( ^ω^)達の運命はサイレンに狂わされたようです

1 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 13:54:40.10 ID:ZSGJc1P50

あの人が、あの姿のまま、あの声で、僕の名前を呼んだ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/28(日) 13:59:00.48 ID:ZSGJc1P50

ジョルジュ長岡    南美布通り
           初日/18:02:37

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/28(日) 14:03:44.62 ID:ZSGJc1P50
  _
( ゚∀゚)「ん……?」

若い女の声と、男の声、それに幼い声がする。
恐らく化け物でも、ミセリでもない。

川;゚ -゚)「!」

川 ゚ -゚)「……なんだ、あなたも生存者か」

肩にゴルフクラブを担いだ俺を見た女が最初こそ驚いた顔をしたが、
俺が化け物出ないことを認めると安心した顔になった。
  _
( ゚∀゚)「そういうあんたらも生存者だな?」

( ´∀`)「ええ、そうですモナ」

人畜無害そうな顔の若い男が答える。
その足の後ろに隠れているガキが怯えながら上目づかいで俺を見る。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/28(日) 14:07:46.80 ID:ZSGJc1P50
気に食わねぇ。
気に食わねえな。

川 ゚ -゚)「私たちはこれから安全そうな場所に避難するつもりなんだ。
     あなたもどうです?」
  _
( ゚∀゚)「……お前ら、そんなガキつれて、助かる気はあるのか?」

ガキを指さす。
びくっと震え、地面に目を落とす。

(#´∀`)「……どういうことですかモナ」

なんだ、少しは害のある顔もできるじゃねぇか。
  _
( ゚∀゚)「そのまんまの意味だよ。
     互いに守りあって気ぃ遣いあって仲良く助かる。
     そんな甘っちょろい考えが通用すると思ってんのかって聞いてんだ」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/28(日) 14:12:17.46 ID:ZSGJc1P50
(#´∀`)「甘っちょろい考えも、押し通せば実現できるモナ」
  _
( ゚∀゚)「はっ!これだから人生経験のないガキは嫌いなんだ。
     お前高坊だろ?そんな安い理想論が通用するとまだ思っていやがる」

(#´∀`)「思って何が悪いモナ!」
 _
(#゚∀゚)「悪いね!俺はお前らみたいな甘い奴らが大嫌いなんだよ!」

(#´∀`)「奇遇ですね、僕もあなたみたいな人は嫌いなんだモナ!」
 _
(#゚∀゚)「へぇ、そうかい―――」

睨みあった俺達の間に女が手を差し入れ、割って入る。

川 ゚ -゚)「おっと、熱心なお話のところ悪いが、私たちは先を急ぐので失礼しても?」

気づけばゴルフクラブを握りしめていた手を緩める。
会話が続けば俺はこいつらの脳みそをぶちまけていただろう。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/28(日) 14:17:18.81 ID:ZSGJc1P50
  _
( ゚∀゚)「……ふん」

川 ゚ -゚)「何か気にさわることがあったのなら謝ろう、申し訳ない。
     それでは。行こう、二人とも」

俺の横を女がすっと通り抜ける。
涼しげで化粧っ気のないツラはミセリとは正反対だ。

( ´∀`)「……」

高坊は俺の方を見ようとせず、
ガキを庇うように位置取り、ただ前を見つめて歩いていく。
その背中に嘲笑を浴びせた。
  _
( ゚∀゚)「はっ、先に急ぐ?死に急ぐのかい?ひゃはははははは!!」

俺の挑発を無視して歩いていく。
最後まで胸糞悪い奴らだ。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/28(日) 14:26:30.79 ID:ZSGJc1P50

ドクオ ミルナ宅/居間
     初日/19:10:15

17 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 14:38:17.88 ID:ZSGJc1P50
ツンは机に突っ伏して眠っていて、
その上からはタオルケットがかけられている。

('A`)「なあ、ブーン」

( ^ω^)「なんですかお?」

('A`)「なんか、すまんな。
    俺がつれてきたばっかりにこんなことになって。
    今さら謝っても仕方ないことはわかってんだけどさ」

ブーンの顔をまともに見れない。

バイト先で誰とも話せず浮いていた俺に、
しつこく話しかけてきたのがブーンだった。
シフトが同じことが多かったのも関係しているんだろうが、
何かと付けて尋ねてきて、何かと付けて俺を頼り、
次第に俺達は仲良くなっていた。

