- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:10:21.49 ID:inkBY8PB0
- 「……この村に、何か良くないことでも起こるのかね……?」
ぼそりと呟いた言葉は誰かに肯定されることはなく、
しかし否定もされず、宙ぶらりんのままどこかへと消えてしまった。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:11:43.66 ID:inkBY8PB0
- ・元ネタはSIRENシリーズです
・大体のマップ↓
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1899009.png
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:12:26.91 ID:inkBY8PB0
内藤ホライゾン 美布村入り口付近/車内
前日/23:11:00
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:13:36.41 ID:inkBY8PB0
- 道から外れたところに車が一台停められている。
車の下からは草が無造作に顔を出しており、
そこが本来車を止められる場所ではないことをアピールしている。
車には二人の男が乗っている。
運転席の座席を倒し悠々と眠っているドクオと
全身から汗を流しながら眠ろうとしている内藤ホライゾン。
内藤は運転席のドクオのいびきのせいで
眠ることも出来ず、ただただ蒸し暑い車内で苦しんでいる。
「……あついお」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:14:38.55 ID:inkBY8PB0
- 彼はバイト先の先輩であるドクオから突然ドライブに行こうと誘われた。
行き先を聞くと、ドクオはアテのないドライブだよと半笑いで答えた。
どうせ夏休みで行くところもないし、と言葉を発してしまったが運の尽き。
数時間後、彼は車の中で明かりの元、必死に現在地を探していた。
アテのない、と言いながら実はドクオには目的地があったようだが、
たどり着けねば意味がない。
こんなことから最初からナビゲートしておけばよかったと
車内で内藤は後悔した。
「寝れるかっ!」
勢いよく体を起こし、汗が伝ってむずがゆい頭を掻く。
顔を走る汗を服の裾で拭い、
座席の後ろポケットにつっこまれた懐中電灯を取り出す。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:15:41.20 ID:inkBY8PB0
- 車を出て、辺りを照らす。
サウナ状態で我慢大会をするくらいなら
外を歩いて現在地でも把握した方がマシだと判断したのだ。
ジーパンがなんとも気持ち悪くムレていて、
もっと早く車を出れば良かったと少し後悔した。
車を出て歩くと、内藤は草のない道に出ることができた。
「ふーむ」
内藤は首を傾げた。
どうせなら町の方に出たい、と目を凝らすと、うっすらと明かりが見えた。
僕は運が良いのかもしれない、ドクオさんの運が悪すぎるだけで。
そんなことを考えながら内藤は道を進む。
少し歩いて彼は看板を見つけた。
スプレーでイタズラ書きをされているが、
本来書かれていた文字を見つけることは容易かった。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:16:52.07 ID:inkBY8PB0
「美布村コチラ」
看板には確かにこう書かれていた。
内藤はガッツポーズをした。
元々の目的地がこの美布村だったのだ。
ドクオさんの適当な運転も侮れないなと浮かれた思いを抱いた。
ついでに飲みものでも買おうと思い立ち、美布村へ向かおうとした。
ふと、森がざわめいた。
その瞬間。
サイレンが鳴り響いた。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:18:45.42 ID:inkBY8PB0
内藤ホライゾン 美布村入り口
初日/00:00:00
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:19:55.76 ID:inkBY8PB0
- 「おわっ……!」
内藤は思わず声を上げた。
サイレンは内藤の前方、後方、更には左右からも聞こえてくる。
まるで周囲を何かに包囲されているかのような圧迫感。
寸前の森のざわめきがまるで聞こえない。
まるで突然赤信号のスクランブル交差点のど真ん中に放り出されたかのような騒音。
目の前が明滅し、色が好き勝手に変わっていく。
ぐらぐらと揺れる感覚。
頭の中がごちゃごちゃになる感覚。
何かが体の中を通り抜ける感覚。
内藤は地面に片膝をつく姿勢にならざるを得なかった。
体が震えているのか地面が揺れているのかわからない。
すうっとするような、何かが溜まっていくような。
サイレンが鳴り止むのをただ待つことしかできなかった。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:21:04.88 ID:inkBY8PB0
- 「何だお、今の……?」
頭の中はまだサイレンの残響でいっぱいである。
残響が鳴り止むにつれて一つの疑問が頭の中で膨れ上がる。
先程のサイレンはなんなのか?
