- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:34:59.31 ID:inkBY8PB0
- 赤い雨が私の頭を冷やしていく。
赤い水、目から赤い涙。
引っかかるキーワードだ。
結構最近に見たことがある。
瞬間、それを思い出し、頭の中が爆発した。
「異界だっっっ!!!」
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:36:37.79 ID:inkBY8PB0
つー 高岡クリニック/一階廊下
初日/00:05:12
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:38:47.92 ID:inkBY8PB0
- (*゚∀゚)「……ふぅ」
いつ終わったのかわからないけど、どうやらサイレンはおさまったようだ。
停電だろうか、電気が消えて足元の非常用電気だけがついている。
地震も起こっていたようだが、私に怪我はないし、
建物の崩落も特に起こっていない。
速い鼓動をおさめるためにその場に座り込む。
一人で不安なのもあったが、まず冷静になりたかった。
先生は大丈夫だろうか。
ふとそのことが頭に浮かぶ。
院長室は棚が多いから、この地震で少なからず倒れてしまっているはずだ。
最悪の場合、下敷きになっているかもしれない。
しぃのことも心配だけど、先生の安否をまず確かめよう。
来た通路を戻り、階段を昇ろうとした。
しかし鈴の音が私を引きとめた。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:41:26.26 ID:inkBY8PB0
- (;゚∀゚)「いっ……!?」
後退りする。
少なくともこの人は患者ではないし、ましてや先生を気遣って
来てくれた人でもない。
暴漢。
(;゚∀゚)「ま、ままままままま」
焦って舌がうまく回らない。
そうしている間にも暴漢は右手を振り上げ、今にも私に襲いかかろうろしている。
逃げないと。
(;゚∀゚)「せんせーーーーーー!!せんせええええええええええ!!」
大声を上げながら二階の院長室へ走る。
ああ、後ろから聞こえてくる息遣いと追いかける音が恨めしい。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:44:34.00 ID:inkBY8PB0
- ドアノブを回す。
開かない。
(;゚∀゚)「ちょっ先生!私です!つーです!開けてください!変な人が!!」
依然としてドアは開かず、それどころかドアの向こうに人の気配がしない。
先生はここにいないのだろうか?
さっきまでここにいたはずなのに。
ドアを背に、来た道を振り返る。
非常灯がぼんやりと光る中を暴漢がペタペタとやってくる。
靴も履かずにここへ来たらしい。
(;゚∀゚)「落ちついて!落ちついてください!」
手にしているのはどうやら金槌のようだ。
錆びた金属で光ることもなく、ただ形だけが私にその正体を訴えかけてくる。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:48:13.93 ID:inkBY8PB0
- ドアにもたれたまま何かないかと目を凝らす。
すると消化器が置いてあるのが見えた。
グッと目をつぶり、開いた瞬間に消化器を両手で持ち上げる。
(;゚∀゚)「りゃあああああああああ!!」
勢いそのままに回転を利用して暴漢へ投げつける。
当たったかどうかを確認することなくそのままスタッフ用玄関へ走る。
もはや先生の安否は頭になく、自分の身を守ることだけが頭にあった。
それにこのままここで先生と合流しても、
さっきみたいな人が増えてくると私が困る。
とりあえず家に帰ろう。
しぃとギコ君が心配だ。
(;゚∀゚)「先生のことは気になるけど……」
心の中でグッと親指を立てる。
どうか先生、御無事で。
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:52:00.45 ID:inkBY8PB0
ハインリッヒ高岡 高岡クリニック/二階トイレ
初日/00:40:40
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:55:43.87 ID:inkBY8PB0
- 从 ゚∀从「…………」
閉じ込められて何分が経っただろうか。
サイレンが鳴って、地震が起こってからずっと便座に座り込んで頭を抱えている。
まさかドアが歪んでトイレに閉じ込められることになろうとは。
許すまじ地震。ガッデム。
大分前につーの声が聞こえたこと以外、外から何の音も聞こえない。
あたしも必死で叫んだんだけど、なーんで聴こえなかったのかね。
この美声を無視か。いい度胸じゃん。
そういえばあの悲鳴、かなり切羽詰まった感じの声だった。
つーの身に何か起こったんだろうか。
心配ではある。
でも何もできないのが現状である。
从#゚∀从「だーーーーーっ!何が現状だ!打破してやらぁ!」
ガンガンと扉を蹴る。
しかし一向に開く気配がない。
むしろ蹴ることで余計に歪んでいくのかもしれない。
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 22:58:37.92 ID:inkBY8PB0
- 深いため息をつき、再び硬い便座に座る。
目を閉じ、考える。