18 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 14:42:28.69 ID:ZSGJc1P50
気づけば互いの家にゲームをしに行ったり、適当にドライブに行ったり。
男同士であるということに気づくと実に空しい事実だったが、
初めて俺に付き合ってくれる友達ができて、楽しかった。

俺は楽しかった。
こいつはどう思ってるんだろう。
俺の無茶に付きあわせているんじゃないだろうか。


( ^ω^)「そんなの僕から言わせてもらえば、何を今更、ですお」

ブーンはいつもの笑顔だった。

( ^ω^)「僕だってドクオさんには迷惑かけてますお。
      この前だって僕のミスをカバーしてくれましたお?」

('A`)「ま、まあ、それは先輩としてだな」

19 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 14:46:54.86 ID:ZSGJc1P50
( ^ω^)「先週ドクオさん家に行ったときにお皿割っちゃいましたし、
      その前なんか小便トイレから外しちゃいましたお」

( ゚A゚)「おい!ちゃんと拭いただろうな!!」

(;^ω^)「おっおっ、酔ってたのでちょっと覚えてないですお……」

馬鹿だ。
こいつは馬鹿だ。

( ^ω^)「僕は人の顔色ばかり伺って生きていましたお。
      でもドクオさんと知り合ってからは、
      そんな人生つまらないなって思いましたお。
      ドクオさんのおかげで僕は変わったんですお」

ブーンが笑顔を俺に向ける。

( ^ω^)「あのままの僕だったら、
      今頃もっとつまんない人生過ごしてましたお」

20 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 14:50:33.53 ID:ZSGJc1P50
ああ、馬鹿だけど、ブーンだ。

これがブーンなんだ。

そしてそんなことで悩んでいた俺もまた馬鹿、か。

('∀`)「ありがとな、なんか楽になったわ」

( ^ω^)「どういたしましてお」

俺はニダーさんを見殺しにした。
それはもうどうあっても変わらない事実だ。
だけどこれからは違う。
俺に何かあっても、こいつだけは助ける。

もう逃げない。

21 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 14:54:37.40 ID:ZSGJc1P50

ドンドン、とドアが叩かれる。
その一瞬の音で一気に緊張が走る。

(;'A`)「ツン」

ξ--)ξ「ん、ふぁあい」

くそっ、なかなか可愛い寝ぼけ方じゃないか。

( ^ω^)「どちら様ですかお」

ドア越しにブーンが対応する。
すると女の声が聞こえてきた。

「今追われてるんです、助けてください、ブーンさん」

(;^ω^)「そ、それはいかんですお!」

違和感。

22 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 14:58:03.85 ID:ZSGJc1P50
(;'A`)「待てブーン!何故そいつはお前を知ってる!!」

( ^ω^)「え?」

扉が開く。
その瞬間、包丁が突き出される。

(;^ω^)「あっぶねぇお!!」

声をかけるのが遅れていたら、ブーンは今頃貫かれていただろう。
素早く声に反応し、ドアから離れたのだ。

ξ;゚听)ξ「えっ、ちょ、どういうことなの!」

ツンに説明している暇はない。
開け放たれた扉からは真っ黒なものが侵入してきている。

('A`)「どういうこともこういうことだよ!!」

24 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:06:21.28 ID:ZSGJc1P50
入ってきた化け物は今までのそれとは風貌が大きく違っていた。
黒い毛布を全身に着ているような黒ずくめで、顔は真っ白だ。

「ひっひひっ!!」

策略がうまくいったからなのか、黒い化け物が下品に笑う。
その後ろからは赤い涙を流す化け物二体が入って来て、
俺に狙いをつけた。

(;'A`)「なんと、俺か!!」

警棒を握り直し、棚と机の間の細い通路で迎えうつ体制を整える。

(;^ω^)「ツン!逃げる準備をするお!
      僕らがやられたら窓から逃げるんだお!!」

入り口付近にいるブーンが叫び、包丁を飛び退いて避けた。

25 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:11:44.64 ID:ZSGJc1P50
(;'A`)「……あんたっ!!」

