( ^ω^)七大不思議と「せいとかい」のようです

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:02:33.08 ID:SVwf1GJxO



 エクストが出連神社を訪ねてから数日が経った日。

 流石兄者は、神社へ呼び出された。

( ´_ゝ`)「……久しぶりだな」

 明かりは月光だけの、静かな夜。
 敷石の真ん中で、兄弟が対峙する。

(´<_` )「姉者は元気か?」

( ´_ゝ`)「死んだよ。この間、死体を谷に投げてきた」

(´<_` )「そうか、死んだか。
       ……ちゃんと妹者に償ったんだな」

 弟者が笑う。
 兄者は、この弟が家族の死を嘲笑しているのを見ても、何も感じなかった。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:05:23.70 ID:SVwf1GJxO

(´<_` )「じゃあ兄者。最後にお前も死ななきゃ駄目だよ」

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「――まさか、な」

 声を低くし、弟者はゆっくりと歩きだした。
 足先がくっつきそうなほど近くに来て、兄者を睨めつける。

(´<_` )「まさか、死にたくないなんて言わないよな」

 兄者は眉根を寄せた。

 死ぬのは。
 恐い。

( ´_ゝ`)「……死にたくない」

(´<_` )「ほう。そうか。死にたくない。ふうん」

(;´_ゝ`)「う、ぐっ!」

 弟者が、兄者を突き飛ばす。
 仰向けに倒れた兄者の胸元を、弟者の右足が踏みつけた。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:08:29.38 ID:SVwf1GJxO

 ――月明かりが照らした弟者の顔は、憎悪と嫌悪で醜く歪んでいた。

(´<_` )「死んで詫びるしかないだろうよ。兄者。ええ?
       姉者と父者を見習えよ。あいつらは責任とったろ。
       妹者をあんな可哀相な目に遭わせておいて、
       お前はよく平気な顔してられるもんだ」

(;´_ゝ`)「お、まえ、は……」

(´<_` )「あ?」

(;´_ゝ`)「お前、は、何で、生きてるんだ……?」

(´<_` )「……はあ?」

(;´_ゝ`)「父者と姉者は責任をとって死んだ……だから俺も死ねと言う……。
       じゃあ、お前も死ぬべきじゃないのか……お前だけ、生きてくつもりかよ……」

(´<_` )「……兄者さあ」

 深い深い溜め息。
 右足を胸から離し、今度は兄者の口へ足を振り下ろした。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:11:21.39 ID:SVwf1GJxO

(;´_ゝ`)「あぐっ……!」

(´<_` )「勘違いしてるぞ。
       妹者があんなことになったのは、
       父者と、母者と、姉者と兄者が悪いんだ。
       俺は何も悪くない。
       父者と母者が姉者と兄者を作ったせいで、
       俺と妹者まで酷い扱いを受けることになった。
       俺も被害者なんだよ。
       妹者に対してだけ詫びろなんて言ってない。
       俺に詫びるためにも、死ねっつってんだよ」

(;´_ゝ`)「っ……う……」


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:14:28.22 ID:SVwf1GJxO

 ――死ね

    死ね死ね死ね死ね死ね

 消えろ この世から
   俺の前から
             死ね死ね
      いなくなれ

  地獄で苦しんで、苦しんで、苦しんで

      死ねよ

    死なないなら

   俺の手で――



 溢れ出してくる、弟者の心の声。
 止むことなく流れ込む、どす黒い念。

 頭が割れそうで、胸が裂けそうで。

 弟者が足を退かした瞬間、兄者は頭を抱えて身悶えた。
 のたうって、声にもならぬ悲鳴をあげる。
 弟者の笑う声がした。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:17:45.15 ID:SVwf1GJxO

(´<_` )「言葉にするより、こっちの方が分かりやすいか。
       初めてサトリの力が役に立ったなあ、兄者。
       そんだけ苦しんでるなら、俺の恨みも分かるだろ」

(; _ゝ )「い、ぃぎっ、あっ、――ひっ……う、うああああ!!」

(´<_` )「なあ兄者、苦しいか?
       俺の心を読むのは苦しいか?」

 がくがく、何度も頷いて答える。
 やめてくれと言おうとするも、口を動かすだけに終わった。

(´<_` )「ほら、お願いしろよ。
       地面に頭こすりつけてさ」

 兄者の体を足で蹴り上げて俯せにさせ、頭を踏む。

(´<_` )「今まで、俺がお前らのためにどれだけ頭を下げてきたと思う?
       買い出しの度に土下座して回って、こんな風に蹴られて、馬鹿にされて、
       顔も体も泥だらけになってさあ!」

 より一層、弟者の心の憎悪が激しさを増す。
 兄者はもう、息をするだけで一杯一杯だった。
 汗と涙が地面へ滴る。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[あ、書き込めた] 投稿日:2010/11/03(水) 20:32:42.43 ID:SVwf1GJxO

(´<_`#)「土下座しろよ! 俺に!
       今までの俺の分!
       許してくださいって、生かしてくださいって!」

(; _ゝ )「あ、あう、あ……ああ……」

 両手をつく。
 歪な形の土下座をして、兄者は、


(; _ゝ )「お、とじゃ……ゆるし、うぐ、あ……く、ください……」


 ――それでいいんだよ、と。
 弟者は、薄暗い笑みを浮かべた。

(´<_` )「生かした方が苦しいんだろうな、お前は」

 弟者の心の声が消える。
 兄者や姉者に対して心を読ませない術を得ていた弟者にとって。
 目の前で不様に這いつくばる兄は、何も恐れることはない、ただの人間だった。

 自分が少し心の蓋を開ければ、そこから流れ込む念で兄者を苦しめられる。
 好きなときに好きなだけ責め嬲ることができるのだ。

 命をもって償わせる前に。
 生かして、もっともっと、地獄を味わわせてやる。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:47:44.27 ID:SVwf1GJxO

(´<_` )「ここの家……あまり使われてない離れがあるんだ」

(; _ゝ )「……あ……?」

(´<_` )「一番奥の部屋に置いてやるよ。
       神主様に頼んでおく」

(; _ゝ )「な、ん……で……」

(´<_` )「俺がお前を甚振りたくなったときのために決まってるだろ」





 ――兄弟のやりとりを。
 境内から、デレが涙を流しながら眺めていた。

ζ(;−; ζ「あ、ああ……」

 崩れていく。
 何もかも。
 楽しかった日々が。
 仲の良かった兄弟が。
 エクストとの関係が。
 自分の心が。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:50:47.55 ID:SVwf1GJxO




 崩れる。

 皆の、幸福へ続く橋が。

 崩れ落ちていく――





第六話:エクスト様 中編






47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[アドバイスありがとう] 投稿日:2010/11/03(水) 20:53:36.28 ID:SVwf1GJxO

<_フ− )フ「……ろーんどんぶりっじぃずふぉーりーんだーん……」

 教会。
 庭を眺めながら、エクストは口ずさむ。

<_フ− )フ「ふぉーりんだーん……」

 出連神社を出て以来、教会は締め切っている。
 時折訪ねてくる者はいるが、二言三言交わす程度で帰してしまう。
 相手がたとえ「人柱」に関わっていない人間でも、この町の住人だと思うと
 ざわざわと胸の内から何かが迫り上がってくるような感じがして、
 とても話していられるような心境ではなくなるのだ。

