- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:00:53.91 ID:27w6Xg5y0
―――― 東京ヴィッパーズ球団事務所の一室
『関ヶ原、これは一体どういう事だい?』
(;"ゞ)「これにつきましては……そのぅ……」
関ヶ原 輝太(52) 東京ヴィッパーズ元内野手 現GM兼オーナー代行
通算成績 1004試 .251 13本 185点 76盗
『民名と熊田は引退、ダイオードはマイナー契約、杉浦はファルコンズ移籍……どいつもヴィッパーズの時代を作ってきた奴らばかりじゃないか』
『あたしが外国に行ってる間に随分好き勝手やってくれたみたいだねぇ……』
(;"ゞ)「チ、チームの若返りを図る上で、か、彼らは構想外という方針を打ち出したわけでありまして……」
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:01:44.33 ID:27w6Xg5y0
『若返り!?ふざけんじゃないよ!!!』
(;"ゞ)「ひいいぃい!!!?」
『ぽっと出の若造共がこいつらより上だって言うのかい!!?』
(;"ゞ)「あわわわ……」
『それに加えて4番フォックスに5番ビコーズ……いつからヴィッパーズは外国人頼みのチームになっちまった!!』
『選手出身の癖して現場の事やファンの気持ちを何一つわかっちゃいないじゃないか……あんたなんかに任せて失敗だったよ!!』
(;"ゞ)「……」
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:02:22.27 ID:27w6Xg5y0
『さっさと出ておいき。二度とあたしの前に顔を見せるな』
(;"ゞ)「そ、それってまさか……」
『あんたの居場所はもうこの球団には無い。わかったらとっとと失せな!!』
(;"ゞ)「そんなぁ……」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:05:54.52 ID:27w6Xg5y0
@@@
@#_、_@
( ノ`)母者「おい……摘み出しな」
流石 母者(51) 流石コンツェルン社長兼東京ヴィッパーズオーナー
(‡■д■)「承知しやした。姐さ……社長」
(# "ゞ)(畜生……!女にチーム編成の何がわかるってんだ!!)
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:07:30.73 ID:27w6Xg5y0
@@@
@#_、_@
( ノ`)「……今の試合経過は?」
(‡●д●) 「両チーム共に初回のチャンスを生かせず無得点です」
(‡▼д▼)「因みに杉浦の第一打席はセンターオーバーのツーベースだそうです」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「なるほどねぇ……車を出しな。球場に向かうよ」
∬´_ゝ`) 「駄目ですわ。1年ぶりに帰国したのでお仕事が溜まっております」
流石 姉者(27)流石母者専属秘書
@@@
@#_、_@
( ノ`)「そうかい……じゃあテレビで我慢するわ」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:08:28.42 ID:27w6Xg5y0
( ФωФ)優勝請負人のようです 第8話【開幕投手】
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:09:06.74 ID:27w6Xg5y0
(# ^ν^)(この野郎……調子乗りやがって……)
(-_-)(文句を言うのは俺からヒット打ってからにしてくださいよ)
カウント1-1。
顔を真っ赤にして怒りを露にする戎。それに対して平然としている陽木。
これでは勝負は決まっているようなものだ。
( ゚д゚ )『ベテランが1球危ない所に投げられたくらいで怒っちゃいけませんよ』
( ゚д゚ )『生え抜きでは2番目に年長なんですから自覚を持たないと』
(# ^ν^)(……)
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:09:43.81 ID:27w6Xg5y0
第3球は外角へのストレート。
(# ^ν^)「うらぁ!!」
2球目と同じく思い切ったスイング。
だがボールには届かない。
カウント2ストライク。
( ・□・)『空振りーー!追い込まれましたぁ!!』
(# ^ν^)(うぐぐ……)
