- 142 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:36:55 ID:.askSzBsO
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第三章
「 若さゆえの過ち 」
−1−
特急列車『あさやけ』は寝台車があるため、運行当初は注目を集めた。
ふつうの特急に二両だけ寝台車を導入することで、その意外性を突いたのだ。
客車が十一両で、自由席が五両、指定席が三両、グリーン席が一両、寝台車が二両だ。
食堂に充てる車両を寝台車にしたがために、食堂車は用意できなかったのだと聞く。
だからか、車内販売が充実なされてあった。
ショボーンと若手も、その車内販売の弁当を食っていた。
(´・ω・`)「むしゃむしゃ、誘拐犯はむしゃむしゃ、いつむしゃむしゃ」
( <●><●>)「食うかしゃべるか、どちらかにしてください」
(´・ω・`)「むしゃむしゃ」
( <●><●>)「食うほう選んじゃった」
.
- 143 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:38:55 ID:.askSzBsO
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ふつうに駅弁を買うよりも、どこか旨く感じられた。
オオカミ鉄道の奇策のなかに、「他社よりも旨い弁当を」が有るのかもしれない。
最近、ニュー速鉄道の台頭で、オオカミ鉄道の需要が減少してきつつあったのだが
オオカミ鉄道は、数々の奇策を用いることにより、それを乗り越えてきた。
一時期、オオカミ鉄道買収の噂もたったくらいだが、大神フォックス総裁はそれを否定していた。
実際、今もこうしてオオカミ鉄道として運営なされている。
ショボーンも、昔からオオカミ鉄道を利用しているのだ。
ショボーンは、オオカミ鉄道が好きだった。
(´・ω・`)「ぷぅ。鮭が旨かった」
( <●><●>)「さて、次がラルトロス駅ですよ」
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- 145 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:44:03 ID:.askSzBsO
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ショボーンはあれから、駅に停まるたびに身代金をチェックしたのだが、今の所はまだとられてなかった。
寝台車の二両から降りようとする人も未だ現れておらず、
ショボーンは、誘拐犯がいつ来るかわからない緊張と
結局なにも起こらない退屈に挟まれ、もやもやしていた。
そして、ラルトロス駅手前のアルガマールド駅を発った。
やはり、未だに誘拐犯は動きを見せていない。
もしかしたらもう逃げ出しているかもしれないが、それはそれでまずい。
伊達の孫を殺されては、元も子もないのだ。
ショボーンは、それを肝に銘じて動いてきた。
ラルトロス駅は、ショボーンが睨んでいるゴドーム駅の手前だから、
ここぞとばかりに裏をかいた誘拐犯が、こっそり金を持ち去るかもしれない。
そう思っていると、気がつけば、あきらかに今までとは違う緊張がショボーンと若手を操っていた。
.
- 146 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:46:17 ID:.askSzBsO
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(´・ω・`)「今のところ、怪しい奴はまだ見つかってないな」
と言うと、若手が付け加えて
( <●><●>)「今までの駅にもボストンバッグを持った人はいないそうですしね。
まだ、相手は動かないつもりでしょう」
(´・ω・`)「だからこそ、いつ来るかがわからないんだよ。気を引き締めろ」
( <●><●>)「もとより了解しテオります」
若手の声がひっくり返った。
これは、彼が少なからず動揺している時に見られるものだ。
真剣な顔で眉間にしわを寄せているのに、
声が情けなく変わるものだから、そこに若さを感じさせる。
(´・ω・`)「やれやれ」
ショボーンは顔を歪めるも、微笑んだ。
自分も若い頃は、彼のように常に緊張していた記憶があるからだ。
若い頃の自分とよく似ている、と、ショボーンは思った。
.
- 147 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:49:17 ID:.askSzBsO
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だからこそ、自身のやる気の空回りが引き起こす
どうしようもないミスが若手を襲うのが、ショボーンは怖かった。
それが一番、当人の気力を根こそぎ奪い取るからだ。
ショボーンにも覚えがあった。
しかし、若手に渇を入れようにも、ショボーンも、元々このような性格のため、がつんと言うのが苦手なのだ。
緊迫した空気でない限り、ショボーンは怒れなかった。
(´・ω・`)「(無茶に渇を入れるよりかは、鼓舞するほうがいいのかな)」
( <●><●>)「警部は、犯人が潜んでいる大凡の検討はついているのですか?」
(´・ω・`)「寝台車を指定した以上、向こうも寝台車の席をとっていると思うんだけどなあ。逆に怪しいよ」
( <●><●>)「怪しい?」
若手が復唱して尋ねた。
「ああ」と言い、ショボーンは声をこもらせた。
.
- 149 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:53:09 ID:.askSzBsO
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(´・ω・`)「寝台車の二つにはデッキがない。そして寝台車を出入りする人間は、必ず車両を移動しなければならない。
. ましてこの列車だと、降りるのに向かう行く先はここ、八号車しかない。
. だから、僕らがこうして待ち伏せていれば、向こうは閉じこめられたも同然となるんだ。
. 向こうさんも、それくらいは予測していたはずなのに――」
と彼の見解を言いかけたのを、ショボーンははッとして口をふさいだ。
(´・ω・`)「そうなんだ。これは罠かもしれないんだよ」
( <●><●>)「罠?」
若手がまた同様に尋ねると、ショボーンは、明らかに先程よりもちいさな声で、身を屈めて言った。
(´・ω・`)「向こうが複数人でいることは間違いない。
. だから、一人回収役が寝台車に潜み、別の人間が僕らを監視しているかもしれないぞ」
( <●><●>)「あり得ない話ではないですね。
向こうも、警察がずこずこ引き下がるわけがない、とわかっているでしょうから」
.
