- 3 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:03:56.02 ID:IVOOJYj40
あの男と交わした約束。
それは10年の時を経て、より固く彼と私を結びつけた。
あの戦争犬の帰りを私は待とうと思う。
7年も待てたのだから、それくらい苦でもない。
むしろそれが楽しみで仕方がない。
ずっと一人で突っ走ってきたが、ようやく二人の道しるべが見えてきた。
これからはその道を目指そうと思う。
その希望が見えてくると、今まで見てきた景色も全く別の物に見えてくるようだ。
私はこれを糧に生きていく。
戦いは彼に任せて……。
だが、私の仕事は彼のような戦士の助けとなるものだ。
戦争犬を支えるため、気持ちを新たにして私はこの道を駆け抜けていこうと思う。
進む道は同じだが、私の気持ちは昨日までとは違う。
この先の道は、きっと彼の進む道と重なり合っていると信じて。
――――戦争犬を少女は待つ。
- 4 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:06:11.18 ID:IVOOJYj40
川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです
第十話 少女の世界
- 6 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:09:11.48 ID:IVOOJYj40
******
(;'A●) 「どうしてお前が生きている!?」
目の前に立つこの男は死んだはずだ。
十年前この男は確かにクーの手によって殺された。
あの日銃弾を顔と首に受けたんだ、助かるはずもない。
亡霊かはたまたゾンビか、死したはずの男は黒いコートに身を包み、
生地の上からでもわかるほどの筋肉を備えた右手に、日本刀を構えている。
右目は傷跡によって潰され、残された左目は鋭く憎悪の籠った視線を俺へと飛ばす。
おぞましいまでの殺気を感じ取った俺の身体は、
懐に忍ばせたコンバットナイフを抜き、逆手に構える。
磨き抜かれた尖鋭的でありながらも無骨な刀身を持ったそれは、
朝陽を浴びても輝くことの無い、ブラックブレードだ。
近距離戦闘において何度も俺の命を救ってきた頼もしい相棒は、
輝かしい戦績があるにも関わらず、ギコの持つ日本刀の前では頼り無く思えてしまう。
恐らくは、この間のロマネスクというエージェントが持っていた、あの変な刀と同じだろう。
……さて、パイソンの無い状況でどこまでやれることやら。
- 7 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:11:21.54 ID:IVOOJYj40
(,,ナД゚) 「その理由はあの世でしぃとシャキンに聞け!!」
咆哮を上げてギコは切りかかった。
素早く振りおろされる日本刀の刃は見えず、
人間の物とは思えぬ速度を以って踏み込んでくる。
(;'A●) 「ッ!」
太刀筋は読めず、咄嗟に身を引かせることで刃は服を掠めるに留まり、
何千何万と繰り返してきたCQCの動作が自然と身を突き動かし、
左手に構えたナイフの刃がギコの右腕の腱を切り裂こうとした。
……嫌な予感がする。
踏み込んではいけないような、そんな気がした。
迎撃に移り勢いづいた身をそのまま右前方へと投げ出すと、
一回転してその場でしゃがみ込み、奴の姿を捉えると遅れて鋭い痛みがきた。
左肩の生地が大きく裂け、肉が裂かれているのがわかった。
(;'A●) 「……速い」
(,,ナД゚) 「だろうな。"お前達の身体"では俺には敵うまい」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた奴は、黒いコートを脱ぎ捨てる。
その下には筋骨隆々とした身体を包み込むゴム質の青きボディースーツと、
機械の群が埋め込まれていて、まるで鋼が身体を覆っているようだ。
鋼の基部は赤い光を放っており、無機物と有機物が融合した身体が陽の下に晒される。
- 10 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:14:33.91 ID:IVOOJYj40
('A●) 「……装甲服か!?」
(,,ナД゚) 「これは、お前達に倒された俺達が得た力で、
シャキンとしぃの亡骸を弄んで案内所に作られた、狂気の産物さ」
(,,ナД゚) 「亡骸にしかすぎない俺に与えられ、亡骸にしかすぎない俺が手にした、
お前に復讐を成し遂げる為の、殺人機械となり果てた人間の力だ」
('A●) 「一度殺されただけじゃ飽き足らず、未だに奴らの狗となって俺に向かってくるか」
(,,ナД゚) 「フン……俺はお前を殺す為に十年間爪を研ぎ続けてきた、ただの野良猫だ。
戦争犬よ、奴らのモルモットとなる代わりに得たこの機械の身に」
(,,ナ∀゚) 「―――ついて来られるか?」
('A●) 「―――ッ!?」
ギコの浮かべた笑みはどこか可笑しかった。
もはや人の理から外れ、人では無い何かが浮かべるような笑みを、
人として壊れてしまったような笑みを奴は浮かべていた。
距離は5mと言ったところだが、
たかだか5m程の距離は二歩と掛からず踏み越えられてしまうことだろう。
大上段に構えられた刀は攻撃に移り、高速の域を超えた勢いで襲いかかる。
先程の一撃から速度を体感的に学んだ俺は次なる一撃の筋を予測し、
頭蓋を断ち割りに来るはずである刀身にナイフの刃を叩き付ける。
- 11 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:16:36.75 ID:IVOOJYj40
(;゚A●) 「くっ……!」
固い感触に強い衝撃。
たった一度打ち合っただけでギコの剛力を味わい、
コンバットナイフを握る左手はビリビリと痺れだす。
(,,ナー゚) 「はっ!」
攻撃を繰り出したことで脳内麻薬が分泌されたのか、
次なる一撃は更に激しさを増していた。
弾かれた勢いを活かしてそのまま身を振り切ると、
次は袈裟に切りかかり、もう一度刀身を払ってやるが、
奴はもう一度同じように身を振って逆袈裟に切りかかる。
身を引いて避けようとするが間に合いそうにはない。
防ぐことに専念し、上半身の傾き、腕の向き、
刀の角度から瞬時に刃が食らいついてくる位置を予測していなしていく。
耳の奥に残る金属音と火花が散る。
そこからは攻撃と防御の応酬だった。
熱を纏い超高速で迫る刀の群を読みきり、
リーチに乏しいナイフで壁を作り身を護る。
- 12 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:19:02.27 ID:IVOOJYj40
- (;'A●) 「……!」
怒涛の勢いを以って繰り出される刃を防ぎ続けていく。
全身が冷たい外気とは打って変わって熱を帯びていき、
爪先からナイフを持つ指の先まで焼けただれてしまいそうだ。
頬をつたっていく汗が冷たい。
意識は全てギコの繰り出す攻撃へと向けられており、
集中力が限界まで研ぎ澄まされていくことで汗の感触も次第に消える。
高岡ドクオの全神経はギコの攻撃を感知するレーダーへと変貌を遂げ、
この身全てがナイフと一体化したかのように感じられた。
金属音が響き続ける。
右から迫る刃を左から叩き付け、
上から迫る刃を下から絡めるようにいなしていき、
下から迫る刃を足を引かせることでかわしていく。
('A●) 「ッ!」
ギコはその一瞬、大きく隙を作った。
上体を少し屈めさせ、足を払おうと刃を振るった身体はナイフの射程に入っており、
逆手に構えたナイフの切っ先をそのまま首筋へと叩き込んでいく。
鋭い黒の切っ先は左斜め45°の角度から首に突きささっていくかと思われたが、
ひょいと身を逸らすことで難なく避けられてしまう。
が、そんなことは予測済みであり、空いた右手がギコの顔を既に捉え右頬を打ち抜いていった。
- 15 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:21:46.23 ID:IVOOJYj40
(#;)ナД゚) 「ぐぉ……ッ!」
拳が入り、衝撃に身を仰け反らせたギコへと即座にもう一撃加えていく。
間をおかずナイフを返すことで右腕の腱を切り裂き、
膝を突き出して鳩尾を蹴りあげ、頭突きを食らわせ、身を逸らす反動を使い喉を切り裂くと、
ゴム繊維が切り裂かれると共に白い液体が宙を舞っていった。
……白い……血!?
