- 95 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 16:51:10 ID:oCiIx1Bk0
( ФωФ)「それじゃ、いってくる」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、向こうに着いたら連絡してね」
今日はキャンプインを前日に控えた1月31日。いわば、プロ野球選手にとっての大晦日だ。
自宅と妻に暫しの別れを告げて、キャンプ地の沖縄に向かう。
いよいよチームに合流して、新しい仲間達と初の顔合わせとなる。
( ФωФ)「・・・・・・」
若手の多いチームに果たして馴染めるだろうか。不安な気持ちを抱きつつ、空港へと車を進める。
- 96 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 16:52:23 ID:oCiIx1Bk0
- 過去に獲得したタイトルのトロフィーや盾、使用していたヴィッパーズ時代のユニフォーム等は全て知り合いに渡した。
身も心もファルコンズの人間となり、『東京ヴィッパーズの杉浦』を完全に消し去るために。
( ФωФ)(まあ、そのイメージは当分付いて回るだろうがな・・・・・・)
ファルコンズでの背番号は35。
当初は一桁番号を打診されたが敢えて断り、プロ入り時に使用していた馴染み深い番号を選んだ。
プライドは捨ててきた。泥臭く且つがむしゃらに取り組んで、狙うはレギュラーの座。
( ФωФ)「さて・・・・・・やるか」
- 97 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 16:53:23 ID:oCiIx1Bk0
優勝請負人のようです 第三話【セカンド・ステージ】
- 98 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 16:55:16 ID:oCiIx1Bk0
- (;ФωФ)「・・・・・・」
驚いて言葉が出ない。
そこでは、これまでヴィッパーズの野球しか知らなかった俺にとって、想像してもいなかった光景が目の前に繰り広げられていた。
(;ФωФ)(これが・・・・・・ファルコンズか)
- 99 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 16:56:26 ID:oCiIx1Bk0
( ^ν^ ) y━・~~~「だりーwwww」
( ´∀`)「もしもしーww今?練習中www」
(´・_ゝ・`)「練習終わったらパチンコ行こうぜーwww」
( ゚∀゚)「いいっすねwww」
(;ФωФ)(これは酷い・・・・・・本当にプロかこいつら)
グラウンドに座り込んで喫煙はする、ケータイは使う・・・・・・
プロとは思えない腐りきった世界がそこにはあった。
呆れて物が言えないとは正にこの事だ。
そこらへんの草野球チームの方が、まだ真剣に野球に取り組んでいるだろう。
- 100 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:01:55 ID:oCiIx1Bk0
( ´_ゝ`)「おはようございます杉浦さん」
茫然自失状態の俺に話しかけてきたのは、正二塁手の流石兄者。
父はヴィッパーズの流石父者監督で、弟は同チーム主軸打者の流石弟者と、生粋のエリート野球一家出身だ。
現役時から流石監督とは懇意にさせてもらっており、彼等兄弟とも20年来の付き合いである。
- 101 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:05:21 ID:oCiIx1Bk0
(;ФωФ)「ああ、久しぶりだな」
( ´_ゝ`)「呆れて物が言えないって所ですか」
(;ФωФ)「そりゃそうだよ・・・・・・何なんだこいつら」
( ´_ゝ`)「こういうのばっかりじゃないですから。まともな奴もいますよ」
そういって兄者が指差した先には昨季16HRを放った内藤がいた。
40HRの主砲・ビコーズが交渉決裂でヴィッパーズ入りしたことによって空いた4番の座には彼が座ることが濃厚になっている。
- 102 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:10:36 ID:oCiIx1Bk0
( ´W`)「ほら、腰が高いぞ内藤」
( ;^ω^)「す、すいませんお!」
泥だらけになりながら熱心にコーチのノックを受けている。
一心不乱という言葉が実によく似合っており、好感が持てる。
俺も昔はああだったのだろうか。
( ФωФ)「素晴らしいな。他に頑張ってる奴は?」
( ´_ゝ`)「あっちにいる茂良と毒嶋もそうです」
( ФωФ)「ああ、あの二人か」
内藤と同じく、以前荒巻監督と話をした時に話題にした二人。
彼等のような意識の高い若手がいるのならば、このチームを立て直すのも難しくはないかもしれない。
- 104 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:13:57 ID:oCiIx1Bk0
(;'A`)「うぅ・・・・・・」
(; ∀ )「痛ぇ・・・・・・」
( ФωФ)「・・・・・・担架で運ばれてるけど」
( ´_ゝ`)「ノック中にぶつかって、二人とも怪我したみたいですね」
(;ФωФ)「えぇー・・・・・・初日からいきなりかよ・・・・・・」
毒嶋は脳震盪、茂良は右足靭帯損傷で開幕絶望である事が後日、球団から発表された。
前言撤回。前途多難以外の何者でもない。
- 105 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:17:43 ID:oCiIx1Bk0
( ФωФ)「・・・・・・」
黙々と打撃練習に取り組む。
やる気のない選手を叱りつける気など毛頭無い。
何も言わず、背中でチームを引っ張っていくつもりだ。
( ^ω^)「内角の捌き方が理想的だお・・・・・・惚れ惚れするお」
