(゚、゚トソン異能見聞録のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:32:06.92 ID:z3lBax25O

 改めて、人は不平等なものだと思う。

 天は二物を与えず、というが、三物も四物も与えちまう。
 レベルアップに必要な経験値から、得られるステータスへの振り分けポイント数まで大幅に違うようだ。

(゚、゚トソン「――――」

 俺の目には、隣の席に座る『都村・兎噂』の姿が映っていた。
 彼女のノートの上を走るシャープペンシルは、目にも留まらぬ速さで黒板の文字を写していく。

 対して俺のシャープペンシルは止まっていた、自分の遅筆に嫌気が差して。
 
(゚、゚トソン「……先生、そこの漢字間違っています」

 クラス一、学年ではトップクラスに入る美女の都村。

 テストでは当然のように高得点を取り、隣席の俺を居たたまれなくする。
 運動に関しても同様で、なんと弓道で全国一位の成績を持っているらしい。

 文武両道とは、まさにこういうことをいうのだろう。
 _,、_
、(゚、゚トソン「あの、猫島君」

(,,-Д゚)「ん……なんだよ?」

(゚、゚トソン「後で頼んでも、ノートは貸しませんから」


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:32:48.89 ID:z3lBax25O

 この鬼、悪魔、鬼畜、ガッデム。
 誰もが自分のように出来ると思うな。

(゚、゚トソン「とりあえずガッデムは意訳すると『悪魔め』となるので、被っています」

 うるせぇ、こまけぇこたぁいいんだよ。

 俺は机に齧り付くようにして急いでノートに黒板の文字を写し始めた。

 しかし、無情にも授業終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 あ、と俺が口を開くと同時に、男性教諭が黒板消しを掲げる。
 黒板消しが真っ先向かった位置は、ちょうど俺が写していた部分だった。

 一斉に、起立。

(; Д゚)「……と、都村」

(゚、゚トソン「ダメです」

 礼。

(;-Д゚)「じゃあ……」

(゚、゚トソン「ダメです、貸してはいけません」

(;゚Д゚)「他の奴に借りるのもダメなのかよ……!」

 そして、力無く着席。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:33:30.34 ID:z3lBax25O

 今まで授業を行っていた男性教諭が出ていき、少しして入って来たのは担任教諭。
 
 授業が終わるや否や、外へ出て行ったクラスメイト達が慌てた様子で戻って来る。

 各教室の目の前には、一人一人に割り当てられたあるロッカーがある。
 そこへ教科書なんかをしまうか、部活で使う道具を取りに行っていたのだ。
 そうまでして帰宅を急ぐか、部活をしたいか。

 戻って来てない奴は多分トイレだな。

 他と同様の理由で、急ぎ足で戻って来た都村も着席する。
 その右手に、銀色で横長のケースが握られていた。

(,,-Д゚)「……訊きたいんだけどさ、弓道には飽きて、それか?」

(゚、゚トソン「飽きてはいません、今では趣味として行っています」

(,,-Д゚)「そ……同じようなもんだろうに……」

(゚、゚トソン「ええ、確かにそうですね。
     ですが、和弓は武道ですから」

(;-Д-)「…………」

 都村が床に置いたケースの中身は、弓――アーチェリーならボウか。
 兎に角それ関係の道具が入っているのだ、と教えられたことがある。

 どうせやるなら、弓から離れたものを選べば良かったのにな。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:35:00.19 ID:z3lBax25O

 高校入学から、八ヶ月とちょっと。

 まだ一年生であり、アーチェリーに関しては一応初心者である都村だ。
 しかし彼女は既にいくつもの大会に出場していて、それら全てで一位をもぎ取っていた。

 しかも全て満点優勝だという話だ。

 おお、神よ。
 せめて都村から速筆の才を取り上げて、俺にお与えください、頼むから。

(,,゚Д゚)「そういえば都村」

(゚、゚トソン「SHR中です、もう終わりますが――」

 と、言って立ち上がった都村に続き、礼。
 
(,,-Д゚)「……それで都村、あのハーフの生徒会長が勧誘が来てたよな? アレどうした?」

(゚、゚トソン「会計というのは大変な仕事のようなので……」

 都村は口を動かしながら、白いマフラーを首に巻く。

(゚、゚トソン「考え中です」

 この言いようでは、どうやら入る気はないようだ。
 次期生徒会長も夢ではないだろうに。

 これが、この日までの都村に対する俺の主観だ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:36:40.24 ID:z3lBax25O















    (゚、゚トソン異能見聞録のようです















9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:38:03.17 ID:z3lBax25O

 03/01 柊
 非常に残念な結果に……

 『と、見せ掛けて合格おめでとうございます、そして感謝しやがれこの野郎。

  出来るだけ異能は使わないこと、お姉さんとの約束だ!
  何かあっても見てあげられなくなる。
  何かあっても助けてあげらなくなる。

  何故かって?
  それは乙女のヒ・ミ・ツ、ジャンケンポンウフフフフフ。

  再開が今から楽しみだ。
  では、またいつか会おう、少年よ。』

(,,-Д-)(理由くらい話してくれてもいいだろ……)

 錠前のマークが付いた最古のメールを閉じる。
 充電器を挿して、携帯自体も閉じた。

(,,-Д゚)「出来るだけ使うなって……柊さんがいなきゃ使う機会もそうそう出来ねーよ……」

 こんなの、と付け足して、自室のベッドで寝転がっていた俺は、寝返りを打つ。
 そうして目に映ったのは週刊少年ジャンプ。

 それを手に取って、仰向けになる。
 右手の人差し指だけを立てて、厚みのあるジャンプを突き刺した。

 破壊しか生まない、まったく役に立たない――これが俺の『異能』だ。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:39:06.63 ID:z3lBax25O

 翌日、俺は寒さに震えながら登校していた。
 マフラーだけではこの寒さに耐えられない、いい加減コートを買ってくれ母ちゃん。

 学校に着いて真っ先に向かったのは食堂内の自販機前。
 こんな日はあったか〜いコーヒーか、コーンポタージュに限る。

(;゚Д゚)「あ……」

 しかし、手が悴んでいたせいか、俺が押したのはオロナミンCのボタンだった。

 頼む、自販機へ戻ってくれ、オロナミンC。
 俺を元気溌剌してくれるのはお前ではない。

 暫く試行錯誤して自販機の中に戻そうと奮闘したが無理だった、知っていたさ。
 _,、_
、(゚、゚トソン「猫島君、何をやっているんですか……」

(;-Д゚)「や、やぁ、都村……諦めたらそこで試合終了っていうだろ?」

(゚、゚トソン「意味が解りません」

 軽く斬り捨てた都村は、俺が自販機に返そうとしていたオロナミンCを半ば、いや、普通に奪い取った。
 代わりに小さな兎のロゴが可愛らしい白色の財布から、百円玉を取り出して俺の掌に乗せた。

 おい、待て都村、どこへ行く。
 オロナミンCの値段は百二十円だ、二十円足りないぞ。
 アレか、俺の手垢や自販機にがしがしとやって戻そうとしたからか、そうか。

 どこか怒ったような都村の後ろ姿を見送りながら、俺は財布から二十円を取り出す。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:40:16.50 ID:z3lBax25O

 硬貨投入。
 失敗から学んだ俺は、吐息で手を温める。
 
 気分は九回の裏ツーアウト満塁のマウンドに立つ投手だ。

 コーンたっぷりコーンポタージュ――俺は首を横に振るう。
 ワンダ・モーニングショット――俺は首を縦に振るう。

 狙いを付けて、第一球、投げ――

从 ゚∀从「よう」

(;-Д゚)「ん……ハーフ生徒会長!」
、 _,
从 ゚∀从「……ところで、お前何やってんだ?」

 生徒会長の瞳には、ワインドアップから大きく振りかぶった男子生徒の姿が映っている。
 こんな姿見られたら自殺ものだ。

从 ゚∀从「いや、辺りを探しても誰もいないから、な?」

(; Д )「……いやぁあああああああああああああああああああああ」

 というか俺でした、確実に俺です、本当にありがとうございました。

 何をやっているのだ、俺は。
 これから高校卒業まで痛いキャラとして生きていきたいのか。

 俺の頭の中では延々と『死にたい』という声が反響し続ける。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:41:42.91 ID:z3lBax25O

从 -∀从「まぁ、人間誰しもそういうところあるもんな、うん」

 そっと肩に置かれた手と、コットンのように柔らかで優しい言葉。

 俺は考えるのをやめた、強制終了。

(,, Д )「――――」

从 ゚∀从「まぁ、そんなことはどーでもいい。
     お前、都村・兎尊とダチなのか?」

(,, Д )「はい……いや、まぁ、友達と呼べるほd」

从 ゚∀从「そうかそうか、なら頼みがある。
     都村に生徒会に入るようにそれとなぁく薦めてくれ」

(,, Д )「いや、でも、都村h」

从 -∀从「生徒会長になったはいいが、今の生徒会にはたったの五人しかいねぇんだ。
     弱小愛好会にはすら笑われかねねぇ、存続の危機とこの場合は言っとく」

(,, Д )「いや、だかr」

从 ゚∀从「理想としては副会長が二人、書記が二人、会計が一人が望ましい。
     今空いてる副会長の座が一つと会計の座……副会長はまあいいとして、会計は欲しい」

