( ^ω^)あしたの空のようです

3 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/01(月) 23:40:57.06 ID:hQdfbB900









           Part3 晩夏,









                
                       
4 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/01(月) 23:43:24.82 ID:hQdfbB900
まゆ山邸と相対したしゅんかん、ブーンはとっさに胸騒ぎを覚えた。
「KEEP OUT」のテープが貼られているわけでもない、無人の雰囲気があるわけでもない。
だが、この予感は何なのだろう。この屋敷に足を踏み入れることはタブーな気さえする。

目の前の正門を非常口と同一視してしまいそうな、そんな不思議な感覚だった。


(;^ω^)「………」

しかし今さら退却するわけにもいかない。これは緊張のせいだと言いきかせる。
ブーンは震える指でチャイムを鳴らすと、家の者が現れるまでそこに立った。

しばらくして現れたのは、当主のまゆ山シャキンだった。
憔悴しきった表情のままぬっと顔を現したが、ブーンと目が合うと、応対をする顔になった。


(`・ω・´)「やあ、内藤くん……。とりあえず、中にどうぞ…」
(;^ω^)「あ、はいですお」

シャキンから身定められているような視線を受けながら、ブーンは、
おそるおそる玄関で靴を脱ぎはじめた。

内装を目にしてブーンはおや、と訝しげに思った。
外観は立派な洋館の趣きなのに、中に入ってみるとスタイリッシュな
コンクリートの打ちっぱなしの壁や床が目立った。これは当主の趣味なのだろうか

5 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/01(月) 23:47:57.29 ID:hQdfbB900
いやに煙草臭い居間に通されて、勧められるまま椅子に腰かけた。
部屋を一瞥した印象は、「悪趣味」だった。

ダイニング・テーブルは漆を塗った一枚板の上等なものらしい。
しかし脇のコレクション・キャビネットにはオメガ、ブルガリなどの
高価な腕時計をこれ見よがしに展示しているし、
その隣のラックにはこれまた高そうなワインだのモルトだのが並んでいる。

自分の経済力を示そうという気概が、ひと目見ただけで理解できる。
ブーンは居心地の悪さを感じながら、正面のシャキンに顔を向けた。

(`・ω・´)「それで……しぃのことかな?」

シャキンは
灰皿を自分の方へ寄せながらブーンに問いかけた。
灰皿のなかは吸い殻と灰で一杯だった。
茶色のフィルターが山のように積まれている、奇怪な虫のようにブーンにはうつった。


( ^ω^)「(高価なものを揃えている割に、こういうのは無頓着なのかお……)」

( ^ω^)、「あ、はい……そうですお」


                   
6 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/01(月) 23:54:19.37 ID:hQdfbB900

(`・ω・´)「まあ……君の気持ちも言い分も、分からないわけではないが……」
( ^ω^)「??」
( ^ω^)「(なに渋ってるんだお? ただ謝罪しに来ただけなのに)」

シャキンはもぞもぞと胸ポケットからライターと煙草とを取り出し、一服しはじめた。
何から言えばいいのかと、決めかねているようだった。

(`・ω・´)y~「……それで、内藤君はこれからどうするんだい?」
( ^ω^)「え?」

そろそろと探りを入れられている。いったい何なのだろうか。
加えて、空気から察するに「契約」はまだ継続しているような気がする。
腫れものを扱うようなこの言い回しが、それを顕著に物語っていた。

(`・ω・´)y~「まだ求めるというのかな?」
( ^ω^)「求めるっていっても……その……」

(`・ω・´)y~「だが、先に承知してほしいのはだね、我々だって苦しいんだ」
(;^ω^)「……」

話の先がまるで見えないが、自分の要求をつっぱねようとしているのだけはわかる。
やはりしぃは僕に会いたくはないのか。ブーンの心はみるまに沈んだ。

                     
7 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/01(月) 23:59:48.49 ID:hQdfbB900
(;^ω^)「でも……少しだけでいいんです、ほんの少しで」

そう、ほんの少しでも会話をさせてほしい。もう、謝罪だけ出来るのであれば。
こうまで突っぱねられることは予想していた。自分はそれだけのことを強いてきたのだ。
けれども、誠意の言葉だけはどうしても伝えたかった。

(`・ω・´)y~「少しって……ちょっと待ってくれ……」

煙草をもみ消すとシャキンは立ちあがり、戸をあけてどこかへ行ってしまった。
今からしぃの部屋に行くのだろうか。
ブーンはもぞもぞと落ち着かず、成り行きに身を任せていた。

しばらくして、シャキンが折り畳んだ無地の紙袋を手に引き返してきた。
それは何なのだろうと思いながらも、ブーンは、シャキンの返答を待っていた。

(`・ω・´)「これを……」
(;^ω^)「? ……どうも」

ところが紙袋を手渡されただけで、肝心の、しぃの真意を伝えてもらえなかった。
ブーンはワケがわからないまま、シャキンの薦める中、紙袋の中を覗いてみた。

紙袋の中身をみてブーンは眉をひそめた。底の方で札束が転がっている。

(;^ω^)「あのう……これは?」
(`・ω・´)「見ての通りじゃないかな? ……それとも、この量ではまだ不服で?」

8 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:06:40.95 ID:c7/DN2fL0
ブーンにはいまいち当主の言い分が飲み込めない。
再び紙袋の底に目を落とすも、そこには五十万は楽にこえる紙幣の束があるだけだった。

