川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです/2/3

2 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:26:25.55 ID:RpvuJ93L0

私達は出会い、互いに傷を負ってもまだ生きている。
そしてそれぞれの道を歩み、戦い続けている。

さて、過去の話はこれで終わりだ。

私達はこうして出会ったんだ。

現代の話に戻ろうじゃないか。


少女と戦争犬がおよそ7年ぶりに再会する話だ。

4 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:28:59.85 ID:RpvuJ93L0



       川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです



          第九話 少女と戦争犬の再会

5 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:31:04.01 ID:RpvuJ93L0

******

私は9'scafeでテーブルの上に置かれたコーヒーを飲んでいた。
白いカップには青い花が幻想的に描かれており、綺麗だと感心させられる。

片手で本を読みながらコーヒーを口に運び、
口内が心地良い苦みによって満たされていく。

カップをテーブルに戻すと、黒い液体を微かに残して白い底が覗いていた。

これで三杯目か……。

私は些か緊張しているのかもしれない。
まぁ、それも無理はあるまい。これから滅多に会うことのできない、
十年来の大切な友人と会うのだから。

私は通りかかった店員に再びコーヒーを注文した。
ふと、壁に立て掛けられた時計が目に入り、今は12時40分であることを確認する。

川 ゚ -゚) 「後10分か……」

呟くと、暇だからという理由で、
待ち合わせから一時間半近くも早く来たのは失敗であったと後悔する。

本を読みたかったというのもあるが、それももうすぐ読み終えてしまう。

上下巻合わせて1200ページはある長編小説も、
私のようなチャネラーという存在には、大した長さでも無いらしい。
十年前からだった、このような速読が出来るようになってしまったのは。

7 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:33:35.70 ID:RpvuJ93L0

十年前、あの戦場を駆け抜けてから私はチャネラーとして目覚めた。

遺伝子に抑制された知覚能力が、戦時下での過重ストレスによって解放され、
それ以来あまり自覚は無いが情報把握能力や記憶力が異常に冴えているらしい。

小説の後書きを読んでいると、客の入店を報せるベルの音が店内に小気味よく響きわたって行く。

私がその音に反応して顔を上げると、待っていた友人が私の目の前に立っていた。

('A●) 「久しぶりだな、待たせたか」

かつて私を庇って失われた左目に海賊のような黒い眼帯をした男が、
場にそぐわないような軍服姿で席に着く。

川 ゚ -゚) 「ドクオ……」


川 ゚ -゚)≡つ#;)A●)・∴「何故軍服なんだ!?」「モルスァッ!」


咄嗟に右拳がドクオの頬を捉えた。 私も普段は兵器開発を行っている身だ。
普段は白衣を着ているが、今日は私服の黒のテーラードジャケットに白のシルクスカートを履いている。
わざわざ軍服を着てくる必要などないだろうに。

なんだ?その胸に付けられた勲章でも見せびらかしに来たのか?馬鹿が!
……せっかく気合いをいれてきたというのに。

10 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:36:06.54 ID:RpvuJ93L0

('A●)「いや、俺これ以外に服無い……
    何だお前、装甲服でも着て来いってのか?」

川 ゚ -゚) 「誰が戦う準備してこいって言ったんだ。
      もう少し普通の格好をしてくれればいいんだ」

('A●)「これが俺の普通なんだよ」

少し捻くれたようにドクオは言う。
これが普通だと言ってしまえば彼にとってはそうなるのだろう。
こいつにとっては戦場が日常で、今が非日常だ。

川 ゚ -゚) 「それもそうだな……後で服を買ってやるよ」

('∀●)「着る機会は無いかもしれないけどね〜」

嬉しそうに口元を緩めて、ドクオは再び席に着く。
右ストレートを受けた頬を摩りながらコーヒーを注文した。

∫ハ*゚ヮ゚ノルゝ 「イエッサー」

店員は上官から命令を受ける兵士のように注文を承る。

川 ゚ -゚) 「今は……少佐だったか?」

('A●)「あぁ、そうだ。上の連中はバタバタと死んでいくから、
     席がドンドン空いていってこんなガキでも少佐に成れる」

11 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:38:25.99 ID:RpvuJ93L0

川 - -) 「そうか、もう少佐か」

早いもんだな……私は過去を逡巡する。
あの日この男は、少年だったこの男は私を連れて戦場を駆け抜けた。
一等兵であった彼が、あの人に拾われたこの少年兵があの人と同じ少佐に成り上がったのだ。

