川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/26(月) 22:17:29.55 ID:b1+pwXWX0


    川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです 



       第11話 戦争犬不在の一日 後篇

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/26(月) 22:19:30.41 ID:b1+pwXWX0

******

1971年 4月21日 1737――――パーソク軍補給拠点付近。


<_#プー゚)フ 「ふざけやがって……!」


エクストは憤慨していた。

攻撃態勢を整えていた敵拠点が警戒を強化しているというのに、
砂塵に紛れて進軍するといって聞かず、その結果部隊に損害をもたらし、
自分の仲間達を死なせたマルタスニム少佐と、
それを防ぐ事のできなかった少尉に身を焦がすほどの怒りを抱いていた。


逃げ遅れた隊員達は恐らく捕虜となったことであろう。

今すぐにでも少佐を撃ち殺したい衝動を抑え、彼は前方の敵へ射撃しつつ後退する。
ひとしきり撃ち、敵部隊から離れ少佐の部隊と合流した彼は、


 (;^^ω)「くっ、パーソク兵共め……次から次へと」

憎らしげに呟くマルタスニムの声を聞いた。

       「少佐! このままでは包囲され、いずれ全滅してしまいます。
        捕虜の命も気がかりです、ここはどうか撤退を!」

6 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:21:34.41 ID:b1+pwXWX0

 (; ^^ω)「そんなことはわかっているホマ!!」

指揮官マルタスニムは怒声を張り上げるも、
銃声によってぶつ切りにされてしまい、副官は聞きとるのに困難した。

パーソク部隊は徐々に距離を狭めてきているようだ。

( ^^ω) 「撤退するぞ! 全部隊に撤退を命じろ!!」


(; ^^ω) 「いや待て、一個小隊を足止めに残せ!!」

      「殿ですか? ですがこの戦力差では壊滅は―――」

(# ^^ω) 「いいから命じるホマ! メンバーはお前に任せる。
       俺は撤退するホマ。急いで追いついてこい!!」

マルタスニム少佐は踵を返し、装甲車へと乗り込もうと走り出す。

が、少佐は突如として現れた壁の前に立ち止まり、体勢を崩してしまう。
辛うじて手に持っていたライフルを強く握りしめると、"彼"へと向けた。


<_;プー゚)フ(ッ! あいつ!?)

黒の短髪に、左目を覆う海賊のようなアイパッチをしたこの男は、
まだ若く少年じみた顔立ちをしているが、隻眼は疲れたように垂れさがり冴え無く映る。
だが少佐は、刃の如き冷たさと鋭さを放っているのを見落としはしなかった。

7 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:23:44.56 ID:b1+pwXWX0

(# ^^ω) 「どけ! 少尉!!」

銃口を向けて吠える。

"少尉"はチューボーからやってきた応援部隊の隊長であり、
あの"カラマロスDN"から生還した頼れる味方ではあったのだが、
今この状況では少佐にとって敵よりも恐ろしい存在でもある。

背後から味方に撃たれるのだけはごめんだ。

('A●) 「少佐、その役目は自分の部隊が引き受けましょう」

口をへの字に結び、機械のような抑揚の無い声で少尉は言う。

絶望的な戦況でいつ敵に撃たれるかも知れぬというのに、
この男の表情は家でくつろいでるかのように穏やかだ。

いけすかない。

マルタスニム少佐は第一印象からそう思っていた。

今となってもその印象が覆ることは無く、不気味とさえ感じられたが、
自ら貧乏くじを引いてくれるというのであれば申し分ない。

8 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:26:02.39 ID:b1+pwXWX0

(; ^^ω) 「そ、そうか! いやすまぬ。少尉、それではこの場は任せたぞ。
       君の勇敢さは必ず私が皆に伝えよう。君こそ、英雄だ」

宝くじでも引き当てたように上機嫌になった彼は、
喜びで上ずりそうになる声を必死に抑えて少尉を称えた。

そして同時に"気味の悪いゴミがこれで減る"と内心ほくそ笑んだ。

銃を構えなおし、片手を差し出して握手を乞うと、
少尉は彼のすぐ傍をそのまま通り過ぎて自分の持ち場へ戻っていった。

握手を無視された少佐は一瞬頭に血が昇りそうになったものの、
慌てて装甲車へと乗り込み、既に搭乗していた部下達に発車を命じる。

<_;プー゚)フ(何考えてやがるんだあの野郎!)


絶体絶命の窮地に自ら立とうとする少尉に、エクストは戸惑いを隠せなかった。
まっしぐらに走っていき彼の胸倉を掴んでエクストが叫ぶ。

<_#プー゚)フ「何考えてやがる! 俺達をここで死なせる気か!?」


('A●) 「逆だ、エクスト。俺はお前達も、600mほど先にいたはずの仲間達も死なせるつもりは無い。
     落ち着いて、今から俺がいうことを良く聞け」

少尉は敵との距離を測りつつ、隊員達を見渡す。

10 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:28:20.80 ID:b1+pwXWX0

('A●) 「味方は後退し、俺達は孤立してしまっている。このまま戦えば死ぬだろう」

('A●) 「だが諸君、これはチャンスだ。俺達が生き延び、負傷者や捕虜達を救い出し、敵を打ち倒す方法がある。
     ただしこれは上官の命令に背き軍規にも背く行為になる。だがそれでも、
     こんなところで馬鹿な上官の尻拭いの為に犬死するよりかは、まだ試す価値のある方法だ」

