- 320 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:31:09 ID:mRtbd39YO
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第六章
「 三度目の衝突 」
−1−
二〇時きっかりに電話が鳴った。
きっかりというのをみて、相手は誘拐犯だとわかった。
やはり、誘拐犯のひとりは几帳面な性格を持つようだ。
伊達が一瞬顔を歪めたが、慣れたのか、すぐに落ち着きを取り戻した。
レコーダーは回りはじめている。伊達もペンを持ち、電話に応じた。
|(●), 、(●)、|「…………もしもし」
『次の指令だ』
|(●), 、(●)、|「言ってくれ」
伊達は落ち着いて言った。
誘拐犯の、ボイスチェンジャーを通した声が続けた。
.
- 321 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:35:15 ID:mRtbd39YO
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『次は二〇時二〇分、VIPの北にあるホテル「ひるがさき」のクロークにボストンバッグ三つに一億を詰めて預けろ。
交換札をもって、向かいのコインランドリーの入って右手、上段の四つ並んだ右から二番目に札を置け』
|(●), 、(●)、|「誰が持っていけばいいんだ」
二度目の例があったので、伊達は訊いてみた。
すると、誘拐犯はくすっと笑った。
『言うまでもない、そこにいる刑事だ』
(´・ω・`)「!」
|(●), 、(●)、|「わかった。今日の二〇時二〇分だな?」
『そうだ』
肯いて、誘拐犯はすぐに電話を切った。
伊達が、メモをとった紙をショボーンに渡した。
その紙に目を通す前から、ショボーンの顔はゆがんでいた。
なぜ、あんなに堂々と警察と張り合えるのかがわからなかったのだ。
確かに二度、ショボーン率いる警察は見事なまでに負けた。
だが、だからといって、警察を相手にとるのは何度目であってもリスクが高いはずだ。
余裕に満ちているだけなのか、次も逃げきれる自信があるのかはわからない。
わからない分、ショボーンは腹がたっていた。
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- 322 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:39:08 ID:mRtbd39YO
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(´・ω・`)「完全に僕を嘗めているな」
( <●><●>)「チャンスです、早速いきましょう」
ショボーンは不機嫌を顕わにした。
若手は早速と言って立ち上がったが、ショボーンはそれをいったん止めた。
(´・ω・`)「バッグを……三つだと?」
相手の要求したバッグの数が、三つになっていた。
それが、気にかかったのだ。
金を移し替えるぞと言って、皆で手分けしてボストンバッグに向かった。
三つに一億を分配だから、端数がでる。
札一枚一枚を分ける余裕もないため、三千万と四千万で分けて詰めた。
均等な量ではないが、文句はないだろう。
(´・ω・`)「『ひるがさき』と言えば近いな。
. 信号もあるけど、十分もありゃ着くだろう」
バッグに金を移し終えて、ショボーンは言った。
二〇時〇八分。
バッグを持って、ショボーンと若手は伊達邸を飛び出した。
( ゚д゚)「イツワリさん、自分はどうしましょう」
(´・ω・`)「レコーダーを持って、ドクオ一課長に首尾を報告してくれ」
( ゚д゚)「わかりました」
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- 323 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:42:16 ID:mRtbd39YO
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東風も受け渡しに連れていきたいが、連れていくには二人がぎりぎりだった。
伊達邸に、伊達の保護および連絡係として真山田と伊藤を残す。
緊急で行動が必要になった場合にも、彼らが動かなければならない。
すると、ドクオ捜査一課長にレコーダーを届け、また
現状を伝えるのに、東風をつかうしかなかったのだ。
レコーダーを分析し、手がかりがあれば報告しろと東風には伝えてある。
若手はアクセルを踏み、覆面パトカーを走らせた。
( <●><●>)「ホテルのクロークでしたら、協力を要請すればいいのでは」
(´・ω・`)「時間がないんだ、こっちは」
指令をよこしてきたのが二〇時きっかりで、二〇分に金を持ってくるよう言われた。
さすがに時間的猶予がなさすぎるのだ。
ショボーンは、口惜しく思った。
すっかり、道という道は暗くなっていた。
月が雪雲に隠れているので、街灯だけが頼りだ。
また、雪も少しずつだが降ってきている。
その雪は、徐々に強さを増してくるように思えた。
暖房の効いた車内だが、どこか寒く感じられた。
窓なんかを触るだけで、外はかなり寒いだろうと予測できる。
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- 324 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:46:35 ID:mRtbd39YO
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VIPの中央部ではそれほど雪は降らないが、北のほうでは、シベリアと山を
ひとつしか隔てていないことも関係がありそうだが、よく雪が降る。
この国で寒い地域と言えばキタコレ、アルプス、シベリアが
名前に挙がるが、シベリアは乾燥地域である分、冬場はつらかった。
一方アルプスには水源涵養林が多く、水が豊富である。
シベリアは、それとは対照的に鉱山資源が豊富である。
そのせいで、寒さでは一緒だが、アルプスとは真逆のイメージを受けた。
特徴的なのは、シベリアの寒さがVIPにも押し寄せてきているということだ。
アルプスとはアルプス山脈と呼ばれる標高の高い山脈で仕切られており、
雪雲がやってくることはないが、シベリアとの境はそうでもなかった。
一つの山を境にしているので、よく雪雲や乾燥した風が吹いてくる。
VIPの北端にいれば、それのつらさがよくわかるのだ。
底冷えするような寒さだった。
それは車に乗っていようがいまいが、関係なかった。
通過する街路樹の葉を見ていくが、風に煽られているのがよくわかる。
枯れ木が多くなっていた。
残った僅かな葉のどれもが、必死に枝にしがみついている。
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- 325 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:50:03 ID:mRtbd39YO
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( <●><●>)「………」
若手は、いつの間にか無心になっていた。
運転に際しての意識はむろん働いているが、それ以外はなにも機能していないようだった。
ペダルを踏む足の感覚さえ疎かになってきている。
警察官が、しかも任務中にわき見運転をするなどもってのほかだが、視線は宙を泳いでいた。
伊達邸をでてから二つ目の信号に差し掛かり、はっとしてブレーキをかけた。
