;><)「なんじゃこりゃ」
('A`)「警視庁の極秘の犯罪者データベースにアクセスした」
- 537 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:21:11 ID:pFdVep2A0
(;><)「なんでそんなこと出来るんです!?」
('∀`)「俺は元刑事だぜ?そんで、この写真を見てくれ」
若い女性のものらしき後姿が、粗い写真に映っていた。
真っ赤なドレスを身に纏って、マンションの階段らしき場所を下っている。
(><)「……ドクオさんの好きなアイドル?……のプライベート?
ドクオさん。いくら名探偵だからって、今は仕事中なんです……」
『あらやだ』と口元に手を当て、軽蔑の流し目を送るワカンナイデス。
(;'A`)ノ「ちげえよ!お前と一緒にすんな!」
- 538 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:21:37 ID:pFdVep2A0
(><)「じゃ、誰なんです?」
('A`)「コイツは、数年ほど前から、警察の間で有名になっていた女だ。
『大泥棒』と呼ばれ、華麗で完璧な手口でお目当てを盗み、証拠など一切残さない。
神出鬼没のこの女については、唯一この見辛い写真が姿を捉えたのみで、
それ以外の情報は全く入っていない。勿論、逮捕などできていない」
(;><)「ふむふむ」
('A`)「そして、この写真も見てくれ。これは今朝、撮影したもの。
あの『詩絵』と名乗っていた女の後姿だ」
(;><)「ま、まさか……」
(;'∀`)「そう。うなじにある二つ並んだホクロが、完璧に一致する」
- 539 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:22:10 ID:pFdVep2A0
*
ここは、人が溢れかえる商店街。
夕日は、目を刺すような紅に輝き、人々に影を作る。
(*゚ー゚)「♪」
鼻歌を歌いながら、女は歩き続けている。
人混みを器用にスルスルと掻き分け、前進していく。
- 540 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:22:32 ID:pFdVep2A0
「作戦は順調か?」
突然、彼女の背後で声がした。
(;゚ー゚)「はっ!」
必死の形相で、振り返る。
しかし、彼女に話しかけた様子の人間は見当たらない。
- 541 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:22:55 ID:pFdVep2A0
数えきれない人々の姿が映る。
スーツを身に纏い、気怠そうに進むサラリーマン。
携帯を弄りながら、前も見ずに歩く女子高生。
音楽プレイヤーのイヤホンを耳につけて、自転車を走らす中学生。
赤ん坊を背に抱えて、じゃれ合いながら歩く若い母親。
(;゚ー゚)「……」
きっと気のせいだろう。
知らない誰かが、知らない誰かに放った言葉に、反応してしまっただけだ。
そう言い聞かせ、彼女は再び前を見据え、歩を進める。
(*゚ー゚)「さぁ、仕事だよ。大仕事だ」
- 542 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:23:27 ID:pFdVep2A0
彼女が去っていった、その道の脇の路地。
一人の男がいた。
煉瓦の壁にもたれかかり、空を見上げて、煙草をふかしている。
爪'ー`)y-「……」
闇に包まれていて、はっきりと見えない。
- 543 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:23:48 ID:pFdVep2A0
つい先程まで、燃えるように輝いていた夕日は、もう殆ど沈んでいた。
代わりに現れていたのは、欠けた月。
そのふんわりと柔らかい光が、地上に降り注ぐ。
それに寄り添って、夜空には星々が輝き始めていた。
路地には、もう男の姿はない。
いつの間に消えたのだろうか。
- 544 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:25:14 ID:pFdVep2A0
*
(;'A`)「履歴書も偽造。名前や年齢、学歴もきっと偽造だ。
そして勤務しはじめたのも、つい最近のことじゃないか」
(;><)「きっとあの女が、宝石を狙ってるに違いないんです!」
('A`)「おい、パニックになるから、あの女のことは絶対内密にしておけよ。
それに、まだ犯人だと確定したわけじゃない」
(;><)「……分かったんです」
('A`)「頼んだぞ」
- 545 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:25:55 ID:pFdVep2A0
時刻は、十九時二十五分。
予告犯行時間まで、あと三十五分。
雇われている警備員たちは、総動員で警備に配置についていた。
しばらくして、館長が合図をする。
フロアへと繋がる階段、廊下へと繋がる通路は封鎖される。
そして『関係者以外立ち入り禁止』のマークのある扉、
非常口までもが完全にロックされ、警備員たちはその前に張り付いた。
協力する従業員たちも、不安そうな顔でその様子を見守る。
場には皆の緊張で、張りつめた空気が流れていた。
- 546 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:26:16 ID:pFdVep2A0
(;l v l)「あと少し……か。犯人は結局断定できず……。
もうこれは、犯行が起きないことを祈るしかない」
焦燥を見せる館長の横で、空手の型のように、
パンチやキックの演習を始めるワカンナイデス。
それだけだったら許せるのだが、時たま『アチョー』だとか、
『アタタタ』といった、ブルース・リー顔負けの叫び声を上げるので、
張りつめた空気を完全にぶち壊し、周囲の注目を集めていた。
(;l v l)「……」
- 547 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:27:16 ID:pFdVep2A0
(;><)「あれ、そういえばドクオさんがいないんです……。
こんな時に、何処で油売ってるんです……」
彼は周囲を念入りに見回したが、やはりドクオの姿はなかった。
しかし思い当たる節があったようで、ワカンナイデスは手をポンと叩いて呟く。
(;><)「おしっこならペットボトルでしなさいって、あれほどママ言ったでしょう」
(;l v l)(……この人さっきから、何言ってるんだ?)
- 548 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:27:56 ID:pFdVep2A0
予定の時間は、刻一刻と迫ってくる。
このフロアに集まった人々は皆、胸の鼓動を高鳴らせ、その時を待った。
真ん中で寝転がって、寝技のようなもの(?)の予行演習をしながら、
息を荒げる一人の大馬鹿野郎を除いて。
- 549 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:28:16 ID:pFdVep2A0
(><)「こうなったら僕一人でも、絶対捕まえてやるんです!!」
(;l v l)「……頼みましたよ」
(><)「僕はやるときはやる男なんです!!」
(;l v l)(あれ、この人……。心なしか格好良く思えてきたぞ?)
