川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです

573 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:31:07 ID:RCa4AENU0

追われる者。
追う者。

追いながらにして追われる者。

追いつけぬ、追いつかれる。
身を切り詰めるような緊迫感がそこにはある。


それは、少女の選択――――

574 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:31:52 ID:RCa4AENU0



     川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです



         第十四話 続・続・少女の世界

575 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:33:15 ID:RCa4AENU0

******

6月6日 10時22分――――カコログ村


軍の用意したトラクターに乗って私と渡辺はカコログ鉱山へと向かった。

爆発事故は相当な物だったようで、村の半ばほどに入るとアスファルトは途切れ、
砂利道となって車内は揺れだしていく。

(´・_ゝ・`) 「すいませんねぇ、吐き気を催した場合言ってくださいね?
       ゲロ袋用意してありますので」
          
从;'ー'从 「えぇ……わか……すいませんください」

先日、フォックス課長がこのデミタスに連絡し、
カコログ鉱山の調査の許可を請うたところ快諾され、
今日こうして調査に訪れたのだ。

たったの一日で手筈を整えてきた対応の早さに、
改めて軍の期待がこの依頼に寄せられていることを思い知らされ、
また自分が"深み"へと踏み込んでいる危機感を覚えた。

576 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:35:49 ID:RCa4AENU0

从;'ー'从 「う、うぅぅぅぅ……」

後部座席の窓から顔を突き出し、袋にゲロゲロとリバースする渡辺に目を逸らしながら、
"カコログ村"と呼ばれていた場所に目をやる。

炭鉱を中心として栄えた街の一角。
炭鉱夫達の暮らした集合住宅はそのままに、ゴーストタウンと化したそこは、
生活の匂いだけを残して、人気だけが失われ不気味な様相を醸し出している。

川 ゚ -゚) (30年前の事故以来、鉱山付近一帯は閉鎖されたと聞いたが、本当だったらしいな)

灰を被った建物が次々に視界を過ぎっていくが、清掃が行われている様子がない。

しかしそれとは別に、調査の為に建てられた基地は真新しい。
月日はかなり経過しているはずなのだが、廃れた住宅などとは比べるべくもなかった。
そこでふと、疑問が浮かび上がる。

川 ゚ -゚) (過去にここで暮らしていた人々は、今どこにいるのだろうか?
      数少ないとは言え、生存者もいたはず。それに爆発に巻き込まれなかった者達もいたはずだ)

川 ゚ -゚) (警察が聞きこみをしたとは言っていたが……特に言及はされていなかったな)

"カコログ粒子"

奇想天外という他ない新物質である粒子のインパクトに気を引かれ、
考える間も無かったが、この景色を改めて見ると何とは無く気にかかる。

577 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:37:04 ID:RCa4AENU0

川 ゚ -゚) 「デミタスさん」

(´・_ゝ・`) 「なんでしょうか?」

助手席に座るデミタスが振り返る。
渡辺の嘔吐は意にも介していない様子だ。

川 ゚ -゚) 「ここは閉鎖されたと聞きましたが、それ以前に住んでいた人々は、
      今どこで生活しているのですか?」

(´・_ゝ・`) 「あぁ、それですか……今はカラマロスDNで生活していますよ」

川;゚ -゚) 「え……」

(´・_ゝ・`) 「ご存知ではありませんか?
       まぁ、爆発事故ばかりに気を引かれるのも、無理はありませんがね。
       報道ではそこばかり強調されましたから」

(´・_ゝ・`) 「当時爆発事故が起きた後、ここの現地住民達は政府から渡された補償金を手に、
       カラマロスDNに用意された仮設住宅へ移住しました。一部の者は親族の元へ向かいましたがね。
       表向きは特別区への招待と2、3年は生きていけるほどの補償金という手厚い補助」

(´・_ゝ・`) 「裏向きは"カコログ粒子"の健康被害の調査、といったものです。
       まとまっていたほうが管理がしやすいもので」

(´・_ゝ・`) 「財政に少々負担をかけましたが、メディアが悲劇的に報じた効果もあり、
       国民は怒りではなく、深く同情し募金までするようになりました。
       おかげさまで、調査のほうはつつがなく進んで助かりましたよ」

578 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:49:04 ID:RCa4AENU0

             【ビジョン】

(` ω ´) 『まず、"チャネラー"と呼ばれる存在から話そう。
       チャネラーという人間がいるのだが、彼等は人間の遺伝情報によって制限された、
       身体能力や知的能力を解放することが出来、
       通常の人間よりも遥かに優れた潜在能力をもつ先天的な優性人種だ』

(` ω ´) 『その、遺伝情報による制限を解除できる素質を秘めた子供を持つ家庭を、
       一か所に集めたのがカラマロスDN。そこでニューソク軍はチャネラーの研究を行っていたのだ』

(` ω ´) 『だが、情報が漏れてしまい、
       カラマロスDNはニーソク軍による強襲を受けてしまった。
       というのが、今回の戦いの火種だ』


川; - ) (ぐっ……)

突如として押し寄せる過去の映像。
無意識下で思考し、意識下に引きあげられてくる"もしかしたら"。

579 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:50:31 ID:RCa4AENU0

             【ビジョン】

(` ω ´) 『その、遺伝情報による制限を解除できる素質を秘めた子供を持つ家庭を、
       一か所に集めたのがカラマロスDN。そこでニューソク軍はチャネラーの研究を行っていたのだ』

       『カラマロスDN。そこでニューソク軍はチャネラーの研究を行っていたのだ』


川; - ) (偶然……か? カコログ粒子が人体に及ぼす被害の調査と、チャネラーの研究……。
      関連性は何もないように思えるが……)

思える、が……。

カコログ粒子/物体を強化する粒子/チャネラー/遺伝情報の解放を行える優れた潜在能力を持つ人間/
チャネラーの素質のある者達/それの集うカラマロスDN/30年前爆発事故により移民/
被災者達の集うカラマロスDN/チャネラー候補の集うカラマロスDN/三ヶ国大戦


