( ^ω^)達の運命はサイレンに狂わされたようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:23:26.78 ID:Ben9GzzJ0
「なあ、おい。
 運命なんて俺は信じちゃいないが、もし、運命があるとするなら。
 俺たちの運命は、あのサイレンのせいで狂ったのかもな」

いつもの冗談を言う調子で、「屍人」へ語りかける。
少し間が空き、彼にはいつものように「屍人」が笑ったように見えた。
それだけで充分だった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:27:59.03 ID:Ben9GzzJ0

内藤ホライゾン 荒巻家/二階洋室
             初日/07:06:27

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:31:52.59 ID:Ben9GzzJ0
外にいれば遅かれ早かれ必ず化け物と遭遇してしまう。
そうなると逃げるにしても戦うにしても体力を消耗する。
遭遇を避けるために慎重に行動すると今度は神経をすり減らす。
生き残るためには常に死と隣り合わせで、休息しなければ死に近づく。

そんなわけで内藤とツンは荒巻家で休憩していた。


「ん……」

断続的に聞こえる、何かを叩く音が内藤の意識を覚醒させた。
すぅっと頭にあった熱が引いていき、思考がまとまっていく。

窓からは薄い光が入ってきている。
夜は終わり、霧が出て視界が悪いとは言え既に外は朝の様相だ。
明るいというだけでこれ程まで安心感を覚えるものなのかと内藤は驚いた。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:34:50.77 ID:Ben9GzzJ0
内藤は部屋を出て音の正体を確かめに行く。
隣の部屋ではツンが眠っているはずだ。
内側から鍵をかけているため、化け物も中には入れないはずである。
しかし、同じく鍵をかけた家には入られているという事実を無視できなかった。

フローリングの廊下を歩く。
なるべく音が立たないように、ゆっくり、慎重に。
手すりに掴まりながら階段を下り、そっと廊下を覗く。

薄暗い廊下が闇に向かって伸びている。
その途中で一心不乱に化け物が窓に板を打ちつけていた。
よく見ると壁の板がはがされており、
それを窓を塞ぐのに利用していることがわかった。
その証拠に化け物の近くには歪な木材が積まれている。

またそろそろと二階に戻ると、ツンが不安そうな顔をして廊下に出ていた。
上ってきたのが内藤と見ると安心した顔に変わった。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:39:05.58 ID:Ben9GzzJ0
「ブーン、この音はなに?」

「化け物がこの家の窓を塞ごうとしてるんだお」

「窓?どうして?」

「それは僕にもわからないお。
 とりあえず家から出るお。
 ここも安全じゃなくなったかもしれないお」

小声で会話した後、また音を立てずに階段を下りる。
内藤が一階の廊下を見てみると、まだ化け物は作業に没頭していた。
これなら移動できると判断し、彼らは階段の真正面にあるドアが開いているのに気付き、
その先にあるリビングへと移動した。
廊下と直結している玄関から出ると流石に気づかれると思ったからだ。

幸いリビングには誰もおらず、二人の緊張は解れた。
地震のせいで強盗にでも荒らされたかのように部屋は物で散乱していた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:43:13.02 ID:Ben9GzzJ0
しかし窓ガラスの破片が全て内側に飛んでおり、
地震で割れたわけではないことを示している。
そのことから板を打ち付けている化け物が侵入した痕跡であることが推測された。

「あいつ、弁賞金とか払ってくれるのかしら」

「ちょっと無理じゃないかお」

破片に気をつけながら二人は外に出る。
夏の朝らしい爽やかな風は吹いておらず、
ただ湿気を含んだ嫌な風が彼らを包んだ。


「……こりゃあ」

「なかなか不気味な光景ね……」

荒巻家入り口から見える、通りにあった家々のいくつかは
ドアや窓に板が打ちつけられ、異様な光景が広がっていた。
二人は口に出さずも、まるで自分たちの逃げ場をなくされているような、
そんな恐怖を感じずにはいられなかった。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:48:03.76 ID:Ben9GzzJ0

モララー 映州地域/月刊「H.O.W」支部周辺
                  初日/07:07:07

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:51:52.69 ID:Ben9GzzJ0
辺りは既に懐中電灯が要らないくらいに明るくなっていた。
しかし木や霧が出ているせいで見える範囲は限られている。
そのために俺達はゾンビを警戒しながら進まざるを得なかった。


