- 3 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:28:10.86 ID:UDeBtcA80
- 祭りの喧騒って俺は苦手だ。
街は人で賑わって、皆とても幸せそうな顔で祭りを楽しむ。
ただ、黙って楽しそうな街にいる俺とは違う。
白い息を吐いて、それが消えていくのを見続ける俺とは違う。
ひとしきり祭りの喧騒を聞いた後、一人で申し訳程度に教会へ行くのだが、
結局すぐに家へ帰って読書をする。
自分が独りだってことを何度も自覚してしまうからだ。
第3話 後の祭り
- 7 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:32:07.34 ID:UDeBtcA80
- 目を覚ますと、周りは黒い。
黒くて深い海。
手を伸ばしたら、その先が見えなくて、俺に不安を感じさせる。
コツコツという小さな音と、周りに浮かぶ水泡。
遠くの方に、蒼とも緑ともいえない色の光が見えていた。
行き場が見当たらなくて、唯一見えるそちらに向かって泳ぐ。
声が聞こえる。
「自――――はスト――――に――――いる」
「――――――じゃない」
何かがこちらを向いて、念仏のような言葉を発していた。
その言葉は段々と近づいてきているような、遠ざかっているような。
判断が出来ずにもがいてみるが、動いたところで何も変わりはしない。
ただ、誰かの……いや、何かの視線が怖くて、怖くてしかたが無かった。
- 9 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:34:44.29 ID:UDeBtcA80
- 目を覚ますといつもの朝がやってくる。
毛布を跳ね除けて、伸びをしながら体中をならす。
明日はこの街の祭りの日だ。
毎年、冬の時期になると、この街では祭りを行う。
何を祝った祭りなのかはよくわからないが、クリスマスの前々日で、
街にはいつも以上に恋人達が行きかうようになる。
玩具や食べ物を売る店がでて、子供たちは皆それに喜び、街は活気にあふれる。
西洋の祭りとも、日本の祭りとも、似ていて屋台がでて、
神社に行く代わりに街に唯一ある教会にいく。
和洋折衷と行った感じで、なんだか無節操さを感じさせられる。
今年も一人だったら、教会にすらいかなかっただろうが、今はミセリが居る。
祭りがあると知れば、彼女は間違いなく「つれていってくれ」と、せがむだろう。
そしてその情報も、ほぼ間違いなくショボンが漏らしているのだろうけど。
- 11 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:37:59.59 ID:UDeBtcA80
- ミセ*゚ー゚)リ「おはよう。ドクオ」
いつも通りマグカップを二つ持ったミセリが、俺の寝床であるテーブルまで来て声をかける。
('A`)「ああ、おはようミセリ。今日も早いね」
ミセリは少し挙動不審で、そわそわしているというか、遠足の前の子供のようだった。
なんだかその動きが面白くて、苛めてみたくなる。
きっとミセリは俺に「祭りへ連れてってくれ」と言いたいのだろう。
ミセ*゚ー゚)リ「ドクオ、あのs('A`)「あー、明日ちょっと用事があるんだよっ!」
――嘘だ。
先制打をうたれそうになったので、軽くけん制する。
その言葉によって、ミセリの挙動が完全に止まる。
瞳にウルウルと涙を浮かべて、こちらの眼を見つめる。
百面相のように変わるその表情が、とてもおもしr……少し酷くしすぎたか?
ミセ*゚ー゚)リ「じゃ、じゃあ明日はお留守番……?」
今にも泣き出しそうなミセリがそこにいた。
- 13 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:41:58.12 ID:UDeBtcA80
- 悲しそうに目を伏せたミセリを見て、
「やりすぎた。苛めちゃいけない」
と幾度となく繰り返した反省をまたする。
('A`)「と、いっても祭りの会場で人と会う約束が、あるだけなんだけどな」
――これもまた、嘘なのだ。
そんな予定など元から無いのだから。
伏せていた少女の顔が急に明るくなり、また先ほどまでの挙動を取り戻していた。
ああ、こいつは本当に単純で面白いなと思った。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、洗濯してくるね」
思い出したようにミセリが言って、洗濯機のほうへと駆けて行く。
ずいぶん前から朝食は俺が作り、その間にミセリは洗濯をするという当番ができていた。
別段取り決めをしたわけではないのだが、
ミセリが「洗濯をしたい」と言い出したのでいつの間にかそうなった。
まぁ、朝食が消し炭でなくなったことは、喜ぶべきことなんだろうけど。
- 14 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:45:55.58 ID:UDeBtcA80
- ミセリは通常の生活をするのに支障がでるほどの記憶の欠損があった。
洗濯機の使い方も判らなかったし、トーストも満足に焼けない。
あれ……?