何とも言えない、不思議な感覚だ。時の流れを感じる。
嬉しいとも思うが、その分心配にもなる。

ドクオはまだ戦い続けているのだ。
国家総合案内所の手先のいるかもしれない軍の中で、
いつ後ろから撃たれてもおかしくない奴らの掌の中で。

('A●)「ハインと同じだ」

('A●)「もっとも、十年前にあの人は大佐になったけどな」

この男も、恐らくは私と同じ気持ちになっているのだろう。
あの時のハインさんと同じ階級になった、不思議な気持ち。

∫ハ*゚ヮ゚ノル 「お待たせしました〜」

店員がコーヒーを持って来て、テーブルの上に置く。

ドクオはコーヒーに手を伸ばし、口に運んだ。

('A●)「クーはダーウィン社の兵器開発部だな?」

13 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:40:46.36 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「そうだ。忙しいのだが、例の一件で私達には休暇を与えられた。
      退屈だったのだが、お前に会えて良かった」

('A●)「悪いな、貴重な休日を。お前は大丈夫なのか?」

川 ゚ -゚) 「あぁ、戦闘なら10年前に経験している。怖くはなかった」

川 ゚ー゚) 「お前が助けに来てくれたことだしな」

('A●) 「たまたまさ。作戦区域の近くでよかった。
     クー、そろそろ出よう」

川 ゚ -゚) 「もう少しゆっくりしていけばいいだろう」

('A●)「ここじゃ話せないことがあるんだ。どこに"奴ら"がいるともしれない。
     それに、クーの休みを削りたくも無いしな」

14 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:43:11.09 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「休日とはいってもやりたいことはないんだ。 正直退屈だ。
      今日一日お前に付き合うよ。久しぶりに会えたことだしゆっくりと話したい」

川 ゚ -゚) 「何ならホテルにでも行くか?」

(メ゚A●)・;゙.:ブフォ

ドクオがコーヒーを噴き出し、咽返ってしまう。
ゴホゴホと咳をしながら、苦しむ。

(メ;'A●)「からかうな」

冷静を装ってドクオが言うが、苦し紛れもいいところだ。
こいつ、スパイとかに色仕掛けとかされたら、絶対に何でも話すな。
少佐になったのはいいが、不安だ。

川 ゚ ー゚) 「これだけで動揺するとは、随分な少佐殿だ」

それでも自然と頬は緩んでいき、私は笑みを浮かべてからかった。

16 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:46:48.70 ID:RpvuJ93L0

******

9'scafeの近くにある駐車場に辿りつくと、ドクオは赤いディーノのドアを開いた。

川 ゚ -゚) 「お前にそんな気遣いが出来たんだな」

('A●) 「うっせー、乗れ」

助手席に乗り込んだ私を見届けるとドアを閉めて、彼は運転席に乗り込む。

エンジンをかけると車体が軽く身震いし、アクセルを踏み込んで発車させると、
道路へと乗りだしてどこかへと向かっていく。

川 ゚ -゚) 「なぁ、どこへ向かうんだ?」

('A●) 「墓地だ。すぐに着く」

川 ゚ -゚) 「そこで話を?」

('A●) 「いや、違う。お前と墓参りをしておきたくてな」

川 ゚ -゚) 「誰のだ」

('A●) 「ハイン達のだ」

17 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:49:12.33 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「そうか……遺体は発見されたのか?」

('A●) 「遺体は発見されなかった。MIAに認定されたが、
    10年前にカラマロスDNで核の爆心地にいた兵士はほぼMIAだ。
     遺体も残らなかったんだ。無名戦士の墓にみんな名前を刻まれ、埋葬された」

('A●) 「ハイン達GJの隊員達の名前もそこに刻まれている」

川 ゚ -゚) 「そうだったのか、知らなかった」

川 ゚ -゚) 「それで、MIAというのは?」

('A●) 「Missing In Actionの略で、戦闘中行方不明って意味だ。
     死亡が確認された場合はKIA、Killed In Actionになる」