(><)「見た目は大人!頭脳も大人!その名も名探偵ワカンナイデス!」
それはただの大人である。
(;l v l)(おおおおおおおおお)
- 550 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:28:49 ID:pFdVep2A0
時刻は十九時五十七分。
予告時間までは、残り三分。
全ての入り口は封鎖されている。
抜け道や裏口、隠れるスペースもない。
非常口ですら鍵をかけられ、閉ざされた。
この場にいるのは、警備員と職員と探偵のみ。
彼らの内は、怪しい人物は見受けられない。
- 551 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:29:31 ID:pFdVep2A0
その時。
(;l v l)「……あ!」
(;><)「え!!!!????」
突然の出来事だった。
今までフロアを照らしていた照明が、一斉に落ちた。
突如現れた暗闇が、この部屋の全ての人間の視界を覆い隠した。
- 552 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:29:52 ID:pFdVep2A0
「……な、何も見えない!!!!!!」
「……どういうこと!!??」
闇の中、人々はざわめき始める。
「……だ、誰かにぶつかった!!?」
(;><)「こ、これはやばいんです!!!!!」
(;l v l)「誰か!!光を!!!!!!」
(;><)「携帯でも何でもいいんです!!!!光を出すんです!!!!!!
宝石を守るんですーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
(;l v l)「宝石を囲めえええええ!!!!!!!!!!」
(;><)「いくぞおおお!必殺、酔拳じゃあああああああ」
- 553 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:30:34 ID:pFdVep2A0
*
女は真っ直ぐに、目的地へと進む。
こんな闇の中でも、彼女は迷うことはない。
彼女は、場所をしっかり把握しているのだから。
(*゚ー゚)「ふふふ」
階段を上がり、例のドアの前に立つ。
- 554 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:30:55 ID:pFdVep2A0
合鍵はもう彼女の掌の内。
入り口は、呆気なく開かれる。
彼女は音を立てず、その中に忍び込む。
お目当てのものは、ここにある。
そして彼女は、確信していた。
『誰もアタシの邪魔は出来ない』
- 555 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:31:32 ID:pFdVep2A0
*
(;><)「あchochochochochoチョチョーー!!!!!!!!」
(;l v l)「あ、ちょwww」
(;l v l)「痛いwwwぶぶぶぶ、くぁwせdrftgyふじこlp!!」
パチッ。
暗闇と静寂の後、突然蛍光灯の明かりが灯される。
(;><)「で、電気が点いたんです!」
- 556 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:31:55 ID:pFdVep2A0
ワカンナイデスは床に寝転がって、豪快に暴れまわっていた。
館長の足にしがみつき、その股間に何度もパンチを食らわせる。
(;l v l)「子孫が残せなくなるううううううううううううう!!!!」
館長は、突然股間に押し寄せた痛みに、悲鳴をあげ悶える。
(;><)「あ、そうだ!!宝はどうしたんです!?!?」
彼と博物館職員たち、そして警備員たちは、点灯と同時に、
宝石の安否を確認しようと展示ケースにどっと押し寄せる。
(;l v l)「……ぶ、無事だ!」
(;><)「……無事なんです!」
- 557 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:32:43 ID:pFdVep2A0
なんと宝石は依然、ミイラに抱かれたまま。
暗転の後、予告通りの時間に宝が盗まれる。
そんなありそうな展開は、裏切られた。
この博物館には何の異常も、何の不自然も見当たらない。
宝石に目を凝らしても、その繊細で細やかなグリーンは、
さっきまでの輝きと何の変わりもない。
- 558 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:33:08 ID:pFdVep2A0
ガヤガヤ。
見守る人々は、ほっと胸を撫でおろしながら、騒ぎ出す。
『まさか宝石は盗まれてしまったのではないか?』
そう誰もが憂いた緊張の時間は終わり、
館内は、人々の綻びた笑顔と、安堵の声で、賑やかになっていた。
- 559 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:33:26 ID:pFdVep2A0
やがて群衆は、間違った推測を始める。
「きっと、この場にいる『名探偵』に恐れをなしたんだろう」
「確かに!そうかもしれない!」
「あなたが噂の『名探偵』シャーロック・ドクオさんですか?」
「あ、あの!サイン下さい!」
彼らは悲劇的な勘違いをしながら、『名変態』ワカンナイデスの周りを取り囲み始める。
(;><)「うm?」
- 560 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:34:04 ID:pFdVep2A0
(;l v l)「……そうか」
(;><)「え、え?」
(;l v l)「……分かったぞ」
(;><)「え、え、え?」
(;l v l)「さっきまで何を聞いても、『分かんないです』『分かんないです』と繰り返してたのに。
宝石が無事だったのは、本当は全て、あなた様の計らいなのでしょう?」
「なるほど!なんて謙虚な方だ!」
「シビレるわ!」
彼の周りには、小さな人だかりが生まれてきた。
- 561 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:34:32 ID:pFdVep2A0
暫くは、戸惑いの表情を作っていた彼だったが、
状況を理解しだしたのか、急にニヤニヤといやらしい微笑を浮かべ始める。
(><)「……ふふふふ」
図に乗っている。
どのくらい図に乗っているかというと、図に乗っているという言葉が、
これほど当てはまる状況を想像できないほど、図に乗っている。
小悪党は腕を組み、胸を張って、高らかな笑い声をあげはじめる。
(><)「むふふふふふふふ!ふはははははははは!
我こそは『名探偵』シャーロック・ドクオの足りない頭脳を、
日の当たらないところで支えている助言者!縁の下の力持ち!
『名探偵助手』ワカンナイデスなんです!」
見守る人々は、感動で目をキラキラと輝かせだす。
- 562 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:35:12 ID:pFdVep2A0
「そうだ!あの事務所には助手がいるって、聞いたことあるぞ!」
「そうだわ!『名探偵』の異名は、本当はきっと彼が支えているのね!」
(><)「全ての事象は、僕の掌の上で踊るピエロに過ぎないんです!」
キャーキャー!!
