( ^ω^)あしたの空のようです

4 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/11(月) 23:23:31.57 ID:2tWNhxBV0









           Part2 朱夏,









       
5 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/11(月) 23:25:49.18 ID:2tWNhxBV0



('A`)「しぃは幼馴染でさ、俺とはそう関わってねーんだが、姉貴にむっちゃ懐いててさ」
( ^ω^)「ほうほう」
('A`)「いつ頃だったかなー、しぃを意識しだしたのって。幼稚園のときだったか……」

ドクオの部屋で、ブーンは世間話や恋話に興じていた。

夏休みを迎えると、さっそくブーンはドクオの家に泊まりこんだ。
本当はイヨウやギコも誘ったのだが、二人とも実家に帰ったらしく、断られた。
真夜中になるまで二人はプレイステーションで遊び、その後は深夜テレビに耽っていたのだった。

('A`)「しぃのオヤジさんが家の親父の会社の社長らしくってさ。よく会ったもんだ」
( ^ω^)「えーっと、VIPモーターズ?」
('A`)「そーそー。下請けらしいけど結構でかい会社なんだぜ」


( ^ω^)「 あー、この時間はパペポが観たいお」
('A`)「あれ面白かったよなぁ。釣瓶を見直したもんよ」
( ^ω^)「上岡龍太郎が釣瓶の面白さを引き出してたお」
('A`)「そうだよなー。上岡師匠の引退は寂しいや。テレビがつまんねー」

チャンネルをせわしなく換えながら、二人は過去の番組話で盛り上がった。

6 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/11(月) 23:32:16.06 ID:2tWNhxBV0
テレビは深夜のニュース番組を映していた。地元の事故について報道している。

('A`)「そーいや見つかったんか? お前をひき殺した犯人?」
( ^ω^)「ちょwwww殺されてないおw まだ、見つかってないお」
('A`)「ったく、ひでえ奴も居るもんだな。そんな奴が今もこの町で走ってんだろ?」
( ^ω^)「そう…かもしれんお」
('A`)「やりきれねーな。ま、骨がすぐくっ付いてよかったなー」

('A`)「やっぱテレビつまんね。ぷよぷよやろーぜ。SUNだぞSUN」
( ^ω^)「おっお。かかってこいだお」
('A`)「ちょい待ち。おれドラコでお前はアルルね。RIVAL MODEが聴きてえんだ」
( ^ω^)「いや、象を増やさせるお!」

騒いでいると、扉が開いてドクオの姉がぬっと顔を出してきて、

('、`*川「あんたらさっさと寝なさいよ!」


・・ ・・・

夏休みは宿題などそっちのけで、奔放し続けた。
しぃを色んなところへ連れ回しては恋人気分を味わったし、
ドクオ達とゲームをしたり遊びに出掛けることはまるで飽きなかった。

まゆ山家からの慰謝料は中学生には使いきれないほどの額なので、財布はいつも充たされていた。
親にその散財ぶりを指摘されたときはさすがに肝を冷やし、高価な物品の購入は控えるようにしたが。

           
7 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/11(月) 23:38:28.68 ID:2tWNhxBV0

こうまでやりたいように過ごすと、やはり、ひとつの欲望が吹き溢れていく。
夏という季節が更にそうさせるかも知れない。年頃だからというのもあるだろう。

しぃという、従順な少女の身体を利用し、脱童貞したいという欲望は日増しに強くなっていった。


( ^ω^)モンモン

なぜなら自分はドクオ達、いや一般的な中学二年生とは立場が違うのだ。
性交を経験する中学生はだいたい不良と相場が決まっているが、自分にはしぃが居るのだ。

遊園地へ行こうといえば二人きりで観覧車に乗れるし、この前の夏祭りもカップルのように練り歩いた。
こうまで連れ回して、よくもクラスメイトにばれないものだと自分でも感心する。