――――
( ´W`)「内藤が食い入るように杉浦の練習を見ておりますな」
/ ,' 3「うむ。ワシらが口うるさく教えるよりもずっと効果的じゃわい」
( ´W`)「今年は3番杉浦4番内藤という形でいくのですか?」
/ ,' 3「その通り。5番に入れる新外国人が当たれば上位進出も夢ではないかもしれん」
- 108 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:25:23 ID:oCiIx1Bk0
(; <●><●>) スカッ――――
(; <●><●>) スカッ――――
(; <●><●>) スカッ――――
テマス(31)
昨季成績(メキシカンリーグ)
.257 45本 81点 192三振
- 109 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:33:08 ID:oCiIx1Bk0
( ;´W`)「メキシカンリーグでHR王を獲ったそうですが・・・・・・バットとボールが30センチは離れてますな」
/ ,' 3「パワーだけならビコーズより上だと思うんじゃが・・・・・・打率は期待できそうに無いのう」
( ;´W`)(それ以前の問題ではないでしょうか・・・・・・)
※因みにメキシカンリーグとは規定打席で打率3割をマークしている選手が30人くらいは
いるほどの極端な打高投低リーグです
- 110 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:40:38 ID:oCiIx1Bk0
練習をしていると時間が過ぎるのが早い。
交代の時間となったため、打撃投手に一礼してバッティングゲージから出る。
柵越えこそ無かったが、初日としては悪くない出来だった。
( ´_ゝ`)「調子いいみたいですね」
( ФωФ)「まだ60点くらいだけどな」
キャンプは長い様で短い。
早めにベストの状態に持っていきたい所だ。
- 111 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:47:03 ID:oCiIx1Bk0
新天地でのキャンプ初日はあっという間に終わった。
( ^ν^ )「飲みに行こうぜーwww」
(-@∀@)「いいですけど門限あるんすよ?」
( ^ν^ )「構わねえよwww無視だそんなもん」
(-@∀@)「ですよねーwwww」
居残り練習という概念は彼等には無いらしい。
- 112 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 17:54:33 ID:oCiIx1Bk0
(;ФωФ)(酷いなこりゃ・・・・・・)
練習の後片付けをしていないばかりか、何故かタバコの吸殻や吐き捨てられたガムが散乱している。
どうやら野球人以前に人としての意識も低いらしい。
( ゚∀゚)「あれー?杉浦さん。まだ練習するんすか?」
( ФωФ)「ああ・・・・・・。そのつもりだ」
( ゚∀゚)「息抜きも大事っすよ?飲みにいかないすか?」
( ФωФ)「・・・・・・遠慮しておくよ」
- 113 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 18:01:24 ID:oCiIx1Bk0
( ゚∀゚)「そっすかwwwじゃお先に失礼しまーすwww」
( ФωФ)「ああ。また明日」
受験に失敗して低辺校に入学してしまった高校生の気持ちが今ならわかる。
(;ФωФ)(こんなチームがあったとは・・・・・・)
居残り練習をしようと思ったがグラウンドがこの状態ではどうしようもない。
まずは後片付けをしてからだ。
( ФωФ)(まずはそこに散らばってるボールから・・・・・・ん?)
( ´_ゝ`)「杉浦さん」
( ^ω^)「僕たちも手伝いますお」
- 114 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 18:04:42 ID:oCiIx1Bk0
( ФωФ)「すまんな」
( ^ω^)「気にしないでくださいお」
( ´_ゝ`)「杉浦さんの事ですから居残り練習もするんでしょ?ご一緒します」
非常に助かる。
これなら早く済みそうだ。
- 115 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 18:14:01 ID:oCiIx1Bk0
( ^ω^)「・・・・・・杉浦さん。『酷いチームに来てしまった』って思いましたかお?」
呟くように内藤が質問する。
正直に言ってしまうと、その通りだ。
(;ФωФ)「それは・・・・・・」
とはいえ、返答に困る。
言葉を濁していると、内藤が言った。
( ^ω^)「でも、このチームに野球が嫌いな人なんて一人たりともいませんお」
( ^ω^)「それだけはわかっていてほしいですお」
- 116 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 18:18:36 ID:oCiIx1Bk0
更に内藤は続ける。
その口調は熱気を帯びていた。
( ^ω^)「僕はファルコンズで優勝がしたいですお。」
( ^ω^)「笑われるかもしれないですけど・・・・・・その可能性は0じゃないって信じてますお」
( ФωФ)「内藤・・・・・・」
- 117 名前: ◆fTC5cA5YBU 投稿日:2012/03/29(木) 18:28:41 ID:oCiIx1Bk0
その目は純真な野球少年そのままだった。
冷え切った心が再び熱くなるのを感じる。
17歳年下の選手にここまで心を動かされるとは思わなかった。
( ФωФ)「俺たちで・・・・・・このチームを変えような」
( ^ω^)「はい!」
( ´_ゝ`)「勿論です」
2月の冷たい風が肌に染みる中、俺たち三人の決意は固まった。
【続く】
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