「チョッ、ぱリ……やっとみ、つけたニダァ」

(;'A`)「ぐぐ……!!」

奥にいる「化け物」が殺意をこめて笑う。

俺はここで死ぬわけにはいかない。
あんたのために死ぬわけにはいかない。

警棒で手前にいる、一体目の化け物の頭を殴りつける。
しかし奥のもう一体の「化け物」がバットを振りかざしている。

(;'A`)「ふぃおおお!!」

机に寄りかかるようにして、その縦振りの攻撃をかわす。
その間に目の前の化け物が鎌を振りかざす。
咄嗟に椅子をひっつかみ、押し出す。

27 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:14:50.48 ID:ZSGJc1P50
効果テキメン、二人揃って倒れていった。
そのままの勢いで椅子を倒れ込んだ一体の顔面に振り下ろし、
馬乗りになり、トドメに顔面に警棒を叩きつける。

(;'A`)「ぶはっ!!」

一体目の鎌を持った化け物は床で丸くなり、大人しくなった。
しかしもう一体の「化け物」が立ちあがり、また距離を取る。

どかどかと近づいてきて、バットを振ってくる。
それをまた跳び退いて避けると、壁にぶつかった。

追いつめられたか?

次の手を考える間もなく「化け物」がバットを振りかぶる。

(;'A`)「ふ、フルスイングッ!!!」

30 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:19:27.43 ID:ZSGJc1P50
ξ#゚听)ξ「たあああああああああああ!!」

ガゴオォン、と金属音が響いた。
ツンが後ろから、フライパンで頭をぶっ叩いていた。
その衝撃で「化け物」が俺の胸に飛び込んでくる。

( ;A;)「おあああおあおおおおおあおおおおお!!!」

俺の初めてが奪われた。じゃなくて。

(;^ω^)「でぇい!!」

ブーンが火かき棒で「化け物」の頭を殴る。
それがトドメとなり、呻き声をあげながら、床で丸くなった。


( ;A;)「だずがっだよぉぉぉぉおおぉおぉ」

色んな液体が体から流れ出してくる。
漏らしてはいない。

31 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:24:34.90 ID:ZSGJc1P50
( ^ω^)「おっ、なんとかなったようで良かったですお」

( ;A`)「ああほんとに……ってお、お前っ、その傷!」

刃物で切られたのか、内藤の腕からは血が流れている。

( ^ω^)「僕は大丈夫ですお、それより二人とも、無事で?」

ξ゚听)ξ「私は見ての通りよ。だからまずは自分の心配しなさい、ばかっ」

( ^ω^)「む、すまんお。
      でも傷は治るみたいだお?」

そう言うとブーンは蛇口を捻り、赤い水を傷口に触れさせる。
すると、見る見るうちに傷口が塞がっていった。

('A`)「えっ、なに、え?」

何が起こってるかはわかったが、どうしてそうなったのかわからなかった。

34 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:29:53.54 ID:ZSGJc1P50
( ^ω^)「赤い水にはどうやら治癒能力があるみたいなんですお」

ティッシュで赤い水を拭きながらブーンが答える。

('A`)「そ、そうだったのか……」

なるほどそれは便利だ。
だが赤い水には嫌なイメージしかない。

('A`)「……しかし体にいいってことはないと思うぜ。
    ほどほどにした方が」

化け物の目から流れる赤い涙。
川を流れる赤い水。
不気味で、嫌なイメージ。

ξ゚听)ξ「その通りよ、ブーン」

戦ってくれるのはありがたいけれど、とツンが言う。

35 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:33:52.52 ID:ZSGJc1P50
ξ゚听)ξ「ドクオさんも言ってるし、その荒治療も今回で止めなさいよ」

ツンが腰に手をあててそっぽを向く。
怒っているのか、心配しているのかわからない。
どっちにしろブーンの体を案じているのだろう。

( ^ω^)「おっ。心配どうもだお」

ξ゚听)ξ「べ、別に心配してるわけじゃないわよ!
      ただ、その、雑菌とか、化け物とか、よくわかんないからよ!」

ツンデレ乙。

('A`)「それを心配してると言う」

ξ><)ξ「ううううるさい!!」

わかりやすいやつだ。

38 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:36:42.24 ID:ZSGJc1P50

ショボン 北美布/喫茶店「バーボンハウス」周辺
                     初日/21:38:51

40 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:40:43.62 ID:ZSGJc1P50
赤い川の川辺に座る。
クーには少し夜風にあたると言って、
眠っているモナー君と渡辺ちゃんを頼んだ。