<_#プー゚)フ「お前の尻拭いを俺達にさせるつもりか?」

('A●) 「そうだ。奴を止める事の出来なかった俺の不始末を、ここでさせてくれ。
     このまま少佐の言われた通りに戦っても死ぬだけだ」

('A●) 「だったら、勝つために戦わないか? そして、捕虜になった仲間たちを救おう」

<_#プー゚)フ「こんな無様な姿を晒しておいて良く言えるぜ!」

/ ,' 3 「エクスト、少尉も所詮は尉官にしかすぎない。
    上には従うしかないんじゃよ。仕方が無かったんじゃ」

('A●) 「……すまない、としか言えん。だが、俺に従う以上はお前達を、俺が勝たせてやる」


少尉の言葉に耳を傾ける隊員達。

相変わらず淡々と語る彼の言葉は、隊員達に響くことはない。
それどころか、せっかくこの場から撤退出来たかもしれないというのに、
あえて地獄行きへ志願した隊長に憎しみを募らせている。

12 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:30:25.39 ID:b1+pwXWX0

だが、


(#'A●) 「諸君! 諸君らが直面しているのは地獄である。
     ではここを突破するには何が必要なのか!? 教えてやろう!
     それは諸君らの力と勇気だ! 俺にそれを与えてくれるのならば、俺は勝利を諸君に与えよう!!」


突如として言葉に熱が加えられる。


(#'A●) 「戦おう、諸君。仲間達を救おう。救いようの無い馬鹿に与えられた戦場を、
      俺と共に駆け抜けてくれ! 生を! 勝利を得たいのならば俺についてこい!!」


少尉の言葉は響きのよい言葉を並べたてただけのものでしかない。

それだけでしかない言葉のはずが、この場にいる兵士達の耳は引き寄せられ、
心に刻みつけられることになった。


(#゚;;-゚) 「どちらにせよ、貴方が少佐に従うしかなかったように、
     私達も貴方に従う他ない。少尉、私は乗ります」

('A●) 「ディ伍長、すまない」

/ ,' 3 「そういうことじゃ、言われずとも従うのみじゃ」

<_#プー゚)フ「ちっ……じゃあ、勝たせてみろよ俺達を」

13 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:32:46.59 ID:b1+pwXWX0

憤っていた隊員達は彼の言を信じ、時間稼ぎの為に死ぬのではなく、
"勝利"する為に命を懸けることを選んだ。


生き残った兵士は21名。


一体、100を超える部隊を相手に、少尉はこの戦力で一体どう戦うというのだろうか。

('A●) 「敵との距離は……おそらく400ほど。
     視界不良も考慮して、恐らくはもう2、3分もすれば接敵するだろう」

兵士達は銃を構え、丘や石に身を隠して彼の言葉を聞く。


('A●) 「そこで、一度交戦する。合図と共に攻撃を中止し、
     その場に倒れて死んだふりをしろ」

('A●) 「声を殺し、迷彩を活かして地形と一体化するんだ。
     仲間の死体の傍に立ち、血を身体に塗りたくっておけ。
     そうすれば敵は俺達が死んだと思いこみ、少佐の部隊を追撃するはずだ。
     まだ、追いつける距離だからな」

/ ,' 3 「本来ワシらを捨石にするはずだった少佐を、
     ワシらが餌に使うというわけじゃな」

('A●) 「そう言うことだ。陽動に使わせてもらう」

14 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:35:02.27 ID:b1+pwXWX0

/ ,' 3 「ほう、それはまた――――愉快じゃわい」

皺の深く刻まれた頬を緩ませた荒巻は、心底楽しげにそう呟く。
すると、前方を警戒していたエクストが口を開いた。

<_#プー゚)フ「敵だ! 0時に敵を目視した!! 装甲車が3、戦車が2!!」

敵を発見した彼は全員に聞こえるように叫び、少尉が続く。

('A●) 「各位、戦闘準備。適当なところで切り上げるぞ。それまで死ぬなよ!」


「了解」と声が返り、仲間の死体の傍で構えた21名の小隊は、顔と野戦服に血を塗っていく。

よく観察すれば負傷していないことは一目瞭然であるが、伏した体勢で見てみると死体に見えないことも無い。
死体に扮した隊員達は、亡くなった仲間達を利用するのに良心を痛ませながらも、銃を構え攻撃を仕掛ける。
視界は悪く、人影らしきものに辛うじて照準し、それぞれ発射した。

銃声が響き、連続していく。

弾丸が飛び出し、空を切り、それに別の弾丸が続き、続き、
弾雨となって敵部隊を襲った。

殺到する弾丸に装甲車の両脇に控えていた兵士達が倒れていった。

血を噴出させて砂の上に叩きつけられる死体。
攻撃に気付いた敵部隊はその場で停止し、装甲車と戦車の機銃が火を噴いた。
マズルファイアが砂嵐の中で輝き、砂を撃ち抜いて塵を吹き飛ばす。

15 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:37:14.51 ID:b1+pwXWX0

一拍の間を置いて敵兵士達の弾丸が扇状に少尉達へと降り注いだ。

砂をぶちまけられた彼らは茶色に染まりあがり、口の中にまで入り込んだ者までいた。
先制攻撃に成功したにも関わらず、たったの一撃で身を竦めさせられてしまう。
もし遮蔽物が無かったとすれば、彼らは一瞬で壊滅させられていたはずだ。

火力の差は歴然であった。


<_#プー゚)フ 「少尉! これでも勝てるっていうのか!?」


(#'A●) 「あぁ! もちろんだ!!」

(#'A●) 「AAがありゃあもう少し楽にすんだろうがな!!」


怒声をあげながらも少尉はM16を連射する。
銃身が乱舞するもののフォアグリップを力強く押さえこみ、
敵を捉える銃口から飛び出した弾が肉を撃ち抜く。

倒れることを確認する間もなく、線をなぞるように銃を振るうと、
隊列を組んだ敵が次々に倒れていった。

攻撃を続け、敵に損害を与えていくものの凶弾に倒れたのは敵ばかりではない。

16 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:39:15.32 ID:b1+pwXWX0

<_;プー゚)フ「……ちっ」

丘から身を乗り出した兵士が、機関銃に身を抉られるのをエクストは目の当たりにする。

戦闘が経過して5分程。

相対距離は狭まり、敵の射撃が正確さを増していくと、
次第に味方の損害も増加してきていた。


……次は自分か?


