( ^ω^)悪の華を咲かせるようです

46 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 14:42:14 ID:KHdOabxI0

 寂れた寺にたどり着いたのは日が傾き始めた頃だった。
住職が一人、他に小姓が一人いるだけで、塀すらない貧しい寺だ。


( ・∀・)「一夜だけで構わん。貸してくれ」


 笑顔が張り付いたような顔をした住職は、快く庵を貸してくれた。
荷物を庵に置くと、しばらく座禅したまま瞑想を始める。


(*゚∀゚)「ねえ、それ楽しいか?」


 退屈なのか、傍をうろうろしていたつーが声をかけてきた。

47 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 14:45:07 ID:KHdOabxI0

( ・∀・)「楽しくはない」

(*゚∀゚)「うさぎでも狩りにいかない? 追い込むだけならできるよ」

( ・∀・)「お前、歩けないんじゃなかったのか?」


 モララーたちはずっと山道を歩いていた。
普段あまり人が通らないようで、獣道のようになっていた山道は、木の根と石で歪みきっており
歩くのは難儀だった。


 特につーは華奢な体で体力はなく、大股で歩くモララーについていくのは無理があった。
結局音を上げたつーを背負って一晩中歩き通して今に至る。

48 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 14:48:25 ID:KHdOabxI0

(*゚∀゚)「寝たし、もう大丈夫」

( ・∀・)「調子のいい野郎だ」


 つーを連れていくには理由があった。
一人で旅をするよりも、子連れの方が怪しまれないからだ。


 しかし彼を連れて歩くのは一人で歩くより倍以上疲れることを知った。
明らかに失敗であったが、今更彼を見捨てるのは情けないことだと考えた。


 物事を投げ出すのは土を舐めるよりも情けないことだ。
モララーは剣を教えられた祖父にそう教わり、死ぬまで守り通す気でいる。

49 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 14:52:41 ID:KHdOabxI0

 夕餉の時間になり、住職が庵を訪ねてきた。


( ´W`)「質素な食事ですが、いかがでしょうか」


 断るはずがなかった。
確かに味噌汁に白飯、そして申し訳程度に漬け物が添えられているだけの質素なものだった。


 しかしこの頃は蛇や生魚しか食べていなかったため、白飯を食えるのが有り難かった。
つーも白飯が嬉しそうだ。


(*゚∀゚)「美味しい」

( ´W`)「それはよかったです。お代わりはどうですか?」

50 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 14:55:51 ID:KHdOabxI0

(*゚∀゚)「いいの?」

( ´W`)「子供は食べるのが仕事ですから」


 つーの顔が光を帯びたように明るくなる。
普段つんとしている部分があるが、嬉しいときの表情はまだやはりまだ幼い感じがする。


 住職は夕餉の最中、しきりにお茶を勧めてきた。
特につーの方を気にしてお茶を出している感じがあった。


( ・∀・)「…………」


 無邪気な笑顔は心を照らすが、微動だにしない笑顔は気味の悪いものだ。
モララーはつーを見て微笑む住職を見てそう思った。

51 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:00:06 ID:KHdOabxI0

 夕餉のあと、剣を取って裏庭へ回った。
これから始まる死闘を考えると、いてもたってもいられなかったのだ。


 美府に行くのは、ある男を斬らねばならないからだ。
任された仕事というのは暗殺。
しかも、藩の汚職に関する証拠を握った者の抹殺であるから、胸を張れない仕事だ。


 その男とは長い付き合いであった。
同じ流派で剣を学び、競い合った仲であった。


 男は藩の不正を暴こうとし、自分は藩の不正を隠そうとしている。
正義は向こうにある。

52 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:02:41 ID:KHdOabxI0

( ・∀・)(正義で剣を振るうなど、阿呆のすることだ)


