川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです

2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/01/31(火) 00:44:25 ID:5aCCN7uY0


戦争犬の失踪。


彼女の怒り。


幸福の味を知り、希望を抱いていた少女は道しるべを失う。


戸惑い、身を切り裂く程の絶望を味わう少女の慟哭。


――――涙で赤く腫らせた瞳で、少女が見るものとは?

3 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:45:10 ID:5aCCN7uY0


      川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです


        
          第十二話 続・少女の世界

4 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:46:11 ID:5aCCN7uY0

******

6月3日 7時38分 ――――素直クールのアパート。



川 - ) ……


閉ざしたカーテンの隙間から朝陽が差し込む。

薄暗い部屋に輝く一筋の光が泣きはらした目に痛く、
覚醒と睡眠の狭間にあった意識が揺らめいた。

ベッドに身を預けてはいたが、あれから結局眠ることは出来なかった。

一晩中涙を受け続けた枕はしめりきっているが、
それを抱くと心に出来た空白を埋めるのにちょうど良かった為、
未だに抱き続けていた。

そして、その隣には彼より託された、
深みのある青を帯びた黒のリボルバー、蛇の名を冠する"コルトパイソン"が置かれている。

ハインさんから彼に渡された、大切な、形見ともいえる銃。

御守りとしてドクオの手に委ねられたこれを持っていれば、彼も助かったのだろうか?

5 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:48:07 ID:5aCCN7uY0

           【ヴィジョン】


( A●) 『でも俺達の生きる道は違うんだ。生きる世界が違うんだ。
     俺にお前の傍にいる資格なんてないんだ。
     だから、俺がいずれ銃を捨てるその時まで、待っていてくれないか?』

    『わかった……』

( A●) 『じゃあこいつを持っていてくれないか?』

   『い、いいのか?』

( A●) 『あぁ、俺を護る必要はもうない。
     だから今度はクーを護ってくれって、ハインにも頼んでおいた。
     きっと、ハインもお前のことを護ってくれるよ』


違う。


護られるべきなのは……。

          

(、#トソン 『貴女のせいだ! 貴女のせいで、私達の望みはここで断たれてしまった!!
      私達にとって、私にとって! 彼は希望であったというのに!!』

6 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:49:17 ID:5aCCN7uY0

……。


時計に目をやればもう7時半を過ぎている。
そろそろ準備をしなければ9時の出社には間に合いそうにない。

憂鬱な気持ちを端に追いやり、涙で汚れた顔をシャワーで洗い流そうと浴室へ足を運ぶ。


服を脱ぎ捨て、浴室の電気をつけて入っていく。


川**゚ -゚**) ……


頬は腫れあがり、目の充血した顔が鏡に映った。

……酷い顔だ。


こんな顔で会社へ行くわけにはいかない。
赤いバルブを捻るとお湯が放射され、朝の冷えた浴室に湯気が立ちこめる。
泣き疲れた身が暖められて緩やかな快感に浸されていく。


顔面からシャワーを浴びて、目ヤニを悲しみもろとも洗い落とそうとした。

7 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:51:25 ID:5aCCN7uY0

……あいつがいなくなっても、私の生活は続いていく。

だから、今日は仕事へいかなければならない。
いつまでも悲しんでいる暇などないんだ。

昨日、丸一日泣き続けていたんだ。

もう、それで充分じゃないか。

元から私は一人だったんだから。
元に戻った、ただそれだけのことじゃないか。


川つ-⊂) 「ッ!」

パン、と顔を両手で張りつけて気持ちを切り替えさせる。

頬に響く痛みは一時憂鬱を打ち消す。
だが会社へ行くことがとても億劫で仕方がない。
何より身体がだるく、頭が重たくて仕事にはならなさそうだ。

……いかん、私情を挟むな。

内心で一喝し、シャアーのバルブへと手をかけていき――――

8 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:52:24 ID:5aCCN7uY0

( A●) 『クー、俺はお前が好きだ』


率直で、あの飾り気のない言葉が突如として脳裏に蘇り、


川 皿 ) ……ッ!!