 誰もが、流石家の人間を認め、受け入れてくれさえすれば。
 あんなこと、起こりはしなかった。

<_フ− )フ



 ――自分が、何か行動していれば。
 あんなこと。



<_フ;−;)フ「……あああ……っ」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:56:42.00 ID:SVwf1GJxO


 嫌だ嫌だ嫌だ、ああ。
 体中を暴れ回る後悔が瞳へ涙を押し上げてくる。

 どうして何もしなかったんだ。
 どうして何も気付かなかったんだ。
 兄者も姉者も妹者も弟者もデレも。
 みんなみんな、救いが必要だったのに。

 嫌だ嫌だ。

 誰よりも、我が身を救ってほしいと思ってしまう自分が嫌だ。






55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 20:59:32.88 ID:SVwf1GJxO



 崩壊していくものに。
 とどめを差す日が来た。





 ある昼下がり。
 教会の扉を強く叩く者がいた。


    「エクソシスト様、いらっしゃいますか――」


 それは、町長、荒巻の声であった。




59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:02:10.90 ID:SVwf1GJxO



/ ,' 3「最近エクソシスト様の様子がおかしいと町の者達が不安になっておりましてな」

<_プ−゚)フ「……はあ」

 応接間で向かい合うように座る。
 エクストは荒巻から目をそらしながら、茶の入った湯飲みをテーブルに置いた。

/ ,' 3「なんでも、ひどく落ち込んでいらっしゃるとか。
    それを聞いては私も心配になります故、こうしてお邪魔させていただきました」

<_プ−゚)フ「……それは……!」

 それは、あんたたちが――

 責めようとする言葉は声にならず、握りしめた拳へ消えていった。
 荒巻はエクストを一瞥して、口を開いた。


/ ,' 3「エクソシスト様。早々に、『あのこと』を忘れてもらえませんか」


<_フ;゚−゚)フ「……は……?」


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:05:18.59 ID:SVwf1GJxO

/ ,' 3「エクソシスト様が誰にでも情けをかけなさる方なのは分かります。
    ですが、それにも見極めが必要」

<_フ;゚−゚)フ「み、見極め……?」

/ ,' 3「相手を選べということです。
    いつまでもあの一家のことを気に病み引きずっていてはなりません。
    取り返しのつかぬものを気にしていては、きりがありませぬ。
    さっさと忘れて、また以前のように私達と仲良くやっていただきたい」

<_フ; − )フ「……!!」

 がんがん、頭が痛む。
 煮え立つ怒りに目が眩み、上手く言葉が紡げない。
 お茶を一口飲んでも、落ち着きやしなかった。

<_フ; − )フ「……町長……」

/ ,' 3「……」

<_フ; − )フ「要するに、……口止めをしに来たんですか……」

 妹者が人柱になったことは、一部の者――それに関わった数人――しか知らない。

 荒巻は、エクストが塞ぎ込んでいると聞き、釘を刺しに来たのだ。
 「あのこと」を皆に触れ回ってはいけないと。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:08:19.31 ID:SVwf1GJxO

/ ,' 3「エクソシスト様は聡いから助かりますな。
    ――まあ、たとえ誰かに話したとしても、何の意味もないですがの。
    殆どの者は流石の末娘の存在すら知らぬ上、
    『あれ』は2ヶ月ほども前のこと。
    谷底は急流、証拠も残ってますまいて」

 にやりと笑う荒巻。
 その顔を見ていたら、殴ってしまいそうで。
 エクストは、ぎゅっと目を閉じ、問いかけた。

<_フ; − )フ「――あなたは……妹者や、あの子の家族に、申し訳ないとか、」

/ ,' 3「思いませんな」

 ふう、と溜め息をつき、荒巻は答える。

/ ,' 3「人の心を読むなど物の怪に変わりない。
    我々に恐怖と不安を与える輩。
    敵でしかないのです」

<_フ;゚−゚)フ「……心を読めるのは、兄者と姉者だけだ」

/ ,' 3「隠しているだけかもしれん。
    それに、その2人と血が繋がっている時点で同類ではありませんか」


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:11:53.86 ID:SVwf1GJxO

<_フ;゚−゚)フ「そんな馬鹿なこと……っ。
        第一、たとえ物の怪であろうと、ここじゃ珍しいもんでもないだろう!?」

/ ,' 3「たしかに、この町は昔から霊や妖怪と共存してまいりました。
    しかし害をなすものは例外なく排除されてきたのでございますよ」

<_フ;゚−゚)フ「彼らは無害じゃないか!
        ただ少し普通と違うだけの人間だ……!」

/ ,' 3「その『ただ少し』が大きな脅威となる。
    エクソシスト様だって、お嫌でしょう。
    自分の心を読まれる居心地の悪さ。秘密をひっそり知られる恐怖。
    見た目だけはただの人間であるのが余計に恐ろしい。
    嫌なものを出来るだけ遠ざけたいと思うのは当然のこと」

<_フ;゚−゚)フ「だって、だってしょうがないだろ!
        兄者も姉者も望んで心を読んでるんじゃない!」

/ ,' 3「こちらも仕様がないことです。
    あなたのような心清らかな人にだって知られたくない秘密はありましょう。
    私共普通の人間は、その何倍も醜く汚い秘密を抱えている」

 恐くて恐くて仕方ないのです、と。
 荒巻の表情が暗いものになる。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:15:23.32 ID:SVwf1GJxO

/ ,' 3「いつか、自分の秘密を使って脅迫でもされたら。
    誰かの前で暴かれたら。
    そう思うと、奴らを殺してしまいたくなって堪らなくなる」

<_フ;゚−゚)フ「……こ、ろす……?」

/ ,' 3「……」

 手を組み、荒巻はエクストを見据えた。
 ゆるりと口を開く。

/ ,' 3「人柱なんて建前……本当の目的は流石の始末。
    前々から、住人の中でも特に流石を嫌っている者達と話し合ってはいたのです。
    なるべく自らの手は汚さず、奴らを消す方法を」

<_フ;゚−゚)フ「……あんた、何言ってんだ……」

/ ,' 3「一番困ったのは末娘。
    あんな幼い娘に自殺をさせるのは難しい、直接手をかけなければならない。
    何か正当な理由が必要だった。そこで起きたのが、橋の崩落。
    ――人柱ということにしようと、ある者が提案した」

 気の弱いあの父親なら後を追うだろう。
 それから双子と長女を追い詰めればいい――

/ ,' 3「流石家を見張らせた者によれば、
    人柱から数日後、そして先日、長男が死体を谷へ投げ捨てていたらしい。
    その死体は父親と長女だったとか。
    これで残るは双子のみ……」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:18:22.91 ID:SVwf1GJxO

<_フ;゚−゚)フ「な、なん……なんだよ、何だよそれ……!
        元から全員殺すつもりだったのかよ!」

/ ,' 3「そうですとも。1人とて生かしやしない。
    双子の弟の方は、いやしくも出連神社の婿になりたいと言っていたが、
    いずれ婚礼前に事故ということで死んでもらうつもりですよ。
    兄の方は、……放っておいても弟が始末してくれそうですがね。
    神主様の話によれば、2週間程前、長男を神社の離れに置いたそうで」

 頭痛が激しさを増す。
 エクストは頭を抱え、すっかり俯いてしまった。

/ ,' 3「時折、弟が兄を痛めつけてやっているらしいですよ。
    まあ元凶ですからな、恨むのも当然かと。
    ――エクソシスト様。ほら、そうやってまた苦悩なさる。
    これ以上苦しむのはお止めなさい」