クーから聞かされた話によると、ここは異界らしい。
この川の流れは元の世界と同じでも全く別の世界らしい。
不思議な話だ。


川 ゚ -゚)「ショボン」

考え込んでいると、クーが隣に座ってきた。

(´・ω・`)「二人はどうしたんだ」

川 ゚ -゚)「鍵かけてきた」

鍵を指でくるくる回している。

41 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:44:26.44 ID:ZSGJc1P50
(´・ω・`)「ここに来て、色んなことがあった」

川 ゚ -゚)「私も……私はそんなにないな」

クーらしい素直な返答。

川 ゚ -゚)「せいぜいお隣さんに襲われたり、追いかけられたり、
     追いかけられたり、追いかけられたり、あの子らと出会ったり」

(´・ω・`)「基本追いかけられてたんだな……」

川 ゚ー゚)「まあな、私は可愛いから」

(´・ω・`)「それはない」

川 ゚ -゚)「即答か」

笑う。

42 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:48:41.93 ID:ZSGJc1P50
(´・ω・`)「僕は人の死を見てきた」

川 ゚ -゚)「それはまたディープな」

(´・ω・`)「拳銃を持ってるのに死んだ人がいた、
      拳銃を渇望されて殺した人がいた、
      異界を諦めて自殺した人もいた」

川 ゚ -゚)「…………」

(´・ω・`)「自分が生き延びれるか、わからなくなった。
      普通に喫茶店のマスターやってる人はこんな経験できないよ」

川 ゚ -゚)「そうだな」

(´・ω・`)「それで、君達が現れたわけだ。
      君たちと出会った以上、
      僕はやっぱり守らないといけないわけじゃないか」

いつの間にかクーに心の内を話していた。

43 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:52:39.59 ID:ZSGJc1P50
(´・ω・`)「不安なんだ、僕は。
      人を守れる力が僕にあるのかどうか」

場を静寂が支配する。
そりゃそうだ、突然こんなことを言われても困るだろう。
僕なら気味が悪くなってその場を去ってもおかしくない。


川 ゚ -゚)「別に、守る必要もないんじゃないか?」

腕を組んで、首を傾げながらクーが言った。
ぱしゃぱしゃと手で川の赤い水を弄ぶ。

川 ゚ -゚)「ここに来るまでに妙な男と会った。
     私達三人に、全員守りあって助かるなんて考えで生き残れるのかーとか、
     いちゃもんをつけてきた」

こんな時にそんな喧嘩腰のやつもいるのか。

44 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 15:57:28.03 ID:ZSGJc1P50
川 ゚ -゚)「私が思うに、あいつもお前も考え過ぎだ」

びっと指をさされる。
まああいつは煽りたかっただけかもしれないけど、と付け加えた。

川 ゚ -゚)「あの子たちだって、二人でここまで頑張ってきた。
     渡辺ちゃんは守らないと駄目だけど、
     私やモナー君は特別守る必要もない。
     要は助け合い、協力だよ」

(´・ω・`)「……守る、じゃなく協力か」

川 ゚ -゚)「そう。
     私だって、お前に守られる、なんてまっぴらごめんだからな」

べ、と舌を出す。
相変わらずクールじゃないな、こいつは。

46 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:02:08.65 ID:ZSGJc1P50

川 ゚ー゚)「逆にショボンを守るくらいの勢いだよ、私は」


(´・ω・`)「なるほど、ね」


いつも年上の僕に舐めた口ばかり聞く、クーらしい言葉だ。

だけど妙に納得した。

49 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:04:17.85 ID:ZSGJc1P50

(´・ω・`)「生意気な」

クーの手をつねる。

川 ゚ー゚)「いでで」

二人で笑う。
今だけは、ここが異界だということを忘れていたかった。

53 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:08:22.91 ID:ZSGJc1P50

川 ゚ -゚)「さ、帰ろう。あまり長く外にいると危険だ」

(´・ω・`)「ああそうだな」

脇に置いていたバットを持つ。
川を離れ、喫茶店に戻る。
懐中電灯が暗闇を照らし―――

(;´・ω・)「!!!」

全身を真っ黒な服で固めた、顔面白塗りの屍人がいた。
僕達がそいつに気づいたと見ると、楽しそうに笑い始めた。

川;゚ -゚)「な、なんだこいつは……!新種か!?」

闇に紛れる屍人。

(;´・ω・)「『闇人』……」

川;゚ -゚)「お前の芸術的センスを発揮してる場合か?」

54 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:13:06.50 ID:ZSGJc1P50
(´・ω・`)「だあっ!」