( ゚д゚ )『完全に翻弄されてますね……これじゃ勝負になりませんよ』
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:10:19.81 ID:27w6Xg5y0
(# ^ν^)(落ち着け落ち着け……これじゃこいつの思う壺だ)
タイムを掛けて打席を外し、マウンドに視線を移す。
陽木は呆れた様な、それでいて蔑む様な表情を浮かべている。
(-_-)(早く済ませろよ……下衆が)
( ^ν^)(自分が高校の連中にどう思われてるかぐらいわかってんだよ……)
( ^ν^)(毎年野球部の同窓会やってるらしいけど一回も誘われた事ねえしな)
( ^ν^)(町でばったり監督に会った時とか露骨に嫌な顔されたし……いや、これ以上は止めよう。悲しくなるから)
- 11 名前:前田きたあああああああああああああああああああああああああ 投稿日:2012/07/31(火) 21:10:50.02 ID:27w6Xg5y0
戎が打席に戻り試合が再開される。
( ><)(チェンジアップです。これで決めましょう)
(-_-)(わかった)
(-_-)(全く落ちぶれたもんだ……シャープな打撃が持ち味だったアンタはどこいっちまったんだよ)
( ^ν^)(とりあえずきっちりミートする事だけを心がけるか……)
セットから第3球が投じられた
内角へのチェンジアップ。
- 12 名前:そらそうなるわな 投稿日:2012/07/31(火) 21:12:16.35 ID:27w6Xg5y0
(; ^ν^)(ぐっ……)
( ・□・)『引っ掛けたーーーー!セカンドへのゴロ!!』
鋭い切れ味。
ジャストミートする事はできない。
ボテボテの当たりがセカンドへ転がっていく。
(# ^ν^)「くそっ……!」
怒りのあまりヘルメットを叩きつける。
後輩の掌でいい様に踊らされてしまった。
(-_-)(あーあ……野球少年の模範となるべきであるプロがそんなんでいいんですかぁ?)
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:13:19.15 ID:27w6Xg5y0
ヘルメットを拾う事すらせず、不貞腐れた表情でベンチに戻る。
(#*`鬼´*)「高志ぃ!!!わりゃあなんならその態度は!!!」
その立ち振る舞いに激怒したのは大下総合コーチ。
胃から汗が出ると形容される程の猛練習を課す鬼軍曹として有名な人だ。
荒巻監督によりキャンプ途中から急遽ファルコンズに招聘され、若手を厳しく鍛え上げている。
(# ^ν^)(うるせえ……あんたに俺の気持ちがわかってたまるかよ……)
大下さんの怒号がベンチに響き渡る。
だが戎はそれに構わずベンチ裏に下がってしまった。
(;'A`)(おいおい……大下さん相手にそんな態度とって大丈夫か……?)
( ФωФ)(後で地獄の素手1000本ノック行き確定だな)
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:14:41.20 ID:27w6Xg5y0
(;゚∀゚)(荒れてんなぁ……まあ、もう俺はあの人の舎弟辞めたから関係ないけどね)
続く打者は6番の長岡。
シュアな打撃と広い守備範囲を誇る外野守備には定評があるが、中々自分の殻を破れず遂に30歳手前まで来てしまった。
それでも荒巻監督は彼を高く評価しており、昨年は我慢強く起用していた。
( ゚∀゚)(今年こそ期待に応えねえとな……もう後が無い)
(-_-)(……)
陽木が投球モーションに入る。
入団年こそ違うが、長岡とは同学年である。
( ゚∀゚)(じっくり見ていこう……)
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:16:37.80 ID:27w6Xg5y0
第1球は内角高めを突くストレート。
僅かに外れてボール。
スピードガンは143キロを計測している。
( ゚∀゚)(こいつも昔は速球派だったのにな……すっかりモデルチェンジしちまって)
(-_-)(……)
陽木とは2軍時代から幾度となく対戦してきた。
デビュー当時の彼はMAX150キロの速球をグイグイ投げ込む速球派投手だった。
現在は球界有数の技巧派投手と化し、その面影は見られない。
( ><)(外のカーブでいきましょう)
(-_-)(了解)
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:18:50.56 ID:27w6Xg5y0
(;゚∀゚)(……っと!)
