- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:10:58.09 ID:qgd/KBWn0
- 今まで出会ってきた奴らはみんな化け物か。
殺しても殺しても死なない、化け物。
そしてここは、死者が蘇る場所。
「嬉しいねェミセリ、死んでまで俺に会いに来てくれるなんて」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:15:20.70 ID:qgd/KBWn0
ドクオ 美布村外れ
初日/02:27:31
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:19:47.23 ID:qgd/KBWn0
- どうやらこの場所はおかしな場所になってしまったらしい。
土砂で見えなかった向こう側には赤い海が広がっていて、
どこまでもどこまでもそれが続いていた。
思いつきで登ってみた土砂の上で俺は心底後悔し、恐怖した。
知るんじゃなかった、そしてここは高くて怖い、と。
俺はどうすることもできずとぼとぼ村、いや島の縁沿いを歩いていた。
これからどうしよう。
後部座席にいたブーンはどこかへ消えた。
車も土砂で動くかどうかわからない。
こんな奇妙なところで独り行動するのは寂しい、怖い。
俺はただゲテモノ蕎麦を食いに来ただけなのになぁ……。
('A`)「はぁ……」
思わず目線を落としため息を吐く。
俺の未来には暗いイメージしか見えない。
なんだって言うんだ、こんちくしょう。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:23:48.44 ID:qgd/KBWn0
- 今までいいことなんてほとんどなかったなぁ。
あ、あったか。
高校の時、隣の席の子が教科書見せてくれって言ってきたっけ。
あれはうれしかっ
(;'A`)「おっ、うっ……!なん、なんだ……!」
突然グイと俺の体が宙に浮く。
首が恐ろしいほど締まり、呼吸ができなくなる。
悲鳴も助けを呼ぶ声も出すことができない。
こいつは、誰だ。
何故俺は首を絞められなければならん。
何かやったか?いや、してない。反語。
勢いに身を任せて振り子のように体を前へ浮かせる。
戻り際に俺の首を絞めている奴の腹を蹴り飛ばした。
対してダメージはないだろうが、この状況を打破するには十分な攻撃だった。
首絞めから逃れた俺は尻もちをついたまま後退りをした。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:27:54.51 ID:qgd/KBWn0
- 距離をとりながらヘタレなりにギッと相手を睨みつける。
(;'A`)「うわお!!!!」
叫び声が飛び出た。
そこの「人」は明らかに人間ではない。
赤い涙を流した人間を俺は見たことがないし、
蹴られてニヤニヤする人間も見たことがない。
どう考えても化け物なルックスの爺さんがそこにいた。
('A`)「あの……何ていうか」
('∀`)「ごめんなさい?」
とびっきりの笑顔とともに謝ってみる。
俺の精一杯の謝罪を受け取ってくれるならそれに越したことはない。
何事も、穏便に。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:30:44.26 ID:qgd/KBWn0
(;'A`)「ちょ、おま、来るんじゃねえええええええよ!!!!」
とにかく走る、いや逃げる。
爺さんも追いかけてくる。しかも結構速い。
すぐに体力が尽きてぐんぐん距離を縮められるのが足音でわかってしまう。
そんなこと別に知りたくない。
(;'A`)「うっそん!!!!」
再び後ろから首を掴まれ、持ち上げられる。
息が上がっているのにそんなことをされると、完璧に余裕が無くなる。
首根っこを掴む腕を両手で引っ掻くが対して効果は見られない。
力は弱まるどころか更に強まる一方。
視界から眼下に広がる赤い海が消えていく。
ここで終わり……。か……。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:33:38.58 ID:qgd/KBWn0
- 気がつくと俺は地面に投げ出されていた。
げほげほと咳きこむ。苦しい。
何が起こった?