(´・ω・`)「ホテルのクロークは、一見すれば都合の良い受け渡し場所だ。
. だが、実はいくつものリスクをかかえているんだ」
( <●><●>)「監視カメラに映るし、顔を覚えられ、更にホテル側が逮捕に協力しかねない」
(´・ω・`)「だから、まさかとは思うが――いや、まさかではない。おそらくだ。
. おそらく、このホテルにも罠を張っているに違いない」
( <●><●>)「所轄にも連絡をいれますか。
ホテル『ひるがさき』はVIPの管轄のため、ある程度は融通が利きます」
(´・ω・`)「いや、まずい。向こうはよほど寛大なココロの持ち主のようで、
. 警察に通報したとわかってもどうにもしてこないが、だからといって
. 下手にでると、なにをされるかわからん。僕らだけで立ち向かうんだ」
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- 326 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:53:38 ID:mRtbd39YO
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若手はいったん黙った。
エンジン音がうるさかった。
( <●><●>)「警部は、主犯格自身が直接受け取りにくるとお考えですか?」
(´・ω・`)「わからないな」
ショボーンの一声で、若手は静かになった。
警部にも想像しにくい事が、自分にもわかるはずがないと思ったのだ。
信号が青になったので、再びアクセスを踏んだ。
(´・ω・`)「なんとしても、今回で捕まえなければならない。
. 四度目の指示で、誘拐犯にとっては僕らはもう用なしとなるんだから。
. 逆に言うと、四度目には必ず逃げきれる策を用意している筈なんだ。
. ……今回が、ラストチャンスと思っておけ」
( <●><●>)「方針としては、クロークから出てくる怪しい者がいれば職務質問に応じさせる、
そして誘拐犯であるならば逮捕する、ということでよろしいですかね」
(´・ω・`)「もとより、ほかに法がないだろうな」
(´・ω・`)「ただ、正面玄関からだけではだめだ」
( <●><●>)「私が職員用出入り口を押さえます」
(´・ω・`)「いや……『ひるがさき』の構造を知らないから断定はできないが……」
( <●><●>)「?」
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- 327 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 17:58:00 ID:mRtbd39YO
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(´・ω・`)「トイレや通路の窓、また中庭から……。
. いくつも脱出ルートはあるだろう? それをどうしようか、と思ってたんだ」
( <●><●>)「所轄から数人寄越してもらいましょう」
(´・ω・`)「ただ、張らせるのがばれると、相手はホテル内でバッグを処分して、
. そのまま何食わぬ顔で出てくるだろう。そうなるとおしまいだからなあ」
なかなか決断ができない、優柔不断な一面が見られた。
だが、ここは絶対に逃してはならない場面であるのは間違いなかった。
慎重に慎重を重ねるのが第一である、ということは若手も承知している。
起こり得そうなありとあらゆるパターンを想定し、
それらを片っ端から潰していくと、どうしても回避できない関門が立ちはだかる。
ショボーンの場合、今回のこれが数で挑めない勝負であることが、その関門だった。
誘拐犯にとって、いくらでも脱出口はあるのだ。
また、誘拐犯グループには、茶髪の女と車掌、と最低二人は残っている。
車掌は任務を終え、自由に行動できる身となっているだろうか。
仮にショボーンが数で挑んだとすると、二人のうち一人が身代金を
受け取りにきて、警察が張ってるのがわかれば相方に連絡、そして人質を殺す。
こんなストーリーが、目に見えるように浮かんでくるのだ。
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- 328 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 18:06:14 ID:mRtbd39YO
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(´・ω・`)「時間がないのが痛い。せめて一時間の猶予があれば、
. 全ての脱出口を調べた上で対策ができたんだけどな」
( <●><●>)「それも向こうの作戦でしょう。バッグの数を変えることで、詰め替えさせる。
この動作に費やす時間も向こうの計算の内とすれば、してやられたものです」
ショボーンがあらかじめ金を四つのボストンバッグに詰めたとして、
あえてそれを三つと指定すれば、ショボーンたちは無駄に詰め替えなければならない。
誘拐犯は、そんなところまで見越してバッグを三つに指定したのだろうか。
そうだとすると、非常に先の見通しができる、厄介な相手となる。
(´・ω・`)「検問を張る準備をさせておこう」
( <●><●>)「効きますかね」
(´・ω・`)「わからん。ここらはシベリアのすぐ南というだけあって、多くの森が点在している。
. その気になれば、車で森の中を走ることくらい、訳ないからな」
( <●><●>)「まあ、準備に越したことはないでしょう」
そう言うと、ショボーンは肯いた。
無線を使って、検問の件について話をつけた。
無駄なことをいっさい省き、要点だけを簡潔に手早く
言っているのを見て、さすがショボーン警部だ、と若手は思っていた。
無線機を置いてショボーンが溜息をもらすと、話を変え、若手に質問をした。
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- 329 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 18:11:04 ID:mRtbd39YO
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(´・ω・`)「一度目ではまんまと出し抜かれたが、その理由はなんだったと思う?」
( <●><●>)「私たちが動転してしまい――」
(´・ω・`)「その元凶だ」
( <●><●>)「……? 御前モカ氏が殺害されて――」
(´・ω・`)「そのハプニングのせいで、出遅れた。
. あれがなければ、問題なく誘拐犯を逮捕できた」
( <●><●>)「なにを仰りたいのでしょう」
(´・ω・`)「わからんか?」
(´・ω・`)「……今回も、またあのときのように事件が起こってしまえば、僕らの負けなんだよ」
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- 330 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 18:14:39 ID:mRtbd39YO
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若手は言葉を失った。
誘拐犯を追う以前に、自分は一警察官なのだ。
事件が起これば、否応なく応対せざるを得ない。
今まで何度か考えたことだが、今回は特にショックが強かった。
というのも、次の現場はホテルなのだ。
人の多くが出入りしており、殺人事件から食中毒事件まで、
ありとあらゆる事件が起こり得そうな場所だからこそ、特にそれらが懸念されることとなる。
なにも人を殺さなくていい。