外角のカーブに思わず手が出てしまう。
タイミングが合わず空振りとなってカウント1−1。
(;゚∀゚)(すげえなぁ。スライダー、カーブ、チェンジアップ……どれも一級品だ)
(-_-)(次で追い込む。……それにしてもわからんもんだな)
サイン交換を終えてセットポジションに入る。
陽木自身もまた思い出していた。
躍動感溢れるフォームから荒々しい投球を見せていた若き日の自分を。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:19:27.28 ID:27w6Xg5y0
―――― 7年前
名門校から社会人を経て飛び込んだプロ野球の世界。
2軍で上々の結果を出して臨んだ一軍初のマウンド。
自信はあった。むしろ自信しかなかった。
(;-_-)(ちくしょう……なんでなんだよ)
だがその自信はすぐさま打ち砕かれた。
初回から制球が定まらず四球を連発。
おまけに暴投も重なっていきなりワンアウト23塁のピンチを招いてしまった。
【゚d_b゚】
そして打席には対戦相手である名古屋ドラゴンズ不動の4番を当時務めていた主砲、タイロン・ウッズ。
この年を含めて三度本塁打王に輝いた球史に残る大砲である。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:20:02.79 ID:27w6Xg5y0
(;-_-)(……)
足がすくみ、体全体が震える。
NPB史上最強クラスの助っ人が醸し出す威圧感に完全に呑まれてしまっていた。
そんな彼の気も知らず、捕手の熊田が出したサインは内角高め。
(・(エ)・)(ここはウッズの一番苦手なコース……上手くいけばホームゲッツーも狙えるクマ)
(;-_-)(内角……高め……)
首を縦には振れない。
今でこそ球界トップレベルの制球力だが、当時の陽木はかなりのノーコンだった。
(;-_-)(勘弁して下さいよ……そんな事したら……)
要求通りに投げる→手元が狂って死球→ウッズ激昂→両軍入り乱れての乱闘。
そんな最悪の方程式が脳内に浮かぶ。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:20:34.22 ID:27w6Xg5y0
(;-_-)(駄目です……俺には投げられません……)
(;・(エ)・)(おいおい怖がってちゃ野球にならないクマ)
押し問答を繰り返す。
一向にサインが決まらない。
打席上のウッズも遂に痺れを切らし、熊田に聞こえる様にドスの聞いた日本語で呟く。
【#゚d_b゚】「ハヤク……シテクレナイカ?」
(;・(エ)・)(ひいい……首根っこ掴まれてブン投げられるクマ……)
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:21:11.30 ID:27w6Xg5y0
ウッズが怖いのは熊田も同じだ。
しかし勝負には変えられない。
結局サインが変えられる事はなかった。
(;-_-)(うう……)
(;・(エ)・)(ごめんクマ……でもこれに耐えられなかったら君はプロの世界で生きていけないクマ)
神様お願いします。どうか当たりません様に、あわよくば抑えられます様に ―――― 。
そう強く念じてセットから1球目を投じた。
【゚d_b゚】(……oh)
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:21:44.00 ID:27w6Xg5y0
だが野球の女神は弱気な男に微笑む様な事はしない。
握りが若干甘くなり、ボールは真ん中に寄った。
【゚d_b゚】(絶好球ネ……!)
