- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:33:33.77 ID:Atk1P62g0
- 〜序章〜
---時は戦国、丹生速谷。
今ここに、丹生速の地において名将と呼ばれた男の命の灯りが消えようとしている。
「・・・御味方の部隊、壊滅いたしましたッ!!」
「・・・渡辺勢、荒巻知之風率いる敵騎兵の急襲を受けております!火急増援をとの知らせがッ!!」
「・・・増援は出せん! 渡辺ならば混乱を収拾し、持ちこたえられよう!」
「・・・糧秣庫に火の手が上がっておりますッ!伏兵かと!」
「・・・斉藤隊に手勢を率いて向かわせよッ!!」
「・・・渡辺隊壊滅!壊滅にござるッ!!」
「・・・向こう半里に敵長槍隊三百、率いるのは茂羅々武吉本人にござる!!」
「不入様・・・!」
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:34:39.10 ID:Atk1P62g0
- (‘_L’)「落ち着け。慌てても状況は悪化する一途ぞ。」
不入と呼ばれたその男、身の丈六尺三寸にして隻腕。兜の隙間から見える顔には年輪が刻まれ、白髭と相まって老いて尚といった印象をもたらす。
陣中には嵐のように報告が飛び交う。だがその内容は一様に芳しくなく、斥候達の装束は皆一様に血と泥にまみれ、報告後息を引き取る者もいる。
(‘_L’)「殿・・・!」
その男、身の丈六尺三寸とひょろりと高い。兜の隙間から見える顔には年輪が刻まれ、
整えられた白い髭と相まって老いて尚といった印象をもたらす。
( `∞′)「・・・」
椅子に腰掛けている殿と呼ばれた中年男は赤い南蛮甲冑を纏い、恰幅のよさの影となっているが鋭い眼力。正に威風堂々といった様子である。
(‘_L’)「糧秣庫に敵の手が及びしは、退路をたたれた証拠。かくなる上は・・・」
( `∞′)「うつけが。言わずもがなである」
(‘_L’)「・・・はっ」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:35:52.01 ID:Atk1P62g0
- 弐知安暦 七七四年 丹生速谷 内藤参摂斗が陣中。
内藤家は丹生速地方を治める豪族であった。後世、一角の人物であったと伝えられる内藤家の主、参摂斗。
丹生速の民からの信望は厚く、仁政を尊びその名君っぷりは周辺諸国に丹生速に内藤ありと言わしめた。
丹生速の地は肥え、領内には活気が溢れ、活き活きとした民の住まう国であった丹生速。
その状況が変わったのは翌月のことであり、きっかけは本当に些細なことであった。
そもそも和を好む性格であり、諍いを好まない内藤君にとっては周辺国との外交に問題は無く、
臣民一体となった丹生速にある争いは、散発的な野党の襲撃がほんの二月に一度あるかないかであった。
そんなある日、隣国である茂羅領に内藤家の侍従が使いに出た。
-事件はそこで起きた。
丹生速の地は海に面した領が無く、塩や海産物といったものは隣国の茂羅領からの輸入で賄っていた。
その取引の使いに出た侍従が茂羅家の若殿に斬られたのである。理由は「目つきが気に入らない」という理不尽にも程があるものであった。
報告を受けた内藤は当然の如く激怒。公式な抗議文を持った使番を翌日茂羅城に遣わせた。
---その時、茂羅領で起こっていた事件を知る由もなく。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:36:58.05 ID:Atk1P62g0
- ( `∞′)「・・・もはやこれまでか。不入。介錯をせよ。茂羅々のうつけに我が首は渡さぬ。」
(‘_L’)「くっ・・・殿っ・・・!」
茂羅家とは、外交上の問題は皆無だった。海産物と農産物の取引。需要と供給が絶妙になりたっていた。
( ・Ω・)
海運を生業とする茂羅家の当主は漁師町である茂羅領を良く治めていた。
土地柄、血の気の多い民を上手く纏め上げ、一代で茂羅家を周辺諸国に負けぬ国に作り上げた。
唯一、不運であったのは子宝に恵まれなかったことである。そのため、跡継ぎは分家の茂羅々家から貰い受けた。
( ・∀・)