自問自答を繰り返すが納得のいく答えが出ない。
風習にしては随分と大きすぎる音量のサイレンだった。
何か災害が起きたときのサイレンとはあそこまで威圧的なのだろうか。
そもそもあれは本当に何かを知らせるサイレンなのだろうか。
ただのミスで流されただけではないだろうか。
次第に内藤の頭の中は答えではなく新たな疑問で一杯になった。
内藤は村人に尋ねるという普通のことに気がついた。
好奇心と恐怖心がごちゃ混ぜになって彼の足を動かした。
街灯が消えていることに気づくことはなかった。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:23:14.71 ID:inkBY8PB0
ツン 荒巻家/二階洋室
初日/00:00:59
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:24:39.87 ID:inkBY8PB0
- サイレンが鳴り響いている。
「わ、わわ、わわわわわ!!」
おまけに地震まで起こり始めた。
気づいた時には既に立っている感覚がなくなり、
近い将来に起こるかもしれない最悪の事態を想像し、
総毛立つのをツンは感じた。
埃っぽい床に座り込み、ただ揺れと音が去るのを待った。
いつの間にかツンは目をぎゅっと瞑り、耐えていた。
眼を開ける。
しかしそこには閉じた目の裏の世界と全く同じ光景が広がっている。
つまりは暗闇だった。
まだ夕方で、陽が射しこんでいるはずの窓からは
おおよそ夕方とは思えない暗闇が広がっている。
突然昼夜が逆転したかのような変貌ぶりにツンは戸惑った。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:25:48.86 ID:inkBY8PB0
- きしきしと古い廊下が音を立てる。
音は闇へと吸収されていくようにすぐにその存在をなくす。
荒巻家はツンの祖母の代に建てられた家である。
それ故に、近頃至る所に見逃せない修復箇所が増えており、
毎年この家を訪れる度に土地売却だとか、リフォームだとか、
そんな話がゆるりと飛び交っていた。
ツンは携帯を開いた。
アンテナは立っておらず、圏外の二文字が堂々と表示されている。
日頃依存していた携帯が使えないことに不安を抱いた。
携帯のディスプレイで足元を照らしながら一階へ降りていく。
地震や昼夜逆転で混乱した頭を落ちつけるため、
水を飲もうと台所の蛇口を捻った。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:26:54.87 ID:inkBY8PB0
- さーっと水が流れる。
びちゃびちゃと水が撥ねる。
それを見てツンは悲鳴をあげた。
赤い水が流し場を真っ赤に染めていたのだ。
その場を飛び退き、しばらくそのまま硬直する。
口は馬鹿みたいに開き、目は流れ出る水流に釘づけになっている。
赤錆?絵の具?ペンキ?それとも、血?