これから先どうすればいいか。
1、脱出する
2、脱出する
3、脱出する
うーむ、救出されるという選択肢を思いつかないあたり、流石あたし。
自分を褒めてあげたい。
便座に胡坐をかき、目を閉じて耳を澄ます。
何か聞こえればいいんだけど。
あたしの第六感が働いてくれてもいい。
瞼の裏に別の視界を見る。
そこは病院の外だ。
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:01:56.71 ID:inkBY8PB0
- 目を開いてみるが、あたしはやはり便座に胡坐をかいたままだ。
从 ゚∀从「他人の視界……」
呟く。
他人の視界を盗み見る能力、"幻視"。
それが"異界"で彼らに与えられた力だった。
この村のことが書かれた本の文章。
从 ゚∀从「"異界"……ここが、か?」
本の内容を思いだそうとする。
しかし断片的にしか思い出せない。
赤い水、屍人、幻視。
あの本はどこにあったか。
確かクーが持ってきて、それを適当に読んで、そして……
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:05:10.56 ID:inkBY8PB0
- 从 ゚∀从「学校の図書室っつってたか?」
あそこに置いてあったとクーは言っていた。
今のこの状態を知るにはまずあの本を見ることが先決かもしれない。
早合点するのはいけないが、それでも妙な胸騒ぎがした。
もう一度、他人の視界を盗み見る。
クリニックの壁が左に見える。
ただの道をふらふらと歩いている。
時折立ち止まって、周囲を警戒するような動作。
手には懐中電灯と棒きれ。
そのまま進み、クリニックの入り口へと吸い込まれる。
誰かがこの建物内に入ってきたようだ。
それならここでこんなことをしている場合ではない。
脱出して合流しなければ。
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:08:29.83 ID:inkBY8PB0
- ふと顔を上げる。
そういえばこの個室には上部に隙間がある。
便座に乗って、腕力で抜け出せるかもしれない。
いや、抜けださないといけない。
なんであたしはこのベタな脱出法に気づかなかったのか。
馬鹿なあたしをビンタしてやりたい。
痛いからしないけど。
年齢的に厳しいかのように思われた脱出だが、
案外すんなりとうまくいった。
あたしはまだまだイケるらしい。
病院の出口へ向かう。
さっきの人と合流せねば。
携帯電話を開き、明かりがわりにして通路を速足で歩く。
ペタペタとあたしのスリッパの音が響く。
懐中電灯の光が曲がり角に見えた。
从 ゚∀从「おおーい、そこの人ー!」
声をかける。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:11:54.70 ID:inkBY8PB0
- 相手がぐるんと勢いよく振りかえる。
まるで壊れた操り人形みたいだった。
あたしと目が合うと突然その人物は遠吠えのような声を上げた。
何がしたいんだ、こいつは?
こいつが―――屍人か?
いや、見覚えがあるぞ。
从;゚∀从「あんた、デルタさんだよな?夏風邪が酷いって言ってた」
男が近づいてくる。
非常灯しかついてないのに大胆な足取りだ。
って見惚れてる場合じゃない!
从;゚∀从「ストップストップ!そのまま追ってくるなら逃げるよ!?」
確認をとってみる。
追ってくる。
返事はない。
よし、逃げよう。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:16:30.70 ID:inkBY8PB0
つー 北美布通り
初日/01:31:31
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:19:52.68 ID:inkBY8PB0
- 「一体何がどうなっちゃったのよー……」
思わずつーはぼやいた。
夏らしい身軽な服は汗でベタついている。
クリニックから時間をかけてようやく彼女の家の近くまでたどり着いた。
道中、何度か人とすれ違った。
正確には「人」ではなく、「赤い涙を流した人」ではあるが。
携帯の光を頼りに神経を集中させて歩き、
人を見かけるたびに彼女は脇の木に隠れ、相手をじっくり観察していた。
ふらふらとまるで導かれるように、
彼らはクリニックの方へ向かっていくようだった。
もちろん、手には何かしらの武器を持って。
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:23:40.23 ID:inkBY8PB0
- ハインリッヒ先生はあそこまで人に恨まれるような人だったかしら、と
つーは困惑していた。
そして武器を持った人々が次々とクリニックへ向かうのに、
私は先生と一緒にいなくてもよかったのかしら、と
再び自責の念に駆られていた。
それでも彼女は妹とその彼氏の安否を確かめるためにここまで来たのだ。
街灯は全て消えている。
それ故につーは携帯の明かりで静かに、慎重に動くことを強いられていた。
幸いにも通りに入って誰にも見つかっていない。
このまま何事もなく家に着くことを心の底から願っていた。
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:25:45.68 ID:inkBY8PB0
- ちらり、と角から光が見えた。