 頭ではそう考えても、太刀には迷いが出ていた。
迷いを断ち切るためにまた剣を振るう。
気がつけば一刻が過ぎていた。


 小姓が布団を出してくれたらしく、庵に戻ると寝床が準備されていた。


(*゚∀゚)「もう寝る?」


 二つある布団の内、一つから顔だけを出してつーが見上げてくる。
疲れは溜まっていただろうに、どうやらモララーを待っていたようだ。

53 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:05:48 ID:KHdOabxI0

( ・∀・)「さっさと寝ろ」

(*゚∀゚)「うん」


 布団に入り、つーに背を向けて目を瞑ると、夜の気配が一層際立った。
旅を初めてから刀を抱えて眠る癖がつき、その夜もそうしていた。


 モララーが寝入ってから、半刻ほど経った頃、床鳴りの音で目を覚ました。
柄に手をかけ、体を動かさずに音だけで様子を探る。


 どうやらつーが起き出したようだ。
布団から這い出て、庵からそっと出て行くのを、気配だけで感じ取った。

54 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:08:49 ID:KHdOabxI0

 一体何の用事かと考えたが、すぐに検討はついた。
夕餉のとき、湯飲みに入れられた茶を何杯も飲んでいたのだ。
厠に立つのも無理はない。


 しかししばらく経ってもつーは帰ってこなかった。
代わりに、夜の気配に混じって妙な音が聞こえた。


 風が走る音の間に、時折うなり声のような音が混じるのだ。
微かだが、はっきりと聞こえた。
つーを見るときの住職の顔を思い出す。


( ・∀・)(俺には関係ない)

55 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:12:59 ID:KHdOabxI0

 柄から手を離し、目を瞑った。
うなり声は、甲高い喘ぎにも聞こえた。


 程なくしてモララーは眠ったが、つーが戻ってくると、その音でまた目を覚ました。
しばらく隣の布団の上に座っていたようだが、ゆっくりとモララーの布団へと侵入してきた。


 殺気が感じられないので、モララーは寝入っているふりをし続けた。
ここで声をかければ、また面倒なことが起こるかもしれないからだ。


 つーはぴたっとモララーの背中に張り付き、手と顔を押しつけていた。
何をするのかと少し身構えたが、間もなく背中から小さな寝息が聞こえてきた。
既に子供には遅い時間だ。

56 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:15:54 ID:KHdOabxI0

 つーを起こさないように、慎重に体を反転させた。
後ろを振り向くと、少し髪の乱れたつーの顔が間近にあった。


 あどけない表情は、子供のようにも、女のようにも見える。
近くで見ると、まつげの長さが目立って見えた。



 いつの間にかモララーは眠っていた。
朝の勤行の音で目がさめ、まだ眠っているつーの横から這い出て、
使っていない布団を畳んだ。


 しばらくすると小姓がやってきて、朝餉の時間だと伝えてくれた。

57 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:19:52 ID:KHdOabxI0

 朝餉も質素なものだったが、食えるだけマシというものだ。
昨日と変わらぬ笑顔の住職であったが、今朝は茶を勧めてくるようなことはなかった。


 旅の話などを聞いてくるので、いくらか話してやった。
その間、つーはずっと俯いたまま、黙って飯を口に運んでいた。


( ´W`)「そうですか。お気をつけて下さい」


 もう一日くらい泊まってはどうか、という提案をされたが、断った。
モララーはそこまで時間に余裕があるとは思っていなかった。
何よりも、すぐにこの寺を離れたかった。

58 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:21:54 ID:KHdOabxI0

( ´W`)「こんなものしかありませんが、どうぞ」


 巾着袋を取りだした住職は、モララーではなくつーにそれを手渡した。
恐る恐る中を覗いたつーは、ぱっと目を見開かせて笑った。


(*゚∀゚)「飴!」


 モララーも中を覗く。
様々な色の飴が、小さな巾着袋の中でぎゅうぎゅうに詰まっていた。


( ・∀・)「飴、好きなのか」

(*゚∀゚)「うん」

59 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:24:49 ID:KHdOabxI0

( ´W`)「よろしければ、また旅の途中でここに寄ってやって下さい。
     何分、退屈しているのでね」


 いつもの笑顔で、またつーを見やった。
答えに窮しているのか、困った顔で隣のモララーを見上げた。


 つーは、もう二度とここには来たくないだろう。
モララーも同じ気持ちだった。


 モララーは軽く握った拳で住職の頬を打った。
不意をつかれた住職は、枯れ木のように後ろに飛んだ。

60 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 15:27:26 ID:KHdOabxI0

( ・∀・)「飴をくれなければ、真剣だったかもな」


 昨夜から感じていた胸のわだかまりが、すぅっと消えていくのを感じた。


 つーは仰向けで白目を剥いている住職を、ぼんやりと見ていた。
やがてモララーの方を振り向き、


(*゚∀゚)「行こう。もうすぐ美府だよ」


 もらった飴を大事そうに懐にしまい、寺の前の階段を駆け下りていった。
どうせすぐばてるだろうとは思いつつ、つーの後を追ってモララーも駆けだした。


四輪「飴」 終わり


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