あっさりと捉えられた打球は一瞬で東京ドームの看板に直撃。
外野が一歩も動かない程に強烈な打球だった。
( _ )「……」
打球が当たった看板を見つめたまま動けない。
呆然とマウンド上に立ち尽くす他なかった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:22:16.57 ID:27w6Xg5y0
続く5番の福留にも被弾。
そして6番のアレックスにも二塁打を打たれ、堪らずベンチは投手の交代を告げた。
( _ )
タオルに顔を埋めて項垂れる。
誰も声を掛けようとはしない。
悔しさと情けなさが入り混じってどうしようもない状態になった。
( _ )(直球の走りは悪くなかったのに……どうしてなんだ……)
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:22:48.68 ID:27w6Xg5y0
どれくらいの時間が経っただろうか。
とりあえず一回の表が終わった事だけはわかった。
――― おい新人、顔上げろ。
(;-_-)「……?」
耳元で自分を呼ぶ声がする。
言われるままに顔を上げた。
( ФωФ)「なんだ……思ったより元気そうじゃねえか」
隣に腰掛ける声の主はチームの大先輩。
圧倒的な打棒で不動の4番に君臨する前年のリーグ三冠王。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:23:18.87 ID:27w6Xg5y0
( ФωФ)「今どんな気分だ?」
(;-_-)(なんだこの人……良い気分なわけねえだろ)
(-_-)「その……悔しい気持ちで一杯です……」
( ФωФ)「そうか……そうだろうな」
そう呟くと黙りこくってしまった。
何なんだこの人は。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:23:49.65 ID:27w6Xg5y0
暫くして再び口を開く。
( ФωФ)「今日はこういう結果になったが……むしろお前にとって良かったかもしれんぞ」
(;-_-)「……え?」
( ФωФ)「プロ初登板がこのザマだ。正直トラウマもんだろ」
(;-_-)「それは……そうですけど……」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:24:21.22 ID:27w6Xg5y0
( ФωФ)「悪い意味で一生忘れられない試合になった筈だ」
(;-_-)「あの……つまりどういう事なんですか」
( ФωФ)「それはな……」
――――― ワアアアアアアァァァア!!!
( ・□・)『打ちましたーーーー!! 3番小津、技ありの一打ーー!!』
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:26:22.09 ID:27w6Xg5y0
(;-_-)「あの……打席回って来ましたよ……」
( ФωФ)「そうだな……いいか、目ぇ離さず俺の姿をしっかり見てろ。」
(;-_-)「はぁ……」
そう言い残して席を立ち、グラウンドへ向かった。
結局何が言いたいのか解らない。
(;-_-)(しっかり見てろって言われたし……一応言われた通りにしておくか)
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:27:52.11 ID:27w6Xg5y0
場面はワンアウト13塁。
立ち上がりが悪いのは向こうも同様らしい。
『4番ファースト、杉浦。背番号9』
―――― ウオオオオオオオオオオ!!!!
( ФωФ)(……)
場内アナウンスに呼応してライトスタンドが沸く。
スタンドの観客達は一様にスタンディングオーベーション。
熱い声援を背に受けて4番・杉浦が打席に立つ。
(;-_-)(すげえ歓声だ……これがプロの4番……現役最高クラスの打者に対する声援……)
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:30:04.04 ID:27w6Xg5y0
(; ゚ー´ )(あーあ……嫌だなこの雰囲気)
マウンド上にはドラゴンズ不動のエース・川上。
額には早くも大粒の汗が浮かんでいる。
( ФωФ)(さあ来い……)
( ゚ー´ )(だが……逃げるわけにはいかんな)
エースvs4番。
初回にも関わらずドームのボルテージは最高潮に達している。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:32:57.13 ID:27w6Xg5y0
(# ゚ー´ )(泣いてもらうぜ三冠王!!)
三冠王が相手といえど怯む訳にはいかない。
川上がセットから第1球を投じる。
(;-_-)「あっ……!」
思わず声が漏れる。
初球からいきなり仕掛けてきた。
川上の決め球・カットボールが内角を抉る。
( ФωФ)(初球から来たか……!)
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:35:07.42 ID:27w6Xg5y0
(#ФωФ)(だが……狙い通りだ!!)
