- 2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:50:21 ID:riRG8kTY0
『ヴィッパーズ、選手の交代をお知らせします。 9番山本に代わりまして、杉浦。 バッターは杉浦 背番号、9』
――――ワアアアアアアアアアアア!!!!
地鳴りのような大歓声が響き渡る。
45000人の視線が一斉に一人の男に注がれる。
( ФωФ)(さてと……やりますか)
鳴り響くチャンステーマを背に打席に向かう。
9回裏2死満塁、一打サヨナラのチャンス……。
これ以上ない最高の場面だ。
- 3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:51:06 ID:riRG8kTY0
2、3度素振りをした後、打席に入る。
そして、視線をマウンドに移す。
(; ^^ω)(最後に嫌な人が出てきたホマ……)
マウンド上には新人の長谷川。 鳴り物入りでプロ入りし、ここまで12勝を挙げている新人王の最有力候補だ。
この試合も8回を2失点と堂々たる投球を見せているが味方の失策をきっかけに制球力が乱れ、このピンチを招いた。
球数は120球を超えており既に肩で息をしているが、 相手ベンチは動く気配を見せない。
( ФωФ)(俺だったら代えるがな……まあ、自分の尻拭いは自分でしろってこった。)
- 4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:51:52 ID:riRG8kTY0
セットポジションから第一球を投じる。
大きく外角に外れるシュートを難なく見送る。
(; ^^ω)(もう……どうにでもなれホマ。)
2球目。
外角高めのスライダーが真ん中に入ってくる。
( ФωФ)(もらったっ!)
勢いよく振りぬいた打球は右中間へ飛ぶ。
- 5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:52:47 ID:riRG8kTY0
歓声と悲鳴が交錯する。――――
( ФωФ)優勝請負人のようです 第一話【青天の霹靂】 前編
- 6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:53:32 ID:riRG8kTY0
――――翌日 東京ドーム室内練習場
( ФωФ)(……)
マシン相手に黙々と打ち込みを繰り返す。
昨日で全日程が終了したため今日はオフだが、自分にはそんな暇はない。
少し休憩しようと思ったその時、見慣れた人物が近づいてきた。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「杉浦、ちょっといいか?」
何処にでもいそうな、太ったおっさんにしか見えないが
この人は東京ヴィッパーズ、流石父者監督。
今では見る影もないが、こう見えても現役時代はイケメンで女性ファンに絶大な人気があった。
- 9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:54:18 ID:riRG8kTY0
( ФωФ)「監督? どうしたんですか?」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……話があるんだ。監督室で待っててくれ」
(;ФωФ)「はぁ……」 (何の用事だろうか……?)
流石監督とは長い付き合いになる。
俺がプロ入りした頃、監督はヴィッパーズの主軸打者だった。
先輩として、コーチ、監督として本当にお世話になった人だ。
- 10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:55:08 ID:riRG8kTY0
――――東京ドーム内監督室
( ゚д゚ )「あれ?杉浦さんも監督に呼ばれてたんですか」
(・(エ)・)「お久しぶりですクマ」
/ ゚、。 /「オフだってのに何の用事なんだろうね」
既に先客がいたようだ。
民名、熊田、ダイオード・・・・・・。
長年志を共にした頼もしいチームメイトたちである。
( ФωФ)「お前達もか・・・・・・。どうしたんだろうな」
/ ゚、。 /「今日は家族とのんびり過ごそうと思ってたのに全く酷いもんだよ」
(・(エ)・)「僕は家で寝てたクマ」
( ゚д゚ )「僕もです」
( ФωФ)「本当に勘弁してほしいよなぁ・・・・・・」
- 11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:56:03 ID:riRG8kTY0
( ФωФ)「それにしてもダイオードは本当に日本語上手いな」
/ ゚、。 /「来日して7年になるからね。読み書きも問題なくできるよ」
( ゚д゚ )「そうとう練習したんじゃないの?」
暫し他愛もない話に花を咲かせる。
10分ほど話し込んだ所で、ようやく監督が姿を現した。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「すまんな、遅くなってしまった。座ってくれ」
- 12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:56:48 ID:riRG8kTY0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「オフだってのに悪いな4人共」
( ФωФ)「監督、今日はどんなご用件で?」
彡⌒ミ
( ;´_ゝ`)「その……なんだ……」
(・(エ)・)「・・・・・・?」
何故か監督の様子がおかしい。
言いにくい事でもあるようだ。
彡⌒ミ
( ;´_ゝ`)「率直に……言わせてもらうぞ……」
( ゚д゚ )「・・・・・・」
ようやく監督の口が開かれる。
開口一番に衝撃的な言葉が飛び出してきた ―――――― 。
- 13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 21:57:31 ID:riRG8kTY0
