- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 21:59:32.54 ID:bWJtz1Ta0
- 人物紹介
( ><) ビロード 主人公、18歳の子供っぽい青年
田舎から上京してきた。202号室住人
从 ゚∀从 ハインリッヒ ××歳の女性 管理人代理
甘いものとお酒が大好きな独身女。少しだけ、変えられない未来が見える。101号室住人
('A`) ドクオ 22歳男
うだつのあがらないフリーター。モララーが嫌い。102号室住人
( ・∀・) モララー 28歳男
全体的に謎の多い男。ドS。103号室住人
川 ゚ -゚) クー ××歳
人と関わるのが苦手。霊に愛される自覚の無い霊媒体質。203号室住人
( <●><●>) ワカッテマス 28歳男
ビロードの兄、故郷で医者をやっている。久々に弟に会いに来た
lw´‐ _‐ノv 米神シュー
ビロードの大学の先輩、不思議サークル所属。米神神社の巫女さん
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:00:43.23 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「良いかいビロ坊、これが銀杏の木だぞ」
( ><)
lw´‐ _‐ノv「これは紅葉だ」
( ><)
lw´‐ _‐ノv「これは昨日見つけた蟻の巣、ほら、砂糖の山がある」
( ><)
lw´‐ _‐ノv「で、これが……」
( ><)「あの、シュー先輩」
lw´‐ _‐ノv「なにかね?」
( ><)「自然も大切だと思うんですけど、今は神社を案内して欲しいんです……」
lw´‐ _‐ノv
( ><)
lw;´‐ _‐ノv「そ、そうだったの!?」
(;><)「驚かれた!!」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:01:27.32 ID:bWJtz1Ta0
〜( ><)はVIP荘に住むようです〜
第十ニ話 米神神社のこめがみ様 〜ぶらりアパート湯けむり旅情B〜
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:04:17.80 ID:bWJtz1Ta0
ちょっとはにかんだような笑顔で照れながら頭をかく先輩を見て、僕は顔を顰めた
迂闊でした、そう、僕は忘れていたんです
シュー先輩がちょっと変わっている人だということを
神社からちょっと離れた森に入った時点で「あれ、おかしいな」、とは思ったけれど
皆誰も何も言わないからついそのままくっついていってしまった
今や僕達は神社じゃなくて、神社の裏手にある森の中を闇雲に歩いているだけの状態なんです
どうして神社に来てこんな森林に入るんですか
前の方では、こういう神社の周りにある森のことを鎮守の森というのだと、お兄ちゃんが話していた
もうすぐ秋が近いので、銀杏や紅葉はそれは色鮮やかにその身を変えてはいるけれど、まだまだ紅葉狩りには遠い
僕はのほほんと前を歩く巫女さんに言った
( ><)「シュー先輩……」
lw´‐ _‐ノv「いや、なぁんだ、そうならそうって言ってくれよ〜、もう自然観光ツアー練っちゃったよ」
(;><)「どうしてあの流れで自然観光ツアーを……」
どう考えても神社を案内する流れだったのに
あの「おみくじ?」とか聞いたのはなんだったんですか!おみくじさせろなんです!!
シュー先輩は僕に近付くと、目の前でにまりと笑いながら言葉を続けた
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:05:44.68 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「いいかいビロ坊、最近都会の人間はコンクリートジャングルのせいで心が荒んでいる
ここらでいっちょ森林浴させてやろうという先輩の心遣いが、君はわからないのかね?ん?」
(;><)「ありがとうございます。……でもそれはまた別の機会にしますよ!」
lw´‐ _‐ノv「えっ、でも……皆楽しそうよ」
(><;)「えっ?」
\(*・∀・)/「いやー、いいよいいよ、森林……、まるで心が洗われるようだ!」
('A`)「あんたに洗える心があったんですか?」
( ・∀・)「やぁ、これは首をつるのに丁度よさそうな木だね。こいよ」
(;'A`)「何する気だ!」
从 ゚∀从「ハハッ、まっ、こういうのも、たまにはいいんじゃねーの」
从*-∀从「……森林浴デートもさ」
(;><)(デート?)