虚無に心が塗りつぶされた。


……何が……何がッ!!


    『ありがとう……私も、ドクオのことが大好きだ。
     私はずっと、ずっとお前に会いたかった……』

9 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:53:50 ID:5aCCN7uY0


川#;Д;) 「うあぁあぁぁぁぁあぁあぁぁぁああぁぁぁぁッ!!」


果たされぬ約束。


ほんの一時だけ掴み、たったの一日で手から零れ落ちた至上の幸福。


いずれ再び……そう夢見た日々は――――――


川#;Д;) 「一緒に! 一緒にいたかっただけなのに!! どうしてぇ!?
       うっ、うぅぅぅ!! んっ、ぐ、お、お前も、お前もどうしてそんなに無茶するんだよ!」       


川#;Д;) 「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


―――――もう手に入ることはない。

10 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:56:01 ID:5aCCN7uY0

******

6月3日 9時13分――――ダーウィン社兵器開発部のオフィス


朝礼を終えた後、社員達はそれぞれの仕事場に向かう。

ある者はデスクに向かい、ある者は会社の敷地内にある工場へ向かい、
新兵器の開発計画の一つを一任されている私は真っ先に研究室へ向かおうとしたが、

爪'ー`) 「素直君、ちょっといいかな?」

川 ゚ -゚) 「はい」


フォックス課長に呼ばれ、招かれるままについていく。


爪'ー`) 「ちょっと、君に会ってもらいたい人がいるんだ」

川 ゚ -゚) 「はぁ……」


オフィスを抜け、廊下を歩いていくと、
途中にある会議室の扉に課長は手をかけた。

ノックをし、ドアノブを回していく。

11 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:57:11 ID:5aCCN7uY0

爪'ー`) 「失礼します。素直君、こちらは―――」


(´・_ゝ・`) 「直接お目にかかれて光栄です、素直クールさん。
       お噂はかねがね聞き及んでおります」

(´・_ゝ・`) 「私、ニューソク軍兵器研究所の盛岡デミタスと申します」

川 ゚ -゚) 「あ、はい。どうも」


名刺を差し出され、受取りながらちらりと見やって確認。


(´・_ゝ・`) 「あっ、こちらは杉浦ロマネスクと言います。
       私の護衛として同行して貰いました。
       失礼ではありますが、機密資料を持ちだしているものでして」

( ФωФ) 「……」

川 ゚ -゚) 「はぁ……」

(´・_ゝ・`) 「念のために、ですがね」

爪'ー`) 「よろこべ、素直君。今回、君に依頼したい仕事があるらしい」

12 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:58:50 ID:5aCCN7uY0

(´・_ゝ・`) 「えぇそうなんです。
       現在軍で進めているプロジェクトがあったのですが―――」

言葉を続けながらも机の上に置かれたプロジェクターを操作し、
スクリーンに映像が浮かばせていく。

鉱山らしき写真。

拡大された粒子の写真。

既存の銃器兵器の数々。

目まぐるしいほどの膨大な数字。


川 ゚ -゚) 「……」

数々のデータを眺めていると、デミタスが口を開き始める。


(´・_ゝ・`) 「これはそのプロジェクトの、研究対象となっている物です。
       鉱山を見てください。これはカコログ鉱山と言いまして―――」

川 ゚ -゚) 「30年前、原因不明の爆発事故の起きた場所ですね?」

(´・_ゝ・`) 「ご存知でしたか。それでは話が早いですね」

(´・_ゝ・`) 「カコログ鉱山の周辺に住んでいた住民に、爆発事故について警察は聞きこみを始めました。
       数少ない生存者にも。そして、爆心地である鉱山には軍が調査を……」

13 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 00:59:51 ID:5aCCN7uY0

(´・_ゝ・`) 「原因は一向に解明されていない。表向きは、ですがね。
       初動調査で原因はすぐに解明されていたんですよ。
       その原因は、鉱山の画像の隣にある、微粒子にありました」

