- 208 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:03:12 ID:nsZbpxssO
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第四章
「 消えた身代金 」
−1−
VIP県警に着くと、確かにてんやわんやが似合う騒動だった。
マスコミが動き回っており、無論、ショボーンのところにも記者がやってきた。
(-@∀@)「爆弾騒動のことでお話を伺ってもよろしいですかね?」
(´・ω・`)「答えられることはありません」
なにを問われても、ショボーンはこのようにむすっとした態度で応えた。
今時のマスコミは平気で警察を叩き、評判を落とすこともざらだ。
この記者が所属する朝曰新聞社も、例に漏れず警察を叩くのがうまいことを、ショボーンは思い出していた。
今はまだ漏れてないようだが、ショボーンが追っている
誘拐事件まで公に出れば、間違いなく人質は危険な目に遭うだろう。
公表できない点では、誘拐事件は立てこもりよりも扱いが面倒だった。
ベル刑事部長が記者会見を開き、爆弾騒動とVIP県警との関連性がないことを言った。
無論記者はそれで納得する筈もなく、質問攻めにあった。
一応、口コミ情報では当事者であるショボーンも立ち会ったのだが、それはひどいものだった。
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- 210 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:09:43 ID:nsZbpxssO
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(-@∀@)「隠してるだけじゃないんですか」
(`∠´)「この度の爆弾騒動はシベリア県警のほうが取り扱う事件です。VIPとは何ら関係が――」
(-@∀@)「そうやって、警察同士でなすりつけあいをするのでしょうか」
(`∠´)「いま、こちらでもあちらさんでもてんやわんやの騒ぎに見舞われていますので――」
(-@∀@)「ショボーン警部、垂れ込み情報にあなたの名前があったのですが、なにがあったのでしょうか」
(´・ω・`)「たまたま、オオカミ鉄道に乗っていただけです。
. 私も爆弾騒動とは関連性がございません」
(-@∀@)「とか言って、本当は何かの事件の捜査で乗っていたのでしょ?
その事件を教えていただきたいのですよ」
(´・ω・`)「そのような事件は事実にはございません」
やはり、 爆弾騒動は、恰好の飯の種なのだろう。
特に、朝曰新聞社がかなり質問をしてきた。
とにかく、何かVIPの事件と爆弾騒動を結びつけたいのだろう。
その点では、この記者の鼻は随分と利いているように思えた。
ベルの話を全部最後まで聞かないので、ベルも次第に苛立ってきている。
ショボーンも一緒で、誰が垂れ込みしたのかと、逆恨みに近い感情を持っていた。
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- 211 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:13:54 ID:nsZbpxssO
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結果、終わる頃には、ベルもショボーンもすっかり疲れてしまった。
ショボーンの身を案じた若手が、コーヒーを淹れてくれた。
ショボーンにとっては、酒も煙草もやらない仕事中、疲れた時はコーヒーが一番だった。
礼を言って、一口コーヒーを呑んだ。
ショボーンは、コーヒーを淹れるのはあまり得意でなかった。
原料も同じコーヒーなのに、なぜ味に差が出るのか、ショボーンはわからず、まいっていた。
なのに、部下の東風も若手も、なぜかコーヒーを淹れるのは上手だった。
まるで、コーヒーに艶があるように見えるのだ。
一度、自分がコーヒーに嫌われているのではないか、と本気で悩んだこともある。
若手も自分の分を淹れて、ショボーンの隣に座った。
( <●><●>)「まずいですよ。この調子じゃ、誘拐事件の話もいずれ飛び出しますよ」
(´・ω・`)「その前に、なんとしてでも解決しなくっちゃな」
ショボーンが椅子に凭れ、ようやく休憩できるようになったためか、すっかり気が抜けていた。
だが、そんな彼が即座に気付けを喰らったのは、ベル刑事部長に呼び出されたからだ。
嫌な予感しかしなかったが、コーヒーを呷り、ベルのもとへ向かった。
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- 212 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:17:49 ID:nsZbpxssO
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怒り心頭なベルの隣には、捜査一課長のドクオがいた。
比較的痩身で背も低いが、威厳がないわけではない。
ショボーンの理解者であり、合同捜査本部なんかが必要な時は、よくベルと掛け合ってくれる。
(´・ω・`)「どうしましたか」
(`∠´)「どうしましたじゃないだろう。誘拐事件のほうはどうなんだ」
ベルが熱り立っているのは、嫌でも伝わってきた。
ショボーンは紛らわすように苦笑し、経過を話した。
(´・ω・`)「あらましはミルナ君から聞いてますよね?」
(`∠´)「相手が資産家の孫娘を誘拐し、四億もの身代金を要求したのだったな」
(´・ω・`)「そこで、犯人の指示通り一億を持って
. オオカミ鉄道の『あさやけ4号』に乗り込み、
. 誘拐犯が現れるのを待ちました」
(`∠´)「で、失敗したのだな?」
と遠慮なく聞くので、ショボーンは再び苦笑した。
少しは同情の色でも見せてほしかった。
(´・ω・`)「爆弾騒動にやられましたね。
. まさか、爆弾があるとは、思いもしなかった」
('A`)「その爆弾の主はわかったのか?」
と、今度は捜査一課長のドクオが低い声で聞いてきた。
ショボーンは首を横に振った。
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- 213 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:22:24 ID:nsZbpxssO
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(´・ω・`)「オオカミ鉄道に問い合わせたのですが、わからないそうです」
(`∠´)「誘拐犯グループの目星はついているのかね?」
(´・ω・`)「それは僕にはわかりません。ミルナ君に聞かないと」
(`∠´)「御前モカ殺人事件のことか。
シベリアのほうに合同捜査本部が設置された。爆弾騒動も誘拐犯の仕業だろうから、
向こうでモカ殺人事件、爆弾騒動、誘拐事件の三つを同時に追うことになるだろうな」
('A`)「ショボーン君は、これからどうするんだ?」
(´・ω・`)「シベリアの捜査本部で、ミルナ君と合流するつもりです。
. ……その後は、伊達邸で誘拐犯からの次の連絡を待ちます」
(`∠´)「今すぐ戻らなくて大丈夫なのかね?