よく考えれば、トースターを使っていたはずなのだが……、
もしかしたらただの機械オンチなだけかもしれない。
ただ、はじめは手で洗ったはずの洗濯物に穴は開けたりしていた。
これじゃ一人で生きられやしないだろう。
そんな心配をよくしてしまう。
どこかのお嬢様なだけなのかもしれないと頭をよぎったが、
はたしてそんな人が記憶を消しにこの街へ来るだろうか。
普通そんないいとこのお嬢さんなら、嫌な記憶があることを隠すのではないだろうか。
いらない思案を振り払い、スクランブルエッグを作り、
バターロールに切り込みをいれてサンドウィッチを作る。
ショボンほどではないが、ずっと一人で生活をしていたので料理にはそれなりの自信があった。
ミセリははじめこそ動きがぎこちないが、教えてあげると器用に物事をこなしてくれる。
今でも、洗濯物は凍ってパリパリだが、これは冬の所為だから仕方が無いのだろう。
- 15 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:48:22.07 ID:UDeBtcA80
- ミセリが戻ってくるまで、席に戻って本を読む。
そんな時、来客を知らせるベルの音と共に、いつもの男がヒョコッと顔を出す。
(´・ω・`)「おはようさん」
('A`)「おはよ」
(´・ω・`)「おいしそうなサンドウィッチだね。一つ貰って良い?」
('A`)「どうぞ。食いしん坊のショボンさん」
やったぁと小さく声をだして、ショボンがこちらのテーブルに駆け寄る。
ショボンに朝食を分けてやるのは、ずいぶん久しぶりだ。
まぁ、それはショボンが作ったほうがおいしいからなんだけど。
階段の前に、洗い終わった物の入った洗濯籠を持ったミセリが見えたので、
朝食ができたと声をかける。
上に置いてからいくね、という返事を貰って、また本に目を落とす。
- 16 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:50:39.36 ID:UDeBtcA80
- (´・ω・`)「……あのさ、あそこ」
サンドウィッチを食い終わったショボンが階段のほうを指差す。
背中越しにショボンの指し示す先を確認する。
小さな布?
確認を終えて、また本に目を落とす。
(´・ω・`)「……あれって、ぱんt(ryじゃ……?」
('A`)「なん……だと……?」
階段のほうを二度見してしまった。
ちょうどミセリが階段を下りてきて目標物を見つけたのか、
「ミギャア!」と奇声をあげて、耳まで紅潮させていた。
赤い顔のまま周囲を見て、そのまま目線が俺達とあう。
- 19 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:52:44.33 ID:UDeBtcA80
- ミセ*///)リ
今度は謎の悲鳴を上げずに、無言のまま階段を素早く上がっていった。
こけるんじゃないかと少しだけ心配するが、心配をし終える前にミセリが転がってきた。
うん、面白い。
……
違う、違う。
凄く痛そうだ。
あわててミセリに駆け寄るが、それを静止するかのように立ち上がり、
まためげずに階段を上っていった。
ショボンはこちらに目を移し、笑いを堪えた引きつった顔で口を開いた。
(´・ω・`)「……面白いね」
ああ、うん。否定できない。
目線でショボンに返事をして、テーブルに戻ってまた本に目を落とした。
飲むと生前の記憶を忘れる河か……うん。実に興味深い。
- 20 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:55:32.73 ID:UDeBtcA80
―― 翌日 ――
今日は祭りだ。
黒く分厚い雲が空を包んでいて、あいにくの雪だ。
祭りの撤収が早めになって、俺にとっては願ったりかなったりなのだが、
ミセリは少しだけ寂しそうな顔をしていた。
楽しそうな子供たちの声が、遠くから聞こえてくる。
今俺は、ミセリと並んで街のメインストリート――路面電車の通っている道路を歩いていた。
ミセ*゚ー゚)リ「おい、ドクオ! あの食べ物はなんだ?」
真っ黒なバナナを見て、ミセリが叫ぶ。
この娘はチョコバナナも知らないのだろうか?