恐怖がエクストを襲うも、目前の敵に集中することでそれを押しのける。


引き金を引き絞り、5.56mmx45弾が連射されていく。
けたたましい銃声が恐怖を振り払い、エクストを奮いたたせた。

だがやはり、如何せん数が多い。

宙を突っ切っていく弾丸は敵に食らいつくものの、
荒波の前に小石を投げ込むようなもので、
敵の勢いを削ぐことは出来なかった。

17 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:41:35.84 ID:b1+pwXWX0


ち、と舌打ちをついたその時――――


('A●) 『各位、攻撃中止! その場に伏せろ!!』

通信に乗せられた声が隊員達に届けられ、少尉は周囲に手振りでも「伏せろ」と命じた。

すると命令を聞き届けた兵士達は、まばらながらも地面に倒れ込み、
その間断がまた"こちらの死"を真実味を以って演出させた。

中には、本物の死体の下に隠れこむ切れ者もいるぐらいだ。

見破ることは容易ではあるまい。


('A●) 『息を殺せ、敵が通過するまで死体を演じるんだ』


(#゚;;-゚) 『少尉……戦車がこちらに向かっています。このままではミンチにされる』

('A●) 『戦車の動きをよく見て予測するんだ。
     そしてゆっくり移動しろ、気付かれないようにだ。全員にそう伝えろ』

言いつつも彼自身も装甲車の動きをよく窺い、じりじりと移動していった。
音を立てず、砂を舞わせず、ゆっくり、ゆっくりと肢体を安全地帯へと移す。
距離は既に100mを切った。

18 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:43:37.39 ID:b1+pwXWX0

<_;プー)フ「……」

エクストは接近してくる敵に息が詰まりそうだった。

もし自分が動けば、敵は演技に気付き止めを刺しにかかってくるだろう。
そうなれば自分が死ぬだけではなく、仲間達も巻き添えを食らい全滅する羽目になる。

<_;プー゚)フ(やれやれ、死体になる訓練なんて受けたことないぞ……)

敵がもう、すぐ目の前にやってきた。
呼吸を止め"死体"になったは良いものの、
心臓が本当に止まってしまいそうな程の緊張をエクストは味わう。


     「死んだか……」

すぐ傍に来ていたパーソク軍兵士がそう呟き、エクストを踏みつけた。

<_;フー)フ 「……」

背中から強烈な衝撃が肺へと突きぬけていき、
思わず嗚咽を漏らしそうになるのを必死に堪える。

死体は声などあげない。

     「撤退した敵部隊を追撃する。急ぐぞ」

敵は焦っているようで、隊員達を蹴り上げるだけでロクに確認もせず、
敵部隊は装甲車に乗り込みマルタスニム少佐の部隊を追って行った。

20 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:45:39.28 ID:b1+pwXWX0

('A●) 「……」

少尉はエンジン音が遠ざかっていくと後方をちらりと窺い、
敵部隊の影が砂塵に隠れて見えなくなったのを確認した。


('A●) 『各位起き上がれ、もう大丈夫だ』


<_;プー゚)フ「ふぅー……」

起き上がり、しゃがみ込んだエクストは砂を払い、深呼吸をする。
そして砂が銃に入り込んでいないことを確認。


<_;プー゚)フ(まさか、本当に成功するとは思わなかったぜ)


('A●) 「何人残った!?」

/ ,' 3 「4人やられた。全員で17名じゃ」

('A●) 「4人で済んだか……よし、それではこれから目標へ向かって進軍する。
     距離はおよそ900だ。各位、隊列を組め。ここからは分隊単位で行動する。
     荒巻曹長、指揮を頼む。俺の指揮する分隊がAで、曹長がBだ」

命じると少尉は生き残った兵士達を分配していき、分隊を再編成する。
新たに組まれた二個分隊が、パーソク軍の補給拠点へと向けて進軍を開始した。

22 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:47:41.68 ID:b1+pwXWX0

******

歩き続けて10分ほどが経つと、少尉達は敵補給拠点を目視した。

鉄条網の設けられた塀に囲われており、見張り台らしき高台から兵士の姿を確認。
接近すれば彼らに発見されてしまうことが容易に予測出来る。

('A●) 「よし、停止しろ」


片手を上げて命じた少尉に、隊員達は足をすぐに止めた。
相変わらず視界が悪いものの、200mほど離れた丘で停止した部隊からは補給拠点の構造が丸見えだ。

双眼鏡で拠点の様子を確認した少尉は、すぐさま作戦を説明していく。

('A●) 「入口は正面と裏に一つずつ。正門は警備兵が三名、裏門は確認出来ず。
     北西と南東に高台が一つずつ、それぞれ二名の警備兵を確認……よし」

('A●) 「南東の高台にいる警備兵を狙撃する。Bチームは迂回して北西の高台を狙撃しろ。
     合図と共に同時に狙撃するんだ。タイミングを外せば片方に気付かれる、注意するんだ」