いつ誘拐犯から電話がくるか――」
(´・ω・`)「ご心配なく。おそらく、向こうも金を運び出したばかりなので、
. そう急いで次の指令を言ってくるとは思えないですよ」
「そうか」と言い、ベルはショボーンを帰した。
ショボーンは空腹を感じながら、若手を率いてシベリア県警に向かった。
一三時三六分にシベリアに着いた。
合同捜査本部には、既にフィレンクト警部と東風の二人がいた。
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- 214 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:25:26 ID:nsZbpxssO
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(´・ω・`)「首尾はどうだ」
( ゚д゚)「それが、はっきりしないのですよ」
(´・ω・`)「ほう」
東風は黒板を指さした。
御前モカの写真が貼られ、死体状況などが細かく書かれている。
死因は青酸液による中毒死、死亡推定時刻は二時一〇分から三〇分と、割と鮮明に特定された。
( ゚д゚)「家族関係を徹底的に洗ったのですが」
(´・ω・`)「どうだった?」
( ゚д゚)「独身で、両親は既に他界。
兄弟もおらず、天涯孤独だったようです」
(´・ω・`)「知人関係は?」
( ゚д゚)「ペニーにも調べさせていますが、誘拐事件につながりそうな人物像は一向に浮かんできません」
(´・ω・`)「同じ大学とか、高校とかの級友は?」
( ゚д゚)「害者は高校を中退しており、そして就職したようですが、
コンビニの件を考えると、ここ数年で辞めたのだと思いますね」
(´・ω・`)「小中高、それらのうちのどこかに誘拐犯の仲間がいると思うんだが、さっぱりか?」
( ゚д゚)「なにぶん多いですからね。
なにか、的を絞れる手がかりでもあればいいのですが」
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- 215 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:28:39 ID:nsZbpxssO
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(´・ω・`)「今のところ、誘拐犯に関する手がかりはモカしかいないんだ。
. ほかに調べる方法はないだろ」
( ゚д゚)「ですが、一日二日じゃ、到底調べきれる量ではありませんからね。
自分もまいってるんです」
(´・ω・`)「現場にも手がかりはなかったのか?」
(‘_L’)「そのことですが、ひとつ、面白いことがありましたよ」
(´・ω・`)「と、言うと?」
フィレンクトが割り込んで言ってきた。
声を弾ませているので、いい知らせだな、とショボーンは思った。
(‘_L’)「害者を司法解剖したのですが、妙なんですよ」
(´・ω・`)「妙?」
(‘_L’)「ええ。食べたであろう弁当が、胃の中に残ってなかったのです」
(´・ω・`)「弁当と言うと、あの食べかけの、ですな?」
(‘_L’)「だから妙に思い、箸についた唾液を調べたのですが、血液型がA型と判明しました」
(´・ω・`)「ほう」
と、ショボーンは軽く返した。
御前の血液型はA型か、程度に思ったのだ。
ところが、返事してから腑に落ちない点が浮かんできて、さッと黒板を見た。
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- 216 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:35:19 ID:nsZbpxssO
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(´・ω・`)「待ってください。害者はO型じゃないですか」
漸く気づいたか、と言わんばかりに、フィレンクトもニヤッとした。
「お気づきになりましたか」と言って、フィレンクトは
証拠物件を入れる、ビニル袋に入った割り箸を見せた。
(‘_L’)「割り箸だったので、唾液が染み込んだのですね。これはいい手がかりですよ」
(´・ω・`)「しかし、A型か」
フィレンクトは興奮気味だが、一方で、ショボーンはそうでもなかった。
がっかりとした表情を見せている。
(´・ω・`)「AB型ならまだよかったんだ。でも、A型はこの国で一番多い血液型だからなあ」
( <●><●>)「ABだろうとAだろうと、さして問題ないのでは」
(´・ω・`)「そうだな、例を挙げるなら伊達さんがAB型だけど、それでもそう言えるか?」
( <●><●>)「AB型の人間は凄く少なそうですね」
ショボーンは軽く笑った。
この国では、血液型である程度の性格は絞れると言われている。
AB型は、他の血液型とは違う思考を持っているとすら言われているので、
若手はショボーンのそのたとえ話を聞いて、すぐ納得した。
だが、笑い話をしている暇はない。
東風が、軌道修正を兼ねて本題を切り出した。
( ゚д゚)「でもいいじゃないですか。
これで、候補のうち半分以上はふるい落とせたのですよ」
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- 217 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:39:00 ID:nsZbpxssO
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( <●><●>)「しかし、それでもやはり一日二日で調べられるような人数じゃないですよ」
同じく気持ちを切り替えた若手が言った。
血液型を絞れたところで、結論は変わらないのだ。
ショボーンは「わかっている」と言い、更に不機嫌な顔になった。
(´・ω・`)「こうなったら、別の線で調べるしかないか」
( <●><●>)「と言いますと?」
(´・ω・`)「一度、トソンちゃんに話を聞こう」
( <●><●>)「しかし、なにも見てないのでは?」
(´・ω・`)「万が一がある。思い出してくれたら、一気に捜査が進むんだ。
. 幸い、彼女の電話番号は知ってるし」
と言って、携帯電話を取り出した。
存外早く都村は電話に出た。
はしゃいでいたのか、息が弾んでいる。
(´・ω・`)「もしもし、ショボーンだけど」
『どうしたんですか?』
(´・ω・`)「何度もくどいようだけど、なにか、十号車の乗客について思い出したこととかある?
. いや、この際十号車でなくてもいい。ほかの車両の人間でもいいんだ。
. 気になった人とか、あと団体客もいたらそのことも教えてほしい」
『と言われましても……』
(´・ω・`)「なにも、覚えてない?」
『ええと……』
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- 218 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:43:07 ID:nsZbpxssO
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都村は、一生懸命思いだそうとしているようだった。
随分と長いこと唸っていたが、結論を言うと、特になにも出なかった。
隣に居るらしい岡津に聞いてみたりもしていたが、結果は同じだった。
『パセリちゃんも見てないようですし』
『私は、トソンちゃんしか見てないのっ!』
『あ、こら、離―――』
(´・ω・`)「もしもーし」
(´・ω・`)「……きれた」
ショボーンは、しょぼくれた顔をして、電話をポケットにしまった。
団体客でも見ていてくれれば、そこから連鎖的に目撃証言がつながっていき、
最終的に誘拐犯が見つかる、と思ったのだが、やはりそううまくはいかなかった。
まして、年頃の女二人だから、余計まわりの人間を見ていることなんて、そうないのだろう。
何気ないおしゃべりをするだけで、あっと言う間に時間が過ぎて行くからだ。
他人を気にかけている暇なんかないと思われる。
なにも見てなくても、それは仕方のないことだ。
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- 219 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:47:40 ID:nsZbpxssO
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( <●><●>)「どうしますか」
(´・ω・`)「どうしようってもなあ」
ショボーンは苛立ちを見せた。
二度も、まんまと金を奪われてしまったのだ。
しかも、今回は、宣戦布告をかまされた上での犯行なのだ。
見かねた東風が、話題を変えた。
( ゚д゚)「イツワリさん、お昼は召し上がりました?」
(´・ω・`)「弁当を食べただけだね」
思い返すと、昼に弁当を口にしただけで、以降はずっと列車に張り込んでいたのだ。
弁当の量も決して多くはなく、したがってショボーンは空腹を感じていた。
( ゚д゚)「食べないとだめですよ。腹が減ってはなんとやらって言いますしね」
(´・ω・`)「そうだな」
( <●><●>)「私は、しばらく伊藤さんたちと一緒に
害者の人間関係を洗おうか、と思っています」
(´・ω・`)「A型で、事件当夜に現場に来ることのできた人間だ」
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- 220 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:51:08 ID:nsZbpxssO
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−2−
意気込んだ若手が勢いよく飛び出していった。
東風はまだ昼をとってないらしく、ショボーンを誘って、近くの喫茶店へ向かった。
一息つくのと同時に、互いが各自の捜査で得た情報を交換するためだった。
二人はコーヒーを頼み、待ってる間に早速本題に入った。
(´・ω・`)「モカの事件だけど、オーナーと会ったようだね」
( ゚д゚)「ええ。だいぶ、焦ってましたね」
(´・ω・`)「そりゃあそうだろう」
( ゚д゚)「それが、彼が焦ったのは、殺人事件があったからだけじゃないのですよ。
害者にまつわる書類、害者が文字を書いた紙、その他もろもろが
全て犯人の手によって持ち去られてしまったのですよ」
(´・ω・`)「ほう。筆跡鑑定でもおそれたか」
( ゚д゚)「ところが、あっさり身元が判明しましてね」
(´・ω・`)「財布に、免許証でもあったか?」
( ゚д゚)「いえ。オーナーが、害者の雇用登録の書類を持っていたのです。
オーナーは、害者が有能であるのを見いだし、随分と早い段階で雇用契約をしようとしていたそうですから」
(´・ω・`)「逆に、オーナーの機転がなけりゃ、身元の判明も難しそうだったな」
.
