- 3 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:48:01 ID:ISNUiF1E0
シャーロック・ドクオの暴走のようです
- 4 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:48:47 ID:ISNUiF1E0
(;><)「お、お、お、お、お、お、お、お、お、おかねが、
お、お、お、お、お、お、お、お、お、おっかねー……」
('A`)「あん?」
(;><)「……」
('A`)「なになにその親父ギャグは、探偵助手君。
最近はそういうくだらないのが流行ってるのかい?」
(;><)「…………」
('A`)「ねえ、君はなんでそこで凍りついてんの?
確かに寒くなったけど冬にはまだ早いよ、探偵助手君」
(;><)「……………………」
('A`)「なにその手に持ってる封筒。何が入ってたのよ?
どうせどっかのピザ屋の広告とかだろ?
ほらほら、照れないでお兄さんに見せてごらん、探偵助手君」
('A`)「…………………………………………」
(;><)「…………………………………………」
(;'A`)(;><)「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
- 5 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:49:36 ID:ISNUiF1E0
ドクオは、冷静に考えた。
冷静に考えるのは、彼の秀でた特技の一つだったが、
いつにもまして張り切って、冷静に考えた。
張り切れば張り切るほど、冷静に考えられなくなった。
それは当然だ。張り切るということ自体、冷静さを欠いた状態なのだから。
『どういう状況において、札束がごっそり入った封筒が郵便受けに投函されているんだ!?』
(;><)「一、二、三、四、五……」
(;'A`)「間違いない。百万の札束が五つ。キッカリ五百万円」
- 6 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:50:24 ID:ISNUiF1E0
ドクオとワカンナイデスは顔を引きつらせながら、事務所へと駆け込んだ。
そして、例の封筒を机の上に置くと、そそくさと玄関のドアを閉める。
二人は十二時のサイレンと共に仕事を中断し、コンビニへ昼飯を買いに行っていた。
出勤時と昼休み時に郵便受けをチェックするのは、ワカンナイデスの役割だった。
彼はいつも通り昼飯を買った帰り道に、郵便受けを覗いてみたらこのザマである。
二人はゼェゼェと息を荒げながら、もう一度封筒へと目をやる。
間違いない。あの大きな膨らみの中にあったのは、札束だった。
- 7 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:51:05 ID:ISNUiF1E0
(;゚ー゚)「……何してるの?」
しぃは困惑していた。
事務所で自分で作ってきた弁当を食べながら、二人の帰りを待っていたら、
必死の形相を浮かべて、その二人が飛び込んできたのだから。
彼女はここで勤務を始めてたった三日目であるため、事務所の日常が分かっていない。
だから二人の奇人変人っぷりや、仕事内容のおかしさには驚きっぱなしだったが、
そんな彼女であってもこの様子には、何か異常なことでもあったのかと、訝しげだった。
ドクオとワカンナイデスは、その質問に充血した目を合わせ、また黙り込む。
- 8 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:51:54 ID:ISNUiF1E0
(;゚ー゚)「……その封筒なに?」
(;'A`)「……」
(;><)「……」
しぃは封筒を手元にとって見ると、宛先に『毒田探偵事務所御中』と書かれていた。
ネットショッピングで購入した商品でも届いたのかと、彼女は中身を覗いてみた。
(;゚ー゚)「……ありゃりゃー」
(;'A`)「なんかの事件に巻き込まれたのかと思った……。
でもよく見たら、毒田探偵事務所ってなってるし……。こりゃ悪戯か?」
(;><)「僕は、取り分を計算してたんです!」
- 9 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:52:37 ID:ISNUiF1E0
(;゚ー゚)「館長さんが送ってよこしたんじゃないの?この前のお礼として」
(;'A`)「いや依頼料だったら、既に事務所の口座に振り込まれてた。それは確認済みだ」
三人は、あれやこれやと心当たりを探して、沈黙しだす。
皆思い当たるものがなかったようで、再び封筒を見ながら項垂れた。
ドクオは、一応確認してみるよ、と言って例の博物館に電話をかけたが、
館長のムネ氏は思い当たることがないと言って、申し訳なさそうに電話を切った。
- 10 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:53:31 ID:ISNUiF1E0
結局ドクオの判断によって、その金は保管しておくこととなった。
ワカンナイデスは『山分けしよう』と、数十分ソファで口を尖らせ、駄駄をこねていたが、
最終的には、一週間保管して正体不明のままだったら山分けする、という約束に達した。
('A`)「にしても、変なこともあるもんだねー」
( ><)「棚から牡丹餅なんです!」
(*゚ー゚)「この事務所ってホント変だよね。働いてる人たちも、やってる仕事も」
- 11 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:54:11 ID:ISNUiF1E0
('A`)「ちょっと前までこんなんじゃなかったんだよ」
( ><)「最近はドタバタばかりなんです」
(*゚ー゚)「いつから?」
('A`)「変な女泥棒が助手になってからだな」
(;゚ー゚)「ひどーい。アタシ何もしてないもん!」
('A`)「信用ポイント一点減点」
(;゚ー゚)「何それー!?」
(;><)「ドクオさん、それハリー・●ッターみたいなんです!」
- 12 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:54:56 ID:ISNUiF1E0
('A`)「っていうか思い出したけど、俺が昼飯買いにいった間、お前勝手に俺の部屋入ったろ?」
(;゚ー゚)「何で知ってるの?っていうかドクオくんが、
『何処に何があるか把握しとけ』って言ったじゃん、それは!」
ドクオの部屋は、事務所の応接間と隣接していて、彼の仕事以外の生活の場所だった。
ワカンナイデスは仕事の都合上で、あの部屋に数回だけ入ったことがあった。
彼は『キノコでも生えそうな、ジメジメした部屋だったんです』という言葉を残した。
- 13 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:55:37 ID:ISNUiF1E0
カーテンは閉めっぱなしで、床には本が散乱していた。
そして中央には大型デスクトップパソコンがあり、そこから生える、
大量のケーブルや、電子機器が床を縦横無尽に駆け回る。
足場と呼ぶべき足場が、ないのだ。
地震の被害を受けたのかとも思わせる散らかったあの部屋は、本人に言わせれば、
『アクセスシビリティーを追求した、究極的な整理がされている』らしい。
その真意はともかく、人並みの常識を持ち合わせた人間なら、
口を揃えてあの部屋を『ゴミ屋敷』と形容するだろう。
- 14 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:56:35 ID:ISNUiF1E0
('A`)「あの扉は俺だけが知る特殊な開け方をしない限り、カメラが作動しだす」
(;゚ー゚)「もしかして、あのぬいぐるみみたいなやつ……?」
('∀`)「さぁ?カメラは右の本棚かもしれないし、窓辺の写真立てかもしれない」
(;゚ー゚)「……」
('A`)「兎に角、お前には言い忘れてた。あの部屋には勝手に入るなよ?
信用ポイント、もう一点減点するぞ」
- 15 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:57:16 ID:ISNUiF1E0
(;゚ー゚)「分かったよ……。っていうかそれなんなの?」
( ><)「ドクオさんは、意外と結構ツンデレだから気にしない方がいいんです!
実はそんなこと言って、悪く思ってないんです!本当は可愛いやつなんです!」
(#'A`)「……なんかむかつく」
(*゚ー゚)「あはは」
( ><)「大探偵助手のこの僕ですら、あの部屋にはあんまり入ったことないんです!」
('A`)「……お前は許可なしで出入り禁止。ドア開けたら減給」
(;><)「ぎゃああああああああああああああああ」
- 16 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:58:10 ID:ISNUiF1E0
('A`)「ワカンナイデスは、色々いじくりまわすからな」
(;><)「だって気になっちゃうんです」
弁当のキムチを口に詰め込み、時計を確認すると、
ワカンナイデスは、玄関の脇に鍵を置き忘れたことに気付く。
(;><)「ふぅー。また鍵を失くすところだったんです」
と言って、それを取って戻ってくる。
(*゚ー゚)「身の回りのものには注意してなきゃダメだよ、大先輩。
外で失くしたら、泥棒に取られちゃうよ」
- 17 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:58:54 ID:ISNUiF1E0
(;><)「それにしてもあの時、僕からカギを盗ってたなんて気付かなかったんです」
('A`)「すっかり見落としてたよ、俺も」
(*゚ー゚)「人から物を掏るにはね、ちょっとコツがいるんだよ」
女泥棒は腰に手を添えて、自慢げなポーズをとってみせる。
( ><)「コツ?」
- 18 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 20:59:37 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「泥棒にマニュアルなんてない。
少なくともアタシはそんなものに出会わなかった。
だから生きる必要のため、小さい頃から独りで身につけてきたの」
('A`)「そんなものが溢れ返ってたら、世の中の過半数の人間は、
泥棒かその前科持ちだよ。人間誰だって一生の内、
金への欲望と隣合わせになる経験くらいあるからな」
(;><)「ドクオさんが入ると、話が難しくなって分かんなくなるんです!」
(;'A`)「今難しいこと言ってないだろ」
(*゚ー゚)「じゃ、簡単に教えてあげるね!」
( ><)「教えて欲しいんです!」
('A`)「それは気になるな」
- 19 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:00:22 ID:ISNUiF1E0
そう言って、彼女は生き生きと泥棒の技術の説明を始める。
(*゚ー゚)「一流の泥棒の中には、二人の人間が住んでるの」
( ><)「そ、そんな!!!!??オーマイガッなんです!!!!
もしかして、多重人格、マ、マルチパーソナリティなんです!!?」
(;'A`)「比喩だろ」
(*゚ー゚)「腕には、ベロを出して相手を嘲笑う、エゴイスティックな大泥棒。
そして本体には、ちょっと街に繰り出せば、どうにでも紛れ込める一般人。
盗るものを把握したら、腕だけを瞬間的に、かつ優しく動かす。撫でるようにね。
あくまで本体は一般人。振り向かないし、ふらつかない、動揺しない」
- 20 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:01:05 ID:ISNUiF1E0
(;><)「火災訓練の標語みたいなんです……」
('A`)「へぇ」
( ><)「それだったら僕にも出来そうなんです!」
(*゚ー゚)「それだけじゃないよ。ホントの泥棒っていうのは『眼』が違う」
('A`)「眼?」
- 21 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:01:49 ID:ISNUiF1E0
(;><)「ま、まさか!?あの時、眼が飛び出て僕のカギを捕まえたっていうんです!?
サイボーグ!?大統領め!核兵器に飽き足らず、そんなものまで開発していたとは……」
(;゚ー゚)「……」
(;'A`)「コイツは無視した方がいい。ここで生きるコツだよ」
(;><)「人をうるさい犬みたいな扱いするのは良くないんです!」
('A`)「ごめんごめん、探偵助手君。さぁさ、彼女の興味深い話の続きを聞こうじゃないか」
(;><)「……」
しぃは、二人の様子をうかがった後、状況を把握して話を続ける。
- 22 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:02:51 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「例えば、富士山に行ったとして」
('A`)「え?」
( ><)「は?」
(*゚ー゚)「高山植物学者だったら、その辺りに生えてる植物に釘付けだろうし、
昆虫学者だったら、虫眼鏡を取り出して地面を這いつくばるかもね。
登山家なら、登りやすそうな道を見回して、
杖になりそうな太い枝を探すかもしれない」
( ><)「ほうほう」
- 23 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:03:37 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「泥棒はね、盗むものとそれを取り巻く環境に、ひたすら眼を凝らすの。
どこに行っても、何をするにも、眼に入ってくる情報はそればかり。
きっとアタシの癖になってるんだね」
ワカンナイデスはいつかドクオが言っていた台詞を思い出した。
『情報の取捨選択』が数ある探偵の力量の内の一つだと。
( ><)「ドクオさんが、仕事場での『証拠』とか『手掛かり』みたいなものなんです……」
('A`)「街中のお前にとっての『若い女性』みたいなもんだな」
(;><)「オゥ!なんと分かりやすい!」
('A`)「そんで?」
- 24 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:04:18 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「大きさや重さ、そういうものは割と簡単。誰でも直感的に分かるからね。
衝撃を生まない角度とか、音を生む金属がついてるか、ブランドはどうか、
目撃者に成り得る通行人の有無、発覚までにどれだけの時間を要するか。
そういうものの判断は経験が必要。短い時間で行うからね」
(;><)「むむむ」
(*゚ー゚)「そして何より、一流の泥棒は無理はしない。
結局スリっていうのはリスキーだから、安全性は高い方がいいの。
盗りづらい大金が入ってる財布と、ポケットからはみ出してる貧乏人の長財布。
その二つがあったら、絶対に貧乏人の方を盗るんだ。
そして、実行回数が少なければ少ないほどいい。
だから実際には、報酬が大きそうで、かつ無防備なものを待つの。
ターゲットはたくさん歩いてるしね」
('A`)「ほーう」
- 25 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:05:08 ID:ISNUiF1E0
( ><)「僕はスリって、人から鞄とかを奪い取るやつらのことかと思ってたんです!」
(*゚ー゚)「むー。違うよ!そういうのは、引ったくりって言うの。
アタシはああいう荒っぽいのはキライ。
私たちはもっと手口が鮮やかで、スマートだよ」
('A`)「人の事務所に手榴弾投げ込んで、拳銃をキックでぶち壊すような奴が、
『アタシは荒っぽいのキライ』なんて、滑稽だな」
(;゚ー゚)「あの手榴弾は偽物だったでしょ!」
('A`)「悪意を持って投げられたものなら、石ころだろうが、
紙屑だろうが、言葉だろうが、それは全部バクダンだよ」
(;゚ー゚)「ねえ、それ言ってること滅茶苦茶じゃない?」
- 26 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:06:02 ID:ISNUiF1E0
( ><)「でも鉄壁の要塞と名高い、この僕から泥棒を働くなんて、お主もやりよるんです」
('A`)「お前、プラプラさせてるからな」
(*゚ー゚)「大先輩のカギは、ポケットからプラプラしてたから楽勝だったよ♪」
(;><)「……そんな僕としたことが」
('A`)「カギ開けた後、いつもプラプラさせてるだろ」
(;><)「……」
- 27 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:06:44 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「ちなみに今話している時にも、気付かれずに盗ってみました♪」
(;><)「ぎゃああああああああああ!!カギが無いいいいいいいい!!!!!!!」
('A`)「今のは見えたぞ?」
(;><)「何で教えてくれないんです!!!!!!!」
('∀`)「面白そうだったから」
(;><)「出たどSーーーーーーー!!!一体いつ盗んだんです!!??」
- 28 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:07:32 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「引ったくりがどうとかとか言ってる時だよ」
(;><)「全然気づかなかったんですー!!!!!」
('A`)「ま、とにかく女泥棒。怪しいことしたから、信用ポイントもう一点減点な」
(;゚ー゚)「ひどーい!!貰う気なんてなかったよ!!ちゃんと返したじゃん!!」
('A`)「駄目」
- 29 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:08:15 ID:ISNUiF1E0
(;゚ー゚)「っていうかその点数って、何点満点なの?」
('A`)「百」
(;゚ー゚)「今いくつなの?」
('A`)「ん……?四くらい」
(;゚ー゚)「……」
(;><)「……」
('A`)「さ、昼休みは終わりだ。仕事だぞ仕事」
三人は、それを合図に業務へと戻った。
- 30 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:09:46 ID:ISNUiF1E0
(;゚ー゚)「……目がチカチカする」
しぃは、ドクオに渡された『毒田探偵事務所業務マニュアル』という、
なんとも読みづらい書類の束を睨み付けていた。
何が読みづらいのかと言うと、色が読みずらかった。
乾いた血を思わせるような薄黒い赤の背景に、黒字なのだ。
刷った人間の趣味が悪い。
- 31 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:10:26 ID:ISNUiF1E0
その犯人であるドクオは、天井を見つめている。
('A`)「……」
死んだような顔つきだ。
('A`)「……聞いてくれよ」
(*゚ー゚)(><)「へ?」
- 32 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:11:20 ID:ISNUiF1E0
('A`)「どうやら人間は、退屈を受け入れるよう設計されていないんだ。
ある哲学者が言ったんだが、単調な行動を続けていると、
どんなものであっても退屈を感じるらしい。
だから何もしないで、朝から晩まで寝転んでいると、
今度は退屈することに、退屈してくる」
椅子に項垂れながら、ドクオが淡々と喋り続け、
二人はじっと耳を貸している。
- 33 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:12:04 ID:ISNUiF1E0
('A`)「俺は探偵業を天職だと思ってる。
興味深い話も、陳腐な犯罪も、日々脳へと吸収させている。
こうやってナイフを黙って研ぎ続けているというのに、
ここらはつまらない依頼ばかりしか来ないじゃないか。
何時間も机に座ってじっとしていると、刺激不足で頭がおかしくなりそうだ」
(><)「僕と同じなんです!」
('A`)「骨折で入院して、病院のテレビで出るはずだった試合を眺める、
サッカー選手の気分だよ」
- 34 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:12:49 ID:ISNUiF1E0
彼は今朝からずっとこの有様なのだ。
ドクオのこういった屁理屈は、今に始まったことではなかった。
時たま彼は、名探偵という肩書を盾にして、単調な仕事から逃れようとしていた。
(*゚ー゚)「でもどうしてドクオくんは、探偵業なんてやってるの?