茂羅々武吉。この男、性格は苛烈にして悪魔のように頭が切れる。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:38:11.22 ID:Atk1P62g0
- 幼き頃から近所の悪童を集め、その頭領として悪名を馳せた。
「茂羅の殿様は、なんでうつけの武吉なんぞを跡取りに見定めたのであろうか」
そんな噂話が領内に飛び交い、当然あるとき茂羅の耳に入った。その時茂羅はこう言ってのけたそうである。
( ・Ω・)「悪たれなのは知っておる。だがあ奴の悪知恵はもはや知略の域まで昇華しておる。」
( ・Ω・)「愚行は若さゆえじゃ。これから経験を積めば簡単にわしを越えよう。」
-わしが甘かった。
茂羅々は、濃の器に納まるうつけではなかった。
この戦が起きる三日前、茂羅は寝所で何者かに斬り殺された。首謀者はもちろんこの男である。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:39:58.27 ID:Atk1P62g0
- ( ・∀・)「親父が死んだ。今日からこの俺が茂羅家・・・じゃなかった。茂羅々家の当主なんだからな!」
( ・∀・)「まずは戦だ。やったのは内藤だ。内藤領を分捕る。下拵えはもう済んでいる。」
茂羅が死んだ朝、緊急の評定にて茂羅々は開口一番こう言い放った。
もちろん歴代の将たちはこれに反発。
「なにを言うか! お主に殿のかわりなぞ務まるか!」
「それが殿の遺言だとしても、貴様に従う気なぞさらさら無いわ!」
「そもそも内藤殿がこのようなことをする道理がない!貴様がやったのであろう!」
( ・∀・)「そうか。まあそう言うと思ってたし。」
( ・∀・)「ならば、死んでもらう。」
- 10 名前:>>7 特に考えてませんでした 投稿日:2009/10/08(木) 01:41:32.60 ID:Atk1P62g0
- その刹那、控えの間から三十あまりの鎧武者が襖を薙ぎ倒し、評定の間に乱入した。
「貴様ぁ!図りおったな!!」
「くあっ・・・! 無念・・・」
抵抗した歴々の面子は全員、斬り伏せられた。数の暴力に抗うことはできなかった。
こうして茂羅家改め茂羅々家は、一夜にして主権の移譲がなされた。
( ・∀・)「あれ?荒巻は逆らわないの?」
/ ,' 3「濃はただ、殿の遺言に従うのみ。斬りたくばお斬りあれ。」
/ ,' 3「茂羅々家の現当主は武吉様でござる。」
( ・∀・)「・・・」
( ・∀・)「あはは!まぁお前は昔から馬鹿正直一途だったからな!」
( ・∀・)「じゃあ荒巻。お前が内藤攻めの先陣を切れ。」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:43:12.54 ID:Atk1P62g0
- / ,' 3「・・・かしこまりましてござる。」
/ ,' 3
この男、名を荒巻知之風と言う。
茂羅家創設期からの最大の功労者として、今まで表裏から茂羅家を支えてきた。
出自は土地の豪族。若い頃から智勇に優れた人物として名を馳せた。
そして荒巻率いる騎兵八百が内藤家丹生速領を朝駆けに急襲。名目は
「内藤家の使いが、茂羅の殿を斬った。」
というものであった。
茂羅々勢の勢いたるや凄まじく、周到な下準備と相まって丹生速領の半分は一気に茂羅々の手に落ちた。
領内の異変に気づき、内藤参摂斗は手勢を率いすぐさま防衛に出撃。
だが勢いづいた茂羅々勢を、城に通じる山道の手前で押しとどめるのが精一杯であった。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:44:27.07 ID:Atk1P62g0
- 戦況は着々と悪化の一途を辿り、軍備を整えることもままならず、細い山道に押し寄せる茂羅々勢を何とか食い止めていた。
( `∞′)「・・・不入。」
(‘_L’)「・・・はっ。」
( `∞′)「お主は城に戻り、法雷尊を連れ、逃げよ。」
(;‘_L’)「!? 殿ッ!私めも殿と共に討ち死ぬ覚悟で・・・」
( `∞′)「解る。だが、後生じゃ。この参摂斗最後の命じゃ。」
( `∞′)「法雷尊を連れ、鬱田を頼り逃げおおせよ。そしてお主は法雷尊を支えよ。」
( `∞′)「ここで討ち死ぬよりも辛く苦しい修羅の道じゃ。お主にしか頼めぬ。」
