( ^ω^)は船に乗るようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:20:47.79 ID:fbz4XvuZ0
『我々に逆らう物には、容赦ない制裁を加えさせていただく、そのつもりで居てほしいのである』

その放送は、船内全てに響き渡った。



('A`)「…………」

2015号室で、黒いローブを纏った男はその放送を聞いていた。



/ ,' 3「ほっほっほ」

2051号室で、シルクハットにタキシードといった様相の男はその放送を聞いていた。



(*゚ー゚)「……何、これ」
(  ゚Д゚) 「ちっ……」

3001号室で、国民的アイドルとその護衛はその放送を聞いていた。



ξ゚听)ξ「え?」
ノパ听)「お?」

スパ施設『アンダーグラウンド』の更衣室前で、風呂上りの珈琲牛乳を飲んでいる少女達はその放送を聞いていた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:23:09.83 ID:fbz4XvuZ0
(´・ω・`)「始まった、か」
(`・ω・´)「ああ」

2005号室で、杭と金槌を手にした双子はその放送を聞いていた。



( ・∀・)「面倒臭い事になってきたな」

2031号室で、黒いトランクを持った男はその放送を聞いていた。



('、`*川「な、何!? なんなんですかぁ!?」

レストラン『ザ・ワールド』で、ウェイトレスをやっていた女性はその放送を聞いていた。



( ゚∀゚)「あん?」

『VIPヘヴンズヴェル号』の貨物室で、解体魔はその放送を聞いていた。



( ´_ゝ`)「どういうことだ弟者」
(´<_` )「俺が知るか」

パスタハウス『ミッシェル』で、明太子パスタを啜っていた兄弟はその放送を聞いていた。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:24:14.55 ID:fbz4XvuZ0
(  ω )「…………」

2003号室で、穴だらけになった友達を見ながら、少年はその放送を聞いていた。





( ^ω^)は船に乗るようです 第二話/前編
 〜『何故か船に集った彼等』




6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:26:57.05 ID:fbz4XvuZ0
銃で武装した男が三人、『VIPヘヴンズヴェル号』の貨物室へと進入する。
レジャー船とは言えど、搭載能力はあり、物資も積んでいる。
その中から篭城用の食料を運び出すのが彼等の役目だった。

コンテナの内容物を無駄の無い手際でチェックしていく男達。
半分ほどチェックを終えたところで、その音は聞こえた。

ガタ、ゴトン

「……こちらアルファ2、物音を確認」

無線にそれを告げると、即座に返答。

「アルファ1了解、人間だったら殺していい」

「アルファ2了解」

物騒なやり取り、だがこれは紛れも無く現実だった。
コンテナの死角から聞こえる音、それに向けてすばやく銃を突きつけ、アルファ2は飛び出した。


次の瞬間、腹を貫かれていた。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:28:16.66 ID:fbz4XvuZ0
「……!?」

「ぁー、ぁー、面倒くせぇー」

ゆら、と、腹を『何か』で貫いた『誰か』が、目の前に居る。
飛び出したその瞬間には、もう密着されて攻撃されていた。
仮にも専門の施設で訓練した戦闘のプロであるテロリストを、あっさりと。

( ゚∀゚)「船の貨物室に居りゃしばらく安全だなんて、眉唾モンだなぁ、オイ」

「が、は……」

背まで貫通しているそれは、刃物のようだった。

「アルファ2、どうした、応答しろ」

無線から漏れる声には無頓着に、男はテロリストの手にした銃を打ち払い、床に落す。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:30:40.88 ID:fbz4XvuZ0
( ゚∀゚)「で、お宅何よ、何物騒に銃とかもっちゃってんの?」

「き、さま……」

( ゚∀゚)「テロとかこんな平和な国ですることじゃねーだろ、何しに来たんだよお前等」

がくがくと震えだした様子を見て、質問に対する応答がない事を確認すると。

( ゚∀゚)「何だって聞いてんだろうが……オイ」

腹に突き立てていたナイフをぐるりと回した。

「ぐぎゃああ!」
  _
( ゚∀゚)「バラッバラにすんぞコラァァ!!」

ぞくり、と全身の体毛が総毛だった時はもう遅かった。
アルファ2は外国の人間だった、だから彼の存在を知らなくても無理はない。
もし知っていたとしても、結果は同じだっただろうが。

死刑囚、連続解体殺人魔ジョルジュ。
三年前、五十八人もの人間を、解体しつくした空前絶後の殺人犯。

何故こんなところにいるのか、思考をめぐらす暇も無いほど、彼はぐちゃぐちゃに解体され始めた。
生きたまま。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:32:48.43 ID:fbz4XvuZ0
アルファ1とアルファ3、二人が目にした光景は、尋常じゃないものだった。

二人は、その連続殺人犯を良く知っていた。
今朝のニュースで脱獄した、という話も聞いてはいたが、なぜこんなところにいるのか全く理解が追いつかない。

ジョルジュはコンテナの群れの中で一層浮いている、貨物室の鈍い光の中で黒く輝く、棺おけに腰掛けていた。
あたりに散乱しているのは元人間の部品、血液は辺りにぶちまけられているが、臓物と骨と肉が丁寧により分けられ、置かれている。
何故棺桶があるのか、そんな疑問が吹き飛んでしまうほど、赤い液体が視界を染める。
自分が知っているものより、二周り以上巨大な、八十センチ以上あるグルカナイフを、男はくるくると回していた。