それだけ知識も豊富で器用だったら、もっと見返りの大きい仕事があるはず。
むしろ、定職に就かなくたって生きていけるくらいだよ」
- 35 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:13:31 ID:ISNUiF1E0
('A`)「車っていうのは、アクセルだけじゃ運転できないだろ?
勿論なければ進まないが、ブレーキも踏んで運転しないと必ず事故る」
(*゚ー゚)「うん」
('∀`)「ふはは、人生も一緒だよ。定職に就かずやりたいことばっかやってたら、駄目になる。
甘やかされて育てられた子供が、ニートや社会不適合になったりするのと一緒だな」
( ><)「それ、ドクオさんが言う台詞じゃないんです!」
(;'A`)「俺だってこう見えて、結構我慢してることあるぞ」
- 36 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:14:13 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「ふーん……」
( ><)「僕もなんです!」
(;'A`)「お前は本能のまま生きてるだろ……」
(;><)「僕は高潔な目的のために生きてるんです!」
(;゚ー゚)「……」
- 37 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:15:16 ID:ISNUiF1E0
三人は雑談を織り交ぜつつ仕事をし、気づけば夕方になっていた。
夕暮れの空に、星々が姿を現し始める。
日没が、どんどんと早くなっている。
('A`)「あのさ」
(><)「ふむ?」
('A`)「馬鹿馬鹿しいことほど、結果的に面白くなったりしないか?」
- 38 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:15:58 ID:ISNUiF1E0
ディスプレイに目線を向けたまま、彼は謎の言動を始める。
( ><)「は?」
('A`)「いやいや、そこまで深い意味は無いんだけどさ。
この前だって、博物館への悪戯か何かだと思った盗難予告状が、
最終的に、この事務所に新しい助手を招いたんだからさ」
(;゚ー゚)「……アタシのこと?」
- 39 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:16:47 ID:ISNUiF1E0
( ><)「ドクオさん、何が言いたいんです?」
('A`)「面白そうじゃないか。殺すという脅迫状が届いているらしい。
依頼人は、今日これからここに尋ねてくるんだと。政治家だ」
(><)(*゚ー゚)「え?」
興味深そうに声を上げた二人を放っておきながら、
ドクオは机に身を乗り出して、パソコンの画面を覗いている。
- 42 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:59:08 ID:ISNUiF1E0
= 打ち合わせ =
- 43 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 21:59:52 ID:ISNUiF1E0
冴えない曇り空だ。
秋の終わりだというのに、湿気を纏った強い風が吹いている。
駅へと続く道に植えられた、街路樹の葉をざわざわと揺らす。
毒田探偵事務所の三人は、駐車場に停めた軽自動車から出てくる。
- 44 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:00:34 ID:ISNUiF1E0
(><)「ウキウキするんです!」
(*゚ー゚)「それで、あの何たらっていう政治家は、どうだったの?」
('A`)「あんまり好かないタイプの人間だった。拝金主義の高慢なおっさんだ」
ドクオは二人が事務所を出た後、事前の相談という形で、依頼人を招いた。
点滅する信号を見つめながら、ドクオは昨日の光景をぶり返す。
- 45 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:01:19 ID:ISNUiF1E0
('A`)「どうぞ。そのソファにおかけ下さい」
「いやはや、この事務所があの有名な探偵の仕事場ですか。
話は聞いているよ。君は若いのに大したもんだね」
事務所の玄関から、悠々とした大股で進んできた政治家は、
愉快げな声を上げながら、辺りを見回した。
政治家と言うよりかは、刑事と言ったほうがしっくりくる。
大柄の長身で、野心の滲み出すような、動物的な顔をしていた。
- 46 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:02:02 ID:ISNUiF1E0
座るよう促されたソファを細めた目で見つめ、どっしりと腰を下ろす。
('A`)「いえ。それで依頼の内容を説明して頂けますか?」
「私も少しばかり名前が有名なだけにね。時々こう厄介なことになるんだ」
言っている内容とは不釣り合いな、軽快なトーンで彼はそう呟く。
目が疲れているのか、大きくそれを見開いて、パチパチと動かす。
- 47 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:02:48 ID:ISNUiF1E0
彼は革の鞄から紙を取出し、透明なテーブルの上に置いた。
脅迫文なのだろうが、奇妙に丁寧な口調で書かれている。
Eメールのページをコピーしたもののようだ。
ドクオはそっと手に取り、目を通した。
「来季の選挙を控えて、乗り出すことにした地方キャンペーンがある。
ラウンジ市の田舎町で行うのだがね。
もう明日に控えているのだが、取りやめにして欲しいらしい。
そうでなければ、殺すとまで言っている」
- 48 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:03:29 ID:ISNUiF1E0
('A`)「物騒ですね」
「その通りだよ。今回のは、具体的な日時まで指定されてるから気味が悪い。
こういう暇な人間は、夜遅くまで国のために働いている、
こっちの身になって考えることができないんだ。困ったものだよ」
先日壊された窓ガラスに気づいた彼は、
口を動かしながらも、視線だけは横へと送っていた。
- 49 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:04:12 ID:ISNUiF1E0
('A`)「ボディガードということなら、うちではやっていないのですが」
「ボディガードなら、既にこちらで雇ってある。
君はただ、見張っていてくれればいいんだ。
私がラウンジ市にある宿泊予定のホテルに着くまで、
怪しい人物がいないか、目を凝らしていて欲しいのだよ」
ははは、と笑いながら雄弁に語る。
ドクオはダルそうな顔で、その演説じみた喋りに耳を貸していた。
- 50 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:04:53 ID:ISNUiF1E0
「報酬は期待していて欲しい。納得できる額を考えてある。
望むなら、この小さな事務所を、丸々改装工事してもいい。
いや、寧ろ新しいのを近くに用意しようか」
('A`)「報酬は決められた額を、口座に振り込んで貰えれば結構ですよ」
つれないねぇ、とでも言いたげに、襟元を掻きながらソファへと深く掛ける。
- 51 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:05:37 ID:ISNUiF1E0
ドクオは、一年ほど前に訪れたクレーン会社の社長が、
『世の中には、金で買えないものが沢山ある』という道徳的主張を、
馬鹿馬鹿しいと嘲笑ったのを思い出した。
「君の学ぶべき教訓は、チャンスがあったら飛びついた方がいいということだ」
天井に向けて笑いながら、彼はそう言う。
君はここで満足すべき人間ではないだろう、とも付け足す。
- 52 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:06:21 ID:ISNUiF1E0
(><)「ふむふむ」
('A`)「政治家という人種は、良くも悪くも影響力がある。
どこかに恨みを抱えている人間がいて、
彼のやることが気に入らなかったんだろう」
(*゚ー゚)「例の五百万円はその人が送ったんじゃないの?」
('A`)「俺もそう思って聞いてみたんだが、違うそうだ」
- 53 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:07:05 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「アタシもちょっとその場に居てみたかったなー」
(;'A`)「何でだよ?」
(*゚ー゚)「財布でも頂戴しちゃおうかなって思って♪」
('A`)「信用ポイントもう一点減点。人のものを盗むな」
(;゚ー゚)「冗談、今のは冗談だよ!」
- 54 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:07:46 ID:ISNUiF1E0
三人は、『VIP駅東口』と大きく書かれたアーチの前に着いた。
駅ビルの屋上から垂れ流された英会話の広告が、風になびいている。
歩を緩めずに、地下へと続く階段を下りていく。
(><)「今回の収入と五百万円のボーナスで、僕の財布は豊作祈願なんです!!」
- 55 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:08:28 ID:ISNUiF1E0
('A`)「あのおっさんが死のうが生きようが、正直どうでもいいんだが、
何だか胸が熱くなるような依頼だからな。今回は」
(*゚ー゚)「それ、爆弾発言だよ?」
('A`)「世の中が平和になるためには、下手な犯罪者よりも、
ああいう人間こそ死んだ方がいいんだ。
自らの力を自らに証明するために、他人の領域を踏み越える」
(;><)「意味不能なんです……」
- 56 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:09:09 ID:ISNUiF1E0
先に見える改札口の近くの壁際に、依頼人のご一行が屯していた。
皆スーツを身に纏って、混み合う駅の構内に溶け込んでいる。
『特急列車のりば』と書かれた矢印を進んでいくと、地上へ出る。
あまり名を聞かない私鉄が運営しているせいか、
改札は自動ではなく、駅員が立ってチケットを確認しているようだ。
('A`)「一応、ここから別々に行こう。三人で一緒にいると、何かと都合が悪い」
- 57 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:10:02 ID:ISNUiF1E0
間隔をあけて改札を通っていくと、列車がとまっている。
赤茶のレトロな外観に、大きな窓がついている。
電車というよりは、西洋の汽車の連想させるものだった。
突然、先頭をきって乗り込もうとした探偵助手が叫ぶ。
(><)「やぁっっほーぉぉおおう!!!!高級指定席なんです!!!!!」
- 58 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:10:42 ID:ISNUiF1E0
不必要にまで通る声が響く。
ガラス窓の向こうでシートにもたれかかる客の数人が、
『何処のどいつだ』と、彼の顔を睨み付けた。
喫煙所の後ろにいたドクオは、急に陽気な声を上げる。
('∀`)「あ、こんな所に!ナンパ待ちの美女集団があらわれたぞ!」
ワカンナイデスが、面白いようにピクッと動く。
(><)「え、え、え?」
- 59 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:11:22 ID:ISNUiF1E0
ドクオは死角に入った瞬間、ワカンナイデスの脇腹を小突く。物凄い形相だ。
そしてよろめいた彼の耳たぶを引っ張って、誰もいない喫煙所へと入り込む。
(;><)「……」
('A`)「ねぇ、探偵助手君。今日ここに何しに来たか確認しようじゃないか」
(><)「勿論分かってるんです!潜入なんです!
平成のジェームズ・ボンドと言われる僕に任せておけば、
潜入の一つや二つ、小指で片づけてやるんです!」
- 60 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:12:06 ID:ISNUiF1E0
('A`)「あのね。もし仮に君がジェームズ・ボンドだったら、
高級車両に乗り込んだ瞬間、貧乏丸出しでね。
『やっほう』とかね。叫ばないから。つーかね。
潜入するのにはね、目立たない格好で、静かにしていなきゃいけないの。
君のポケットにあるトランシーバーみたいなやつ、それ何なの?
何で、額にグラサン乗っけてんの?探偵助手君」
(;><)「……」
('A`)「しかも客が何人か君を見てたじゃない。
もしあの中にクロがいたら、どうしてくれるつもりだったの、探偵助手君」
(;><)「……」
- 61 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:12:56 ID:ISNUiF1E0
ドクオは溜息をつきながら、狂わされた頭の中のプランを再度確認する。
ここへ来るまでに、事前にしぃたちに連絡しておいた、今日の計画である。
三人は、この指定席を別々の名義で予約してある。
そして席は全てバラバラ。列車内に死角が生まれないようにするためだ。
到着までの約五時間の間、面識のない他人として振る舞う。
実質、これが最後の面と向かった打ち合わせになる。
('A`)「……ということだ」
- 62 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:13:40 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「何かあったらどうやって伝えればいいの?」
('A`)「はいコレ」
彼の鞄から、一昔前の携帯ゲーム機のようなものが出てくる。
手渡されたしぃとワカンナイデスは、眉間に皺を寄せてそれを眺める。
(*゚ー゚)「……なにこれ?」
(;><)「ドクオさん。いくら長旅だからって、仕事中にゲームは駄目なんです」
(;'A`)「ちげえよ」
- 63 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:14:20 ID:ISNUiF1E0
(*゚ー゚)「……これ携帯?どこの会社なの?」
('A`)「惜しいな。個体通信機と呼んだ方がいい。暗号化された電波で、
仲介なしに個体通信するから、万が一、傍受しようとする輩がいても阻止できる。
今日のために用意してきたんだ」
(*゚ー゚)「へぇー。用意周到だね」
('A`)「念のためだよ」
(;><)「……ちっ」
ワカンナイデスは、ゲーム機だと期待していたのだろうか、
あからさまにがっかりした表情を浮かべ、舌打ちをした。
- 64 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:15:02 ID:ISNUiF1E0
ドクオは呆れながら、妙案を思いつく。
('A`)「ちなみにワカンナイデスのは、特別製になってる」
(><)「さすが名探偵ともあろう者は、人を見る目があるんです!
僕の紛れようのない、類稀なる才能を評価して、
どんな素晴らしい機能をつけてくれたっていうんです?」
('A`)「寝るとその機械が感知する」
(;><)「ぎゃあああああああ」
(*゚ー゚)「すごーい」
- 65 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:15:42 ID:ISNUiF1E0
(;><)「……でも、どうやってなんです!!?」
('A`)「人間は眠ると脈が変わる。その睡眠時特有の心拍を感知するんだ。
そうするとメーターが出てきて、時間と共にゆっくりと下がっていく」
適当なことがポンポンと出てくるな、と自分で感心しながら話を続ける。
そしてワカンナイデスの顔色は、氷のような蒼白に変わっていく。
(;><)「め、メーターとは……?」
('A`)「給料メーターです」
(;><)「ぴぎゃぎゃああああああああああ」
- 66 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:16:24 ID:ISNUiF1E0
('A`)「いやー記録更新中だね。ついに××万の大台を切るね」
(;><)「鬼!!畜生!!変態的サディスト!!!!!」
('∀`)「最近出たじゃん。NEW SOKU社からタブレット型のPC。
速いうえに軽いから、あれ高いけど欲しかったんだよね。
丁度うちのジェームズ・ボンドの人件費削減できるから、買えるね」
(;><)「いやだああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!1」
('∀`)「寝なきゃいんだよ。寝なきゃ」
(;゚ー゚)「どういう事務所なの……」
- 67 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:17:06 ID:ISNUiF1E0
時刻は一時を回る。
出発まであと四十分強だ。
('A`)「勘が当たってるか、確認していいか?」
(><)「ほえ?」
(*゚ー゚)「え?」
('A`)「昨日、駅前の居酒屋で、深夜過ぎまで飲んでたろ?」
(;><)(ギクッ……)
(*゚ー゚)「アタシ?」
- 68 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:17:52 ID:ISNUiF1E0
('∀`)「ふははは、そこの彼だよ」
どうやら的中したようで、ワカンナイデスは額に汗を浮かべている。
(;><)「もしかしてドクオさん、僕をつけてたんです?
まったくドクオさんも暇な人なんです……」
(;'A`)「ちげえよ。昨日帰る時、反対方向行ったろ。あっちは中心部だ」
事務所は二つの駅の間に位置する。
最寄りはQUALITY駅だが、反対側に街の中心部に向かう道を行くとVIP駅がある。
ワカンナイデスは、QUALITY駅を使っていた。
- 69 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:18:33 ID:ISNUiF1E0
(><)「成程なんですー。でもそれだけで、よく遅くまで飲んでたなんて分かるんです?」
('A`)「お前の体質と習慣から言えば、飲んだ日の翌日はトイレに入る回数が多い。
今ここを離れてた時に、ちょっと気になって確かめたんだが、
そのバッグは煙草やら、アルコールやら、炭やらの、居酒屋の匂いがついてる」
(;><)「ドクオさん、気持ち悪いんです……」
(*゚ー゚)「……w」
- 70 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:19:14 ID:ISNUiF1E0
(;><)「ひょっとしてドクオさん、僕のこと好きなんです?