(´<_` )「ふぅ、やっとついた」

由緒正しい日本家屋が建っていた。

ノパ听)「ここが弟者さんの家ですか!いい家ですねー!」

(´<_` )「お、この家の良さがわかるか」

ノパ听)「いやー、あたしも昔こんな感じの家に住んでたんで!」

( ・∀・)「俺は普通にマンションがいいなぁ」

ここに来たのは弟者さんの兄を捜すためだ。
もしかすると、家に戻ってるかもしれないから一応。らしい。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:54:59.88 ID:Ben9GzzJ0
(´<_` )「ただいま」

弟者さんが引き戸を開けて中に入る。

(´<_` )「うーん、靴がないな」

( ・∀・)「ここにはいないってことですか」

(´<_` )「そうなるね。でも俺に似て運だけは良いからまだ生きてるだろう」

運だけは、って信じていいのか駄目なのかよくわからない。

外見から想像したのと同じような内装だった。
玄関というものはなく、入り口の引き戸を開けると
まだ土が剥き出しになっていて、その地面から一段高いところに居住スペースがある。
高床式倉庫みたいな感じだ。

(´<_` )「俺ちょっと荷物取ってくるから適当に座っといて」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 21:58:24.33 ID:Ben9GzzJ0
( -∀-)「はぁ〜〜〜〜……都村無事かなぁ……」

ノパ听)「都村都村って、本当に好きだったんだな、ん!?」

( ・∀・)「うるせー馬鹿。こんなことになってなきゃ、今頃俺達は……。
      もしかすると俺達は……恋人に……」

(;-∀-)「なれたのかなぁ……?」

ノハ;゚听)「自信持てよ!」

( ・∀・)「お前こそ、モナーはどうなんだよ」

ぶっとヒートが噴き出す。

ノハ;゚听)「もっモナーは関係ないだろ!!」

( -∀-)「はっはーん、良い反応しますねぇヒートさん。
      幼馴染の恋ねぇ。うんうん」

ノパ听)「おい!勝手に納得してるな!おい!」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:04:19.37 ID:Ben9GzzJ0
その時、奥の部屋から発砲音と弟者さんの声が聞こえてきた。

( ・∀・)「お、おい、ヒート!」

ノハ;゚听)「行くぞ!!!」

武器を持って急いで立ちあがり、奥へと急ぐ。
発砲音、声、物音
弟者さんは大丈夫なのだろうか。
大丈夫じゃないとしたら、俺たちは?


(´<_`;)「ぐっ……!」

弟者さんが片手で腹を抑えながら必死でドアノブを握っていた。
刀は鞘から抜かれたままで地面に落ちている。

(;・∀・)「弟者さん!どうしたんですか!」

(´<_`;)「お、俺の部屋に、警察官のゾンビがいて、う、撃たれた」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:08:34.11 ID:Ben9GzzJ0
苦しそうに顔を歪ませている。
あそこが弟者さんの部屋だとすると、
あの中にはまだ拳銃ゾンビがいることになる。
早く弟者さんに加勢してドアを閉めないと俺達まで大変なことになる!

(;・∀・)「弟者さん!そのまま、そのままです!」

(´<_`;)「わ、わかって―――」

パン、ともう一度銃声が鳴った。

弟者さんの顔が一層酷く歪む。

(´<_`;)「か、かんつう……」

目の前の光景がスローになる。

倒れる弟者さん、駆け寄るヒート、開くドア。

そして、何もできない俺。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:12:58.12 ID:Ben9GzzJ0
ノハ;゚听)「弟者さん!!」

( <_ ;)「あ゙あ゙あ゙あ゙あぁぁぁあぁあっっ!!!」

開いたドアで拳銃持ちの姿は見えない。
伸びた腕だけが見える。
その手に持った銃口が弟者さんに向いている。

( <_ ;)「畜生、畜生ッッッ!!!」

倒れ込んだ弟者さんが刀に縋るように震える手を伸ばす。

ノハ;゚听)「あ、ああ、」

ヒートは拳銃に怖気づいて弟者さんの元に近寄れないでいる。
助けないといけない気持ちと保身の気持ちの狭間で揺れているんだろう。

俺はまだ何もできないで突っ立っている。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:15:56.01 ID:Ben9GzzJ0

