- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:18:27.62 ID:cTmOhn7h0
- 前置き
タイトルでお分かりの通り、サイレントヒルをテーマにしたブーン系です。
某日に立ったスレでタイトルだけ上がっていたものをいただきぱっくんちょ。
シリーズをプレイしていない方も楽しんでいただけたら幸いです。
由来となる作品は複数で、オリジナルの部分とまぜこぜです。
大まかにですが、地理関係は2、または3の後半部分を参照してください。
※かなり構造とかは曖昧にしてあります。
暴力や性的描写などの点から、閲覧注意、とさせていただきます。
うまく短編というものに収まらないので、投下を分けます。
お時間の許す限り、今回分、お付き合いください。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:20:58.11 ID:cTmOhn7h0
【Start】
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:22:44.87 ID:cTmOhn7h0
- 対向車のライト。
すれ違う乗用車。
ξ゚听)ξ「この辺も変わらないわね。もっとも、変わりようなんてないのかしら」
看板がぼんやりと眼に映った。
[ようこそ、サイレントヒルへ]
観光用の派手なカラーと遊園地のペイント。
マスコットのウサギがけばけばしいピンクをアピールしている。
ξ゚听)ξ「ロビーちゃん……好きだったな」
夜道に霧が立ち込めている。
サイレントヒルの四月はいつもこうだ。
暖かい時期に差し掛かると町の名所のひとつ、トルーカ湖から霧が出る。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:24:09.96 ID:cTmOhn7h0
- ξ゚听)ξ「やっぱり寂しい土地だわ。観光の名所があるなんて言うけれど」
ハンドルを安定させながら、ホルダーのマグを取る。
すっかりぬるくなったカフェ・オレ。
ξ゚听)ξ「ブーン……」
――お? 故郷に帰りたいのかお?
――うん、ごめんね。急に昔の同僚が会いたいって。
――なら行って来るといいお! 家事くらいへのかっぱだお。任せろお!
家を出る前にかけられた優しい言葉。
不義を知らない夫の優しさ。
妻としていたらない部分の多い、わたしに向けられた、その笑顔。
ξ )ξ「終わらせてくるわ」
エンジンの振動を感じながら、なおも車を走らせる。
寂れた飲料会社の看板――『スパーク&フレッシュ!』――が霞んで見えた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:25:38.66 ID:cTmOhn7h0
- ハイウェイを下りて一時間、わたしはネイサンアベニューに到達していた。
晴れていればサウスヴェイル地区が一望できる丘を通る。
土産の売店は戸締りを済ませている。
小さい頃、ここで、お父さんにアイスをねだったんだっけ。
ストロベリーとチョコミントでダブル。
途中で落として泣いた覚えがある。
ξ゚听)ξ「郷愁ってヤツかな。……子供か」
わたしはそんな思い出を作れるのだろうか。
娘、あるいは息子。
そんな夢を見てもいいのだろうか。
物思いにふけり、知らずのうちにアクセルを踏みすぎていた。
そんな時、不意に霧の中に人影を見つける。
目前に迫ったそれを避けようと、急激にハンドルを切る。
ξ゚听)ξ「――――!!」
滑る路面が車を横転させ、ぐしゃ、と車体が歪む。
衝撃に意識を手放したのは直後だった。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:27:13.75 ID:cTmOhn7h0
ξ゚听)ξはサイレントヒルで看護婦をやっていたようです
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:29:28.59 ID:cTmOhn7h0
- ξ )ξ「……い、た、たたた」
目が覚めた時、身体中に痛みが走った。
少し身体を休めて、割れたフロントガラスから様子を伺う。
ξメ゚听)ξ「ここは……ガードレールの下まで落ちちゃったのね」
なんとかドアを蹴飛ばすようにして開ける。
ひしゃげた金属板は根元から外れた。
ガードレールを突き破ったのか、丘の展望台がぼんやりと上に見える。
車を降り、つきっ放しのライトの前に出て気付く。
砕けたガラスで少し手を切っていた。
持ち歩いている応急キットで一応消毒、そして絆創膏を貼る。
ξメ゚听)ξ「保険会社に連絡しなきゃ」
大きな怪我をしなかったのは不幸中の幸いか。
しかしローンの残る自動車を潰してしまったのは残念だ。
いや、これから成そうとしていることの前では、些事かもしれないな。
ξメ゚听)ξ「あれ?」
携帯電話越しに聞こえてきたのは、ツー、という音のみ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:31:59.12 ID:cTmOhn7h0
- 電波状況は――アンテナ三本。
良好のはずだった。
ξメ゚听)ξ「どうしたのかしら」
ためしに自宅に電話をかける。
今日は夫がそこにいるはずだ。
しかし、
ξ;゚听)ξ「繋がらない……」
崖下の草地に壊れた車と自分。
夜闇の中で、見えるのは車のライトに照らされた木々だけ。
風が霧を舞い上げ、冷たく身体を撫でた。
孤独が押し寄せ、胸を押し潰しそうになる。
ξ;゚听)ξ「そうだ、非常用のライトがトランクにあったじゃない」
夫の提案で「非常用」のものはある程度車載している。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:33:42.66 ID:cTmOhn7h0
- 車内灯に照らされた乾パン、シートベルトカッター、スペアのタイヤ、等々。
エマージェンシーブランケットのパックの下に、それを発見する。
手に取ってスイッチを入れた。
ξメ゚听)ξ「電話を探さなくちゃ……」
丘から町に続く道があったはずだ。
そちらは、本来進もうと思っていた車道より直線距離としては近い。
肩掛けバッグを引っ張り出し、いくつか道具を詰め、歩き出す。
目指したのはいわゆる散歩道、観光用のルートだった。
暗い森の中を、わたしは下る。
五分ほどして不安を覚えた頃、ついに靴が砂利を踏む。
ξメ゚听)ξ「あとはこれを辿っていけば良いわね」
じゃり、じゃり、じゃり。
丸文字の立て札がある。
[あと100mで休憩所だよ!]
ξメ゚听)ξ「電話くらいあるといいんだけど」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:35:29.25 ID:cTmOhn7h0
- 簡素な休憩所に電話は、果たして、あった。
25セント硬貨を取り出して受話器を耳に。
しかし、放り込んだコインはそのまま排出される。
ξメ゚听)ξ「……駄目だわ。使われてなかったみたいね」
いよいよもって町まで降りる必要がある。
そして、とにかく病院へ。
――最近ご無沙汰じゃないですか、戻ってきてくださいよ。
ξメ )ξ「どうあってもアイツだけは許せない」
ぎり、と奥歯を噛み締めた。
電話口で聞いたあの気取った声がよみがえり、頭に怒りが満ちる。
神経が昂ぶってきたのは好都合だった。
冷えてきた身体がかっかとして、寒さと孤独を誤魔化せたからだ。
しくじらないように、絶対に……。
わたしの足は林間を進む。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:37:46.18 ID:cTmOhn7h0
- 「――――!!」
ξメ゚听)ξ「えっ!?」
新たな立て札を二つ通り過ぎた辺りで、遠吠え。
野犬?
