ξ゚听)ξはサイレントヒルで看護婦をやっていたようです

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:19:33.80 ID:Z6pWhfO30
【Load】


 白い病院錆び付いた。


 赤い何かで汚された。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:21:15.41 ID:Z6pWhfO30
 ブルックヘイブン病院は地上三階、地下一階の建物だ。
 一階に外来受付と診察室、キッチンや手術室が固まっている。
 二階以上には入院用病室があり、二階に相部屋が六つ、三階に個室が十四。

 さらに言うなら、個室には二種類ある。
 一般患者用のベッドとサイドテーブル、ラック付きの部屋。
 そして、自殺志願者、精神障害者、麻薬中毒患者などを「収容」する部屋。

 わたしが寝かされていたのは、後者だった。

ξ )ξ「う……んん……。ここ、は」

 真っ暗な特別病室。
 わたしがそれを認識したのは、壁も床も全てがクッションになっていたからだった。
 それが自殺防止用だと、わたしは知っている。

ξ゚听)ξ「モララー?」

 手探りで何か見付かりはしないか、と模索する。
 やがて、ドアらしき境目を見つける。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:23:06.60 ID:Z6pWhfO30
 冷蔵庫が起こすような、粘着質な音を立ててドアが開いた。

ξ゚听)ξ「暗い……けど、明かりはついてるのね」

 じじじ、と電灯が明滅している。
 完璧には判然としない視界。

ξ;゚听)ξ「こ、れは」

 薄暗がりの下、壁や床にはどす黒い痕が残されている。
 だが、それよりも、ある異変に気付いてしまった。

 何故、わたしは血に汚れているんだろう?

ξ;゚听)ξ「や、やだ。なんでこんなに血がついてるのよ……。だって、わたし……」

 視認した途端に血生臭さを覚える。
 両手、胸より下の衣服、そして頭髪の毛先が、赤に染まっていた。
 動くたびに乾き始めたそれらが、べたりと不快感を呈する。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:24:52.16 ID:Z6pWhfO30
ξ; )ξ「なんなの、これ」

 落ち着くまでに少々の時間を要した。
 そこは、剥がれた壁やめくれた床材、ベッドの残骸などが散乱したスペース。
 無秩序さが余計にそれを妨げた。

ξ゚听)ξ「そういえば荷物は?」

 同行者もそうだが、持ち込んだ懐中電灯や鞄も見当たらない。
 それらがあるとすれば、さっきの部屋か。
 赤黒い軌跡が続く床を辿って、わたしのいた場所へと目を移す。

 しかし、すぐに中断した。

 差した光が、動かないヒトの姿を照らしていたからだ。
 そして、赤黒さはそこから染み出していた。

ξ )ξ「……」

 入りたくは、ない。
 一度だけ、さっと見て、「それ」以外のものが無いのを確認する。
 すぐにそのドアを閉じた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:26:53.50 ID:Z6pWhfO30
 とにかくここを出てモララーを探さなければ。
 明らかに彼は何かと交戦していた。
 助けなければ。

 いや、待てよ。

ξ゚听)ξ「すぐに合流する必要はあるのかしら」

 辛うじて、視界は確保されている。
 わたしは病院の構造も熟知している。
 それこそ物理的な意味を超えて裏まで。

 そして、彼の目前で、わたしが会うべき人間と遭遇する可能性。

ξ゚听)ξ「邪魔をされるかもしれない」

 四つ並んだ特別病室の対面にドア。
 これを抜け、T字路を左に行けばエレベーターホール、右には階段へと通じる扉がある。
 一階まで降れば、院長室はすぐだ。

ξ゚听)ξ「それを、済ませてからでも」

 遮られるように、壁を殴打する音。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:28:40.35 ID:Z6pWhfO30
ξ;゚听)ξ「えっ」

「――! ――!!」

 叫びは、特別病室のひとつから響いてきた。
 くぐもった音声。
 わたしはドアに耳をつける。

「助けて! 出して! お願い!」

 知らない女性の、涙ぐんだ声。
 自分も声を張り上げる。

ξ;゚听)ξ「生きてる人がいたのね!?」

「ああ、良かった……。お願い! 見捨てないで!」

 しかし、ノブには頑丈なロックが施されている。
 開錠できそうなものは、周囲を見回しても見付からない。

「お願い、見捨てないで! 助けてぇ……」

 逡巡。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:29:56.06 ID:Z6pWhfO30
 下手に時間を無駄にしたくはない。
 ここが安全でないということは、死体から分かった。
 だが、彼女を放置することは心苦しい。