家へ来いと言えば、その日の夕方にはチャイムを鳴らしてくれるはずだ。
二人で旅行するといっても、首を横には振らないのではないか。

全ては自分のさじ加減。その決断によって、明日にでも達成できる。
しぃも拒まないというか、その辺は普段の自分の立ち振舞いで覚悟しているだろう。


                       
8 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/11(月) 23:46:41.75 ID:2tWNhxBV0
その決断によって、明日にでも達成は出来るだろうが、じっさいのところ、
ブーンはその決断を延ばしに延ばしてきた。延々と保留を繰り返していた。
コンドームは薬局で購入してきたし、あとは誘うだけなのだが、そこが難し過ぎた。

脱童貞はクリスマス・プレゼントより胸が躍るくせして、歯科医の診療よりも心が凍りつく。

この調子では夏休みの最後の日になっても保留するに違いない。夏休みの宿題のように。
ブーンもその辺は重々に承知していた。
だから、次に会ったときにはぜったい誘おうと心に決めていた。


                 *   *

(,,゚Д゚)「ゴルァ……なんというか、男ばっかだとムサいですなぁ」
('A`)「………」
( ^ω^)「………」
(=゚ω゚)「そ、それは言わない約束だょぅ」
(,,゚Д゚)「今ごろイケメンの方々は彼女と夏祭りにでも行ってるんですかなぁ」
( ^ω^)「ふふ……」

('A`)「え、なに……笑ってんだ、お前?」
(=゚ω゚)「まさかブーンくん……!?」
(;^ω^)「ち、違うお。自分の恵まれない人生に笑えてきちゃったんだお」

       
9 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/11(月) 23:52:57.06 ID:2tWNhxBV0
(,,゚Д゚)「ま、そこは我々も一緒ですから、押しくらまんじゅうの要領で……」
(=;゚ω゚)「きもいんだぃょぅ!」

(;^ω^)「(我々も一緒……それは違うお! ギッコ)」
('A`)「ふうーん」

四人でのゲーム合宿が終わったのは2000年、8月9日の水曜日。
そして翌日の8月10日木曜日に、ブーンはしぃと落ち合う約束を取り付けていた。


駅前の小さな喫茶店で、二人はメニューに目を通している。

( ^ω^)「また喫茶店かお」
(*゚ー゚)「私ね、喫茶店が好きなんだ」
( ^ω^)「へえ」

ブーンは御冷を喉に流しこみながら、話を促した。

(*゚ー゚)「なんだろなぁ……この落ち着いた雰囲気がさ、
     喧噪から離れることが出来てるみたいじゃない」
( ^ω^)「まあ、言われてみれば分かるような気がするお」

しぃと会話をしながら考えていたのは、女性との行為のランキングについてであった。
会話をしたり友情を育んだりするのと、性的な関係を持つということは絶対的な壁があるということを。

カップルのような関係を築いていても、いざ切り出すとなると心の底から緊張してしまう。
                 
10 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/11(月) 23:58:34.70 ID:2tWNhxBV0
ふたつのブレンドが運ばれ、珈琲の洗練された香りが、鼻腔にいきなり昇った。
うっすら煙草の匂いの漂う喫茶店にふさわしい感触だった。

対面のお譲さんは目を閉じながら、ぽってりした唇にマグカップを近づけていく。
その姿を一瞥した瞬間、いきなりブーンはしぃの女らしさにどぎまぎした。

(;^ω^)「………」
(*゚ー゚)「どうしたの……?」

声もたちまち艶を帯びたような気さえする。

(;^ω^)「あっイヤ……その……!」

ブーンは空気を変えようと、珈琲を一気に飲みこんだ。

(;゚ω゚)「あっつァ!」
(*;゚ー゚)「大丈夫!?」

82℃を保った液体は喉を焼くには充分だった。
しばらく息を整えて、心を落ち着かせてから ようやく、

(;^ω^)「やっぱ夏休みも長いと、どっか行きたくなるもんだお」
(*゚ー゚)「………」

ブーンの言わんとすることを、しぃは薄ぼんやりとだが察知しているらしい、
ミルクをブレンドに垂らしながら無言を貫いている。

(;^ω^)「どっか旅行にいかないかお?」

13 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 00:17:50.25 ID:xKf0fZEQ0
中学生でも、その言葉にどれほどの含みがあるのかはすぐに理解できる。
ましてやしぃは恐れていたのだ。
自分の意思に関係なく、自分の身も心も男に蹂躙されることを。