川 ゚ -゚) 「ほう、業界ではそういうのか」

('A●) 「業界って……まぁそういうことになるか」

川 ゚ -゚) 「花束は用意してあるのか?」

('A●) 「後部座席に置いてある。それを供える」

川 ゚ -゚) 「しっかりしているな」

('A●) 「恩人の墓参りだ。当然だろう」

川 ゚ -゚) 「お前のことだから忘れたんじゃないかと思ってな」

18 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:52:48.63 ID:RpvuJ93L0

('A●) 「実は今朝慌てて買った」

川 ゚ -゚) 「やっぱり」

川 ゚ -゚) 「墓参りは毎年行っているのか?」

('A●) 「いや、行ける時にはいくが、ここ最近は行けなかったな。
     戦況が激化し、忙しかったんだ」

川 ゚ -゚) 「近年のニューソク軍の活躍は目覚ましいものがあるよな。
      連勝につぐ連勝。三ヶ国大戦から10年が経ち、
      つい先日前線基地を陥落させたそうじゃないか」

('A●) 「あれは俺が落とした。お前と会ったあの日にな」

川;゚ -゚) 「マジか」

('A●) 「あぁ、本隊とは別行動を取りお前を助け、基地を急襲。
     敵の足並みが崩れた隙に本隊が突撃して殲滅した。
     案外脆いもんだったよ」

川 ゚ -゚) 「流石はハインさんの弟子といったところか、戦争犬」

('A●) 「あ?」

川 ゚ -゚) 「結構有名だぞ? ニュースにもお前の写真が出てた。
      羽仁同盟軍もお前のことを恐れていると聞いた」

21 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:56:52.22 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「"戦士"高岡ハインリッヒの再来であるとも」

('∀●) 「過大評価さ……」

川 ゚ -゚) 「あまり目立った行動をとっては危険じゃないのか?」

('A●) 「大丈夫だ、問題は無い」

川 ゚ -゚) 「正体がバレるかもしれないぞ?」

('A●) 「バレたとしても、有用性を示せば総合案内所は俺を利用する。
     10年前にエージェントを殺されたからといって、抹殺されることもないだろう」

川 ゚ -゚) 「そうか……無理しないでくれよ?」

('A●) 「あぁ、お前こそな」

('A●) 「そうだ、お前こそ何のつもりだよ。純粋水爆の開発に新型AAの開発。
     軍用ライフルの大幅な製作コスト削減への成功。
     功績を上げていけばキリがない」

('A●) 「チャネラーの能力なら可笑しくも無いだろう。
     だが、こんな目立つ活躍をしていれば、
     いずれは奴らにお前がチャネラーであることを晒しているようなものだ」

('A●) 「俺の身元は割れている。でもお前がカラマロスDNを脱出したことはバレていないはずだ。
     何の為に難民キャンプを避けてチューボー基地に送ったと思う?
     お前を極秘裏に親戚の元へ送る為だろう」

22 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 20:58:54.61 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「私は……」

('A●) 「……」

川 ゚ -゚) 「私はな……」

('A●) 「いや、いい」

川 ゚ -゚) 「え?」

('A●) 「言い辛い理由があるなら、今は話してくれなくても良い。もうすぐ墓地に着くぞ」

川 ゚ -゚) 「……」

ゲートを潜ると、芝生の生い茂った丘が窓から見えた。
広く開いたそこには白い杭のような物がおびただしい程突き立っており、
目を凝らして見るとそれは十字型をした墓標であることがわかった。

('A●) 「無名戦士の墓は中心にある……御両親の墓もここに?」

川 ゚ -゚) 「あぁ、この墓地だ」

遺体は原形を留めておらず、ほぼ全てが灰になってしまっていたのだが、
両親の物らしき遺体の一部だけが発見され、
それを知ったヒート叔母さんが墓を立ててくれたのだ。

('A●) 「じゃあついでに寄って行こう。花束も二つ用意してある」

23 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:01:27.00 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「すまない」