爪'ー`) 「たかが粒子に?」

(´・_ゝ・`) 「はい、調査隊は鉱山に入ってすぐ異変に気付きましたよ。
       爆発のあった最奥部。そこには光が溢れており、眩いほどだったそうです。
       粒子を採取した調査隊は帰還し、我々の研究所に回ってきました」

(´・_ゝ・`) 「解析した結果、色々とあったのですが、
       ある事故が起きたことでこの粒子の正体が判明しました」

(´・_ゝ・`) 「これは、"あらゆる物体"の威力をあげる効果のある粒子―――
       解析作業中、それに気付かず機器がスパークを起こして大変でしたよ」

川 ゚ -゚) 「あらゆる、物体?」

爪'ー`) 「……」

(´・_ゝ・`) 「えぇ、あらゆる物体です。解析の際に試験管にかかった微弱な電気が強化され、
       機器を破壊してしまいました。そうしてこの仮説が立てられ、
       銃器を用いたテストで証明されたのです」

川 ゚ -゚) 「本当なのですか?」

14 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:01:19 ID:5aCCN7uY0

(´・ーゝ・`) 「信じられませんか? では、こちらの映像をご覧ください」

顔をにやけさせたデミタスは、
プロジェクター隣に置かれたノートパソコンを操作していく。

スクリーン端を指していた矢印が移動。

フォルダが開かれ、ファイルをクリック。

プレイヤーが起動。

恐らく研究所内の射撃場が映しだされる。
機械に固定化されたアサルトライフル、M16が分厚い防弾ジャケットを装備するマネキンを狙う。
研究者の操作したパソコンからリモートコントロールされた機械が始動。

小気味の良い、跳ねるような銃声。

命中。

マネキンに装備されたジャケットは取り外され、
カメラの前に映しだされる。

未貫通。

ジェケットに穴は空いているものの、マネキンは無傷。
防弾ジャケットの損傷の深さは1cmあるかないかといったところ。

15 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:02:26 ID:5aCCN7uY0

映像が切り替わり、新たなターゲットが登場。

先程と同じ防弾ジャケットを着たマネキン。
ライフルも同じくM16。

しかし、変更点が一つ。

M16のマガジンが大型の物になり、色も黒から白へ。
形状は流線形で、横幅がやけに盛り上がっている。
それ以外の変更はなし。


(´・_ゝ・`) 「まぁ見ればわかると思いますが、マガジンに細工をしています。
       例の粒子をマガジン内に充填させた物です」

試験開始。

機械により引き金が引かれ、発砲。

眩い閃光。そして轟音。

先程とは比べ物にはならない、砲クラスの弾を放ったような銃声。
固定された銃身が大きく震える。

防弾ジャケット装備のマネキン―――防備も虚しく真っ二つに。

16 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:07:41 ID:5aCCN7uY0
銃身は排気しきれない熱により膨張し、発砲時の衝撃で亀裂が走っている。
そして銃口から漏れる白い粒子。

神々しく輝く光の粒は、まるで雪のよう。

アレとはまるで正反対のモノ。


アレとは……。


私はそれを――――


          【フラッシュバック】
 禍々しき光の塊/廃屋を破壊しかねない衝撃波/緊張の走る少年の顔。
 遠方からでも感じる灼熱/消滅する街/火炎に照らされる残骸/
 渦を巻く黒煙/巨大なキノコ雲/絶望に震える少年の横顔。



知って――――


          【フラッシュバック】
  テレビ/アナウンサーの言葉/怯える母/慰める父/崩れる天井/破片に抉られた母の顔/ 
  叫ぶ父/玄関へ/轟音/衝撃/突き飛ばされる/視界が消える/暗闇。