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:06:50.22 ID:bWJtz1Ta0
川 ゚ -゚)「私も、自然は好きだぞ、山菜とか採れるしそれに」
〜゚ 〜゜ 〜゚
ヾ川д川川 ゚ -゚)「なんか落ち着くしな」
(;'A`)(後ろに沢山憑いてる……)
( <●><●>)=3「こういうところは、慣れているからかやはりいいですね」
(;><)「………………」
lw´‐ _‐ノvb「なっ?」
まさかの森林浴大好評?
森林浴といっても、そんな大きな森じゃないし、僕は田舎が結構自然に囲まれていたところだったので
あまり珍しくもないんですけど
ずっと都会に住んでいたモララーさんやハインさん、家からあまり出ないドクオさんやクーさんには
こういったところが新鮮なのかもしれない
お兄ちゃんはお兄ちゃんで、診療所が木々に囲まれているから、落ち着くんだろうとは思う
( ><)「……わ、わかりましたよ」
まあ、もしかしたら皆それとは別の思いがあるのかもしれないけど
クーさんなんかは、他の幽霊が集まってきて、それを貞子さんがおっぱらっているのが見える
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:08:30.55 ID:bWJtz1Ta0
〜゚ 〜゚
ヾ川д川ノシ 川 ゚ -゚)
(;><)
……なんで、そんなに幽霊がいるのかわかんないんですけど、こういう森って集まりやすいんですかね?
最近幽霊が見えることが普通になってきた僕には、なんだかこの光景が異常なのか正常なのかもわからなくなってきた気がする
諦めにも似た思いで、がっくりとうな垂れ、言葉を続けた
(;><)「あぁ……もう自然観光ツアーでいいんです、でも、あとでおみくじさせて下さいね」
lw´‐ _‐ノv「ビロ坊おみくじ好きだな」
( ><)「僕は俗物なので、噂には弱いんです」
lw´‐ _‐ノv「このオミクジニストめ」
(;><)「変な造語を作らないで下さい」
大体、よく当たるおみくじなら、やってみたいって思うのが人間なんですよ
先輩の胡散臭い占いは別として
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:09:46.36 ID:bWJtz1Ta0
*
ところでシュー先輩は巫女服のまま森に入っているけど、巫女さんの仕事とかないんだろうか?
さっき掃除を放り出してたみたいだし、それに、その姿だと随分歩きづらそうだ
そういうことをひっくるめて先輩に聞くと、割とあっけらかんとした返事が返ってきた
lw´‐ _‐ノv「あれは別に仕事じゃなくてただの趣味、それと、この服でいつも歩き回っているから平気YO」
(;><)「そ、そうですか」
趣味だったんですね
どうりで裾がちょっとボロボロになっているわけだ
赤い袴が所々ほつれていることに、これで合点がいった
あまり関係のないことだけど、もうちょっと服は大事にした方がいと思うんです
ドクオさんが勿体無さそうな、物欲しそうな顔で見つめているのを見て、僕はぼんやりと考えた
lw´‐ _‐ノv「さて、皆様、どこ行きたい? 鳥の巣でも見に行くー?」
そこで一度、先頭を歩くシューさんが、アパートの皆に向かって聞いた
ここに来る途中に自己紹介は済ませたとはいえ、かなり軽いノリだ
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:12:03.15 ID:bWJtz1Ta0
そういえばこの人、サラリーマンを追いかけて待ち合わせに1時間くらい遅刻したこともあったっけ
しかもその後サラリーマンと普通に話して、シュークリームも分けて貰っていた
年上と喋るのは案外得意で、社交的な人なのかもしれない
……その内容は別として
( ><)「鳥の巣ってシュー先輩……、子供じゃないんですかr」
( ・∀・)「わーい鳥の巣ーー!」
从'ー'从「わーーい!」
('A`)「わーい」
川*゚ -゚)「わ、わーい……」
(;><)「えぇえぇえええ! なんですかそのテンション……? 僕ですか? 僕がおかしいんですか!?」
鳥の巣なんてどこにでもあるのに!