それにしては随分と聞き覚えのあるような叫び。
鞄の中に入れた「それ」を取り出しかける。
ξメ゚听)ξ「人間の悲鳴、なわけ、ないわよね」
ふと浮かんだ考えを振り払い、また立て札を発見する。
井戸の横にそれはあった。
しかし、異質。
ξメ゚听)ξ「なによ、これ」
看板に刻まれたのは矢印と町までの距離。
色は茶色と黒と、そして赤。
血のような、赤。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:40:06.00 ID:cTmOhn7h0
- ところどころがべったりと汚れて読めない。
辛うじて拾えたのは、
[サイレ――ま――200848291834929km――――いで、まま]
まま?
まま。
ママ、か?
ξメ゚听)ξ「何兆kmよ。悪い冗談だわ……」
ひやりと背中に嫌なものを感じながら、鼻で笑う。
懐中電灯を逸らして横を通った時、再び遠吠え。
驚いて振り向いた先には、何も見付からなかった。
ξメ )ξ「なによ。なんなのよ。なんだっていうのよ」
歩を、進めた。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:41:49.02 ID:cTmOhn7h0
- 足元の砂利道が終わり、柔らかい地面に変わった。
ここは共同墓地か。
びくびくしたものの、何事も起こらずに舗装された道路が現れる。
この道は知らない。
コンクリートに生えた標識に従い、溝川沿いを歩く。
フェンスの並ぶ静かな道路に響く足音。
しばらくして本来、車で通過する予定だった高架下をくぐる。
資材が多く立てかけられた壁が、コツコツという反響音を返す。
そこを抜けて、続く道路を行くとようやく町の端に到達できた。
ξメ゚听)ξ「?」
しかし、異常に静かだ。
観光客向けの地区ではないが、人気がなさすぎる。
三年前、この町にいた時のことを思い出す。
ξメ゚听)ξ「バーさえ開いてないのはおかしいわ……」
あらゆる店がシャッターを下ろし、窓明かりさえ漏れていない。
電話ボックスを交差点の一角に認める。
コインを取り出し、投入。
『――。――。――』
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:45:11.03 ID:cTmOhn7h0
- ダイヤルより前に聞こえて来たのは、ノイズだった。
ひどい砂嵐のような雑音。
だが、時折人の声も聞こえるような気がする。
ξメ゚听)ξ「え? ハロー?」
『――。――。――』
ξメ゚听)ξ「ハロー?」
『――。――。――』
ξメ゚听)ξ「……え」
かすれた小さな小さな頼りない声。
わずかに聞き取れた単語。
――やめて。
ぶつん。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:46:29.92 ID:cTmOhn7h0
- ξメ゚听)ξ「切、れた」
それっきり、受話器からは何も聞こえてこなかった。
わたしはしばらくそのまま立ち尽くしていた。
ξメ゚听)ξ「なんなのかしら」
サイレントヒルの町は、霧は、答えてくれない。
懐中電灯しか明かりの無い中、縁石に腰掛ける。
車がちらほら停まっているのに、人は見当たらなかった。
ξメ゚听)ξ「……」
黙っていると様々な想いが巡る。
わたしの過ち、後悔、負の感情。
荒んだ心のまま、交差点を眺める。
ξメ゚听)ξ「あら?」
向かいの雑貨屋のシャッターが開いている。
わたしは人を求めて入っていった。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:48:30.00 ID:cTmOhn7h0
- 店内は明かりさえないものの、暖かい。
空調だけはついているのだろうか。
冷えた指先にじんわりと熱が広がる。
ξメ゚听)ξ「ハロー? 誰かいませ――」
むわ、と嫌な匂いが鼻をついた。
生臭い、腐ったような臭気。
思わず顔をしかめて明かりを床に走らせる。
どす黒い、何かが這ったような痕跡。
ξメ )ξ「!」
その先に人は、いた。
ξメ )ξ「なんてこと」
死体であれば、人はそこにたくさんいた。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:49:52.89 ID:cTmOhn7h0
- 黒山の死人だかり。
染み出した血液は乾ききっている。
みなが皮を剥がれ、筋肉が露出していた。
懐中電灯に照らされたむき出しの顔面。
どろりと垂れた眼球と、眼が合ってしまう。
ξメ )ξ「……うっ」
ハエがその瞳を横切るまでを見て、顔を逸らす。
途端、息が詰まった。
胸がむかむかする。
しかし、ひどい傷なら見慣れている。
吐き気を我慢すると、わたしは壁に手をついて店を出た。
ξ;メ゚听)ξ「ど、どうして。誰が? あれだけの人を――」
どくん。
油断。
一言で済ますならそれだった。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:51:10.53 ID:cTmOhn7h0
- 誰が、あれだけの人を#したのか。
あれほどの奇行をしたのか。
考えるなら店内で即座にするべきだった。
あははは ひひひひゃひゃひゃ
あはははあははああっはははあは
うひゃああはああははっははは
山の頂上に置かれた死体がまだ生乾きであったこと。
血溜りに新鮮な赤が足されていたこと。
それらを見るべきだった。
えへはえへへははあああひゃひゃひゃはっはあ
うぇっはっはっはっはああああ あああっははうえははははは
ははっはあああははっはああ
――周囲は、人型の異形に満ちていた。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:52:24.79 ID:cTmOhn7h0
- よろよろと身を揺らしながら「それら」は一歩一歩を踏みしめる。
異常に太い両手を地に擦らせながら。
くぐもった下劣な声で
狂ったように怒ったように
そしてなにより
ひどく愉快そうに笑いながら
ゆっくりと迫ってくる
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:53:56.87 ID:cTmOhn7h0
- ξメ゚听)ξ「う、あ」
あはっはっはははああははあはああ
一番近い「それ」に明かりが当たる。
霧に映されたシルエットはひどく汚れた、太い両腕を引きずっている。
そして、頼りない歩みをする細い脚。
はっはっはははっはあはああああっはあっはははははははっ
はははっはっははああああああああははははあ
肩からボロをかけただけのアンバランスな痩身。
露出した下半身にはグロテスクなものが見える。
位置から察するに、それは怒張したペニス。
はははふあひゃえはああははははああははは
うえふああああはへへへああはあっはああはあははは
ははわあははあははあはへへへうへへはあはははああはへ
ξメ゚听)ξ「そ、な、なに……え……」
怪物――それも、二十を超える群れ――が、徐々に歩み寄る。
しかし、身体が動かない。
逃げたいのに、足がすくんで歩けもしない。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:55:24.58 ID:cTmOhn7h0
- 交差点の角から見通して、怪物の数が少ないのは右手奥の道。
それでも三体はいる。
他に比べたらマシという程度でしかない。
ああははははっはっはあわははへへへはうふひひいあはいああ
ひと目で、「それ」は人を殺したものだと分かる。
走れ、ツン。
走りなさいよ、わたし。
表情が確認できる距離にまで接近を許してしまう。
血錆びに汚れた人型の顔に、眼球はなかった。
虚ろな眼窩、マネキンのような固まった笑顔。
ξメ゚听)ξ「あ、あ、あ、あ」
歩くごとにペニスが揺れる。
嬉しそうな嬌声。
逃げないと――
「おい、逃げろ!」
乾いた音が三度、夜の町に響いた。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:56:56.05 ID:cTmOhn7h0
- 怪物の一体が叫びながら、どう、と倒れる。
それはわたしの最も近い位置にいた一体。
右手に並んだ人型がひとつ減った。
「こっちだ!」
その方向に広がる霧から、明かりが差す。
自らも懐中電灯をそちらに向けると、「まともな」人影が片手を煽っている。
もう一方の手には武器、そう、異形に向けられた拳銃が握られていた。
ξメ゚听)ξ「!」
(#・∀・)「ついてこい! 振り向くな!」
力強い声に呪縛が解かれ、わたしは駆けた。
男に近寄る途中、彼の持つ銃がさらに弾丸を吐き出す。
矛先は、次に近くにいた左方向の怪物。
発砲音、体液の飛散、絶叫。
視界の端で振り上げられていた太い腕が、弾けるように地へと降ろされた。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:58:09.37 ID:cTmOhn7h0
- 男はわたしを先導して行く。
思考がまとまらない。
とにかく走らなければ。
グロテスクな外見の怪物。
鋭い爪、アンバランスな腕。
捕まりでもしたら#されてしまう。
角を右に、そして次を左に折れる。
確か、この建物は警察署?
