- 1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:15:44 ID:dLDDHNPcO
そこは深く暗く、鬱蒼とした森の奥の奥。
ぞろりと天を睨む様に聳える、蔦を這わせた灰色の塔。
周囲には森があるだけ。
聞こえるのは夜の鳥の声に木々のざわめき。
緑と土の匂いが溢れるそこに住むのは、二人。
一人は長身細身の、暗い顔をした魔導師。
もう一人は、非常に美しく整った顔立ちの従者。
【塔のようです】
【一話 これが我々の日常です。】
そこはいつも、陰鬱とした空間に存在する。
- 2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:16:37 ID:dLDDHNPcO
('A`)「クー、クーはいるかい」
川 ゚ -゚)「はいご主人様、こちらに」
('A`)「昼食はまだかな」
川 ゚ -゚)「一昨日食べたではありませんか」
('A`)「そんなボケ老人と嫁の悲惨な会話みたいなノリで済ませる事は許されない」
川 ゚ -゚)「チッ、ではすぐに用意します」
('A`)「今舌打ちしたよね、舌打ちしたよね? 舌打ちしましたよね?」
川 ゚ -゚)「何度も言えばウケると思わないで下さいよご主人様」
('A`)「もうシダックスでご飯食べてくる」
川 ゚ -゚)「止めてくださいよどうせメイドが飯を作らないとか店員に愚痴言うんでしょう
愚痴を言い過ぎてご主人様のあだ名は『鬼嫁』になってるんですからね」
('A`)「嫁居ないのに、嫁でもないのにこの仕打ちか」
川 ゚ -゚)「そうですねクソ童貞ご主人様」
- 3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:18:07 ID:dLDDHNPcO
('A`)「さっきからえげつない事言ってるけどメイドだよね? 君はメイドだよね?」
川 ゚ -゚)「ええご覧の通りメイドですよ、32歳童貞職業:魔法使いのご主人様」
('A`)「否定出来ないから流すけど、お前の格好は執事だ」
川 ゚ -゚)
('A`)
川 ゚ -゚)「晩御飯カレーで良いですか」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「じゃあカボチャのカレーです、隣の魔女さんからお裾分けしてもらったので」
('A`)「またカボチャ栽培してるんだね」
川 ゚ -゚)「正しくは『カボチャを媒体にした魔法を使おうとしてなぜか増えた』ですね」
('A`)「なぜ増えた」
川 ゚ -゚)「さあ」
- 4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:20:13 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「ところでご主人様は魔法を使うんですか」
('A`)「これでも魔導師だからね」
川 ゚ -゚)「童貞を拗らせたからですか?」
('A`)「俺はあんまり性欲が無い方だよ?」
川 ゚ -゚)「その欲求を僕にぶつけないで下さいね、いくら愛らしく美しいメイドだからって」
('A`)「カレーまだ?」
川 ゚ -゚)「クソが」
('A`)「カレー作りながらクソって……」
川 ゚ -゚)「で、実際は何で魔導師に?」
('A`)「昔から本を読むのが好きだったから」
川 ゚ -゚)「嫌な子供ですね」
('A`)「本しか無かったんだよね、親も魔導師だし」
川 ゚ -゚)「嫌な家庭ですね」
('A`)「お前ひどいよな」
- 5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:22:04 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「で、今や立派な童貞王ですか」
('A`)「そんな俺はなると言いたくない感じの王は嫌だ」
川 ゚ -゚)「ご主人様、腕だけはあるんですからちゃんと仕事したらどうですか」
('A`)「質素が一番だよ、気楽に暮らせる程度が良い」
川 ゚ -゚)「無欲すぎてキモいですねご主人様」
('A`)「本当あんまりだよね」
川 ゚ -゚)「だから童貞なんですよ」
('A`)「別にコンプレックスってわけでもないんだけど」
川 ゚ -゚)「ご主人様の腕だったら荒稼ぎしてハーレム作れるでしょ」
('A`)「ハーレムって維持費どれくらいかかるの?」
川 ゚ -゚)「夢もへったくれも無いですね」
('A`)「現実しか目の前に無い」
- 6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:24:08 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「ほいっと、カレー出来ましたよ」
('A`)「おー、すげーうまそう」
川 ゚ -゚)「不味いですよ」
('A`)「知ってる」
川 ゚ -゚)「僕が料理出来ないって分かってるのに何でやらせるんですか?」