川;゚ -゚) 「……」

押し寄せてくるビジョンに気持ちが悪くなり、窓際に身を預ける。
こみ上げてくる吐き気と思考に耽っていた頭を襲う熱で、
酷い倦怠感に苛まれてしまう。

(´・_ゝ・`) 「素直さん? 気分が優れないのですか? ゲロ袋ならまだありますが」

川;゚ -゚) 「いえ、すいません。大丈夫です。少し風にあたっても?」

(´・_ゝ・`) 「いいですよ。ロマネスク、窓を開けて差しあげなさい」

580 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:51:18 ID:RCa4AENU0

( ФωФ) 「……」

無言で応えたロマネスクは運転席から後部座席の窓を操作すると、
目の前の窓が下りていき車内に風が吹きこんできた。

川 ゚ -゚) 「ふぅー……」

車が疾走することで生まれる風は冷気を孕んでいて心地よい。
謎を突き止めようと躍起になりだし、加速した思考能力が落ち着いていく。

川 ゚ -゚) (しかし、妄想の粋を出ない物だ。確かめようが、今は無い……)

川 ゚ -゚) (確かめる手立ては、私にはないだろう。"奴ら"と直接接触でもしない限り)
 
川;- -) (クソ! ドクオ、何故いなくなってしまったんだ。
     もしかすると、真実へと近づいたかもしれないというのに)

舌打ちを心の内にするが、虚無に包まれるだけであった。
もう、彼はいない。安否すら探ることも出来ず、今は自力で動く他なかった。

川 ゚ -゚) (だがそれでも、面白い推測が出来たな)

……チャネラーは、恐らくカコログ鉱山の爆発事故の被害者達と繋がっている。

物心がついた時にはカラマロスDNにいた私には、
両親がどういった経緯でカラマロスDNで暮らしていたのかはわかりかねるが、
調べる必要があることだけは確かになった。

581 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:52:33 ID:RCa4AENU0

(´・_ゝ・`) 「素直さん、渡辺さん、そろそろカコログ鉱山に着きますよ?」

川 ゚ -゚) 「えぇ……」

デミタスの言葉の通り、目的地である鉱山はもう目の前へと迫っていた。

が、それは鉱山とはとても呼べるようなものではなく、
立ち入り禁止の表札と鉄柵に囲われた先にあったものは、
積み立てられた岩と土砂で作られた洞穴であった。

見通しのつかない闇の広がる穴を、微かに白い粒が照らしており、
不思議とも、異様ともとれる輝きは"カコログ粒子"によるものであることは一目瞭然だ。

……この洞穴の奥に、何があるのだろうか。

鉄柵の近くでトラクターが停車し、デミタス達が降車していく。
私と渡辺もそれに従っていくと、調査隊員の一人がデミタスの姿を見かけて寄っていき、

「盛岡さん、お待ちしていましたよ。遠路より遥々お越しいただき感謝します」

(´・_ゝ・`) 「いや結構。こちらが無理を言ったのですから、そう畏まらずとも。
       まぁ私に出来ることは今は無いでしょうが、企業の方に見せたかったのでね」

ちら、とこちらを見やったデミタスに一礼し、二人へと私は寄っていく。
調査員と挨拶を済ませてもう一度頭を下げると、
調査員主導の下、すぐに準備へととりかかった。

582 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:54:20 ID:RCa4AENU0

(´・_ゝ・`) 「人体への影響は皆無、というか未だにわかっていないことも多いのですが、
       何分危険なことには変わりませんので、この作業用スーツをきてください」

作業用スーツの着方を調査員が手本を見せ、
私と渡辺は少々手間取りながらもスーツの上から袖を通していく。

デミタスは手慣れているようで、着ながら、

(´・_ゝ・`) 「あぁ、このスーツはですね、特別でして、
       摩擦や静電気を最低限にまで抑えてくれるんですよ」

そう流暢に説明していき、ゴムのような材質で出来たスーツが私の身体を包んだ。
吸いつくように肌になじむこのスーツは動きを阻害することもなく、
作業を行うにあたって快適であると言えよう。

(´・_ゝ・`) 「ちょっとした摩擦や静電気が、"粒子"のせいでどんな惨事に発展するかわかりませんので。
       これ作るのに結構お金掛かってるんですよ。どうです、装着した感想は?」

川 ゚ -゚) 「少々圧迫感は感じますが、慣れれば快適です。
      まるで皮膚の上から皮膚を来ているようです」

(´・ーゝ・`) 「そうですか。これ、調査隊の間でも好評でして。
        私達は第二の皮膚とも呼んでいます。
        衝撃吸収力を強化し、防刃性能を備えたモデルもありまして、軍にも配備されている程です」

川 ゚ -゚) 「そうなのですか……何が軍事産業に繋がるか、わからないものですね」

583 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:57:34 ID:RCa4AENU0

(´・ーゝ・`) 「えぇ、まったく。優れた技術を戦争に転用する。
         人間はそれにかけては一流のアイディアマンです」

川 ゚ -゚) 「否定は出来ませんね。私達は、それで食事にありつけているのですから」

言葉とは裏腹に、口をついて否定の言葉が出てきそうになったが、
すらすらと語りだした自分に妙に納得してしまう。

私は糧食を得る為に兵器を作っているわけではない。
命を張って戦場に立つ兵士達を死なせない為に、
優れた兵器を作り彼らを護りたいだけだ。

などと、綺麗事を並べたとしても自己防衛の言い訳にしかなりえない。

やっていることは結局、変わりない。
デミタスの言葉は自嘲か本意からか、私などには推し量ることは出来なかった。

从;'ー'从 「……ふう、やっと着れました〜」

スーツによって豊満な肉体から官能的なラインを浮かび上がらせた渡辺が、
私達を見て能天気な声を上げる。

ゴムのような質を持つ生地の光沢がやけに甘美で、
同じ女性である私ですら一時目を奪われてしまう程に煽情的だ。

584 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:58:33 ID:RCa4AENU0

(´・_ゝ・`) 「ではヘルメットを被ったら行きますか」

そんな姿にも興味は示さず、粛々とデミタスは進めていき、
顔全体を覆う流線形のヘルメットを被ると、洞穴へ歩き出していく。

道は舗装されて歩きやすく、爆発の後に人の手が加えられていったようだが、
ライトは一つも設置されておらず、行き先を照らすのは調査員が取り出した懐中電灯と、
坑道内を漂うカコログ粒子の輝きだけだ。