こいつは確か……!
推察が脳裏を過ぎるが、全身に危険を訴えてくる本能が行動を急きたて、
右足を地面に踏ん張らせると同時に掌底を腹部へと見舞った。
衝撃が掌へと広がっていき、"入った"と確信出来た。
身をよろめかせたはずのそいつは、
(,,ナ∀゚) 「……」
叩き込んだ手を左手で押さえこみ、ニヤリと笑みを浮かべていた。
(,,ナД゚) 「惜しかったな。十年前の俺なら、まだ人間であった頃の俺ならば、倒れていたことだろう」
腱を切り裂かれ力を失ったはずの手は力強く刀を掴み、
喉を薙がれ呼吸が出来なくなったはずの肺はしっかりと呼吸を行い、
掌底を食らい臓器を破壊されたはずの身体は、堂々と地に足を着けていた。
- 16 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:24:59.59 ID:IVOOJYj40
(,,ナД゚) 「だが、今の俺はそんなことでは倒せんぞ」
言うが早いかギコは身を回して俺の足を払い、両手から掌底を繰り出し腹部に叩き込んできた。
宙を舞っていた俺は突き飛ばされ、衝撃が腹から背へと突き抜けて全身の骨が軋みをあげた。
背中に激痛を覚えると、感触から建築物の壁に叩きつけられたことがわかり、その場に崩れ落ちてしまった。
(;メ'A●) 「げほっごほっ!」
咳き込むと口から血の塊が吐き出され、地面に赤い飛沫が散った。
(;メ'A●) 「なんつー馬鹿力だ……」
たった一撃で肋骨が何本も折れ、内臓は深い傷を負ってしまったのだろう。
身体の内側に焼かれた石を押し込まれたように熱かった。
内蔵が燃えるように熱く、身体中が焼けただれていくみたいだ。
倒れかけるが両手を突いて身体を支え敵を見る。
敵から目を逸らしてはならない。常に捉え続け対峙し、
決して背を向けるような愚を犯すわけにはいかない。
……元より、逃げ切れる相手でもない。
強烈な衝撃を浴びつつも握り続けていたナイフを、順手に構えなおし、
立ち上がり、6mほどの距離にまで接近してきたギコに飛びかかる。
だがそれはフェイントで、地面を蹴った俺は刀の間合いのギリギリ外で立ち止まる。
すると首を斬ろうとした刃が斜めに顔を斬りつけていき、
溢れ出る血と痛みを堪えながら、隙の出来たギコの右腕を鋭い刃で裂いた。
- 17 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:28:00.32 ID:IVOOJYj40
(,,ナД゚) 「ッ!?」
先程切りつけた腱を更にその上から切りつけていく。
繊維質を断つ音が響くと共に、一際多く白い血液が飛び散り、
返す刃で再び首を狙うが上体を逸らされ避けられてしまう。
次いで、まだ刀を握る力が残っていたのか刃が翻る。
それをナイフで叩き落としてやろうとするが、刀身と刀身がそこで停滞しあう。
左腕はみしみしと軋みを上げて血管が浮き上がり、
奴の日本刀を弾くには至らず、身を独楽の如く回して後退する。
これで再び、相手の懐へと踏み込んでいかなくてはならない。
完璧に防ぎきっているというのに生傷が絶えず、左腕は既に痙攣し始めていた。
ナイフを右手に持ちかえるが、それを待ってくれる程敵は温くはない。
刀を左に振りきったギコは踏み込み、その勢いのまま左切上げに刃を振るった。
真正面から防いではナイフがもたないし受け切れるものでもない。
だから刀身を叩きつけ、刃を逸らし、いなしてきたのだが……。
ナイフの刃は付け根がグラつき始め、いつグリップから抜けていくかも分からない状態だ。
それでも防御を行わないわけにはいかず、
亜音速に達しているのではないかと言うほどの速度で振られる刃をいなす。
- 19 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:30:32.22 ID:IVOOJYj40
- 勝機が無いわけではない。
ここで勝負を仕掛ける。
リーチがこちらのほうが短いということは、
その分こちらの武器の方が取りまわしやすいということだ。
つまり優位を取れるとすれば、こいつから"決して退かぬこと"。
日本刀の刃が左上段から右肩へと振り落とされる。
構わず、ナイフをギコの左腕の腱へと斬りかかり、
慌ててギコは一歩を引いてそれを避ける。
逃さず追撃を行い、刀は防御へと回っていく。
勝つためには前進し続け、攻撃の手を緩めないことだ。
奴を自由にさせればそのスピードとリーチによって後手に回らざろうえなくなる。
だから反撃の余地を与えさせない為、ほぼ零距離からこれまでにないほど苛烈な連撃を浴びせていく。
逆袈裟に振るった刃を刀の鎬で防がれ火花が散り、
返す刃で狙った胴への斬撃を刀身で弾かれて金属音がなった。
巻き起こる金属音と火花が周囲を彩っていき、それに赤い血と白い血が混じり合う。
その間も前進を続け攻撃の手は緩めず、連撃を繰り出しては防がれ、
更に手数を増やしながらも一歩を踏みこんでいく。
2の斬撃を防がれたのならば3の斬撃を。
それでもダメなら4の斬撃、5の斬撃と、
力づくで攻撃回数を増やしていくと流石のギコも防ぎきれず、
次第に奴の青いボディースーツは白い血液で汚れていった。
- 21 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:32:45.71 ID:IVOOJYj40
- しかし、そんな無茶を身体が許容するわけもなく、
全身が燃え盛り血液が沸騰する錯覚を感じた。
口から血と唾液が漏れ出し、呼吸は荒い。
だがもう少しだ。もう少しで……。
ナイフは踊り続け両腕と両足と広い範囲を舞っていたが、
徐々にその幅を狭めていき胴と顔のみを狙っていく。
ギコの刀では至近距離で振られるナイフを防ぎ難く、斬撃を幾度か浴びる。
そこで予感がした。
(メ'A●) (来るか!?)