これはいわゆる、手切れ金というものなのだろうか?
言葉を失い、しどろもどろしているブーンに、シャキンは諭すような調子で、

(`・ω・´)「君の言いたいことは分かるさ、我々だって失意のドン底でね……」
(;^ω^)「お金なんかいらないですお! ただその、しぃが……」
(`・ω・´)「ははは……」

シャキンは乾いた笑い声で遮ると、

(`・ω・´)「しぃが抜けた分の、その虚しさをなんとか金で埋めておくれよ」
(;^ω^)「そんな……!」

ブーンは落胆を隠さずに叫ぶと、必死になって、

(;^ω^)「ぼくはただしぃに会いたいだけなんですお!!」

(`・ω・´)「……え?」

その言葉にシャキンは目を丸くさせると、恐る恐る口を開いた。

(`・ω・´)「、、、つまり、君は知っていてここに来たわけじゃないんだな」
(;^ω^)「………?」

今度はブーンの方が恐る恐る口を開く番だった。

9 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:12:31.98 ID:c7/DN2fL0
(;^ω^)「どういうこと、ですお?」
(`・ω・´)「……なるほどな、そういうことだったのか」

ブーンの問いにはいっさい答えようとせず、シャキンは一人ただ納得をしていた。

(`・ω・´)「君としぃは何かのキッカケで仲違いしたんだな」
(;^ω^)「まぁ……その……」

濁した調子でブーンが言うと、シャキンはさらに大きく頷いてみせた。

(`・ω・´)「なるほど……よくわかった。内藤君。率直に言おう」

(`・ω・´)「しぃは家出をした。居所は掴んでない」


(;^ω^)



( ^ω^)「えっ……?」




11 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:17:40.84 ID:c7/DN2fL0
家出をした? どういうことだ?
もしかして、この家には居ないってこと? 警察? 警察沙汰? どうして?
家出ってあの家出? だとしたら、もう、会えないこともあるってこと?

( ^ω^)「家出……て、本気ですかお」

(`・ω・´)「置き手紙があった。我が家への不満を垂れ流した文が」

(;^ω^)「で、でも……! そんな、家出……!?」

にわかには信じ難く、ブーンは明かされた事実を認めようとしなかった。
だが、シャキンに遮られると、気力をうしなっていきなり意気消沈した。

(;^ω^)「………しぃ…」
(`・ω・´)「なにが原因で、しぃは出ていったのか……」

もったいぶったシャキンの言い回しに、ブーンは頭をもたげた。

そうだ、しぃが家出をしたのは、間違いなく僕のせいなんだ。
僕がバカなことをしてきたから。色々振り回してきたから。

(  ω )「……僕の、せいだお」

(`・ω・´)「………」

12 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:22:19.74 ID:c7/DN2fL0
ならば、とシャキンはブーンに声をかけた。

(`・ω・´)「内藤君。我々がしぃを探し出しても、きっと彼女は我々を拒むだろう」

言葉の含みは痛烈に理解できた。
要するに、お前がしぃを連れ戻してこい、だ。原因を作ったお前が。
原因であるぼくに、説得できることなど出来るだろうか。しかし……

(  ω )「はい」
(`・ω・´)「この件に関しては我々も手を焼いているし、哀しんでいるンだよ。
       ……すこし待ってくれ。しぃの部屋から、手がかりになりそうなものを持ってくる」

そういうとシャキンはのっそりと立ち上がって、ふたたび居間から出ていった。
ブーンはしばらく扉を見つめていたが、そのとき、ふいに二階の方から男の嗚咽が聞こえだした。


(;^ω^)「(誰だろう……)」

まさかシャキンではないだろう。ブーンが色々と思案を巡らせているうちに、
その当主はクシャクシャによれたビニール袋を手にもどってきた。

(`・ω・´)「しぃの部屋のゴミ箱だ。……底に黒いものがあるのがわかるね」

言われて凝視してみると、たしかにちりぢりになった、真っ黒な薄いなにかがみえた。
どうやらそれは、焦げた紙らしかった。

13 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:28:02.48 ID:c7/DN2fL0
(;^ω^)「ちょっといいですかお」

こわごわとビニール袋を受け取ると、ブーンはその真っ黒な紙を眺め続けた。
プリント紙ではない。また、焦げ切っていない部分からカラー印刷の跡が読み取れた。

……これは、旅行用の小パンフレットではないか。
ならば、向かった先がどこなのか判断がつくかも知れない。

(;^ω^)「えっと……えっと……」

黒ずんでいないところから情報はほとんど得られなかった。
だが、わずかに黒の部位から、インクのにじんだ箇所を発見できた。

(;^ω^)「海で……ラウ……」

読み取れた文章はたったそれだけだったが、その言葉をきいたシャキンは思いついたらしく、

(`・ω・´)「ラウンジか? 海沿いのラウンジ……」
( ^ω^)「ラウンジ……」

県を一つ越えた先にある沿岸地方の名称で、近年は観光地として町興しをしている場所だった。
しかし計画は難航してい、大正の頃からの漁村生活に慣れきったのか、住民も腰をあげようとしない。
旅行先に挙げられることは滅多になく、空虚化ばかりが進むこの頃だった。