いくら心がアメリカの農園のように広い僕と言えど、
男はストライクゾーンには入らないんですー」
(;'A`)「……」
定刻が近づいてきたので、三人は最終確認をする。
チケットとプリントアウトされた座席表を広げて、顔を覗き込む。
- 71 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:19:57 ID:ISNUiF1E0
A_______ ________
B_______ ________
依頼人
C_______ ________
ドクオ
D_______ ________
E_______ ________
ワカンナイデス
F_______ ________
G_______ ________
H_______ ________
I_______ ________
しぃ
J_______ ________
- 73 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:21:24 ID:ISNUiF1E0
ドクオの席は左の列で、依頼人の真後ろ、D-1の席である。
依頼人と他の人間との接触を確認できる一番の席だ。
ワカンナイデスがドクオの指示で予約した席は、F-5。
右列の丁度真ん中辺りである。
そしてしぃは、右列のJ-6。
('A`)「依頼人には、極力トイレに行かないように言ってあるが、
なにせ五時間の長旅だ。そこで見習いA!」
(;゚ー゚)「……アタシ?」
('A`)「そう」
(;゚ー゚)「むー。いじけるよ?ちゃんと名前があるんです!」
- 74 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/18(火) 22:22:05 ID:ISNUiF1E0
('A`)「ま、いいや。とにかくその時は、素知らぬ顔でも近くまで同行してくれ。
俺が前からついていくと、いかにも怪しいからな」
(*゚ー゚)「ラジャー」
('A`)「何かあった時は、この個体通信機で連絡して欲しいんだが、
こいつは数字とカタカナしか送れない。
あと名前表示機能とか無いから、文末に名前つけてくれ」
(><)(*゚ー゚)「Roger!」
三人は時間に間隔をあけて、列車へと乗り込んでいく。
- 79 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:17:53 ID:WTSzutzI0
= 名探偵 =
- 80 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:18:35 ID:WTSzutzI0
駅を発って暫くは、ぽつりぽつりと点在するビルの群れを送る、
単調な景色が続いていた。
しかし今、窓の外に広がっているのは水平線だ。
線路に沿った道路の上を走る車、そして脇に並ぶ民家の陰から、
広大な海が姿を覗かせている。
- 81 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:20:03 ID:WTSzutzI0
('A`)(丁度一時間経過、か)
ドクオは席に座ってから、暫くの間、辺りに曇りない集中力を張り巡らせていた。
その後、彼の必殺技の一つである紛失物作戦に出る。
何かを失くしてしまった様子で、中腰になってうろうろするのだ。
基本的にどんな状況であっても、不自然さなく場に居残ることができる。
尾行も、待ち伏せも、張り込みも。うまくいっちゃう万能技だ。
- 82 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:20:53 ID:WTSzutzI0
面白そうなことは見受けられず、これ以上探していても不自然なので、
十分ほど経過したところで『おかしいなあ』と小声でぼやきながら、席に戻った。
そして今、依頼人の真後ろの席に座って、肘を立てながら彼の後頭部を見ている。
時たま聞こえてくる高らかな笑い声を聞くと、緊張感はあるのだろうかと聞きたくなる。
「山田君。今日の予定は把握してるかね?」
('A`)「ばっちりです」
前から質問が来る。暗号である。YESならば異常はない。
- 83 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:21:36 ID:WTSzutzI0
答えながら取り出した通信機に、メールが二件来ていることが分かった。
『テストナンデス』
『リアジュウバクハツシロナンデス』
(;'A`)「なんじゃこりゃ……」
取り敢えず『ナマエカケッツーノ』と送り返す。
即、『ワカッタンデス』と返信が来る。
いや、分かってない。
まぁいいか、語尾で分かるから。
- 84 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:22:20 ID:WTSzutzI0
何の異常も、何の変哲も起こらない。
時間の緩やか経過に、思わず欠伸が出るのを許してしまう。
いつでも日常を忘れさせてくれる刺激的な依頼を期待しているドクオだったが、
引き受けた仕事はしっかりとこなそうという誠実さは、意外にもあった。
いつだかにワカンナイデスに語っていたことを思い出す。
('A`)「探偵は全知の神じゃない」
(><)「ふむふむ」
- 85 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:23:02 ID:WTSzutzI0
('A`)「そこら辺を歩いてる一般人となんら変わりない。特殊能力なんてないし、
どれだけ頭を捻って人事を尽くしても、分からないことなんて山ほどある。
それだっていうのに、いかにも専門家という風に、こうやって事務所を構えて、
高そうな椅子に座って、偉そうにしている」
(;><)(椅子が高そうなのは、自分だけなんです……)
('A`)「どんな違いがそうさせてるんだ?探偵は一般人と何が違う?」
(><)「……分かんないです!」
- 86 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:23:51 ID:WTSzutzI0
('∀`)「はっはっはっは。それはな」
(;><)(テンションがキモくなってきたんです……)
('∀`)「……覚悟だよ。ホントはさ、人間やろうと思えば何でもできるんだ。
敵対社の新製品を調べるのだって、偽造された戸籍を暴くのだって、
あのヒトの隠れたプライベートを垣間見るのだって、
有名人の車に盗聴器を仕掛けるのだって。
本気でやりたければ、足を踏み出せばいい。それだけだ。でもやらない」
(><)「おーなるほど、なんです!」
ワカンナイデスは理解できたようで、キラキラ両目を輝かせる。
- 87 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:24:40 ID:WTSzutzI0
('A`)「慣れないことをやる手間と伴う緊張感を、合わせて天秤にかけると、
大金払ってまでも、専門家気取りに頼む方に傾いてしまうらしい。
実際やってみたら、こんなにスリリングな知的ゲームはないっていうのに」
('∀`)「ま、とにかく、探偵と素人の差なんて薄皮一枚だ。ワンインチディープ。
だからこそ、俺らは腹くくったら口は閉じて、目的の遂行だけを無心で考えていればいい。
それこそが肝に銘じておくべき探偵の精神であって、揺るぎない本質なのさ!
テクニックやノウハウはただの飾り。そういうものは自ずとついてくる」
(;><)「……」
眉をひそめて、難しい顔をしている。
- 88 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:25:21 ID:WTSzutzI0
ワカンナイデスは、漢字や横文字の量がキャパシティを超えると、
途端に理解不能になるという特技があった。
('A`)「分かってないだろ?」
(;><)「いやいやなんですー。そんなわけないんですー。勿論分かったんですー」
('A`)「何を?」
(;><)「……」
(;><)「……つまりドクオさんは、まんじゅうが好きなんです」
(;'A`)「……」
- 89 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:26:04 ID:WTSzutzI0
ドクオは再び意識を車内へと戻す。
人に忠告しておきながら自分がその教訓を忘れてはならないな。
そう言い聞かせて、両目を開く。
通信機には、再びメールが来ていた。
『イジョウナシ。シィ』と書かれている。
『イジョウナイナラ、マギラワシイカラオクルナ』と返す。
すると数分後、『ヒマダッタンダモン。ハイモウシマセン。シィ』と返ってくる。
- 90 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:26:45 ID:WTSzutzI0
やはり退屈なのだろう。
いるかどうか確信の持てない暗殺者を探して、
半日近く注意力を注ぐというのは、中々精神的に辛い作業なはずだ。
しぃはともかく、ワカンナイデスは今頃きっと、
(****>****<****)
こんな顔して迫りくる睡魔と戦っていることだろう。
- 91 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:27:27 ID:WTSzutzI0
余計なことが次々と浮かんでくるので、雑念を振り払って前を見る。
ここでみすみすと依頼人を殺させてしまったら、プライドが許さない。
外を見れば、窓ガラスに小さな水滴が付着し始めていた。
列車が走っているため、斜めに直線を作っている。
- 92 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:28:13 ID:WTSzutzI0
雨だ。
先ほどまでじんわりと陽光を漏らしていた曇り空は、
北西から流れ込んだ積乱雲を迎え入れ、薄黒くなっている。
ドクオは、体感しているわけではなかったが、
窓ガラスにもわもわと風が押し寄せているのが分かった。
- 93 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:29:05 ID:WTSzutzI0
通信機には、再びメールが届いた。
読みづらいカタカナの文末に、シィと書かれている。
もう送らないと言ったではないか。いや、違う。
これは何かおかしいことが起こったから送ったのだ。
ドクオは冷静に、しかし貪るようにカタカナの配列を睨み付ける。
- 94 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:29:49 ID:WTSzutzI0
= 女泥棒 =
- 95 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:30:31 ID:WTSzutzI0
(*゚ー゚)(ワクワク……)
列車が動き出して、二十分が経過した。
(*゚ー゚)(ワクワク枠……)
しぃは俗に言う、wktkを抑えられずにいた。
- 96 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:31:15 ID:WTSzutzI0
(*゚ー゚)(こういう捜査官みたいなの、経験してみたかったんだよね……)
しぃは興奮のあまり足を弾ませてしまう。
隣に座っていた眼鏡のおじさんが、驚いた顔を作ったので、
ごめんなさい、という風にしゅんとする。
いくら泥棒で生計を立てていると言えども、危険な組織に身を置いていると言えども、
ワクワクするものは、ワクワクするものだ。しょうがない。
- 97 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:32:00 ID:WTSzutzI0
途中まで通っていた小学校時代、遠足で近くの山に行った時も、スキップしてしまったし、
時速500km/hで走るリニアモーターカーを見た時も、興奮で眼が冴えた。
初めてまとまった大金を盗んだ時も、言いようのない達成感で高揚した。
自分が泥棒だと打ち明けた人たちは、珍しそうに眉をひそめるか、
心配そうな顔を作るか、軽蔑の目を向けてきたりする。
- 98 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:32:43 ID:WTSzutzI0
でもそういう時に私は言いたい。
泥棒だって人間なんです、と。
人並みに笑えば、人並みに泣きたい夜もある。
人並みにくだらないことで、ワクワクする。
モノは盗むけどね。
いくら泥棒だって、そのくらいの感情の自由はくれたっていいじゃない。
しぃはいつでもそう思う。
- 99 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:33:27 ID:WTSzutzI0
(*゚ー゚)「……」
昔、ある一人の親友がこう言っていた。
『世の中には、"普通の人なら平気"とかって言われたとき、安心するタイプと、
"普通じゃない人はどうしたらいいのよ?"って反論したくなるタイプがいるんだと思う。
それで多分、しぃちゃんはその反論したくなるほう』
当たり前の話ではあるが、しぃは心の中のどこかで、
自分は周りとは違って、異端な人間なのだと思っている節があった。
泥棒なんてきっと皆そんなものだ。
同業者の事情など知らなかったが、しぃはそう考えていた。
- 100 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:34:12 ID:WTSzutzI0
しかし何はなくとも、友達には恵まれた。
ウワベだけの利益に捕らわれないで、
話し合える友達がいるっていうのは、泥棒のわたしにはぜいたくだ。
十分すぎるくらい。
心の中のもう一人の私が、普通の人が味わうような幸せは、
どこか自分とは遠くにあるものだと、漠然と感じている。
だからこそ、こうやって日常にささいな喜びを感じると、嬉しくなるのかもしれない。
暗殺者を探して列車に張り込むのを日常とは言わないか、と冷静になって苦笑する。
- 101 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:34:56 ID:WTSzutzI0
(*゚ー゚)「目が疲れた……」
窓の向こうに広がるのは、山の急斜面。
近くで飛び込んでは消えていく木々を見ていたら、目がクラクラしてくる。
反対側の座席からは海が見えたので、向こう側だったら良かったと羨望する。
前に視線を向ければ、大先輩ワカンナイデスの後頭部が目に入る。
- 102 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:35:38 ID:WTSzutzI0
(*゚ー゚)「w」
しぃは鼻から、しゅ、と息を漏らしながら笑ってしまう。
あの後頭部が無性に笑えてくるのだ。理由は分からなかったが。
(*゚ー゚)(……後頭部だけで、あんなに面白い人はいないよw)
例の後頭部は、コクリコクリと一定間隔で下へとおちてゆく。
いや、徐々に加速していた。
時たま目覚めては、自分の頭を叩いて、眠気を覚まそうとする。
しかし数秒すれば、また頭を揺らしだす。
しぃはまた笑う。
- 103 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:36:22 ID:WTSzutzI0
きっと睡眠と減給阻止との間で、究極の板挟みを味わっているのだろう。
どんな気持ちかは分からないが、同情する。
(*゚ー゚)(……でも)
半ば強引に事務所で働かせてもらうことにしたが、二人には感謝していた。
そのお陰で、ここ最近はなんだかとても落ち着く。
新しい環境で刺激的だけれど、落ち着くのだ。
- 104 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:37:05 ID:WTSzutzI0
大先輩は『可愛いねぇ、可愛いねぇ』としつこいし、
ドクオ君は相変わらず、名前すら覚えずにつんつんしてるけど。
あの二人の側にいると、何故だか凄く笑えるし、
なんだかんだ言いながらも信頼し合っている彼らは、見ていて安らぐ
あの事務所を標的にした泥棒だというのに、
普通の人間として接してくれるのが、なんだか不思議だ。
信用してくれるかは知らないが、これから利用してやろうとか、
何かまた盗もうなんて気持ちは更々無い。
いや、あの二人を見るとイタズラしたくなるから、盗まないなんて誓えないか。
心でそうぼやいて、口元が緩む。
- 105 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:37:51 ID:WTSzutzI0
(*゚ー゚)「……ふぅ」
しぃは足を伸ばして、天井を見つめ息を吐く。
(*゚ー゚)(でも、潜入って意外とヒマー)
個体通信機のことを思い出した。
テストも兼ねて、前の車両にいるドクオにメールを送ることにする。
- 106 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:39:12 ID:WTSzutzI0
完全に夢の世界へと旅立ったらしい、大先輩ワカンナイデス。
その座席をぼんやりと眺めていると、返信が返ってくる。
『イジョウナイナラ、マギラワシイカラオクルナ』
(*゚ー゚)「ぶーだ」
口を尖らせて、『ヒマダッタンダモン。ハイモウシマセン。シィ』と返した。
「切符を確認しまーす」
顔を上げれば、車掌が客に声をかけて回っていた。
- 107 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:40:01 ID:WTSzutzI0
やがて、しぃの所にも予約チケットの確認にやってくる。
用意しておいたチケットを渡したその時。
何か、した。
渡したチケットの裏に、何かを素早く書いた。
- 108 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:41:01 ID:WTSzutzI0
初老ほどの年齢と思える。
割としっかりした体格に、白髪混じりの頭。
感じの良い目元をした男だ。
渡された紙には、『手を貸せ。一人で来い』と書かれていた。
一瞬で鼓動が高鳴る。血液が一気に心臓へと流れ込んだのだ。
きっと動脈が逆流して、心臓へと押し寄せている。
『動脈は逆流しないよ』と医者に言われようと、これは多分、している。
乱暴な言葉と男の優しい目元とが不釣り合いで、不気味に映る。
そうして彼は、何事もなかったかのようにこの車両を出ていった。
- 109 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:41:49 ID:WTSzutzI0
(*゚ー゚)(……!)