 密室にいれば、安全ではある。
 だが、わたし以外の救助が来るかは分からない。

ξ;゚听)ξ「……」

「いるわよね? ねえ、返事して。ねえ。ねえったら!!」

 扉の向こうが、がりがりと削られる音。
 クッションをかきむしっているのだろう。

「ここから出して! ねえ出してよ! 一人にしないで! ああああああああ!!」

ξ;゚听)ξ「分かったわ! 待ってて! 鍵を探すわ!」

「ホント!?」

 それから三度、本当だ、と確認をしてわたしはドアを離れる。
 ……わたしの用件もモララーとの合流も後回しだ。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:31:12.66 ID:Z6pWhfO30
ξ゚听)ξ「こうなったら手早く助けないと」

 慎重に扉を抜け、薄暗い廊下を歩きだす。
 目に優しい薄緑――何やら煤けたように黒ずんでいるが――の壁。
 足元はところどころが欠けたタイル。

 本来なら、その上に緩衝材が塗られていたはずだ。
 リハビリで歩く人が負担にならないように。

 ふと、気付く。

ξ゚听)ξ「金網じゃ、ない?」

 ここに引きずられてきたのは確かだ。
 だが、全身で感じた金属の網は影も形もない。
 ところどころに放置されたストレッチャーや椅子以外、比較的正常。

 ……考えていても仕方が無い。
 わたしは音に注意しながら手前にあるドアを開ける。

ξ゚听)ξ「まずは女子ロッカーから……」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:32:46.30 ID:Z6pWhfO30
 職員用のロッカー室はかなり整然としていた。
 加えて電灯も生きていて、安心する。

 並んだ男女ロッカー室を探して見付かったものは次の通り。

・野球選手のサイン入り木製バット、医療用メス
・未開封のビスケット
・オキシドール、コットン、絆創膏
・ナップサック

 武器になりそうなもの。
 なんとか食べられそうなもの。
 応急手当て用品、それらを入れる袋。

 さらに、一風変わった情報を載せた紙もいくつか入手した。

ξ゚听)ξ「本当に妙な世界だわ」

 赤く染まった紙切れに、黒インクの安定しない筆跡。

[ひとりぼっちでどん詰まり。ひとりぼっちを救うなら、ひとりぼっちでどん詰まり。
 行って見つけたおたからだ! こわいおんなに気をつけろ! まっくらどん底気をつけろ!]

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:33:58.65 ID:Z6pWhfO30
 ひとりぼっちでどん詰まり。
 一人ということは三階の個室を示すのだろうか。
 ならば、どん詰まりは一般病室の最奥?

 ひとりぼっちを救う。
 特別病室に閉じ込められた女性――愛称はベラ、と名乗った――を助ける。
 行って見つけるのはそのための「おたから」。

ξ゚听)ξ「馬鹿みたい……。だけど」

 それを信じる気になった理由がある。
 他に拾得した資料が、それだ。
 その中のひとつが、さらに異常性を放っていた。

 「わたしが拾うこと」を前提とした内容。

 口外したことのない事実が、そこに含まれていた。

ξ )ξ「掌の上で踊らされているみたいじゃない」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:35:26.47 ID:Z6pWhfO30
[さみしいあなたはここにきて、もっとさみしいことをする。

 おこったあなたはここにいて、もっとおこってしまうんだ。

 ひとり##して、ふたり##して、さんにんめにはだれがしぬ?

 あなたをおこらすいやなやつ? あなたがおこらすつみびとか?

 どんどんどんどんおちていく。にげだすならばいまのうち。

 おくにいくならしたがって。まっかな、まっかな、かみきれに。

 できればぶじでそとにでて、はしってはしってほしいけど、

 それでもほんとはにげれない。まっくらやみにきをつけて]

 赤いメモよりもさらに拙く、大きな文字でそれは書かれていた。
 画用紙にカラフルなクレヨン。
 そして挿絵もついている。

 子供? が二人、手をつないで涙を流している絵だ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:36:52.60 ID:Z6pWhfO30
ξ )ξ「何よこれ」

 不思議な感情が湧く。
 何故か。

ξ ;)ξ「何なんだろう」

 何故か、涙腺が緩む。

ξぅ )ξ「いけない。急がなくっちゃ。ベラが待ってる」

 ロッカーを出て、T字路を右折。
 少し行くと左手にドア。

 この病院は、俯瞰すると左右反転させたL字型をしている。
 縦に太く短く、横には細く長い。
 目指すのは、横線の先端。

 いくつもの病室が並ぶ廊下の先。

ξ )ξ「ふう」

 都合、今目の前にある扉は一般病室群への交差点。
 ドアノブに手をかけて、逆の手でバットを握り締める。
 大きく深呼吸してから、ゆっくりと扉を開けた。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:38:06.57 ID:Z6pWhfO30
 暗い。
 いや、ところどころは明るい。
 弱々しく明滅する電灯がちらほら遠くに見える。