俺の首を絞めていた奴は後ろでうずくまっていた。
助かった、と胸をなでおろしかけた時、発砲音がして近くの地面に何かが当たった。
音の出所を見ると、そこには警官服を着た男がこちらに向かって銃を構えていた。
その目からはもちろんさっきの奴と同じ、赤い涙を流していた。
俺を助けるために撃ったのではなく、俺を撃とうとして爺さんに中っただけか。
つまり、俺は今、さっきよりもさらに危険な状況下にあるということなのか。
男は肩にかかった無線機のような機械を取り出し、
感情のこもっていない低い声で機械に話しかけた。
「了解……射殺、しま、す」
誰か俺を助けてください。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:37:15.57 ID:qgd/KBWn0
ニダー 美布村外れ
初日/02:39:02
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:40:35.39 ID:qgd/KBWn0
- 警官服の男、ニダーが引き金を引く。
発砲音と共に彼の同僚の体が崩れ落ちる。
何のためらいもなかった。
同僚は化け物になった。
彼にとって撃つ理由はそれだけで充分だった。
最初の化け物との遭遇から既に2時間以上が過ぎた。
明確な殺意を持ってニダーを攻撃してくる住民に最初は戸惑った。
人を守るべき自分が人を殺してもいいのか、と。
しかし自分の防衛を繰り返すうちに彼はある考えに行きついた。
これらは生きている人間ではない、人間ではない別の何かだ。
そう割り切った途端にこの人の形をした化け物を撃つことに抵抗はなくなった。
「大丈夫ニダか?」
「あ、ええ、ありがとう、ございました」
息も絶え絶えに青年が答える。
ズボンやお世辞にもセンスがいいとは言えない
文字がプリントされた服は所々汚れている。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:45:30.62 ID:qgd/KBWn0
- 「これは一体、どういうことです?」
青年が立ちあがろうともせず座り込んだまま尋ねる。
ここまで化け物に出会っていなかったのであろう、
顔は蒼くなり、今にもその場に倒れこみそうな呼吸を繰り返している。
「私にもよくわからないニダ。
どうもサイレンが鳴ってからこの村はおかしくなったようニダ」
ニダーは自分の見解をてきぱきと話す。
「村、ってことは、村人全員が、こんな風に……?」
撃たれてうずくまっている化け物を指さして尋ねる。
今まで出会ってきた人々を思い出す。
その中にまともな人間はいなかった。
「ええ、少なくともあなた以外はみんなそうだったニダ。
もっとも探せばまだまともな人はいると思うが」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:49:10.63 ID:qgd/KBWn0
- ここで初めて青年は安堵の表情を浮かべた。
それは推測の域を出ず、状況は何も改善していないのだが、
とニダーは冷静に思う。
「このままここにいても恐らくこいつがまた起き上がるだけニダ」
傍にうずくまる化け物を指さすと青年は慌てて立ちあがって距離をとった。
うずくまった化け物をニダーは観察したことがある。
呼吸するかのように静かに上下していた化け物に興味をもったからだ。
結論から言うと、それらは死ぬことはなかった。
うずくまるのは溜まったダメージを癒すことに専念するためであるということが推測された。
その状態でいくら攻撃を加えても再び立ち上がるのが遅くなるだけだ。
まるでゾンビみたいだな、とニダーはその光景を苦笑いを浮かべて見ていた。
「じゃあちゃっちゃとこの場から逃げましょう!」
青年が心底ほっとしたような表情を浮かべて言った。
まだお互いの名前すら知らないということに気づくのは当分後のことだった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:52:41.47 ID:qgd/KBWn0
ハインリッヒ高岡 映州地域
初日/05:15:32
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 21:57:16.23 ID:qgd/KBWn0
- ハインリッヒはクリニックの前で立ち止まった。
目を閉じてクリニック内に意識を集中する。
廊下を歩いている。
手には金づちのような鈍器。
ふらふらとした足取り。
ただ何の目的もなく歩いているような。
ちらちらと見える部屋の名前からして、ここは2階のようだ。
彼女はこの対象は心配に値しないと判断し、
次の屍人の視界を視る。
病院の順番待ちのようにイスに座っている。
時折キョロキョロと辺りを見渡すが、それ以外に目立った行動はない。
他の屍人の視界に変える。
トイレと廊下を往ったり来たりしている。
何かする予兆はない。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:01:31.87 ID:qgd/KBWn0
- 「うし、診察室は使えそうだな……」
そう言ってハインリッヒは先程川で拾ってきた青年の顔を叩いてみる。
青年に反応はない。
息は確認したからただ気絶しているだけだろう。
クリニックの手前まで運んできたのと同じように、
再び彼女は彼を引きずり始める。
彼は川原に、川に半身浴の状態でのびていた。
外傷はなに一つとして見られなかった。
しかし依然として青年の意識が戻らないため、
ハインリッヒがこうして引きずって休める場所へ運んでいるのだ。
待合室と二階が使えなくとも診察室さえ無事なら、
ベッドも使えるから大丈夫だと考えていた。
クリニックの裏口のドアを開ける。
足元の非常灯がついてはいるがやはり暗闇が手をこまねいている。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:06:21.62 ID:qgd/KBWn0
- 青年を引きずり、診察室のドアの前までたどり着く。
もし、この中に屍人がいたら?