('A●) 「いいさ、時間はあるから挨拶してきたらいい」

川 ゚ -゚) 「お前は来ないのか?」

('A●) 「俺は赤の他人だ。邪魔になるだけだよ」

川 ゚ -゚) 「そんなことはないさ。母さんにも父さんにもお前を紹介したい。
      この男が私を助け、護ってくれたってな」

川 - ) 「……きっと、感謝してくれているよ」

もう立ち直っていたはずなのだが胸が痛み、
目頭が熱くなってきた私は顔を伏せた。
すると頭の上に、ぽんと手がのせられた。

川 - ) 「……え?」

\('A●) 「……」

何かを言いこそしないが、ドクオが私の頭を撫でてくれたのだ。
彼なりの気遣いのつもりだろうが……。

川 ゚ー゚) 「バカ、ハンドルを握れ。片手は危ないぞ」

('A●) 「良いんだよ、もう駐車場につく」

川 ゚ -゚) 「ありがとう」

24 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:03:33.02 ID:RpvuJ93L0

('A●) 「気にするな」

駐車場に車を止めたドクオはエンジンを切り、シートベルトを外した。
私も同じくシートベルトを外していく。

('A●) 「もし俺がお前を裏切っていて、
     国家総合案内所の手先になりお前を騙していたとしたらどうする?」

川;゚ -゚) 「なっ……」

何時の間にか首元にナイフが当てられていた。
素早く、気配を一切感じ取らせずにドクオはナイフを抜いたのだ。
彼は私を鋭い眼光で貫いていく。

川 ゚ -゚) 「お前は、お前の意志を果たす。私はそう信じる。
      守ってくれると約束したじゃないか、ウォードッグ」

('A●)「その約束すらも反故にして、だ」

川 ゚ -゚) 「その時は私はお前と戦うよ。お前を信じて、な」

('A●)「………」

ドクオは黙りこくり、場に沈黙が訪れる。
どんよりとした、重く肩にのしかかるような緊張感に満ちた空気。

皮のホルスターが擦れる音と共に、ドクオはナイフを収めた。

26 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:06:43.91 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「これは警告だ。お前の警告に、私を嘗めるなといった警告で返してやったまでだ」

(;'A●)「だったら早く退いてくれないか……?」

川 ゚ -゚) 「お前が話を終えたらな」

(;−A●)「フー」

ドクオは溜息を吐いて一拍置き、
私を見上げて――見下ろす側とは良い物だな――口を開く。

('A●) 「俺は案内所の調査を三年前から開始した」

川 ゚ -゚) 「けっこう最近の話なんだな」

('A●) 「あぁ、用意に時間がかかったんだ。
     今は少佐という権力もあり、部下も揃っている。
     その代わり仕事も増えたがな」

('A●) 「部下達に調べさせ、俺自身も色んな場所に潜入した。
     案内所と関係している疑いのある研究所、病院、軍基地、会社、
     エトセトラ……臭いところを見つけては調べまくった」

('A●) 「そして先日、ウプスレッド研究所に潜入して調査した」

川 ゚ -゚) 「ウプスレッド、ダーウィンに依頼をしてきたところか」

27 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:09:13.27 ID:RpvuJ93L0

('A●) 「そうだ。お前を拉致しようとした部隊もそこの所属だ。
     あの時の尋問で情報を仕入れたからな」

('A●) 「十年前から俺は案内所とはチャネラーの研究を行う帰還だと思っていた。
     調べた結果、装甲服の開発も奴らが携わっていたらしい。
     武器の開発に留まらず、政府、企業、軍へなんらかの干渉を行っているようだ」

('A●) 「そして徹底的な情報統制。漏洩を防ぐ為の暗殺機械。
     組織の障害となる者へ武力行使をする直属の部隊に、傘下の部隊。
     案内所の名を口には出来ず隠語である"鮫島"としか発音することは出来ない」

('A●) 「尋問である男が言っていた」

('A●) 「鮫島とは国家の規範であり、国家をあるべき姿へと案内していく為の組織。
     鮫島は、国家を真に憂う者達の集まり、真の愛国者たちの集い。
     彼らの行いと決断は全て、ニューソクの為に行われている」

川 ゚ -゚) 「だいぶ胡散臭い話になってきたな」

('A●) 「俺もそう思う。だが俺達はそれを目にし、それと戦っている」

川 ゚ -゚) 「しかし十年前に遭遇した案内所の部隊は、自ら案内所と名乗っていたぞ?」

('A●) 「俺にもそれはわからないが、恐らくは何らかのイレギュラーがあるのだろう。
     もしくは、単純に十年前はそこまで情報統制が進んでいなかったのかもしれない」