<_フ; − )フ「――悪魔だ」

/ ,' 3「……何?」


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:21:35.16 ID:SVwf1GJxO

<_フ; − )フ「あんたは、あんたらは悪魔だ。醜い化け物だ。
        兄者達の方がよっぽど優しくて人間らしい……」

/ ,' 3「……何とでも言いなさい。
    ――さて、私は帰ります」

 立ち上がり、荒巻は一言だけ残して帰っていった。

/ ,' 3「私共が悪魔だというのなら、あなたも悪魔になることです、エクソシスト様」





 エクストは腰を上げないまま、じっとしていた。

 ――悪魔。
 奴らは悪魔だ。
 利己的で、汚れきった悪魔。


 『あなたも悪魔になることです、エクソシスト様』


 誰がなるものか。
 あいつらと同類になど、決してならない。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:24:38.94 ID:SVwf1GJxO


<_プ−゚)フ「……ん」

 音が聞こえた。
 荒巻が戻ってきたのだろうか?

 応接間を出て聖堂へ行くと、同時に外へ続く扉が閉められた。
 その扉の前に立っているのは、

ζ(;、; ζ「エクスト様……!」

<_フ;゚−゚)フ「デレ!?」

 制服姿のデレ。
 風呂敷を抱えてエクストへ駆け寄る。
 エクストの前に立ち――力が抜けたように床に座り込んだ。
 デレは言う。

ζ(;、; ζ「エクスト様、エクスト様……助けて下さい……!」




83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:27:41.34 ID:SVwf1GJxO



 エクストはデレを聖堂の椅子に座らせ、話を聞くことにした。
 キャソックの袖で涙を拭ってやると、デレはますます泣いてしまった。

ζ(;、; ζ「私、私、エクスト様に嫌われてしまったのは分かってるんですけど、
      このことで他に頼れる人が誰もいないから、だから、来てしまいました。
      ごめんなさい……」

<_フ;゚ー゚)フ「嫌ってないよ」

ζ(;、; ζ「エクスト様お優しいから……」

<_フ;゚ー゚)フ「本当だって」

ζ(;、;*ζ「……本当ですか? 良かったあ……」

<_フ;゚ー゚)フ「で、何があったんだ?」

ζ(;、; ζ「……」

 ――私には無理だったんです、とデレは呟いた。

ζ(;、; ζ「私には、もう弟者君は救えないんです……。
      いつかきっとと思っても、日が進むにつれて弟者君は人の心を失っていく。
      もう……私が何を言っても、聞こうとしないんです」


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:30:17.75 ID:SVwf1GJxO

 約2週間前、弟者が兄者を呼び出したこと。
 兄者を離れに住まわせたこと。
 ほぼ毎日、弟者は兄者の元へ行って兄者を甚振っていること。

 泣きながらデレが話すことは、先程荒巻が言っていたのと大体同じものだった。
 エクストの頭が、また痛み始める。

ζ(;、; ζ「私がやめてほしいって言っても、弟者君は聞いてくれません。
      機嫌が悪いときには、私を叩いてでも離れに行くんです。
      ……弟者君、昔は凄く良い人だったのに。
      兄者君と仲がいい、普通の男の子だったのに!」

 デレが離れに行こうとすると、弟者は鬼のような形相で叱りつけるのだという。
 ――君は俺の妻になるんだ、もう他の男に関わるな――

ζ(;、; ζ「エクスト様が来てくださった日以来、
      弟者君は私が男の人と会うのを極端に嫌がるようになりました。
      外に出るな、学校に行くな、って。
      ……今日、弟者君に言われて、学校を退学してきました。
      きっと明日から、外に出られることはなくなります」


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:34:01.13 ID:SVwf1GJxO

<_フ;゚−゚)フ「い、いくら何でも、そんなに……」

ζ(;、; ζ「弟者君は全部投げうってしまったから、
      新しい居場所を作るのに必死なのかもしれません。
      だから私も精一杯応えなきゃいけないのに……。
      ……昨日、お父さんと弟者君が今後についてお話をしていました。
      その隙に、兄者君の所へ行ってみたんです」


 ――兄者は憔悴しきっていた。
 畳の上で横たわったまま、ぼうっと遠くを見ているような目をして。
 デレを見ても、へらりと笑うだけ。


ζ(;、; ζ「弟者君は、兄者君の心を読む力を利用して兄者君を虐めてるんです。
      暗い、巨大な恨みの声を聞かせて、直接兄者君の心を傷付けてるんです。
      ……このままじゃ、兄者君、壊れてしまうかも……いえ、
      もしかしたら、もう……」

<_フ;゚−゚)フ「……っ」


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:37:22.78 ID:SVwf1GJxO


 デレに弟者が救えるならと、自分はデレから離れた。

 なのに、それも無意味で。
 より一層、皆が苦しんで。



 ……きっと、弟者の心は、あの町長達――悪魔共に侵食されているのだ。
 悪魔が退治されない限り、この不幸は断ち切れない。



<_フ − )フ「……」

ζ(;、; ζ「エクスト様、私、もう恐いんです。
      どんどん壊れていって、でも何も出来なくて、ああっ、恐いんです!」

<_フ − )フ「デレ」

ζ(;、;*ζ「!」


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:40:14.52 ID:SVwf1GJxO

 デレを抱き寄せる。
 デレは一瞬身を竦ませたが、すぐにエクストの背に腕を回した。

 その華奢な腕は、愛しい者を抱きしめるというよりも。

 救いを求める者が縋っているようだった。



<_フ − )フ「待っててくれ。俺が助けるから」





 ――悪魔など。
 エクソシストが、祓ってやる。






101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:43:23.00 ID:SVwf1GJxO



 デレがエクストの元へ行っていた頃。

 出連神社の離れ、一番奥の部屋で、兄者が本を繰っていた。

( ´_ゝ`)「……流石、神社というか。変なもんばっかだな」

 そう呟く兄者が持つ本には、妙な図が細かく書き込まれている。
 彼はそれを興味深げに眺めていた。


 連日弟者に責め苛まれ、食事もまともなものは与えられず、
 寝るときには布団どころか布切れさえ貰えない。
 精神はもうぼろぼろで、生気が抜け切っているのも自覚していた。
 昨日珍しくデレが来たときには、挨拶するほどの余裕もなかった。

 だが昨夜、少し気力が出てきた頃に、そっと隣の部屋へ行ってみたところ、
 本がどっさり積まれているのを発見した。
 その内の、何冊かが紐で纏められて置かれているものを持ち出した。
 他の本はそのままなのに、それらだけは紐でぐるぐると縛られ、
 まるでまとめて封をされているようで気になったのだ。