('A`)「ありゃチョコバナナだな。一般的には甘くておいしい」
この街の祭りで売っているチョコバナナ……というか、
ミセリが向かっている屋台のチョコバナナは実はいわくつきだ。
コーティング用のチョコのカカオ含有量が、ほぼ100%で甘いと思って食べるととても苦い。
先ほど"一般的には"といった理由はここにあった。
苦いのが得意な俺でさえ、一口だけ食べて昔飼っていたペットに食わせた記憶がある。
- 21 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 21:58:35.26 ID:UDeBtcA80
- 忠告を出そうと思ってミセリに目線を移したが、既にその屋台のチョコバナナを買っていた。
「嘘つき!」「意地悪!」「バカぁ!」
そんなミセリの暴言が飛んでくるのが予測できる。
うれしそうな顔をしたミセリが、また俺の隣にならぶ。
甘そうな匂いが、辺りに漂う。
あくまでも、甘"そうな"匂い。
ミセリが俺の方をむいて口を開く。
ああ、一体どんな罵倒をされるんだろうか。
ミセ*゚ー゚)リ「あのさ、店主が呼んでたぞ?」
('A`)「ああ、すまん……ってなんだって?」
ミセ*゚ー゚)リ「何を謝っているんだ? 店主が呼んでたぞ?」
予想外のその言葉に反応して、俺は屋台の方を向く。
顔は影に隠れているが、長い髪が見えて、主が女性だと認識させる。
- 23 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:02:31.76 ID:UDeBtcA80
- チョコバナナ屋の店主に知り合いはいなかったはずだが、一体何の用事だろうか。
手に持つそれを見て目を輝かせたミセリを、ベンチにおいてチョコバナナ屋へと進む。
背中越しに昨日聞いたような変な悲鳴が聞こえたが、気にせずに向かう。
('A`)「あのー、なんか呼ばれたみたいなんですけど?」
川 ゚ -゚)「やあ。チョコバナナ食べるかい?」
どこかで見たことのある女性だった。
長くて綺麗な黒髪が、チョコ臭漂いそうでもったいないと思った。
('A`)「そんな理由で呼んだんですか?」
川 ゚ -゚)「営業は大事だぞ? まぁ冗談は置いておいて、シャキンが君を呼んでいる」
シャキン。
その単語に反応して、俺は目を見開く。
確かにシャキンはAランク記憶士で、それなりに地位もあるはずだ。
この女性がシャキンを知っていてもおかしくはない。
- 24 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:05:12.01 ID:UDeBtcA80
- ('A`)「お姉さんはシャキンの知り合いですか?」
川 ゚ -゚)「んー。まぁそんなところだ。ついてきてもらいたい」
('A`)「連れがいるんで、一緒でもいいですか?」
川 ゚ -゚)「勿論だ。あっ……と。それから私の名前はクーだ。素直クール。よろしく」
('A`)「ドクオです。クーさん」
ミセリを呼びにベンチへと戻る。
何故か俺の方を睨んでいたので、犬猫でも呼ぶように「おいで」と優しく声をかけた。
ミセ*゚ー゚)リ「……甘いっていったのに」
ボソッとミセリが何かを呟いた。
それは俺へ当てた罵詈雑言の類なのだろうか?