ξ;゚听)ξ「まっくらやみにきをつけて、ね」

 明かりの無い中間地点に広がる闇。
 握った木製バットが手汗、そして乾きかけの血でぬるつく。
 だが、

ξ゚听)ξ「……行くわ」

 進むしか、ない。

 じゃり、じゃり、じゃり。

 ぺきっ、かしゃん、ぱり。

 電灯が割れて落ちているらしい。

 見えないガラスやタイルを踏みしめ、進む。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:39:18.72 ID:Z6pWhfO30
 じゃり、じゃり、じゃり。

 何かが腰元にぶつかって驚く。
 とっさに手を突き出して触ると、柔らかい布。
 ベッド?

 それを避けてさらに前へ。

 じゃり、ぺきっ、ぱりっ。

 じゃり、じゃり、じゃり。

 ガラス、タイル、何かの金属を踏む。
 心拍数はかなり上がっている。
 耳元で自らの血液が巡るのを聞く。

 じゃり、じゃり、ぺた、じゃり。

 じゃり、ぺた、じゃり、じゃり。

 ……?

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:40:27.05 ID:Z6pWhfO30
 喉が急激に渇く。
 心臓がますます早鐘を打つ。

 背後から。

 ぺた、ぺた、ぺた。

 湿っぽい足音。

 ぺた、ぺた、ぺた。

 思わず身体が硬直する。

 ぺたぺたぺたぺたぺた。

 近づいてくる、荒い息遣い。

 ぺた――それは真後ろで、停まっ

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:41:42.62 ID:Z6pWhfO30
 わたしは即座に走り出した。

ξ; )ξ「――――!!」

 絶叫しかける口を、血生臭い手で塞ぐ。
 怖い。
 怖い。

 怖い、怖い、怖い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

ξ; )ξ「!!」

 暗闇で何か柔らかいものを踏みつけた。
 ずるり、足が滑る。
 しかし、手すりにしがみつき態勢を立て直す。

 明かりの下まで!
 早く明るいところに!

 後ろの「ぺたぺた」が加速する。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:42:40.94 ID:Z6pWhfO30
 暗くて距離が分からない。
 まだ半分か、それ以下か。
 せめて病室の札さえ読めれば。

ξ; )ξ「あ、う」

 言葉にならない。
 声が単語にすらならない。

 ぺたっぺたっぺたっぺたっ。

 背で聴く歩調が、大きい。

ξ; )ξ「〜〜〜〜〜!!」

 ようやく電灯の下へ。

 最後の一歩で急激に身体を反転させた。

 そして、手にしたバットを遠心力で振り回す。

 木製の棒が「何か」を強く叩く。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:43:44.85 ID:Z6pWhfO30
 壁にぶつかる「何か」の肌は、てらてらと光を反射していた。
 しかし、考えるよりも早く引き戻したバットを頭上に掲げる。
 そして、振り下ろした。

ξ; )ξ「うあっ!」

 手応えは一瞬だけ柔らかく、すぐに硬くなる。
 粘膜に覆われたような肌にめり込むバットの先端。

「ぐげえええ! うぐええええ!」

 やるなら徹底的に。

 戻し、振り下ろす。
 上げて、叩きつける。
 両手で、全身で、繰り返しそれを行う。

ξ; )ξ「あっ! ああっ! ああああっ!!」

 十回。
 二十回。
 それ以上か。

 迫っていた怪物が完全に停止した。
 わたしはその場にへたり込む。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:44:57.03 ID:Z6pWhfO30
ξ;;)ξ「あああああっ……何よ! 何よ! 何よぉぉおおお……」

 強くバットを握り締めた指が固まってしまっている。
 それに気付いたのは顔を覆おうとした時だ。
 不機嫌に点滅する電灯が、スポットライトみたいだ、と頭の隅で思う。

 嗚咽を漏らし、しばしわたしは動けずにいた。
 五分ほどしてだろうか。
 ようやく周囲を見る余裕ができる。

 倒れた怪物の身体はいびつな造りをしていた。
 わたしの胸元くらいの高さまで、逞しい脚で構成されている。
 そして、それが支えていたのは、大人がまるまる入りそうな球体。