- 221 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:53:52 ID:nsZbpxssO
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東風は苦笑した。
八東のおかげで身元が割れたのかと思うと、複雑な気分だったのだ。
( ゚д゚)「オーナーの証言ですと、害者はコンビニ店員の経験者で、
研修もそこそこに、即戦力として雇ったそうなのですが、
とても事件を起こしそうな感じではなかったと言ってます」
(´・ω・`)「でもまあ、一週間じゃ、その証言はあてにならないね」
( ゚д゚)「ひとつ不審な点があったと言えば、害者は一度、オーナーに
深夜二時頃の客足を尋ねたことがあったそうなんです」
(´・ω・`)「二時?」
ショボーンの眉が、ぴくりと動いた。
ショボーンが反応をそれしか見せなかったのは、同時にコーヒーが運ばれてきたからである。
東風はコーヒーをかき混ぜながら、ピラフを注文した。
ショボーンは、サンドイッチを頼み、コーヒーを一口呑んで、頬杖をついた。
.
- 223 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 10:59:39 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「事件が起きたのは二時五分頃だ。偶然とは思えないな」
( ゚д゚)「オーナーも、あらためて考えるとおかしい、と言ってましたしね」
(´・ω・`)「身代金の受け渡し場所にコンビニが使えると思った主犯格が、モカに訊かせたのかな。
. 予め客足を知り、深夜でもぽつぽつ客が来るようなら
. 受け渡し場所を別のところに移していた、そんなとこか」
かき混ぜていたコーヒーを呑んで、東風は肯いた。
御前が誘拐犯グループの一員であることは、確定的だ。
数多くの状況証拠が、それを物語っている。
(´・ω・`)「さて、オーナーさんは、いつその質問を受けたのかな?」
( ゚д゚)「ちょっと待ってください」
東風は慌てて手帳を開き、ページを繰っていった。
( ゚д゚)「勤め始めて二日目ですから、ほぼ一週間前です」
(´・ω・`)「つまり、一週間前には、既に誘拐事件は計画されていたことになる」
( ゚д゚)「そうなりますね」
(´・ω・`)「誘拐事件は、身代金の受け渡しだけが肝なんじゃない。誘拐が肝でもあるんだ。
. 受け渡しの話は、誘拐の手段をだしたあとで考えたろうから、
. 実際の誘拐事件の計画は、もっと前から練られていたに違いない」
.
- 224 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:02:58 ID:nsZbpxssO
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ショボーンは、話しっぱなしで口が渇いたのか、コーヒーを多く口に含んだ。
ちいさな溜息をついて、カップをテーブルに戻した。
(´・ω・`)「つまり、害者のアルバイトの動機は、誘拐事件にあるんだ」
( ゚д゚)「一週間前、ですか」
(´・ω・`)「この一週間というのが、ポイントになるかもしれないな。若手に言っておくか」
と言って、携帯電話で若手にこのことを告げた。
伊藤やほかの刑事にも伝えるよう言って、電話をきった。
(´・ω・`)「害者の知り合いのなかに、一週間くらい前になにかアクションを起こした人物がいたら、
. ペニーを使っていろいろ吐かせるか。たとえそいつがシロでも、だ」
東風は、その取調を受ける男性を案じ、苦笑した。
伊藤の取調は、尋常じゃないのだ。
近々、誘拐犯グループの一員らしき人物がわかるかもしれない、そう思うと、ショボーンは嬉しかった。
微かな望みではあるが、まったく進展しないよりかは、断然よかったのだ。
ショボーンがコーヒーを呑んでいると、給仕が料理を運んできた。
彼らは、少し遅い昼食をとることにした。
.
- 225 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:07:11 ID:nsZbpxssO
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ショボーンは、列車のなかで弁当を食っているので、サンドイッチをつまむ程度でよかった。
しかし東風は、伊達邸に行ったり、シベリア県警に行ったり、
ルグロラージ駅に行ったり、まるで休む間すらなかった。
ピラフの食いっぷりからするに、この調子だと、おかわりでもしそうだった。
早いうちに捜査を再開したいショボーンにとっては、
ここでおかわりされると、少し面倒に思うところである。
(´・ω・`)「第二の受け渡しなんだけどさ」
( ゚д゚)「はい」
東風はスプーンを置いて、ショボーンを見た。
(´・ω・`)「爆弾騒動は知ってるよね」
( ゚д゚)「まあ。シベリア県警にも、どっとマスコミが来たものですから」
と、苦笑混じりで言ったのを聞いて、ショボーンは「やはりか」と言った。
今時の新聞記者は、怖いな、とショボーンは思っていた。
(´・ω・`)「爆弾は、誘拐犯が仕組んだに違いない。
. しかし、それはどうでもいいんだ。問題は、身代金のほうなんだよ」
( ゚д゚)「身代金が、どうかしました?」
.