その時は彼女は青年を置き去りにする案を採用しようと考えていた。
実際には幻視の通り、屍人は診察室にはいなかった。
部屋に入り鍵をかけ、青年をベッドに寝かして水を拭いてやる。
それから彼女は青年の体を検めた。
青年は至る所に傷を負っていたらしい。
しかしそれらは服の破れとしてしか残っていない。
「青年、お前は一体何をしていたんだ?」
彼女は浮かんだ疑問を口に出す。
当然返事はない。
イスに座り、大きく息をつく。
今年で34歳になる体に人を運ばせる、というのは重労働にあたる。
見えない天井を見上げ、これからのことを考える途中で
彼女の意識はまどろんでいった。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:09:44.74 ID:qgd/KBWn0
ニダー 光風地域/根谷川沿い
初日/05:19:19
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:13:34.06 ID:qgd/KBWn0
- 赤い川が右手に見える。
海が赤に染まれば川も赤に染まるわけだ。
(;'A`)「に、ニダーさん、そろそろ、休みましょう」
背後からか細いドクオの声が聞こえる。
貧弱な青年だ。
つい1時間ほど前に休ませてやったばかりではないか。
その間ウリはずっと化け物を見張っていたというのに。
なんとまあ自分勝手なものだ。
<ヽ`∀´>「ああ、それがいいニダ。
私も休みたいと思っていたニダ」
心にもない嘘をつくと、ぱぁっとドクオの顔が輝いた。
とは言ってもその青白い顔が輝いて、特に何が変わるというわけでもない。
むしろ醜さに拍車がかかった。
ドクオが木を背に座り込む。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:16:53.88 ID:qgd/KBWn0
- ('A`)「俺達、助かるんですかねぇ……」
大きく息をついてからぼんやりと呟くように問いかけてきた。
<ヽ`∀´>「さぁ……わからないニダ。
銃弾も随分使って、あと……10発ニダ」
('A`)「じゅ、10発……」
<ヽ`∀´>「まあ銃だけがやつらに対抗できる武器じゃないニダ」
腰に差していた警棒を放って寄越す。
('A`)「……そういえば殴ってましたね、これで」
<ヽ`∀´>「試してみたニダ、やつらに鈍器が効くのか」
('A`)「なんか俺、逃げてばっかですいません」
<ヽ`∀´>「…………」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:20:05.93 ID:qgd/KBWn0
- 思わず、最初に出会ったときぐらいの活躍はしてほしい、
なんて皮肉を吐きそうになった。
まあ落ちつけウリ。
こいつを囮に化け物と戦う作戦も確かにアリではあるが。
<ヽ`∀´>「人には向き不向きがあるニダ」
('A`)「そう言ってもらえるとありがたいです……。
戦いの邪魔にならないようにするのが精いっぱいでして」
事実、こいつはこれまでの数回の戦闘の最中、常に逃げていた。
ある時は物陰に隠れ、ある時は死んだふり、ある時は頭隠して尻隠さず。
役に立った試しがない。
生き残る努力をまるでしない。
この国はこんなやつがいるから駄目なんだと思わされた。
<ヽ`∀´>「じゃあそれ貸すニダ」
(;'A`)「え、ええっ!?俺も戦うんですか!?」
驚かれるとは思っていたが、実際に驚かれると腹が立つ。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:24:09.29 ID:qgd/KBWn0
- <ヽ`∀´>「今までは化け物は一人ずつしか相手にしてこなかったニダ。
だから私一人でもなんとかできたが、
これから先、複数を相手にしなければならないかもしれないニダ。
その時は、自分の身を守れるようにしてほしいニダ」
('A`)「な、なるほど……」
今までの戦いでわかったことがある。
やつらは一人に標的を定めると、他の人間には目もくれない、ということだ。