川 ゚ -゚) 「推測の域を出ない話だな……」

28 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:11:27.84 ID:RpvuJ93L0

('A●)「話しは終わったんだ。そろそろ降りてくれない?」

ドクオが私を見上げたまま、歴戦の兵士には似つかわない情けない恰好で頼むと、
私はある異変に気付いた。

川 ゚ -゚) 「ん? 太ももに何か固い物があたっているんだが……」

('A●) 「あの……それは決して変なものではありませんよ?」

川 ゚ -゚) 「……?」

(;゚A●) 「ホントだって! ほれ、左足見てみ!?」

動揺したドクオはズボンをめくり左足を露出させていく。
すると……。

川 ゚ -゚) 「……!?」

そこにあったのは肉などでは無く、鉄だった。
筋肉の代理を果たすアクチュエーターに、神経と繋がれたコード類が、
チタン製義足の装甲の隙間から見え隠れしていた。

私は機械の足を確かめる為に右手をあてていく。

33 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:14:16.08 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「ドクオ……何時の間にこんな怪我まで……」

('A●) 「ちょっと捕虜を救出する時にミスってな、でも歩ける」

川 ゚ -゚) 「こんな足で戦えるのか?」


('A●) 「問題はない、ただ、やっぱり生身の足よりはどうしても重くなるな。
     ゆくゆくは軽量化されると聞いているが……」

川 ゚ -゚) 「私はな、サイバネティックスにも知識がある。
      会社で今進めているプロジェクトが終わったら、私が義肢の軽量化をしてみせるよ」

('∀●) 「期待しないで待ってるぞ、何時までも人の上に乗っかってないで、早く墓参りしようぜ」

川 ゚ー゚) 「あぁ、でも待ってろよ。絶対にそんな義足より良いものを作ってやるからな」

冗談のように思われてしまったかもしれないが、私は本気だった。
今開発中の対装甲服用の武器"機械剣"を完成させたら、私は義足を作りたい。
仕事の楽しみが少し増えた、と思いながら車から出ていき、墓へと足を運んでいく。

ハインさん達が眠るであろう、無名戦士の墓へと。

34 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:16:33.43 ID:RpvuJ93L0

******

駐車場から出ていくと数多くの石碑が建てられた、
草原のような場所に私達は足を踏み入れた。

とても静かな場所であり、人の声もせず、
墓地に吹いていく風の音だけが耳に届いてくる。
暖かい空気を運んでくるそれはとても気持ちが良い。

草を踏みつけて目当ての墓標に辿り着く。
墓には短くこう刻まれている。

  己の守るべきものの為に戦った
    誇り高く勇敢な名も無き戦士達が
         英霊となりてここに眠る

私は墓前に花を添え、両手を合わせて黙祷を行う。

川 - -)人 「………」

目を閉じているからハッキリと分からないが、
ドクオも私の隣りで黙祷を捧げているようだ。

捧げる、とは言っても私達は宗教に入信してるわけじゃない。
所謂、無神論者と言う奴だ。

しかし、墓の前ではこういうふうに合掌をして、
相手を敬うことが墓参りというものなのだろう。
今は亡き人の事を思う、憩いの場。

37 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:18:36.17 ID:RpvuJ93L0

ハインさんの事を思う。

私を見付けてくれたジョルジュさんという人、
救助の為に瓦礫を撤去してくれたブーンさんとモナーさん。
怪我の手当をしてくれたペニサスさん。
救助までの時間を稼いでくれたつーさん、ビコーズさん、アサピーさん。