腹痛を起こす薬を食事にばらまくだけで、食中毒となり警察が出動するはめになる。
そうすれば、自ずと誘拐犯グループの勝ちとなるわけだ。
これから十分後に、なにか事件が起こるのではないか。
それが、ショボーンが一番恐れていることのようだった。
次に若手が口を開こうとすると、先にショボーンが開いた。
交差点の先に、おおきなホテルが見える。
どうやら、あれがホテル『ひるがさき』のようだ。
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- 332 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 18:43:45 ID:mRtbd39YO
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−2−
VIP県警は、今晩も忙しいようだ。
警官という警官が走り回っている。
最近は暴力団も台頭してきつつあり、捜査四課が特に忙しい、と知り合いの刑事に聞いた。
だが、仕事量で言えば捜査一課が一番多い、という自負はあった。
悲しいことだが、現代において、刑事事件の起きない日は必ずない。
必ず、人が殺されたり、強盗が起きたり、傷害事件が発生するのだ。
しかも、どれも規模はしゃれにならない。
そのせいで、常に捜査一課はたいへんだ。
時に、倦怠感に見舞われる事もある。
でも、だからこそ、のやりがいを見いだせるのもよかった。
( ゚д゚)「(久々に帰ってきた気がするな)」
毎日のように出勤しているここVIP警察本部だが、なぜか今日は新鮮味が増していた。
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- 333 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 18:46:37 ID:mRtbd39YO
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東風は、かれこれ二十年以上は刑事を勤めている。
彼をベテランと称しても、別段差し支えは生じないだろう。
彼は警部でもないのに、よく上司と打ち合わせをすることもある。
それは、実地経験をショボーンよりもかなり積んでいるからだ。
持ってきた、誘拐犯との会話を録ったレコーダーを片手に、廊下を歩いていく。
窓の外では、木枯らしが枯れ木を虐めていた。
風の奏でる音を聞くだけで、寒気がする。
陽が暮れている以上、予想以上に寒いに違いない。
( ゚д゚)「ドクオ一課長」
('A`)「ん? ああ、ミルナ君か」
東風は、なぜこのような痩身が捜査一課長に上り詰めたのか、わからなかった。
別に策士でもなく、行動力があるわけでもない。
人徳の面で言っても、支持されているかは微妙なところだった。
ショボーンはドクオ捜査一課長を好く思っているが、東風はそうでもなかった。
ベル刑事部長に、ぜんぜん意見しようとせず、保身に走りがちな人ではないか、と。
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- 334 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 18:49:07 ID:mRtbd39YO
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東風が用件を言う前に、ドクオが先に言い寄ってきた。
例の誘拐事件かと思えば、オオカミ鉄道の件だった。
今はそれどころではないのに、と東風は思った。
しかも、東風はその事件を直接扱ったわけではないので、
新聞で読んでわかる程度のことしか知っていない。
('A`)「――で、ショボーン君についてだがねぇ」
( ゚д゚)「なんでしょう」
ドクオが溜息を吐いた。
東風は嫌な予感しかしなかった。
('A`)「新聞、特に朝曰新聞を見たか?」
( ゚д゚)「ええ、ざっと」
('A`)「ひどいバッシングされていたことが、上の人の癇にさわったようだよ」
( ゚д゚)「あの新聞社は話を盛るのが好きなんです。
見たところ、ほとんどが憶測で書かれていました」
('A`)「だろうとは思うけど、ショボーン君が居ながら
みすみす爆弾事件を起こしてしまったのは事実なんだから」
( ゚д゚)「あれは誘拐犯が設置したものと思われます。防ぎようがないです」
('A`)「だが、世間的には誘拐事件は隠されている。
国民は、特にシベリア住民はVIP警察を悪く思うだろうね」
( ゚д゚)「で、用件はなんでしょうか」
.
- 335 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 18:53:24 ID:mRtbd39YO
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ごたごたと能書きを並べ、更に自分に八つ当たりをしようと
しているふしが見られたので、ムッとなって東風は訊いた。
ドクオは苦い顔をしながら言った。
('A`)「ショボーン君にペナルティーが下されると思うんだよ」
( ゚д゚)「ぺ……」
('A`)「そうしないと、住民に示しがつかないだろうからさ。
爆弾事件のせいで、シベリアは少なからず迷惑を被らせたわけなんだから。
しかも、誘拐犯の仕業だとして、その誘拐事件を担当しているのは我々VIPだ。
どのみち、ショボーン君には処罰が下るかもしれない」
( ゚д゚)「……」
ドクオの言い分はもっともだった。
因果関係はどうであれ、シベリアで起こった爆弾騒動にはショボーンが乗っていた。
ショボーンの追う事件の道中で発生した騒ぎだ、と睨まれているが、強ち間違ってはいない。
その爆弾騒動のせいで、シベリアは交通面でも人事面でも多大な損害を受けたことになる。
ショボーンがこのたびの騒ぎを引き起こした、と思われているのだ。
ショボーンは誘拐事件を追っている。
その誘拐事件は、公表するわけにはいかない。
オオカミ鉄道にショボーンが乗っていた理由は、この誘拐事件のためだ。
記者たちがショボーンに乗っていた理由を聞いても、答えられない。
それが更に怪しさを伴い、住民の癇にさわるのだろう。
.
- 336 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 19:34:33 ID:mRtbd39YO
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('A`)「話が長くなったね。用はなに?」
ようやく本題に漕ぎ着けられて、東風はほっとした。
( ゚д゚)「その誘拐事件についての首尾の報告と――」
ドクオの目の前に、持っているレコーダーを見せた。
ドクオは顔色を変えずにそれを見ている。
( ゚д゚)「これの音声分析を」
('A`)「それは、もしかして」
東風は顔をあげた。
( ゚д゚)「誘拐犯と、伊達氏との通話の記録です。
ボイスチェンジャーを通されてますが、僅かなイントネーションの違いや
方言などを解析すれば、なにかの手がかりになるかもしれません」
('A`)「……」
( ゚д゚)「正直言って、望みはかなり薄い」
('A`)「ある意味で言えば、前代未聞だな」
( ゚д゚)「我々には証拠が足りなさすぎる。
微かでもいい。藁にも縋りたい一心で、動いています」
('A`)「らしいね」
( ゚д゚)「そんななか、警部は皆の士気を保ち、率先して犯人探しに努めています」
レコーダーを握る東風の手に、チカラが籠められた。
ドクオは、それを視認するのに少々時間がかかった。
( ゚д゚)「警部への処罰は、いささか理不尽ではないのでしょうか」
('A`)「……」
.