「…………」

リーダーであるアルファ1が戦慄したのは、それを自分達が無線の異常を受けてからここに到着するまでの、数分で終えたという事だった。
目の前に敵が居るのに、思わず体が硬直してしまう。

( ゚∀゚)「ああ、ちっとまってくれ、煙草吸いたくてさぁ」

人一人殺し終えたあととは思えないほど、普通にそんな事を言う。

「動くな!」

隊員の中でも一番若い、アルファ3ががちゃりと銃を向けた。
それを見て、ジョルジュはにたりと笑う。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:35:26.21 ID:fbz4XvuZ0
「やめ……」

アルファ1の静止より、ジョルジュが動いたのが先だった。

どちゅ、という鈍い音。

動きは見えなかった、ただ、アルファ3の体は巨大なナイフによって貫かれていた。
アルファ1もプロだ、即座に銃を向けるが、ジョルジュは器用にアルファ3の裏に回り、盾にした。
場合によっては共に撃ち殺すつもりであったが、それより先にジョルジュが口を開いた。

( ゚∀゚)「内臓は全部避けて刺した、だからこのままゆっくり引き抜いて治療すれば、助かるぜ」

殺人の熟達者だけあって、殺人『しない事』に関してもなれているという事か。

( ゚∀゚)「だからこのままお話だ、お宅ら、何が目的だ? どうしてこの船を襲った? テロの標的なら他にもいんだろ」

答えるわけには行かない、アルファ1がじっと口を噤む。

( ゚∀゚)「……オィ、テメェ口聞けんだろ」

アルファ1が話すつもりは無いと察したのか、ジョルジュは少しだけナイフを動かす。

「いぎいいいいいい!」

それだけで耳を疑いたくなるような悲鳴が響いた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:38:29.03 ID:fbz4XvuZ0
( ゚∀゚)「オラ、答えろ、即座に言え、じゃねーと殺す」

「わ、我々は偉大なる指導者の為に……」

( ゚∀゚)「あー、そういうのが聞きてえんじゃねえよ」」

偉大なる指導者、の部分でもう飽きたのか、つまらなそうに呟いた。

「……我々の役目は食料のコンテナを確保する事だ、貴様のような存在が居るなど知らなかった」

苦々しく、アルファ1は言う。

( ゚∀゚)「食料ねぇ……、大体『ニューソク』つーとあれだろ? 米の国際中継ステーション『アンビリバブル』を完全崩壊させたあそこだろ?」

無言で頷く。

( ゚∀゚)「ほぉー、なるほどなるほど、よぉしよしよし」

それに対して、なにやら納得行った様にうんうんとわざとらしいアクションをとり。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:39:37.96 ID:fbz4XvuZ0
( ゚∀゚)「なぁテロリストさんよぉ」

「何だ」

( ゚∀゚)「俺を……仲間にしろ」

予想外の言葉だった。
確かに『ニューソク』のメンバーには国際指名手配犯が何人も居る。
だがこの男はそれらとはまた一線を画する殺人者だ、単純に殺した数なら五十八人以上の者などは確かに組織にざらにいる。

しかし、その手で直接、となると、話は変わる。まして平和な国での殺人犯。

( ゚∀゚)「俺も指名手配喰らっててさぁ、船が港に着いたら適当にすたこらさっさする気だったけど……」

「…………」

( ゚∀゚)「後ろ盾があるのも悪くねぇとは思ってたところなんだ」

アルファ1は考える、目の前の仲間は治療すれば助かるという、そしてこの男の戦力は銃を持った人間を相手にナイフで渡り合える確かな物だ。
部下を一人殺されたという事実も踏まえ、しかしここで断れば恐らく自分も殺されるだろう、と判断した。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:41:43.19 ID:fbz4XvuZ0
「……なら、指導者に取り次いでやる。だから仲間を放せ」

( ゚∀゚)「へいへい」

ずる、と緩慢な手つきでナイフを抜いて、その背を押す。
どちゃり、とアルファ2の臓物の上に、アルファ3が倒れた。

「……!?」

覆面の上から、目を見開いたアルファ1.

( ゚∀゚)「おいおい、何驚いてんだよ」

ジョルジュは言う。

( ゚∀゚)「こんなでかいナイフで内臓避けて刺すとか、無理に決まってんだろ」

そもそも脊髄貫いちまってるよ、と彼は笑った。
銃を向けたら、自分も殺される事が、アルファ1には理解できていた。
指導者が居る船長室は屈強な仲間がその場を固めている、そちらに行けばこの男を殺すことも出来るだろう。
そう判断して、死体になった部下二人を、そして死体に変えた男を、手で『着いて来い』と招く。
へらへらと笑うジョルジュを、撃ち殺したくてたまらなかった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:44:32.16 ID:fbz4XvuZ0
(  ω )「………………!」

撃たれた。
クーが。

ブーンに認識できたのはそれだけだ。
銃を撃った男達の動きはプロそのもので、そのまま部屋の中に入ってきてブーンの体を押し倒す。

( ^ω^)「げう!」

何かの格闘術なのだろう、即座に頭を床にこすり付けられ、首元に銃口があてがわれる。
即座に殺されないのは何故だろうか、という事すら、今の彼には考えられなかった。

仲が良くなった女の子。今日であったばかりなのに。
殺されるようなことを、彼女はしたのか……!