一度、ドクオが狙われた。
ウリはすかさず化け物を撃ち抜いたが、化け物は撃ったウリではなく、
そのままドクオを狙って走り始めた。
このことからウリが狙われた時はドクオに化け物を倒させる作戦を思いついたのだ。
まあこいつに助けられるというのはいささかプライドが傷つくが。
赤い川の傍へ行く。
ドクオがどこに行くのかと捨てられた小犬より情けない声で尋ねてきたが、
ウリが赤い川の近くで足を止めると近づいてきた。
全くもって不気味な川だ。
一体どんな成分が含まれているのか全く見当がつかない。
こんな水が体内に入ったらどうなることやら。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:28:03.39 ID:qgd/KBWn0
- ('A`)「うええ、気持ち悪いですねぇ」
<ヽ`∀´>「同意ニダ」
ウリの心配をよそに、しゃがみこんでぱちゃぱちゃと手で水を弄び始めた。
仕舞には石を投げて水を切り始めた。
もう何も言うまい、下手くそめ。
('A`)「ん?」
<ヽ`∀´>「どうしたニダ」
石を振りかぶったポーズで固まっている。
('A`)「向こうから誰か来るような……」
<ヽ`∀´>「向こう、って」
向こうは赤い川の対岸。
誰かが赤い川を渡って、こっちに来るということか?
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:33:13.77 ID:qgd/KBWn0
- ウリの返事の続きを待たずにドクオが懐中電灯を対岸へ向ける。
(;'A`)「ひぃっ!!!」
どこかの芸人の引き笑いのような大きな声を上げる。
それと同時に相手が遠吠えのような声をあげた。
化け物だ。
<ヽ`∀´>「引きつけて、私がやるニダ。
一応構えておけニダ」
言ってはみたが、ドクオはへっぴり腰で構えているだけだ。
やれやれ、またウリがやるのか。
ざぶざぶと流れる水を無視して歩み寄ってくる。
相変わらず気味の悪い笑みを浮かべている。
ドクオの愛想笑いより虫唾が走る。
手にはスコップを持っているが、こちらは拳銃だ。
間合いに入らない程度に引きよせてなるべく命中するようにすれば
勝ったも同然だ。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:38:12.76 ID:qgd/KBWn0
発砲音が響いた。
<ヽ;`∀´>「う、」
右肩に激痛。
<ヽ;`∀´>「が」
喉が震える。
<ヽ;`∀´>「あああああああアアアッッ!!」
地に膝をつき、叫ぶ。
何が起こった?
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:43:03.40 ID:qgd/KBWn0
- ドクオが何か叫んでうずくまるウリの体を揺さぶる。
ああ、触るな、糞、痛い、ウリは撃たれたんだ。
ドクオの腕を振り払い、振り返る。
懐中電灯に照らされた元同僚は、ウリに狙いをつけていた。
<ヽ;`∀´>「グッ!!」
左手で銃を握り、持ち上げる。
隠れる場所はない。
怪我をしている。
距離が離れている。
早く撃った方が勝ちか。
引き金にかけた指に力をいれる。
頭じゃなくてもいい。
体のどこかにあたれば、どうにかなるはずだ。
引き金を引いた。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:47:55.77 ID:qgd/KBWn0
- 発砲音と共に、化け物が怯んだ。
腹にあたったらしく、後退りした。
チャンスだ。
このまま撃てば、ウリの勝ちだ。
<ヽ;`∀゚>「ぁいごぉっっっ!!!」
頭に衝撃。
痛みに顔が歪むのが自分でもわかる。
ああ、そうだった。
ウリの背後には、もう一人化け物がいたんだった。
銃持ちに気を取られて、ウリは忘れていた。
ドクオ、ドクオは何をしているんだ。
あいつに警棒を渡しといたはず。
何故川から来る化け物を抑えておかなかったんだ。
何のための武器だ、何のための同行だ。
あいつは、何をしている?