後ろ姿を目で追うと、うなじの所にアザがあった。
薄青い斑点。あのアザに見覚えがあった。
あぁそういうことか、と分かってしまう。
二人には申し訳ないが、私はここで戦線離脱。
ごめんなさい、と前を見る。
- 110 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:42:35 ID:WTSzutzI0
自分の座席のある車両を抜け、進行方向を逆行する。
車掌は『STAFF ONLY』の扉をくぐって、見えなくなった。
打ち終えたメールを、ドクオに送信しながら通路を進んでいく。
『ダイセンパイガ、ネテル』
- 111 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:43:53 ID:WTSzutzI0
= 平成のジェームズ・ボンド =
- 112 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:45:04 ID:WTSzutzI0
(****>****<****)「……」
ワカンナイデスは、幽体離脱したように項垂れていた。
- 113 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:46:50 ID:WTSzutzI0
(****>****<****)「……これ以上に給料を下げるなんて。あのサディスティック探偵め……」
その言葉には、活力がない。
怒りで燃えているはずなのだが、そのガソリンがない。
(****>****<****)「……な……ん………で…………す……………」
それもそのはず。
何を隠そう、ワカンナイデスは眠いのだ。
- 114 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:50:24 ID:WTSzutzI0
ドクオに深夜まで飲んでいた、と推理された時は言わなかった。
本当は明け方近くまで飲んでいたのだ。
遅刻しなかったのが奇跡だ。褒めてほしいくらいだ。
しかし眠ってしまえば、待っているのは減給の刑。
そう、それは究極の板挟み状態である。
- 115 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:51:09 ID:WTSzutzI0
掌に包まれている通信機が、死ぬほど憎らしかった。
この小さな機械が放つ威圧感は、一体なんなのだろうか。
ワカンナイデスにとってそれは今や、地獄の監視員に等しい存在だった。
片や、忍び寄る睡魔も、刻一刻とワカンナイデスの意識を蝕んでいっている。
言わば彼は今、睡魔と地獄の監視員に挟まれて、ダブルパンチを受けているのだ。
それはツライに決まっている。しょうがない。
(><)「……パトラッシュ。僕はもう疲れたよ……」
- 116 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:51:57 ID:WTSzutzI0
睡魔はワカンナイデスに、絶え間のない甘い誘惑をかける。
『もう何もかも投げ出して、楽になっちまえよ』と。
わずかに残された意識さえ遮断してしまいたい。もう楽になりたい。
(><)「……なんだかとても……眠いんだ……」
薄れゆく意識の中で、ワカンナイデスは分かった気がしてしまった。
少年は何故あのとき、寝てはいけないと知っていながら、全てを受け入れ死んでいったのか。
- 117 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:54:00 ID:WTSzutzI0
ワカンナイデスは分かってしまった。
人間は極限の状態に置かれると、本能が理性に勝ってしまうのだ。
『理性こそ人間の崇高たる所以』と豪語した哲学者たちは、
この悲しき定めを知って、どんな弁解を並べられるだろうか。
(><)「僕の……人生に……悔いは……ないん……で……す…………」
もう思考することさえも、疲れてきてしまう。
もういい。もう安らかな世界へと身を委ねてしまえばいいのだ。
- 118 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:54:45 ID:WTSzutzI0
少年はあの時、きっと……。
そうして最後の意識の灯は、優しい風が吹き抜けるように、そっと消えた。
(><)...zzz グースピー、グースピー、グースピー
- 119 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:55:32 ID:WTSzutzI0
どのくらいの時間が経っただろうか。
ふいに誰かがワカンナイデスの左小指の上を、思いっきり踏んだ。
(;><)「むにゃむにゃふんぎゃあああああああああああああ」
(男)「うぇーい。誰かの足踏んじゃった。ワラ」
(女)「ウチら、マヂツイてないねェ。トシくん」
- 120 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:56:14 ID:WTSzutzI0
(#><)「貴様らあああああああああああああああああああああ」
(男)「あ、もしかして怒ってる?ガチでさげぽよー(下矢印)。
ゴメンってば、おじさんー」
(女)「テカここウチらの席じゃないし(爆)」
(男)「チョーウケるwワラワラ」
((#><))「ウゼェェえええええええええええええええええええ」
- 121 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:56:55 ID:WTSzutzI0
(女)「早く戻ってェ、スピリチュアル相性診断の続きやろぉよー(キラキラハート)」
(男)「うぇーい」
((#><))「うううぐぐぐあああああああああああああああああ」
(男)「うぇ、うぇ、うぇーい(RAP調)」
(女)「スィーツ(笑)食べたい」
- 122 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:57:38 ID:WTSzutzI0
大学生らしき、リア充アンドビッチのやりとりに、
この世のものとは思えない、煮えたぎる怒りを露わにする探偵助手。
悪い意味で、眠気が吹き飛んだ。
((#><))「ふんがあああああああああああああああああああああ」
ふと我に返り、先程の僅かな眠りを通信機が感知してしまったのではないかと不安になる。
いても立ってもいられない。
- 123 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:58:20 ID:WTSzutzI0
(;><)「むむむむむむむ」
取り出した機械と睨めっこを始める。
天才探偵助手の自分ならば、こんな機械チョチョイのチョイだと、言い聞かせた。
小指で改造できるに違いない。
(;><)「……」
溜息をついて、うなだれる。
(;><)「……無理なんです」
- 124 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:59:04 ID:WTSzutzI0
ワカンナイデスの頭の上で、閃きマークが出る。
今の睡眠は機械の勘違いだったと、ドクオにすぐにメールで知らせればいい。
今すぐ送れば、まだきっと大丈夫だ。
そう。こういうとき小悪党は機転が利くのだ。
(;><)「ぜ、善は急げなんです!」
善ではない。
『テストナンデス』と送った。
- 125 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 17:59:44 ID:WTSzutzI0
返信を待つ間に、憤怒が再び込み上げてくる。
奴らの顔を思いだすだけで、ワカンナイデスの体はプルプルする。
頭上に湯気が立ち上っている。
怒りで湯気が出るなんて、手抜きで作ったアニメか、
と突っ込まれるかもしれないが、これは多分出ている。
『ナマエカケッツーノ』と来たが、ワカンナイデスはそれどころではない。
もう適当に返信する。
- 126 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 18:00:26 ID:WTSzutzI0
リア充たちのせいで、怒りが爆発なのだ。
いや本来爆発すべきなのは、ワカンナイデスではなくリア充である。
中東に落ちたミサイルも、どっかの原子力発電所も爆発するが、
本当に爆発すべきなのは、そういうのではなくてリア充なのだ。
- 127 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 18:01:09 ID:WTSzutzI0
ワカンナイデスは、そう考えると更に爆発する。
もう収拾しようがない。できない。
((#><))「……」
何が言いたいかというと、とにかく大爆発なのである。
((#><))「ふんぬぬぬふんがああああああああああああああああ!!!」
- 129 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:25:23 ID:9zW2AHTQ0
= 名探偵 =
- 130 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:26:13 ID:9zW2AHTQ0
雨粒がぽつぽつと、ガラス窓を叩きつけ始めたと思ったら、
何十分と経たないうちに、もうざあざあ降りである。
本当なら夕暮れという時間だろうが、薄黒い雲が陰鬱な影を落とし、
この地球の、この日本の上に、いつもより早く夜を迎え入れようとしている。
閃光が窓を走って、遅れて轟音が轟く。
後ろのほうで、女性の小さな悲鳴が上がったのが聞こえた。
- 131 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:27:03 ID:9zW2AHTQ0
予想よりもずっと早い。
天気予報は、台風の到着は深夜だと言っていた。
『ダイセンパイガネテル。シィ』の言う通り、ワカンナイデスは確かに寝ていた。
今日くらい給料泥棒させたくなかったが、まぁ寝かせてやるかと諦めていた。
「お客様、少々お時間宜しいでしょうか?」
('A`)「ん?」
突然、右から声がする。
乗組員がドクオに向かって、ボソボソと小さな声で話しかけていたのだ。
- 132 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:27:50 ID:9zW2AHTQ0
('A`)「何でしょう?」
ここでは話せないようなことなのだろうか。
躊躇うような素振りを見せた後、顔を近づけ、息混じりの声で続ける。
「ついてきて頂きたいのです」
('A`)「……」
- 133 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:28:49 ID:9zW2AHTQ0
ドクオは警戒しながら、彼の顔を凝視する。
働き盛りの年であろう、短髪で中背の男だ。
面白いほどこれといった特徴がない。
そして覚悟を決める。
('A`)「……分かりました」
- 134 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:29:44 ID:9zW2AHTQ0
早足で進む彼の背中に、気持ち悪いほど目を凝らす。
指定席車両の終わりの、『STAFF ONLY』と書かれた扉に案内される。
「こちらです」
男は、そのドアの横に立ち止まる。
('A`)「この中で話す、ということですか?」
「はい」
- 135 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:30:25 ID:9zW2AHTQ0
嗅ぎまわっていることがバレたのだろうか。
可能性が無くはない。
もしこの男を操っているのが犯人だとしたら、
乗組員にまで手を回しているということになる。
ノブに手をかけながら、思う。
こちらも準備はできている。
どちらが一枚上をかいているか、確かめようじゃないか。
- 136 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:31:15 ID:9zW2AHTQ0
ドアを引く。
暴力的なのはナシにして欲しい。
基本的に、身体能力を要求する場面で勝ち目はない。
('A`)(……)
聞いて驚け。俺はヒョロヒョロだ。
探偵に勝ちたいなら、頭脳で勝てよ。
弱点をつくなんて卑怯だ。
- 137 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:31:55 ID:9zW2AHTQ0
ドアを閉じると、案内した男がドアの前に立つ。
なぜそこに立つ必要があるのか。
狭い部屋の中には、体格の良い大男が一人。
水泳型の筋肉のつき方だ。
球技や格闘技では、ああいう特徴は出ない。
- 138 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:32:45 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「シャーロック・ドクオ様……ですね?」
('A`)「依頼なら事務所で受け付けてるんですがね。
次回からは、ちゃんと出向いてもらわないと困りますよ。お客さん」
冗談で強がってみる。しかし本当は、警戒で固まっている。
つかみかかられれば、恐らく勝ち目はない。俺の負けだ。
(大男)「……」
沈黙したまま、大男はこちらへと近づく。
(;'A`)ゴクリ
- 139 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:33:57 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「あのおおおおおおおおおおオーーーーーーーーーーー!
助けて下さあああああああああああいいいーーーー(泣)」
(;'∀`)「……はい?」
(大男)「あなた様の噂は常々聞いておりますうううううううウウ!!!!
ギネスブックに残るのではないかと囁かれる、大名探偵だとかア!!
お日様の下にシャーロック・ドクオの知らないことはないらしい!!!」
(;'A`)「それは確実に、言い過ぎだな」
- 140 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:34:45 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「まさかこんなヒョロい奴だと思わなかったけど(小声)、
こんな心強いお方がいらっしゃったなんて!!!サンクゴッド!!!」
(;'A`)「おい、今なんか余計なこと言わなかったか?」
(大男)「私はもうここに勤めて十年以上が経ちますーーーーーウ!!
今までこんなに不可思議で不安なことは、今まで一度もなかった!!
苦しいときも、悲しいときも!!
……あ、キャサリンにフラれたときは、もっとやばかったかも……。
……あ、慰安旅行でズボン下されて、ムービー撮られたときも結構……」
('A`)「聞いてない。そんなこと聞いてない」
- 141 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:35:36 ID:9zW2AHTQ0
説明が、あまりにも支離滅裂だった。
キリがなさそうだったので、最後に『もうヤダー』と叫んだと同時に、
ドクオはぴしゃりと言った。
('A`)「契約書にサインを。それから依頼料は口座振り込みです」
その後ドクオは、動悸がしそうな男をなだめながら、質問を続けた。
- 142 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:36:32 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「昨日からずっと……おかしいのです。この鉄道。列車というか、駅というか。」
('A`)「ほう。一体どういう風に?」
(大男)「私は、説明が下手なので許してくださいいいいいいいいイ(汗)」
(;'A`)「おkおk」
- 143 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:37:16 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「さっきのチケット確認で、146人の客……あ、客って言っちゃった!
146人のお客様が乗っていることが分かりました。
しかし今朝は、150人のお客様のチケットを確認して、入場させているのです」
('A`)「ほう……」
(大男)「えっと結局、何が言いたいのかったんだっけ……。
そう!4人、お客様が消えてしまったのです!」
('A`)「出発までに出ていったんじゃないんですか?」
- 144 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:37:59 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「従業員はずっと配置についていましたけど、そういうお客様はいませんでした。
誰も入った列車から出てこなかったんですよー!」
('A`)「なるほど。トイレなどで席を離れている可能性は?」
(大男)「さっき事情で全部屋を確認したんですけど、やっぱり誰も……」
('A`)「……座席で判別できないのですか?」
(大男)「席を交換したり、開いている席へ移動するお客様が多いんでー……。
もうカオスです!!混沌です!!」
- 145 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:38:46 ID:9zW2AHTQ0
('A`)「……そんで、他には?」
(大男)「あ、そうだ。終わりじゃなかった!乗組員の間でおかしいことがあったんです!
さっきまでチケットを手分けして確認していたら、ある場所のへんだけ、
なんと……!!!!!!」
(;'A`)「おい、喋り方に無駄な演出多いな」
(大男)「存在するはずのない乗組員が、チケットを確認しているのですううう!!!!!」
('A`)「ふむ。どうしてそうお考えに?」
- 146 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:39:27 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「私たちは、みんな自分の担当の場所をわかってます、勿論。
それである座席群の担当が、急にトイレに行きたくなっちゃったらしいんです!」
('A`)「ふむふむ。おしっこはしょうがないな。
どんなときにも、どんなものにも、尿意は優先する」
(大男)「……!?」
ドクオが意味不明な言動を始め、大男は固まってしまった。
- 147 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:40:08 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「……で、チケット確認に戻ってきたら、お客様がもう確認されたと言うんです!!
あ、途中だったんですよ!トイレに行く前は、チケット確認途中だったんです!!」
ドクオは目の前の大男が、心なしか助手のワカンナイデスに見えてきた。
見た目は全然違うというのに。口調のマジックは不思議である。
(大男)「それで担当たちが集まって、誰がその辺りをやったのかと聞いても、
みんな誰もやっていないと言ったんです!
お客様にどういう人だったかと聞くと、白髪の生えた初老の男らしくて……。
そんな人、乗ってないはずなのおおおお!!マイガッああああーーーーーー!」
- 148 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:41:17 ID:9zW2AHTQ0
('A`)「犯人が分かりました。それは幽霊ですね。確実です」
(大男)「ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!
そんなあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!
まだ死にたくないいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!
私には、マイスウィートホームで帰りを待っている、
愛しのマイスウィートハニーがいるのにいい!!!!!!!!!!!!」
('A`)「……嘘です」
(大男)「なんだーーーー(涙)」
- 149 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:42:06 ID:9zW2AHTQ0
一生懸命話す彼に、助手のワカンナイデスを重ねてしまうドクオは、
なんだか無性に悪戯をしたくなる。
大男的には、ドクオが無表情すぎて、本気なのか冗談なのか全然分からない。
('A`)「どの辺りの席ですか?」
(大男)「前から二番目の車両の後ろのほうです」
('A`)(しぃがいる辺りか……)
- 150 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:42:56 ID:9zW2AHTQ0
('A`)「確かにそれはおかしい。勘違いじゃないとすれば、何かが起きてるみたいだな。
客が口裏合わせてる可能性は?」
(大男)「多分、ないと思うんですー。だって団体じゃないですしー」
('A`)「それで最後ですか?」
(大男)「いえ!!!!!!!!!たった今!!!!!!!!!!!!!」
(;'A`)「……」
声がデカかった。
狭い部屋に叫び声が木霊した。
男は申し訳なさそうに、もう一度小さい声で言う。
- 151 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:43:40 ID:9zW2AHTQ0
(大男)「たった今……、関係者以外入れないボイラー室で、仲間が誰かに殴られました。
もう、怖いいいいいいいいいいいい!!!