様々な憶測が頭の中を飛び交い、それらがツンを混乱へと導いていく。
まるで車酔いのように視界が揺らぐ。
一度ツバを呑みこみ、こみ上げる何かを抑える。
少し経った後、再びゆっくりと蛇口へ手を伸ばし、水を止めた。
赤い水が排水溝に吸い込まれていく様を見届ける。
赤い水は少し透明度が高いな、なんて思いながら。
そして赤い水の流れが止まった頃、外から男の悲鳴が聞こえてきた。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:29:06.50 ID:inkBY8PB0
内藤ホライゾン 南美布通り/荒巻家前
初日/00:15:38
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:30:48.63 ID:inkBY8PB0
- 車が二台ギリギリ通れるくらいの、なんだか懐かしい感じの通りを歩く。
通りは家々に挟まれていて、猫が飛び出してきそうな路地まである。
しかし暗闇の中に浮かぶ家々はどこか暗い。
ジャパニーズホラー。
まさにそれである。
数軒分歩くと、先の家の前に誰かが立っているのが見えた。
懐中電灯を持っているあたり、あの人も家から飛び出してきたのだろう。
ぼうっと突っ立っているその姿はまるで幽霊のようだった。
だから正直な話、僕は話しかけたくなかった。
しかしそういうわけにもいかないのが人生である。
( ^ω^)「あのぉ、今のサイレンって一体……」
へこへこと低姿勢で尋ねる。
田舎のお婆さんならこのくらい親しみやすい方がいいだろう。
と。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:31:57.55 ID:inkBY8PB0
- ( ゚ω゚)
思わず目が点になった。
予想通り、その人はお婆さんだった。
そのお婆さんの見開かれた目からはとめどなく涙が流れていた。
いや、涙だったらどれほどよかっただろうか。
僕の懐中電灯に照らされたその涙はどう見ても真っ赤。血だ。
目から血が出る病気はなんなんだ。
僕には治せそうにない。
だから、
だから
こっちに
来るな。
現実を放り投げるように来た道へ振りかえり、走り出す。
足がもつれ、思うように動けない。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:33:07.93 ID:inkBY8PB0
- ぐんっと後ろに引っ張られた。
信じがたいことに次の瞬間、僕の足が地面から離れた。
(;゚ω゚)「でえええええぇぇぇ!?」
待て、僕は大学生で相手は婆さんだぞ?
僕とお婆さんには身長差があるんだぞ?
僕は男で相手は女だぞ?しかも老いた女性だぞ?
その前にどうして僕はお婆さんに首を絞められている?
元気すぎる古風なお婆さん?
田舎のお婆さんはみんなこうなのか?
こうって、何だ?
わからない。
何もわからない。
全てがわけのわからない方向に直結していく。
首が絞まる時間に比例して考えが単純化していく。
必死に手足を動かすが、解放される気配がない。
これはもう、駄目かもしれ
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:34:19.55 ID:inkBY8PB0
- 「わーーーーーーーーっ!?」
大声と共に首絞めから解放された。
地面に倒れこみ、大きくせき込む。
死が見えた。めっちゃ見えた。すごい近かった。走馬灯なんて嘘っぱちだ。
一体何が起こったのだろうか?
誰かが僕を助けてくれた?
さっきの声か?
ああ、そうだ、とにかく今はどうなっている?
ふらりと立ち上がり、懐中電灯を持ち上げる。
暗闇が明けて現状が露わになる。
少女が今まさに、首を絞められようとしていた。
( ゚ω゚)
思わず目が点になった。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:35:29.32 ID:inkBY8PB0
- ξ;゚听)ξ「なんですか!やめてくだきゃあああああ!!!」
霞がかった頭が悲鳴で晴れた。
女の子が襲われてる。助けなきゃ。
未だ簡単に答えに直結する頭に呼応して体が動いた。
地面に落ちていた箒を握り、思いきり振りかぶる。
(;゚ω゚)「どっせい!!!!」
お婆さんの頭に箒をたたきつけた。
その瞬間、どっと罪悪感が湧いてくる。
攻撃するべきではなかったか?これで傷害事件とかで訴えられたりするのか?
謝るべきか?正当防衛を主張すべきか?