- 337 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 19:37:46 ID:mRtbd39YO
-
しばらくドクオは黙った。
窓の外から聞こえる風の音だけが聞こえる。
('A`)「……分析は委せなさい。僅かな手がかりでも見つかれば、ショボーン君に連絡するよ」
( ゚д゚)「はい」
東風は、レコーダーをそっと手渡した。
細いドクオの腕が、レコーダーを抱え込むようにして持った。
そして、苛立ちが積もってばかりの東風は、ドクオから離れたい一心でその場を去った。
彼の背中を見送って、ドクオは踵を返した。
彼には彼の執務が残っているのだ。
('A`)「(おれが進んで処罰を与えるわけがないだろう……!)」
('A`)「(オオカミ鉄道や住民からの反発を抑えきれない上司が悪いんだ……)」
('A`)「(……なんとしてでも誘拐犯を捕まえてくれよ……ショボ……!)」
ドクオも、レコーダーを握る手にチカラが籠もった。
東風の苛立ちも、おおかた理解できる。
まず、誘拐犯に二度も逃げられ、軽くあしらわれたことだ。
士気は下がるだろうし、自信もなくす。
また、オオカミ鉄道に乗っていただけで受ける、世間体の冷たい批判。
これが、今の東風にとって理不尽以外の何物でもないのだろう。
一方では、同乗していた若手の名前はぜんぜん挙がっていない。
警部という、責任を追及される立場の人間がいたからこそ、
怒りの矛先に、と皆がよってたかってショボーンを責めるのだ。
.
- 338 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 19:41:26 ID:mRtbd39YO
-
一応、報告ではショボーンにも非があるように思える。
オオカミ鉄道から予め爆弾についての報告がなされたはず
なのに、事前にパニックを防げなかった、ということだ。
オオカミ鉄道の総裁、大神フォックスはこのことを理由に警察を叩く一面も見られたそうだ。
その際、ショボーンの名は出していなかったそうだが、記者たちはショボーンに目をつけるだろう。
しかし、報告と言っても、五分前に報告がきたのだ。
いたずら電話かと思い、楽観視していたのはいただけないが、それでも時間的猶予がなさすぎる。
五分前に報告がきたと言って、パニックを未然に防げとは不可能な話だ。
それができるものであると前提にして、大神は語った。
ドクオは、そのことが気に喰わなかった。
いま、シベリアとVIPで合同捜査本部が置かれている。
合同捜査に際して、なにか亀裂が生じないか。
少し、この点についても不安はあった。
だが、フィレンクト警部は芯のしっかりした人材だ。
うまくショボーンをサポートし、御前モカ殺人事件の犯人を割り出してくれるだろう。
ショボーンたちが誘拐事件の線から犯人を追う一方で、
フィレンクトたちは現場や被害者の情報から犯人を追っている。
互いがそれぞれ別方向に向かって走っているので、
きっと近いうちに犯人を捕まえることができるだろう。
ドクオはそれを信じて、早足で目的地に歩いていった。
.
- 339 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 19:43:57 ID:mRtbd39YO
-
( ゚д゚)「捜査一課……」
おそらく、ショボーンは一人でも人材がほしいところだろう。
二人で行くとは言っていたが、おそらく人手不足が裏目にでる。
若手も侮れない人材であることは、東風もよく知っている。
三十にでもなれば、警部補に上れる才能は充分持っているだろう。
しかし、若手も、身長は百八十ほどしかない。
手も二本しかないし、片腕の長さは一メートルもない。
量と質の問題だが、今回は量が要る事態なのだ。
東風の読みでは、今頃ショボーンはホテルを囲めないでいるに違いないと思っている。
手が空いた者がいれば、連れていこうと思っていた。
室内に入ると、人陰が見えた。
/ ゚、。 /「!」
( ゚д゚)「鈴木、いたのか」
/ ゚、。 /「はい」
.
- 340 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 19:49:06 ID:mRtbd39YO
-
東風は驚いた。
まさか、もう例の事件が解決したのか、と。
ショボーンが唐突に私的な事情で誘拐事件を担当して
しまったため、捜査一課は一度統率が保てないでいた。
ショボーン、若手、東風、伊藤、真山田の五人は誘拐事件を
担当したが、残りのメンバーは発生した別の大きな事件を扱っていた。
確か、彼らは今朝が他の通り魔事件を扱ったはずだが。
その残りメンバーのうちの一人、鈴木ダイオードが帰還していた。
短い黒髪がきれいな、すらっとした女性だ。
若手のようにドライな性格で、同期の若手の陰に隠れて
目立たないが、彼女も十年に一度と言っていい逸材だった。
腕力や体力は劣っているが、頭の良さは若手に匹敵する。
( ゚д゚)「通り魔事件はどうした」
/ ゚、。 /「罠を張ったらあっさりひっかかりました」
(;゚д゚)「罠、ねぇ」
彼女は、罠を張ったり心理戦に強いなどと、読みの要素で抜きん出ていた。
足の捜査が自慢の真山田、尋問に秀でた伊藤たちとはまた違う刑事だ。
将棋好きの東風は一度鈴木と一局指したが、端にひっそりと
残していた角行で、土壇場で逆転勝利されたこともある。
.
- 341 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 19:50:46 ID:mRtbd39YO
-
/ ゚、。 /「ミルナさんはどうしたんですか? 確か、誘拐事件が――」
( ゚д゚)「そのことなんだが、人手が足りんから来てほしい」
/ ゚、。 /「あ、はい」
冷静な性格ではあるが、これでも彼女は二十後半の独身女性だ。
早いうちに、好い人と籍を入れたいところだろう。
捜査一課内では、しばしばそのネタでいじられている。
というより、ショボーンが率先していじっている。
.
- 348 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:34:56 ID:mRtbd39YO
-
−3−
指さした先に在るホテルは、立派な佇まいだった。
おとなしい外装でありながら、存在感を存分に放っている。
街灯に照らされ、自然な明るさを伴っている。
ホテルを囲むように植えられた木々が、ホテルの肌を隠そうとしている。
葉がなくなっているので、犯人が植え込みに隠れて逃げ出す心配はないが、
煉瓦造りの壇だけで一メートルはあるため、屈めば見つからなさそうだ。
とにかく、相手の心理を読みきる必要がある。
(´・ω・`)「十六分。充分……ではないが、間に合った」
.
- 349 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:37:05 ID:mRtbd39YO
-
( <●><●>)「行きましょう」
ふと、ホテルの向かいに目がいった。
暗くて、且つ街灯も遠いので見えづらいのだが、そこにコインランドリーがあるのが見えた。
洗濯機が二段であるので、おそらく誘拐犯の指示したコインランドリーとは、これのことだろう。
横断歩道があるので、信号にひっかかれば
移動に一分費やすことになるが、近いといえば近かった。
ボストンバッグを持って、ホテル「ひるがさき」に向かった。
なかなか交通量が多い。
深夜も、車が減ることはないだろう。
宿泊客への配慮ができているか心配だった。
彡 l v lミ「いらっしゃいませ!」
( l v l)「ませ!」
受付嬢と、カウンターの近くに立っているボーイに挨拶をされた。
だんだん夜が近づいているのに、元気がいっぱいだった。
彼らの活力を分けてほしい、そう思うほどに。
.