男が周囲を確認しながら、入れ、と指示する。
従ってくぐったドアの内側は薄暗く、ひどく閑散としていた。
(;・∀・)「おい……あんた、無事か……」
ξ;メ゚听)ξ「はあ……はあ……ええ、なんとか。ありがとう」
少ししてから、男がドアをくぐる。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 19:59:40.50 ID:cTmOhn7h0
- 息を整えながら、男を観察する。
やや身長の高い、健康そうな体つきをしている。
ブロンドの短い髪がすっきりとした目鼻立ちに似合っていた。
黒のスラックス、また、おそらく清潔な白であったであろうシャツ。
それらは茶色、あるいは赤黒いシミで薄汚れている。
年の頃は三十半ばといったところか。
さっきのはなんだったのか、と訊く声が、男のそれに被せられる。
( ・∀・)「タバコ、吸ってもいいか?」
ξ;メ゚听)ξ「……構わないわ」
男は胸ポケットから潰れた箱を取り出した。
手にした一本をくわえて、火をつける。
( ・∀・)「なあ。あんた、どっからこの町に来たんだ?」
わたしが口を挟むタイミングはこうして失われた。
ξメ゚听)ξ「……ちょっと事故って、東の森から霊園を抜けて、高架下を通って来たのよ」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:01:02.80 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「ネイサンアベニューに通じる道の下のトンネル? 通れたのか?」
ξメ゚听)ξ「だからこうしているんじゃない。何言ってるの」
眉根にしわが寄るのを自覚する。
( ・∀・)「有刺鉄線、フェンス、そして、底の見えない穴」
ξメ゚听)ξ「それが?」
( ・∀・)「俺はそれのせいでトンネルを通れなかった。昨日のことだ」
え?
ξメ゚听)ξ「そんなもの無かったわよ」
( ・∀・)「ああ、そうか。うまいこと一方通行になってやがるのか」
男が紫煙を吐き出す。
( ・∀・)「まあいい。俺はモララー。しがない会社員をやってる。アンタは」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:02:38.86 ID:cTmOhn7h0
- アゴで自己紹介を促される。
わたしは男のペースに巻き込まれていた。
ξメ゚听)ξ「……ツン。隣の州で看護婦をしているわ」
( ・∀・)「そうか。ツン、歓迎しよう」
タバコを指に挟み、モララーは両腕を広げる。
演技するように、整った顔を卑しく歪める。
そして、言い放った。
( ・∀・)「サイレントヒルへようこそ。霧と怪物と絶望の町へ」
絶句した。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:04:00.69 ID:cTmOhn7h0
- 矢継ぎ早に言葉が続けられる。
( ・∀・)「さっきの奴らは脚こそ遅いが、腕力は強力だ。それにあの爪。刺さったら身体の裏まで貫くぜ。
他にも楽しいオトモダチがわんさといる。大声を出して外を歩いてみると面白いぞ。
毛皮の剥がれたゾンビ犬。上半身と下半身が分離した動く死体。エトセトラ、エトセトラがお出迎えだ」
――まともな人間を除いて、バケモンが大集結、さ。
( ・∀・)「野暮用で久々に来てみれば、住民が総入れ替え。楽しすぎてハ、ハ、ハ、だろ」
気丈に皮肉っているようだが、しかし、表情は疲れきっている。
口を閉じると、モララーは胸元のクリップ付きライトをオフにした。
そして、近付いてくる。
( ・∀・)「バッテリーを無駄にするな。それに見付かりやすくなる」
言われて、自身の懐中電灯がつきっ放しであることに気付いた。
スライド式のスイッチをずらす。
ξメ゚听)ξ「ミスターはいつからここに?」
( ・∀・)「モララーでいい。二日ほど前からいる、はずだ。
気付いたらこんなんで時間も分からないんだが」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:06:03.35 ID:cTmOhn7h0
- 暗いはずの屋外から何故か差していた光に、彼は手首をさらす。
そこには銀色のよくあるタイプのアナログ腕時計。
しかし、文字盤上の様子は異常だった。
ξ;メ゚听)ξ「長針と短針が同時に逆回転してるじゃない……」
( ・∀・)「日付が、93日って表示されるのも笑えるだろ」
月を表すらしい部分のアルファベットが、変形して、ギリシャ文字。
η月93日、時間不明。
わたしの腕時計や携帯電話も同様に、ひどく狂っていた。
ξメ゚听)ξ「なによこれ、……気持ち悪い」
ぞっとして肌が粟立つ。
( ・∀・)「気持ち悪いものばっかりさ。この二日見てきたのは、異常が常な世界だ」
モララーがそれから喋った内容は次の通りだった。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:07:17.82 ID:cTmOhn7h0
- 湖に近いモーテルに一泊してから目覚めると、何故か路上にいた。
人を探して歩いていると、先ほどの怪物に遭遇。
なんとか逃げたが、夜は終わらず、霧も晴れない。
東部の道路は底なしの穴。
終わりの見えないフェンスに囲まれた外周。
途中、開いていた警察署に入り、拠点とした。
誰もいないので、拳銃と弾丸を拝借。
私物らしい食料をいくらか食べ、休息。
体力を取り戻すべく一度、睡眠。
目覚めてからさらに探索。
怪物を避けながら、物資を得る。
そして、他のルートを模索。
しかし、どこも通り抜け不可能。
戻ろうと歩いている時にわたしを見つけた。
以上。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:08:34.20 ID:cTmOhn7h0
- 口調は軽かった。
だが、目の下のクマや、やつれた頬は疲れを隠せていない。
人に会えたことで興奮しているのだろう。
果たして、この男がまともであると言い切れるだろうか?
