( ^ω^)悪の華を咲かせるようです

227 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 12:55:03 ID:VI5vVPZM0

 人喰い夜猿が、白昼堂々と十七人の町人を斬ったという報せは、町中を駆け抜けた。
身元のわからない屍体は、近くの寺に運び込まれたらしい。


 シャキンは寺の場所を聞き出し、屍体を確かめるために向かった。
町からやや外れた場所にある五厘寺という寺には、一人の住職と数人の見習いがいた。


 面白がっている野次馬もいたが、身内なのか、嗚咽を漏らす集団もあった。
屍体は境内の庫裡の中に並べられていた。


 すまきが敷き詰められ、体を両断された屍体が等間隔で並んでいる。


(`・ω・´)(間違いなくブーンだ)

228 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:00:50 ID:VI5vVPZM0

 屍体の切り口は鮮やかなものだった。
いずれも体が二分されており、断面は水平に切り離されている。
斬られたとき、死んだことすら理解できなかっただろう。


 兄の屍体も、腰の辺りを水平に断絶されていた。
他に傷はなく、綺麗なものだった。


 庫裡の中には哀愁と絶望が入り交じり、鬱屈した空気になっていた。
さっさと外に出ようとしたとき、一人の男が気になり、足を止めた。


 男は、少女らしき屍体の前で、生気のない顔を浮かべていた。
身なりも姿勢もよく、道場剣法を学んだものだとわかった。

229 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:06:22 ID:VI5vVPZM0

 男は懐から巾着袋を取りだし、中から白い塊を手に取った。
よく見ると、それが魚を模した飴細工だとわかった。


 肩口から腰を、斜めに分断された子供の屍体の口を開けようとし始める。
だが硬直した顎のせいで、僅かにしか口が開かない。


 男は片手で飴細工をすりつぶし、小さく開いた口にさらさらと破片を流し込んだ。
彼の視線は少女ではなく、何処か遠くをさまよっていた。


 気味の悪い男だと思った。


 庫裡を出ると、まだ回っていない道場がないか町をうろつくことにした。
路銀はいつも心許なく、かといって口入れをもらうのも嫌なので、道場破りはし続けていた。

230 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:11:48 ID:VI5vVPZM0

 一つの道場を見つけ中に入ったが、他流試合は断られた。
人喰い夜猿を打つために、自警団を組んでいるところで、道場の剣士たちが出払っているらしい。


(゚A゚* )「えらい、物騒なことになってますさかい、うちもてんやわんやですわ」


 強い訛りを使う女は、訪れた道場の下女であった。
詫びということで茶を出してもらっているが、試合ができない以上早く帰りたい。


(゚A゚* )「あんた、知ってます? 幕府の方が愚連隊を遣わしてくるって」

(`・ω・´)「愚連隊?」

(゚A゚* )「夜猿です。夜猿を討つために、美府に精鋭を送り込んで来るらしいんです。
    嫌ですわあ。この町で物騒なことしないで欲しいんです」

232 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:21:19 ID:VI5vVPZM0

(`・ω・´)「どれだけ急いでも、あと二週間はかかります。
      その間に夜猿が別の町に行ってしまうかもしれない」

(゚A゚* )「そうでっしゃろ」

(`・ω・´)「何か奴が、この町に居残る理由があれば、別なんでしょうが……」

(゚A゚* )「しかもですよ、送られてくるのは有子部超急隊(ありしべちょうきゅうたい)という部隊で、
    徳川直参の剣豪たちを集めた部隊らしいです。数も、五十人程度いるとか」


 有子部超急隊は、幕政が揺らぐときのみかり出される、超級剣客隊である。
徳川の直命でのみ動き、所属している剣士の情報や、全体の正確な人数は秘密にされている。


 おそらく、先日の旗本殺害が効いているのだと目星をつけた。
五年もの間人斬りを許した幕府が、やっと重い腰を上げたのだ。

233 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:24:09 ID:VI5vVPZM0

(`・ω・´)(奴らよりも先に、夜猿を討つべきなのか)


 様々な思惑が頭を駆けるが、目的はただ一つ、五年前から変わらずにいるものだ。
人喰い夜猿、ブーンを自分の手で斬り殺す。
ただそれだけを目指して、闇にまで墜ちてきた。


(`・ω・´)「ご馳走になりました。のーちゃん殿も、夜道にはお気を付けて」

(゚A゚* )「あら、そんな、大したことしてませんけども」


 下女の女は耳を赤くし、飲み干した湯飲みを持っていそいそと部屋から出て行った。

234 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:29:04 ID:VI5vVPZM0

 道場から出ると、ただ町をふらふらと歩いた。
あまり寝ておらず、足下が浮ついた。


 日が落ちると、朝になるまで町をさまようことも多かった。
ブーンに出くわすことを期待して、わざと人通りのいない道を歩いたが、
今の今まで気配すら感じたことがない。


 浪人の集団とすれ違った。
どうやら、浪人同士で手を組んで夜猿を討伐しようとしている者たちだった。


(`・ω・´)(お前らには一生かかっても無理だ)