彼等全員に私は感謝を込めて祈りを捧げる。

そして、隣にいるドクオにも。

私が目を開けると、彼は黙祷なんかしていなかった。

('A●)ゝ「………」

やはり、彼は兵士なのだ。
兵士らしく、墓に向かって敬礼をしていた。

私がその姿を見ると彼は口を尖らせて敬礼を解いてしまった。

川 ゚ -゚) 「ハインさん」

川 ゚ -゚) 「あなたが命を捨ててまで助けた命が、
      あなたに後ろを押されて、戦場を駆け抜けて生き延びた命が」

川 ゚ -゚) 「今、大勢の命を奪う兵器を作る為に駆け抜けています」

38 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:20:40.08 ID:RpvuJ93L0

川 ゚ -゚) 「私の能力を活かすには、あなたのような人を生み出さない為には、
      私はこうするのが一番だと思っています。
      ですが、その反面。私の作った兵器で大勢の命が失われていきます」

川 ゚ -゚) 「それでも、私の兵器は人を守りきれません」

川 ゚ -゚) 「ハインさん。あなたは自分が死んでまで、こんな命を生かして良かったのですか? 」

日夜、私が作り出していく兵器が人の命を守り、人の命を奪う。
私は最近、どうにもこの重みが辛くなってきていた。

人を守っても、守れなくても、私が作った兵器が扱われる場所では、人の命が失われていく。
それは当然のことで、今この瞬間にも人は死んでいる。

戯言だ。世界を知らないガキの戯言で、
下らない平和主義者共の幼稚で無知な戯言。
唾棄すべき、忌むべき思想。

その思想を持つ者達は、大概が銃を握ったことも無い連中だ。

自分達が言っていることの、意味と重みが分かっていない大馬鹿者共。

だが、私は銃を握ったことがある。
この兵器を作る指で引き金へと指を掛け、引いた。
この掌で銃の内で起こる弾薬が爆発する衝撃を感じた。

40 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:22:56.04 ID:RpvuJ93L0

人を殺した虚しさが手に残った。

その時から私は殺人者だ。

でも、ドクオは、その時のドクオは、
ありがとうと私に礼を言ってくれた。
何度も、何度も私の頭を撫でて。

あの時の罪悪感は忘れられるものではない。

ドクオにも、そんな感情があるのだろうか?

川 ゚ -゚) 「ドクオ、ハインさんは……」

('A●)「ハインはただ目の前の可能性を守りたかっただけだ。
    目の前の命を、死にかけていた女の子の命を守りたかった」

('A●)「クーだから護ったんじゃない。チャネラーだったから護ったんじゃない。
    目の前に拾える命があるから、消えかけていた命があったから護っただけだ。
    自分よりも多くの可能性を秘めたその小さな命をな……俺も、ハインに生かされているんだ」

川 ゚ -゚) 「………」

42 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:25:01.25 ID:RpvuJ93L0

('A●)「最近、あの人の気持ちが分かる気がするよ……」

ドクオはそう言って墓を見つめる。
彼は私にではなく、もしかしたらハインさんに話しかけていたのかもしれない。

だが今度は、ドクオはしっかりと私の目を見据えて言った。

('A●) 「だからクーは自分の望む物を、自分の幸せを掴んでくれ。
     気負ったりせず、過去に囚われずに、自分の思うようにさ」

('A●) 「お前は俺が護るから」

川 - ) 「なら、これからはずっと一緒にいてくれるか?」

川 ゚ -゚) 「私と、共に駆けてくれるか? ウォードッグ」

私は彼を見据え、覚悟をして言う。この覚悟が何なのかは分からない。
本能的に、女がある局面で固める覚悟、と言えばしっくりくるかもしれない。

私はこの男に、そんな覚悟をして尋ねた。

44 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:27:05.59 ID:RpvuJ93L0

('A●)「それが俺の仕事だ。戦うのが、な……。
    俺は"奴ら"を確実に潰し、お前の安全を保障する」

緊張感を持って尋ねた私に対しけろりとした声でドクオは応えると、
深刻そうな、緊張に支配された顔で口を開く。

(;'A●)「悪い、トイレ行ってくるわ」

そう言ってドクオはゆっくりとした足取りで、
墓地にある公衆便所へと向かっていった。

先程の緊張感が嘘のように四散していく。
私は溜息を吐き、目の前にある、無名戦士の墓に眠る筈のハインさんに語りかける。

川 ゚ -゚) 「ハインさん、あいつは鈍いです。
      あの戦争犬が私の言葉を理解できるようになるには、
      まだ時間が掛かりそうです。その時が来るまで、私は待とうと思います」