恐らくは懐中電灯なのだろう、一直線の光が徐々に大きくなってくる。
誰かが来たのだ。
思わずつーは体を強張らせ、携帯を閉じる。
角を曲がり、真っ直ぐ一直線に行けばもうそこは家なのだ。
つーは息を潜めて壁に張り付く。
これで暴漢に見つからないとは思っているわけではない。
ただ、隠れる場所がないのだ。
角からピンクのポロシャツを着た男が現れた。
その目からは今までの人物と同じく、赤い涙を流して。
T字路の分かれ道に立ち、男は何かを探すようにきょろきょろとする。
つーはこれ幸いと家の方へと向かう。
ふいに。
男は機敏な動きを見せ、自身が来た道を振り返った。
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:28:22.35 ID:inkBY8PB0
- その道には今まさに男の目をかいくぐり、家へと向かおうとしているつーがいた。
「えっ」
思わず声を漏らす。
突然光を向けられ、つーの目の前が真っ白になる。
「見ィ、つけたァ」
男は口角をこれでもかというほど吊り上げる。
目からは新たに赤い涙が滴り落ちる。
その様はつーが今まで見てきたどんな人物よりも凶悪で、
ただただ悪意の塊のような、そんな笑顔だった。
男が何か鈍器のようなものを振り上げる動作をつーは凝視することしかできなかった。
足は完全にストップし、驚きで口は開き、ぽかんと男を見つめていた。
そして懐中電灯の眩しさから思わずかざした右腕が不自然に振り下ろされた。
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:30:34.01 ID:inkBY8PB0
- 「いだっ……!!」
つーは遅れてきた激痛に苦悶の声をあげた。
右腕に触れ、痛みが増した時、目に涙がたまるのがわかった。
男の手にした鈍器で右腕を殴られたということを理解したのは
男が再び鈍器を振り上げたときだった。
涙がこぼれ落ちるのと同時に一目散に家の方向へと走り出した。
ふらつく足が地面に着くたびに腕がずきずきと痛むのが嫌でもわかった。
それでもつーは振り返ることなく、通りを走った。
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:35:36.82 ID:inkBY8PB0
- 家が見えた瞬間、つーの脳裏に家で寝ているであろう
しぃとギコのことが思い浮かんだ。
敷地内へ駆け込もうとした足が方向転換した。
自分が背後にいる暴漢によって二人に危害が及ぶのが嫌だと瞬間的に考えたのだ。
痛みで上がらず、ぶらんと垂れさがった腕を左腕で庇い、
そのまま社のある北美布へ向かう。
つーにとって逃げ込む場所は家以外ならどこでもよかった。
荒くなった呼吸をそのままに、社の近くの雑木林に飛びこむ。
意識が遠のく中、涙をふくことも忘れてただ前へ進んだ。
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:40:39.51 ID:inkBY8PB0
ギコ 北美布/つー宅居間
初日/04:28:59
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:46:47.88 ID:inkBY8PB0
- 恥ずかしいことに、俺は完全に怯えていた。
体はがくがくと震え、暑さによる発汗と冷や汗でだぼだぼ。
これを怯えていると言わずになんと言うのか。
俺はここまで臆病だったのかと頭では叱咤し、怯えの元を確かめに行けと言っている。
しかし当の体がそれを許さない。
言わば、膠着状態である。
最初にノックに気づいたのは5分ほど前。
その時はしぃのお姉さんのつーさんかと思った。
しかしドアを開けようと起き上がろうとした時、閃光のように考えが巡った。
ドアの向こうにいるのがつーさんだと仮定しよう。
それならば何故鍵を使わない?
何故しぃに電話しない?
俺たちに呼びかけない?
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:51:11.64 ID:inkBY8PB0
- そしてドアの向こうの人間は今も全力でドアを叩いている。
5分以上もだ。
隣で眠るしぃの顔が暗がりで見えない。
映画だとこういう時、月明かりで照らされた女性の顔を満足げに眺めて、
そして化け物と対峙し、その命を……
いやいやいやいやいやいや、ないないないないないない。
命なんて落とさない。
化け物なんていない。
あそこにいるのは酔っ払い。
そう、ただの酔っ払い。
ここはあなたの家じゃないですよ、と軽く諫めて回れ右させればいいのだ。
そういうことにして、なけなしの勇気を振り絞り、玄関へと向かう。
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/13(土) 23:56:16.55 ID:inkBY8PB0
- ノックの音とドアノブを回す音が交互に聞こえる。
随分と性質の悪い酔っ払いだ。
隙あらば家に入りこもうとしていやがる。
最初こそ怖かったが、それはただの未知への恐怖だった。
一度頭で「この向こうにいるのはただの酔っ払い」と考えてしまうと
それほど恐怖はなくなった。
全く、俺はなんてチキンなんだ。
こんなんだからいつまで経ってもしぃに驚かされて笑われるのだ。
一定の周期で繰り返される音。
さあて、軽く追い返してやるかと鍵を回そうとする。
「早く出て……来イ……」
固まる。
なんだって?
