( ^ω^)悪の華を咲かせるようです

90 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 19:49:54 ID:nnSfn1Gg0

( ・∀・)「三両もくれた。今日はいい飯が食えるぞ」

(*゚∀゚)「ほんと!? 刺身が食べたいなあ」


 美府に着いたら別れようと思っていたが、つーがぐずる為に、
ひとまず同じ旅籠に泊まることにした。


 路銀が心許なかったので、目に着いた道場に入り、
試し稽古であっさりと師範代を破って金一封を得た。


 藩士の中では名の知れた剣の使い手であったため、
そこいらの道場でモララーに適う者はいなかった。

91 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 19:52:38 ID:nnSfn1Gg0

 夜になり、賑わっている居酒屋に入ると、刺身と焼き魚、酒を注文した。
つーは魚をがっついたが、モララーはちびちびと酒を飲んでいた。


(*゚∀゚)「食べないの?」

( ・∀・)「遠慮するな」

(*゚∀゚)「しない」


 つーとの旅も一ヶ月余りになる。
人なつっこく、物怖じしない性格なのが気に入っていた。


 しかしこれからの戦いを考えると、傍につーを置いておくのはまずかった。
何処かで別れた方がお互いの為だと思った。

92 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 19:58:28 ID:nnSfn1Gg0

 たまたま行き先が同じだったから、一緒にいる。
もはやそれは自分を慰める為の言い訳に過ぎなかった。


 モララーは初めてつーを見たときから、表現しがたい感情を覚えていた。
昔病気で死んだ妹に似ているのが、関係しているのかしれない。


 大人になって感情を表情で示すことはしなくなった。
藩士になってから、剣の腕だけで出世できないことを知った。
上り詰めるには他人を欺き、士道を捨てるのが一番の近道だと知った。


(*゚∀゚)「お酒飲んでもいい? 少しだけ」

( ・∀・)「舐めるくらいにしておけよ」


 大口を開けて笑うつーを見ていると、それも馬鹿らしく思えてくる。

93 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 20:04:10 ID:nnSfn1Gg0

 つーに情欲を抱いている訳ではない。
もしかするとそれは、師を敬うそれに近いかもしれないし、母が子に注ぐ愛に似たものかもしれない。


( ・∀・)(らしくないか? らしい方なのか?)


 出世はしたい。
許嫁である富家の娘に約束もしている。
大体、身分を底上げしなければ、彼女の父親に祝言を許してはもらえないだろう。


 やはり斬るしかない。
旅に出る前に、覚悟はしたはずだった。
ここまで来て気持ちを揺らがせてどうする。

94 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 20:08:11 ID:nnSfn1Gg0

 モララーはふと隣に座っているつーに目を落とした。
頬を赤く染め、目元を潤わせ、視線が遠くにいっている。


( ・∀・)「おまえ、全部飲んだだろ」


 返事はなかった。
代わりに、重そうな頭を一度だけ、かくんと下に降ろした。


 つーを背負い、旅籠への道を戻る。
賑わっていた飲み屋の通りから、少しだけ離れた場所に、モララーたちが泊まっている旅籠がある。


 時折、背中からうなり声が聞こえた。
首に回されたつーの腕が冷たい。
背中で吐かれたらその辺に捨てようと思った。

95 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 20:12:12 ID:nnSfn1Gg0

 「もし」


 呼び止められる。
振り返ると、五、六人の岡っ引きがぞろぞろと後ろについていた。


(岡゚∀゚)「あんたら、何処に行く?」

(岡゚∀゚)「この辺りで何をしていた?」

( ・∀・)「飲んでただけだ。こいつが酔っぱらってるんで、早く帰りたいんだが」


 岡っ引きたちがひそひそと耳打ちし合う。


(岡゚∀゚)「刀を見せてくれねえか」

96 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 20:16:14 ID:nnSfn1Gg0

( ・∀・)「何だと? 俺に喧嘩を売ってるのか」


 つーを近くの戸板にもたれさせ、岡っ引きの一人を睨み付ける。
気圧されたのか、全員が一歩ずつ後ろに下がった。


(岡゚∀゚)「ち、違うんでさぁ。この辺りで辻斬りが出まして。
     刀を見せてくれたら、すぐに帰します」


 不本意ではあったが、辻斬りの疑いをかけられるのはもっと嫌だったので、
刀を引き抜き、刀身が見えるように空中で刀身を寝かせた。


(岡゚∀゚)「失礼しやす」


 一人が鼻先を刀に持っていく。
すぐに頭を下げながら無礼を詫びた。
血の臭いを確かめたかったのだろう。

97 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 20:21:15 ID:nnSfn1Gg0

( ・∀・)「辻斬りか。この町には来たばかりなんだが、やはりでかい町は物騒だな」

(岡゚∀゚)「以前はそうでも無かったんですけど、人喰い夜猿が来てるのかもしれません」


 夜猿の名前を聞いて、緊張が走った。
生ける伝説ともなっている辻斬り、もちろんモララーは知っていた。


( ・∀・)「そうか。捕まえれば三百両だ。金がうろついてると考えればまだましだ」

(岡゚∀゚)「幕府から通達が来ていて、五百両に値上げしたらしいです」


 周りを見ると、通りのあちこちに岡っ引きの姿が見える。
浪人たちや、やくざ者の集団もあった。
金のためなら命を惜しまない類の連中だ。

98 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 20:23:00 ID:nnSfn1Gg0

(*゚∀゚)「ねえ、もう帰ろう」


 いつの間にか立ち上がっていたつーが、裾を引っ張ってきた。


( ・∀・)「斬られないように気をつけてな」

(岡゚∀゚)「お気を付けて」


 つーと並んで旅籠を目指す。
まだ酔いが回っているのか、先ほどからつーは口をつぐんでいた。


( ・∀・)「気持ち悪いのか?」

99 名前: ◆hb8Q6YeeDk[sage] 投稿日:2012/06/06(水) 20:28:17 ID:nnSfn1Gg0

 胸の前で自分の両腕を抱えていた。
寒いのかと思ったがそんな季節ではない。


(*゚∀゚)「人喰い夜猿」

( ・∀・)「話を聞いてたのか。一人で出歩くのはやめた方がいいな」


 町中が夜猿に警戒しているようで、あちこちに緊迫した面持ちの男たちが見えた。
道場も多くあるので、誰かが夜猿を倒してくれるのを待った方が、自分の任がやりやすそうだ。


 つーの姿が視界から消えた。
三歩分ほど後ろにいたつーは、やはり両腕を抱えて、震えていた。


(*゚∀゚)「オレの村に、そいつが来た。オレ以外、みんな死んだ」


 面倒事がまた一つ、増えた気がした。


七輪「警戒」


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