どうか見守っていて下さい。そう付け加えて、私は苦笑ともとれる表情で黙祷を捧げた。

45 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:29:07.19 ID:RpvuJ93L0

******

クーと別れた俺はトイレへと向かった。

と、見せかけて……。

('A●) 「ッ!」

<ヽ;`∀´> 「ゴッ!?」

林の中に潜んでいた不審者の視界から外れ、
そっと背後に忍び寄った俺は後頭部に肘鉄を極め、
木に顔面を抑えつけてやった。

右足の踵を外側からを踏みつけて関節を外してやると、
男は激痛に叫びを上げようとするが口を片手で塞ぐことでそれを抑える。

('A●) 「じゃあ自己紹介してみようか。お前の所属と名前は?」

<ヽ;`∀´> 「……」

首を左右に振ったその男は、黙秘するつもりらしい。
喋らせる為に離した手を、俺はもう一度口に当てた。
そして右腕を引っ張り、背中を足で押しつけると異音が響いた。

男の背が痛みにびくりと震えるのが足から伝わる。

('A●) 「自己紹介出来るか?」

47 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:32:18.92 ID:RpvuJ93L0

<ヽ;`∀´> 「国防情報局第一課所属! 諜報員のニダー=イルソン二ダ!! あぁっ、あぁ……ッ!」

('A●) 「お前の任務は?」

<ヽ;`∀´>  「……」

('A●) 「もう少し話しやすくしてやるよ」

今度は左腕の関節を外し、左足を思いきり蹴りつけて骨折させてやった。
呻こうとするも口を抑えられている為に出来ず、
身震いする身体だけがその痛みを物語る。

('A●) 「これで話せるか?」

<ヽ;∀;> 「任務は……高岡ドクオと思われる鬱田タケシの監視。
      必要であれば排除。素直クールとの関係を明らかにするのが目的ニダ」

('A●) 「人数は?」

<ヽ;∀;> 「ウリともう二名ニダ……」

('A●) 「残る二名の現在地は?」

<ヽ;∀;> 「丘の頂上から望遠してる者が一名、駐車場の近くに潜伏する者が一名ニダ」

('A●) 「誰に頼まれた?」

<ヽ;∀;> 「……それは言えないニダ」

49 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:34:37.51 ID:RpvuJ93L0

('A●) 「そいつは彼女に近い位置にいるのか? 名前は?」

<ヽメ;∀;> 「そこまでは知らされていないニダ……」

('A●) (これだけ痛めつけたんだ。嘘をついている訳ではないな……)

('A●) 「ではお前の上官について聞こう。名前は?」

<ヽメ;∀;> 「FOX……そのコードネームしか知られていないニダ」

('A●) 「FOXか。役職は?」

<ヽメ;∀;> 「国防情報局の局長ニダ……」

('A●) (局長直々に?……じゃあ、情報局は案内所に抑えられていると見て間違いないな)

('A●) 「FOXは国家総合案内所と通じているのか?」

<ヽメ;∀;> 「さめじ……」

<ヽ;゚∀゚> 「ぐっ……!」

ニダーはいきなり目を見開くと顔をぶるぶると震わせ、
苦しみ出すと口から泡を吹かせて倒れていった。

(;'A●) 「ちっ……またか」

舌打ちをつくと同時に俺は気配を感じて振りかえり、銃を抜いた。
コルトパイソンの銃口が、大柄なモヒカン頭の男を覗く。

51 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:36:49.11 ID:RpvuJ93L0

( ゚∋゚) 「鬱田タケシ少佐か? 銃を降ろしてくれ、私はフサギコさんの部下だ」

('A●) 「傭兵か、遅いぞ」

( ゚∋゚) 「申し訳ない、だが他のスパイは別働班が片付けた。
      気にせずに素直の元に戻ってくれ」

('A●) 「言われなくても戻るさ、サンキュー。フサは来ているのか?」

( ゚∋゚) 「あぁ、今も素直クールの周辺を警備している。
      家から出る時から今まで、ずっとな」

('A●) 「そうか……きちんと働いているようで何よりだ」

( ゚∋゚) 「あれだけの報酬を貰えるんだ、下手に政府に雇われるより稼げる。
      そりゃあ気合いも入るというものだ」

( ゚∋゚) 「もっとも、今日は特に気合いが入っているようだがな」

('A●) 「何か言っていたか?」

( ゚∋゚) 「あぁ、あんたと素直クールの会話を聞いている時」

ミ,,゚∋゚彡 「いいぞ! 良い雰囲気だ!! ドクオ行け行け、抱きしめてキスしちまえ!!
       ハインさんもお前が男になったところを見たがっているはずだ!!
       返事をしてやれYESYES! はい黙りこくるかーらーのー……あー」