出てこい?
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:00:03.98 ID:663VEG8u0
- (;゚Д゚)「誰だ?」
音が止んだ。
返事はない。
しかし返事の代わりに雄たけびが聞こえてきた。
まるでこの時を待っていましたと言わんばかりに。
(;゚Д゚)「う、うひいいいいぃぃぃ!」
俺がドアだったら痛い、止めてくれ!と叫びたくなるほど強烈な殴打。
俺の中の怯えが再び未知への恐怖に対するものへと変わり、
弾けるようにドアから離れ四つん這いになりながら居間へと戻る。
(;゚Д゚)「おい、しぃ、しぃ!」
眠っているしぃの体を揺さぶる。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:03:42.30 ID:663VEG8u0
- (*゚ー゚)「どうしたの、ギコ君……お姉ちゃん帰ってきた?」
寝ぼけ眼をこすりながらしぃが体を起こす。
(;゚Д゚)「おかしいんだって!変な人がずっとドア叩いてノブがちゃがちゃしてんだ!
あれやべーよ!絶対警察にお世話になった方がいい人だって!!」
不機嫌顔だったしぃが凶暴な音を聞いたのか、すっと真顔になる。
(*゚ー゚)「うん……お姉ちゃんじゃないね」
しぃが冷静に分析を始めた。
(*゚ー゚)「電気もつかない……んー、とりあえず携帯を明かり代わりにするね」
パコッと携帯が開く音がしてしぃの顔が照らされる。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:07:17.51 ID:663VEG8u0
- (*゚ー゚)「ほら、ギコ君も!」
(,,゚Д゚)「お、おお……」
自分の携帯をスライドさせて明かりをつくる。
しぃは足元に気をつけながら台所へと向かっている。
一人にされるのは非常に怖いので慌ててついていく。
(;゚ー゚)「!」
流し場を見たしぃがビクンと跳ねた。
それを見た俺も跳ねた。
(;゚Д゚)「ど、どうした!?」
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:10:13.88 ID:663VEG8u0
- 返事を待たずにしぃへと駆け寄り流し場を見る。
べっとりと血のようなものが広がっていた。
俺は情けない声を上げて腰を抜かす。
地面にへたり込む前に背中が机にあたり、鈍い痛みを感じた。
(;゚Д゚)「ち、ち血ちち血ち、血!?」
(*゚ー゚)「……とはちょっと違うみたいだよ。
臭いがしない……」
言われてそっと覗き込む。
確かに血の臭いはしない。
(,,゚Д゚)「はぁ、さしずめ赤い水ってところか」
(*゚ー゚)「うん……一体、何があったんだろう」
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:13:42.49 ID:663VEG8u0
- 凶暴さはなくなったものの、未だドアを叩く音とノブを回す音が聞こえる。
俺は多分平静な顔をしていたと思う。
しかし頭の中は真っ白だった。
意識を現実に戻した時、俺の右手にはフライパンが握らされていた。
(,,゚Д゚)「ん?」
(*゚ー゚)「何が起こってるのかわからないけど、
良いことはまず起こってないだろうから
とりあえずこれで武装しておいて、ギコ君」
(,,゚Д゚)「あ、ああ」
しぃは包丁を握っている。
少しぎょっとする。
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:15:51.90 ID:663VEG8u0
- (*゚ー゚)「さ、行ってみるよ」
しぃが俺を盾にしながら玄関へと向かう。
マジかよ。
鍵を開け、ドアを開ける。
この二工程を素早くかつ静かに行い、問う。
(,,゚Д゚)「あのー、どちらさんで……?」
明かりがなくて相手の顔は見えない。
それでも声や息遣いは聞こえてくる。
にゅっと開いた隙間から手が伸びてくる。
「ヒひぃッ!!みぃ、つけたァ!」
(,,;Д;)「ひゃああああああああああ」
(#゚ー゚)「フンッ!!」
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:18:09.33 ID:663VEG8u0
- ちびった。
ぐいっと家の中へ腕を引っ張られる。
それと同時にしぃが訪問者に包丁を突き立てる。
え、助かったけど大丈夫なのか、それ。
(*゚ー゚)「逃げるよ!ギコ君!」
手が離れ、その隙に足がもつれながら中へ逃げ込む。
どたばたと荒々しく家の中を通り抜け、庭へ飛び出す。
わけがわからず外の状況を知ろうと頭を出すが、
手のひらが俺の頭を押しつける。
(*゚ー゚)「もうちょっと我慢してね」
しぃが囁く。
どうやら目の前には身を隠せるほどの草が生い茂っているらしい。
その証拠に、何も見えない。
眼を閉じて周りに意識を集中させる。
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:20:57.62 ID:663VEG8u0
こちらを見る視界。
興奮したように上ずった唸り声。
ピンク色のポロシャツを着ている。
何かを探してキョロキョロする。
誰もいない。
再び家の中に入っていく。
バッと眼を開ける。
そして静止するしぃの声を振り切り、草むらから出てみる。
さっきの視界の通り、そこには誰もいない。
開かれた家の窓だけだ。
(,,゚Д゚)「……い、今のは……!」
明らかに他人の視界を見ていた。
いや、盗み見ていた?