(‘_L’)「・・・!」
( `∞′)「そして、法雷尊とお主の手でいつか内藤家を再興せよ!」
( `∞′)「解ったら行けぃ!風よりも疾くじゃ!」
(;_L;)「・・・はっ! この不入空斗、身命に賭けてッ!!」
不入は馬を駆り、駆けた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:45:54.05 ID:Atk1P62g0
- 「ぎゃああああああっ!!」
不入が見えなくなるのと行き違いに、本陣に若い近習の悲鳴が響き渡った。
( ・∀・)「見つけたんだからな!内藤の!」
( `∞′)「・・・ちっ」
そこには敵将、茂羅々武吉と、その配下数百名の軍勢があった。次々に内藤の兵たちは突き殺されていく。
( ・∀・)「よくも父上を!いまこそ我が手で恨みを雪ぐ!」
( `∞′)「ふん・・・どの口がそれを言うか。」
( ・∀・)「黙れ! 我こそは茂羅領にしてその人ありと謳われた茂羅々・・・」
(#`∞′)「 黙 れ 童 ぁ !!!」
(;・∀・)「!」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:46:57.03 ID:Atk1P62g0
- (#`∞′)「その腐れた口から吐き出される貴様の口上なんぞ、虫けらほどの聞く価値もないわ!!」
(#`∞′)「このような外道な行い、天は見ておるぞ!! 茂羅も今頃草葉の影で泣いておろう!!」
(#`∞′)「付き従う者も同罪じゃ! 解ったら雁首揃えてとっとと丹生速領から出て行け!!」
圧巻であった。茂羅々も、その近衛隊も一瞬息を呑み、静まり返った。
鬼が乗り移ったような内藤参摂斗の迫力。
だが、それを破ったのは
( ・∀・)「・・・言いたいことはそれだけか、死に損ないの糞爺ぃ。」
(#・∀・)「 や れ 」
一拍を置き、長槍を持った男たちが一斉に内藤に突きかかった。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:47:57.70 ID:Atk1P62g0
- (#`∞′)「温いわ!!!」
しゃくん。先行した二本の穂先は、内藤の一閃に切り落とされる。
「うわわっ!」
「ひぃっ!」
ひゅるりと間髪いれず踏み込み、先頭の足軽を袈裟懸けに切って捨てる。
(#`∞′)「そのような鈍らで、この濃を討ち取れるかよ!!」
足軽勢が怯み、一歩引き下がる。内藤の気迫に押され、二の足を踏んでだれも前に出ようとしない。
(#・∀・)「ええい怯むな! 老いぼれ一人が何ほどのものぞ!」
(#・∀・)「弓兵前へ!射掛けろ!」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:48:53.40 ID:Atk1P62g0
- 合図と共に内藤に射掛けられる無数の矢。
(;`∞′)「ぐわっ!・・・卑怯なり、茂羅々武吉」
頭部を手甲にて防ぐのみ。内藤の南蛮甲冑の手足、胴にに無数の矢が立った。
(#・∀・)「長槍、掛かれ!」
ぶすっ
どすっ
(;`∞′)「ぐわっ・・・」
鈍い音と共に、内藤の胴体は幾本もの長槍に突かれた。
(#・∀・)「首を取れ!取った者には恩賞をくれてやる!」
恩賞と聞いて、我先にと白刃を抜いて組みかかる足軽たち。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:50:16.90 ID:Atk1P62g0
- (;`∞′)「・・・うがあっ!!」
「うわっ!!」
「何だこいつ・・・!」
「まだ動くぞ・・・!」
何と内藤、近寄るものを我武者羅に斬り払う。
(;`∞′)「・・・貴様らになぞ・・・濃の・・・」
全身に無数の矢が立っている。腹には太さ2寸もあろうかという長槍が生えている。足元には血だまり。
だが、生きている。内藤参摂斗の武者魂ここに極まれり。
(; ∞ )「・・・無念・・・!」
( ∞ )「・・・不入・・・法雷・・・尊・・・あ・・と・・・」
ざすっ
( ゚∞′)
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:51:05.23 ID:Atk1P62g0