薄暗いが充分に視界は取れる。

湿気は酷いが、坑道であるにも関わらず、空気の温かみをスーツごしに感じられた。
そして、奥に進むにつれて光量も増していく。

(´・_ゝ・`) 「カコログ粒子は濃度が高ければ高いほど強く発光します
       もちろん、それにつれて摩擦熱が強化されますので、壁に触れる時はお気をつけて」

川 ゚ -゚) 「デミタスさん。この暖かみは、粒子のせいですか?」

(´・_ゝ・`) 「恐らくは。カコログ粒子は運動エネルギーを強化します。
      よって私達、もしくはここに生きる微生物が動くことによって生まれる力が強化され、
      発する熱が暖かく感じさせているのでしょう」

从'ー'从 「へ〜、不思議ですねー」

好奇心で輝かせた瞳をきょろきょろさせる渡辺。
見ようによっては幻想的ともとれるこの光景は彼女にとって、
いい物見遊山になっているに違いない。

585 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 21:59:34 ID:RCa4AENU0

     「このスーツが無い頃は大変でしたよ。転んだだけで大怪我を負う者も―――」

Σ从;'ー'从 「きゃっ」

が、それが仇となりちょっとした道の出っ張りにつまずいてしまう。

(;´・_ゝ・`) 「おっと」

危うく転倒しかけた彼女をデミタスが腕を引っ張って立ち直らせ、
調査員は次の言葉に繋げていく。

     「―――大怪我を負う者もいたので、気をつけてくださいよ」

从;'ー'从 「す、すいませんでした」

(´・_ゝ・`) 「まぁ今はスーツのおかげで骨折まではいかないでしょうが、
      注意してこの先は進んでください」

渡辺を掴んだ手を離し、指差した先には地下へと繋がる階段があった。
手すりを付けられ、物資を搬入する為か広いスペースを設けられた階段は、
人が横に並んで十人は降りていけそうで、階下からは淡い光が立ちこめている。

(´・_ゝ・`) 「本当はエレベーターを作りたいところだったのですが、
       電力などを使うと思いがけない事故に発展する可能性があり……。
       というか一度大事故が起きて断念しなくてはなりませんでした」

        「何か良い方法はないものですかね。
         調査の度に階段を降りたり、機材を運びこむ時とかいつも大変ですよ」

586 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:00:26 ID:RCa4AENU0

(´・_ゝ・`) 「それで何年も食べてこられたのですから、文句は言わないでください。
       まぁ効率が悪いという点では、申し訳ないですがね」

        「その通りですな。つまらないことを口走りました、すいません。
         しかし仕方の無いことでしょう。未だ謎の多い物質ですカコログ粒子は」

そう会話を交わしながら数分程降り続けていくと、
次第に輝きが階下から覗けてきた。

辺りもやけに明るくなっていき、暗闇の中に浮かぶカコログ粒子の放つ光は、
夜空に浮かぶ星の輝き……いやまるで、光学望遠鏡から覗く宇宙の中に、
自分が立っているかのように錯覚させられる。

暗黒の中に浮かぶ粒子の輝きが、小宇宙をここに作り出していた。

川 ゚ -゚) 「綺麗だ……」

擬似的な宇宙旅行に魅せられ、無心の内に呟く。
綺麗なだけではない。この空間には不思議な暖かみがあった。

デミタスの言うカコログ粒子の働きなどでは説明できない、
言いようのない安らぎを私は感じていた。
ここは恐ろしく静かで落ち着き、温もりに溢れている。

母の子宮の中にいるような感覚。

587 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:01:18 ID:RCa4AENU0

从'ー'从 「そうだね、プラネタリウムみたい」

私の呟きを聞いたのか、渡辺が同意をくれた。
手すりを掴みながらもこの空間に見惚れているらしい。

……渡辺も同じ気持ちなのだろうか?

(´・_ゝ・`) 「女性はロマンチストですね。ここから先は、もっと凄いですよ?」

語り、進む先には扉があった。
真っ黒な壁だ。塗り固められたかのような黒さを持つそれの縁に沿い、
神々しき光が溢れ出ている。

カコログ鉱山の最奥部であり、爆発事故の起きた現場だ。

闇そのものと言っていい扉に触れてロックを解除していくデミタス。
電子音が小気味よく鳴り、重苦しい解錠の音が響き渡った。

天地開闢。

ひたすらに白亜。

白く染め上げられたドーム状の空間。
熱気も冷気も感じられず、湿気もなく何も無い。

扉の先にあった物は、この世の光景であるとはとても信じられないものだった。
白としか言えない恐ろしく殺風景なそこは、梯子やつるはしの他に何も置かれてはいない。
一見しただけでは岩肌は見えず、滑らかな壁は目を凝らしてようやくデコボコとしていることがわかる。

588 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:02:14 ID:RCa4AENU0

(´・_ゝ・`) 「どうです? すごいでしょう」

川 ゚ -゚) 「ペンキで塗り固めたのですか?」

そんなはずはないと、内心思いながらも念の為に尋ねてみる。
すると、デミタスは苦笑を堪えながら、

(´・_ゝ・`) 「まさか、ここは初めからこういう場所なのです。
       30年前、鉱山を進むうちに炭鉱夫達が辿りつき、
       ここのカコログ粒子の濃度も知らずに、爆薬を使ってしまった結果あの事故は起きてしまった」

(´-_ゝ-`) 「生存者によれば、あの扉のあった場所は岩で塞がれていたので、
       それを除く為に爆破した、そうです。今思えばどれだけ危険なことであったことか……」