(;゚ー゚)「ど、どうしたのギコ君」
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:23:36.37 ID:663VEG8u0
- 突然奇怪な行動をした俺を心配そうに見つめてくる。
この能力があれば、安全に敵を倒しせるんじゃないか?
しぃを助けることができるんじゃないか?
俺は今までしぃに散々助けられてきた。
今度は俺が助ける番じゃないか?
(,,゚Д゚)「よし……しぃ、俺がさっきのやつを倒す」
(*゚ー゚)「え?」
(,,゚Д゚)「奴を気絶させて家から追い出す。
俺に任せてくれ」
不思議な顔をしているしぃの頭に手をぽんと置き、
フライパンを握りしめ、再び敵の視界を見る。
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:25:47.35 ID:663VEG8u0
ミルナ 光風地域/橋周辺
初日/07:14:25
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:28:30.37 ID:663VEG8u0
- あたりは既に明るくなっている。
おかげで懐中電灯をつける必要がない。
最も、霧が出ているせいで遠い先は視認できない。
しかしそれは屍人にとっても同じことなのであろう、
ここに来るまで一度も猟銃を使う機会はなかった。
兄者とかいう頼りない最近の若者風の男と共に
隠れながら歩いてきたことも関係しているのかもしれないが。
(;´_ゝ`)「うひゃ、か、川が真っ赤ですよ、これ、うへぇ」
( ゚д゚)「儂が説明しただろうに」
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:46:34.48 ID:663VEG8u0
- (;´_ゝ`)「そうは言ってもこれ、
実際に見るのとそうでないのでは随分違いますよ!」
ああ、煩い。
最近の若者はこうも落ち着きがないのか。
( ゚д゚)「静かにせい、屍人に気づかれたらどうするんじゃ」
儂がそう忠告すると若者は慌てて口をつぐんだ。
ぎしぎしと相変わらず不安な音をたてる橋を渡る。
(*´_ゝ`)「ひええ!高い!高いですねこれ!!」
そして奴は今度は橋に対して騒いでいる。
一度銃口を向けたら静かになるだろうか。
- 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:49:56.56 ID:663VEG8u0
( ´_ゝ`)「おっ、あれが社ですか」
社の裏側が見えた。
あの土砂崩れの直後に作られてそのまま手がつけられていないため、
古い雰囲気が残ってしまうのは仕方がない。
( ´_ゝ`)「ん?人が倒れてないですか?あれ」
言われて指さす方向を見る。
確かに、草むらの傍で人が倒れている。
恐らく女性であろう。
( ゚д゚)「早まるな。万が一、屍人という可能性もある」
駆け寄ろうとする若者を手で制し、ゆっくり近寄る。
- 171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:53:12.51 ID:663VEG8u0
- ( ゚д゚)「おい、あん」
言い終わる前に女性の近くの草むらの向こうから農作業服の屍人が現れた。
(;´_ゝ`)「おっおっわああああああああ!!」
若者が叫んで手にした包丁を構える。
完全にへっぴり腰だ。
舌打ちをして、若者の叫びでこちらに気がついた屍人に鎌を投げつける。
屍人は大きく、遠吠えのような声をあげる。
( ゚д゚)「行けィ!!」
鎌は相手に刺さることはなく体にあたって地面に落ちてしまったが
そのことはさして重要ではなかった。
(;´_ゝ`)「ひゃ、ひゃあああああああああ!!」
情けない声をあげながら屍人に斬りかかる。
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 00:56:34.85 ID:663VEG8u0
- 屍人の肩から脇腹にかけ一直線に切れ、
そこから血のような赤い水が流れ出す。
一瞬、若者がたじろいだ。
( ゚д゚)「怯むなァ!そのまま押しきれェ!」
その言葉通り、屍人が持ったクワを振らせる隙を与えず若者が斬りつける。
斬った方向に、まるでテレビのように赤い水が飛び散る。
三度ほど斬った後、屍人は獣のような悲鳴をあげながら地面に倒れ込んだ。
(;´_ゝ`)「はー、はー、ざ、ざまぁみろってんだこんちくしょー!!」
( ゚д゚)「よし、じゃあそのお嬢さんを連れて社に行くとしよう」
( ´_ゝ`)「は、はい、了解です!」
屍人の傍に落ちた鎌をよいせと拾う。
ついでにクワも奪おうとしてみたが、
抱え込んでしまっていたため奪うことは出来なかった。
- 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:00:45.03 ID:663VEG8u0
- ( ´_ゝ`)「女性に肩貸したのって初めてですよ」
意識のない女性を運びながら若者が言う。
最近流行りの、何だったか、小食系とかいうやつか。
( ゚д゚)「ふん、この非常時に……若い者はこれだから」
からかう様にお決まりのセリフを言ってみる。
(;´_ゝ`)「そそそそんなやましい気持ちなんてありませんよ、ええ」
明らかに動揺しながら、若者が女性を慎重に移動させる。
幸いなことに社に鍵はかかっておらず、猟銃でこじ開ける手間が省けた。
ふすまを開け、中で女性を寝かし、懐中電灯を点ける。
( ゚д゚)「ん?」
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:04:38.03 ID:663VEG8u0
- どこかで見た顔だった。
どこで見たか。
思い出されるのは薬臭い、あのクリニック。
( ゚д゚)「ナースのつーさんだ」
( ´_ゝ`)「ナース?
