- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/27(日) 21:44:47.52 ID:eIGX6UAo0
カウント2‐0から投じた第3球は大きく外角に外したボール球。
キャッチャーの要求通り、キャッチャーが構えたコースそのままに投げた。決して失投ではない。
普通の打者なら絶対に手を出さない球。
_、_
( ,_ノ` )(……もらった)
それを渋澤さんは『まってました』とばかりに大きく踏み込んでフルスイング。
(;ФωФ)(嘘だろ……!?)
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/27(日) 21:46:22.46 ID:eIGX6UAo0
(;ФωФ)(あんなコースの球を……)
白球が舞い上がる。
外野手が懸命に打球を追っている。
〔;`⊇´〕
まだ追う。
尚も下がっていく。
(;ФωФ)(ほんとかよ……)
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/27(日) 21:48:37.90 ID:eIGX6UAo0
(;ФωФ)(外に……外したのに……)
(;ФωФ)(あんなところ……打てるわけが……)
この男は普通じゃない。
誰しもがそう気づいた。
だが、もう遅かった。
_、_
( ,_ノ` )
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 21:50:45.88 ID:eIGX6UAo0
打球はライトスタンド前方に突き刺さる。
代打逆転サヨナラ2ランホームラン。
( ω )
_、_
( ,_ノ` )
―――――――― ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
この後の事は全く覚えていない。
気が付いた時には既に帰りのバスの中だった ――――― 。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/27(日) 21:51:51.21 ID:eIGX6UAo0
( ФωФ)優勝請負人のようです 第五話【ダメ助っ人と天才打者】 後編
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 21:53:34.39 ID:eIGX6UAo0
あの出来事を切っ掛けに投手としての才能には見切りをつけた。
この人とは同じ野手として勝負したい。そう考えたからである。
_、_
( ,_ノ` )「あの時の事は俺もはっきり覚えてるよ。懐かしいなぁ……」
あれから24年の歳月が経つ。
この人と同じユニフォームを着る事になるとは思わなかった。
( ФωФ)「まさかあのコースの球を打たれるなんて思いませんでしたよ」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 21:55:22.99 ID:eIGX6UAo0
- _、_
( ,_ノ` )「臍下丹田に気を鎮め、そこから五体を結ぶ……」
(;ФωФ)「……はい?」
_、_
( ,_ノ` )「あの頃はそれができてたからなぁ……」
(;ФωФ)「……? 」
何言ってんだこの人。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 21:57:44.84 ID:eIGX6UAo0
- _、_
( ,_ノ` )「あの時の三球目……はっきりと見えたんだ。臍下丹田に映る自分の打撃フォームがな」
_、_
( ,_ノ` )「ボールがバットに当たって、バットに乗っていくところまでが鮮明に見えたもんだ」
_、_
( ,_ノ` )「『神の域に達した』って奴だったよ」
(;ФωФ)(訳分からん……)
どうやら俺には到底理解できない理論が展開されているようだ。
いや、理解できるのはこの人ただ一人だろう。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 21:59:31.08 ID:eIGX6UAo0
(;ФωФ)(話題変えよう……ついていけねえや)
そういえば以前からこの人に聞きたい事が一つあったのだが、今日まで聞きそびれていた。
この機会に聞いておこう。
( ФωФ)「渋澤さん、一つ質問いいですか? 」
_、_
( ,_ノ` )「なんだ?」
( ФωФ)「理想の打球が打てた事って今までにあります?」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:01:29.86 ID:eIGX6UAo0
ホームランを打とうが納得のいく当たりで無ければ首を傾げる程のストイックさ。
それに加えて家に帰っても夜遅くまで素振りを行い、時にはバットを抱えたまま床に就く事もある程の練習熱心さ。
それらを併せ持つのが渋澤奉紀という野球人である。
_、_
( ,_ノ` )「理想の打球……か」
そんな彼が思い描く『理想の打球』とはどんな物なのか以前から気になっていた。
腕組みをして少し考えた後、渋澤さんは呟くように答えた。
- 17 名前:訂正 投稿日:2012/05/27(日) 22:02:41.97 ID:eIGX6UAo0
ホームランを打とうが納得のいく当たりで無ければ首を傾げる程のストイックさ。
それに加えて家に帰っても夜遅くまで素振りを行い、時にはバットを抱えたまま床に就く事もある程の練習熱心さ。
それらを併せ持つのが渋澤奉紀という野球人である。
_、_
( ,_ノ` )「理想の打球……か」
そんな彼が思い描く『理想の打球』とはどんな物なのか以前から気になっていた。
腕組みをして少し考えた後、渋澤さんは呟くように答えた。
- 18 名前:直らん もういいや 投稿日:2012/05/27(日) 22:03:38.88 ID:eIGX6UAo0
- _、_
( ,_ノ` )「ファールならあるんだがな……」
その表情はどこか寂しげだった。
(;ФωФ)「ファールなら……ですか」
_、_
( ,_ノ` )「ああ……そうだ」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/27(日) 22:05:43.02 ID:eIGX6UAo0
- _、_
( ,_ノ` )「正直若い頃は結果なんてどうでもよかったんだ」
_、_
( ,_ノ` )「自分の理想通りのスイングができて、理想通りの打球が打てればそれで十分だった」
_、_
( ,_ノ` )「だが……あの怪我で全て終わっちまった。五体を結ぶ事もできなくなってしまったんだ」
今から17年前、渋澤さんは試合中に右アキレス腱を断裂する大怪我を負った。
それ以降は満身創痍の状態となり、故障との闘いが今もなお続いている。
走攻守全てにおいて完璧なプレーを信条とする渋澤さんにとって、これ以上のもどかしさは無いはずだ。
( ФωФ)「……」
_、_