(,, Д )「そんなのそこらの奴捕まえt」

从#゚∀从「バカ野郎! 会計嘗めんじゃねぇ!」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:42:44.98 ID:z3lBax25O

 やれやれ、と首を振って激昂した生徒会長は、俯く俺の顔を覗き込んで喋り出す。

从#゚∀从「生徒会運営費二千万……これの殆どが学園に寄付されたもんだ、家とか金持ちからな。
     それを任す会計は信頼が置けて、信用を保ち続けようとする人間じゃないとダメだ! 教師よりな!」

 言葉を紡ぐスピードに従って、感情昂って来ているようだ。

从#゚∀从「過去にいた教師で三百万ほど横領した奴がいる!
     過去にいた会計では、学園祭費用五百万を風俗で使いやがったとんでもねぇ奴もいる!
     テメェはこの話を聞いても、そこらの奴を取っ捕まえて会計やらせれって言うのか、あ!?」

 ふぅ、と一息入れて、

从;-∀从「まぁ、そういうことだ……すまん、俺の悪い癖が出た……」

 我に返った俺は、思い出した。

 体育館で行われた、小指の先に付いた耳糞ほども興味を抱かなかった生徒会選挙演説。
 だが、最後に出て来たこの人の激昂の演説だけは、しっかり聴き入っていた覚えがある。
 
 そして俺は、この人に一票投じたのだ。

(;゚Д゚)「い……いや、俺の方こそすみませんでした……」

从;゚∀从「あ、ああ……っつうわけで、頼めるか?」

(;-Д-)「それが都村は入る気はないみたいですよ……部活で忙しいみたいだし……」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:46:04.74 ID:z3lBax25O

 生徒会長が、先ほど俺が押そうとしていた自販機のボタンを押した。
 
从 ゚∀从「部活か……お前はアイツが弓を引いて、矢を射ってる姿を見たことがあるか?」

 が、と音を立てて落て来た缶コーヒーを取り出し、俺に渡して来る。

(,,-Д゚)「ないですね……それがどうかしました?」

 受け取り、流れ作業のようにプルタブを引き、缶コーヒーを開けた。

从 ゚∀从「つまんなそうなんだよ、それもえらくな。
     無駄が無いのに喜ばず、『ああ、またか』って顔すんだよ」

 全ての大会で満点を叩き出してきた都村。
 要するに、百発百中。

 アーチェリーのアの字も知らないが、それがものすごいことだとパンピーの俺にも解る。

从 -∀从「何が不満なんだかなぁ、自分のその才能――『異』常なまでの『能』力に」

(;゚Д゚)「――ッ!?」

 息を呑み、こめかみにはじっとりとした汗が滲んだ。

 常識的に考えてみればあり得ない話、異常。
 百発百中なんてものは、機械の所業だ。

 現段階で出せる答えとしては、都村は『異能者』で、その能力は『必中』。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:47:03.55 ID:z3lBax25O

 とりあえず異能者疑惑が浮上した以上、都村とは距離を置くべきだ。

 だが、もしも彼女が俺を狙っているとしたら――いや、ないか。

从 -∀从「だからさ、このことをお前が上手く突いて、どうにか都村を――」

(,,゚Д゚)「俺が言うよりは会長さんが話した方がいいと思います。
     俺はその姿を直接見たわけじゃないし、ボロが出るかもしれない」

从 ゚∀从「じゃあ見ちまえばいい」

(;゚Д゚)「……え?」

 そうきますか、生徒会長さん。
 だがそれはお断りさせていただきたい。

从 ゚∀从「最近は他の部員の指導に回ってて、矢を射るとしたら部活終了後の七時くらいだな」

 聞いちゃいねえ。

 そこからも、この濁流に逆ってはみたが、結局都村の部活をこっそり見学することになってしまった。

从 ゚∀从「頼むぜ、もう会計の穴埋め疲れたんだ」

(;-Д-)「いや、とりあえず見に行くだk」

 チャイムが鳴る。

 それに反応して瞼を上げると、数秒前までそこにいた生徒会長は忽然と姿を消していた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:49:06.03 ID:z3lBax25O

 SHR終了間際に教室に入った俺は、当然注意を受けた。
 しかし理由を訊かれて答えると、担任教諭は『そうか』と言って破顔。

 多分生徒会長にスカウトされたと思っているのだと思う。
 自分が担当するクラスから生徒会役員が出ると何かあるのだろうか、然して気にならないが。

 俺が席に就くと同時にチャイムが鳴って、休憩時間になった。

 このまま座っていたら隣にいる都村から話しかけられるかもしれない。
 普段通りにしておけば良いのだが、異能者かもしれない、と思うと逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。

 そんな情けない俺は、クラスメイトと雑談でも、と考えて席を立つ。

(,,゚Д゚)「ベクトル操作……反射か……」

 だが少し経って俺の姿は、自席に在った。

 ブックカバーがかかった本の頁を、驚異的な速さで捲っていく。
 速読なんて芸等が俺に出来るはずもなく、当然流し読みだ。

(゚、゚トソン「猫島君が読書だなんて珍しいですね、レアです」

(;゚Д゚)(げぇっ……無視無視……)

(゚、゚トソン「……、猫島君が読書だなんて珍しいですね、レアです」

(;゚Д゚)(繰り返しただとぉ……ッ!?)
'_,、_
(゚、゚トソン「…………」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:50:16.87 ID:z3lBax25O

 読書をしていれば話しかけられることはない。
 何人かのクラスメイトが読書をする姿を見て、そう思い付いた。

 そして、俺は適当なクラスメイトから適当な本を借りたのだが、

(゚、゚トソン「猫島君、それはなんという本ですか?」

(;-Д-)「…………」

 これはなんだ。

 読書に集中している俺に、都村は平然と話しかけてきやがる。
 振りだとバレてるのか。

(゚、゚トソン「とある魔術の……ライトノベルですか?」

(;-Д゚)「……こんな内容ラノベ以外にあり得ないだろうよ」

 しまった、つい声に出してしまった。

 笑った、笑いやがった都村の奴。
 勝ち誇ったように、口の端を浅く吊り上げて。

(゚、゚トソン「私もライトノベル通ずる――キャラクターの濃さと、文章の軽妙さがですね。
     伊坂幸太郎という著者の作品が好きです」

(;゚Д゚)「ふ、ふぅん……そ、そうか……」


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:51:49.95 ID:z3lBax25O

 本の上では、主人公が敵に説教を始めている。

 主人公の能力――ただ触れるだけで相手の異能を打ち消せる異能。
 主人公はその異能のせいで不幸だ、と言っているが、俺にはそうは思えなかった。

 その異能自体は誰も傷付けることはないのだ。

 どうせなら宿るなら、俺もそんな異能が良かった。

(,,-Д゚)「なぁ、都村」

(゚、゚トソン「何ですか、猫島君?」

(,,゚Д゚)「お前の必中のコツを訊きたい」

(゚、゚トソン「……何故です?」

(,,-Д゚)「最近ダーツにハマっていて……まぁ、百均のなんだけど……」

(゚、゚トソン「そうですか……残念ながら弓とダーツでは勝手が違うので」

 多分、都村の異能は弓限定の必中能力だ。
 弓から離れない理由はこれなのだろう。

 って、俺のバカ。
 何故探っているのだ。

 自ら進んで異能者と関わり合おうとするなんて、何を考えている。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:53:00.37 ID:z3lBax25O

 それから休憩時間になる度に、俺は強制的に読書をさせられていた。

 一番最初に借りた本をクラスメイトに返した時『ドゥフフ、どうでござった?』と訊かれ、

(,,゚Д゚)「説教して殴るところとか兎に角男心を擽るな!」

 と、言ったらキレられた。

 『猫島殿はちゃんと読んでないでやんす』とかなんとか言われて、俺は素直に謝罪。
 すると、何故か一巻から読まされることになったのだ。

 昼休みという長い長い休憩時間も、ほとんど読書によって奪われてしまった。
 もはやこれは拷問だ。

 放課後になってやっと解放される、と思った俺は甘かったのだろう。
 クラスメイトはその本の主人公・上条当麻さんの素晴らしさについて、これでもかと語り出したのだ。

 それが終わったのは五時を過ぎた頃。
 ようやく帰宅を許された俺の足取りはふらふらとしていて、鏡に映った顔はげっそりとしていた。

 そんな俺が一つ言えることあるとしたら、

(ヽ Д )「上条さんマジパネェッス……」

 まぁ、必死に読書をしていたから都村に話しかけられることはなかった、災い転じてなんとやら、だ。

 後、もう一つだけ声を大にして言いたいことがある。

 今後、絶対独り善がりな友達は作らない、絶対にだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:54:47.50 ID:z3lBax25O