―――――死の灰。

17 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:11:07 ID:5aCCN7uY0

川;- -) 「……!」


特殊な白い粒子と死の灰。

この二つの物が、とても似ているように思えた。
恐らくは同位の存在。
それ故に揺り動かされる記憶が過去を魅せる。


チャネラーの優れた記憶能力により鮮明に蘇る映像。


―――――成長した少年の顔。

 
          【ヴィジョン】
     再会/砂漠/再会/喫茶店/約束/必ず戻る/
     愛し合った/翌日/送り出す/情報/彼の失踪

           予測=死亡

           
          【ヴィジョン】
 
     ( A●) 『お前は俺(僕)が護る』( A )

       言葉と共に消えていく彼の姿。

18 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:13:52 ID:5aCCN7uY0

思わず吐き気がこみ上げてくる。


爪;'ー`) 「素直君、大丈夫か?」

フォックス課長の言葉に現実に戻される。
打ち消される映像。いや、悪夢と呼ぶべき物。


川;゚ -゚) 「えぇ……」

爪'ー`) 「顔色が悪いぞ? 青ざめている。
      体調が悪いのなら一旦休憩してきなさい。よろしいですか?」

(´・_ゝ・`) 「えぇ、構いません。急ぐ事でもありませんし」

川;゚ -゚) 「いえ、平気です……失礼しました。続きを」

冷静さの仮面を被り、声音を元に戻すよう努めて言葉を発する。


(´・_ゝ・`) 「この粒子の名は、発見された鉱山から取り、"カコログ粒子"と名付けられました。
       その性質から兵器へ転用すれば優秀な性能を持つ物を作れることが出来る為、
       爆発事故については調査結果を隠蔽しました。他国が聞きつければ食いついてくることは間違いありませんから」

(´・_ゝ・`) 「皆さんも知っているように現在はカコログは閉鎖され、調査用の施設が作られ今も調査が続けられています。
       ですが残念なことに、いやはや。私達の力不足もあってこのカコログ粒子の運用に難航していまし」

(´・_ゝ・`) 「そこで、我々の依頼を次々にこなし、核搭載型二足歩行戦車と純粋水爆の開発に成功した、
       才のある貴女に、素直クール氏にカコログ粒子を用いた兵器の開発を依頼したく、こうして訪ねさせていただいたわけです」

20 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:18:47 ID:5aCCN7uY0

川 ゚ -゚) 「機密を、漏らしてしまってもいいのですか? たかが一般市民にしかすぎない私などに」

(´・_ゝ・`) 「軍内で少々揉めましたがね。カコログ粒子を発見して長年兵器を開発出来なかったわけですから、
       まぁ仕方がないのではないかと。少しでも可能性があるのなら、賭けるべきだと上層部はそう判断しました」

(´・_ゝ・`) 「何も出来なかったわけではないのですがね。現に、大型兵器の開発には成功していますが、
       個人が携帯できるレベルの兵器は、未だ開発出来てない状態です。小型化がなかなか難しいのですよ。
       ですが貴女に一から開発してくれというわけではありません」

(´・_ゝ・`) 「原案はあるのですよ。これを元に、どうか依頼をこなしてください」


丁寧な口調で言い終えたデミタスは一礼し、こちらの返答を待つ。


爪'ー`) 「そう言うわけだから、私からもお願いするよ。
     ダーウィンとしてはこの依頼を引き受けてしまった。
     だがダーウィンにこれをこなせる人材と言えば君をおいて他にいない」