死ぬ。
弟者さんが死ぬ。
目の前で幾人も刀で薙ぎ倒してきた弟者さんが。
刀じゃだめなんだ。
ここで生き残るには、刀じゃ。

銃。
あれか。
「力」が必要だ。
ここで生き残るためには力が必要なんだ。

俺はまだ、ここで死ぬわけにはいかない。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:18:28.90 ID:Ben9GzzJ0



(; ∀ )「わああああああああああああああああああ!!!!!!」



振り向いて、走り出す。
今なら都村があの場から逃げた理由もわかる。

死にたくなかったからだ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:23:07.39 ID:Ben9GzzJ0

弟者 月刊「H.O.W」支部/一階廊下
             初日/07:21:32

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:27:05.59 ID:Ben9GzzJ0
「モララー!!おいモララー!!!」

ヒートの叫ぶ声が響く。
その叫びを合図としたのか、弟者の震える手が刀を掴み、そのまま振り上げた。
力の十分に入っていない一閃は
ゾンビの体を腰から胸にかけて傷つけることしかできなかった。
しかし時間を稼ぐには十分だった。

後退したゾンビに追い打ちをかけるように、弟者が足でドアを閉める。
ドアに激突したのか、部屋の奥からくぐもった声が聞こえた。

「弟者さん、は、早く外に逃げましょう!!」

ヒートが肩を貸す。

「あ、ああ、わ、悪いね……」

弟者はまず腹を撃たれ、そして二発目はドアを貫通し、腿に中った。
腹と腿から血が流れて服が真っ赤に染まっている。
彼らの背後で再びドアの開く音がした。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:31:45.00 ID:Ben9GzzJ0
ドタドタと慌ただしく弟者とヒートが家の中を移動する。

「モララーの靴がない!あいつ本当に逃げやがった!!」

苦々しげにヒートが吐き捨てる。
弟者は言葉もなく、荒々しく呼吸を繰り返し、
手にした刀は弟者と同じく引っ張られるがままになっている。

段差を下りるだけでも今の弟者にとっては激痛を伴う、最悪の動作だった。
さらに再び鳴った銃声が二人の歩調を狂わせる。
今度は弟者には中らなかったが、反射的に弟者は身を屈め、
その結果、階段から転げ落ちるように地面に倒れこんでしまった。
ヒートはバランスを崩し、引き戸に突っ込んだ。

「弟者さん、手を!」

ヒートが急いで立ち上がり、弟者に手を差し伸べる。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:35:21.08 ID:Ben9GzzJ0
「どっちみち、俺は、もう助からん!
 君、だけでも先に、に、逃げろ!!」

息も絶え絶えに弟者が精一杯叫ぶ。

「で、でも!このままじゃ!!」

悲痛で真っ青な顔をしてヒートが手を伸ばす。

「君は、やさ、しいな。
 必ず、いきのこる、ん―――」

言葉の尻を待たずに無慈悲な弾丸が会話を終わらせた。
糸の切れた人形のように頭ががくんと下がり、
冷たい土の感触を味わう様に地面に沈み込んだ。

それを見届けたヒートが顔をくしゃくしゃにしながら走り去っていったのも、
弟者が知ることはなかった。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:40:15.18 ID:Ben9GzzJ0

ドクオ    映州地域
     初日/09:06:51

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:45:08.33 ID:Ben9GzzJ0
(;'A`)「うひゃあ!!なんだこの雨!!!赤い、赤いぞぉ!!!」

雨だと思ったら赤い雨だった。
傘なんて持ってるわけもないし、濡れ鼠になってしまう。血濡れ鼠。
折角誰とも、何とも会わないように森の中を進んでるっていうのに、
この仕打ちは全くもってついてない。

赤、赤、赤。
もう嫌になる。
赤い水、赤い雨、赤い海、赤い川―――

ふっと数時間前の出来事が頭を過る。
ズボンは乾いたけど、ねっとりと心の中にはへばりついてなくなりそうにもない。
黒歴史を思い出して身震いするよりも遥かに背筋が凍る記憶。

こうして武器まで貸してもらったっていうのに、結局俺はなにも出来なかった。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:49:31.19 ID:Ben9GzzJ0
('A`)「はぁ……」

ため息をついても何にもならないことぐらい、
23年間生きてきて嫌というほど学んできた。
それでもため息は出る。
もはや病気のようなものだ。

とぼとぼと歩いていると、建物が見えてきた。
丁度いい、あそこに雨宿りさせてもらおう。
見た目、ぼっろい家だ。
雨漏りとかしてないよな?