恐怖より先に、怒りがわいて出てくる。
そして次に、ツンは大丈夫だろうかと思う。
あの性格だ、もし抵抗したら……。

「*?{?}‘{{」
『?{*P?*{P????_}{』

頭の上からそんなやり取りが聞こえる、知らない言語だった。

「まぁ悪く思うなよ」

続いて聞こえてきたのは、知っている言葉。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:47:45.03 ID:fbz4XvuZ0
「生き残れてよかったじゃないか、なあ」

「違いない」

ははははははは! と転がるクーの死体に銃を突きつけている男と、上に居る男。

(  ω )「お、お前等……」

ガッ、と鈍い音が響いた。
強烈な痛みが後頭部を襲う。
銃床で殴られた、と理解するのに少々時間がかかった。

「喋るな、半分減らせって話だからお前は生かしてやってるけど、別に殺してもいいんだぜ」

じゃこ、と、響いたのは銃口を向けられた音か。
それから数分間そのままで、やがて無線から何か指示を受けた男達は、ブーンの体を解放し、引き上げていく。

「この部屋から出るなよ、でたら殺す」

もうこの少年は抵抗しないと判断されたのか、それだけを告げると、男達はすばやく撤退していった。
扉が吹き飛ばされたので、でようと思えばいつでも出られる。
だがそんな気力は起きなかった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:49:09.83 ID:fbz4XvuZ0
( ;ω;)「お、おおお……」

体中を穴だらけにした、少女の死体が目に入る。
ようやく、涙がこぼれてきた。

( ;ω;)「クー、クー、ブーンを庇って……」

ずるずる、と身体の痛みに耐え、這ってその横へと移動する。

川 ゚ -゚)「なあに、気にする事は無い」

ぱちくりと死体が目を開けて言った。

( ;ω;)「そんなわけには行かないお、もっとブーンがしっかりしていれば……」

川 ゚ -゚)「いやいや、私なりの考えがあってのことだよ」

死体は起き上がって歎くブーンの肩をぽむ、と叩いた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:50:35.86 ID:fbz4XvuZ0
川 ゚ -゚)「それより今後の事を考えよう。多分ヒートがついているからツンは大丈夫だと思うが……」

( ;ω;)「そうかお、なら安心で……」

川 ゚ -゚)

( ;ω;)

( ;ω;)「えええええええええええええええええええええええええ!?」

川 ゚ -゚)「騒ぐな、また奴等が来るぞ」

口をふさがれた。
だが驚きはそれに勝っていた。

( ^ω^)「何で生きてるのおおおおおお!」

その疑問に。

川 ゚ -゚)「いや、死んでいるよ」

クーはあっさり返した。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:53:10.00 ID:fbz4XvuZ0
( ^ω^)「……へ?」

川 ゚ -゚)「正確に言えば、元から死んでいた」

そういえば、とブーンは部屋内を見る。
撃たれた時に飛び散った血液以外の、正確には、その傷口から流れ出る血液が、遥かに少ない事に。
ずる、と糸を引いて、銃弾が転がって落ちる。
ぎちぎちと音を立てて、銃創がゆっくりと、塞がっていく。

川 ゚ -゚)「私は『生ける屍』だからな」

信じられない事を、さらりと言う。

川 ゚ -゚)「差し詰め、素直クールならぬ素直グールと言ったところだろうか」

上手い事を言ってやった、と言う顔をしていたが。
その冗談は、全く笑えなかった。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 00:56:10.16 ID:fbz4XvuZ0
:ほぼ同時刻、2051号室

一部屋に二人で当たる。
それだけの人員を何処からつれてきたのか、テロリストの行動は実に迅速だった。
各部屋の扉をあけるか、吹き飛ばし、中に居る人間の半分を射殺する、一人しかいない場合は殺す。
指示通りに彼等は活動し、それに伴う死者はどんどんと増えていった。

「次はここだ」
「鍵は……かかってないな、無用心な」

がちゃり、と扉を開けると、黒いシルクハットにタキシードを着込み、ステッキを持った老人が、背を向けていた。

/ ,' 3「…………」

テロリストは容赦なく、その頭を撃ちぬいた。
ぱららら、とサブマシンガンの軽快な音が響き、シルクハットを吹き飛ばして頭の中身をはじけさせる。
そのはずだった。

「……!?」

二人は我が目を疑った、なぜなら。
銃弾が貫くはずのその身体が、眼前から消えたからだ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:01:09.46 ID:fbz4XvuZ0
/ ,' 3「いかんのう……実にいかん」