- 350 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:41:09 ID:mRtbd39YO
-
と、そこで刑事の二人の動きが止まった。
( <●><●>)「警部」
(´・ω・`)「しまった、預け方を聞いてない」
( <●><●>)「……やっぱり」
ショボーンと若手は、ここに泊まるつもりはない。
別に泊まってもいいのだが、それよりも誘拐犯を捕まえる使命がある。
とはいえ、泊まりもせずに荷物だけ預かってくれとは、なかなか言えなかった。
警察と明かしてもいいが、無駄にホテルのクルーに混乱を招きたくなかった。
ただでさえショボーンたちは、新聞で叩かれている身なのだ。
もし朝曰新聞の購読者がいれば、ショボーンの顔がわかるだろう。
そうなると面倒だな、と彼は思った。
しかし、受付嬢は意外なことを言った。
不安げな顔をして、ショボーンを見つめて。
彡 l v lミ「もしかして、お荷物を預けにいらしたお客様ですか?」
(´・ω・`)「!」
彡 l v lミ「先程、とあるお客様がチェックインなされたと
同時に、お聞きしました。ショボーン様、ですね?」
(´・ω・`)「……!」
( <●><●>)「(既に手回しは済んでるってわけか)」
若手は目を細めて、受付嬢を睨んだ。
受付嬢は動じず、ショボーンに説明している。
彡 l v lミ「ボストンバッグ三つを預かるよう、仰ってました」
(´・ω・`)「……」
.
- 351 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:45:16 ID:mRtbd39YO
-
どうやら、若手の思った通り、誘拐犯はあらかじめホテル側に手を回したようだった。
先にチェックインしておいて、同時に受付嬢に指示を与える。
「ボストンバッグ三つを提げた者がいたら、荷物を預かって私に渡せ」などと。
つまり、相手はチェックインしているから、名簿にも載るわけだ。
まあ名前も電話番号も、両方でたらめだろう。
だが、本人がここにいるというのなら、その部屋番号を
聞いてすぐに押し掛ければ、その場で即座に逮捕できる。
ショボーンは手錠に一瞬触れた。
(´・ω・`)「………」
だが、そんな簡単でいいのだろうか。
そんな不安が、ショボーンの胸中には潜んでいた。
おかしい。なにか、罠を仕掛けているはずである。
そうでないと、やすやすとここで捕まることになるのは、さすがに誘拐犯もすぐわかる。
一度目は御前モカの殺害、
二度目はラルトロス大橋に仕掛けた爆弾と、
両方とも大がかりな罠で警察の追撃を避けた。
三度目も、同じように、なにかとんでもない罠を仕掛けているに違いない。
そう思うと、ショボーンは焦燥を隠しきれなかった。
すっかり黙ってしまったショボーンに代わり、若手が受付嬢に訊いた。
.
- 352 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:47:37 ID:mRtbd39YO
-
( <●><●>)「その宿泊客ですが、男でした? 女でした?」
受付嬢は一瞬悩む素振りを見せた。
男か女かなど、すぐわかるのではないか。
そう思ったが、帽子などを深くかぶっていれば別か。
彡 l v lミ「茶髪の女性、でした」
(´・ω・`)「!」
( <●><●>)「髪の長さは」
彡 l v lミ「肩にかかるかなーって程度です」
誘拐犯グループの一人に、A型の茶髪の女若しくは
長髪の男がいることは間違いない、とわかっている。
その人物が、このホテルに、いる。
それがわかっただけで、かなりショボーンは息が苦しかった。
胸が圧迫される。
昂揚ではない。急激な不安だ。
嫌な予感しか、しなかったのだ。
手から滲み出る汗が止まらなかった。
微量の手汗がボストンバッグに染み込んでいく。
ホテルの放火か。
宿泊客の殺害か。
ホテル前での交通事故か。
火災報知器を手動で作動させるか。
狂言の叫び声か。
可能性を挙げればきりがない。
しかし、決してなにも起こらないわけがない、とは確信していた。
してはいけない確信だが、事実だ。
.
- 353 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:50:35 ID:mRtbd39YO
-
( <●><●>)「客室は、何号室――」
(´・ω・`)「札を」
彡 l v lミ「はい」
何号室かを尋ねようとした若手を制し、ショボーンは札を貰った。
戸惑いを隠せない若手を引っ張って、ホテルをでた。
いまの受付嬢の話からすると、札は別に渡さなくてもいいはずだ。
それを承知で渡してきたとすると、誘拐犯がそれを受付嬢にしっかり言っておいたのだ。
しなくてもいいことを、するように指示してきた。
このことが、ショボーンのなかで引っかかっていた。
(´・ω・`)「(なぜ札をコインランドリーに隠す?
. 受付嬢にそのまま渡してもらって、逃げればいい話じゃないか。
. そもそも、受付嬢に顔を見られているのに、平然と身代金受け渡しに
. 関する頼みをしている。これだと、さすがに不自然すぎないか?)」
( <●><●>)「警部」
(´・ω・`)「ん?」
ホテルを出て、ホテル前の信号で立っていた。
どうも不敏にしか思えない。
しかし、このたびの誘拐犯の行動に、誘拐犯にとって
無駄だったりマイナスになるようなことがあっただろうか。
いや、全て誘拐犯の思惑通りに事が動いている。
この、札の隠し場所にコインランドリーを選んだのも、
言わば、彼らが有利になるなんらかの意味があるはずなのだ。
しかし、理由が見いだせないでいる。
.
- 354 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:52:46 ID:mRtbd39YO
-
それをずっと考えていると、若手に呼び止められた。
どうしたのかと思うと、若手の後ろのほうから、手を降って走ってくる二人の人影が見えた。
すぐに、一人は東風だとわかった。
( ゚д゚)「レコーダーを押しつけてきました」
(´・ω・`)「ご苦労。それで――」
ショボーンは怪訝な顔をして、人影のもう一人、鈴木を見た。
今は別の事件を扱っているはずではないか、と。
すると鈴木は首を振った。
/ ゚、。 /「その事件が解決したので、きました」
( ゚д゚)「車はイツワリさんの覆面パトカーの後ろに停めてます」
(´・ω・`)「そうなの」
ショボーンは、突如として現れた鈴木に少し驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
そして、「丁度よかった」と呟いて、二人に指示を出した。
(´・ω・`)「壁はそこからホテルのフロントを、ぎょろ目はホテルの裏口を
. こっそり見張っておいてほしい。相手に気づかれないように、だ」
/ ゚、。 /「壁、はだめです」
.