片手でバットを振るう。
しかし機敏な動きで避けられ、当たらない。

(;´・ω・)「か、かわした!?」

さらに追いかけ振りまわすが、一向に命中する気配がない。
今までの屍人とは違い、好戦的でない。
まるで、何か作戦があるような―――


川;゚ -゚)「なっ!!」

クーの声が聞こえて反射的に足を止め、振り返る。

56 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:18:12.44 ID:ZSGJc1P50
屍人が二体増え、僕とクーの間に割って入っていた。
クーは今、武器を持っていない。

(;´・ω・)「クー!」

クーは川の方へと逃げるが、屍人達はそれを追っている。
闇人を放置し、僕も急いでその後を追う。
そして一発ずつ屍人にバットを食らわせた。

川;゚ -゚)「ショボン後ろだ!」

クーに叫ばれるが振り返る間もなく、体が浮き上がる。
闇人にとてつもない力で首を絞められているらしい。

バットをクーへ放り投げ、ポケットに入れた拳銃を引き抜く。
そして背後の敵へ向かって引き金を引く。
狙いをつけていないが、見事当たったのか甲高い悲鳴が聞こえ、
僕は解放される。
地面に這いつくばり、咳きこむ。

58 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:24:13.67 ID:ZSGJc1P50
こんなことをしている場合じゃない、クーが危ない。

立ちあがり、状況を確認する。
屍人が一体倒れている。
まだ一体残っているが、クーはまだ無事だ。

クーが屍人を殴るタイミングを見計らって銃身で同時に頭を殴る。
低い悲鳴をあげながら屍人が丸まった。

川;゚ -゚)「ぶはぁ、はぁ、た、助かったよショボ―――」


パァン、と音が響いた。
それと同時に、クーの肩に赤い染みが広がる。

川; -゚)「は……?」

僕が駆け寄る間もなく、もう一回。

59 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:29:11.34 ID:ZSGJc1P50

ばしゃあん、と派手な水しぶきを上げて、

クーがぐらりと仰向けのまま川に倒れ込んだ。


(;´・ω・)「クウウウウウウウウウ!!!!」

懐中電灯を投げ捨てて川に入り、クーを抱き起そうとする。
しかしまた発砲音がし、今度は僕の顔を掠めていく。
身をかがめ、必死でクーの半身を起こしたまま、
近くに落ちているクーの懐中電灯を拾い、川を照らす。
そして同時に拳銃を構える。

「はは、はははははっは!!!また、あった、なァ!!」

あの時、学校で会った青年が猟銃を振り回している。
その声は他の化け物と同じように低くなり、目から赤い涙を流している。

63 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:33:51.12 ID:ZSGJc1P50
屍人が猟銃を構える。
しかし相手が引き金を引くよりも早く、こちらの引き金を引いた。
額を撃ち抜き、呻き声をあげながら屍人は川に沈み込んだ。
皮肉にも、前と同じ殺し方をした。

クーを陸へ引き揚げ、顔を叩く。

(;´・ω・)「おい!おい!クー!おい!!」

返事はない。
体は動かず、何の反応も返さない。

あいつら、まるで僕をあざ笑うかのようにクーを殺した。

やってくれたな。

ぐるん、と僕の中の世界が反転する。

64 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:38:32.19 ID:ZSGJc1P50
いいさ。
やってやる。
そっちがその気なら、こっちにも考えがある。

頭が割れるみたいに熱い。
目の前は歪むが、それでも前を見る。

その前へ進むための足は憎悪のため。
何かを掴むための手も憎悪のため。
僕の全てはクーを殺した、全ての者への憎悪のため。

持てる全てを尽くして全てを憎しんでやるよ。


ぶち殺してやる。


65 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:43:44.73 ID:ZSGJc1P50

クー 北美布/喫茶店「バーボンハウス」周辺
                   初日/22:00:00

67 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:47:26.06 ID:ZSGJc1P50
目の前がかすんでいる。

何が起こったんだっけ。

そうだ、ショボンに説教をした覚えがある。

今思い出すと結構恥ずかしい。

体が重い、ずるりと立ちあがる。

懐中電灯がない。

あれがないと見えないのに……。

あ、あった。

川の中だ。

68 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:51:26.02 ID:ZSGJc1P50

ショボンはどうしたんだろう。

無事に逃げられたのか。

……こんな時にまたあいつの心配をするなんて。

私はひょっとすると、あいつが好きなのかもしれない。

ふふっ、分からないな。

私はクールだ。

この気持ちはクールさの裏返し、なのかもしれない。

ああ、赤い水の冷たい感触が心地よい。

ここで眠ろうかな。

また、ショボンと会えれば、いい、な。

70 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 16:56:25.44 ID:ZSGJc1P50