老人は、テロリストの後ろに居た。
慌てて振り向き、銃を向ける。
だが、その手に確かにあったはずの凶器は――なかった。

「な――!」

/ ,' 3「こんな危ないモンを人に向けちゃあ、行かんじゃろう」

「に――?」

気がつけば老人は元の位置に戻っていて、両手には先ほどまでテロリストの物だったサブマシンガンを、両手に持っている。

/ ,' 3「それに熟達も足りん、お主等、自分より強い相手を襲う事は全く想定しとらんようじゃな」

すう、と、硬直しているテロリストに銃口を向け、

/ ,' 3「それと」

躊躇い無く引き金を引いた。

/ ,' 3「人に銃を向けておいて自分が撃たれないなどとは思っとらんよな?」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:03:12.58 ID:fbz4XvuZ0
ぎゃあ! と言う悲鳴が響き、二人の男は床をのたうちまわった。
死んではいない、殺してはいない。
それは己の美学に反する。

だが。

/ ,' 3「お主等の大将に、優雅な船旅を壊された責任はとってもらわんといかんのう」

苦痛にもだえるテロリストを残し、優雅な足取りで部屋を出る。
彼等の誤算は、知らなかった事だ。

活動のたびに世間を騒然とさせる大怪盗、アラマキがVIP号に乗っていた事を。

/ ,' 3「全くもって美学が無い……」

まずは周囲の様子を探るべく、悲鳴と銃声の飛び交う部屋の外へと、老人は歩みを進めた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:05:10.56 ID:fbz4XvuZ0
:ほぼ同時刻、2015号室

一部屋に二人で当たる。
それだけの人員を何処からつれてきたのか、テロリストの行動は実に迅速だった。
各部屋の扉をあけるか、吹き飛ばし、中に居る人間の半分を射殺する、一人しかいない場合は殺す。
指示通りに彼等は活動し、それに伴う死者はどんどんと増えていった。

「次はここだ」
「鍵は……かかってないな、無用心な」

がちゃり、と扉を開けると、黒いローブを纏った男がじっとこちらを見つめていた。

('A`)「…………」

テロリストは容赦なく、その頭を撃ちぬいた。
ぱららら、とサブマシンガンの軽快な音が響き、ローブを裂いて頭の中身をはじけさせる。
そのはずだった。

「……!?」

二人は我が目を疑った、なぜなら。
男の頭が霧となって、銃弾が通過していったからだ。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:06:32.39 ID:fbz4XvuZ0
('A`)「……折角夜になったというのに」

ローブは霧にならず、それだけは予想通りに裂かれて落ちた。
不健康な皮膚の色をした、ガリガリの男。
Tシャツにジーンズと言うラフな服装だったが、健康さとは程遠かった。

('A`)「騒がしいな……お前等」

「く、くるな!」

思わず声を上げ、引き金を引く。
だが銃弾は先程と同じように、男の体を通過していった。
撃たれた部分がきりになる、銃弾は男にダメージを与えられない。

「な、何だお前!」

('A`)「無学だな」

心底気だるそうに、言う。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:08:51.28 ID:fbz4XvuZ0
('A`)「身体を霧に変換できる生き物はそうはいない、だから直ぐに察しろ。せめて十字架と銀のナイフをもって、朝に襲い掛かってくるべきだった」

ぱらららら、かきん、かきん。
銃弾が尽きたのか、もうその銃からは乾いた音以外、何もでてこなかった。

('A`)「俺の名はドクオ、第六の位に『欝』の称号を持つ――」

そして、手が伸びる。
テロリストの喉に、爪が食い込む。

('A`)「吸血鬼だ」

ずるぅ、と何かの音がした。
次の瞬間、そのテロリストの体から血液と言う血液全てが抜き取られ、枯れ果てた。
もう一人がどうなったかなど、あえて語る必要も無い。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:09:57.81 ID:fbz4XvuZ0
('A`)「二人か、男の血だがまぁまぁ、か」

ミイラになったそれらを見下ろして、ドクオは溜息をつく。

('A`)「こいつらは全ての部屋を襲っているのか……?」

なら、と彼の思考は進む。
それならば、より多くの死体があるはずだ。
即ち、自分の食事が。

('A`)「これは……とんだサプライズかもしれんな」

ドクオはじっくりと吟味する、今の状況を。
そして彼は、しばらくこの部屋に居る事にした。

死体が増えて状況が落ち着いたら、ディナータイムの始まりだ。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:13:20.28 ID:fbz4XvuZ0
:ほぼ同時刻、2005号室

一部屋に二人で当たる。
それだけの人員を何処からつれてきたのか、テロリストの行動は実に迅速だった。
各部屋の扉をあけるか、吹き飛ばし、中に居る人間の半分を射殺する、一人しかいない場合は殺す。
指示通りに彼等は活動し、それに伴う死者はどんどんと増えていった。

「次はここだ」
「鍵は……かかってないな、無用心な」

がちゃり、と扉を開けると、顔が同じ……双子だろう、二人の少年がこちらを向いていた。

(´・ω・`)「…………」
(`・ω・´)「…………」

二人いた場合は右を撃つ、と彼等は事前に決めていた。
どちらかというとしょんぼりした顔をしている方に銃口を向け、テロリストは容赦なく、その頭を撃ちぬいた。
ぱららら、とサブマシンガンの軽快な音が響き、ロを裂いて頭の中身をはじけさせる。
そのはずだった。

「……!?」

二人は我が目を疑った、なぜなら。
弾丸が鋭い金属音と共に、弾かれたからだった。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:14:34.19 ID:fbz4XvuZ0
(´・ω・`)「全く……本当にアイツに関わるとろくな事がない」