('A`)「お前がメイドだからかな」
川 ゚ -゚)「ご主人様」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「お腹空いたからご飯作ってください」
('A`)「はいはい」
川 ゚ -゚)「カボチャのにっころがしが良いです」
('A`)「はいはい」
- 7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:26:10 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「お腹一杯ですね」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「元から土気色の顔が更にひどい事になってませんかご主人様」
('A`)「クーのカボチャカレーって呪いかなんかかかってた?」
川 ゚ -゚)「あー、鍋かき混ぜる時に魔方陣とか描いてたのかも」
('A`)「味を生け贄に俺の胃腸へダイレクトアタックか……」
川 ゚ -゚)「ご主人様」
('A`)「うん」
川 ゚ -゚)「デザート」
('A`)「あるよ」
川 ゚ -゚)「わーい」
('A`)「持ってくるから片付けて」
川 ゚ -゚)「はーい」
- 8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:28:34 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「カボチャパイとクッキーとー」
('A`)「プリンとタルト、練りきりもある」
川 ゚ -゚)「ガチでカボチャ無双ですね」
('A`)「あと五玉残ってるよ」
川 ゚ -゚)「向こう一週間くらい食えそうですね」
('A`)「カボチャアイスとカボチャのホットドリンクもあるよ」
川 ゚ -゚)「なにそれ美味しそう」
('A`)「食べる前にお隣にお返し持っていって」
川 ゚ -゚)「えー」
('A`)「文句言わない、行ってらっしゃい」
川 ゚ -゚)「先に食わないで下さいよ」
('A`)「はいはい」
- 9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:30:09 ID:dLDDHNPcO
('A`)「カボチャの練りきりの作り方」
('A`)「求肥と白餡、カボチャを用意します」
('A`)「求肥の作り方はググれ」
('A`)「カボチャはレンチン加熱で皮を取り、しっかり裏ごし」
('A`)「白餡としっかり混ぜてレンチン」
('A`)「そして求肥と混ぜて、食べやすい大きさに切り取り転がして乾燥しない様に気を付ける」
('A`)「それを形にすればはい完成」
('A`)「ドクオさんの和菓子講座でした」
('A`)「ぶっちゃけクックパッド見た方が早いよね」
('A`)「魔法使ったらお菓子作りの醍醐味が損なわれるもんね」
('A`)ノシ
- 10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:32:19 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「渡してきましたよー、喜んでました」
('A`)「んー、なら良かった」
川 ゚ -゚)「なんかしてました?」
('A`)「んーにゃ、ほら冷めるから食べな」
川 ゚ -゚)「わーいいただきまーす」
('A`)「おー食え食え」
川 ゚ -゚)「ご主人様は食べないんですか?」
('A`)「お菓子を作るのは好きだけど食うのは嫌い」
川 ゚ -゚)「変ですよご主人様」
('A`)「手作りって食えないんだよね俺」
川 ゚ -゚)「潔癖症ですか、キモいですねご主人様」
('A`)「潔癖=キモいみたいな言い方はよしなさい」
川 ゚ -゚)「すみません、ご主人様がキモいだけですね、反省します」
('A`)「こやつめ、ははは」
- 11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:34:20 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「そういやご主人様、仕事の依頼がポストに」
('A`)「魔王軍からのスカウトだろ、断っといて」
川 ゚ -゚)「魔王軍からの手紙と連合国からの手紙が一緒に入ってました」
('A`)「争いに魔法は使いません」
川 ゚ -゚)「どうせ勇者率いる連合国は正義のためって言いますよ、守るための力だーって」
('A`)「お互いがお互いの正義のために争ってるんだよ」
川 ゚ -゚)「端から見ればアホみたいでも、真剣にやってますからね」
('A`)「正義のために敵と見なした相手を滅ぼすんだから、何がなんだかね」
川 ゚ -゚)「ま、僕らには関係ないですし、お断りしときます」
('A`)「お願い」
川 ゚ -゚)「お隣さんも似た様な状況らしいですよ、次々とスカウトの手紙来るって」