( ^ω^)「何でまたラウンジに……」

ブーンも、ラウンジという名前程度は知っているくらいだし、
そもそもパンフレットがある事実に驚いたものだった。 

14 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:34:35.70 ID:c7/DN2fL0
(`・ω・´)「さてな……」

シャキンはなにやら考え込んでいる様子で、しきりに腕を組んでは解いていた。

( ^ω^)「………」

しぃとラウンジの関連性が浮かばない以上、ブーンの思考はすぐに停止してしまった。
シャキンの回答待ちになりそうな状況だったが、なかなか口を開こうとはしない。

というより、口を開こうとしない風にもうつった。
シャキンはそのうち眉間に深い皺をよせ、窓の方を向いてしまった。

( ^ω^)「(……ここは、ぼくが行くしかないお)」

様子からいっても、シャキンには連れ戻すという気概が感じられない。
それに原因は僕なんだ、そう、何もかも僕のせいなんだ。

本心を言えば、ブーンはこのまゆ山家には嫌悪感を募らせていた。
しぃが離れた一因にも含められるのではないかと睨んでさえいる。

だから、もしラウンジで会話することが出来、話し合いの結果がそうであるなら、
無理につれ戻すという行為はしないでおこうと決め込んだ。


  
15 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:38:48.62 ID:c7/DN2fL0


( ^ω^)「ぼくが行きますお」
(`・ω・´)「本当かね内藤君!」

待ち構えていたような声を出すと、シャキンはうんうんと頷いた。

(`・ω・´)「いやあ、ありがたい。私が行ったところでねえ、嫌われてるしなぁ」

( ^ω^)「……そうですかお」

(`・ω・´)「私も行きたいのは山々だが、こうなった以上、君にお願いしようかな
       内藤君は話したいことがしぃにあるんだったしね。
       ……それと、例の件の口外についてもだね、…」

( ^ω^)「……わかりましたお。絶対にしぃに会ってみせますお」

ブーンはさっさと立ちあがると、一礼してまゆ山邸を後にした。
予定はまだ立てていないが、早ければ明日にも出発しようと考えている。

期待と不安を胸に秘めながら。



・・ ・・・


          
16 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:45:52.07 ID:c7/DN2fL0
ブーンがまゆ山邸を去ってから。


(`・ω・´)「………」

二階から響いてくる咽び泣く声が、だんだんと大きくなっていった。
声の主が階下へ降り、シャキンの元へ向かおうとしているらしい。

(´;ω;`)「どうだったの……どうだった……しぃはバラさないって?」
(`・ω・´)「今しぃの意思など分からんだろうが」

(´;ω;`)「バレるよう……しぃが警察いったら……!」
(#`・ω・´)「だから今は分からんっつったろうがッ!!!」

シャキンは堰を切ったように怒鳴ると、難しい顔になって、

(`・ω・´)「……あれが、しぃを口止めしてくれるかも知れん」

あれ、というのは無論ブーンのことだった。

(´;ω;`)「……本当?」
(`・ω・´)「結果は知らん。大体、二人が会えるかも分からん」

そもそも娘はラウンジに向かったのか……?
それがシャキンの抱いている疑問だった。
いくら燃やしているからといって、ゴミ箱に自分の行先を無造作に捨てるものだろうか。
     
17 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:50:55.36 ID:c7/DN2fL0
(;´・ω・`)「……会えなかったらどうすんの」
(`・ω・´)「だから……そのときはそのときだ。無理に捕まえてしぃを刺激させるのもまずい」

ショボンは涙を袖で拭うと、やはり絶望した顔のままで、立ちつくした。
しぃが警察に駆け込めば、自分はもちろん、VIPモーターズは破滅する。
いつ警察がこのまゆ山邸に踏みこんでくるか。そう考えると、おちおち眠っていられなかった。
不安にまとわりつかれ、精神を消耗させる毎日が続いていた。

(;´・ω・`)「……どうしよう、どうしよう……」

押し殺したような空気が充満していたが、そのとき、打ち破るようなチャイムの音が鳴った。

(`・ω・´)「ン……」

シャキンがのっそりと立ち上がって、インターで返事をしてから玄関へ向かっていった。

(;´・ω・`)「………」

一人取り残されたショボンは、津波のように襲い来る不安に耐えることでいっぱいだった。
椅子にどかっと坐りこんで、落ち着こう落ち着こうと念じるようにつぶやいた。

玄関の方からは、聞きなれた女性の声がした。あれはペニサスではないか?
哀しげな声色で「本当なんですか!?」とシャキンに確認している。
……しぃのことか。

   
18 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 00:54:49.17 ID:c7/DN2fL0
ショボンは耳をすませて、ペニサスと父親の問答に聞き入った。
そのうちペニサスの方はトーンが弱くなり、
「弟も暴れるほどに心配している」と自分の現状を話し出した。

……弟というのは、ああ……ドクオっていったっけ?
無愛想で、なに考えてるのか分からん奴だったな。
そんな奴が暴れてるのか。しぃに惚れてたんか?