面倒なので、通り過ぎる風と同じように聞き流す。
寒さカチカチになった何かで、後頭部を叩かれた。
- 26 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:08:10.62 ID:UDeBtcA80
- 屋台前に戻ると、既にクーが店じまいをしていた。
屋台の解体まで始めているあたり、もう祭りに戻ってくることはなさそうだ。
怪我をされても困るので、手伝うことにする。
鉄筋が冬の寒さで冷え切っており、指先から体温を奪っていった。
川 ゚ -゚)「ドックンが手伝ってくれて、お姉さん嬉しいな♪」
('A`)「黙れ、手を動かせ。ドックンて呼ぶな」
川 ゚ -゚)「つれない奴だ」
正直、耳まで真っ赤にしそうなほど恥ずかしいのだが、悪態をついてそれを回避する。
ミセリも手伝おうとしてくれたのだが、
"なんとなく"という理由だけで路上に立ちっぱなしにさせた。
途中、幾度か鉄の棒が足の上に直撃したが、何も……問題ない。
……
ひとしきり、片付けも終えクーが口を開く。
川 ゚ -゚)「では、いくか」
クーが少し前を歩き、ミセリと2人で並んで歩く。
客観的に見ればまさに両手に花状態だったのだが、
いかんせんチョコ臭がきつくて気持ち悪くなった。
- 29 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:11:29.15 ID:UDeBtcA80
- 雪は降り続く。
隣を歩くミセリが、コートを着ているにも関わらず身震いをしていた。
俺に甲斐性でもあれば上着を渡すのだが、俺にはそんなものはない。
脱いだら寒いのでコートを渡すわけにはいかない。
川 ゚ -゚)「さて、ここだ」
クーがそういって足を止めたのは、居住区7番地にある病院だった。
「お前の頭が病気でヤバイ」とでもいうのだろうか。
('A`)「シャキンが病気か?」
川 ゚ -゚)「いや、シャキンはピンピンしている。
会わせたい人物がいるんだよ。シャキンもそこにいるよ」
会わせたい人物?
ますます疑問が深まる。
まさか、シャキンに直で新しい仕事をうけるようにいわれるのだろうか。
今までそんな経験は無いが、絶対に無いとは言い切れない。
- 31 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:15:14.33 ID:UDeBtcA80
- エレベータにのって5階を目指す。
ここは病院内でもかなり奥、意識がなくても生きている人間のいる棟だ。
いわゆる植物人間の棟で、独特のにおいと雰囲気で気持ち悪くなる。
真っ白な壁と廊下。所々につけられた明かりがそれに反射して、凄く明るかった。
二つ目の十字路で、先導するクーが右へと移動する。
俺達もそれに続いていく。
二つ目の扉の前で、クーが立ち止まる。
川 ゚ -゚)「さて、この病室だ。今から君には重要なものを見せる。心の準備はいいか?」
('A`)「グロいのは苦手です」
色々な臓物を思い浮かべて、一人で青くなる。
川 ゚ -゚)「んー。グロい。と言えばそうだし、そうじゃないと言えば、そうな気もする」
「どっちだ!」と頭の中でツッコミを入れる。
この人はクールぶってはいるが、天然な気がする。
少しだけ変化した俺の表情を読みとっているのかいないのか、
クーは表情を全然変えてはいなかった。
病室の主の名前を見る。
「内藤ホライゾン」
俺のあこがれている、特Aランクの記憶士の名前だ。
- 33 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:17:59.79 ID:UDeBtcA80
- いつまでも病室の前にいる俺達をみて、怪訝な表情をした看護士が通り過ぎていった。
覚悟を決めて、軽く深呼吸をする。
グロイぐろいぐろいぐろろろおろろろ……。
(;'A`)「よし、いこうか」
ミセ*゚ー゚)リ「んじゃ、いきましょう」
クーが病室の扉をノックし、それに続けて口を開く。
川 ゚ -゚)「あけるぞ」
「どうぞ」
もう来ていることを知っていたのか、女性の声で返事が聞こえてきた。
クーが手を伸ばし、扉が開く。
大きな窓から見える雪に、太陽の光が反射しているのか、不意の明るさに一瞬目がくらむ。
病室にはベッドに寝転がる一人の男性と、その傍らに、巻き髪の高貴そうな女性が座っていた。
眠り続ける男性の手を握っているあたり、恋人なのだろう。