 胴体と思われるその部分は、頭部でもあったらしい。
 口が地球の赤道のように、ぽつぽつと一列に並んでいる。
 眼球や鼻、耳は見当たらない。

 しかし、小さな穴がびっしりと表面に点在していた。
 知覚器だろうか。
 いや、気にすることはない。

ξ )ξ「はあ、はあ、はあ、はあ。いか、なくちゃ」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:46:20.98 ID:Z6pWhfO30
 次の電灯はちょうど、どん詰まりを照らしている。
 遠くに見える、目的の病室前が明るい。
 そこまでの視界が遮られないことから、ひとまずの安堵を得る。

 かなりの距離を歩いた。

ξ )ξ「ここね」

 昂ぶった神経ではライトがやたら眩しく感じる。
 交感神経優位の状態では、光の感受性が上がるのだ。
 見開いた目で、ドアのナンバーを見る。

ξ )ξ「はは、なによ、49032号室? どこでも良いわ。どん詰まりなんでしょ」

 内開きのそれを、ぞんざいに開けた。
 広がる暗闇。
 踏み出しかけた足が宙で止まる。

 床がそこにはなかった。

ξ )ξ「あはははははは。どん底ね! どん底だわ! どん底! 確かにね!」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:47:19.93 ID:Z6pWhfO30
 室内かと思われた方向から、声の反響はない。
 力無く視線を虚空に向けた。

ξ )ξ「なによ、ここじゃないわけ? ……ん?」

 宙に浮いた白く、光を反射する小さなもの。
 手を伸ばし、指先で触れる。
 固い手触り。

 それはどこか遥か上空から、細い糸に吊られた鍵だった。
 タグはないが、恐らくベラを助けるのに役立つ「おたから」。
 引っ張ると簡単に糸が切れた。

ξ )ξ「早く戻ろう」

 帰り道、脚付き大玉の死体を努めて見ないようにした。
 背後からは何も聞こえてこなかった。
 それでも足早に廊下を移動したのは、無理からぬことだろう。

 何事もなく特別病室前までたどり着けた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:48:57.46 ID:Z6pWhfO30
ξ゚听)ξ「ベラ、戻ったわ!」

 べたつく手を汚れたデニムにこすり付けてから、ドアノブに向き合う。
 手先が震えている。
 それでも鍵はなんとか穴に収まり、開錠できた。

ξ゚听)ξ「開けるわよ!」

 粘り気のある音と共に、分厚い扉が開く。

 果たして、開いたドアの向こうに、

ξ;゚听)ξ「ベ、ラ?」

 生存者はいなかった。

 明るい房内に横たわった肉の塊と、壁に書かれた文字。
 中は赤いというより、もはや黒色に変色していた。

 肉の塊が一瞬、身体を跳ねさせた。
 そして、激しい痙攣をした後、再び沈黙する。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:50:00.77 ID:Z6pWhfO30
 酸化しきった血文字。

「Thank you very much. Take it.」

 矢印が引っ張られて、肉塊の手まで続いている。
 ナース服をまとった、しかし、無数に刺し傷を作られた女性の、死体の手まで。
 一瞬、目に入ったのはピンク色のウサギのシールを貼った名札。

[看護婦 イザベラ・クリアウォーター]

ξ゚听)ξ「ベラ……」

 今度は目を逸らさなかった。
 彼女の傍らに赤い紙切れが落ちていたのを見つけたからだ。
 踏み入って、抵抗なく紙を拾う。

 さらに、ベラからタグ付きの鍵を受け取る。
 もちろん彼女は動かない。
 ただ、そんな気持ちになっただけ。

ξ゚听)ξ「……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:51:16.25 ID:Z6pWhfO30
 慣れている自分が少し嫌になる。
 平常時なら取り乱す事態だ。

 生きていたから助けを呼んだはず。
 だけど、戻ってみれば既に何時間も前に#されていた痕跡。

 誰が、どうして、どうやって。

 それを考えるだけ無駄かもしれない、と感じてしまっている。

ξ゚听)ξ「モララー」

 彼の言葉がよみがえる。

――慣れたら「またか」くらいにしか思わない。

 彼は、無事だろうか。
 病院にきた目的は院長と会って#すことだった。
 だが、それよりも彼の安否が気にかかる。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:52:53.85 ID:Z6pWhfO30
ξ゚听)ξ「まずは、探さなくちゃ」

 探す?
 どっちを?
 それを考えるのも無駄か。

 先に会えた人物に対して、臨機応変に向き合おう。
 何をするかは後で良い。
 馬鹿げた世界で予測をしても仕方が無い。

ξ゚听)ξ「『階段』の鍵か」

 わたしが持っているのは正面玄関と裏口の鍵のみ。
 手に入れた鍵が何の意味を持つかは知らない。
 しかし、閉ざされていた以上、何かがあるのだろう。

 赤い紙切れも読む。

[こわいおんなは下の階。ざっくりすっぱり切りたがる。
 ベラはやさしいお姉さん。きげんをそこねて##された。
 だけどベラはカギかくす。だいじなトコへは行かれない。
 こわいおんなはだいげきど! 手下を使ってだいそうさ!]