- 226 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:12:36 ID:nsZbpxssO
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(´・ω・`)「爆弾騒動を利用し、誘拐犯はバッグを運んだ。
. しかし、列車内を捜し持ち物検査もしたけど、見つからなかったんだ。
. ゴドーム駅にも問い合わせたが、ボストンバッグを持って下車した乗客はいない、と言っていた」
( ゚д゚)「そんなはずがないでしょう。
別のかばんに詰め替えたりでもしたのでは?」
(´・ω・`)「それも考えたが、ワカッテマスが虱潰しに調べていっても、結局金は出てこなかった。
. 極めつけに、爆弾騒動以降は、窓は開かれてないと来たもんだ」
そして、続けて「身代金は消えたのだよ」と言って、
ショボーンは二つ目のサンドイッチを口に放り込んだ。
東風も、目をしばたたいていた。
ショボーンの話通りだとすると、身代金はどこに行ったのか、見当もつかないのだ。
かといって、殺人事件があったわけではないし、爆弾も未然に処理された上、
誘拐事件を公にするわけにはいかないので、運行を中断して捜査するわけにはいかなかった。
ただでさえマスコミが目を光らせているのに、ここで列車を止めると、間違いなくマスコミに嗅ぎつけられる。
ショボーンとしては、今日一日の運行を終えたのち、捜査する予定だった。
.
- 227 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:16:58 ID:nsZbpxssO
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(´・ω・`)「どう思う?」
ショボーンは、この消えた身代金の行方について東風の見解を聞いた。
「なにをですか」とは問わず、すぐに、東風はショボーンの望む答えを返した。
( ゚д゚)「消えたなんてのはあり得ません。
現場にいかない限りなんとも言えませんが」
(´・ω・`)「行方はどこだと思う?」
( ゚д゚)「車掌たちは、そうとう急いでいらした。
きっと誘拐犯は網棚の上にでも置いたのだが、
それが、急いでいた車掌たちに運よく見つからなかった。
たった、それだけのことでしょう」
(´・ω・`)「棚に置いたなら、必ず目撃者はいる。
. 犯人は、そんなリスクを冒してまで、
. まして、そんなばれやすそうな場所に置かないんじゃないか?」
( ゚д゚)「ほかに思いつかないんですがねえ」
(´・ω・`)「まあ、そうっちゃそうだな」
東風が口惜しそうに言ったのをショボーンは汲み取って、相槌を打った。
正直言って、ショボーンも見当がつかなかったのだ。
一億と言っても、詰める分にはかなりの量だ。
鞄に金を移し替えるのは簡単でも、調べられるだろうというのは向こうも考えたはずである。
なにより、受け渡しに列車を指定したのは、向こうなのだ。
なんらかの回収方法を用意していたに違いない。
しかし、ショボーンは、一つ考えがあった。
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- 228 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:21:13 ID:nsZbpxssO
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(´・ω・`)「(デルタ車掌長が運んだ、とでも言うのか?)」
一瞬、自分で、これかもしれない、という自信はあったが、その推理はすぐに崩れたことに気がついた。
関ヶ原は、爆弾騒動が起こってから三分もしないうちに、八号車でアナウンスをしていた。
移し替えるにしても、棚の上に載せるのにも、五分がぎりぎりだろう。
まして、三分と言っても、乗客が落ち着くまでの時間もあわせてある。
どこかに無造作に放り出して、やっと間に合うか、という時間なのだ、この三分とは。
ショボーンは、それを思い出した。
無造作に置かれていたら、さすがに捜査の素人である車掌でもすぐに見つけそうなものである。
それが、急いでいたとしても、だ。
(´・ω・`)「(実際に、犯人は身代金を消したんだ。
. トリックがなければ、おかしい)」
コーヒーを呑もうとすると、既に空なのに気がついた。
それを見かねた給仕が、そっと注いでくれた。
.
- 229 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:28:04 ID:nsZbpxssO
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−3−
真山田(まやまだ)ネーノ刑事と伊藤ペニサス刑事は、なんとしても誘拐犯グループを特定するべく、
予てから御前モカの周辺にいた人物に対する聞き込みを、徹底していた。
だが、いくら聞き込みしても一向に誘拐犯の関係が見えてこない現実に、真山田は苛立っていた。
先程までも、御前の中学時代の同級生に対する聞き込みを当たっていた。
ところが、急に若手ワカッテマスがそれを調べると連絡を寄越したので、
二人は聞き込み対象を小学校にシフトしようとし、シベリア南第三小学校の門から出てきたところだった。
頭を掻きながら、真山田はぼやいた。
( `ー´)「あいつは、あの膨大な量からどうやって調べるってんだよ」
('、`*川「絞る条件を変えるそうだよ」
と、小学校の校長からいただいた、二十三期生の卒業アルバムと名簿に目を通しながら、伊藤は言った。
やはり、中学ほどではないが、それでも数百をいく膨大な量だった。
真山田も、その量を見て「うげぇ」と言い、すぐに視線を空に向けた。
.
- 230 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:35:08 ID:nsZbpxssO
-
( `ー´)「絞る?」
('、`*川「手がかりがA型だけじゃ、いつまで経っても特定なんてできないだろうって。
いろいろ推測で当てはめるようね」
( `ー´)「こっちにも教えろってんだ、条件」
('、`*川「彼はちょっと変わってるからね。
独りで、調べたいんじゃない?」
( `ー´)「捜査はチームワークが大事なのに」
ショボーンと東風以外、みんなが経歴の浅い新米の刑事なのだが、
真山田は、なかでも情熱と頑固さだけは抜きんでていた。
推理を駆使し頭脳プレーをする若手とひたすら走る真山田では、
とりたてて言うほどではないが、仲はよろしくなかった。
ショボーンは、彼らのこういった人間関係を叱っているも、
真山田も、心の底から若手が嫌いというわけではなかった。
ただ、凡人が天才にする、嫉妬に近い感情にすぎなかった。
('、`*川「喫茶店に寄って、目を通していきましょうか」
( `ー´)「ああ」
小学校が面している道路を北に五分歩いた先の交差点の一角に、喫茶店は在った。
老夫婦が営むちいさな喫茶店だが、客数が少ないぶん、
アルバム等をチェックするのにちょうどよかった。
コーヒーを呑んで、真山田がひとまずと言って寛ぐと、
伊藤は、テーブルの上にアルバムの御前がいたクラスのページを開いた。
.
- 231 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:41:24 ID:nsZbpxssO
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('、`*川「小学校の頃から気が弱そうな少年だったようね」
( `ー´)「へえ、意外だな」
('、`*川「人間、気が弱そうな人ほど、裏の顔は凶暴なのよ」
( `ー´)「ペニーの裏の顔は、お姫様か?」
('、`*川「言ってる意味がわからんね」
真山田がけらけら笑い、伊藤は上品に振る舞いながら、クラス写真を隅々まで見ていった。
小学生というのに皆おとなしそうで、問題児はいなさそうに見えた。
コーヒーに砂糖を入れ、かき混ぜていると、
よほど暇だったようで、マスターの嫁らしき人物が近寄ってきた。
リコ-○ー○)リ「刑事さんですかな?」
( ;`ー´)「えっ! あ、その」
('、`*川「えっと、お仕事は暇なのですか?」
伊藤が遠慮なく言うと、彼女は笑った。
リコ-○ー○)リ「いつもこんなもんなんですよ。
それより、それ、三小のアルバムじゃないのかい?」
彼女がアルバムを指して言うと、伊藤は目をまるくした。
真山田は、三小というのが、シベリア南第三小学校の
愛称であると気がつくのに、少し時間がかかった。
.