('A●) 「狙撃後は速やかに裏門の警備兵を排除し、進入しろ。俺達は正門から攻め上がる」


「了解」と短い答えが返り、少尉は言葉を継ぐ。

('A●) 「捕虜は発見次第保護。敵は一人残らず根絶やしにしてやれ。
     拠点内部は手薄だ。安心しろ、ここまでやってきた諸君に出来ないはずがない」

25 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:50:08.79 ID:b1+pwXWX0

行動開始、と締めくくられ、荒巻曹長率いるBチームが狙撃ポイントへ向かう。
8名の分隊内で、狙撃銃を持つ者は二名。

('A●) 「ビロード、兄者、狙撃は任せたぞ」

( ><) 「はい!」

( ´_ゝ`) 「了解だ」

ビロードと兄者。

トソンやエクストと同じく、戦災孤児として保護され、
兵士に志願したこの二人の新兵に狙撃は委ねられた。

その観測手には二人のベテランの兵士がつくも、
実戦を経験したことのない二人では、役者不足であることは否めない。

('A●) 「……」

だが、少尉はあえて何も言わず新米達に任せた。
これは彼なりの、自分を信頼してついてきてくれた彼らへの手向けだ。
……信頼してくれた者を疑わない。

( (十)<) 「……」

( (十)_ゝ`) 「……」

それが、彼らのポテンシャルを最良の状態に保たせた。
集中力を高め、ライフルを自分の身の一つと一体化させた二人は既に"ただ"の狙撃兵となっていた。

26 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:52:32.74 ID:b1+pwXWX0

     「風が強い。この距離ならばさほど支障はないが、考慮しろ」

ベテランの観測手達は、それでも経験で劣る二人をサポートする。
高台にいる二人の警備兵の狙撃を、確実なものにするために。

/ ,' 3 『こちらB1、ポイントについた。そちらは?』

('A●) 『A1、こちらの準備は出来ている』

/ ,' 3 『了解、こちらもOKじゃ。既にスコープから敵の頭を捉えておる。
     いつでもいけるぞ。指示を待つ』

ヘッドセットを外し、少尉は兄者とビロードへ向け、言葉をかけた。


('A●) 「二人とも、いけるか?」

( (十)<) 「えぇ」

( (十)_ゝ`) 「いつでも」


('A●) 「よし」

('A●) 『こちらA1だ。B1、3カウントで狙撃しろ』

/ ,' 3 『B1了解』

27 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:54:48.02 ID:b1+pwXWX0

('∀●) 『外すなよ?』

/ ,' 3 『言われずとも』

('A●) 「聞いてたな、お前達。3カウントだ」

( (十)<) 「了解」( (十)_ゝ`)

('A●) 『カウント開始。3』

二人は砂塵に隠れる人影を注視。

('A●) 『2』

息を深く吸い込み、止めて、手の微かな震えを抑え、狙いをより正確なものへ。

('A●) 『1』

引き金にかけた指に力を込め――――

('A●) 『ファイア!』

狙撃した。

二人の放った弾丸が空を切る。

強風を穿ち、砂を物ともせずに進んでいくが、
距離を延ばすごとにつれ僅かにズレが生じてしまう。
だが、それすらも計算していた二人の銃弾は見事に敵兵二名の胸を撃ち抜いた。

29 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:57:18.92 ID:b1+pwXWX0

同時に、北西の高台の警備兵二名が倒れるのを少尉は確認した。

('A●) 「よし、ご苦労だ。各位進軍するぞ。姿勢を低くとれ」

素早く隊列を組み直したAチームはエクストを先頭にし、
指揮官を中心に据えて歩き始めていく。

距離は200mほど。

走るようなスピードで歩く彼らの進軍は、俊敏と言う他なかった。
塀に取りつくと、彼らは警備兵三名を発見する。
少尉が即座に攻撃を命じると前衛の三名が発砲するだけで、
呆気なく敵兵は地面に崩れ落ちる。

その場で停止し、リロード。

弾丸を補填を終え、すぐさま正門へ突入。

('A●)(……兵は神速を尊ぶというからな!)

皮肉めいた思いで少佐のセリフを思い返すと、少尉は兵舎らしい建造物を目指す。
……銃声がしたというのに、静かすぎる。

不自然さを怪訝に思った少尉の気持ちは逸った。
エクストを押しのけ、ドアを蹴り飛ばすと彼は真っ先に突入する。

30 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 22:59:50.55 ID:b1+pwXWX0

<_;プー゚)フ「おい!?」

嫌な予感しか、彼には浮かばなかった。


だから、走る。

通路を進み、曲がり角から敵兵士が現れるも、
警戒もクソもないといった体であり武装すらしていない。

そんな彼は少尉の姿をその眼に納めると度肝を抜かした。

   「ッ!?」

咄嗟に腰のホルスターに納めていたハンドガンを抜こうとするも、
次の瞬間にはM16のストックで横顔を殴られてしまい、
衝撃に身を揺らめかせられたかと思えば、何時の間にか抜かれたナイフで喉を切り裂かれた

血液が勢いよく吹きだされると少尉の顔にかかり、
遅れてやってきたエクストの気配を感じ取ったのか、
血にまみれた顔で背後を振り返る。

31 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:01:57.28 ID:b1+pwXWX0


('A●) 「エクスト、嫌な予感がする。班に分かれて屋内を隈なく探せ!
     敵兵を発見次第殺すんだ。早く捕虜を探し出せ!!」

<_プー゚)フ「了解だ。だが、何をそんなに焦ってるんだよ?
         お前一人じゃ――――」

('A●) 「充分だ」

エクストの言葉を聞かずに少尉は走り去り、
部屋を見つけては捜索していき、敵兵は容赦なく排除していった。

<_;プー゚)フ「くそ……なんだってんだ」

呆然としたエクストは合流した残りの隊員達に少尉の指示を伝え、
3つの班に分かれて捕虜の捜索を開始する。


戦闘が開始して約4時間が経過した頃、戦場には嫌な空気が漂い始めていた。

32 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:04:29.76 ID:b1+pwXWX0

******

負傷して砂の上に倒れてしまった私に、彼らは止めを刺さなかった。

まだ距離はあり、逃げようと思えばいつでも逃げられる距離だ。
敵は既にこちらを捕捉していることだろう。私の命は風前の灯である。

しかしこのままやられるわけにはいかず、こみ上げてくる恐怖を押しのけて走りさろうとするが、

(゚、゚メ;トソン 「ッ!」

地面についた足へ力が入らずに、そのまま倒れてしまった。

上半身を砂に打ちつけると灼熱と撃たれた痛みが巡っていき、卒倒しそうになる。
当然だ、両足の筋肉を弾丸が削ぎ取っていったのだから。

顔を上げた私の目には遠ざかっていく味方がどんどん小さくなって、
最後には点になってしまうのが見えた。唯一の救いの手は離れてしまい、
代わりに敵兵士の手が私から武器を奪い、辛うじて生き残った味方と共に装甲車に乗りこませた。