身の回りが凍りついていくような殺意を感じ、予兆がきた。
止めを刺す決意を含んだ攻撃の意思が肌を刺し、
(,,ナД゚) 「――――!」
足を引いて腰を下ろした、その瞬間。
ギコは全身の力を込めて突きを放ってきた。
最大の力を込めた最速の一手。
吸い寄せられるかの如く腹部に切っ先が突き立たれていく。
その筈だった。事前に察知していた俺は振りかぶっていた一撃を止め、
わざと足を踏み外して崩れ落ちていった。
刀は見事に身体へ突き立ったが、内臓からは見事に逸れていた。
- 22 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:37:28.73 ID:IVOOJYj40
- (,;ナД゚) 「……なにっ!?」
そのまま、地面に転げていきそうになった身をギコへと落とし、
右手に構えたナイフで首を狩りにかかった。
風を切って進む刃は見事ギコの首を切断した。
が、
(,,ナ∀゚) 「ふっ……」
ギコの首はしっかりと繋がっており、顔は不敵な笑みを浮かべていた。
そうして気付いた。
(メ;゚A●) 「なッ!?」
右手に構えられたナイフのグリップから先が、無くなってしまっていることに。
そこまでを確認すると蹴り飛ばされ左腕に凄まじい熱が走り、
その熱に気を取られて、一瞬反応が遅れた為に蹴り飛ばされ、地べたに倒れこむことになってしまう。
(;メ'A●) 「くそっ……!」
左の肘から先を切り裂かれて腕を失い、右手の中には割れたグリップだけが残っていた。
刃は……どこかへ行ってしまったらしい。
夥しく血が噴き出され、遅れて肉の塊がアスファルトに落ちると、生々しい音がやけに耳に残った。
灼熱が切断面を侵していき、激しい痛みがそれに続いていく。
片腕を失い、胴に風穴を空けられてしまったが、まだ俺は生きている。
- 25 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:39:31.13 ID:IVOOJYj40
立ち上がり、ギコを捉え――――――
(メ;゚A●) 「ぐっ!」
避ける間も無く左足を斬り捨てられてしまった。
支えを失いバランスを崩した身体は、だらしなく倒れていった。
空が見える。
辺りがやけに静かで、鼓動が大きく聞こえた。
そして、目の前に白刃が突きつけられる。
鋭利で冷たい刃。
マイクロ波を当てられて振動し、切断力を強化された刃物だ。
何故か、理解できた。これはそう言う物であるのだと、直感のような物が心に告げる。
(,,ナД゚) 「その足で、よく今まで生き残ってこれたな」
ギコは右手で刀を突きつけ、もう片方の手は俺の義足だったものを掴んでいた。
力が込められるとそれは呆気なく破片を散らして壊れていき、パラパラと残骸が舞った。
(,,ナД゚) 「お前は簡単には殺さんぞ。念入りに、
十年分の憎悪と二人の苦しみと無念を込めて、念入りに殺してやる」
- 27 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:41:32.80 ID:IVOOJYj40
(,,ナД゚) 「次は右腕を貰うぞ、その次は右足だ」
(メ;'A●) 「それも案内所の命令か?」
(,,ナД゚) 「お前がそんなことを知る必要はない。
お前は俺の復讐の為に―――――ここで死んでいけ」
胸倉を踏みつけられ、ギコは日本刀を振りかぶり―――
身じろぎし、何とかして逃れようとするも、
激痛と疲労から身体は鋼のように重たくなってしまっていた。
残る右手を動かし、ギコの足をどけようとするもビクともせず、
刃が振り下ろされていき……。
(,;ナД゚) 「ちっ……!」
突然ギコはその場を飛びのくと、遅れてアスファルトに火花が散った。
一拍の間の後に数台の車がやってきて俺達を包囲し、
ギコへ向けて銃撃を加えていった。
(;メ'A●) (なんだ?)