- 150 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:54:55 ID:.askSzBsO
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(´・ω・`)「もしかしたら、誰かが陽動作戦にでるかもしれない」
( <●><●>)「陽動、と言いますと?」
(´・ω・`)「たとえば、誰かを見せしめに殺してみたり、とか。
. 僕たちは警察である以上、殺人が起これば否応なく対応せざるを得ないからね。
. まあ、その犯人を捕まえれば、誘拐犯について吐かせることもできるけど」
ショボーンは、自身が思いつく推測を挙げていった。
その起こり得る事態のパターンを、若手は次々と頭にたたき込んでいった。
.
- 151 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 18:59:17 ID:.askSzBsO
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(´・ω・`)「ちょっと、八号車の人間を見廻ってくる」
( <●><●>)「ここですか?」
(´・ω・`)「念のためさ」
と言って、ショボーンは一旦その場を離れ、八号車の先頭に向かい、歩いていった。
若い女子のグループがおしゃべりに夢中になっていたり
子連れの夫婦が、車内販売の弁当に舌鼓をうっていたり
シベリアの景色を次々とレンズに収める、初老の男性も。
誰が怪しいと問われれば、皆怪しく見えてしまうのだ。
一人で読書をする男もいるが、一人だからと言って怪しいと言ってはいけないのはわかっていた。
八号車からデッキに出た、と見せかけて、ショボーンは顔を覗かせ、八号車の様子を窺った。
一瞬、最前列に座る女と目があったが、女はショボーンの恰好を
ちらっと見たきり、視線を手元のスマートフォンに戻していた。
彼女だって、もしかしたら、スマートフォンで仲間に合図を送っているのかもしれない。
どんな人物であれど、赤の他人であれば、いくらでも疑うことはできるのだ。
しかし、挙動不審だったり、明らかにおかしく思える者は見あたらなかった。
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- 152 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:03:16 ID:.askSzBsO
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ショボーンは再び八号車内に足を踏み入れ、ゆっくり歩き、
やはり乗客を一人一人チェックしながら、若手のもとに戻った。
「どうでしたか」と聞かれたが、ショボーンはなんとも答えることができなかった。
ショボーンが窓の外を見ると、プラットホームが向こうのほうに見えた。
列車も減速しており、もう停まるのかと、ちいさく呟いた。
視線は、九号車に釘付けとなっている。
ここで誘拐犯がボストンバッグをもって出てこれば、これ以上楽な話はないのだが
さすがにそれが起こり得るわけがないだろうと、ショボーンはわかっている。
十二両編成の『あさやけ4号』が、ぴったりプラットホームに納まった。
乗降口が開き、何人かが降り、何人かが入ってきたが、九号車での乗客の出入りはなかった。
ショボーンはじっと待ち、停車時間の間、ずっと気を緩ませなかった。
が、結局、誘拐犯はまたしても動かなかった。
「おかしいな」と思い、九号車のB−8下段のベッドを覗くが、やはりバッグが運ばれた形跡はない。
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- 153 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:07:37 ID:.askSzBsO
-
( <●><●>)「まだ、なのですかね」
と若手がぼやいたのを
(´・ω・`)「言ったろ、これは根気との戦いなんだ。
. 向こうはこっちの集中力が欠ける頃に攻めるつもりだろうよ。少しは、我慢しろ」
と、やや厳しめに叱った。
他の警部なら更に厳しいだろうが、それはショボーンの性分じゃなかった。
いつになくまじめだなと若手は思ったが、ショボーンの度を超えた
仕事熱心な姿は、刑事の間でも有名だったことを思い出した。
(´・ω・`)「一度、九号車に入ろうかと思うんだけど」
( <●><●>)「え、いいのですか?」
若手が意外そうな顔をして訊いた。
ショボーンの当初の計画と食い違っていたからだ。
(´・ω・`)「向こうは、こちらの想像しない方法で運ぶんじゃないか、って思ってきて。
. もしそうだとしたら、実際に中に入るよりほかにしかたがない」
( <●><●>)「でも、人質は大丈夫ですかね」
(´・ω・`)「そのことだけど、さっきのラルトロス駅のホームの出入り口、見たか?」
.