( ・□・)『初球打ったああああぁあーーーーーーー!!!』
フルスイングで弾き返す。
杉浦の代名詞である強烈なライナー性の打球が上空を駆けてゆく。
(;-_-)(す、すげえ……)
思わず息を呑む。凄いという言葉以外出て来ない。
歓喜と悲鳴の渦を切り裂き、打球はライト中段へと突き刺さった。
( ・□・)『杉浦値千金!2試合連続!一点差に迫る3ランホームラーーーン!!!』
―――― ウワアアアアアアアアアアアア!!!
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:38:12.09 ID:27w6Xg5y0
( ФωФ)
バットを高々と放り投げる。
打球が飛び込んだ方向を一瞥し、表情は一切変えない。
無表情でダイヤモンドを一周する。
(; ゚ー´ )(……)
ライトスタンドは狂喜乱舞。
マウンド上で立ち尽くす川上を横目にホームを踏む。
ベンチが一気に活気づいた。
ノノ*´⊇`)「杉浦さんナイスバッティーーン!!」
( `皿´)「ほらほら陽木!ぼさっとすんな、出迎えだ出迎え!!」
(;-_-)「は、はい!」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:40:05.22 ID:27w6Xg5y0
(;-_-)「ナ、ナイスバッティングです!」
( ФωФ)「おう!」
ベンチに戻ってきた杉浦としっかりハイタッチを交わす。
申し訳なさと嬉しさが入り混じった様な微妙な気分だ。
( ФωФ)「打ったのは内角のカットボール。初球から積極的に行こうと思ったのがいい形になりましたね」
ベンチに腰掛け、タオルで汗を拭う。
饒舌な口調で球団広報にホームラン談話を語る。
広報が談話を伝えに記者室に向かうと同時に顔をこちらに向けた。
( ФωФ)「どうだ陽木、ちゃんと見たか?」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:42:46.20 ID:27w6Xg5y0
(;-_-)「はい!凄い当たりでした!」
( ФωФ)「ありがとうな。それじゃさっきの話の続きといこう」
( ФωФ)「今日お前が味わった悔しさと屈辱……それは間違いなくお前にとって最高の財産になる」
(;-_-)「え……?」
( ФωФ)「考えてみろ。アウトはたった1個で4失点、防御率120.00……正にどん底って奴だ」
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:45:01.80 ID:27w6Xg5y0
(-_-)「そうですよね……」
(;ФωФ)「そんな顔すんなよ……つまり俺が言いたいのはプラス思考になれって事だ!」
(;-_-)「プラス思考?」
( ФωФ)「お前はまだ若い。この先何度も登板機会があるはずだ」
( ФωФ)「いくら成績が悪くても今の防御率を下回ることは無い……そう考えたら大分楽になるだろ?」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:46:40.49 ID:27w6Xg5y0
(-_-)「言われてみれば……そうかもしれませんね」
( ФωФ)「そうだろ?それに今日の試合はお前に負けは付かないしな」
(;-_-)「……?」
( ФωФ)「俺が打って消す。ただそれだけの事だ」
そう言って、ポンと背中を叩く。
席を立っておもむろにベンチの最前列に移動した。
(#ФωФ)「ほらほら、ちゃんとボール見ていけよ清水!」
ベンチ中に響き渡る大声で味方を鼓舞する。
チームリーダーと称されるに相応しい姿だ。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:48:19.92 ID:27w6Xg5y0
(-_-)「杉浦さん……」
結局この試合は10-6でヴィッパーズが勝利を収めた。
相手も必死に食らいついたが、杉浦の2本塁打7打点の活躍が決定打となった。
[;ー。ー]ガキッ
( ・□・)『打ち上げた!ファーストへのフライ!』
( ФωФ)「……よっと!」パシッ
( ・□・)『杉浦ががっちり取ってスリーアウト!試合終了ーーーー!!』
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:50:41.83 ID:27w6Xg5y0
眩いカメラのフラッシュを浴びてヒーローインタビューを受ける。
球界の生けるレジェンドの風格がそこにはあった。