車から降りてきた連中は覆面に黒い戦闘服を着ており、
武装はサプレッサーの装着されたM16にコルトガバメントと、ニューソク軍の部隊と同じ装備だ。
だが部下達であるという線は薄く、味方である可能性も低いため、
戦闘の混乱に乗じてその場を這って離脱していく。
- 28 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:43:33.29 ID:IVOOJYj40
左腕と足を失った傷は想像を絶するような痛みで俺を苦しめ、意識を失いかける。
それでも路地裏になんとか逃げ込み、壁に背を預けて小型の無線機を懐から取り出す。
ギコとの戦いで奇跡的に破損を免れたそれを扱い、
応答を待つ間残った膝の上に置いてタバコを手にする。
手は震えだし、視界が朦朧としてきた……。
箱を手に取るも危うく落としそうになり、
辛うじて一本取り出して咥えようとしたところで、
( ) 「鬱田タケシ少佐だな?」
覆面をした黒の集団が、俺を取り囲んだ。
銃を構えたこいつらは何時でも引き金を引ける状態にあり、
もしそれが引かれれば俺は1秒と待たずにミンチにされることだろう。
銃口に装着されたサプレッサーに銃声は減少される為、
音に気付く者はいないはずだ。
- 29 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:45:58.17 ID:IVOOJYj40
……悪いな、クー。
(メ-A●)y━ 「すまん……最後に一服させてくれ……」
……ここまでが限界らしい。
意識は、ゆっくりと途絶え、懐かしくも血生臭い、
暖かくもある"家族"の姿が瞼の裏に蘇り、
_
从 ∀从 ( ∀)( ∀) ( ) (、*川 ( ∀)( ω) (* ∀ )
そして……。
/ 3 <_フ )フ ( 、トソン
部下達の姿が―――
川 - )
大切な者が―――
消えていった。
- 30 名前: ◆K8iifs2jk6[>>28眉毛ずれた・・・] 投稿日:2011/12/24(土) 15:48:53.94 ID:IVOOJYj40
******
6月1日 8時10分――――素直クール宅
「昨夜未明、旧ニューソク領であるパーソク領へと侵攻した部隊が、
パーソク軍の要塞を制圧しました」
ニュースキャスターが爽やかな澄んだ声音でそう語る。
「パーソク部隊は未だ抵抗を続けているものの、
ニューソク部隊の攻撃に撤退を開始し、
本国への帰還の準備を進めているようです」
「カラマロス6世元帥の会見によると、残存部隊を撃退次第、
ニーソク領を攻め、旧ニューソク領全てを奪還するとの発言がありました」
川 ゚ -゚) (パーソク軍の撤退も時間の問題か。ニーソクへの侵攻に、
あいつも駆り出されることになるだろうな)
「あぁ……いってきます?」つい先程ぎこちなく口にし、
この部屋を後にしたドクオの顔が、すぐ傍にいるような錯覚に陥った。
川 - -) (ほんの一時間程前までは一緒にいたというのに、お前はもうここにはいない)
恥ずかしそうに笑みを浮かべたドクオは戦場へと行った。
7年ぶりの再会はとても楽しい一時ではあったが、同時に残酷でもあった。
自分の住む世界と彼の住む世界は違うのだと、そう突きつけられたようで。
- 31 名前: ◆K8iifs2jk6[>>28眉毛ずれた・・・] 投稿日:2011/12/24(土) 15:51:15.83 ID:IVOOJYj40
「―――パーソク軍の前哨基地は"戦争犬"と恐れられている鬱田タケシ少佐の活躍があり、
少佐の率いるウォードッグ隊はパーソク領攻略作戦においても先陣を切る見通しです」
「南西部に位置しパーソク領であるノトリ谷は天然の要害。
精強を誇るニューソク軍でも、これを陥落させるのは骨が折れることでしょう」
キャスターに代わり、軍事評論家の男性が話を続ける。
「守る側からすれば森林地帯の多いこの谷は兵士を伏しやすく、攻める側からすれば非常に攻めにくい。
おまけに断崖絶壁で登ることも難しく、対空砲台まで設置されており空爆も容易ではありません。
しかし、近年開発されたステルス爆撃機があれば、あそこでも恐れるに足りません」
流暢に語っていくその姿に知識の豊富さが裏打ちされるが、
安全地帯に立つこの男に、ドクオ達が命を張って立つ戦場について語って欲しくは無かった。
個人的嫌悪のせいもあるだろうが、まるで自分が軍を率いているかのような優越感に浸った顔が、許せなかった。
……案内所の存在を知らない癖に。
- 33 名前: ◆K8iifs2jk6[>>28眉毛ずれた・・・] 投稿日:2011/12/24(土) 15:53:37.66 ID:IVOOJYj40
視聴する気が失せ、消そうかとリモコンに手を伸ばすと、
川 ゚ -゚) 「?」
ケータイが振動を始めメールの着信を告げてきた。
テーブルの上で震えるケータイを手に取り開く。
从'ー'从 『クーにゃんおはよう! 今日は空いてる? 遊びに行かない?』
送信者は渡辺であり、特に今日は用事もないのですぐに『いいぞ』と短く返信した。
从'ー'从 『ホント?やった! じゃあ11時半に駅前で待ち合わせしてご飯にしよ!
それからは――――』
リモコンを使ってテレビの電源を落とし、私は渡辺とのメールで気を紛らわせることにした。
彼が「いずれ銃を捨てる」と言った以上私は待つだけだ。
だから今は、彼の生きる世界ではなく私の"世界"に目を向けよう。
渡辺達と共に生きる、この世界へと。
- 34 名前: ◆K8iifs2jk6[>>29眉毛ずれました!] 投稿日:2011/12/24(土) 15:55:42.52 ID:IVOOJYj40
******
6月1日 11時29分――――ウプスレッド駅
自宅からウプスレッドの中心に向かって歩いていくと駅があり、
券売機の傍で立っていると明るい少女のような声が私を呼んだ。
从'ー'从 「クーにゃーん!」
駅の入り口から手を振って勢いよく駆け寄ってきたのは渡辺だった。
彼女は相変わらずの小動物みたいな愛らしい顔で現れ、
くりんとした丸く可愛らしい瞳が私を映す。
男であれば保護欲をそそられるであろう少女じみたこの女性は、
その風貌とは打って変わり、胸には凶悪と言えるまでの巨大な武器を備えていた。
あどけない顔だちとは相反する、情欲を掻きたてるようなそのバストは明らかに凶器と呼べる。
川 ゚ -゚) 「うむ……」
今まで気にしたことはなかったのだが、目を向けてみれば恐ろしい物だ。
急に気に留めてしまうようになったのはやはり、
彼と再び見え、自分が女であると以前より意識するようになったから、なのかもしれない。
私も、これには負けるがバストはあるほうだと自負している。
それに断じて胸が全てではない。
- 36 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 15:58:18.32 ID:IVOOJYj40
从'ー'从 「クーにゃん、どうしたの?」
首を傾げる渡辺。
それに釣られ微かに揺れていく二つの膨らみ。
まじまじとそれを眺めているのには気付いていないのか、
そんな無防備な姿でさえ愛らしく感じられる。
……やはり、これは凶器だろう。
川 ゚ -゚) 「なんでもない。少々空腹なだけだ」
从^ー^从 「そう、じゃあ早くごはん食べにいこ? どうする?