銃弾を浴びせられたショボンは、動ぜずそれだけを呟いた。
右手に金属製の杭、左手には金槌を持っていたが、まさかそれで防いだとでもいうのか。

「貴様……!」

再び引き金を引こうとしたテロリストの手を

(`・ω・´)「させねえよ!」

カァーン、と甲高い音と共に、何かが貫いた。
それはショボンも持っていた、金属製の杭。
シャキンもまた、両手にその装備を携えており……その杭を空中で打ち、命中させたのだ。

「!」

それに驚いたもう一人に、シャキンは即座に接近していた。
身体を深く沈め、遠心力と腕力で、残った金槌をぶつける。


テロリストの、股間へと。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:19:11.42 ID:fbz4XvuZ0
口から泡を吐いている男の身を襲った激痛は、想像しただけでどうにかなりそうなものだろう。
銃を落とし苦痛に歪んでいる方にも同様の処分を行い、絶叫が響いた。
男して機能しなくなった二人を尻目に、ショボンはつかつかとシャキンに歩み寄る。

(´・ω・`)「さて、これからどうする?」

(`・ω・´)「どうするもなにも、とりあえず予定変更だろ」

(´・ω・`)「というと?」

ずる、と悶絶している男の手から杭を引き抜き。

(`・ω・´)「ブーン達助けに行くぞ」

(´・ω・`)「言うと思った」

ショボンとシャキン、彼等がVIP号に乗った目的はただ一つ。


『この船に乗っているはずの吸血鬼を始末する事』


予期せぬ事態にも、ヴァンパイアハンターの双子は全く動じる事はない。
普段相手にしているのが異形なのだ、ただの人間など、恐れる必要性を感じなかった。
とりあえず、今日の出会いを大事にする為に、足並みをそろえて部屋を出る。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:22:37.03 ID:fbz4XvuZ0
:ほぼ同時刻、3001号室

一部屋に二人で当たる。
それだけの人員を何処からつれてきたのか、テロリストの行動は実に迅速だった。
各部屋の扉をあけるか、吹き飛ばし、中に居る人間の半分を射殺する、一人しかいない場合は殺す。
指示通りに彼等は活動し、それに伴う死者はどんどんと増えていった。

「次はここだ」
「鍵は……かかってないな、無用心な」

がちゃり、と扉を開けると

即座に顔面を蹴り抜かれた。

「がっは……!」

(  ゚Д゚) 「……」

放送が不穏な気配をかもし出したその瞬間、ギコはもう扉の前で構えていたのだろう。
無言でもう一人へと蹴りを放つ。

「ぐ!」

しかしテロリストもまた素人ではなかった、即座に飛びのいて離れると、引き金を引く。
ギコは即座に壁に身を隠し、室内にぱらららら、という音と共に弾痕と硝子の割れる音が刻まれた。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:26:01.47 ID:fbz4XvuZ0
(  ゚Д゚) 「しぃ! かがんでろ!」

(*゚ー゚)「でも!」

(  ゚Д゚) 「いいから!」

ギコの指示だったのだろう、既に部屋の隅に居たしぃを手で制し。

(  ゚Д゚) 「殺せるもんなら、殺して見やがれよ……」

呟いた。
銃声が止まる、単に弾切れと言うわけでは無いだろう。
こちらが姿を見せたら即座に引き金を引くつもりだろうし、あるいは飛び込むタイミングを伺っているかもしれない。

(  ゚Д゚) (さて、どうするか……)

しぃがいなければ、攻撃に打って出るところなのだが。
彼の役目は護衛だ、しぃに危害を加える全ての要素を排除する必要がある。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:28:45.48 ID:fbz4XvuZ0
(  ゚Д゚) 「…………」

慎重に気配をうかがう、扉の外からは悲鳴と怒声が溢れ返っていたが、自分に殺気を向けている相手の状態ぐらいは読み取れる。
動いた、と思った。
敵はこちらに飛び込もうとしてきている。

ならば。

(  ゚Д゚) 「今だ!」

だ、っと駆ける。

「!」

相手もまた重心を前に移動させ、部屋に踏み込もうとしていたのだろう。

(  ゚Д゚) 「せあ!」

その隙を見逃したら、プロではない。
銃を蹴り上げ、顎に頭突きを叩き込む。

言葉も無く、ぐらりと身体を揺らし、悶絶するテロリスト。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:30:09.38 ID:fbz4XvuZ0
(  ゚Д゚) 「……っし」

他の部屋にもテロリスト達は攻撃を仕掛けているのだろう、銃声がぱららら、と絶えず聞こえる。
だが彼の役目はしぃを守る事だった、即座に部屋に退避し、今後の対応を練ろう。
そう思ったとき、最初に顔を蹴り抜かれた男が、起き上がった。

(  ゚Д゚) 「な!」

相手の上半身は部屋に入っていた、そして手にはまだ銃が握られている。
つまり、扉に伝う壁の隅に居る少女に、引き金を引く事ができる。

(  ゚Д゚) 「やめろおおお!」

駆け出しながら叫ぶギコの言葉に、テロリストが従う道理はない。
彼が何かする前に、ぱらららら、という銃声が鳴り響いた。

(  ゚Д゚) 「……っ、やっちまった! 馬鹿野郎!」

ギコは慌てていた。
だがその慌て方は、守るべき対象を殺された護衛の顔ではなく。

何か、他にとんでもない物を目覚めさせてしまったかのような。

それを実体験しているのは、銃を撃ったテロリスト、当の本人だった。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:31:14.52 ID:fbz4XvuZ0
銃弾が、空中に止まっている。