少し、わたしは警戒するように後ずさった。
モララーはそれに気付かない。
ξメ゚听)ξ「どうして、この町はこんな風に?」
( ・∀・)「さあ、な。理由も探ろうとしたんだが、どこから手を付けて良いか見当もつかない。
少なくとも、周辺2,3ブロックくらいは、まともに喋れる人間も残ってないしな」
ξメ゚听)ξ「まともに」
補足はいらない。
つまり、死人に口なし。
口を聞く人は、いないということだ。
ふと思いついて尋ねる。
ξメ゚听)ξ「ブルックヘイブン病院には行ったかしら?」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:09:47.38 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「いや、まだだ。そうだな……ちょっとこれを見てくれ」
モララーは折りたたんだ地図を尻ポケットから取り出した。
広げられたそれには多くの書き込み。
赤いペンで×や矢印が加えられている。
近寄ってくるモララーに一瞬身体を強張らせたが、結局は接近を許す。
タバコを吸い始めてから彼の拳銃はテーブルの上だ。
危害を加えてくるようでもない。
( ・∀・)「今まで探索したのはローズウォーターパークから、ぐるりと東の道路沿い」
町の北側には、トルーカ湖がある。
それを見渡せる公園が南側にあり、地図ではそこに×がつけられていた。
そして、地図の右方、つまり東側の道路では赤の二重線が南方面へと伸びている。
指を差しながら、モララーは言う。
( ・∀・)「やたらめったら背の高いフェンス、そしてその向こうには崖。
抜けられもしない、通れもしない。フェンスを超えても奈落にまっさかさまだ」
ξメ゚听)ξ「わたしの通ってきた場所までは探索したのね」
( ・∀・)「どこも塞がってたけどな。あんたが通った時以外は」
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:11:16.38 ID:cTmOhn7h0
- ξメ゚听)ξ「西側はまだ手付かず、か」
「×」「○」「check」「danger」「food」
それらは、下方や左方にはほとんど見られない。
( ・∀・)「ま、どこも大して変わらないと思うがね」
ξメ゚听)ξ「それでも南から行けなくはない、って感じね……」
わたしは壁際のソファまで行って、腰を下ろした。
嘆息して、考える。
目的を達成するべきか、それとも逃げ出すべきか。
「ヤツ」がこんな状態の町にいるか分からない。
自身の危険は承知の上だった。
だが、この異常事態。
そもそもどうやったら逃げ出せるのだろう?
いや、考えるまい。
ひしゃげた車をどうするか、よりも重要な決断をするべきだ。
生き残るための覚悟を固めること。
そして、ヤツを――
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:13:18.45 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「病院を目指してってことは、転勤か?」
のんびりとした言葉で、思考が中断される。
ξメ゚听)ξ「え? ええ。そうね。そんなとこよ」
( ・∀・)「まあ、こんな町じゃ看護婦は引く手あまただろうな」
ぼんやりと受け答えするわたし達。
( ・∀・)「野暮用って言ったけど、俺は呼ばれて来たんだよ」
ξメ゚听)ξ「そうなの」
( ・∀・)「息子から手紙が届いたんだよな。マタンキって名だ」
ξメ゚听)ξ「……離れて住んでたのね?」
( ・∀・)「離れて、か。はは、おかしいよな。息子は」
――2年前に死んでるんだぜ。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:15:15.65 ID:cTmOhn7h0
- 心臓が嫌な拍動をする。
壁にもたれかかったモララーは天井を仰いでいる。
暗いために表情が分からない。
( ・∀・)「9歳の時に心臓患ってよ。ちょうど、あんたの目指してた病院に入院してた」
目指していた病院に。
わたしの、勤めていた病院に。
( ・∀・)「手術もしたんだ。回復するって言われてた」
記憶を辿る。
マタンキ?
ξメ )ξ「それで、どうして亡くなったの?」
( ・∀・)「……術後、急にな。詳しくは分からない」
ξメ )ξ「そ、そう」
( ・∀・)「懐かしいな。小生意気だけど、自慢のクソガキだった」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:16:28.18 ID:cTmOhn7h0
- モララーの手にしたタバコがフィルターぎりぎりまで燃え尽きていた。
彼はそれを靴の裏でにじり消す。
( ・∀・)「なあ、良かったら病院までついて行っていいか」
ξメ゚听)ξ「逃げようとしてたんじゃないの?」
( ・∀・)「……実は最初っからそんな気はないんだ。公園から辿ったのはどこも思い出の場所だったんだよ。
マタンキが元気だった頃にこの辺をよく散歩しててな」
モララーの顔が外に向く。
窓からの控えめな光に照らされた表情は寂しげだった。
( ・∀・)「アタリを付けていたところを調べていたら時間が随分かかっちまった。
こんな状況だが、もし、あいつがどこかで俺を待ってるんじゃないかと……いや、馬鹿げてるかな」
吸殻を灰皿に放ると、それきり彼は沈黙する。
地図に書き込まれた「○」はそういうことか。
息子がいるかもしれない、という場所の目星。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:17:40.76 ID:cTmOhn7h0
- 霧による湿度の高さが突然感じられる。
室温は低く、手足が冷え始めていた。
わたしは口を開いた。
ξメ゚听)ξ「……良いわよ。怪物から守ってくれるなら、むしろ歓迎するわ」
( ・∀・)「そうか。それならもう少し休憩しよう。見たとこ、あんた怪我してるみたいだしな」
指を向けられて、顔に手をやる。
頬が切れていた。
浅くて気付かなかったようだ。
ξメ゚听)ξ「あなたも血が出てるわ」
( ・∀・)「おっと、本当だ。ナースコール、看護婦さんこっち来てくれよ」
軽口を叩くモララーに若干の生気が戻っていた。
興奮は収まってきたらしい。
わたしも一人でいたらこんなに冷静ではいられなかっただろう。
こんな町では何をおいても当面の安全を優先すべきだ。
そう思って、わたしは応急キットを取り出す。
横にあった「それ」を確認するのは、忘れなかった。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:19:01.31 ID:cTmOhn7h0
- もし、彼が真実を知ってしまったら、二度引き金を引くことになる。
一度はわたしの復讐のため。
もう一度は彼、モララーの復讐から逃れるため。
【Save】
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:20:23.65 ID:cTmOhn7h0
拾得、あるいは目に付いたメモ群。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:23:53.87 ID:cTmOhn7h0
- 【警察署に置かれたローカル新聞の切り抜き】
〜連続殺人事件容疑者 自殺か〜
サイレントヒル各地の連続殺人事件の容疑者として逮捕されていた##が、
昨晩未明、収容されていた拘置所内で死体となって発見された。
首に刃物様の金属が刺さっており、自殺を図ったものとして警察は捜査している。
動機は裁判を目前にしてのノイローゼなどが考えられている。
看守が発見した時、既に##は失血により死亡していた。
使用されたのは金属製スプーンで、留置場では通常の食事に用いられるものだった。
取り出されたスプーンは先が潰れて尖っており、##自身が加工したのではないかとみられている。
本紙では##の幼少時代を――
(犯人の名前は塗りつぶされている)
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:25:06.05 ID:cTmOhn7h0
- 【婦警の私物のローカル誌より】
〜今週の運勢〜
――は、今週の運勢が最悪!
何かを決断するにも慎重にならないと危ないかも!
特に恋愛に関しては気をつけないと意中の人と離れちゃう。
友達と遊んで元気を分けてもらおう!
幸運を呼ぶ色は黄色。ラッキーアイテムはマグカップ。
蠍座は、ちょっと運が下降線?
体調が優れなかったり、お肌が荒れやすい時期。
健康に気遣って、早朝の散歩をすればリフレッシュ!