- 232 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:46:03 ID:nsZbpxssO
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('、`*川「わかるんですか」
リコ-○ー○)リ「んな、当然じゃないですか。
これでも、あの小学校ができる頃からここもあるんですから」
('、`*川「小学生も、よくここにくるのですか?」
リコ-○ー○)リ「ませガキが、小銭ば握ってコーヒー呑みに来ることもあるんよ。
まあ、だいたいが半分ほど残してきますけどなあ」
と、独特のイントネーションで毒々しく言ったので、伊藤は苦笑した。
どうやら、この人はお節介焼きの小言がすぎるおばあさんなんだな、と真山田は思っていた。
信号無視でもする小学生がいれば、すぐに飛び出して、注意でもしそうだ。
('、`*川「二十年ほど昔のことも、覚えてたりしますか?」
リコ-○ー○)リ「こう見えて、あたしゃ記憶力と暗算の速さは自信がありますよ。
この店の経理とかしてるからねぇ」
('、`*川「じゃあ、二十年くらい前に、あの小学校の生徒が
問題を起こしたこととか、ありました?」
リコ-○ー○)リ「んにゃ、信号無視以外は知らんね。
あたしが事ある毎に逐一告げ口してったら、
すっかり問題はなくなってたしのぅ」
('、`*川「じゃあ、将来、凶悪犯になるような生徒もいなかったんですね」
.
- 233 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:51:39 ID:nsZbpxssO
-
何気ない質問のつもりだったのだが、そう聞くと、その女性は険しい顔をした。
リコ-○−○)リ「なにかあったんか?」
('、`*川「いえ。ちょっと、ね」
リコ-○−○)リ「嫌だね。今まで何千人もの卒業生を見てきたけどね、
そんな悪い子はいなかったよ。いたら、捕まえて、一時間は説教してますから」
急に早口になり、次々に言葉を放っていった。
年かさの人は、何かと怒れば口調が速くなる。
('、`*川「すみません」
リコ-○ー○)リ「別にいいんよ。人間は、そのうちかわるもんだからのぅ。
うちの人だって、昔はええ男だったのにさ、今じゃ若い娘に目移りしてばっかでのぅ。
そうそう、刑事さんだってアブナいよ」
( `ー´)「こいつに限ってそれは――」
真山田が何か言おうとしたのだが、呻き声とともに、止めてしまった。
伊藤が、真山田の足を思いっきり踏んだのだ。
しかも、踵で指を踏んだせいで、ものすごく痛がっている。
('、`*川「じゃあ、こんな感じの少年は、非行に走るとかはなさそうですかね」
と、アルバムを差しだし、御前の写真を指して言った。
集合写真ゆえに、ちいさいからか、女性はじっと写真を見つめていた。
「ああ」と声を長いこと漏らし、彼女は顔をあげた。
.
- 234 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:54:31 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「なんじゃ、モカちゃんじゃないのかい?」
('、`*川「知っているのですか?」
リコ-○ー○)リ「そらーいい子なんですよ。
かき氷の季節になると、たまにうちに来て、うまそうに食べてたのぅ」
('、`*川「それは、いつのことですか?」
リコ-○ー○)リ「そこまでは覚えとらん。でも、まじめで、特に非行に走ると思えないね」
伊藤は、思わぬ収穫の可能性に胸を弾ませた。
もしかしたら、誘拐犯のつながりを追えるかもしれないのだ。
たとえ空回りでも、御前のエピソードを聞けるのは、それだけで価値があった。
リコ-○ー○)リ「あたしゃ、リコと言いますよ。あなた方は?」
('、`*川「VIP県警の伊藤です」
( `ー´)「同じく、真山田です」
リコは、まじまじと手帳を見つめた。
よほど警察手帳に興味があったようである。
この様子では、近くで事件が起きたことがないというのも嘘ではないだろう。
リコは、伊藤の隣に腰掛けた。
.
- 236 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 11:58:28 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「なにを話せばええんかいの」
('、`*川「モカという人物について。
リコさんの主観でいいですので」
リコ-○ー○)リ「うんとなぁ。シャイで、人見知りするけどな、打ち明けた人には明るかったのぅ。
うちでかき氷食うときもな、あたしが話しかけたらさ、最初は驚いてたんだこれが。
でも、気がつくと、モカちゃんから話しかけてくれてねぇ。
学校の話とか、親父にぶたれたとか、言うんだわ」
('、`*川「悪いことをした、とかは?」
と、伊藤は控えめに聞いた。
リコは、首を横にぶるんぶるん振った。
リコ-○ー○)リ「ぜんぜん。たまに、優柔不断なところが
あったから、叱ってやったことはあるけどねぇ」
('、`*川「将来の夢とかは、ありました?」
リコ-○ー○)リ「昔は、本屋さんになりたいって言ってたと思いますよ。
本屋と図書館を一緒だと思ってたみたいだったけどね。
どちらにせよ、司書も似合ってたけどねぇ。
まあ、さすがに大人になると、その夢もかわったようでしたよ」
('、`*川「というと?」
.
- 237 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:02:41 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「何年か前に、久々にうちに来たんで、話すると、名の通った仕事に就いたんだってねぇ。
そりゃーもうたまげましたよ。あの子が、そんなすごい職に就くなんて」
('、`*川「数年前にも来たのですか」
リコ-○ー○)リ「ええ、来ましたよ。
見違えるように成長してさぁ。コーヒーも呑んでた」
と、リコは遠い目をして、言った。
まるで、我が子の成長でも思い出して、感傷に浸っているようだった。
そして伊藤は、自分が緊張しているのに気がついた。
数年前という、今までで一番新しい情報がわかると思うと、
どうしても、先程までのように落ち着いてはいられなかったのだ。
( `ー´)「大企業といえば、アンモラルとかかな?」
真山田が伊藤に聞くと、リコは首をかしげた。
リコ-○ー○)リ「名前は忘れた。大きな宝石商の社員だったはずだけどねぇ」
( `ー´)「宝石商?」
('、`*川「勝ち組じゃない。すごいですね」
.
- 238 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:04:47 ID:nsZbpxssO
-
伊藤はすっかり感心した。
銀行員や公務員、宝石商と言った職業は、将来有望と思っているのだ。
一方でリコは、あたかも自分の息子が褒められたかのようで、
とても誇らしげであり、同時にとても嬉しそうだった。
リコ-○ー○)リ「ああいう子がね、もっと増えてほしいから、あたしも目くじらたてて
じゃんじゃん悪ガキを叱ってんだよ。ほんとう、可愛い悪ガキどもだわ」
('、`*川「あなたも叱られたら?」
( `ー´)「ごめんだい」
.