- 35 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:22:28.09 ID:UDeBtcA80
- 「フフフフフ」
どこからともなく、シャキンの声が聞こえた。
"どこからともなく"というより、ベッドの下に転がっているのが、よく見えているのだが……。
本人は気づいていないと思っているようで、仕方ないので付き合ってやることにする。
「時に紹介主、時に謎の男、そう、俺こそが」
(´▼ω▼`)「シャk」 ゴッ
鈍い音が鳴った。頭でもぶつけたのだろう。
声にならない声と同時に、ベッドの下からずるずると這いずり出てくる。
ギッギッとか、がたがたとか、大きな物音が上がる。
それはカッコイイ登場というより、ゾンビのように見えて、
気の小さい人だったら悲鳴を上げるレベルだった。
('A`)「うん。知ってる。服、埃だらけだぞ?」
服についた埃を手で振り払って、いつもサングラスの男――シャキンは声を上げた。
(´▼ω▼`)「ドクオよ! 今日君をここに呼んだのは他でもない。3人を紹介するためだ」
(;'A`)「ん? 紹介ってまさか……3人分の記憶を消すのか!?」
嫌な予感がして、後ずさる。
- 37 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:25:14.53 ID:UDeBtcA80
- (´▼ω▼`)「心配するな、弟子よ。簡単な紹介をしよう」
「誰が弟子だ!」
頭の中でツッコミを入れる。
話の腰を折りたくないので、黙ってシャキンの言葉を聴くことにした。
(´▼ω▼`)「まず一人目は、もう知っていると思うが、
くーるびゅーてぃー(笑)なお姉さん、素直クールだ!」
川 ゚ -゚)「さっき自己紹介したぞ」
クーが俺とミセリを見て、ニコリとぎこちなく微笑む。
表情があまり変わらない人なのに、無理をしているなと思った。
(;´▼ω▼`)「続いて、僕らの親分、ツンデレラ。ツンだ」
巻き髪の女性の方を向いてシャキンがそう言い放つ。
女性に対して親分とは、中々洒落がきいている。
ξ゚听)ξ「女性に対して親分ってなによ! よろしくね、ドクオ君」
俺と同じようなツッコミをする女性に、思わず吹き出しそうになる。
ツンはこちらに手を伸ばす。
その意を握手と解釈し、こちらも手を出す。
手は結構小さくて、かなり綺麗な指をしていた。
ニコリとした表情は凄く可愛くて、可憐という言葉が似合いそうだった。
- 39 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:28:14.32 ID:UDeBtcA80
- (´▼ω▼`)「よし、では一番紹介したい男、内藤ホライゾン!
僕らは彼のことをブーンって呼んでるけどね」
ベッドに横たわる男をシャキンが見る。
一番紹介したい?
一体どういうことだろうか。
( ω )「アゥ……ア……ゥ…………」
当の本人は、「あ」とか「う」という声を細々と上げるだけであった。
たくさんのチューブが、その男につながれている。
また、目からは水分が垂れ流されている。
(´▼ω▼`)「ブーンを紹介したい理由は、これだ」
そういってシャキンがブーンの上にかぶさっている毛布を奪う。
ブーンの上体が目にはいる。
そこには――
- 41 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:31:12.45 ID:UDeBtcA80
- 気味の悪い、ひび割れたような黒い線があった。
その体は今にも崩れ落ちそうで、儚げだった。
嫌な気分がする。
前に見たことがある気がして。
(´▼ω▼`)「いいかい? これは、この男は……知っていると思うが特Aランク記憶士だ」
毛布を戻しながら、シャキンが続けた。
(´▼ω▼`)「彼はね、1万人の記憶を全て奪ってきた。
つまり、彼の頭の中には、1万人分の記憶が詰っている」
「人間の精神は、120年〜140年ほどで朽ち果てる」と何かの本で読んだことがある。
記憶を奪うということは、その人の人生の断片を肩代わりするということだ。
あくまで仮説だが、1万人、1人から1年分の記憶を奪ったとしても1万年。
このブーンという男は既に1万年の時を過ごして、精神が崩壊してしまった。
この皹割れはその反動、彼が植物人間になってしまった原因ではないだろうか。
(´▼ω▼`)「顔色が変わっているところを見ると、何か気づいたようだね。
僕が何を言いたいかわかるかい?」
「記憶士を続けるのは危険だ」ということだろうか?