"ニジ"のほうでもいいけど、早く食べたいならここら辺で済ませる?」
川 ゚ -゚) 「せっかくだ、街のほうへ行こう。少しくらい我慢できるさ」
从'ー'从 「けっこー近いしねー。じゃ、行こうか」
踵を返した渡辺は、券売機で淀みなく乗車券を購入していくものの、
街にあまり出ない私はニジまでの料金がいくらか調べるのに手まどい、
「隣の駅だよ」と彼女が教えてくれて助かった。
- 38 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:00:21.38 ID:IVOOJYj40
川 ゚ -゚) 「教えてくれるなら、金額を教えてくれればよかったのに」
从^ー^从 「ん? うふふ」
悪戯じみた笑みを浮かべる渡辺を尻目に、
240モリタポを券売機に投入した私は、ウプスレッド駅行きのチケットを手にし、
从'ー'从 「ごめんね、なんだか、今日のクーにゃん良い顔してるから」
川 ゚ -゚) 「む?」
言われ慣れない言葉を聞いた。
从^ー^从 「だから、ついからかっちゃった。
今日のクーにゃんとのデートは楽しいことになりそうだな〜」
川 ゚ -゚) 「そうか?」
問いに答えず、渡辺は改札を通ってプラットホームへと進んでいく。
その小さな背を私は追っていった。
- 39 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:02:21.87 ID:IVOOJYj40
******
首都ニジは首都と呼ばれるだけはあり、
ニューソクでも屈指の娯楽施設を備えていた。
オフィス街である私達の住まうウプスレッドも、それなりに娯楽に富んだ街ではあったが、
ここニジは目移りするほど遊びに溢れている。もっとも、隣街にいけば歓楽街もあるのだが、
私達にとっては少々浮いた場所であり、ここで用を済ませるのが最適だ。
遊び慣れない私は渡辺に連れられて歩いていき、
喫茶店で軽い食事を済ませるとデパート内にある映画館へと向かった。
時刻は二時半を過ぎている。
渡辺が館内で上映時刻表を眺めていると、
从'ー'从 「ブタクマ指輪物語はもう始まっちゃったんだー。
谷亮子マン汁ご飯THE−MOVIEとかあるけど、クーにゃん何か見たいものある?」
尋ねられるも、
川 ゚ -゚) 「いや、特に興味を引かれた物はないな。
強いていえば、見えない敵403だが、これはもう上映中のようだ」
さして映画に興味のない私に、突然聞かれてもすぐに見たい物が思いつくはずもない。
- 41 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:04:23.30 ID:IVOOJYj40
だから、
川 ゚ -゚) 「渡辺に合わせるよ。お前が選んでくれ」
渡辺に視聴する物を委ねた。
从'ー'从 「やったー! ごめんね付き合わせちゃって。私前からブタクマ見たかったんだ」
川 ゚ -゚) 「良いんだ。次の上映にまで時間があるようだが、どうする?」
从'ー'从 「うんとねー、じゃあ、しばらくお買い物でもしない?
このデパートの中で回ってけばすぐに戻ってこられるし」
川 ゚ -゚) 「了解だ」
少女のようにはしゃぐ渡辺にそう短く返す。
淡々とした口調ではあったが、心の内では渡辺に釣られて自分も楽しくなってきているのを感じていた。
从'ー'从 「うん、じゃあまず服見に行こう!」
そう言って渡辺はエレベーターへと乗り込んでいった。
このデパートは7階建てになっており、西棟と東棟の二つに分かれている超大型デパートであり、
この下のフロアーは衣類コーナーである。
紳士用衣類のブランド店が並ぶ中を通り過ぎ、スカイウェイを通って西棟へ進むと、
婦人用の衣類の置かれたコーナーに辿りついて、渡辺は"ジェーンスタイル"という店に入っていった。
- 42 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:06:29.85 ID:IVOOJYj40
从'ー'从 「これ可愛いなー。これからどんどん暑くなってくし、買ってもいいかも」
薄ピンクの花の刺繍の入った白のブラウスを手に取ると、
渡辺はしげしげと見入っていき、値段とデザインを交互に見比べ、
口ではすぐにでも買ってしまいそうに言いながらも、厳重なチェックのもと判断を下そうとしているようだった。
川 ゚ー゚) 「ふ……」
その姿は愛らしく、自然と笑みがこぼれた。
……長くなりそうだな。
ケータイを開いて時刻を確認し、まだ余裕があると思い私も服を見ていく。
気に入るような物はなかったのだが、不思議と隣にあった男性用のコーナーに目が留まってしまう。
それは黒いテーラードジャケットで、あの軍服を着た戦争犬が袖を通している姿が浮かんできた。
サイズも合うし、あれなら似合わないこともないだろうと、
頭をよぎったイメージに感想を付け、自分の服を選ぶことに集中する。
……いかんな、昨日の余韻に浸り過ぎてしまっている。
こんなことでどうする、あいつはまだ戦っているんだ。
お前も、自分の戦いをし、孤独を耐えろ。
幸福の残滓を振り払い、思考を切り替える為に、
私はさして興味も無い服に集中することにした。
幸い、渡辺が次から次へと色んな店に連れて行ってくれたので、
それ以上彼のことは考えずにすみ、私の"世界"での楽しみを見出せた。
今日ほど渡辺の存在がありがたく感じられた日は、無いかもしれない。
- 43 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:08:43.47 ID:IVOOJYj40
******
ほどなくして映画の上映時刻となり、シアターに入室すると2時間は何も考えずにすんだ。
興味の無いタイトルだったが、見始めると設定が面白く、
クレティウスというグローブを使って戦う少年のこの物語は、
主演女優が美しいこともあり映画に没頭することが出来た。
隣に座る渡辺が一喜一憂し、最後にはすすり泣く声まで聞こえてくるのが少々気にかかったが……。
从;ー;从 「いやー面白かったね〜」
スタッフロールが終わるまで眺め、シアターから出た渡辺は涙を流しながら言った。
目が赤く充血し、何度も擦ったような跡が見られる。
川 ゚ -゚) 「あぁ、なかなか派手な演出だった。最近の映画のCGは進んでいるな。
あんな漫画みたいな設定の武器を映像化出来るとは」
从'ー;从 「製作費は10億モリタポも掛かったらしいよ。神罰とかすごかったよね〜。
OZもすごかったし、社長はカッコイイしでもう最高」
川 ゚ -゚) 「変態じみてはいたがな。なかなか、俳優達の演技力も素晴らしかった」
- 46 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:12:18.62 ID:IVOOJYj40