- 154 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:10:55 ID:.askSzBsO
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若手は九号車のみを見張っていたので、ホームのほうは見ていなかった。
「どうしたのですか」と先を促すと、ショボーンは頭を掻いた。
(´・ω・`)「数人の警官が堂々と仁王立ちしてさ。
. あれじゃあ、誘拐犯も感づいたに違いないよ、きっと」
( <●><●>)「大丈夫でしょう」
(´・ω・`)「いや、そうとも限らないよ。実際に、そこで警官が降りてくる客の荷物を検査してたんだ。
. 指示が行き届いてないな、あれは」
と不機嫌な顔をして、ショボーンは言った。
人海戦術を執る際に似通った部分が出てくるが、やはり、大量の人を遣う場合、自然と指示漏れが出てくるものだ。
九割の人間は指示通りに動くが、残りの一割には指示が行き届いておらず、誤った動きをしていることも多い。
頭になる人間が手足に指令を下すも、そのようにして、別行動にでる者が現れるのは致し方のないことだ。
しかし、警察では、それで済ませてはならないのだ。
警察という組織にいる以上は、上からの命令は絶対である。
指示漏れがあるということは、まず、ない。
指示を勝手に履き違えたか、もしくは聞いてなかったのか。
それはわからないが、ショボーンはそれを思うと、腹立たしくて仕方がなかったのだ。
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- 155 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:14:10 ID:.askSzBsO
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九号車への扉を開き、ショボーンと若手は九号車に入った。
やはり寝台車だけあって、全ての席のカーテンが閉じられている。
ルグロラージ駅発車当初はそうでもなかったのだが、やはり時間が経つにつれ
乗客も、皆がカーテンを閉じ、くつろぎはじめたのだろう。
ショボーンはしめたと思い、跫音を忍ばせて、問題のB−8に向かった。
多少は跫音が車両内に反響するが、乗客に言わせれば、車掌がきたのか、と思う程度だろう。
ショボーンがカーテンに手をかけたとき、自分が、少し気分が昂揚しているのを実感した。
(´・ω・`)「(まさか金は奪われたあとかもしれないな。
. もしくは、誘拐犯が潜んでいるかもしれない)」
と思ったからである。
ほぼずっと見張っていたため、そんなはずはないと思っていても、やはり緊張してしまう。
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- 156 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:16:46 ID:.askSzBsO
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決心してカーテンを勢いよく開き、刹那、ショボーンは身構えたが、結果、それは杞憂だった。
ボストンバッグが四つ、ちゃんとベッドの上に載っかっていた。
ショボーンは、胸をなで下ろした。
( <●><●>)「まだ、のようですね」
(´・ω・`)「ああ」
二人は、小声で、乗客にはただの囁き声にしか聞こえないように話した。
もし九号車に誘拐犯がいるなら、自然とショボーンの声も知っているということに繋がる。
聞かれるわけには、いかなかったのだ。
(´・ω・`)「ワカッテマス、ふと思ったんだが、ここに僕かあんたかが潜むとおもしろいかもしれないな」
( <●><●>)「え、やだですよ私」
(;´・ω・`)「こンにゃろ……あくまで僕は上司だぞ」
ショボーンは、おおきな声で言おうとしたが、咄嗟にショボーンは声を抑えた。
今の発言は軽い冗談のつもりだったらしく、若手が口に手を当て、微笑した。
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- 157 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:19:51 ID:.askSzBsO
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若手は優秀だが、叩き上げの人材ではなく、天才型だった。
天才すぎる分、常識には疎いのだ。
若手は、ショボーン以外にも東風や伊藤と組んだりもしてきた。
時には、検察の人間と組んでいる、という噂も聞く。
しかし、ショボーンは、そのなかでも特色すぎたのだ。
若手はショボーンの背中を見て、刑事を勤めてきている。
だから、彼の毒舌で厭な性格をすっかり引き継いだのかもしれない、ショボーンはそう考えていた。
( <●><●>)「私が潜むにしては、少々狭いんです、ここ」
(´・ω・`)「ん?」
若手がそう言うと、ショボーンも不審気に屈んでベッドを見た。
ボストンバッグが並んでいるが、その上の潜り込めそうなスペースはやや狭い。
身体のおおきな若手には、無理そうな仕事だった。
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- 158 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:21:20 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「なるほどな」
( <●><●>)「警部自身が潜むのは無理なのですか?」
(´・ω・`)「残念だが、僕が入るのにも狭そうだよ」
と言ったが、それは嘘だった。
ショボーンは、若手に外を委せるのを、半ば頼りなく思っていたのだ。
こいつに委せると犯人を逃がすかもしれないと、若手の腕をやや信頼していなかった。
だからショボーンは、自分が中に潜むのを拒んだ。
若手は「そうですか」と呟いたきり、深くは聞いてこなかった。
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- 159 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:29:49 ID:.askSzBsO
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−2−
ショボーンは、そこで数分待ってみた。
もしかしたら誘拐犯が動くかもしれない、と思ったからである。
しかし、というより当然といえば当然なのだが、誘拐犯は現れなかった。
ここ九号車に誰かがいる、と跫音でわかってるからである。
扉が開閉する音も、聞き逃してないだろう。
(´・ω・`)「十号車も見ておきたいね」
( <●><●>)「わかりました。私はここで引き続き見張っておきます」
(´・ω・`)「とちるなよ」
ショボーンはややきつめに言って、十号車に向かった。
今度は跫音を忍ばせはせず、堂々と跫音をたてて歩いていった。
もしかしたら、向こうが、九号車から人はいなくなったと勘違いして、出てくるかもしれないと思ったからだ。
それは、九号車に誘拐犯がいる、という前提ではあるが。
それよりも、やはり、ショボーンは若手にあの場を委せるのが少々不安だった。
が、いくらなんでも、あの場面では若手が失敗する要素もないと考え、ショボーンは委せた。
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- 160 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:33:07 ID:.askSzBsO
-
扉を、やはり大袈裟な音を出して開き、十号車に入っていった。
カーテンはところどころ閉じられているものの、二カ所だけ開いてあった。
ショボーンもすぐそれに気づき、そこに近づいた。
左列で、前から三列目の上下なので、A−5、6と判った。
どちらからも、大きな旅行かばんが見える。
二人はベッドから通路に顔だけを出し、向かい合うようにして話し合っていた。
上段にいる方の女性がいち早くショボーンの存在に気づき、
下段にいる方の女性に、小声でそれを知らせた。
(´・ω・`)「はは、お話を邪魔してごめんなさいね」
向こうは、若かった。
女子高生くらいだろう。
向こうが警戒しているように見えたので、宥めるべく、フレンドリーな言いぐさでそう話しかけた。
二人の女が一斉に振り向いたが、ショボーンも、二人の女も、互いに一瞬固まった。
.
- 161 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:35:38 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)
(゚、゚トソン
パセ*゚ー゚)リ
上段にいる女が、俗に言うポニーテールだった。
顔が綺麗で整っており、幼さが見えるも、少し美しかった。
それよりもショボーンが驚いたのは下段にいる女の存在だ。
かなり特徴的だった。
というのも、赤い、金魚を象った被り物をしているのだ。
さすがにこの被り物は、いやでも目に留まってしまう。
そして、ショボーンはこの二人を知っていた。
.