('A`)「戦場がカボチャで溢れるのか、糖分補給は出来るな」
川 ゚ -゚)「ぶっちゃけお隣さんの魔法の腕はアレですよね」
('A`)「うん」
- 12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:36:12 ID:dLDDHNPcO
('A`)「俺は争うために魔法は使いたくないなあ」
川 ゚ -゚)「ご主人様はどんな魔導師を目指してるんですか?」
('A`)「さあ、趣味でやってたらこうなったし」
川 ゚ -゚)「趣味で大魔導師ですか」
('A`)「王室のお抱えになれって月に一回通知が来るけど、拒否するのもめんどくさいなあ」
川 ゚ -゚)「腕だけは良いんですけどね」
('A`)「ちょっと素質があっただけだよ、親が魔導師だったし」
川 ゚ -゚)「たまに魔法売るだけですしね、それも下級の」
('A`)「楽なだけであれ一般人でも使える様な魔法なんだけどね」
川 ゚ -゚)「いわゆるメラとかホイミですしね」
('A`)「ちょっと勉強すれば使えるのに、みんな楽したがりだから」
川 ゚ -゚)「まあ買ってくれるわけですし、楽万歳ですよ」
- 13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:38:06 ID:dLDDHNPcO
('A`)「また術式書いて市場に持ってくかなあ」
川 ゚ -゚)「ついでにフライパン買ってきて良いですか、古くなってて」
('A`)「それくらいなら錬成出来るよ」
川 ゚ -゚)「ご主人様は魔法使いじゃないんですか」
('A`)「最近は暇だから錬金術と召喚術も勉強してるよ」
川 ゚ -゚)「暇だからって出来る事ですかそれ」
('A`)「金は錬成出来る様になったから、あとは賢者の石かな」
川 ゚ -゚)「既に錬金術マスター寸前じゃないですか」
('A`)「召喚術ってさ、特に召喚したいのも居ないからあんま使えないんだよね」
川 ゚ -゚)「悪魔とか呼びましょうよ」
('A`)「呼んだら食費とかかかるじゃん」
川 ゚ -゚)「夢もへったくれも無いですね」
('A`)「現実しか見えない」
- 14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:40:04 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「ごちそうさまでした」
('A`)「お粗末さまでした」
川 ゚ -゚)「あー美味しかった、料理上手ですよねご主人様」
('A`)「楽しいよ、料理」
川 ゚ -゚)「炊事洗濯掃除も上手ですよね」
('A`)「楽しいよ、家事」
川 ゚ -゚)「僕は必要なんですか?」
('A`)「外には出たくない」
川 ゚ -゚)「ああ、なるほど」
('A`)「通知の返事とか、わざわざ城に出向けとかめんどくさいし」
川 ゚ -゚)「メイドなんですけどね僕、何で外に出る系の雑用ばっかり」
('A`)「クーがメイドなのに家事全般出来ないからだよ」
川 ゚ -゚)「萌えキャラですね」
('A`)「はは、ぬかせ」
- 15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:42:12 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「もう九時過ぎましたね」
('A`)「そろそろ寝るかあ」
川 ゚ -゚)「ですね、と言いたいがご主人様ちょっと早寝過ぎませんか」
('A`)「だってここの電気って蓄電式だし、俺が起きてる間に電気蓄えてるけど疲れる」
川 ゚ -゚)「何ですかこのアナログな気がするのに謎のハイブリット感のある環境は」
('A`)「常に電気を生成して貯めてるのって疲れるんだよね」
川 ゚ -゚)「ご主人様そろそろ人間じゃないと思います、電気ウナギか何かです」
('A`)「俺が居なくなったらこの塔は廃墟になるよ?」
川 ゚ -゚)「火も水も電気もご主人様が出してますもんね」
('A`)「その代わり疲れる」
川 ゚ -゚)「一週間普通のお宅に住んだらご主人様健康になるんじゃ」
('A`)「本の無い生活とか考えたくない」
川 ゚ -゚)「キモい、ビブリオマニアがではなくご主人様がキモい」
('A`)「こやつめ、ははは」
- 17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2011/10/31(月) 21:44:10 ID:dLDDHNPcO
川 ゚ -゚)「じゃ、お休みなさいご主人様」
('A`)「うん、おやすみクー」
川 ゚ -゚)「今日も良い夢見れるかな、ハム太郎」
('A`)「誰だよ」
川 ゚ -゚)「ネズミの飼い主です」
('A`)「ウォルトさん?」
川 ゚ -゚)「危ないから止めてください」
('A`)「じゃ、おやすみ」
川 ゚ -゚)「おやすみなさーい」
【一話 おわり】
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