102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:46:36.57 ID:SVwf1GJxO

 開いてみれば、どれもこれも、呪術だの何だのと怪しげなものばかり。
 だが、兄者は、ひどく心が惹かれてしょうがなかった。

 呪い。

 沸々と、町長達に対する復讐心が込み上げてくる。
 あいつらを殺せたら、どんなに心地良いだろう、と。
 その気持ちが、兄者の気力を呼び戻す。

 全員殺してやりたい。
 町の奴らを残らず。

( ´_ゝ`)「……エクスト様やデレさんはいいか」


      「――何をしてるんだ、兄者」


(;´_ゝ`)「あっ……!?」

 冷ややかな、聞き覚えのある声がしたと同時に、
 突然後ろから本を奪われた。


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:49:27.88 ID:SVwf1GJxO

(´<_` )「何だこれは」

(;´_ゝ`)「お、弟者……! 返せ!」

 本をぱらぱらとめくり、弟者が眉を寄せる。

(´<_` )「呪い? ……こんなもので俺を殺すつもりだったか、兄者」

(;´_ゝ`)「違う、そうじゃない!」

(´<_`#)「ふざけるな! 妹者だけでなく、俺まで殺すってのか!?」

(;´_ゝ`)「……!」

 本を放り投げ、弟者は兄者に掴み掛かった。
 首へ手を伸ばす――






108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:52:25.08 ID:SVwf1GJxO



 ――息を切らして離れを出ると、丁度デレが帰ってきたところだった。

ζ(゚、゚;ζ「……あ、お、弟者君……ただいま……」

( <_ ;)「あ? ……ああ。おかえり」

 ――弟者は、いつも通り兄者を痛めつけてやるつもりで離れに行った。
 だが、兄者が呪術の本を読んでいるのを知ったときに、兄者への殺意が限界を超えた。
 未だ反抗する気なのか、と。

 だから殺してしまった。
 首を絞めて、殺した。

 掌に感触が残っている。
 ごきり、と首の骨が鳴っていた。


( <_ ;)「……くそっ……!」


 死体は離れに置いてきたままだ。
 夜中にでもどうにかしなければ。


 ……処理の仕方など、一つしか浮かばなかった。


112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:55:35.83 ID:SVwf1GJxO



 翌朝。
 離れへ食事を持って行こうとしたところで、デレに呼び止められた。

ζ(゚、゚*ζ「……弟者君」

(´<_` )「ん?」

ζ(゚、゚*ζ「夜、どこかに行ってた?」

(´<_` )「……ちょっと散歩してきたんだ」

ζ(゚、゚*ζ「そう……」

 死体を谷へ捨ててきました、とは。
 言えるはずもなかった。



 離れの一番奥、誰もいない部屋へ食事を持って行く。
 兄者への飯など質素なものだ。もう朝食を済ませている腹でも楽に入る。
 さっさと食べ終え、頃合いを見計らって空の食器を持ち帰った。


116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 21:58:15.95 ID:SVwf1GJxO


(´<_` )「あ。デレさん」

ζ(゚、゚*ζ「なあに?」

 部屋に戻りデレに声をかけると、デレは体を固くさせて返事をした。
 怯えられてるなあと思いながら、デレの隣に腰掛ける。

(´<_` )「俺が夜中に出掛けたこと、内緒にしておいてくれる?」

ζ(゚、゚*ζ「うん……」

(´<_` )「ありがとう」

ζ(゚、゚*ζ「ど、どういたしまして……?」

(´<_` )「……デレさん、笑わなくなったね」

ζ(゚、゚*ζ「……そう?」

(´<_` )「ああ。――俺のせいだよな」

ζ(゚、゚*ζ「そんなこと、……」

(´<_` )「否定しなくていいよ。分かってるから」


117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:00:26.80 ID:SVwf1GJxO

ζ(゚、゚*ζ「……」

(´<_` )「俺、ちょっと今日は離れの方で過ごすよ」

 立ち上がる。
 障子を開け、振り返った。

(<_`  )「……教会に行った?」

ζ(゚、゚;ζ「……!」

 びくりと、デレは肩を跳ねさせる。
 言葉よりも余程分かりやすい答え。

(<_`  )「やっぱり。……あの人、何か言ってた?」

ζ(゚、゚;ζ「……な、何も……」

(<_`  )「……まあ、答えたくないならいいけど」

 彼が部屋を出ていくと、デレは胸を両手で押さえた。
 エクストに助けを求めたなどと弟者が知ったら、どう思うだろう。
 恐い――




119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:03:22.68 ID:SVwf1GJxO



(´<_` )「……」

 離れへ向かう。
 その顔は、険しい。










<_プ−゚)フ「悪魔祓い……」

 悪魔を祓うための方法を考える。
 考える、といっても、実のところ一つの方法しか頭にはなかったのだが。

 荒巻達を、

<_プ−゚)フ「……悪魔を、殺す……」

 必要なのは、勇気だけだ。



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:06:25.08 ID:SVwf1GJxO



 その日の夜。
 荒巻の家を訪ねる者がいた。

/ ,' 3「誰だ、こんな夜中に……。
    ……おやおや。どうしました?――」










ζ(゚、゚*ζ「……本当に?」

('、`*川「本当よぉ。発見したの、私のお父さんだったもの」

 次の日、朝早くから、デレの友人が出連神社へやって来た。
 鬱紫寺の娘で、ペニサスという名前の少女。
 デレと同い年の幼なじみ。


127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:09:36.93 ID:SVwf1GJxO

 彼女が言うには――荒巻が、亡くなったのだそうだ。

('、`*川「お父さんがね、町長さんと隣町に出掛ける用事があったから、
     町長さんを迎えに行ったの。
     でも呼んでも出てこなくてね、玄関の鍵が開いてたから中に入ってみたら……」

ζ(゚、゚*ζ「……亡くなってたの?」

('、`*川「そう。胸に包丁が刺さってたって。
     ほら、町長さん、奥さん亡くしてるし子供もいないし、今は一人暮らしだから、
     誰も気付く人がいなかったの。
     包丁ってことは殺人よねー。恐い恐い」

ζ(゚、゚*ζ「へえ……」

('、`*川「お葬式はどこでやるのかなあ……。うちだったら嫌だな、面倒臭い」

ζ(゚、゚*ζ「でもやっぱり鬱紫寺さんのところでやるんじゃない?
      町長と住職様、仲良かったし。
      ……そういえば、わざわざそれを教えてくれるためだけに来たの?」

('、`*川「ううん。これから私の家で色々会議するみたいでね。
     追い出されちゃったの。
     それにデレ、一昨日退学願出したでしょ?
     来週から学校で会えなくなると思うと寂しくて」

ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとう」


129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:12:06.32 ID:SVwf1GJxO

 部屋の外から、デレ、と父の声がした。

ζ(゚ー゚*ζ「はあい」

( ゚∋゚)「鬱紫寺さんに呼ばれたから、ちょっと行ってくる」

 母も一緒に行くから、弟者と共に留守番していてほしいという旨を告げられた。
 分かったとデレが返事をし、父が部屋の前を去る。

ζ(゚、゚*ζ(……そういえば弟者君は?)