- 43 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:35:31.62 ID:UDeBtcA80
- ('A`)「はっきりいってくれなきゃ、わかんねぇ。俺バカだから」
少し間をおいて、シャキンが軽く深呼吸をしてから口を開いた。
(´▼ω▼`)「ドクオ、この街へ君を導いたのは俺だ。だから俺がいう。
こうなりたくなければ、一刻でも早くこの街を出ろ!」
大体予想通りの言葉だ。
確かに、こんな記憶士の成れの果てには成りたくない。
記憶士として稼いできた金は、もう残りの人生を遊んで暮らすくらいある。
……
だが、ミセリはどうする?
彼女は重症者なのだぞ?
中途半端に投げ出せというのか?
そして、その仕事をまわしてきたのはシャキン、お前自身なんだぞ!
シャキンという人間が、2人いるように感じるほど発言に不可解さを感じた。
- 44 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:38:34.87 ID:UDeBtcA80
- (´▼ω▼`)「勝手だとは思うがね、これは友人からの最後の頼みなんだ。
『一人でも多くの記憶士を救ってほしい』
ここで転がっている彼の願いなんだ、すまないが聞いて欲しい」
友人の最後の願いだから、聞けって?
俺には関係ないじゃないか!
歯に力を入れて、拳を握る。
('A`)「詳しく理由を話してくれなければ、聞けやしないぞ?」
(´▼ω▼`)「さっき言ったので理由は全部だ。
……
少し柔らかくしよう。あまり記憶士としての仕事に根をつめるな」
('A`)「根をつめるかどうかは、あんたの仕事の紹介次第だよ」
(´▼ω▼`)「あああ、確かにその通りだね」
何が言いたい?
俺にどうしてほしい?
これ以上、的を射ない問答を続ける気はない。
窓から見える空に、太陽が顔を出していた。
('A`)「帰る」
- 45 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:41:37.25 ID:UDeBtcA80
- 踵を返し、重めの病室の扉を開いてそこから出る。
シャキンの俺を呼ぶ声が背中越しに聞こえたが、無視して進む。
白い廊下に、コツコツという自分の足音だけが鳴り響いていた。
下階行きのボタンを押して、エレベーターを待つ。
こんな日には、帰って本でも読むに限る。
エレベーターに乗り、ボタンを押して1階を目指す。
腕を組み、さっきのことを整理する。
紹介された3人。
植物状態で涙を流す男。
体中に現れた黒い線。
記憶士をやめろというシャキンの発言。
一つ考えられるのは、その言葉通りの意味。
「精神崩壊する前にここから逃げ出せ」という忠告。
他に考えられるのは……。
- 48 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:44:08.44 ID:UDeBtcA80
- ('A`)「あ、ミセリ忘れてきた」
今更、ミセリを置いてきたことを思い出す。
というよりも、ついてきていないことに驚きを感じていた。
ミセリは記憶士ではない。
呼び止められる、なんてことはありはしないだろう。
だが、シャキンたち3人(正確には4人だが)の中においてくると、何を吹き込まれるかわからない。
1階についたことをつげる高い音が鳴り、次は上へと向かう。
俺は今一度Dのボタンを押して、5階を目指す。
最初に乗った時には気がつかなかったが、盤面には汚れ一つなくて、
鍍金でもしてあるかのようにピカピカだ。
ミセリと行き違いにならなければ良い。
幸い、誰も途中の階で乗ってこなかったので、直ぐに5階へとついた。
確か道は、二つ目の十字路を右、その後二つ目の病室だったな。
……
あった。
532号室、内藤ホライゾン。
しかし、怒って出て行っただけあって、病室に戻るのはちょっとばつが悪い。
- 50 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:47:26.40 ID:UDeBtcA80
- 病室の引き戸を持ったまま、あけようかあけまいか迷っていると、近くを看護士が2人通っていった。
看護士達は、こちらを何度も見ながらヒソヒソ何か話している。
畜生!
こっちみるな!
脳内で悪態をついてから、看護士たちを睨む。
看護士たちは何かを察したのか、直ぐに消えていった。
再度、病室の引き戸と向かい合う。
「記憶というのは……ただの電気みたいなもんだ」
病室の中から、言葉が漏れてきている。
一体、何を話しているんだろうか。
「記憶士はその電気を操っているに過ぎない」
なんだ……?