まるで海外のスーパースターが、来日したようだ。
群衆は、彼の周りに大きな人だかりを形成し始める。
(><)「むははははは!サインなら、列を作って並んで欲しいんです!」
(><)「英雄は逃げはしないんです!だからそんなに焦らないで欲しいんです!」
- 563 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:35:55 ID:pFdVep2A0
*
女が忍び込んだのは、毒田探偵事務所。
彼女の計画は、完璧なはずだった。
いるはずのない人間が、忍び込んだ彼女を出迎えた。
(;゚ー゚)「何故アナタがここに……!?」
窓から差し込む月光に照らし出された、薄暗い応接間。
机の上には、ドクオが腕を組んで立っていた。
- 564 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:36:25 ID:pFdVep2A0
('A`)「犯行予告時刻の寸前で、博物館内は暗転。
明かりが点いて確認すれば、宝石はまさかの無事。
一体どこの推理小説のストーリーだ?『大泥棒』しぃリーンさんよ」
(;゚ー゚)「今頃、博物館で待っているはずじゃ……!?」
机から飛び降りて、女泥棒の面前に立ち、ドクオは続ける。
('A`)「お前の作戦は、お見通しだ」
- 565 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:36:45 ID:pFdVep2A0
(;゚ー゚)「……凄いね。ホントに驚きだよ。一体どうやって?」
('A`)「数十分前に、俺らが博物館にいることを、もう一度確かめにきただろう?」
(;゚ー゚)「尾行だね!?」
('A`)「その通りさ。本当に偶然だった。ついさっきまで、
お前の目的は、あの宝石だと勘違いしていたよ。
今日俺が、建物周辺の通りの至るところに仕掛けておいたカメラが
お前の姿を捉えなかったら、今頃は俺の負けだった」
(;゚ー゚)「ははは、一般人の盗撮は犯罪だよ……?」
後ろ髪をサラリとなびかせ、呆気にとられた様子で、彼女はそう言う。
- 566 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:37:30 ID:pFdVep2A0
('A`)「そして何故、お前がカギを持っている?」
(*゚ー゚)「今朝アナタの助手とぶつかったとき、ちょっとポケットから拝借したんだ」
そうだ。
確かにあの時、不自然な歩き方でワカンナイデスにぶつかっていった。
まさかあの瞬間に、事務所の鍵が盗まれているなんて、考えもしなかった。
この女が事務所にいた間は、終始目を凝らしていたはずなのに。
ドクオは女泥棒の顔を見て、ヒヤリとする。
- 567 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:38:00 ID:pFdVep2A0
(;'A`)「……なんて器用な奴だ」
そして彼は、ポケットに入っていた拳銃を取り出し、招かれざる来訪者の顔に向ける。
(;゚ー゚)「……何でそんなものを持ってるの?ただの探偵でしょ?」
('A`)「こちとら何処にでもいるような強敵と戦ってないんでね。
正当防衛用だと思って、見逃してくれよ」
(;゚ー゚)「この国の法律じゃ、そんな言い分まかり通らないよ。ミスター」
女泥棒は、背後から何かを取り出して、ドクオの背後に投げた。
- 568 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:38:39 ID:pFdVep2A0
転がっていくそれを、ドクオは目で追う。何処かで見たことのある形状。
分離された引き金は、既にしっかりと彼女の手に握られていた。
(;'A`)「しゅ、手榴弾か!?」
ドクオが後ろを向いた瞬間、前方で彼女が飛び上がる。
そしてそのまま、疾風の如き勢いで、彼の握っている拳銃を横へと蹴り飛ばす。
銃は音を立てて、手から吹き飛び、壁にぶつかり、そのまま床へと落ちる。
落ちた衝撃で、何かが分解されたのだろうか、ガチャリと音を立てた。
(*゚ー゚)「……ふふ。安心して。爆弾は偽物だよ」
(;'A`)「なんて奴だ」
- 569 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:39:15 ID:pFdVep2A0
経験から言えば、普通の人間はこういう緊急事態に面した場合、
何をしていいか分からず立ち尽くすか、尻尾を巻いて逃げるものだ。
でも、今見せた彼女の迷いない機敏な動き。
覚悟を決めた人間特有の、力強い眼。
そしてその大胆な行動力は、明らかに常人のものではない。
目の前の女は、こういった土壇場に慣れている人種であることは間違いない。
ドクオは汗を浮かべながら、思考を巡らす。
(;'A`)「お前は何者だ?」
(*゚ー゚)「お察しの通り、アタシは泥棒でーす☆」
そう言って、ドクオに時代遅れのウインクを投げる。
- 570 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:39:45 ID:pFdVep2A0
('A`)「……一体、俺の事務所に何の用だ?」
(*゚ー゚)「それを知りたいの?」
('A`)「いいから教えろ」
(*゚ー゚)「……知っているはずでしょ。この事務所には、
ある男の弱みとなり得る、一束の書類があるはず」
('A`)「……誰だ?」
(*゚ー゚)「『寒さが残ってるね。風邪に気をつけて』」
- 571 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:40:02 ID:pFdVep2A0
その言葉は、何処かで聞いたことのある台詞。
同時に彼の頭には、古い記憶のイメージが流れ込む。
流れる血。
額を貫く銃弾。
暗い部屋に響き渡る呻き声。
床に倒れた男を振り向きもせずに、部屋を出ていくあの冷たい顔。
アイツがその言葉を、去り際に吐いていったのを、この目で直接見たことがある。
ドクオの顔に、急に切迫の表情が浮かぶ。
(#'A`)「お、お前、まさか!!!!モララーの策略か!!!!??」
- 572 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:40:43 ID:pFdVep2A0
*
男は、屋根の上。
如何にして、そんな場所へと上ったのか。
そして何が目的で、そんな所に立っているのか。
爪'ー`)y-「……」
黒いスーツに、黒いシルクハット。
そのスラっと高い背丈には、よく似合っている。
- 573 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:41:02 ID:pFdVep2A0
煙草をふかしながら、夜空を見上げる。
そこに浮かぶは、不気味に輝く弓張月。
その幽玄で神秘的な美しさに、男は目を奪われる。
そしてその月に向かって、肺から煙を噴き上げる。
それは舞い上がり、夜空に儚く溶けて、消えていく。
爪'ー`)y-「仕事だ。ああ、面倒臭え」
- 574 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:41:25 ID:pFdVep2A0
男は、胸ポケットへと手を突っ込む。
出てきた手に握られていたのは、不思議な形状の銃。
銃口は鋭く、形はとても細長く、大きい。
どうやってそれを、胸ポケットで保管していたのか。
銃口が向けられた先は、隣の家の窓。
月明かりが照らすだけの暗い部屋には、対峙する男女が二人。
男には、分かっていた。
片方は、あの女泥棒。
そしてもう片方は、見紛うはずもない、あの『名探偵』。
- 575 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:42:02 ID:pFdVep2A0
銃から放たれた、照準を照らす、赤く鋭い光。
まるでビームのように突き抜けるそれは、真っ直ぐ、そして確実にあの額を捉える。
爪'ー`)y-「正直、失うには惜しいもんだ。その才能と機知をな。
共に仕事をしていたならば、良いパートナーとなっただろうに」
短くなった煙草をそっと落とし、その火を靴で踏みつけ、消す。
月光に照らされながら、男は最後の言葉を呟く。
爪'ー`)y「……さらばだ。お前はよくやってくれたよ」
- 576 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:42:19 ID:pFdVep2A0
肺に残った、最後の煙を夜空へ吹き出す。
その細い指で、躊躇いなく引き金を引いた。
プシュッッ!!!!!!