部隊から離れたこの敵達は、どうやら私達を捕虜として拠点へと連れていくようだ。

到着までにそれほどの時間はかからず、ついた途端中央にあった兵舎に連れていかれ、
階級が一番高そうな、勲章を胸に沢山付けた男が私達を見定める。

黒の双眸が私の全身を舐めまわしていくようで、いやらしく、生理的嫌悪を覚えた。
今すぐにでも男の首を締めあげ、欲に塗れたこの視線を止めたくてたまらなかった。
怒りにも近い攻撃衝動が身を突き動かしかけたが、敵地に捕らえられているという恐怖と傷の痛みで、
結局身体は動かずじまいだ。

33 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:06:30.50 ID:b1+pwXWX0

いや、それ以前に背後に控える兵士達に銃を突きつけられている状況もあり、
辛うじて機能し続けている理性が"ここで死ぬ"ことを拒否しているのだ。

兵士達の数は12人。

捕虜達は7人ほど。

他にもたくさんあの場にはいた気がしたのだが、皆死んでしまっていたのだろう。
私の臆病な心は彼らに仲間入りすることを未だに拒んでいる。

これから、何が始まるかも知らずに。


敵兵士達は私達を壁際に立たせると、一斉に発砲した。

(-、-メ;トソン 「ッ!!」

銃声が鼓膜を叩き、恐怖から目を瞑ってしまった私は、

(゚、-メ;トソン 「……?」


まだ生きていた。

左右を見渡して見れば仲間達は確かに倒れてはいるが、
その誰もが男性であることがすぐに理解できた。

そして、これからどんなおぞましいことが始まるのかということも。

34 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:08:40.86 ID:b1+pwXWX0

生き残った私を含める3人の女性捕虜は、敵兵士に髪やら襟を引っ張られて、部屋につれていかれた。
1人に4人もの男がつき、力の差に抵抗する余地すらない。
それにもし抵抗したとすれば殺されてしまう事は目に見えていたので、抵抗する気力も奪われていたのだ。

だが、私達の中でも勇気のある女性がおり、
やれ「戦争犯罪だ」やれ「人道に外れる」など抗議を始めるも、
男達はそれを一笑に付すと彼女を殴り飛ばし、その場で犯し始めた。

嫌がり手を振り乱して抵抗する女性兵士を抑えつけ、服を破いて兵士達は馬乗りになっていく。
泣き叫ぶ彼女を男達に良いようにし、下卑た笑いを浮かべていた。
力づくで従わせる、下種な行為に震える程の怒りを覚えたが、同時に自分もそうされてしまう恐れも抱いた。

部屋に連れていく予定だったのだが、我慢が出来なくなったのか、
兵士は私の腕を掴むと軍服を彼女と同じように引き裂いていき、
晒された下着にいっそう興奮した様子で、鼻息を荒くさせる。

手が慌ただしく私を裸に剥いていく。

(-、-メトソン 「……」

その手を止めてやりたかった。

今すぐ関節を外し、その首の骨をへし折ってやりたい。
だがそんなことをしても殺されるだけだ。

抵抗もせず、私はただされるがままに身を任せ、一切の感情を消していく。
……出来ることなら、愛した人に身を捧げたかった。

まだ処女であることを兵士達は知ると口笛を吹き、ズボンを降ろした。

37 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:10:42.20 ID:b1+pwXWX0

悔しかった。

言葉にならないほどに。

今すぐこの場で泣き叫びたかったが、敵に屈したようで癪だ。
私に出来る唯一の抵抗と言えば、無表情でいることだ。

怒りも悲しみも憎しみすらも、感じる心が無ければ覚えることはない。
心を閉ざし、私は感情を消そうとした。
この苦しみも屈辱からも、そうすれば逃れられる。


目を瞑り、男達の好きにさせていると、
ふと最初に犯され始めた女性の声が聞こえ無くなったことが気にかかった。
薄目を開けてみると、彼女はもう口を閉ざしているようだった。

目は虚空を見つめ、口はだらしなく開かれており、事切れている。
あまりの煩さに嫌気がさし、男の一人が行為の最中に首を絞めあげたのだろう。
彼女はもう何も語りはしないし、屈辱も感じない。ある意味では救われたと言えよう。

だが、彼女の顔は語っている。

「この糞野郎共、ぶち殺してやる」と。
法や人道を説いていた彼女は怒りと憎しみを抱いて逝ったのだ。
私も同じだ。こんな奴ら、一人残らず地獄へ落ちればいい。


思考を戻したその時、今まで忘れようとした痛みと悲しみが一気に溢れだしてしまう。

38 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:12:50.09 ID:b1+pwXWX0

(;、;メトソン 「―――――ッ!!」

処女を奪われた傷が痛かった。殴られた箇所が痛かった。

負傷が痛かった。

汚された身体になってしまったことで喪失感がこみ上げ、
胸を抉るように心が痛かった。

思わず叫んだ。

泣いた。

声が枯れるのではないかと思った。

そんな私に男達は気を良くして腰を振りだす。

……やめろ。

気がつけば、そう叫んでいた。
何度も何度も泣きながら叫び続けた

……やめてください。

いつしかそれは懇願となり、男達は下卑た笑い声をあげる。

男達がそんなことで止まるはずもなかった。
下種共の宴は絶頂を迎えるも終わりは見えない。

39 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:15:02.83 ID:b1+pwXWX0

「ようし、それじゃあ第二ラウンドと行くか」

下種共が笑みを浮かべて近づき、私へと再び手を伸ばした。
嘆息し、瞼を閉じるとまた、彼らのいいようにされてしまう。

が、瞼を閉じたその一瞬、


 ('A|  |


見覚えのある顔に目を奪われた。


……少尉?