俺はこの話を聞いたことがあるぞ?
- 53 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:50:29.50 ID:UDeBtcA80
- かすかな記憶を辿る。
この後は確か……
(´▼ω▼`)「険しい道だが、真実に到る道。
平坦な道だが、真実には決して到らない道。
さて、どっちを選ぶ?」
こう続く。
川 ゚ -゚)「急にどうした?」
(´▼ω▼`)「なんでも無い。……っと、僕はトイレにいってくるよ。
残りの話は2人から聞くから続けておいて」
まずい。シャキンがこちらに来る。
病室の扉がゆっくりと開く。
隠れる場所は一箇所しかない。
ならば、考えは一つ。
「十字路へ駆け、壁に隠れる」
それだけを考えて、そちらに向かって跳ねる。
全力で床を蹴る……が、直ぐに手首に圧がかかる。
――掴まれたらしい。
- 55 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:53:04.46 ID:UDeBtcA80
- (´▼ω▼`)「や。少し話でもしないか?」
(;'A`)「な!?」
俺が病室の前に居ることに最初から気づいていたのかと思って、少しだけ焦った。
掴まれた手首にさらに圧がかかる。
('A`)「ついていくんで、手首、離してください」
「これは失礼」などと、思ってもいないことをいい、シャキンが手首から手を放す。
シャキンがこっちへ来いといわんばかりに手招きをし、俺はその背を追う。
白い廊下をゆっくりと歩いていく。
ついたのは茶や水など、無料で飲み物をもらえるラウンジだ。
大きな四角いテーブルが1台あり、その周囲にパイプ椅子が何台も並んでいる
ハメ殺しの大きな窓からは、外の景色が一望できる。
太陽光が多く取り入れられていて、ただでさえ明るい病棟で、一際明るく感じる。
(´▼ω▼`)「木を隠すなら森の中、言葉を隠すなら会話の中ってね。君の意見を聞こう」
(;'A`)「どういうことだ?」
(´▼ω▼`)「真実に到る道。さぁどうする?」
- 57 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:55:55.27 ID:UDeBtcA80
- あれは、やっぱり俺に向けられた言葉だったのか。
急に思い出した言葉。真実。いないミセリ。
そしてシャキンたちに指示していたのは誰なのか。
俺は何か忘れている。重要なことを。
何者かの手で消されている可能性。
真実を知る以外の選択肢は、俺の中にはないッ!
('A`)「その物言い。答えなんて聞かなくても判ってるだろ?」
(´▼ω▼`)「まぁね。だから君をここに呼んだんだ」
紙コップに水を注ぎ、口へ運ぶ。
喉が鳴る。
(´▼ω▼`)「まず、一つ教えよう。"シャキン"という人物はこの街に存在しない」
目の前の男は自分自身が存在しないと口にし、続けざまにサングラスをはずす。
しょんぼりしたようにさがった眉毛に、くりっとした瞳。
見慣れたあの男の顔がそこにあった。
(´・ω・`)「や、僕はショボン。君をここに招いた男だ」
- 59 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 22:59:19.51 ID:UDeBtcA80
- ショボンが紙コップに飲み物を注ぎ、話を続ける。
湯気が出ているところからみて、暖かい緑茶あたりだろうか。
(´・ω・`)「シャキンというのは僕らのチーム名さ。僕、クー、ツンの3人のチーム。
ブーンは僕達の上司さ」
('A`)「ショボンが俺を騙していたことには今は目を瞑ろう。
それで、そこからどうやって真実に至るんだい?」
(´・ω・`)「順を追って話すよ。まず、僕ら3人の目的を言おう。
一つ目は、ブーンを起こすこと。
二つ目は、ブーンの願い「記憶士を助けること」
僕らの目的はこの二つだ」
('A`)「ふむ」
この二つの目的に俺が入り込む余地があるのは二個目のことなんだが、
記憶士はこの街にもっとたくさん居る。
俺だけをここに呼ぶのは、おかしいのではないだろうか。
(´・ω・`)「ちなみに後者はさっき話したことで全部。
ブーンの願いなんて形式上だよ。
僕らの本当の目的は前者、ブーンを起こすことだ」
何を言っている。
俺がブーンを起こすことを手伝えということだろうか?