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:51:40.04 ID:qgd/KBWn0
(;'A`)「あ、あ、あ、ああああああううううわああああああああああ!!!!!!」
ははっ、あの野郎、あのヘタレ野郎、糞ったれ。
逃げやがった。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 22:56:40.70 ID:qgd/KBWn0
<ヽ#`∀゚>「てめええええええぇえぇぇぇぇえぇえぇえぇ!!!!」
涎が口から飛び出るのもかまわず叫ぶ。
<ヽ#`∀゚>「一人で逃げるか糞チョッパリがああああぁぁああぁあ!!!!!」
川を渡っていくドクオの背中が小さくなっていく。
<ヽ#`∀゚>「絶対!てめーだけはぶっ殺してやるニ―――」
<ヽ`∀゚>
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:01:14.92 ID:qgd/KBWn0
ショボン 光風地域/根谷川沿い
初日/05:48:03
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:05:10.01 ID:qgd/KBWn0
- 発砲音が数回と怒声が聴こえてから、
少し時間をおいてショボンは様子を見に来た。
無茶なことはしない性分であるため、すぐに駆けつけようとはせず、
ただ結末だけ見届けようと冷静に判断したのだ。
不可思議な他人の視界を探る能力を試み、
辺りの化け物の存在を確認する。
視界の中に川の見える化け物はいない。
ただふらふらと歩く化け物がそこら中にいて、
迂闊に行動してはならないことを彼は理解した。
懐中電灯で足元を照らしながら歩きつつ、
化け物に見つからないように行動するのは思ったよりも苦行であった。
普段眼鏡をかけている人が眼鏡を失うとこうなるのだろうか、
と全く関係のないことをぼんやりと考えていた。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:08:46.17 ID:qgd/KBWn0
「ん?」
赤い川を気味が悪いと思いつつ、その手前にある「何か」が目にとまった。
近づき、それが人の形をしていると気づいた時、悪寒が走った。
発砲音や怒声が聴こえたときから彼はある程度覚悟はしていた。
村の中で何かが、それも流血沙汰になりそうな何かがリアルタイムで起こっていると。
しかしその覚悟を捻り潰すかのように「それ」はそこにあった。
「死体……か」
ショボンの顔が歪む。
今までぬくぬくと暮らしてきた経験上、
この衝撃に真顔でいられるほどの覚悟はできていなかった。
冷や汗が一斉に重力に従い始め、服と皮膚の間に気持ちの悪い不快感を生み出す。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:11:39.47 ID:qgd/KBWn0
- 微かにこみ上げる吐き気をなんとか無視し、死体の近くに落ちていた、
恐らくこの警察官の服を着た人物が生前使っていたであろう拳銃を手に取る。
同時に、ある恐怖が彼を取り巻いた。
それは「人を殺すことのできる重み」に対するものではなかった。
「人を殺すことのできる重み」を持ってしても、
この人物は死んでしまったという事実に対するものだ。
警察官が死んでいる。
それなのに、一般人である彼が生き残れる道理を思いつくことができようか。
それでも彼は生き残るために行動するしかなかった。
死体の服を探って弾丸を見つけ、ジーパンのポケットにねじ込む。
生き残るためにはこういうこともあるし、
こういうことをしなければならないと自身を納得させ、
ヒビのはいった覚悟に上塗りをした。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:16:07.18 ID:qgd/KBWn0
ニダー 光風地域/根谷川沿い
初日/09:15:15
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:19:34.67 ID:qgd/KBWn0
- ニダーは目を覚ました。
ぽつぽつと皮膚を雨が打つ。
目の前には世界が広がっている。
木々の合間から見える曇り空は、現実のそれと変わりはない。
時々雨が目にあたって瞬きをする。
皮膚を打つ冷たい感覚が徐々に彼に生の実感を与えていく。
彼は大の字になって寝転がっていた。
両手両足を軽く動かして、緩慢な動作で起き上がる。
どこもおかしなところはない。
そう、何も変わりはない。
