- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:26:30.99 ID:JGmBYR/70
- 楽しいな、嬉しいな。
○○と一緒に行く遊園地。
【Load】
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:27:42.78 ID:JGmBYR/70
- そこが遊園地だと理解するのに少し時間を要した。
遠くにローラーコースターが見えなければ、しばらく状況が把握できなかっただろう。
振り仰げば有刺鉄線の巻かれた鉄柵の門。
病院の名残は完全に消えている。
レンガ造りのアーケードが、背後のチケット売り場から続く道を覆っている。
その道というのが、踏み込んでも歪みを作らない、頑丈な金網だった。
警察署でモララーは言った。
またか、くらいにしか思わなくなる、と。
まったくもってそのとおりだ。
今更構うものか。
正常な神経が麻痺していても、五感と生命維持だけに集中するだけ。
脚はゆっくりとでも動けば問題ないし、腕も武器を振るえればいい。
倫理観は、「あの子達」にだけ適用すれば、十分だ。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:29:03.52 ID:JGmBYR/70
- 完全な暗闇と言い切れるほどの重苦しい空。
足場の金網を空かして見える下方には暗黒が広がっている。
なのに、ライトはなくても背景物がそれなりに見分けられた。
[レイクサイド・アミューズメントパークへようこそ!]
その看板は、やや離れたところからでも読めた。
ピンク色のウサギが、青いオーバーオールを着ている様子が描かれている。
そのキャラクターの浮かべる、幼子を惹きつけるための笑みが、今はひどく狂気じみて見えた。
アーケードの下を真っ直ぐ行くと、道は三方向に分かれていた。
噴水を中央に置いた、ちょっとした広場のような三叉路。
右方に足場は無く、左方には資材のバリケード。
黒々とした液をどろりと流し続ける噴水を横切り、前方へ。
広場にはポップコーンやアイスキャンディーを売るワゴンが放置されていた。
閑散とした園内に人はなく、ぽつぽつと並べられたベンチの上にも誰も――
いや、いた。
進行方向に遊園地のマスコット、ピンクのウサギ「ロビー」がベンチに座っていた。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:30:08.24 ID:JGmBYR/70
- 座っていた、と表現するには脱力しすぎている感があった。
くたりと首を後ろに倒し、四肢は力無く伸びている。
夢の無いことを言えば「きぐるみの中の人間は死んでいる」ように思えた。
その証拠に、首のつなぎ目から赤いものが染み出していたからだ。
(メメ ∀・)「あいつ、なんで口が、血だらけなんだ」
ピンク色の頭部を持つロビーの口周りは本来、白だ。
ふわふわの素材が使われたその部分に、赤の染色はないはずだった。
毛糸のセーターに鼻血を着けてしまった思い出が甦る。
柔らかい繊維に染みた血液は擦ると、じんわりと伸びる。
ロビーの汚れた口元は、その様子を彷彿とさせた。
横を素通りしても、それは起き上がってきそうにない。
ぴくりともすれば迎撃する覚悟はあった。
しかし、杞憂に終わった。
その時は。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:31:51.75 ID:JGmBYR/70
- 幅の広い道は花壇に挟まれている。
それより外側には腰ほどの高さの鉄柵。
さらに外部に、アトラクションかスタッフルームなどの建物。
レンガで装飾された外壁が続く中、視界の右上方に動くピンクを見た。
ξ 听)ξ「?」
屋上にある煙突の形をしたオブジェクトの根元で、ロビーがしゃがみこんでいる。
眼を細めてみても、下からでは何をしているのか分からない。
やがて、ウサギのきぐるみは手にしたものを掲げた。
ロビーが誇らしげに片手で持ち上げたそれを上下させている。
空いた手には、ジッポーライター。
小躍りするウサギの大きな頭の前で、ふたつが近づけられた。