从'ー;从 「うんうん! 次回作もあるみたいだし、また見に来ようね!」
そうだった。スタッフロールを最後まで目にしていた私達は、
現れた次回作の予告を見ることが出来たのだ。
予告はあっさりとした物だったが、
主役の少年が見た事も無い人物に追い詰められるシーンがあり、
そこで次回作のタイトルが現れるという何とも憎い演出だった。
川 ゚ -゚) 「あぁ、そうだな。次回作も見に行こう」
約束するも、目まぐるしく変化する戦場のニーズに応える私達の職場は、
はたしてその頃に休みを取れるのだろうか、と不安になってしまう。
从'ー'从 「うん! 約束だよ!! 必ず来ようね!!」
それでも、泣き顔から一転して笑みになった渡辺を見たら、
何としてでも都合をつけて行きたくなってしまうというものだ。
川 ゚ー゚) 「あぁ、約束だ」
デパートを出た頃には空は暗くなっていて、月が出ていた。
時刻は20時を少し過ぎたところ。
2時間ほどずっと映画を見ていたので、外の様子を窺えなかった私は、
もう暗くなってしまっていたことに少々驚いてしまう。
从'ー'从 「ねぇどうする? ご飯でも食べてから帰る?」
- 47 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:14:19.79 ID:IVOOJYj40
川 ゚ -゚) 「そうだな――――」
特に用事も無く、翌日も仕事は休みなので酒を飲むのも悪くは無いな。
そう思い、渡辺に返事をしようとしたその時、
(゚、゚トソン
女性と目があった。
鮮やかな金髪を後ろで一つにまとめ、黒いトレンチコートを纏った彼女の、
限りなく透明に近いブルーの瞳が私を射抜いている。
冷たさを感じさせる鋭い双眸からは感情を窺う事が出来ないが、
への字にきつく結ばれた唇はどこか怒りを感じさせられた。
……この女性を見た事はないはずだが。
彼女はこちらにゆっくりと近づいくると、
渡辺が少し警戒したような視線を送っているのを、気にも留めずに口を開いた。
(゚、゚トソン 「素直クールさんですね? 鬱田さんにはお世話になっております。
お話したいことがあるのですが、お時間頂けますか?」
从;'ー'从 「クーにゃんのお知り合い?」
川 ゚ -゚) 「ん、あぁ。渡辺、すまんが食事はまた今度にしよう」
- 48 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:16:32.30 ID:IVOOJYj40
"鬱田"
高岡ドクオの扱う偽名を口にした彼女は、きっと何か大事なことを伝えるつもりだろう。
国家総合案内所のエージェントの可能性もあるが、
不思議なことにこの女性は"味方"であると直感が告げていた。
从;'ー'从 「うん、そうだね……」
渡辺は私を心配しているのか、自分も付いてこようとしているような気配が感じられたが、
川 ゚ -゚) 「またな、気をつけて帰るんだぞ。おやすみ」
駅の方に向かって歩き、手を振ることで彼女を突き離した。
知らない女性はそれに付き従い、すぐ傍を歩いていく。
(゚、゚トソン
女性の放つ雰囲気は常人離れしたものがあり、
周囲を凍りつかせるような冷たさが感じ取れる。
彼女の放つ冷たさはドクオも持ち合わせているものであり、
それを身近な物として過ごしてきた私にとっては、怪しくも何ともないが、
だが馴染みの無い渡辺にしてみれば、警戒するには充分な理由であろう。
- 49 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:19:27.49 ID:IVOOJYj40
(゚、゚トソン 「少々歩きますが、よろしいですか?」
川 ゚ -゚) 「えぇ、大丈夫です」
(゚、゚トソン 「了解。では私に付いてきてください」
そう言った彼女は駅に止まっていたタクシーに乗り込み、近所のスーパーまで送るように命じた。
スーパーに辿りつくまでの間一切会話はなく、時折外の様子を彼女は窺っている。
地下駐車場で止まったタクシーに料金を払うと、彼女は私の手を引いて食品売り場へ進み、
まるで人混みに紛れるようにして売り場を一周すると、エスカレータで3階へ登り、
また例の動きをしてから今度はエレベーターに乗ると、一階のボタンを押してから次に二階のボタンを押して二階で降りる。
そして早足で逆方向の階段で一階へ向かうと、すぐ傍には出口があり、
表でタクシーに乗り込んでウプスレッドへと向かった。
その間も2、3度タクシーを乗り換えては街中を行ったり来たりを繰り返し、
私の住むアパートの近くで降りると、そこからは歩いて向かって行った。
5分も掛からずに私の部屋の前に辿りつき、奇妙な客人を引きつれて帰宅することになった。
謎の女性は電気をつけようとした私を止め、
部屋の主を憚らずカーテンを閉めると、やっと灯りをつける許可が下りた。
電灯に照らされた金髪は輝かしく、透き通った藍の瞳が真っ直ぐに映し出す。
- 50 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:21:38.21 ID:IVOOJYj40
川 ゚ -゚) 「一体何がしたかったんだ?」
(゚、゚トソン 「ご自分でも少しお考えになればわかることでしょう。
貴女は尾行されていたので、私はそれを撒くのに手を尽くしただけのことです。
恐らくはこのアパートも張られることでしょうが、少しは時間を稼げます」
(゚、゚トソン 「それに、貴女の警護チームが万全の体勢で周辺に待機しておりますので、
ここならば安全です。ご安心ください」
すらすらと口を出る言葉には淀みがない。
機械に喋らせたらこんな感じになるのだろうが、
言葉の端々には少々怒気が籠っているように感じられる。
川 ゚ -゚) 「それで、貴女は一体何者なのですか?」
(゚、゚トソン 「失礼、申し遅れました」
(゚、゚トソン 「私は鬱田タケシ少佐の部下、都村トソン少尉です。
彼の副官を任せられています」
川 ゚ -゚) 「ドクオの部下か。私は……」
(゚、゚トソン 「いえ、貴女の事は調べてありますので、結構です。
時間が煩わしいので」
- 52 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:24:12.99 ID:IVOOJYj40
川 ゚ -゚) 「む……」
トソンの敵意が、ここで剥き出しになった気がした。
少々その口調に苛立ちを覚えるが、彼女の言葉を黙って聞いていった。
(゚、゚トソン 「昨日、鬱田タケシ……ドクオ少佐がここに来たと聞きました。
貴女は何時少佐と別れましたか?」
川 ゚ -゚) 「アイツは私の家に泊っていった。
今朝出て行き、このまま基地に向かうと言っていた」
(゚、゚トソン 「その後の行方は知りませんか?」
トソンの言葉には、不穏な空気が漂っていた。
……その後の、行方……?