人とは会わずにゆっくり休むのも吉。
幸運を呼ぶ色はピンク。ラッキーアイテムは動物のシール。
(書き込み)「↑イザベラにロビーちゃんのシールをあげよう」
射手座は――
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:26:33.23 ID:cTmOhn7h0
- 【署内掲示板のメモ 1】
〜車上荒らし多発〜
最近車上荒らしが多発している。
署員の通勤途中にもだ。
みんな気を付けてくれ。
オレみたいに家の鍵取られると本当に危ないぞ。
ジョナサン
【署内掲示板のメモ 2】
〜銃の点検呼びかけ〜
義務として週一回は点検を呼びかけてきたが、
その頻度を最低、週三回に増やそうと思う。
備えあれば憂い無し、各自ロッカー内の銃も手入れすること。
パトカー内に常備しているショットガンも同様。
ジム
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:27:58.02 ID:cTmOhn7h0
- 【捜査メモ】
〜「教団」と呼ばれている組織について〜
教団の信者は人数が把握しきれない。
土着の思想をミックスして転生、聖母の存在、女神の再来、なんかを謳っている。
サイレントヒルでは死後の再生が広く浸透しているらしい。
終末思想もある。
人身御供、つまり生贄を用いるミサも行っているとの情報を入手した。
孤児院の経営者が教団関係者というのは?
要、調査。
権力者の一部も関係か?→資金源を突き止める。
地主、資産家、病院長。
特に病院の院長はこの土地にいた明主の子孫だ。
現院長の人柄はあまりよくないらしいが。
こちらも平行して調査する。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:30:14.51 ID:cTmOhn7h0
- 【Load】
女は怒りと悲しみを胸に霧の中へ。
男は何を抱いて霧の中へ?
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:31:39.47 ID:cTmOhn7h0
- 警察署のテーブルに広げられている、モララーが集めた物資の数々。
人のいない住宅から拝借した工具数点。
小さめの救急箱、携帯保存食、飲料水。
武器になりそうなナイフなんかもあったが、彼は主に銃を頼っているようだ。
わたしは丸腰を装い、余った中から扱いやすそうな鈍器を受け取った。
( ・∀・)「これくらいの鉄パイプなら持ち歩いても邪魔にならないだろ」
ξ゚听)ξ「できたら使いたくはないけどね……」
( ・∀・)「分かってると思うが、正面切ってやりあうなよ。手を出さないに越したことは無い。
で、やらなきゃならないときは」
ξ゚听)ξ「徹底的にやれ、でしょ。これで三度目よ」
( ・∀・)「あんたは肝が据わってるみたいだけど、念のためさ。襲われたらとにかく距離をとれ。
今まで俺が出くわした怪物は大体鈍足だったからな」
頷きながらパイプを握る。
ひんやりとしたそれの表面には、赤い錆びが点在している。
長さは70cmほどで、手の小さいわたしにとっては径が少し太めだ。
あまり怪物に近づきたくない気持ちから、リーチのあるこれを選んだ。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:33:05.14 ID:cTmOhn7h0
- モララーはナップサックにペンチ、ドライバー、スパナなどを詰める。
その傍らには弾丸の入った箱がふたつ。
もっと持っていかないのか、と尋ねると、指が二本立てられた。
( ・∀・)「ひとつ、重くて音が出るし、走りづらくなる。
もうひとつが、これ以上は型の違う弾薬しか見付からなかった」
ξ゚听)ξ「警察署なのにおかしいじゃない」
( ・∀・)「誰かが持ち出したみたいだ。拳銃もこれだけ。
ライフルかショットガンなんかがあればよかったんだが」
ξ゚听)ξ「残ってるのは弾だけ、なのね」
言いつつ、わたしはじっと彼の手元を見詰めていた。
妙に手馴れているように感じる。
予備の弾倉に弾を込め、両ポケットにそれらを一本ずつ、するりと入れるモララー。
そして、銃の中の弾数を確認すると、目線を他に向けながら安全装置を入れた。
彼は空いた手でビーフジャーキーを口に運ぶ。
咀嚼しながら、その袋をわたしに差し出した。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:34:17.43 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「塩分と水分は重要だぞ」
ξ゚听)ξ「釈迦に説法。看護婦は看護栄養学を学ぶの。でも、ありがとう。いただくわ」
( ・∀・)「シャカにセッポー? 仏教徒かい?」
ξ゚听)ξ「夫が日本人だったの。こっちの永住権を取得してるけどね。
ファミリーネームはナイトウっていうのよ」
漢字を空にさらさらと書く。
( ・∀・)「ジャパニーズか。子供は? アジアの女の子は可愛いって聞くな」
言葉に一瞬詰まる。
ξ゚听)ξ「子供は、いないわ」
モララーはそれ以上突っ込んでこなかった。
わたしはペットボトルから水をひとくち、自分の気持ちを誤魔化すように飲んだ。
やがてモララーが立ち上がる。
ナップサックを背負うと、先ほど広げていた地図を取り出した。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:35:38.50 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「まずは直線的に目指してみよう。迂回路が必要かもしれないが、
とにかく焦らず歩く。見付かるよりかはマシだ」
目的地は南西に位置する、ブルックヘイブン病院。
そして、そこへの道で、地図上の「×」が入ってない通りは四つ。
全てが警察署から少し西に行くとぶつかる、大通りと繋がっている。
単純に大通りを南下するルートが一番近い。
また、そこからさらに西側へと入れるわき道が次に早く到着できそうだ。
他の二本の道へは、一旦北上する必要がある。
ξ゚听)ξ「これは何の印?」
住宅や店舗の上を矢印が走っていた。
( ・∀・)「色々『拝借』した建物は通り抜けられたものがあったんだ。実質、いくつかルートはある」
ξ゚听)ξ「でもそれが明らかなのは東側だけ、か」
( ・∀・)「見るからに崖をまたいだ向こう側へ、室内から繋がってることもある」
ξ゚听)ξ「……異常ね」
( ・∀・)「好都合さ」
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:37:29.29 ID:cTmOhn7h0
- モララーは事も無げに怪奇を語った。
彼の口調が重々しく深刻でなくて良かった。
内容はかなり気が滅入るものだったからだ。
階段の途中に、「屋上から」張られたフェンス。
空いたマンホールの口から数センチ下に水面、そして突き出た人の腕。
冷蔵庫に押し込められていた死体。
中に入ると電気がついているのに、外からは明かりが見えない家。
街路樹からすすり泣く声。
前を通るたびに悲鳴が聞こえるドア。
ξ;゚听)ξ「気分が悪くなってきたわ……」
( ・∀・)「安心しろよ、慣れたら『またか』くらいにしか思わないんだから」
車の下から這い出る怪物の存在も注意された。
彼がズボンをめくると、包帯の巻かれたスネが見えた。
血は止まっているらしい。
( ・∀・)「ライトはひとつでいこう。存在をアピールすることはない」
ξ゚听)ξ「いいわ」
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:39:06.17 ID:cTmOhn7h0
- モララーはゆっくりと地図を確認しながら暗い中を歩いていく。
その背に揺れるナップサックを見失わないように、わたしはついていく。
手にした鉄パイプを無意識に強く握り締めていた。
時々モララーが立ち止まり、ライトを消した。
そして、そのたびに服を掴むよう指示される。
ある程度歩くと、彼は明かりをつけた。
( ・∀・)「徘徊してる群れは拠点を作ってるんだ。その近くではさっきみたいに少しライトを消すぞ」
ξ゚听)ξ「崖があるなら足元が危ないと思うんだけど」
( ・∀・)「俺が落ちそうになったら服、離して良いぜ」
嫌な感じにどきっとしたのは、その言い方が冗談めいていなかったためだ。
なんだか。
なんだか本当に、死んでも構わない、と思っているような。
ξ゚听)ξ「今度は腕を掴んでおくわ」
そんな言葉が出た。
おかしな話だ。
もしかしたらわたしはこの男に#されるかもしれないのに。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:40:18.76 ID:cTmOhn7h0
- しばらく道を行くと、モララーの足が止まった。
そして、ため息。
( ・∀・)「最短の道は塞がってる。いや、空いてるというべきかな」
彼の背後から先を覗き込む。
ξ;゚听)ξ「……ひっ」
期せずしてわたしの靴が小石を蹴飛ばす。
こつっ。一度跳ね。
こつっ。二度跳ね。
―――。ふ、と消えた。
照らされたアスファルトは、忽然と途切れていた。
道路に突然現れた、底なしの暗闇。
わたしは思わず、そこから遠ざかっていた。
( ・∀・)「戻って西側の通りに出る道を探そう」
そう言って、モララーが振り向いた時、何かの気配を感じる。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:41:47.22 ID:cTmOhn7h0
- 地の底から? 急速に近付いてくる羽ばたき。
さらに、甲高いキィキィという鳴き声。
問題はその数だった。
もはや騒音。
耳を塞がないと鼓膜がどうにかなりそうなほどの音量。
ξ;゚听)ξ「!」
モララーの胸についたライトを、いくつもの小さな影が遮った。
それが飛来し――
ξ; )ξ「いっ!」
肩口に鋭い痛み。
切られた!?