何故、彼の幻が見えるのだろう?と不思議に思う。
別に少尉に特別な感情を抱いたことは無いし、親しいわけでもない。
それとも、救援の象徴として彼を思い描いたのだろうか?

だが、現実として救援がくるなどとは考えられない。

あれだけ苦戦し、後退も開始していたのだ。

恐らく、この拠点を攻撃出来るようになるのはまだまだ先の話だろう。
こんなに早く部隊がやってくるはずがない。

だからこれは、幻なんだ。

40 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:17:03.55 ID:b1+pwXWX0

甘い考えを一蹴し、再び思考を遮断した。
だがもう一度目を開いてみれば、

('A|  |

幻はまだそこにあって――――


(#'A●) 「……ッ!!」

扉を勢いよく蹴り飛ばした途端M16で男達を銃口でなぞっていく。

距離は10mと開いてはおらず、銃声が聞こえた時には既に全員倒れていた。
肉片が飛び散り、侵入者に反応する間もなく彼らは呆気なく死んでいき、
私に馬乗りになっていた男の血が、汚れきっていた身体に付着した液体と混ざり合い、悪臭を放つ。

8人の男達を殺害するまでにかかった時間は5秒とかからず、
今までのことが嘘のように思え、ただ少尉の腕の良さだけが理解出来た。

少尉は兵士達の死亡を確認していくと、私にもたれかかった男を引きはがし、


(#゚A●) 「この糞野郎が!! クソ、クソ! クソォッ!!」

死体を蹴りあげるとM16の残弾全てを叩き込んだ。

肉を抉る生々しい音と血を弾く嫌な水音が部屋に木霊し、
硝煙が部屋に立ちこめて少尉の顔が見えなくなってしまう。

41 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:19:24.36 ID:b1+pwXWX0

(#゚A●) 「はぁ、はぁ……はぁ……はぁ」

荒い息を吐く彼は、怒りの限りを死体へとぶつけ、
弾を撃ち切った後もまだ引き金を引き続けていた。

だが、空のマガジンは弾丸を送ることはなく、カチ、カチと虚しく金属音が響くのみだ。


(#-A●) 「はぁー……はぁー」

目を瞑り息を整えると、彼は屈みこんで私を見た。
黒い隻眼が目をじっと見つめてきて、そこから戸惑いを感じ取れた。
どうやら、かける言葉を探しているようだ。


私を怯えさせない為か、少尉は不器用な笑みを作ってゆっくり近づいてきて、
自分の野戦服を脱ぐとそっと肩にかけてくれる。


('A●) 「……トソン、すまない。救助が遅れた」

(;、;メトソン 「いえ……」

('A●) 「もう大丈夫だ。エクスト達もここに来ている」

(;、;メトソン 「……」

44 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:21:28.87 ID:b1+pwXWX0

('A●) 「だから、安心してくれ。もうお前を脅かす者はいない」

先程まで諦めていた命を救われた。

彼の言葉に絶望の淵に追いやられていた心は安堵を得ると、
途端に夢から覚めたかのような思いになる。
"戻ってきた"みたいだ、というのが率直な感想だ。

今まで起きていたことは現実などでは無く、悪い夢であったのだと、そんな風に感じられる。

いや、そう"思っていたい"というのが正しい。
ようは、現実を受け入れられないのだ。
自分の弱さを噛みしめると、苦い思いがじわりと身を浸していく。

('A●)つ 「一応手当はされているようだが、立てるか?」

彼は私の心境を察してくれたのか、それとも偶然か、手を差し伸べてくれた。

グローブを装着したその手は、地獄へと伸ばされた蜘蛛の糸のようにも見え、
縋りつくかのように自分の手を伸ばすと――――――

(;、;メトソン 「えっ!?」

彼は私に飛びかかって押し倒してきた。
咄嗟のことで意味がわからなかったが、その答えはすぐに理解できた。

銃声が室内に轟いていったのだ。

それも、近接戦闘では過剰とも言える殺傷力を持った散弾銃のものである。

45 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:23:41.60 ID:b1+pwXWX0

(#゚A●) 「死に損ないがぁ!!」


少尉は私を背後へ突き飛ばし、身をよろめかせながら部屋の端へと、
何時の間にか抜いたコルトパイソンを向けた。

引き金が引かれ、音が二つ鳴り響く。


少尉の放った弾丸は身を伏せた瀕死の兵士の頭蓋をたしかに打ち砕いたが、


(;、;メトソン 「ッ!!」


返り血が、私の盾となる形で立つ少尉の血が、顔を濡らしていく。
べとりとこびり付いた肉と鉄の臭いが鼻腔をつき、


(;、;メトソン 「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」


倒れていく少尉が信じられず、パニックに陥った思考回路が叫びをあげさせた。

46 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:25:42.98 ID:b1+pwXWX0

だが、辛うじて手を突いて見せた彼はこちらを振り返る。
痛みで顔には尋常ではない汗が流れているものの、涼しげな表情をドクオ君は作っていた。

(;'A●) 「ぐうぅっ! ト、トソン……無事か!?」


口走ったのは私を案ずる言葉。


撃たれた痛みを跳ねのけて、真っ先に他者を思いやれる、優しい彼は……。


彼の足は――――


(;、;トソン 「あ、ああぁぁっぁああああああ!!」


―――醜い肉塊と化していた。


掻きむしられたかのように散弾でぐちゃぐちゃにされた左足は、
辛うじて残った肉から骨を覗かせており、砕けたそれが肉を突き破っていた。
足元には、既に血の水溜りが作られている。