それでさっき元気になって、ボイラー室で人影を見たと言ったんです。
私たちが、足をプルプルさせながら探しても、ないんですよそんな人陰!!」
('A`)「それで全ての部屋を散策したと言ったんですね?本当に残らず全てですか?」
(大男)「はいー!!!!ボイラー室も、トイレも、シャワールームも、
電力室も、運転室も、残らず全部ですーーーー!!!」
('A`)「ふむ」
ドクオはまた、思考の世界へと潜っていく。
- 152 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:44:21 ID:9zW2AHTQ0
やはり怪しい人間が現れたのだ。
これはあの政治家の暗殺を企む者たちと、同一と考えていいだろうか。
手掛かりが他にない以上、そう仮定しておくべきだ。
だとしたら一番大事なのは、政治家をあの席から離さないことだ。
- 153 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:45:14 ID:9zW2AHTQ0
沢山の客の目の前で、殺人を起こすとは考えにくい。
犯人はきっと、世間を騒がせる目的の愉快犯ではない。
そんな大胆な手口で殺すというのは、想像しがたい。
警戒すべきは、暗殺だ。
つまりあの席にいる以上、彼は安全なのだ。
彼に接触しようとしてくる人間。彼を連れ出そうとする人間。
そういう奴らを、あの場で見張っていなくてはならない。
- 154 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:46:09 ID:9zW2AHTQ0
しかし、人影が見えたという部屋にも行ってみたい。
現場はいつでも、色々なことを教えてくれる。
緊急事態だ。
しぃかワカンナイデスに、席を任せるしかない。
通信機で、あの政治家にメールを送る。
『セキヲゼッタイニウゴカナイデクダサイ。ダイリガコウタイシマス』
すぐに『リョウカイ』と、シンプルな返事が来る。
- 155 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:47:10 ID:9zW2AHTQ0
('A`)「ちょっとお待ちを」
(大男)「はいい!!!!!!」
STAFF ROOMを後にし、しぃのいる席に向かう。
(;'A`)「ん?」
そこにはしぃの姿が、ない。
- 156 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:48:05 ID:9zW2AHTQ0
= 女泥棒 =
- 157 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:48:58 ID:9zW2AHTQ0
(;゚ー゚)(……雨が強くなってきた)
車掌の男について、列車の最後尾のドアからデッキへと出た。
しばらく経って降り出した雨は、激しさを増し、大雨と呼べる勢いだ。
一応屋根はあるが、これだけの雨だ。水飛沫が飛んでくる。
しぃは手すりに肘をかけ、頬を抜けていく湿気を含んだ、
冷たい外気を感じている。
- 158 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:49:49 ID:9zW2AHTQ0
ピシャ。ゴロゴロゴロゴロ。
(;゚ー゚)「……きゃ!」
突然の雷鳴にギクリとする。
台風はもう上陸しかけているのだろうか。
予報よりもはるかに早い到着だ。
線路の脇に生える常緑樹の林が、強風に揺られて一斉に動いている。
- 159 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:50:33 ID:9zW2AHTQ0
このデッキは、本来使わないようで、相当くたびれていた。
その割にはというべきか、それ故というべきか、身を隠すには最高の場所だ。
列車の最後尾の扉のガラス窓から、死角に入ってしまえば中から姿が見えない。
今日のような日のために、ご丁寧に雨避けのビニール屋根までついている。
「いいか。また誰か出てきたら、階段から上に、だぞ」
「分かった」
「了解」
(*゚ー゚)「はい」
リーダー格の帽子の男が指示を出し、しぃも含めた残りは頷く。
- 160 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:51:31 ID:9zW2AHTQ0
車掌に連れていかれ、出てきたこの場所で待っていたのは、三人の男。
小旅行帰りの旅好きという風貌だった。
大きなリュックサックを背負い、ウエストポーチをつけている。
中には何が入っているのだろうか。
彼らは、状況に上手く溶け込んでいる。
こういう任務に慣れているのか、連帯感もある。
- 161 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:52:15 ID:9zW2AHTQ0
「で、そいつがあの泥棒か?」
「はっはっは。そうだ」
引き笑いをしながら、車掌の男が言う。耳に障る高い声だ。
「結局、帰ってきたのか」
小柄で痩せた男が、言い放つ。
人を嘲るような、嫌な目をしている。
- 162 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:53:14 ID:9zW2AHTQ0
(*゚ー゚)「……悪い?」
その男の目を見ていると、気分が悪くなる。
どうしようと自分の勝手ではないか、と本当なら叫んでやりたい。
「どうやって連れてきた?今日のことを伝えたのか?」
「はっはっは。偶然だよ。偶然」
再び引き笑いをした後、車掌は答える。
「あんたも器用だな」
- 163 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:54:08 ID:9zW2AHTQ0
(*゚ー゚)「……」
ドクオから返信が来ていた。
『イマドコニイル』
ちらりとポケットの隙間から、その文字が見えた。
ドクオと繋がりがあったことがバレたら、不審に思うだろう。
そのせいで居辛くなるのは、ごめんだ。
アタシのやるべきことは、ここにあるんだ。
そう言い聞かせる。
- 164 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:55:11 ID:9zW2AHTQ0
再び閃光が走る。
本来なら、空がオレンジ色に染まる時間帯なのだろうが、
今日はなんというか、薄黒い。
私を除く四人は、列車の上へと続く階段の手前で、何やら話していた。
雨音にかき消されて、断片的に言葉が飛び込んでくる程度にしか聞こえない。
ふと、組織に入った時のことを思い出す。
あれもこんな雨の日だった。
- 165 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:56:08 ID:9zW2AHTQ0
(*゚ー゚)「金庫のお金、頂きました♪」
確かあの日は、ビジネスホテルの一室で泊まっていた。
隣の部屋に泊まっていた資産家の金を、外出中に頂戴したのだ。
思いのほか少ない収入にがっかりしながら、ホテルのロビーを抜ける。
自動ドアをくぐれば、外は土砂降りだった。
- 166 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:57:05 ID:9zW2AHTQ0
爪'ー`)y-「お前がしぃだな」
右手にある喫煙所から、声がした。
声の方向を見れば、長身の男が煙草をふかしていた。
こちらを見もせずにそう言ったので、
彼の発した言葉なのか、それとも他の誰かのものなのか、戸惑った。
いや、でも彼はハッキリとあの場所から、私の名前を呼んだのだ。
- 167 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:58:05 ID:9zW2AHTQ0
(;゚ー゚)「……アタシを知ってる……の?」
爪'ー`)y-「世の中は、クズみたいな犯罪者で溢れている。
醜いと思わないか?あいつらは、己の感情以外の掟を持たない。
知恵も、自制も、想像力も欠落している」
(;゚ー゚)「……何を言っているの?」
爪'ー`)y-「その中で、お前の仕事は賞賛に値する」
- 168 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:58:55 ID:9zW2AHTQ0
仕事を終えた泥棒が、モタモタしているのはまずい。
こんな所で立ち止まっている時間はない。
なのに、私は立ち止まってしまう。
一体どういう経路で、私のことを知ったのだろうか?
血眼の警察ならともかく、こんな小さなホテルの入り口で、
退屈そうに煙草をふかしている男に、泥棒であることを知られるはずがない。
爪'ー`)y-「こんな所で長居したらまずいんだろう?ついて来い」
(;゚ー゚)「え……!?」
- 169 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 19:59:45 ID:9zW2AHTQ0
雨の中、傘も差さずに彼は進んでいく。
私の正体を知っている理由が気になって、彼の背を追った。
連れて来られたのは、近くの小学校の体育館の屋根の下。
被っていた帽子を取ると、雨粒流れるその顔は、とても綺麗だった。
女性と見間違うような、武骨さのない凛々しい顔。
爪'ー`)y-「……よく来てくれた」
- 170 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:00:37 ID:9zW2AHTQ0
美しいのだが、眼が奇妙に虚ろなのだ。
虚無というか、孤独というか、悲観というか。
あの眼は、向き合う私を通り越して、
この世を嘆き、見下し、侮辱していた。
そういう雰囲気を発していた。
- 171 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:01:31 ID:9zW2AHTQ0
(;゚ー゚)「……アナタは一体誰なの?」
爪'ー`)y-「……はははは。分からない」
石段に座って崩れ落ちながら、気怠そうに笑う。
(;゚ー゚)「……」
爪'ー`)y-「社会は俺に、名を与えなかった。
強いて言えば、そこらを歩く野良犬のようなものだ」
(;゚ー゚)「……それで、アタシに何の用なの?」
- 172 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:02:14 ID:9zW2AHTQ0
彼はある提案を私にした。
なんとかという政治家がいて、彼が私の能力を買っていて、
彼のために働いてほしいということだった。
思えば、あの政治家の名前は、数あるモララーの名の一つだった。
社会的安全は、彼の力によって保障するという。
アウトローの世界を生きる日陰者には、こんなに嬉しいことはあるだろうか。
尚且つ、収入は相当な額を約束された。
- 173 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:03:14 ID:9zW2AHTQ0
一体その男は誰なのだ、と興味深かった。
私を女として、恋人として買うというのなら、馬鹿馬鹿しいと蹴るつもりだった。
しかし私の仕事は、ただの窃盗。
そんなものは朝飯前だ。
怖かった。
でも飛びつこう、と踏んだ。
私はある理由で、この時大金が必要だったのだ。
- 174 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:04:23 ID:9zW2AHTQ0
= 平成のジェームズ・ボンド =
- 175 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:05:36 ID:9zW2AHTQ0
ゴロゴロゴロ。
(;><)「ひっ!」
静寂を破った雷鳴が、再び眠気に襲われていたワカンナイデスを起こす。
睡眠不足の名探偵助手を起こすとは、なんたる雷だろうか。
ドン引きだ。マジ空気嫁だ。
- 176 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:06:19 ID:9zW2AHTQ0
(;><)「ふぅーーー」
げっそりしている。
げっそりしている、という言葉がこれ以上当てはまる光景は思いつかないだろう。
しかし、今のでどういう訳か、眠気が吹き飛んでしまった。
(;><)「ヒマなんですぅーーー」
眠気の次には、退屈が襲ってくる。
- 177 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:07:16 ID:9zW2AHTQ0
退屈が好きという人種がいて、そういう人間だったら退屈は歓迎するのだろうが、
生憎ワカンナイデスは、生来退屈は苦手だ。
いや、仕事の合間に突然入ってくる休憩のときとかの退屈とかは、
ものすっごい大好きなのだが、とにかく退屈はキライなのだ。
いや、好きなのかもしれない。分からない。
とにかくワカンナイデスにとって退屈とは、十代の恋みたいなものなのだ。
好きなのか、嫌いなのか、ワカンナイデスには分かんない。
- 178 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:08:26 ID:9zW2AHTQ0
(;><)「あ!暇なときはメールなんです!」
その手があったのだ。
しぃちゃんにでもメールしようか、と。
さっきまで地獄の監視員に思えた通信機は、今や終生の友に見えてくる。
孤独な心を慰めてくれる、ベストフレンドに敬服する。
通信機は手を伸ばすと同時に、メールを受け取った。
送り主はドクオだ。
『チョットウシロキテクレ』
- 179 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:09:13 ID:9zW2AHTQ0
なんだ、しぃちゃんじゃないんです、とがっかりしながら振り返ると、
消火器の置かれた通路の横に、手招きするドクオの姿が。
退屈なワカンナイデスにとって、ドクオの呼び出しでも有難かった。
刺激を求め、トントンと廊下を歩いていく。
そして手で作った銃を構える。サングラスはばっちりだ。
ここで必殺、壁張り付きである。
ジェームズ・ボンドならターゲットに近づくとき、姿を悟られてはならない。
そんなの常識だ。
- 180 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:10:04 ID:9zW2AHTQ0
(><)「参上なんです!!!!!!」
ズバーンと飛び出して、ドクオに手の銃を向ける。
(;'A`)「おい」
(><)「ドクオさんノリ悪いんですぅーー」
(;'A`)「……やばいんだ。聞いてくれ」
(><)「ドクオさん、直接話さないんじゃなかったんです?」
- 181 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:10:52 ID:9zW2AHTQ0
('A`)「緊急事態なんだ、ワカンナイデス。頼みがある」
(;><)「うm?」
('A`)「俺と席代わってくんね?」
(><)「なんだそんなことかなんです!おkなんです!
ドクオさんも退屈しちゃったなら、そう言えばいいのにーなんです」
- 182 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:11:59 ID:9zW2AHTQ0
(;'A`)「ちげえよ。あと、しぃ知ってるか?」
(;><)「そう言えば、さっきからずっと姿がないんです……」
(;'A`)「ずっとだって……?これはおかしいな……。
あと、絶対動いちゃ駄目だ。あと前に依頼人がいるから、
誰か彼に話しかけたりするような、怪しい奴が現れたらすぐメールしてくれ!」
(><)「一体何があったんです……!?」
('A`)「後で教える。今は時間がないんだ」
- 183 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:12:43 ID:9zW2AHTQ0
(;><)「……」
(;'A`)「……」
(><)「もー。勿体ぶっちゃってぇー、なんです。後でちゃんと教えろなんですぅー。
とにかく、この平成のジェームズ・ボンドに任せておけ、なんです!!」
そう言って、無いくせに力こぶを作ってみせるワカンナイデス。
('∀`)「……ああ、済まない。じゃーな」
- 184 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:13:56 ID:9zW2AHTQ0
席に置いたままの荷物を、新しい席に移動しようと、ワカンナイデスは戻っていく。
窓ガラスには、バケツを反したような雨が、音を立てて激しく打ち付けている。
すると、例の憎きリア充どもが、乗組員に絡んでいるではないか。
(男)「これガチ邪魔なんですけどー」
(女)「電波最悪なえぽよー。ケータイ小説読めない。まぢムカつくぅー」
「申し訳ございません、お客様。前の人の忘れ物でしょうか……。
今朝はこんなの無かったんですけどねえ……」
- 185 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:14:48 ID:9zW2AHTQ0
いやこの場合、気軽にコミュニケーションを取る、という意味で、
『絡めし(力こぶ)』とか、『バイトの先輩と鬼絡み(上矢印)』、
みたいに使うあれではなくて、本当に絡んでいる。
(;><)「まったくけしからんなんです!」
ワカンナイデスは、常識がないやつは許せない。
何故なら、ワカンナイデスは大人だからだ。
好感がもてる、常識ある、大人なワカンナイデスにとって、
列車の人にクレームつけたりするなんて、そんなのだめだ。
- 186 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:15:31 ID:9zW2AHTQ0
怒りに煮えくり返る、五臓六腑を労わりながらも、様子を見にいく。
黒い箱のようなものが、奴らの座席の傍に置いてあるようだった。
あれは邪魔そうだ。前の席の下に足が伸ばせないではないか。
(><)「むっはhっはhっはっはhああああああああああああ!!!!
ザマァ見やがれなんです!!!!!!!!!!!!!!!!1
ブゥぅぅヴわっはhhっはははははあははははっはああ1!!!!!」
ワカンナイデスの馬鹿笑いで、沢山客が振り返る。
近くで寝てた老人も、腰を浮かせて飛び起きた。
- 187 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:16:19 ID:9zW2AHTQ0
(><)「ふっはhっはhっはっははははははあhああああああああ!!
ぎゃはhっはっははっはははhhっはhはぎゃああああ!!!」
愉快愉快。ワカンナイデスは超愉快である。
やっぱり、神は鉄槌を下したのである。
因果応報。自業自得である。
- 188 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:17:45 ID:9zW2AHTQ0
乗組員は腰を下ろして、例の忘れ物をどかそうとしていた。
しかし突然、何やら顔を真っ青にして後ずさりをした。
彼の充血した二つの眼は見開かれ、唇は震えていた。
「しょ、少々お待ちください」
(女)「マヂ、意味不!!」
(男)「訳、ワカメし!!」
リア充どもは、置き去りにされる。
- 189 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:18:43 ID:9zW2AHTQ0
(;><)ヤレヤレ
理解不明、意味不能な言葉を連発する彼らには、
天才名探偵助手ワカンナイデスもやれやれである。
数分後、乗組員は仲間たちを連れて戻ってきた。
そして皆で、彼らの席の周りに集まってヒソヒソやっている。
(;><)「うm?」
ここで必殺、地獄耳である。
ジェームズボンドなら、ターゲットが内緒話していたら、聞き耳を立てる。
そんなの常識だ。
- 190 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:19:56 ID:9zW2AHTQ0
(><)「ふむふむ」
(><)「ふむふむ」
(><)「…………」
(;><)「…………ん?」
- 191 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:20:38 ID:9zW2AHTQ0
ワカンナイデスは、冷静になって考えた。
冷静に考えるのは、ワカンナイデスの欠落した能力の一つであったが、
いつにも増して張り切って、冷静に考えた。
張り切れば張り切るほど、冷静に考えられなくなった。
それは当然だ。ワカンナイデスはバカなのだ。
耳を疑う。
『バクダン』という単語が聞こえるのだ。それも何回も。
- 192 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:21:45 ID:9zW2AHTQ0
(;><)(……ということは)
あの黒い箱みたいなものは、爆弾だったのだ。
誰かがリア充どもの席に、爆弾を置いたのだ。
(;><)「………………」
恐怖で額を汗が流れると同時に、ワカンナイデスは何故かニヤニヤしてしまう。
- 193 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:22:46 ID:9zW2AHTQ0
色んなことが分かんないワカンナイデスでも、
リア充を爆発したい気持ちは、すんごい分かる。
でもいくらワカンナイデスでも、
人を殺してはいけないことくらい、ばっちり分かる。
(;><)「……………………」
- 194 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/19(水) 20:23:27 ID:9zW2AHTQ0
つまりどういうことかというと、マジでヤバいのだ。
変態サディスト探偵に任された任務をすっぽかして、減給されるというのもヤバい。
たしかにヤバいが、爆発して、木端微塵に吹き飛んでしまうのもヤバい。
いやそっちのがヤバい。マジでヤバい。
(;><)(……ドクオさんに知らせねばあああああああ!!!!!!!!!!!)
『イマスグキテホシインデス』
『リアジュウガバクハツスルンデス』
『バクダンナンデス』
- 198 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/20(木) 15:29:10 ID:UbAOyOrk0
= 名探偵 =
- 199 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/20(木) 15:29:55 ID:UbAOyOrk0
「ぎゃ!!変態!!!」
(男)「しゅ、すいません!!お客様!!今のは悪気があったわけでは!!!」
「悪気以外、何があってここに入ってくるのよ!!!」
(男)「ここに侵入することに、大切な目的があったと言いますかぁ!!!」
「どうせ覗きだろ!!!全うな理由みたいに言うな!!!