 夜の帳かかる空の下、学校を出た俺は帰路を辿っていく。

 自然と歩調が速まるのは、一人家で待つ妹がいるからだ。

 何をしていた、晩飯が冷めたどうしてくれる、などと詰問されては堪らない。

(,,-Д゚)「……まだ大丈夫だよな」

 寒風から逃げるように本屋に立ち寄る。

 暫く漫画雑誌を立ち読みして、携帯で時間を確認すると六時を過ぎていた、危ねぇ。

(,,*゚Д゚)「お、焼き芋!」

 本屋を出たところで焼き芋トラックを見付けて買い食い。

 しかしどうして寒空の下で食べる石焼き芋はこんなに美味いのだろう。
 暖房が効いた部屋でこたつに入りながら食べるアイスと同じ原理だな、間違いない。

(;゚Д゚)「やべぇええええええええええおえええええええぇ」

 と、つい数分前まで、ほくほくとした焼き芋に夢中になっていた俺は、全力疾走で道をいく。

 太腿に振動を送る携帯は、まるで馬鞭のようだ。

 出るべきか、否か。
 着信者は解っている、妹だ。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:56:33.16 ID:z3lBax25O

 電話に出て、電話に出る暇があったら早く帰ってこい、と怒鳴られたことがあった。
 かといって、出なかったら出なかっで帰宅後に怒鳴られる、ということも。

 ええい、解った解った出てやる、出てやんよ。

(;゚Д゚)「も、もしもし……」

『コラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

(;-Д゚)「ひぃっ! しぃ、これには深い深い理由があって!」

『なんですぐに出ないの!? どうせまた寄り道してたんでしょ!?』

(;゚Д゚)「話すと長くなるからまとめて言うと、学校で上条さんマジパネェで本屋を出たら焼き芋の誘惑g」

『意味解んないし! まず言うことがあるでしょ!?』

(;゚Д゚)「……ごめんな……あ!」

『あ?』

 こんな時に、いや、こんな時だからこそ俺の脳はフル回転して、思い出した。

 踵を回して、来た道を歩き出す。

(;゚Д゚)「あ、あのな、実は今日は部活の見学で……」

『……お兄ちゃんが部活なんてあり得ないでしょ。
 中学生の時の剣道部、入って半年も経たないで辞めたし』

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:58:22.31 ID:z3lBax25O

 流石は我が妹である、誰に似たんだか。
 これだけでは納得してくれないし、俺の痛いところを突いてくる。

(;-Д゚)「生徒会長さんにスカウト頼まれたんだ、それで俺はアーチェリー部の人を」

『そんなの、その生徒会長さんが自分でやればいいじゃん』

 ごもっとも。

 というか俺は都村が弓を引くのを見に行って、後日生徒会長に報告するだけだ。
 なかなか熱心にやっていて楽しそうでしたよ、とでも適当にな。

(;゚Д゚)「それがそのアーチェリー部の奴と俺は結構な顔馴染みで……」

『もう……お兄ちゃんはお人好しなんだから……』

 よし、イケるイケる。

(,,゚Д゚)「そんなことはないぞ」

『解ったよ……しょうがないからおかずにはラップかけとくね』

 勝った、晩飯確保。
 思わずガッツポーズ。

(,,*゚Д゚)「ありがと……あれ?」

 ぷつりと切れた、一方的に切られた。
 つ、と伸びる無機質な音が、俺の心を罪悪感で染め上げていく。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 21:59:59.07 ID:z3lBax25O

 ――十分後。

 先ほどの罪悪感はどこへいったのか、俺は足取り軽やかに校門を通り抜けた。

(,,゚Д゚)「焼き芋喰ったし、まだ腹は減ってないしな……うん、ラッキー」

 校門を入ってすぐ右にある建物に入り、階段を登っていく。

 この建物は通称・武道棟。
 各階に様々な運動部の練習場や部室がある中、俺が目指すのは最上階の四階。

 そこにはアーチェリーの射場と部室があり、恐らく都村がいるはずだ。

(゚、゚トソン「…………」

 いた、ぎりぎりと弓を構える都村が。

 その姿は、一般人の俺でも解るくらいに洗練されていて、凛々しく美しい。

 見惚れてしまいそうになって、視線をずらす。

扉‖;゚Д゚)「――!?」

 俺の視線が止まった先には、的があった。

 だがこれは一体なんだ。

 都村が立つ位置から的までの距離が、ぱっと見百メートルはあった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:01:36.88 ID:z3lBax25O

 俺は弓道やアーチェリーといったものに関する知識はまるでない。

 但し、これだけは解る。
 女であり、スレンダーな体躯をした都村が、この距離から矢を射るのは普通ではないということだ。

 都村が立つ位置を改めて見れば、すぐ背後には壁。
 周りにはアーチェリーの機材であろうものや、ダンボールが積まれている。

 的から何十メートルか置きに、線が引かれているが、都村が立つ位置にそんなものは引かれていない。

(;゚Д゚)(やっぱり……)

 鋭い風切り音が立つ。

(;-Д゚)(異能か……)

 音は矢の射出音だった。

 この距離では正確に命中位置を確認出来ないが、矢は的の中心を貫いているように見える。

(゚、゚トソン「――――」

(;゚Д゚)「なっ――!?」

 矢が突き刺さる小さな的から視線を都村に戻すと、彼女は弓を斜め上へ向けて構えていた。

 矢が、放たれる。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:03:19.17 ID:z3lBax25O

 あの角度では矢は天井に突き刺さる。
 普通そう思うだろう、俺も思っていたさ。

 だが矢は綺麗な弧状を描いて的に命中した。
 多分、これも的の中心を捉えたことであろう。

(;゚Д゚)(必中って……こんなのもありk――)

 都村が腰に下げた矢筒のようなものから矢を抜き取って踵を回す。

(;-Д゚)(――気付かれた……か?)

 動悸が激しくなり、額から大粒の汗が伝う。
 
(゚、゚トソン「…………」

 どうやら違ったみたいだ。

 的に背を向けた都村は、そのまま一歩後退する。

(;゚Д゚)(まさか――!?)

 予想通り、都村は矢を放った。
 彼女と壁の距離は、二メートルもない。

 だというのに矢は壁には当たらなかった。

 矢の姿を探す暇もなく、射場に軽快な音が響き渡る。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:05:21.13 ID:z3lBax25O

(゚、゚トソン「そろそろ出て来たらどうです?」

 弓を下ろした都村が壁に視線を当てたまま言った。

(;゚Д゚)(……気付かれていたのか……?)

 逃げだそうにも、射場内しんとしていて音一つ無い。
 忍び足で逃げたとしても、すぐに追い付かれてしまうだろう。

 ぎ、と鉄製の扉が開く。

(;-Д゚)(ッ……あれ?)

 自分は扉に背をぴたりと付けて立っているのだが、身体が押されない。
 そもそも扉の片側は開け放たれていて、わざわざ俺が背にしている方を開ける必要はないのだが。

 よくよく聞いてみれば、その音は遠い。

(;゚Д゚)(ここより先の……的がある辺りにある扉か……?)

 廊下の先をじっと見つめてみるが、吸い込まれそうなほどの闇があるだけだ。

「流石だ、気付いていたか……さて、良い返事をもらればいいんだが……」

「お断りしたはずです」

 先に話した人物を生徒会長かと思ったが、声は若干高い男性のもの。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:07:09.64 ID:z3lBax25O

「手厳しい! だが、これは私個人の勧誘だ。
 君の存在……そしてこのことを私が上へ報告すれば、どうなるか……」

「……どうなるんですか?」

「君の異能は強力で、そして暴走気味だ」

 男から異能という単語が出てしまった。
 これで都村は異能者確定だ。

 しかし、この男は一体何者なのだろうか。
 

(,,-Д-)(……思い当たる節はある)

 もう一年以上前のことになる。
 突如として異能が宿った俺は、その力を制御出来ずに暴走状態となった。

 その時、俺を駆除しに来た奴らいたのだ。

(,,-Д゚)「……話をまとめると、都村は『機関』からのスカウトを拒否しているってことか」

 顔を少し出して、中を窺おうとするが、男の目が気になってのどうにも上手くいかない。

(,,゚Д゚)(しかし、都村の異能が『暴走気味』っていうのが気になるな……)



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:08:52.20 ID:z3lBax25O

 弓限定の必中能力。

 俺の見解が間違っていないのであれば、この異能は暴走していたとしてもなんの弊害もない。
 それに俺が見た感じでは、都村は異能を上手く使いこなせている。

Σ(;-Д゚)(って、だから俺は何をしているんだ……!?)