慰謝料とか払えるかなぁ、母さんにあやまら
僕の考えをよそに、お婆さんは口の端を吊り上げた。
どぷり、と赤い涙が溢れて、流れていく。
笑った。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:36:39.35 ID:inkBY8PB0
- 全身がカッと熱くなり、汗が噴き出す。
化け物はまるで理性のない、獣のような唸り声をあげる。
来るな。
僕は動けない。
得体のしれない何かが迫ってくる。
来るな。来るな。来るな。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:37:50.90 ID:inkBY8PB0
- 視線は化け物から外せない。
少女が口に手を当てて、後退りをしていくのが視界の端に見える。
来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
箒を振り上げる。
( ゚ω゚)「であっ!!!」
当たった。
当たってしまった。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:39:01.89 ID:inkBY8PB0
- 二発、三発、四発。
怯んで垂れた頭にもう一発。
頭を上げようとする化け物を箒の先で全力で突き倒す。
低い悲鳴を上げながら化け物はひっくり返り、ごろんとうずくまった。
忘れていた呼吸を再開する。
深呼吸を一度。
化け物をつついてみるも何の反応もない。
ξ;゚听)ξ「その人、多分まだ、生きてる」
少女が呟くように言葉を発した。
その言葉に善悪の感情は感じられなかった。
ただ状況を冷静に分析した結果の発言だろう。
見ると、確かに老婆は地面に伏しているものの、体は上下している。
(;^ω^)「と、とにかくここから逃げるお!」
地面で丸くなっている化け物から逃げるように少女の手を引き、通りを走った。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:41:11.14 ID:inkBY8PB0
弟者 北美布/社内部
初日/03:06:38
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:42:20.86 ID:inkBY8PB0
- (´<_` )「失礼しま〜す」
一応ここは神聖な場だから挨拶くらいはしておかないと、
天国へ連れて行ってくれない可能性がある。
俺だってどうせなら天国に行きたい。
まぁ、まだ死なねぇけどな。
静かに襖を閉める。
ここで奴らに見つかると何をされるかわかったもんじゃない。
まずは自分の身の安全の確保だ。
何より自分が大切ってね。
兄者は……まあなんとかなるだろ。
俺と一緒で運だけはいいっぽいし。
ふぅとため息をついて壁にもたれて座り込む。
これからどうしようか、と考えてみる。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:43:52.86 ID:inkBY8PB0
- ゾンビみたいな化け物に追われてここにやってきたのはいいものの、
一緒に逃げてきた兄者とはいつの間にか逸れたし、
もうどうしようこれ。
実は詰んでるんじゃないか。
いやいや、この超優秀な俺に限ってそんな馬鹿な。
編集長からこの村の調査を任されるほどの腕だぞ。
俺と兄者さえいれば何でもできる……あ、兄者いねぇや、今。
(´<_` )「……おい、そこにいるんだろ?」
闇に向かって話しかける。
返事はない。
(´<_` )「……いるわけないですよねー」
若気の至りだ。
そのかわりに外から草葉の擦れる音がする。
慌てて口に手をやり、ぎゅっと目を閉じて周囲の気配を感じ取る。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:45:09.37 ID:inkBY8PB0
- ふいに、まるでテレビの砂嵐画面のような視界が広がり、
次に自分のものではない視界が広がった。
唸り声のような息遣いが聴こえる。
社に続く道を草を気にせずゆっくりとした足取りで歩いている。
視界の隅に鎌のようなものが見える。
逆の手に持ったライトはぞんざいに扱われ、光がゆらゆら揺れる。
立ち止まって周囲を見渡す。
はっと俺は我に返った。
何を見ていたんだ、俺は?
妄想?それとも、幻覚?
生唾を呑む。
何が起こったんだ。
もう一度目を閉じて周囲に意識を巡らす。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:46:18.92 ID:inkBY8PB0
先程の位置から社を見ている。
ふいと振りかえり、ふらふらと社から遠ざかっていく。
そろそろと襖を開ける。
意を決して懐中電灯を外に向けてみる。
何もないとわかったのか、去っていくゾンビの後姿が見える。
慌てて懐中電灯を切り、ほっと胸をなでおろし、また奥へ引っ込む。
俺はエスパーだったのか。
今確かに、俺は他人の視界を盗み見ていた。
この異常な世界にてついに俺の能力が覚醒したらしい。
しかし、他人の視界を見るなんて、すごい地味じゃないか?