(メメ ∀・)「……くそったれ」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:33:26.57 ID:JGmBYR/70
じゃり、とホイールの擦られるのを小さく聴いた。
太い金串に胸から背へと刺された、小さな子供の死体に火花が飛ぶ。
ガソリンでも染みこませていたのだろうか。
人体の松明は、勢いよく、燃え始めた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:34:23.46 ID:JGmBYR/70
- ウサギのきぐるみは、分類が「マスコット」から「クリーチャー」になる。
(メメ ∀・)「奴ら、まだ、いそうだな」
モララーも認識を改めたようだ。
ξ 听)ξ「弾は?」
立ち止まって残弾数を確認させる。
マガジン一本と、銃の中に二発。
(メメ ∀・)「逃げられそうにない、時、だけ……。いや、逃げ場なんて、ない、か」
火達磨を両手で持ったウサギが屋上からこちらを眺めていた。
炎に照らされて、プラスティック素材の目玉が光を返している。
その笑った眼で品定めするように、じっ、とこちらを見ている。
モララーが舌打ちをして、そちらに向かって中指を立てた。
屋上の縁にさらなるウサギが、数体。
不快な笑みを貼り付けた、きぐるみ達。
わたしは視線を切って、モララーと歩き出す。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:36:02.09 ID:JGmBYR/70
- 足場の無い部分や柵によって作られた道を歩くと、お化け屋敷に辿り着いた。
どうやら一本道だったようだし、誘導されたとも言える。
建物の前には、整列用のバーが並んでいた。
入場を待つ親子や男女の姿は当然そこには無い。
このアトラクションの趣向は、単純だ。
ストーリーテラーの音声に従って道を行くだけ。
ドアは各部屋で話が終わるまで開かれない。
内装は時期によって変更された覚えがある。
館、ホテル、森、トンネル。
いずれもなかなか凝った話が作られていた。
ξ 听)ξ「まだウサギは追ってこないわ」
(メメ ∀・)「中に、いるかもな」
ξ 听)ξ「かもね」
進むしかないことは、とうに分かっていた。
どちらからともなく、わたし達はお化け屋敷に踏み入る。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:37:19.26 ID:JGmBYR/70
- 入り口の小広間には裸電球がひとつだけ、ぶら下げられていた。
部屋が弱い電灯に照らされてオブジェクトを浮かび上がらせた。
すぐさま敵の姿を探したが、動くものはわたし達以外にない。
やや高い天井のそこに、いくつかの「お化け屋敷らしい」装飾があった。
壁にかかった数点の絵、割れた鏡、煤けた暖炉、砕けたテーブル。
もとからそうだったのか、変異によるものかは分からない。
ただ、敷き詰められた絨毯についた黒い染みは、いまだ生臭さを残していた。
ξ 听)ξ「……これ」
(メメ ∀・)「怪物が、が、先にいる、か……? 行くしか、ないんだがな」
血痕を除けもせず、真っ直ぐに正面の扉をくぐった。
ぎぃ。
暗い中に入り後ろ手に戸を閉じると、視界は途端に明るくなる。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:41:11.60 ID:JGmBYR/70
- どこかに隠されたスピーカーが喋り始める。
アトラクション然とした、演技じみた声が響く。
『病院へようこそ。湖に近い静かな町で一番の病院、ブルックヘイブン』
壁に沿ってL字型に通路が確保された部屋。
話の内容に沿った内装は、その中心に作られていた。
ストーリーテラーの言葉にかなった、病院の白。
『病院の一室では患者が治療に励んでいる。見舞い客も何人も訪れ、賑やかだ』
そこには病室が、切り取られたように存在していた。
わいわいと人の話し声が小さく聴こえる。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:42:16.63 ID:JGmBYR/70
- 腰ほどまでの柵に囲われた空間には、ベッドとサイドテーブル、花瓶など。
『しかし、そんな病院にも悲しいできごとが……』