しぃが右手で掲げているのは、先端に星の飾りがついた、おもちゃの杖。
それが指揮棒の様に振られると、ぱたたたた、と弾が床に落ちていった。


「……は?」


思わずそんな声を出したテロリストに向って、しぃは言う。

(*゚ー゚)「ダメだよ、こんなことしたらっ!」

場の空気に似合わない、可愛らしい声で。

(*゚ー゚)「だから、おしおきっ」

しぃは杖を振った。
直後、大爆発が起きた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:32:17.30 ID:fbz4XvuZ0
その爆発は志向性を持っていて、部屋に居たテロリストだけを正確に飲み込み、他の何も焼かずに部屋の外へとたたき出す。

(  ゚Д゚) 「うごっ!」

位置的にその吹っ飛んできたテロリストに命中し、ギコは一緒に壁にぶつかった。

(*゚ー゚)「……あれ?」

(  ゚Д゚) 「あれ? じゃねえ!」

黒こげになったそれを横に投げとばし、つかつかとしぃに歩み寄る。

(*゚ー゚)「しぃ、ちょっと失敗♪」

(  ゚Д゚) 「可愛く言っても駄目だろ!? 『♪』じゃねえよ!  お前の正体がばれたら……」

(*゚ー゚)「人間界にいられない、でも何もしないなんて私には出来ないよ!」

魔法少女アニメの声優を勤めている、しぃがそのまま魔法少女。
その秘密を知っているのは、事務所の一部重役とギコだけだった。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:35:33.52 ID:fbz4XvuZ0
苦々しい口調で、ギコは言う。

(  ゚Д゚) 「……だから俺が居るんだろうが」

(*゚ー゚)「私今、危なかったじゃない」

それを言われると頭が痛い。
いざとなったら、しぃならば問題なく処理できるという信頼があっての油断だったのかもしれない。

魔法の国、と呼ばれる世界があるらしい。
そこから十年に一度、人間界に留学に来るお姫様が居るらしい。
お姫様は人間界で、自分の名前を広めなくてはならないらしい。
だが、身近な者以外には決して正体を明かしてはならないらしい。
もし規則が破られれば、しぃに関わる全ての記憶は消され、彼女は魔法の国へと戻らなければならない、らしい。

それを七年前、所属事務所の社長から聞いた時はこのおっさん頭どうかしてんじゃねえのか死ねばいいのに、と思ったものだ。

実際に魔法を見せられて、彼女の存在を受けいれるまで二年かかった。
そして、五年間、彼女と接してきた。
だから次に言い出すことも、わかる。

はぁ、と溜息をついて、ギコは言った。

(  ゚Д゚) 「んで、当然他の乗客を助けるんだろ?」

(*゚ー゚)「当然!」

魔法の杖を回しながら、一歩部屋の外へとでる。
まだ悲鳴と銃声は絶えない、ギコに手を引かれるようにして、二人は隣の部屋へと飛び込んだ。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:37:15.33 ID:fbz4XvuZ0
:少し前の時間、巨大スパ『アンダーグラウンド』


ξ゚听)ξ「うわぁ……」

ジャグジー風呂、水風呂、電気風呂、薬効風呂、サウナ室。
他にも中央に設置された、お湯の湧き出る噴水や、壁にあるライオンの口、天使の像が持つ水がめからもお湯が流れる。
それら全ての面積をあわせると、ツンが行ったことのある銭湯の、十倍以上は広かった。

ノパ听)「ひゃっほおおおい!」

飛び込み禁止、と書かれた看板の横で、ヒートが問答無用でジャンプしてお湯に沈む。

ξ゚听)ξ「ひゃっ」

近くにいたツンはもろにその熱いお湯を浴びる事になり、思わず変な声を出してしまう。

ξ゚听)ξ「もー、飛び込んだらだめって書いてあるじゃない!」

『VIPへヴンスヴェル号』の最大の魅力と言っていいかもしれない、巨大スパ施設『アンダーグラウンド』。
男湯と女湯が分かれていてこの広さなのだ、呆然としてしまうのも無理はなかった。

ノパ听)「ごめんごめんー!」

ξ゚听)ξ「まったく……」

言いながらも、その表情は『しょうがないなあ』と言った感じだ。
ツンも湯船に足をつけ、そのまま全身を沈めていく。
足を伸ばし、ぐーっと伸びをすると、温度が肌に伝わり、心地いい。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:38:46.17 ID:fbz4XvuZ0
ξ゚听)ξ「あー……これいいかも……」