(´・ω・`)「……ま、何でもいいけど」

……そういえば、しぃとペニサスは姉妹のように仲が良かったな。
だからあれだけ心配してるのか。血が繋がってない割に元気だしてるな。
……内藤だけじゃなくって、ペニサスからしぃにアタックしてみたら、どうなんだ?

(´・ω・`)「………」

ショボンはのっそりと歩き出した。

自室に戻り、手紙を執筆するために。



・・ ・・・


    
19 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:03:47.70 ID:c7/DN2fL0

帰宅途中、まったくの偶然でブーンはギコと道端で出会った。
お互いに軽く手をあげて談話の出来る程度に近づいていく。
ギコは買い物の帰りらしく、ホビーショップの袋を手に下げていた。

( ^ω^)ノ「おいすー」
(,,゚Д゚)「やぁやぁブーン殿」

木陰のベンチなどには目もくれず、二人は会話に耽っていった。

(,,゚Д゚)「そういやブーン殿、明日あいてますかな? イヨウたちと遊ぶんですが」
(;^ω^)「あー……すまんお。明日は無理だお」

明日から出発するとは決まっていないが、可能性が残るうちは誘いにのれない。

(,,゚Д゚)「そうでござるかぁ……ドクオ殿も無理っていうし、イヨウとカップルでござるな」
( ^ω^)「男でカップルとかきんもー☆」

笑いながらも、ブーンは疑問を投げかけた。

( ^ω^)「ん? ドクオも来ないのかお?」
(,,゚Д゚)「そうなんです。なんかワケありらしく、出かけられないって」
( ^ω^)「……そうなのかお」

快晴の空の下、ずっと談笑し続ける体力を今のブーンは持ち合わせていない。
早々に別れの挨拶をして、ブーンはふたたび歩きだした。……

20 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:09:07.58 ID:c7/DN2fL0

・・ ・・・

その二日後に、ブーンはラウンジへと旅立った。
親は友達の家に行ってくるといえば、何の追及もしてこない。

路線を調べてみると、実際の距離とは裏腹に驚くほど遠回りだった。
ここまで交通網が発達していないとは、ただの田舎ではないか。

ブーンは「本当にここにしぃが行ったのか?」と疑問を浮かべながら、出発することにした。




もう八月も半ばを過ぎ、それでも蒸し暑さや快晴は変わらない、そんな時期の出来事だった。
街路樹の隅にはセミの死骸が目立ちはじめ、人通りも日に日にすくなくなっていく、

そんな時期の出来事だった。







   
21 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:17:21.44 ID:c7/DN2fL0

九時には出発をしたはずなのに、正午を過ぎても、いまだブーンは列車の中で揺れていた。
窓の外からは青々とした森やモノレールが見えた、ずいぶん田舎に来たものだと思う。

クロスシートに物珍しそうに腰かけてから、もう一時間は過ぎた。
ブーンはさきの駅で買っておいた駅弁の包みを開きながら、

( ^ω^)「あと五駅かお……」

しきりにそんなことを呟いて、気を紛らわせていた。


旅行客はやはり少ないらしく、人影もまばらだった。
割箸を手にとって、ブーンはゆっくりと食事を楽しんだ。



こうも怠慢な長旅だと、しぃに会うという緊張感も薄れていくようだった。
実際、もう乗換えはないというのに、気持ちは落ち着き払っている。

ごまご飯を咀嚼しながら、ブーンはしぃとの会話をシミュレートさせた。



22 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:28:16.50 ID:c7/DN2fL0
自分がここを訪れた理由を先に言うべきか。
あるいは先に非を謝罪するべきか。
事故の口封じなんて、僕から言えるものだろうか。

家を飛び出すほど思いつめたしぃを相手に、ぼくはどんな言葉を使えばいいのだろう。
対面したとき、声がつまって何も言えないような気がする。

ラウンジのどこに居るのだろう。そもそも、ラウンジに今、滞在しているのだろうか。
ハイティーンが好むような場所ではないと思うが……。


( ^ω^)「………」


さまざまな思いが浮かび出して、ろくに会話のシミュレートが出来ない。
会ってから考えればいい、成せばなる、そんな気には到底ならないのだが。


御茶を飲みながら、ブーンはどうしようと思いつめた。
気がつけば、あと猶予はひと駅しかなかった。
景色も緑をちりばめたような森林から、閑閑しい沿岸地に変わっていった。


     
24 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:36:15.42 ID:c7/DN2fL0

プランが煮え切らないまま、ブーンはラウンジの海辺を一望することになった。
申し訳程度のビーチは、哀しいほどに客足が少ない。
灯台を挟んだほうの港は漁船が丁寧に並んでいて、やはり港町なのだと頷かされる。