- 162 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:38:11 ID:.askSzBsO
-
少し静寂が生まれたが、すぐにそれは破られた。
ショボーンの思考が動き始める前に、向こうが話しかけてきたのだ。
パセ*゚ー゚)リ「あら、どこかで見たことのある……… って」
パセ#゚ー゚)リ「あああッ! いつかの悪徳刑事っ!」
(゚、゚;トソン「ショボーンさんですか!?」
(;´・ω・`)「あ、ちょっと静かに!」
二人のうち、金魚の被り物をかぶったほうの女が、大声を張り上げた。
ポニーテールの女も、ショボーンの顔を見て、ひっそりと言った。
が、それ以上に、被り物の女の声に反応し、ショボーンは制止を求めた。
しかし、そのショボーンの声もおおきく、乗客のうち何人かが起きたようだった。
カーテンを開き、何事かを確認する者もいた。
ショボーンは「ここに誘拐犯がいたらえらいことだ」と思い、冷や汗を流した。
.
- 163 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:41:54 ID:.askSzBsO
-
パセ#゚ー゚)リ「なに? 私たちの愛の旅行を壊しにきたわけ?」
(゚、゚;トソン「ちょっと、声がおおきい!」
パセ*゚ー゚)リ「ねートソンちゃん!」
(゚、゚トソン「いやあなたですパセリさん」
ショボーンは、彼女らと面識があった。
今時にしては比較的冷静なポニーテールの都村トソンと、
今時でなくとも比較的おかしい髪型――というより、被り物の――岡津(おかつ)パセリだったな、とショボーンは記憶している。
(;´・ω・`)「えっと」
(゚、゚トソン「どうしたのですか、こんなところで」
パセ*゚ー゚)リ「だから、私たちを尾行してたんだよ!」
(゚、゚トソン「黙ってて、お願い」
ショボーン以上に飄々とした性格の岡津の言い分を、都村はいたって冷静に切り返した。
そして、ショボーンにどうしたのかと訊いた。
どうやら、彼女の扱いには慣れているようだ。
.
- 164 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:45:13 ID:.askSzBsO
-
しかし、一方のショボーンは
(´・ω・`)「(からかうと面白い子じゃないか)」
と、過去を振り返っていた。
都村は、このように冷静であるものの、からかうと、非常に面白い人だった。
いわゆる、自分のペースを崩されるのが嫌な性格の持ち主なのだろう。
一度ペースを崩すと、キャラも壊れる。
特にショボーンは、そういった類の人をからかうのが好きだった。
しかし、今は感傷に浸っている場合ではないと、自分で自分を叱った。
(´・ω・`)「トソンちゃん、十号車にきて、怪しい人は見なかったかい?」
(゚、゚トソン「あ、怪しい?」
ショボーンの顔つきが一瞬にして豹変ったので、都村は一瞬たじろいだ。
.
- 165 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:48:10 ID:.askSzBsO
-
(゚、゚トソン「どんな人ですか?」
(´・ω・`)「どんな人でもいい。挙動不審だったり、視線を気にしてたり、急いでカーテンを閉めたり」
言われた都村は、少し考えた。
しかし、肩を竦めて、言った。
(゚、゚トソン「見てないですよ? なんの事件の捜査なんですか?」
ショボーンは、当然、言えるわけがなかった。
誘拐事件はなるべく公に晒してはいけないのだ。
まして、都村はともかく、岡津のほうはかなり口が軽い。
すぐにマスコミにでもたれ流してしまいそうだった。
(´・ω・`)「まあそれはいいとして。ほんとうに見てない?」
曖昧に返事した上で、都村に念を押した。
大切なことだったので、ショボーンとしても、この点はよく聞くべきだと思っていたからだ。
(゚、゚トソン「見てないです」
パセ*゚ー゚)リ「ずっとラブラブトークをしてたんだよねっ」
(゚ー゚;トソン「あーもう、違う!」
(´・ω・`)「(……もう本性出してやんの)」
.
- 166 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:52:17 ID:.askSzBsO
-
都村は言葉遣いも丁寧でクールだが、その裏の顔を岡津とショボーンは知っていた。
割とドジで打たれ弱く、非常に涙もろい。
そして、知的なイメージとは裏腹に、頭は全然よくないのだ。
ショボーンは、一度都村の思考を見てみたいと思っている。
普段から何を考えているのか、非常に気になるのだ。
そして、二人きりで列車にでも乗ることがあれば散々からかってやりたい、と。
(´・ω・`)「ええと……パセリちゃんも?」
パセ#゚ー゚)リ「馴れ馴れしくちゃん付けするなしょぼ眉毛!」
(´・ω・`)「見てないんだね?」
パセ;゚ー゚)リ「………み、見てないよ?」
岡津は、ショボーンに対し敵対心を剥き出しにしているが、
ショボーンは気にせず、ややきつく念を押した。
岡津もショボーンが怖かったのか、戸惑いながら否定した。
この時のショボーンの気迫には、怖いものが感じられたのだ。
.
- 167 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:54:56 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「トソンちゃんたちは、ルグロラージ駅から乗り込んだのかい?」
(゚、゚トソン「違います。昨日から乗りっぱなしなんです」
(´・ω・`)「あ、そうなの。じゃあ、昨日から今日にいたるまで、乗客の顔は見てた?」
と言うと、思い出そうとしているのか、都村は長らく唸った。
しかし、なにも思い出さなかったようで、首を振った。
後ろで揺れるポニーテールが、可愛らしく見えた。
(゚、゚トソン「起きて車両内を見たとき、既に幾つかはカーテンが
閉まってたし、それにずっとパセリちゃんと話してたんです」
パセ*゚ー゚)リ「あ、ちゃん付けしてくれた」
(´・ω・`)「それは、一緒のベッドの上で?」
パセ*゚ー゚)リ「ねね、寝たのは別々なんだから!」
(´・ω・`)「わかってら。今朝、話をしてる時だよ」
(゚、゚トソン「ま、まあそうですけど」
.