- 355 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:55:47 ID:mRtbd39YO
-
鈴木ダイオードには、弱点があった。
すらっとした体格で顔も整っており、
眼は大きくくりっとしている、美少女といえば美少女。
しかし、胸囲が小、中学生並になかった。
本人がかなり気にしていることで、このことに言及を入れると怒り狂うか泣き出す。
ショボーンは、そのギャップを面白がり、彼女に「壁」というあだ名をつけた。
東風にはぎょろ目、鈴木には壁と、あだ名というよりほぼ悪口に近かった。
東風は了解して、ホテルを挟んで今いる位置と反対方向に向かった。
それを見て、鈴木もしぶしぶ見張りについた。
煉瓦造りの壇から顔を出して、植え込みの陰に潜んで正面からは見えないように張った。
鈴木は一応誘拐事件のあらすじは知っている。
なにか、ボストンバッグに関して動向が見られたら報告するよう伝えた。
東風には裏口や駐車場から怪しい者が出てこないかを見張るよう言った。
千里眼の異名があるだけあって、眼はすごく良い。
夜盲症になりがちなショボーンと対照的に、夜でも遠くまで見渡せる視力の持ち主だ。
.
- 356 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 21:59:19 ID:mRtbd39YO
-
彼らに見張りを委せ、ショボーンと若手はコインランドリーに向かった。
入ってみると、四方向に洗濯機が並んでいて、二段である。
指示された洗濯機には衣服が詰め込まれているが、おそらくカムフラージュだろう。
わかりやすいようにぽつんと札を置いて、ショボーンと若手はコインランドリーをでた。
信号待ちしている間に、若手が話しかけてきた。
若手がずっと気になっていたことだ。
( <●><●>)「しかし、わざわざ札を置かなくても、
直接部屋に押し掛ければいいじゃないですか」
(´・ω・`)「あくまで、向こうの指令はコインランドリーに札を置け、だ。
. それを破ると、なにか誘拐犯にとってまずいことがあるんじゃないかなって思う。
. 今は、素直に相手の言うことを聞くんだ。……今は、な」
( <●><●>)「はあ……」
若手は納得がいかなかった。
いかなかったというより、自尊心を愚弄されるような気分になっていた。
誘拐犯は目の前にいるのに、丁重に扱い、
指示にいちいち従わないといけないのが、気に喰わなかったのだ。
もし自分が単身で挑んだ事件なら、警察の組織力と数の多さに物を言わせ、
ホテルを大勢で囲み、半ば強引に誘拐犯を逮捕しようとしているだろう。
どうも、下目に見られるのが嫌なのである。
.
- 357 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:02:03 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「……」
若手は、若い。
誘拐事件における、人質の命の尊さを知らないでいる。
ショボーンは、それを知っていた。
若手が人質の命を軽んじていることも、おおかた忖度している。
だからこそ、東風ではなく若手を相棒に、事件に臨んだのだ。
人質の命は、最優先事項で、一番死守すべきものだ。
それを、若手にわかってほしかった。
( <●><●>)「我々はどこで待機しますか」
(´・ω・`)「トイレや通りの窓も見張りたいところだが、正面玄関から
. 逃走してきた場合が怖い。壁が捕まえるのは難しいだろうからな」
( <●><●>)「では……」
ショボーンは肯いた。
(´・ω・`)「裏口は、ぎょろ目がいるから大丈夫だ。
. 僕らは表通りで待っておこう」
と言って、横断歩道を渡った。
鈴木がそわそわしている。
彼女は、足こそ速いが、犯人との一騎打ちは苦手なのだ。
そこに今時の女性らしい淑やかさを感じさせる。
.
- 358 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:05:22 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「(ペニーだったら……)」
伊藤ペニサスは、彼女とは対照的に、犯人、特に男との勝負にはめっぽう強かった。
なんの躊躇いもなく発砲するし、取っ組み合いで何度か犯人の男を失神させたこともある。
ひどい時は、マウントポジションをとり、拳銃の柄で連打するか拳のシャワーを浴びせるのだ。
(´・ω・`)「(………それはそれでだめか)」
ここまで考えて、軽く笑った。
うちの部下には個性的なやつが多い、そう思った。
(´・ω・`)「誘拐犯は、札を取りにくる。それを見張るんだ」
( <●><●>)「罠があると思いますが――」
/ ゚、。 /「警部」
(´・ω・`)「動いたか?」
横断歩道を渡り終え、ホテルに着くと、鈴木が走り寄ってきた。
/ ゚、。 /「フロントの様子がおかしいんです」
(´・ω・`)「おかしい?」
.
- 359 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:08:23 ID:mRtbd39YO
-
−4−
落ち着きを保って、鈴木が言った。
しかし、おかしいの意味がショボーンはわからなかった。
ショボーンも一緒に、壇に身を隠してフロントを見た。
受付嬢とボーイが、話している。
どこか、狼狽しているように見えた。
/ ゚、。 /「ボーイがエレベーターから出た途端に
ダッシュして、受付嬢のところに行ったんです」
(´・ω・`)「……ほう」
/ ゚、。 /「ボーイが身振り手振りを交えて受付嬢と
話したところ、受付嬢もあからさまに驚いて――」
(´・ω・`)「行ってみよう」
.
- 360 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:10:08 ID:mRtbd39YO
-
/ ゚、。 /「私は」
(´・ω・`)「ワカッテマスがここに残ってくれ。壁が着いてこい」
/ ゚、。 /「はい」
ショボーンが数段の階段に足をかけ、鈴木も後ろについた。
振り向いて、若手には残るよう言った。
( <●><●>)「ボストンバッグを持った人が現れたら、捕らえたらいいですかね」
(´・ω・`)「ああ。一つでも持っていたら、制止を呼びかけろ。
. ボストンバッグが入りそうな、とても大きな鞄やダンボールを抱えていても、同様だ」
( <●><●>)「発砲は――」
(´・ω・`)「無実の人がいる可能性もあるが……呼びかけて背を向けるようなら、躊躇わず撃て」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「走れ」
ショボーンが駆けだして、鈴木も同じく走り出した。
嫌な予感が的中しそうで、ショボーンの胸中は不安でしか満たされてなかった。
自然と、前へ前へと踏み出す足の動きが速くなる。
重力が半減したかのように、身体が軽くなっていた。
地を踏むたびに、その振動が心臓にまで伝わってくる。
(´・ω・`)「(まさか、もう――)」
.