照明が、すう、と弱くなる。
壁面の窓には明るい空があった。
安っぽい青空。
『とある少女の話だ。彼女は神経を病におかされていたのだ』
話を遠くに聞きながら、進行方向のドアを開けようとする。
しかし、平生と同じように「物語」が終わるまでロックは解かれないようだった。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:43:39.14 ID:JGmBYR/70
- 『ある日、大手術が行われた。少女の病を少しでも改善するのではないか、と言われていた手術だ』
わたしはモララーを床に座らせた。
ぼんやりと、病室を模した空間を眺める。
ベッドのシーツには、ついさっきまで人が寝ていたような跡がついている。
『それは残念ながら失敗した。医師が彼女の脳を傷つける結果に終わったのだ』
窓の設えられていない壁に、手術の光景が影だけ投影される。
失敗、それを表すように、医師の影が頭に手をやった。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:44:52.46 ID:JGmBYR/70
- 『少女は次第にまともな人格を失い始めた。始めにそれに気付いたのは担当の看護婦だった』
『雨の日に屋上に出た少女は笑って、天使が迎えにきた! と叫んだそうだ』
『それから一月で少女の奇行は頻度を増していった』
『ついに彼女は人を傷つけるようになる。看護婦を、患者を、両親を』
『そして、悲劇が起こった』
声のトーンが落とされ、悲しさを表現しているようだ。
窓の外の風景が曇天に変わる。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:46:25.93 ID:JGmBYR/70
- 『少女が果物ナイフを奪って暴れ始めた! 恐ろしいことに!』
再び投影。
おさげの女の子が倒れた誰かに刃物を振り上げている。
『少女と同じく入院していた男の子は即死……』
悲鳴。
『看護婦が駆けつけた時には、二人が死に、一人が重症を負っていた』
『そのまま少女は屋上に駆け上がり、そこにいた看護婦にも切りつける!』
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:47:21.33 ID:JGmBYR/70
- また、悲鳴だ。
『もちろん看護婦も驚いた。ナイフ! しかも少女は血まみれだ!』
『もみあううちに、少女はナイフを取り落とし、ちょうど刃先が上を向いたところに、倒れた』
『ざっくり!』
窓の外でフラッシュ。
大げさな斬り付ける音がする。
そして、
天井から おびただしい量の 赤黒い液体が あふれ出す。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:48:32.39 ID:JGmBYR/70
- ξ; 听)ξ「!」
生暖かくぬめつく。
その事実に気付いたのは、頭から被った後だった。
この匂い……。
(メ; ∀・)「血だ!」
口に入り、鉄の香りと塩味が広がる。
吐き出そうにも次から次から降り注ぐ赤。
床に座っていたモララーは、既に胸まで浸かっている。
『苦しい! なんで! どうしてこんなことに!』
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:49:59.69 ID:JGmBYR/70
- 靴に、服に、ぬるい水分が染みこんでくる。
たじろいで足を動かせば、立った波が壁を打った。
水位が急激に上がってくる!
ξ; )ξ「うあっ……!」
(メ; ∀ )「ぶっ、ぐっああ、くっそ!」
モララーを助けようと手を伸ばすが、波が強い。
身体が飲まれる。
視界は暗い。
誰か、助けて……。
『誰か助けて! 看護婦も叫ぶ!』
叫べ、な、い。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:52:58.24 ID:JGmBYR/70
- 『なんて、ジョークさ』
途端、血液らしきものは一切が消え失せた。
服も濡れておらず、生臭さも無い。
ξ; 听)ξ「……幻覚?」
でも、それなら。
それなら、わたし達が今、這いつくばっている説明はどうつく?