- 239 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:07:18 ID:nsZbpxssO
-
リコと伊藤は笑った。
真山田が頭を掻いていると、扉が開いた。
鐘が鳴ったので、リコはすぐに反応した。
仕事柄、この鐘の音には敏感なのだろう、と伊藤は思った。
リコ-○ー○)リ「あら、恥ずかしいところを」
( <●><●>)「ここの主人はいらっしゃいますか?」
リコ-○ー○)リ「いますよ」
入ってきた男を見て、真山田と伊藤はほぼ反射的に反応した。
リコが鐘の音を聞くとすぐ反応するように、真山田と伊藤も。
男が彼らのほうを見ると「おや」と言った。
( `ー´)「ワカッテマス!」
('、`*川「どうしてここにいるの?」
慌てた二人を見て、若手は口に手の甲をあて微笑した。
リコは、訳がわからず、三人の話を聞こうとしていた。
ちゃっかりしてるな、と若手は思ったが、気にしなかった。
.
- 240 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:08:39 ID:nsZbpxssO
-
( <●><●>)「害者のお気に入りの喫茶店、というのがわかったのでね」
リコ-○ー○)リ「……害者?」
( <●><●>)「申し遅れました、VIP県警の若手です」
と言って、若手は警察手帳を見せた。
が、リコはそんなことはどうでもよかった。
リコ-○ー○)リ「伊藤さん」
('、`*川「は、はい」
伊藤は緊張した。
明らかに、リコの顔つきが豹変っていたのだ。
声も太くなっているし、拳も震わしている。
リコ-○−○)リ「事件って、モカちゃんが――」
( <●><●>)「伊藤さん、あなた、もしかして?」
('、`;川「……」
.
- 241 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:11:11 ID:nsZbpxssO
-
リコは、事態を察したのか、その場に崩れ落ちた。
わなわなと、身体を震わした。
声も、自然とふるえてきていた。
リコ-○−○)リ「モカちゃんが、死んだんですか?」
('、`;川「え、ええ」
リコ-○ー○)リ「……そうか。やっぱり、なにかがあったんだねぇ」
( <●><●>)「やっぱり?」
リコ-○ー○)リ「口止めされてたから言わなかったけどさ、
そういうことなら、言っちゃうしかないね」
( <●><●>)「なにかあるのですか?」
リコ-○−○)リ「その前に。ほんとうに、モカちゃんは、殺されたのですか?」
( <●><●>)「はい」
リコ-○−○)リ「……」
.
- 242 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:18:32 ID:nsZbpxssO
-
すると、リコは、ぽつぽつと話し始めた。
どうやら、当初は話すつもりなんかさらさらなかったようだった。
その気持ちがあらわれているから、そうわかった。
リコ-○ー○)リ「あの子ね。十日ほど前かに、ここに来たんよ。
いつになく深刻な顔だったから、なにかあったのかなって思ってたらさ、モカちゃんが」
リコ-○ー○)リ「『ぼくは、失業した。そのせいで、本来ならのらないはずの誘惑に、
ぼくは負けてしまった。昔からお世話になってきたのに、申し訳ない』って」
( <●><●>)「失業、ですか」
リコ-○ー○)リ「すぐになにかまずい事をしでかすとわかったし、本来なら叱るか励ますんよ。
失業なんて気にすんじゃないよ、とか言って。
でも、そのときのモカちゃんの顔からするに、完全に思い詰めていた。
これは、あたしがなに言っても仕方がない、そう思ってねぇ」
コンビニ店員のアルバイトの件とも、理屈が合う。
どうやら、御前は、誘拐の少し前に、リコにだけ真実を言っておきたかったのだろう。
自分が、近々大きな犯罪を起こすということを仄めかして。
天涯孤独の彼が頼れる、数少ない人物である彼女に。
情に脆い伊藤は、当時の御前を自分に当てはめ、同情していた。
.
- 243 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:21:29 ID:nsZbpxssO
-
( <●><●>)「そこで、終わりでした?」
リコ-○ー○)リ「ええ、そうですよ。コーヒーをあげる暇もなかったよ」
若手は、手帳にリコの証言を書き留め、礼を言った。
そして、そのまま出そうだったので、真山田と伊藤は慌てて彼のあとを追った。
扉の前で、二人とも深々と頭を下げたとき、リコは言った。
リコ-○ー○)リ「絶対に、犯人をとっ捕まえておくれよ」
('、`*川「はい。……必ず」
( <●><●>)「じゃあ、ここで」
( `ー´)「あ、待てよ!」
若手がそそくさと出て行ったので、真山田は自慢の脚で走って
追いかけ、その後ろを伊藤が追いかけるかたちとなった。
三人を見送ってから、リコは椅子に座った。
.
- 244 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:22:09 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「これで、よかったんだろうかねぇ……モカちゃん?」
リコは、そっと涙を流しながら、そう呟いた。
.
- 245 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:27:49 ID:nsZbpxssO
-
−4−
ショボーンは時計を見た。
十五時一八分。
ショボーンは不安に思い、伊達に電話をかけた。
(´・ω・`)「もしもし、ショボーンです」
『なんだ、ショボーン君かね』
伊達は、ほっとしたような声をしていた。
どうやら、誘拐犯からだ、と思ったようだ。
ショボーンは微笑した。
『いまニュースを見ていたのだがね、なんだ、爆弾騒動とは』
(´・ω・`)「はい。どうやら、向こうは爆弾を用意し、
. その騒動に乗っかって身代金を運ぼうとしたようなのです」
『それで、ショボーン君は、無事なのかね?』
ショボーンは、おや、と思った。
自分の身を案じられるとは思っていなかったようである。
(´・ω・`)「無事ですよ。ありがとうございます」
『身代金はどうだったのかね?』
(´・ω・`)「まんまと奪われました」
『なにをやってるのだ!』
- 246 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:30:29 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「落ち着いてください。いま、少しずつですが、
. 進展の兆しが見えています。誘拐犯逮捕も近いことでしょう」
と、ショボーンはここで嘘を吐いた。
ほんとうは、御前が誘拐犯のひとりである、という点以外、なにもわかってないのだ。
伊達は、なおも声を荒げていた。
不安が拭いきれないせいで、かなり気が立っているようだった。
(´・ω・`)「それよりも、次の指令はきました?」
『……いや、まだだ』
(´・ω・`)「一応、のちにそちらに向かいますが、それまでに指令がきたら
. 向こうの要求をメモして、我々に一報お願いします」
『はやく頼むよ。私は、不安で仕方がないんだ』
(´・ω・`)「わかりました」
と言って、ショボーンは電話をきった。
東風は、皿の上にスプーンを置いて、コーヒーを呑んでいた。
電話が終わったのを見て、東風は言った。
( ゚д゚)「さて、次は、どうでますかね」
.