吹き出された空気の音と共に、弾丸が闇夜を突き抜ける。
- 577 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:42:43 ID:pFdVep2A0
*
毒田探偵事務所には、赤い一筋の光が差し込んでいる。
その光は、暗いこの部屋を真っ直ぐに横切り、紅の一点を落とす。
ドクオはすぐさま、差し込んだその奇妙な光の存在に気が付いた。
- 578 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:43:03 ID:pFdVep2A0
その光の出所へと目線を投げる。
窓の外には、怪しく光る半月。
なんだろうか。
隣の家の屋根の上に、人影がある。
手に握られている、あれは……。
(*゚ー゚)「それを頂くまで、アナタに邪魔はさせないよ!」
彼女がその台詞を言い終えた瞬間、ドクオは彼女に向かって飛び掛かる。
(#'A`)「おい!!!!!!!!!離れろ!!!!!!!!!!!!」
- 579 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:43:34 ID:pFdVep2A0
プシュッッ!!!!!!
突然の空気の射出音と共に、弾丸が窓を突き破り、割れたガラスの破片が飛び散る。
ドクオは間一髪で、彼女の体を床へと張り倒し、弾丸の直撃を反らす。
弾丸は物凄い勢いで、何度も何度も、事務所の壁と床と天井にバウンドし、
最終的に玄関近くの床に落ちた後、その動きを止めた。
(;゚ー゚)「え!?」
(#'A`)「窓際に身を伏せろ!!!」
ドクオの叫ぶまま、彼女は月光の差し込む窓際へと飛び込み、
外側からは死角になるであろう、その床へと身を伏せた。
- 580 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:43:53 ID:pFdVep2A0
ドクオはすぐさま、ポケットから鏡を取り出す。
先程謎の男が立っていた隣の家の屋根を、反射させた鏡越しに見る。
人影は全く映らない。
この数秒の間に、あの男は姿を消したのだ。
どうやってこの一瞬で、屋根から降りたのだろうか?
(;'A`)「アイツは誰だ!?何故、お前を殺そうとしてんだ!?」
(;゚ー゚)「……」
- 581 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:44:23 ID:pFdVep2A0
(#'A`)「緊急事態だ!!!!!今すぐ答えろ!!!!!」
(;゚ー゚)「……フォックス」
(;'A`)「は!?」
(;゚ー゚)「……仲間内では、そう呼ばれて恐れられていた」
(;'A`)「いいか、お前はここにいろ!死にたくなかったら絶対に動くな!」
(;゚ー゚)「……」
(;'A`)「この際だ!協力しろ!この窓の外は頼んだ!」
- 582 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:44:51 ID:pFdVep2A0
彼はガラスの飛び散っている床を、転がりながら進んでいき、玄関へと辿り着く。
そしてドアをロックし、その裏にひしと張り付く。
ドクオは必死の形相で、女泥棒へと『その鏡を使え』のサインを送った。
それに気づいた彼女は、その鏡を拾って、窓の外を見張り始めた。
- 583 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:45:12 ID:pFdVep2A0
そうして時間は流れ、一時間ほど経った頃だろうか。
あの人影は、全く姿を現さなかった。
安全だと判断したドクオは、玄関の方から彼女のもとへ、壁を伝いながら移動する。
そして隣に、疲れた様子で座り込む。
女泥棒は、息を呑みながらドクオの顔を見ていた。
- 584 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:45:35 ID:pFdVep2A0
('A`)「どうやら諦めたみたいだな。もし誰か通行人がいたら、
そろそろ騒ぎになってもおかしくない頃だ」
(;゚ー゚)「……」
('A`)「聞こうか。お前はモララーの仲間か?」
(;゚ー゚)「……」
('A`)「まぁ取り敢えず、これから何か下手なことでもしない限り、
警察に突き出そうなんて思っちゃいないから、言いな」
(;゚ー゚)「……組織に追われていた」
彼女は、急に口を開いた。
- 585 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:46:07 ID:pFdVep2A0
('A`)「モララーのところだな?」
(;゚ー゚)「うん。気付いてたと思うけど、アタシは歴史家なんかじゃないよ」
('A`)「そりゃ今更だな。それで何が原因で追われてたんだ?」
(;゚ー゚)「知っての通り、アタシは『しぃリーン』で名の通ってる泥棒なんだ。
少し前に、組織の金を奪おうと思って入った。でもね、それは舐めてかかってた。
あんな恐ろしい組織は、足を踏み入れるべき場所じゃなかった」
('A`)「そうさ。お前が踏み込んだのは、日本のあらゆる力と権威が束を為しても、
その存在すら捕えられない、社会に根を巡らせ始めた最強最悪の頭脳組織だ。
そして結局、奴らに勘付かれたんだな?」
- 586 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:46:32 ID:pFdVep2A0
(;゚ー゚)「そう!アタシは、伊達に何年も片足を泥に突っ込んで、泥棒やってるわけじゃない!