 ふと、昨日の朝以降弟者を見ていないのに気付いた。
 離れの方で過ごす、とは言っていたが、まさか丸一日向こうに居たのだろうか。

ζ(゚、゚*ζ「……」

 そのとき、障子が開かれた。

(´<_` )「……やあ、鬱紫寺の」

('、`*川「ああ、おはよう」

(´<_` )「おはよう」

 今まさにデレの頭を占めようとした男が現れた。
 彼は障子に手をかけたまま、軽く挨拶をする。
 そして、ちらりとデレを見て、小首を傾げた。


132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:15:17.68 ID:SVwf1GJxO

(´<_` )「2人で遊ぶの?」

('、`*川「駄目?」

(´<_` )「構わないよ。あのさ、デレさん。
       朝飯、離れで食べるから、俺の分貰っていっていい?」

ζ(゚、゚*ζ「いいよ。……ちゃんと、兄者君の分も持っていってね」

(´<_` )「ああ」

('、`*川「あれ、朝ご飯まだだったの? デレも?」

ζ(゚ー゚*ζ「むしろこれから食べるくらいの時間だよ。
      ペニちゃん来るの早いんだもん」

('、`*川「あちゃー、ごめんね。
     いっつも早起きさせられてるから朝の時間の感覚がね、ずれてるの。
     ……って待って待って」

ζ(゚、゚*ζ「ん?」

('、`;川「何で流石さんがいるの!?」

(´<_` )「時間の感覚も会話の進度もずれてるな」


134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:18:40.44 ID:SVwf1GJxO

 ペニサスが、あんぐりと口を開けて、2人を交互に見遣る。

 弟者がデレの婿になることは、町長と出連神社の者、鬱紫寺の住職しか知らない。
 この様子だと、住職は娘に何も教えていないようだ。

ζ(゚、゚*ζ「ん、と。色々あって……」

(´<_` )「そうそう、色々。
       それじゃあごゆっくり」

 ぱしんと音を立てて障子が閉まる。
 離れていく足音を聞きながら、ペニサスは目を丸くさせていた。

('、`;川「ははあ……びっくりしたわぁ。神主様、流石さん嫌ってたんじゃなかった?」

ζ(゚、゚*ζ「……ちょっとね、事情があるの」

('、`*川「ふうん。まあいいけど……」

 ペニサスは流石家を嫌ってはいないが、
 かといってデレのように親しみを持っているわけではない。
 言ってしまえば、特別な思いがあるわけではないのだ。


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:21:52.76 ID:SVwf1GJxO

ζ(゚、゚*ζ(ペニちゃんは、人柱のこと全然知らないんだな……)

 人柱――

ζ(゚、゚*ζ(……あれ?)

 何かが引っ掛かる。

 昨朝から今まで弟者の姿を見ていない。
 夜、彼が何をしていたのか知らない。

 彼は――人柱を含めての仕打ちに、当然町長を恨んでいる。

ζ(゚、゚ ζ(……まさか、ね)





(´<_` )(……)

 朝食の膳を離れに運び、奥の部屋に入る。
 箸を持ってはみたものの。
 食欲は湧かなかった。

(´<_` )「気分はすっきりしてる筈なんだけど」

 何と言ったって。
 あの荒巻を、この手で殺してやったのだから。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:24:29.38 ID:SVwf1GJxO



<_プ−゚)フ「……どうも」

(‘_L’)「おはようございます、エクソシスト様。
      朝早くからすみません」

<_プ−゚)フ「住職様、おはようございます」

 鬱紫寺に呼び出されたので行ってみると、挨拶もそこそこに座敷へ通された。
 出連神社の神主とその妻、他に4人の男達が卓を囲んで座っている。

( ^Д^)「……けっ」

<_プ−゚)フ(プギャー……)

 入口側の端に座っているのはプギャー。
 ――エクストが荒巻の家を訪ねた日、橋の前で会った男。
 全員集まりましたね、と住職が言い、エクストに着席を促す。
 エクストはプギャーの向かいに座り、顔をそらした。

(‘_L’)「それでは皆々様と、話し合いたいことがあります――」


140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:27:23.46 ID:SVwf1GJxO

 まず、胸に包丁が刺さった状態で死んでいる荒巻を発見したことを、住職が説明した。

 皆がざわつき、驚きの声があちこちから漏れる。

<_フ;゚−゚)フ(……殺された……?)

 おかしなことに、エクストは真っ先に自分を疑った。
 荒巻を殺してやろうと、つい昨日考えていたからだ。
 しかし荒巻を殺した記憶など当然ながら無い。

(‘_L’)「私が話したいのは、その、町長を殺した犯人について」

 住職の言葉に、全員が顔を見合わせた。
 誰に疑われたでもないのに、自分は違うと口々に主張する。

(‘_L’)「それは勿論分かっています。
      ……町長を殺そうとする者なんて、決まっていることではありませんか」

 しばしの沈黙。
 それを破ったのは、神主だった。


142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:30:22.71 ID:SVwf1GJxO

( ゚∋゚)「――流石の奴ですね。双子のどちらか……あるいは両方」

(‘_L’)「そうです。これは絶好の機会なんですよ」

<_フ;゚−゚)フ「……え……?」

(‘_L’)「エクソシスト様、何を惚けていなさる。
      町長から全て聞いているでしょうに。
      ――流石の血を根絶やしにするため、我々は今、この機会を逃してはなりません」

<_フ;゚−゚)フ(……我々……?)

 まさか、とエクストは周りの面々を見渡した。

 ――『前々から、住人の中でも特に流石を嫌う者達と話し合ってはいたのです』――

 まさか、ここにいる全員、荒巻が言っていた人間なのか。

 全員が「悪魔」なのか。

(‘_L’)「十中八九、流石の兄か弟が町長を殺したに違いありません。
      いや、たとえ違っても、罪を着せてやるのです」

 それはいい――賛同の声が上がる。
 他にもいくつか罪を被せてやれと騒ぎ立てる者もいた。


145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:33:44.07 ID:SVwf1GJxO

(‘_L’)「先程、駐在さんには町長のことを話しておきましたが、
      本署への連絡は少し待ってもらいました。
      ……死体の発見者は駐在さんということにします。
      我々は適当に、流石に不利な情報をでっち上げればいいのですよ」

( ゚∋゚)「しかし流石が人柱のことを警察に喋ったら……」

(‘_L’)「証拠なんか一つもない。
      我々と人殺し、どちらが信用できるかは一目瞭然」

<_フ; − )フ「……!!」

 とうとう我慢できず、エクストは卓を叩いて立ち上がった。
 そんなエクストへ、皆が口を閉じて視線を向ける。

<_フ; − )フ「……今から隣町の警察へ行ってきます。
        あんたらがやろうとしてることも全部話してくる!」

( ゚∋゚)「ちょっとお待ちなさい。エクソシスト様、妙なことを仰る。
     あなたも流石の討伐に御協力してくださるでしょう」

 神主が引き止める。
 エクストの怒りは、ますます強まるばかりだ。


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:36:42.85 ID:SVwf1GJxO

<_フ#゚−゚)フ「誰がするものか! 変なことを言ってるのはそっちだろうが!」

( ゚∋゚)「まあまあ、あなたが流石の味方をするというなれば、
     それ相応の覚悟は必要ですよ」

<_フ#゚д゚)フ「覚悟って何だよ!?
        そんなもん知るか、俺は行く!」

 怒鳴りつけ、エクストは部屋を出た。
 駆け足気味に寺を出て、石段に差し掛かる。



( ^Д^)「――待てって、エクソシスト様よぉ」

<_フ#゚−゚)フ「……」

 石段を下りようとしたエクストへ、後方から声がかかった。
 プギャーだ。
 エクストを追うように言われたのだろう。

( ^Д^)「あんた、そのまま階段下りてったら、もう終いだぜ」

<_フ#゚−゚)フ「……っ、覚悟だの、おしまいだの、何だっていうんだよ!」

( ^Д^)「あんたから奪うんだよ、全部」

<_フ#゚−゚)フ「……!?」

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:39:56.40 ID:SVwf1GJxO

 ゆっくりと、プギャーはエクストとの距離を詰める。
 たじろぐエクストの肩を叩き、にやりと笑った。

( ^Д^)「あんたから神父という肩書を取り上げ、教会は別の奴に任せる。
      住み処も立場も何もかも奪って、
      ……町から出したら何するか分かんねえからな、
      口外しないようにどこかに閉じ込める」

<_フ;゚−゚)フ「……閉じ込めるって……?」

( ^Д^)「……そうだな」

 橋の下、とか。

<_フ;゚−゚)フ「――!」



 殺すというのか。
 兄者達を守ろうとしているだけなのに。
 殺される?