- 361 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:11:45 ID:mRtbd39YO
-
気が付けば、玄関に立っていた。
自動ドアを半ば押し開くようにして、強引に中に入った。
二つ目の自動ドアも抜けて、受付嬢とボーイのもとに歩み寄った。
オレンジ色のカーペットが、雪のように柔らかく感じる。
受付嬢とボーイの顔色は、よろしくなかった。
ショボーンの存在に気づき、二人がショボーンの顔をじっと見ていた。
顔を見て、蒼い顔が更に蒼くなった。
挙動が些か不審に見られた。
(´・ω・`)「どうしました」
彡;l v lミ「……」
( ;l v l)「……」
(´・ω・`)「あのー」
ショボーンが尋ねたが、二人は硬直したままだった。
ボーイの頬を伝う汗が、顎から垂れた。
それがカーペットに付着した時、ショボーンは再び尋ねた。
(´・ω・`)「もう一度お聞きします。なにか、あったのですか?」
彡;l v lミ「えっと……その…」
受付嬢は話そうとする素振りこそ見せるものの、吃ってなかなか第一声を発しない。
ボーイも落ち着きがなく、ショボーンの顔をただじっと見つめている。
ショボーンがいよいよ苛立ちを覚えはじめてきた。
(´・ω・`)「なにかあったのですね?」
彡;l v lミ「……」
.
- 362 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:14:54 ID:mRtbd39YO
-
ショボーンは、もしや、と思った。
誘拐犯がなにかしでかしたのではないか。
たとえば、殺人だ。
それをボーイがたまたま見つけ、慌てて受付嬢に説明した。
そうだとすると辻褄があう。
ホテル側にとって、ホテル内での殺人は決して好ましくないものだからだ。
受付嬢が吃っているのも、話すべきかどうか、を悩んでいるのだろう。
だとすると、誘拐犯のとった部屋のフロアで事件があったと見るのが自然だ。
ショボーンは脅かすように言った。
(´・ω・`)「例のボストンバッグの女性ですが――」
彡;l v lミ「!」
(´・ω・`)「その人の泊まった部屋を教えてください」
彡;l v lミ「お教えするのは決まりでだめと――」
恐らくはこの発言は虚偽だろう。
それは顔色を見るだけでもわかる。
受付嬢の声を遮るように、ショボーンは警察手帳をだした。
受付嬢の顔に突きつけて、声を止めさせた。
(´・ω・`)「警察だ。答えてもらおう」
彡;l v lミ「けっケーサツ!?」
( ;l v l)「ひゃ……」
/ ゚、。 /「!」
.
- 363 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:17:38 ID:mRtbd39YO
-
ボーイのほうが、玄関に向かって走り出した。
ショボーンは、受付嬢にのみ注意がいっていたため
反応は遅かったが、後ろにいた鈴木がいち早く押さえにかかった。
ボーイに飛びついて床に押し倒し、警察手帳を鼻先に突きつける。
/ ゚、。 /「例の客の部屋番号を。隠そうとするなら――」
( ;l v l)「さ、三〇四号室です!」
鈴木がボーイの手首を握り、三六〇度以上に
捻ろうとしたので、怖くなったボーイは白状した。
ボーイを離して、鈴木が走り出した。
/ ゚、。 /「警部、三階です!」
(´・ω・`)「わかった!」
鈴木に続いて、ショボーンも走り出した。
エレベーターは使用中だったため、階段を使うことにした。
三階程度なら、階段でもエレベーターと同じ速さでたどり着ける。
それが刑事となれば、尚更だ。
通行人のじゃまにならないよう注意を払って、二階、三階へと上っていった。
ボーイの慌て様をみる限り、ただ事でないのは容易に予想がでいた。
その原因が何なのかが、ショボーンは不安だった。
.
- 365 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:19:41 ID:mRtbd39YO
-
最悪なのは殺人だ。
誘拐犯のせいで、無実の一般人が殺される。
それが、刑事としても、人間としても許せない。
/ ゚、。 /「四号室だから……」
(´・ω・`)「こっちだ」
階段を上って、壁にかかった案内板を見てショボーンが右に走った。
正面玄関が南にあり、裏口は北にある。
三〇四号室は、東にあるようだった。
曲がり角を曲がると、一室だけ部屋の扉が開いて、スリッパが散らばっていた。
ショボーンは一瞬血の気がひいた。
部屋の中の光景が、見なくても脳裏に浮かんだからだ。
/ ゚、。 /「!」
(;´・ω・`)「……ちっ!」
扉を蹴り飛ばし、中に入った。
スリッパが散らばっており、足の踏み場に困るが、
それ以上に彼らの目に飛び込んできた光景が、異常だった。
和室の部屋の襖も開いており、その畳の上に、血だまりができていたのだ。
無我夢中で、和室に飛び込んだ。
ショボーンは驚愕した。
.
- 366 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:21:37 ID:mRtbd39YO
-
(;´・ω・`)「な……なにッ!?」
/;゚、。 /「警部、どうしましょう」
畳の上に、男が倒れていた。
彼が生死のどちらに立っているかは、背中の傷を見るだけですぐわかった。
鈴木は、突然死体のある現場に出くわしたことで驚いているようだった。
うつ伏せになって倒れている死体は、背中から血が溢れてきている。
包丁が近くに置かれており、これで背後から刺したのだろう。
刺されたはずの包丁は抜かれてあったため、血がとめどなく流れてきている。
しかし、ショボーンが驚いたのは、死体があったことではない。
むしろ、死体は予想していたと言って、いいのだ。
それなのに平静を崩すほどに驚いたのは、その死体に見覚えがあったからだ。
後ろ姿だけで、それが誰だか判った。
だが、近くに歩み寄って、顔を確認して、ショボーンの予想が確信へと変わった。
(;´・ω・`)「なぜ……なぜあなたが、ここに……!」
( ゙ゞ)
.
- 367 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:23:04 ID:mRtbd39YO
-
死体の顔は、相変わらず無表情だった。
口からも血が流れている。
息は、当然だがしていない。
ショボーンの推測で言うと、死後十分も経ってない様子だった。
先程まで、ここに誘拐犯がいたのだろうか。
わからないが、とにかく鈴木に通報をするよう指示した。
一刻も早く捜査に踏み出す必要がある。
すると、ショボーンの電話が鳴った。
ポケットから乱暴に電話を取り出してでると、若手が大声でなにかを言ってきた。
ショボーンは、今日何度目になるかわからない嫌な予感がした。
.