金を盗もうなんてこと、一言も言ったはずも、悟られたはずもない!!」
('A`)「そりゃ、お前の器用さを見りゃわかるさ」
(;゚ー゚)「ある夜、出された指示に従って、金の取引が行われる都内の地下鉄の駅へと向かった。
あのフォックスってやつも一緒に。金はアイツがリュックに詰め替えて運んだ。
その時アイツは、ついていくアタシの顔を見すらもせずに言ったんだ!
『お前はこの金が欲しいんだな?』って!
その日から、私は組織に命を狙われるようになった。
この一言で、アタシの頭の中にあったプランがすべて崩壊した」
(;'A`)「もし本当にヘマをしてないとしたら、どんなトリックだよ」
- 587 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:46:53 ID:pFdVep2A0
(;゚ー゚)「あの男は、本当に心が読めるのかもしれないって思うくらい、
不気味なほど、人の考えていることを当てるの。
最初から最後まで、本当に不思議な男だった。普段は無口で、ほとんど喋らない。
でもモララーっていうあの冷たい顔の男が、一番信頼する部下として動いていた。
モララーを『頭』だとしたら、アイツは、
組織のために邪魔者を排除する『腕』ってところかな?」
('A`)「成程。あの組織には、そんな実行犯的な暗躍をする輩がいるのか。
そんな男の噂はこれっぽっちも聞いたことがない。
自らの存在を決して悟らせない、相当な腕前を誇る暗殺者……」
(;゚ー゚)「アナタはなぜ、組織の存在を知っているの?
さっきから見たところ、只者ではないようだけど……」
- 588 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:47:22 ID:pFdVep2A0
('A`)「そんでこの事務所に、アイツを摘発する証拠があるって知ったお前は、
それを弱みとして持っておくことで、自らの身を守ろうとしたんだな?」
(*゚ー゚)「ご名答!さすがは『名探偵』だね」
('A`)「話すと長くなるが、その証拠はもう効力を失ってしまったよ」
(;゚ー゚)「えぇ?」
- 589 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:47:44 ID:pFdVep2A0
('A`)「そして俺たちをこの事務所から、長時間確実に離れさせるために、
勤務した博物館へ偽の盗難予告をし、その警備を依頼する。
そしてその間にここに忍び込むという、完璧な計画を立てた」
(*゚ー゚)「その通り。予告状は天井の埋め込みエアコンの内部に、うまく挟んでおいた。
閉館一時間前、スイッチがオフになる瞬間、それが勝手に落ちていくように」
('A`)「誰から俺のことを聞いた?」
(*゚ー゚)「『情報屋』で名の通ってる、しょぼくれた眉毛の男だよ。
名前は忘れちゃったけど、どっかのバーで働いてるって言ってた」
(;'A`)「アイツか!また面倒臭いことに巻き込ませやがって」
- 590 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:48:04 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「彼は言ってた。『モララーから身を隠すなら、隠れ家はこの世で一ヶ所しかない。
毒田探偵事務所という、VIP市にあるぼろい事務所を訪ねるんだ』って」
('A`)「モララーは俺を殺したくはないみたいだな」
(*゚ー゚)「そうみたい」
('A`)「まぁそんなのは、分かってたが。もし排除しようとしているんだったら、
俺が今日まで生きてるのは奇跡だからな。あいつの手下か誰かに殺されてるはずだ」
- 591 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:48:22 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「あなたは、彼とどういう関係なの……?
とにかく、それでアタシは、どんな奴かこの耳で確かめようと思って、
少し前に、新聞屋さんのフリをして、玄関付近に盗聴器を仕掛けた」
(;'A`)「は!?」
(*゚ー゚)「ほら、あの郵便受けの所だよ」
(;'A`)「成程。それで書類の存在を知ったってわけか。
盗聴器は日頃から相手にしてるが、全く気付かなかった……。
お前は、本当に何者だ?」
(*゚ー゚)「それはお互い様だよ、『名探偵』さん」
- 592 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:48:41 ID:pFdVep2A0
時刻は深夜十二時半を回っていた。
ふと思い出したように、ドクオは立ち上がり、部屋の中央へと向かう。
そして、先程フォックスと呼ばれる謎の男によって放たれた弾丸を、ポトとテーブルの上に置く。
('A`)「ちょっと来てくれ」
(*゚ー゚)「何?」
('A`)「さっきの弾丸だよ」
(*゚ー゚)「これがどうかしたの?」
- 593 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:49:11 ID:pFdVep2A0
('A`)「これはゴム弾。この部屋に放たれたとき、何度もバウンドしたろ?
そしてこの弾は、噂に聞く恐ろしい空気銃によって放たれた」
(;゚ー゚)「空気銃……」
('A`)「俺の張り巡らせた情報網に引っかかった、いくつかの信頼できる情報から、
こいつの恐ろしさは伝えられている。モララーがこれを手に入れたということもな」
- 594 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:49:32 ID:pFdVep2A0
(;゚ー゚)「これは一体どういうものなの?」
('A`)「伝えられているところに拠れば、ドイツの盲目の技師フォン・マララーという男が、
組織の特注を実現し設計した、究極の暗殺兵器だ。
驚異的なサイレンス技術の向上で、空気の噴射音を除き、一切の無音で放たれる。
そして弾丸として射出されるものは、一見したところ、
何処かの工場にでも転がっていそうな、小さなゴムの塊。
もし的を外したとしても、これは銃弾として扱われないだろう。
更に音や弾丸だけでなく、煙などの証拠になり得るものは一切残さない」
(;゚ー゚)「暗殺者にはもってこいの武器だね……」
- 595 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:50:12 ID:pFdVep2A0
そしてドクオは、再び女泥棒の顔を睨みながら、口を開く。
('A`)「……そしてお前からは、まだまだ聞くことがありそうだな。
組織について。そしてモララーの言う『大いなる理想』について」
(;゚ー゚)「……その前に一つお願いがあるんだ」
- 596 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:50:27 ID:pFdVep2A0
('A`)「お願いってなんだよ。お前自分の立場分かってんのか?」
(;゚ー゚)「今日したことについては、ホントに謝るよ。
迷惑かけてごめんなさい。もう二度と泥棒なんてするつもりはないよ」
('A`)「まぁ、そんなの信用できないけどな。それで願いっていうのは?