 異能と――異能者と関わり合いたくない。

 そのせいで異能者だとバレて、『機関』とやらからの異能者がまた自分を駆除しに来ないことは限らない。

 今では異能を制御出来ているが、一度は狙われたのだ。
 用心に越したことはないし、都村のように勧誘されるのもお断りだ。

 しかし、俺ここから動こうとしない。
 都村と男が話している間は、絶好の逃亡チャンスなのにだ。

(,,-Д-)「……ねーよ」

 ふと思い出した柊さんの言葉に、改めて突っ込みを入れた。

 『異能者同士は惹かれ合う』。
 当時、中学生だった俺が『ジョジョかよ!』と突っ込んだのを今でも鮮明に覚えている。

 否定はしたが、本当にそうなのかもしれない。
 俺は別に、都村に特別な感情を抱いているわけでもないのだから。

(;-Д゚)(もう少しくらい……ヤバそうになったら逃げればいい……)

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:11:33.84 ID:z3lBax25O

 再び会話が始まった瞬間、透かさず顔を出して中を窺う。
 緊張感で僅かに震える唇を噛み、耳を欹てる。

(゚、゚トソン「……私はあなたの言葉が理解出来ない」

 角度的に柱が邪魔をして、男の姿が窺えない。

 大丈夫だ、都村も男も視線を互いに集中させているはずだ。
 もう少し、もう少し顔を出しても――

( ・∀・)「私の目を見て、支障はないと言えるか?」

 柱のずっと向こう側にいた男は、黒色の背広羽織っていて歳は二十代前半辺りに見えた。
 鋭い顔立ちは、蜥蜴などの爬虫類を連想させる。
' _,、_
(;゚Д゚)「……支障?」

 蜥蜴男の質問に、都村の返答は無し。

( -∀-)「調べによると、君は中学時代弓道では百発百中ではなかった……だが、華々しい成績を残していた。
      しかしある日を境に、射る矢全てが当たるようになった、そう中心に」

 両手の五指を合わせて合掌するようにすると、蜥蜴男はゆっくり横へ歩き出す。
 その姿はなんだか気取った名探偵みたいだ。

( ・∀・)「――そして、君は全国一位となった……」

 だからどうしたっていうのだ、この蜥蜴野郎。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:13:50.06 ID:z3lBax25O

( 、 トソン「…………」

 都村を見ると、俯いていた。
 それを見て蜥蜴男は満足そうに、にんまりと笑う。

( ・∀・)「ショックだろう、自分の積み上げてきたものが全て無駄になったのだから。
      君は絶望した、そうだろう? 必死になって取り組んでいた――」

 都村が番え、構える。

(゚、゚トソン「…………」

( ・∀・)「おお、恐い恐い! やめておくれよ、この話は最後までしないと意味がない」

 目も口も弧にした蜥蜴男に対し、都村はきっと睥睨する。

( ・∀・)「君はとても努力家だ、それ故にその努力が無駄になった時のダメージは大きい。
      だがどこまでいっても君は努力家、弓を諦めきれなかった」

( -∀・)「そこで君はこう考えた、思い込んだ……『この力は使い続ければいつか消えて無くなる』。
      弓道からアーチェリーへの転向した理由はこれだろう。
      しかし残念ながら異能の力は増す一方だった……と」

 コイツが何をしたいのか俺には解らない。
 最初の質問から話が逸れていっているように思える。

 くつくつと笑って都村の反応を窺う蜥蜴男は、人の粗探しや傷を抉るのが大好きな人種。
 そのことだけは解った。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:15:18.67 ID:z3lBax25O

( -∀・)「人というのはどうにも他人の目が気になるもので、思春期ならそれは尚更だ。
      だから君は恐れている……この異能が誰かにバレてしまうことを」

 都村に見せ付けるように右手を揚げ、人差し指を立て、

( ・∀・)「二つ目は異能が消えてしまった時のこと……そう、これはジレンマ陥っている」

 続けて関節一つ一つをゆっくり広げ、中指を立てる。

(゚、゚トソン「……知ったような口を」

( ・∀・)「若い、若いなぁ! 私は君よりは少なからず人生経験がある、そう年の功。
      何より私に対して無口な君が口を挟んだ、これで証明は充分だ」

 弓を構える都村は冷たい無表情だが、一瞬歯を喰いしばったように見えた。

( -∀-)「……さぁ、問おうか」

(゚、゚トソン「……、認めましょう。
     しかし私の答えは変わりません……下手な揺さぶりでしたね」

 やれやれ、と両手を肩まで挙げて蜥蜴男は首を振るう、アメリカ人かよ。

( ・∀・)「ふっ、はは! 気付いているか?」
'_,、_
(゚、゚トソン「……?」

( ・∀・)「――そこの扉から私達を覗いている少年の存在を」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:16:30.66 ID:z3lBax25O

 さっと都村が身体をこちらに向けた。
 それとほぼ同時に俺も扉の裏へ身を下げた。

「聞かれてしまったようだ」

「…………」

 男が口元に軽く拳を添えて笑っている姿が想像出来る。

(;゚Д゚)(そういうことかよ……ッ!)

 今までの話は都村だけに向けたものではなく、俺にも向けられていたのだ。
 だから流れが不自然だった、いや、奴の個人的な趣味も含まれていたのだろうが。

(;゚Д゚)(どうする!? 相手は二人で、一人は必中、もう一人は不明。
     都村を敵と思いたくないが、ここからどうなるか……)

 都村の必中がある限り、逃亡という選択肢は消えてしまう。

 今更後悔しても遅いが、後悔せずにはいられない。

「君に一ついいことを教えてあげよう。
 暴走した異能者が機関の異能者と戦って、
 異能を制御したという例がいくつかある」

 そう来るか、蜥蜴野郎。

 このまま隠れていれば、都村の矢が飛んでくることは間違いないだろう。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:18:49.72 ID:z3lBax25O

(;゚Д゚)「待ってくれ!!」

 意を決して飛び出し、二人の前に姿を現す。

(゚、゚;トソン「――猫島……君……?」

 都村は肝を潰した表情で、引き絞った弓弦を震わせた。

(゚、゚;トソン「どう……して……?」

( -∀・)「ふっ、はははは! 知り合いとはこれまた困ったものだ」

 蜥蜴男は腹を抱えて、心底可笑しそうに笑う。

(;゚Д゚)「俺は生徒会長に頼まれて、こっそり都村の部活をする姿を見ていたんだ!
     それで魔法みたいに矢が勝手に的に当たるのを見て驚いていたら、
     そこの男とわけの解らないことを話し始めて!」

 回る回る、よくこうも舌が回るものだ。
 自分でも感心してしまうほどの饒舌。

(;-Д゚)「あの矢はそこの男が天蚕糸を引いてやったマジックとかか?
     なんかよく解らないけど、俺は絶対言い触らしたりしないから安心してくれ」


 ああ、俺今最高にカッコ悪い……。


 というかこれは流石にこれは苦しいのではないだろうか。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:19:56.66 ID:z3lBax25O

(゚、゚;トソン「……本t――」

( ・∀・)「話さない……信じられるか?
      少年、君は絶対に内緒すると誓えるのか?」

(;゚Д゚)「ああ、内緒するよ! 口は堅いし、絶対!」

( ・∀・)「ふっ、はははは、あははははは!!」

 笑う、蜥蜴男は天井を仰いで笑う。

( ・∀・)「『この話は絶対に誰にも言ってはダメだ』、『内緒だ」、『秘密だ』。
      ……そう言って自分の近しい人間に話したことはないか?」

 問い、背広の内ポケットからコームを取り出して髪を整え始めた。
 オールバックで調えてある髪は、蛍光灯の光に照らされて濡れ羽色に輝いている。

( -∀-)「外部に知られなければいい、内部で共有するくらい許される。
      そう自分に言い聞かせて、人間は話してしまうんだ」

 言い、顎を引いて厭らしく微笑む。

 内ポケットにコームをしまうと共に、蜥蜴男は言い放つ。

( ・∀・)「――殺れ、都村兎噂。
      死体はこちらでなんとかしよう」



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:21:37.02 ID:z3lBax25O

 言い返したところで、無駄だろう。
 この男に口で勝つのは無理だ。

(;-Д゚)(どう出る、都村……)

 都村は微動だにしない。
 だがよく見れば張り詰めた弓が僅かに震えている。

 喜ぶべきことに、俺は異能者だと思われていない。
 そう思われていることだけが、唯一救いに繋がる可能性だ。

( ・∀・)「都村、君は私の話を聞いていなかったのか? 少年は異能者だ」

(;゚Д゚)(どっ……どうして……!?」

 バレていた。
 何故、どうして、いつ、なんで。

 記憶を遡って思考する。

 ――暴走した異能者が機関の異能者と戦って、異能を制御したという例がいくつかある。


 これだ、この言葉だ。

 しかし何故異能者だとバレたのかは解らない。
 俺は一度たりとも異能を使っていないのだ。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:23:26.36 ID:z3lBax25O

( ・∀・)「膠着状態か……少年、一つ訊きたい」

 蜥蜴男に視線を向けるが、慌てて都村へと戻す。
 しかし男の動きが気になり、眼球忙しなく動かし続ける。

 思えば、最初は遠くに在った男の姿が、段々と近付いて来ている。

 接近気付かせないとは此奴やりおる、いや、単に俺が鈍いだけなのか。

( ・∀・)「どうやって、『ここ』に入った?」

 どう、と訊かれましても普通に扉を開けて階段を登り。

( ・∀・)「この状況でそれか、君は面白い子だな」

 いや、意味が解りません。

(゚、゚;トソン「『股利』! 彼は一般人……です!」

 逃がしてくれるつもりなのか都村、ありがてぇ。

( -∀・)「いや、少年は私の異能を破った……確実に異能者だ」

 『股利』――それは蜥蜴男の名字なのだろう。

 そんなことより、異能を破ってなんていない。
 何度も言うが、俺は異能を使っていないのだ。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:26:10.42 ID:z3lBax25O