本当に泳げるぐらい広く、ヒートは勢いに任せてぱしゃぱしゃと手を水面にたたきつけていた。

ノパ听)「ひろくってきもちいいぞー!」

ξ゚听)ξ「あんまり迷惑かけちゃ駄目よー!」

しかしステーキハウスと同じで、人口密度はそう大した物ではなかったので、幸か不幸か近くにも人は少なかった。

十六歳と言う年齢に比較しては、ツンの身体は起伏に富んでいない、なめらかな肌だった。
無論、乳房が無いわけではない、名前と同じようにツンとたった二つのそれは薄いながらも柔らかそうに膨らみ、しっかりと存在を示していた。
それでも、例えばブーンが熱狂的なファンであるしぃなどは、まだ十四歳でDカップの壁を突破したらしい。
イベントで見た時も、確かにそれは本物だった。揺れてたし。

ξ゚听)ξ「はぁ……」

何でこんなところまで来て胸の大きさで溜息なんかつかなきゃならんのだろうと考えていると、ヒートがばしゃばしゃよとってきて。

ノパ听)「あれ、ツンねーちゃん泳がないのか?」

ξ゚听)ξ「いや、泳ぐ場所じゃないから」

ノパ听)「え、そうなの!?」

驚愕の表情をされた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:41:29.86 ID:fbz4XvuZ0
ξ゚听)ξ「あーもう……、ほら、髪の毛洗ってあげるからあがっておいで」

ノパ听)「うん!」

素直に頷いて、ざぱっとあがってくるヒート。
バスタオルを巻いてない、隠そうともしないその裸身の、胸元にツンの目が止まる。

ノパ听)「?」

ξ゚听)ξ「……なんでもない」

同じだ、私と同じぐらいだ……、という呟きは、幸い誰の耳にも聞かれなかった。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:42:51.09 ID:fbz4XvuZ0
長い髪の毛は指どおりが実に良く、するするとツンの手櫛を通した。

ノパ听)「〜♪」

髪の毛を洗ってもらうのが好きなのだろう、ヒートはぱたぱたと足を振って、ツンに身を任せていた。

ξ゚听)ξ(あー、サラサラだわ)

くせっ毛の自分と違い、この少女の髪質のなんと美しいことか。
色々と羨ましさを感じながら、ゆっくりとシャンプーを泡立てて少女の髪の毛を包んでいく。

ノパ听)「ツンねーちゃん上手だなー、気持ちいーぞー」

ξ゚听)ξ「そう? ありがと」

ノパ听)「あとで背中流してやるぜ!」

ξ゚听)ξ「お願いするわ」

笑いながら、今度はシャワーでしっかりとすすぐ。
髪を痛めないように注意しながらきゅ、と絞って、水気を切る。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:44:33.61 ID:fbz4XvuZ0
ξ゚听)ξ「トリートメントは?」

ノパ听)「いらねー! アレやると髪がなんかごわごわする!」

ξ゚听)ξ「トリートメントなしでそれっすか……」

羨ましい。
こんな小さな子に嫉妬しても……と思わなくも無いのだが、ツンはぷにぷにとその頬をつっついてみた。

ノパ听)「お、お、おー」

そのたびに大げさな反応をするヒートを見て、やっぱり笑ってしまう。
それから背中を流される時、くすぐられたりなんだり、きゃいきゃいと遊んでしまう。
本当に姉と妹の様な情景に、遠くから微笑ましい視線が注がれていた事には、ツンは気がつかなかった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:45:45.92 ID:fbz4XvuZ0
ξ゚听)ξ「これでよし、と」

ノパ听)「とぐろー!」

パジャマに着替えたヒートの頭にタオルを巻いてやり、ぽんぽんと叩いて安定性を確認する。
広い脱衣所には二人しか居らず、のんびりと着替える事ができた。

ξ゚听)ξ「じゃ、もどろっか」

ノパ听)「おー!」

元気良く腕を振り上げ前を歩くヒートを、ツンはくすくすろ笑って追った。

ξ゚听)ξ「あ、ちょっとまって」

ノパ听)「ん?」

脱衣所の出口近くに、自動販売機が置いてあった。
瓶の牛乳がいくつか並んでいる、

ξ゚听)ξ「普通の、珈琲、イチゴ、バナナ、どーれだ?」

ノパ听)「こーひー!」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:49:21.83 ID:fbz4XvuZ0
じゃ私もそれで、と硬貨をいれてボタンを二度押す。
がしゃんがしゃん、とでてきたそれをヒートが取り出し、ツンに一本を差し出した。

ノパ听)「ありがとー!」

ξ゚听)ξ「どういたしまして」

ふたを取り、こくこくと音を立てて珈琲牛乳を飲むヒートを微笑ましげにみて、ツンも自分のに口をつけた。

それと同時に、スピーカーからぴんぽんぱんぽーん、と音が流れた。

ノパ听)「お?」

ヒートが茶色い髭をつけた顔で、スピーカーに視線を向けると

『お客様方、本日はVIP号をご利用いただき、まことにありがとうございます。船長のセントジョーンズです』

という声が聞こえてきた。

ξ゚听)ξ「ああ、船内放送あるんだ」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:50:50.72 ID:fbz4XvuZ0
腰に手をあてぐびぐびと珈琲牛乳をあおるツン。

『VIP号の施設はお楽しみいただけたでしょうか、明日も引き続き……何だ!』

その放送が、突如不穏な物へと変わる。

『ここは立ち入り禁止だ、申し訳ないが……何、う、うわぁ!』

ξ゚听)ξ「え?」

『パァン パァン パァン』

続いて聞こえてくる、小さな音。

ノパ听)「今の、銃声だ」

ξ゚听)ξ「銃声!?」

『あー、テス、テス、テス』

そして、聞いた事も無い男の声。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:52:19.74 ID:fbz4XvuZ0