なんですかこのテンションの高さは
楽しそうな皆にそう発言すると、お兄ちゃんが僕の肩を軽く叩いた
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:13:59.64 ID:bWJtz1Ta0
( <●><●>)「ビロード」
(;><)「? は、はい? なんですかお兄ちゃん」
( <●><●>)「空気を読みなさい」
( ><)
( ><)「あ、はい……すみません」
そんな真面目な顔して言わなくても……
確かに僕はちょっと空気が読めてなかったかもしれないけど、そんな
そんな面と向かって言われるとショックなんです……
( <●><●>)「ふふっ、変わってませんね、そういうところ」
それは昔から僕が空気読めてないってことですかお兄ちゃん
いくらお兄ちゃんといえども、戦争はできるんですよ
\(#><)/「もー! なんですか、お兄ちゃんのバカなんですー!」
( <●><●>)「ふふふ、空気はからけではなくくうきと読むんですよ」
(#><)「知ってますよ! もー!」
('A`)「ビロード、俺たち先行くね」
( ><)「あ、ちょっ」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:15:28.85 ID:bWJtz1Ta0
そうこうしているうちに、シューさんたちは先に行ってしまった
これが、田舎育ちと都会育ちの越えられない壁って奴でしょうか
(;><)「ちょっと、ま、まってくださいー!」
( ・∀・)「ははは!捕まえてごらんなさーい!」
(;><)「カップルか! なんで全力疾走!?」
(;'A`)「楽しそうだな……」
〜゚
д川ノシ川*゚ -゚)(いいなぁ……)
( <●><●>)「ビロード、あんなに楽しそうに……! お兄ちゃんだってインテリですが走れるんですよ」
从*'ー'从「ワ、ワ、ワカ、ワカッテマスさん、私たちも……」
(;><)「皆結構ドライ!これが田舎と都会の人間との差ってやつですか!?」
lw´‐ _‐ノv「ハッハッハ、君たち楽しそうだな、私の考えたツアーがそんなによかったか!」
(;><)「んもう先輩は目ぇ移植しろ!」
ガーン
lw;´‐ _‐ノv そ
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:27:22.08 ID:bWJtz1Ta0
そんなやり取りもほどほどに、僕達は森の中を探検していく
と、言っても、先刻いっていたようにそんなに大きな森ではないから、シュー先輩の後をついていきながら
森の中を歩けば、すぐに周りきってしまうような規模だ
だけど鳥の巣を見に行ったり、クーさんの希望で森の幸(山菜)を頂いたり
無駄に木に登らされたりとか小さな物事に時間をかけているうちに、太陽はどんどん動いて行った
( ・∀・)「おい蛾だ!! 大きな蛾だ!蛾がいるぜ!」
(;'A`)「うわぁ……グロい」
从;'ー'从「キャー!ワカッテマス、さん、怖い〜」
( ・∀・)「アハハハ! 普段ゴキブリを叩き潰す女性が何をいってもたわごとにしか聞こえないたたたたたたた」
从 ゚∀从「聞こえなかった、お前は何も言わなかった、な?」
(;・×・) コク
川 ゚ -゚)「この花……持っていこうかな、ダメかな……でも可愛い」
lw´‐ _‐ノv「それは毒があるからダメよう」
川 ゚ -゚)、「そうか……」
(;><)
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:28:31.71 ID:bWJtz1Ta0
数時間後、皆、未だに飽きる気配はない
(;><)「ていうか、皆さんどんだけ森で遊べば気が済むんですか!?」
( <●><●>)「いいじゃないですかビロード、私は楽しいですよ」
( ><)「お兄ちゃんもせっかく都会に来たのに、いいんですか?」
( <●><●>)+「都会の人間が無邪気に森で遊ぶ姿を見ているのが楽しいです、帰ったら友人皆に見せます」
そういって笑うお兄ちゃんの手には、いつの間にかデジカメが握られていた
(;・∀・)「あっ、お前いつの間に」
( <●><●>)「フフフ、お借りしました。このデジカメで皆さんのはしゃぎまくりな写真はバッチリですよ」
(;><)(か、隠し撮り!?)
(;><)「変な奴は消してくださいね……」
( <●><●>)「お断りします。っていうか」
( <●><●>)+「私が大事な弟の写真を消すはずがないでしょう!」
(;><)「お兄ちゃん、ちょっと気持ち悪い!」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:31:29.27 ID:bWJtz1Ta0
( <○><○>)「気持ち悪いって言われた……。都会に染まってしまったんですねビロード……」
(;><)「なんでそんないきなりメンタル弱いんですか!」
从 ∀从(ああああ!もっとポーズつけとくんだった! 変な顔してたらどうしよう!)