川 ゚ -゚) 「では、ここは初めから……?」

(´-_ゝ-`) 「えぇ、調査隊が訪れた当初から、ここはこういう空間でした。
       ここには、いや。"ここだけ"だったのです、カコログ粒子というものが存在したのは。
       あの爆発でこの現場からカコログ粒子は飛散し、今や鉱山中に、カコログ村にまで広まりました」

川;゚ -゚) 「カコログは、この場所で生まれたということですか。
      我々が今まで発見出来なかったのではなく、ここにしか発生しえなかった?」

(´・_ゝ・`) 「それはまだわかりません。ですが、首都ニジでも、
       ウプスレッドでも大気中に微量に発生していることから、
       カコログ鉱山だけに存在するものではない、と言えるでしょう」

川;゚ -゚) 「でしたら、何故今までカコログ鉱山では事故が……」

589 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:03:41 ID:RCa4AENU0

(´・_ゝ・`) 「それはまだわかりませんよ。卵が先か鶏が先か、そういう問題です。
       元から存在していたのか、ここで発生し拡散したのか……」

(´・_ゝ・`) 「今のところ後者が有力ですがね。
       事故についての貴女の疑問を解くとすれば、それが論理的でしょう」

川 ゚ -゚) 「カコログ粒子は、ここにしか存在しえなかった……」

新たな事実を現場と共に突きつけられ、岩肌に触れようと近づいていく。
デミタスはスーツのポケットから試験管のような物を取り出すと、
後ろに付いてきながら口を開いた。

(´・_ゝ・`) 「もしかしたら、まだこの世界には"ここ"みたいな場所があるのかもしれません。
       ニューソクにあるように、パーソクにもニーソクにもテンゴクにもオオカミにもシベリアにも」

……もしかすると、ニューソクはそれが目的で?

奪われた先祖より賜りし大地を奪還する。
そう声高に叫び戦争を繰り返すニューソクの真意。

チャネラーとカラマロスDNの関係性への仮説と同じく、
ニューソクの戦争とカコログ粒子についての仮説を立てた私は、それを立証したい。
国家総合案内所の思惑が明らかになるかもしれないのだから。

590 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:08:50 ID:RCa4AENU0

思案しながら、白い岩肌に触れた。

固さはないと言っていい。
反発する力は全く感じられず、触れてくれとでも言わんばかりだ。
撫ぜていくが、そこには冷たさも熱も感じられなかった。

温度はないのに、寒くも無い。
それでいて心地が良い。

(´・_ゝ・`) 「30年間の調査でこんな物も作れました」

言ったデミタスは私の横に立つと試験管を見せてきた。
洞窟内を覆う白から光の粒がそれへと導かれていき、
試験管に納められると集束した粒子は雪のように輝きを放ちだす。

(´・_ゝ・`) 「その場にあるカコログ粒子のみを集める、カコログの収集器です。
       もっと大型の物もあり調査隊も使っています。
       きっと役に立つことでしょう、どうぞお使いください」

川 ゚ -゚) 「ありがとうございます。依頼の品の製作の参考にさせていただきます」

(´・_ゝ・`) 「えぇ、期待しています。他にご要望があればどうぞ仰ってください」

では、遠慮なく言わせてもらおうかと思い、
疑問を投げかけようとしたが、どれも一技術者が抱くには不審なものばかりで、
質問することは憚られた。

だから、その中でも最も素朴な疑問と、淡い望みを口に出す。

591 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:09:32 ID:RCa4AENU0

川 ゚ -゚) 「爆発事故の起きた現場にいた、生存者の方に会わせていただくことは出来ますか?」

言葉を聞いたデミタスは眉を曲げて渋い顔をした。
やはり、情報をそこまで開示することは出来ないのだろうかと舌打ちをしたくなるが、

(´-_ゝ-`) 「それは難しいでしょうな……生存者は二名いたのですが、
       二人とも既にお亡くなりになりましたから」

川 ゚ -゚) 「……それは、残念です」

亡くなった?
消したの間違いではないのか?

そう問いたくもなるが、貴重な生存者を殺害するメリットは無く、
事故で負った怪我が元で死亡した線が濃厚だ。

(´・_ゝ・`) 「生存者の名前は高岡Z武と高岡ハインリッヒ。
       この両名は親子でして、Z武氏は怪我が元でお亡くなりに。
       ハインリッヒ氏は奇跡的に回復し、その後軍属になり戦死されました」

川;゚ -゚) 「え……?」

(´・_ゝ・`) 「ご存知ありませんか?」


(´・_ゝ・`) 「あの20世紀最高の兵士と呼ばれた―――"戦士"高岡ハインリッヒその人ですよ」

592 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:11:19 ID:RCa4AENU0

******

6月6日 16時27分――――ダーウィン社の研究室の一室


あの後一時間ほど調査を続けた私は、試作品である機械剣を受け取り、
渡辺と共に会社へと戻ってきた。

スーツを脱ぎカコログ鉱山から帰ってくると暑さが肌を襲い、
あそこの異常さを身を以って知ることになった。
環境を変化させるほどの濃度のカコログ粒子。

ならば何故あの場で生じたエネルギーは、強化されなかったのだろうか?

……スーツの性能によって最小限に抑えられたと言えばそれまでだが。

从'ー'从 「ふぅ〜、疲れたね〜」

川 ゚ -゚) 「そうだな、だが収穫はあった」

収穫と共に疑問も多く得た。
新たな発見と共に新たな謎が生まれる。

从'ー'从 「うん、でも、気持ちの悪いところだったね……」

川 ゚ -゚) 「そうか?」

从'ー'从 「なんか、落ちつかなくて。綺麗なとこだったけど、
      肌がざわざわして、鳥肌が治まらなかったよ。
      すっごく不気味な感じのするところだった」

593 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:12:54 ID:RCa4AENU0

从'ー'从 「暑さも寒さも無くて、何も感じなくて……おかしいよあんなとこ。
      たくさんの人が死んじゃったみたいだし、やっぱり出るんじゃないかな……」

川 ゚ -゚) 「そんなホラーみたいな……」

プラスもマイナスもないゼロの地点。
虚無なる空間。
異質な世界。

渡辺が感じたように私も"おかしさ"を感じてはいた。
その"おかしさ"を形容するならそれがピッタリだ。

正のエネルギーを強化するはずのカコログ粒子が蔓延しているというのに、
何故あんな温度の無い空間になるのだろうか。

だがたしかに爆発は起きた。
起きてハインさん達を襲い、彼女と父は生き延びた。
あの空間は本当に元からそういった空間だったのであろうか?