彡⌒ミ
( ;´_ゝ`)「お前達4人は……ウチの来季の構想には入っていないんだ……」
- 14 名前:ずれた 投稿日:2012/02/26(日) 21:58:15 ID:riRG8kTY0
-
彡⌒ミ
( ;´_ゝ`)「お前達4人は……ウチの来季の構想には入っていないんだ……」
- 15 名前:ずれた 投稿日:2012/02/26(日) 21:58:57 ID:riRG8kTY0
(;ФωФ)
(;・(エ)・)
(;゚д゚ )
/; ゚、。 /
時間の流れが止まったかの様に、沈黙が続く。
正直俺は若干覚悟していた。
今シーズンは故障もあって過去最低の成績に終わっていた。
- 16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:00:06 ID:riRG8kTY0
彡⌒ミ
( ;´_ゝ`)「GMが若返りの方針を主張してな・・・・・・」
(; ω )(・・・・・・)
とはいえ流石にショックが大きい。
全身の力が抜けていくのを感じる。
そして、監督の声は全く頭に入って来なくなった。
- 17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:00:50 ID:riRG8kTY0
気が付くと既に話は終わっていた。
座っている椅子から立ち上がる事が出来ない。
(; ω )(・・・・・・)
( ゚д゚ )「杉浦さん・・・・・・」
/ ゚、。 /「・・・・・・立てる?」
( ФωФ)「すまんが・・・・・・無理だ。手を貸してくれ」
民名の手を借りてなんとか立ち上がる。
体に全く力が入らない。
( ФωФ)「これから・・・・・・どうするんだ?」
( ゚д゚ )「急に言われた事ですからね。やっぱり実感わきませんよ」
/ ゚、。 /「帰ってゆっくり考えるさ」
(・(エ)・)「右に同じですクマ」
( ФωФ)「そうか」
- 18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:01:53 ID:riRG8kTY0
3人と別れた後、練習の後片付けを行う。
本当はあと2時間は練習する予定だったが、もうそんな気力はない。
( ФωФ)「・・・・・・」
(;ФωФ)「はぁ・・・・・・駄目だ」
そう呟くとその場に倒れ込む。
後片付けさえも手につかない。
受けたショックは予想以上に大きかった。
( ω )「どうするかな・・・・・・これから」
静かな室内に溜息が響く。
自分はプロ入り22年目の40歳。
引退の二文字を意識する年代だ。
( ω )(・・・・・・)
現役は続けたい。
今年は不調だったが、限界を感じた事は一度もなかった。
まだ終わりたくはない。
- 19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:02:43 ID:riRG8kTY0
どうにか後片付けを終えて、自宅へと車を進める。
( ФωФ)「・・・・・・」
妻には何と言おうか。
現役を続行したいという自分の考えに、果たして賛成してくれるだろうか。
思えば今まで野球ばかりの毎日で彼女には何一つ夫らしい事をしてやれなかった気がする。
( ФωФ)「・・・・・・着いた」
車から降り、家のインターホンを押す。
( ФωФ)「開けてくれ」
その一言だけで十分だ。
ドアが開かれるのに時間はかからない。
- 20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:04:00 ID:riRG8kTY0
ζ(゚ー゚*ζ「お帰りなさい。早かったのね」
ドアが開かれると優しい笑顔の妻がそこにいた。
駄目だ。今は切り出せない。
( ФωФ)「ああ・・・・・・ただいま」
ζ(゚、゚*ζ「どうかしたの?」
( ФωФ)「いや、何でもないんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「嘘おっしゃい。顔に書いてあるわよ」
- 21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:05:03 ID:riRG8kTY0
(;ФωФ)「う・・・・・・ばれた?」
ζ(゚ー゚*ζ「バレバレよ」
どうやらごまかせないようだ。
彼女は昔から勘が鋭い。
( ФωФ)「ごめんな。後で話すよ」
そういって2階にある自分の部屋へ逃げるように向かった。
ζ(゚、゚*ζ「ちょっと・・・・・・もう」
- 22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:05:55 ID:riRG8kTY0
(;ФωФ)(いつかは解る事だけどな・・・・・・)
荷物を下ろすと、すぐさまベッドに座り込んだ。
大きく息を吐き、視線を隣の棚に移す。
そこには今までに獲得した打撃タイトルや賞の盾やトロフィーが飾られている。
( ФωФ)「・・・・・・」
――――― もう十分ではないだろうか。
そんな考えが頭の中をよぎる。
MVPや三冠王にもなった、日本一の喜びも幾度となく味わった。
これ以上何が欲しいというのだろうか。
( ФωФ)(だが・・・・・・まだ物足りないんだよなぁ・・・・・・)
先ほど言った様に、衰えを感じたことは無い。
もしかすればそれを受け入れていないだけかもしれないが。
何にしても、このまま終わりたくはない。
まだ野球がしたい。
- 23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/26(日) 22:06:54 ID:riRG8kTY0
しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
こちらの返答を待たずして、ドアは開かれた。
ζ(゚ー゚*ζ「あなた、ちょっといいかしら?」
【続く】
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