川 ゚ -゚) 「いや、知らないが……」
(゚、゚トソン 「そうですか。すいません、お時間を取らせてしまい。
以上で質問は終わりです。それでは、失礼いたします」
知らないと見ると、彼女は用済みと言わんばかりにあっさりと踵を返し、
この部屋を去っていこうとする。
- 54 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:26:15.70 ID:IVOOJYj40
川;゚ -゚) 「ちょっと待ってくれ!」
(゚、゚トソン 「何か?」
戸惑い、情報を求める声に対して彼女は、足を止めて氷のような視線を私に向けた。
川;゚ -゚) 「ドクオの行方が分からないのか? ちゃんと初めから説明してくれ」
(゚、゚トソン 「知らないというのでしたら、貴女には関係のない話です。
聞き流してください。無用な情報を与えてすいませんでした」
川;゚ -゚) 「関係ないはずが……」
(゚、゚トソン 「では、貴女はどう関係していると言うのですか?」
(゚、゚トソン 「貴女は、この件にどう関係出来ると言うのですか?」
川;゚ -゚) 「……ッ!」
この女が言わんとしていることが、よくわかった。
思わず奥歯を噛みしめ、ギリ、と歯が軋む音が響く。
その眼は「言わせるな」と言っていた。
「お前は役立たずだ」と私に言わせるなと言っていた。
- 55 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:28:39.00 ID:IVOOJYj40
だが、
川; - ) 「……頼む、ドクオに何があったか教えてくれ。
私に出来ることがあるなら、何でも手伝うから……」
ここで何の情報も与えられずに、この女を帰すことだけはしたくなかった。
惨めな気持ちになっても、不安になっても、例え自分に何も出来ないとしても、
このまま何も知らずに生きていくようなことには、なって欲しくなかった。
(゚、゚トソン 「本日0631に、ここの近辺にある駐車場近くで男が争っているとの通報がありました。
警察が到着した頃には、大量の空の薬莢に男性の物と思われる左腕と、義足だけが残っていました」
川;゚ -゚) 「ッ!!」
思わず、息を飲み込む。
『こんな足で戦えるのか?』
『問題はない、ただ、やっぱり生身の足よりはどうしても重くなるな。
ゆくゆくは軽量化されると聞いているが……』
昨日の会話の一部がそれが"誰の物"であるかという答えを、
チャネラーの憎らしくも優れた脳は瞬時に再生させた。
- 56 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:30:47.75 ID:IVOOJYj40
(゚、゚トソン 「少佐はこの近辺に訪れており、そして"未だに帰ってはいない"。
貴女の警護チームも行方を知らないという事は、後は本人と貴女ぐらいしかわかる者はいない。
なので、貴女にこうしてわざわざ聞きに来たというだけです。」
川;゚ -゚) 「手掛かりは他に―――」
(゚、゚トソン 「無いから聞きに来たのですよ」
川;゚ -゚) 「左腕が残ってたということはやっぱり重傷を負っているんだよな!?
もう時間はかなり経過している。それに、死んだのならなんで死体が……」
(゚、゚#トソン 「拉致されたからに決まってるでしょう!?」
トソンは、今までの冷静な振舞いは演技だったかのように怒声を張り上げ、
私のシャツの首元を乱暴に掴みあげて睨みつけた。
(゚、゚#トソン 「貴女の部屋から基地に向かう途中に少佐は案内所に襲われ、拉致された!
馬鹿な質問はやめてください! どうしてそんなことも分からないのですか!?
少し考えればわかることでしょう!? 貴女に会ったが為に襲われたと!!」
川;゚ -゚) 「……」
(゚、゚#トソン 「少佐にとって貴女は荷物です! 貴女を救うために、
一体どれだけ危険なことをしてきたか分かりますか!?
貴女に構ってさえいなければ少佐はいつも通り、戦っていた!!」
(゚、゚#トソン 「貴女さえいなければ少佐は案内所を打倒することが出来たかもしれない!
貴女さえいなければ、少佐の帰還を望む兵士達は報われたかもしれない!!」
- 57 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:32:48.21 ID:IVOOJYj40
(゚、゚#トソン 「戦場で死ぬのならまだしも、こんな、こんなことで命を落とすなんて……少佐が不憫すぎる!!」
(゚、゚#トソン 「何で貴女なんかが……何の役にも立たない、
貴女なんかの為に何故少佐はあそこまで戦えるのか、理解に苦しみます!!」
(゚、゚#トソン 「貴女のせいだ! 貴女のせいで、私達の望みはここで断たれてしまった!!