- 247 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:34:26 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「わからないな。向こうは、身代金の受け渡し場所に
. 二回連続で妙な場所を指定してきたんだ。予想できない」
( ゚д゚)「次も、大型スーパーとか学校とかを言ってきそうなもんですね」
と、東風は苦笑して言った。
これが予想できたものなら、どれだけ楽か。
読ませないのも、向こうの作戦なのだろう。
(´・ω・`)「それより、僕は爆弾騒動のほうが気がかりだ。
. 誘拐犯を追ってたせいか、爆弾騒動のことはよく知らないんだからね」
( ゚д゚)「夕刊がでてるようですから、買いに行ってきましょう」
(´・ω・`)「頼むよ」
と言って、東風は一度喫茶店を出て行った。
爆弾騒動の世間の見方、記事の取り上げ方が気になっていたのだ。
ラルトロス大橋という鉄橋に爆弾が仕掛けられ、列車は停車され、爆弾が処理された。
ダイヤが狂い、大騒動となっている。
近年、こう言った爆弾騒動を聞かなかったぶん、余計に
記者も民衆も面白がって、その記事をみるだろう。
シベリア県警や、VIP県警、そしてオオカミ鉄道を
新聞はどう取り上げているかにも、興味があった。
( ゚д゚)「やはり、すごい騒ぎですね。
これじゃあ、ゴシップもいいところです」
と言いながら、新聞片手に、東風が戻ってきた。
朝曰新聞その他数社の新聞を買ってきたようだ。
.
- 248 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:38:52 ID:nsZbpxssO
-
東風はゴシップ同様と言った。
ショボーンはなんだと思ったが、持っていた新聞の
見出しには、確かに幾らか誇張された表現が窺えた。
〈オオカミに謎の爆弾テロか!?〉
〈大型爆弾でオオカミ襲撃〉
なかでも、朝曰新聞は、すごいものだった。
〈オオカミ襲撃、警察に対する抗議か?〉
という見出しで、事件の概要を冒頭に書いた後は
ただずっと記者の憶測が書かれてあったのだ。
爆弾騒動の裏に警察がいるとか、警察は内密で爆弾に
まつわる事件を追っていたに違いない、などだ。
やはりショボーンが、同乗していたのが、まずかった。
VIP県警では、誘拐事件を公開していないため迂闊なことが話せず、
それ故に記者会見にて後ろ暗く思われたのが、後押ししたようだった。
騒動が起こったというのに、涼しい顔をして通常運行するのは
どういう判断なのだ、とオオカミ鉄道を叩く文面も見られた。
(´・ω・`)「めぼしい情報はないな」
( ゚д゚)「そりゃ、ついさっきの事件ですからね。
だから、話を盛って、中身を充実させたのでしょう」
(´・ω・`)「フォックスさんもすごい謝ってるな」
( ゚д゚)「フォックスというと」
(´・ω・`)「大神フォックス。オオカミ鉄道の総裁だ」
.
- 249 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:43:21 ID:nsZbpxssO
-
大神フォックス総裁と重役とが並んで、一斉にフラッシュを浴びているのが、写真越しにわかった。
キセル片手ならどれほど面白いことか、とショボーンは冗談半分で思っていた。
しかし、内容は冗談じゃなかった。
大神が、自社の売名行為に今回の騒動を引き起こしたのではないか、という見解もされていたのだ。
さすがのショボーンも、これを見て笑うことはできなかった。
東風が二杯目のコーヒーを呑み終える頃に、丁度ショボーンに電話がかかってきた。
シベリア県警のフィレンクト警部からだった。
殺害された御前の自宅に向かうとのことなので、そのことを伝える電話だった。
ショボーンも急いでそちらに向かうと言って電話をきり、東風にその旨を告げた。
パトカーに乗って、御前の自宅へと急行した。
団地の一角にそびえるマンションで、既に玄関口には
シベリア県警と書かれたパトカー含む、数台が停まってあった。
東風が近くに停め、フィレンクトと合流して管理人に会い、家宅捜査が行われた。
.
- 250 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:46:54 ID:nsZbpxssO
-
(‘_L’)「らしいっちゃらしい住まいですね」
(´・ω・`)「フリーターだし、無駄に広い家に住むわけにもいかないのでしょうな」
エレベーターで三階に向かい、出て、右手の突き当たりまで歩くと、そこが御前の家だった。
管理人が鍵を開けて、どかどかと入っていった。
玄関にやけに高そうな絵画が飾ってある点以外は、華やかさは
まるでない、男の一人暮らしにありがちな生活様式だった。
1LKで調度品は揃っているが、それ以外がまるで揃っていない。
自宅で娯楽に費やす時間すらないのか、そういった類のものすら見当たらなかった。
ベッドの上の布団は綺麗に折り畳まれていて、
新聞や雑誌類は隅のほうに纏めて縛られていた。
まさにすみずみまで整理整頓が行き届いており、
御前は几帳面な性格の持ち主である、と思わせた。
(´・ω・`)「きれいな家だな」
( ゚д゚)「男の一人暮らしは、部屋が散らかっていて
当然だと思っていたのですがねえ」
と、笑いながら言った。
東風も感心したようだった。
.
- 251 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:49:51 ID:nsZbpxssO
-
(‘_L’)「人間関係から犯人をあぶれだせなかった以上、
手紙や日記などから見つけたいものですね」
(´・ω・`)「じゃあ、失敬して」
と言って、ショボーンたちは次々に箪笥のなかを漁りだした。
今時手紙を出す人は少ないが、年賀状や残暑見舞いが残っていれば、
そこから連鎖的に、誘拐犯と思わしき人物をあぶり出せるかもしれないのだ。
また、誘拐の計画書を書かれた紙でもあれば、一気に
捜査が進みそうなものだったが、それは期待できなかった。
鑑識が指紋を次々見つけていくが、ほとんど同じようなものだった。
御前の指紋は、この際どうでもいいのだ。
.
- 252 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:52:43 ID:nsZbpxssO
-
数十分、捜査が行われた。
互いに御前の話を交わしながら、情報を集めていった。
ショボーンの追う人物とフィレンクトの追う人物が同一である可能性は極めて高いため、
もしここで証拠のひとつでも掴む事ができれば、互いの事件は一気に進展する。
そのためか、ショボーンもフィレンクトも、すっかり張り切っていた。
クローゼットや戸棚はもちろんのこと、風呂場の天井裏にいたるまで、すみずみまで調べていた。
ショボーンは、電話番号を書き連ねられた電話帳を特に捜したが、見つからなかった。
今時の若い者は、そういうのはすべて携帯電話に記憶させているのか、とショボーンはぼやいた。
だから、というわけではないのだが、携帯電話も重点的に捜した。
最近の携帯電話は、薄型モデルの物がやたらに多く、ないに等しいほどの
隙間にでも潜んでそうで、ショボーンはそういった隙間に過敏になってきた。
しばらくして、ショボーンは眉間にしわを寄せた。
(´・ω・`)「妙だ」
(‘_L’)「手がかりが、なさすぎますね」
.