- 368 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:25:09 ID:mRtbd39YO
-
−5−
ショボーンと鈴木がホテル内に入っていって、ずっと二人の動向を見守っていた。
周囲に払う警戒を絶えさせず、常に全神経を働かせている。
( <●><●>)「……おや」
二人を見ていると、ボーイがこちらに向かって駆けだしてきた。
なにかがあって、逃げだそうとしたのだろう。
すぐに鈴木が追いかけ、ボーイは自動ドアの三メートル手前で捕らえられた。
鈴木がボーイの動きを押さえ、なにかを聞き出している。
( <●><●>)「なにか…あったな」
.
- 369 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:27:27 ID:mRtbd39YO
-
そう思うと、自然と手が動いていた。
携帯電話を取り出し、裏口を見張っている東風に電話するのだ。
( <●><●>)「そろそろ、向こうが出てきそうですよ」
『なにかあったのか?』
( <●><●>)「警部と鈴木さんがホテルに向かったのち、
ボーイと鈴木さんが争って、直後鈴木さんと警部が駆けだしたのです」
『コインランドリーも見ておけよ』
( <●><●>)「わかってます。現在、ホテルの玄関からでてくる者、
及びコインランドリーに近づこうとする者はいません」
『気を抜くな。向こうでは、なにか進展があったんだろうからな』
( <●><●>)「それもわかって……、……?」
『どうした?』
若手が電話していると、ホテルの三階付近、東のほうで動く陰が見えた。
暗いせいでよく見えない。
窓から顔を出し、夜の風に当たる宿泊客かと思っていたが、どこか不自然だ。
直後、目を疑う光景が見られた。
.
- 370 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:30:35 ID:mRtbd39YO
-
窓から、誰かが飛び降りた。
あそこは三階のはずだ、飛び降りると大変なことになる。
気が付くと、電話を切って、その飛び降りの着地点に向かっていた。
(; <●><●>)「おい!」
呼びかけながら走ったが、直後に若手は目を疑う光景を目の当たりにした。
飛び降りした人は、脚を伸ばしている。
その先を見ると、高さがホテルの二階ほどの電灯が立っていた。
まさかと思い見ていると、その人は電灯の電球に足をつけたのだ。
そのまま電球を蹴り、更に遠くへと跳躍した。
若手は呆気にとられた。
なぜなら、その先にはライトバンがあったからだ。
そして、その人はライトバンの屋根に飛び込んだ。
直後に、背後から足音がした。
(; <●><●>)「おい、そこ!」
若手は、停止しているライトバンに上から激突した人に
ばかり意識がいって、背後に注意がまわらなかった。
コンクリートの上を走ってくる足音が聞こえたのに、若手は気づかなかった。
ただ、飛び降りた人の様態が心配だったのだ。
( )
( <●><●>)「……ん?」
( <○><○>)「――ッ!」
.
- 371 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:32:39 ID:mRtbd39YO
-
ようやく足音に気が付き、振り向いた。
最初は鈴木か誰かか、と思っていたが、いたのは違う人物だった。
そして顔を認識する前に、顔面を強く殴られた。
不意を突かれて、若手は倒れ込んだ。
コンクリートの地面に後頭部をぶつけ、そこで意識を失ってしまった。
( )
若手を殴った人は、そのままライトバンへと向かった。
手にはボストンバッグを二つ持っている。
後ろから追いかけてくる人は、バッグを一つ持っていた。
ライトバンの上に落ちた人はむくっと起き上がり、降りる。
二人組と合流し、急いでボストンバッグを後部の荷物室に投げ入れた。
一人が同じく荷台に乗り、二人が座席に乗り込んだ。
急いでアクセルを踏む。
( ゚д゚)「ワカッテマス?」
( ゚д゚)「……っ! おい!」
.
- 372 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:35:53 ID:mRtbd39YO
-
いきなり電話を切った若手を案じ、東風がその場にやってきた。
そして、走りだそうとしているライトバンとすれ違った。
はっとしてライトバンを見ると、窓からボストンバッグのような、黒いかばんが見えた。
暗くて詳しくはわからなかったが、東風はそのライトバンを限りなく不審に感じた。
それは、刑事のカン、というものだけがそう言っていたのだ。
道路に飛び出し、急いでライトバンを追いかけるも、
向こうはアクセルをべた踏みしているようで、いきなり加速していった。
ナンバープレートを見たが、東風の視力をもってしても、この距離と暗さでは視認ができなかった。
諦めず追いかけようとしたが、すぐ先にある一つ目の
曲がり角を曲がったため、深追いはできないと思った。
( ゚д゚)「あれはいったい……」
( ゚д゚)「……! ワカッテマス!」
はっとして、若手のところに戻ってきた。
若手の巨躯が、地に伏している。
身体を揺すったが、最初は反応がなかった。
.
- 373 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:37:44 ID:mRtbd39YO
-
(;゚д゚)「ワカッテマス、起きろ」
( < >< >)
( < >< >)「ん……く…」
( ゚д゚)「起きろ、おれだ」
しばらく揺すり、声をかけてやると、意識を取り戻したようだった。
後頭部を強く打っているが、幸い目に見える傷はないようだ。
ただ気を失っただけとわかって、東風は少し安心した。
(; < ><●>)「……う」
( <●><●>)「………」
( ゚д゚)「気がついたか」
( <●><●>)「……………」
起きあがって、しばらくは放心状態だった。
東風が変に思うと、若手はようやく目をさました。
そして、がばっと立ち上がり、辺りを見渡した。
( ゚д゚)「ワカッテマス?」
(; <●><●>)「あ……あああああッ! 逃げられた!」
( ゚д゚)「逃げ…? なんの話だ」
.
- 374 名前: ◆wPvTfIHSQ6 投稿日:2012/02/11(土) 22:40:44 ID:mRtbd39YO
-
若手は道路に飛び出して、きょろきょろしている。
やがて、その場に跪き、顔を蒼くしていた。
東風はなにがあったのか、わからなかった。
( ゚д゚)「どうしたんだ」
(; <●><●>)「……逃がしテシまいました」
( ゚д゚)「なにを」
(; <●><●>)「……誘拐犯グループ、ですよ!」
( ゚д゚)「!」
(; < >< >)「ちくしょう……ぉぉおおおッ!」
静かな道路の上で、若手は手を地につけ、四つん這いの
姿勢になり、やがて街中に聞こえるような大声をだした。
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第六章
「 三度目の衝突 」
おしまい
.
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