(;^ω^)「……ここがラウンジ……」

どの面を下げてしぃに会えばいいのだろう。駅が近づくほど、陰鬱な気分になっていった。
ブーンは考えをまとめようと努めた。今一度、停車する前に目的を明確にしよう。

まず、僕は彼女に謝りたい。
そうして出来ることなら、許されたい。
そして、そうして、さらに出来ることなら、その上で交際を申し込みたい。

まゆ山家からは、例の事故の件を口外しないようにという要望もあった。
連れ戻してほしい、そんなニュアンスも見受けられた。
そこまで出来るかは自信がない。


・どの面を下げてしぃに会えばいいのだろう。

この考えが、ブーンの心に重く圧し掛かる。
振り払おうとしても、振り払えない。
焦るように荷物をまとめると、下車のために立ちあがった。


そして、列車はラウンジ駅に着いた。 

25 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:43:21.00 ID:c7/DN2fL0



・・ ・・
・・ ・・・

ラウンジは見たとおりに田舎町だった。
駅を出て真っ正面に建っているタバコ屋はシャッターを降ろしているし、
周りを見渡しても、通行人を見受けられなかった。
リゾート計画が頓挫する未来は、中学生でも予見できる。

そもそも、ラウンジに降りた乗客が自分一人なので、さほど期待などしていなかったが。

( ^ω^)「(聞き込みをすればいいのかお……?)」

立ちどまっては何も始まらない、ブーンは緊張を隠さない歩き方で道を進んでいった。
ねっとりした潮風、かんかんと照りつく太陽、蒸し暑さがブーンを襲う。

町は長屋造りが大半を占めていて、コンビニのような色彩鮮やかな建造物は見当たらない。
ブーンは歩くたびに不安に陥った。
本当にしぃはこの町に居るのだろうか。

町の中心部に入り込んで、ようやく、ブーンは町人を発見することができた。
まじめそうな女学生だった。屈みこんでちいさな三毛猫の喉を撫でていた。
その仔猫は気持ちよさそうな顔をしながら、身体をくねらせている。

( ^ω^)「あの、すみませんお」

ブーンはそっと近づいて、声をかけてみた。
        
26 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:51:33.63 ID:c7/DN2fL0


(゚、゚トソン「はい?」

女学生は首をブーンの方へ向けた。特に警戒している様子はなく、次の言葉を待っていた。

( ^ω^)「最近この辺で、僕と同い年くらいの女の子来てませんかお?」

(゚、゚トソン「え……と、うーん……分からないです」

考えこむような顔になって、

(゚、゚トソン「その人、どういう目的でここに来たんですか?」

( ^ω^)「えーっと……家出なんですお」

伏せておくべきことかとも思ったが、特に嘘をつく必要もなかった。

(゚、゚トソン「ええっ大変ですね……。でも、うーん……うちじゃ聞かないですね」

( ^ω^)「そうですかお…」

(゚、゚トソン「お役に立てずすみません」

ブーンは女性に宿の所在を聞き、その後に礼を言って立ち去った。

 
27 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 01:56:54.69 ID:c7/DN2fL0


宿屋は砂浜の方にある一件だけだそうで、旅行客は皆そこに泊まるという話だった。
泊まりの"つて"でもない限り、しぃはそこに泊まっているだろう。この地に居るのならば。

足を棒にして、ブーンはその宿へと向かった。
小さな町とはいえ、徒歩だけで周るのはとても辛いものだ。


(;^ω^)「すみませーん……」
( ><)「いらっしゃいませなんです!」

そこは割りかし大き目の民宿といった感じだった。
繁盛している雰囲気はないが、そこそこに営業は出来ていそうだ。
赤絨毯に巨大な水槽と、定番なものがそろっている。
若い従業員が近づいてきて、ブーンをもてなしはじめた。


( ><)「御泊まりなんですか!?」
(;^ω^)「あ、……えーっと、まあ……」
( *><)「そうですか! ありがとうございます!」

従業員の言葉に生返事で返しながら、ブーンはタイミングを見計らって質問をしてみた。

( ^ω^)「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですお」
( ><)「何なんですか!?」

そこで、中学生くらいの少女が宿泊していないかと訊ねてみたが、
従業員はなかなかその情報を教えてくれなかった。
客の情報は事件性でもない限り、教えてくれそうにはなかった。

29 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:00:22.60 ID:c7/DN2fL0
( ><)「申し訳ないんです! ただ、一人客というのは最近ないんです!」
( ^ω^)「そうですかお……」

どうやら来ていないようで、ラウンジに来たのは無駄骨だったのかと落胆してしまう。

しかし地元まで日帰りできる距離でもないので、チェックインだけ済ませ、
外に出ることにした。冷房から離れた途端、蒸し暑さが降りかかって辟易する。

(;^ω^)「暑いお……」

斜陽の眩しさに顔をしかめる。すでに夕刻になっていたらしい。
どこへ向かおうか迷ったが、なんとなしに海辺のほうへ歩いていった。

その間、道行く人にブーンは尋ねてみたが、どれも情報をもたらさなかった。


( ,'3 )「さあ、知らんのぅ。若者の来る場所じゃないて」
( ^ω^)「そうですかお……」


( ^ω^)「あの、ちょっとお尋ねしたいんでs(ry」
( ´ー`)「シラネーヨ」
(;^ω^)