(´・ω・`)「ドクオは何故呼ばれたのか、まだわかってないよね?」
こちらの心を見透かしたその言葉に、思わず首を縦に振る。
- 62 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 23:03:34.88 ID:UDeBtcA80
- (´・ω・`)「君にはブーンを起こしてもらいたい」
予想外の答えがそこに待っていた。
('A`)「……なんで俺だよ?」
(´・ω・`)「君にしか出来ない。君の手の皹がその証拠さ」
確かに俺の手の皹は彼の全身に走っていたものと酷似している。
何の関係があるのか全然分からない。
俺はBランクの記憶士、ショボンはAランクの記憶士。
記憶を奪えば起きる、などの単純なことならショボンがやったほうがいい。
いよいよわけがわからない。
('A`)「どういうことだよ! 記憶士のランクはショボンの方が上だぞ?」
(´・ω・`)「君の力が必要だ、ということも忘れているんだね」
何か重要なことを忘れている気がする。
意識が飛びそうなほどの眠気に襲われる。
この眠気の正体が何なのかもわからない。
高層ビルの上階にいるような、フワフワとした感覚。
実際にはゆれてはいないはずなのに、床がゆれているようで不安になる。
- 64 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 23:06:23.37 ID:UDeBtcA80
- 不意に、頭の中にあるルールが浮かび上がる。
「記憶士同士の処理の場合、低ランクのものは高ランクのものの処理ができない」
まだ、寝るわけにはいかない。
頭が働いていない感じがして、気味が悪い。
「しかし、君は……」
頭の中に低い声が響く。
「君は」に続く言葉はなんだ!?
もう少しで思い出せそうなのに、思い出せない。
歯と歯の間に挟まった葱の取れなさのように、出そうで出ないくしゃみのように。
中々思い出せない歯がゆさと、思い出そうとすると強さを増す眠気。
それに耐え切れなくなって、倒れるようにテーブルに頭をぶつけた。
テーブルは鈍い音を立てて震えていた。
(´・ω・`)「知るんだろう? 起きな。
まずは一番信用できる現実から、疑ってみることだ」
そのまま、俺の意識はずぶずぶと闇に沈んでいった。
「起きなよ。形――D――O」
- 66 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 23:08:56.73 ID:UDeBtcA80
―― 翌日 ――
太陽の光が目の上に降り注ぐ。
両の手で頭を押さえながら、ガラス越しに高い空にあるその発信源を眺める。
真っ赤なそれは煌いてこの世界を照らす。
ふとその隣を見ると、やたら黒くて大きい分厚い雲が広がっていた。
後数分もすれば猛吹雪が吹くかもしれない。
周囲を見ると、カフェ【バーボンハウス】のいつもの座席だった。
そういえば、今日はクリスマス・イヴだ。
俺は昨日、ショボンの手で忘れていた記憶を思い出した。
正確にはショボンに記憶を返してもらったのではなく、きっかけを貰ったにすぎないが。
ショボンはいつものように、カフェの仕事を始めようとしている。
俺もミセリに話をつけておかなければならない。
俺は毛布を蹴飛ばし、椅子から這い出る。
驚愕の表情でこちらを見たショボンを見て、笑顔を向けてやる。
('A`)「ブーンを目覚めさせる。そんでもってミセリを……」
(´・ω・`)「真実は、最も恐ろしいもんだ。君の行く道は険しいよ」
- 68 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/11/30(月) 23:13:13.29 ID:UDeBtcA80
- (´・ω・`)「大概の問題はコーヒー一杯飲んでいる間に頭の中では片付く」
('A`)「そうか?」
(´・ω・`)「理解できないかもしれないけどね。後は行動に移すだけだよ」
('A`)「今からそうするさ」
(´・ω・`)「ただ、君の場合は真実を思い出してからでないと行動に意味がないけどね」
それだけいって俺に白い湯気を上げるエスプレッソを手渡した。
エスプレッソを一気に飲み干し、バーボンハウスの入口の扉へと向かった。
第3話 終わり
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