- 168 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:57:33 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「じゃあ見てないのも無理はないね」
(゚、゚トソン「ごめんなさい」
(´・ω・`)「いいよいいよ」
都村は再び残念そうに肩を竦めた。
何か、ショボーンに情報を提供したかったのだろう。
慰めの言葉をかけるが、内心、ショボーンもがっかりしていた。
もし、十号車に誘拐犯と思わしき人物がいるなら、犯人の特定にぐっと近づくからだ。
若手を呼び、誘拐犯を取り押さえることも易しい。
しかし、わからないとなれば、どうしようもない。
(´・ω・`)「ちなみに、どこで降りるの?」
(゚、゚トソン「次のゴドーム駅です」
(´・ω・`)「ふむ」
ショボーンは、少し考えた。
が、特にロジックがつながりそうなことはなかった。
(´・ω・`)「(……ほかに聞けることはなさそうだな)」
(゚、゚トソン「どうしました?」
(´・ω・`)「いやいや。なんでもないよ。
. じゃあ、愛の旅行、楽しんできてね」
(゚ー゚;トソン「あ、ちょ、違います! 私はその」
パセ*゚ー゚)リ「刑事さんイイ人! ばいばーい!」
(゚、゚トソン「岡津さん嫌いです」
パセ;゚ー゚)リ「なんで!」
.
- 169 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/20(金) 19:59:39 ID:.askSzBsO
-
ショボーンは十号車を一望してみたものの、やはり誘拐犯の足跡は掴めなかった。
それよりも、十一両目にある貨車に繋がる扉のほうが気にかかっていた。
ここに誘拐犯が潜んでいたら、果たしてどうだろうか、と。
(´・ω・`)「(まさか、な。誘拐犯があそこに潜んでいるはずがないか。一般人が入れる場所じゃあないはずだ)」
と思って、未練もなくそのまま十号車から去った。
九号車に戻るときも、都村は身の潔白を訴えていた。
が、ショボーンは、二人がただの友人なのか一線を越えるような関係なのかには、まるで興味がなかった。
.
- 178 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 16:42:52 ID:8oNpBbuMO
-
−3−
( <●><●>)「どうでしたか」
帰ってきたショボーンを見て、若手は開口一番に尋ねた。
若手は、依然B−8の前に立ったまま、動いてないようだった。
顔だけをショボーンのほうに向けたのだ。
ショボーンは首を横に振り、俯いて九号車に足を踏み入れていった。
手が突っ込まれたポケットには、甘そうなキャンディが入ってそうだった。
(´・ω・`)「トソンちゃんとパセリちゃんに会ってきたよ」
( <●><●>)「なぜでしょう、嫌な思い出しか浮かんでこないのですが。どなたでしたっけ」
(´・ω・`)「無理して忘れようとするな」
常にポーカーフェイスな若手が、僅かだが苦い顔をした。
どうやら、都村トソンと岡津パセリの名を聞き
嫌な過去の一つでも思い出してしまったようだ。
だが、ここでは詳述しない。
.
- 179 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 16:46:01 ID:8oNpBbuMO
-
(´・ω・`)「なにか、不審な人物はいたか?」
( <●><●>)「いえ、まったく。
寧ろ、いびきが聞こえてきて、こちらまで眠くなりそうです」
(´・ω・`)「結局三時間も寝てないもんなあ。
. 事件が解決したら、今度こそじっくり寝てやろうじゃないか」
( <●><●>)「同感です」
と言って、若手は微笑した。
が、目は笑ってなかった。
いつ、なにが起こるかわからないという、緊張ゆえの所為だろう。
ショボーンも同じだった。
眠くて仕方ないはずなのに、この二人はこうしてぴんぴん動けているが、
その動力源は、やはり誘拐事件を追っているという緊張なのだろう。
この緊張の糸が解けると、たちまち動けなくなるに違いない。
だから、仕事中はショボーンは煙草も吸わないし、酒も呑みたくもないと思っている。
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- 180 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 16:48:40 ID:8oNpBbuMO
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しばらく、二人はそこで待ってみることにした。
三十分したあたりだろうか。
ショボーンと若手は、ある事に、薄々気がついてきつつあった。
不審気な顔をして、ショボーンは若手と顔を見合わせた。
(´・ω・`)「おい、この列車、スピードが緩まってきてないか?」
( <●><●>)「ゴドーム駅まで、まだありますよ」
(´・ω・`)「車掌長に確認しにいくか」
「よし」と言ってショボーンがその場から離れようとしたとき、前方の扉が開かれた。
車掌長の関ヶ原が、慌ててショボーンのもとへ駆けてきた。
ショボーンは嫌な予感しかせず、掌が脂汗で湿ってきた。
( ゙ゞ)「ここにいたのですか」
(´・ω・`)「ちょうどよかった。聞きたいことがあるのですが――」
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- 181 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 16:51:34 ID:8oNpBbuMO
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開口一番にショボーンが言いかけたのを、関ヶ原が遮った。
( ゙ゞ)「残念ですが、まだ怪しい人物は捕まってません」
(´・ω・`)「あ、いや。僕が聞きたいのは別のことです」
と言うと、関ヶ原は辛辣そうな顔色をみせた。
関ヶ原にも、ショボーンの言わんとすることが伝わったのだ。
ショボーンはますます不安が募ってきた。
(´・ω・`)「列車が徐々に減速している気がするのですが、どうしたのですか?」
( ゙ゞ)「そのことで、報告があるのです」
(´・ω・`)「というと?」
ショボーンが先を促すと、関ヶ原はショボーンに耳打ちした。
若手も近寄って、関ヶ原の声が聞こえるよう耳を澄ました。
( ゙ゞ)「爆弾です」
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- 182 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 16:57:32 ID:8oNpBbuMO
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(;´・ω・`)「……へ?」
瞬間、ショボーンの顔があからさまに豹変った。
口をぽかんと開き、事態を呑み込めないでいた。
( ゙ゞ)「先程、オオカミ鉄道本社に匿名で電話があったそうなのです。
『このさきのラルトロス大橋に爆弾を仕掛けた。
電車がそこを通ると、爆発するぞ』と」
(;´・ω・`)「それは……ほんとうですか?」
( ゙ゞ)「イタズラだと思うのですが、誘拐事件を考えると、あながちあり得るかもしれないでしょう?