家の入口に誰か倒れているのを見つけた、見つけてしまった。
見つけてしまった以上、気になってしまう。

近づいてみてわかった。


明らかに死んでいる。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:53:44.50 ID:Ben9GzzJ0
服の所々からにじみ出た赤いそれは赤い雨のせいではない。
あまり見たくないが、よく見てみると穴があいている。
銃弾でも受けたのだろうか、とんでもないことだ。

念のために軽く頭をつついてみるが反応はない。

(;'A`)「う、うげえ、死体を間近で見ると……なんとも言えない……」

聖人のようにこの死体を埋めてやるなんてことは俺にはできそうにない。
それなら俺は見なかったことにして去ろうか。
そう思ったその時。


('A`)「え?」


ピクリと死体が動いた。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 22:58:13.69 ID:Ben9GzzJ0
見間違いだと思いたかった。
しかし目は死体に釘付けだった。
見たくないけれど見なければならない。
死者は生き返るはずはないのだけれど。

ぽつぽつと体にあたる雨が酷く鬱陶しい。
時間の流れを嫌でも理解させてくるような、
そんな傲慢さがすごく鬱陶しい。
わざわざそんなことをしてくれなくても時間の流れはゆっくりだ。
俺の中のいろんな時間が面白いように狂ってる。


ゆっくり、しかし思ったよりも早く、死体は立ちあがった。


(;'A`)「!!!!」

叫びそうになった口を両手で塞ぐ。

ぐらりと上げた頭。

虚ろな目から流れ出した、赤い涙。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:02:55.70 ID:Ben9GzzJ0

赤い雨の中を駆け抜けていく。
この世界でのことが走馬灯のように脳内に蘇り、俺を走らせる原動力になる。
涙と鼻水で顔面はひどいことになってるだろう。
走り方は無茶苦茶で、陸上経験者が並走していたら爆笑されるだろう。
それでも俺はそんなことを気にする余裕はなかった。

死者が化け物に変わる。

こんな結論が頭に浮かび、俺にとてつもない恐怖を与えてくるからだ。
内野に勝ち目のない、生死を賭けた吸収ドッヂボールを強制される世界。
俺はなんて希望の見えない世界に立っているんだ。
どうあがいても絶望じゃないか。

足がもつれ、転げる。
知らない間に息はこれほどにないまで上がり、
嗚咽まで加わり呼吸すらままならない。
足に力が入らず、体は自然と震えてくる。

それでも俺は生きていた。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:06:58.07 ID:Ben9GzzJ0

モナー 高岡クリニック/一階診察室
              初日/09:12:27

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:09:49.83 ID:Ben9GzzJ0
( ´∀`)「う、ううん……?」

ここは……どこだ?
確か、僕はおじいさんたちに追われて、それで、それで……。

全身をつつみこむ冷たい水の感覚が蘇る。
そうだ。確か僕は赤い川で溺れたんだ。
水の中ではもがいちゃいけないとはわかっていても手足は勝手に動く。

ここはどうやら病院のようだ。
僕は丁寧に診察台に寝かされていた。

从 -∀从「…………」

腕を組んでイスで眠っているこの人が僕を助けてくれたんだろうか。
白衣を着ているから、お医者さんだろう。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:13:03.94 ID:Ben9GzzJ0
どうやらこの音が僕を起こしたらしい。
誰かな?