あらゆる物体の生み出す運動エネルギーを強化する謎の粒子カコログ。

その濃度の高い空間に生じた虚無。

ゼロ。

594 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:13:58 ID:RCa4AENU0

川 ゚ -゚) 「ホットゾヌ社に受注した軍刀はいつ届く? 連絡はきたか?」

从'ー'从 「一週間後には届くよ。10本全部一括で送るって。
      特注品だからちょっとお金掛かっちゃったけど、やっぱり軍は羽振りいいねー」

川 ゚ -゚) 「あぁ、備品が必要な場合は負担してくれるからな。
      ニューソクは戦争にかけては金を惜しまんらしい」

从'ー'从 「タングステン合金製の軍刀なんて、会社の予算じゃ10本も作れなかったよね。
      無駄にはしたくないけど、壊れないか心配だね」

川 ゚ -゚) 「発電機関の作る高熱に耐えてくれれば、予定通りヒートブレードが完成するのだがな……」

川 ゚ -゚) 「すまんが渡辺。装甲服の丙種装甲板を取ってきてくれないか?
      預かった試作品のテストをしたい」

从'ー'从 「うん、わかった。ちょっと待っててね」

応えた渡辺は研究室から出ていき、私は機械剣の試作品を見やる。
机の上に置かれたそれは柄の中にカコログ粒子を納めた機関を備えているようで、
刀身の内部に充填させている以外は何の変哲もない軍刀だ。

595 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:14:44 ID:RCa4AENU0

川 ゚ -゚) 「純粋に切断力のみを強化したものか。無難な選択だが、しかし……」

柄を握り、軽く振るう。

内部が空洞になっている為とても軽量で、携行性にも優れている。
だがこれで装甲服の装甲を切れるかと言えば、少々心配だ。

デミタスの話しによると切断力は充分で、耐久性には問題があるそうだが……。

実際に試し、この目で確かめなくてはどう改善すればいいのかわからない。

川 - -)ー3 「ふぅ……」

溜息を一つ吐き、机に試作品を置いてイスに座る。
ポケットから携帯灰皿とタバコを一つ取り出し、咥える。
白衣の右ポケットから出てきた血の赤に塗れた銀のライター。

キィン、と音が響くと蓋が開き、指が目的を果たすべく自然に動きを作る。

ボッと音を立ててライターが火を噴くとタバコが燃焼し、
ジジジと微かな音と共に煙が肺を満たしていく。

川 - -)y━~~ 「ふぅー……」

舌に感じる甘みと辛み。

彼を思わせる香りが鼻腔に触れる。

596 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:15:30 ID:RCa4AENU0

川 - -)y━~~ (ドクオ……ハインさんは奴らの言った通りチャネラーなのかもしれない。
         カコログ粒子がチャネラーと関係している可能性は非常に高い。
         カコログ村に住んでいた者達がカラマロスDNに移住し、そこからチャネラーの研究が始まった)

川 - -)y━~~ (そう考えても不自然なことではないだろう。これほど繋がった情報を与えられるということは、
         出来過ぎている気がするが、それでも私はたしかに情報を得た)

川 - -)y━~~ (ハインさんが生き延びたのは、チャネラーであったからか……。
         それとも、事故がチャネラーと関連しているのか。
         カコログ粒子とカラマロスDN、そしてチャネラー。疑問は多くあるが一つずつ……)

川 ゚ -゚)y━ 「……?」

思考する内にすっかりと短くなり、フィルターだけになったタバコを灰皿に押しつけて捨てる。
火は望むとも望まずともタバコ葉を焼き尽くしていく。
吸えば吸う程早く燃焼していくものだが、放置していても燃えてなくなってしまうのだ。

タバコ葉が無くなればタバコはフィルターだけのただのゴミへと変わる。
灰皿とライターをポケットにしまい、思考を再開。

……変わる?

脳裏にカコログ鉱山のあの場所が過ぎっていく。
カコログ粒子によって変わってしまったあの虚無の空間。

いや違う。

デミタスはたしか……。

597 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:16:15 ID:RCa4AENU0

        【ビジョン】

(´ _ゝ `) 『まさか、ここは初めからこういう場所なのです。
      30年前、鉱山を進むうちに炭鉱夫達が辿りつき、
      ここのカコログ粒子の濃度も知らずに、爆薬を使ってしまった結果あの事故は起きてしまった』

(´ _ゝ `) 『えぇ、調査隊が訪れた当初から、ここはこういう空間でした。
      ここには、いや。"ここだけ"だったのです、カコログ粒子というものが存在したのは。
      あの爆発でこの現場からカコログ粒子は飛散し、今や鉱山中に、カコログ村にまで広まりました』


調査隊が訪れたのは爆発事故の後だ。

では事故以前はどのような場所だったんだ?
もしその時から変わらないと言うのであれば、
私が壁に触れた時に掛かった力が強化されなかったというのはおかしい。

いやそれどころか、壁が"触れてくれ"とでも言わんばかりに滑らかだと感じた筈だ。

私はあの時壁に触れようとした。
炭鉱夫達は岩壁を爆破しようとした。

……あらゆる物質を強化する不可思議な粒子カコログ。

常識を覆すようなこの粒子を改めて見直し、
その上で矛盾を解消する仮説を立てるとすれば、

598 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:18:04 ID:RCa4AENU0

川;゚ー゚) (強化ではなく、カコログ粒子がもたらす物は変化、か?)