ならせめて名前だけはカッコよくしてやろう。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:47:31.94 ID:inkBY8PB0
- 他人の視界を盗み見る能力。
なんか人聞きが悪い能力だな。
カッコいい名前、か。
そうだな、仮にこれを……視界、ジャック。
視界ジャックと呼ぼう。
なんだか気分が乗ってきた。
俺はゲーム作りとかに向いてるかもしれない。
ふと棒状のものが目に入った。
近づいて持ち上げてみるとそれは鞘に収まった刀だった。
よく映画や漫画であるように静かに抜いてみる。
錆も見受けられず、なかなか斬れそうなブツだ。
これを護身用に持って行動するとしよう。
なんとか生き残れるかもしれない。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:49:47.62 ID:inkBY8PB0
ヒート 北美布/路地
初日/04:49:05
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:51:05.03 ID:inkBY8PB0
- (#・∀・)「オイ……トソンもモナーも、どこにもいねーじゃねーか」
モララーが怒りを隠さずにあたしに言葉をぶつけてくる。
ノハ#゚听)「んなの、あたしだって知ってるさ」
あたしも怒りを隠すつもりはさらさらない。
協力する、なんて言葉は存在しない。
(#・∀・)「あの時、ちゃんとモナーを助けて、
トソンを二人でしっかり見てればこんなことにはならなかったのによ」
ノハ#゚听)「はっ!あんたがあの男倒してれば、
トソンがいなくなることにならなかったのに!」
互いに睨みあう。
結局今に至るまで逸れた二人は見つからなかった。
時間が経てば経つほどあたし達の空気は悪くなっていった。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:52:36.94 ID:inkBY8PB0
- (#・∀・)「けっ!ここにいるのが都村だったらどれだけ良かったか!」
ノハ#゚听)「あにぃ!?てめーじゃなくてモナーかトソンがいれば!!
あたしもお前もハッピーだ馬鹿野郎!!!」
その時、低い唸り声が聞こえた。
あたし達はハッとして通りの方を見る。
男が鍬を手に、今まさに私たちに襲いかからんとしていた。
ノハ;゚听)(;・∀・)「わーーーーーーーーーっっっ!!」
思わず叫んでしゃがみこむ。
しかしいつまで経っても衝撃は来ないし、モララーの悲鳴も聞こえない。
恐る恐る顔を上げてみる。
(´<_` )「おいおいリア充ガキ共。
そんなに叫んじゃあ、隠れる意味もなかろう」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:54:11.59 ID:inkBY8PB0
- そこには刀を持った男が立っていた。
足元には先程の男が倒れこんでいる。
ノハ;゚听)「え、えーと……」
(;・∀・)「ありがとうございます」
(´<_`*)「良いってことよ」
男があからさまに照れくさそうに頭を掻く。
( ・∀・)「あのー……お兄さんは一体」
(´<_` )「よくぞ訊いてくれた」
刀を鞘に納め、腕を組んで仁王立ちになる。
(´<_` )「俺の名前は弟者。
刀を片手にばったばったとゾンビを薙ぎ倒すナイスガイだ。
ヨロシク!」
ノハ;゚听)(;・∀・)「……よろしくお願いします」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:55:21.30 ID:inkBY8PB0
- (´<_` )「で、君らなんだってこんなとこで喧嘩してたんだ?
痴話喧嘩か?」
(;・∀・)「違いますよ……一緒にいた友達と逸れちゃったんです」
(´<_` )「ははーん、それで責任の擦り付け合いか?
でもそんなもん意味ないし、その辺にしときな」
ノハ;゚听)「は、はあ、そうですね……」
さっきから気になっている斬られた男を見る。
ノハ;゚听)「この人、死んじゃった……んですか?」
(´<_` )「いや、死んではいない、
というか元から死んでいると考えた方がいいか。
刀で切ってもそのうち傷が治ってまた復活するんだ、こいつらは。
いわゆるゾンビだ」
ノパ听)「ぞ、ぞんび……」
(´<_` )「なんだ君ら、まだ事態に気づいてないのか」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:56:40.24 ID:inkBY8PB0
- ( ・∀・)「そりゃあ、俺たちずっと友達探しながらゾンビから逃げてたんで」
(´<_` )「こいつらから逃げるの大変だったろ」
弟者さんがゾンビの頭を踏みつける。
道徳的にあたしにはできそうにない。
(´<_` )「あ、君ら、目閉じてちょっと辺りに集中してみ」
言われるがままにやってみる。
目を閉じ、他の感覚に集中する。
……弟者さんは何をさせたいんだろう?