爪'ー`) 「君の了承を得る前に承諾してしまったが……業務命令ということで、頼むね素直君」

川 ゚ -゚) 「えぇ、わかりました。社員の一人として、断ることは出来ませんから」

爪'ー`) 「まっ、そういうこと。ごめんね連休明けに」

(´・_ゝ・`) 「快諾してくださり、ありがたい限りです。
      資料はファイルに保存してあるので、そちらを確認してください」

21 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:19:59 ID:5aCCN7uY0

言葉と同時にロマネスクがカバンから資料を取り出し、
デミタスに渡され私へと差し出してきた。

受け取るとまた一礼され、こちらもそれを返す。
すると笑みを作り、

(´・ーゝ・`) 「ありがとうございました、それでは今日は引き上げさせていただきます。それでは―――」

踵を返して会議室を出ていこうとした。


( ФωФ) 「……」

会話中一度も言葉を発さず、
無表情であったロマネスクはノートパソコンをカバンに納めて彼に付く。

爪'ー`) 「途中までお送りさせていただきますよ、デミタスさん」

(´・_ゝ・`) 「あぁ、すいません。ではお願いします。
       何分広いビルでして、迷ってしまうかもしれませんからな」

会話をしながら社外へ向かうデミタスと課長に従い、私も歩いていく。

何故か途切れない二人の会話に割り込むことは出来ず、
ただ黙々と歩き続けるとロビーまで辿りつき、玄関が見えた。

外に出たところで足を止め、軽く別れをすませたフォックス課長にあわせて一礼。

デミタスもそれを笑顔で返し、ロマネスクは周囲を警戒したまま最後まで一言も発しなかった。

22 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:20:47 ID:5aCCN7uY0

川 ゚ -゚) (あの男はボディーガードに適しているかもしれんな。常に油断のない視線をしていた。
     それに、あの歩き方、そして呼吸に全く無駄が無かった。よほど腕の立つ兵士なのだろう)

川 - -) (アイツに……似ていた)


爪'ー`) 「素直君」


……何故こうも今日は集中力がないのだろうか。

川 ゚ -゚) 「はい」

思考を課長の声に掻き消され、いつもの私にやっと戻る。


爪'ー`) 「君はなんだか調子が悪そうだ。
     やはり、先日の事件の一件に立ち直れていないのかもしれん。
     今日のところは早退して病院にいきなさい」

川 ゚ -゚) 「いえ、大丈夫です。すぐにでも仕事に取り掛かれます。
      心配をおかけしたのなら―――」

爪'ー`) 「駄目だ。君だけじゃない、見た限り他にも君のような社員が数名いる。
     彼らも今日は早退させるつもりだ」

23 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:21:34 ID:5aCCN7uY0

川 ゚ -゚) 「ですが―――」

爪'ー`) 「いいんだ。それに、今回の依頼をこなせるような人材は君くらいだ。
     だからもしもの時に君に倒れられると会社としても困るんだよ。
     上司としての判断だ、今日はもう休め」

川 ゚ -゚) 「……はい、ありがとうございます」

反論を許さないとでも言うように捲し立てられてしまい、
その勢いに押され、早退することを了承する。

課長はいつもそうだ。
しかし、上司としての彼の気遣いは嫌なものではなかった。


爪'ー`) 「もうすぐ昼休憩入るからその時にあがりなさい。
     あと、一度給湯室でも寄って顔を洗ってくると良い」

フォックス課長の判断は合理的で、個人を見、
全体の為に先を見越した上で的確に下されるからだ。

言われた通り、オフィスへ向かう途中給湯室へ寄り、
顔を洗おうと洗面台の前に立った私は、

川 ゚ -゚) 「……」

それを思い知らされた。
鏡に映った私の顔は死人のように青白く、唇は血の気を失って紫になっていた。

24 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:22:17 ID:5aCCN7uY0

******

6月3日 17時20分――――素直クールの住むアパート付近のコンビニ


会社を早退し病院へ向かった私は診察を受け、
精神安定剤を処方された後、帰宅する途中コンビニへ立ち寄った。

川 ゚ -゚) (夕食はどうしようか…)