……ああ、高岡クリニック、ですか」
( ゚д゚)「ああ。腰痛の電気治療であそこにはよく行くんでな」
( ´_ゝ`)「ははぁ、なるほど。ナース……」
そう呟くと若者はさりげなく横たわるつーさんを眺め始めた。
これだから最近の若者は。
( ゚д゚ )「…………」
(*´_ゝ`)「…………」
うむ。
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:08:40.79 ID:663VEG8u0
- はっと気がつき、わざとらしく咳をして儂と若者の視線をつーさんから外す。
( ゚д゚)「とりあえず脈だ」
( ´_ゝ`)「屍人なら、既に死んでいるから脈はない、ということですね」
若者が恐々と女性の右手首の脈をとろうとした。
(*-∀-)「う……?」
( ´_ゝ`)「あ」
(;゚∀゚)「いっだだだだだだだ……」
つーさんが若者が持ちあげた腕を庇いだした。
慌てて若者がつーさんから離れる。
( ゚д゚)「つーさんだね?」
(*゚∀゚)「は、はひぃ、そうですけ、ど」
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:12:44.04 ID:663VEG8u0
- 自らに向けられた猟銃を見てつーさんは凍りついた。
つーさんががたがたと震えながら片手を挙げる。
(*;∀;)「み、ミルナさん?私、な、なにか、」
つーさんがそのまましゃくりあげ始める。
ハッとして銃口を下げる。
屍人ではない。
(;´_ゝ`)「わわわ!大丈夫です、ナースさん!
この爺さんちょっと頭がおかしくなってるだけですんで!
ほら、ほら、よーく見て!
この人瞳孔開いてるけど正気だから!」
( ゚д゚)「おい」
なんだそのふぉろーの仕方は。
- 182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:17:36.14 ID:663VEG8u0
- 落ちついたつーさんと互いにここに至るまでの経緯を話した。
その間儂はメモを探して社内をうろついてはみたが、
それらしきものは見つからなかった。
ちなみに、時々つーさんはこちらを怯えた目で見てきた。
儂はすっかり恐怖の対象になってしまったらしい。
しょうがないことではあるが、少し寂しいのも事実だった。
( ´_ゝ`)「右腕大丈夫ですか?」
(*゚∀゚)「大丈夫ではないですね……動かしづらいですし、痛いですし……
もしかしたら、折れてるかも……」
若者がううむ、と低く唸った。
( ´_ゝ`)「とりあえずこいつで骨折した人みたいに、腕を吊り上げてみません?」
汗臭いかもしれませんけどと付け加えて、若者が首に巻いていたタオルを差し出す。
- 184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:21:24.94 ID:663VEG8u0
- (*゚∀゚)「しないよりマシかもしれませんしね……」
効果があるのか儂にはよくわからなかった。
(*゚∀゚)「あ、あの、ミルナさん……?」
ごそごそと社内を探っていると、
おずおずとつーさんが尋ねてきた。
( ゚д゚)「何だね」
出来るだけ優しく言ってみた。
つーさんの肩がびくりと動いた。
何も言うまい。
- 185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:24:32.30 ID:663VEG8u0
- (*゚∀゚)「その例のメモ、見つかりましたか?」
( ゚д゚)「いいや、残念ながら」
(*゚∀゚)「それなら、小学校にあるかもしれないです」
( ゚д゚)「学校?」
思わぬ名前が出てきて驚いた。
( ´_ゝ`)「何故小学校なんです?」
(*゚∀゚)「あ、メモそのものじゃないんです。
確か、メモの内容が小さな本になって図書室に保管されてます」
そういえばメモを本にするだとか、話された気がする。
私、この村の出身なんですけどと続けた。
- 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:28:08.73 ID:663VEG8u0
- (*゚∀゚)「小学生の頃に、土砂災害についてまとめた本が
図書室に寄贈されたことがあった気がするんです。
でも当時はそれに興味がなくて……」
( ´_ゝ`)「そうですよね。自分の出身地の歴史とかって案外興味ないですよね」
若者が知ったふうに言う。
( ゚д゚)「なるほど……ではそっちに行ってみましょうか」
(*゚∀゚)「……私も、つれていってもらっても大丈夫ですか?」
(*´_ゝ`)「ええ、もちろんですとも!僕とミルナさんががっちり守りますから!」
へっぴり腰がよくもまあ。