 だが、一人でいるよりは、出くわす可能性だけは高そうだ。
繋がりがあれば、情報の交換も行える。
シャキンのように地道に聞き回っているよりは、よほど賢いかもしれない。

235 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:31:51 ID:VI5vVPZM0

 だが誰かと手を組むとすれば、使えない木偶はまっぴらごめんだ。
むしろ、いるだけ邪魔だろうと思った。


 「シャキンさん?」


 不意に名前を呼ばれ、歩みを止めた。
振り返ると、見覚えのある小男がいた。


('∀`)「探しましたよお。覚えていらっしゃいますか?」


 始めはわからなかったが、記憶の底を辿ると、長岡道場の者だと見当が付いた。
ツンのことで自分を探していたのかと思ったが、敵意は感じられなかった。

236 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:34:18 ID:VI5vVPZM0

(`・ω・´)「ええ。長岡道場の」

('A`)「そうですそうです。良ければ、お茶などしませんか?」

(`・ω・´)「いえ、急いでおりますので」


 さっさと旅籠に戻って昼寝でもした方が有意義そうに思えた。
男は慌ててシャキンの前に回り込むと、平身低頭で言った。


(;'A`)「ちょっとお待ちください。実は夜猿のことで、仲間を集めているんです。
    もしも夜猿を倒して五百両得たいということでしたら、一枚噛んでやみませんか?」


 ちょうどそのことを考えてはいたが、安易に受けていいものだろうか。

237 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:37:48 ID:VI5vVPZM0

(`・ω・´)「あなたと私が組むと?」

('A`)「いえ、あたしの家に浪人がおりまして。その男が仲間を欲しいと言っているんです。
   大勢はいらないようで。シャキンさんほどの方でしたら、奴も喜ぶと思うのですが」

(`・ω・´)「夜猿はただの辻斬りじゃない。その男は遣える者なのですか?」

('A`)「あたしは商人もやってるんで、目利きにだけは自信があります。
   相当な遣い手だと思いますよ」

(`・ω・´)「へえ。そう」


 シャキンが抜刀し、刃先を男ののど元に当てるまで、男は何も見えなかったようだ。
いつの間にか自分に向けられていた刀を見て、小さく悲鳴を上げた。


(`・ω・´)「私よりも強いと思いますか?」

238 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:40:59 ID:VI5vVPZM0

 腰が砕けた男は、その場に崩れ、がたがたと震えていた。
だが視線だけはシャキンから外さなかった。


(;'A`)「わ、わかりません。けど、強いですよ。あなたも相当お強い。
    そこいらの剣士とは訳が違う。でも、その男も、ただの浪人ではない」


 嘘を言っている風ではないし、騙そうとしているようにも見えない言い方だ。
目利きというのがどの程度か信用はできなかったが、会うだけ会っても良さそうだと思った。


(`・ω・´)「その男は何処に?」

(;'A`)「あたしの家にいます。あ、申し遅れました。あたしは薬屋のドクオといいます」

239 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 13:50:24 ID:VI5vVPZM0

(`・ω・´)「ドクオさん。近い内に伺います」

('A`)「はい。お待ちしております。何卒、ごひいきに」


 立ち上がり、深く頭を下げたドクオに背を向け、シャキンは歩き出す。


 得体の知れない浪人たちがはびこり、その乱れた剣気に、にわかに町がざわめきだっていた。
五百両という懸賞金以上に、自分の名を売りたい者たちが多いようだ。


 まずは自分で、強い者を探してみようと考えた。
見つからなければ、ドクオの言う浪人を当たってみればいい。

240 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/10(日) 14:07:07 ID:VI5vVPZM0

 だが、誰と、何人と組もうが、最後にやつを斬り殺すのは自分の役目だと思った。
五年前から一時も忘れず、やつの殺意だけで生きてきた。


 皆が兄を忘れ、記憶の隅に追いやる中、自分だけが兄を背負っていた。
今でも振り返れば兄がこちらに笑いかけてくる気がした。


 背負っているのではない。縛られておるのじゃ。


 シャキンに殺される直前に、荒巻が言った言葉だ。
心に響いた訳ではないが、兄の追懐と共に、どこからか響いてくるようになった。
呪詛のように、夜がやってくると、耳の奥で荒巻が囁くのだ。


 夜猿ごと、全て絶ちきる。
生きるには、そうするしか無かった。


十四輪「愚連隊」


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