「……何故、ウリが生きているニダ」
当然の疑問だった。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:22:20.16 ID:qgd/KBWn0
- 彼はまだ辺りが暗かった頃、確かに殺された。
ドクオに見捨てられ、化け物の攻撃により命を落とした。
ここまで彼はしっかりと覚えていた。
だからこそ呟かずにはいられなかった。
ふと、彼は自分がぼたぼたと涙を流していることに気がついた。
そして自身の状況に気づき、悟った。
彼の目からは止めどなく赤い涙が流れている。
「ああ、ウリも――― 化け物になった、ニダか」
その言葉が果たして普通の人の声として発せられたかは
彼にとって重要ではなかった。
ただその言葉の意味を理解することだけが重要だった。
ニダーは笑い始めた。
笑い声は彼の頭の中でいつまでも反響し続けた。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:26:51.31 ID:qgd/KBWn0
ミルナ 美布小学校/二階図書室
初日/09:24:31
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:30:46.34 ID:qgd/KBWn0
- メモを再編集した本にはミルナが思い出せなかった情報が書いてあった。
赤い水についてのこと。
サイレンが鳴り響いてから水は赤く染まる。
赤い水が異界においてもっとも異質な存在であり、
これが最も厄介だと過去の村人は結論付けたようだ。
体内に赤い水が入り込んだ人間が死ぬと、屍人として徘徊を開始する。
さらに赤い水は傷口からも入りこみ、
一定量の水が体内に入るとその人もまた屍人化する。
赤い水には傷の治癒を助ける力があるらしく、
倒した屍人が再び起き上がるのはそれが理由らしい。
デレやでぃは当時妊婦で、体調に変化があるといけないという理由で
村人に赤い水から遠ざけられていた。
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:32:54.74 ID:qgd/KBWn0
- そして、美布村を異界に変えた張本人。
神に堕とされ、村を異界へ堕とした神として、
「おとしがみ」と名付けられたそれは、この世のものとは思えない、
そして「神」と認識していながら、神々しいとも言えない姿だったという。
村人たちはおとしがみが全ての原因だと決定づけた。
その生物が禍々しいサイレンを鳴らした途端、世界が変わったのだから。
村人達はデレやでぃの見ていないところで奮闘したらしい。
物量作戦に賭けたのだ。
戦いは続き、「火のような光」が見えた時、サイレンが鳴り響き、
その後彼女達は救助された。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:36:04.08 ID:qgd/KBWn0
「ふーむ、なるほどな……」
「サイレンを合図に水は赤くなって、世界は異界になった、と」
「そしてサイレンを鳴らす、奇妙な生物、神……」
ざぁ、と部屋の中まで聞こえるくらいの強さで赤い雨が降っている。
廊下からは板を金槌で打ち付ける音や、
たまにギシギシと木の床が軋む音が図書室へ忍び込んでくる。
「傷の治癒は赤い水の効果によるもの、か」
ミルナと兄者の視線がつーの右腕に移る。
「私はまだ赤い水が入ってない、ということですか……?」
「でしょうな」
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:40:36.48 ID:qgd/KBWn0
- 「なら、俺たちが全力でつーさんを守ればつーさんは現実に帰れると」
「そういうことになる」
ミルナと兄者が頷く。
「ちょ、ちょっと待ってください、私はおばあちゃんみたいに
元の世界に帰れたとしても、お二人は」
「戻れないでしょうな」
ミルナが淡々と答える。
「まぁ、でも絶対に帰れないって決まったわけじゃないですよ。
昔と今とじゃなんかこう、色々手続きとか変わってるかもしれませんし」
兄者が軽い調子で答える。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:43:54.14 ID:qgd/KBWn0
- 「帰れない」という過去の経験を突きつけられてもなお、
二人は正気を保っていた。
それは目の前に守るべき存在があるということに起因するのだろう。
「いや、ですよ私は、みんなで帰りたいです」
言葉尻が消えそうなほど弱々しい言葉だった。
「私、お二人が頑張ってるのに、こんな腕で足手まといにしかなってないのに、