いいから、早く出てけっつーの!!!!!!!!!!」
(男)「うわあああああああああああああああ!!!!!!すいませんー!!」
- 200 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:30:38 ID:UbAOyOrk0
ドクオ率いる調査隊一行は、女子トイレを調べていた。
シャワールームを調べていたとき、名探偵は迷わなかった。
ドクオは誰かいるかもしれないのに、バンバン扉を開けて調べていたのだ。
大男も真似してみたくなってしまった。
ズバッと大胆にやってみたくなってしまったのだ。
大胆さは時に裏目に出ることを学んで、大男はまたひとつ大人の階段を上った。
(男)「……うぅ」
- 201 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:31:19 ID:UbAOyOrk0
女性が出たのを見計らって、ドクオが『清掃中』というプラカードを、ドアに下げた。
一体、どこから持ってきたのだろうか。そして、大股でずかずかと侵入していく。
手短に個室を全てあけ、三十秒もしないうちに、ドクオは戻ってくる。
('A`)「ここはもういいです」
(男)「え、もうですか!?」
('A`)「はい。次は電力室を見せてもらえますか?」
(男)「はい!」
- 202 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:32:01 ID:UbAOyOrk0
ドクオの胸は高揚していた。
刑事の時には様々な犯罪者を相手に、自らの頭を駆使し戦っていた。
当時はどちらかといえば、上の奴らに自分の腕を認めさせてやる、
というつもりで事件を解決していた。
(男)「ボイラー室も見てもらえたら嬉しいですー(汗)」
('A`)「あとです。前方から順に見ていきますから。
前から順々に、隈なく車両を調べていけば、犯人は追いつめられます」
(男)「なるほどー!」
- 203 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:32:44 ID:UbAOyOrk0
しかし今は、あの頃と少しばかり動機が違った。
ノスタルジーだ。
あの頃の、情熱に身を任せて一点突破していく感覚。
表現しようのない懐かしさが、五感へと滲み出てくるのだ。
かつての自分は、こういう充実感や、心地よい疲労感を、
感謝もせず毎日のように享受していたのだ、と懐かしむ。
(;'∀`)(いや、こういうのは時々くらいが丁度良いのか……)
- 204 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:33:28 ID:UbAOyOrk0
段差を越えた先に、電力室のドアが立っている。
('A`)「鍵は?」
(男)「これです!!」
('A`)「借ります」
- 205 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:34:13 ID:UbAOyOrk0
刑事の仕事の多くは、追想である。
『現在』という事後の世界を起点として、推測し、過去へと遡っていく。
残された手掛かりという、緋色の糸を綱に、時間の河を逆行していくのだ。
でも今は違う。
リアルタイムで、事件に寄り添っている。
躍るべき舞台は、現在。
切り開くは、未来なのだ。
とにかくあの頃も、今も変わらない気持ちは一つ。
『絶対に捕まえてやる』
- 206 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:34:56 ID:UbAOyOrk0
後ろで乗務員たちが話している。
「……この人が名探偵か」
「確かに、そんな空気があるな」
「でもなんか、やたら暗そうな顔してるぞ」
「集中してるんじゃないのか。とにかくついてこう」
- 207 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:35:39 ID:UbAOyOrk0
ドクオは開かれた重いドアから、埃臭い電力室へと入ろうとする。
丁度そのタイミングで、固体通信機がメールの受信を告げた。
('A`)「……ん?」
「うわぁ!止まった!」
「ひでぇ!いきなりだ!」
突飛なドクオの行動に、乗組員は漫才じみたリアクションを取る。
ドクオも、全く聞いてない。ひどい状況だ。
- 208 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:36:33 ID:UbAOyOrk0
『スグニキテホシインデス』
(;'A`)(……何が起きた?)
『リアジュウガバクハツスルンデス』
『バクダンナンデス』
波が押し寄せるように、新たな二件のメールが受信された。
『バクハツ』『バクダン』という言葉が、脳内に木霊する。
同時に流れ込んだのは、線路を走る寝台列車が、
どこかのお偉い誰かさんの陰謀によって、跡形もなく爆破される。
何番煎じか問いたくなるような、ハリウッド映画のイメージだ。
- 209 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:37:15 ID:UbAOyOrk0
(;'A`)「戻りましょう」
(男)「……へ?」
名探偵は焦りの空気を纏わせて、来た道を早足で引き返す。
後ろの乗務員が持つトランシーバーから、汚い音が聞こえた。
『緊急事態。緊急事態。全員すぐに、第一車両に集合せよ』
その音を背中で受けて、ドクオは足を更に速める。
(;'A`)「どうした、ワカンナイデス」
(;><)「ドクオさん!!これは、マジでヤバいんです……!!」
- 210 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:38:00 ID:UbAOyOrk0
第一車両へと到着すれば、探偵助手が青ざめている。
そして乗務員たちが、集まって輪を作っている。
超能力者ではなくても、彼らの顔から、ただごとでないことなど汲み取れる。
ドクオは乗組員たちの間をかき分け、人だかりの中心部へ向かう。
右脳にこべりついた、『バクダン』の四文字が再び浮かぶ。
ドクオは信じ難いというより、信じたくなかった。
現場で最も倦厭する、感情が頭を支配していたのだ。
客観性や整合性こそが自分の領域ではないか、と強く噛み締める。
- 211 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:38:44 ID:UbAOyOrk0
「ちょっと、お客さん!」
「あ……」
「あの人は、例の探偵だぞ!」
何が起きているのか、と何人かの客が心配そうに見ている。
乗組員が客席で集まったら、不安に思われるじゃないか。
パニックこそ、緊急事態において最も避けるべき事態だというのに。
- 212 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:39:27 ID:UbAOyOrk0
('A`)「……」
座席の下に黒い箱。慎重に触る。
上部がスライドして開く。
配線が絡まっていた。
はんだは、数箇所下手なものがある。
素人があとから付け足したのだろうか。
デジタル画面に、数字が列を成して並んでいる。
時限爆弾だ。
- 213 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:40:12 ID:UbAOyOrk0
(;'A`)「……」
『00:01:20:45』
赤い光を放つ数字が、音も立てずに動いている。
もう『45』は、『37』になってしまっている。
なんとも間抜けだ。
爆弾丸出しじゃないか。
- 214 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:40:56 ID:UbAOyOrk0
紙がある。
『取り外すと爆発します』
下手な字だ。
馬鹿にしているのか、と聞きたくなる。
(;'A`)(……)
(;><)「ドクオさん!!」
- 215 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:42:24 ID:UbAOyOrk0
電流の供給が止まると、点火されるタイプだ。
特殊なバッテリーの型。同じものを探して交換できない。
寧ろ、最初から想定されていないのだ。
だとしたら配線をどうにかして、解除できないものだろう。
電波の受信機のようなものがある。
外部からの信号によって操作するのだ。
- 216 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:43:07 ID:UbAOyOrk0
今にもオーバーヒートしようとしている脳を、限界まで動かそうとする。
どうすればいい。
どうすれば、爆発を止められる。
「……ど、どうでしょう!?」
集まっていた乗組員の一人が、必死の形相で駆け込んでくる。
('A`)「……列車を今すぐ止められますか!?」
- 217 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:43:51 ID:UbAOyOrk0
「……ですが」
('A`)「……止めてください」
「……どうにか、爆発を止めることはできないのですか!?」
('A`)「一度作動したら、弄っても解除できないタイプです。
爆発を早めることはできても、遅くすることはできない」
「……そんな」
(;'A`)「……いいから早く運転手に!」
ドクオは、思わず声を張り上げてしまう。
- 218 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:44:33 ID:UbAOyOrk0
「はいっ!!!!!!」
(;><)「……ドクオさん!」
(;'A`)「……」
- 219 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:45:15 ID:UbAOyOrk0
列車を止めるしかないのだ。
爆発は恐らく、逃れられない。
だが列車を止めて避難できれば、生き残ることはできる。
苦し紛れだが、判断の揺らぎで手遅れになってはならない。
それ以外に道はないのだ。
- 220 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:45:57 ID:UbAOyOrk0
持っていた通信機に、メールが来ていることが分かる。
『レッシャヲトメタラバクハスル』
(;'A`)「……」
なんてことだ。
今のを聞いてんのか。
(;'∀`)「……ははは」
笑えてくる。
- 221 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:47:28 ID:UbAOyOrk0
= 女泥棒 =
- 222 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:48:10 ID:UbAOyOrk0
(*゚ー゚)「きゃ」
しぃの後ろ髪が、突風に巻き上げられる。
直そうとそれを掴むと、水滴が手首を伝うのが分かった。
辺りはもう、暗闇に包まれている。
列車の後部に取り付けられた強いライトが、
降りしきる雨を照らして、光の筋を生み出している。
「風が強いな」
車掌の男が言う。
その声さえも、即座に風が包み込み、流れてゆく。
- 223 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:48:50 ID:UbAOyOrk0
(*゚ー゚)「そうだね……」
「もうすぐだぞ。計画は把握してるんだろうな」
小型テレビの画面を覗き込みながら、リーダー格の男が言った。
(*゚ー゚)「当たり前だよ。でも爆弾が誰かに気付かれるっていうのは、
想定してなかったの?あんな場所に配置して」
「あの席の周りは、もともと空席のはずだったんだ。
誰かが今朝になって、飛び入りで乗ってきたに違いない。
まぁ表面をカモフラージュしてあるから、バレる可能性は低い」
- 224 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:49:31 ID:UbAOyOrk0
(*゚ー゚)「……」
もし飛び入りで乗った列車で、偶然爆弾を見つけてしまい、
テロリストの計画を狂わせたというならば、どんな映画の主人公だろうか。
顔が見てみたい。
「仮にバレたとしても、あの爆弾は取り外すことが出来ないんだ」
- 225 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:50:16 ID:UbAOyOrk0
男の説明によると、爆弾の爆発条件は三つ。
一定時間が経過すること。
配線を切ってしまうこと。
大きな何かの衝撃を与えること。
電流が配線を伝って流れている間は、火薬が点火されない。
逆に言えば、電気を常に供給させていなくては爆発するのだ。
一定時間の後に、電池が切れてしまったり、
電流が流れる配線を切ってしまったり、
大きな衝撃で、電池が外れたりすると、爆発する。
- 226 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:51:00 ID:UbAOyOrk0
(;゚ー゚)「はぁ?じゃあ、誰かの蹴った衝撃で爆発したらどうしてくれるの!?」
「爆発物対応の乗務員が、そんなことも分からないとは思えない。
構造を見れば簡単に分かるさ。それに、あれは蹴ったくらいで爆発しないさ。
落としたり、無理やり接着をはがそうとすれば、爆発するけどな」
(*゚ー゚)「……なるほどね。爆弾はこっちで解除できるんでしょ?」
「お前が知る必要あんのかよ。さっきから聞いてりゃ、途中参加のくせに偉そうにするなよ」
痩せた小柄の男が、しぃに噛み付く。
- 227 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:51:52 ID:UbAOyOrk0
(*゚ー゚)「アナタたちが大丈夫か、心配してるんだけど。
計画は絶対失敗できないんだよ」
カッと頭に血が上った彼は、しぃに身を乗り出すが、
『よせ』というように、リーダー格が手で制止する。
何が面白いのか、車掌の男が高らかな笑いを上げる。
「途中のシベリア駅まで、あと20分ほどだ。俺たちはそこで降りる」
- 228 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:52:32 ID:UbAOyOrk0
(*゚ー゚)「予約番号から、誰が消えたのかわかるんじゃないの?」
「今頃、駅が管理する予約のデータは改ざんされている。俺たちの番号は消えている。
気づくものがいたとしても、もう少し立てば、皆爆弾で吹き飛んで、闇の中だ」
なるほど利口な男だ、としぃは思う。
一大任務の遂行を任されているだけあって、頭が良い。
先を見据え、そのための手段を的確に揃えている。
きっと、駅にも仲間を忍ばせているのだろう。
- 229 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:53:15 ID:UbAOyOrk0
この急行寝台列車は、途中にあるシベリア駅で一度だけ停車する。
私たちは、そこで降りることになっている。
その後、目的地であるラウンジ市へ着く前に、爆弾の時限が来て爆発するという計画だ。
「にしても、この台風で遅延しなくて、本当に良かったな」
雲に覆われた闇夜を見上げながら、車掌が呟く。
「確かにな。だとしても支障は生まれない」
- 230 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:53:57 ID:UbAOyOrk0
『ドコニイル。モドッテコイ』というメッセージが、先ほど通信機に受信された。
今頃、彼らも心配しているのだろう。
爆弾魔たちと共にいることに勘付いて、疑心暗鬼だろうか。
お気の毒に。
だけどアタシは戻れない。
(*゚ー゚)「……」
- 231 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:54:41 ID:UbAOyOrk0
「それにしても、あんたのつけてくれたカメラが役に立ってるよ」
風で帽子を飛ばされないよう押さえながら、リーダー格が車掌にそう言った。
「はっはっは。なんてこたぁねぇよ」
車掌は、唾を飛ばしながら笑い、荒々しい口調で答える。
- 232 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:55:25 ID:UbAOyOrk0
リーダー格が先ほどからずっと目をやっている、小型テレビ。
あれは車内に設置したカメラの映像を映しているのだ。
乗組員が近づいてきたりすれば、すぐさま列車の屋根の上へと逃げられるし、
どの部屋で、誰が何をしているか確認できる。
つまりこちらは、車内でスムーズに行動するための術を持っているのだ。
『おい、マズイぞ』
突然、床に置きっ放しの無線機から、錆びたような音声が入る。
- 233 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:56:21 ID:UbAOyOrk0
三人組の一人、小太りの男の声だ。
彼は先ほど、車内の様子を伺いに扉の中に入っていった。
「どうした」
リーダー格は、ぶっきらぼうに無線へ返答する。
『爆弾のことがバレてる』
- 234 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:57:01 ID:UbAOyOrk0
「え!?」
「本当か!?」
(;゚ー゚)「あらら。やっちゃったね」
四人は皆、一斉に声を上げた。
ここで始めて、計画が予定から反れてしまうこととなった。
しぃが参加するという、突然の事態を除けばだが。
- 235 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:57:43 ID:UbAOyOrk0
『シャーロック・ドクオという男が乗っているらしい!
あの有名な探偵だ!今、そいつが爆弾をいじってるようだ!』
「あの探偵か!?」
「列車を止めて避難させられたら、計画が全て崩れてしまうぞ!」
小柄と車掌が、声を合わせて慌てていたが、
リーダー格だけ、しぃの顔を訝しげに見つめた。
- 236 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:58:27 ID:UbAOyOrk0
「『女泥棒は組織をやめて、シャーロック・ドクオの事務所で働いている』」
(;゚ー゚)「……」
「……そう聞いた。お前はあの男のサイドなのか?
どうしてここに、あの名探偵が乗り合わせているんだ。
お前は今日のことを知っていて、連れてきたのか?」
(;゚ー゚)「違う!アタシは確かに、彼のところで働いてた!
でもアナタたちを裏切ってるわけじゃない!
そもそもアタシは、今日の計画のことなんて知らなかったんだよ!」
- 237 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:59:10 ID:UbAOyOrk0
「あのゲーム機のようなものは、連絡手段なのか?」
しぃは、しまった、と頭の中で呟いた。
この男は気づいていたのだ。
ここまで敏感だとは、思わなかった。
(;゚ー゚)「……」
「貸せ」
(;゚ー゚)「……別に見ても何も困らないけど?」
- 238 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 15:59:54 ID:UbAOyOrk0
近くにいた車掌が、リーダーの指示と同時に、しぃに手を差し伸べる。
仕方なく、彼に個体通信機を預ける。
車掌に渡された通信機を、リーダー格は舐めるように観察しだす。
「『ドコニイル。モドッテコイ』だと。お前はどっちの味方なんだ?」
(;゚ー゚)「アタシは組織の人間だよ」
「止めたら爆発する、と送った。これでターゲットを逃がすことはない」
- 239 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:00:37 ID:UbAOyOrk0
身の潔白の証明になりそうなものを探す。
しかし、しぃの頭の中では、彼のとった判断への批判が渦を巻いていた。
止めたら爆発する、などと言ってどうするのだ。
私たちが乗っている以上、列車は爆発できないのだ。
何処かで降りなくてはならない。
- 240 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:01:22 ID:UbAOyOrk0
「リーダー!」
小柄な男は、リーダー格に不安そうな顔を向けた。
大先輩がドクオ君に、あんな目を向けていたことがあった。
彼らは、共に長く仕事をしているのかもしれない。
あの小柄な男も、リーダーの判断力を信頼しているかもしれない。
だというのにそのリーダー格は、ひたすら握った腕時計を見ている。
今更、時刻を把握しても、何も変わらないじゃないか。
来るときは、来るんだ。
- 241 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:02:06 ID:UbAOyOrk0
(;゚ー゚)「……」
嵐の中、列車は断崖のすぐ側を走っている。
心なしか、数分前よりも加速している気がする。
レールの枕木を見送る速度が、少しばかり上がったように思えるのだ。
(;゚ー゚)「……あっ!」
車体が揺れる。
- 242 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:02:46 ID:UbAOyOrk0
前言撤回すべきかもしれない。
少しばかりか、確実に加速している。
これは、どう考えてもおかしい。
手すりに捕まっているのがやっとだ。
何処まで加速するんだ。
もう200km/hぐらいはあるだろうか。
こんな場所から、飛び降りられるはずがない。
- 243 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:03:28 ID:UbAOyOrk0
再びの無線の音で、しぃはリーダー格を見る。
『リーダー!』
「どうした!?」
『シベリア駅を通過するらしい!』
「……だろうな」
- 244 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:04:31 ID:UbAOyOrk0
『今やもう、列車の指揮を全てあの男がとっているらしい!