馬鹿げた考えに内心苦笑しながら、
しかししっくりと来る答えに、絡まりあった糸が解けたかのような爽快さを覚える。

カコログ粒子自体は0そのもの。

それ故に粒子が濃いと環境を汚染し、あのような虚無が生まれる。
その虚無は人が望むことで形を変えていくだけで、
物質の強化はその一つにしかすぎないのではないか?

川 ゚ -゚) (これは、確かめる必要があるな)

……検証するのに相応しい物が私の頭の中にはある。

実現を不可能だと諦めながらも、望んでいた剣が。
これを作る為にカコログ粒子は存在していた。
主観的ではあるが、そう思わせるような運命的な巡り合わせが、心を昂らせていく。

川 ゚ー゚) (素晴らしい、素晴らしい!
      不快な謎ばかりではあるが、このような愉快な謎があるとは!)

 "ユニバーサルブレード"
    万能型刀剣

それを握り、あらゆる危機に挑む兵士達を想い、喜びは最高潮に達した。
全てを切り裂く刃が戦争犬達の身を護ることを願い、実現へと向けて駆け抜ける。

―――そして、彼を救う力とならんことを。

599 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:19:14 ID:RCa4AENU0

从'ー'从 「クーにゃんお待たせ!」

扉が開くと、荷台に装甲板を乗せた渡辺が研究室へ戻ってきた。
そして私は机の上にあった機械剣の試作品を握り、鞘から抜き放つ。

川 ゚ -゚) 「すまんな、渡辺。危ないから退いてくれ」

从;'ー'从 「え?」

抜き身の刃を持った私に驚いたのか、渡辺は慌てて遠のく。
両手で構え、何も考えず、"何も望まず"に試作品を振るった。

閃光。

装甲板は刃に切り裂かれ固い金属音と共に火花が散る。
確かに切断はしたが、浅い。

刀身はカコログ粒子の輝きが放たれているが淡く、鉱山で見た光には遠く及ばない。

600 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:20:00 ID:RCa4AENU0

川 ゚ -゚) 「そうか、粒子の濃度にもよるか。
      濃度が低ければ単純な変化、つまりは運動エネルギーの強化を。
      高くなるにつれ物質自体の強化、もしくは変位をもたらすのか」

切り傷を負った装甲を見ながら思考していく。
多角的な視点を持ち、見えかかってきたカコログ粒子の本質を見極める為に。

从;'ー'从 「……」

しばらく考え込んだ後、突き刺さった渡辺の視線に気がつき、
はっ、となって彼女の方へ振り向いた。

川 ゚ -゚) 「すまない、渡辺。突然のことで驚かせてしまったな。
      しかし面白い発見をしたぞ。例の機械剣が作れそうなんだ」

从;'ー'从 「そう……それより、クーにゃん。
      あのね……目がすっごい充血してるよ?
      顔色もなんだか悪いし、大丈夫なの?」

川 ゚ -゚) 「え、そうか?」

从;'ー'从 「うん……何だか様子も変だし、ちょっと休も」

川 ゚ -゚) 「うーむ、体調に変わりは無いのだが……」

601 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:21:20 ID:RCa4AENU0

从;'ー'从 「と、とりあえずね。お手洗いで顔くらいは洗ってきたほうがいいよ。
      何だか、すっごい怖い顔になってるし……」

川 ゚ -゚) 「いや、大丈夫だ。装甲板を実験室のほうに置いておいてくれ。
      私はユニバーサルブレードの設計を考える。渡辺はヒートブレードを。
      以前作った設計図を参考にすれば、そう難しいものではない」

从'ー'从 「うん……了解」

川 ゚ -゚) 「何かあったら聞いてくれ。私は作業に移る」

そう言い切り、図面を描く為に机へ向かっていく。
ノートパソコンのファイルを開き、機械剣の構想を書きだしたメモを見る。

ただそれだけで、胸が踊った。


閃光よ、閃光よ、カコログの虚無なる輝きを放つ刃よ。
兵士達を護る光となれ。

ただ念じ、没頭し、私は紙へと己の奥底に眠るアイディアを積み上げていった。

602 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:24:05 ID:RCa4AENU0

******

6月6日 19時57分―――ダーウィン社の研究室の一室


図面を引き続け70%ほど完成しつつある頃、

从'ー'从 「クーにゃーん。そろそろ定時だよ、上がろう?」

脳内にある設計図を紙に書き起こすことに没頭していた私を、
渡辺のゆったりとした声が現実へと引き戻した。

川 ゚ -゚) 「もう少しで完成するんだ、私は課長に許可を貰って―――」

从#'ー'从 「駄目!!」

川 ゚ -゚) 「え?」

从#'ー'从 「クーにゃんは帰らないと駄目!
       この間からずっと調子悪そうだし、今も酷いんだよ?
       すっごく辛そう。だから今日はもう帰らないと駄目」

川 ゚ -゚) 「いや、どこも悪くは从#'ー'从 「とにかく!今日は大事をとって早く帰ること!!」


川;゚ -゚) 「あ、うん……わかった」

いつもとは打って変わり、声を荒げて必死に止めようとする渡辺の勢いに押され、
引っ張られるようにしてオフィスへと向かうことになる。

603 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:24:53 ID:RCa4AENU0

廊下に出て、そのまま歩いていくと、

(-_-) 「あ、素直主任と渡辺さん。お疲れ様です」

水色のツナギを着て肩にタオルを掛けたヒッキーと遭遇した。
汗をしたたらせた彼は額を拭いながら歩いていたが、
疲れなど感じさせない、どこか活気のある表情をしている。