『そんな事件はまったくなかった。悲惨な事件なんてのはね』
(メ; ∀・)「く、そ」
『そうさ、そんなものはなかった』
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:54:51.52 ID:JGmBYR/70
- 『一人の男の子が死んだだけさ。屋上から落下して』
ξ )ξ「!」
窓の外を人影が、上から下へ移動した。
いや、落ちた。
どたん。
わたしはモララーを盗み見る。
彼はうつむいて、しかし、すぐに顔を上げた。
(メメ ∀・)「くだらない」
噛み締めた歯の間から、そう搾り出すのが辛うじて聴こえた。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:55:56.97 ID:JGmBYR/70
- 『さて、次の部屋へどうぞ』
軽く、開錠される音が扉から聞こえた。
この部屋での物語りはここまでということだ。
ドアノブに手をかけて、しかし、わたしは止まってしまった。
ξ; - )ξ「うっ……ぶ……」
予感があった。
先にあるものは、絶対にわたし達に関係のある物語という予感。
このお化け屋敷が閉じ込めているのはお化けじゃない。
忌まわしい記憶の再現だ。
こみ上げた胃液を無理やり飲み下す。
止まってはいられない……。
ξ; )ξ「ハァ、ハァ」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:57:16.76 ID:JGmBYR/70
- 扉を開ければ10mほどの通路。
金網の床、壁と低い天井は黒い板。
足場の下には、きぐるみ。
(メメ ∀ )「気持ちが、悪い連中、だ」
下方にピンク色の頭が見える。
すぐ足の下にいて、三体が手を繋ぎながらゆったり輪になり踊っている。
足運びはひどくお粗末なものだった。
「キャフッ! キャフフフ……アハハハハハ!」
マスコットキャラクター、ロビーの笑い声だ。
甲高く、早い発声。
ひどく耳障りなそれ。
「キャハハハハ……。ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 22:59:01.67 ID:JGmBYR/70
- 段々と声が太く、大きくなる。
笑い袋から発せられるものから、男性のものに。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
スタッカートのついた野太い声が、やがて騒音になる。
三体分の、高笑い。
「ハッハッハッハッハッハッ! アーハッハッハッハッハッハ!」
小さな行動を開始するウサギのきぐるみ。
頭が小刻みに揺れ動かし始めた。
がくがく、耳は徐々に角度を寝かせていく。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:00:20.60 ID:JGmBYR/70
- 前後左右に頭が震え、上に、上に、面を向けていく。
ぐぎぎぎぎぎ、ぎ、ぎ、ぎ。
ぎ。
ぎ。
ついに、それらがわたし達を見上げた。
気味の悪い笑みを貼り付けた顔を三つ揃えて。
ξ )ξ「……何よ」
にっこりと、白い歯を覗かせた頭、顔、顔。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:02:52.45 ID:JGmBYR/70
- 三体のロビーの内、一体が大げさに掌を打った。
「なるほど!」といった仕草だ。
そして、視線を切ってしゃがみ込む。
モララーはそれを認めて、無言で銃口を向けた。
「キャハハッ」
ケタケタ笑う声に混じって、エンジン音がする。
モララーが銃を向けたまま「それ」を凝視した。
「キャハハハハハハ」
取り上げたのは、灰色の胴体に煌く回転式刃を備えた道具。
本来の利用法は樹木などの伐採や切断。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:04:23.04 ID:JGmBYR/70
- しかし、こうも使える。
大鉈でそうしたように、足を切断することもできるのだ。
それを証明するかのように、ピンクのウサギは行動を起こす。
チェーンソウを「仲間の片足」に押し当てた。
(メメ ∀ )「はははははははははははははははは」
モララーが刹那、乾いた笑いで応えた。
「キャハハハハ」
けらけらとロビーちゃんも笑った。
ジャガッ。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:05:49.86 ID:JGmBYR/70
- ジャッ。
ガガガガガガガガガ。
「キャーッ!」
受けたウサギは、悲鳴を――あるいは嬌声を――上げはするが、抵抗はしない。
みるみる片足の足首にノコギリ歯が食い込んでいく。
(メメ ∀ )「はははは。そうだよ。痛いんだよ」
「キャハハ」
チェーンソウは斬り進む。
三体目のウサギは何もしない。
じじゅじじゅじゅぶぶぶぶ。
「ギャババババアハハハッハハハハ!」