あいつは列車を加速するよう言ったみたいだ』
「そりゃあもう、揺れで分かるぜ」
車掌の男が、おどけながら無線の声に反応した。
そんなことを言っている状況ではない。
リーダー格が、小型テレビの画面の中に誰かを見つけたのか、
「すぐに戻ってこい!奴ら隣まで来てるぞ!」
と、声を張り上げる。
- 245 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:05:16 ID:UbAOyOrk0
『了解』
無線が切れてから間髪入れず、車体がまた大きく揺れる。
(;゚ー゚)「……ああ、また加速してる!」
- 246 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:06:05 ID:UbAOyOrk0
通過。
つまり、完全に降りるタイミングを奪われたのだ。
待っているのは爆弾。
この四人が仕掛けた爆弾との心中。
『人のために穴を掘るものは、自らがその穴に落ちる』どころか、
顔も名前も知らないような人々を丸々巻き添えにして、ぞろぞろと落ちていくのだ。
- 247 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:06:49 ID:UbAOyOrk0
「どうする!?リーダー」
小柄な男が、声を裏返しながら叫ぶ。
「こいつぁ、なんてことだ。おい」
車掌も、嘆かわしげに声を張り上げる。
リーダー格の男が、目を閉じて懸命に考えている。
こんな状況でも、冷静であろうとする彼に、しぃは賞賛すら送りたくなる。
- 248 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:07:35 ID:UbAOyOrk0
突然、ドアが開く。
小太りの男が戻ってくる。
「飛び降りるか?」
「こんな速度で飛び降りたら、ぐちゃぐちゃになるぞ!」
「くそっ!これもあの探偵の指示か!?」
- 249 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:08:19 ID:UbAOyOrk0
「俺は死にたくないよ、リーダー!」
「解除しよう!それしかない」
小太りと小柄の男が、キャッチボールの成立しない会話を続ける。
リーダー格は、まだ時刻を確認しながら、ひたすら考えている。
(;゚ー゚)「……どうするの!?」
- 250 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:09:01 ID:UbAOyOrk0
沈黙が流れる。
静寂は、風と雷鳴と雨音に支配されているのだが、
それでも、緊張した空気がしぃ達の流れていた。
そしてついに、リーダーがその空気を破る。
- 251 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:10:05 ID:UbAOyOrk0
「爆破しよう。予定通り」
(;゚ー゚)「……え!?」
「どうして!?」
「でも、それじゃ俺たちが!?」
リーダー格の顔は、少々やつれていた。
数時間前にあったような、自信が感じられない。
- 252 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:11:16 ID:UbAOyOrk0
「……分かるだろう。お前たちだって」
「……え?」
「……?」
「……ピナー氏は寛大だ。窮地にいた俺たちを救ってくれた。
人柄だって、才能だって、何を取っても素晴らしい」
しぃは、モララーのことではないかと思う。
自分が組織に招かれたときの名前と違うが。
- 253 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:11:57 ID:UbAOyOrk0
唾をのみ込み、彼は続ける。
「……でも、感じるんだ。あの人は、俺たちを切り捨てる。
俺たちがしくじって、自分の身に火の粉が降りかかるようなことになれば、
容赦なく、俺たちを消すんだ……。
ここで任務をほったらかして逃げようが、爆弾と心中しようが、
どちらにせよ、俺たちに逃げ場はない……」
その言葉に、部下たちは沈黙する。
- 254 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:12:38 ID:UbAOyOrk0
「思うに、あんたはそれで俺たちと一緒に来たんだろ?」
車掌を指しているのだろうが、肝心の彼は俯いている。
「あの人は、賢い。でも賢いからこそ、捨てることを躊躇わない。
自分のために働く駒は、大切にする。
でもただ一つの勝利という目的のため、駒に愛着など持たない。
……あの冷たい顔で、俺たちを踏み台にしていく」
(;゚ー゚)(……モララー)
- 255 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:13:22 ID:UbAOyOrk0
「俺には出来ないよ……。俺たちがしくじって、強盗で捕まったときも、
俺は押さえつけられるお前たちを背に、自分だけ逃げることが出来なかった」
「……リーダー」
「……うぅ」
「ずっと前から決めてただろ?『死ぬときは三人一緒だ』って。
爆弾は列車の前部にある。運が良ければ、ここだったら生き残れるかもしれない」
「……」
- 256 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:14:03 ID:UbAOyOrk0
「いや、生き残ってみせようか。俺たちはこんな危機、何度も越えてきたじゃないか」
「……リーダーーーーーーーーーーー!!!!!!!1」
「……あqwせdrftgyふじこlp;!!!!!1」
(;゚ー゚)「……ありゃりゃ」
小太りと小柄が泣き崩れる。
そして三人は、互いの顔を見つめ合い始める。
- 257 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:14:52 ID:UbAOyOrk0
「感傷的になる前に、現実的なことを考えようぜ。
爆破するなんて、俺ァごめんだ。他にどうにかできねぇのか?」
車掌が突然口を挟み、感動的な雰囲気を凍らせる。
しぃは、やりとりする彼らに目を凝らす。
(*゚ー゚)「……あ!」
そして、しぃには分かってしまった。
『例のモノ』の在りかが。
- 258 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:15:35 ID:UbAOyOrk0
= 平成のジェームズ・ボンド =
- 259 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:16:17 ID:UbAOyOrk0
(;><)「……んんんんん」
ワカンナイデスはチョーヤバい。
何てったって爆弾なのだ。
そんなのチョーヤバいに決まってる。
(;><)カタカタカタカタカタ
(大男)カタカタカタカタカタ
恐怖で足をカタカタ震わせながら、ドクオの元へ向かう。
大きい変なおっさんも、一緒に来る。
- 260 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:17:00 ID:UbAOyOrk0
さっきから列車が速く走りすぎである。
ワカンナイデスにとったら、歩くどころか、立つのが大変なのだ。
ワカンナイデスは、頑張った。
サディスティックディテクティブ、ドクオに言われたことをやったのだから。
彼の指示で、従業員たちとワカンナイデスは、手分けして列車を探ることになった。
犯人が絶対、列車に乗っているのが分かったらしいからだ。
ワカンナイデスは、うるさい大きなおっさんと組まされて、運転室に行かされた。
(大男)「ふぅ。死にたくないよ〜(泣)」
- 261 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:17:41 ID:UbAOyOrk0
(;><)(……僕の没個性化を図ろうなんてふざけるな、なんです)
別に問題はなかった。いや、問題はあった。
大きなおっさんが、何やら同じような感じなのだ。
ワカンナイデスは、なんかムカついた。
キャラ被るから、ムカついた。
(;><)(こいつ僕のマネを……)
- 262 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:18:23 ID:UbAOyOrk0
(大男)(ああ、怖くて足がカタカタしちゃうなぁー……)
(;><)(怖くて足がカタカタしちゃうんです……)
いつ爆発するか分からない。
そんな宙吊り状態の恐怖に、足を震わせてしまう。
やっとのことで、ドクオの元へと辿りつく。
ドクオはかなり真剣な表情だ。
- 263 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:19:08 ID:UbAOyOrk0
(;'A`)「なんか分かったか!?」
(;><)(大男)「分かんないです!!!!!!!!」
(;><)(……)
(大男)(……)
(;><)(……)
ワカンナイデスは、チョー不本意だ。
- 264 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:19:53 ID:UbAOyOrk0
ドクオはあんまり聞いてない。
それどころではないようだ。
(;'A`)「五十分を切った……。おい!まだ加速できるか?」
乗組員「これ以上は……。あと少しで限界です!」
(;'A`)「加速してくれ!最高速でぶっ飛ばせ!」
乗組員「これで本当に最後です!これ以上は安全装置が作動してしまいます!
でも、どうしてこんなに加速するのですか……」
- 265 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:20:48 ID:UbAOyOrk0
ドクオはあんまり聞いてない。
それどころではないようだ。
(;'A`)「五十分を切った……。おい!まだ加速できるか?」
乗組員「これ以上は……。あと少しで限界です!」
(;'A`)「加速してくれ!最高速でぶっ飛ばせ!」
乗組員「これで本当に最後です!これ以上は安全装置が作動してしまいます!
でも、どうしてこんなに加速するのですか……」
- 266 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:21:33 ID:UbAOyOrk0
(;'A`)「最高速で走れば、犯人を列車から逃げられない!
そうすれば、爆破を阻止できるかもしれない!
終点に着くまで、取り敢えずぶっ飛ばしてくれ!
着いた後のことは考えておく!兎に角、早くしてくれ!」
乗組員「成程!了解です!!」
(;'A`)「……あとは出来ることは。
犯人を見つけて、交渉することだけだ……」
- 267 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:22:29 ID:UbAOyOrk0
近くの乗客が『爆弾』と言うのを聞く。
(;'A`)「……」
見回せば、既にパニックが起きている。
『死にたくないよ』と、中年女性の叫び声が聞こえた。
もう、全て伝わっているのだ。
乗組員たちが集まって、こんなに必死にしていたら、隠し通せる方がおかしい。
- 268 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:23:12 ID:UbAOyOrk0
急げ、と自らを鼓舞して、ドクオは廊下の人混みの間をスルスルと抜けていく。
(;'A`)「ボイラー室行くぞ!」
乗組員たち「はいっ!!!!!」
(;><)「……」
ワカンナイデスは、頑張ったことを認めさせたかったが、
ドクオが切羽詰まった顔で駆けていったので、十年ぶりに空気を読む。
- 269 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:23:56 ID:UbAOyOrk0
(;><)ガタガタガタガタガタ
(大男)ガタガタガタガタガタ
ワカンナイデスは足がガタガタ震えるが、一向についていかないとマズイ気がした。
もう怖すぎて、眠くなってくる。
状況はチョーヤバいのは分かるのだが、どうにもこうにも眠いのだ。
- 270 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:24:43 ID:UbAOyOrk0
必死になってセカセカしている乗務員たちを見ると、考えてしまう。
(;><)(……僕もなにかしなくては!)
そうだ。
ワカンナイデスは、平成のジェームズ・ボンドなのだ。
こんなとこで、うだうだしてはいけないのである。
- 271 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:25:39 ID:UbAOyOrk0
(;><)「……そうなんです」
(大男)「……へ?」
(;><)「……僕は」
(大男)「……え、え?」
(;><)「……やる時はやる男なんです!」
(大男)(……あれ。なんかこの人、かっこいいぞ)
- 272 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:26:25 ID:UbAOyOrk0
(;><)「平成のジェームズ・ボンドを舐めるななんですぅー!!!!!!!!!」
(大男)(おおおおおおおおおおおおおおお)
ジェームズ・ボンドは、廊下を全速力で駆け抜ける。
電力室の前に置かれた、消火器の裏側に何かある。
(;><)(ん!?……あれは、なんです)
- 273 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:27:09 ID:UbAOyOrk0
黒い箱。
おかしい。
チョーおかしい。
あの箱は、憎きリア充どもの下にあったはず。
- 274 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 16:29:35 ID:UbAOyOrk0
ついてきた大きいおっさんの無線機が鳴る。
『応答せよ。第三車両と第四車両に、
新たな爆弾を三つ発見した。応答せよ』
(大男)「ふんぎゃああああああああああああああああああああああ!!!1」
(;><)「ぴぎゃぴぎゃぴぎゃああああああああああああああああ!!!1」
- 277 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:35:42 ID:5xuLYzhg0
= 迷走 =
- 278 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:36:41 ID:5xuLYzhg0
アナウンスが流れる。
「大変申し訳ございません。この列車は台風の影響によりまして、
停車予定のシベリア駅を通過します。お客様には、大変深くお詫び申し上げます」
乗客たちが、更にざわつきだす。
『どういうことだよ!?』という怒りの声が上がる。
(男)「パネェっすwwwwwwwwwwwwwwwwww」
(女)「無いわーーwwwwwwwwwwwwwwwwww」
- 279 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:37:26 ID:5xuLYzhg0
内臓に揺るがすように続く走行音が、一層激しくなってきている。
「探偵さん!!!」
(;'A`)「どうした!?」
「カーブです!!!このスピードでは、車体がどうなるか……」
(;'A`)「なんだって!?」
ドクオは、慌ててしまう。
カーブのことなど、全く考慮していなかった、と。
- 280 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:38:08 ID:5xuLYzhg0
爆音と共に、雷光がほとばしる。近くに落雷したのだろうか。
座席の客の顔を、瞬間的だが、真っ白に照らした。
(;'A`)「……列車は、落下するのか!?」
「そうならないことを願うしか……」
(;'A`)「くそっ!!」
「ああああ!もう、すぐそこです!!何処かにつかまって下さい!!」
(;'A`)「うお!」
- 281 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:38:49 ID:5xuLYzhg0
乗客たちが、金切り声を上げる。
ドクオの体は、ゆっくりと右側へと持っていかれる。
そして第四車両の後部座席の近くで、壁に激突する。
(;'A`)「うっ!」
右肩に鈍い痛みが走った。
ペットボトルやら、雑誌やらが床へと一斉に転がった。
同時に天井の棚から、乗客の荷物がいくつも落ちる。
- 282 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:39:32 ID:5xuLYzhg0
「大丈夫ですか!?」
続いていた揺れは、ようやく収まった。
(;'A`)「落ちなくて良かった……」
そして更に乗務員は続ける。
「それから……」
(;'A`)「どうした!?」
- 283 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:40:13 ID:5xuLYzhg0
「悪いニュースが二つ……」
(;'A`)「なんだ!?」
「爆弾が、さらに三つ見つかりました。この車両です!」
(;'A`)「……あぁ、そのことか。二つは把握してた。三つもあったか」
乗組員が驚きで戸惑ったが、ドクオは更に質問を続ける。
(;'A`)「それから、もう一つは!?」
「向かい風で速度が落ちています!!!」
- 284 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:40:57 ID:5xuLYzhg0
(;'A`)「な、なんだって!?」
「このままだと、終点へ辿りつけません」
(;'A`)「……そうか」
避難の可能性も、閉ざされてしまったのだ。
(#'A`)「ふっざけんな!絶対捕まえてやる!!」
徐々に細胞を蝕んでくる、絶望の侵入を振り切ろうと、
ドクオは第四車両を全速力で走り抜ける。
- 285 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:41:37 ID:5xuLYzhg0
最後に見た時点で、既に『00:00:20:00』は過ぎてしまった。
時間はもう、ほとんど残されていない。
犯人は絶対に潜んでいるはずだ。
どうして、犯人の一人や二人見つからないのだ。
(;'A`)「鍵!!!!!!!」
乗組員「はい!!!」
重い鉄の扉の、鍵穴がゆっくりと回った。
薄暗いボイラー室の扉が開く。
- 286 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:42:39 ID:5xuLYzhg0
そして照明が点けられる。中へと大股で進んでいく。
(;'A`)「……」
突然、立ち止まる。
後ろで緊張が広がった。
「……何か分かりました!?」
('A`)「……」
指が震えている。
いや指だけではなくて、肩も眉間も震えている。
- 287 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:43:22 ID:5xuLYzhg0
(#'A`)「……クソが!!」
ドクオは予告なく、急に走り出す。
そして棚の上にあった花瓶を、思い切り蹴飛ばした。
花瓶は、勢いをつけて床に落ちる。そして、バラバラに砕け散る。
「……!?」
乗務員は、突然の奇妙な行動に絶句する。
そして慌てながら、息切れするドクオの背中に問いかける。
('A`)「……なんだ」
「……え?」
- 288 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:44:02 ID:5xuLYzhg0
なんだ。
簡単なことじゃないか。
どうして、真っ先にこの場所へ来なかったのだ。
('A`)「……犯人の居場所が分かりました」
「えぇ!!!???」
ドクオは、入り口に集まった乗務員たちを掻き分けて、走り去った。
- 289 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:44:46 ID:5xuLYzhg0