- だが、男の命はここに尽きた。太刀を地に突き立て、それに両腕を重ねる。
だが、男の膝は地に付くことは無かった。
だが、男は立っていた。血だまりの中に、ただただ立っていた。
だが、その表情は晴れやかではなく、凄まじき無念を感じさせるものであった。
(;・∀・)「・・・」
「・・・死んだのか?」
「よし!俺が首を頂くぜ!」
その武蔵坊に群がる禿鷹達。
「やめぇい!!!」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:52:01.14 ID:Atk1P62g0
- / ,' 3
声の主は騎兵を引き連れた荒巻であった。
/ ,' 3「内藤殿の亡骸に触れるのは濃が許さん。」
/ ,' 3「一間以上に近づく者は、問答無用に斬って捨てる。」
/ ,' 3「殿、よろしいですな?」
荒巻の武者魂は、死して尚気高い、丹生速の主を汚すことを許さなかった。
毅然とした態度で、茂羅々に問う。
(;・∀・)「・・・」
(#・∀・)「・・・ふん」
(#・∀・)「・・・だが死体は捨て置け。葬ることは許さんぞ。」
/ ,' 3「・・・かしこまってござる。」
今、茂羅々にできる内藤への抵抗はこれだけだった。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:53:07.70 ID:Atk1P62g0
- 荒巻は馬首を取って返し、丹生速の城に向ける。
/ ,' 3「・・・不入の骸が見当たりませぬ。」
( ・∀・)「!」
/ ,' 3「おそらくは城に引き帰り、内藤殿の子息を連れて逃げる気かと。」
( ・∀・)「・・・ふん。」
( ・∀・)「もう、手は打ってあるわ。糧秣庫に火を放った乱波に、そのまま一族郎党皆殺しにせよと命じてある。」
( ・∀・)「頭はおつうじゃ。万が一つにも討ちもらすことはあるまい。」
/ ,' 3「・・・相手が悪うござろう。不入は武勇、特に馬術に秀でておりまする。」
/ ,' 3「某も追撃に参ってよろしいか?」
( ・∀・)「・・・好きにしろ。」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:54:20.05 ID:Atk1P62g0
- / ,' 3「よし、部隊を二つに分ける。」
/ ,' 3「二百はわしに付き従え。不入を追うぞ。鬱田の国境に向かう。」
/ ,' 3「残りは内藤の城で別れ、海賊衆が城門を割ると同時に突入し、城中全員皆殺しにせよ。」
/ ,' 3「おそらく備えは万全じゃ。騎馬で城に突きかかることの無きよう。」
/ ,' 3「女子供、犬とて容赦するな。禍根は災いの元。絶つべし。」
/ ,' 3「・・・行くぞ!」
「はっ!」
土煙は陣中では立たない。血で湿っているからだ。
蹄の音が遠くなるにつれ、茂羅々の顔に狂気が宿っていった。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:55:24.11 ID:Atk1P62g0
- ( ・∀・)「おい、お前」
「はっ!」
( ・∀・)「あれ、目障りだな」
一人の足軽に首を傾げ指すのは内藤の亡骸。
「と、申しますと・・・」
( ・∀・)「・・・うん。よし。焼け。」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/08(木) 01:56:45.80 ID:Atk1P62g0
- 「・・・はっ?」
( ・∀・)「聞こえないか?焼け。油をかけて、火をつけろ。」
「・・・ですが・・・ぎゃっ!!」
足軽が戸惑っていると、茂羅々は馬上から男の顔を鞘で強く打ち据えた。
( ・∀・)「次はないぞ」
「はっはいっ!!今すぐに!! おい油もってこい!!」
( ・∀・)「ふん、肥えておるし、さぞ良く燃えるであろう」
まもなく、内藤の亡骸に火が放たれた。
めら、めら、と勢い良く燃える。
( ・∀・)「・・・くふふ・・・」
( ∀ )「あーっはははははははははははははっ!!」
内藤の亡骸を光源とする茂羅々の影は長く長く伸び、まるでそれは物の怪のようであった。
序章 終わり
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