別に警察に突き出すつもりはないから、とっとと帰りたいなら帰れよ」
- 597 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:50:51 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「……アタシをここで働かせて欲しいの!!」
(;'A`)「あぁぁぁん!?」
意外なその内容に、素っ頓狂な叫び声を上げるドクオ。
彼女は、その様子に怯みもせずに、真剣な顔で迫る。
(*゚ー゚)「助手二号だよ!今はモナー警部さんが度々持ってくる事件に夢中で、
探偵業が面倒臭いんでしょ!アタシが全部それをやるから!
収入だって全く要らない!その代り、ここで匿って欲しいの!」
- 598 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:51:23 ID:pFdVep2A0
(;'A`)「アホか!!お前みたいな危険な奴、事務所に匿ってられるか!」
(*゚ー゚)「大丈夫だよ。あの情報屋のマスターさんは、こう言ってたから。
『ドクオという男のもとにいれば、モララーはきっと君を殺しはしないよ』」
(;'A`)「ショボンめ!余計なことを!」
(*゚ー゚)「そういえばさっき、銃持ってたよね、ミスター。これは銃刀法違反だなあ♪」
(;'A`)「自分の立場分かってんのか!?お前は泥棒だぞ、家宅侵入罪に窃盗未遂罪だ」
(*゚ー゚)「それじゃ、悲しいなぁ。仲良く一緒に刑務所行きだね……」
(;'A`)「……」
- 599 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:51:51 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「それに組織の秘密だって、知っちゃったのにな……。
教えてあげられないのかぁー……」
(#'A`)「……お前、いい度胸だな。マジで」
(*゚ー゚)「じゃあ、履歴書代わりに自己紹介ね。
『大泥棒しぃリーン』っていうのも、今朝名乗った『詩絵』っていうのも偽名。
ホントの名前はしぃっていうの。これは嘘じゃないよ?
だからそう呼んで。コンピューターハッキング、クラッキングは大得意。
勿論、ピッキングとか金庫破り、盗撮・盗聴も熟練してるよ」
- 600 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:52:19 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「おk?」
ドクオは、調子の良すぎる女泥棒の顔を睨み付けながら、沈黙する。
その眉間には、深い皺が寄っている
しばしの間、考えごとに耽っているようにも、
怒りの炎に燃えているようにも思える、
その険しい表情を続けていたが、突然サラリと返答を吐き出した。
('A`)「保留」
(;゚ー゚)「……はぁー?そんなの今決めてよー」
- 601 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:52:49 ID:pFdVep2A0
(;'A`)「そんな重要なこと、すぐ決められるわけないだろ!
考えるくらいは、しといてやるよ。期待はしないほうがいいぞ」
(*゚ー゚)「ありがと!その返答、前向きな意味で受け止めとくよ!
これからは『ドクオくん』って呼ぶからね!」
(#'A`)「……こいつ、マジむかつく」
しぃと名乗った女泥棒は、嬉しそうに飛び上がる。
ずっと彼女の手玉に取られているドクオは、更にそのイライラを加速させる。
- 602 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:53:14 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「でも、ホントにどうしてアナタは、モララーに特別扱いされてるの?
突き詰めるところ、彼の邪魔をしているんでしょ?」
('A`)「……」
窓の外に広がる星空を眺めながら、彼は沈黙する。
しぃは、薄明かりに照らされた彼の横顔を、そっと見守る。
('A`)「……アイツはさ」
(*゚ー゚)「……え?」
- 603 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:53:35 ID:pFdVep2A0
('A`)「俺とコインの裏表。立場こそ正義と悪だけれど、本質的にはよく似てるんだ。
だからあの男の気持ちとか、考えてることとかが、俺には自分のことのように分かる」
(*゚ー゚)「……どういうこと?」
('A`)「自分が持って生まれた、才能の限界を試したいのさ。
そして、かつて自分を陥れかけた俺に、見届けさせたいんだよ。
アイツによって、この国がゆっくりと変わっていく様を」
(*゚ー゚)「……国?」
- 604 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:53:56 ID:pFdVep2A0
('A`)「奴のやろうとしていること……、これはあくまで憶測に過ぎないが、
その『偉大なる理想』というものは、物凄くスケールの大きいことだ。
その理想が目指す場所に辿りつくためには、この国の法律、制度、文化、経済、
国際情勢、果ては人々の思想まで、根っこから変えなくてはならないほど大きなもの」
(;゚ー゚)「『偉大なる理想』……」
('A`)「何年、いや、何十年かかってもいい。
自分という、世に燃えるべく運命づけられた彗星が、
どれだけ明るく、どれだけ美しく、世界を照らすことができるか。
……アイツはそれを、知りたいんだよ」
(;゚ー゚)「……」
- 605 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:54:13 ID:pFdVep2A0
そう呟きながら、ドクオは憂いを浮かべた目で、再び夜空を見上げる。
彼女は、ドクオの視線を追って、同じように顔を上げる。
秋の夜空に散りばめられていたのは、どれほど希少な宝石よりも、ずっと美しく光る星々。
遥か宇宙の彼方、カシオペア座が儚くも優美な光を放ちながら、燃えている。
夜空は、この国で起ころうとしている不吉な未来を、嘆いているのだろうか。
カシオペアの横を、一筋の流れ星が駆けていった。
それは、涙が頬を伝って流れるようだった。
- 606 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:54:46 ID:pFdVep2A0
*
今にも消えそうな、街灯の淡い明かりに照らされた小道。
そこを、音も立てずに男は歩く。
シルクハットで押さえつけられた後ろ髪が、
急に吹き抜けたゆるやかな北風に揺れる。
胸ポケットから煙草を一本取り出す。
それを口に咥え、ライターで火をつける。
爪'ー`)y-「ふぅー。疲れたぜ」
- 607 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:55:11 ID:pFdVep2A0
肺に深く吸い込まれた煙は、男のため息と共に、
再び口から出て、涼しくなってきた外気へと逃げていく。
爪'ー`)y-「……あの男の庇護下に逃れたか。いい判断だ」
立ち止まり、月を見上げながら、彼は囁くような小さな声で言う。
爪'ー`)y-「その知恵と判断力を称えて、今回はお前を逃そうじゃないか。
優れた人間というのは、敵だろうが、味方だろうが、美しいのだから」