= 対決 =
- 290 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:45:31 ID:5xuLYzhg0
「……あの探偵!」
「……え?」
「カメラを壊しやがった!」
(;゚ー゚)「さすがね。名探偵」
小型テレビに、いくつにも分割されて映し出される監視カメラの映像。
その内のいくつかに、砂嵐が入っている。
- 291 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:46:23 ID:5xuLYzhg0
「また一個壊された……」
「何処のが!?」
「ボイラー室のだ!!花瓶に仕掛けられたやつだ!」
濡れかけのシャツを激しくなびかせて、リーダー格が唸った。
近くにいるというのに大声で叫ぶ。
言葉が暴風に飲み込まれていくのだ。
舞い降りてきた自然災害が、巨大なノイズを撒き散らしている。
- 292 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:47:05 ID:5xuLYzhg0
「アイツら、俺たちのところまで来るんじゃないか!?」
「鍵を閉めよう!リーダー!」
「駄目だ。外からは閉められない」
「じゃ、一体どうすれば!?」
- 293 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:47:50 ID:5xuLYzhg0
慌てふためく彼らに向けて、車掌が言い放つ。
「……無駄だよ。俺たちに逃げ場はない」
「……え!?」
(;゚ー゚)「……」
投げかけられた、車掌の突然の諦めの言葉。
残る皆は、続ける彼へと視線を向ける。
落雷がもう一度、その場にいる全員の視界を、蒼白く包んだ。
- 294 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:48:33 ID:5xuLYzhg0
「あの毒田っていう探偵はな、潔癖なんだよ」
「……は?」
「世間じゃ、社会と市民の味方みたいに言われてるがなぁ。
結局のところ、あいつはただ、犯罪者が嫌いなのさ」
(;゚ー゚)「……」
- 295 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:49:15 ID:5xuLYzhg0
「いや正確には、人の醜い部分が嫌いなんだな。人は人の領域を犯し、傷つけあう。
そういう醜さを、ぶん殴って、踏み潰して、粉々にしてやりてぇんだ。
でも人が人である以上、決してそういう悪の部分から逃れることはできない。
だからあの男は、自分自身でさえも嫌いなんだ」
「……なんでアンタがそんなこと?」
「だが、あいつの意地とか才能とかは、そういう部分に根差してる。
正義の味方なんかじゃねぇ。あいつはまるで、ハイエナだ。
一度獲物にされれば、地獄までしつこく追いかけまわす。逃げられねぇよ」
- 296 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:49:58 ID:5xuLYzhg0
犯人たちは、完全に呆気に取られる。言葉の真意が掴めないのだ。
そして、何故そんなことを知っているのかという理由も。
理解が置いてけぼりになった彼らを待たずに、車掌が再び口を開く。
「ほらな」
- 297 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:50:49 ID:5xuLYzhg0
次の瞬間だ。
最後尾のドアが、突然蹴り開けられた。
その後、半分開かれたままのドアは、何度も蹴りつけられる。
壁に衝突して、鈍く重い音が響く。
その苦々しい雑音は、犯人たちの鼓膜を痛烈に震わせる。
車内から漏れる光を遮るシルエットが浮かんだ。
悪魔のようだ。
- 298 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:51:35 ID:5xuLYzhg0
計画は全て狂わされた。
背後で渦巻く嵐。そして扉の前に立つ男が、暴走させた列車によってだ。
そして残された最後の出口までをも、この男は塞ごうとしているのだ。
蹴り開けたその足は、震えている。
膝から僅かに流血していた。
重い鉄のドアを何度も蹴ったせいだ。
正気の沙汰ではない。
高い笛のような音が、息切れして漏れる空気に混じっている。
影になっている口元が、僅かに動き始めた。
- 299 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:53:59 ID:5xuLYzhg0
('A`)「……死ぬほどムカつく」
「……何故、この場所が分かった?」
リーダー格の男が、静かに言い放った。
緊張に支配される自らを、鼓舞しているようだった。
彼は口をすぼめ、息を吐き出す。
('A`)「……お前たちがすぐ現れないから、頭が真っ青になった。
心臓に悪いぜ、こんなの」
- 300 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:54:47 ID:5xuLYzhg0
「……何が言いたい?」
(#'A`)「探偵が足跡を見逃すと思うなっつってんだよ!!あー、ムカつく!!」
ドクオから怒りが吹き上がる。
床を突き破る勢いで蹴りつけた。
足の裏にも血が滲みそうだ。
よろけながら、犯人達に近づく。
- 301 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:55:28 ID:5xuLYzhg0
部下二人は、いかにも戦闘態勢で拳を握る。
リーダー格は、床に雨水が残っていたのか、と考える。
あの床は、こげ茶で足跡が分かりづらかった。
いや当事者には分かりづらいものほど、探偵には分かりやすいのだろうか。
「……失敗したな」
(;゚ー゚)「……」
- 302 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:56:11 ID:5xuLYzhg0
('A`)「それで、しぃ。お前はここで一体、何してるんだ?」
(;゚ー゚)「……何をしようと、アタシの勝手じゃない?」
ノイズに掻き消されそうだ。
しぃは言葉を辛うじて捻り出す。
睨み付けてくるドクオをしっかりと見返した。
('A`)「まぁ、事情は後でじっくり聞くとして」
崩れそうなほど垂らしていた上体を直立させ、犯人と向き合う。
- 303 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:56:51 ID:5xuLYzhg0
('A`)「交渉だ。爆破を止めて欲しい」
「……それは無理だな」
呆気なく断られる。
芯が篭った声だった。
ドクオは動揺する。
予想していなかったわけではなかった。
- 304 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:57:43 ID:5xuLYzhg0
('A`)「……頼む。お前たちの望みはなんだ?」
「……望みじゃない」
鼻を擦りながら、主犯格は続ける。
「俺達にはただ、義務がある。引くことのできない事情もある」
絶望的な言葉が響く。
(;'A`)「……」
- 305 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:58:28 ID:5xuLYzhg0
ドクオは感じ取った。
言葉を紡ぐ主犯格の顔に、嘘偽りがないことを。
単なる脅しやハッタリではないのだ。
自爆テロだろうか。
それに主犯格だけではない。
手すりに項垂れる小太りの男、少年のように小柄な男も、
顔に浮かんでいるのが、諦めの色なのだ。
今日のために、計画を練って、準備を整えて、
最後の最後で、あのような表情を作るだろうか。
- 306 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:59:13 ID:5xuLYzhg0
「……爆破は止められない」
(;゚ー゚)「……」
(;'A`)「……頼む。あの政治家と関係がない者たちもいる」
蚊の鳴くような声だ。
「……飲めない」
主犯格の男は、床を見つめている。
前髪が、風に靡く。
- 307 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 22:59:55 ID:5xuLYzhg0
(;'A`)「……」
「……残り時間は、もう十分もないだろう。
一緒に心中しようじゃないか、名探偵」
誰一人として動かなかった。
探偵も爆弾魔たちも。凍り付いている。
絶望に飲み込まれそうなドクオと犯人たちの横で、
クスクスと笑っている、しぃ以外は。
(*゚ー゚)「交渉中、失礼しまーす!」
- 308 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:00:39 ID:5xuLYzhg0
突然、軽快な声を上げる。
不気味なまでの明るさだ。
この状況で、何が楽しくてこんな声を上げるのだ。
狂気にしか思えない。
跳ねるような足取り。
彼女は中心へとやってくる。
主犯格の男に向き合う。
歯の見える笑顔を作った。
- 309 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:01:19 ID:5xuLYzhg0
「……」
(;'A`)「……?」
(*゚ー゚)「アタシの職業は泥棒です」
口を押さえながらも、高い笑い声を漏らす。
笑いを押し殺そうとする子供のようだ。
- 310 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:02:01 ID:5xuLYzhg0
ドクオは一人で考えていた。
泥棒が腰を上げるとき、その目的はなんだろうか。
任された潜入をすっぽかしてまで、すべきこととはなんだろうか。
その答えが浮かび上がる前に、しぃがもうそれを口にしていた。
(*゚ー゚)「解除スイッチ、頂きました♪」
しぃの中指には、銀の腕時計がぶら下がる。
リーダー格の男が握りながら、ずっと見つめていたはずの腕時計だ。
- 311 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:03:31 ID:5xuLYzhg0
彼は焦りながら、ジャンパーのポケットに手を突っ込み、そして言う。
「……!」
(*゚ー゚)「葛藤しながら、ボタンに何度も指を当ててるから、分かっちゃった。
このボタンを押すと、爆破解除の電波が送られるんでしょ」
「……お前」
(*゚ー゚)「……いつ言おうか、一人でずっと迷ってたんだけど、
実はもう解除されてるんだよね」
- 312 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:04:15 ID:5xuLYzhg0
「……結局お前は、そこの探偵のスパイだったんだな」
男の声が震えている。
その理由は、怒りか、悲しみか、悔しさか。
膝から崩れ落ちていたドクオが、安堵の息を漏らしながら口をあんぐりと開ける。
上半身を包んでいた絶望の塊のような緊張感が、緩やかに溶けていったのだ。
同時に、しぃを疲れた瞳で見据えながら、言った。
('A`)「おい、女泥棒」
- 313 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:04:59 ID:5xuLYzhg0
(*゚ー゚)「はい?」
('A`)「……ふざけんなよ」
(*゚ー゚)「……」
('A`)「……一っ言も言わずに、勝手に行動しやがって」
(*゚ー゚)「……ごめんね」
('A`)「……」
(;゚ー゚)「……って!」
- 314 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:06:06 ID:5xuLYzhg0
拳銃があった。
ドクオの顔に向けられている。
主犯格の親指が、すぐにそれを装填する。
「……お前が憎い」
('A`)「……」
「……お前がいなければ。お前が邪魔さえしなければ、
俺たちはもう今頃、本当の自由を手に入れていたんだ」
- 315 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:06:47 ID:5xuLYzhg0
部下二人が『リーダー』と唸り、全てを台無しにしてくれた、と付け足した。
ドクオの驚いた顔は、主犯格が言葉を全て吐き出した頃には、
不気味なほど冷静な顔に変わっていた。
体勢をゆるりと立て直しながら、自らを捕えている銃口を睨み返す。
('A`)「……そいつは済まなかった。
だが列車を爆発して大量殺人を図るような奴らに、
施してやる同情は持ち合わせてないな」
- 316 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:08:26 ID:5xuLYzhg0
「……お前だけでも殺してやりたいよ」
トリガーに人差し指を掛ける。
心なしか、僅かに振動している。
ドクオは車掌の男を見て、そっと口元を緩ませる。
この場所へ来たときから分かっていたことだったが、
いざ目の前にすると、どうしようもなく滑稽で、笑えるものなのだ。
- 317 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:09:29 ID:5xuLYzhg0
下手糞な変装じゃないか。
- 318 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:10:16 ID:5xuLYzhg0
('A`)「おい、ショボン。いつまで其処でふざけてんだ」
「……ははは」
('A`)「旧友がピンチだぞ?」
「ごめんよ。ドクオ」
- 319 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:11:09 ID:5xuLYzhg0
車掌の男が、一瞬のうちに銃を蹴り上げた。
舞い上がった銃は、雨降りしきる暗闇の中へと溶けてゆく。
外れかけのカツラから、男はたれ眉毛を覗かせた。
次の瞬間、リーダー格は地面へと仰向けに倒れている。
膝の裏に、強烈な打撃が飛んできたのだ。
- 320 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:11:56 ID:5xuLYzhg0
(´・ω・`)「拳銃を握る指にリアリティが欠けているね。
君は犯罪者になるには、優しすぎたってことかな」
「……アンタは!?何者だ!?」
銃声が辺りに響き渡る。
たれ眉毛が、胸元から取り出した新たな銃を撃ったのだ。
銃弾は、頭上の闇夜を突き抜けていく。
犯人たちは、その音に恐怖して顔を伏せる。
- 321 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:12:42 ID:5xuLYzhg0
(´・ω・`)「しがない情報屋の素性を知るなら、
未来へ繋がる逃げ道を知っておいた方がいい。
僕の独断と偏見は、君たちを逃がしてもいいと言っている」
「……!?」
(´・ω・`)「停車駅のホームの逆の、鉄柵を乗り越えて走るんだ。
ホームには絶対近寄るんじゃないよ。
君たちの始末屋は、今頃そこに派遣されている」
- 322 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:13:36 ID:5xuLYzhg0
目を丸くしながら、犯人の三人はタレ眉毛男を見つめている。
(´・ω・`)「兄者という男を探して、北へ行け。偽造のプロだ。
君たちの存在は、社会の表舞台から消える」
「……アンタ」
(´・ω・`)「いいね、ドクオ?君は不服かもしれないが、彼らはまぁ、未遂だ。
このまま放置しておいて、殺されるには値しないさ。
それに彼らが、今日ここで爆弾魔なんかやってるのは、事情があるんだ」
- 323 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:15:38 ID:5xuLYzhg0
('A`)「……」
('A`)「あー、おkおk。別にどうでもいいさ。
ただ散々そいつらに、追いつめられてさ。色んな意味で。
むかむかしてるんだけどな」
射るような眼差しを向ける探偵を、犯人たちは恐る恐る見つめ返す。
彼らは先程の倒れたままの姿勢で、デッキの手すりの前にうなだれていた。
- 324 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:16:32 ID:5xuLYzhg0
永遠にも思える凍りついた時間は、穏やかさを取り戻し、溶解し、流れていく。
全てが終わったのだ。
犯人たちの横に転がっていた小型テレビから、
『爆弾のタイマーが全て止まりました』という、安堵の叫び声が聞こえてくる。
- 325 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:17:15 ID:5xuLYzhg0
同時に、
(;'A`)「ふぁあ!」
という声にならない声を出して、ドクオがデッキの床へと崩れ落ちる。
(´・ω・`)「大丈夫かい?」
(;'A`)「そんな訳ないさ。もう懲り懲りだ、こんなの。本気で死ぬかと思ったよ」
横隔膜から無理矢理捻り出したように、粗くて苦しそうな溜息を吐きだした。
- 326 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:17:58 ID:5xuLYzhg0
(;'A`)「途中犯人が見つからないうえ、電車が落ちそうになったとき、
責任感に押しつぶされそうだった……。これで本当に終わったんだな」
(´・ω・`)「……」
(*゚ー゚)「……」
(;'A`)「二人とも人が悪いじゃないか。おい、ショボン。
どうしているなら教えてくれなかったんだ……」
(´・ω・`)「……ごめんよ。組織の計画だったから、君を呼ぶと都合が悪かったんだ。
君には迷惑をかけっぱなしだね」
- 327 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:18:40 ID:5xuLYzhg0
(;'A`)「そうか。やっと五百万の出所が分かったよ。あの封筒は……」
(´・ω・`)「……狐が壊した窓の修理費さ。受け取ってくれるかい、ドクオ」
('A`)「……今日のことは知ってたのか。俺たちが乗るって」
(´・ω・`)「いや、まったく。君たちとは完全なる偶然で乗り合わせたんだよ。
本当は僕一人で、今日の計画を全て止める予定だった。
極秘のルートから入手した情報でね。僕は正体を偽って、潜り込んだ。
けど彼らは最初から、僕のことを完璧に信用してなかったみたいだった。
だから、しぃを借りて解除スイッチの在り処を探ったんだ。
彼女の判断は多少勝手だったかもしれないけど、
彼女がいなければ爆発を止めることができなかった。許してあげて欲しい」
- 328 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:19:34 ID:5xuLYzhg0
ドクオは依然、床の上で意気消沈していた。
虚空を睨み付けて、険しい顔を浮かべている。
(;'A`)「おい、女泥棒」
(*゚ー゚)「……何?」
(;'A`)「もう物は盗らない約束だったよな?」
- 329 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:20:19 ID:5xuLYzhg0
(*゚ー゚)「……もしかして、信用ポイントまた減っちゃう?」
('A`)「……いや」
緩やかに減速を始めていた列車の上で、ドクオは後部ドアの向こうから、
泣きながら駆け寄ってくる探偵助手の姿を捕えた。
同時に発した『追加だよ』という覚束ない声は、
勢いを弱め始めた雨音にさらわれていった。
- 330 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/10/20(木) 23:21:09 ID:5xuLYzhg0
FIN.
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