(メメ ∀ )「あははははは」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:09:01.87 ID:JGmBYR/70
- なおもチェーンソウは斬っていく。
じゃじじゅじじじじじゅじゅぶ。
ががっ、ががじゃじゃじゃじゃ。
足首の関節で一旦詰まり、そして再開。
じゃりじゃりじゃじゅじじゅぶ。
脛、膝、太腿。
腰元まで切り裂かれて、バランスを崩した被害者ロビー。
第三のロビーはようやくアクションを起こした。
被害者に肩を貸したのだ。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:10:19.68 ID:JGmBYR/70
- 完成した片足立ちのウサギに、傍観していたウサギが手助けをした。
ξ )ξ「なんだ。そういうこと」
(メメ ∀ )「見ろよツン! あいつら、俺の真似してるぜ!」
ξ - )ξ「本当に。……馬鹿みたい」
彼らはそれ以上、何もしてこなかった。
上を通過するとき、少し視線を追わせただけだ。
チェーンソウの駆動音は続いた。
モララーはその通路を出るまで笑っていた。
それでもわたしには分かった。
目が笑ってはおらず、むしろ、逆の感情に染まっていることが。
意味のない中間地点を終えると、最初の部屋の続きが現れた。
ベッドがぽつんと置かれた病室、そしてやはりL字型の通路。
しかし、今度は薄暗く、清潔とは言いがたい密室だった。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:11:13.22 ID:JGmBYR/70
- 『失礼! 我が遊園地のマスコットが無礼を働いたかな。彼らは人を笑わせるのが好きでね』
途切れていた語り部が復活した。
――キャハハハハハハハ。
そこに割り込む、例の不快な声。
『おっと、少々お待ちいただけるかな』
銃声。
――ぎゃっ。
『いたずらが過ぎるので御仕置きをしておいた。さて、この部屋の幽霊について教えようか』
(メメ ∀・)「くだらねえ。鍵、開けろ、よな」
『そういうなよ、お客さん』
思わぬ返答にモララーが身を強張らせた。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:12:31.16 ID:JGmBYR/70
- 『この病室には一人の女の子がいたんだ。彼女は大火事でひどい火傷を負ってね』
わたしは、頭が急速に、
白
く
ぼや
け
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:13:25.15 ID:JGmBYR/70
- ***
小さなシェードの被された電球が吊るされている。
床材も壁紙も煤けたようにぼけて汚らしい。
病室というにはあまりにも不衛生だ。
(´・_ゝ・`)「まだ息があるのですね。やはりあなたは選ばれた人だ」
スーツ姿の男が言う。
ベッドに寝かされた包帯だらけの小さな人間が呻く。
滲み出た体液で包帯は黄ばみ、固まっている。
(´・_ゝ・`)「わたしに対する警戒を解いていただけませんか。味方ですよ」
あるいは、と言葉が続く。
(´・_ゝ・`)「あなたのしもべです。聖女」
うやうやしく頭を下げる男。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:14:16.37 ID:JGmBYR/70
- ベッド横のサイドテーブルには薬瓶と注射器、水差し、ファイル。
青いファイルには患者の名前が書かれている。
【アレッサ・ギレスピー】。
聞いたことのない名前だ。
いや、ついさっき見た。
薬も知らないもので、澄んだ赤色をしている。
わたしはそれらを手に取ろうとして、果たして、触れられない。
病室内を動けはしたが、いずれのものも身体をすり抜けてしまう。
(´・_ゝ・`)「おや、そろそろ注射の時間ですね」
そう言って、サイドテーブルに置かれた瓶と注射器を手にする。
その際、彼はわたしの身体を透過した。
不思議な気分だ。
部屋の隅にはぼんやりした小さな人影が蠢いている。
先ほどまでなかったのに。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:16:19.30 ID:JGmBYR/70
- 影は部屋の四隅から徐々に中心にいるわたし達に迫っている。
少女は腕に注射針をぞんざいに突きたてられて呻く。
およそ筋肉らしいものが見えない細腕に、薬剤が投与された。
影が、霧散する。
(´・_ゝ・`)「わたしをどうにかしようとするなんて悪い子です」
無表情に、少し歪ませた唇を添えて男は言う。
いやらしい笑みだ。
(´・_ゝ・`)「あなたがその力を使うのは個人を殺すためではありませんよ」
腰の後ろで手を組み、男がベッドの周りを歩き出す。
(´・_ゝ・`)「この町を中心に楽園を作るため。お母上もそれを望んでおられます」
この町が楽園?
(´・_ゝ・`)「苦痛のない世界。異教徒さえも包み込む、平穏」
それがこんな後ろ暗い町?