(´<_`;)「え、なんも起きない?」
( ・∀・)「何も起きないです」
ノパ听)「右に同じ」
(´<_` )「あるぇー」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:57:54.97 ID:inkBY8PB0
- どうやらうまくいけば、他人の視界を覗き見れる能力、
名づけて視界ジャックというものが使えるらしい。
(´<_` )「むぅ、よし。俺向こう向いてるから、
少年、なんか持ってそれ見といてくれ」
( ・∀・)「はぁ」
モララーがゴミ箱の蓋を持ちあげる。
(´<_` )「君が今持ちあげたのはゴミ箱の蓋だな?」
ノハ;゚听)「す、すごいっ!!」
( ・∀・)「音でわかったんですか?トリックですか?」
(´<_` )「君は随分現実派なんだな」
弟者さんが少ししょげた顔をした。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 21:59:29.64 ID:inkBY8PB0
- (´<_` )「ところで俺そっくりの顔した男見なかった?」
( ・∀・)「いや、見てないですね」
(´<_` )「そうかー。
そいつ俺の兄貴なんだけど、逸れちゃってさ」
あははと弟者さんが笑う。
(´<_` )「兄貴探すついでに、俺も友達探しに行こうか?」
ノパ听)「ぜひ!お願いします!!」
(´<_`*)「女の子に言われちゃしょうがないなぁ」
発言は空気と同じくらい軽いけど、ゾンビを軽く倒したところを見ると、
モララーよりは頼りになる人っぽい。
( ・∀・)「なんか今失礼なこと考えなかった?」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:01:43.59 ID:inkBY8PB0
兄者 光風地域/ミルナ家
初日/05:03:21
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:02:53.59 ID:inkBY8PB0
- 目を覚ます。
机の惨状と口の周りの液体から察するに、
突っ伏した机にヨダレをたらして寝ていたらしい。
人里離れたこの家……というか小屋か?
この小屋にたどり着いて鍵をかけて、
部屋を物色して誰もいないことを確認して、
イスで一休みしたところまでは記憶がある。
そこから寝てしまったのか。
腕時計を確認する。
……ん?
時計が止まってる。
故障でもしたのか?
この状況で時計が壊れる、か。
なんかものすごく恐ろしいフラグを感じる。
死亡フ……まさか。
まさかな。まさかな。はは。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:05:32.78 ID:inkBY8PB0
- とりあえずこの家の持ち主には申し訳ないが、
役に立ちそうなものは持っていかせてもらおう。
4,50代くらいのおっさんが誇らしげに猟銃を構えた写真が置いてある。
年は17年前。
どうやらこの家の持ち主は猟師だったらしい。
女性と写っている写真もある。
どれも同じ女性で、恐らく妻だろう。
しかし部屋の中を見ると、誰かと暮らしている形跡はない。
洗濯ものが一か所に散乱してるのがいい証拠だ。
病院で撮られた一枚に目がいく。
この女性だけ、今までの妻と思しき女性ではない。
……浮気?