僕はまだ覚醒しきっていなかった。
ふらふらとドアへと向かい、鍵を開ける。

( ´∀`)「は〜い、どなた」

あっ。
パンドラの箱開いた。

(;´∀`)「お医者さん!お医者さん!起きてください!!逃げますモナ!!!」

从 -∀从「ん〜?……」

从;゚∀从「あ!!おま、何やってんだ!!」

開いた扉から侵入してくる赤い涙を流す
農作業服のおじいさんを見つけて僕を怒鳴りつける。
そりゃそうだ。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:17:43.30 ID:Ben9GzzJ0
(;´∀`)「ごめんなさいモナ!!」

从;゚∀从「ええい、謝罪は後で聞いてやる!!」

おじいさんは鎌を持って追いかけてくる。
お医者さんがイスを掴んで持ちあげる。

从 ゚∀从「どっせい!!!」

イスを投げつける。
あたった。

从 ゚∀从「とりあえずこっち来い!!」

お医者さんの向かう方向に僕も逃げる。
部屋を出て、薄暗い廊下を走る。

お医者さんがドアを開け放ち、薄い光が差し込む。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:20:14.36 ID:Ben9GzzJ0
从 ゚∀从「あー、んで、これからのことだがな」

( ´∀`)「はい」

从 ゚∀从「助けたお礼ってことで一緒に小学校に行ってほしいんだが、いいかね?」

( ´∀`)「小学校?なんでまたそんなとこに行くんですモナ」

从 ゚∀从「このおかしな世界のことが少しはわかるかも知れないんだ」

( ´∀`)「それはどういう……」

つまりはこういうこだった。
50年前に起きた地震で土砂災害に遭った村の村人たちも
今の僕たちと同じ状況に遭ったらしい。
そしてそこから生還した人たちの話をまとめた本が
その小学校の図書室にある、と。

もちろん僕も同行することにした。
一人なら厳しいかもしれないが、二人なら何とかなるかもしれない。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:23:36.03 ID:Ben9GzzJ0

ヒート 南美布/メゾン美布周辺
           初日/10:07:52

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:27:02.15 ID:Ben9GzzJ0
雨が止み、ヒートは行動を再開した。
心が弱い時に、雨に打たれたくなかったのだ。


「…………」

ヒートの脳裏にはまだあの時の光景がこびり付いていた。
忘れなければ今後の行動に支障が出るとはわかっていても
忘れてはいけないという思いがそれをさせない。
彼女は自然と、自分で自分を追いつめていた。

助けることはできなかった、その事実が彼女の心を押し潰していた。

友人達の顔が浮かんでは消える。
本当に消えてしまったとは限らないのに、
どうにも涙が出そうになる。

彼らと馬鹿をやっていた数時間前が、もはや遠い過去のようだった。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:30:54.49 ID:Ben9GzzJ0
ヒートはメゾン美布と書かれた表札を見つけた。
とにかく彼女は休みたかった。
この湿った世界にもいい加減疲れていたのだ。

渡辺と書かれた表札の家の、半開きになったドアのドアノブに手をかける。
その瞬間、鋭い子どもの悲鳴がヒートの耳に届く。
何も考えずに、体だけが動いた。
するりと中に入り、居間へ向かう。

少女が部屋の中央に倒れていた。
その近くには、恐らく化け物と思われる女性が、包丁を振り上げている。
少女の腕からは血が流れ、畳に血痕を残している。

ぷつりとヒートの中の何かが切れた。

「たあああああああああああ!!!」

助走をつけ、思い切りその背中を蹴り飛ばす。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:34:56.65 ID:Ben9GzzJ0
扇風機を持ちあげ、化け物に叩きつける。
扇風機の首があらぬ方向に曲がる。
それでも殴り続ける。

少女は体を起こし距離を取り、その光景を虚ろな目で見つめていた。
そんな少女にヒートが手を差し伸べる。

汚れていないが、汚れている手。

その手を少女は戸惑いながら小さな手で握る。
ヒートもにこっと笑い、握り返す。

二人はメゾンを出て、手を繋いで外を歩く。

「ねぇ」

「………………」

少女の返事はない。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:37:05.42 ID:Ben9GzzJ0
ヒートは立ち止まり、少女と同じ目線になるよう屈みこむ。

「お父さんとお母さんは?」

少女はぎゅっと服の裾を握り、俯き、
見かけ相応の子どもっぽくいじけたように、泣きそうに下唇を突き出している。

「……いなくなっちゃった」

ぽつりと少女が呟くように答える。
目の前のヒートですら聞き逃しそうな、弱々しい声だった。

「おとうさんはおしごと、
 大きな音がして、ご飯つくってたおかあさんが、家からでていったの。
 それからわたし一人だったの、こわかったの、こわかったの……」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:41:03.94 ID:Ben9GzzJ0
少女が溜まっていたものを吐きだすように、一気に喋る。
そしてぼろぼろと涙を流し始めた。
ヒートが少女を優しく抱きしめ、背中を撫でる。