54 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:41:06.74 ID:RpvuJ93L0

('A●) 「何でそんなテンション高いのあのオッサン」

( ゚∋゚) 「上司の見てはいけない一面を見た気がしました」

('A●) 「とりあえず素直クールのとこ戻るよ。引き続きガードを頼む」

( ゚∋゚) 「イエッサー! あ、そうだ。フサギコさんからの伝言だ」

('A●) 「……?」

( ゚∋゚) 「そろそろ自分に正直になったらどうだ? だそうだ」

('A●) 「そうか……」

( ゚∋゚) 「あと、夜はカーテンきちんと閉めて俺達から見えないようにして、
      ゴムを忘れ……」

('A●) 「うっせーエロ中年って伝えておいてくれ」

巨漢の言葉に途中で耳を傾けるのをやめ、俺はクーのもとへ戻っていった。

55 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:44:10.88 ID:RpvuJ93L0

******

川 - -)人

戻ってきたドクオと共に私は両親の墓へ赴き、黙祷を捧げる。


母さん、父さん。久しぶり。
今日は会わせたい人がいてここに来たんだ。

(-A●)人

私の隣に立つこの男だ。名前は高岡ドクオって言う。
彼はな、10年前カラマロスDNで私を助けてくれたんだ。
そして今もなお、総合案内所と戦い私を護ってくれている。

貧相な顔をしているが強く、優しい男だ。
愛想がなくて時に冷徹で厳しくもある。

そんな彼は10年前に私を護ってくれるって約束してくれたんだ。
どんな気持ちでそんな約束をしてくれたのかはわからないが、
今もその約束は守られている。

あの時はお互い一人ぼっちだったが、今は違う。

私には家族があり、彼には仲間がいる。
それでも彼は我が身の危険を顧みずに私を護ってくれる。
ドクオに見返りは無い。ただ約束したからというそれだけの理由で護ってくれる。

57 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:46:10.81 ID:RpvuJ93L0

だから私はそんな彼に応えたいと思った。
自分の気持ちに従ったうえでの判断だ。

後は彼が受け入れてくれればいいのだが……。

母さん、父さん。どうか見守っててくれ。

私と彼の行く末を。


川 ゚ -゚) 「ドクオ、行こう」

('A●) 「もういいのか?」

川 ゚ -゚) 「あぁ、充分に近況を報告できた」

('A●) 「そうか……じゃあ家まで送るよ」

川 ゚ -゚) 「なに、もう帰るのか?」

('A●) 「俺が話せることはもう話した、用事はもうこれで終わりだ。
     これ以上うろうろするのも危ない」

川 ゚ -゚) 「久しぶりに会ったと言うのに、寂しいことを言ってくれるな」

('A●) 「……状況が状況なんだ」

川 ゚ -゚) 「私の心配はしなくていい。だから、どこかに行こう。
      服を買ってやるとも約束したしな」

59 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/10/15(土) 21:48:29.06 ID:RpvuJ93L0

('A●) 「そういえば……そうだったな」

川 ゚ -゚) 「決まりだ、街に遊びに行こう」

(;'A●) 「へ?」

川 ゚ー゚) 「デートだ、デート!」

(;'A●) 「え? えぇーっ?」

川 ゚ー゚) 「行くぞ」

私は駐車場のほうへ向かって歩いていき、
ドクオはそれにゆっくりとついてくる。

彼は空を見ながら何かを呟いた。

私はドクオを待ち、彼が横に並ぶと一緒に駐車場へと向かっていった。

さて、まずどこへ向かおうか>>62

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/10/15(土) 21:53:22.12 ID:iwa+ajZZ0
ラブホテル

エロシーンにつき 18歳未満はこちら 18歳以上はこちら

戻る

inserted by FC2 system