なにより、立場上無視することはできないので、調べるつもりです。
そのため、ラルトロス大橋の手前で一旦止まり、爆弾を撤去してから運行します。
ラルトロス大橋まで、もう一分もありませんし」
(;´・ω・`)「………ッ」
ショボーンは、リアクションを抑えた。
眉を吊り上げた程度でとどまり、呼吸が荒くなった程度だ。
だが、その胸中に秘めた驚きに偽りはなかった。
徐々にショボーンの嫌な予感が的中しつつあるのを感じ、
ショボーンも少なからずや狼狽してきているのだ。
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- 183 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:00:35 ID:8oNpBbuMO
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一方若手は、関ヶ原の声が聞き取れなかったらしい。
事情を、今度はショボーンに尋ねた。
( <●><●>)「どうしたのですか?」
ショボーンは若手に身を屈ませ、関ヶ原と同じように、耳打ちをして
(´・ω・`)「爆弾だ」
( <●><●>)「え?」
(´・ω・`)「この先のラルトロス大橋に、仕掛けられたんだよ」
(´・ω・`)「爆弾が、な」
( <●><●>)「…………ば」
(; <○><○>)「 爆 弾 っ ! ? 」
(;´・ω・`)「ばッ! 声がでかい!」
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- 184 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:04:36 ID:8oNpBbuMO
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若手は心底驚いたらしく、普段の彼からは予想できないような驚きっぷりを見せた。
そのせいで、思わず、九号車全体に響きわたるような大声を発してしまった。
慌ててショボーンが制するも、遅かった。
九号車の寝ていた人間が起き、また、もとより起きていた者は
間違いなく若手の発した「爆弾」という一言を聞いたのだ。
そして、若手は身体が大きい分、肺活量もあるし、声の大きさは凄まじいものがある。
メガフォン無しでも立てこもり犯に説得ができるという程だ。
噂ではなく事実として流れているので、声の大きさは有名だと思われる。
それが、仇となった。
カーテンを開き、なにがあったのか、という顔をする中年男性や
はしゃぐ子供を宥め落ち着かせる子連れの女が慌てて出てきた。
これだけなら、騒ぎを鎮めさせることくらいできただろう。
しかし、問題は、別にあったのだ。
(゚、゚トソン
パセ*゚ -゚)リ
(゚、゚トソン「……爆、弾?」
(; <●><●>)「……あ」
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- 185 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:11:58 ID:8oNpBbuMO
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(;Д;トソン「きゃあああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああッ!!」
タイミング悪く、そこに都村と岡津が来ていたのだ。
デッキを扉を開きかけており、九号車と十号車は同じ空気を共有している。
つまり、十号車にも、若手の声は鮮明に届いていたのだ。
そして、こういう非日常的な緊急事態に、都村は非常に弱かった。
(;、;トソン「し、死ぬ! しぬぅぅぅぅぅッ!」
(;´・ω・`)「お、落ち着いて! 爆弾なんかないから!」
ショボーンが必死に落ち着かせようとするも、それは逆効果だった。
刑事ドラマにて、こういう場面では、刑事が嘘を吐いて落ち着かせることが鉄板だからだ。
そのせいか、ショボーンの言葉を聞いて、彼らの言葉を聞いていた皆が
ほんとうに爆弾があるものなのだ、と誤解してしまったのだ。
また、都村の絹を裂くような高い悲鳴が、若手の驚愕、仰天の含まれた声より
圧倒的に声の通りがよく、九号車と十号車の皆が起き、そして爆弾の存在を知ってしまった。
今更、隠し通すことはできなくなっていた。
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- 186 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:16:18 ID:8oNpBbuMO
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(;´・ω・`)「(しまった!)」
と思ったのは、それらのせいで皆がパニックに陥り、逃げようとし始めたのだ。
ベッドから飛び降りたり、慌てて九、十号車から外にでようとする。
同時刻に、ラルトロス大橋の手前ということで列車が止まったのが、
この騒動を決定的な混乱として彼らの脳に刻みつけてしまった。
仮に爆弾の有無はどうであれ、駅でも何でもないところで
列車が止まるのは、明らかに「今」が緊急事態だから、なのだ。
乗客がそれに気づき、いよいよ本格的に慌て始めてしまった。
収拾のつかない事態となってしまい、もうどうすることもできなかった。
一刻も早く、この列車から逃れようとする乗客ばかりだった。
十号車からも、皆が外にでようとするので、出口となる九号車には、すっかり人の波ができていた。
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- 187 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:19:52 ID:8oNpBbuMO
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九号車も十号車も寝台車で、席の構造も一緒である。
ひとつの車両につき十六、席が設けられている。
身代金受け渡しの場である九号車のB−8をひいても、
単純計算で、三十一人以上もの人間が押し寄せているのだ。
ショボーンと若手も、自然とその波に呑まれていた。
波のせいで身動きがとれず、また若手に関してなんか、自身の失態のせいで
こうなったのだと自己嫌悪に陥ったのか、生気が感じられず、ただ流されているだけだった。
だが、ショボーンは諦めなかった。
ひょっとしたら、この事態を逆手にとり、
身代金がまんまと奪われてしまうかもしれない、と案じたからである。
ショボーンの、その不安は的中していた。
(;´・ω・`)「おい、待てッ!!」
容姿、服の恰好までは見えなかったが、何者かがB−8に近づいているのが視認できたのだ。
波に流されるのに抗うが、無残にも、誘拐犯に飛びつくのは不可能だった。
必死にその人物に呼びかけるが、向こうが応える様子はなかった。