いや、食いちぎられたような……。
(;・∀・)「なっ!? なんだこいつらは!?」
とっさにわたしも懐中電灯をつける。
照らされたのは、崖から湧き出る、黒い雲の蠢き。
否、小型の怪物の群れ。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:43:26.15 ID:cTmOhn7h0
- ――キィキィキィキィキィ!!
まとまった蠢きが一際大きくさえずった。
そして、一挙にこちらへと滑空してくる。
第二波がくる!
(;・∀・)「走るぞ! 数が多すぎる!」
モララーがわたしの腕をとり、走る。
引っ張られるようにしてわたしも駆けた。
黒い雲が霧を裂く。
耳元を不快な羽音が通り過ぎた。
頭や肩を骨ばった翼が打つ。
ξ;゚听)ξ「どっちに!?」
(;・∀・)「西、左だ!」
十字路を左折。
斜向かいに太い腕の怪物がちらりと見えたような気がする。
鳥達の一部がそちらに向かう。
――あああああああ!! あああああ!! うああああ!!
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:45:38.38 ID:cTmOhn7h0
- 背で、「立ち止まったらどうなるか」を聞く。
板張りの壁やレンガの塀に挟まれた道に、絶叫が届いた。
靴が湿った地面を叩く。
鞄が揺れるのがうっとおしい。
早速息が苦しくなってきた。
進行方向を照らしながら、なおも駆ける。
そして、見つけた。
ξ;゚听)ξ「見て! ドアが開いてる!」
二階建ての住宅。
そのレンガの壁に半開きの木戸がある。
裏口のようだ。
(;・∀・)「しめた、飛び込むぞ!」
鳥の群れが一瞬引いた。
はっ、と見上げて、下降してくる影を認める。
(#・∀・)「おおおおお!!」
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:47:03.43 ID:cTmOhn7h0
- それは雨か
まるで矢か
あるいは槍
垂直に地面へと
突き刺すように急降下する小さな怪物
腕を掠める鋭利な爪
衣服を裂く鋭敏な嘴
モララーの手がドアノブにかかった。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:48:16.57 ID:cTmOhn7h0
- わずかにあけられた隙間に身体をねじ込む。
ξ;゚听)ξ「閉めて!」
ドアを閉めた途端に、外から連続した鈍い音。
地面に突き刺さったのだろうか。
それとも、激突して死んだのか。
ぐちゃ、とも聞こえてくる気がした。
あの速度だ。
コンクリートにぶつかればタダでは済まないだろう。
ぐちゃ、くちゃくちゅ。
ぶちゅ。
感覚が鋭敏になっているのだろう。
一枚の壁を隔てた音がこんなにも近くに聞こえる。
あれ……?
それにしても何故、こんなにも近くで音が――。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:49:29.27 ID:cTmOhn7h0
- ξ゚听)ξ「えっ」
懐中電灯を向ける。
モララー。
太い腕に抱かれた、揺れる死体。
木製テーブルと工具。
二台の乗用車――ああ、ここはガレージだったんだ。
ぬちっ。
床の赤いシミ。
モララー。
揺れる死体?
ぐちゃ。
笑う怪物に、犯されている、女性の死体。
「うー……? ああああー……うへへへへへ」
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:50:53.50 ID:cTmOhn7h0
- (#・∀・)「どけツン!」
三度、銃口が跳ねた。
刹那、胴に空いた穴から黒い飛沫が立ち、怪物が倒れた。
赤黒いペニスがずるりと抜けて、天に向かい卑猥に反り立つ。
その主は、ああ、ああ、と間抜けに呻く。
(#・∀・)「こいつ!!」
モララーは駆け寄ると無防備な頭を蹴り飛ばした。
鈍く、骨の折れた音。
マネキンのような顔が歪み、頚部が限界を超えて曲がる。
直後、絶命したはずの怪物が、ペニスから白濁した液を迸らせる。
ξ;゚听)ξ「きゃっ」
ドアに背中からぶつかるようにして避ける。
なおも続く断続的な射精。
脈動する、赤黒い男性器。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:52:06.84 ID:cTmOhn7h0
- 光景が、フラッシュバックする。
――なんだ、目が覚めたのか。
え? なんなのこれ?
――麻酔の担当は誰だったっけ。まあ良いです。
先生? なんで、え!?
――なかなか良いでしょう?
どういうことですか!?