「ずっとおうちにいたのかな?」

返事の代わりに少女が小さく頷く。

「あたし、ヒートって言うの。
 あなたのお名前は?」

「……わたなべ」

雨が降った後に比べ、霧は少しだけ晴れていた。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:45:08.03 ID:Ben9GzzJ0

兄者 映州地域/月刊「H.O.W」支部周辺
                初日/11:29:33

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:49:44.67 ID:Ben9GzzJ0
俺たちは支部に辿り着いた。
もはや屍人の倒し方も、ミルナさんのスパルタ教育のおかげでばっちりだ。

(*゚∀゚)「弟者さん、戻ってるといいですねぇ」

( ´_ゝ`)「ええ、本当に。
      まあ俺と同じで運だけは良いんで、ここにいなくとも何とかなってますよ」

俺達兄弟は運でここまで生きてきたようなものだ。
小学生の時、バナナの皮に滑ってトラックに轢かれるのを免れた。
中学生の時、席替えをしてもずっと好きな子の隣になれた。
高校生の時、電車に乗り遅れたことはなかった。
大学生の時、俺が合格最低点だった。
就職の時、共通の話題で面接官に気に入られた。

これは俺の場合だが、弟者も似たような経験をしていた。
考えてみると運がいい、かどうかは微妙だが、悪くないことは確かだった。

( ゚д゚)「ここは47年前に土砂災害に遭わなかった地域だな」

( ´_ゝ`)「あ、なるほど。だからこんな古い家が残ってるんですね」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/17(水) 23:54:02.55 ID:Ben9GzzJ0
(*゚∀゚)「確か川の上流らへんの村が災害に遭ったんですよね」

( ゚д゚)「ああ。
     儂の家はぎりぎり災害に遭わなかった」

( ´_ゝ`)「じゃあミルナさんも運が良かったというこ」

( ゚д゚ )

(;´_ゝ`)「えっ、こっち見ないでください」

( ゚д゚)「儂はむしろ天に見放された気分じゃった。
     村のみんなが困っておるのに、何もできなかった」

最初の印象こそアレだったが、ミルナさんは実はこういう人らしい。
自分よりも他人を優先してしまう、損な人。
それを損と見るかどうかは当人次第なのだが。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:04:20.54 ID:RifYS+NP0
( ´_ゝ`)「ただいま〜」

引き戸を開けて中に入る。
おかえり、と返してくる人はいない。

(*゚∀゚)「どうですか?」

( ´_ゝ`)「!!
      く、靴が、弟者の靴がありま」

そこまで言って俺は言葉を失った。
地面にはべっとりと血のような赤い染みが付いていた。

(;゚д゚)「血……赤い水……?」

(;゚∀゚)「ま、まさか、そんなこと」

( ´_ゝ`)「ええ、そんなこと、あるはずがありません。
      ちょっと、中見てみます」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:09:07.43 ID:RifYS+NP0
部屋の中は荒れていた。
座布団はひっくり返り、床には赤い斑点、泥。

この家で何かが起こったことは明白だった。
慎重に歩みを進める。

この先に何があるかわからない。
しかし、弟者と二人ならどんな危機だって乗り越えてきた。
だから、今回も。



「あに、者……おか、え、り」



今回も。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:13:15.11 ID:RifYS+NP0
( ´_ゝ`)「おとじゃ……?」

弟者の部屋を開けた時だ。
見慣れた姿が部屋にあった。


「おそ、かったじゃな、いか、兄じゃ。
 俺、と一緒に、いコウ……」


刀を持っていない方の腕がすぅっと伸びてくる。
一直線に、俺の首筋へ。

( ´_ゝ`)「う、」


赤い涙が、赤い腿が、腹が、肩が俺の網膜に焼きつく。


(;´_ゝ`)「うわあああああああああああ!!!!」

尻もちをつく。
弟者の顔からぼたぼたと赤い水が床に落ちる。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:18:44.55 ID:RifYS+NP0
( ゚д゚)「どうし……!!」