- 253 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:56:31 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「携帯電話ですが、現場にありましたか?」
(‘_L’)「まさか」
とフィレンクトが即答したので、ショボーンは肩を竦めた。
自分たちの存在がばれないようにと、足がつきそうな物はすべて持ち去られたのだ。
なにも見つからない以上、そのように見ていいだろう。
そうなると、ここを捜査して進展が見込まれる可能性は、ぐっと低くなる。
向こうは素人なのに対し、こちらは捜査のプロなのだから、
どこかには手がかりが残ってるかもしれないが、ショボーンは
ここにはもう手がかりは残ってないだろう、と思っていた。
そんな中、風呂場にいた東風が、ショボーンのもとにやってきた。
長い、髪の毛のようなものを持っていた。
( ゚д゚)「排水溝をほじった甲斐がありましたよ」
(‘_L’)「鑑識!」
茶色で、目測十五センチはあった。
確か、モカは短髪で、しかも黒髪だっただろう。
また、彼は天涯孤独で、友人の線はないと見ていい。
すると、これは誘拐犯の一人が残していったものではないのか。
そう思うと、ショボーンは興奮してきた。
.
- 254 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 12:59:36 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「よく見つけた」
( ゚д゚)「この長さは、男にはなかなか見られません。つまり女です。
血液型にもよりますが、もしこれがA型なら、いっそう犯人を絞れるはずですよ」
東風は鼻息を荒くして言った。
髪の毛の血液型の判定が出次第報告するよう頼み、
ショボーンと東風は捜査を切り上げることにした。
ショボーンは時間が惜しかった。
あの髪の毛の血液型がAとわかれば、主犯格の人間の髪の毛と見て間違いはないと思われる。
すると、主犯格は茶髪で、セミロングの女か、長髪の男となる。
つまり、これで半分ほど絞れることになるのだ。
ショボーンはそれだけで充分だった。
また、御前がコンビニに出勤した十五日の夕方頃以降、御前は
風呂に入れず、必然と、入ったのは朝から昼までの間となる。
髪が見つかった以上は、主犯格が御前よりあとに風呂を使ったことになる。
それは朝から昼までの間なので、もしコンビニに向かうまでの間に
煙草を買うなどで外出したら、目撃者がいてもおかしくない。
ショボーンはその可能性に期待した。
.
- 255 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 13:02:59 ID:nsZbpxssO
-
(‘_L’)「十五日の昼間に、この部屋を出入りする人がいたかの聞き込み、ですか」
(´・ω・`)「はい。おそらくは、あの髪の毛の持ち主はモカ殺しの犯人です。
. すると、必然と犯人は昼間以降にここを出たことになるので、目撃証言が出てもおかしくない。
. 仮に髪の毛の持ち主が犯人でなくとも、誘拐犯の一人であるには違いないので
. 収穫がないことはない、僕はそう考えますからね」
と頼むと、フィレンクトは快く承諾し、シベリアの刑事を遣わせてくれた。
同じ階に住む人に訊くよう言っていた。
血液型の判定と一緒に、聞き込みの結果も教えると、フィレンクトは約束した。
ショボーンと東風は礼を言って、マンションをあとにした。
主犯格が御前の部屋から手がかりを持ち去ったとすると、
ほかにすることがないから、というのが理由のひとつである。
別の理由に、次の指令までの間に、なんとしても通話先の人間を押さえる必要があった。
もっと直訳して言うと、御前以外の誘拐犯のメンバーを見つけだす必要があったのだ。
捜査本部に戻る頃には、午後四時になっていた。
ぶ厚い雲が太陽を隠したせいで、すっかり風も冷たくなり、寒くなってきた。
ショボーンは、羽織っているトレンチコートを入念に着込んだ。
.
- 256 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 13:07:16 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「『あさやけ4号』がクロコーダイル駅に着くのはいつだ」
唐突に訊かれたので、東風は慌てて時刻表を取り出した。
爆弾騒動によるダイヤの狂いはもう取り戻した、
そう言っていたので、正確な時間に列車は着くだろう。
( ゚д゚)「一八時の三二分です」
(´・ω・`)「まだ列車は調べられないなあ」
( ゚д゚)「その前に指令がくるでしょうね」
ショボーンは苦い顔をした。
身代金が消えた謎を、なんとしてでも暴きたかったのだ。
そこから犯人像につながることも決してないわけではないし、
今なお平常運行しているのを見ると、犯人は、自然に外に運び出したことになる。
何度も言うように、車掌が調べてもなくて、若手が廻ってもなかったのだ。
それなのに、穏やかな方法で外に運び出せるはずがないと、ショボーンは睨んでいた。
(´・ω・`)「十号車、九号車ともに大きな窓もないし、デッキも乗降口もない。
. まして、ベッドの下やカーテンで隠したわけでもないんだ」
( ゚д゚)「やはり、爆弾騒動が原因でしょう」
.
- 257 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 13:11:25 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「あれで、どさくさに紛れて八号車に持ってきた、と言うのか?」
( ゚д゚)「というより、現場を見ないとなんとも言えないのです。
自分が捜して身代金の通路が見つからなければ、そのどさくさ以外には考えられない」
と、自分が蚊帳の外にいるのが口惜しかったのか、東風は意地が悪そうに言った。
ショボーンは、東風の捜査の腕が一流なのを思いだし、微笑した。
まさしく『千里眼』を持つ男であることを、ショボーンは思い出したのだ。
確かに、さぞ口惜しかろう、と心の中で同情していた。
口に出さないのが、いかにもこの男らしかった。
(´・ω・`)「話を戻そう。犯人は、九号車から八号車には来なかったと思うね」
( ゚д゚)「なぜですか?」
(´・ω・`)「僕も人の波に呑まれたが、誘拐犯は乗客が扉でつっかえている時に身代金に触ったんだ。
. どさくさに紛れて運び出すには、タイミングがおかしい。
. それに、僕も八号車に追いやられ、扉の前でボストンバッグがくるのを
. 見張ってたけど、結局持ってくる人はいなかったんだよ」
( ゚д゚)「では、九号車、若しくは十号車から身代金を消した訳ですか」
(´・ω・`)「でも、あそこから外部につながる箇所なんて、ないからな」
.
- 258 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/01/28(土) 13:16:08 ID:nsZbpxssO
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( ゚д゚)「その列車には、乗務員室もないのですか?」
(´・ω・`)「寝台車両にはなかったね」
当時の情景を思い出すように、憮然として言った。
しかしその直後、ショボーンの脳内に「乗務員室」という言葉が反芻した。
なにかが引っかかる、本当に抜け道などなかったのか?
そう思っているうちに、ショボーンは眼を見開いた。
そして「乗務員室」という言葉でなにかが閃き、大声をあげた。
(;´・ω・`)「……あッ! もしかして!」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第四章
「 消えた身代金 」
おしまい
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