(゚、゚;トソン「…………」

(;゚Д゚)「…………」

 都村は弓を下ろしてくれない。
 時折瞼を閉じては、苦悶の表情を浮かべることを繰り返す。

( ・∀・)「殺ってしまえ……それこそ今まで積み上げてきたものが彼によって崩されるぞ。
      可能性はあるんだ、ものは試しだ、殺ってしまえ」

 俺も後者の意見に同意だ。

 但しそれは、

(,,゚Д゚)「おい、都村」

(゚、゚;トソン「…………」

(,,゚Д゚)「お前はどうしたい?」

( 、 ;トソン「…………」

 異能者として生きていく場合の話だ。

 人を殺すなんて、普通の人間がすることではない。

 倫理的に不味いだろ、殺人者になっちまう。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:27:47.81 ID:z3lBax25O

 都村は普通の女子高校生だ。
 これからも友人と談笑したり、部活に精を出したり、恋愛だってしたいだろう。

 ただ、ちょっと他人より才能に恵まれているが、決してその上に胡座をかいたりしない。
 他人に厳しく、自分にはその何倍も厳しい。

 なぁ、都村。
 これが俺のお前に対する、この出来事で大幅に変化したイメージなんだが。

( 、 *トソン「…………」

 ふっ、と本当に小さく小さく都村は笑った。

(,,-Д゚)「なら撃って来いよ」

(゚、゚;トソン「……?」

 矢の穂先に合わせて、右手を突き出す。

(,,゚Д゚)「さぁ!」

(゚、゚;トソン「…………」

 『何故?』とでも言いたげに都村は目で訴えかける。

 いいんだ、都村。
 俺を信じて放ってくれ。

 頷きと取らないほど小さく、僅かに顎を下げて射出を促す。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:29:20.26 ID:z3lBax25O

 唾を飲み、都村は三本指を弓弦から離そうとする。

(,,#゚Д゚)「――――」

 都村の矢は的の中心だけを捉えていた。
 逆に考えると、物体の中心しか捉えられない必中能力だと考えられる。

 暴走気味ということでこうなっているのか。
 もしかしたら暴走気味というのは、その必中が安定しないということなのかもしれない。

 俺は前者に賭けてみる。

 秒速で迫る矢に反応出来るかは解らないが、一応『的』以外に矢が向かって来た時のことも考えている。

(;・∀・)「――なんだと!?」

(゚、゚;トソン「ッ……!?」

 俺の耳には、俣利の声と風切り音が同時に入ってきた。

 反射的に瞑目してしまった俺が瞼を開けると、

(;゚Д゚)(成功……!)

 突き出した手より少し前の位置、床に銀白色の鉄片が散らばっていた。

 矢はしっかりと『的』――俺の右手に当たったということだ。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:31:01.05 ID:z3lBax25O

(,,-Д゚)「驚いたか? 俣利さん……で、いいんだよな?」

(;・∀・)「ああ、それで今の異能はなんだ……一瞬光ったようだが……?」

 へどもどとした俣利が問う。

 毒気を抜かれた都村は、ゆっくりと弓を下ろしていく。

(,,゚Д゚)「――俺の異能は『ベクトル操作』。
     矢にかかった運動エネルギーの十倍の運動エネルギーをこちら側からかけた」

(;・∀・)「…………」

 俺は口の端を思いっきり吊り上げ、強かな笑みを浮かべて見せる。

 そう、『嘘』がバレないように、自信満々で。

(;・∀・)「……その異能で何故そんな面倒なことを――」

 早速バレそう、そりゃそうだ。
 頭が悪いと自覚している俺に対して、いいとこの出に見えるこの人はかなり頭が良さそうなのだから。

(;゚Д゚)「都村!」

(゚、゚トソン「――――」

 都村は、弓を構えたまま移動していた。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:32:23.14 ID:z3lBax25O

 穂先は俺に向けたまま、斜め後ろへ滑るように後退していく。

( 、゚トソン「――――」

 都村の目が動いた。
 視線の先、ずっと横には、蜥蜴男・俣利。

(゚、゚トソン「俣利」

( ・∀・)「なんだ?」

(゚、゚トソン「異能者を殺せば、私は異能を制御出来るようになるかもしれないんですよね?」

( ・∀・)「ああ、出来る限り異能をフルパワーで使って」

(゚、゚トソン「……解りました」

 都村の手が弓弦から離れ、矢が射出された。
 真っ直ぐ俺へと向かって来る。

( ・∀・)「ほぅ……」

 だが、矢は眼前で軌道を変えた。
 カーブ、というより、直角に近い軌道でだ。

 矢は目にも留まらぬ速さで俣利を目指す。

(;゚Д゚)(――どこに当たる……!?)


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:34:10.66 ID:z3lBax25O

 都村の必中は物体の中心を捉えることになる。

 先ほどは俺の手を一つの的として狙わせ、その中心に当てさせた。
 ならば人の全身を的とした時、中心はどこなのだろうか。
 普通に考えれば腹部、頭を中心として考えても可笑しくない。
 それとも、心臓か。

 個人的には腹部であって欲しい。
 都村この行動は非常に良い判断なのだが、人を殺して欲しくはないのだ。

( ・∀・)「――どういうつもりだ、都村?」

 俣利は立っていた。
 奴の身体のどこにも、矢は突き刺さっていない。

 それは、俣利から二メートル手前で矢が落ちたからだ。
 その光景は、まるで壁に当たって弾かれたかのようなものだった。

(゚、゚トソン「猫島君、あの異能に勝てますか?」

 都村は無造作に詰まれたプラスチックケースの中から、ごっそりと矢を取り出す。
 それを腰に下げた矢筒に、無理矢理詰め込むと、こちらに向かって駆けて来る。

(;゚Д゚)(まず奴の異能を知らないとなんとも……)

 矢を弾いた壁――無色透明の障壁を発生させる能力。
 この通りの能力ならば、恐れることは何もないのだが。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:35:44.87 ID:z3lBax25O

( ・∀・)「言っておこう、私にはどんな攻撃も効かない、そう無敵だ。
      ベクトル操作でどう対抗する? 少年よ」

 あ、信じていたんだ。
 この男、結構バカなのかもしれない。

 そんなことより、俣利の異能だ。
 『どんな攻撃も効かない』だなんて異能を、コイツが持っているとは思えない。
 俣利がそんな絶対無敵の異能を持つ異能者はならば、あの言葉に違和が生じる。

(;-Д゚)「俺は弱い者イジメは趣味じゃないんでね……」

( ・∀・)「ふっ、はは! そうかそうか!」

 俣利が両手を突き出し、叩き合わせる。

 来るか、来る、来るだろう。

 こちらに向かって来ている都村に、一旦止まるよう手で挙げて見せる。

 同時に俣利が合わせた手を離した。

≡|#); Д )「ぐぁ……!?」

 音も無く、横から衝撃。

 衝撃は平ら、不可視の壁。


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:37:49.85 ID:z3lBax25O

 突き飛ばされた俺の身体は、射場の壁に打ち当たった。

 右から来た衝撃で右半身が、壁に打ち当たって受けた衝撃で左半身が麻痺する。

 動悸と息切れがひどい。
 視界がぼやけて、ぽつぽつ白点が見える。

( ・∀・)「ふっ、はははは! 突然のことでベクトル操作出来なかったのか?」

(メ; Д )「ハアッ……ハァァッ……」

 とりあえず、いつまでも同じ場所にいてはダメだ。
 だが全身に激痛が走り、立ち上がれない。

 すぐそこに俺が入ってきた扉がある。

 ……逃げよう。

 そう思考は訴える。

 しかし都村がいるのだ。
 それに逃げたところで、異能者だと知られた時点で終わっている。

 手を叩き合わせる音がした。
 俣利を見れば、今度は手を横にして合わせている。

(゚、゚;トソン「猫島君!!」

 滑り込んで来た都村が、俺の襟元を掴んだ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:40:22.01 ID:z3lBax25O

 俺を引きずった都村が扉を潜る。
 それは俣利が合わせた手を離すのとほぼ同時だった。

 衝撃は来ない。
 いや、俺が伏していた位置に来ているのだろう。

 このことから、手を合わせる時に攻撃位置が固定されるのだと解った。

(メ; Д゚)「乱暴な運び方……」

(゚、゚;トソン「潰されたかったんですか? 文句を言えるくらいなら立ち上がってください」

 痛む身体を起こし、立ち上がりながら思考する。

 潰されたかったんですか、と都村は言った。

 また横から不可視の壁が迫っていても潰されていただろう。 だが、二回目の手の合わせ方は違った。

(メ;-Д゚)(手の合わせ方によって壁の出現位置が変化するのか……?)