从'ー'从 「ヒッキー君お疲れ様!」

川 ゚ -゚) 「お疲れ」

从'ー'从 「ねぇヒッキー君、クーにゃんの顔見てどう思う?」

(;-_-) 「え……」

問いかけに動揺し、表情が曇るヒッキー。
どう答えればいいか迷っているようで、困惑の籠る視線をこちらに寄せてくる。

从'ー'从 「あ、ごめんね。聞き方悪かったね。
      クーにゃん顔色悪いでしょ?」

(;-_-) 「あ、あぁ……はい……青白くて、目にも隈が出来てて、とても」

从'ー'从 「ほら、ヒッキー君にだってそう見えてるんだから。
      今日は早く帰って休みなね!」

川 ゚ -゚) 「そうか……そうだヒッキー。
      後で進捗状況を書類にして貰おうと思ったんだが、ここで聞いておく。
      "強化兵装計画"の状況を簡単に教えてくれ」

604 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:27:25 ID:RCa4AENU0

(;-_-) 「あ、はい。装甲服のほうは滞りなく進んでいて、
     もう2、3日もすれば試作品が完成するのですが、
     機械剣のほうは難航しています」

川 ゚ -゚) 「ふむ……高周波ブレードかヒートブレード。
      どちらを製作するかで意見が割れていたようだが、それは?」

(-_-) 「はい、今日朝一でプロジェクトの主要メンバーを集めて会議を行い、
     高周波ブレードを製作する方向で決定しました。
     ヒートブレードだとどうしても重くなり、携行性に劣るという意見が多かったので」

川 ゚ -゚) 「高周波ブレードは耐久性に問題があったが、それはどうクリアするつもりだ?」

(-_-) 「あ、ええと、刃の構造を峰と分けて、分離して交換出来るようにする予定です。
     振動を刃の部分にだけ当てるようにし、破損しても取りかえることで継続して使えるようにします」

川 ゚ -゚) 「それでは交換用の刃を持ち歩かないといけなくなるだろう。
      重量が増し、携行能力が悪辣なものになってしまう」

(-_-) 「それについては現在審議中ですが、鞘を改造し格納するスペースを作る改善案が上げられていますので、
     大した問題にはならないと思います。替え刃の一つ二つ、ヒートブレードに比べれば軽いものです」

川 ゚ -゚) 「ふむ……」

何となく、納得がいかない。
自分ならこうするであろうという思いが、胸の内に渦巻いているようだ。
が、一息をつき、

605 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:30:18 ID:RCa4AENU0

川 ゚ -゚) 「……そうか、了解だ。すまんが引き続き任せるぞ」

自分が満足出来なくともその調子なら、
上司達は満足させられるかもしれないと感情に区切りをつけ、
その場を離れオフィスへと向かっていく。

从'ー'从 「ヒッキー君またね、お疲れ様」

渡辺がそう言うのが後ろで聞こえ、
一言労ってやればよかったかと、ほんの少しだけ思った。

……案外、余裕がないのかもしれんな。

オフィスに辿りつくとタイムカードを切って更衣室に入る。
白衣を脱いでロッカーにしまいこみ、バックを取ってからカギを締める。
一月前ならばコートを着ていたところだが、最近は夜でも暖かくもう必要はない。

スーツ姿で渡辺と共に街を歩いた。

空は黒く染まりあがり、真ん丸な月は煌々と輝いている。
帰路につく人々と遊び歩く人々の行き交う雑踏に、
呼びこみをかける看板を持った店員達。

街中には不協和音とも呼べる賑やかさで溢れていた。

606 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:38:08 ID:RCa4AENU0

川; -) 「……ッ」

そんな中を歩いていると、何故か眩暈が起きた。
くらくらとし、頭が重石を乗せられたように重くなり、
次いで胸にむかつきがこみ上げてくる。

……ダルい。

恐らく会社から出て集中力や緊張感が抜けたせいで、
意識することも無かった体調の不良が現れたのだろう。

从;'ー'从 「クーにゃん?」

異変に気がついたのか渡辺はそっと顔を覗きこんできて、
肩に手をおき足を止めさせてくる。

川;゚ -゚) 「……どうした?」

从;'ー'从 「どうした? じゃないよ! 大丈夫?」

川;゚ -゚) 「少し眩暈が……」

从;'ー'从 「もう……お家まで送ってくよ。タクシー呼ぼう」

そこまでしなくとも、と言う前にはもう腕を引っ張られており、
交差点付近で立ち止まると手を上げて呼ぼうとするが、
予約や客の入ったタクシーばかりで、なかなか捉まってはくれなかった。

しかし、代わりに黒のクライスラーのレバロンが停まる。
助手席が開くと―――

607 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:41:00 ID:RCa4AENU0

lw´‐ _‐ノv 「クー姉お困り?」

川;゚ -゚) 「シュー、どうしてここに?」

lw´‐ _‐ノv 「ちょっと遊びにきててさ。良かったら乗ってよ、送ってく」

lw´‐ _‐ノv 「いい?」

( ゚д゚ ) 「あぁ、構わない」

運転席にいた青年に尋ねるも、
ここに停車しようとした時からそれは承知していたようで、
一片たりとも淀みを感じさせない答えが返された。

シューが後部座席の鍵を解くと渡辺がドアを開き、
押し込まれるようにして私は車内に乗り込んだ。

lw´‐ _‐ノv 「すいませんねご迷惑をおかけして」

从^ー^从 「いやーいいよいいよ。お姉さんのことお願いね」

从'ー'从 「じゃあ、後は妹さんにお任せするね。お大事にクーにゃん」

川;゚ -゚) 「む、すまない渡辺……お疲れ様」

608 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:44:44 ID:RCa4AENU0

从^ー^从ノシ 「うん、お疲れさま。ゆっくり休んでね」

ドアを閉じて手を振る渡辺。

その姿が徐々に小さくなっていき、一抹の寂しさが胸に生まれた。
にこやかな笑顔を浮かべる彼女と研究室で怒った彼女の顔。
どれも、私を心の底から心配してくれているからこそ出来た表情だ。

川 ゚ -゚) (すまない……)