- 608 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:55:32 ID:pFdVep2A0
すると男の前に、仕事帰りだと思われる、スーツ姿の若い女性が歩いてくる。
ただでさえ薄暗い夜道を、高いヒールでフラフラと歩いていくその様子は、
傍観する人間から見れば、なんとも危なっかしい。
ξ;゚听)ξ「きゃっ!」
言わんこっちゃない。
その女性は、歩道の段差に躓き、バランスを崩し転倒する。
肩から下げていたバッグは、アスファルトの上にドサリと落ちる。
ξ;゚听)ξ「イタタタタ……」
- 609 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:55:51 ID:pFdVep2A0
その瞬間、男は何かに憑りつかれたように、
何メートルか先で倒れたその女性へと、近づき始める。
頬には、彼特有の、不思議な笑みが浮かんでいる。
なんだか、優しさと冷たさが同居したような、形容しがたい笑みだ。
その二つの眼は、まるで獲物を見つけたキツネのもののように、不気味に光っている。
- 610 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:56:09 ID:pFdVep2A0
彼は止まることなく、倒れた彼女のもとへと、どんどん距離を縮める。
その歩き方からは、彼が非常に訓練された暗殺者であることが分かる。
無音と言ってもいいほど、静かで、音を生まない抜き足である。
ξ;゚听)ξ「……だ、誰?」
暗闇と静寂の中、突然前方に現れた人影に、彼女は驚く。
- 611 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:56:57 ID:pFdVep2A0
爪'ー`)y-「大丈夫ですか?こんな暗い夜は、気を付けて歩いて下さいね」
男は落ちたバッグを拾い上げ、手渡す。
そして、そのハンサムな顔を綻ばせ微笑む。
ξ;゚听)ξ「あ、すいません。ありがとうございます」
爪'ー`)y-「女性一人で、こんな時間にうろうろしてはいけない」
ξ;゚听)ξ「す、すいません」
誰もいないように思えた前方の暗闇から、するりと現れたジェントルマン。
突然の夜道での対面に、心臓をバクバクさせていたツンは、息を漏らす。
- 612 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:58:08 ID:pFdVep2A0
ξ゚听)ξ(はぁ、ビックリしたー。この人、誰?)
爪'ー`)y-「……通りすがりのただの詩人ですよ」
ξ;゚听)ξ「……え!?」
爪'ー`)y-「いや、なんでもない。それではお気をつけて」
そう言って、彼は歩いていく。
- 613 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:58:34 ID:pFdVep2A0
ξ;゚听)ξ(何だろう。今、心を読まれたような気がした……。
今の動物みたいな不思議な眼で、心見透かされた気が……)
鼻歌を歌いながら歩いていった彼の姿は、闇で見えなくなった。
ξ;゚听)ξ(気のせいだよね……。とにかく帰ろう!ママもパパも心配するし)
ツンは奇妙な体験に、汗を浮かべながら家路を急ぎ始める。
- 614 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:59:05 ID:pFdVep2A0
数分が経った。
夜道を外れ、男は公園のベンチに座っていた。
深夜の公園には誰もおらず、彼がたった一人、煙と戯れているだけ。
先程火を付けたその煙草は、既に短くなっていて、もうその寿命を終えようとしていた。
爪'ー`)y-「……この国はいずれ花を咲かせる。もう少しだ。
蕾の開くその瞬間を、あいつと共に見ているがいいさ」
- 615 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:59:29 ID:pFdVep2A0
最後の煙を吸い込み、夜空へと吐き出す。
飛んでいく先には、秋の星空が広がっている。
突然、アンドロメダ座の上方を、一筋の流れ星が駆けていく。
舞い上がった煙は、まるでその美しさを侮辱するように、汚し、曇らせ、そして消えていく。
男は吸い終えた煙草を投げると、この公園を出ていく。
まるでキツネのよう。
音も立てずスルリと、夜の帳の中へと溶け込み、消えた。
- 616 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 04:59:56 ID:pFdVep2A0
*
毒田探偵事務所のドアが、バタンと音を立てて開かれた。
玄関からは、朝の心地よい日差しが降り注ぐ。
あの助手が帰ってきた。
(><)「ただいまなんですー!!」
- 617 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:00:17 ID:pFdVep2A0
彼の両手には、バラの花束。
博物館の従業員たちから貰ったのだろうか。
大きな紙袋に入れられた、贈呈品らしきものも抱えられていた。
両頬には、何が起きたのか、たくさんのキスマークがあった。
- 618 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:00:37 ID:pFdVep2A0
(><)「いやー事件を解決した後って、本当に気持ちがいいんです!」
(><)「人気者っていうのも困りものなんです!」
(><)「鍵はどっかでウッカリ落としちゃったんです!」
(><)「今頃誰かに拾われちゃったかもしれないんです!」
(><)「でもスペアはちゃんとあるから、笑って許して欲しいんです!」
(><)「ドクオさーん?」
(;><)「………………」
- 619 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:01:06 ID:pFdVep2A0
('A`)...zzz「むにゃむにゃ、ぅぅぅん?」
部屋の静けさを破った騒ぎ声に、ドクオはソファの上、そっと目を覚ます。
その目前では、ワカンナイデスが軽蔑の目で、ドクオを覗き込んでいた。
(;><)「………………………………」
('A`)「よぅ、ワカンナイデス。むにゃむにゃ」
(;><)「………………………………………………」
('A`)「何だよ?俺の顔になんかついてんのか?」
- 620 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:01:51 ID:pFdVep2A0
(;><)「いくら名探偵だからって、それは駄目なんです……」
('A`)「……え?」
(;><)「名探偵だからって、仕事サボって客に手を出すなんて……。
いくら寛容な心を持つこの僕でも、ドン引きなんです……」
('A`)「は?」
ドクオは重い瞼をこじ開け、ワカンナイデスの軽蔑の目線の先を確認する。
- 621 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:02:09 ID:pFdVep2A0
視界に飛び込んできたのは、彼の横に、寄り添って寝ているしぃの姿だった。
ドクオはそれから、昨夜の記憶の糸を辿っていく。
確か昨日はあのまま、急な眠気に襲われて、横になったんだ。
(;'A`)「おいおいおいおい!!ちょっと誤解しないでくれ!!」
(;><)「しかもガラスが割れるほどなんて……。
ドクオさん、どれだけ激しいんです……」
(;'A`)「お前の想像力は、そっち方面にしか働かないのか!!