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:55:19.23 ID:Z6pWhfO30
ξ゚听)ξ「下の階に、『こわいおんな』。大事なトコ……」

 もう一度、頭に病院の俯瞰図――左右反転したL字――を描く。
 現在地の縦線部分には、手術室、倉庫、エレベーターと階段が集まっている。
 横線にも乗降設備はあるが、二箇所には違いがある。

 こちらに近い階段だけが、屋上から地下まで繋ぐのだ。
 エレベーターは地下から、ここ、三階まで。
 この鍵限定の大事なトコとは、それで行ける屋上か地下だと推察できる。

ξ゚听)ξ「でも屋上は何も無いし、地下なんか、あら?」

 ……いや、あった。
 職員が立ち入りを禁止されていたデッドスペース。
 火葬場、死体安置所、忌まわしき薬品庫に並ぶ、謎の部屋。

ξ゚听)ξ「そこに何かがある?」

 わたしは立ち上がり、ベラの房を閉じる。
 そして、踵を返した。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:56:30.05 ID:Z6pWhfO30
 特別病室から出て、ロッカー室の前を通過、右折。
 すぐそばにある階段へと続くドアを――やはり閉ざされていた――開錠し、そこを通る。
 踊り場の電灯は生きていた。

 階段を静かに下りながら、頭の中を整理する。
 わたしがそこを目指す理由についてだ。

 探している人物はどちらも場所が分からない、から。
 留まっていても事態は好転しない、から。
 そして、もっとも大きな位置を占めるのが、

ξ゚听)ξ「あの子が呼んでる気がする」

 胸に湧いてきたそれは、半ば、義務感。
 むしろ、自発的な使命感か。

 去来するのは少女の声。
 逃げて、という呟き。
 ママ、という呟き。

 それが引っ掛かって離れない。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:57:51.10 ID:Z6pWhfO30
 一度折り返し、下ると二階の踊り場に出た。
 さらに下る。

ξ )ξ「なんであんなに悲しそうな声をするの?」

 ママ。

ξ ;)ξ「なんで寂しそうにわたしをそう呼ぶの?」

 ママ。

ξ;;)ξ「ブーンとの子だっていう自信が無くて、父親に確信がなくって」

 お腹の子を堕胎しているのに。
 ずっとできなくて、やっと身篭った子を#しているのに。
 どうしてわたしをそんな風に呼ぶの?

 何故「逃げて」じゃなくて「助けて欲しい」って言えないの?

 突如、壁がめりめりと音を立てて様相を変え始める。

 あらゆる物の輪郭がぼけて、赤っぽい金属様のものに変質していく。
 表面には、赤や黒、緑などの汚らしい錆び。
 壁、床、天井、全てがそれに覆われていく。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 21:59:16.49 ID:Z6pWhfO30
 ただれるようにそれらは上から下へと侵食を続けていく。
 流れるように、涙のように、上から、下へ。

 めりめり、めりめり、と。

 床、そして天井も、いつの間にか金網になっていた。
 足は止めず、怪奇の中を下っていく。

 めりめり、めりめり、と。

 コツコツという足音が、軽いものに変わる。
 かしゃん、かしゃん、といった具合だ。

ξ )ξ「……」

 電灯らしきものは消えうせたが、視界はそれなりに明るい。
 なので、周囲の様子がよく分かった。
 一階踊り場を目前にして起きた変調は、ついにわたしの足を止める。

 階段を塞いでいる人型の死肉群。
 十を超えるそれらは黒のボンテージに束縛され、床から数cm上に浮いている。
 金網から生えた数百もの細い針に、空中で直立させられていた。

 その隙間から一階に通じるドアが見える。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:00:37.63 ID:Z6pWhfO30
 向こう側からなら地下へと降りられるだろう。
 いつの間にか、めりめり、という音が止まっている。

 ……この障害が差す意味は十分に伝わった。

ξ゚听)ξ「二階を中継してから、『こわいおんな』達に挨拶してから、通れってことね」

 身近な死体の足元に自分のバッグを認める。
 立てかけられた鉄パイプと、懐中電灯。
 そして、赤い紙。

[あのやなヤツがジャマをした。むかつくあいつ、びょういんちょう。
 ワルもおおワル、ちょうおおワル。いそげやいそげ、あぶないぞ。
 終わってしぬにはちょっぴり早い。走れや走れ、走るんだ]