夜の帳が降りた頃には、もうすっかりブーンは落胆しきっていた。
何一つ収穫を得られなかった。しぃはどこへ行ったんだ。来ていないのか、ここには。

30 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:07:22.80 ID:c7/DN2fL0


( ´ω`)「はぁ……」

コンクリート橋の隅に腰かけながら、ブーンはため息をついた。
灯台と月光とで照らされた夜の海をぼんやりと見つめる。
徒労だった。誰もしぃのことを知らない。きっと来てやしないんだ、ここには。

( ´ω`)「(腹減ったお……宿に戻るかお)」


尻をはたきながらのろのろと立ち上がる。

明日の朝一に帰ろう。
そうして、シャキンに居なかったと告げて……それで……

( ´ω`)「(しぃは……結局見つからなかった……)」

その先はなかった。しぃは居ない。
唯一の手がかりだったパンフレットも、ただのゴミに過ぎなかった。
警察もまさか捜査本部を立てるほど捜索しないだろう、少なくともぼくには何もできない。

これが精一杯なのか。


無力感に苛まされる。傷つけるだけ傷つけて、それで御終いなんて、最悪じゃないか。

31 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:11:06.99 ID:c7/DN2fL0


( ´ω`)「………」


立ち尽くすブーンの背後から声がしたのは、そのときだった。


「よォ。ここには居ないみたいだな」

( ^ω^)「……えっ?」


聞き慣れた声だった。
しかし、このラウンジに、どうしてお前が居るんだ?

そっと振り返って、ブーンは呼び声の主を確かめた。
想像と違いなかった。やはり、背後に居たのは見知った顔だった。


――だらしなく伸びた髪の毛に、やせ細った体系。
薄暗くて顔はよく見えないが、やはり、それは親友のドクオに違いなかった。

('A`)「……しぃは居ない、な」
(;^ω^)「ドクオ……!?」

確認した途端、さきほどの疑問が一気に膨れ上がっていった。

何故ドクオがここに居るんだ……。どうしてラウンジに。

32 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:18:37.84 ID:c7/DN2fL0
驚きを隠さないまま、ブーンはドクオを凝視した。
幻覚などではない。確かに、今僕の真正面に居るのは、ゲーム好きのドクオだ、親友のドクオだ。

ブーンが尋ねるより早く、ドクオは感情を押し殺したような声で、

('A`)「まず俺から先に質問させてくれや……お前の言いたいことは分かってるからな」
(;^ω^)「……何だお?」

分からないような返事をしながらも、ブーンは直観でその質問文を推測した。

ドクオはしぃに恋愛感情を持っている。
加えて、ラウンジに行ったかもしれない、という情報を握っている。
更に言えば、僕までもがその情報に踊らされているという現状。
その三つを吟味すれば、自ずと明らかになった。

――お前はしぃの……

('A`)「……お前はしぃの何だったんだ?」
(;^ω^)「………」

ブーンは沈黙するしかなかった。
いまのドクオには危険な光が灯っている、迂闊なことは言えなかった。

('A`)「俺よぉ……お前としぃが駅前の喫茶店に居るとこ、見たんだよ」

33 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:25:14.73 ID:c7/DN2fL0

(;^ω^)「……そうかお」
('A`)「気付かれないように会話も聞いた。……なあ、どういう関係だったんだ?」

どう言えばいいんだろう。
 とある事情から、カップルごっこをすることになった仲……?
ふざけた回答だ。でも、しかし……それが事実なのだ。

('A`)「相思相愛じゃねえよな」
(;^ω^)「……そう、だお」
('A`)「見た限り、主従関係に近かったな」
(;^ω^)「……かもしれないお」
('A`)「ふぅーん……」

ドクオはゆっくりとブーンの方へ歩いていく。
言い逃れなど出来ない。ことによってはこの友情も崩壊する、そして……

そのとき、ふとブーンの脳裏に疑問が浮かんだ。

(;^ω^)「(……ラウンジに行ったって情報、ドクオはどうやって……)」

ある程度まで近づくと、ドクオは俯き加減に立ちどまった。
暗がりと姿勢とで、表情は判別できないが、身体の様子から感情なら読み取れる。
ドクオの身体は小刻みに震えていた。

マズイ。ブーンがそう感じた瞬間には、ドクオはもう動いていた。
ドクオの拳がブーンの左頬に勢いよく打ちこまれた。

34 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:32:40.89 ID:c7/DN2fL0

(;゚ ω゚)「ぐェッ!!?」

ブーンは衝撃でそのまま後ろに倒れると、痙攣しながら襲撃者を見上げた。

(#'A`)「このゲス野郎……見損なったぞ、オイ」

(; ω )「う、うう……」

返す言葉が見つからない。加えて、言葉を返せる状態でもない。
震えながら、打たれた頬を摩った。ドクオの軽蔑するような眼が、いつまでも見下している。

(#'A`)「相思相愛ならよォ……まだ、殴るこたぁしてなかった。
    だがなぁ、状況は知らねーが、しぃをオモチャにしてたんだろ? てめーは……」
(; ω )「………」
(#'A`)「その挙句、しぃは消えちまった……。ぉい……どういうことだよ。
    女を振りまわしてたってどういうことだよ……ふざけんなよッ!!」