川*゚ -゚)v
( <●><●>)「……いえ、今は撮ってませんよ」
川;゚ -゚) そ
lw´‐ _‐ノv「皆バカだなぁ、私なんてホラ、常にピースしているみたいに見えるから問題ないぞーお!」
( ><)「それはある意味問題ですよ」
lw´‐ _‐ノv「マジでか……ショック……」
('A`)「まあ、その辺は置いといて、ビロードの言う通りそろそろ神社に戻ろうぜ、もう2時間くらいたつだろ」
その時、メンバーの中でついにドクオさんが戻ることを提案してくれた
いい加減飽きたのか、それとも体力の限界が来たのかは解らないが、その案には僕も賛成だった
せっかく遊びに来たんだから、もうちょっと都会っぽい店を回りたいって気持ちもある
僕らの故郷には、娯楽といえるような店が殆どなかったから、そういう店も周ってみたい
ここぞとばかりに手を上げた
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:35:10.38 ID:bWJtz1Ta0
( ><)ノ「そうですよ、もう戻りましょうなんです」
( ・∀・)「んー、まぁ確かにもう見るところもないかもしれないなあ、神社戻る?」
从'ー'从「ワカッテマスさんと一緒に洋服でもみたいし、そろそろ戻ろうか〜」
(*><)「はいなんです!」
ようやく、この森林観光もおしまいだ
嫌なわけじゃないけど、もっと色んなところを見たいんです
しかし、全員が戻る道を辿ろうとしたところで、クーさんがあらぬ方向を指差して言った
川 ゚ -゚)「……? なあ、あれはなんだ?」
( ><)「え?」
クーさんが指し示した先を見てみると、そこには小さな祠があった
鬱蒼と生い茂る木の中にその身を隠すように、ひっそりと佇んでいる
( ><)「あれは……」
朱塗りの祠は、色的には目立ちそうなものなのに、その様相は所々錆びたように傷ついていて
注意して見なければわからないような位置に置いてあった
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:36:48.94 ID:bWJtz1Ta0
普通、祠は道の途中や、神社の近くの見えるところにあったりするものだと思っていた僕は
そんな隠れる位置にあったということに、少なからず驚いた
( ><)「シュー先輩、あれは祠ですか?」
lw´‐ _‐ノv「……ああ、うん、祠だの」
( ><)「なんであんなところに?」
lw´‐ _‐ノv「…………あそこには、こめがみさまが祀られているからさ」
( ><)「こめがみさま?」
lw´‐ _‐ノv「ん」
もしかしたら、この神社のご神体のようなものなのかもしれない
米神、というのが先輩の苗字なのは知っていたけど、それがご神体にまでなっているとなると、ちょっと興味も沸いてくる
他の人もそう思ったらしく、クーさんが、興味を抱いたようにシュー先輩に近付いていった
川 ゚ -゚)「……それはどういったものなんだ? チューヤン」
( ><)「先輩、シューさんです」
川;゚ -゚)「あ、す、すまん」
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:38:37.57 ID:bWJtz1Ta0
相変わらず人の名前を覚えるのが極端に苦手な人だ
しかしシュー先輩は特に突っ込まず、どこかぼんやりとしたような、空を見つめるような表情で、話を続けた
この人の性格なら、変に茶化したりしそうなものなのに、虚ろな顔は、あまり見ることのないものだった
lw´‐ _‐ノv「……ま、良くある伝承なんだけど、聞くぅ?」
( ・∀・)「んじゃ、戻りがてらに聞かせてくれる? せっかくだしさ」
lw´‐ _‐ノv「いいよ」
モララーさんの言葉に先輩は小さく頷くと、静かに、そしてゆっくりと語り出した
時計を見ると午後三時、太陽は徐々に沈んできてはいるが、まだ明るい時間帯のはず
それなのに、漂う空気はどこか暗い雰囲気を帯びている
なんて、どうしてそんなことを感じてしまうんだろう
ざわざわと木々が風でゆらめき、止まっていた烏が鳴き声を上げながら飛んで行った
lw´‐ _‐ノv「……むかぁしむかし、この神社より少し離れたところに、一つの村があったんだ」
( ><)「村?」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:41:40.36 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「ん、その頃ここには神社なんてなくて、ただの大きな森だった」