ξ゚听)ξ「なにが終わるのかは書いてくれないのね」

 紙をバッグに入れて、素早く荷物を整理する。
 袋を開けてビスケットを噛み砕き、水で飲み込む。
 随分と空腹であったことにようやく気付いた。

 そういえば、吐き戻していたんだっけ。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:02:12.32 ID:Z6pWhfO30
 バットはそこに捨ておいて、鉄パイプに持ち替える。
 医療用メスは懐にしまったままだ。
 肩掛け鞄の中に、持ち込みの凶器、回転式拳銃を確認。

ξ゚听)ξ「これで三人目に#すのは……」

 答えは出ない。

 頭を振って鞄を取り上げてから、階段を上り始める。
 目指すドアはすぐそこだ。
 錆び付いた蝶番を軋ませて、二階に出る。

 床の金網を覗きこんでも階下は暗闇で、天井も同じく「天井知らず」に暗い。
 上下の空間が各階で切り離されているようだ。
 それでも、二次元的な内部構造が変わっていないことを期待する。

 側にある扉をくぐれば、三階と同じように病室側へ行ける。

 はずだった。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>66 持ち替える、だ] 投稿日:2009/04/26(日) 22:04:26.81 ID:Z6pWhfO30
ξ゚听)ξ「……まっすぐ行かせてくれないか」

 直接そちらに通じる扉は完全に封鎖されていた。
 有刺鉄線と鎖が強固に絡まりあっており、断ち切れるレベルを超えていた。
 それらは一括して頑丈そうな小箱に留められている。

 その変則錠前の上部には、何かを差し込むような細長い口。

ξ゚听)ξ「また赤い紙」

 箱に張られた紙の黒文字は、今回は簡潔だった。

ξ゚听)ξ「『さんかくがカギを持ってる』。さんかく。三角?」

 裏返しても、それ以上は何も書いていない。
 三角とはなんだろう?
 この病院にまつわる三角?

ξ゚听)ξ「何のことかしら……」

 立ち止まって考える。


 その時、背後で金網が小さく軋んだ。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:05:35.09 ID:Z6pWhfO30
ξ;゚听)ξ「!」

 パイプを構えて音から離れるように壁際へと退避。
 振り向いた先には、

(メメ・∀・)「……生きてたか」

 疲弊しきった様子のモララーがそこにいた。

 傷だらけで、汚れていたシャツがさらに返り血を浴びている。
 黒いスラックスとともに多くの切り傷を付けられていた。
 手には拳銃、しかし、背にナップサックはない。

ξ;゚听)ξ「モララー! 良かった!」

 自分が素直に彼の無事を喜んでいるのに驚く。
 駆け寄り、あまつさえ鞄から応急キットさえ取り出した。

ξ;゚听)ξ「わたし、気付いたらどこかに運ばれていて、それで――」

 硬直。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:06:34.30 ID:Z6pWhfO30


 目の前の男は、わたしに銃口を向けていた。


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:07:41.96 ID:Z6pWhfO30
(メメ・∀・)「質問に答えろ」

 疲れた表情の中、眼だけが強い意志を宿している。

(メメ・∀・)「二年前、お前は何をしていた」

 嘘は、つけないようだった。

ξ゚听)ξ「……この病院で看護婦を」

(メメ・∀・)「担当」

ξ )ξ「小児の入院患者」

 わたしは、ぐ、と下唇を噛む。

 この男は、知ってしまった。

(メメ・∀・)「じゃあ覚えがあるよな。俺の息子の名前によ。マタンキだよ、マタンキ」

 やや間を空けて、首肯。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:08:54.40 ID:Z6pWhfO30
(メメ・∀・)「じゃあよ、教えてくれ。何でうちのガキは死んだ?」

 鞄の拳銃を取り出す隙はない。
 それに、あちらは自動小銃。
 引き金を引けばすぐに弾が出る。

 確か、回転式拳銃はグリップの上にあるコックを起こす必要がある。
 普段扱わないそれを、素早く抜き、狙いを定め、撃つ。
 不可能だ。

(メメ・∀・)「答えろ」

 彼の瞳に怒りがにじむ。

(メメ・∀・)「言えって」

 歯がカタカタと鳴る。
 拳銃に対する恐怖は当然ある。
 でも、それだけじゃない。

 わたしの罪を、吐露させられるのが、たまらなく怖かった。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:10:00.11 ID:Z6pWhfO30
 聴きたくない。
 その言葉は聴きたくない。