「――逃げるのか?」

 俣利の声が射場から響く。

(゚、゚;トソン「どうします……?」

(メ;゚Д゚)「逃げる……けど戦う……そして殺さない」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:42:38.27 ID:z3lBax25O

(゚、゚;トソン「考えは? ベクトル操作であの異能に対抗出来るんですか?」

 都村、お前まで信じているのか。

(メ;゚Д゚)「アイツを負す、そこからのことは今から考える。
     不可視の壁は俺の考えが正しければ、ベクトル操作でなんとかなる」

 都村の手を握り、走り出す。

( 、 ;トソン「すみません、猫島君……私は役に立てそうにないです……」

(メ;゚Д゚)「それも今から考える!」

( 、 ;トソン「すみません、巻き込んでしまって、こんなことになってしまって」

(メ;゚Д゚)「自業自得!」

 階段を駆け下りる。

(゚、゚;トソン「怒ってないんですか?」

(メ;゚Д゚)「怒っているさ、アイツにな!」

 踊り場まで降りたところで、

( ・∀・)「何故逃げる?」

 上から俺達を見下ろす俣利が、ぱんと手を合わせる。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:44:41.01 ID:z3lBax25O

(メ;゚Д゚)「離れろ、先に!」

(゚、゚;トソン「え? はい!」

 都村を前に出して、背を押しす。

 手の合わせた方は合掌の形だ。
 だがどちらから来る? 右か? 左か?

 面倒だ、と呟き、俺は両手を左右へ突き出す。

(メ#゚Д゚)「反射……ってね!」

 硬く重い圧を左手に感じたが、それはすぐに消え去る。

 ここで、また新たな発見をした。

 俣利は合わせた両手を離す時、左手だけを横へ動かしていた。
 つまり不可視の壁は合わせた手が、先に離れた方から迫って来ているということだ。

(メ,゚Д゚)(待てよ……)

 そもそも『壁』という概念が間違っているのではないだろうか。

 手を合わせた状態で、間に隙間という隙間はない。
 要するに壁となる部分が存在していないのだ。

 離れた時に形成されている、と言われたらお終いだが。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2009/10/19(月) 22:47:01.65 ID:z3lBax25O

 離した手で壁を迫らせるとして、何故もう片方の手を微動もさせずに残しているのだろうか。
 いや、一発目の衝撃時には俣利は両手を同時に離していた。

 どういうことだ。
 この不可視の真っ平らな衝撃の正体は一体――

(メ,゚Д゚)チラッ

( ・∀・)「下を見てどうした? 逃がした彼女のことが気になるのか?」

(メ;-Д゚)「……何が無敵だ、俺のベクトル操作を持ってすれば、すぐにアンタを倒せる」

( -∀・)「ふっ……では何故そうしないのか、と私は問いたい。
      少年、君は触れないとベクトル操作出来ない、そう私のバリアに」

 バリアとは大嘘を。
 未だに俺の異能をベクトル操作だと思っているような奴だが、少しは考えているようだ。

( ・∀・)「君が突っ込んで来ようとしないのは、連続してバリア攻撃を出されると対処出来ないからだ。
      前後左右、上といったバリア全てに対処する自信がないから……違うか?」

 その通りである。
 しかし、またボロを出してくれた、罠とも限らなし、役に立ちそうもないが。

(   )クルッ「さて、次はどちらから来るか当てられるかな?」

(メ;-Д゚)(いや、完全に後ろ向くなよバカ……まぁ、これで試せる……!)

 俺は忍び足で下に続く階段へ移動する。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:48:24.19 ID:z3lBax25O

 俣利が手を叩き合わせる音が響く。

(メ#゚Д゚)「――今だッ!!」

 その寸前、叫んだ。

 呼応して、下方から鋭い風切り音が駆け抜ける。

 先ほど階段の下、三階で都村が逃げずに膝を突いて矢を弄っていた。

 一瞬見ただけで、理解した。
 都村は、俺の思考を理解してくれている。
 それが賭なのかは解らないが、信じてくれていることは確かだった。

 俣利の頭上まで昇った矢は、速度を落とさず向きを変えて降下を開始するが、

( ・∀・)「残念」

 すぐに不可視の壁に当たって弾かれてしまう。

(゚、゚;トソン「猫島君――」

(メ,゚Д゚)「逃げるぞ!」

 三階まで降りた俺は、弓を握る都村の手を強引に掴み取り、二階への階段を下り始める。

 やはり俣利に騙されていた、いや、俺が思い込んでいたに過ぎないのだが。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:50:43.52 ID:z3lBax25O

 行きも思ったが、この時間と言えども人の姿がないのは何故なのだろうか。

 これも俣利の異能に関係しているのかとも思ったが、

(゚、゚;トソン「今日は近くの女子高で文化祭があるようで、他の部では部員が集まらずに早くに解散したと……!」

 と、いうわけらしい。
 周りがそれで真面目に部活に勤しむ都村、いや、アーチェリー部の部員諸君を讃えたい気分だ。

(メ;゚Д゚)「それより都村、ナイスだった」
'_,、_
(゚、゚;トソン「はい……?」

(メ;-Д゚)「御陰であの壁の、奴の異能の正体が解った……そして、都村の必中だ」

 二階に着いても足を止めることはせず、階段を駆け下りていく。

(メ;゚Д゚)「さっきは胸の辺りを目指していた、今回は頭の天辺……。
     何か思わなかったか? たとえば頭に当たれば脳震盪でも、とか?
     それなら都村、お前の異能は人なんか殺さなくても制御出来るはずだ!」

(゚、゚;トソン「……勉強はあまり出来ないけど頭がいい、という人を初めて見ました。
      特にその凄まじい洞察力には感嘆を隠し切れません」

(メ;゚Д゚)「いや、俺は自他共に認めるバカだ! 見て、聞いて、体験して、それでやっと解る」

 一階に到着、追ってくる足音は遅い。

 俺はある作戦を手短に説明して、都村に先を行かせた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:52:32.57 ID:z3lBax25O

 鉄扉を開け放つ音を聞きながら、掃除用具が入れてあるロッカーの陰に身を潜める。

 出入口は俺が入って来たここ西と、東にある非常用の扉しかない。
 俣利が降りて来ても、東に続く廊下に俺達の姿はない。
 部室や練習場には鍵がかけてあるだろうし、奴はこちらには来ないだろう。

 それに都村がわざと音を立てるようにして扉を開け放ったんだ、そのまま出て行こうとするはずだ。

( ・∀・)「…………」

 来た。
 一度立ち止まり、右・左と見て、開け放たれた扉の方へ歩き出す。

 潜む俺の存在には気付いていない。
 俺の考えが正しければ、俣利が歩いているのが証拠だ。

(メ,-Д゚)「――――」

 拳を握り、ロッカーの陰から出て、足音を立てないようにゆっくりと歩き出す。
 ある程度近付いたところで、一息で駆けた。

(; ∀ )「ふごぁ……ッ!?」

(メ#゚Д゚)「入っ……たァアアア!」

 背に打ち込んだ拳を持ち上げるようにして、打っ飛ばす。

 身体を弓にして軽く宙飛び、扉から外に出た俣利がコンクリートの地面に叩き付けられる。
 勢いはそこで収まらず、衣服が擦過する音を立てて滑っていく。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 22:54:18.70 ID:z3lBax25O

(メ,゚Д゚)「一度目に矢を弾いた時、アンタの足は止まっていた。
     二度目、さっきもそうだった……そして追ってくるアンタは何故か鈍足……。
     多分何度か足を止めていたんだろうな、攻撃を警戒して」

 扉を潜り抜けて、外に出る。 起き上がろうとする俣利に近付くが、二メートルほど手前で不可視の壁によって進行を妨げられた。

(メ,-Д゚)「確かに無敵だ、一定の位置に留まっている時は、常時不可視の壁が張られているようだし。
     でも動いたらそれは消える、その異能上仕方がないよな」

(; ∀・)「こっ……このガキがぁ……」

(メ,゚Д゚)「――アンタの異能は『空間の隔離』、多分形は四角限定。
     階段を下りる俺達に追撃してこなかったことから、隔離する空間を目視しなければならないとも解った」

 俣利がのっそりと立ち上がる。

(メ,-Д゚)「実は別方向からの同時攻撃が出来なかったから少し不安なんだけど、合ってるか?」

(;・∀・)「ああ、合ってる……こうも短時間でよく……」

(メ,゚Д゚)「アンタの戦い方が下手なだけさ……ところで、上」

( ・∀・)「ん……?」

 釣られた俣利が空を見上げた瞬間駆け出す。

( ・∀・)「都村、まだ解らないのか?」

 天から矢継ぎ早に、矢が降り注ぐ。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:10:14.89 ID:z3lBax25O

 だが矢は俣利の不可視の壁――いや、被さる不可視の『箱』によって弾かれた。
 地に落ちずに不可視の箱の上に残って、矢が宙に浮いているという不思議的な光景が出来上がる。