『乗客の皆様、始めまして。早速ですがこのVIP号はテロ組織『ニューソク』が乗っ取らせていただくのである』


『皆様は人質です、大事な、我々が悪の国家と戦う為の大事な人質である』


『ですが、千人は多すぎると、偉大なる指導者である私は思うのである』


『よって、半分ほど、我々が本気であるという事を証明する為に、消えてもらおうと思うのである』



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:53:22.66 ID:fbz4XvuZ0
ξ゚听)ξ「……は?」

ノパ听)「え、あ、え?」

困惑する少女達に追い討ちをかけるかのように。
次の瞬間、脱衣所に武装した男が三人、飛び込んできた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:54:53.25 ID:fbz4XvuZ0



『我々に逆らう物には、容赦ない制裁を加えさせていただく、そのつもりで居てほしいのである』




そしてその声が響くと同時、ぱららら、という音と同時に、銃弾が二人の少女を襲った。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:56:19.36 ID:fbz4XvuZ0
キンキンキンキン、と金属と金属がぶつかり合う音が響いた。

ξ゚听)ξ「………………」

ツンは目も閉じる事もできず、ただ呆然と唐突な状況を理解しようと勤めていた。
彼女が確認した光景を、そのまま文章に直すと、こうなる。

ノハ )「…………」

全ての銃弾は、まるでヒートに吸い寄せられるかのように集まり、彼女の胸元に命中した。
そして、金属音が聞こえた。

テロリスト達も何が起きたのか理解できてないのだろう、硬直して動かない。
一瞬だけ、時が止まった。

ノハ )「い……」

そしてその時を動かすのもまた、少女だった。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:57:11.09 ID:fbz4XvuZ0
ノパ听)「い、ってええええええええええええええ!」

叫び声と同時、我に帰った男達が再び引き金を絞る。

ノパ听)「何すんだよぉぉぉぉ! オラァ!」

ツンにはもはや何が何だかわからない。
なにせ、『ヒートの右手首から先が真横に有線で射出された』、のだから。
そんな光景、生で見て状況を把握できる方がどうかしている。

ノパ听)「磁力展開!」

その声と同時、放たれた銃弾はおろか、それを吐き出したサブマシンガン。
さらには脱衣所にあった体重計や扇風機など、あらゆる金属類がヒートが放った右手めがけて集まっていく。

「な、なんだ、これは!」

ξ゚听)ξ「え、え、ええええええ!?」

ノパ听)「折角いい気分だったのに……パジャマもぼろぼろだあああ!」

ばさり、ととぐろに巻かれていたタオルがはだけた。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:58:35.67 ID:fbz4XvuZ0
十二歳で、小柄だけど元気一杯な、可愛い妹の様な女の子。
その認識を、ツンは改める事になった。

左手がくいいいん、と音を立てて、手首に吸い込まれていく。
代わりにでてきたのは、金属のノズルだった。

それを視認した、最もヒートに近いテロリストは、叫んだ。

「退けええええええええええ!」

それとほぼ同時に

ノパ听)「内臓武装28、高出力火炎放射器『フレイムへイズ』!」

ヒートの叫び、そしてそのノズルから火炎が噴出した。

「うわああああああああ!」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 01:59:52.47 ID:fbz4XvuZ0
男達は即座に引き返した。
彼等は火炎放射器がどういうものかを知っている。
ただ火を出すだけではない、同時に液体火薬を噴出するその兵器は、人間を文字通り一瞬で灰にする火力を持つのだ。

異常事態ではあったが、少女の左手から出てきたものがなんなのか、最初に叫んだテロリストには判断できたのだろう。

ノパ听)「ふんっ!」

男達が消えたのを確認すると、ヒートは『磁力解除』と言った。
同時にがちゃがちゃと音を立てて、右手に集中していた金属類が床に落ちていく。
きゅいいいいいいん、とモーターを回す音が聞こえて、有線で接続されていた右手は巻き上げられ、手首へと戻って行く。
同様に、火炎放射器となっていた左手もかちゃかちゃとたたまれ、数瞬後には左手が存在していた。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 02:00:37.63 ID:fbz4XvuZ0
ノパ听)「いやー、危なかったな。行き成り銃ぶっぱなしてきやがって!」

あー! 珈琲牛乳がー! とぷんすか怒るヒートに、ツンはそろそろと尋ねた。

ξ゚听)ξ「あ、あの、ヒートちゃん、今のは……」

ノパ听)「あれ、いってなかったっけ」

ヒートは当然、という風に言う。


ノパ听)「俺、サイボーグなんだ!」


ああ、だからあんなに射撃が上手かったのか。
と、少しずれた事を、ツンは思った。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/17(木) 02:01:23.26 ID:fbz4XvuZ0
VIP号を巡る物語は、ここからようやく始まろうとしていた。
舞台の幕は、半分ほど開かれた。

役者の半分は舞台へと上がり、自らに与えられた役割へと向う。

そしてまだ、役者は残っている。



〜To Be Continued…


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