今度はブーンの腹に集中的な蹴りを加え出した。
ドクオは「ふざけんな」と連呼して、力の加減はまったくゆるめない。
抵抗など出来なかった。心情的にも、ドクオの言うことはもっともだと思っていた。
精神的には、親友に暴力を振るわれているというショックが意外と大きかった。
身体的にも、いじましい防御しか出来やしなかった。

ドクオがしぃを愛していることは、あの事故の日よりもっと前から知っていた。
彼の純粋な片思いは、きっと半年や一年の歳月では済まされないほど長い歴史があるのだろう。

僕は殴られて当然だ……蹴りを入れられて済まされるとも思っていない。
でも何だ。何だろう。
この、ふつふつと湧き上がってくる、理不尽だという憤りは。

35 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:42:35.73 ID:c7/DN2fL0


(#'A`)「くそがッ……! クソ野郎!! 陰でおれを裏切ってたんだな……てめえ」

血走った形相で、ドクオは吐露していった。

(#'A`)「俺の気持ちを陰じゃ、笑ってたんだろ!! しぃを……弄びな、がら……!!」

息も絶え絶えに怒りをぶちまけている。蹴りの力は、次第に弱まっていった。
疲労が見えてきたのか、気持ちが昂って集中できないのか、
ともあれ、その間隔も徐々に大きくなって、ブーンの抵抗できる範囲まで狭まった。

(; ω )「………」
(#'A`)「くそっ……くそっ……くそぉ……!」

ドクオは途切れ途切れの涙声で、弱弱しく蹴りを続けていた。

――いまだ。 ブーンはタイミングを見計らって、振り子のように動いている
ドクオのその右脚を両腕で掴んだ。その途端に、ドクオの身体に動揺が走るのを感じる。

(#'A`)「……なん…だよ……」
(; ω )「お前こそ……ふざけんなお……」

ブーンはドクオの右脚をがっちりと
腕で固定したのを確かめると、思いきり、体力を振り絞って寝返りをうった。

(;'A`)「っぅお……!」

不意をつかれたドクオは、そのままブーンの動きについていくことになる。
抵抗も出来ないまま、前のめりになると、足を引っかけられたように正面から倒れていった。

36 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 02:53:12.18 ID:c7/DN2fL0

ドクオはとっさの才覚で両ヒジを前に出して、コンクリートの床と顔面とが激突するのだけは避けた。
代わりにダメージを背負ったそのヒジはしかし、すり傷を負い、加えてしばらく痺れが続くことになった。

(; A )「ぐ……ッ」
(; ω )「はぁ……はぁ……」

ブーンはよろよろと立ち上がった。身体の節々が痛んだ。すでに満身創痍だった。
体勢を変えた今でも、蹴りの感触がまだ腹に続いていた。貫くような靴裏の感触が。

(#'A`)「この野郎……!」

ドクオも怒り任せにつぶやいてから、間髪入れずに立ち上がる。
御互い傷を負いながら、再び対峙することになった。

(; ω )「ぼくが……悪かったお……!」
(#'A`)「ウルせぇんだよ!!」

ドクオは肩をいからせてタックルをかましてきた。
避けられるはずもなく、ブーンはその衝撃を受けて後ろに下がった。
背中が手すりとぶつかる。
脚の力がどんどん小さくなり、ずるずると坐りこんでいってしまった。

(#'A`)「しぃが居なくなってから……今さら、なに反省したフリしてんだよ……
    どうせお前、しぃが家出しなかったら、今だってしぃを支配してたんだろ」

(; ω )「………」

        
37 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 03:03:17.26 ID:c7/DN2fL0
違う。僕はそんなことするつもりはなかった。
ぼくは謝るつもりでまゆ山邸に行って、そこで失踪の事実を知ったんだ。……


(#'A`)「お前が今までしてきたこと! おれは絶対にゆるさねェぞッ!!
    しぃを傷つけたことを今すぐこの場で謝れ!
      手ェついて謝れぇええッ!!!!」

ドクオがあらん限りに叫んだ。
その恫喝には、怒り、嫉妬、悲哀、あらゆるネガティヴな感情が混在していた。
その現実には、胸を締め付けられた。しかし、

(  ω )「………」

(#'A`)「どうなんだよ……!」

しかし、ふつふつ生まれていく理不尽だという、この感情は止められようにない。

……なぜぼくがドクオに殴られなきゃいけないんだ。
ぼくが悪いのは分かっている、申し訳ないほどに理解している。
でも、だからって、第三者であるドクオに何でここまで殴られなきゃなんないんだ。