(-回ε回-)『まずは初回のあの場面、どの様な気持ちで打席に入りましたか?』
( ФωФ)『初球から積極的にいこうと思いました。いい結果になって良かったです』
――――
(-_-)「……」
ノノ´⊇`)「あれ?帰らないのか陽木」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:54:27.05 ID:27w6Xg5y0
(-_-)「杉浦さんに話があるから残る様に言われてるんです」
ノノ´⊇`)「そうか……お前ラッキーだな」
(;-_-)「……え?」
ノノ´⊇`)「杉浦さんに目をかけられた奴は伸びる。現に俺もその一人だ」
ノノ´⊇`)「この経験無駄にすんなよ!それじゃあな」
(;-_-)「は、はい……」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:56:24.64 ID:27w6Xg5y0
(-回ε回-)『それでは最後に杉浦選手、今日球場に来て下さったファンの皆さんにメッセージをお願いします!』
( ФωФ)『一戦一戦死に物狂いで戦っていきますので、応援宜しくお願いします!!』
――――― ワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
一際大きな歓声が巻き起こった。
まさしく本物のプロの姿である。
( ФωФ)「わざわざ残ってもらってすまんな陽木」
(-_-)「いえいえ。それで、話って何ですか?」
( ФωФ)「これを渡そうと思ってな」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 21:58:20.59 ID:27w6Xg5y0
そう言って杉浦が差し出したのはウイニングボール。
(;-_-)「これって今日の……あんなピッチングじゃ受け取れませんよ!」
( ФωФ)「いいからとっとけ!!」
( ФωФ)「これからお前は何年もプロで投げ続ける事になる。そうなりゃ驕りや慢心が出てしまう時もあるだろう」
(-_-)「……」
( ФωФ)「自分が慢心していると感じた時……そのボールを手に取って見てみるんだ」
( ФωФ)「今日味わった悔しさや自分への怒りが必ず蘇るはずだ。このボールにはそれが凝縮されてる」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:01:14.13 ID:27w6Xg5y0
( ФωФ)「お前にとってこの1敗はどんな1勝よりも価値ある物だと俺は思っている」
( ФωФ)「言いたい事は全て伝えた。それじゃ、又な」
(;-_-)「あ、杉浦さ……行っちまった」
押し付ける様にボールを渡すと、杉浦はベンチ裏に引き揚げていった。
快勝に沸くライトスタンドから選手別の応援歌メドレーが高らかに鳴り響く中、一人寂しくベンチに佇む。
(;-_-)「……あれ?なんか書いてあるぞ」
渡されたボールにはマジックペンでこう書き込まれていた。
「乗り越えた壁は、やがて自分を守る盾となる」
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:04:17.37 ID:27w6Xg5y0
(-_-)「杉浦さん……」
(-_-)(俺は未熟だ……甘い、本当に甘い)
己の甘さと弱さを痛感し、大先輩の背中の大きさを知った瞬間だった。
その後、監督に直訴して2軍降格。
(;-_-)(今のスタイルじゃ駄目だ……変わらないと……)
初めて白球に触れた時から追い求めてきた理想のストレートを捨て、来る日も来る日も制球と変化球を磨き続けた。
全てはプロの世界で生き残る為。
(;Ο゚ぺΟ)「おいおい陽木……もう12時を回ったぞ」
(;-_-)「もう少しだけ練習付き合って下さい!あと少しでカーブがモノにできそうなんです!!」
翌年、努力の甲斐あって9勝をマーク。
そして今や球界を代表する実力派左腕へと登りつめた。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:06:08.61 ID:27w6Xg5y0
―――
(-_-)(あれから7年……俺ももう29か)
(-_-)(あの日の悔しさは今でも忘れてませんよ杉浦さん)
( ・□・)『陽木セットから第2球を投げた!』
第2球はチェンジアップ。
勢いよく振りぬくも通用せず空振り。
(;゚∀゚)(くそっ……タイミングが会わねえよ……)
(-_-)(さあ……これで終わりだ!)