――ああ、一度、してみたかっ、たっ、ああああー……
きもち、わるい。
ξ )ξ「う……っぇ……」
わたしは気付けば、ガレージの床に嘔吐していた。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:53:19.75 ID:cTmOhn7h0
- びたびた、びたびた。
ξ )ξ「おっぅえ……」
ほとんど固形物は無い。
噛み砕いたジャーキーがちらほら。
他はただの黄色だ。
懐中電灯を取り落とした。
既に地に落ちていたパイプと胃液を浴びている。
息が詰まる。
( ・∀・)「おい、大丈夫か」
ξ )ξ「だい、じょお……大丈夫よっおぶっ……へい、き……」
背中に暖かい掌を感じた。
しばらくそうしていた後、ガレージから通じた部屋に連れて行かれる。
座らされたソファはひどく埃っぽかったが、怪物の隣よりはマシだった。
( ・∀・)「ほら。口をゆすいでおけ」
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:54:41.05 ID:cTmOhn7h0
- 水は貴重だ、と言いかけるが、言葉にならない。
鼻の奥がツンとする。
その直接の原因は、嘔吐によるものではなかった。
ξ ;)ξ
最悪の記憶が如実によみがえっていた。
あの感触が――下腹部に注がれた劣情が――よみがえっていた。
膝を抱えて嗚咽を漏らす。
ξ ;)ξ「……うっ……ううう……」
( ・∀・)「……中を調べてくる。水はここに置くぞ」
ソファの横には背の高い、明るいランプ。
電気が通っていた建物らしい。
縮込めた腕と脚の隙間から見えたのは、モララーがその電灯の下にボトルを置く姿だった。
彼が床を軋ませながら遠ざかっていく。
孤独を恐れるよりも、追憶に慄いた。
奥歯を食いしばって、頭を抱えて、自身の身体を抱く。
――なんで。なんでわたしがこんな目に。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 20:59:51.61 ID:cTmOhn7h0
- わたしはサイレントヒルで看護婦として働いていた。
ブルックヘイブン病院。
ある晩の当直で、呼び出された薬品庫。
突然、何かを口元に押し当てられた。
麻酔。
その効果が現れるまでに、実際には数分を要する。
ドラマのようにすぐ気絶、とはいかなかった。
床に倒され、殴られ、頭を打ち付けられた。
永遠とも思われた暴行の後、目覚めたのは分娩台の上。
ξ;;)ξ「ああああ……あああああああ……」
縛り付けられ、身体は、身体は、から、からだはあのおとこに
頭をかきむしった。
小さく呻きながら夫を想う。
彼は知らない。
そんな過去を、ブーンは知らない。
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[一瞬さるった] 投稿日:2009/04/25(土) 21:01:45.26 ID:cTmOhn7h0
- モララーが戻って来るまでに、たっぷり時間があった。
彼なりに気を利かせてくれたのだろう。
腫れた目元以外に、泣いた痕跡は残さなかった。
モララーはわたしの落としたものを持ってきてくれた。
どちらも汚物がきっちりと拭き取られている。
口はあまり良くないが、それでも、真人間ではあったらしい。
( ・∀・)「役に立ちそうなものはなかった。でも怪物もナシだ」
ξ )ξ「取り乱して悪かったわ」
( ・∀・)「いいさ」
彼の説明では、ここは集合住宅の居間らしい。
ルームシェアを目的として作られた二階建ての住居。
その憩いの場としてのリビングに、わたしは残されていたのだという。
促されて玄関まで歩く。
壊された置時計やテーブル、脚の欠けた椅子などが散乱している。
それでも電灯のおかげで、移動に支障はなかった。
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:03:34.37 ID:cTmOhn7h0
- 表に面した玄関は、多重に太い鎖で封鎖されていた。
さらに、ほとんどの窓が板張りに鉄格子をはめられた状態だった。
だが、二階にあるひとつは完全に開放されていた。
その向こうには、大きく崩壊したレンガの壁と露出した子供部屋。
窓からは隣接した家へと渡れるようになっている。
( ・∀・)「無断でぶち破ったみたいだよな。向こうも見てきた。あっちはドアが開いてる」
「あっち」の家まで距離にして50cm弱。
何故作られたのかわからない窓を、モララーはまたぐ。
子供向けのファンシーなカーペットの上に着地、振り向く。
( ・∀・)「ほら」
指先が汚れた、骨の太い男の手。
差し伸べられたそれが、少し怖かった。
でも、現在はこの男を恐れる理由がないと自分に言い聞かせる。
ξ )ξ「ええ」
懐中電灯を仕舞い、手を取った。
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:05:49.89 ID:cTmOhn7h0
- ξ゚听)ξ「明るい……」
( ・∀・)「は! 唐突に昼かよ」
鳥の大群から逃げて、たった二、三十分ほどしか経っていないはずだった。
しかし、外の世界は明るさを取り戻していた。
感覚としては、昼の曇天に加えて、濃霧。
( ・∀・)「ライトはいらないな。ま、視界良好と言い切るには程遠いが」
モララーは地図に赤ペンで情報を書き足していた。
逃げ込んだ建物の木製のドアから、先ほど出てきたドアまでにラインが引かれている。
北側から入って、南の玄関へと伸びた矢印。
横に「safe?」と併記された理由は、怪物が侵入していたためだろう。
( ・∀・)「これ以上めんどい怪物か道に出くわさなきゃ良いな」
ξ゚听)ξ「ええ。本当に。まっすぐこっちに進んで、左折。合ってるわね?」
鉄パイプで進行方向を確認する。
霧の中にぼんやりと道路の輪郭が見えた。
何者かの不意の接近を許すことはないだろう。
( ・∀・)「西、そんで南。その通りだ」
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:07:11.11 ID:cTmOhn7h0
- わたし達はまさに五里霧中を進んだ。
途中、何かを引きずる音と笑い声を遠くに聞く。
ぐ、と胸に湧いた不快感を飲み込む。
( ・∀・)「……」
ξ゚听)ξ「何よ」
いや別に、とモララーは視線を前に戻した。
ξ゚听)ξ「……あんまり、初対面の人に話して面白いものじゃないわ」
( ・∀・)「誰だってそういう話がひとつやふたつあるもんさ」
彼は白い大気に包まれて、先を行く。
( ・∀・)「レディは謎があったほうが良いぜ。ミセス・ナイトウ」
ξ゚听)ξ「そう」
( ・∀・)「そうさ」
それっきり、口を開きはしなかった。
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:08:30.39 ID:cTmOhn7h0
- 左折、車二台がかなり余裕をもってすれ違えるほどの道に入り、直進。
怪物の巣の近くをひとつ、迂回する。
乗り手を失ったトラックの横を通る。
ヾ( ・∀・)「……」
すっ、と手が上げられた。
身を屈めたモララーに倣って、わたしも姿勢を低くする。
地面に近いところの、霧が薄い場所を睨んだ。
ぼんやりと見えたのは、四足の獣の影だった。
うろうろするものが一体。
車にもたれかかった何か――いや、ぼかす必要もなくヒト、だ――を貪るのが一体。
食事に夢中な方が、水っぽい咀嚼音を響かせていた。
( ・∀・)(距離を開けよう)
モララーはわたしの肩を小さく叩くと、来た道を戻った。
二十メートルほど後退してから、彼は静かに口を開く。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:10:05.06 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「病院まであとちょっとなんだが、正直あいつらとはやりあいたくない」
潜めた声に耳を澄ます。
( ・∀・)「下手に手を出すと仲間を呼ぶんだ。脚も早い」
ξ゚听)ξ「どちらかに構っている間に取り囲まれちゃうのね」
( ・∀・)「弾を無駄にはしたくない。そこで、二択だ」
モララーの指が二本立てられる。
( ・∀・)「走るか、餌で釣るか」
提示されたプランの一長一短。
走る。
駆け抜ければ病院まで十分にたどり着けるはず。
しかし、音を立ててしまうし、また、病院にすぐ入れるとは限らない。
餌。
食べている間は注意力が下がっているらしい。
だが、うろついている方が既に空腹でない可能性がある。
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:11:17.77 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「どうする?」
訊かれて、躊躇する。
実は、病院の鍵はわたしの手元にある。
そこで看護婦をしていた頃に合鍵を「持たされていた」のだから。
無論、夜勤の無い日も呼び出されていたためだ。
とはいえ、先の玄関のように強固な封印を施されていないとは言い切れない。
走り、気付かれた挙句、正面口で立ち往生。
病院の玄関の両脇は背の高い塀に挟まれており、逃げ場はない。
餌、と言った。
ただ、目の前でもっと食いでのある餌が歩いてきて見向きをするか?