( ><)「そうだったんですか」
lw´‐ _‐ノv「そ、クーさんが期待しているような面白い話じゃないよ、良くある話なんだけど
その村は日照りや天災が続くせいで、米や農作物が取れなくなることがしょっちゅうあったんだとさ
まあ、昔なら珍しい話じゃないよねぇ」
珍しくなくとも、簡単な話ではない
口調そのものは軽いけれど、話しているシュー先輩の顔と空気はどこか憂いを帯びていた
僕達は口を挟むことも出来ず、ただ黙ってその話に耳を傾ける
さっきまで来た道なりを戻っていくなのに、行きとは違い
騒ぎ立ててどこかに行こうとする人は一人もいない
皆はしゃぎ疲れたのか、それとも
行きはよいよい、帰りは怖い
とおりゃんせじゃないけれど、神社に向かっているとなると、このわらべ唄もなんだか不気味に思えてくる
lw´‐ _‐ノv「けど、村人達は困るよぉ、米が取れなくちゃ飢え死にだし、年貢として納めなくちゃいけない
だけど米は取れない、育たない
……こういう場合、人は何をすると思う? はいビロ坊」
(;><)「えっ、えっと……」
僕が少しためらっている間に、その問いに対してドクオさんが答えた
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:44:38.03 ID:bWJtz1Ta0
('A`)「神頼み、あるいは…………人柱、とか?」
lw´‐ _‐ノv「ん、ドクオくん大正解」
lw´‐ _‐ノv「村人達は、村で親のいない、一人の童女を"神頼み"として、この山に差し出すことにしたんだよ」
(;><)「…………」
僕はその光景を想像する
食料が取れず、餓え、怯え、皆疲れ果てて、まともな考えなど到底出来ないだろう
いや、正常な思考が出来たとしても、他に打開策なんてなかったのかもしれない
打開できるかどうかなんてもはや関係なく
限界まで来ている村人が、標的とするのは、自分より弱い者になるのは
必然だったのかもしれない
幼い子
守るべき者がいない、小さな子供を
lw´‐ _‐ノv「嫌がる童女を縛って、村人はその子を人一人が入るくらいの、小さな籠に詰めた」
信じていた村人に裏切られて
無理やり籠に詰められ
lw´‐ _‐ノv「それを運んで、この地に置き去りにしたんだよ、それが、あの祠のある所」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:47:01.74 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「私も、子供の頃に聞いたから、曖昧だけどね」
置き去りにされ、空腹と、絶望と、悲しみと、恐怖を味わって死んで行ったの?
たった一人で
lw´‐ _‐ノv「『神さま、生贄を差し出すから、どうか自分達を助けてください。水を、米を、我らに恵んでください』
そうして、村人は神に祈ったとさぁ」
じゃあその女の子は
縛られて、籠の中に詰められて、置いていかれて
どれだけ苦しくて、どれだけ悲しくても、誰も助けてくれる人なんていなくて
怖くて
lw´‐ _‐ノv「……さて、それから、どうなったと思う?」
( ><)「……わかんないんです。雨、降ったんですか?」
lw´‐ _‐ノv「これは漫画じゃないからねえ、雨なんて降るわけないのよん、子供一人差し出したくらいで」
( ><)「はぁ……」
lw´‐ _‐ノv「だから結果、村は滅びた。皮肉なモンで、この山の方だけは雨が降り、緑が生い茂ったらしいけど
それも村が滅びた後のお話」
lw´‐ _‐ノv「結局、その子供は弔われることもなく、この地でただ一人、呪う様に死んで行ったのさ」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:50:08.81 ID:bWJtz1Ta0
誰も、何も言わず、ただ黙々と歩いていた
シュー先輩は話をする間、振り返らずにただ歩いていたが、そこでふと足を止める
僕達の顔を、無表情で見つめた
lw´‐ _‐ノv「ただ、この話には続きがあってね」
(;><)「えっ?」
それから薄い笑みを零して、ゆっくりと僕に近付いてくる
lw´‐ _‐ノv「何十年か後、この山も一つの村になったんだけど、そこで作った畑の農作物は、大層豊作だったんだ
かつてのような日照りも天災もなく、平和な村で」
lw´‐ _‐ノv「村人は神に感謝した」
(;><)「…………」
lw´‐ _‐ノv「ただ、その村に住んでいる一人の男が、ある日、近くで見たことのない童女を見かけたんだけども」
lw´‐ _‐ノv「その女の子はやけに薄汚れた格好をしてて、泥のついた服に、手には赤い跡がついていた