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- 188 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:23:00 ID:8oNpBbuMO
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結局、ショボーンと若手は八号車に押し戻され、九号車には入ることができなくなった。
乗客がパニックになり、うろちょろするため、掻き分けて進入するのも困難なのだ。
パセ*゚ー゚)リ「トソンちゃん、落ち着いた?」
(;、;トソン「……」
(゚、゚トソン「! 別に泣いてなんかいません」
八号車の人間も、当然困惑した。
しかし、車掌長がきて、八号車にいる全員に聞こえるように事態を説明した。
「混乱を招くような事態を引き起こしてしまい、まことに申し訳ありません」と、関ヶ原は言った。
( ゙ゞ)「爆弾についてですが、ただいま撤去が完了し、安全が確保されましたので、
どうか平静を取り戻し、各自の席へ戻ってください。
……この度は、ほんとうに申し訳ありません」
(´・ω・`)「(つまり、爆弾はほんとうにあったのか!)」
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- 189 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:28:10 ID:8oNpBbuMO
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ショボーンが驚いたのは、その点だった。
車掌長の謝罪で乗客もひとまずは安心し、各々の座席へと着いた。
九号車に戻ってきた乗客は早速横になり、再び寝息をたて始めた者も出てきた。
だが、ショボーンは、そんなことはどうでもよかった。
ショボーンと若手は、駆け足で、身代金を置いてあった九号車のB−8のところへ向かった。
まだ乗客がまばらで、何人かは気晴らしに歩いているのかもしれない。
が、やはりそれも、ショボーンにとってはどうでもいいことだった。
ショボーンは、乱暴にカーテンを開いた。
刹那、ショボーンの顔が苦くなった。
(;´・ω・`)「やられた!」
(; <●><●>)「……」
ベッドの上は、もぬけの殻だった。
一億円もの大金が詰められたボストンバッグが、四つとも、跡形もなく消えていたのだ。
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- 190 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:31:24 ID:8oNpBbuMO
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しかし、ゴドーム駅まであと十数分はある。
今、乗客がボストンバッグを持ち出すことなど、不可能だ。
だとすると、ボストンバッグはまだ列車内に必ずあるはずだ、
そう考えたショボーンは、咄嗟に車掌長の関ヶ原のもとへ向かった。
車掌室を強くノックし、関ヶ原を呼び出した。
関ヶ原は電話していたらしく、すぐには出なかったが、一、二分して出た。
(;゙ゞ)「ああ、ショボーンさんですか。えらいことですよ」
関ヶ原もそうだったが、ショボーンもものすごい剣幕だった。
関ヶ原はオオカミ鉄道本社へ連絡していたようだった。
ショボーンは雑談をしている暇はないと言い、身代金が奪われたことを告げた。
( ゙ゞ)「なんですって!」
(´・ω・`)「当然、まだ車内にボストンバッグがあるはずなんです。至急、調べてください」
( ゙ゞ)「わかりました。ほかの車掌にも調べさせます」
そう言って、関ヶ原は車掌室を飛び出していった。
若手は、始終無言だった。
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- 191 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:37:19 ID:8oNpBbuMO
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−4−
ショボーンは問題の九号車へ向かい、B−8の席を、穴が空きそうなほどじっと見つめた。
まさか、ここから底が抜けて、下にボストンバッグを落としたわけがあるまい。
しかし、ボストンバッグはどこかに運び出されたのだ。
だが、ここで新たな問題が顔をだす。
ショボーンは、九号車から、ボストンバッグの一つでも運び出されるのは見ていないのだ。
だから、よけい不思議だった。
このベッドにからくりがあるのかと思いもしたが、やはりなにもなかった。
(´・ω・`)「(この車両には、バッグを出せる窓のひとつもないし
. 壁を蹴破るなんてのもとうてい不可能だ。
. まず、異常なんてどこにも見当たらないんだ)」
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- 192 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:40:50 ID:8oNpBbuMO
-
考えれば考えるほど、ショボーンはますますわからなくなっていた。
関ヶ原たちが調べた結果、ボストンバッグが見つかれば
問題がないのだが、そううまくいくとは思ってなかった。
捜すよう頼んだが、万が一を考えただけであり、ショボーンはさほど期待してなかった。
関ヶ原が戻ってきた時、関ヶ原の顔が晴れやかでなかったのを見て、ショボーンは肩をすくめた。
( ゙ゞ)「列車内をくまなく捜したのですが、身代金の入ったボストンバッグは見つかりませんでした」
(´・ω・`)「そうですか――」
と言いかけて、ショボーンはある可能性を思いついた。
(´・ω・`)「ふつうのボストンバッグはあったのですか?」
( ゙ゞ)「え? まあ。でも旅行者のものでして。
なかには宿泊用の荷物が詰まれており、かばんには名前も書いてありました」
(´・ω・`)「ボストンバッグの色は、何色でしたかな?」
( ゙ゞ)「真っ黒です」
(´・ω・`)「……そう、ですか」
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- 193 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:44:50 ID:8oNpBbuMO
-
ショボーンは再び肩を竦めた。
もしかしたら、金だけを抜き出してほかのかばんに詰め、
元のボストンバッグには別のものを詰めたのではないか、
と思ったのだが、どうやらそれはあり得なかったようだ。
伊達の用意したボストンバッグは、紺色なのだ。
まして、名前まで書かれていると、さすがに同一のものとは思えないだろう。
( ゙ゞ)「そろそろゴドーム駅に着きますが、ショボーンさんはどうしますか?」
と関ヶ原に言われたので、時刻を見ると、もう到着の五分前だった。