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:17:12.30 ID:JGmBYR/70
- (´・_ゝ・`)「あなたはそれを望みませんか。幸福を迎え入れる準備は」
「ウソ」
少女の声がこだまする。
その主がベッドに横たわる彼女だと、自然に分かった。
(´・_ゝ・`)「ウソではありません」
「私には分かるもの」
10歳ほどの少女が部屋の隅にすう、と現れる。
長い黒髪の痩せた女の子だ。
白いソックスとシャツ、小学校の制服らしいすみれ色のジャンパースカート。
だが、実体がないように曖昧で頼りない輪郭をしている。
「皆死んじゃえばいいんだ」
(´・_ゝ・`)「そんなことを」
「うるさい」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:18:39.43 ID:JGmBYR/70
- やれやれと男は頭を振ってベッドに背を向ける。
(´・_ゝ・`)「また参ります。儀式は来月。貴方の依り代が見つかりましたので」
「デミタス。あなたもよ」
男は歩みを止める。
「あなたも死ぬのよ」
(´・_ゝ・`)「聖女のご希望とあらば」
次第に少女が姿を維持できなくなる。
(´・_ゝ・`)「薬が効いてきましたね」
少女の輪郭は消える。
男も消える。
わたしと、包帯だらけの人間が残る。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:20:08.66 ID:JGmBYR/70
- 少女が張り付いた包帯をパリパリと鳴らしながら腕を上げる。
わたしの方に手を差し出す。
頭の中に言葉が響く。
『ごめんなさい』
どうして謝るの?
『身体をもらったの』
え?
『それでも、わたしは生まれ損なったの』
生まれ損なった?
『ごめんなさい』
***
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:21:50.18 ID:JGmBYR/70
- 頬を軽く叩かれて、自分が床に寝そべっていたこと知った。
目を開き、倒れたまま頭だけを動かす。
(メメ ∀・)「目が覚めたか」
毎度のことになりかけている。
幻覚からわたしを引き戻したのは、やはりモララーだった。
ξ 听)ξ「ごめんなさい。……鍵は?」
(メメ ∀・)「開いた。物、物語は――」
彼はストーリーテラーの言葉を省略して教えてくれた。
まとめると、次のようになる。
――サイレントヒルに、悪魔に取り憑かれた少女がいた。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:23:32.54 ID:JGmBYR/70
- 時として、意図せずに超常現象を起こしてしまう。
感情の昂ぶりで周囲を傷つけてしまう少女は忌み嫌われた。
家を焼かれた彼女は、人間には虐げられさえした。
しかし、悪魔に愛されていたのだ。
全身を焼かれながら、およそ人間とは程遠い姿になりながら、彼女は生きていた。
いや、半ば強制的に生かされていた。
(メメ ∀・)「名前は」
既に、わたしは知っている。
アレッサ・ギレスピー。
すんなりと、それを口に出すことができた。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:24:58.16 ID:JGmBYR/70
- めりめり、と、
(メメ ∀・)「……そうだ」
さっき幻覚で見た内装が、
ξ 听)ξ「……」
わたし達の目の前で再現された。
(メメ ∀・)「……」
わたしは首を振る。
ξ 听)ξ「彼女は実在したのね」
ここは、既にお化け屋敷の一室ではない。
アレッサの閉じ込められていた病室だ。
おそらく、立ち入りの禁止されていた隠し部屋。
L字の通路や、進行方向にあるべき扉は無くなっていた。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:26:09.97 ID:JGmBYR/70
- (メメ ∀・)「お前は、何を見た」
倒れたわたしの傍らで、モララーが座る。
わたしも身体を起こして膝を抱えた。
ξ 听)ξ「誰かの、いえ……アレッサの記憶」
床に転がっていた鉄パイプを引き寄せて、言う。
ξ 听)ξ「何かわたしに伝えたかったみたい……」
そうか、とモララーが壁に頭をつけた。
追求しても栓の無いことだと知っているのだ。
非常識ばかりのこの町では、それが常識。
ξ 听)ξ「『ごめんなさい』か」
ガガ、と隠されたスピーカーがノイズを立てた。