おかっぱ頭のその童女は、唄いながら手毬をついて遊んでいたらしいの」
lw´‐ _‐ノv「男は童女にこう聞いた、「お前ェ、どこから来たんだ?この辺じゃあ見かけないな」と」
lw´‐ _‐ノv「すると童女はにっこりとそれは愛い笑顔でこう答えたとさ」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:51:18.77 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「"籠の中"」
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:53:54.89 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「……ってねー」
(;><)
从;゚∀从
(;・∀・)
(;<●><●>)
(;'A`)
lw´‐ _‐ノv「不思議なことに、その童女は男が首をかしげているうちに消えてしまったのだけど
妙なことは続くモンで、その日から、神様が顔色を変えたように、村にはまた日照りが続くようになった」
lw´‐ _‐ノv「雨は降らず、農作物は枯れ、天災がここぞとばかりに続く」
lw´‐ _‐ノv「当然、村人達は焦ったよ、なんせ米も野菜もとれないんだから、今まで普通にとれていたものがとれなくなったら
普通は焦るさねえ」
( ><)「……それから、村の人たちはどうしたんですか?」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 22:58:42.75 ID:bWJtz1Ta0
もし、またかつてのように人柱が立てられて、同じことを繰り返したのだとしたら、色々とやりきれない
僕はやるせない思いで聞いたのだが、返ってきたのは意外な答えだった
lw´‐ _‐ノv「ふむ、それがなあ、その童女と話した男は、実に心神深い男だったのよ
もしかしたらあの童女は山の神で、暢気で、神を尊ぶこともしない自分達を叱りに来たのかもしれないと、そう考えたのだ」
( ・∀・)「なんだいそりゃあ」
lw´‐ _‐ノv「さーぁねん、知らないよ、詳しいことは。で、その男はその童女のことを村人に言ったわけだ」
('A`)「なんて……?」
lw´‐ _‐ノv「籠の中から現れた、神が怒ってる、って」
从 ゚∀从「どう考えても村八分になる発言だぞそれ」
lw´‐ _‐ノv「ところがどっこい、そうじゃなかった、日照りと天災続きで、村人達も焦っていたからね
その話を信じたのさ。そういう経緯で、その娘を奉るこの米神神社が立てられたのさあ」
( ><)「そうだったんですか……」
lw´‐ _‐ノv「ん、ちなみに、うちのご先祖様は、その男って言われてるけど
まあ、どこまでが本当か怪しいものだの」
そこでようやく一息ついたように、シュー先輩は近くに生えていた雑草を抜き取って、ふらりと
まるで指揮者のようにその雑草を揺らした
lw´‐ _‐ノv「米を恵んでくれる"米神さま"、籠に詰められて殺され籠から出てきた"籠女神さま"
さぁて、君たちはどっちの名で呼ぶ?
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:01:49.39 ID:bWJtz1Ta0
雑草を僕らの方へ突きつけると、妙に暗い空気を纏った薄い笑みを口元に浮かべお
兄ちゃんとは違った意味でのポーカーフェイスで、そう締めくくる
僕は、なんとなく心のどこかで嫌な事を聞いた気分になっていた
聞いてはいけなかったような、聞きたくなかったような、そんな気分だ
どうしてそんな気になるのかはわからないけれど、来たときのような浮かれたムードはすっかり消え去っていた
ギャアギャアと、烏が鳴いている
森全体が揺れているみたいに、音が僕らの周りを取り囲んだ
(;><)
クーさんは、こんな話を聞いて満足したんだろうか?
そう思ってクーさんの方へ視線をずらすと、クーさんは真っ青な顔で俯いている
川; - )「…………」
(;><)そ「ク、クーさん?大丈夫なんです!? なんだか顔が青いんです!」
川;゚∩゚)「あ、いや……大丈夫だ、ただ、ちょっと気分が悪くなっただけで……」
答える声も震えているのに、無理したように言った。そんなバレバレの嘘をつかなくてもいいのに
クーさんは人に気を使う人だからだろうか
そういえば、いつの間にか貞子さんがいない
こんな状態のクーさんを放って置いて消えるなんて、普通だと考えられないことだ
一体どこへ行ったんだろう?