私だけおめおめ帰るなんて、そんなの、絶対に、嫌です!」
ぼろぼろと涙が零れ落ちていく。
男二人はこんな時、どうすればいいのか、適切な対処法を知らなかった。
「ほ、ほら、大丈夫ですって!泣かないでください!ね?」
あんたも何か言えと言わんばかりの視線がミルナに浴びせられる。
「わ、儂らはまだ死ぬときまったわけじゃあない。
案外男はしぶといもんです」
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:47:45.37 ID:qgd/KBWn0
- 「〜〜〜〜〜〜!!」
「〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜」
わたわたと男と老人が慌てふためく姿と
次々投げかけられる慰めの言葉は、
つーを落ちつかせるのに十分な力を持っていた。
二人のデコボコな話術によって、つーの涙は跡を残すだけになった。
「さて、兄者、つーさん。これからどうしますかな」
「俺としては弟を探しに、一度家に戻りたいです」
「私も、妹を探しに、家に戻りたいです。
けど、あの子には彼氏がいるので、きっと、大丈夫だと思います。
だから、兄者さんの家に、行きましょう」
「つーさん……俺にはつーさんが天使に見えますよ……」
「儂にはお前がぴえろに見えるわ」
未だ鼻声のつーがあはは、と笑顔を見せた。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:51:07.22 ID:qgd/KBWn0
ジョルジュ長岡 根谷川上流
初日/10:39:29
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/16(火) 23:55:36.78 ID:qgd/KBWn0
- この世界は奇妙だ。
人間を殺しても生き返る。
やはりゾンビか何かだろうか。
流石の俺でも疲れてしまった。
鬱陶しい雨も止んだことだし、ここらで休憩とするのも悪くない。
_
( ゚∀゚)「おっ、こんなとこに……なんだこれ?」
歴史ある倉庫みたいな建物を見つけた。
とりあえず中で休むとするか。
_
(;゚∀゚)「うえ゙っ、ほこりクセぇな」
顔の前で手をぱたぱたとはたく。
ここで休むのはやめだ。
近くの赤い川もなんとも気持ちが悪いしな。
血でも流れてんのか?
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:00:05.00 ID:Ben9GzzJ0
- _
( ゚∀゚)「あー、今日の俺の運勢は最悪だな……」
普通なら今頃会社で働いているはずだ。
今はもう働く資格と理由がない。
だからこうしてわけのわからん場所でぷらぷらしてる。
ニートってのは楽なもんだな。
先行きも見えないけど、もうどうでもいい気がする。
「ジョル、じゅ、こんな、とこに」
背後から聞こえてきた声に反応し、反射的に振り返る。
_
(;゚∀゚)「!!!!」
肩の下あたりまで伸びたカールがかった髪、
厚化粧、ネイルアート、ボロボロになったブランドもんの派手な服。
_
( ゚∀゚)「……ミセリ」
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:04:50.85 ID:Ben9GzzJ0
- 何故ミセリがここにいる?
俺はあの時、確かに死体を埋めたはず。
頻繁に出くわした赤い涙を流す人間たちと同じように、
ミセリもまた赤い涙を流している。
_
( ゚∀゚)「はんっ!そういうことか、そういうことかよミセリィ……」
今まで出会ってきた奴らはみんな化け物か。
殺しても殺しても死なない、化け物。
そしてここは、死者が蘇る場所。
_
( ゚∀゚)「嬉しいねェミセリ、死んでまで俺に会いに来てくれるなんて」
化け物になったミセリがずるずると歩いてくる。
_
( ゚∀゚)「なあ、お前は信じないかもしれないけど、俺は最期の最期まで、
お前を愛してたんだぜ?
だからさ、来いよ、何度でもぶっ殺してやる」
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:08:04.18 ID:Ben9GzzJ0
- 愛する者に裏切られた反動が俺の復讐心を増幅させる。
憎い人間を何度も殺せるなら、こんなにも嬉しいことはない。
ゴルフクラブを握る手に力が入る。
_
(#゚∀゚)「おらああああああああああ!!!」
他の化け物と同じように俺の首を絞めるため伸ばされた手を無視し、
その脳天にゴルフクラブを叩きこむ。
血、いや赤い水が飛び散り、俺の服をも汚す。
_
(#゚∀゚)「ハハハッ、いてえか?いてえのか?