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:08:20.79 ID:27w6Xg5y0
(#゚∀゚)「ぐっ!」
長岡も必死に食らいついていったが、陽木の変化球には通じない。
フルスイングも実らず空振り三振。
( ・□・)『空振り三振ーーーーー!!付け入る隙を全く見せませんでした陽木!!』
( ゚д゚ )『非常に素晴らしいです。しかし若干飛ばしすぎですよ……ペース配分考えないと』
(;゚∀゚)(去年も凄かったけど今年はその比じゃねえ……こんな投手から点取れんのかな……)
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:10:44.51 ID:27w6Xg5y0
続くテマスもあっさり三振に倒れ三者凡退。
陽木の快投にライトスタンドのヴィッパーズファンが酔いしれる。
(;<●><●>)スカッ
( ・□・)『三球三振ーーー!テマス、全くタイミングがあっていません!』
( ゚д゚ )『バットとボールの間が50cmは離れてますね。』
(-_-)(てめえら相手に手こずってる様じゃ俺は上の投手にはなれねえんだよ……!)
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:12:21.21 ID:27w6Xg5y0
( ∵)「……」
回は代わってヴィッパーズの攻撃。
打席に向かうは昨年までファルコンズの4番を打っていたビコーズ。
丸太のように太い両腕に刻まれたタトゥーが彼の威圧感を更に大きな物にしている。
( ・□・)『さあバッターは新加入の5番・ビコーズ!古巣相手にどの様なバッティングを見せるか!』
(;´∀`)(なんて凄いオーラだモナ……敵に回して初めてこいつの怖さがわかった気がするモナ……)
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(茂名、ビビッタラ負ケダヨ)
ビコーズの代名詞とも言えるのが、打席で構える際に背中を後方に反る独特の構え。
日本中の野球少年達が挙って真似をしている。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:14:08.54 ID:27w6Xg5y0
( ´∀`)(まずはスライダーで空振りを取ろうモナ)
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(オーケイ)
サインの交換を終える。
セットポジションから第1球。
( ∵)「……!」
真ん中高めのスライダーをフルスイング。
バットが茂名の頭に直撃しそうになるほどの激しいスイングだった。
(;´∀`)(おいおい殺す気か……)
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:16:33.24 ID:27w6Xg5y0
第2球は外角のチェンジアップ。
同じようなスイングで空振り。
( ´∀`)(よし、追い込んだモナ!)
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(オカシイ……)
カウントノーボールツーストライク。
圧倒的に投手有利のカウント。
だがマウンド上のマリントンは妙な違和感を感じていた。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(ビコーズハコンナ粗い打撃ヲスル選手ジャナイト思ウンダガ……)
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:18:40.52 ID:27w6Xg5y0
マイナー時代、幾度と無くビコーズと対戦した。
1年間のみではあるが同じチームでプレイもした。
自分で言うのも何だがビコーズの事はそれなりに分かっているつもりである。
( ∵)「……」
ビコーズの表情は変わらない。まるで人形の様に。
その立ち振る舞いがマリントンの不安を一層大きな物にする。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(確カニ彼ノ持チ味ハ圧倒的ナパワー……)
だが決して一発以外狙わない様な粗い打撃はしない。
状況に応じて剛と柔を使い分けた打撃をする。
アレックス・ビコーズとはそういう打者だ。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:20:01.90 ID:27w6Xg5y0
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(何カ狙ッテル……ノカ!?)
( ∵)「……」
駄目だわからない。
正直こいつの思考を理解できた事など一度も無い。
それどころか笑顔すら見たことがない。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(イヤ、余計ナ事ヲ考エルノハ止メヨウ)
サインが決まる。
セットから第3球を投じた。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:22:38.01 ID:27w6Xg5y0
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(僕ガヤルベキ仕事ハタダ一ツダケ……チームノ勝利ノ為ニ精一杯投ゲル事!!)