私達にとって、私にとって! 彼は希望であったというのに!!」
( 、#トソン 「どうして貴女なんだ……あの英雄の背にどれだけの兵士達が勇気付けられたか。
そんなことも知らないような、こんな女なんかに……あの英雄が……兵士達の……私の……」
川 - ) 「……」
私は、彼女に何も言葉を返せなかった。
肩をわなわなと震わせ、俯いた碧眼から一筋の水の粒が落ちて行く。
上官を失った兵士のそんな姿を前にしては、何も言えない。
( 、#トソン 「ッ!!」
突き飛ばされ、背中が壁にぶつかり衝撃を食らった。
加減はされていたのかもしれないが、それでも非力な一般人には痛い。
- 58 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:34:54.86 ID:IVOOJYj40
(゚、゚トソン 「……失礼致しました。貴女が何か彼の為にしたいというのであれば、
極力目立たないようにしてください。そして工作員には気をつけて。
貴女が敵の手に落ちては、彼の"厚意"が無駄になります」
川 - ) 「私は、アイツを……探したい」
(゚、゚トソン 「ご自身も狙われているというのに? はっ、冗談も程ほどにしろよ。
お前がもし少佐の厚意を無駄にするような真似をすれば、私がお前を殺しにくるぞ?」
川 - ) 「……」
殺意を隠さずに、もはや敬語すら捨て去ったトソンは私を睨みつけ、
コートのポケットからタバコを取り出し、血に汚れたライターを逆のポケットから手で取った。
タバコを咥え火をつけていくと、葉が燃焼する音が彼女の激情と打って変わって静かに響く。
香りは昨日も嗅いだことのあるもので、
はっと視線を上げてトソンの咥えた物を見てみれば、ドクオと同じ銘柄だった
彼女は自分を見つめる私を、あらん限りの軽蔑を込めて見下し、血塗れのライターを放った。
川 - ) 「……?」
~~━u(゚、゚トソン 「彼の持っていた物です。遺留品として警察から渡されましたが、
恐らく、貴女が持っていたほうが彼も喜ぶでしょう……」
トソンはそう言うと、背を向けて玄関へ進む。
- 59 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:36:59.68 ID:IVOOJYj40
トソン )━~~ 「ですが私は、少佐を諦めるつもりはありません。
必ず、必ず見つけ出してみせます。それは、遺留品なんかじゃない。紛失物だ」
覚悟を短く語った彼女は、部屋を出て行った。
川 -) 「……」
残された私はトソンと違って何も出来ず、
川 ;д;) 「アァ――――――――ッ!!」
血に染まった銀のライターを抱き、ただ泣くことしか出来なかった。
- 61 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:41:03.48 ID:IVOOJYj40
10話時点の登場人物紹介
川 ゚ -゚) 素直クール (25)
主人公。兵器メーカー"ダーウィン"の技術者で開発主任。
10年前の三ヶ国大戦で激戦地となったカラマロスDNでドクオに救われた。
チャネラーと呼ばれる特殊な人間で、特務機関国家総合案内所に狙われている。主人公。
('A●) 高岡ドクオ 偽名:鬱田タケシ(23)
ニューソク軍ウプスレッド基地配属の特殊遊撃部隊"ウォードッグ隊"隊長で、階級は少佐。
"戦士"と恐れられた高岡ハインリッヒの弟子であり義理の息子。
10年前クーを救った後は、偽名を使い、彼女を護る為に国家総合案内所と戦い続けている。
(゚、゚トソン 都村トソン (21)
ドクオの副官であり、少尉。
戦争孤児としてチューボー基地で保護され、そのまま軍人になった。
ドクオに忠実で、冷静沈着な部下。過去の彼と何かあった模様。
<_プー゚)フ エクストプラズマン(21)
ドクオの部下であり、階級は曹長。
戦闘能力が高くドクオの右腕的存在であり、一個分隊を率いる。
トソンと同じくチューボー基地に保護された戦争孤児。
- 62 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:43:26.60 ID:IVOOJYj40
/ ,' 3 荒巻スカルチノフ(55)
GJ部隊の隊長高岡ハインリッヒの部下であり、彼女亡き後のドクオの保護者のような存在。
彼にとっては祖父にも近く"爺ちゃん"と呼ばれる。現在は部下として彼を支える。
狙撃の技術が高い、老スナイパー。
( ・∀・) モララー・オブライエン(31)
ニューソク軍ウプスレッド基地配属の大佐。
ドクオの上官であり、指揮官としての彼をドクオは評価している。
前線であまりにも功績を上げ過ぎた為、上層部が彼を失うことを恐れ大佐の地位にまで昇格された。
ミ,,゚Д゚彡 フサギコ・フッサール(31)
GJ部隊所属だった元ニューソク軍兵士。
三ヶ国大戦終結後に退役し、傭兵企業を立ち上げた。
ドクオと知己であり総合案内所について知っており、ドクオにクーの護衛を依頼される。
( ´ー`)シラネーヨ・シルカ(63)
チューボー基地の元司令。国家総合案内所の案内人の一員だった。
戦争孤児を保護し基地で育てており、ドクオの正体を知っていたが彼も匿った。
ドクオに「ジョン=ドゥに会え」と言い残し息を引き取る。
- 63 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:45:27.23 ID:IVOOJYj40
从'ー'从 渡辺さん(25)
ダーウィン社の技術者であり、クーと同期。
孤立しているクーの唯一の理解者であり、親友。
ロリ巨乳。
(-_-) 小森ヒッキー(25)
ダーウィン社の技術者であり、クーのプロジェクトの副主任を任されている。
勤勉であり、頼まれたことは必ずやり遂げる。
地味に気がきくが、ある事件でドクオに銃を向けられ失禁してしまった。
ノパ听) 素直ヒート(??)
クーの叔母であり、家と両親を失った彼女を引き取る。
クーを自分の娘のように可愛がり、未だに嫁にいかない娘に不安を覚えている。
年齢は秘密らしい。
lw´‐ _‐ノv 素直シュール(18)
クーの従妹で、シューにとって彼女は姉のような存在。
最近大学で気になる男性がいるようで彼女に紹介しようとするも、叶わなかった。
好きな米のブランドはセシウムさん。
- 65 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/24(土) 16:47:30.80 ID:IVOOJYj40
( ゚д゚ ) ミルナ・コッチオ(18)
シューのボーイフレンド。
彼女とはとても親しくしており、ヒートにも紹介された。
落ち着きのある青年でヒートは一目で気に入った。
从 ゚∀从 高岡ハインリッヒ(享年:38)
数多くの作戦に参加し成功に導いてきた伝説の英雄。
"戦士""最強の兵士"など敵味方から恐れられていた。
ゲリラに少年兵として使われていたドクオを保護し、自分の技術と愛情を注いで育てるも、三ヶ国大戦で戦死。
(,,゚Д゚) ギコ・ハニャン(36)
国家総合案内所の案内人の一人であり、実働部隊に所属していた。
10年前ドクオとクーの手により死亡したはずだが、サイボーグ化され生き延びていた。
驚異的な身体能力を手に入れた彼は、ドクオに復讐する為襲いかかる。
( ФωФ) 杉浦ロマネスク(37)
国家総合案内所の案内人の一人であり、実働部隊に所属。
シラネーヨ宅に訪れていたドクオとエクストを襲うも撃退されてしまう。
ドクオを暗殺する為に訓練された"アンチウォードッグ"。
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