化け物になってまで苦痛を味わう気分はどうだ?」
尚も向かってくるミセリの、今度は横っ腹にブチ込む。
唸り声をあげながらミセリが地面にうずくまる。
まだだ。
まだ足りねぇぞ。
ミセリにゴルフクラブの殴打を浴びせる。
俺の心はまだ、満足しない。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:12:32.42 ID:Ben9GzzJ0
ジョルジュ長岡 丹羽束ズマンション
2日前
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:16:06.50 ID:Ben9GzzJ0
「……は?」
「聞こえなかった?」
彼の妻、ミセリは机の上で絡ませた両の指をわざとらしく解く。
「ここに印鑑押して、って言ったの」
彼女が笑顔で、とんとんと机の上に置かれた離婚届を優しく人差指で叩く。
付き合いたての恋人がするような、悪戯っぽい動作である。
しかしその行為が意味することはジョルジュを大きく動揺させた。
外はもう夕焼けである。
部屋の中に差し込む光は弱々しいが、その紙を照らすのが
今日の最後の仕事だと言わんばかりに頑張っている。
冷や汗とも発汗とも言えない滴がジョルジュの頬を撫でる。
彼の顔は夕焼けとは対照的に、真っ青だ。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:20:09.46 ID:Ben9GzzJ0
- 「いや、だって、え、え?」
「私、あなたの何が好きだったか知ってる?」
ミセリは笑顔を崩さない。
いつもの笑顔が、今の彼にとっては表情のない人形のように見えた。
「俺の……人柄?」
「ぶー」
「かっこいいから?」
「ぶぶー」
ミセリがちっちっちと指を振る。
「ヒントはぁ、私があなたと結婚したり・ゆ・う♪」
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:24:33.89 ID:Ben9GzzJ0
- ジョルジュは思い出す。
彼女はいつも子どもに愛を持って接していた。
そう思えた。
何故か?
笑顔だったからだ。
彼女が笑顔を崩したところを見たことがない。
何故笑顔を崩さなかった?
家庭を円満にしたかったから。
何故円満に?
俺と別れるわけにはいかなかったから。
何故?
俺が好きだから。
何故?
どこを?
どうして?
彼は同時にこれまでの彼女の行動を思い出し、薄々気づいてはいたことを認めた。
認めたくはなかった。
しかし、答えるしかない。
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:28:34.00 ID:Ben9GzzJ0
「…………地位」
「よく出来ましたぁ〜」
ぱちぱちと乾いた音が部屋に響く。
ミセリは元々、彼の会社の部下だった。
ある飲み会の後、酔いに任せて彼らは体を重ねた。
そして子どもが出来た。
最も、今にして思えばあれも計算だったんだろうと
彼は頭のどこか、冷静な場所で考える。
「私もまだ20代だし、まだやり直しがきくと思うんだよね」
ボールに福笑いの紙を貼り付けたような顔。
「だから、ね。
一人の方が人生設計も立て直しやすいでしょ?」
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:33:47.89 ID:Ben9GzzJ0
- 「あ、でもあの子は私引き取らないわよ。
だって子持ち女子なんて、きっと誰ももらおうと思わないもの。
そんなのかわいそうと思わない?
もう子どもはいいわ。
すっごく痛いし、すっごく面倒だもの。
だから次は子どもを望まないイケメンと結婚したいかなーって」
ミセリはまるで夢を見る少女のように、
ジョルジュではなく未来を見て自らの願望をまくしたてる。
「あたしはまだまだお洋服も欲しいし、エステにもいきたいし、
ネイルだってしたい。
だからお金のないあんたと鼻ったれのあの子がいたんじゃ私の邪魔なのよ。
クビになったのはあんたのせい。
あんたの責任の被害をどうしてあたしまで被らなきゃいけないの?
あたしの言ってること間違ってる?
じゃ、早く押して」
彼の目の前には、豚がいた。
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 00:37:01.03 ID:Ben9GzzJ0
そこからの行動は早かった。
鼓動の音が邪魔をして、ジョルジュの耳には何も入らなかった。
豚の怒声も豚の悲鳴も、全て。
ただ、豚の首を絞める感触だけがその時のジョルジュの全てだった。
「なにしてるの?」
その声がジョルジュの感覚を現実に呼び戻した。
目の前には彼の妻だった豚が横たわっている。
背後には彼とミセリの子どもが茫然と突っ立っていた。
ジョルジュの意識は頭の後ろにあり、彼を動かすのは最早別の誰かだった。
彼は子どもが想像以上に柔らかいことに気がついた。
そのことに今まで気付けなかった。
愛に溢れていると思っていた家庭に愛などなかった。
息子を手にかけながら、ジョルジュは一人泣いた。
外は既に夜の闇に包まれていた。
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