それでも無事な右足を使い、引きずりながら歩いて少尉は私に近づいてきた。

(;'A●) 「お、落ちつけ……! くそっ……怪我は、無いか?」

47 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:27:48.44 ID:b1+pwXWX0

(;、;メトソン 「ど、どうじで! どうじてぇっ!?」

(;'A●) 「あぁ?」

(;、;メトソン 「うっ、あぁっ! うぅ、どうして! み、身を! 身をっ……までぇ!!
      なんで、なんでぇ、ぞんな怪我してるの……ひっ…に!」


(;'A●) 「あぁ……そうだな」

彼は私のすぐ傍を通り過ぎていき、部屋にあった机を持ってくると、
それを扉に向かって横に倒し、設置する。
バリケードのつもりなのだろう。

その後ろに隠れて無線機を取り出すも、散弾の一つを受けたのか使い物にならなくなっていたようで、
使ったティッシュを捨てるみたいに放り投げると、腰を落ち着ける。

ボロボロになった―――使い物にならなくなった足を伸ばし、
バックパックから弾薬を手に取ると、M16のマガジンに詰め始めた。

カチン、カチンと規則正しい金属の音がよく響き、耳に残る。

(;-A●) 「トソン、お前に、どうして俺が今の地位にいるか説明してなかったよな?
      説明するから、ちょっと世間話でもしようや」

(;-A●) 「いきなりだけど俺はな、ガキの頃から兵士だったんだよ」

(;、;メトソン 「えっ?」

49 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:29:56.45 ID:b1+pwXWX0

('A●) 「物心つく前から、もうパーソクのゲリラの一員だった。
     恐らくは、どっかからかっぱらわれてきたんだろう。
     毎日毎日山岳地帯で戦闘訓練を受けて、7歳ぐらいの頃にはそこらの軍人なんぞよりかは強くなってた」

('∀●) 「もしかしたら、今のお前より強かったかもな」

(;、;メトソン 「……」


カチン。

最後の弾を込めた少尉はM16を傍に置くと、パーソク兵士が放り投げていた野戦服を拾い上げる。
するとその袖を引き裂き、包帯の代わりに脛から少し上をきつく縛り付け、

(;'A●) 「……ッ!」

痛みに歯を食いしばりながらもズタズタになった左足を止血した。


(;、;メトソン 「大丈夫、ですか?」

('A●) 「あぁ……」

苦しい顔を見せまいと、表情を一片させた彼は胸の内ポケットからライターとタバコの箱を取り出し、
一つ抜き取って口に咥えた。キ、という小気味の良い音が聞こえるとタバコには火が灯っていった。

50 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:32:26.64 ID:b1+pwXWX0
 _,
(;-A●)y━~~ 「フー……」

眉の根を歪めて紫煙を吐き出していく彼は、やはり傷が痛むらしく、
やせ我慢が限界へ近づいてきているのが察せられた。

……当然のことだが。

タバコを咥えてM16を手に取ると、扉のほうへ注意を向けて再び語り始める。


('A●)━~~「実戦にも出た。人を殺すことが、悪いことだって知ったのは9歳の時だ。
        フォークやスプーンの扱いよりもナイフと銃の扱いのほうが得意だった」

('A●)━~~ 「何も特別なことじゃない。俺のようなガキはそこにはゴロゴロいた。
        訓練受けて、警備やって、ちょっとした自由時間を与えられて、メシ食って。
        たまに民家を襲って、軍隊と戦って。そんな生活をしていた――――――」

('A●)━~~ 「そんな生活をしていたんだが、ある日の戦闘でな。
         これまで相手にしてきた連中とは比べ物にならないくらい強い奴らが現れた」

52 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:34:37.52 ID:b1+pwXWX0

(-A●)━~~ 「攻めてきた部隊を見て、いつも偉そうに怒鳴り散らしてた教官は顔を青ざめさせてさ。
         この世の終わりみたいに『戦士が来た』って言ったんだ」

(;、;メトソン 「ッ!?」


"戦士"

20世紀最高の兵士であると言われ、ニューソクはもちろん、
各国の軍人達が畏怖の念を込めてそう呼んだ者がいると、荒巻さんから聞かされたことがある。

ニューソクの窮地を何度も救い、不可能であると呼ばれた作戦の数々を成功へ導き、
最前線に立つ兵士達の希望となった、特殊遊撃部隊"GJ"の創設者。
かつても、これからも彼女に並ぶ者はいないであろうとさえまで称された最強の兵士――――


('A●)━~~ 「高岡ハインリッヒ率いる、特殊遊撃部隊GJ。
        交戦したはいいが、やっぱりかないっこなくてよ。
        お前ら、足止めしてこいって命令されて、ガキ共を前に立たせて大人達は逃げていった」

('A●)━~~ 「俺は運が良かったよ。いや、馬鹿だったから助かったのか。
        少年兵の戦いってのは胸糞の悪い物で、ハインリッヒを発見した俺は特攻した。
        もうまっしぐら。AK持ってそのまま突っこんでくだけだ」

('A●)━~~ 「でもハインリッヒは俺にすぐさま気付いて、塹壕に飛び込んだ。
        追ったは良いが、2秒とかからずに飛び出てきたアイツはロクに狙いもつけずに撃った。
        あの時はそう思ったが、違ったんだ。もうアイツは照準を合わせていたんだ」

53 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:36:39.58 ID:b1+pwXWX0

('A●)━~~ 「AKはぶっ壊れて、ガバメントを抜いて撃った。その時にはもうハインリッヒは懐に入り込んでいて、
        CQCを使ってきた。咄嗟にガバメントを捨てて奴の攻撃を受け流して、ナイフを抜いて――――」

(-∀●)━~~ 「……あの時は痛かったな。何時の間にか俺は空を見ていた。
        足を払われて、ずっこけてたんだよ。その後も何度か組み合ったが、全く歯が立たなかった」

(;、;メトソン 「……」

('A●)━~~ 「おっと、すまん。無駄な話だったな、これは。
        俺がどうして今の地位にいるかと―――――」

(;、;メトソン 「いえ……」

('A●)━~~ 「?」

(つ、;メトソン 「続けて……」

(゚、⊂メトソン 「続けて……。珍しく、ドクオ君が、楽しそうに話していたから」
 _,
(;'A●)━~~ 「……そうか?」

((゚、゚メトソン 「……」コク

(;'A●)━~~ 「じゃあ、続けるとな。その後、ハインリッヒにこてんぱんにされた俺は、捕虜にされたんだよ。
        捕虜というよりも、保護に近かったがな。少年兵なんて違法だからな」