( ,_ノ` )「昔は『理想の打球が追求できなくなったら俺はおしまいだ』と考えてた。でもな……」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:07:21.57 ID:eIGX6UAo0
- _、_
( ,_ノ` )「今はチームが勝てればそれだけでいいんだ。もう何も望まない」
( ФωФ)「渋澤さん……」
_、_
( ,_ノ` )「杉浦、明日からシーズン頑張ろうな」
_、_
( ,_ノ` )「絶対にチームとお前の足は引っ張らないから……」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:10:15.90 ID:eIGX6UAo0
そう言って渋澤さんは打撃練習に向かった。
(;ФωФ)「……」
俺はあなたを励みにして今まで頑張ってきたんです、そんな事言わないで下さい……。
そう強く思っていたが、遂に口に出せなかった。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/27(日) 22:14:24.96 ID:eIGX6UAo0
(;´ω`)「もう嫌だお……いっその事4番代わってくださいお…… 」
(;ФωФ)「何言ってんだ全く……」
( ´_ゝ`)「おいおい大丈夫か? 」
いよいよ開幕まで24時間を切った。
今日は後輩達を連れて食事をしている。
ちょっとした決起集会というやつだ。
(;´ω`)「明日という日が永遠に来ないでほしいお……」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:15:43.77 ID:eIGX6UAo0
(;ФωФ)(こりゃ重傷だな)
店に入って30分は立つが、内藤の弱音がノンストップで続いている。
('A`)「こいつは昔からこうなんです。気にしない方がいいですよ」
毒嶋 独男 6年目24歳 右投左打 遊撃
昨季成績 144試 .307 3本 40点 22盗
通算成績 485試 .282 8本 119点 64盗
昨季23歳の若さで全試合出場を果たした期待のショートストップ毒嶋。
キャンプ初日に怪我をして離脱したものの、必死のリハビリで奇跡的に開幕に間に合う事となった。
何でも内藤とは小学校の頃からのチームメイトらしい。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:17:33.72 ID:eIGX6UAo0
( ´_ゝ`)「しかしドクオ大丈夫か? 無理しない方がいいんじゃ……」
('A`)「例年になくチームの状態がいいんだ。休んでなんかいられねえよ」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:19:35.82 ID:eIGX6UAo0
( ФωФ)「いいか内藤。何番だろうが自分の打撃をする事だけを心掛けろ」
( ФωФ)「4番だろうが7番だろうがお前はお前なんだからな」
( ´ω`)「はいお……」
まるで抜け殻のようだ。
全く先が思いやられる。
>プルルルルルル
( ФωФ)(……お)
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:21:49.25 ID:eIGX6UAo0
(;´・ω・`)『……す、杉浦さんですか!?』
電話の相手は初本。
えらく動揺しているようだ。
(;´・ω・`)『すぐホテルに戻ってきてください! た、大変なんです!!』
( ФωФ)「落ち着け。何があった?」
(;´・ω・`)「そ、それが……」
( ФωФ)「それが? 」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:23:32.94 ID:eIGX6UAo0
(;´・ω・`)「テマスがいなくなりました!!」
( ФωФ)「……」
(;ФωФ)「……はぁ!?」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:25:45.49 ID:eIGX6UAo0
ホテルは騒然としている。
既に警察にも知らせてあるらしい。
(;´・c_・`)「食事に誘おうと部屋に行ったら、こんな書置きを残していなくなってました……」
テマスの失踪に真っ先に気づいたのは原田。
部屋に残されていた書置きにはミミズがフラダンスを踊っているような字で、こう書かれている。
『さがさないでください てます』
(;ФωФ)「ベタすぎんだろ……漫画じゃないんだから」
(;´・c_・`)「まさかこんなに思い詰めていたとは……」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:27:50.55 ID:eIGX6UAo0
彡⌒ミ
(;-|-)「参ッタナァ……コンナ事ニナルナンテ」
スコット・マクレーン(40)
通算成績 434試 .236 89本 223点 6盗
マクレーンはかつてヴィッパーズとファルコンズで計5年プレーした外国人選手。
現役を引退した現在はファルコンズの駐米スカウトを務めており、今年の新外国人二人を発掘したのも彼である。
テマスとノーネの様子を見るために一昨日から日本に滞在している。
彡⌒ミ
(;-|-)「テマスハ凄ク悩ンデル様子デシタ。一体ドノヨウナ指導ヲ? 」
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:29:59.66 ID:eIGX6UAo0
/ ,' 3「ワシは天秤打法を教えた」
( ´W`)「私は日本刀で素振りをさせた」
(∴゚ з゚ )「僕は『月に向かって打て! 』とアドバイスを……」
(;ФωФ)「あんたら一体テマスをどうしたかったんだよ……」
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:32:41.06 ID:eIGX6UAo0
( ´_ゝ`)「完全に玩具だな」
('A`)「そりゃ逃げたくもなるわ」
(;^ω^)「いくら何でも詰め込みすぎですお……」
(´・c_・`;)(あいつ最近ろくに食べてないんだよなぁ……何処かで倒れてたりしてたらどうしよう)
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:34:33.16 ID:eIGX6UAo0
その頃 ―――――
(ヽ<○><○>)「ココマデクレバ……ダレニモミツカラナイハズ……」
(ヽ<○><○>)「モウイヤダ……シアイ……デタクナイヨ……」
(ヽ<○><○>)「ベースボールナンテ……モウ……」
(ヽ< >< >)「イ……ヤ……」
―――――― ドサッ
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/27(日) 22:36:52.66 ID:eIGX6UAo0
「姉さん大変! 表で人が倒れてる!! 」
「落ち着きなさい。すぐに救急車を呼びましょう」
「……あら? この人って確かファルコンズの……」
【続く】
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