- 189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:30:54.11 ID:663VEG8u0
クー メゾン美布/203号室
初日/09:30:00
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:33:13.66 ID:663VEG8u0
- 川#゚ -゚)「うがあ!!」
バン!と枕元でうるさく啼く目覚まし時計を叩く。
布団にうつ伏せになりながら、時間を確認する。
九時半。予定通り。
今日は正午からショボンの喫茶店のバイトに入っていた。
昼間でも暇で暇でしょうがない店だが、それでもバイト代が入るっていうんだから
ぼろい商売だ。へっへっへ。
布団の中で出るか出まいかもたもたごろごろしていると、
雨の音が聞こえてきた。
今日はどうやら雨が降っているようだ。
昨日の予報では今日は雨は降らないはずなのに。
気象庁め、老いたな。
のろのろ起き上がり、着替える。
朝ご飯の菓子パンを頬張り、オレンジジュースで流し込む。
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:43:40.38 ID:663VEG8u0
- 川 ゚ -゚)「雨に降られたとなると……部屋干しだな」
パンク寸前の洗濯機に着ていたパジャマをつっこむ。
蛇口を捻る。
川;゚ -゚)「…………ああん?」
赤い水が垂れ出てきて、思わずどこかの誰かに喧嘩を売る。
いかんこの対応はクールじゃない、落ちつけ。
ああ、私は疲れているんだ。
いつの間にこんなにストレスを溜めていたんだ、いけないいけない。
窓際に立ち、カーテンを開け、大きく深呼吸する。
赤い雨が降っている。
川;゚ー゚)「いやー今日はとんでもない日だなー」
クールさが空回りして声が明後日の方向に飛んでいく。
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:49:07.00 ID:663VEG8u0
- 川;゚ -゚)「いやいやいやいやいやいやいやなんだこれ何だこれ!!!!」
流石にここはクールに済ませられない。
譲れない。
服を着て、最低限の身だしなみを整えてお隣さんの扉を叩く。
川 ゚ -゚)「あのー、隣のクーですけど、
キュートさん?もしもし、起きてます?」
キュートさんはキャバ嬢だ。
だからこの時間は寝ているかもしれない。
がちゃとドアが開く。
川 ゚ -゚)「あっ、どうも。
何か水、赤くなってません?錆ですかね゙ぇ゙っ!?」
ドアから伸びてきた手に首を掴まれる。
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:54:46.97 ID:663VEG8u0
- 声が出ずに掴まれた手をどうにか離そうと、
どうにか締まりを緩めようと引っ張る。
ものすごい力だ。
これは私の力ではどうにもならない。
「うふ、ふ、クー、さぁん。こんに、ちわぁ〜」
言動が一致していない。
目の前にいるキュートさんの目からは赤い涙が流れていた。
現実の光景とは思えなかった。
これはまだ夢の中で、ホラーな夢を見ているのかとさえ思える。
ふと、私の腰のあたりに硬いものが当たっているのに気づいた。
柵だ。
一か八か、ここから落ちれば、どうにかなるかもしれない。
もう時間はなかった。
すぐに決断実行、柵を背面から滑り、キュートさんの体を蹴っ飛ばす。
当然私は地面に叩きつけられた。
とはいえ、雨が降っていたおかげで硬い地面に落ちることはなかった。
- 206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 01:58:51.83 ID:663VEG8u0
- 川;゚ -゚)「ゲッホゲホ!!おぅえ!!」
嗚呼、どんどん女性らしさが失われていく。
私が苦しんでいると、階段からキュートさんが降りてくる。
その顔は何が楽しいのか、笑顔だ。
起こしてしまったのが相当頭にキているのだろうか。
それとも性病でも貰って頭が狂ったのだろうか。
川#゚ -゚)「あんたね……」
壁に立てかけてあったスコップを掴む。
流石に温厚な私も限界だった。
川#゚ -゚)「いい加減に、しろッ!!」
振りかぶって思いっきり叩いた。
クールじゃないな、今日の私は。
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 02:04:26.53 ID:663VEG8u0
- キュートさんは男のような野太い悲鳴をあげながら地面で丸まった。
赤い雨が私の頭を冷やしていく。
赤い水、目から赤い涙。
引っかかるキーワードだ。
結構最近に見たことがある。
瞬間、それを思い出し、頭の中が爆発した。
川;゚ -゚)「異界だっっっ!!!」
異界!!ここは異界だ!!!