55 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:38:41.53 ID:b1+pwXWX0

('A●)━~~ 「でも、ガキ共が全員助かったわけじゃない。助かったのは俺を含めて2人だけだ。
        まぁ片割れは戦闘で負った傷が酷くて、処置を受ける前に死んじまったけどな」

(゚、゚メトソン 「……」

('A●)━~~ 「別に、GJが残虐だったわけじゃない。救えるのなら救おうとしたはずだ。
        だけど俺達は、救いようが無かった。麻薬漬けにされた俺達は戦う為だけに生きていた。
        目の前にいる敵を殺すことしか、考えられなくなっていたんだ。飯の中に薬が混ぜられてたみたいでさ」
 
('A●)━~~ 「俺は本当に運が良かった。そんな銃弾をばら撒く機械になったガキ相手に手加減できる、
        ハインリッヒのような化物を相手にしていたから生き残れた。
        ホント、強敵を相手にしたから死なずに済んだなんて、おかしな話だ」

('A●)━~~ 「で、またおかしなことに、ハインリッヒが俺を預かることになったんだ。
        養護施設に保護されるはずだったんだが、
        アイツは俺に『監獄に入るか、アタシの子供になるか好きなほうを選べ』って言ってきた」

('A●)━~~ 「意味はよくわからなかったが、ハインリッヒの強さに惹かれた俺は迷わなかった。
        その時からハインリッヒ―――ハインが、俺の母親になって、師匠になった。
        まぁ、あくまでも俺は非公式な存在だったんだけどな。前線ではそんなことは気にも止められなかったが」

(゚、゚;メトソン 「えっ、だとしたらそれは……」

('∀●)━~~ 「そう、"戦士"高岡ハインリッヒの息子で、最初で最後の弟子。
        高岡ドクオってのが俺の正体ってことだ」

56 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:40:42.88 ID:b1+pwXWX0

(゚、゚;メトソン 「いや……知りませんけど……でも、ドクオ君は戦士の弟子だったの?」

(-A●)━~~ 「そうだ。わけがあって、今は偽名を使っている」

(-A●)━~~ 「俺もGJの一員として戦っていたんだが、5年前。
        三ヶ国大戦の舞台、カラマロスDNでGJは壊滅した。
         ある任務を受けていた俺は辛くも生き延びたが、そこで命を狙われることになってしまった」

(゚、゚;メトソン 「あの惨劇で……」

('A●)━~~ 「何とか排除して、チューボー基地に逃げ込んだはいいが、特務機関を敵に回したみたいでな。
       そこで、荒巻の爺ちゃんやフサギコ達、GJの隊員が助けてくれてな」

(゚、゚;メトソン 「フサギコさんと荒巻さんまで関わっているんですか!?」

('A●)━~~ 「あぁ、二人は俺の正体を隠すように、カラマロスDNで戦死した若い下士官、
        鬱田タケシの個人情報を手に入れてな。俺はそれを使って戦い続け、今こうして少尉になったわけさ」

(゚、゚;メトソン 「……」

('A●)━~~ 「以上が、事のなり行きってわけだ。そこで、何なんだがトソン――――」


(゚、゚;メトソン 「はい?」


('A●)━~~ 「特務機関"国家総合案内所"と俺達は戦っている。お前も、手伝ってくれないか?」

57 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:42:43.69 ID:b1+pwXWX0

******

1976年 6月3日 2037――――ウプスレッド基地 鬱田タケシ少佐の士官室


<_プー゚)フ「随分とまぁ、懐かしい話で」

(゚、゚トソン 「まだ五年前ですよ」

/ ,' 3 「そうじゃのう。しかし、あの時の作戦はよく上手くいったものじゃわい。
    ワシはあの時死ぬものだと思っておったわ」

<_プー゚)フ「あん時はまだ、アイツのことを信用できなかったからな。
         捕虜救出後、残っていた装甲車と戦車をかっぱらって敵残存隊を本隊と挟撃し排除。
         マルタスニム少佐が"流れ弾"で"不運"にも戦死しちまったが、戦果は挙がった」

(゚、゚トソン 「えぇ。その後の活躍も目覚ましいものがありました。
       シラネーヨ司令が目をかけ、GJを継ぐ部隊ウォードッグ隊が創設され、
      彼がその隊長に任命されるきっかけとなるほどに」

(゚、゚トソン 「ですが……少佐はその代わりに、左足を失ってしまいました」

<_プー゚)フ「あれは、仕方ねぇだろ。散弾を二発受けてたんだ。
         足で運がよかったと考えるべきだ」

58 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/26(月) 23:44:58.55 ID:b1+pwXWX0

(゚、゚トソン 「ですが――――」

<_プー゚)フ「トソン、ちったぁ俺達を信頼してくれ。少佐は、俺達を信頼してくれてただろ?」

(゚、゚;トソン 「――――ッ!」

/ ,' 3 「はっは、その通りじゃわい。部下を信頼することも、トソンちゃんは覚えるべきじゃ。
    たしかにお前の言う通り少佐は仲間を見捨てることはしない。
    じゃが、ワシらの能力を疑うこともせんわ。少佐に倣い、今日は休んでおけ」

(゚、゚トソン 「……わかりました。では、お言葉に甘えて、今日はここで休息をとらせて頂きます」


(゚、゚トソン 「ですが」


/ ,' 3 「?」


(゚、゚トソン 「私は、絶対に少佐を諦めません。ですから、私はこの部隊を引き継ぐつもりはありません。
      もとより、私は中隊を率いるような階級ではありませんし。だから、この部隊を一時的に私が預かります」

(゚、゚トソン 「それに」


(゚、゚トソン 「彼が、そう簡単に死んでしまうような人ではないことは、私が良く知っていますから」


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