( ・∀・)「……」
彼はじっと待っていた。
あくまでも、病院を目的地としていたわたしに選択権をゆだねようというのだ。
ξ゚听)ξ「そうね――」
だが、言葉を遮るように、遠くで破裂音。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:12:40.08 ID:cTmOhn7h0
- (;・∀・)「銃声か!?」
ξ;゚听)ξ「病院の方からだわ」
聞こえてきたのは、犬たちがいた方角。
二度目の、どぱっ、という腹に響く音に次いで悲痛な鳴き声。
それに怒りを露にした犬の唸り声が重なる。
だが、さらに上塗りの銃声。
それきり、二種類の音声が同時に消えた。
(;・∀・)「ショットガンを持ち出したヤツだ」
ξ;゚听)ξ「ねえ、まずいんじゃないの? 今ので犬が呼び寄せられていたら……」
モララーは刹那、思考するそぶりを見せる。
一方わたしは、周囲の気配をうかがった。
静かなこの町では銃声がひどくよく通るのだ。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:13:52.43 ID:cTmOhn7h0
- (;・∀・)「今のヤツと合流しよう。装備が分けてもらえたらありがたい」
ξ;゚听)ξ「なら早くしましょう」
モララーが両手を掲げながら歩き出す。
歩調が少し早いのは、急く気持ちがあるからだろう。
(;・∀・)「おーい。撃たないでくれ。生存者を探していたんだ」
徐々に人影が見えてくる。
女性のものか?
ぼけたその線は少し細い。
頭の弾けた犬の死骸から目を逸らして、わたしも呼びかける。
ξ;゚听)ξ「ハロー? ちょっと待って、お願い。良かったら話を」
しかし、それはゆっくりと遠ざかっていく。
頼りない足取りで、コツコツと足音を立てながら。
走り寄るべきか考え、モララーに目配せした。
(;・∀・)「あんまり刺激しない方が良いかもしれない」
ξ;゚听)ξ「そうね……。見て。病院に入っていくわ」
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:15:04.92 ID:cTmOhn7h0
- 病院の鉄扉が軋む音。
聞こえてきたそれから察するに、鍵はかけられていないようだ。
先ほどの女性も施錠はしなかったらしい。
( ・∀・)「……?」
ξ゚听)ξ「良かった、開いてるみたい」
他の怪物の接近を許す前に、わたし達は玄関前のステップを昇った。
五段しかない階段――バリアフリーには無関心な設計――の向こうに出入り口。
両開きの鉄扉があり、片方がやや開いていた。
ξ゚听)ξ「暗いけど、ここは電気が通ってないのかしら」
そちらに近づき、覗き込もうとすると、肩に手が置かれた。
( ・∀・)「ちょっと、待てよ」
扉に伸びていた腕が、はたと止まる。
( ・∀・)「おかしいな」
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:22:29.34 ID:cTmOhn7h0
- モララーの顔が曇っていた。
ξ゚听)ξ「呼びかけを思いついたのはあなたじゃない」
( ・∀・)「それで考えてたんだ。普通、安全地帯から、わざわざここまで出てくるか?」
ξ゚听)ξ「それは……」
モララーが続ける。
病院は避難所としては適した場所だ。
入院患者用のキッチン、医療機器。
玄関扉を閉じ、非常口を閉めれば立てこもるに易い。
なのに、外へ?
それも女性が銃を持って。
無用心すぎやしないか。
あるいは、正常ではないか、と言葉は締められた。
ξ゚听)ξ「なんらかの罠じゃないかって?」
( ・∀・)「……そうだ」
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:23:46.05 ID:cTmOhn7h0
- それを受けて、しかし、わたしは懐中電灯をバッグから取り出した。
怪物が徘徊する路上。
白く、視界の悪い状況。
疑わしい人物の入った病院。
暗く、明かりがない状態。
ξ゚听)ξ「……それにしても、ここにいるよりかはマシだわ」
含めた小さな嘘。
目的がここにある以上、わたしは絶対にそれを達成する必要がある。
ただそれだけ。
標的が中にいる可能性があり、それと絶対に相対するのが要。
ただそのため。
ξ゚听)ξ「早く入りましょう。また犬が来ないとも限らない」
だから、ブルックヘイブン病院へと進む。
病院の院長、その男と会うために。
( ・∀・)「……いいだろう」
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:25:12.17 ID:cTmOhn7h0
- モララーは真剣な面持ちで頷いた。
彼の心は分からない。
そこまで彼を理解する時間はなかった。
彼にとって、病院を探索する絶対的な理由はない。
ξ゚听)ξ「帰ってもいいのよ? 一人でも行けるわ」
( ・∀・)「随分だな。俺がいなきゃここまでたどり着けなかっただろ」
ξ゚听)ξ「違うわよ。危険だと思うなら一緒に来いとはいえないじゃない」
本音と建前とを同時に吐き出す。
ここから先に行って、余計なことを知られたくはない。
それは未来、過去、両方の事象においてだ。
( ・∀・)「ますます放っておけるかよ」
表情から、その言葉以外の意図は読み取れない。
ただお人よしか?
ξ゚听)ξ「後悔しても知らないわよ」
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:28:08.65 ID:cTmOhn7h0
- ( ・∀・)「後悔ならしたさ」
ξ゚听)ξ「わたしを助けたこと?」
( ・∀・)「いや、昔の話」
彼はそう言って鉄扉を引く。
ぎくりとするほど蝶番が大きく軋み、暗闇は開かれた。
( ・∀・)「どうでもいいくらい、昔のことだ」
そのまま、闇に吸い込まれるように進むモララー。
わたしもすぐに続く。
消毒液の、懐かしい香りが出迎えてくれる。
そして、踏み入れた途端、視界が暗転した。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:29:31.38 ID:cTmOhn7h0
- ξ )ξ「ううっ」
「おい、大丈夫か、ツン」
周囲が、めりめり、と音を立てているのが聞こえた。
脚の力が抜けて倒れこんでしまう。
がしゃん。
がしゃん?
「――! ――!!」
モララーが叫んでいる。
発砲音。
床が妙に固く冷たい。
この手触りは……金網?
金網の床を、何かが引きずられるような振動。
いや、わたしが、運ばれているのか?
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:31:01.78 ID:cTmOhn7h0
- ξ )ξ
頭が、がたがたと段差を打つ。
階段、そう、階段だ。
ξ )ξ「う、ん」
気を失い切れないのが、逆に恐怖を煽る。
どこまでわたしは運ばれるのだろう。
ξ )ξ
引きずられていく。
何度かドアの開閉を聞き、そして停止。
柔らかい何かの上に寝かされる。
「――――」
小さく耳打ちされる。
何?
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/25(土) 21:32:16.34 ID:cTmOhn7h0
- 「――逃げて、ママ」
幼い子供の声を遠くに聞いて、ようやくわたしは意識を手放した。
【Save】
戻る 次へ