 悪魔。悪魔悪魔悪魔。


155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:42:40.12 ID:SVwf1GJxO

( ^Д^)「まあ、俺はそれでも全然構わねえけどな」

 プギャーが、エクストの肩に触れている手へ力をこめた。

 ――突き落とされる。

 そんな恐怖が沸き上がった瞬間、エクストは抵抗するために動いた。


<_フ;゚−゚)フ「やめっ……」

( ^Д^)「――え?」



 そのエクストの体に押され。
 プギャーの足は、石段から離れた。




159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:46:02.91 ID:SVwf1GJxO

 プギャーは何十段という硬い石の上をごろごろ転がっていき、
 一番下まで到達したときにようやく止まった。

 地面に横たわり、ぴくりとも動かないプギャーをしばらく眺め。
 エクストは、我に返る。

<_フ;゚−゚)フ「――! お、おい!?」

 石段を駆け降りてプギャーの元へ行く。
 肩に手をかけ――エクストは、ぎょっとして手を引っ込めた。

 俯せに倒れているプギャーの顔の下から、じわじわと血溜まりが広がっている。

(  Д )

<_フ;゚−゚)フ「……!」

 全身から感覚が無くなりそうな気がした。
 どこもかしこも冷え渡り、そのくせ頭だけは熱を持ったように痺れていく。

 ――殺した?
 人を、殺した――


165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:49:28.92 ID:SVwf1GJxO

<_フ; − )フ


 エクストにとっては、プギャーも荒巻と同じ「悪魔」で、
 祓うべき存在なのは違いなかった。

 それでも、やはり、「悪魔を殺してやった」と開き直れるほど、
 彼は非情になりきれなかった。

 優しくて――臆病だった。



 咄嗟に思ったのは、「一旦、死体をどうにかしなければ」ということ。
 彼の名誉のために言っておくと、決して罪を隠そうとしたわけではない。
 ただ、このまま他人に見付かり、警察を呼ばれるのが恐かった。

 そうすれば、それに乗じて住職達が兄者と弟者を罠に嵌めようとするであろうことが
 容易に想像出来たからだ。

 プギャーを仰向ける。
 ポケットからハンカチを出して、エクストはプギャーの顔の血をおざなりに拭った。
 それから彼を背負い、地面の血を踏みつけ、周りの土を上にかぶせる。

 そして、エクストは教会へ急いだ。


168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:52:24.58 ID:SVwf1GJxO

 道中で擦れ違った老婦に「エクソシスト様、どうしたの」と問い掛けられたが、
 「朝っぱらからプギャーが道端で酔い潰れてたから家に送っていく」と答えておいた。
 老婦は、それで納得したらしい。
 普段よりエクストは誰に対しても親切だったし、
 プギャーの酒好きは町でも有名だったため、信じてもらえたのだろう。

<_フ;゚ー゚)フ「……プギャーの奴に、
        みっともないから誰にも言わないでくれって頼まれててさ。
        これ、内緒にしておいてやってくれ」

 そう言うと、老婦は笑いを漏らしながら頷いた。
 ――プギャーの血がエクストの服に染みていく。
 だが、エクストが身に纏うキャソックが黒い故に気付かれずに済んだようだった。





 教会に辿り着いた。
 聖堂を抜けた奥の居住スペースの一室に、プギャーを横たわらせた。

<_フ;゚−゚)フ「……」

 荒い息を整え、考える。


170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:55:07.85 ID:SVwf1GJxO

 警察を呼ばれる前に、自分から、プギャーと荒巻を殺したと自首しに行こう。
 荒巻を殺した犯人は知らないが、まとめて引き受けないと、
 結局兄者達に疑いが掛かることになる。

<_フ;゚−゚)フ(……いや、待てよ)

 先にすることがある。
 兄者と弟者へ警告に行かなければならない。

 住職が、プギャーと自分がいなくなったことに気付けば、まず何をするか。
 まず間違いなく、この教会かプギャーの家に向かう。
 それで多少は時間を稼げる筈。

 とにかく、今がチャンスなのだ。



 神社へ向かって走り出す。

 まず兄者と弟者を神社から逃がして――

ζ(;、; ζ『エクスト様、エクスト様……助けて下さい……!』

<_フ;゚−゚)フ「……兄者達を、町から出そう」

 二度とデレに近付くなと、弟者に言ってやる。



173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 22:58:45.53 ID:SVwf1GJxO



('、`*川「あ、エクソシスト様じゃん。おはようございまーす」

ζ(゚、゚*ζ「エクスト様!?」

 出連神社。
 鳥居の向こう、賽銭箱の前にデレとペニサスが並んで立っているのが見えた。
 息を切らしているエクストに気付いた2人は目を丸くする。

<_フ;゚ー゚)フ「よお。……何してんだ、2人共」

('、`*川「町長の葬式、うちでやりませんようにってお願い。
     私も手伝わされるから面倒臭いの。
     あ、エクソシスト様知ってる? 町長が誰かに殺されてたの」

<_フ;゚ー゚)フ「ああ、さっき寺で聞いた」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、変でしょう、お寺の子が神社の神様にお願いするなんて」