(゚、゚;トソン「猫島君! こっちです!」

(メ;゚Д゚)「ナイスアシストォ!」

 食堂の横から姿を現した都村と合流して、再び走り出す。
 
( #・∀・)「まだ逃げるか!」

 手を合わせることはせず、俣利は早足で追跡を開始する。

(゚、゚;トソン「ここからは!?」

(メ;゚Д゚)「これでアイツは確信したはずだ……ベクトル操作で絶対防壁を崩せない、と!」

 真っ直ぐ進み、食堂を左に曲がってラバーグラウンドへ出る。
 人の姿はない、有り難いことに。

 都村の矢筒を見る、残りは二本。

(メ;゚Д゚)「都村、お前には俺と一緒に、矢を射ってもらう」

(゚、゚;トソン「……はい?」

 踵に体重をかけて足を止め、来た道へ身体を向ける。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:11:57.06 ID:z3lBax25O

(゚、゚;トソン「えっと……どうしたらいいでしょうか……」

(メ,゚Д゚)「矢に触れさせてくれればそれでいい」

(゚、゚;トソン「危な……いえ、解りました」

(メ,-Д゚) 「よし、これでもうすぐ終わりだな」

(゚、゚;トソン「ふぅ……今日のことで猫島君を見る目変わりました。
     百八十度回転して、更に裏返したような」

(メ;゚Д゚)「それは喜ぶべきことなのか……?」

(゚、゚トソン「猫島君が迷惑じゃなければ喜ぶべきことかと。
     因みに私は素直に喜んでいますし、それと同時に戸惑いもあって、少し複雑な心境です」

(メ,-Д゚)「そうか……迷惑? 何に?」

(゚、゚トソン「そんなことより猫島君、アレはどうなりました?」

(メ,゚Д゚)「アレ?」

(゚、゚トソン「私のブラです、といっても色気のないスポーツブラですが」

Σ(メ;-Д゚) 「ブラねぇ……ブラ!? いや、待て、何の話だ!?」

 白色のジャージを着込んだ都村の爪先からゆっくり視線を持ち上げ、胸で止めた。
 しかし都村の腕によって控え目な胸は隠された、ええい邪魔だ。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:13:47.09 ID:z3lBax25O

 都村の蔑むような、いや、確実に蔑んだ視線が痛い。
 仕方ないだろ、男の子なんだから、やめろ俺を見るな。
'_,、_
(゚、゚トソン「……あの時の俣利に放った矢です、解りませんか?
     刺さらないように、ポイントに布が巻き付けられていたでしょう?」

(メ;゚Д゚) 「ああ、アレが……でもどうして?」

(゚、゚トソン「あの状況下ではブラくらいしかなかったからです。
     まさか下を使うわけにもいかないでしょう、猫島君?」

(メ;゚Д゚)「いや、俺にそう問われても困る」


「それはしっかり確認しておくべきだった」


 俣利の声が、耳に届いた。
 今の変態発言から、奴が拾って懐に入れたという可能性は消えたな、都村。

 しかし、声はしたのにも関わらず前方に俣利の姿はない。

 都村と共に狼狽え、右方、左方、後方と見渡す。
 
( ・∀・)「――ここだ、ベクトル操作の少年よ」

(メ;゚Д゚)「は――!?」

 薄い千切り雲置いた夜空を背に、俣利降りてきた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:15:32.44 ID:z3lBax25O

 優雅に地上に舞い降りたのは天使ではなく、背広姿の蜥蜴野郎。
 だがその光景はどこか幻想的で、俺は感動に近いものを感じた。

( ・∀・)「君は私の異能を暴いても尚、逃げ続ける。
      それはベクトル操作で私の周囲に展開するバリアを破壊出来ないからだ、違うか?」

(メ;゚Д゚)「少しは考えたってわけか……」

 言葉に俣利は満足そうな笑みを浮かべて頷く。

 ゆったり手を広げて、再び口を開いた。

( -∀-)「どうやら君のベクトル操作とやらは、自身の身体に使えないらしい。
      いや、時間はあったのに何か武器になるようなものも取らないとなると――」

 目を瞑ったまま横へ歩き出す。

( ・∀・)「妙だ、これだと妙に使えない異能に成り下がる。
      こう考えるのが一番早い、君の異能はベクトル操作ではない。
      そうだな、名を付けるなら『カウンター・ブレイク』といったところか?
      どちらにしろ大した異能ではないな、使えない異能だ」

(゚、゚;トソン「…………」

(メ,゚Д゚)「ああ、アンタが仕返したいのは解った」

( ・∀・)「私はここから一歩も動かずに攻撃を仕掛ける、そう絶対無敵のバリアがあるな。
      どう戦う? こう広いと、物陰に隠れる前にいくつか喰らうぞ?」


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:17:34.61 ID:z3lBax25O

 吊り上げられるだけ吊り上げた俣利の口の端は、勝利を確信したものだった。

(メ,-Д゚)「それよりアンタに一つ言いたいことがある。
     ――弓道は武道だ、バカが」

(゚、゚;トソン「っ……!?」

(メ#゚Д゚)「都村が積み上げてきたものが無駄なったなんて、何も知らずによく言えたな。
     ただ的の真ん中に当てまくったから全国一位だと? 一つ知れば全部知ったと思い込むバカが!」

 この薄暗さでも解る。
 俣利が、瞳孔を開いてぷるぷると震えているのが。
 
(メ#゚Д゚)「言葉で相手の心を引っ掻き回すのが好きみたいだけど、今の気分はどうだ?」

( #・∀ )「ああ……最高に愉快な気分、だ……」

 これで俣利の思考は大分鈍っただろう。

(゚、゚トソン「…………」

 都村が、番える。

( #・∀・)「無駄だって言ってんだろッ、女ァッ!」

(メ,-Д゚)「なら試してみるか?」

 俣利がわざわざ見せ付けるようにして両手をポケットに入れた、受けて立つか。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:19:22.46 ID:z3lBax25O

(メ,-Д゚)「俺の、本当の異能を教えてやるよ。
     『空想殺し』って言ってな、どんな異能も打ち消しちまうんだよ」

( #・∀・)「ふっははは、そうかそうか! このほら吹きが……!」

 都村の後ろに立ち、左手をそっと肩に置いた。
 それに応じて弓弦を引いた都村に確認しつつ、矢の真ん中辺りを握り締めた。

(メ;-Д゚)「えっと、台詞は……いいぜ、テメェが何が……何でも思い通りに防げるってんなら――?
     ――まずはそのふざけちゃ……ふざけた幻……空想を打ち殺す!!」

 台詞をばっちり決めたのだが、矢は射出されない。

 都村は震えていた、肩に置いた手でそれを感じた。

(メ,-Д゚)「肩だ、都村……俺を信じてやってくれ……」

(゚、゚;トソン「…………」

 こくりと、頷く。

 同時に都村が弓弦から指を離し、刹那も置かずに俺も手を離す。
 矢は風切り音と残光を残して、

(; ∀ )「――グゥアァァァアアアアアアアアアアアア……ッ!?」

 俣利の右肩に突き刺さった。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:20:57.47 ID:z3lBax25O

 足を滑らして、俣利が転倒する。
 地面がラバーグラウンドということで、大したことはないだろうが。

(; ∀・)「どういうこ――ッ!?」

 矢の突き刺さる肩を押さえた俣利が、目を見張った。
 それはそうだろう、停止してる俣利の目の前に俺が立っているのだから。

(メ,-Д゚)「言ったろ? 俺の異能は空想殺しだ、って」

(;・∀・)「今の一瞬で……いや、わ、解ったぞ! 君の異能は――」

(メ#゚Д゚)「なら解るよな……? この拳でお前を殴ったらどうなるか、が……」

(;・∀・)「……、こんな面倒なことをするくらいだ、私を殺すつもりはないんだろう?」

(メ,゚Д゚)「いや、気が変わった……もう面倒だから殺してしまおうと思う」

(゚、゚;トソン「え……?」

(;・∀・)「どうするつもりだ? 隠蔽を、私の死体を……」

(メ,-Д゚)「俺の所属する『機関』は穏健的な組織だけど……場合によっては、だな……」

(;・∀・)「…………」

 俣利の肩から垂れる夥しい量の血が、ラバーグラウンド染め上げていく。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:23:38.04 ID:z3lBax25O

(゚、゚;トソン「猫島君! それではあなたが人殺しになってしまいます!」

(;・∀・)「…………」

 ずいぶん長く拳を構えていたような気がする。
 心苦しくはあるが、都村の発言は予想通りだ。

(メ,-Д゚)「そうだな……おい、生きたいか?」

(;・∀・)「…………」

 俣利からの返事はない。

(メ,-Д-)「二度と都村に近付かない、俺達のことを黙っている。
     この二つを守れるなら、アンタを逃がしてやる」

(;-∀・)「……甘いな、少年」

(メ,゚Д゚)「下っ端のアンタにはこれくらいで丁度いい」

(;-∀-)「……ふっ、ははは!」

(メ,゚Д゚)「アンタは喋りすぎた、無闇やたらにな。
     それと異能の使い方が下手クソ、そのくせ慢心していた。
     だからアンタは殺意の無かった俺達に負けた」