(* ー )「それは……つまり、そういうことだよね」
(;^ω^)「お?」

はじめてであろう、しぃの反発らしきものにブーンはたじろいだ。

(*゚ー゚)「――ごめん! それはちょっと……」
(;^ω^)「え!? あ、も、もちろん無理強いなんかしないお! ただ……」
(*゚ー゚)「ここ、払っとくから……考えさせて」

しぃはさっさと伝票を手にすると、レジの方へ小走りしていった。
間もなくウェルカムベルが小さく震えて、しぃが去ったことを告げる。


(;^ω^)「あうう」

ブーンは後悔していた。なんて安直な切り出しだったんだ。
残された二つのマグカップがブーンの心に重く圧し掛かった。

たったひとりブーンは、いやな寒気を覚えながら珈琲を飲むことしか出来なかった。

14 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 00:21:51.80 ID:xKf0fZEQ0
・・ ・・・

(*゚ー゚)「……どうしよう」

しぃはまったく途方に暮れていた。考えさせてと言っておいたが、答えは既に決まっている。
つまりブーンからの誘いを断ることになるのだが、それは許されるものではないだろう。
この返答で、下手すればまゆ山家は崩壊の一途を辿ることになるのだ。

(*゚ー゚)「………」



だが、しぃは崩壊を何よりも恐れているわけでもなかった。
家族――特に兄と父親には心底ウンザリしていた。

保身のために自分を売った人間を、守る義理なんてない。
近頃はそう考えるようになっていった。

自分の環境が激変するのは確実だろう。
あの中学校に居られる可能性もほとんどないし、友達とも離れ離れになる。
上流階級の暮らしぶりともおさらばだ。

だが、、、いや、、、、でも、、、、、

しぃの頭の中でぐるぐると考えが回っていった。

17 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 00:27:40.81 ID:xKf0fZEQ0
('、`*川「あら? しぃじゃない」

(*゚ー゚)「あっ……お姉ちゃん!」

往来の道中で、しぃは久し振りにペニサスと出会った。
幼いころから、両親の関係でよく遊んでいた年上の女性だった。
いまは大学二年生の19のはずで、兄とは同年代だ。
しかしペニサスはショボンのことをやんわりと避けているのだが。

('、`*川「どうしたの浮かない顔して? 考え事?」

しぃはペニサスに自分の現況を伝えようかと迷った。
最近あっていなかったとはいえ、いつだって頼りにしてきた女性なのだ。

いや……でも……!
こんなことを、他言してはいけない。
しぃは言葉をぐっと呑み込んで、別の文句を作りたてた。

(*゚ー゚)「あ、そう見える……かな? 私はぜんぜんヘーキだけど」

('、`*川「そーお? なんか地獄の底でも見てきたような眼だったよ」


姉弟そろって、妙なところで疑り深い。
しぃはそれでも必死に否定をして、ペニサスに心配をかけまいとした。

18 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 00:34:52.52 ID:xKf0fZEQ0
('、`*川「ふーん、ま、何かあったら言ってよね。
     あたし何時までもしぃのこと、妹だって思ってるから」

(*゚ー゚)「………」

嬉しい一言だった。四面楚歌のような状況では、その言葉は甘くしみ込んだ。

('、`*川「ドクオなんか、いまやただのゲーオタだしねぇw
     まったくあいつも……中学生なんだからもっとはっちゃけろって感じ」
(*゚ー゚)「アハハ」

ペニサスは苦笑いしながら、

('、`*川「じゃ、あたしこれから大学行かないとだから。また今度ね」
(*゚ー゚)「はーい。じゃあまた今度」

('、`*川「あれ? ケータイの番号教えたっけ」
(*゚ー゚)「ありますよぉ。ちゃんと01に登録してますもん」
('、`*川「ふふ。いい心がけ」

そう言うとペニサスは手をふりながら駅の方へ歩いていった。

心が晴れた気分になったしぃは、ほんのり笑顔をのせながら帰路についた。

19 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 00:41:38.35 ID:xKf0fZEQ0
本道を逸れ、近道を歩いていく。
斜陽が眩しい人通りの少ないその道は、いかにもあの事故現場だった。