四つん這いで逃げようとする俺と、
それを追いかける弟者をミルナさんが発見した。

(;゚д゚)「このっ……!」

ミルナさんが猟銃を構える。

(; _ゝ )「待ってくれミルナさん!!こいつは俺の弟だ!!
      撃たないでやってください!!」

それを聞いたミルナさんの指が止まる。

(;゚д゚)「な、ならどうすれば……!!」

(;´_ゝ`)「逃げます!逃げましょう!!」

なんとか立ちあがり、後ろを振り返らず走った。
なんとなく、弟者にずっと髪を引っ張られているような気分だった。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:22:49.39 ID:RifYS+NP0

走って、俺たちはそのままクリニックへと辿りついた。
つーさんが裏口の扉の鍵を開け、
診察室とクリニック内を隔てるドアの鍵を閉める。


(  _ゝ )「…………」

(;゚∀゚)「そんな、そんなことって……」

話を聞いたつーさんが言葉を失う。

( ゚д゚)「……どうしたい、兄者」

( ´_ゝ`)「正直な話、分かりません。
      弟者がああなって、俺には何をどうすればいいのか……」

座ったまま頭を抱える。

(  _ゝ )「すいません、少し考えさせてください」

カン、カンと何かを打ち付ける音だけが聞こえていた。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:25:39.58 ID:RifYS+NP0

兄者 映州地域/月刊「H.O.W」支部周辺
                初日/13:13:13

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:28:19.23 ID:RifYS+NP0
兄者は二人に別れを告げ、再びここへやってきた。
ミルナとつーは散々ついていくと言ったが、
これは俺と弟者の問題で、二人に迷惑をかけるわけにはいかないと
断固拒否し続け、結局二人が折れた。

兄者はミルナにこっそり、自分の分までつーを守るよう頼んだ。
その返答は自分で守れというミルナらしいもので、
彼は苦笑いを返すことしかできなかった。

何をどうすればいいのか、まだ彼の中で答えは出ていなかった。
あそこにいるのは、弟者ではない。

―――「屍人」だ。

風もないのに木々がざわめいている。
その音が兄者の心中を表しているかのようで、
少しだけ異界に共感を持った。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:32:28.07 ID:RifYS+NP0
「屍人」は家の前に立っていた。
前に手にしていた刀は側の地面に突き立てられている。
その意図は彼には理解できなかったが、
少なくとも、突然斬りかかられることはないと兄者は判断した。

兄者と「屍人」が真正面から向かい合う。
「屍人」は動かない。
兄者もまた、動かない。

いつの間にか出来ていた静寂を破り、兄者が話しかける。

「なあ、おい。
 運命なんて俺は信じちゃいないが、もし、運命があるとするなら。
 俺たちの運命は、あのサイレンのせいで狂ったのかもな」

いつもの冗談を言う調子で、「屍人」へ語りかける。
少し間が空き、彼にはいつものように「屍人」が笑ったように見えた。
それだけで充分だった。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:36:01.20 ID:RifYS+NP0
兄者は自分のポケットから薄く光が漏れているのに気づいた。

取り出してみると、それは図書室で拾った、細い木をまとめた、
何に使うのかよくわからないものだった。

取り出す。


瞬間、兄者の中に様々な「願い」が流れ込んだ。

流れ込んだそれを何と呼ぶか、彼には最初理解できなかった。

しかしそれを視ていくうち、それは「願い」と呼ぶにふさわしいと判断した。


彼は理解した。

これは、永遠を無に帰すものだ、と。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/18(木) 00:46:16.84 ID:RifYS+NP0

「俺がこいつに、"火仮(ひかり)"にかける、『願い』……」

兄者が呟く。
そして弟者を見据える。

「俺達はずっと一緒だったな。
 運がいい分、周りに馬鹿みたいに迷惑もかけた。
 だから最期くらい二人一緒に、迷惑をかけずに去るのはどうだ?」

ニヤっと、悪だくみを持ちかける時の笑顔を見せる。

虚ろな目が、赤い涙の溢れる目が閉じた。

彼はそれを見て、「願い」と共に火仮を掲げた。


瞬きするほどの一瞬の後、二人は火のように揺らめく、光に包まれた。



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