お盛んですのー。
その時、がちゃりと音がした。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:06:44.39 ID:inkBY8PB0
- びくりと体が大きく反応する。
玄関のドアがゆっくり開かれていく。
逃げなきゃ駄目だ。
それでも体はその場に、目はドアに釘付けになった。
冷や汗が脇から流れて衣服に付着し、冷たくなるのを感じる。
「誰だ」
顔の見えない誰かが強い口調で俺に尋ねる。
人だ。
やつらじゃない。
でも猟銃の銃口がこっちに向いてる。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:08:05.70 ID:inkBY8PB0
- (;´_ゝ`)「あ、あああああ、あの、俺、」
「お前さん、人か?」
どもる俺を遮り、老人がしゃがれた声で尋ねる。
依然、銃と懐中電灯は俺に向けられている。
(;´_ゝ`)「はひぃ!人です!人です!」
両手を挙げて情けない声で答える。
( ゚д゚)「ふむ、勝手に人の家に入るのは感心せんな」
銃を降ろし、口の端を軽く吊り上げニヤリと笑った。
(;´_ゝ`)「すいません、勝手に家に入ってしまって……」
( ゚д゚)「まあ生存者がいるのはいいことだ。気にするな」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:09:32.77 ID:inkBY8PB0
- 歳はとっているが、この写真の人物に違いない。
老人は銃を机に置き、家の中を物色し始めた。
( ゚д゚)「お前さん何者だ?このあたりじゃ見かけん顔だな」
( ´_ゝ`)「兄者と言います。
ちょっと前に仕事の都合でこちらに引っ越してきました」
生憎名刺を持っていないので口頭で答える。
名刺でもあれば信憑性が増すんだろうが今は持ってないからしょうがない。
ところが老人は気にした様子もなく、イスにどかっと座った。
( ゚д゚)「儂はミルナ。この村に住む老いぼれだよ」
( ´_ゝ`)「はあ……よろしくお願いします」
老いぼれは銃を持たないです、とはつっこめなかった。
( ´_ゝ`)「一体、何がどうなってるんです?
村の人がまるで化け物みたいになってしまって……」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:10:43.97 ID:inkBY8PB0
- ( ゚д゚)「やはりあんたも遭ったか」
( ´_ゝ`)「『も』、ですか」
ミルナさんは見つけた猟銃の弾を手際よく装填しながら答える。
( ゚д゚)「やつらは"屍人(しびと)"。生きる屍だ」
(;´_ゝ`)「い、生きる屍……?」
現実にそんなものが存在しているのか。
信じがたい話だが、あの血の涙を流し、獣のような声を発しながら
追いかけてくる村人たちを思い出すと完全に否定できない。
( ゚д゚)「儂はこいつで屍人を撃ってきた。
倒れ込むことはあってもそのまま死ぬことはなかった。
生きる屍たる所以、だな」
淡々とミルナさんは続けた。
殺人じゃないかとか本気で言っているのかとか騒ぐ気にならない。
彼の真剣な表情がそうさせない。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:11:56.26 ID:inkBY8PB0
- ( ゚д゚)「47年前、今と同じようなことがこの村で起こった」
( ´_ゝ`)「!それって……!」
( ゚д゚)「ん?知っておるのか」
ミルナさんが驚いた表情を見せる。
( ´_ゝ`)「詳しくは知らないです。
でも俺、その事について調べるためにここに来たんです」
( ゚д゚)「調べるため……?それがあんたの仕事か?」
( ´_ゝ`)「ええ、そうです」
( ゚д゚)「何の仕事だ?」
( ´_ゝ`)「ただのしがないライターですよ」
接頭語の「駆け出し」を意図的に抜いた。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:13:08.54 ID:inkBY8PB0
- ( ´_ゝ`)「50年前に起きた土砂崩れで村の半分は埋まったらしいですね」
( ゚д゚)「ああ。儂は幸運なことに、その埋まらなかった半分に住んでいた」
( ´_ゝ`)「掘れども掘れども救助される人はおろか、
掘り出された物すらなかった」
ミルナさんが弾を装填し終わった銃をテーブルに置く。
そのまま立ち上がり、棚を開けだす。
恐らく残りの弾を探しているのだろう。
( ´_ゝ`)「そして災害から数日後、奇跡的に二名の女性が救助された。
その日以来救助者は見つからなかったけど、次第に村は復興した」
ごそごそと弾丸をポケットにねじ込んでいる。
( ´_ゝ`)「合ってますか?」