情報求む、と警察の掲げた看板には、事故の詳細が記されていた。
白のセダンが少年をはねたという虚構の証言を元に作られている。

(*゚ー゚)「………」

一瞥もせずしぃは素通りし、自宅にたどりついた。

今日は恩師の告別式ということで、朝から母親は喪服で郷里へ帰っていった。
兄も友人と東京に旅行にいったらしく、つまり父親と二人で今晩は過ごすことになる。

玄関に踏みいれ、「ただいま」と口にしようとしたそのとき、
しぃは自分の足元に見知らぬ女物のハイヒールが一足並べられているのを発見した。

(*゚ー゚)「あっ」

これは、母親のヒールでもない。どう考えればいいのだろう。
商談を今日はうちでたまたまやっているだけなのかも知れない。


そうだ、そういうことにしよう。

しぃはそう決め込むと、悠然と二階へ上がっていった。
ただし、「ただいま」だけは言わなかった。

20 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 00:48:25.00 ID:xKf0fZEQ0
自分の部屋へ向かう際、ふしぎな声がしぃの耳に届いた。
苦しそうな二つの声が父の寝室から発せられている。
聞き覚えのある、獣のような低音と見知らぬ女の高音。

しぃは立ち尽くして、泣きそうな眼で寝室の扉を見つめていた。
しかし、断続的に響いてくるその喘ぎ声に、
ついに耐えられなくなって自分の部屋へさっさと入っていった。

扉を閉めると、しぃは後ろ手で鍵をまわし、目を瞑りながら必死に息を整えた。
出かける前の父の言葉が、生々しく蘇った。
「今日は御客さんが来るから、長く外出していいぞ」

その言葉に嘘偽りはない。ただ勝手に、しぃが取引相手などと勘違いしただけなのだから。
しかし……裏切られた。
言葉の問題などではない。人間としての、人間の約束を、父は裏切った。

間も無くして涙が垂れてきた、頬まで伝って、顎に達するとカーペットに滴っていく。

もう、限界だった。

        
21 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 00:59:43.49 ID:xKf0fZEQ0
しぃは袖で涙を拭うと、小物入れから
真っ新品の煙草とライターとを取り出して、ベランダに立った。

八月のはじめに、ふらりと自動販売機で購入したものだった。
バージニア・スリム・ライト・メンソールという、緑と白が基調の落ち着いたデザインで、
自販機のラインナップの中で、ひときわ目についたのであった。

恐る恐る一本取り出し、口にくわえるとライターで先端をあぶってみる。
なかなか燃焼しないのでためしに吸ってみると、いきなり煙が肺に侵入してきた。

(*>o<)y~「けほっ! ……こほっ」

しかしめげずに何度も灰に入れ、慣れようと必死に煙草を味わった。

(*;゚ー゚)y~「はぁ……はぁ……」

フィルター付近まで燃焼してきたので、二本目に手を出した。
今度はむせることはなかったが、それでもふかしを交えながら喫煙をこなした。

煙草を味わっている自分は、なんだか自立できた自分のようだった。
それがなんだか誇らしく、しぃは決心もたやすくついた。


(*゚ー゚)y~「ふ、ふふふ」


   
23 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:06:11.98 ID:xKf0fZEQ0


こんな家庭に、何の未練もない。
自分を生贄に捧げて、のうのうと過ごす家族なんていらない。

しぃはどこかへ旅立とうと考えていた。
今までの自分を捨てる決心はついた。今までの過去が消せないということは、
自分が少なからず隠蔽工作に関与したことも抹消されることはない。