モナー 喫茶店「バーボンハウス」/居住スペース一階
                        初日/22:41:19

71 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:00:58.17 ID:ZSGJc1P50
むくりとモナーが体を起こした。
辺りは不気味な静寂に包まれている。
モナーが懐中電灯を点け、渡辺の姿を確認する。
しかし探せど探せどクーとショボンの姿が見つからない。

「渡辺ちゃん、起きれるモナ?」

「ん〜、うん……」

渡辺が眠そうに目をこする。

「あの二人、どこにもいないんだモナ、
 だからちょっと家の中探してくるモナね?」

「わたしもいく」

寝ぼけ眼で渡辺が答えた。

「……大丈夫モナ?」

「……うん」

73 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:05:23.73 ID:ZSGJc1P50
結局家の中に彼らはいなかった。
勝手に探しまわるのは悪いとモナーは思いつつも、
バレたらバレたでなんとかなると楽観していた。


「外、出られるモナ?」

「うん」

未だ眠そうに渡辺が答える。
結局二人は見つからず、探しに行くことにした。
流石にここに渡辺を置いて行くわけにもいかない。

外は蒸し暑かった。
本当に、ここが異界であるのが不思議なくらい
普通の夏の夜だとモナーは感心した。
懐中電灯は一つしかなく、渡辺はモナーと手を繋いでいる。

74 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:09:25.72 ID:ZSGJc1P50

「モナー、く、わたな、ちゃん、どうし、の」

二人は暗闇から声をかけられた。
その声は、クーの声そのものだった。
しかし、何か違和感を含んでいた。

「クーさん、今までどこに―――っ!」

その姿は、今まで見てきた屍人と同じ姿だった。
何かが起こって、クーは屍人になったと瞬間的に理解できた。
ショボンの行方はわからないが、恐らくはとモナーは悲観的な考えを巡らす。

「くーさん……?」

渡辺が繋いだ手を離し、ふらふらとクーの元へと歩いていく。
モナーが慌ててその手を握り、抱き寄せる。

77 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:12:43.34 ID:ZSGJc1P50
「渡辺ちゃん、クーさんとショボンさんは、もう、いないんだ」

その言葉の意味を幼い渡辺が理解できる道理はない。
しかし、そのモナーの声の震えから、
クーとショボンの身に何かが起きたことは感じ取ったのであろう、
そのままクーの元へ行こうとはしなかった。

「どう、したの、わたな、ちゃん、こっち、へ」

おぼつかない足取りで二人へ近づく。

「渡辺ちゃん、走れるモナ?」

言葉はなく、ただ頷いた。

「また喫茶店に……いや、どこかに行くモナ」

喫茶店の鍵はかけられていた。
つまり、クーかショボンのどちらかが鍵を持っているということであり、
モナーはこの場を離れる決断をした。

80 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:16:38.86 ID:ZSGJc1P50

ギコ    美布村外れ
    第2日/00:00:00

81 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:20:52.47 ID:ZSGJc1P50
ギコは息を潜めていた。
場所を変え、他人の視界を盗み見、
化け物の位置を確認しては斬りを繰り返し、しぃの仇を探していた。

黙々とこなすその姿は修羅だった。


すっと近くの街灯の明かりが遮られた。
そこを通っていたのは、まさに彼が探していた、その人だった。

「……みつけた」

その時から武者震いが止まらなかった。
笑みが自然と零れ、汗をかいた手は刀を拒む。

逸る気持ちを抑え、出来る限りゆっくりと近寄る。
ぴったりと後ろに並び、一歩、二歩。
仇が一歩歩けば、その間にギコが二歩歩く。
ゆっくり、着実に、復讐は達成へと近づく。

83 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:25:10.68 ID:ZSGJc1P50

仇が二つ目の街灯を超えた時。
ギコと仇の距離が最も良く縮まった時、彼の緊張の糸もピークを迎えた。


「っ」


言葉は必要なかった。

必要なのは、刀の一振り。

ただ一閃。

互いに何も言わず、何も言えずに事は終わった。

その証拠に生首がごろりと転がる。


「は、はは、ははははっははははっはははははっははは!!!」

86 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:30:29.94 ID:ZSGJc1P50
「見てるか!!!しぃ!!!」