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- 194 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:52:14 ID:8oNpBbuMO
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ショボーンは立ち上がり、関ヶ原に礼を言った。
そして、八号車の自由席をまわって乗客のかばんを虱潰しに調べていた若手を呼んだ。
無表情で、淡々と捜査を進めていた。
ふと窓の外を見ると、ゴドームドームが見えた。
巨大なドーム球場となっており、よくプロ野球球団の
試合球場としても使われているだけあって、見栄えはよかった。
正方形の、白い敷石でできた石畳が敷き詰められていて、
一定の間隔で木が植えられており、それに挟まれたところが通路となっている。
ドームからその通路を挟んで、向かいに国道がある。
バス停にはバスが停まったばかりのようで、客が降りていた。
ふと、そのうちの一人が歩く先を見ると、ドームの周辺だった。
そこには売店もちらほら見えたし、少し離れたところに地下鉄の出入り口もあった。
(´・ω・`)「(僕の予想は、当たってたんだ)」
予想とは、ゴドーム駅でなにかが起こる、ということである。
ドームがあり、競技場もあり、そしてこの利用客の多さ。
誘拐犯が自然に溶け込むのには、もう充分すぎる条件だ。
だが、事件が起こったのはゴドーム駅ではなく、ゴドーム−ラルトロス区間だった。
発生が区間と予想外の爆弾騒動が起こってしまい、未然に防げるものも防げなかったのだ。
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- 195 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:55:46 ID:8oNpBbuMO
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( <●><●>)「申し訳ないです」
(´・ω・`)「とりあえず、一旦本部に帰るぞ」
ショボーンはすっかり熱り立っていた。
本来なら、ここで誘拐犯を捕まえることもできたはずだったのに。
そう悔やむと、ショボーンは尚自分が許せず、苛々していたのだ。
若手もそれを察したのか、以降はしゃべらなくなった。
降りて、ショボーンは電話で本部に連絡をとった。
彼の上司のベル刑事部長は、怒りっぽい。
ショボーンとよく口論もするが、一方でベルは、事件解決のためなら
なんの躊躇いもなく上司である自分に噛みついてくるショボーンを、どこかよく思っていた。
もちろん、ショボーンには内緒で、だ。
(´・ω・`)「ショボーンです」
『いったいどういうことなんだ。爆弾騒動の話をマスコミが嗅ぎつけて、
いまオオカミ鉄道とうちはてんやわんやの大騒ぎなんだぞ』
と、ベルは開口一番で叱りつけてきた。
ショボーンはそれでも冷静でいられた。
.
- 196 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 17:59:54 ID:8oNpBbuMO
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(´・ω・`)「うちにも来てるのですか」
『誰かが君の話でも聞いたのだろう。とりあえず早く戻ってこい。
シベリア県警との合同捜査本部も、君の要望が通り置かれたのだからな』
(´・ω・`)「わかりました」
( <●><●>)「あの」
(´・ω・`)「なんだ」
帰りはタクシーを拾った。
電車でもよかったのだが、何分シベリアからVIPへ帰ろうとすると、乗り換えやらが面倒なのだ。
クロコーダイル駅からなら躊躇いなく電車で帰るのだが、ゴドーム駅ならそうでもない。
乗って暫くしてから、若手は控えめに話を切り出した。
( <●><●>)「あのときは、私が声を荒げたばかりに乗客に広まり、混乱。
それが誘拐犯の身代金確保の助長となったのですよね?」
(´・ω・`)「ああ」
ショボーンは遠慮なく言った。
( <●><●>)「私が大声を出さないでいれば、誘拐犯はどうやって身代金を運んだのでしょうかね」
(´・ω・`)「それを、僕も考えていた」
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- 197 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 18:09:23 ID:8oNpBbuMO
-
若手は、一度は謝ったが、以降は謝ってなかった。
一度過ぎた事をくよくよしても仕方がない。
まして、刑事という凶悪事件を相手にする職業なら、
失敗の度にする後悔など、何の役にも立たないのだ。
ショボーンと若手も、それをわかっていた。
(´・ω・`)「今回のハプニングは、誘拐犯に言わせればラッキー同然なんだ。
. ふつうは、警察がとちるなんて想定しないからな」
( <●><●>)「はい。だからこそ、向こうがとる筈だった本当の作戦がわからないのです」
(´・ω・`)「………」
( <●><●>)「どうでしょうか」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「一応、推測はできている……。
. が、確たる証拠もないし、まずこれを言いたくはない」
( <●><●>)「そう、ですか」
(´・ω・`)「時機が来れば、この推測も見当しなければならないだろう。
. でも、今の所は考えたくないんだ。これだけは」
( <●><●>)「わかりました」
釈然としなかったが、若手は肯いた。
ショボーンの苛立ちが、手に取るように窺えたからだ。
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- 198 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/21(土) 18:14:45 ID:8oNpBbuMO
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(´・ω・`)「それと、もうひとつ。身代金の運び出しルートだ。
. ……どこにも、ないんだよ。誰にも気づかれずに運び出す道が」
と、溜息を吐いて言った。
運び出すタイミングはよしとして、その身代金のルートはさすがに見当の一人もつかなかった。
ショボーンがその道をくまなく探してみたのだが、そんなものはどこにもなく、
八号車か十号車へ持って行く以外には、何も見つからなかったのだ。
八号車に持ち運ばれたわけでない、というのはわかったので、残るは十号車だ。
十号車も、当然捜索された。
現職の車掌と刑事が調べ、そして見つからなかったのだから、十号車にも身代金はない。
(´・ω・`)「消えたのだよ、身代金は」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第三章
「 若さゆえの過ち 」
おしまい
.
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