ζ(゚д゚;ζ「って、いやいや、何しに来たんですかエクスト様!」

 エクストの前に走り寄り、デレは服の袖で彼の汗を拭った。

ζ(゚、゚;ζ「こんなに汗かいて、走ってきたんですか? あっ、お水飲みます?」

('、`*川「忙しいねー、デレ」

 あわあわと狼狽するデレに、ペニサスがころころと笑う。

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:01:22.61 ID:SVwf1GJxO

<_プー゚)フ「いや、気にしなくていい。……今、神社はデレ達以外に誰かいるか?」

ζ(゚、゚;ζ「お父さんとお母さんはお寺に。ここにいるのは私とペニちゃんと、
      ……兄者君と弟者君」

<_プー゚)フ「そうか。――兄者達に会いたい」

ζ(゚、゚;ζ「2人共、離れの一番奥にいるかと……」

<_プー゚)フ「上がっていいか?」

ζ(゚、゚;ζ「私は構いませんけど……でも、弟者君が許すかどうか」

<_プー゚)フ「上がるぞ」

ζ(゚、゚;ζ「あ、は、はい」

<_プー゚)フ「――3人だけで話したいから、出来れば離れに近付かないでほしい」

ζ(゚、゚;ζ「……分かりました」

('、`*川「何か修羅場?」




178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:04:23.76 ID:SVwf1GJxO

 上がり込み、長い廊下を進んで離れに行く。
 不躾なのは分かっているが、急がなければ間に合わなくなる。

 一番奥の部屋。
 躊躇なく、エクストは障子を開け放した。

<_プー゚)フ「……どっちだ?」

 部屋に居たのは、1人だけ。
 2人分の膳に手をつけることなく、本に目を落としていた。

(´<_` )「……どっちだと思う?」

<_プー゚)フ「もう1人はどこに行った」

(´<_` )「妹者と同じ場所」

<_プー゚)フ「……」

 その返答の意味を理解した瞬間、エクストは目の前の男を殴っていた。
 どくどくと心臓が激しく跳ねる。
 頭の中は、ほとんど真っ白だった。

<_プ−゚)フ「……殺したのかよ」

(´<_` )「そうしなきゃ、こっちがやられてたんだ」


181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:07:44.59 ID:SVwf1GJxO

 「殺した」。
 自分の言葉が、頭を一気に冷却した。

 ――さっき、自分も人を殺したのだ。

<_プ−゚)フ「……」

(´<_` )「――……」

 不意に。
 エクストの顔を見上げていた男は、泣きそうに顔を歪めた。

(´<_` )「……エクスト様……?」

<_プ−゚)フ「……」

 エクスト、様。
 その呼び方は。



<_プ−゚)フ「お前、兄者だな」




186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:10:35.28 ID:SVwf1GJxO



 あの日。

 弟者が激昂し、兄者の首に手をかけようとしたとき。
 弟者の中の殺意が兄者の心に流れ込んだ。

 このまま首を絞められ、殺される――

 ――死にたくない。


 だから殺してしまった。
 首を絞めて、殺した。

 兄者は弟者の手を躱し、
 逆に弟者の首を絞めたのだ。




187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:13:10.62 ID:SVwf1GJxO



 弟を殺してしまったショックにぼんやりしたまま母屋へ向かった兄者を、
 デレは弟者の名で呼んだ。

 そこで、兄者は自らと弟の顔がそっくりであるのを思い出し、
 咄嗟に弟者のふりをしようと考えた。

 自分が仕出かしたことを悔いるよりも先に、彼は、保身に走ったのである。

 何も我が身可愛さがためだけではない。
 兄者には、ただ生きること以外に、目的が出来ていた。

 復讐。






190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:17:31.92 ID:SVwf1GJxO





(;´_ゝ`)「……エクスト様、あんた、あんた、プギャーを……!?」

 エクストの頭に蘇った石段での記憶。
 それを読み取った兄者は、エクストに縋りついた。

(;´_ゝ`)「嘘だろう、なあ、エクスト様!」

<_プ−゚)フ「兄者……」

(;´_ゝ`)「俺は、あんたにだけは、その手を汚してほしくなかったんだよ!
       優しい優しい手であってほしかったから、だから!」


 涙が一筋、零れた。


( ;_ゝ`)「……だから、荒巻を殺したのに……」

<_フ;゚−゚)フ「――!」


191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:20:41.24 ID:SVwf1GJxO



 兄者がデレの前に弟者として現れたとき、彼女の心に、ちらりとエクストの存在があった。
 教会に行ったかと問えば、動揺したデレの心から
 一気にエクストとの会話の記憶が広がった。

 ――その記憶の中のエクストの様子を知り、兄者は焦りを感じた。


 エクストだって、この一件のせいで、まともな精神状態でいられない可能性が高い。
 それに、デレさえも犠牲になっているのだ。
 彼が荒巻達をまったく恨んでいないなんてことがあるか?

 デレに泣きつかれて、エクストが黙っているだろうか。
 もしエクストが思いつめてしまったら。
 荒巻に何かしてしまうかもしれない。



 そうなる前に、自分がやってやる。




194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:24:44.73 ID:SVwf1GJxO

 荒巻を殺す気は始めからあったが、こんなに早く実行するつもりはなかった。
 だが、エクストが早まる前に、自分がやらねばならなかった。

 そのとき、兄者の中では、荒巻への憎しみよりも
 エクストが誰かを手にかけてしまうのを恐れる気持ちの方が大きかったのだ。

 だから兄者は昨夜、荒巻の家を訪れた。

 弟者だと名乗れば、一応は出連家の婿になる予定であるためか、荒巻も迎え入れてくれた。
 適当な用事を見付けて家に上がり、油断しきっている荒巻を後ろから殴りつける。
 よろけた荒巻を床に転がし、離れから持ってきた、
 本を縛っていた紐を荒巻の手に巻き付けた。

 そして台所に行き、そこから包丁を持ち出して。




195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:27:38.48 ID:SVwf1GJxO



( ;_ゝ;)「――ああ、エクスト様、ごめんなさい、ごめん、あんたまで、
       あんたまで俺のせいで……」

<_フ;゚−゚)フ「……お前が、やったのか」

( ;_ゝ;)「何で、俺……俺、エクスト様のためにやったつもりだったのに、
       なのに何でだよ、何で、け、結局、エクスト様、
       エクスト様の手と心を汚すんだ……」

 ずるずると、床に伏せた。
 涙声で、兄者は叫ぶ。

( ;_ゝ;)「うあああああああああ!
       俺のせいで、みんなみんな!
       妹者も! 父者も、姉者も弟者もデレさんも! エクスト様も!
       みんな不幸になる、俺のせいで!
       サトリなんかじゃない、俺なんか、俺なんか、ただの疫病神だ!!」

<_フ;゚−゚)フ「兄者! 違う、お前のせいじゃ……」

( ;_ゝ;)「違うものか! ……違うものか……」

 ――しばし、兄者の啜り泣く声だけが部屋を満たした。
 何を言えばいいのか。
 何をするべきなのか、分からない。
 エクストはただただ立ち尽くしていた。

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:30:27.51 ID:SVwf1GJxO

 どれほど経ったか。
 過ぎた時間はせいぜい10分かそこらなのだが、エクストには何時間にも思えた。

 兄者が、顔を上げる。

( ∩_ゝ`)「……」

 目元を拭い、エクストを見上げ。

( ´_ゝ`)「――後悔と反省は、後だ」

 ゆっくりと立ち上がった。

 無表情で、しかし瞳だけは明確な意志に燃えていて。
 エクストは、思わず怯んでしまった。

( ´_ゝ`)「エクスト様は、もう何もしなくていいよ。
       おとなしくしていてほしい」

<_フ;゚−゚)フ「……おい、兄者……?」

( ´_ゝ`)「全部俺が悪い。
       だから全部俺が終わらせる。
       復讐も何もかも俺がやるから」


200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:33:33.50 ID:SVwf1GJxO

 本を一冊拾い上げ、兄者はそれを開いた。
 随分古ぼけた本だ。

 いくつかのページをじっくりと読み込み、本を閉じる。
 そして、ぽん、と放り投げた。

( ´_ゝ`)「時間がないんだろう。さっさとやるぞ。
       エクスト様、一度教会に行かせてくれ」

<_フ;゚−゚)フ「兄者、何を……」

( ´_ゝ`)「プギャーの死体は俺が持って行く。
       荒巻を殺したのは俺。プギャーも俺がやったことにしてくれないか」

 エクストの隣を抜けて、兄者が部屋を出る。
 エクストは慌ててそれを追った。

<_フ;゚−゚)フ「なあ、ちょっと――」

( ´_ゝ`)「エクスト様。
       俺は今から、奴らに呪いをかける」

 あっさり言ってのけた、その内容に、エクストは耳を疑った。


201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:36:56.95 ID:SVwf1GJxO

<_フ;゚−゚)フ「呪い?」

( ´_ゝ`)「成功するかどうかは一か八かだけどな。
       神主様、坊様、それと人柱に関わったプギャーと荒巻を除いた残りの3人。
       あいつらを呪う」