ギコが叫ぶ。

「やったぞ、お前の仇だ!!俺、やったよ!!!」

見えない誰かに叫ぶ。

「はは!ははははは!!ははっはははは!!!」

笑いはやがて、

「は!ぐは!ははっは!ぐわはははは!ははぐあはっはっは!!!」

狂ったものに変わっていき、

「―――――――――!!!!」

その声は、斬り伏せた仇と全く同じ笑い声になった。

89 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:35:27.34 ID:ZSGJc1P50

つー 美布村入り口付近 
      第2日/00:33:46

90 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:39:53.39 ID:ZSGJc1P50
つーの体力は限界だった。

涙は助けられたミルナのために枯れ果てた。
片腕を負傷した彼女を守る者ももういなくなった。
それ故、彼女は逃げることと隠れることに神経を使っていた。

決して、入り口から出ればこの異界から抜けられるとは彼女は思っていなかった。
しかしもうそこしか行くところはなかったのだ。
通りの家々は全て塞がれており、どこかで休憩していると
闇人に強襲されるため、常に緊張していなければならなかった。

迫りくる土砂の近くに車を見つけた。
近づくにつれて、車内が見えてきた。
そこには三人の男女が乗りこんでいる。
つーは何をしているのかしら、とあまり働いていない頭で思った。

92 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:43:45.47 ID:ZSGJc1P50
車から男二人が降りてくる。

「そこの人!大丈夫ですかお!」

「俺達、化け物じゃないです!人間です!」

ぼやけた顔に焦点が合ってくる。
確かにその二人は赤い涙は流していなかった。

つーの足から力が抜けていく。
彼らに発見されたことで、緊張の糸が切れたのだ。

地面に倒れる前に二人がつーの体を支える。
そして抱きかかえられたまま、車の中へと運ばれた。

94 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:47:39.14 ID:ZSGJc1P50

ショボン 美布村入り口付近
        第2日/00:44:44

96 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:51:53.69 ID:ZSGJc1P50
これまで多くの屍人を斃してきた。
バットで、時には拳銃で。
不思議と疲れを感じていなかった。

幾度となく傷を負ったが、時間がたてばいつの間にか治っていた。
これも赤い水が体内に入った、副作用というやつだろうか。

僕の脳裏には、いつまでも想い出が走馬灯のように繰り返されていた。
それでいて目の前の現実を受け止め、冷静に対処していた。

屍人は殺す。

それが今の僕の行動原理だった。
僕は多分、クーが好きだったんだろう。
だからクーを守りたかったし、クーに守られたかった。
今となってはそれももう叶わない。

だから屍人どもをぶち殺すんだ。

98 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 17:55:57.60 ID:ZSGJc1P50
それにしても、最近は普通の人が多い。
生存者がこんなにいたのかと少し驚いた。
通りを歩いても屍人は見当たらない。
ここが元の世界のように、正常な人間ばかりだ。

ひょっとすると僕はもう元の世界に戻れたのかもしれない。

もう屍人達は皆殺しにしたのかもしれない。

お婆さんとすれ違うとき、挨拶をされた。
喫茶店を初めて、―何年だっけ?― 年経つが、あんな人は見かけたことがない。
まあ ―何だっけ?― を訪れる客自体少ないから、
見たこともない人が数多くいる。

だから僕は特に気にすることもなく挨拶を返す。

―なんて言ったっけ?― 、と。

101 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 18:00:36.87 ID:ZSGJc1P50
入り口の向こうに久しぶりに「屍人」を見かけた。

ああ、そうだ、「屍人」はぶち殺さなきゃ。
忘れかけていた本来の目的を思い出した。

拳銃を構える。
今までは外れることを恐れて遠くからは撃たなかった。
しかしこうなってはそうも言ってられない。
僕には異常な集中力が身についていた。

引き金を引く、まさにその時。
僕を呼ぶ声が聞こえた。

そのせいで照準がずれ、屈託のない笑顔を浮かべる「屍人」の
脚に中り、殺すことは出来なかった。
しかしそんなことは、僕を呼んだ人を見るとどうでもよくなった。

103 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/28(日) 18:05:22.53 ID:ZSGJc1P50

彼女がもう一度口を開いた。


「――― ショボン」


あの人が、あの姿のまま、あの声で、僕の名前を呼んだ。


「ああ、そこにいたのか、クー ―――」



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