新天地で新たな生活を始めてみたい。
そんな思いはかなり昔から秘めていたが、今日爆発するに至った。
幸い資金は父から多額受け取っている。それを使う日が来たのだ。


(*゚ー゚)y~「どこ、、、行こっかなぁ……」



橙いろに薄れかかった、朱夏という言葉にふさわしい空を見上げながら、
しぃは旅立ちのプランを頭の中で練っていった。


            
24 名前: ◆tOPTGOuTpU[te-se-] 投稿日:2010/01/12(火) 01:09:09.74 ID:xKf0fZEQ0


こんな家庭には、何の未練もなかった。
私を生贄に捧げて、のうのうと過ごす家族なんて家族じゃない。

しぃはどこかへ旅立とうと考えていた。
これまで自分を捨てる決心はついた。

今までの過去が消せないということは、自分が少なからず隠蔽工作に関与したことも抹消されやしないことになる。

新天地で新たな生活を始めてみたい。
そんな思いはかなり昔から秘めていたが、今日爆発するに至った。
幸い資金は父から多額受け取っている。それを使う日が来たのだ。


(*゚ー゚)y~「どこ、、、行こっかなぁ……」



橙いろに薄れかかった、朱夏という言葉にふさわしい空を見上げながら、
しぃは旅立ちのプランを頭の中で練っていった。


             
26 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:12:49.72 ID:xKf0fZEQ0

・・ ・・・

(;^ω^)「う、うぅ」

やってしまった。一人取り残されたブーンは、うつむきながら自分の失態を恥じた。
ウェルカムベルの残響を聞いていると、本当に取り残されたのだと実感させられる。

「考えさせて」

こんな言葉を残しつつ足早に去るなんて、もう答えは決まっているではないか。
NO。お断り。断固拒否。お前を雄として認めん。雌扱いされることは立腹だ、、、


さんざん恋人遊びをしてきたが、それはやはり遊びに留まっていたらしい。
あちらとしては仕事みたいなもので、心はまるで軽蔑しきっていたに違いない。

(;^ω^)「………」

ブーンは気だるく立ち上がると、喫茶店を後にした。
居づらいのもそうだが、窓から差し込む朱いろの西日がずいぶんと煩わしかったのだ。

マンションのエントランスでは、小学生数人がキックボードに夢中になっていた。
やんわりと避けつつエレベーターに乗り込むと、今度のことを考え始めた。


              
27 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:19:58.83 ID:xKf0fZEQ0
しぃに避けられた。嫌われた。もう連絡も取り合ってはくれないだろう。

あの「契約」があったのに……。

(;^ω^)「(待てよ……?)」

契約を反故しておきながら、僕に何のフォローもしないのはどういうことだろうか。
まゆ山家にとって、真実を暴露されることはもっとも避けなければならないことだ。
自分へも傷が及んでしまうので、暴露自体やろうと考えたことはないのだが、
やろうと思えば、いくらでもできた。

(;^ω^)「(知らない間に、隠蔽は完了しきったのかお……?)」

ならばしぃもこんな餓鬼のわがままを聞く必要はない。……
もちろん、ただのしぃ個人の反発ということも考えられるのだが、真実は分からない。


契約自体が効果を失い、僕に関わる必要がなくなったか

しぃの堪忍袋の緒が切れ、ただ反発しただけなのか


わからない。
ただ、現状を言うならば、僕はなにも出来ない。

暴露したところで、隠蔽が完了していたら自分が深手を負うだけ。
もともとメリットはほとんどないが、デメリットだけは飛躍的に倍増した。……

28 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:26:13.05 ID:xKf0fZEQ0
エレベーターは指した階に到達し、扉がおもむろに開かれた。
ブーンは沈んだ顔をいつまでも張り付けながら、さっさと自室へ向かっていった。

薄地の布団に包ると、真っ暗なテレビ画面を覗きこんだ。
契約を破棄されたことを改めて噛み締めると、心の中にぽっかりと穴があいたようだった。

自分は特別な存在だと思い込んでいた。
オタク仲間の中でも唯一、脱童貞も女性関係も約束された特別な男だと信じ切っていた。
だが、今はもう違う。
甘美な体験も過去に置き捨てられた。