問いかける。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:14:16.64 ID:inkBY8PB0
- ( ゚д゚)「概ねな」
人の話を聞いているのかよくわからない人だ。
( ´_ゝ`)「その災害について調べるためやってきました」
まあ最近来たばかりだからまだ調べる段階まで言ってないんですけどね、
と頭をかきながら付け加えた。
( ´_ゝ`)「あなたは色々詳しいようなのでお話を伺いたいのですが」
( ゚д゚)「儂もそうしたいのは山々なんじゃがな」
テーブルの上の猟銃を手に取る。
( ゚д゚)「まだ生存者がおるかもしれんでな、儂はそれを助けにゃならん」
( ´_ゝ`)「助ける……?」
何か含みのある言い方が引っかかった。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:16:23.85 ID:inkBY8PB0
- ( ゚д゚)「ふん、昔のことを引きずっておるだけだ」
目線をそらして頬をかいている。
猟銃を持って現れたときには驚いたが案外普通の老人だ。
( ゚д゚)「詳しく知りたきゃ、町の北にある社に行くといい」
( ´_ゝ`)「社?」
( ゚д゚)「儂の記憶が確かなら、
そこに47年前に起きたことを記したメモがある。
今を生きる糧になるだろう」
メモねぇ。
随分と頼りない響きだ。
社、というと……北美布の川の近くのあれか。
( ´_ゝ`)「……社まで護衛していただく……なんてのはナシですかね」
( ゚д゚)「……まあ、いいだろう。
たどり着く前に死なれちゃ、さすがに後味が悪い。
男の護衛はなんとも味がないがのう」
おっしゃるとおりで。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:18:33.29 ID:inkBY8PB0
ハインリッヒ高岡 高岡クリニック/二階院長室
前日/21:12:21
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:19:46.98 ID:inkBY8PB0
「うーむ……」
よれよれの白衣を着た女性、ハインリッヒが書類を机の上に置く。
白衣の下は安物のTシャツと長ズボン。
よくクリニックで働いている人たちからは
色気がないだの、少しは若い格好をしろと言われ、
そのたびに苦笑いをしていた。
イスの背もたれに体重を預け、大きく伸びをする。
「ん〜〜〜〜〜〜っ……ぶはぁ」
「お疲れ様です、先生」
「おお、お疲れつーちゃん」
部屋に入ってきたパートの女性、つーに労いの言葉をかける。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:21:00.06 ID:inkBY8PB0
- 「最近似たような症状の患者さん、多いですよねぇ」
ハインリッヒが疲れを見せているのを見越してか、そんなことを話す。
「食欲がない、眠れない、やる気が出ない、妙に喉が渇く……」
「あたしはただの夏バテとか夏風邪の類だと思うんだがなぁ」
「でもここまで同じ症状が多いって、今までにありました?」
「んにゃ、ないねぇ」
このクリニックは元々彼女の父親が開いたものであり、
幼いころから父親の手伝いをしていた。
加えてハインリッヒのサバサバした性格のおかげで
年寄りからは口うるさい娘、
年下からはしっかり者の姉のような存在として村に溶け込んでいる。
それ故に村人たちの病気事情にも精通しており、
そのことを踏まえての発言である。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:22:09.18 ID:inkBY8PB0
- 「ま、どういうことかって考えてもしょうがないね」
よいしょとハインリッヒが立ちあがる。
「どんな理由があれ、病気の人がいたら手を貸す。
それがあたしたちの仕事さ」
「……先生、ちょっとかっこいいです」
「あ、やっぱりぃ?」
はっはっはとハインリッヒが豪快に笑う。
つーは露骨に幻滅したような顔を見せた。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:23:19.05 ID:inkBY8PB0
- 「さ、もう帰んな、つー。
いくら村でも、夜はオオカミが出るぞ〜?」
冗談めかしてつーをおどかす。
うふふと軽く笑って挨拶をし、つーは部屋を出ていった。
再びイスに座る。
ペンを回し、考え込む。
疫病、いや、何かの前触れ。
「……この村に、何か良くないことでも起こるのかね……?」
ぼそりと呟いた言葉は誰に肯定されることもなく、
しかし否定もされず宙ぶらりんのままどこかへと消えてしまった。
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