さっきの不意打ちのとき、なぜもっと痛めつけられなかったんだ、ドクオを。
そんな思いすらしてくる。ブーンは立ち上がって、いった。

( #^ω^)「なんでドクオに土下座しなくちゃいけないんだお……!」
            
38 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 03:14:52.97 ID:c7/DN2fL0

(#'A`)「あんだとぉ……!」
( #^ω^)「たしかにしぃには酷いことしたお! それこそ土下座何回してもし足りないお!
       ……ドクオにも悪いとは思ってたお。でも! 
       ここまで殴られて、さらに土下座なんてするつもりはないお!」
(#'A`)「……ほぉーお」
( #^ω^)「ドクオは……ぼくとしぃの問題には関係ないお」
(#'A`)「 」

この一言がドクオの逆鱗に触れたらしい。ドクオは拳を握りしめると、またもや暴力に出た。
その拳は風を切ってブーンの顎に目掛けて飛んできた、が、ブーンはとっさに後ずさってそれを避けた。

再び無言が訪れる。同時に、汗がどっと溢れてきた。潮の匂いもしだした。
いま自分が夜のラウンジの、コンクリート橋に居ることを再認識させられた。
親友がいま目の前で、自分を傷つけようとしている事実も。
そして、自分はいまその親友に反攻しようとしている。

(#'A`)「関係ねえ……だって? ふ、ふふふ……ははは……」

引き攣るような笑いをして、

(#'A`)「……かもなぁ、
だがなぁ……ははは、許せないんだよ、お前が……」
( #^ω^)「……ただの嫉妬だお。八つ当たりだお」

(#'A`)「そうだよ」

小さく呟くと、ドクオはいきなりブーンに近寄って、柔道の大外刈りの要領で
ブーンの身体を押し倒した。そうしてそのまま、すばやくマウントポジションの格好になると、
威勢よく唾を吐いた。

41 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 03:24:09.52 ID:c7/DN2fL0
(#'A`)「お前がしぃを幸せに出来るはずがねぇ。そんな権利もねぇ」
( ^ω^)「………」
(#'A`)「……俺がしぃを幸せにする」

冷徹な目でブーンを見下しながら、きっぱりと言い切った。

( ^ω^)「……権利ってなんだお、バカじゃないかお」
('A`)「………」
( ^ω^)「ドクオこそ、ぼくとしぃを離す権利なんかないお」


ひとときの静寂の後、殴打する音が響き渡った。それから、嗚咽も。
ドクオの一撃の激痛に耐え切れずに涙を流した、ブーンの声だった。

( #;ω;)「う……くっ……うぅ……!」
('A`)「言ってろよクソ野郎。……俺がどんな思いでここに来たと思ってる……。
    お前を本当に見つけたとき、どれだけ発狂しそうになったと思ってんだ」
( #;ω;)「……うっ……いっ、、、知るかお……ばーか」
(#'A`)「てめぇはどんだけクズなんだよ……!」
( #;ω;)「ドクオだって……暴力とかクズだお!」
(#'A`)「うっせぇ! お前のがゴミだよォ!!」

ドクオはマウントポジションの状態から、ふたたび拳を振り上げてはブーンを殴りつけていった。
嫉妬を込めた一撃、怒りを込めた一撃、失望を込めた一撃、悲哀を込めた一撃。
無抵抗のブーンの顔面をひたすら殴り続けた。

        
42 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 03:29:53.26 ID:c7/DN2fL0
ドクオが拳を止めて、声も出さずに泣きだしたのは、しばらく経ってからだった。
瞳に涙を滲ませながらも、それでもブーンを睨みつけていた。
そのブーンもまた、しゃくり上げながら睨みかえしている。

ラウンジの夜は佳境を迎えていた。いよいよ、町の灯りも失せようとしている。

ドクオはシャツの袖で自分の涙を力任せに拭うと、立ち上がってブーンを解放した。
それから、ブーンの方を見ようともしないで、


('A`)「……俺は、しぃを幸せにする。それこそ、てめーには関係ねぇ話だ」
( #;ω;)「………!」
('A`)「俺がしぃを先に見つける。何年かけても、絶対に探しだす。
    そしてそれから……お前に土下座させる。……わかったな」

最後にそれだけ言うと、ドクオは肩をいからせながら、夜の闇に消えていった。
取り残されたブーンは、半身だけ起こすと、橋の手すりに凭れかかって息を整えた。


(; ω )「はぁ……はぁ……」

さっさと、立ち上がらないと。民宿に帰らなくちゃ。
ドクオはどうしたのだろう、あいつも同じ民宿なのかな。

………。


    
43 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/02/02(火) 03:34:51.34 ID:c7/DN2fL0

  
ブーンはさめざめと涙をこぼしながら、ふらつく足で民宿へ向かっていった。
親友までも失ってしまったという事実が、孤独な夜には堪えたらしい。

身体も傷と疲労とでぼろぼろに弱っていた。
民宿の人に説明しなくちゃいけないのかな。

これから、どうしよう。



・・ ・・・


ブーンがそれからしぃと出会うには、八年もの歳月が要された。
意外な手紙に誘われるまま、ふたたびそのラウンジの地へ赴くことになるのだった。



                      (Part3 終)





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