- 66 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:10:57 ID:nnSfn1Gg0
酒さえ呑んでいなければまだ戦えただろうか。
ギコは対峙している敵を弱々しく睨み付けながら、なおも剣を振るった。
( ´_ゝ`)「お、今のは今日一番の太刀だったな」
やはり紙一重でかわされた。
敵と自分には圧倒的な力の差があり、勝つのが絶望的だというのは理解していた。
せめて、相打ちになろうとギコは考える。
兄者と弟者がこの村にやってきたのは、今から二時間前のことだ。
彼らは各地を旅しながら、たった二人の盗賊として略奪を繰り返していた。
- 67 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:14:58 ID:nnSfn1Gg0
彼らが無頼に生きると決めたのは十二のときだ。
双子の彼らは家を飛び出し、以来何物にも縛られず生きてきた。
今日、この村にやってきたのは、ただの偶然だ。
ちょうどお祭りをしていて、村の広場に人が集まっていた。
広場で刀を振りかざせば、あっという間に囲まれてしまう。
そうなると面倒なので、広場を離れた者から一人ずつ殺していくことに決めた。
今ごろ弟者は、別の場所で誰かを殺していることだろう。
殺しの数を競い合う夜は、今日が一度目や二度目ではない。
- 68 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:20:05 ID:nnSfn1Gg0
兄者たちにとって殺しはお遊びだった。
自分たち以外の人間は犬猫と同じ価値しかないと思っていた。
(,;゚Д゚)「しぃ! 逃げろ!」
(*;゚ー゚)「い、いや……誰か、助けて」
ギコたちは広場を離れ、近くの雑木林で絡み合っていた。
密かに近寄って二人同時に斬り殺すのは簡単だったが、ギコが脇差しを差していたのを見つけて
正面からやり合いたくなった。
しかしそれももう飽き始めていた。
二人の茶番とも思えるやり取りも、初めは面白がって眺めていたが、
これ以上見ても仕方ないと思えてきた。
- 69 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:23:30 ID:nnSfn1Gg0
( ´_ゝ`)「自害しろ。そうすれば女は助けてやる」
兄者がささやく。
斬りかかろうとしていたギコは、動きを止めざるを得なかった。
兄者と目が合った女は、何とも言えない表情で唇を震わせた。
(*;゚−゚)「ほ、本当に……?」
( ´_ゝ`)「ああ。約束する」
瞬間、獣のような雄叫びが聞こえた。
極限状態だった緊張が、破裂したのだろう。
- 70 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:27:20 ID:nnSfn1Gg0
叫んだのはギコだ。
よだれを垂らしながら、焦点の合わない目で兄者を睨み付ける。
無茶苦茶な足さばきで猛然と刀を振り回した。
( ´_ゝ`)「駄目だな。それじゃ」
兄者は全て紙一重でかわした。
端から見れば当たっているように見えるも、皮一枚の所で見切っていた。
つまらない。
兄者は剣を持っていた腕を、無造作に振り上げた。
ただそれだけで、ギコの利き腕が宙を舞った。
- 71 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:31:18 ID:nnSfn1Gg0
片腕で振るった太刀とは思えぬ鋭さだった。
流派に裏付けされた技術ではなく、幾度となく人を斬った男の我流の剣閃だった。
ギコは発狂していた。
腕ごと脇差しを落としたが、もう片方の腕で脇差しを拾おうとしていた。
そこに兄者の太刀が振り抜かれる。
左腕も失ったギコは、片膝をついて地面に崩れた。
あとは全て早かった。
右耳、左耳、右肩、左肩、頭皮、両膝、胸板、背中、尻。
魚を解体するがごとく、ギコの体が少しずつはぎ取られていった。
- 72 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:35:24 ID:nnSfn1Gg0
全ての作業が片腕で行われていた。
鮮やかといっていい太刀筋だった。
ギコはいつの間にか絶命していた。
傍にいた女は、股から小便を垂らして泣いていた。
兄者は女の着物を切り裂き、手短に犯した。
中に性欲を流し込んだあと、自分の着物を直すついでに女の首をかき斬った。
情欲を満たすと心に余裕ができる。
散歩の気分で広場が見える場所へ向かった。
- 73 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:37:23 ID:nnSfn1Gg0
広場の近くまでやってきた。
( ´_ゝ`)「……………」
鞘に収めていた刀を引き抜いた。
耳をすませる。
( ´_ゝ`)(弟者?)
ついさっきまで、大勢の人間がいたはずの広場に、人の気配を感じなかった。
物音一つしない。
- 74 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:41:06 ID:nnSfn1Gg0
兄者は小走りで広場へ向かった。
たどり着く前にさらなる以上を察知した。
風が慣れ親しんだ血の臭いを運んできていた。
( ´_ゝ`)「何だ、これ」
広場には大勢の人間だった塊があった。
何人が血の海に沈んでいるのか見当がつかない。
屍体は全て両断されていた。
腰を真っ二つにされた者ならまだしも、頭頂から股下まで切り裂かれている屍体もあった。
切り口はかなり綺麗で、美しさすら感じた。
人間業とは思えなかった。
- 75 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:46:20 ID:nnSfn1Gg0
例えるなら、村を悪意のつむじ風が通過した。
そういう表現が似合いそうだ。
( ´_ゝ`)「弟者。どこにいるんだー?」
天性のバランス感覚を持った兄者でも、血の海の中で弟者を探し回るのは、
足を取られそうで面倒だった。
幸いにも、弟者の首から下はすぐに見つかった。
立ったままの状態で、未だに青眼の構えのまま固まっていた。
首から上は、傍の血溜まりの中で、目を見開いていた。
( ´_ゝ`)「よう。今夜の勝負は俺の勝ちだよな?」
- 76 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:51:22 ID:nnSfn1Gg0
耳に手を当てて、弟者の返事を聞いている振りをした後、手に持った刀を振るった。
兄者の太刀は刀を構えている弟者の屍体の前を駆けた。
両腕ごと弟者の刀が宙を舞う。
兄者はもう一度斬撃を繰り出し、刀を掴んだまま離さない両腕を切り離した。
刀だけが足下に突き刺さった。
刀を持っていない方の手で掴み上げ、二刀流の構えを一瞬取った。
( ´_ゝ`)「悪くないね」
どうせなら鞘は新調しようと考えた。
- 77 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 18:56:36 ID:nnSfn1Gg0
崩れ落ちた弟者の屍体を後にし、村を発った。
弟者も含め、屍体は全て同じ切り口、つまりたった一人の者の行為であることを示唆していた。
半刻程度で村を滅ぼし、そして弟を一撃で屠った者に、興味が沸いていた。
( ´_ゝ`)(仇討ちになるのか。格好いいねえ。俺)
今まで目的もなく全国を放浪していた。
ここに来て、心が躍るのを感じた。
ブーンが荒巻道場を発った、一年後の出来事であった。
五輪「兄弟」
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