 #した、#す、#せ。

 嫌だ、嫌なんだ、その言葉は……。

 モララーは、しかし、口にする。

(メ#・∀・)「てめえが殺したんだろうがッ!!」

 モララーが声を張り上げた。
 金網を荒々しく踏みつける。

(メ#・∀・)「俺のガキを、この病院で殺したんだろうが! 答えろよツン!!
      殺したんだろう! 人殺しが! クズだ、お前はクズだ!!」

ξ )ξ「……」

 モララーが大きく息を吸った。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:11:08.14 ID:Z6pWhfO30
(メ#・∀・)「認めろ! お前の罪を認めろ!」

 わたしは何も言えない。

(メ#・∀・)「カルテを見つけた! 馬鹿な付箋が一枚貼ってあった!」

 思い出す、その付箋の内容。
 だが、それはカルテごと、とうの昔に処分したはずだった。

(メ#・∀・)「『ツンさんへ。マタンキ君の保護者の支払い能力に不安。よって、手術前の処置を”うっかり間違えないように”』
      手術前の処置をうっかり? 金が無いから殺せって意味だろ!? 金なら用意できたのに!!」

 さらにまくし立てるモララーは、果たして、矛盾に気付いているのだろうか。
 ひとつだけ、彼は忘れている。

ξ )ξ「待って、モララー」

(メ#・∀・)「あ!? ようやく認める気になったか!?」

 わたしは、ぶるぶると震えていた身体をなんとか抑える。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:12:37.79 ID:Z6pWhfO30
ξ )ξ「……ひとつだけ聞かせて。あなたは言ったわね。
       心臓の手術をして、術後、急に亡くなったって」

(メ#・∀・)「それがなんだ! 質問してるのは俺だぞ!」

 見れば、彼は怒りのあまり銃を下ろしていた。
 握り締められた拳が白くなっているのが見える。
 力を込めすぎているようだ。

ξ )ξ「さっき、あなたはなんて言った?」

(メ#・∀・)「は! 何度でも言ってやる! 手術前の処置を――」

ξ )ξ「なのに、何故、あなたは術後に亡くなったって記憶しているの?」

 モララーが意表を突かれた表情になる。

ξ )ξ「あなた、マタンキ君の側にいなかったのよ」

(メメ・∀・)「……なんだと?」

ξ )ξ「お見舞いに行った?」

(メ#・∀・)「当たり前だ!」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:14:10.69 ID:Z6pWhfO30
ξ )ξ「マタンキ君が亡くなる前、あなたはどこにいたか覚えている?」

(メメ・∀・)「俺はもちろん会社で――」

 畳み掛けるように問う。

ξ )ξ「会社名は? 場所は? 給与は?」

 沈黙。

(メ;・∀・)「お、俺は……。俺は会社で……、会社? 会社の場所、場所、あれ?」

ξ )ξ「マタンキ君のお見舞いに来たのは、彼のおじいさんだけ。
       あなたはわたしと面識がなかった。でしょう?」

 嘘ではない。

 初めに彼から息子の名前を聞いた時からあった違和感。
 わたしはマタンキの担当を受け持っていた。
 普通、看護婦の方が担当患者の親族を忘れていても、その逆はない。

 少なくとも、自己紹介の時に名前を聞いて、思い出してもいいはずだ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:15:23.02 ID:Z6pWhfO30
 なのに彼は、さも自分が「手術後まで見ていたかのように」語る。

 そして、今、手術前にわたしが#した、と言う。

ξ )ξ「あなたも罪人よ」

(メ;・∀・)「そんな、いや、俺は、しがない会社員で」

ξ )ξ「無職の男性、押し入り強盗で一名射#」

 銃を慣れた手つきで扱うモララー。
 正確に怪物を撃ち、退けた男。

ξ )ξ「動機は」

(メ; ∀ )「ど、動機は……?」

ξ )ξ「覚えてる?」

 わたしは卑怯だ。
 自分が罪を認める前に、彼を責めている。
 彼が息子のためにしたことを、責めている。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:16:42.05 ID:Z6pWhfO30
 モララーが膝から金網の床に崩れる。
 取り落とされた拳銃が少しだけ跳ねた。
 さらに、眼元から雫も落とされる。

 思い出して、しまったらしい。

(メメ;∀;)「マタンキの、あいつの手術費用を手に入れたかった」

ξ )ξ「そして、手術前にあなたは捕まった。その後のことは、わたしは知らないわ」

(メメ;∀;)「そうだ、俺が、俺が原因でマタンキの手術は遅れた。焦って、でも、職もなくて。
      家に強盗に入ったんだ。女がいて、抵抗した。俺はその人を……」

 逮捕後、どういう経緯で彼がここにいるのかは語られない。
 懲役を終えるのに、少なくとも二年では足りないだろう。
 まともな服を着て、健康そうな体つきで、どうやってサイレントヒルに来られたか、彼も覚えていないようだった。

(メメ;∀;)「分からない。なんだ? なんで俺はここに」

ξ )ξ「わたしもよ。わたしも、そう。人を#……#……ころ、した、わ」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:17:55.31 ID:Z6pWhfO30
 昔の話だ。

 風の強い日、屋上でシーツを取り込んでいた。
 設置されたフェンスの近くに男の子を見つけた。
 病室で寝ているはずのマタンキだった。

――僕のお父さん、人を殺したの?