聴こえて来たのは、ストーリーテラーの演技じみた声ではなかった。
女性のアナウンス。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:27:43.88 ID:JGmBYR/70
- 『迷子のお知らせです』
『ツンさんとモララーさんが連れて行ったジャクリーンさんを、ご家族がお探しです』
ぎくり、身が固まった。
わたし達の名前が呼ばれたこともそうだが、もうひとつ原因がある。
どんどん、という強すぎるノック音がそれだった。
……病室のドアが誰かに叩かれている。
正方形のこの部屋で、わたし達から向かって左の壁。
『トーマス・ゴードン氏がお二人をお探しです』
ゴードン。
確か、認知症で入院していた男性だ。
それが何故ここで。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:29:30.07 ID:JGmBYR/70
『ただいま、お二人のいる部屋の前にいらっしゃいます』
後頭部の毛がざわつくのが分かった。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:30:10.88 ID:JGmBYR/70
- 「じゃくりーん! 僕のじゃくりぃいいいん! じゃっきいいいいいい!」
どん、どん、どん、どん。
しわがれた絶叫がノックと重なる。
私は状況を理解するより早くドアに駆けつけていた。
施錠しようと目を凝らしてドアノブを見る。
が、ない。
スイッチ式、スライド式、またシリンダー式の鍵も、扉には見当たらない。
そうか、ここは内側から鍵がかけられるようにはできていないんだ。
「じゃっきいいいいいぃいい! うあああああああああああああ!」
殺す、殺す、という単語が混じる。
「じゃっきぃをかくっ、かくしたやつ! いるんだな! いるなッ! ころしてやる!」
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:31:25.28 ID:JGmBYR/70
- 「ぎゃあああ! じゃっきぃいぃをかぁええせぇええ!」
がりがり、扉が何かに削られる音がする。
がり、がり、がり、がり。
「いるんだろうッ! ああああぁあああ! あけっ、あけっろおおおぉおぉああああ!!」
がりっ。がりっ。
ガリッガリッガリッ。
ガッガッガッガッガッ。
ダンッ、ダンッ!
ダンッ!
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:32:26.47 ID:JGmBYR/70
- 「があああああ! ヒィイイィイィィ!!」
錯乱した老人の叫び。
木製の扉がひどく揺れている。
殴打は間断なく続く。
三角頭の男とは別の種類の恐怖。
だが、程度は同じだった。
扉から飛びのいて、モララーに駆け寄る。
彼は既に銃を抜いていた。
(メ; ∀・)「俺を、向かいの壁まで、連れて、行け」
『ゴードンさん少々お待ち下さい。ただいま開錠いたします』
モララーを引きずる。
ここの床材は金網ではなかったためにそれが容易だった。
そして。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:33:07.81 ID:JGmBYR/70
かちゃり、鍵が何者かに開けられた。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:34:12.52 ID:JGmBYR/70
- 壁を背にして振り返れば、ベッドを挟んで木製ドアが見える。
蝶番が軋んで少しずつ開かれる木製ドアが見える。
闇が戸口に現れ始めて、ぬめった何かがいるのが見える。
ドアが半分開いたのが見える。
立っている人物が見える。
奇妙ないでたちの怪物が見える。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:35:42.64 ID:JGmBYR/70
- 「じゃっきーは、どこ」
頭が常人の三倍ほどに肥大した、男が見える。
「じゃっきー、どこ」
ドアが開ききって、病室の壁を打ったのが見える。
「どこ」
片目が零れ落ちかけている怪物が、問うているのが見える。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:37:32.10 ID:JGmBYR/70
- 茶褐色の身体で最も異常な点は、手足が二対ずつ生えていることだろう。
余分な腕は脇の下に位置し、いずれも普通の二倍は長い。