内心に詫び、明日ちゃんと礼をしておこうかと考えていると、

lw´‐ _‐ノv 「クー姉風邪? 顔酷いよ?」

川 ゚ -゚) 「顔が酷いって酷いだろ。風邪かもな……。
      いやそれより、なんでこんな時間にこんなところにいるんだお前は」

lw´‐ _‐ノv 「えーとねー、クー姉はびっくりだろうけどー、デートをしているというかー」

川 ゚ -゚) 「語尾を不必要に伸ばすな腹が立つ」

lw´‐ _‐ノv 「え、嫉妬?」

川 ゚ -゚) 「違う。断じて違うぞ」

lw´‐ _‐ノv 「そりゃ自分が仕事している間、妹がいちゃこらしてたなんて知ったら、
        クー姉が嫉妬しないわけないものねー。クー姉にご紹介すると、
        この車のドライバーが私の恋人ミルナっちです」

609 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:49:35 ID:RCa4AENU0

( ゚д゚ ) 「たまごっちみたいに言うな。初めましてお姉さん、ミルナ・コッチオです。
      シュールさんにはいつもお世話になっています」

後部座席からは横顔しか見えないが、今風の若者といった風体ではあるが、
言葉からは落ち着きを持った響きが籠っており、
悪い青年ではない、という印象を受けた。

川 ゚ -゚) 「ご丁寧にどうも。姉のクールです」

姉、妹とは言っているがこれは、カラマロスDNでの戦闘で両親を失い、
ヒート叔母さんに孤児となった私を家族として迎えてくれて以来、悲しい思いをさせないようにと、
叔母さんの計らいで、知人に実の家族のように紹介してくれたことから始まった方便だ。

lw´‐ _‐ノv 「さぁさぁ、自己紹介もしたことだし握手を交わそうじゃないか」

( ゚д゚ ) 「出来るか」

……全くもってその通りだ。
今私とミルナが握手をすれば交通事故は免れない。

( ゚д゚ ) 「お姉さん、ここはどちらを行けば?」

川 ゚ -゚) 「右だ。そこの駐車場の横を進んでいけば、もうすぐ着く」

そういえば、この辺りだったか。
ドクオが襲われた現場と言うのは。

今や綺麗に清掃されており、血痕などの汚れはなく、
ここでは何も起きなかったと思わせる程だ。

610 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:53:09 ID:RCa4AENU0

     【ビジョン】

( A●) 『クー、俺はお前が好きだ』

    『ありがとう……私も、ドクオのことが大好きだ。
     ずっと、ずっとお前に会いたいと思っていた……』

( A●) 『でも俺達の生きる道は違うんだ。生きる世界が違うんだ。
     俺にお前の傍にいる資格なんてないんだ。
     だから、俺がいずれ銃を捨てるその時まで、待っていてくれないか?』

    『わかった……』

( A●) 『じゃあ、こいつを持っていてくれないか?』

脳裏を過ぎるビジョン。
託された"御守り"。
その感触をスーツの内ポケットに確かめる。

最悪の場合、これが私を護ってくれることになるだろう。

( A●) 『あぁ、俺を護る必要はもうない。
     だから今度はクーを護ってくれって、ハインにも頼んでおいた。
     きっと、ハインもお前のことを護ってくれるよ』

彼の言葉の通りに。
役目を果たしたパイソンは彼をもう護らなかった。

611 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 22:57:53 ID:RCa4AENU0

( A●) 『あ、あぁ……いってきます?』

最後に見たあの恥ずかしそうな顔が頭から離れることはない。
ぎこちないセリフが耳の奥でずっとリピートされる。

lw´‐ _‐ノv 「クー姉、今度のお休みいつ?
        ご飯食べに行こうよ。三人でここらへんでさ」

途切れるビジョン。
白昼夢のように頭を浸食する過去。
シューの声のおかげで私は現実へと立ち戻った。

川 ゚ -゚) 「構わんが、ちゃんと勉強しろよ」

lw´‐ _‐ノv 「えへへー、で、いつお休み?」

川 ゚ -゚) 「16日だ。今週の休みは大事をとって寝て過ごす」

lw´‐ _‐ノv 「そっかー、そういえば顔色かなり悪いよね。
        あ、そうだそうだ、体調悪そうだったから乗せたんだった」

( ゚д゚ ) 「それは忘れるなよ」

川 ゚ -゚) 「……あ、そのアパートだ。駐車場はないから、ここら辺で停めてくれ」

lw´‐ _‐ノv 「不便だねー。クーにゃんの彼氏大変そう。
        いずれ、そのうち、未来に出来る彼氏大変そう」

( ゚д゚ ) 「お綺麗なのに、勿体ないですね」
613 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 23:04:04 ID:RCa4AENU0
川 ゚ -゚) 「……」

ミルナは眉を下げてそう言うと停車させていく。
徐々にスピードが落とされて、揺れは全く感じなかった。

lw´‐ _‐ノv 「ミルナが誰か紹介してあげればいいのにー」

川 ゚ -゚) 「調子に乗るなよシュー。ガキはお断りだ」

川 ゚ -゚) 「ありがとうな、ミルナ。妹をよろしく頼む」

( ゚д゚ ) 「えぇ、お姉さんもお大事に―――」

川 ゚ -゚)9m 「お前にお義姉さんと呼ばれる筋合いは無い!」

(;゚д゚ ) 「え?」

戸惑ったミルナの顔を見向きもせず車から降りてドアを閉める。
車のほうをちらりと窺うと、私はシューのほうを見て、

川 ゚ -゚)ノシ

手を振った。

612 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2012/02/18(土) 23:02:03 ID:RCa4AENU0

lw´゚,-゚ノv9m プッ

   _,,_
川#゚ -゚)q シネ


穏やかではないやりとりをして、そう別れをすませた。
16日か……空けておかねばならないな。

母さんに連絡し、私の両親について訪ねたかったが、
渡辺に心配をかけない為にも、今は身体を休め、体調不良を治すことに努めようと思いつつ、
部屋に帰るとそのまま横になる。眠気が一気に押し寄せてきて、深い眠りへと落ちてしまった。



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