食欲はなく、胃に締めつけられるような痛みを覚えるものの、
食事をとらないわけにもいかない。

何か食べやすそうなものを探していると、


「どうやら、相当まいっているようだな」

声をかけられた。

懐かしく重みのある響き。

25 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:23:25 ID:5aCCN7uY0

ミ,,゚Д゚彡 「その様子を見るに、トソンちゃんに結構キツいことを言われたようだな」

川 ゚ -゚) 「フサさん……」

チューボー基地避難時代に知りあった、GJ部隊の生き残り。
荒巻さんと同じく、優しく私とドクオに接してくれた人。

立派なヒゲと無造作に伸ばされたアッシュブロンド。
険しい目つきは以前と変わらぬままだが、微かに気遣いをする優しい光が覗けた。


ミ,,゚Д゚彡 「あの子にとっちゃアイツは恩人も恩人。君と同じく命を救われたんだ。
       アイツがいなくなって不安になっている、許してやってくれ」

川 ゚ -゚) 「そう、ですか……」

ミ,,゚Д゚彡 「すまんな、君も傷ついているってのに」

川 ゚ -゚) 「いえ、大丈夫です。それで用件は?」


サンドウィッチとインスタントスープを手に取り、
レジへと私は向いて会話を切り上げようとする。

ミ,,゚Д゚彡 「……アイツの異変に気付けなかったことは謝る。
       俺達の仕事は君の護衛だ。アイツは大丈夫だと油断しきっていた」

ミ,,-Д-彡 「すまない」

川 ゚ -゚) 「貴方は貴方の仕事をした、それだけです」

26 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:24:18 ID:5aCCN7uY0

レジで商品を店員に渡し、会計をすませようとすると、
棚にあったある物に目が留まった。

普段は気にもしないようなものでしかないそれが、
今は私の心を強く引き付け、つい買ってしまう。

それは心を苛むことになるだろう。
だが癒しもするだろう。
過去の甘い幻は現在との境界線上に現われ、痛みを忘れさせる。


大切な思い出であればあるほどに。

ドクオの吸っていたタバコを買った私は、コンビニを出ていく。


ミ,,゚Д゚彡 「タバコを吸うのか?」

川 ゚ -゚) 「……」

ミ,,゚Д゚彡 「まぁ、気持ちは分かるがな、吸いすぎないことだ」

銘柄を見て気がついたのか、フサさんは話題を変える。


ミ,,゚Д゚彡 「恐らくは尾行されていない。監視も無い。
       だが、今日会ったあの軍の奴ら、アイツらは嫌な感じだ。気をつけておけ」

川 ゚ -゚) 「何故、軍関係者に会ったことを知っているのですか?」

27 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:25:24 ID:5aCCN7uY0

ミ;,,-Д-彡 「そこは……企業秘密ということで頼む」

川 ゚ -゚) 「聞かない方がいいかもしれませんね」

ミ,,゚Д゚彡 「教えて気付かれたらこっちが困るからな。
       いや君にとっても困ったことになるか」

苦笑したフサさんは歩くスピードを早め、私に背を見せる。


ミ  彡 「アイツのいなくなった今、これから先どうするのか考えておくことだ。
      アイツは君の安全と幸福を願っていたぞ。自分にとって、最良の選択をすることだ」

言葉を残してフサさんは消えていった。
帰路につく人で溢れる街の中へと。

28 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/01/31(火) 01:27:13 ID:5aCCN7uY0


川 ゚ -゚) 「……最良の選択か」

ぼそっと呟き、レジ袋からタバコを取り出す。
パッケージを開いて一本咥えると、ズボンのポケットからライターを取り出す。

銀色のZIPPO

持ち主を失ったそれは、血に塗れても輝き続けていた。
蓋を開くと、キィンと耳に残る気持ちの良い音が鳴った。

微かなオイルの匂いと共に炎が発せられ、咥えたタバコの先端に当てると燃え上がる。
ほんの三日前の記憶が、タバコの香りと共に揺り動かされた。

ヴィジョン/フラッシュバック  

        ヴィジョン/フラッシュバック

                 ヴィジョン/フラッシュバック

アパートに辿りつくまで。

いや、泣き疲れてやっと眠りにつくまでの間、私はこの幻影と記憶に付き纏われ続けた。

フラッシュバック/片目を失う少年の姿
ヴィジョン/襲撃される戦争犬の姿

否、生き続ける限りこれを振り払う事などは出来ない。

では、最良の選択とは―――?


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