あの本の通り、屍人が闊歩する世界!!
まずった、実にまずった!
でもサイレンなんて、私は聞いてな……。
聞いた、聞いたけど寝た!うわぁー!
川;゚ -゚)「……あの本の通りなら、これはとんでもない事態になったぞ……」
このアパートにもキュートさんのように屍人化してしまった人がいると思うと
長い時間ここにはいたくなかった。
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 02:09:35.30 ID:663VEG8u0
荒巻スカルチノフ 北美布/社内部
前日/16:51:24
- 211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 02:12:58.49 ID:663VEG8u0
- 「あるならここだと思ったんだが……」
こんなことなら直接ミルナという人に場所を聞いておけばよかったと荒巻は後悔した。
社の中の書物と言えばこれまでの祭りの明細や
何に使ったのかよくわからない変色したメモ書きで溢れていて、
荒巻の探す情報は見つからないままだった。
彼の腕時計はもう17時を指そうとしている。
荒巻は自分がここにあまりいてはいけないような、そんな予感がしていた。
この予感はどこからくるのだろうか?
いくら考えてもそれに答えが出ることはなかった。
荒巻は刀を脇によけて下敷きになっていた紙類をぺらぺらとめくる。
懐中電灯の光に浮かび上がる、舞い上がっていく埃を前に
思わず呼吸をすることをためらった。
ふと、彼はの目に変色した紙の一枚を見た。
それはどうやら十数枚のメモの表紙のようだった。
「3年前の災害についてのまとめ」
- 212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 02:16:00.43 ID:663VEG8u0
- 暗闇に細めた目が大きく開かれる。
知ってか知らずか少し笑みを浮かべながら興奮を抑えて読む。
その内容はまさに47年前の地震災害のことだった。
ただし、地震災害についてのことではなく、
地震の裏で起こった、奇妙な世界についての話。
その証拠にその紙には異界や赤い水、屍人といった
日常生活ではまったく聞きなれない言葉が躍っている。
その情報こそ、彼の数少ない知識欲を満たすものであった。
彼、荒巻スカルチノフの母は地震の被災者だった。
そしてただ二人の生存者のうちの一人である。
地震災害後、土砂から掘り起こされたにも関わらず
無傷だった彼女らの身に、一体何が起こったのか。
世間的には不明とされていて、時が経つにつれて二人の存在は
人々の記憶の奥の奥にしまいこまれ、いつの日か忘れ去られた。
- 214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 02:20:50.08 ID:663VEG8u0
- 一度だけ、彼女らは事実を告白したことがある。
しかしその告白内容があまりにも非現実的であるため、
混乱していると判断されたのか、新聞に詳細が載ることもなく闇に消え去った。
最近、荒巻は母のデレの夢を見た。
若いデレともう一人の女性が惨殺される夢。
ただの夢には違いない。
だが荒巻の心には妙に引っかかった。
だから里帰りがてらに過去を探るために、
娘のツンと共にこの村へ戻ってきた。
軽い気持ちで人に尋ね、「ミルナ」という人物が
デレの話をまとめたという事実を突き止めた。
それが今日までの話。
社の中と学校の図書室にあるらしいその書物を探すために
まずは社の管理者に頼んで特別に鍵を借りた。
中に大切なものはなく、物置と化しているから自分で探してくれと管理者は笑っていた。
田舎はこんなものなのかと荒巻は頭を捻った。
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 02:23:02.57 ID:663VEG8u0
- 荒巻はまだ読み終わってはいない。
ただ時間の流れる音が聞こえる。
手に力が入る。
紙を持っていない方の手をピンクのポロシャツで拭う。
その瞬間。
サイレンが鳴り響く。
それと同時に彼は何かが中に入ってくる奇妙な幻覚を見た。
そう思ったのは刹那、その何かを感じる前に彼は意識を失った。
社にどこか勝ち誇った低い唸り声のような笑い声が響く。
- 216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/14(日) 02:25:17.91 ID:663VEG8u0
まるでサイレンと共鳴するかのように。
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