 わたしはその時、眼を逸らしてしまった。
 彼は自らの家庭が決して裕福でないことを知っていた。
 何故、モララーが犯罪に手を染めたのかも理解していたようだった。

――僕のせいかな……。入院なんかするから。

 この国では保険に加入していない場合、莫大な医療費がかかる。
 社会的弱者は、保険料すら払えない。
 彼の父親、モララーもその一人だった。

――ねえ、ここって、落ちたら死ねるかな。

 そして、フェンスをよじ登る音。
 わたしはシーツを放って駆け出した。
 でも、手を伸ばした時、彼はもうフェンスの頂上をまたいでいた。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:19:20.35 ID:Z6pWhfO30
――あっ。

 一陣の突風。
 わたしの掌に確かな「押した」感触。

 それらは同時。

 叫んだ。
 フェンスを掴んだ。
 その向こうを落ちていく、少年。

 あっけに取られたような表情が落下していった。

 わたしが押した?
 押して、落とした?
 殺して、しまった、のか?

 人が地面に衝突する音は、案外、鈍いものだった。


ξ;;)ξ「そうやって、マタンキ君を突き落としてしまった。
       わたしはお腹にいた赤ちゃんも殺した。子供の命を二つも奪った」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:20:36.98 ID:Z6pWhfO30
 事故として片付けられ、ゆすられるネタにされた罪を、認める。
 胸が張り裂けそうだ。
 認めて、赦されるわけがない。

 懺悔、告白、言い訳。

 どれも等しく、赦される理由にはならない。

ξ;;)ξ「そうよ。あなたの言うとおり、わたしはクズだわ。マタンキ君を殺したもの」

 モララーと向かい合うように、わたしも座り込む。
 金網が軋んだ。

 赦されたい。
 怖い。
 誰かに後ろ指を差されているのではないか。

 後ろめたい気持ちを消して欲しい。
 罰を与えて欲しい。
 誰か、誰かに助けて欲しい。

(メメ;∀;)「いや、俺は、俺がマタンキを殺したのか? 追い詰めたのは、俺か?」

 向き合って、泣く。
 わたし達は互いに、確実に一人を殺し、もう一人を間接的に殺した。
 この最悪を、誰か、誰か――。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:21:44.25 ID:Z6pWhfO30
 割り込む、何かの気配。


 ぎゃりりりり。


 金属同士の擦れあう音。


 ずん。


 そして、重々しい足音。


ξ;;)ξ「え?」

(メメ;∀;)「なっ、なんだ?」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:23:49.02 ID:Z6pWhfO30
 それらはエレベーター方面から聞こえてきた。
 ゆっくりとした、連続した、はっきりとした音。
 ワンセットの間隔は、長い。


 ぎゃりりりり。

 ずん。


ξ ;)ξ「何の音……」


 ぎゃりりりり。

 ずん。


(メメ ∀ )「……おい、なんだ、あれ」


 やがて、エレベーターホールの角からそれが姿を現す。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:26:06.24 ID:Z6pWhfO30
 ぎゃりりりり。

 身の丈ほども長い、肉厚の刃物が床を擦る。

 ずん。

 ぼろきれを纏った身体がそれを引きずり、歩く。

 一歩踏み出して、異常に大きな包丁、ナイフ、あるいは鉈を引く。
 一見まともな人間の容貌であるのに、遅々とした歩み

 それが、わたしの背筋を凍らせた。
 モララーも全身を強張らせている。

 赤く錆びた金網の上を歩く「人の形をした何か」は、特徴的な兜を被っていた。
 赤黒く、ひどく重そうで、そして大きな金属の被り物。
 天辺に頂点を持ち、底辺の部分が肩、胸までをすっぽりと覆っている。

 ああ、そうか、これが。
 確かにそう見える。
 それにしても、非現実的な存在だ。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/26(日) 22:28:11.34 ID:Z6pWhfO30
 [三角が鍵を持ってる]


 ぎゃりりりりりりりり、と大鉈が、三角の被り物の上に、振りかぶられた。


【Save】


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