球種は外角低めのツーシーム。
普通の打者なら手が出ないコース。
( ∵)「……!」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:24:08.37 ID:27w6Xg5y0
だがそこは12球団屈指の長打力を持つビコーズ。
難しいコースではあるが難なくすくい上げる。
( ・□・)『打ったあああああああーーーーーーー!!レフト方向へーーーーーーーーーーーー!!!』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……!」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:26:04.25 ID:27w6Xg5y0
( ・□・)『レフトバック!レフトバック!打球が伸びる!!』
大飛球が舞い上がる。バットが高々と放り投げられた。
打った本人は打球の方向を一瞥し、歩く様に一塁へ向かう。
( ・□・)『レフトの戎追うのを止めたぁーーーーーー! ビコーズの先制ホーーーームラーーーーン!!!』
お祭り騒ぎのライトスタンドが煩わしい。
打球が飛び込んだ所を見つめ、唇を真一文字に結ぶ。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(考エスギダッタ……最初カラ一発シカ狙ッテナカッタンダ……)
絶対に渡したくなかった、渡す事は許されなかった先制点。
呆気なく渡してしまった自分に強い憤りを感じる。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:28:11.54 ID:27w6Xg5y0
(;ФωФ)(あれを打たれちゃしょうがない……切り替えていけよマリントン……)
( ∵)ボソッ
(# ФωФ)「……!」
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:30:14.96 ID:27w6Xg5y0
すれ違いざまにビコーズが何やら囁いてきた。
本人は英語だから解らないとでも思ったのだろう。
だが残念ながら俺はある程度英語は理解できる。
(# ФωФ)(ようやく本当の野球が出来る。あんたも糞みたいなチームに入っちまったな同情するよ……だと!?)
(# ФωФ)(ばっちり聞こえてんだよこの野郎……!)
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:32:13.38 ID:27w6Xg5y0
( ・□・)『さあ続いての打者は6番根野!ヴィッパーズのホットコーナーを守って早4年!!』
( `ー´)(本当にすげえ一発だった……間違いなくがっくり来てんだろうな)
続くバッターはサードの根野。
打順こそ6番に甘んじているが、他球団なら充分クリーンアップが打てる打者だ。
( ゚д゚ )『彼の素晴らしい所はなんといっても身体能力ですね』
( ゚д゚ )『打球反応に関しては天性の物を持ってますし、体のバネも日本人離れしています。』
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:34:30.85 ID:27w6Xg5y0
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ(ナントシテモ1点で終ワラセナイト……)
マウンド上のマリントンが大きく息を吐く。
サイン確認をするその表情はとても強張った物だ。
( `ー´)(なんせホームラン食らった直後だ……是が非でもストライクが欲しい所だろう)
( `ー´)(恐らくストレートで来るはず。それを思い切り叩く!)
サインが決まりセットに入る。
腕を大きく振って第1球。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:36:24.52 ID:27w6Xg5y0
ストレートが若干内角によった.
根野の読み通り。
(#`ー´)(……いただき!)
待ってましたとばかりにフルスイング。
鋭いライナーが内野を駆ける。
( ・□・)『初球弾き返したぁーーーーーー!!12塁間抜けるーーーー!!』
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:38:27.86 ID:27w6Xg5y0
(# ФωФ)「うらぁ!!」
(;・□・)『い、いや抜けないいいい!!?杉浦がと、取ったあーーーーー!! 』
(;`ー´)「は!?」
――― ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:44:23.80 ID:27w6Xg5y0
抜けていればライトオーバーの当たり。
一か八のタイミングではあったが打球はなんとかグラブへ収まった。
(;'A`)「す、杉浦さん!?」
(;´_ゝ`)「……大丈夫ですか?」
青い顔をする後輩達を余所に体を起こした。
(;ФωФ)「あ、ああ……大丈夫だ。心配ない」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/07/31(火) 22:49:05.57 ID:27w6Xg5y0
(# ФωФ)「いいかお前ら!今日死んでも勝つぞ!!」
――― はいっ!!
【続く】
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