いつもは鈍感な癖に、何で今日だけ不必要に冴えてるんだよ!」
- 622 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:02:45 ID:pFdVep2A0
ドクオの慌てて上ずった声に、しぃも後を追って目を覚ます。
(*゚ー`)...zzz「むにゃむにゃ。あ、おはよう、ドクオくん。
昨日の夜は、ホントにハラハラしたね」
彼女は眠そうな目を擦りながら、上半身を起こして呟く。
状況がまだ飲み込めないようで、ワカンナイデスとドクオを交互に見始める。
(;'A`)「……」
(;><)「……」
- 623 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:03:18 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「……ってそこの人は誰?あー、助手さんだったよね。
彼には昨日、いっぱいお世話になりました」
(;><)「……なるほど」
唾を呑みながら、腕を組んで、ウンウンと首を縦に振る。
(;'A`)「お前何を分かったんだよ!今すぐ言ってみろ」
(;><)「放送禁止用語が入るから、明言は避けておくんです……」
(;'A`)「……ああ、なんかもういいや」
(*゚ー゚)「え?」
- 624 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:03:47 ID:pFdVep2A0
ドクオは小一時間かけて、彼女がここにいる経緯、昨夜起こった出来事、
そして彼女がここで働きたいという旨を、ワカンナイデスに説明した。
ワカンナイデスは、どうしてもいがかわしい方面に解釈したいらしかった。
『そうなんですか、変態』と、いつにもまして『変態』を多用する相槌を打ち続けていた。
ドクオはそれにいちいち突っ込んでいたが、途中から面倒臭くなって、無視して説明を続けた。
最終的には、しぶしぶドクオの言っていることを信用して、大人しくなった。
(><)「……ふむふむ」
- 625 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:04:16 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「今日から働かせて貰うことになります」
(;'A`)ノ「はい、そんなこと言ってないからね」
(><)「まあまあ、ドクオさん!気にすることないんです!」
- 626 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:04:34 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「なんて呼べばいい?」
(><)「よくぞ聞いてくれたんです!!
かのアルセーヌ・●パンも舌を巻いた!!
この僕によって阻止されない犯行予告はない!!」
(;'A`)「は?」
(><)「『ピンク色の脳細胞、名探偵助手ワカンナイデス』と呼べなんです!!」
この男は、まだ昨日のテンションを引きずっていた。
しかも犯行が起きなかったのは、彼のお陰ではなく、完全なる偶然である。
棚から落ちてきた牡丹餅を、運よく手にしただけである。
- 627 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:05:11 ID:pFdVep2A0
(><)「ふははははははは」
(;゚ー゚)「長くて呼びづらいんだけど……」
(><)「仕方ない。『大先輩』と呼べなんです!」
(*゚ー゚)「分かったよ、大先輩!」
(#'A`)「おい、そこ!勝手に話を進めるな!」
(><)「もうー。ドクオさん、しつこいんですうー」
(#'A`)「黙れ!大変態」
(;><)「……」
- 628 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:06:21 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「喧嘩しないでよー」
(;'A`)「おい、ワカンナイデス。言っとくがコイツは泥棒だぞ?」
(><)「『可愛い子ちゃんには優しく』が、僕のモットーだからいいんです」
(*゚ー゚)「さすがは大先輩♪」
(;'A`)「……」
- 629 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:06:50 ID:pFdVep2A0
ドクオは、しばし黙った後、再び口を開いた。
('A`)「警告しとくぞ。これからたった一度でも、
俺らを陥れるような素振りを見せたら、警察に突き出すからな」
(*゚ー゚)「そんなつもりはないよ。約束できる。
ここを失って困るのは、自分だもん」
('A`)「……」
ドクオは、額に中指を当てて考え出す。
- 630 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:07:10 ID:pFdVep2A0
(*゚ー゚)「……どう?」
('A`)「……ま、いいか」
(*゚ー゚)「やったあ!!!!」
呆気ないイエスの返答。
彼女はそれを聞くと、飛び跳ねながら喜びだす。
- 631 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:07:26 ID:pFdVep2A0
('A`)「お前を信用したわけじゃないぞ」
しかしドクオは再び、警戒の色を宿した目で、彼女を睨む。
その様子に応えて、彼女は真剣な表情を作り、返答する。
(*゚ー゚)「……信用は取り戻してみせるよ」
('A`)「……」
- 632 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:07:51 ID:pFdVep2A0
すると急にドクオが、表情を緩め、ニヤニヤし始める。
('∀`)「……じゃ、そこの割れたガラスの欠片を全部掃除しといて」
(;><)「オーゥ、さすがは変態サディスト……」
(*゚ー゚)「……了解しました♪」
こうして彼女はこの日から、毒田探偵事務所の新たな助手として働くことになった。
- 633 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:08:07 ID:pFdVep2A0
ドクオは、何を思って彼女を雇うことを決めたのだろう。
ここ以外に居場所がない彼女に、同情でもしたのだろうか。
彼女の泥棒としての、優れた才を高く買ったのだろうか。
それとも、彼女が知っているという、組織の秘密が欲しかったのだろうか。
その真相は定かではない。
- 634 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/08/04(木) 05:08:23 ID:pFdVep2A0
FIN.
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