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:04:02.25 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「気分が、ね……」
(;><)「シュー先輩?」
先頭立って歩いていたのに、先輩は立ち止まり、クーさんの方まで戻る
そうして、口が触れそうなほどに顔を近づけた
川;゚ -゚)「? なに、か……?」
lw´‐ _‐ノv「これは私の勘なんだけど」
川;゚ -゚)「はぁ」
lw´‐ _‐ノv「クーさんはあまり良くないモノに憑かれているよね」
川;゚ -゚)「つ……? 悪いが……、私は幽霊とか、そういう類は信じていなくてね……」
lw´‐ _‐ノv「そう」
( ・∀・)「……シューちゃん、だっけ?」
lw´‐ _‐ノv「いかにも」
( ・∀・)「君は……その、占いとか、そういうのが好きなのかな?」
モララーさんが、ちょっと対応に困ったような、甘い笑みを向けたけれど
他の女の子なら蕩けてしまいそうなその笑みにも、シュー先輩は表情一つ変えなかった
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:06:45.51 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「占いは好きだけど、これは違うーよ ただの"勘"」
カンね、ともう一度繰り返して、シュー先輩は笑う
静かな森の中に、いつの間にか剣呑な空気が漂っていた
ドクオさんは心配そうな顔でクーさんを見ている
ハインさんもお兄ちゃんもだ
クーさんは無理して笑っているけれど、明らかに気分が悪そうだ
これは、もう観光は中止してホテルに戻った方がいいかもしれない
( ・∀・)「……ホテルに戻ろうか、クーさんも気分が悪そうだし」
(;><)「はい」
モララーさんもそう思った様で、ポケットから車の鍵をを取り出した
ハインさんはクーさんの肩を抱えて、ゆっくり歩いている
川 - )「いや、私は大丈夫だ、観光、続けてくれ……」
从 ゚∀从「フラフラのくせに何言ってんだよ、戻るぞ」
('A`)「………………賛成」
( ・∀・)「じゃあ、シューちゃん、クーさんの具合が良くないみたいだから、僕らは今日はこれで失礼するよ
鎮守の森、案内どうも」
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:08:56.55 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「どういたしましてん」
タイミング良く、森の向こうに神社の本殿が見えてきた
クーさんはお兄ちゃんが付き添って車の方まで運んで行くことになった
先に車の中で軽い診断もすると言って戻って行った
ハインさんはその組み合わせに何も言わず、ただ、少しだけ面倒そうな顔をしていた
その顔は、見覚えがあって、いつもの明るく元気なハインさんでも
猫を被って可愛こぶってるハインさんでもない
ちょっと暗い目をした、いつかのハインさんだった
( ><)「……………?」
( ・∀・)「じゃあ、僕達も先に戻っているよ」
('A`)「ありがとうございました」
lw´‐ _‐ノv「いいよいいよ、オレら親友ジャン?」
('A`)「え、いつから……」
从 ゚∀从「……じゃあな」
lw´‐ _‐ノv「うん」
皆が帰った後、僕は改めて案内のお礼を言うため、鳥居の前でシュー先輩に挨拶をする
平日のためか、参拝するお客さんはほとんどいない
閑散とした空気が広がっていた
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:10:18.35 ID:bWJtz1Ta0
僕達は二人、鳥居の奥と鳥居の前で鏡合わせのように向かい合う
( ><)「じゃあ先輩、僕達帰るんです、神社は全然見れなかったけど、結構楽しかったんです、ありがとなんです」
lw´‐ _‐ノv「なんのなんの、またうまい棒でも買いにおいで」
(;><)「売ってないでしょうそんなもの」
lw#´‐ _‐ノv「そんなものとはなんだ!」
(;><)「な、何に対する怒り!?」
lw´‐ _‐ノv「……と、まあ冗談はさておいて」
(;><)「冗談って先輩」
lw´‐ _‐ノv「エスプリのきいたジョークは米神シューの特技だから」
さっきまで、ちょっと重苦しい空気をまとっていた先輩だったけど、森を抜けるとすっかりいつものテンションに戻っていた
僕はそのことに幾許かの安堵を覚え、その場を後にする
いや、後にしようとした