 ――離れで見付けた本の中から、今からでも出来る呪術を兄者は試すつもりだった。
 その呪いに必要なのは、術者本人の命。

( ´_ゝ`)「本当は町の人間みんなを呪いたかったけど、それは時間がかかるから。
       ……言っとくけど、本気だからな」

 出連神社を出る。
 通りすがる人々は、エクストと兄者が並んで歩いているのを訝しげに眺めた。

( ´_ゝ`)「外に出る奴が増えてきたな……昼になったらもっと増えるか。
       さっさと終わらせないと」

<_フ;゚−゚)フ「呪いなんて、そんな馬鹿な……」

( ´_ゝ`)「馬鹿馬鹿しいのは分かってるけどな、俺にはそれしかない。
       ――エクスト様、寺に行ってくれ」


205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:40:42.57 ID:SVwf1GJxO

<_フ;゚−゚)フ「……寺?」

( ´_ゝ`)「急いで。それで、坊様達には、
       俺と弟者が荒巻を殺したことをエクスト様に告白したと伝えてくれ。
       『復讐は果たしたから、もう未練はない』と言って
       渓谷に身を投げに行ったとも。
       ああ、プギャーも道連れにするってのもな。
       警察を呼ばれると厄介だ、早く行ってくれ」

 エクストは――もう、口を開けなかった。

 兄者の表情はひどく真剣で、何を言っても無駄だと悟ったからだ。
 邪魔など出来よう筈もない。

 気付けば、エクストは踵を返し、鬱紫寺へ向かって走り出していた。
 縺れそうになる足を、止められなかった。


206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:44:06.43 ID:SVwf1GJxO



(;´_ゝ`)「……おお、いたいた」

 肩で息をしながら、兄者は教会へ飛び込んだ。
 エクストから読み取った記憶を頼りに、聖堂の奥へ行く。
 部屋をいくつか見て回り、ようやくプギャーを見付けた。
 ぐったりしている体を抱え起こし、なんとか背負い込む。

 弟者に受けた仕打ちにより、兄者の体力は殆ど残っていない。
 それでもプギャーを背負ったまま歩けるのは、やはり、兄者の中の、
 ある種の使命感に似たものがそうさせているのだろう。
 これを成し遂げなければ、本当に全てが終わってしまうという危機感もある。

 聖堂を抜けようとして、兄者は、ふと振り返った。
 逡巡し、奥に進む。
 庭に出て、一面に咲く花や緑草を眺めた。


207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/03(水) 23:47:49.93 ID:SVwf1GJxO

 他の植物から離れた一画に、風に揺れる草がある。

 兄者は、小さく笑った。

 あれが、エクストが育てているという葱だろう。
 綺麗な花で整えられた庭に、野菜が一つ。何と不釣り合いなことか。
 格好がつかない癖に――それでも、ひどく優しさに満ちている庭。
 何とは無しに、エクストに似ていると思った。

( ´_ゝ`)「きっと、この世で一番美味い葱なんだろうな」

 しかし、それを口にすることは叶わない。
 ほんの僅かな未練が胸を刺したが、振り切るように兄者は教会を後にした。




212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[ごめんさるった] 投稿日:2010/11/04(木) 00:00:09.97 ID:CzZMjS5KO



 鬱紫寺には、まだ全員残っていた。
 これから駐在へ連絡を入れるところだったらしい。
 プギャーが戻らないことには、あまり頓着しなかったようだ。

(‘_L’)「おや、エクソシスト様。後で教会に行こうと思っていたところです。
      プギャーさんはどうしました?」

<_フ;゚−゚)フ「……石段で呼び止められ、言い争いになって、」

 ……それから。

<_フ; − )フ「……互いに気分を悪くしたので、その場で別れました」

 エクストの嘘に、誰も気付かない。
 というよりも、エクストが嘘をつくなど、誰も考えていないのだ。

 エクストは、しばし沈黙して、再度口を開いた。

<_プ−゚)フ「それで……私が教会へ帰ってから間もなくして、
       兄者と弟者が来て――」


214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/04(木) 00:03:21.69 ID:CzZMjS5KO

 訥訥と、兄者に指示された通りのことを話す。

( ゚∋゚)「――ほう、告白?」

<_プ−゚)フ「町長を殺したのは自分達だと」

 場が騒然となる。
 やはり奴らの仕業か、という声がした。

(‘_L’)「その2人は、今どこに?」

<_プ−゚)フ「……」

 俯く。
 震える唇で、エクストは告げた。

<_フ − )フ「復讐を果たした、もう未練はないから、と。
        ……渓谷へ、身を投げに行きました。
        そ、それと……プギャーを道連れにする、って」

(‘_L’)「……そうですか」

( ゚∋゚)「住職様、どうします」


216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/04(木) 00:08:05.83 ID:CzZMjS5KO

(‘_L’)「計画は中止です。現状で警察を呼べば少々面倒臭いことになる。
      町長は、病死ということにでもしますか。
      この際、プギャーさんには犠牲になってもらうしかありませんね」

( ゚∋゚)「あの男、酒好きの米食い虫な上、野蛮に過ぎる。
     道連れとは、なかなか都合が良いではないですか」

(‘_L’)「神主様、その言い方は……」

 高らかに笑う神主。それを宥めはするも、住職の顔にも笑みが浮かんでいる。
 震えが止まらない唇を、エクストは噛み締めた。










 兄者は、あることに気付いた。
 プギャーの体温が下がらない。
 そして――か細いが、耳元に息遣いが伝わってくる。

 生きている。


219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/04(木) 00:11:26.30 ID:CzZMjS5KO

( ´_ゝ`)「……ははは。やったぞエクスト様。
       あんたは人を殺してない。殺してないんだ」

 良かった。本当に、良かった。
 それでいい。
 人の命を奪うのは、自分だけでいい。

 橋に着く。
 まだ昼には早いし、元々、隣町へ行く者だって日に数人程度。
 そうそう人は来ない。

 早く、終わらせよう。

( ´_ゝ`)「生け贄が2人もいるんだ、頼むぜ」


 ――人の命を多く吸った場所には、大小の差はあれ、霊界が出来上がる。
   そこに霊魂が誘われ、霊気はさらに高まっていく。

   その中に一つ、巨大な念の篭った魂が入ると、その念に周りの魂も吸い寄せられ、
   念は徐々に肥大化していき、より強いものとなる――


 本の内容を思い返す。
 つまり、その「霊界」に怨みを背負った身と魂を捧げれば、
 他の死霊を取り込んで、強大な力を持つ呪いが完成するのだ。


221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/04(木) 00:13:54.79 ID:CzZMjS5KO

 プギャーを降ろし、渓谷へ落とした。
 明るいのに、谷の底は目をこらさなければ満足に見ることも出来ない程に暗い。

 落ちれば、地獄に続いていそうな気さえしてくる。

( ´_ゝ`)「さあて、行くか」


 あれほど死ぬのが恐かったのに、今は、早く飛び降りてやりたくてたまらない。
 きっと、このときのために生きてきたのだ。
 自分の片割れである弟者でさえも犠牲にして。
 奴らを呪ってやるため、この命を守ってきたのだ。





 そうして踏み出した兄者の顔は、安らかであった。





第六話:続く






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