(;・∀・)「『君達』にではなく私は、そう、『君』に負けたと思っている……。
      こんな回りくどい戦い方をする馬鹿は初めてだ」


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:26:09.22 ID:z3lBax25O

 俣利が夜空を仰ぐ。
 吐き出される息は白く、棚引いては消えていく。

(;-∀・)「あぁ、考えてみれば私は最初から負けていたのか……なんて異能だ、そして――」

(メ,-Д゚)「なんて嘘吐きだ、か?」

(;・∀・)「そうだな……それはここがあって話だが……」

 血みどろなった左手を挙げ、人差し指で顳を叩いた。

(゚、゚トソン「手当てを。 その人を連れて一度戻りましょう」

(メ,゚Д゚)「ああ、そういえば鞄どこやったっけ……後、お前ブラも回収しないとな」
'_,、_
(゚、゚トソン「射抜きますよ?」

(メ;゚Д゚)「番えるな! 洒落にならんわ!」

 俣利に手を差し伸べる。
 
(;-∀・)「これは八年ほど遅く生まれるべきだったな……」

 手を伸ばした俣利だったが、俺の手を掴む前に止まった。
 自分の手が血にまみれていることを気にしているのか、左手を降ろして自ら立ち上がる。

 何故か、それを寂しく感じている俺がいた。


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/19(月) 23:57:57.24 ID:z3lBax25O

 アーチェリー部に備えてある救急箱で、俣利の手当ては行われた。
 手当てをされる俣利は終始情けなかった、まるで子供だ。

 肩に突き刺さった矢を抜く時なんかは、都村にしがみついて目に涙を浮かべていた。
 良かったじゃないか、合意的に若い娘に触れられて。

 そして手当てを終え、

( ・∀・)「都村、君の異能は本当に強力なものだ、次に機関の人間に目を付けられたら終わりだ。
      そして、少年よ……またいつか会える日を楽しみにしている」

 と、言って俣利は帰っていった。
 礼は一言も無し、だ。
 だが俣利なりに忠告はしてくれた、不器用だな。

(ロ,゚Д゚)「ほれ、オロナミンC」

(゚、゚トソン「ん……ありがとうございます」

 飲み物を買って戻って来ると、丁度都村が射場から出て来た。

 先ほどまで白色のジャージ姿だった都村は、セーラー服の上に白色のコートを羽織った格好だ。
 都村の白色好きは異常。

(゚、゚トソン「何か問題でも?」

(ロ,-Д゚)「いや、似合っているし、いいんじゃないか?」


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:00:18.95 ID:UgmbdkUpO

 並んで歩を進める。
 俺はコーヒーを、都村はオロナミンをぐびぐびといきながら。

(゚、゚トソン「猫島君、結局あなたの異能はなんなんですか?」

(ロ,-Д゚)「ブラフだ」

 肘を小突かれた。
 地味に痛いのだが。

(ロ;゚Д゚)「異能者っていうのは自分の異能をそうそう口にはしないもんだ。
     異能者に襲われても、自分の異能が知られないように戦うのがベスト」

 都村がじと目で睨んでくる。

(ロ;-Д-)「……俺を助けてくれた人がそう言ってて……」

'_,、_
(゚、゚トソン「私が猫島君を襲うと? 私ってそんなに信用出来ませんか……?」

(ロ;-Д゚)「……実は俺もイマイチ解ってないんだ」

(゚、゚#トソン「苦しい言い訳ですね」

(ロ;゚Д゚)「いや、本当だって! マジマジ!」

 浮気を否定する男のような必死さで弁解する俺に、都村は若干引き気味だ。


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:03:39.34 ID:UgmbdkUpO
'_,、_
(゚、゚トソン「じゃあ……あの人に話していた猫島君が所属する『機関』とやらの――」

(ロ,゚Д゚)「それブラフ。 あれこれも全部ブラフとか嘘で」

(゚、゚#トソン「っ……そうですかそうですか」

 歩調を速めた都村が鉄扉を潜って外に出る。
 周りを見れば、既に一階に到着していた。

(ロ;゚Д゚)「待てって! 謝るから許してくれ!」

(゚、゚#トソン「……ありがとうございました」

(ロ;゚Д゚)「へ?」

(゚、゚*トソン「だから……助けてくれた御礼です」

(ロ;゚Д゚)「いや、助けたつもりはないし、お前の異能だって完全に制御出来たとは」

(゚、゚#トソン「…………」

三(ロ;゚Д゚)「す、すまーん! なんかよく解らないけど悪かったー!」

 女という生き物は、本当に理解に苦しむ。
 妹もそうだが――そういえば妹の存在を忘れていた、帰りたくない、鬱だ。

 まぁ、殺さず死なずで無事にことが終わったのだから良しとしようじゃないか。

(ロ;゚Д゚)「それよりさ、都村の異能! お前にぴったりだよな、何故って――――」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:04:31.48 ID:UgmbdkUpO















    『無駄無シ』















95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:05:40.25 ID:UgmbdkUpO

 改めて、人は不平等なものだと思う。

 天は二物を与えず、というが、三物も四物も与えちまう。
 レベルアップに必要な経験値から、得られるステータスへの振り分けポイント数まで大幅に違うようだ。

川#゚ -゚)「――――」

 俺の目には、隣に座る『沙尾・空流』の姿が映っていた。
 彼女のノートの上を走るシャープペンシルは、都村以上の速度で、

(゚、゚トソン「そんなことを言うもんだから、私は猫島君に平手打ちを」

(;゚Д゚)「だーかーら! アレは都村の胸のことを言ったんじゃないって!」

(゚、゚トソン「もう一度いいですか?」

(;゚Д゚)「なんで!?」

 都村の言葉を文字に起こしていく。

 あれから十ヶ月とちょっとの月日が経った、季節で言えば翌秋になる。

 あれ以来、俣利は姿を現さない。
 機関自体の方も俺や都村に接触して来ることはなかった。

 なんだかんだで、俣利はいい奴だったというか、そっちの方が甘いというか。

 また会うことがあるならば、今度は下の名を教えて欲しい。
 変わりに俺の義子という親が付けてくれた重い名を教えてやろうではないか。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:07:35.99 ID:UgmbdkUpO

 そう回顧する俺の頬の辺りに、貫くようなドギツイ視線が向けられていた。

 見ずとも解る、隣に座る沙尾しかいない。

 沙尾の視線の意味は解らない、俺が何をした。
 とりあえず何故こうなっているのか説明すると、

川 ゚ -゚)「猫島君、君が助けた人達に話を聞きたい。
     あぁ、助けた人物が女ばかりだという話はもういい、気にするな、なんとか自分に納得させた」

 と、いうわけで現在に至る。

 都村の話が始まってから一時間、外を見ればラバーグラウンドは茜色染まっていた。
 食堂で屯していた連中が何組かいたのだが、もう俺達を入れて二組しかいない。

 女子二人に囲まれて、なんて状況で喜べないの何故なのだろう。

(゚、゚トソン「そして、コンビニに寄って肉まん奢ってもらいましたね。
     暫く談笑していたら九時になっていて、色、いえ、紳士的な彼は私を家まで送ってくれました」

川#゚ -゚)「色魔、と……」

(;゚Д゚)「いや、待て! それは可笑しい!」

 突っ込みを入れたところで、話はようやく終わりを迎えたようだ。
 と、思ったのだが、続いて沙尾の話が始まった。

(;゚Д゚)(俺にもやっと解りましたよ、上条さん……これがあなたの言う不幸なのですね……)

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/20(火) 00:12:05.63 ID:UgmbdkUpO

 ぐったりと背もたれに寄りかかり、天井を仰ぐ。

 沙尾の話はまだ、自分がバットで窓硝子を叩き割っているところだ。
 もうすぐ俺が登場する場面になる。

 それはさておき、都村はあの一件の後、アーチェリー部を辞めた。
 何度も顧問から戻るように説得され、何度もそれを拒否したらしい。
 しかし、あまりにもしつこい説得に嫌気が差した都村は、たまに部活動に参加する、という提案した。
 これで折れてはくれなかったが、説得のために呼び出される回数はずいぶん減ったそうだ。

 それと、生徒会長――今では日村と心の中では呼び捨てている彼女に頼まれた勧誘の件だが、

从*゚∀从「ありがとな! いやぁ、お前ならなんとなくやってくれると思ってた!」

 なんと都村が入ってくれたという、勝手に、自発的に。
 だというのに日村からお礼に缶コーヒーをいただいた、箱で。
 生徒会の予算から出したから気にすんな、ってあの話はなんだったのかと今でも悩み続けている。

(;゚Д゚)「あのー……」

 二人の視線が、一斉に俺に向けられた。
 これで何度目になるか解らないが、無駄だと解っているが、口にする。

(;-Д゚)「俺、帰ってもいい?」

川 ゚ -゚)「ダメ」(゚、゚トソン

 即答、却下。
 俺はただただ項垂れるしかなかった。


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