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:12:44.70 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「待たれよ!」
(;><)「武士口調!? な、なんですか一体」
lw´‐ _‐ノvノ□「そういえばビロ坊、おみくじやりたがってただろ? 先輩持ってきてあげたから一個引いてきなよ」
(;><)「!?」
一体いつ持ってきて、そしてどこから取り出したのかはまったく解らないが
先輩は御神籤箱を取り出して僕の前へと掲げた
(;><)「一体何処から出したんですか」
lw´‐ _‐ノv「内緒ぉ」
可愛らしく口元に指を寄せて、大御心と書かれた箱をかしゃかしゃと振るう
lw´‐ _‐ノv「で、引くの? 引かないの? このビッグチャンスを見逃すの?」
(;><)「なぜそんな引きたくなるいい方を…………」
問い詰めるような顔で、先輩が迫ってくる
僕は少しためらったが、確かに、あまり引く機会も無さそうだし
(;><)「引きますけど……」
頷き、引いてみることにした
口に手を入れ、入っている紙の山から、結ばれた紙を一枚取り出す
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:15:36.10 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「引いたね」
( ><)「え、は、はい」
lw´‐ _‐ノv「それを引くことによって、ビロ坊は今ある種の運命を手にしたのだよ」
( ><)「先輩は、たまによくわかんないことを言うんですね」
lw´‐ _‐ノv「黙っていたけど、実は私は運命が大好きなんだ」
( ><)「はぁ……」
何を言いたいのか、よくわからないけれど、僕は素直に頷いた
こういう時の先輩は、何を言っても基本的に話を聞かないというのを、僕は学んだ
lw´‐ _‐ノv「どうして、あの祠があんな隠れるところに立ててあると思う?」
(;><)「えっ……?」
lw´‐ _‐ノv「私たちのご先祖様とやらが、その神様を崇めたのだとしたら
もっと目立つようなところにおいていても可笑しくないのに
なんであんな隠れるように、祠を建てたと思う?」
(;><)「それは……」
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:19:35.66 ID:bWJtz1Ta0
そういえば、どうしてだろう
確かに先輩の言うとおり、あの祠が当時の人たちに神様と思われていたのなら
もっと見えやすいところに立てられていたとしても不思議じゃない
それなのに、あんな森の端の、注意しなくちゃ見えないところにひっそりと立ててある
どうして?
( ><)「わかんないん、です」
lw´‐ _‐ノv「そう」
( ><)「……どうして、ですか?」
lw´‐ _‐ノv「………………」
先輩は何も答えない。
答えないまま、僕の方をじっと見つめている。
答える気なんて、もしかしたら元々なかったのかもしれない
( ><)「……シューせんぱ……」
「おーいビロードー!出発するぞー!」
僕が口を開きかけたと同時に、ドクオさんの僕を呼ぶ声が聞こえてきた
ああ、いい加減、早く行かなくちゃ
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:24:22.48 ID:bWJtz1Ta0
クー先輩の具合も悪いんだから、早くホテルで休ませてあげなくちゃ
なのに、どうしてか僕の足は凍りついたように動かなかった
lw´‐ _‐ノv「ビロ坊」
(;><)「は、はい?」
lw´‐ _‐ノv「頑張ってね」
(;><)「な、何をですか?」
lw´‐ _‐ノv「そりゃあ、ビロ坊が頑張ることだよ」
にまり、と人を食ったような笑みをみせると、シュー先輩は階段を上り始めた
風で服が大きくはためいて、鳥のように見える
僕の凍っていたような足はいつの間にか動いていて、僕もその場から離れた
( ><)「…………じゃあ先輩、呼ばれてるので僕はこれで」
lw´‐ _‐ノv「ああ、また大学で、ね」
( ><)「はいなんです」
そのまま階段を上がっていく先輩を見送って、僕は車の方へと走っていく
ざわりと木が風に揺れて、木の葉がゆらゆらと神社の方から舞って行く
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/07(金) 23:25:11.92 ID:bWJtz1Ta0
lw´‐ _‐ノv「……運命とは、かくも悲しきものなり。なーむー」
風の音が強い
だから、その風の音にまぎれて、シュー先輩の呟きは、僕の耳には届かなかった
第十二話 終わり
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