過剰な脚は、腰の前部にある。
あばらの浮いた細い胴体を反らして、四本の脚全てで身体を支えている。
その怪物は、てんでばらばらの足運びで、のそのそと歩いた。
「おまえたちがががあがが、じゃっきー、つれてった」
ぶよぶよの頭を揺らしながら動かす口は、醜い皺に覆われていた。
グレーの頭髪はまばらになら、広がった頭皮に残っていた。
(メ; ∀・)「ジャクリーンなん、て、知らないぞ」
ほとんど人間らしい造形を失った顔面が、きょとんとする。
眼窩に収まっている方の眼が、おどおどしている。
「だ、だって、だって」
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:39:30.37 ID:JGmBYR/70
- (メ; ∀・)「勘違い、じゃなかったのか」
知能は高そうではない。
こうして言葉がかけられるたびに怪物は思考に時間を奪われている。
……言いくるめられるかもしれない。
ξ; 听)ξ「そうよ。ゴードンさん、落ち着いて」
「で、でも。じゃっきー。じゃっきー」
わたし達は互いの焦りを感じ取っていた。
理由のひとつに、弾丸がほとんど無いことがあった。
三角頭の件もある。
どれだけ弾を撃ち込めば撃退できるか、分からない。
もうひとつ。
戦うことになったとして、怪物の腕の長さはわたし達に不利にはたらくだろう。
部屋は正味、5m四方もないのだ。
「う、うううう、うううううう」
ちらりとモララーを見た。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:40:32.46 ID:JGmBYR/70
- まぶたの下にくまを作った彼は、銃を上手く背後に隠していた。
わたしも鉄パイプを隠す。
敵意は無いとアピールするのだ。
ξ; ー゚)ξ「落ち着いて、ゴードンさん。ね?」
「うううう、う、う……う?」
哀れな色を浮かべていた瞳がわたしに向いた。
「う、うう?」
頭をぶるんぶるんとしてから、歪な人間が口を開いた。
「あ、ああ、あ、あ、あ」
短い方の右腕が伸ばされ、さらに人差し指が伸ばされた。
そして、たるんだ唇が笑う。
「じゃっきー」
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:42:26.38 ID:JGmBYR/70
- 何が起きたか理解するほどの猶予は無かった。
怪物の四本脚が、ざかざか、と動かされベッドを乗り越えた。
珍妙な身体をしたゴードン氏が一直線にわたしに近寄った。
あまりの素早さに身動きの取れなかったモララーを長い腕でなぎ倒した。
短い方の腕がわたしの身体を掴んだ。
いや。
がっちり、抱き上げた。
足が床から浮いて、ようやくわたしはそれに気が付いた。
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:44:16.27 ID:JGmBYR/70
- 「じゃっきぃいぃぃぃ!」
生臭い口臭に顔をしかめるよりも先に、肋骨が軋む痛みに呻く。
ξ; -゚)ξ「ぐっう!」
違う、と言葉に出すことができない。
「じゃっきー! じゃっきーははははははは!」
醜い怪物がわたしに頬ずりし始めた。
視界の端に、モララーが体勢を立て直す姿が映った。
「ははははは! いた! じゃっきー!」
モララーが二度発砲する。
怪物の頭から体液が飛散して――
いや、しただけだった。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:45:14.15 ID:JGmBYR/70
- 「じゃまだぁ、はははは」
長い腕がモララーを殴り飛ばす。
(メ; ∀ )「がっ、あっ!」
胸元に受けた拳の衝撃で彼の身体は容易く浮いた。
そして、壁に叩きつけられそのまま動かなくなる。
ξ; 听)ξ「もらっ」
胴に巻きついた腕が締め付けられる。
ひゅう、と息が漏れた。
「じゃっきー! 二人だけになれたよ! わはははは!」
長い方の腕も抱擁に参加してきた。
ますます身体が怪物に密着する。
冷えた体表面は湿っており、服を濡らした。
「いくよ、じゃっきー! ふふふふ……」
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/21(日) 23:46:09.71 ID:JGmBYR/70
- 眼に糸のようなものを吐きかけてきた時、ゴードン氏は「ころしてあげる」と言った。
その前に、「また」と付いていたのは、聞き間違いではなかったと思う。
【Save】
戻る 次へ