( ^ω^)「………」

いま此処で、もう一度しぃという女性について向き合ってみた。
しぃは何でもしてくれると思っていた。いつまでも付き合い続けてくれると思い込んでいた。

でも実際は違う。
ブーンが一線を越えようとすると、彼女はなりふり構わず逃げ出した。
あちら側に恋愛感情などなかったのだろう。こっちの一方通行なだけで。

契約を続けていれば、いつかは真の恋人になれると信じていた。
それはただのマヤカシだった。

  
29 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:31:50.15 ID:xKf0fZEQ0
しぃの感情を考えなかったわけでもない。
申し訳ないと何度も思ってきたし、自分よりも彼女の方が被害者なのだろう。

だけれども、ブーンは手放すことを望まなかった。
あの、冬の名残りがする2000年の3月31日の寒風の中、彼女は瀕死のぼくを助けてくれたのだ。
比喩でなく天使だとブーンは考えた。同時に恋をしたのかも知れない。

しぃが宛がわれたことは本当に驚きだった。
夢のようなシチュエーションに舞いあがって、恋人ごっこを退院後ひたすら重ね続けた。
映画を観るのも、スポッチャに行くのも、カラオケで歌うのも、なにもかもが楽しかった。

しかし、しぃを一人の女性として向き合い、そう接したことは皆無だった。
彼女の感情をまるで無視して、自分の欲望を充たし続けた。
ひき逃げに遭った自分を助けてくれた女性を、従順なペットのように扱い続けたのだ。

ペットのように扱ったからこそ、彼女を手放さなかった。……


(  ω )「ぼくは……ぼくは……」

恋人になりたいと願い続けたくせに、彼女の立場をまったく度外視していた。


 なんて、馬鹿だったんだ。

  
     
30 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:37:56.13 ID:xKf0fZEQ0
いくらでも気づけたはずなのに。
こんな関係をいつまでも続けていれば、彼女の心は一層はなれていくことくらい。
目先の快楽、楽しみだけを搾取し続けて何もかもをないがしろにしてしまった。

そう至った瞬間、今までのしぃとの煌びやかな思い出が、砂礫にかえっていった。
こんなものは偽りなんだ。まゆ山家との汚い交渉で手に入れた産物。
自分の楽しみだけを考えて、利益だけを求めて……。


(  ω )「バカだお……」

自分が何をすべきだったのか。あの当時、ぼくは何をすべきだったのか。
彼女を隠蔽工作の籠から帰してやり、その上で思いを告げればよかったのだ。

それを、告白の成否のリスクを恐れ、帰したはいいがそのまま帰ってこない可能性を恐れ、
偽りの関係を楽しみ続けた。その結果がこれなんだ。



・・
・・・

    
31 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:46:46.57 ID:xKf0fZEQ0
謝りたい。
しぃに自分の非を認めたい。
今までの自分の行いを悔い改め、その上で、好意を伝えたい。

ぼくが悪かった。
契約にかまけ、あなたを真っ当に見れやしなかった。
あなたの感情をそっちのけで、自分だけ楽しんでしまった。


一人の男として、一人の女性に誠意を伝えたい。





決意に要する時間は、けっして長くはなかった。



    
32 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/01/12(火) 01:52:35.63 ID:xKf0fZEQ0
思い悩んだ末の数日後、ブーンはまゆ山邸へ赴くことにした。
電話で謝罪だなんて誠意をこめていない。
約束を取り付けるのも、断られたらどうしようと気が引けた。

( ^ω^)「よし……」


ブーンは身支度を整えると、敢然と往来を歩いた。

もう馬鹿な保身だなんて考えない。
玉砕覚悟で、ブーンは謝罪と告白をこなすつもりだった。

汗が額を、顎を伝っていくのはきっと夏の温度だけのせいではない。
ハンカチがくしゃくしゃになるまで顔中の汗を拭い、進み続けた。




後悔はしないつもりだった。
今さら気持ちを告げることがどれだけ愚かなことかも、理解しすぎるほどに理解している。
それでもブーンは脚を止めることは決してしなかった。

僕はしぃを離したくない。
今度はちゃんと、人間として向き合って。

                         (Part2 終)


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